JP2008019136A - 過酸化水素の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】作動溶液中のアントラキノン類として、アルキル置換基を有するアントラキノンとアルキル置換基を有するテトラヒドロアントラキノンのモル比が2:1〜8:1である混合物を用い、還元工程において、該作動溶液中の該テトラヒドロアントラキノンの全量および該アントラキノンの一部または全量を還元し、還元工程後で酸化工程前の作動溶液中のアルキル置換基を有するアントラヒドロキノンの含有量をアルキル置換基を有するテトラヒドロアントラヒドロキノンの含有量よりも多く保つ工程を有し、前記作動溶液中のアントラキノン類として、エチルアントラキノンとエチルテトラヒドロアントラキノンを、両方の合計が前記作動溶液中の全アントラキノン類の10〜45モル%の割合で用いることを特徴とする過酸化水素の製造方法である。
【選択図】なし
Description
この水素化工程はアントラキノン法において最も重要な工程であり、その特徴は反応媒体にアントラキノン(以下、置換基を有するアントラキノン及び置換基を有しないアントラキノンの両方を指す)、またはテトラヒドロアントラキノン(以下、置換基を有するテトラヒドロアントラキノン及び置換基を有しないテトラヒドロアントラキノンの両方を指す)、あるいはその両方を使用することによって大別できる。
また、特許文献1には2種類以上のアントラキノン類を使用する事例も紹介されており、古くからアントラキノン類を混合して使用することが知られている。
これら不純物は工業的にあらゆる方法で分離することが可能であるが、例えば蒸留、又は吸着除去などの場合においてさえも原料である過酸化水素中の不純物量が多ければそれだけ装置が大きくなり設備費の負担が大きくなり、または設備の稼働時間の延長など好ましくないことは明らかである。また、これら不純物の除去を行うに際しての過酸化水素自体のロス、または分解が起こり、生産量・変動費にかかる負担は無視できないものである。
一方、特許文献1記載の方法では反応媒体としてアントラキノンをテトラヒドロアントラキノンよりも多く用いるため、反応媒体として主にテトラヒドロアントラキノンを用いる場合よりも、アルキル化フタル酸を主とする不純物量が少ないのは前述のとおり明らかである。しかし、特許文献1においてはアントラキノンとして、アミルアントラキノンの使用が好ましく、その他のアルキル化アントラキノン、即ちエチルアントラキノン、ターシャリーブチルアントラキノン、或いは複数のアントラキノンの混合物を用いることができることが明記されているが、具体的な混合物を用いることによる優位性に関しては明らかにされていない。例えば使用が好ましいと明記されているアミルアントラキノンを用いた場合には、特許文献1の方法では水素化工程において反応が遅くなる事実がある。つまり水素化工程において遅い反応を補うために大きな反応器が必要となり設備費の負担が大きくなる。また別の解決法として遅い反応速度を補うために触媒量を多くすることも可能であるが、触媒購入の初期投資のみではなく、触媒量を多くすることによって触媒からの金属類の溶出量も増加する問題点がある。触媒から溶出する金属は、例えばパラジウム、白金、ニッケルが挙げられ、これらは酸化工程で生成する過酸化水素の分解を引き起こすだけではなく、製造される過酸化水素中にも不純物として溶出し、前述の通り問題となる。
総じて、特許文献1記載の方法では金属などの無機系の不純物が、特許文献2、特許文献3記載の方法では有機系の不純物が、製造される過酸化水素に混入し問題となる。
本発明の一実施態様は、反応媒体としてアントラキノン類を含む作動溶液を、交互に還元・酸化する工程を有し、作動溶液中のアントラキノン類として、アルキル置換基を有するアントラキノンとアルキル置換基を有するテトラヒドロアントラキノンのモル比が2:1〜8:1である混合物を用いる。そして、還元工程において、作動溶液中のテトラヒドロアントラキノンの全量およびアントラキノンの一部または全量を還元し、還元工程後で酸化工程前の作動溶液中のアルキル置換基を有するアントラヒドロキノンの含有量をアルキル置換基を有するテトラヒドロアントラヒドロキノンの含有量よりも多く保つ工程を有する。更に、前記作動溶液中のアントラキノン類として、エチルアントラキノンとエチルテトラヒドロアントラキノンを、両方の合計が前記作動溶液中の全アントラキノン類の10〜45モル%の割合で用いる。
エチルテトラヒドロアントラキノンは、エチルアントラキノンよりも溶解性が良好であるのでエチルテトラヒドロアントラキノンの比率を上げることで全アントラキノンに対するエチルアントラキノン類の混合割合を上げることも可能である。しかし、エチルテトラヒドロアントラキノンだけを再生せずに残す反応条件は難しく、テトラヒドロアントラキノン全体の濃度が上昇してしまい、テトラヒドロアントラキノンに由来する劣化物の蓄積や製造される過酸化水素への混入が起きてしまう。
因みに、エチルアントラキノンは、他のアントラキノン類よりも分子が小さいので触媒の細孔に入りやすく、水素化反応が速いと推測される。この結果、優先的に水素化反応が行われるため、エチルテトラヒドロアントラキノンに転化する確立も高い。しかし、再生触媒に対しても細孔に入りやすく、再生反応も速くなる。したがって、全体としてみれば、エチルテトラヒドロアントラキノンの比率は、全テトラヒドロアントラキノンの濃度におおむね比例して変動する。
また、エチルアントラキノンの混合によるもう一つの利点は、水素化工程における水素化の度合いを下げることができる点である。
・・・・式1
*ヒドロキノン類(エチルテトラヒドロアントラヒドロキノン・アミルテトラヒドロアントラヒドロキノン・エチルアントラヒドロキノン・アミルアントラヒドロキノン・・・・)
キノン類(エチルテトラヒドロアントラキノン・アミルテトラヒドロアントラキノン・エチルアントラキノン・アミルアントラキノン・・・・)
以下に実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、アミルアントラキノンを「AmAQ」と、エチルアントラキノンを「EtAQ」と表す。
具体的な測定の仕方を以下に記す。100ml三口フラスコにパラジウム担持触媒100mg(Pd=1mg相当)と25mlの作動溶液を入れた。作動溶液の溶剤にはプソイドクメン60容積%とジイソブチルカルビノール40容積%の混合溶剤を用いた。内部を完全密封できる磁力誘導方式の攪拌機および真空コックを装着したフラスコを、常圧水素化反応装置に設置した。この装置は、フラスコ内での圧力変動を水位で検知し、リレー式電磁弁を介して水素吸収に見合う分の水素が計量管から供給される。水素計量管はビュレット部と水貯液部からなり、水素計量管内の水がピストンの役割をしてフラスコ内圧と大気圧が等しく保たれる。水素吸収量は水素計量管内の液面高さの差として測定される。フラスコを30℃の水浴に浸し、フラスコ内の排気と水素導入を三回繰り返した。5分後に攪拌機を作動させて水素吸収を開始し、開始から30分後までの水素吸収を測定した。0℃、1atmでの水素吸収量に換算した。水素吸収量は131Nmlであった。水素吸収速度の結果を図2に示す。
AmAQ(100mol%)とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて水素吸収速度を測定した。水素吸収速度は107Nmlであった。水素吸収速度の結果を図2に示す。
EtAQ(50mol%)+AmAQ(50mol%)とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて水素吸収速度を測定した。水素吸収速度は132Nmlであった。水素吸収速度の結果を図2に示す。
EtAQ(100mol%)とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて水素吸収速度を測定した。水素吸収速度は128Nmlであった。水素吸収速度の結果を図2に示す。
過酸化水素製造装置は以下の構成になっている。
水添工程:攪拌式水添反応器、水添触媒Pd担持触媒
酸化工程:多段式向流酸化塔形式 (反応温度:40℃)
作動溶液は長年使用したものであり、その組成には分析不能な経年劣化物を含む。作動溶液中のアントラキノン類の主な組成、及び得られた過酸化水素中のフタル酸量を以下に示す。
作動溶液中のアントラキノン類
アミルアントラキノン=420mmol/l; アミルテトラヒドロアントラキノン=80mmol/l
エチルアントラキノン=200mmol/l; エチルテトラヒドロアントラキノン=35mmol/L
過酸化水素中のフタル酸類の濃度(エチルフタル酸+アミルフタル酸)=0.1mg/H2O2−kg
アミルテトラヒドロアントラキノン及びエチルテトラヒドロアントラキノンの合計と、アミルアントラキノン及びエチルアントラキノンの合計とのモル比は、1:5.4であった。
実施例3と同様な装置を用いて、作動溶液として下記組成のものを用いたほかは実施例3と同じ条件で実施した。特に水素化度、抽出する過酸化水素濃度などは同様の条件として、抽出時の影響が無視できるようにした。
作動溶液中のアントラキノン類
アミルアントラキノン=250mmol/l; アミルテトラヒドロアントラキノン=250mmol/l
エチルアントラキノン=120mmol/l; エチルテトラヒドロアントラキノン=120mmol/L
過酸化水素中のフタル酸類の濃度(エチルフタル酸+アミルフタル酸)=0.4mg/H2O2−kg
アミルテトラヒドロアントラキノン及びエチルテトラヒドロアントラキノンの合計と、アミルアントラキノン及びエチルアントラキノンの合計とのモル比は、1:1であった。
実施例3と同様な装置を用いて、作動溶液として下記組成のものを用いたほかは実施例3と同じ条件で実施した。特に水素化度、抽出する過酸化水素濃度などは同様の条件として、抽出時の影響が無視できるようにした。
作動溶液中のアントラキノン類
エチルアントラキノン=350mmol/l; エチルテトラヒドロアントラキノン=400mmol/L
過酸化水素中のフタル酸類の濃度(エチルフタル酸+アミルフタル酸)=0.6mg/H2O2−kg
アミルテトラヒドロアントラキノン及びエチルテトラヒドロアントラキノンの合計と、アミルアントラキノン及びエチルアントラキノンの合計とのモル比は、1:0.9であった。エチルテトラヒドロアントラキノンの比率が高いので、溶解度の高いアミルアントラキノン類なしでも運転可能ではあった。
実施例3及び比較例4、5の結果より、作動溶液中のテトラヒドロアントラキノンの割合が増えるにしたがって過酸化水素中のフタル酸類の濃度が上昇した。
アミルアントラキノン及びアミルテトラヒドロアントラキノンを含む作動溶液に、過酸化水素の分解を促進する為の4%NaOH溶液を加えて攪拌し、60%過酸化水素を滴下した。
反応液は、室温から徐々に温まり、最終的には60℃となった。反応中に液をサンプリングしてHPLCで分析したところ、アミルテトラヒドロアントラキノンが減少しアミルテトラヒドロアントラキノンエポキシドが生成していることが確認された。反応開始から8時間後にはアミルテトラヒドロアントラキノンの80%が消失しており、またアミルテトラヒドロアントラキノンエポキシドも減少していた。これに対してアミルアントラキノンの濃度は一定であり変化しなかった。
反応後の水層を分液し、硫酸で酸性化してクロロホルムで抽出したところ、アミルフタル酸が検出された。得られたアミルフタル酸の量は、元のアミルテトラヒドロアントラキノンの60%に相当する量であった。
実施例4と同様にエチルアントラキノン及びエチルテトラヒドロアントラキノンを含む作動溶液に対して安定性の試験を実施した。実施例4と同様に反応液は、室温から徐々に温まり、最終的には60℃となった。反応中に液をサンプリングしてHPLCで分析したところ、エチルテトラヒドロアントラキノンが減少しエチルテトラヒドロアントラキノンエポキシドが生成していることが確認された。反応開始から6時間後にはエチルテトラヒドロアントラキノンの90%が消失しており、またエチルテトラヒドロアントラキノンエポキシドも減少していた。これに対してエチルアントラキノンの濃度は一定であり変化しなかった。
反応後の水層を分液し、硫酸で酸性化してクロロホルムで抽出したところ、エチルフタル酸が検出された。得られたエチルフタル酸の量は、元のエチルテトラヒドロアントラキノンの70%に相当する量であった。
過酸化水素製造装置は以下の構成になっている。
水添工程:攪拌式水添反応器、水添触媒Pd担持触媒
酸化工程:多段式向流酸化塔形式 (反応温度:40℃)
作動溶液の全量は45Lであり、循環流量15L/hr.で行った。水添反応器内の圧力を窒素ガスを用いて一定に保つように制御した。ガス部の水素分圧(=水素濃度)は触媒の反応速度に依存する。
作動溶液は長年使用したものであり、その組成の概略を以下に示すが、分析不能な経年劣化物を含む。
EtAQ類(エチルアントラキノン及びエチルテトラヒドロアントラキノン)15mol%
AmAQ類(アミルアントラキノン及びアミルテトラヒドロアントラキノン)85mol%
そのうちテトラヒドロアントラキノン類(エチルテトラヒドロアントラキノン及びアミルテトラヒドロアントラキノン)は16モル%
作動溶液中のエチルアントラキノンの濃度は、0.107mol/Lであり、作動溶液中のエチルテトラヒドロアントラキノンの濃度は、0.020mol/Lであった。
水素分圧の経時変化を図3に示す。なお、水添触媒は一定量水添反応器に添加し入れ替えなしに実施しており、反応時間による劣化速度の評価を実施した。
EtAQ類(エチルアントラキノン及びエチルテトラヒドロアントラキノン)30mol%
AmAQ類(アミルアントラキノン及びアミルテトラヒドロアントラキノン)70mol%
そのうちテトラヒドロアントラキノン類(エチルテトラヒドロアントラキノン及びアミルテトラヒドロアントラキノン)は17モル%
作動溶液中のエチルアントラキノンの濃度は、0.204mol/Lであり、作動溶液中のエチルテトラヒドロアントラキノンの濃度は、0.042mol/Lであった。
作動溶液として長年使用した下記の組成のものを使用した時の水素分圧の経時変化を同じく図3に示す。その他の反応条件は実施例6、7と同様に実施した(触媒量も実施例6,7と同重量)。
AmAQ類(アミルアントラキノン及びアミルテトラヒドロアントラキノン)100mol%
そのうちアミルテトラヒドロアントラキノンは17モル%
Claims (6)
- 反応媒体としてアントラキノン類を含む作動溶液を、交互に還元・酸化することにより過酸化水素を製造する方法において、作動溶液中のアントラキノン類として、アルキル置換基を有するアントラキノンとアルキル置換基を有するテトラヒドロアントラキノンのモル比が2:1〜8:1である混合物を用い、還元工程において、該作動溶液中の該テトラヒドロアントラキノンの全量および該アントラキノンの一部または全量を還元し、還元工程後で酸化工程前の作動溶液中のアルキル置換基を有するアントラヒドロキノンの含有量をアルキル置換基を有するテトラヒドロアントラヒドロキノンの含有量よりも多く保つ工程を有し、前記作動溶液中のアントラキノン類として、エチルアントラキノンとエチルテトラヒドロアントラキノンを、両方の合計が前記作動溶液中の全アントラキノン類の10〜45モル%の割合で用いることを特徴とする過酸化水素の製造方法。
- 前記作動溶液中のエチルアントラキノンの濃度が、0.10から0.45mol/Lである請求項1記載の過酸化水素の製造方法。
- 前記エチルアントラキノン及びエチルテトラヒドロアントラキノン以外のアントラキノン類が、アミルアントラキノン及びアミルテトラヒドロアントラキノンである請求項1または2に記載の過酸化水素の製造方法。
- 前記酸化工程における反応温度が50℃以下である請求項1から3のいずれかに記載の過酸化水素の製造方法。
- 前記反応媒体であるアントラキノン類の溶剤として、キノン溶剤である芳香族炭化水素と、ヒドロキノン溶剤である高級アルコール、アルキルリン酸塩、四置換尿素、シクロヘキサノールのカルボン酸エステル、および環状尿素からなる群より選ばれる一種以上とを含む請求項1から4のいずれかに記載の過酸化水素の製造方法。
- 前記エチルアントラキノンとエチルテトラヒドロアントラキノンを、両方の合計が前記作動溶液中の全アントラキノン類の20〜40モル%の割合で用いる請求項1から5のいずれかに記載の過酸化水素の製造方法。
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