本発明は真核細胞で成長中のポリペプチド鎖に非天然アミノ酸を組込むために真核蛋白質生合成機構で使用される翻訳成分、例えば直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と直交tRNA(O−tRNA)の対とその個々の成分を組込んだ真核細胞を提供する。
本発明の組成物は(例えば大腸菌、Bacillus stearothermophilus等の非真核生物に由来する)直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)を組込んだ真核細胞(例えば酵母細胞(例えばSaccharomyces cerevisiae細胞)、哺乳動物細胞、植物細胞、藻類細胞、真菌細胞、昆虫細胞等)を含み、O−RSは真核細胞において直交tRNA(O−tRNA)を少なくとも1種の非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。場合により、所与真核細胞で2種以上のOtRNAをアミノアシル化することができる。1側面では、O−RSは例えば配列番号86又は45に記載のアミノ酸配列をもつO−RSの例えば少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、又は90%以上の効率でO−tRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化する。1態様では、本発明のO−RSはO−RSがO−tRNAを天然アミノ酸でアミノアシル化する場合の例えば少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍等の効率でO−tRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化する。
1態様では、O−RS又はその一部は配列番号3−35(例えば3−19、20−35、又は配列3−35の他の任意サブセット)のいずれか1種に記載のポリヌクレオチド配列、又はその相補的ポリヌクレオチド配列によりコードされる。別の態様では、O−RSは配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸配列又はその保存変異体を含む。更に別の態様では、O−RSは天然に存在するチロシルアミノアシルtRNAシンテターゼ(TyrRS)のアミノ酸配列に例えば少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも99.5%以上一致するアミノ酸配列を含むと共に、A−E群の2種以上のアミノ酸を含む。A群は大腸菌TyrRSのTyr37に対応する位置にバリン、イソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、アラニン、又はスレオニンを含む。B群は大腸菌TyrRSのAsn126に対応する位置にアスパラギン酸を含む。C群は大腸菌TyrRSのAsp182に対応する位置にスレオニン、セリン、アルギニン、アスパラギン又はグリシンを含む。D群は大腸菌TyrRSのPhe183に対応する位置にメチオニン、アラニン、バリン、又はチロシンを含み、E群は大腸菌TyrRSのLeu186に対応する位置にセリン、メチオニン、バリン、システイン、スレオニン、又はアラニンを含む。
これらの群の組み合わせの任意サブセットが本発明の特徴である。例えば、1態様では、O−RSは大腸菌TyrRSのTyr37に対応する位置にバリン、イソロイシン、ロイシン、又はスレオニン;大腸菌TyrRSのAsp182に対応する位置にスレオニン、セリン、アルギニン、又はグリシン;大腸菌TyrRSのPhe183に対応する位置にメチオニン、又はチロシン;及び大腸菌TyrRSのLeu186に対応する位置にセリン、又はアラニンから選択される2種以上のアミノ酸をもつ。別の態様では、O−RSは大腸菌TyrRSのTyr37に対応する位置にグリシン、セリン、又はアラニン、大腸菌TyrRSのAsn126に対応する位置にアスパラギン酸、大腸菌TyrRSのAsp182に対応する位置にアスパラギン、大腸菌TyrRSのPhe183に対応する位置にアラニン、又はバリン、及び/又は大腸菌TyrRSのLeu186に対応する位置にメチオニン、バリン、システイン、又はスレオニンから選択される2種以上のアミノ酸を含む。
別の態様では、O−RSは天然アミノ酸に比較して非天然アミノ酸に1種以上の改善又は強化された酵素性質をもつ。例えば、天然アミノ酸に比較して非天然アミノ酸に改善又は強化された酵素性質としては、例えばKm増加、Km低下、kcat増加、kcat低下、kcat/km低下、kcat/km増加等が挙げられる。
真核細胞は更に場合により非天然アミノ酸を含む。真核細胞は場合により(例えば大腸菌、Bacillus stearothermophilus、及び/又は同等物等の非真核生物に由来する)直交tRNA(O−tRNA)を含み、O−tRNAはセレクターコドンを認識し、O−RSにより非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化される。1側面では、O−tRNAは配列番号65に記載のポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列から細胞でプロセシングされるtRNAの例えば少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は99%の効率で非天然アミノ酸の蛋白質組込みを媒介する。別の側面では、O−tRNAは配列番号65の配列を含み、O−RSは配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸配列、及び/又はその保存変異体から選択されるポリペプチド配列を含む。
別の態様では、真核細胞は該当ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含み、前記ポリヌクレオチドはO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含む。1側面では、非天然アミノ酸を含む該当ポリペプチドの収率はポリヌクレオチドがセレクターコドンを含まない細胞から天然に存在する該当ポリペプチドで得られる収率の例えば少なくとも2.5%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、50%以上である。別の側面では、細胞は非天然アミノ酸の存在下におけるポリペプチドの収率の例えば35%未満、30%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2.5%未満等の収率で非天然アミノ酸の不在下に該当ポリペプチドを生産する。
本発明は更に直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と、直交tRNA(O−tRNA)と、非天然アミノ酸と、該当ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を組込んだ真核細胞を提供する。前記ポリヌクレオチドはO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含む。更に、O−RSは真核細胞において直交tRNA(O−tRNA)を非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化し、細胞は非天然アミノ酸の存在下におけるポリペプチドの収率の例えば30%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2.5%未満等の収率で非天然アミノ酸の不在下に該当ポリペプチドを生産する。
直交tRNA(O−tRNA)を組込んだ真核細胞を含む組成物も本発明の特徴である。一般に、O−tRNAはO−tRNAによりin vivo認識されるセレクターコドンを含むポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質への非天然アミノ酸の組込みを媒介する。1態様では、O−tRNAは配列番号65に記載のポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列から細胞でプロセシングされるtRNAの例えば少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は99%以上の効率で非天然アミノ酸の蛋白質組込みを媒介する。別の態様では、O−tRNAは配列番号65に記載のポリヌクレオチド配列、又はその保存変異体を含むか又は前記配列からプロセシングされる。更に別の態様では、O−tRNAはリサイクル可能なO−tRNAを含む。
本発明の1側面では、O−tRNAは転写後修飾される。本発明は真核細胞でO−tRNAをコードする核酸、又はその相補的ポリヌクレオチドも提供する。1態様では、核酸はAボックスとBボックスを含む。
本発明は翻訳成分、例えばO−RS又はO−tRNA/O−RS対の作製方法(及びこれらの方法により作製された翻訳成分)にも関する。例えば、本発明は真核細胞において直交tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)の作製方法を提供する。本方法は例えば(a)i)アミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)のライブラリーのメンバーと、ii)直交tRNA(O−tRNA)と、iii)ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドと、iv)ネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドを各々含む第1の種の真核細胞の集団について非天然アミノ酸の存在下でポジティブ選択を実施し、ポジティブ選択後に生存している細胞が非天然アミノ酸の存在下で直交tRNA(O−tRNA)をアミノアシル化する活性RSを含むと判定する段階を含む。ポジティブ選択後に生存している細胞について非天然アミノ酸の不在下でネガティブ選択を実施し、O−tRNAを天然アミノ酸でアミノアシル化する活性RSを排除する。こうして、O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化するO−RSが得られる。
所定態様では、ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドは応答エレメントに機能的に連結されており、細胞は、a)応答エレメントからの転写を調節する転写モジュレーター蛋白質(例えば真核転写モジュレーター蛋白質等)をコードすると共に、b)少なくとも1個のセレクターコドンを含むポリヌクレオチドを更に含む。非天然アミノ酸でアミノアシル化されたO−tRNAにより非天然アミノ酸が転写モジュレーター蛋白質に組込まれる結果としてポジティブ選択マーカーが転写される。1態様では、転写モジュレーター蛋白質は転写アクチベーター蛋白質(例えばGAL4等)であり、セレクターコドンはアンバー終止コドンであり、例えばアンバー終止コドンは転写アクチベーター蛋白質のDNA結合ドメインをコードするポリヌクレオチドの一部又は実質的にその近傍に配置される。
ポジティブ選択マーカーは種々の分子の任意のものとすることができる。1態様では、ポジティブ選択マーカーは増殖用栄養補助剤を含み、選択は栄養補助剤を含まない培地で実施される。別の態様では、ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドは例えばura3、leu2、lys2、lacZ遺伝子、his3(例えばhis3遺伝子は3−アミノトリアゾール(3−AT)を添加することにより検出されるイミダゾールグリセロールリン酸脱水素酵素をコードする)、及び/又は同等物である。更に別の態様では、ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドはセレクターコドンを含む。
ポジティブ選択マーカーと同様に、ネガティブ選択マーカーも種々の分子の任意のものとすることができる。所定態様では、ネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドは転写モジュレーター蛋白質により転写を媒介される応答エレメントに機能的に連結されている。天然アミノ酸でアミノアシル化されたO−tRNAにより天然アミノ酸が転写モジュレーター蛋白質に組込まれる結果としてネガティブ選択マーカーが転写される。1態様では、ネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドは例えばura3遺伝子であり、ネガティブ選択は5−フルオロオロト酸(5−FOA)を含む培地で実施される。別の態様では、ネガティブ選択に使用される培地はネガティブ選択マーカーにより検出可能な物質に変換される選択又はスクリーニング物質を含む。本発明の1側面では、検出可能な物質は毒性物質である。1態様では、ネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドはセレクターコドンを含む。
所定態様では、ポジティブ選択マーカー及び/又はネガティブ選択マーカーは適切な反応体の存在下で蛍光発光するか又は発光反応を触媒するポリペプチドを含む。本発明の1側面では、ポジティブ選択マーカー及び/又はネガティブ選択マーカーは蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)又は発光により検出される。所定態様では、ポジティブ選択マーカー及び/又はネガティブ選択マーカーは親和性に基づくスクリーニングマーカー、又は転写モジュレーター蛋白質を含む。1態様では、同一ポリヌクレオチドがポジティブ選択マーカーとネガティブ選択マーカーの両者をコードする。
1態様では、本発明のポジティブ選択マーカー及び/又はネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドは少なくとも2個のセレクターコドンを含むことができ、セレクターコドンは各々又は両方が少なくとも2個の異なるセレクターコドンを含むこともできるし、少なくとも2個の同一セレクターコドンを含むこともできる。
本発明の方法では付加レベルの選択/スクリーニングストリンジェンシーを使用することもできる。1態様では、本方法は例えば段階(a)、(b)又は(a)と(b)の両方で変動量の不活性シンテターゼを添加することができ、変動量の不活性シンテターゼは付加レベルの選択又はスクリーニングストリンジェンシーを提供する。1態様では、O−RSの作製方法の段階(a)、(b)又は(a)と(b)の両方で例えばポジティブ及び/又はネガティブ選択マーカーの選択又はスクリーニングストリンジェンシーを変動させる。本方法は場合によりO−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化するO−RSについて付加選択ラウンド(例えば付加ポジティブ選択ラウンド、付加ネガティブ選択ラウンド又は付加ポジティブ選択ラウンドと付加ネガティブ選択ラウンドの組み合わせ)を実施する段階を含む。
1態様では、選択/スクリーニングは例えばアミノ酸浸透率の変化、翻訳効率の変化、翻訳忠実度の変化等から選択される1種以上のポジティブ又はネガティブ選択/スクリーニングを含む。前記1種以上の変化は蛋白質を生産するために使用される直交tRNA−tRNAシンテターゼ対の成分をコードする1種以上のポリヌクレオチドの突然変異に基づく。
一般に、RSのライブラリー(例えば突然変異体RSのライブラリー)は例えば非真核生物に由来する少なくとも1種のアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)に由来するRSを含む。1態様では、RSのライブラリーは不活性RSに由来し、例えば不活性RSは活性RSを突然変異させることにより作製される。別の態様では、不活性RSはアミノ酸結合ポケットを含み、結合ポケットを構成する1種以上のアミノ酸は1種以上の異なるアミノ酸で置換されており、例えば置換アミノ酸はアラニンで置換されている。
所定態様では、O−RSの作製方法はRSをコードする核酸でランダム突然変異、部位特異的突然変異、組換え、キメラ構築、又はその任意組み合わせを実施することにより、突然変異体RSのライブラリーを作製する段階を更に含む。所定態様では、本方法は例えば(c)O−RSをコードする核酸を単離する段階と;(d)(例えばランダム突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、キメラ構築、組換え又はその任意組み合わせにより)突然変異O−RSをコードするポリヌクレオチドセットを核酸から作製する段階と;(e)O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する突然変異O−RSが得られるまで段階(a)及び/又は(b)を繰り返す段階を更に含む。本発明の1側面では、段階(c)−(e)を少なくとも2回実施する。
O−tRNA/O−RS対の作製方法も本発明の特徴である。1態様では、O−RSは上記のように得られ、O−tRNAはtRNAのライブラリーのメンバーを含む第1の種の真核細胞の集団についてネガティブ選択を実施し、真核細胞に内在するアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)によりアミノアシル化されるtRNAのライブラリーのメンバーを含む細胞を排除することにより得られる。こうして第1の種の真核細胞に直交なtRNAのプールが得られる。本発明の1側面では、tRNAのライブラリーは例えば非真核生物に由来する少なくとも1種のtRNAに由来するtRNAを含む。本発明の別の側面では、アミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)のライブラリーは例えば非真核生物に由来する少なくとも1種のアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)に由来するRSを含む。本発明の更に別の側面では、tRNAのライブラリーは第1の非真核生物に由来する少なくとも1種のtRNAに由来するtRNAを含む。アミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)のライブラリーは場合により第2の非真核生物に由来する少なくとも1種のアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)に由来するRSを含む。1態様では、第1の非真核生物と第2の非真核生物は同一である。あるいは、第1の非真核生物と第2の非真核生物は異なっていてもよい。本発明の方法により作製された特定O−tRNA/O−RS対も本発明の特徴である。
本発明の別の特徴は第1の種で翻訳成分を作製し、選択/スクリーニングした翻訳成分を第2種に導入するための方法である。例えば、第1の種(例えば酵母等の真核種)でO−tRNA/O−RS対を作製する方法はO−tRNAをコードする核酸と、O−RSをコードする核酸を第2の種(例えば哺乳動物、昆虫、真菌、藻類、植物等)の真核細胞に導入する段階を更に含む。第2の種は例えば翻訳中に非天然アミノ酸を成長中のポリペプチド鎖にin vivo組込むために、導入された翻訳成分を使用することができる。
別の例では、真核細胞において直交tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)の生産方法は(a)第1の種(例えば酵母等の真核種)の真核細胞の集団について非天然アミノ酸の存在下でポジティブ選択を実施する段階を含む。第1の種の真核細胞はi)アミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)のライブラリーのメンバーと、ii)直交tRNA(O−tRNA)と、iii)ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドと、iv)ネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドを各々含む。ポジティブ選択後に生存している細胞は非天然アミノ酸の存在下で直交tRNA(O−tRNA)をアミノアシル化する活性RSを含む。ポジティブ選択後に生存している細胞について非天然アミノ酸の不在下でネガティブ選択を実施し、O−tRNAを天然アミノ酸でアミノアシル化する活性RSを排除することにより、O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化するO−RSが得られる。O−tRNAをコードする核酸と、O−RSをコードする核酸を第2の種(例えば哺乳動物、昆虫、真菌、藻類、植物及び/又は同等物)の真核細胞に導入する。これらの成分は第2の種で翻訳されると、非天然アミノ酸を第2の種で該当蛋白質又はポリペプチドに組込むために使用することができる。1態様では、O−tRNA及び/又はO−RSを第2の種の真核細胞に導入する。
所定態様では、O−tRNAはtRNAのライブラリーのメンバーを含む第1の種の真核細胞の集団についてネガティブ選択を実施し、真核細胞に内在するアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)によりアミノアシル化されるtRNAのライブラリーのメンバーを含む細胞を排除することにより得られる。こうして第1の種と第2の種の真核細胞に直交なtRNAのプールが得られる。
1側面では、本発明は蛋白質を含有する組成物を含み、前記蛋白質は少なくとも1種の非天然アミノ酸と少なくとも1種の翻訳後修飾を含み、前記少なくとも1種の翻訳後修飾は第1の反応基を含む少なくとも1種の非天然アミノ酸への[3+2]シクロ付加による第2の反応基を含む分子の結合を含む。
従って、少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質(又は該当ポリペプチド)も本発明の特徴である。本発明の所定態様では、少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質は少なくとも1種の翻訳後修飾を含む。1態様では、少なくとも1種の翻訳後修飾は第1の反応基を含む少なくとも1種の非天然アミノ酸への[3+2]シクロ付加による第2の反応基を含む分子(例えば色素、ポリマー、例えばポリエチレングリコール誘導体、光架橋剤、細胞傷害性化合物、アフィニティーラベル、ビオチン誘導体、樹脂、第2の蛋白質又はポリペプチド、金属キレート剤、補因子、脂肪酸、炭水化物、ポリヌクレオチド(例えばDNA,RNA等)等)の結合を含む。例えば、第1の反応基は(例えば非天然アミノ酸p−プロパルギルオキシフェニルアラニンにおける)アルキニル部分(この基はアセチレン部分と言う場合もある)であり、第2の反応基はアジド部分である。別の例では、第1の反応基は(例えば非天然アミノ酸p−アジド−L−フェニルアラニンにおける)アジド部分であり、第2の反応基はアルキニル部分である。所定態様では、本発明の蛋白質は少なくとも1種の翻訳後修飾を含む少なくとも1種の非天然アミノ酸(例えばケト非天然アミノ酸)を含み、少なくとも1種の翻訳後修飾は糖部分を含む。所定態様では、翻訳後修飾は真核細胞においてin vivoで行われる。
所定態様では、蛋白質は真核細胞によりin vivoで行われる少なくとも1種の翻訳後修飾を含み、翻訳後修飾は原核細胞により行われない。翻訳後修飾の例としては限定されないが、アセチル化、アシル化、脂質修飾、パルミトイル化、パルミチン酸付加、リン酸化、糖脂質結合修飾等が挙げられる。1態様では、翻訳後修飾はGlcNAc−アスパラギン結合によるオリゴ糖とアスパラギンの結合を含む(例えばオリゴ糖は(GlcNAc−Man)2−Man−GlcNAc−GlcNAc等を含む)。別の態様では、翻訳後修飾はGalNAc−セリン、GalNAc−スレオニン、GlcNAc−セリン、又はGlcNAc−スレオニン結合によるオリゴ糖(例えばGal−GalNAc,Gal−GlcNAc等)とセリン又はスレオニンの結合を含む。所定態様では、本発明の蛋白質又はポリペプチドは分泌もしくは局在配列、エピトープタグ、FLAGタグ、ポリヒスチジンタグ、GST融合配列、及び/又は同等物を含むことができる。
一般に、蛋白質は入手可能な任意蛋白質(例えば治療用蛋白質、診断用蛋白質、産業用酵素、又はその部分、及び/又は同等物)と例えば少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%以上一致しており、1種以上の非天然アミノ酸を含む。1態様では、本発明の組成物は該当蛋白質又はポリペプチドと賦形剤(例えば緩衝液、医薬的に許容可能な賦形剤等)を含有する。
該当蛋白質又はポリペプチドは少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、又は10個以上の非天然アミノ酸を組込むことができる。非天然アミノ酸は同一でも異なっていてもよく、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10種以上の異なる非天然アミノ酸を含む1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個以上の異なる部位が蛋白質に存在することができる。所定態様では、蛋白質の天然形に存在する特定アミノ酸の全部よりは少ないが少なくとも1個が非天然アミノ酸で置換されている。
蛋白質(又は該当ポリペプチド)の例としては限定されないが、例えばサイトカイン、増殖因子、増殖因子受容体、インターフェロン、インターロイキン、炎症性分子、腫瘍遺伝子産物、ペプチドホルモン、シグナル伝達分子、ステロイドホルモン受容体、エリスロポエチン(EPO)、インスリン、ヒト成長ホルモン、α1アンチトリプシン、アンジオスタチン、抗血友病因子、抗体、アポリポ蛋白質、アポ蛋白質、心房性ナトリウム利尿因子、心房性ナトリウム利尿ポリペプチド、心房性ペプチド、C−X−Cケモカイン、T39765、NAP−2、ENA−78、Gro−a、Gro−b、Gro−c、IP−10、GCP−2、NAP−4、SDF−1、PF−4、MIG、カルシトニン、cキットリガンド、サイトカイン、CCケモカイン、単球化学誘引蛋白質−1、単球化学誘引蛋白質−2、単球化学誘引蛋白質−3、単球炎症性蛋白質−1α、単球炎症性蛋白質−1β、RANTES、I309、R83915、R91733、HCC1、T58847、D31065、T64262、CD40、CD40リガンド、Cキットリガンド、コラーゲン、コロニー刺激因子(CSF)、補体因子5a、補体阻害剤、補体受容体1、サイトカイン、DHFR、上皮好中球活性化ペプチド−78、GROα/MGSA、GROβ、GROγ、MIP−1α、MIP−1δ、MCP−1、表皮増殖因子(EGF)、上皮好中球活性化ペプチド、エリスロポエチン(EPO)、表皮剥離毒素、IX因子、VII因子、VIII因子、X因子、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、G−CSF、GM−CSF、グルコセレブロシダーゼ、ゴナドトロピン、増殖因子、増殖因子受容体、ヘッジホッグ蛋白質、ヘモグロビン、肝細胞増殖因子(HGF)、ヒルジン、ヒト血清アルブミン、ICAM−1、ICAM−1受容体、LFA−1、LFA−1受容体、インスリン、インスリン様増殖因子(IGF)、IGF−I、IGF−II、インターフェロン、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、インターロイキン、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラクトフェリン、白血病阻害因子、ルシフェラーゼ、ニュールチュリン、好中球阻害因子(NIF)、オンコスタチンM、骨形成蛋白質、腫瘍遺伝子産物、副甲状腺ホルモン、PD−ECSF、PDGF、ペプチドホルモン、ヒト成長ホルモン、プレイオトロピン、プロテインA、プロテインG、発熱外毒素A、B又はC、リラキシン、レニン、SCF、可溶性補体受容体I、可溶性I−CAM1、可溶性インターロイキン受容体、可溶性TNF受容体、ソマトメジン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ストレプトキナーゼ、スーパー抗原、ブドウ球菌エンテロトキシン、SEA、SEB、SEC1、SEC2、SEC3、SED、SEE、ステロイドホルモン受容体、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、毒素性ショック症候群毒素、チモシンα1、組織プラスミノーゲンアクチベーター、腫瘍増殖因子(TGF)、TGF−α、TGF−β、腫瘍壊死因子、腫瘍壊死因子α、腫瘍壊死因子β、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)、VLA−4蛋白質、VCAM−1蛋白質、血管内皮増殖因子(VEGEF)、ウロキナーゼ、Mos、Ras、Raf、Met、p53、Tat、Fos、Myc、Jun、Myb、Rel、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、テストステロン受容体、アルドステロン受容体、LDL受容体、SCF/cキット、CD40L/CD40、VLA−4/VCAM−1、ICAM−1/LFA−1、ヒアルリン/CD44、コルチコステロン、Genebank又は他の入手可能なデータベースに含まれる蛋白質等、及び/又はその一部が挙げられる。1態様では、該当ポリペプチドは転写モジュレーター蛋白質(例えば転写アクチベーター蛋白質(例えばGAL4)、又は転写リプレッサー蛋白質等)又はその一部を含む。
真核細胞におけるGAL4蛋白質、又はその部分の組成物も本発明の特徴である。一般に、GAL4蛋白質又はその部分は少なくとも1種の非天然アミノ酸を含む。
本発明の真核細胞は非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を大量の有用な量で合成することができる。例えば、非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を細胞抽出液、緩衝液、医薬的に許容可能な賦形剤、及び/又は同等物中に例えば少なくとも10μg/l、少なくとも50μg/l、少なくとも75μg/l、少なくとも100μg/l、少なくとも200μg/l、少なくとも250μg/l、又は少なくとも500μg/l以上の蛋白質濃度で生産することができる。所定態様では、本発明の組成物は非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を例えば少なくとも10μg、少なくとも50μg、少なくとも75μg、少なくとも100μg、少なくとも200μg、少なくとも250μg、又は少なくとも500μg以上含有する。
所定態様では、該当蛋白質又はポリペプチド(又はその部分)は核酸によりコードされる。一般に、核酸は少なくとも1個のセレクターコドン、少なくとも2個のセレクターコドン、少なくとも3個のセレクターコドン、少なくとも4個のセレクターコドン、少なくとも5個のセレクターコドン、少なくとも6個のセレクターコドン、少なくとも7個のセレクターコドン、少なくとも8個のセレクターコドン、少なくとも9個のセレクターコドン、又は10個以上のセレクターコドンを含む。
本発明は少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ少なくとも1種の蛋白質を真核細胞で生産するための方法(及び前記方法により生産された蛋白質)も提供する。本方法は例えば少なくとも1個のセレクターコドンを含み且つ蛋白質をコードする核酸を含む真核細胞を適当な培地で増殖させる段階を含む。真核細胞は更に前記細胞で機能し、セレクターコドンを認識する直交tRNA(O−tRNA)と、O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)を含み、培地は非天然アミノ酸を含む。1態様では、O−RSは例えば配列番号86又は45に記載のアミノ酸配列をもつO−RSの例えば少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は99%以上の効率でO−tRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化する。別の態様では、O−tRNAは配列番号64もしくは65、又はその相補的ポリヌクレオチド配列を含むか、前記配列からプロセシングされるか、又は前記配列によりコードされる。更に別の態様では、O−RSは配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸配列を含む。
1態様では、前記方法は第1の反応基を含む非天然アミノ酸を蛋白質に組込む段階と;第2の反応基を含む分子(例えば色素、ポリマー、例えばポリエチレングリコール誘導体、光架橋剤、細胞傷害性化合物、アフィニティーラベル、ビオチン誘導体、樹脂、第2の蛋白質又はポリペプチド、金属キレート剤、補因子、脂肪酸、炭水化物、ポリヌクレオチド(例えばDNA,RNA等)等)と蛋白質を接触させる段階を更に含む。第1の反応基は第2の反応基と反応し、[3+2]シクロ付加により分子を非天然アミノ酸と結合する。1態様では、第1の反応基はアルキニル又はアジド部分であり、第2の反応基はアジド又はアルキニル部分である。例えば、第1の反応基は(例えば非天然アミノ酸p−プロパルギルオキシフェニルアラニンにおける)アルキニル部分であり、第2の反応基はアジド部分である。別の例では、第1の反応基は(例えば非天然アミノ酸p−アジド−L−フェニルアラニンにおける)アジド部分であり、第2の反応基はアルキニル部分である。
所定態様では、コードされる蛋白質は治療用蛋白質、診断用蛋白質、産業用酵素、又はその部分を含む。1態様では、前記方法により生産された蛋白質は非天然アミノ酸を介して修飾されている。例えば、非天然アミノ酸は例えば求核−求電子反応、[3+2]シクロ付加等により修飾されている。別の態様では、前記方法により生産された蛋白質は少なくとも1種の翻訳後修飾(例えばN−グリコシル化、O−グリコシル化、アセチル化、アシル化、脂質修飾、パルミトイル化、パルミチン酸付加、リン酸化、糖脂質結合修飾等)によりin vivo修飾されている。
スクリーニング又は選択用転写モジュレーター蛋白質の生産方法(及び前記方法により生産されたスクリーニング又は選択用転写モジュレーター蛋白質)も提供する。本方法は例えば核酸結合ドメインをコードする第1のポリヌクレオチド配列を選択する段階と;少なくとも1個のセレクターコドンを含むように第1のポリヌクレオチド配列を突然変異させる段階を含む。こうしてスクリーニング又は選択用ポリヌクレオチド配列が得られる。本方法は更に例えば転写活性化ドメインをコードする第2のポリヌクレオチド配列を選択する段階と;第2のポリヌクレオチド配列に機能的に連結されたスクリーニング又は選択用ポリヌクレオチド配列を含む構築物を提供する段階と;前記構築物と、非天然アミノ酸と、直交tRNAシンテターゼ(O−RS)と、直交tRNA(O−tRNA)を細胞に導入する段階を含む。これらの成分のうち、O−RSはO−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化し、O−tRNAはセレクターコドンを認識し、スクリーニング又は選択用ポリヌクレオチド配列のセレクターコドンに応答して非天然アミノ酸を核酸結合ドメインに組込む。こうしてスクリーニング又は選択用転写モジュレーター蛋白質が得られる。
所定態様では、本発明の組成物と方法は真核細胞を含む。本発明の真核細胞としては例えば哺乳動物細胞、酵母細胞、真菌細胞、植物細胞、昆虫細胞等の任意のものが挙げられる。本発明の翻訳成分は種々の生物に由来することができ、例えば原核生物(例えば大腸菌、Bacillus stearothermophilus等)や始原菌等の非真核生物、又は例えば真核生物が挙げられる。
本発明のセレクターコドンは真核蛋白質生合成機構の遺伝コドン枠を拡張する。本発明では各種セレクターコドンの任意のものを使用することができ、終止コドン(例えばアンバーコドン、オーカーコドン、又はオパール終止コドン)、ナンセンスコドン、レアコドン、4塩基(以上の)コドン、及び/又は同等物が挙げられる。
本明細書に記載する組成物と方法で使用することができる非天然アミノ酸の例としては(限定されないが)、p−アセチル−L−フェニルアラニン、p−ヨード−L−フェニルアラニン、O−メチル−L−チロシン、p−プロパルギルオキシフェニルアラニン、p−プロパルギルフェニルアラニン、L−3−(2−ナフチル)アラニン、3−メチル−フェニルアラニン、O−4−アリル−L−チロシン、4−プロピル−L−チロシン、トリ−O−アセチル−GlcNAcβ−セリン、L−Dopa、フッ素化フェニルアラニン、イソプロピル−L−フェニルアラニン、p−アジド−L−フェニルアラニン、p−アシル−L−フェニルアラニン、p−ベンゾイル−L−フェニルアラニン、L−ホスホセリン、ホスホノセリン、ホスホノチロシン、p−ブロモフェニルアラニン、p−アミノ−L−フェニルアラニン、イソプロピル−L−フェニルアラニン、チロシンアミノ酸の非天然類似体;グルタミンアミノ酸の非天然類似体;フェニルアラニンアミノ酸の非天然類似体;セリンアミノ酸の非天然類似体;スレオニンアミノ酸の非天然類似体;アルキル、アリール、アシル、アジド、シアノ、ハロ、ヒドラジン、ヒドラジド、ヒドロキシル、アルケニル、アルキニル、エーテル、チオール、スルホニル、セレノ、エステル、チオ酸、硼酸、ボロン酸、ホスホ、ホスホノ、ホスフィン、複素環、エノン、イミン、アルデヒド、ヒドロキシルアミン、ケト、もしくはアミノで置換されたアミノ酸、又はその任意組み合わせ;光架橋基をもつアミノ酸;スピン標識アミノ酸;蛍光アミノ酸;金属結合性アミノ酸;金属含有アミノ酸;放射性アミノ酸;フォトケージド及び/又は光異性化可能なアミノ酸;ビオチン又はビオチン類似体含有アミノ酸;ケト含有アミノ酸;ポリエチレングリコール又はポリエーテルを含むアミノ酸;重原子置換アミノ酸;化学分解性又は光分解性アミノ酸;延長側鎖をもつアミノ酸;毒性基を含むアミノ酸;糖置換アミノ酸;炭素結合糖含有アミノ酸;レドックス活性アミノ酸;α−ヒドロキシ含有酸;アミノチオ酸;α,αジ置換アミノ酸;βアミノ酸;プロリン又はヒスチジン以外の環状アミノ酸、フェニルアラニン、チロシン又はトリプトファン以外の芳香族アミノ酸、及び/又は同等物が挙げられる。
本発明はポリペプチド(O−RS)とポリヌクレオチド、例えばO−tRNA、O−RS又はその部分(例えばシンテターゼの活性部位)をコードするポリヌクレオチド、アミノアシルtRNAシンテターゼ突然変異体を構築するために使用されるオリゴヌクレオチド、該当蛋白質又はポリペプチドをコードし、1個以上のセレクターコドンを含むポリヌクレオチド等も提供する。例えば、本発明のポリペプチドとしては、配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号3−35(例えば3−19,20−35,又は配列3−35の他の任意サブセット)のいずれか1種に記載のポリヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド、並びに配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド又は配列番号3−35(例えば3−19,20−35,又は配列3−35の他の任意サブセット)のいずれか1種に記載のポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドに特異的な抗体に対して特異的免疫反応性のポリペプチドが挙げられる。
天然に存在するチロシルアミノアシルtRNAシンテターゼ(TyrRS)(例えば配列番号2)のアミノ酸配列と少なくとも90%一致するアミノ酸配列を含むと共に(上記)A−E群の2種以上のアミノ酸を含むポリペプチドも本発明のポリペプチドに含まれる。同様に、本発明のポリペプチドは場合により配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)及び/又は86の任意1種の少なくとも20個の連続するアミノ酸と、A−E群に上述したような2種以上のアミノ酸置換を含むポリペプチドも含む。上記ポリペプチドの任意のものの保存変異体を含むアミノ酸配列も本発明のポリペプチドに含まれる。
1態様では、組成物は本発明のポリペプチドと賦形剤(例えば緩衝液、水、医薬的に許容可能な賦形剤等)を含有する。本発明は更に本発明のポリペプチドに対して特異的免疫反応性の抗体又は抗血清も提供する。
本発明はポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリヌクレオチドとしては、本発明の該当蛋白質又はポリペプチドをコードし、1個以上のセレクターコドンを含むものが挙げられる。更に、本発明のポリヌクレオチドとしては、例えば配列番号3−35(例えば3−19、20−35、又は配列3−35の他の任意サブセット)、64−85のいずれか1種に記載のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド;そのポリヌクレオチド配列に相補的であるか又はそのポリヌクレオチド配列をコードするポリヌクレオチド;及び/又は配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸配列、又はその保存変異体を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挙げられる。本発明のポリヌクレオチドは本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも含む。同様に、核酸の実質的に全長にわたって高ストリンジェント条件下で上記ポリヌクレオチドとハイブリダイズする核酸も本発明のポリヌクレオチドである。
本発明のポリヌクレオチドは天然に存在するチロシルアミノアシルtRNAシンテターゼ(TyrRS)(例えば配列番号2)のアミノ酸配列と少なくとも90%一致するアミノ酸配列を含むと共に(上記)A−E群に上述したような2種以上の突然変異を含むポリペプチドをコードするポリペプチドも含む。上記ポリヌクレオチド及び/又は上記ポリヌクレオチドの任意のものの保存変異体を含むポリヌクレオチドと少なくとも70%(又は少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%以上)一致するポリヌクレオチドも本発明のポリヌクレオチドに含まれる。
所定態様では、ベクター(例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス等)に本発明のポリヌクレオチドを組込む。1態様では、ベクターは発現ベクターである。別の態様では、発現ベクターは本発明のポリヌクレオチドの1種以上と機能的に連結されたプロモーターを含む。別の態様では、本発明のポリヌクレオチドを組込んだベクターを細胞に導入する。
別の側面では、本発明は化合物の組成物と前記化合物の製造方法を提供する。例えば、化合物としては例えば非天然アミノ酸(例えばp−(プロパルギルオキシ)−フェニルアラニン(例えば図11の1))、(化学構造4及び化学構造6に示すような)アジド色素、(化学構造7に示すような)アルキニルポリエチレングリコール等が挙げられ、前記構造中、nは例えば50〜10,000、75〜5,000、100〜2,000、100〜1,000等の整数である。本発明の1態様では、アルキニルポリエチレングリコールは例えば約5,000〜約100,000Da、約20,000〜約50,000Da、約20,000〜約10,000Da(例えば20,000Da)の分子量をもつ。
例えば蛋白質及び細胞と共にこれらの化合物を含有する種々の組成物も提供する。1側面では、p−(プロパルギルオキシ)−フェニルアラニン非天然アミノ酸を含有する組成物は更に直交tRNAを含有する。非天然アミノ酸は直交tRNAと(例えば共有的に)結合することができ、例えばアミノアシル結合を介して直交tRNAと共有結合することもできるし、直交tRNAの末端リボース糖の3’OH又は2’OHと共有結合することもできる。
本発明の1側面では、(例えば化学構造4又は化学構造6の)アジド色素を含有する蛋白質は更に少なくとも1種の非天然アミノ酸(例えばアルキニルアミノ酸)を含有しており、アジド色素は[3+2]シクロ付加により非天然アミノ酸と結合している。
1態様では、蛋白質は化学構造7のアルキニルポリエチレングリコールを含む。別の態様では、組成物は更に少なくとも1種の非天然アミノ酸(例えばアジドアミノ酸)を含み、アルキニルポリエチレングリコールは[3+2]シクロ付加により非天然アミノ酸と結合している。
各種化合物の合成方法も本発明に含まれる。例えば、p−(プロパルギルオキシ)フェニルアラニン化合物の合成方法が提供される。例えば、本方法は(a)N−tert−ブトキシカルボニルチロシンとK2CO3を無水DMFに懸濁する段階と;(b)臭化プロパルギルを(a)の反応混合物に加え、ヒドロキシル基とカルボキシル基をアルキル化することにより、構造:
をもつ保護中間体化合物を得る段階と;(c)保護中間体化合物をMeOH中で無水HClと混合し、アミン部分を脱保護することにより、p−(プロパルギルオキシ)フェニルアラニン化合物を合成する段階を含む。1態様では、前記方法は(d)p−(プロパルギルオキシ)フェニルアラニンHClをNaOHとMeOHの水溶液に溶かし、室温で撹拌する段階と;(e)pHをpH7に調整する段階と;(f)p−(プロパルギルオキシ)フェニルアラニン化合物を沈殿させる段階を更に含む。
アジド色素の合成方法も提供する。例えば、1方法は、(a)ハロゲン化スルホニル部分を含む色素化合物を提供する段階と;(b)3−アジドプロピルアミンとトリエチルアミンの存在下に色素化合物を室温まで昇温させ、3−アジドプロピルアミンのアミン部分を色素化合物のハロゲン化物位置にカップリングすることにより、アジド色素を合成する段階を含む。1態様では、色素化合物はダンシルクロリドを含み、アジド色素は化学構造4の組成物を含む。1側面では、前記方法は反応混合物からアジド色素を精製する段階を更に含む。
別の例では、アジド色素の合成方法は(a)アミン含有色素化合物を提供する段階と;(b)アミン含有色素化合物を適切な溶媒中でカルボジイミド及び4−(3−アジドプロピルカルバモイル)−酪酸と混合し、酸のカルボニル基を色素化合物のアミン部分とカップリングすることにより、アジド色素を合成する段階を含む。1態様では、カルボジイミンは1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)を含む。1側面では、アミン含有色素はフルオレセインアミンを含み、適切な溶媒はピリジンを含む。例えば、アミン含有色素はフルオレセインアミンを含み、アジド色素は化学構造6の組成物を含む。1態様では、前記方法は(c)アジド色素を沈殿させる段階と;(d)沈殿をHClで洗浄する段階と;(e)洗浄した沈殿をEtOAcに溶かす段階と;(f)アジド色素をヘキサン中で沈殿させる段階を更に含む。
プロパルギルアミドポリエチレングリコールの合成方法も提供する。例えば、本方法はプロパルギルアミンを有機溶媒(例えばCH2Cl2)中で室温にてポリエチレングリコール(PEG)−ヒドロキシスクシンイミドエステルと反応させ、化学構造7のプロパルギルアミドポリエチレングリコールを得る段階を含む。1態様では、前記方法は酢酸エチルを使用してプロパルギルアミドポリエチレングリコールを沈殿させる段階を更に含む。1側面では、前記方法はプロパルギルアミドポリエチレングリコールをメタノール中で再結晶させる段階と;生成物を減圧乾燥する段階を更に含む。
キットも本発明の特徴である。例えば、少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を細胞で生産するためのキットが提供され、前記キットはO−tRNAをコードするポリヌクレオチド配列又はO−tRNAと、O−RSをコードするポリヌクレオチド配列又はO−RSを収容した容器を含む。1態様では、キットは更に少なくとも1種の非天然アミノ酸を含む。別の態様では、キットは更に蛋白質を生産するための説明書を含む。
(定義)
本発明を詳細に記載する前に、本発明は特定装置又は生物系に限定されず、当然のことながら種々のものに適用できると理解すべきである。同様に、本明細書で使用する用語は特定態様のみの説明を目的とし、限定的でないことも理解すべきである。本明細書と特許請求の範囲で使用する単数形はそうでないことが内容から明白である場合を除き、複数形も含む。従って、例えば「細胞」と言う場合には2個以上の細胞の組合せを含み、「細菌」と言う場合には細菌混合物を含み、他の用語についても同様である。
本欄及び本明細書の他の欄で特に定義しない限り、本明細書で使用する全科学技術用語は本発明が属する分野の当業者に通常理解されている通りの意味をもつ。
相同:蛋白質及び/又は蛋白質配列は共通の祖先蛋白質又は蛋白質配列から天然又は人工的に誘導される場合に「相同」である。同様に、核酸及び/又は核酸配列は共通の祖先核酸又は核酸配列から天然又は人工的に誘導される場合に相同である。例えば、1個以上のセレクターコドンを含むように任意天然核酸を入手可能な任意突然変異誘発法により改変することができる。この突然変異誘発した核酸は発現されると、1種以上の非天然アミノ酸を含むポリペプチドをコードする。突然変異法は当然のことながら更に1個以上の標準コドンを変異させ、得られる突然変異体蛋白質の1個以上の標準アミノ酸も変異させることができる。相同性は一般に2種以上の核酸又は蛋白質(又はその配列)間の配列類似度から推定される。相同性の判定に有用な配列間類似度の厳密な百分率は該当核酸及び蛋白質により異なるが、通常は25%程度の低い配列類似度を使用して相同性を判定する。例えば30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は99%以上のより高レベルの配列類似度を使用して相同性を判定することもできる。配列類似度百分率の決定方法(例えばデフォルトパラメーターを使用するBLASTP及びBLASTN)は本明細書に記載し、一般に入手可能である。
直交:本明細書で使用する「直交」なる用語は細胞又は翻訳系に内在する対応分子に比較して低効率で細胞の内在成分と共働するか、又は細胞の内在成分と共働できない分子(例えば直交tRNA(O−tRNA)及び/又は直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS))を意味する。tRNA及びアミノアシルtRNAシンテターゼに関して直交とは、内在tRNAが内在tRNAシンテターゼと共働する場合に比較して直交tRNAが内在tRNAシンテターゼと共働できないか又は低効率でしか共働できず、あるいは、内在tRNAシンテターゼが内在tRNAと共働する場合に比較して直交アミノアシルtRNAシンテターゼが内在tRNAと共働できないか又は低効率でしか共働できず、例えば20%未満、10%未満、5%未満、又は1%未満の効率であることを意味する。直交分子は細胞中に機能的内在相補的分子をもたない。例えば、細胞中の直交tRNAがこの細胞の任意内在RSによりアミノアシル化される効率は内在tRNAが内在RSによりアミノアシル化される効率に比較して低いか又はゼロである。別の例では、直交RSが該当細胞中の任意内在tRNAをアミノアシル化する効率は内在RSが内在tRNAをアミノアシル化する効率に比較して低いか又はゼロである。第1の直交分子と共働する第2の直交分子を細胞に導入することができる。例えば、直交tRNA/RS対は対応するtRNA/RS内在対の効率に対して所定の効率(例えば50%の効率、60%の効率、70%の効率、75%の効率、80%の効率、90%の効率、95%の効率、又は99%以上の効率)で細胞において相互に共働する導入相補的成分を含む。
相補的:「相補的」なる用語は、相互に共働することができる直交対の成分であるO−tRNAとO−RSを意味し、例えばO−RSはO−tRNAをアミノアシル化する。
優先的にアミノアシル化する:「優先的にアミノアシル化する」なる用語はO−RSが天然tRNA又はO−tRNAを作製するために使用される出発材料をアミノアシル化する場合に比較して例えば70%の効率、75%の効率、85%の効率、90%の効率、95%の効率、又は約99%以上の効率でO−RSがO−tRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化することを意味する。非天然アミノ酸は高い忠実度で成長中のポリペプチド鎖に組込まれ、例えば所与セレクターコドンで75%を上回る効率、所与セレクターコドンで約80%を上回る効率、所与セレクターコドンで約90%を上回る効率、所与セレクターコドンで約95%を上回る効率、又は所与セレクターコドンで約99%を上回るか又はそれ以上の効率である。
セレクターコドン:「セレクターコドン」なる用語は翻訳プロセスでO−tRNAにより認識され、内在tRNAにより認識されないコドンを意味する。O−tRNAアンチコドンループはmRNA上のセレクターコドンを認識し、そのアミノ酸(例えば非天然アミノ酸)をポリペプチドのこの部位に組込む。セレクターコドンとしては例えばナンセンスコドン(例えばアンバー、オーカー及びオパールコドン等の終止コドン)、4塩基以上のコドン、レアコドン、天然又は非天然塩基対から誘導されるコドン及び/又は同等物を挙げることができる。
サプレッサーtRNA:サプレッサーtRNAは例えばセレクターコドンに応答してポリペプチド鎖にアミノ酸を組込むためのメカニズムを提供することにより、所与翻訳系でメッセンジャーRNA(mRNA)の読取りを変更するtRNAである。例えば、サプレッサーtRNAは例えば終止コドン、4塩基コドン、レアコドン、及び/又は同等物を読み飛ばすことができる。
リサイクル可能なtRNA:「リサイクル可能なtRNA」なる用語は翻訳中にアミノ酸(例えば非天然アミノ酸)を1個以上のポリペプチド鎖に組込むためにアミノ酸(例えば非天然アミノ酸)でアミノアシル化され、繰り返し再アミノアシル化することができるtRNAを意味する。
翻訳系:「翻訳系」なる用語は成長中のポリペプチド鎖(蛋白質)に天然アミノ酸を組込む成分の集合を意味する。翻訳系の成分としては例えばリボソーム、tRNA、シンテターゼ、mRNA、アミノ酸等を挙げることができる。本発明の成分(例えばORS、OtRNA、非天然アミノ酸等)はin vitro又はin vivo翻訳系(例えば真核細胞、例えば酵母細胞、哺乳動物細胞、植物細胞、藻類細胞、真菌細胞、昆虫細胞、及び/又は同等物)に付加することができる。
非天然アミノ酸:本明細書で使用する「非天然アミノ酸」なる用語は20種の標準天然アミノ酸の1種、セレノシステイン又はピロリジン以外の任意アミノ酸、修飾アミノ酸、及び/又はアミノ酸類似体を意味する。
〜に由来:本明細書で使用する「〜に由来」なる用語は特定分子もしくは生物から単離されているか又はその情報を使用して作製された成分を意味する。
不活性RS:本明細書で使用する「不活性RS」なる用語はその天然コグネイトtRNAをアミノ酸でアミノアシル化できないように突然変異させたシンテターゼを意味する。
ポジティブ選択又はスクリーニングマーカー:本明細書で使用する「ポジティブ選択又はスクリーニングマーカー」なる用語は、このマーカーが存在する(例えば発現、活性化等される)と、ポジティブ選択マーカーをもつ細胞がポジティブ選択マーカーをもたない細胞から識別されるマーカーを意味する。
ネガティブ選択又はスクリーニングマーカー:本明細書で使用する「ネガティブ選択又はスクリーニングマーカー」なる用語は、このマーカーが存在する(例えば発現、活性化等される)と、(例えば所望性質をもつ細胞に対して)所望性質をもたない細胞を識別することができるマーカーを意味する。
レポーター:本明細書で使用する「レポーター」なる用語は該当システムのターゲット成分を選択するために使用することができる成分を意味する。例えば、レポーターとしては蛍光スクリーニングマーカー(例えば緑色蛍光蛋白質)、発光マーカー(例えばホタルルシフェラーゼ蛋白質)、親和性に基づくスクリーニングマーカー、又は選択マーカー遺伝子(例えばhis3、ura3、leu2、lys2、lacZ、β−gal/lacZ(βガラクトシダーゼ)、Adh(アルコールデヒドロゲナーゼ))等を挙げることができる。
真核生物:本明細書で使用する「真核生物」なる用語は系統発生分類の真核生物に属する生物を意味し、例えば動物(例えば哺乳動物、昆虫、爬虫類、鳥類等)、繊毛虫、植物(例えば単子葉植物、双子葉植物、藻類等)、真菌、酵母、鞭毛虫、微胞子虫、原生生物等が挙げられる。
非真核生物:本明細書で使用する「非真核生物」なる用語は真核生物以外の生物を意味する。例えば、非真核生物は系統発生分類の真正細菌(例えばEscherichia coli,Thermus thermophilus,Bacillus stearothermophilus等)、又は系統発生分類の始原菌(例えばMethanococcus jannaschii,Methanobacterium thermoautotrophicum,Halobacterium(例えばHaloferax volcanii及びHalobacterium種NRC−1)、Archaeoglobus fulgidus,Pyrococcus furiosus,Pyrococcus horikoshii,Aeuropyrum pernix等)に属することができる。
抗体:本明細書で使用する「抗体」なる用語は限定されないが、検体(抗原)と特異的に結合してこれを認識する1又は複数の免疫グロブリン遺伝子又はそのフラグメントにより実質的にコードされるポリペプチドを意味する。例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、及び1本鎖抗体等が挙げられる。Fabフラグメントやファージディスプレイを含む発現ライブラリーにより生産されるフラグメント等の免疫グロブリンフラグメントも本明細書で使用する「抗体」なる用語に含まれる。抗体構造及び用語については、例えばPaul,Fundamental Immunology,4th Ed.,1999,Raven Press,New York参照。
保存変異体:「保存変異体」なる用語は翻訳成分を意味し、例えば保存変異体の原成分(例えばO−tRNA又はO−RS)と機能的には同様であるが、配列に変異をもつ保存変異体O−tRNA又は保存変異体O−RSである。例えば、O−RSは相補的O−tRNA又は保存変異体O−tRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化するが、O−tRNAと保存変異体O−tRNAは同一配列ではない。保存変異体は保存変異体が対応するO−tRNA又はO−RSに相補的である限り、例えば配列の1カ所、2カ所、3カ所、4カ所、又は5カ所以上に変異をもつことができる。
選択又はスクリーニング物質:本明細書で使用する「選択又はスクリーニング物質」なる用語はこのような物質が存在すると、集団から所定成分を選択/スクリーニングすることができる物質を意味する。例えば、選択又はスクリーニング物質としては限定されないが、栄養素、抗生物質、光波長、抗体、発現ポリヌクレオチド(例えば転写モジュレーター蛋白質)等が挙げられる。選択物質は例えば濃度、強度等により変動させることができる。
検出可能な物質:本明細書で使用する「検出可能な物質」なる用語は活性化、変化、発現等させた場合に集団から所定成分を選択/スクリーニングすることができる物質を意味する。例えば、検出可能な物質は所定条件下(例えばURA3レポーターの発現下)で検出可能な物質(例えばURA3レポーターを発現する細胞を死滅させる毒性物質)になる化学物質(例えば5−フルオロオロト酸(5−FOA)とすることができる。
遺伝コードによる化学的制約を解消して蛋白質の構造を真核細胞で直接遺伝的に改変できるならば、細胞プロセスを精査及び操作するための強力な分子ツールとなろう。本発明は真核細胞で遺伝的にコードされるアミノ酸の数を拡張する翻訳成分を提供する。これらの成分は、tRNA(例えば直交tRNA(O−tRNA))、アミノアシルtRNAシンテターゼ(例えば直交シンテターゼO−RS))、O−tRNA/O−RS対、及び非天然アミノ酸を含む。
一般に、本発明のO−tRNAは真核細胞で効率的に発現及びプロセシングされ、翻訳機能するが、宿主のアミノアシルtRNAシンテターゼにより有意にアミノアシル化されない。セレクターコドンに応答して、本発明のO−tRNAは20種の標準アミノ酸をコードしない非天然アミノ酸をmRNA翻訳中に成長中のポリペプチド鎖に送達する。
本発明のO−RSは真核細胞において本発明のO−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化するが、細胞質宿主のtRNAをアミノアシル化しない。更に、本発明のアミノアシルtRNAシンテターゼの特異性は内在アミノ酸を排除しながら非天然アミノ酸を受容する。代表的O−RS又はその部分のアミノ酸配列を含むポリペプチドも本発明の特徴である。更に、翻訳成分であるO−tRNA、O−RS及びその部分をコードするポリヌクレオチドも本発明の特徴である。
本発明は真核細胞用非天然アミノ酸を利用する所望翻訳成分、例えばO−RS、及び/又は直交対(直交tRNAと直交アミノアシルtRNAシンテターゼ)の作製方法(及び前記方法により作製された翻訳成分)も提供する。例えば、大腸菌に由来するチロシル−tRNAシンテターゼ/tRNACUA対が本発明のO−tRNA/O−RS対である。更に、本発明はある真核細胞で翻訳成分を選択/スクリーニングし、選択/スクリーニング後にこれらの成分を別の真核細胞(選択/スクリーニングに使用しなかった真核細胞)で使用する方法にも関する。例えば、真核細胞用翻訳成分を作製するための選択/スクリーニング方法は酵母(例えばSaccharomyces cerevisiae)で実施することができ、その後、選択された成分を別の真核細胞(例えば別の酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、真菌細胞等)で使用することができる。
本発明は更に非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を真核細胞で生産するための方法も提供する。蛋白質は本発明の翻訳成分を使用して生産される。本発明は非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質(及び本発明の方法により生産された蛋白質)も提供する。該当蛋白質又はポリペプチドは更に例えば[3+2]シクロ付加、又は原核細胞では行われない求核−求電子反応等により付加される翻訳後修飾を含むことができる。所定態様では、非天然アミノ酸を組込んだ転写モジュレーター蛋白質の生産方法(及び前記方法により生産された蛋白質)も本発明に含まれる。非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を含有する組成物も本発明の特徴である
非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質又はポリペプチドを生産するためのキットも本発明の特徴である。
直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)
真核細胞で非天然アミノ酸を該当蛋白質又はポリペプチドに特異的に組込むためには、所望非天然アミノ酸のみをtRNAに負荷し、20種の標準アミノ酸は負荷しないようにシンテターゼの基質特異性を改変する。直交シンテターゼが無差別な場合には、ターゲット位置に天然アミノ酸と非天然アミノ酸の混合物を含む突然変異体蛋白質となる。本発明は特定非天然アミノ酸に対する基質特異性を改変した直交アミノアシルtRNAシンテターゼを作製する組成物と方法を提供する。
直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)を含む真核細胞が本発明の特徴である。O−RSは真核細胞において直交tRNA(O−tRNA)を非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。所定態様では、O−RSは2種以上(例えば2種以上、3種以上等)の非天然アミノ酸を利用する。従って、本発明のO−RSはO−tRNAを複数の異なる非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する能力をもつことができる。このため、どの非天然アミノ酸もしくは非天然の組み合わせを細胞に添加するかを選択することにより及び/又は組込みのために細胞に添加する各種量の非天然アミノ酸を選択することにより制御レベルを増すことができる。
本発明のO−RSは場合により天然アミノ酸に比較して非天然アミノ酸に1種以上の改善又は強化された酵素性質をもつ。これらの性質としては、例えば天然アミノ酸(例えば20種の公知標準アミノ酸)に比較して非天然アミノ酸のKm増加、Km低下、kcat増加、kcat低下、kcat/km低下、kcat/km増加等が挙げられる。
場合により、O−RSはO−RSを含むポリペプチド及び/又はO−RSもしくはその一部をコードするポリヌクレオチドにより真核細胞に付加することができる。例えば、O−RS又はその一部は配列番号3−35(例えば3−19,20−35,又は配列3−35の他の任意サブセット)のいずれか1種に記載のポリヌクレオチド配列、又はその相補的ポリヌクレオチド配列によりコードされる。別の例では、O−RSは配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸配列、又はその保存変異体を含む。代表的O−RS分子の配列については、例えば本明細書の表5、6及び8並びに実施例6参照。
O−RSは更に天然に存在するチロシルアミノアシルtRNAシンテターゼ(TyrRS)のアミノ酸配列(例えば配列番号2に記載する配列)に例えば少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも99.5%一致するアミノ酸配列を含むと共に、A−E群の2種以上のアミノ酸を含むことができる。A群は大腸菌TyrRSのTyr37に対応する位置にバリン、イソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、アラニン、又はスレオニンを含み;B群は大腸菌TyrRSのAsn126に対応する位置にアスパラギン酸を含み;C群は大腸菌TyrRSのAsp182に対応する位置にスレオニン、セリン、アルギニン、アスパラギン又はグリシンを含み;D群は大腸菌TyrRSのPhe183に対応する位置にメチオニン、アラニン、バリン、又はチロシンを含み;E群は大腸菌TyrRSのLeu186に対応する位置にセリン、メチオニン、バリン、システイン、スレオニン、又はアラニンを含む。これらの群の組み合わせの任意サブセットが本発明の特徴である。例えば、1態様では、O−RSは大腸菌TyrRSのTyr37に対応する位置にバリン、イソロイシン、ロイシン、又はスレオニン;大腸菌TyrRSのAsp182に対応する位置にスレオニン、セリン、アルギニン、又はグリシン;大腸菌TyrRSのPhe183に対応する位置にメチオニン、又はチロシン;及び大腸菌TyrRSのLeu186に対応する位置にセリン、又はアラニンから選択される2種以上のアミノ酸をもつ。別の態様では、O−RSは大腸菌TyrRSのTyr37に対応する位置にグリシン、セリン、又はアラニン、大腸菌TyrRSのAsn126に対応する位置にアスパラギン酸、大腸菌TyrRSのAsp182に対応する位置にアスパラギン、大腸菌TyrRSのPhe183に対応する位置にアラニン、又はバリン、及び/又は大腸菌TyrRSのLeu186に対応する位置にメチオニン、バリン、システイン、又はスレオニンから選択される2種以上のアミノ酸を含む。例えば本明細書の表4、表6、及び表8も参照。
O−RSに加え、本発明の真核細胞は付加成分(例えば非天然アミノ酸)も含むことができる。真核細胞は更に(例えば大腸菌、Bacillus stearothermophilus、及び/又は同等物等の非真核生物に由来する)直交tRNA(O−tRNA)を含み、前記O−tRNAはセレクターコドンを認識し、O−RSにより非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化される。該当ポリペプチドをコードし、O−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含むポリヌクレオチド、又はこれらの1種以上の組み合わせを含む核酸も細胞に存在することができる。
1側面では、O−tRNAは配列番号65に記載のポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列からプロセシングされるtRNAの例えば少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は99%以上の効率で非天然アミノ酸の蛋白質組込みを媒介する。別の側面では、O−tRNAは配列番号65を含み、O−RSは配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86のいずれか1種に記載のポリペプチド配列、及び/又はその保存変異体を含む。代表的O−RS及びO−tRNA分子の配列については、例えば本明細書の表5及び実施例6も参照。
1例では、真核細胞は直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と、直交tRNA(O−tRNA)と、非天然アミノ酸と、該当ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含み、前記ポリヌクレオチドはO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含む。O−RSは真核細胞において直交tRNA(O−tRNA)を非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化し、細胞は非天然アミノ酸の存在下におけるポリペプチドの収率の例えば30%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2.5%未満等の収率で非天然アミノ酸の不在下に該当ポリペプチドを生産する。
本発明の特徴であるO−RSの作製方法は場合により野生型シンテターゼの骨格から突然変異体シンテターゼのプールを作製する段階と、その後、20種の標準アミノ酸と比較した非天然アミノ酸に対する特異性に基づいて突然変異RSを選択する段階を含む。このようなシンテターゼを単離するために、本発明の選択方法は(i)初期ラウンドからの所望シンテターゼの活性を低くすることができ、集団が小さいので高感度であり、(ii)各選択ラウンドで選択ストリンジェンシーを変えることが望ましいので「調節可能」であり、(iii)汎用性であるため、種々の非天然アミノ酸に使用できる。
真核細胞において直交tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)の作製方法は一般にポジティブ選択後にネガティブ選択を行う組み合わせを適用する段階を含む。ポジティブ選択では、ポジティブマーカーの非必須位置に導入したセレクターコドンの抑圧により、真核細胞をポジティブ選択圧下で生存させる。従って、非天然アミノ酸の存在下で生存細胞は直交サプレッサーtRNAに非天然アミノ酸を負荷する活性シンテターゼをコードする。ネガティブ選択では、ネガティブマーカーの非必須位置に導入したセレクターコドンの抑圧により、天然アミノ酸特異性をもつシンテターゼを除去する。ネガティブ選択とポジティブ選択の生存細胞は直交サプレッサーtRNAを非天然アミノ酸でのみ(又は少なくとも優先的に)アミノアシル化(負荷)するシンテターゼをコードする。
例えば、前記方法は(a)i)アミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)のライブラリーのメンバーと、ii)直交tRNA(O−tRNA)と、iii)ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドと、iv)ネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドを各々含む第1の種の真核細胞の集団について非天然アミノ酸の存在下でポジティブ選択を実施し、ポジティブ選択後に生存している細胞が非天然アミノ酸の存在下で直交tRNA(O−tRNA)をアミノアシル化する活性RSであると判定する段階と;(b)ポジティブ選択後に生存している細胞について非天然アミノ酸の不在下でネガティブ選択を実施し、O−tRNAを天然アミノ酸でアミノアシル化する活性RSを排除することにより、O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化するO−RSを得る段階を含む。
ポジティブ選択マーカーは種々の分子の任意のものとすることができる。1態様では、ポジティブ選択マーカーは増殖用栄養補助剤を提供する物質であり、選択は栄養補助剤を含まない培地で実施される。ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドの例としては限定されないが、例えば細胞のアミノ酸栄養要求性の相補に基づくレポーター遺伝子、his3遺伝子(例えばhis3遺伝子は3−アミノトリアゾール(3−AT)を添加することにより検出されるイミダゾールグリセロールリン酸脱水素酵素をコードする)、ura3遺伝子、leu2遺伝子、lys2遺伝子、lacZ遺伝子、adh遺伝子等が挙げられる。例えばG.M.Kishore,& D.M.Shah,(1988),Amino acid biosynthesis inhibitors as herbicides,Annual Review of Biochemistry 57:627−663参照。1態様では、lacZ生産はオルト−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド(ONPG)加水分解により検出される。例えばI.G.Serebriiskii,& E.A.Golemis,(2000),Uses of lacZ to study gene function:evaluation of beta−galactosidase assays employed in the yeast two−hybrid system,Analytical Biochemistry 285:1−15参照。その他のポジティブ選択マーカーとしては、例えばルシフェラーゼ、緑色蛍光蛋白質(GFP)、YFP、EGFP、RFP、抗生物質耐性遺伝子産物(例えばクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT))、転写モジュレーター蛋白質(例えばGAL4)等が挙げられる。場合により、ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドはセレクターコドンを含む。
ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドは応答エレメントに機能的に連結することができる。応答エレメントからの転写を調節する転写モジュレーター蛋白質をコードし、少なくとも1個のセレクターコドンを含む付加ポリヌクレオチドも存在することができる。非天然アミノ酸でアミノアシル化されたO−tRNAにより非天然アミノ酸が転写モジュレーター蛋白質に組込まれる結果としてポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチド(例えばレポーター遺伝子)が転写される。例えば、図1A参照。場合により、セレクターコドンは転写モジュレーター蛋白質のDNA結合ドメインをコードするポリヌクレオチドの一部又は実質的にその近傍に配置される。
ネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドも転写モジュレーター蛋白質により転写を媒介される応答エレメントに機能的に連結することができる。例えばA.J.DeMaggioら,(2000),The yeast split−hybrid system,Method Enztmol.328:128−137;H.M.Shihら,(1996),A positive genetic selection for disrupting protein−protein interactions:identification of CREB mutations that prevent association with the coactivator CBP,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.93:13896−13901;M.Vidalら,(1996),Genetic characterization of a mammalian protein−protein interaction domain by using a yeast reverse two−hybrid system.[comment],Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.93:10321−10326;及びM.Vidalら,(1996),Reverse two−hybrid and One−hybrid systems to detect dissociation of protein−protein and DNA−protein interactions.[comment],Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.93:10315−10320参照。天然アミノ酸でアミノアシル化されたO−tRNAにより天然アミノ酸が転写モジュレーター蛋白質に組込まれる結果としてネガティブ選択マーカーが転写される。場合により、ネガティブ選択マーカーはセレクターコドンを含む。1態様では、本発明のポジティブ選択マーカー及び/又はネガティブ選択マーカーは少なくとも2個のセレクターコドンを含むことができ、セレクターコドンは各々又は両方が少なくとも2個の異なるセレクターコドンを含むこともできるし、少なくとも2個の同一セレクターコドンを含むこともできる。
転写モジュレーター蛋白質は核酸配列(例えば応答エレメント)と(直接又は間接的に)結合し、応答エレメントに機能的に連結された配列の転写を調節する分子である。転写モジュレーター蛋白質としては、転写アクチベーター蛋白質(例えばGAL4、核内ホルモン受容体、AP1、CREB、LEF/tcfファミリーメンバー、SMAD、VP16、SP1等)、転写リプレッサー蛋白質(例えば核内ホルモン受容体、Groucho/tleファミリー、Engrailedファミリー等)、又は環境に依存して両活性をもつことができる蛋白質(例えばLEF/tcf、ホメオボックス蛋白質等)が挙げられる。応答エレメントは一般に転写モジュレーター蛋白質により認識される核酸配列又は転写モジュレーター蛋白質に呼応して作用する付加物質である。
転写モジュレーター蛋白質の別の例は転写アクチベーター蛋白質GAL4(例えば図1A参照)である。例えばA.Laughonら,(1984),Identification of two proteins encoded by the Saccharomyces cerevisiae GAL gene,Molecular & Cellular Biology 4:268−275;A.Laughon,& R.F.Gesteland,(1984),Primary structure of the Saccharomyces cerevisiae GAL4 gene,Molecular & Cellular Biology 4:260−267;L.Keeganら,(1986),Separation of DNA binding from the transcription−activating function of a eukaryotic regulatory protein,Science 231:699−704;及びM.Ptashne,(1988),How eukaryotic transcriptional activators work,Nature 335:683−689参照。この881アミノ酸蛋白質のN末端147アミノ酸はDNA配列と特異的に結合するDNA結合ドメイン(DBD)を形成する。例えばM.Careyら,(1989),An amino−terminal fragment of GAL4 binds DNA as a dimer,J.Mol.Biol.209:423−432;及びE.Ginigerら,(1985),Specific DNA binding of GAL4,a positive regulatory protein of yeast,Cell 40:767−774参照。DBDはDNAと結合すると転写を活性化することができるC末端113アミノ酸活性化ドメイン(AD)と介在蛋白質配列により連結されている。例えばJ.Ma,& M.Ptashne,(1987),Deletion analysis of GAL4 defines two transcriptional activating segments,Cell 48:847−853:及びJ.Ma,& M.Ptashne,(1987),The carboxy−terminal 30 amino acids of GAL4 are recognized by GAL80,Cell 50:137−142参照。例えばGAL4のN末端DBDとそのC末端ADの両者を含む単一ポリペプチドのN末端DBD側にアンバーコドンを配置することにより、O−tRNA/O−RS対によるアンバー抑圧をGAL4による転写活性化に連携させることができる(図1A)。GAL4により活性化されたレポーター遺伝子を使用してこの遺伝子によりポジティブ選択とネガティブ選択の両方を実施することができる(図1B)。
ネガティブ選択に使用される培地はネガティブ選択マーカーにより検出可能な物質に変換される選択又はスクリーニング物質を含むことができる。本発明の1側面では、検出可能な物質は毒性物質である。ネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドは例えばura3遺伝子とすることができる。例えば、GAL4 DNA結合部位を含むプロモーターの制御下にURA3レポーターを置くことができる。例えばセレクターコドンをもつGAL4をコードするポリヌクレオチドの翻訳によりネガティブ選択マーカーが生産されると、GAL4はURA3の転写を活性化する。ネガティブ選択はura3遺伝子の遺伝子産物により検出可能な物質(例えば細胞を死滅させる毒性物質)に変換される5−フルオロオロト酸(5−FOA)を含む培地で実施される。例えばJ.D.Boekeら,(1984),A positive selection for mutants lacking orotidine−5’−phosphate decarboxylase activity in yeast:5−fluoroorotic acid resistance,Molecular & General Genetics 197:345−346);M.Vidalら,(1996),Genetic characterization of a mammalian protein−protein interaction domain by using a yeast reverse two−hybrid system.[comment],Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.93:10321−10326;及びM.Vidalら,(1996),Reverse two−hybrid and one−hybrid systems to detect dissociation of protein−protein and DNA−proteir interactions.[comment],Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.93:10315−10320参照。図8Cも参照。
ポジティブ選択マーカーと同様に、ネガティブ選択マーカーも種々の分子の任意のものとすることができる。1態様では、ポジティブ選択マーカー及び/又はネガティブ選択マーカーは適切な反応体の存在下で蛍光発光するか又は発光反応を触媒するポリペプチドである。例えば、ネガティブ選択マーカーとしては限定されないが、例えばルシフェラーゼ、緑色蛍光蛋白質(GFP)、YFP、EGFP、RFP、抗生物質耐性遺伝子産物(例えばクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT))、lacZ遺伝子産物、転写モジュレーター蛋白質等が挙げられる。本発明の1側面では、ポジティブ選択マーカー及び/又はネガティブ選択マーカーは蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)又は発光により検出される。別の例では、ポジティブ選択マーカー及び/又はネガティブ選択マーカーは親和性に基づくスクリーニングマーカーを含む。同一ポリヌクレオチドがポジティブ選択マーカーとネガティブ選択マーカーの両者をコードすることもできる。
本発明の方法では付加レベルの選択/スクリーニングストリンジェンシーを使用することもできる。選択又はスクリーニングストリンジェンシーはO−RSを作製するための方法の一方又は両方の段階で変動させることができる。これは例えばポジティブ及び/又はネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドにおける応答エレメントの量を変動させたり、段階の一方又は両方に変動量の不活性シンテターゼを添加したり、選択/スクリーニング物質の使用量を変動させる等の操作により実施することができる。付加ラウンドのポジティブ及び/又はネガティブ選択を実施することもできる。
選択又はスクリーニングは更に1種以上のポジティブ又はネガティブ選択又はスクリーニングを含むことができ、例えばアミノ酸浸透率の変化、翻訳効率の変化、翻訳忠実度の変化等が挙げられる。一般に、前記1種以上の変化は蛋白質を生産するために使用される直交tRNA−tRNAシンテターゼ対の成分を含むか又はコードする1種以上のポリヌクレオチドの突然変異に基づく。
過剰の不活性シンテターゼから活性シンテターゼを迅速に選択するためにモデル集積試験を使用することもできる。ポジティブ及び/又はネガティブモデル選択試験を実施することができる。例えば、潜在的活性アミノアシルtRNAシンテターゼを含む真核細胞を変動倍過剰の不活性アミノアシルtRNAシンテターゼと混合する。非選択培地で増殖させ、例えばX−GAL重層法によりアッセイした細胞と、選択培地で(例えばヒスチジン及び/又はウラシルの不在下に)増殖させて生存することができ、例えばX−GALアッセイによりアッセイした細胞の比率を比較する。ネガティブモデル選択では、潜在的活性アミノアシルtRNAシンテターゼを変動倍過剰の不活性アミノアシルtRNAシンテターゼと混合し、ネガティブ選択物質(例えば5−FOA)により選択を実施する。
一般に、RSのライブラリー(例えば突然変異体RSのライブラリー)は例えば非真核生物に由来する少なくとも1種のアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)に由来するRSを含む。1態様では、RSのライブラリーは不活性RSに由来し、例えば不活性RSは例えばシンテターゼの活性部位、シンテターゼの編集メカニズム部位、シンテターゼの種々のドメインを組み合わせた種々の部位等において活性RSを突然変異させることにより作製される。例えば、RSの活性部位の残基を例えばアラニン残基に突然変異させる。アラニンに突然変異したRSをコードするポリヌクレオチドを鋳型として使用し、アラニン残基を全20種のアミノ酸に突然変異誘発する。O−RSを生産するように突然変異RSのライブラリーを選択/スクリーニングする。別の態様では、不活性RSはアミノ酸結合ポケットを含み、結合ポケットを構成する1種以上のアミノ酸は1種以上の異なるアミノ酸で置換されている。1例では、置換アミノ酸はアラニンで置換されている。場合により、アラニンに突然変異したRSをコードするポリヌクレオチドを鋳型として使用し、アラニン残基を全20種のアミノ酸に突然変異誘発し、選択/スクリーニングする。
O−RSの作製方法は当分野で公知の種々の突然変異誘発技術を使用することによりRSのライブラリーを作製する段階を更に含む。例えば、突然変異体RSは部位特異的突然変異、ランダム点突然変異、相同組換え、DNAシャフリング又は他の再帰的突然変異誘発法、キメラ構築又はその任意組み合わせにより作製することができる。例えば、突然変異体RSのライブラリーは2種以上の他の例えばサイズとダイバーシティーの小さい「サブライブラリー」から作製することができる。シンテターゼにポジティブ及びネガティブ選択/スクリーニングストラテジーを実施した後、これらのシンテターゼに更に突然変異誘発を実施することができる。例えば、O−RSをコードする核酸を単離することができ;(例えばランダム突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、組換え又はその任意組み合わせにより)突然変異O−RSをコードする1組のポリヌクレオチドを核酸から作製することができ;O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する突然変異O−RSが得られるまでこれらの個々の段階又はこれらの段階の組み合わせを繰り返すことができる。本発明の1側面では、段階を少なくとも2回実施する。
O−RSの作製に関するその他の詳細についてはWO2002/086075、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(Methods and compositions for the production of orthogonal tRNA−aminoacyl tRNA synthetase pairs)」に記載されている。Hamano−Takakuら,(2000)A mutant Escherichia coli tyrosyl−tRNA Synthetase Utilizes the Unnatural Amino Acid Azatyrosine More Efficiently than tyrosine,Journal of Biological Chemistry,275(51):40324−40328;Kigaら(2002),An engineered Escherichia coli tyrosyl−tRNA synthetase for site−specific incorporation of an unnatural amino acid into proteins in eukaryotic translation and its application in a wheat germ cell−free system,PNAS 99(15):9715−9723;及びFrancklynら,(2002),Aminoacyl−tRNA synthetases:Versatile players in the changing theater of translation;RNA,8:1363−1372も参照。
直交tRNA
本発明は直交tRNA(O−tRNA)を含む真核細胞を提供する。直交tRNAはO−tRNAによりin vivo認識されるセレクターコドンを含むポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質への非天然アミノ酸の組込みを媒介する。所定態様では、本発明のO−tRNAは配列番号65に記載のポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列から細胞でプロセシングされるtRNAの例えば少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、又は90%以上の効率で非天然アミノ酸の蛋白質組込みを媒介する。本明細書の表5参照。
本発明のO−tRNAの1例は配列番号65である(本明細書の実施例6及び表5参照)。配列番号65は場合により例えば細胞の内在スプライシング及びプロセシング機構を使用して細胞中でプロセシングされ、修飾されて活性O−tRNAを形成するプレスプライシング/プロセシング転写産物である。一般に、このようなプレスプライシング転写産物の集団は細胞中で活性tRNAの集団を形成する(活性tRNAは1種以上の活性形態とすることができる)。本発明はO−tRNAの保存変異体とそのプロセシングされた細胞内産物も含む。例えば、O−tRNAの保存変異体としては、配列番号65のO−tRNAと同様に機能し、例えばプロセシングされた形態でtRNA L形構造を維持するが、同一配列をもたない(野生型tRNA分子以外の)分子が挙げられる。一般に、本発明のO−tRNAはセレクターコドンに応答してポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質への非天然アミノ酸の組込みを再媒介するためにin vivo再アミノアシル化することができるのでリサイクル可能なO−tRNAである。
原核生物と異なり、真核生物におけるtRNA転写はRNAポリメラーゼIIIにより行われるので、真核細胞で転写することができるtRNA構造遺伝子の一次配列は制限される。更に、真核細胞ではtRNAが翻訳機能するためにはその転写の場である核から細胞質に輸送する必要がある。本発明のO−tRNAをコードする核酸又はその相補的ポリヌクレオチドも本発明の特徴である。本発明の1側面では、本発明のO−tRNAをコードする核酸としては内部プロモーター配列、例えばAボックス(例えばTRGCNNAGY)とBボックス(例えばGGTTCGANTCC,配列番号88)が挙げられる。本発明のO−tRNAは転写後修飾することもできる。例えば、真核生物におけるtRNA遺伝子の転写後修飾としては夫々Rnase P及び3’−エンドヌクレアーゼによる5’−及び3’−フランキング配列の除去が挙げられる。3’−CCA配列の付加も真核生物におけるtRNA遺伝子の転写後修飾である。
1態様では、O−tRNAは第1の種の真核細胞の集団についてネガティブ選択を実施することにより得られ、真核細胞はtRNAのライブラリーのメンバーを含む。ネガティブ選択は真核細胞に内在するアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)によりアミノアシル化されるtRNAのライブラリーのメンバーを含む細胞を排除する。こうして第1の種の真核細胞に直交なtRNAのプールが得られる。
別法として又は非天然アミノ酸をポリペプチドに組込みための他の上記方法と組み合わせてトランス翻訳システムを使用することができる。このシステムは大腸菌に存在するtmRNAと呼ぶ分子を利用する。このRNA分子はアラニルtRNAと構造的に関連しており、アラニルシンテターゼによりアミノアシル化される。tmRNAとtRNAの相違はアンチコドンループが特殊な大きい配列で置換されていることである。この配列はtmRNA内でコードされるオープンリーディングフレームを鋳型として使用し、停止している配列でリボソームに翻訳を再開させることができる。本発明では、直交シンテターゼで優先的にアミノアシル化され、非天然アミノ酸を負荷される直交tmRNAを作製することができる。遺伝子をこのシステムにより転写することにより、リボソームは特定部位で停止し;非天然アミノ酸をこの部位に導入し、直交tmRNA内でコードされる配列を使用して翻訳が再開する。
組換え直交tRNAの他の作製方法も例えば国際特許出願WO2002/086075、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(Methods and compositions for the production of orthogonal tRNA−aminoacyl tRNA synthetase pairs)」に記載されている。Forsterら,(2003)Programming peptidomimetic synthetases by translating genetic codes designed de novo PNAS 100(11):6353−6357;及びFengら,(2003),Expanding tRNA recognition of a tRNA synthetase by a single amino acid change,PNAS 100(10):5676−5681も参照。
直交tRNA及び直交アミノアシルtRNAシンテターゼ対
直交対はO−tRNA(例えばサプレッサーtRNA、フレームシフトtRNA等)とO−RSから構成される。O−tRNAは内在シンテターゼによりアシル化されず、O−tRNAによりin vivo認識されるセレクターコドンを含むポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質への非天然アミノ酸の組込みを媒介することができる。O−RSはO−tRNAを認識し、真核細胞においてO−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。直交対の作製方法と前記方法により作製された直交対及び真核細胞で使用するための直交対の組成物も本発明に含まれる。多重直交tRNA/シンテターゼ対の開発により、真核細胞で各種コドンを使用して多重非天然アミノ酸の同時に組込みが可能になる。
種間アミノアシル化が非効率的な別の生物から対(例えばナンセンスサプレッサー対)を取り込むことにより真核細胞で直交O−tRNA/O−RS対を作製することができる。O−tRNAとO−RSは真核細胞で効率的に発現及びプロセシングされ、O−tRNAは効率的に核から細胞質に輸送される。例えば、このような対の1例は大腸菌に由来するチロシル−tRNAシンテターゼ/tRNACUA対である(例えばH.M.Goodmanら,(1968),Nature 217:1019−24;及びD.G.Barkerら,(1982),FEBS Letters 150:419−23参照)。大腸菌チロシル−tRNAシンテターゼはそのコグネイト大腸菌RNACUAと共にS.cerevisiaeの細胞質で発現させると前記コグネイトを効率的にアミノアシル化するが、S.cerevisiae tRNAをアミノアシル化しない。例えばH.Edwards,& P.Schimmel,(1990),Molecular & Cellular Biology 10:1633−41;及びH.Edwardsら,(1991),PNAS United States of America 88:1153−6参照。更に、大腸菌チロシルtRNACUAはS.cerevisiaeアミノアシルtRNAシンテターゼの不良基質である(例えばV.Trezeguetら,(1991),Molecular & Cellular Biology 11:2744−51参照)が、S.cerevisiaeで蛋白質翻訳に効率的に機能する。例えばH.Edwards,& P.Schimmel,(1990)Molecular & Cellular Biology 10:1633−41;H.Edwardsら,(1991),PNAS United States of America 88:1153−6;及びV.Trezeguetら,(1991),Molecular & Cellular Biology 11:2744−51参照。更に、大腸菌TyrRSはtRNAにライゲートした非天然アミノ酸をプルーフリードするための編集メカニズムをもたない。
O−tRNAとO−RSは天然に存在するものでもよいし、種々の生物に由来するtRNAのライブラリー及び/又はRSのライブラリーを形成する天然に存在するtRNA及び/又はRSの突然変異により誘導してもよい。本明細書の「資源及び宿主生物」のセクション参照。種々の態様において、O−tRNAとO−RSは少なくとも1種の生物に由来する。別の態様では、O−tRNAは第1の生物に由来する天然に存在するか又は天然に存在するものを突然変異させたtRNAに由来し、O−RSは第2の生物に由来する天然に存在するか又は天然に存在するものを突然変異させたRSに由来する。1態様では、第1の非真核生物と第2の非真核生物は同一である。あるいは、第1の非真核生物と第2の非真核生物は異なるものでもよい。
O−RS及びO−tRNAの作製方法については本明細書の「直交アミノアシルtRNAシンテターゼ」及び「O−tRNA」のセクション参照。国際特許出願WO2002/086075、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(Methods and compositions for the production of orthogonal tRNA−aminoacyl tRNA synthetase pairs)」も参照。
忠実度、効率、及び収率
忠実度とは所望分子(例えば非天然アミノ酸又はアミノ酸)が成長中のポリペプチドの所望位置に組込まれる確度を意味する。本発明の翻訳成分はセレクターコドンに応答して非天然アミノ酸を高い忠実度で蛋白質に組込む。例えば、本発明の成分を使用すると、(例えばセレクターコドンに応答して)成長中のポリペプチド鎖の所望位置に所望非天然アミノ酸が組込まれる効率は成長中のポリペプチド鎖の所望位置への特定天然アミノ酸の望ましくない組込みに比較して例えば>75%、>85%、>95%、又は>99%又はそれ以上である。
効率とは、O−RSが関連対照に比較してO−tRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化する程度を意味する場合もある。本発明のO−RSはその効率により定義することができる。本発明の所定態様では、O−RSを別のO−RSと比較する。例えば、本発明のO−RSは例えば配列番号86又は45に記載のアミノ酸配列をもつO−RS(又は表5に示す別の特定RS)がO−tRNAをアミノアシル化する場合の例えば少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は99%以上の効率でO−tRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化する。別の態様では、本発明のO−RSはO−RSがO−tRNAを天然アミノ酸でアミノアシル化する場合の少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍等の効率でO−tRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化する。
本発明の翻訳成分を使用すると、非天然アミノ酸を含む該当ポリペプチドの収率はポリヌクレオチドにセレクターコドンをもたない細胞から天然に存在する該当ポリペプチドで得られる収率の例えば少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、50%以上である。別の側面では、細胞は非天然アミノ酸の存在下におけるポリペプチドの収率の例えば30%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2.5%未満等の収率で非天然アミノ酸の不在下に該当ポリペプチドを生産する。
資源及び宿主生物
本発明の直交翻訳成分は一般に真核細胞又は翻訳系で使用するために非真核生物に由来する。例えば、直交O−tRNAは例えば真正細菌(例えばEscherichia coli、Thermus thermophilus、Bacillus stearothermophilus等)や始原菌(例えばMethanococcus jannaschii、Methanobacterium thermoautotrophicum、Halobacterium(例えばHaloferax volcanii及びHalobacterium種NRC−1)、Archaeoglobus fulgidus、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus horikoshii、Aeuropyrum pernix等)等の非真核生物に由来することができ、直交O−RSは例えば真正細菌(例えばEscherichia coli、Thermus thermophilus、Bacillus stearothermophilus等)や始原菌(例えばMethanococcus jannaschii、Methanobacterium thermoautotrophicum、Halobacterium(例えばHaloferax volcanii及びHalobacterium種NRC−1)、Archaeoglobus fulgidus、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus horikoshii、Aeuropyrum pernix等)等の非真核生物に由来することができる。あるいは、例えば植物、藻類、原生動物、真菌、酵母、動物(例えば哺乳動物、昆虫、節足動物等)等の真核資源も使用することができ、例えば成分は該当細胞もしくは翻訳系に直交であるか又は該当細胞もしくは翻訳系に直交となるように改変(例えば突然変異)されている。
O−tRNA/O−RS対の個々の成分は同一生物に由来するものでも異なる生物に由来するものでもよい。1態様では、O−tRNA/O−RS対は同一生物に由来する。例えば、O−tRNA/O−RS対は大腸菌に由来するチロシル−tRNAシンテターゼ/tRNACUA対に由来することができる。あるいは、O−tRNA/O−RS対のO−tRNAとO−RSは場合により異なる生物に由来する。
直交O−tRNA、O−RS又はO−tRNA/O−RS対は非天然アミノ酸を組込んだポリペプチドを生産するために真核細胞で選択又はスクリーニング及び/又は使用することができる。真核細胞は種々の資源に由来することができ、例えば植物(例えば単子葉植物や双子葉植物等の複雑な植物)、藻類、原生生物、真菌、酵母(例えばSaccharomyces cerevisiae)、動物(例えば哺乳動物、昆虫、節足動物等)等が挙げられる。本発明の翻訳成分を組込んだ真核細胞の組成物も本発明の特徴である。
本発明は第1の種及び/又は第2の種で(場合により、付加選択/スクリーニングなしに)場合により使用するための第1の種における効率的スクリーニングも提供する。例えば、第1の種(例えば操作し易い種(例えば酵母細胞等))でO−tRNA/O−RSの成分を選択又はスクリーニングし、第2の真核種(例えば植物(例えば単子葉植物や双子葉植物等の複雑な植物)、藻類、原生生物、真菌、酵母、動物(例えば哺乳動物、昆虫、節足動物等)等)への非天然アミノ酸のin vivo組込みに使用するために第2の種に導入する。
例えば、単細胞であり、1世代の寿命が短く、遺伝が比較的十分に特性決定されていることから、Saccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)を第1の真核種として選択することができる。例えばD.Burkeら,(2000)Methods in Yeast Genetics.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY参照。更に、真核生物の翻訳機構は高度に保存されている(例えば(1996)Translational Control.Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY;Y.Kwok,& J.T.Wong,(1980),Evolutionary relationship between Halobacterium cutirubrum and eukaryotes determined by use of aminoacyl−tRNA synthetases as phylogenetic probes,Canadian Journal of Biochemistry 58:213−218;及び(2001)The Ribosome.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY参照)ので、S.cerevisiaeで発見された非天然アミノ酸の組込み用aaRS遺伝子を高等真核生物に導入し、非天然アミノ酸を組込むためにコグネイトtRNAと併用することができる(例えばK.Sakamotoら,(2002)Site−specific incorporation of an unnatural amino acid into proteins in mammalian cells,Nucleic Acids Res.30:4692−4699;及びC.Kohrerら,(2001),Import of amber and ochre suppressor tRNAs into mammalian cells:a general approach to site−specific insertion of amino acid analogues into proteins,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.98:14310−14315参照)。
1例では、本明細書に記載するように第1の種でO−tRNA/O−RSを生産する方法はO−tRNAをコードする核酸と、O−RSをコードする核酸を第2の種(例えば哺乳動物、昆虫、真菌、藻類、植物等)の真核細胞に導入する段階を更に含む。別の例では、真核細胞において直交tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)の生産方法は(a)第1の種(例えば酵母等)の真核細胞の集団について非天然アミノ酸の存在下でポジティブ選択を実施する段階を含む。前記真核細胞は各々i)アミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)のライブラリーのメンバーと、ii)直交tRNA(O−tRNA)と、iii)ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドと、iv)ネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドを含む。ポジティブ選択後に生存している細胞は非天然アミノ酸の存在下で直交tRNA(O−tRNA)をアミノアシル化する活性RSを含む。ポジティブ選択後に生存している細胞について非天然アミノ酸の不在下でネガティブ選択を実施し、O−tRNAを天然アミノ酸でアミノアシル化する活性RSを排除する。こうしてO−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化するO−RSが得られる。O−tRNAをコードする核酸と、O−RSをコードする核酸(又は成分O−tRNA及び/又はO−RS)を第2の種(例えば哺乳動物、昆虫、真菌、藻類、植物及び/又は同等物)の真核細胞に導入する。一般に、O−tRNAは第1の種の真核細胞の集団についてネガティブ選択を実施することにより得られ、前記真核細胞はtRNAのライブラリーのメンバーを含む。ネガティブ選択は真核細胞に内在するアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)によりアミノアシル化されるtRNAのライブラリーのメンバーを含む細胞を排除し、こうして第1の種と第2の種の真核細胞に直交なtRNAのプールが得られる。
セレクターコドン
本発明のセレクターコドンは蛋白質生合成機構の遺伝コドン枠を拡張する。例えば、セレクターコドンとしては例えばユニーク3塩基コドン、ナンセンスコドン(例えばアンバーコドン(UAG)又はオパールコドン(UGA)等の終止コドン)、非天然コドン、少なくとも4塩基のコドン、レアコドン等が挙げられる。例えば1個以上、2個以上、3個以上等の多数のセレクターコドンを所望遺伝子に導入することができる。1個の遺伝子が所与セレクターコドンの複数のコピーを含むこともできるし、複数の異なるセレクターコドン又はその任意組み合わせを含むこともできる。
1態様では、本方法は非天然アミノ酸を真核細胞にin vivo組込むために終止コドンであるセレクターコドンを使用する。例えば、終止コドン(例えばUAG)を認識し、O−RSにより所望非天然アミノ酸でアミノアシル化されるO−tRNAを作製する。このO−tRNAは天然に存在する宿主のアミノアシルtRNAシンテターゼにより認識されない。慣用部位特異的突然変異誘発を使用して終止コドン(例えばTAG)を該当ポリペプチドの該当部位に導入することができる。例えばSayers,J.R.ら(1988),5’,3’Exonuclease in phosphorothioate−based oligonucleotide−directed mutagenesis.Nucleic Acids Res,791−802参照。O−RS、O−tRNA及び該当ポリペプチドをコードする核酸をin vivoで併用すると、UAGコドンに応答して非天然アミノ酸が組込まれ、特定位置に非天然アミノ酸を含むポリペプチドが得られる。
非天然アミノ酸のin vivo組込みは真核宿主細胞にさほど影響を与えずに行うことができる。例えば、UAGコドンの抑圧効率はO−tRNA(例えばアンバーサプレッサーtRNA)と(終止コドンと結合してリボソームから成長中のペプチドの放出を開始する)真核放出因子(例えばeRF)の競合に依存するので、例えばO−tRNA(例えばサプレッサーtRNA)の発現レベルを増加することにより抑圧効率を調節することができる。
セレクターコドンは更に拡張コドン(例えば4、5、6塩基以上のコドン等の4塩基以上のコドン)も含む。4塩基コドンの例としては例えばAGGA、CUAG、UAGA、CCCU等が挙げられる。5塩基コドンの例としては例えばAGGAC、CCCCU、CCCUC、CUAGA、CUACU、UAGGC等が挙げられる。本発明の1特徴はフレームシフト抑圧に基づく拡張コドンの使用を含む。4塩基以上のコドンは例えば1又は複数の非天然アミノ酸を同一蛋白質に挿入することができる。例えば、アンチコドンループ(例えば少なくとも8〜10ntアンチコドンループ)をもつ突然変異O−tRNA(例えば特殊フレームシフトサプレッサーtRNA)の存在下では、4塩基以上のコドンは単一アミノ酸として読取られる。他の態様では、アンチコドンループは例えば少なくとも4塩基コドン、少なくとも5塩基コドン、又は少なくとも6塩基以上のコドンをデコードすることができる。4塩基コドンは256種が考えられるので、4塩基以上のコドンを使用すると同一細胞で多重非天然アミノ酸をコードすることができる。Andersonら,(2002)Exploring the Limits of Codon and Anticodon Size,Chemistry and Biology,9,237−244;Magliery,(2001)Expanding the Genetic Code:Selection of Efficient Suppressors of Four−base Codons and Identification of“Shifty”Four−base Codons with a Library Approach in Escherichia coli,J.Mol.Biol.307:755−769参照。
例えば、in vitro生合成法を使用して非天然アミノ酸を蛋白質に組込むために4塩基コドンが使用されている。例えばMaら,(1993)Biochemistry,32,7939;及びHohsakaら,(1999)J.Am.Chem.Soc.,121:34参照。2個の化学的にアシル化されたフレームシフトサプレッサーtRNAを用いて2−ナフチルアラニンとリジンのNBD誘導体をストレプトアビジンに同時にin vitro組込むためにCGGGとAGGUが使用されている。例えばHohsakaら,(1999)J.Am.Chem.Soc.,121:12194参照。in vivo試験では、MooreらはNCUAアンチコドンをもつtRNALeu誘導体がUAGNコドン(NはU、A、G又はCであり得る)を抑圧する能力を試験し、四重項UAGAはUCUAアンチコドンをもつtRNALeuにより13〜26%の効率でデコードすることができるが、0又は−1フレームでは殆どデコードできないことを見出した。Mooreら,(2000)J.Mol.Biol.,298:195参照。1態様において、本発明ではレアコドン又はナンセンスコドンに基づく拡張コドンを使用し、他の望ましくない部位でのミスセンス読み飛ばしとフレームシフト抑圧を減らすことができる。
所与系では、セレクターコドンは更に天然3塩基コドンの1種を含むことができ、内在系はこの天然塩基コドンを使用しない(又は殆ど使用しない)。例えば、天然3塩基コドンを認識するtRNAをもたない系、及び/又は3塩基コドンがレアコドンである系がこれに該当する。
セレクターコドンは場合により非天然塩基対を含む。これらの非天然塩基対は更に既存遺伝アルファベットを拡張する。塩基対が1個増えると、三重項コドン数は64から125に増す。第3の塩基対の性質としては安定的且つ選択的な塩基対合、高い忠実度でポリメラーゼによるDNAへの効率的な酵素組込み、及び未完成非天然塩基対の合成後の効率的な持続的プライマー伸長が挙げられる。方法と組成物に適応可能な非天然塩基対については、例えばHiraoら,(2002)An unnatural base pair for incorporating amino acid analogues into protein,Nature Biotechnology,20:177−182参照。他の関連文献は以下に挙げる。
in vivo使用では、非天然ヌクレオシドは膜透過性であり、リン酸化され、対応する三リン酸塩を形成する。更に、増加した遺伝情報は安定しており、細胞内酵素により破壊されない。Bennerらによる従来の報告はカノニカルワトソンクリック対とは異なる水素結合パターンを利用しており、そのうちで最も注目される例はイソC:イソG対である。例えばSwitzerら,(1989)J.Am.Chem.Soc.,111:8322;及びPiccirilliら,(1990)Nature,343:33;Kool,(2000)Curr.Opin.Chem.Biol.,4:602参照。これらの塩基は一般に天然塩基とある程度まで誤対合し、酵素複製することができない。Koolらは水素結合を塩基間の疎水性パッキング相互作用に置き換えることにより塩基対の形成を誘導できることを立証した。Kool,(2000)Curr.Opin.Chem.Biol.,4:602;及びGuckian and Kool,(1998)Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,36,2825参照。上記全要件を満足する非天然塩基対を開発する目的でSchultz,Romerbergらは一連の非天然疎水性塩基を体系的に合成し、試験した。PICS:PICS自己対は天然塩基対よりも安定であり、大腸菌DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメント(KF)によりDNAに効率的に組込むことができる。例えばMcMinnら,(1999)J.Am.Chem.Soc.,121:11586;及びOgawaら,(2000)J.Am.Chem.Soc.,122:3274参照。生物機能に十分な効率と選択性でKFにより3MN:3MN自己対を合成することができる。例えばOgawaら,(2000)J.Am.Chem.Soc.,122:8803参照。しかし、どちらの塩基も後期複製用チェーンターミネーターとして作用するものである。PICS自己対を複製するために使用できる突然変異体DNAポリメラーゼが最近開発された。更に、7AI自己対も複製することができる。例えばTaeら,(2001)J.Am.Chem.Soc.,123:7439参照。Cu(II)と結合すると安定な対を形成する新規メタロ塩基対Dipic:Pyも開発された。Meggersら,(2000)J.Am.Chem.Soc.,122:10714参照。拡張コドンと非天然コドンは天然コドンに本質的に直交性であるので、本発明の方法は直交tRNAを作製するためにこの性質を利用することができる。
翻訳バイパス系を使用して非天然アミノ酸を所望ポリペプチドに組込むこともできる。1翻訳バイパス系では、大きい配列が遺伝子に挿入されるが、蛋白質に翻訳されない。この配列はリボソームに配列を飛び越させて挿入の下流の翻訳を再開するための合図として機能する構造を含む。
非天然アミノ酸
本明細書で使用する非天然アミノ酸とはセレノシステイン及び/又はピロリジンと20種の遺伝的にコードされる以下のαアミノ酸、即ちアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトフアン、チロシン、バリン以外の任意アミノ酸、修飾アミノ酸又はアミノ酸類似体を意味する。αアミノ酸の一般構造は式I:
により表される。
非天然アミノ酸は一般に式Iをもつ任意構造であり、式中、R基は20種の天然アミノ酸で使用されている以外の任意置換基である。20種の天然アミノ酸の構造については、例えばL.Stryer著Biochemistry,第3版,1988,Freeman and Company,New Yorkを参照されたい。なお、本発明の非天然アミノ酸は上記20種のαアミノ酸以外の天然化合物でもよい。
本発明の非天然アミノ酸は一般に側鎖が天然アミノ酸と異なるので、天然蛋白質と同様に他のアミノ酸(例えば天然又は非天然アミノ酸)とアミド結合を形成する。一方、非天然アミノ酸は天然アミノ酸と異なる側鎖基をもつ。例えば、式IにおけるRは場合によりアルキル、アリール、アシル、ケト、アジド、ヒドロキシル、ヒドラジン、シアノ、ハロ、ヒドラジド、アルケニル、アルキニル、エーテル、チオール、セレノ、スルホニル、硼酸、ボロン酸、ホスホ、ホスホノ、ホスフィン、複素環、エノン、イミン、アルデヒド、エステル、チオ酸、ヒドロキシルアミン、アミン基等又はその任意組合せを含む。他の該当非天然アミノ酸としては限定されないが、光架橋基をもつアミノ酸、スピン標識アミノ酸、蛍光アミノ酸、金属結合性アミノ酸、金属含有アミノ酸、放射性アミノ酸、新規官能基をもつアミノ酸、他の分子と共有又は非共有的に相互作用するアミノ酸、フォトケージド及び/又は光異性化可能なアミノ酸、ビオチン又はビオチン類似体を含有するアミノ酸、ケト含有アミノ酸、ポリエチレングリコール又はポリエーテルを含むアミノ酸、重原子置換アミノ酸、化学分解性又は光分解性アミノ酸、天然アミノ酸に比較して延長側鎖(例えばポリエーテル又は例えば約5もしくは約10炭素長を上回る長鎖炭化水素等)をもつアミノ酸、炭素結合糖含有アミノ酸、レドックス活性アミノ酸、アミノチオ酸含有アミノ酸、及び1個以上の毒性部分を含むアミノ酸が挙げられる。所定態様では、非天然アミノ酸は例えば蛋白質を固体支持体に結合するために使用される光架橋基をもつ。1態様では、非天然アミノ酸はアミノ酸側鎖に結合した糖部分(例えばグリコシル化アミノ酸)及び/又は他の糖鎖修飾をもつ。
新規側鎖を含む非天然アミノ酸に加え、非天然アミノ酸は場合により例えば式II及びIII:
の構造により表されるような修飾主鎖構造を含み、式中、Zは一般にOH、NH2、SH、NH−R’又はS−R’を含み、XとYは同一でも異なっていてもよく、一般にS又はOであり、RとR’は場合により同一又は異なり、一般に式Iをもつ非天然アミノ酸について上記に記載したR基と同一の基及び水素から選択される。例えば、本発明の非天然アミノ酸は場合により式II及びIIIにより表されるようにアミノ又はカルボキシル基に置換を含む。この種の非天然アミノ酸としては限定されないが、例えば20種の標準天然アミノ酸に対応する側鎖又は非天然側鎖をもつα−ヒドロキシ酸、α−チオ酸、α−アミノチオカルボキシレートが挙げられる。更に、α−炭素の置換は場合によりL、D又はα,α−ジ置換アミノ酸(例えばD−グルタミン酸、D−アラニン、D−メチル−O−チロシン、アミノ酪酸等)を含む。他の代替構造としては環状アミノ酸(例えばプロリン類似体や、3、4、6、7、8及び9員環プロリン類似体)、β及びγアミノ酸(例えば置換β−アラニン及びγ−アミノ酪酸)が挙げられる。
例えば、多数の非天然アミノ酸は天然アミノ酸(例えばチロシン、グルタミン、フェニルアラニン等)をベースとする。チロシン類似体としてはパラ置換チロシン、オルト置換チロシン、及びメタ置換チロシンが挙げられ、置換チロシンは例えばケト基(例えばアセチル基)、ベンゾイル基、アミノ基、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、チオール基、カルボキシ基、イソプロピル基、メチル基、C6−C20直鎖又は分枝鎖炭化水素、飽和又は不飽和炭化水素、O−メチル基、ポリエーテル基、ニトロ基、アリキニル基等を含む。更に、多置換アリール環も考えられる。本発明のグルタミン類似体としては限定されないが、α−ヒドロキシ誘導体、γ置換誘導体、環状誘導体及びアミド置換グルタミン誘導体が挙げられる。フェニルアラニン類似体の例としては限定されないが、パラ置換フェニルアラニン、オルト置換フェニルアラニン、及びメタ置換フェニルアラニンが挙げられ、置換基は例えばヒドロキシ基、メトキシ基、メチル基、アリル基、アルデヒド基、アジド、ヨード、ブロモ、ケト基(例えばアセチル基)、ベンゾイル、アルキニル基等を含む。非天然アミノ酸の特定例としては限定されないが、p−アセチル−L−フェニルアラニン、p−プロパルギルオキシフェニルアラニン、O−メチル−L−チロシン、L−3−(2−ナフチル)アラニン、3−メチルフェニルアラニン、O−4−アリル−L−チロシン、4−プロピル−L−チロシン、トリ−O−アセチル−GlcNAcβ−セリン、L−Dopa、フッ素化フェニルアラニン、イソプロピル−L−フェニルアラニン、p−アジド−L−フェニルアラニン、p−アシル−L−フェニルアラニン、p−ベンゾイル−L−フェニルアラニン、L−ホスホセリン、ホスホノセリン、ホスホノチロシン、p−ヨードフェニルアラニン、p−ブロモフェニルアラニン、p−アミノ−L−フェニルアラニン、イソプロピル−L−フェニルアラニン等が挙げられる。非天然アミノ酸の構造の例を図7B及び図11に示す。各種非天然アミノ酸のその他の構造は例えばWO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(In vivo incorporation of unnatural amino acids)」の図16、17、18、19、26及び29に記載されている。その他のメチオニン類似体については、Kiickら,(2002)Incorporation of azides into recombinant proteins for chemoselective modification by the Staudinger ligtation,PNAS 99:19−24の図1構造2−5も参照。
1態様では、非天然アミノ酸(例えばp−(プロパルギルオキシ)−フェニルアラニン)を含む組成物を提供する。p−(プロパルギルオキシ)−フェニルアラニンと、例えば蛋白質及び/又は細胞を含む各種組成物も提供する。1側面では、p−(プロパルギルオキシ)−フェニルアラニン非天然アミノ酸を含む組成物は更に直交tRNAを含む。非天然アミノ酸は直交tRNAと(例えば共有的に)結合することができ、例えばアミノアシル結合を介して直交tRNAと共有結合することもできるし、直交tRNAの末端リボース糖の3’OH又は2’OHと共有結合することもできる。
蛋白質に組込むことができる非天然アミノ酸による化学部分は蛋白質の種々の利点と操作を提供する。例えば、ケト官能基のユニークな反応性により、多数のヒドラジン又はヒドロキシルアミンを含有する試薬の任意のものを使用して蛋白質を選択的にin vitro及びin vivo修飾することが可能になる。重原子非天然アミノ酸は例えばx線構造データのフェージングに有用であると思われる。非天然アミノ酸を使用して重原子を部位特異的に導入すると、重原子の位置の選択に選択性と柔軟性も得られる。光反応性非天然アミノ酸(例えばベンゾフェノン及びアリールアジド(例えばフェニルアジド)側鎖をもつアミノ酸)は例えば蛋白質のin vivo及びin vitro光架橋を可能にする。光反応性非天然アミノ酸の例としては限定されないが、例えばp−アジド−フェニルアラニンとp−ベンゾイル−フェニルアラニンが挙げられる。光反応性非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質はその後、光反応基を付与する時間(及び/又は空間)制御の励起により随意に架橋することができる。1例では、例えば核磁気共鳴及び振動スペクトロスコピーを使用することにより局所構造及び力学のプローブとして同位体標識した例えばメチル基で非天然アミノ酸のメチル基を置換することができる。アルキニル又はアジド官能基は例えば[3+2]シクロ付加反応により蛋白質を分子で選択的に修飾することができる。
非天然アミノ酸の化学的合成
上記非天然アミノ酸の多くは例えばSigma(米国)やAldrich(Milwaukee,WI,米国)から市販されている。市販されていないものは場合により本明細書に記載する方法や各種刊行物に記載されている方法や当業者に公知の標準方法を使用して合成される。有機合成技術については例えばFessendonとFessendon著Organic Chemistry(1982,第2版,Willard Grant Press,Boston Mass.);March著Advanced Organic Chemistry(第3版,1985,Wiley and Sons,New York);及びCareyとSundberg著Advanced Organic Chemistry(第3版,Parts A and B,1990,Plenum Press,New York)を参照されたい。非天然アミノ酸の合成について記載しているその他の刊行物としては例えばWO2002/085923,発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(In vivo incorporation of unnatural amino acids)」;Matsoukasら,(1995)J.Med.Chem.,38,4660−4669;King,F.E.& Kidd,D.A.A.(1949)A New Synthesis of Glutamine and of γ−Dipeptides of Glutamic Acid from Phthylated Intermediates.J.Chem.Soc.,3315−3319;Friedman,O.M.& Chatterrji,R.(1959)Synthesis of Derivatives of Glutamine as Model Substrates for Anti−Tumor Agents.J.Am.Chem.Soc.81,3750−3752;Craig,J.C.ら(1988)Absolute Configuration of the Enantiomers of 7−Chloro−4[[4−(diethylamino)−1−methylbutyl]amino]quinoline(Chloroquine).J.Org.Chem.53,1167−1170;Azoulay,M.,Vilmont,M.& Frappier,F.(1991)Glutamine analogues as Potential Antimalarials,.Eur.J.Med.Chem.26,201−5;Koskinen,A.M.P.& Rapoport,H.(1989)Synthesis of 4−Substituted Prolines as Conformationally Constrained Amino Acid Analogues.J.Org.Chem.54,1859−1866;Christie,B.D.& Rapoport,H.(1985)Synthesis of Optically Pure Pipecolates from L−Asparagine.Application to the Total Synthesis of(+)−Apovincamine through Amino Acid Decarbonylation and Iminium Ion Cyclization.J.Org.Chem.1989:1859−1866;Bartonら,(1987)Synthesis of Novel α−Amino−Acids and Derivatives Using Radical Chemistry:Synthesis of L−and D−α−Amino−Adipic Acids,L−α−aminopimelic Acid and Appropriate Unsaturated Derivatives.Tetrahedron Lett.43:4297−4308;及びSubasingheら,(1992)Quisqualic acid analogues:synthesis of beta−heterocyclic 2−aminopropanoic acid derivatives and their activity at a novel quisqualate−sensitized site.J.Med.Chem.35:4602−7が挙げられる。2002年12月22日付け特許出願,発明の名称「蛋白質アレー(Protein Arrays)」(代理人整理番号P1001US00)も参照されたい。
本発明の1側面では、p−(プロパルギルオキシ)フェニルアラニン化合物の合成方法が提供される。1方法は、例えば(a)N−tert−ブトキシカルボニル−チロシンとK2CO3を無水DMFに懸濁する段階と;(b)臭化プロパルギルを(a)の反応混合物に加え、ヒドロキシル基とカルボキシル基をアルキル化することにより、構造:
をもつ保護中間体化合物を得る段階と;(c)保護中間体化合物をMeOH中で無水HClと混合し、アミン部分を脱保護することにより、p−(プロパルギルオキシ)フェニルアラニン化合物を合成する段階を含む。1態様では、前記方法は(d)p−(プロパルギルオキシ)フェニルアラニンHClをNaOHとMeOHの水溶液に溶かし、室温で撹拌する段階と;(e)pHをpH7に調整する段階と;(f)p−(プロパルギルオキシ)フェニルアラニン化合物を沈殿させる段階を更に含む。例えば本明細書の実施例4のプロパルギルオキシフェニルアラニンの合成の欄参照。
非天然アミノ酸の細胞取込み
真核細胞による非天然アミノ酸取り込みは例えば蛋白質に組込むように非天然アミノ酸を設計及び選択する場合に一般に考慮される問題の1つである。例えば、α−アミノ酸の電荷密度が高いと、これらの化合物は細胞に浸透しにくいと思われる。天然アミノ酸は一連の蛋白質輸送システムにより真核細胞に取り込まれる。非天然アミノ酸が細胞に取り込まれる場合にはどの非天然アミノ酸が取り込まれるかを判断する迅速なスクリーニングを実施することができる。例えば2002年12月22日付け特許出願,発明の名称「蛋白質アレー(Protein Arrays)」(代理人整理番号P1001US00);及びLiu,D.R.& Schultz,P.G.(1999)Progress toward the evolution of an organism with an expanded genetic code.PNAS United States 96−4780−4785における毒性アッセイ参照。取込みは種々の方法で容易に分析されるが、細胞取込み経路に利用可能な非天然アミノ酸を設計する代替方法は、アミノ酸をin vivo生産する生合成経路を提供する方法である。
非天然アミノ酸の生合成
細胞にはアミノ酸と他の化合物を生産するために多数の生合成経路が元々存在している。特定非天然アミノ酸の生合成法は自然界(例えば真核細胞中)には存在しないと思われるが、本発明はこのような方法を提供する。例えば、非天然アミノ酸の生合成経路は場合により新規酵素を付加するか又は既存宿主細胞経路を改変することにより宿主細胞で作製される。付加新規酵素は場合により天然酵素又は人工的に進化させた酵素である。例えば、(WO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(In vivo incorporation of unnatural amino acids)」の実施例に記載されているような)p−アミノフェニルアラニンの生合成は他の生物に由来する公知酵素の組合せの付加に依存している。これらの酵素の遺伝子はこの遺伝子を含むプラスミドで細胞を形質転換することにより真核細胞に導入することができる。遺伝子は細胞で発現されると、所望化合物を合成するための酵素経路を提供する。場合により付加される酵素種の例は下記実施例に記載する。その他の酵素配列は例えばGenbankから入手できる。人工的に進化させた酵素も場合により同様に細胞に付加する。このように、非天然アミノ酸を生産するように細胞機構と細胞資源を操作する。
生合成経路で使用する新規酵素の生産方法又は既存経路を進化させる方法は種々のものが入手可能である。例えば、場合により例えばMaxygen,Inc.(世界ウェブサイトwww.maxygen.com参照)により開発されたような再帰的組換えを使用して新規酵素及び経路を作製する。例えばStemmer(1994),Rapid evolution of a protein in vitro by DNA shuffling,Nature 370(4):389−391;及びStemmer,(1994),DNA shuffling by random fragmentation and reassembly:In vitro recombination for molecular evolution,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,91:10747−10751参照。同様に、場合によりGenencor(世界ウェブサイトgenencor.com参照)により開発されたDesignPath(登録商標)を代謝経路作製に使用し、例えば細胞でO−メチル−L−チロシンを生産するように経路を作製する。この技術は例えば機能ゲノミクスと分子進化及び設計により同定した新規遺伝子の組合せを使用して宿主生物で既存経路を再構成する。Diversa Corporation(世界ウェブサイトdiversa.com参照)も例えば新規経路を作製するために遺伝子ライブラリーと遺伝子経路を迅速にスクリーニングするための技術を提供している。
一般に、本発明の人工生合成経路で生産される非天然アミノ酸は効率的蛋白質生合成に十分な濃度(例えば天然細胞量)で生産されるが、他のアミノ酸の濃度を変化させたり細胞資源を枯渇させる程ではない。このようにin vivo生産される典型濃度は約10mM〜約0.05mMである。特定経路に所望される酵素を生産するために使用される遺伝子を含むプラスミドで細菌を形質転換し、非天然アミノ酸が生産されたら、場合によりin vivo選択を使用してリボソーム蛋白質合成と細胞増殖のために非天然アミノ酸の生産を更に最適化させる。
非天然アミノ酸を組込んだポリペプチド
少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ該当蛋白質又はポリペプチドが本発明の特徴である。本発明は本発明の組成物と方法を使用して生産された少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだポリペプチド又は蛋白質も含む。賦形剤(例えば医薬的に許容可能な賦形剤)も蛋白質に加えることができる。
少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ該当蛋白質又はポリペプチドを真核細胞で生産することにより、蛋白質又はポリペプチドは一般に真核翻訳後修飾を含む。所定態様では、蛋白質は少なくとも1種の非天然アミノ酸と、真核細胞によりin vivoで行われる少なくとも1種の翻訳後修飾を含み、前記翻訳後修飾は原核細胞により行われない。例えば、翻訳後修飾としては例えばアセチル化、アシル化、脂質修飾、パルミトイル化、パルミチン酸付加、リン酸化、糖脂質結合修飾、グリコシル化等が挙げられる。1側面では、翻訳後修飾はGlcNAc−アスパラギン結合によるオリゴ糖(例えば(GlcNAc−Man)
2−Man−GlcNAc−GlcNAc)とアスパラギンの結合を含む。真核蛋白質のN結合オリゴ糖の数例を示す表7も参照(記載以外の残基も存在することができる)。別の側面では、翻訳後修飾はGalNAc−セリンもしくはGalNAc−スレオニン結合、又はGlcNAc−セリンもしくはGlcNAc−スレオニン結合によるオリゴ糖(例えばGal−GalNAc,Gal−GlcNAc等)とセリン又はスレオニンの結合を含む。
更に別の側面では、翻訳後修飾は前駆体(例えばカルシトニン前駆体、カルシトニン遺伝子関連ペプチド前駆体、プレプロ副甲状腺ホルモン、プレプロインスリン、プロインスリン、プレプロ−オピオメラノコルチン、プロ−オピオメラノコルチン等)の蛋白分解プロセシング、マルチサブユニット蛋白質又は巨大分子アセンブリへの会合、細胞の別の部位への輸送(例えば小胞体、ゴルジ装置、核、リソソーム、ペルオキシソーム、ミトコンドリア、クロロプラスト、液胞等のオルガネラへの輸送又は分泌経路を介する輸送)が挙げられる。所定態様では、蛋白質は分泌又は局在配列、エピトープタグ、FLAGタグ、ポリヒスチジンタグ、GST融合配列等を含む。
非天然アミノ酸の利点の1つは付加分子を付加するために使用することができる付加化学部分を提供する点である。これらの修飾は真核細胞でin vivo実施することもできるし、in vitro実施することもできる。従って、所定態様では、翻訳後修飾は非天然アミノ酸を介して行われる。例えば、翻訳後修飾は求核−求電子反応を介して実施することができる。蛋白質の選択的修飾に現在使用されている大半の反応は求核反応パートナーと求電子反応パートナーの間の共有結合形成、例えばα−ハロケトンとヒスチジン又はシステイン側鎖の反応を利用している。これらの場合の選択性は蛋白質中の求核残基の数とアクセシビリティにより決定される。本発明の蛋白質では、非天然ケトアミノ酸とヒドラジド又はアミノオキシ化合物のin vitro及びin vivo反応等の他のより選択的な反応を使用することができる。例えばCornishら,(1996)Am.Chem.Soc.,118:8150−8151;Mahalら,(1997)Science,276:1125−1128;Wangら,(2001)Science 292:498−500;Chinら,(2002)Am.Chem.Soc.124:9026−9027;Chinら,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.,99:11020−11024;Wangら,(2003)Proc.Natl.Acad.Sci.,100:56−61;Zhangら,(2003)Biochemistry,42:6735−6746;及びChinら,(2003)Science(印刷中)参照。このため、フルオロフォア、架橋剤、糖誘導体及び細胞傷害性分子等の多数の試薬でほぼ任意の蛋白質を選択的に標識することができる。特許出願USSN 10/686,944、発明の名称「糖蛋白質合成(Glycoprotein synthesis)」(出願日2003年10月15日)も参照。例えばアジドアミノ酸を介する翻訳後修飾も(例えばトリアリールホスフィン試薬を用いて)シュタウジンガーライゲーションにより実施することができる。例えばKiickら,(2002)Incorporation of azides into recombinant proteins for chemoselective modification by the Staudinger ligtation,PNAS 99:19−24参照。
本発明は蛋白質を選択的に修飾するための非常に効率的な別法を提供するものであり、例えばアジド又はアルキニル部分を含む非天然アミノ酸(例えば図11の2及び1参照)をセレクターコドンに応答して蛋白質に遺伝的に組込む。これらのアミノ酸側鎖をその後、例えばHuisgen[3+2]シクロ付加反応(例えばPadwa,A.in Comprehensive Organic Synthesis,Vol.4,(1991)Ed.Trost,B.M.,Pergamon,Oxford,p.1069−1109;及びHuisgen,R.in 1,3−Dipolar Cycloaddition Chemistry,(1984)Ed.Padwa,A.,Wiley,New York,p.1−176参照)により例えば夫々アルキニル又はアジド誘導体で修飾することができる。例えば図16参照。この方法は求核置換ではなくシクロ付加を利用するので、蛋白質を非常に高い選択性で修飾することができる。この反応は触媒量のCu(I)塩を反応混合物に加えることにより室温で水性条件下に優れた部位選択性(1,4>1,5)で実施することができる。例えばTornoeら,(2002)Org.Chem.67:3057−3064;及びRostovtsevら,(2002)Angew.Chem.Int.Ed.41:2596−2599参照。使用可能な別法はビスヒ素化合物上でテトラシステインモチーフとのリガンド交換である。例えばGriffinら,(1998)Science 281:269−272参照。
[3+2]シクロ付加により本発明の蛋白質に付加することができる分子としてはアジド又はアルキニル誘導体をもつほぼ任意分子が挙げられる。例えば本明細書の実施例3及び5参照。このような分子としては限定されないが、色素、フルオロフォア、架橋剤、糖誘導体、ポリマー(例えばポリエチレングリコール誘導体)、光架橋剤、細胞傷害性化合物、アフィニティーラベル、ビオチン誘導体、樹脂、第2(又は第3以下)の蛋白質又はポリペプチド、ポリヌクレオチド(例えばDNA,RNA等)、金属キレート剤、補因子、脂肪酸、炭水化物等が挙げられる。例えば本明細書の図13Aと実施例3及び5参照。これらの分子は夫々アルキニル基(例えばp−プロパルギルオキシフェニルアラニン)又はアジド基(例えばp−アジド−フェニルアラニン)をもつ非天然アミノ酸に付加することができる。例えば図13B及び図17A参照。
別の側面では、本発明はこのような分子を含む組成物と、これらの分子の作製方法を提供し、分子は例えば(化学構造4及び化学構造6に示すような)アジド色素、(化学構造7に示すような)アルキニルポリエチレングリコールであり、前記構造中、nは例えば50〜10,000、75〜5,000、100〜2,000、100〜1,000等の整数である。本発明の1態様では、アルキニルポリエチレングリコールは例えば約5,000〜約100,000Da、約20,000〜約50,000Da、約20,000〜約10,000Da(例えば20,000Da)等の分子量をもつ。
例えば蛋白質及び細胞と共にこれらの化合物を含む種々の組成物も提供する。本発明の1側面では、(例えば化学構造4又は化学構造6の)アジド色素を含む蛋白質は更に少なくとも1種の非天然アミノ酸(例えばアルキニルアミノ酸)を含み、アジド色素は[3+2]シクロ付加により非天然アミノ酸と結合している。
1態様では、蛋白質は化学構造7のアルキニルポリエチレングリコールを含む。別の態様では、組成物は更に少なくとも1種の非天然アミノ酸(例えばアジドアミノ酸)を含み、アルキニルポリエチレングリコールは[3+2]シクロ付加により非天然アミノ酸と結合している。
アジド色素の合成方法も提供する。例えば、このような方法の1例は(a)ハロゲン化スルホニル部分を含む色素化合物を提供する段階と;(b)3−アジドプロピルアミンとトリエチルアミンの存在下に色素化合物を室温まで昇温させ、3−アジドプロピルアミンのアミン部分を色素化合物のハロゲン化物位置にカップリングすることにより、アジド色素を合成する段階を含む。1態様では、色素化合物はダンシルクロリドを含み、アジド色素は化学構造4の組成物を含む。1側面では、前記方法は反応混合物からアジド色素を精製する段階を更に含む。例えば本明細書の実施例5参照。
別の例では、アジド色素の合成方法は(a)アミン含有色素化合物を提供する段階と;(b)アミン含有色素化合物を適切な溶媒中でカルボジイミド及び4−(3−アジドプロピルカルバモイル)−酪酸と混合し、酸のカルボニル基を色素化合物のアミン部分とカップリングすることにより、アジド色素を合成する段階を含む。1態様では、カルボジイミンは1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)を含む。1側面では、アミン含有色素はフルオレセインアミンを含み、適切な溶媒はピリジンを含む。例えば、アミン含有色素は場合によりフルオレセインアミンを含み、アジド色素は場合により化学構造6の組成物を含む。1態様では、前記方法は(c)アジド色素を沈殿させる段階と;(d)沈殿をHClで洗浄する段階と;(e)洗浄した沈殿をEtOAcに溶かす段階と;(f)アジド色素をヘキサン中で沈殿させる段階を更に含む。例えば本明細書の実施例5参照。
プロパルギルアミドポリエチレングリコールの合成方法も提供する。例えば、本方法はプロパルギルアミンを有機溶媒(例えばCH2Cl2)中で室温にてポリエチレングリコール(PEG)−ヒドロキシスクシンイミドエステルと反応させ、化学構造7のプロパルギルアミドポリエチレングリコールを得る段階を含む。1態様では、前記方法は酢酸エチルを使用してプロパルギルアミドポリエチレングリコールを沈殿させる段階を更に含む。1側面では、前記方法はプロパルギルアミドポリエチレングリコールをメタノール中で再結晶させる段階と;生成物を減圧乾燥する段階を更に含む。例えば本明細書の実施例5参照。
本発明の真核細胞は非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を大量の有用な量で合成することができる。1側面では、組成物は場合により、非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を例えば少なくとも10μg、少なくとも50μg、少なくとも75μg、少なくとも100μg、少なくとも200μg、少なくとも250μg、少なくとも500μg、少なくとも1mg、少なくとも10mg以上、又はin vivo蛋白質生産方法で達成可能な量で含有する(組換え蛋白質生産及び精製に関する詳細は本明細書に記載する)。別の側面では、蛋白質は場合により例えば細胞溶解液、緩衝液、医薬緩衝液、又は他の懸濁液中(例えば約1nl〜約100Lの任意の容量中)に例えば少なくとも10μg蛋白質/l、少なくとも50μg蛋白質/l、少なくとも75μg蛋白質/l、少なくとも100μg蛋白質/l、少なくとも200μg蛋白質/l、少なくとも250μg蛋白質/l、少なくとも500μg蛋白質/l、少なくとも1mg蛋白質/l、又は少なくとも10mg蛋白質/l以上の濃度で組成物中に存在する。少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を真核細胞で大量(例えば他の方法、例えばin vitro翻訳で一般に可能な量よりも多量)に生産することも本発明の特徴である。
非天然アミノ酸の組込みは例えば寸法、酸性度、求核性、水素結合、疎水性、プロテアーゼ標的部位接近性、(例えば蛋白質アレーのための)部分へのターゲット等を変化させるように例えば蛋白質構造及び/又は機能の変化を調整するために実施することができる。非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質は触媒性又は物性を強化するか又は全く新規にすることができる。例えば、非天然アミノ酸を蛋白質に組込むことにより、場合により毒性、生体分布、構造的性質、分光学的性質、化学及び/又は光化学的性質、触媒能、半減期(例えば血清半減期)、他の分子との(例えば共有又は非共有)反応性等の性質を改変する。少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を含有する組成物は例えば新規治療、診断、触媒酵素、産業用酵素、結合蛋白質(例えば抗体)、及び例えば蛋白質構造と機能の研究に有用である。例えばDougherty,(2000) Unnatural Amino Acids as Probes of Protein Structure and Function,Current Opinion in Chemical Biology,4:645−652参照。
本発明の1側面では、組成物は少なくとも1個、例えば少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、又は少なくとも10個以上の非天然アミノ酸を組込んだ少なくとも1種の蛋白質を含有する。非天然アミノ酸は同一でも異なっていてもよく、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10種以上の異なる非天然アミノ酸を含む1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個以上の異なる部位が蛋白質に存在することができる。別の側面では、組成物は蛋白質に存在する特定アミノ酸の全部よりは少ないが少なくとも1個が非天然アミノ酸で置換された蛋白質を含有する。2個以上の非天然アミノ酸を組込んだ所与蛋白質では、非天然アミノ酸は同一でも異なっていてもよい(例えば蛋白質は2個以上の異なる型の非天然アミノ酸を組込んでもよいし、2個の同一非天然アミノ酸を組込んでもよい)。3個以上の非天然アミノ酸を組込んだ所与蛋白質では、非天然アミノ酸は同一でも異なっていてもよいし、同一種の複数の非天然アミノ酸と少なくとも1個の別の非天然アミノ酸の組み合わせでもよい。
本明細書に記載する組成物と方法を使用して非天然アミノ酸(及び例えば1個以上のセレクターコドンを含む対応する任意コーディング核酸)を組込んだほぼ任意蛋白質(又はその部分)を生産することができる。数十万種の公知蛋白質を同定しようとするのではなく、例えば該当翻訳系に1個以上の適当なセレクターコドンを含むように入手可能な任意突然変異法を調整することにより、1種以上の非天然アミノ酸を組込むように公知蛋白質の任意のものを改変することができる。公知蛋白質の一般的な配列寄託機関としてはGenBank、EMBL、DDBJ及びNCBIが挙げられる。他の寄託機関もインターネットを検索することにより容易に確認できる。
一般に、蛋白質は入手可能な任意蛋白質(例えば治療用蛋白質、診断用蛋白質、産業用酵素、又はその部分等)と例えば少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%以上一致しており、1種以上の非天然アミノ酸を含む。1種以上の非天然アミノ酸を組込むように改変することができる治療用、診断用、及び他の蛋白質の例としては限定されないが、例えばα1アンチトリプシン、アンジオスタチン、抗血友病因子、抗体(抗体の詳細については後述する)、アポリポ蛋白質、アポ蛋白質、心房性ナトリウム利尿因子、心房性ナトリウム利尿ポリペプチド、心房性ペプチド、C−X−Cケモカイン(例えばT39765、NAP−2、ENA−78、Gro−a、Gro−b、Gro−c、IP−10、GCP−2、NAP−4、SDF−1、PF−4、MIG)、カルシトニン、CCケモカイン(例えば単球化学誘引蛋白質−1、単球化学誘引蛋白質−2、単球化学誘引蛋白質−3、単球炎症性蛋白質−1α、単球炎症性蛋白質−1β、RANTES、I309、R83915、R91733、HCC1、T58847、D31065、T64262)、CD40リガンド、Cキットリガンド、コラーゲン、コロニー刺激因子(CSF)、補体因子5a、補体阻害剤、補体受容体1、サイトカイン(例えば上皮好中球活性化ペプチド−78、GROα/MGSA、GROβ、GROγ、MIP−1α、MIP−1δ、MCP−1)、表皮増殖因子(EGF)、エリスロポエチン(「EPO」、1種以上の非天然アミノ酸の組込みによる修飾の好適ターゲット)、表皮剥離毒素A及びB、IX因子、VII因子、VIII因子、X因子、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、G−CSF、GM−CSF、グルコセレブロシダーゼ、ゴナドトロピン、増殖因子、ヘッジホッグ蛋白質(例えばソニック、インディアン、デザート)、ヘモグロビン、肝細胞増殖因子(HGF)、ヒルジン、ヒト血清アルブミン、インスリン、インスリン様増殖因子(IGF)、インターフェロン(例えばIFN−α、IFN−β、IFN−γ)、インターロイキン(例えばIL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12等)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラクトフェリン、白血病阻害因子、ルシフェラーゼ、ニュールチュリン、好中球阻害因子(NIF)、オンコスタチンM、骨形成蛋白質、副甲状腺ホルモン、PD−ECSF、PDGF、ペプチドホルモン(例えばヒト成長ホルモン)、プレイオトロピン、プロテインA、プロテインG、発熱外毒素A、B及びC、リラキシン、レニン、SCF、可溶性補体受容体I、可溶性I−CAM1、可溶性インターロイキン受容体(IL−1、2、3、4、5、6、7、9、10、11、12、13、14、15)、可溶性TNF受容体、ソマトメジン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ストレプトキナーゼ、スーパー抗原即ちブドウ球菌エンテロトキシン(SEA、SEB、SEC1、SEC2、SEC3、SED、SEE)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、毒素性ショック症候群毒素(TSST−1)、チモシンα1、組織プラスミノーゲンアクチベーター、腫瘍壊死因子β(TNFβ)、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、血管内皮増殖因子(VEGEF)、ウロキナーゼ等が挙げられる。
本明細書に記載する非天然アミノ酸のin vivo組込み用組成物及び方法を使用して生産することができる蛋白質の1類としては転写モジュレーター又はその部分が挙げられる。転写モジュレーターの例としては細胞増殖、分化、制御等を調節する遺伝子及び転写モジュレーター蛋白質が挙げられる。転写モジュレーターは原核生物、ウイルス及び真核生物(例えば真菌、植物、酵母、昆虫、及び哺乳動物を含む動物)に存在し、広範な治療ターゲットを提供する。自明の通り、発現及び転写アクチベーターは例えば受容体との結合、シグナル伝達カスケードの刺激、転写因子の発現調節、プロモーターやエンハンサーとの結合、プロモーターやエンハンサーと結合する蛋白質との結合、DNA巻き戻し、プレmRNAスプライシング、RNAポリアデニル化及びRNA分解等の多数のメカニズムにより転写を調節する。例えば、GAL4蛋白質又はその部分を真核細胞に含む組成物も本発明の特徴である。一般に、GAL4蛋白質又はその部分は少なくとも1種の非天然アミノ酸を含む。本明細書の「直交アミノアシルtRNAシンテターゼ」のセクションも参照されたい。
本発明の蛋白質(例えば1種以上の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質)の1類としては発現アクチベーター(例えばサイトカイン、炎症性分子、増殖因子、その受容体、及び腫瘍遺伝子産物、例えばインターロイキン(例えばIL−1、IL−2、IL−8等)、インターフェロン、FGF、IGF−I、IGF−II、FGF、PDGF、TNF、TGF−α、TGF−β、EGF、KGF、SCF/c−キット、CD40L/CD40、VLA−4/VCAM−1、ICAM−1/LFA−1及びヒアルリン/CD44);シグナル伝達分子及び対応する腫瘍遺伝子産物(例えばMos、Ras、Raf及びMet);並びに転写アクチベーター及びサプレッサー(例えばp53、Tat、Fos、Myc、Jun、Myb、Rel、及びステロイドホルモン受容体(例えばエストロゲン、プロゲステロン、テストステロン、アルドステロン、LDL受容体リガンド及びコルチコステロン))が挙げられる。
少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ酵素(例えば産業用酵素)又はその部分も本発明により提供される。酵素の例としては限定されないが、例えばアミダーゼ、アミノ酸ラセマーゼ、アシラーゼ、デハロゲナーゼ、ジオキシゲナーゼ、ジアリールプロパンペルオキシダーゼ、エピメラーゼ、エポキシドヒドロラーゼ、エステラーゼ、イソメラーゼ、キナーゼ、グルコースイソメラーゼ、グリコシダーゼ、グリコシルトランスフェラーゼ、ハロペルオキシダーゼ、モノオキシゲナーゼ(例えばp450類)、リパーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、ニトリルヒドラターゼ、ニトリラーゼ、プロテアーゼ、ホスファターゼ、スブチリシン、トランスアミナーゼ及びヌクレアーゼが挙げられる。
これらの蛋白質の多くは市販されており(例えばSigma BioSciences 2002カタログ及び価格表参照)、対応する蛋白質配列と遺伝子及び、一般に多くのその変異体も周知である(例えばGenbank参照)。例えば1種以上の該当治療、診断又は酵素特性に関して蛋白質を改変するように本発明に従って1種以上の非天然アミノ酸を挿入することにより前記蛋白質の任意のものを改変することができる。治療関連特性の例としては血清半減期、貯蔵半減期、安定性、免疫原性、治療活性、(例えば非天然アミノ酸へのレポーター基(例えばラベル又はラベル結合部位)の付加による)検出性、LD50又は他の副作用の低減、胃管を経由して体内に導入できること(例えば経口利用性)等が挙げられる。診断特性の例としては貯蔵半減期、安定性、診断活性、検出性等が挙げられる。該当酵素特性の例としては貯蔵半減期、安定性、酵素活性、産生能等が挙げられる。
他の各種蛋白質も本発明の1種以上の非天然アミノ酸を組込むように改変することができる。例えば、本発明は例えば感染性真菌(例えばAspergillus、Candida種);細菌、特に病原細菌モデルとして利用できる大腸菌や医学的に重要な細菌(例えばStaphylococci(例えばaureus)又はStreptococci(例えばpneumoniae));原生動物(例えば胞子虫類(例えばPlasmodia)、根足虫類(例えばEntamoeba)及び鞭毛虫類(Trypanosoma、Leishmania、Trichomonas、Giardia等));ウイルス(例えば(+)RNAウイルス(例えばポックスウイルス(例えばワクシニア)、ピコルナウイルス(例えばポリオ)、トガウイルス(例えば風疹)、フラビウイルス(例えばHCV)、及びコロナウイルス)、(−)RNAウイルス(例えばラブドウイルス(例えばVSV)、パラミクソウイルス(例えばRSV)、オルトミクソウイルス(例えばインフルエンザ)、ブンヤウイルス及びアレナウイルス)、dsDNAウイルス(例えばレオウイルス)、RNA→DNAウイルス(即ちレトロウイルス、例えばHIV及びHTLV)、及び所定のDNA→RNAウイルス(例えばB型肝炎))に由来する蛋白質において、1種以上のワクチン蛋白質中の1種以上の天然アミノ酸を1種以上の非天然アミノ酸で置換することができる。
昆虫耐性蛋白質(例えばCry蛋白質)、澱粉及び脂質産生酵素、植物及び昆虫毒素、毒素耐性蛋白質、マイコトキシン解毒蛋白質、植物成長酵素(例えばリブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ、「RUBISCO」)、リポキシゲナーゼ(LOX)及びホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシラーゼ等の農業関連蛋白質も非天然アミノ酸修飾の適切なターゲットである。
本発明は少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ少なくとも1種の蛋白質を真核細胞で生産するための方法(及び前記方法により生産された蛋白質)も提供する。例えば、1方法は少なくとも1個のセレクターコドンを含み、蛋白質をコードする核酸を含む真核細胞を適当な培地で増殖させる段階を含む。真核細胞は更に前記細胞で機能し、セレクターコドンを認識する直交tRNA(O−tRNA)と;O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)を含み、培地は非天然アミノ酸を含む。
1態様では、前記方法は第1の反応基を含む非天然アミノ酸を蛋白質に組込む段階と;第2の反応基を含む分子(例えば色素、ポリマー、例えばポリエチレングリコール誘導体、光架橋剤、細胞傷害性化合物、アフィニティーラベル、ビオチン誘導体、樹脂、第2の蛋白質又はポリペプチド、金属キレート剤、補因子、脂肪酸、炭水化物、ポリヌクレオチド(例えばDNA,RNA等)等)と蛋白質を接触させる段階を更に含む。第1の反応基は第2の反応基と反応し、[3+2]シクロ付加により分子を非天然アミノ酸と結合する。1態様では、第1の反応基はアルキニル又はアジド部分であり、第2の反応基はアジド又はアルキニル部分である。例えば、第1の反応基は(例えば非天然アミノ酸p−プロパルギルオキシフェニルアラニンにおける)アルキニル部分であり、第2の反応基はアジド部分である。別の例では、第1の反応基は(例えば非天然アミノ酸p−アジド−L−フェニルアラニンにおける)アジド部分であり、第2の反応基はアルキニル部分である。
1態様では、O−RSは例えば配列番号86又は45に記載のアミノ酸配列をもつO−RSの少なくとも50%の効率でO−tRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化する。別の態様では、O−tRNAは配列番号65もしくは64、又はその相補的ポリヌクレオチド配列を含むか、前記配列からプロセシングされるか、又は前記配列によりコードされる。更に別の態様では、O−RSは配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸を含む。
コードされる蛋白質は例えば治療用蛋白質、診断用蛋白質、産業用酵素、又はその部分を含むことができる。場合により、前記方法により生産される蛋白質は更に非天然アミノ酸を介して修飾されている。例えば、前記方法により生産される蛋白質は場合により少なくとも1種のin vivo翻訳後修飾により修飾されている。
スクリーニング又は選択用転写モジュレーター蛋白質の生産方法(及び前記方法により生産されたスクリーニング又は選択用転写モジュレーター蛋白質)も提供する。例えば、1方法は、核酸結合ドメインをコードする第1のポリヌクレオチド配列を選択する段階と;少なくとも1個のセレクターコドンを含むように第1のポリヌクレオチド配列を突然変異させる段階を含む。こうしてスクリーニング又は選択用ポリヌクレオチド配列が得られる。本方法は更に転写活性化ドメインをコードする第2のポリヌクレオチド配列を選択する段階と;第2のポリヌクレオチド配列に機能的に連結されたスクリーニング又は選択用ポリヌクレオチド配列を含む構築物を提供する段階と;前記構築物と、非天然アミノ酸と、直交tRNAシンテターゼ(O−RS)と、直交tRNA(O−tRNA)を細胞に導入する段階を含む。これらの成分を使用すると、O−RSはO−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化し、O−tRNAはセレクターコドンを認識し、スクリーニング又は選択用ポリヌクレオチド配列のセレクターコドンに応答して非天然アミノ酸を核酸結合ドメインに組込むことにより、スクリーニング又は選択用転写モジュレーター蛋白質が得られる。
所定態様では、本発明の方法及び/又は組成物における該当蛋白質又はポリペプチド(又はその部分)は核酸によりコードされる。一般に、核酸は少なくとも1個のセレクターコドン、少なくとも2個のセレクターコドン、少なくとも3個のセレクターコドン、少なくとも4個のセレクターコドン、少なくとも5個のセレクターコドン、少なくとも6個のセレクターコドン、少なくとも7個のセレクターコドン、少なくとも8個のセレクターコドン、少なくとも9個のセレクターコドン、10個以上のセレクターコドンを含む。
該当蛋白質又はポリペプチドをコードする遺伝子は本明細書の「突然変異誘発及び他の分子生物学技術」のセクションに記載する当業者に周知の方法を使用して例えば非天然アミノ酸を組込むための1個以上のセレクターコドンを付加するように突然変異誘発することができる。例えば、1個以上のセレクターコドンを付加するように該当蛋白質の核酸を突然変異誘発し、1種以上の非天然アミノ酸を挿入できるようにする。本発明は例えば少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ任意蛋白質のこのような任意変異体(例えば突然変異体、変形)を含む。同様に、本発明は対応する核酸、即ち1種以上の非天然アミノ酸をコードする1個以上のセレクターコドンをもつ任意核酸も含む。
1態様では、本発明はGAL4のThr44,Arg110 TAG突然変異体を含む組成物(及び本発明の方法により製造された組成物)を提供し、前記GAL4蛋白質は少なくとも1種の非天然アミノ酸を含む。別の態様では、本発明はヒトスーパーオキシドジスムターゼ(hSOD)のTrp33 TAG突然変異体を含む組成物を提供し、前記hSOD蛋白質は少なくとも1種の非天然アミノ酸を含む。
非天然アミノ酸を組込んだ組換え蛋白質の精製
本発明の蛋白質(例えば非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質、非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質に対する抗体等)は当業者に使用されている公知標準手順に従って部分的又は実質的に均質まで精製することができる。従って、本発明のポリペプチドは当分野で周知の多数の方法の任意のものにより回収及び精製することができ、このような方法としては例えば硫安又はエタノール沈殿、酸又は塩基抽出、カラムクラマトグラフィー、アフィニティーカラムクラマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィー、ゲル電気泳動等が挙げられる。所望により蛋白質リフォールディング段階を使用して正しく折畳まれた成熟蛋白質を作製することができる。高純度が所望される最終精製段階では、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、アフィニティークロマトグラフィー又は他の適切な方法を使用することができる。1態様では、例えば1種以上の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質をアフィニティー精製するために、非天然アミノ酸(又は非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質)に対して作製した抗体を精製試薬として使用する。所望に応じて部分的又は均質まで精製した後、ポリペプチドを場合により例えばアッセイ成分、治療試薬又は抗体生産用免疫原として使用する。
本明細書に引用する他の文献以外に各種精製/蛋白質フォールディング方法が当分野で周知であり、例えばR.Scopes,Protein Purification,Springer−Verlag,N.Y.(1982);Deutscher,Methods in Enzymology Vol.182:Guide to Protein Purification,Academic Press,Inc.N.Y.(1990);Sandana(1997)Bioseparation of Proteins,Academic Press,Inc.;Bollagら(1996)Protein Methods,2nd Edition Wiley−Liss,NY;Walker(1996)The Protein Protocols Handbook Humana Press,NJ,Harris and Angal(1990)Protein Purification Applications:A Practical Approach IRL Press at Oxford,Oxford,England;Harris and Angal Protein Purification Methods:A Practical Approach IRL Press at Oxford,Oxford,England;Scopes(1993)Protein Purification:Principles and Practice 3rd Edition Springer Verlag,NY;Janson and Ryden(1998)Protein Purification:Principles,High Resolution Methods and Applications,Second Edition Wiley−VCH,NY;及びWalker(1998)Protein Protocols on CD−ROM Humana Press,NJ;並びにその引用文献に記載されている方法が挙げられる。
非天然アミノ酸を組込んだ該当蛋白質又はポリペプチドを真核細胞で生産する1つの利点は一般に蛋白質又はポリペプチドがその天然コンフォーメーションで折り畳まれることである。しかし、本発明の所定態様では、当業者に自明の通り、合成、発現及び/又は精製後に蛋白質は該当ポリペプチドの所望コンフォーメーションと異なるコンフォーメーションをもつことができる。本発明の1側面では、発現される蛋白質を場合により変性させた後に再生する。これは例えばシャペロニンを該当蛋白質もしくはポリペプチドに添加するか、及び/又はグアニジンHCl等のカオトロピック剤で蛋白質を可溶化することにより実施される。
一般に、発現されたポリペプチドを変性及び還元した後にポリペプチドを好適コンフォーメーションにリフォールディングすることが望ましい場合がある。例えば、グアニジン、尿素、DTT、DTE及び/又はシャペロニンを該当翻訳産物に添加することができる。蛋白質の還元、変性及び再生方法も当業者に周知である(上記文献や、Debinskiら(1993)J.Biol.Chem.,268:14065−14070;Kreitman and Pastan(1993)Bioconjug.Chem.,4:581−585;及びBuchnerら,(1992)Anal.Biochem.,205:263−270参照)。例えば、Debinskiらはグアニジン−DTEでの封入体蛋白質の変性と還元について記載している。蛋白質は例えば酸化グルタチオンとL−アルギニンを加えたレドックス緩衝液中でリフォールディングすることができる。リフォールディング試薬を流すか又は他の方法で移動させて1種以上のポリペプチド又は他の発現産物と接触させるか、又はポリペプチドを移動させて試薬と接触させることができる。
抗体
1側面では、本発明は本発明の分子(例えばシンテターゼ、tRNA、及び非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質)に対する抗体を提供する。本発明の分子に対する抗体は例えば本発明の分子を精製するための精製試薬として有用である。更に、抗体は例えば前記分子の存在又は位置を(例えばin vivo又はin situ)追跡するために、シンテターゼ、tRNA、及び非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質の存在を指示するための指示試薬として使用することができる。
本発明の抗体は免疫グロブリン遺伝子又は免疫グロブリン遺伝子のフラグメントにより実質的又は部分的にコードされる1種以上のポリペプチドを含む蛋白質とすることができる。認識される免疫グロブリン遺伝子としてはκ、λ、α、γ、δ、ε及びμ定常領域遺伝子と、無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。L鎖はκ又はλに分類される。H鎖はγ、μ、α、δ又はεに分類され、夫々免疫グロブリンIgG、IgM、IgA、IgD及びIgE類と言う。典型的な免疫グロブリン(例えば抗体)構造単位は四量体からなる。各四量体は各々1本の「L」鎖(約25kD)と1本の「H」鎖(約50〜70kD)をもつ同一の2対のポリペプチド鎖から構成される。各鎖のN末端は主に抗原認識に関与する約100〜110又はそれ以上のアミノ酸からなる可変領域を規定する。可変L鎖(VL)及び可変H鎖(VH)なる用語は夫々これらのL鎖とH鎖を意味する。
抗体は無傷の免疫グロブリンとして存在するか又は各種ペプチドによる消化により生産された多数の明確に特性決定されたフラグメントとして存在する。従って、例えば、ペプシンはヒンジ部のジスルフィド結合下の抗体を消化し、それ自体ジスルフィド結合によりVH−CH1に結合したL鎖であるFabの二量体F(ab’)2を生産する。F(ab’)2を温和な条件下に還元してヒンジ部のジスルフィド結合を切断すると、F(ab’)2二量体をFab’単量体に変換することができる。Fab’単量体は主にヒンジ部を構成するFabである(他の抗体フラグメントの更に詳細な説明についてはFundamental Immunology,4th addition,W.E.Paul,ed.,Raven Press,N.Y.(1999)参照)。各種抗体フラグメントが無傷の抗体の消化により定義されるが、当業者に自明の通り、化学的方法又は組換えDNA技術を使用することによりこのようなFab’フラグメント等をde novo合成してもよい。従って、本明細書で使用する抗体なる用語は場合により抗体全体の改変により生産されるか又は組換えDNA技術を使用してde novo合成された抗体フラグメントも含む。抗体は単鎖抗体を含み、可変H鎖と可変L鎖が(直接又はペプチドリンカーを介して)結合して連続ポリペプチドを形成している単鎖Fv(sFv又はscFv)抗体を含む。本発明の抗体は例えばポリクローナル、モノクローナル、キメラ、ヒト化、単鎖、Fabフラグメント、Fab発現ライブラリーにより生産されたフラグメント等とすることができる。
一般に、本発明の抗体は各種分子生物学又は医薬プロセスで一般試薬及び治療試薬として有用である。ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体の製造方法は入手可能であり、本発明の抗体の製造に適用することができる。多数の基礎教科書が標準抗体製造法を記載しており、例えばBorrebaeck(ed)(1995)Antibody Engineering,2nd Edition Freeman and Company,NY(Borrebaeck);McCaffertyら(1996)Antibody Engineering,A Practical Approach IRL at Oxford Press,Oxford,England(McCafferty),及びPaul(1995)Antibody Engineering Protocols Humana Press,Towata,NJ(Paul);Paul(ed.),(1999)Fundamental Immunology,Fifth edition Raven Press,N.Y.;Coligan(1991)Current Protocols in Immunology Wiley/Greene,NY;Harlow and Lane(1989)Antibodies:A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Press,NY;Stitesら(eds.)Basic and Clinical Immunology(4th ed.)Lange Medical Publications,Los Altos,CAとその引用文献;Goding(1986)Monoclonal Antibodies:Principles and Practice(2d ed.)Academic Press,New York,NY;及びKohler and Milstein(1975)Nature 256:495−497が挙げられる。
例えば動物への抗原注射に依存しない各種組換え抗体製造技術が開発されており、本発明でも使用することができる。例えば、ファージ又は同様のベクターで組換え抗体のライブラリーを作製及び選択することが可能である。例えばWinterら(1994)Making Antibodies by Phage Display Technology Annu.Rev.Immunol.12:433−55とその引用文献参照。更にGriffiths and Duncan(1998)Strategies for selection of antibodies by phage display Curr Opin Biotechnol 9:102−8;Hoogenboomら(1998)Antibody phage display technology and its applications Immunotechnology 4:1−20;Gramら(1992)in vitro selection and affinity maturation of antibodies from a native combinatorial immunoglobulin library PNAS 89:3576−3580;Huseら(1989)Science 246:1275−1281;及びWardら(1989)Nature 341:544−546も参照されたい。
1態様では、抗体ライブラリーは糸状バクテリオファージの表面にH鎖及びL鎖可変領域を組合せて提示するためにクローニングされる(例えばリンパ球集団から回収するか又はin vitro構築した)V遺伝子のレパートリーを含むことができる。抗原との結合によりファージを選択する。ファージ感染細菌から可溶性抗体を発現させ、例えば突然変異誘発により抗体を改良することができる。例えばBalint and Larrick(1993)Antibody Engineering by Parsimonious Mutagenesis Gene 137:109−118;Stemmerら(1993)Selection of an Active Single Chain Fv Antibody From a Protein Linker Library Prepared by Enzymatic Inverse PCR Biotechniques 14(2):256−65;Crameriら(1996)Construction and evolution of antibody−phage libraries by DNA shuffling Nature Medicine 2:100−103;及びCrameri and Stemmer(1995)Combinatorial multiple cassette mutagenesis creates all the permutations of mutant and wildtype cassettes BioTechniques 18:194−195参照。
組換え抗体ファージシステムのクローニング及び発現用キットも公知であり、市販されており、例えばAmersham−Pharmacia Biotechnology(Uppsala,スウェーデン)から「組換えファージ抗体システム、マウスScFvモジュール」が販売されている。鎖シャフリングにより高親和性ヒト抗体を製造するためのバクテリオファージ抗体ライブラリーも作製されている(例えばMarksら(1992)By−Passing Immunization:Building High Affinity Human Antibodies by Chain Shuffling Biotechniques 10:779−782参照)。更に、当然のことながら、多数の業者(例えばBethyl Laboratories(Montgomery,TX)、Anawa(スイス)、Eurogentec(ベルギー及び米国Philadelphia,PA等)等)により抗体を製造させることもできる。
所定態様では、例えば抗体を治療投与しようとする場合には、本発明の抗体を「ヒト化」することが有用である。ヒト化抗体を使用すると、(例えば患者がヒトである場合に)治療用抗体に対する望ましくない免疫応答が発生しにくくなる。上記抗体関連文献はヒト化ストラテジーを記載している。ヒト化抗体に加え、ヒト抗体も本発明の特徴である。ヒト抗体はヒト免疫グロブリン配列から構成されることを特徴とする。ヒト抗体は多様な方法を使用して製造することができる(例えばLarrickら,米国特許第5,001,065号参照)。トリオーマ法によりヒト抗体を製造するための一般アプローチはOstbergら(1983),Hybridoma 2:361−367、Ostberg,米国特許第4,634,664号、及びEngelmanら,米国特許第4,634,666号に記載されている。
蛋白質の精製と検出に抗体を使用する方法は種々のものが公知であり、本明細書に記載するような非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質の検出と精製に適用することができる。一般に、抗体はELISA、ウェスタンブロット法、免疫化学法、アフィニティークロマトグラフィー法、SPR及び他の多数の方法の有用な試薬である。上記文献にはELISAアッセイ、ウェスタンブロット法、表面プラズモン共鳴(SPR)等の実施方法が詳細に記載されている。
本発明の1側面では、本発明の抗体はそれ自体非天然アミノ酸を含み、該当特性(例えば半減期、安定性、毒性等の改善)をもつ抗体を提供する。本明細書の「非天然アミノ酸を組込んだポリペプチド」のセクションも参照。抗体は臨床試験で現在使用されている全化合物のほぼ50%を占めており(Wittrup,(1999)Phage on display Tibtech 17:423−424)、抗体は診断試薬として広く使用されている。従って、抗体を非天然アミノ酸で修飾できるならば、これらの有用試薬を修飾するための重要なツールとなる。
例えば、MAbは診断分野に多数の用途がある。アッセイは単純なスポット試験から腫瘍イメージングに使用されているDuPont Merck Co.製品放射標識NR−LU−10MAb(Ruschら(1993)NR−LU−10 monoclonal antibody scanning.A helpful new adjunct to computed tomography in evaluating non−small−cell lung cancer.J Thorac Cardiovasc Surg 106:200−4)等のより複雑な方法まで多岐にわたる。周知の通り、MAbはELISA、ウェスタンブロット法、免疫化学法、アフィニティークロマトグラフィー法等の中心試薬である。1種以上の非天然アミノ酸を含むようにこのような任意診断用抗体を改変し、例えばターゲットに対するAbの特異性又はアビディティを改変したり、例えば検出可能なラベル(例えば分光、蛍光、発光等)を非天然アミノ酸に付加することにより1種以上の検出可能な特性を改変することができる。
有用な抗体試薬の1類は治療用Abである。例えば、抗体は抗体依存性細胞傷害性(ADCC)又は補体介在性溶解(CML)により破壊するために腫瘍細胞にターゲティングすることにより腫瘍増殖を阻止する腫瘍特異的MAbとすることができる(これらの一般型のAbを「魔法の弾丸」と言う場合もある)。1例は非ホジキンリンパ腫の治療に使用される抗CD20MAbであるリツキサンである(Scott(1998)Rituximab:a new therapeutic monoclonal antibody for non−Hodgkin’s lymphom Cancer Pract 6:195−7)。第2の例は腫瘍増殖の重要成分を妨害する抗体に関する。ハーセプチンは転移性乳癌の治療に使用される抗HER−2モノクローナル抗体であり、この作用メカニズムをもつ抗体の1例である(Baselgaら(1998)Recombinant humanized anti−HER2 antibody(Herceptin)enhances the antitumor activity of paclitaxel and doxorubicin against HER2/neu overexpressing human breast cancer xenografts [Cancer Res(1999)59(8):2020に誤載],Cancer Res 58:2825−31)。第3の例は腫瘍又は他の該当部位に細胞傷害性化合物(毒素、放射性核種等)を直接送達するための抗体に関する。例えば、1例のMabは前立腺腫瘍細胞に放射線を直接送達する90Y結合抗体であるCYT−356である(Debら(1996)Treatment of hormone−refractory prostate cancer with 90Y CYT−356 monoclonal antibody Clin Cancer Res 2:1289−97)。第4の例は抗体特異的酵素プロドラッグ療法であり、腫瘍に同時局在させた酵素が全身投与したプロドラッグを腫瘍近傍で活性化する。例えば、カルボキシペプチダーゼAに結合した抗Ep−CAM1抗体が大腸癌治療用に開発中である(Wolfeら(1999)Antibody−directed enzyme prodrug therapy with the T268G mutant of human carboxypeptidase A1:in vitro and in vivo studies with prodrugs of methotrexate and the thymidylate synthase inhibitors GW1031 and GW1843 Bioconjug Chem 10:38−48)。この他に、治療効果のために正常細胞機能を特に阻害するように設計したAb(例えばアンタゴニスト)もある。1例は急性臓器移植拒絶を緩和するためにJohnson and Johnsonから販売されている抗CD3MAbであるオルソクローンOKT3である(Strateら(1990)Orthoclone OKT3 as first−line therapy in acute renal allograft rejection Transplant Proc 22:219−20)。別の類の抗体製品はアゴニストである。これらのMabは治療効果のために正常細胞機能を特に強化するように設計されている。例えば、神経治療用のアセチルコリン受容体のMabアゴニストが開発中である(Xieら(1997)Direct demonstration of MuSK involvement in acetylcholine receptor clustering through identification of agonist ScFv Nat.Biotechnol.15:768−71)。1種以上の治療特性(特異性、アビディティ、血清半減期等)を強化するために1種以上の非天然アミノ酸を含むようにこれらの抗体の任意のものを改変することができる。
別の類の抗体製品は新規機能を提供する。この類の主な抗体は酵素の触媒能に似せて構築されたIg配列等の触媒抗体である(Wentworth and Janda(1998)Catalytic antibodies Curr Opin Chem Biol 2:138−44)。例えば、興味深い1例では触媒抗体mAb−15A10を使用し、中毒治療のためにコカインをin vivo加水分解している(Metsら(1998)A catalytic antibody against cocaine prevents cocaine’s reinforcing and toxic effects in rats Proc Natl Acad Sci U S A 95:10176−81))。触媒抗体も1種以上の該当性質を改善するために1種以上の非天然アミノ酸を含むように改変することができる。
免疫反応性によるポリペプチドの定義
本発明のポリペプチドは(例えば本発明の翻訳系で合成される蛋白質の場合には非天然アミノ酸を含み、例えば本発明の新規シンテターゼの場合には標準アミノ酸の新規配列を含む)種々の新規ポリペプチド配列を提供するので、ポリペプチドは例えばイムノアッセイで認識することができる新規構造特徴も提供する。本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体の作製又は抗体と前記抗体又は抗血清と結合したポリペプチドも本発明の特徴の1つである。
例えば、本発明は配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86の1種以上から選択されるアミノ酸配列を含む免疫原に対して作製した抗体又は抗血清に特異的に結合するか又は特異的に免疫反応性であるシンテターゼ蛋白質を含む。他の相同体との交差反応性をなくすために、野生型大腸菌チロシルシンテターゼ(TyrRS)(例えば配列番号2)等の入手可能な対照シンテターゼ相同体を用いて抗体又は抗血清をサブトラクションする。
典型的なフォーマットの1例では、イムノアッセイは配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86の1種以上に対応する配列の1種以上又はその実質的サブ配列(即ち記載する全長配列の少なくとも約30%)を含む1種以上のポリペプチドに対して作製したポリクローナル抗血清を使用する。配列番号36−63及び86に由来する潜在的ポリペプチド免疫原群を以下の文中では「免疫原性ポリペプチド」と総称する。得られた抗血清を場合により対照シンテターゼ相同体に対する交差反応性が低くなるように選択し、ポリクローナル抗血清をイムノアッセイで使用する前に例えば対照シンテターゼ相同体の1種以上に免疫吸着させることによりこのような交差反応性を除去する。
イムノアッセイで使用する抗血清を作製するためには、免疫原性ポリペプチドの1種以上を本明細書に記載するように作製し、精製する。例えば、組換え蛋白質を組換え細胞で生産することができる。標準アジュバント(例えばフロイントアジュバント)と標準マウス免疫プロトコールを使用して近交系マウス(マウスの仮想遺伝的同一性により結果の再現性が高いのでこのアッセイで使用)に免疫原性蛋白質を免疫する(抗体作製、イムノアッセイフォーマット及び特異的免疫反応性を測定するために使用可能な条件の標準解説については例えばHarlow and Lane(1988)Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Publications,New York参照。抗体に関する他の文献や資料も本明細書に記載しており、免疫反応性によりポリペプチドを定義/検出する抗体を作製するためにここで適用することができる)。あるいは、本明細書に開示する配列から誘導される1種以上の合成又は組換えポリペプチドをキャリヤー蛋白質に結合して免疫原として使用する。
ポリクローナル血清を収集し、イムノアッセイ(例えば固体支持体に固定化した免疫原性蛋白質の1種以上を使用する固相イムノアッセイ)で免疫原性ポリペプチドに対する力価を測定する。106以上の力価をもつポリクローナル抗血清を選択し、プールし、対照シンテターゼポリペプチドでサブトラクションし、高力価ポリクローナル抗血清サブトラクションプールを作製する。
高力価ポリクローナル抗血清サブトラクションプールを比較イムノアッセイで対照相同体に対する交差反応性について試験する。この比較アッセイでは、高力価ポリクローナル坑血清と免疫原性シンテターゼの結合のシグナル対ノイズ比が対照シンテターゼ相同体との結合の少なくとも約5〜10倍となるように、サブトラクション高力価ポリクローナル坑血清に差別的な結合条件を決定する。即ち、アルブミン又は脱脂粉乳等の非特異的競合剤を加えるか及び/又は塩条件、温度及び/又は同等条件を調節することにより結合/洗浄反応のストリンジェンシーを調整する。これらの結合/洗浄条件は、試験ポリペプチド(免疫原性ポリペプチド及び/又は対照ポリペプチドに比較するポリペプチド)がサブトラクションポリクローナル坑血清プールに特異的に結合しているか否かを調べる後期アッセイで使用される。特に、差別的結合条件下で対照シンテターゼ相同体の少なくとも2〜5倍のシグナル対ノイズ比と、免疫原性ポリペプチドの少なくとも約1/2のシグナル対ノイズ比を示す試験ポリペプチドは公知シンテターゼに比較して免疫原ポリペプチドと実質的な構造類似性をもつので、本発明のポリペプチドである。
別の例では、試験ポリペプチドの検出に競合的結合フォーマットのイムノアッセイを使用する。例えば、自明の通り、対照ポリペプチドに免疫吸着させることにより坑血清混合物プールから交差反応性抗体を除去する。次に、免疫原性ポリペプチドを固体支持体に固定化し、支持体をサブトラクション坑血清プールに暴露する。試験蛋白質をアッセイに添加し、サブトラクション坑血清プールとの結合を競合させる。試験蛋白質が固定化蛋白質に対してサブトラクション坑血清プールとの結合を競合する能力を、アッセイに添加した免疫原性ポリペプチドが結合を競合する能力と比較する(免疫原性ポリペプチドは坑血清プールとの結合について固定化免疫原性ポリペプチドと有効に競合する)。標準計算を使用して試験蛋白質の交差反応性百分率を計算する。
平行アッセイで場合により対照蛋白質がサブトラクション坑血清プールとの結合を競合する能力を、免疫原性ポリペプチドが坑血清との結合を競合する能力と比較測定する。この場合も、標準計算を使用して対照ポリペプチドの交差反応性百分率を計算する。試験ポリペプチドの交差反応性百分率が対照ポリペプチドの少なくとも5〜10倍である場合又は試験ポリペプチドの結合が免疫原性ポリペプチドの結合とほぼ同一範囲である場合に、試験ポリペプチドはサブトラクション坑血清プールに特異的に結合すると言う。
一般に、本明細書に記載する競合的結合イムノアッセイでは任意試験ポリペプチドを免疫原性及び/又は対照ポリペプチドと比較するために免疫吸着坑血清プールを使用することができる。この比較を行うためには、免疫原性、試験及び対照ポリペプチドを各々広い濃度範囲でアッセイし、サブトラクション坑血清と例えば固定化した対照、試験又は免疫原性蛋白質との結合の50%を阻害するために必要な各ポリペプチドの量を標準技術により決定する。競合アッセイで結合に必要な試験ポリペプチドの量が免疫原性ポリペプチドの必要量の2倍未満であり、対照ポリペプチドの少なくとも約5〜10倍である場合には試験ポリペプチドは免疫原性蛋白質に対して作製した抗体と特異的に結合すると言う。
付加特異性試験として、得られる免疫原性ポリペプチドサブトラクション坑血清プールと免疫吸着に使用する免疫原性ポリペプチドの結合が殆ど又は全く検出できなくなるまで場合により坑血清プールを(対照ポリペプチドではなく)免疫原性ポリペプチドに完全に免疫吸着させる。この完全に免疫吸着した坑血清を次に試験ポリペプチドとの反応性について試験する。反応性が殆ど又は全く観察されない場合(即ち完全に免疫吸着した坑血清と免疫原性ポリペプチドの結合に観察されるシグナル対ノイズ比の2倍以下)には、試験ポリペプチドは免疫原性蛋白質により誘導される坑血清に特異的に結合している。
医薬組成物
本発明のポリペプチド又は蛋白質(例えばシンテターゼ、1種以上の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質等)は場合により例えば適切な医薬キャリヤーと共に治療用に使用される。このような組成物は例えば治療有効量の化合物と医薬的に許容可能なキャリヤー又は賦形剤を含有する。このようなキャリヤー又は賦形剤としては限定されないが、食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール及び/又はその組合せが挙げられる。製剤は投与方法に合わせて製造される。一般に、蛋白質の投与方法は当分野で周知であり、本発明のポリペプチドの投与に適用することができる。
1種以上の本発明のポリペプチドを含有する治療用組成物は場合により1種以上の適当なin vitro及び/又はin vivo動物疾患モデルで試験し、当分野で周知の方法により効力、組織代謝を確認し、用量を推定する。特に、天然アミノ酸相同体に対する本発明の非天然アミノ酸の活性、安定性又は他の適切な尺度(例えば1種以上の非天然アミノ酸を含むように改変したEPOと天然アミノ酸EPOの比較)により、即ち関連アッセイでまず用量を決定することができる。
投与は分子を最終的に血液又は組織細胞と接触させるために通常使用されている任意経路とする。本発明の非天然アミノ酸ポリペプチドは場合により1種以上の医薬的に許容可能なキャリヤーと共に適切な任意方法で投与される。本発明においてこのようなポリペプチドを患者に投与するのに適した方法は入手可能であり、特定組成物を投与するために2種以上の経路を使用することもできるが、特定経路が別の経路よりも迅速で有効な作用又は反応を生じることが多い。
医薬的に許容可能なキャリヤーは投与する特定組成物や、組成物を投与するために使用される特定方法によっても異なる。従って、本発明の医薬組成物の適切な製剤は多様である。
ポリペプチド組成物は多数の経路で投与することができ、限定されないが、例えば経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、経皮、皮下、局所、舌下又は直腸手段が挙げられる。非天然アミノ酸ポリペプチド組成物はリポソームにより投与することもできる。このような投与経路及び適切な製剤は一般に当業者に公知である。
非天然アミノ酸ポリペプチドは単独又は他の適切な成分と共にエアゾール製剤に処方(即ち「噴霧」)して吸入投与することもできる。エアゾール製剤はジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等の許容可能な加圧噴射剤に加えることができる。
例えば関節内、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内及び皮下経路等の非経口投与に適した製剤としては、酸化防止剤、緩衝液、静菌剤、及び製剤を所期レシピエントの血液に等張にする溶質を添加できる水性及び非水性等張滅菌注射溶液と、懸濁剤、溶解補助剤、増粘剤、安定剤及び防腐剤を添加できる水性及び非水性滅菌懸濁液が挙げられる。アンプルやバイアル等の単位用量又は多重用量密閉容器でパッケージ核酸製剤とすることもできる。
非経口投与と静脈内投与が好ましい投与方法である。特に、天然アミノ酸相同体治療で既に使用されている投与経路(例えばEPO、GCSF、GMCSF、IFN、インターロイキン、抗体及び/又は医薬として送達される他の任意蛋白質に一般に使用される投与経路)と現行製剤が本発明の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質の好ましい投与経路と製剤となる(例えば現行治療蛋白質のペグ化変異体等)。
本発明において患者に投与する用量は患者に有益な治療応答を経時的に生じるために十分な量又は例えば用途に応じて病原体による感染を阻害するか又は他の適当な活性を生じるために十分な量とする。用量は特定組成物/製剤の効力、使用する非天然アミノ酸ポリペプチドの活性、安定性又は血清半減期、患者の症状、更には治療する患者の体重又は体表面積により異なる。用量は特定患者における特定組成物/製剤の投与に伴う副作用の存在、性質及び程度等によっても異なる。
疾病(例えば癌、遺伝病、糖尿病、エイズ等)の治療又は予防に投与する組成物/製剤の有効量を決定する際には、医師は循環血漿値、製剤毒性、疾病の進行及び/又は該当する場合には抗非天然アミノ酸ポリペプチド抗体の生産を考慮する。
例えば体重70kgの患者の投与量は一般に現在使用されている治療用蛋白質の用量と同等の範囲であり、該当組成物の活性又は血清半減期の変化に合わせて調節する。本発明の組成物/製剤は抗体投与、ワクチン投与、細胞傷害性物質、天然アミノ酸ポリペプチド、核酸、ヌクレオチド類似体、生体応答調節剤等の投与を含む任意公知慣用治療による治療条件を補うことができる。
投与に当たり、本発明の製剤は該当製剤のLD50及び/又は例えば患者の体重と総合健康状態に応じた各種濃度の非天然アミノ酸の副作用の観察により決定される頻度で投与する。一度に投与してもよいし、分割して投与してもよい。
製剤を注入した患者が発熱、悪寒又は筋肉痛を生じる場合には、適当な用量のアスピリン、イブプロフェン、アセトアミノフェン又は他の鎮痛/解熱剤を投与する。発熱、筋肉痛及び悪寒等の注入反応を生じる患者には、次回注入の30分前にアスピリン、アセトアミノフェン又は例えばジフェニルヒドラミンを前投薬する。解熱剤や抗ヒスタミン剤がすぐに効かない重度悪寒及び筋肉痛にはメペリジンを使用する。反応の重度に応じて治療を遅らせるか又は中断する。
核酸及びポリペプチド配列と変異体
上記及び下記に記載するように、本発明は核酸ポリヌクレオチド配列及びポリペプチドアミノ酸配列(例えばO−tRNA及びO−RS)と、例えば前記配列を含む組成物及び方法を提供する。前記配列(例えばO−tRNA及びO−RS)の例を本明細書に開示する(表5,例えば配列番号3−65,86,並びに配列番号1及び2以外の配列参照)。しかし、当業者に自明の通り、本発明は本明細書(例えば実施例と表5)に開示する配列に限定されない。当業者に自明の通り、本発明は本明細書に記載する機能をもつ(例えばO−tRNA又はO−RSをコードする)多数の関連及び非関連配列も提供する。
本発明はポリペプチド(O−RS)とポリヌクレオチド、例えばO−tRNA、O−RS又はその部分(例えばシンテターゼの活性部位)をコードするポリヌクレオチド、アミノアシルtRNAシンテターゼ突然変異体を構築するために使用されるオリゴヌクレオチド等を提供する。例えば、本発明のポリペプチドとしては、配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号3−35(例えば3−19、20−35、又は配列3−35の他の任意サブセット)のいずれか1種に記載のポリヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド、並びに配列番号36−63、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド又は配列番号3−35(例えば3−19、20−35、又は配列3−35の他の任意サブセット)のいずれか1種に記載のポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドに特異的な抗体に対して特異的免疫反応性のポリペプチドが挙げられる。
天然に存在するチロシルアミノアシルtRNAシンテターゼ(TyrRS)(例えば配列番号2)のアミノ酸配列と少なくとも90%一致するアミノ酸配列を含むと共に、A−E群の2種以上のアミノ酸を含むポリペプチドも本発明のポリペプチドに含まれる。例えば、A群は大腸菌TyrRSのTyr37に対応する位置にバリン、イソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、アラニン、又はスレオニンを含み;B群は大腸菌TyrRSのAsn126に対応する位置にアスパラギン酸を含み;C群は大腸菌TyrRSのAsp182に対応する位置にスレオニン、セリン、アルギニン、アスパラギン又はグリシンを含み;D群は大腸菌TyrRSのPhe183に対応する位置にメチオニン、アラニン、バリン、又はチロシンを含み;E群は大腸菌TyrRSのLeu186に対応する位置にセリン、メチオニン、バリン、システイン、スレオニン、又はアラニンを含む。これらの群の組み合わせの任意サブセットが本発明の特徴である。例えば、1態様では、O−RSは大腸菌TyrRSのTyr37に対応する位置にバリン、イソロイシン、ロイシン、又はスレオニン;大腸菌TyrRSのAsp182に対応する位置にスレオニン、セリン、アルギニン、又はグリシン;大腸菌TyrRSのPhe183に対応する位置にメチオニン、又はチロシン;及び大腸菌TyrRSのLeu186に対応する位置にセリン、又はアラニンから選択される2種以上のアミノ酸をもつ。別の態様では、O−RSは大腸菌TyrRSのTyr37に対応する位置にグリシン、セリン、又はアラニン、大腸菌TyrRSのAsn126に対応する位置にアスパラギン酸、大腸菌TyrRSのAsp182に対応する位置にアスパラギン、大腸菌TyrRSのPhe183に対応する位置にアラニン、又はバリン、及び/又は大腸菌TyrRSのLeu186に対応する位置にメチオニン、バリン、システイン、又はスレオニンから選択される2種以上のアミノ酸を含む。同様に、本発明のポリペプチドは配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)及び/又は86の少なくとも20個の連続するアミノ酸と、A−E群に上述したような2種以上のアミノ酸置換を含むポリペプチドも含む。本明細書の表4、表6、及び/又は表8も参照。上記ポリペプチドの任意のものの保存変異体を含むアミノ酸配列も本発明のポリペプチドに含まれる。
1態様では、組成物は本発明のポリペプチドと賦形剤(例えば緩衝液、水、医薬的に許容可能な賦形剤等)を含有する。本発明は更に本発明のポリペプチドに対して特異的免疫反応性の抗体又は抗血清も提供する。
本発明はポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリヌクレオチドとしては、本発明の該当蛋白質もしくはポリペプチドをコードするか、又は1個以上のセレクターコドンを含むか、又はその両方であるポリヌクレオチドが挙げられる。例えば、本発明のポリヌクレオチドとしては、例えば配列番号3−35(例えば3−19、20−35、又は配列3−35の他の任意サブセット)、64−85のいずれか1種に記載のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド;そのポリヌクレオチド配列に相補的であるか又はそのポリヌクレオチド配列をコードするポリヌクレオチド;及び/又は配列番号36−63、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸配列、又はその保存変異体を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挙げられる。本発明のポリヌクレオチドは本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも含む。同様に、核酸の実質的に全長にわたって高ストリンジェント条件下で上記ポリヌクレオチドとハイブリダイズする核酸も本発明のポリヌクレオチドである。
本発明のポリヌクレオチドは天然に存在するチロシルアミノアシルtRNAシンテターゼ(TyrRS)(例えば配列番号2)のアミノ酸配列と少なくとも90%一致するアミノ酸配列を含むと共にA−E群(上記)に上述したような2種以上の突然変異を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも含む。上記ポリヌクレオチド及び/又は上記ポリヌクレオチドの任意のものの保存変異体を含むポリヌクレオチドと少なくとも70%(又は少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%以上)一致するポリヌクレオチドも本発明のポリヌクレオチドに含まれる。本明細書の表4、表6、及び/又は表8も参照。
所定態様では、ベクター(例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス等)に本発明のポリヌクレオチドを組込む。1態様では、ベクターは発現ベクターである。別の態様では、発現ベクターは本発明のポリヌクレオチドの1種以上と機能的に連結されたプロモーターを含む。別の態様では、本発明のポリヌクレオチドを組込んだベクターを細胞に導入する。
当業者に自明の通り、開示配列の多数の変異体も本発明に含まれる。例えば、機能的に同一配列となる開示配列の保存変異体も本発明に含まれる。少なくとも1種の開示配列とハイブリダイスする核酸ポリヌクレオチド配列の変異体も本発明に含むものとする。例えば標準配列比較法により本明細書に開示する配列のユニークサブ配列であるとみなされる配列も本発明に含まれる。
保存変異
遺伝コードの縮重により、「サイレント置換」(即ちコードされるポリペプチドに変化を生じない核酸配列の置換)はアミノ酸をコードする全核酸配列の暗黙の特徴である。同様に、「保存アミノ酸置換」はアミノ酸配列中の1又は数個のアミノ酸を高度に類似する特性をもつ別のアミノ酸で置換するものであり、このような置換も開示構築物と高度に類似することが容易に認められる。各開示配列のこのような保存変異は本発明の特徴である。
特定核酸配列の「保存変異」とは同一又は本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を意味し、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には本質的に同一の配列を意味する。当業者に自明の通り、コードされる配列中の単一アミノ酸又は低百分率(一般に5%未満、より一般には4%、2%又は1%未満)のアミノ酸を置換、付加又は欠失させる個々の置換、欠失又は付加の結果としてアミノ酸を欠失するか、アミノ酸が付加されるか、又はアミノ酸が化学的に類似するアミノ酸で置換される場合には、これらの変異は「保存修飾変異」である。従って、本発明のポリペプチド配列の「保存変異」としては、ポリペプチド配列のアミノ酸の低百分率、一般に5%未満、より一般には2%又は1%未満が同一保存置換基の保存的に選択されたアミノ酸で置換される場合が挙げられる。最後に、非機能的配列の付加のように核酸分子のコードされる活性を変えない配列の付加も基本核酸の保存変異である。
機能的に類似するアミノ酸を示す保存置換表は当分野で周知である。相互に「保存置換」を含む天然アミノ酸を含む代表群を以下に示す。
核酸ハイブリダイゼーション
比較ハイブリダイゼーションを使用して本発明の核酸の保存変異体を含む本発明の核酸を同定することができ、この比較ハイブリダイゼーション法は本発明の核酸を識別する好適な方法である。更に、高、超高及び超々高ストリンジェンシー条件下で配列番号3−35(例えば3−19、20−35、又は配列3−35の他の任意サブセット)、64−85により示す核酸とハイブリダイズするターゲット核酸も本発明の特徴である。このような核酸の例としては所与核酸配列と比較して1又は数個のサイレント又は保存核酸置換をもつものが挙げられる。
試験核酸が完全にマッチする相補的ターゲットに比較して少なくとも1/2の割合でプローブとハイブリダイズする場合、即ちマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも約5倍〜10倍で完全にマッチするプローブが完全にマッチする相補的ターゲットと結合する条件下におけるプローブとターゲットのハイブリダイゼーションに比較してシグナル対ノイズ比が少なくとも1/2である場合に試験核酸はプローブ核酸と特異的にハイブリダイズすると言う。
核酸は一般に溶液中で会合するときに「ハイブリダイズ」する。核酸は水素結合、溶媒排除、塩基スタッキング等の種々の十分に特性決定された物理化学的力によりハイブリダイズする。核酸ハイブリダイゼーションの詳しい手引きはTijssen(1993)Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−−Hybridization with Nucleic Acid Probes part I chapter 2,“Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays,”(Elsevier,New York)及びAusubel,前出に記載されている。Hames and Higgins(1995)Gene Probes 1 IRL Press at Oxford University Press,Oxford,England,(Hames and Higgins 1)及びHames and Higgins(1995)Gene Probes 2 IRL Press at Oxford University Press,Oxford,England(Hames and Higgins 2)はオリゴヌクレオチドを含むDNAとRNAの合成、標識、検出及び定量について詳細に記載している。
サザン又はノーザンブロットで100個を上回る相補的残基をもつ相補的核酸のハイブリダイゼーションをフィルター上で行うためのストリンジェントハイブリダイゼーション条件の1例は、50%ホルマリンにヘパリン1mgを加え、42℃で一晩ハイブリダイゼーションを実施する。ストリンジェント洗浄条件の1例は65℃、0.2×SSCで15分間洗浄する(SSC緩衝液の説明についてはSambrook,前出参照)。多くの場合には高ストリンジェンシー洗浄の前に低ストリンジェンシー洗浄を実施してバックグラウンドプローブシグナルを除去する。低ストリンジェンシー洗浄の1例は40℃、2×SSCで15分間である。一般に、シグナル対ノイズ比が特定ハイブリダイゼーションアッセイで非関連プローブに観測される比の5倍(以上)である場合に特異的ハイブリダイゼーションが検出されたとみなす。
サザン及びノーザンハイブリダイゼーション等の核酸ハイブリダイゼーション実験において「ストリンジェントハイブリダイゼーション洗浄条件」は配列依存的であり、各種環境パラメーターにより異なる。核酸ハイブリダイゼーションの詳しい手引きはTijssen(1993),前出やHames and Higgins 1及び2に記載されている。ストリンジェントハイブリダイゼーション及び洗浄条件は任意試験核酸について経験により容易に決定することができる。例えば、高ストリンジェントハイブリダイゼーション及び洗浄条件を決定するには、一連の選択基準に合致するまで(例えばハイブリダイゼーション又は洗浄における温度上昇、塩濃度低下、界面活性剤濃度増加及び/又はホルマリン等の有機溶媒濃度増加により)ハイブリダイゼーション及び洗浄条件を徐々に増加する。例えば、マッチしないターゲットとプローブのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも約5倍でプローブが完全にマッチする相補的ターゲットと結合するまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件を徐々に増加する。
「超ストリンジェント」条件は特定プローブの熱融点(Tm)に等しくなるように選択される。Tmは(規定イオン強度及びpH下で)試験配列の50%が完全にマッチするプローブとハイブリダイズする温度である。本発明の目的には、一般に規定イオン強度及びpHで特定配列のTmよりも約5℃低くなるように「高ストリンジェント」ハイブリダイゼーション及び洗浄条件を選択する。
「超高ストリンジェンシー」ハイブリダイゼーション及び洗浄条件は完全にマッチする相補的ターゲット核酸とプローブの結合に観測されるシグナル対ノイズ比がマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも10倍になるまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件のストリンジェンシーを増加する条件である。完全にマッチする相補的ターゲット核酸のシグナル対ノイズ比の少なくとも1/2で前記条件下にプローブとハイブリダイズする場合にターゲット核酸は超高ストリンジェンシー条件下でプローブと結合すると言う。
同様に、該当ハイブリダイゼーションアッセイのハイブリダイゼーション及び/又は洗浄条件を徐々に増加することにより更に高いレベルのストリンジェンシーを決定することもできる。例えば、完全にマッチする相補的ターゲット核酸とプローブの結合に観測されるシグナル対ノイズ比がマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも10倍、20倍、50倍、100倍又は500倍以上になるまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件のストリンジェンシーを増加する条件である。完全にマッチする相補的ターゲット核酸のシグナル対ノイズ比の少なくとも1/2で前記条件下にプローブとハイブリダイズする場合にターゲット核酸は超々高ストリンジェンシー条件下でプローブと結合すると言う。
ストリンジェント条件下で相互にハイブリダイズしない核酸でも、これらの核酸によりコードされるポリペプチドが実質的に同一である場合には実質的に同一である。これは、例えば遺伝コードに許容される最大コドン縮重を使用して核酸のコピーを作製する場合に該当する。
ユニークサブ配列
1側面では、本発明は本明細書に開示するO−tRNA及びO−RSの配列から選択される核酸中にユニークサブ配列を含む核酸を提供する。ユニークサブ配列は任意公知O−tRNA及びO−RS核酸配列に対応する核酸に比較してユニークである。例えばデフォルトパラメーターに設定したBLASTを使用してアラインメントを実施することができる。任意ユニークサブ配列は例えば本発明の核酸を同定するためのプローブとして有用である。
同様に、本発明は本明細書に開示するO−RSの配列から選択されるポリペプチド中にユニークサブ配列を含むポリペプチドを含む。この場合には、ユニークサブ配列は任意公知ポリペプチド配列に対応するポリペプチドに比較してユニークである。
本発明はO−RSの配列から選択されるポリペプチド中のユニークサブ配列をコードするユニークコーディングオリゴヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするターゲット核酸も提供し、この場合には、ユニークサブ配列は対照ポリペプチド(例えば本発明のシンテターゼを例えば突然変異により誘導した元の親配列)の任意のものに対応するポリペプチドに比較してユニークである。ユニーク配列は上記のように決定する。
配列比較、一致度及び相同度
2種以上の核酸又はポリペプチド配列に関して「一致」又は「一致度」百分率なる用語は2種以上の配列又はサブ配列を最大限に対応するように対比及び整列させ、以下に記載する配列比較アルゴリズム(又は当業者に入手可能な他のアルゴリズム)の1種を使用するか又は目視により測定した場合に相互に同一であるか又は同一のアミノ酸残基もしくはヌクレオチドの百分率が特定値であることを意味する。
2種以上の核酸又はポリペプチド(例えばO−tRNAもしくはO−RSをコードするDNA又はO−RSのアミノ酸配列)に関して「実質的に一致」なる用語は2種以上の配列又はサブ配列を最大限に対応するように対比及び整列させ、配列比較アルゴリズムを使用するか又は目視により測定した場合にヌクレオチド又はアミノ酸残基一致度が少なくとも約60%、好ましくは80%、最も好ましくは90〜95%であることを意味する。このような「実質的に一致」する配列は一般に実際の起源が記載されていなくても「相同」であるとみなす。少なくとも約50残基長の配列の領域にわたって「実質的一致」が存在していることが好ましく、少なくとも約100残基長の配列の領域がより好ましく、少なくとも約150残基又は比較する2配列の全長にわたって配列が実質的に一致していることが最も好ましい。
配列比較及び相同性決定には、一般に一方の配列を参照配列としてこれに試験配列を比較する。配列比較アルゴリズムを使用する場合には、試験配列と参照配列をコンピューターに入力し、必要に応じてサブ配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメーターを指定する。こうすると、配列比較アルゴリズムは指定プログラムパラメーターに基づいて参照配列に対して試験配列の配列一致度百分率を計算する。
比較のための最適な配列アラインメントは例えばSmith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズム、Needleman & Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson & Lipman,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 85:2444(1988)の類似性探索法、これらのアルゴリズムのコンピューターソフトウェア(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WIのGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)、又は目視(一般にAusubelら,後出参照)により実施することができる。
配列一致度及び配列類似度百分率を決定するのに適したアルゴリズムの1例はAltschulら,J.Mol.Biol.215:403−410(1990)に記載されているBLASTアルゴリズムである。BLAST分析を実施するためのソフトウェアはNational Center for Biotechnology Information(www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公共入手可能である。このアルゴリズムはデータベース配列中の同一長さの単語と整列した場合に所定の正の閾値スコアTと一致するか又はこれを満足するクエリー配列中の長さWの短い単語を識別することによりまず高スコア配列対(HSP)を識別する。Tを隣接単語スコア閾値と言う(Altschulら,前出)。これらの初期隣接単語ヒットをシードとして検索を開始し、これらの単語を含むもっと長いHSPを探索する。次に、累積アラインメントスコアを増加できる限り、単語ヒットを各配列に沿って両方向に延長する。ヌクレオチド配列の場合にはパラメーターM(1対のマッチ残基のリウォードスコア、常に>0)及びN(ミスマッチ残基のペナルティースコア、常に<0)を使用して累積スコアを計算する。アミノ酸配列の場合には、スコアリングマトリクスを使用して累積スコアを計算する。累積アラインメントスコアがその最大到達値から量Xだけ低下するか、累積スコアが1カ所以上の負スコア残基アラインメントの累積によりゼロ以下になるか、又はどちらかの配列の末端に達したら各方向の単語ヒットの延長を停止する。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T及びXはアラインメントの感度と速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は語長(W)11、期待値(E)10、カットオフ100、M=5、N=4、及び両鎖の比較をデフォルトとして使用する。アミノ酸配列用として、BLASTPプログラムは語長(W)3、期待値(E)10、及びBLOSUM62スコアリングマトリクスをデフォルトとして使用する(Henikoff & Henikoff(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915参照)。
配列一致度百分率の計算に加え、BLASTアルゴリズムは2配列間の類似性の統計分析も実施する(例えばKarlin & Altschul,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 90:5873−5787(1993)参照)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1尺度は2種のヌクレオチド又はアミノ酸配列間に偶然にマッチが起こる確率を示す最小合計確率(P(N))である。例えば、試験核酸を参照核酸に比較した場合の最小合計確率が約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合に核酸は参照核酸に類似しているとみなす。
突然変異誘発及び他の分子生物学技術
分子生物学技術について記載している一般教科書としてはBerger and Kimmel,Guide to Molecular Cloning Techniques,Methods in Enzymology volume 152 Academic Press,Inc.,San Diego,CA(Berger);Sambrookら,Molecular Cloning−A Laboratory Manual(第2版),Vol.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,1989(「Sambrook」)及びCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubelら編,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.,(1999年補遺)(「Ausubel」))が挙げられる。これらの教科書は突然変異誘発、ベクターの使用、プロモーター及び他の多くの関連事項について記載しており、例えば非天然アミノ酸、直交tRNA、直交シンテターゼ及びその対を含む蛋白質を生産するためのセレクターコドンを含む遺伝子の作製についても記載している。
例えばtRNAのライブラリーを作製するため、シンテターゼのライブラリーを作製するため、非天然アミノ酸をコードするセレクターコドンを該当蛋白質又はポリペプチドに挿入するために、本発明では各種突然変異誘発を使用する。これらの例としては限定されないが、部位特異的、ランダム点突然変異誘発、相同組換え、DNAシャフリング又は他の再帰的突然変異誘発法、キメラ構築、ウラシル含有鋳型を使用する突然変異誘発、オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発、ホスホロチオエート修飾DNA突然変異誘発、ギャップデュプレクスDNAを使用する突然変異誘発等、又はその任意組み合わせが挙げられる。他の適切な方法としては点ミスマッチ修復、修復欠損宿主株を使用する突然変異誘発、制限−選択及び制限−精製、欠失突然変異誘発、完全遺伝子合成による突然変異誘発、2本鎖切断修復等が挙げられる。例えばキメラ構築物を使用する突然変異誘発も本発明に含まれる。1態様では、天然分子又は改変もしくは突然変異させた天然分子の公知情報(例えば配列、配列比較、物性、結晶構造等)により突然変異誘発を実施することができる。
上記教科書と本明細書の実施例はこれらの手順について記載している。以下の刊行物とその引用文献にも情報が記載されている。Lingら,Approaches to DNA mutagenesis:an overview,Anal Biochem.254(2):157−178(1997);Daleら,Oligonucleotide−directed random mutagenesis using phosphorothioate method,Methods Mol.Bio.57:369−374(1996);Smith,In vivo mutagenesis,Ann.Rev.Genet.19:423−462(1985);Botstein & Shortle,Strategies and applications of in vitro mutagenesis,Science 229:1193−1201(1985);Carter,Site−directed mutagenesis,Biochem.J.237:1−7(1986);Kunkel,The efficiency of oligonucleotide directed mutagenesis,in Nucleic Acids & Molecular Biology(Eckstein,F.and Lilley,D.M.J.編,Springer Verlag,Berlin))(1987);Kunkel,Rapid and efficient site−specific mutagenesis without phenotypic selection,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488−492(1985);Kunkelら,Rapid and efficient site−specific mutagenesis without phenotypic selection,Methods in Enzymol.154,367−382(1987);Bassら,Mutant Trp repressors with new DNA−binding specificities,Science 242:240−245(1988);Methods in Enzymol.100:468−500(1983);Methods in Enzymol.154:329−350(1987);Zoller & Smith,Oligonucleotide−directed mutagenesis using M13−derived vectors:an efficient and general procedure for the production of point mutations in any DNA fragment,Nucleic Acids Res.109:6487−6500(1982);Zoller & Smith,Oligonucleotide−directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors,Methods in Enzymol.100:468−500(1983);Zoller & Smith,Oligonucleotide−directed mutagenesis:a simple method using two oligonucleotide primers and a single−stranded DNA template,Methods in Enzymol.154:329−350(1987);Taylorら,The use of phosphorothioate−modified DNA in restriction enzyme reactions to prepare nicked DNA,Nucl.Acids Res.13:8749−8764(1985);Taylorら,The rapid generation of oligonucleotide−directed mutations at high frequency using phosphorothioate−modified DNA,Nucl.Acids Res.13:8765−8787(1985);Nakamaye & Eckstein,Inhibition of restriction endonuclease NciI cleavage by phosphorothioate groups and its application to oligonucleotide−directed mutagenesis,Nucl.Acids Res.14:9679−9698(1986);Sayersら,Y−T Exonucleases in phosphorothioate−based oligonucleotide−directed mutagenesis,Nucl.Acids Res.16:791−802(1988);Sayersら,Strand specific cleavage of phosphorothioate−containing DNA by reaction with restriction endonucleases in the presence of ethidium bromide,(1988)Nucl.Acids Res.16:803−814;Kramerら,The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide−directed mutation construction,Nucl.Acids Res.12:9441−9456(1984);Kramer & Fritz Oligonucletide−directed construction of mutations via gapped duplex DNA,Methods in Enzymol.154:350−367(1987);Kramerら,Improved enzymatic in vitro reactions in the gapped duplex DNA approach to oligonucleotide−directed construction of mutations,Nucl.Acids Res 16:7207(1988);Fritzら,Oligonucleotide−directed construction of mutations:a gapped duplex DNA procedure without enzymatic reactions in vitro,Nucl.Acids Res.16:6987−6999(1988);Kramerら,Point Mismatch Repair,Cell 38:879−887(1984);Carterら,Improved oligonucleotide site−directed mutagenesis using M13 vectors,Nucl.Acids Res.13:4431−4443(1985);Carter,Improved oligonucleotide−directed mutagenesis using M13 vectors,Methods in Enzymol.154:382−403(1987);Eghtedarzadeh & Henikoff,Use of oligonucleotides to generate large deletions,Nucl.Acids Res.14:5115(1986);Wellsら,Importance of hydrogen−bond formation in stabilizing the transition state of subtilisin,Phil.Trans.R.Soc.Lond.A 317:415−423(1986);Nambiarら,Total synthesis and cloning of a gene coding for the ribonuclease S protein,Science 223:1299−1301(1984);Sakamar & Khorana,Total synthesis and expression of a gene for the a−subunit of bovine rod outer segment guanine nucleotide−binding protein(transducin),Nucl.Acids Res.14:6361−6372(1988);Wellsら,Cassette mutagenesis:an efficient method for generation of multiple mutations at defined sites,Gene 34:315−323(1985);Grundstromら,Oligonucleotide−directed mutagenesis by microscale ‘shot−gun’ gene synthesis,Nucl.Acids Res.13:3305−3316(1985);Mandecki,Oligonucleotide−directed double−strand break repair in plasmids of Escherichia coli:a method for site−specific mutagenesis,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:7177−7181(1986);Arnold,Protein engineering for unusual environments,Current Opinion in Biotechnology 4:450−451(1993);Sieberら,Nature Biotechnology,19:456−460(2001);W.P.C.Stemmer,Nature 370,389−91(1994);及びI.A.Lorimer,I.Pastan,Nucleic Acids Res.23,3067−8(1995)。上記方法の多くに関する更に詳細な説明はMethods in Enzomology Volume 154に記載されており、この文献には各種突然変異誘発法に伴うトラブルシューティング問題の有用な解決方法も記載されている。
本発明は直交tRNA/RS対を介する非天然アミノ酸のin vivo組込みに用いる真核宿主細胞及び生物にも関する。本発明のポリヌクレオチド又は本発明のポリヌクレオチドを含む構築物(例えばクローニングベクター又は発現ベクター等の本発明のベクター)で宿主細胞を遺伝子組換え(例えば形質転換、形質導入又はトランスフェクション)する。ベクターは例えばプラスミド、細菌、ウイルス、裸のポリヌクレオチド又はポリヌクレオチドコンジュゲートの形態とすることができる。ベクターはエレクトロポレーション(Fromら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82,5824(1985))、ウイルスベクターによる感染、核酸を小ビーズもしくは粒子のマトリックスに埋込むか又は表面に付着させて小粒子形態で高速射入する(Kleinら,Nature 327,70−73(1987))等の標準方法により細胞及び/又は微生物に導入する。
組換え宿主細胞は例えばスクリーニング段階、プロモーター活性化又は形質転換細胞選択等の機能に合うように適宜改変した慣用栄養培地で培養することができる。これらの細胞は場合によりトランスジェニック生物で培養することができる。(例えば後期核酸単離のための)例えば細胞単離及び培養に関する他の有用な文献としてはFreshney(1994)Culture of Animal Cells,a Manual of Basic Technique,第3版,Wiley−Liss,New Yorkとその引用文献;Payneら(1992)Plant Cell and Tissue Culture in Liquid Systems John Wiley & Sons,Inc.New York,NY;Gamborg and Phillips(eds)(1995)Plant Cell,Tissue and Organ Culture;Fundamental Methods Springer Lab Manual,Springer−Verlag(Berlin Heidelberg New York)及びAtlas and Parks(eds)The Handbook of Microbiological Media(1993)CRC Press,Boca Raton,FLが挙げられる。
ターゲット核酸を細胞に導入する方法は数種の周知方法が入手可能であり、本発明ではその任意のものを使用することができる。これらの方法としては、DNAを含む細菌プロトプラストとレシピエント細胞の融合、エレクトロポレーション、遺伝子銃及びウイルスベクターによる感染(下記に詳述)等が挙げられる。本発明のDNA構築物を含むプラスミドの数を増幅するためには細菌細胞を使用することができる。対数期まで細菌を増殖させると、細菌内のプラスミドを当分野で公知の各種方法により分離することができる(例えばSambrook参照)。更に、細菌からプラスミドを精製するために多数のキットが市販されている(例えばEasyPrep(登録商標)、FlexiPrep(登録商標)(いずれもPharmacia Biotech);StrataClean(登録商標)(Stratagene);及びQIAprep(登録商標)(Qiagen))。単離精製したプラスミドを更に操作して他のプラスミドを作製し、細胞をトランスフェクトするために使用するか又は生物に感染させるために関連ベクターに組込む。典型的ベクターは転写及び翻訳ターミネーターと、転写及び翻訳開始配列と、特定ターゲット核酸の発現の調節に有用なプロモーターを含む。ベクターは場合により少なくとも1個の独立ターミネーター配列と、真核生物又は原核生物又は両者(例えばシャトルベクター)でカセットの複製を可能にする配列と、原核系と真核系の両者の選択マーカーを含む包括的発現カセットを含む。ベクターは原核生物、真核生物、又は好ましくは両者での複製と組込みに適している。Giliman & Smith,Gene 8:81(1979);Robertsら,Nature,328:731(1987);Schneider,B.ら,Protein Expr.Purif.6435:10(1995);Ausubel,Sambrook,Berger(いずれも前出)参照。クローニングに有用な細菌とバクテリオファージのカタログは例えばATCCから入手でき、例えばATCCから刊行されたThe ATCC Catalogue of Bacteria and Bacteriophage(1992)Ghernaら(編)が挙げられる。その他のシーケンシング、クローニング及び分子生物学の他の側面の基本手順と基礎理論事項もWatsonら(1992)Recombinant DNA Second Edition Scientific American Books,NYに記載されている。更に、Midland Certified Reagent Company(Midland,TX mcrc.com)、The Great American Gene Company(Ramona,CA,世界ウェブgenco.com参照)、ExpressGen Inc.(Chicago,IL,世界ウェブexpressgen.com参照)、Operon Technologies Inc.(Alameda,CA)、その他多数の各種販売会社からほぼ任意核酸(及び標準又は標準外を問わずほぼ任意標識核酸)をオーダーメード又は標準注文することができる。
キット
キットも本発明の特徴である。例えば、少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を細胞で生産するためのキットが提供され、前記キットはO−tRNAをコードするポリヌクレオチド配列、及び/又はO−tRNA、及び/又はO−RSをコードするポリヌクレオチド配列、及び/又はO−RSを収容する容器を含む。1態様では、キットは更に少なくとも1種の非天然アミノ酸を含む。別の態様では、キットは更に蛋白質を生産するための説明書を含む。
以下、実施例により本発明を例証するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。請求の範囲に記載する発明の範囲から逸脱せずに変更可能な種々の非必須パラメーターが当業者に認識されよう。