遺伝コードによる化学的制約を解消して蛋白質の構造を真核細胞で直接遺伝的に改変できるならば、細胞プロセスを精査及び操作するための強力な分子ツールとなろう。本発明は真核細胞で遺伝的にコードされるアミノ酸の数を拡張する翻訳成分を提供する。これらの成分は、tRNA(例えば直交tRNA(O−tRNA))、アミノアシルtRNAシンテターゼ(例えば直交シンテターゼO−RS))、O−tRNA/O−RS対、及び非天然アミノ酸を含む。
一般に、本発明のO−tRNAは真核細胞で効率的に発現及びプロセシングされ、翻訳機能するが、宿主のアミノアシルtRNAシンテターゼにより有意にアミノアシル化されない。セレクターコドンに応答して、本発明のO−tRNAは20種の標準アミノ酸をコードしない非天然アミノ酸をmRNA翻訳中に成長中のポリペプチド鎖に送達する。
本発明のO−RSは真核細胞において本発明のO−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化するが、細胞質宿主のtRNAをアミノアシル化しない。更に、本発明のアミノアシルtRNAシンテターゼの特異性は内在アミノ酸を排除しながら非天然アミノ酸を受容する。代表的O−RS又はその部分のアミノ酸配列を含むポリペプチドも本発明の特徴である。更に、翻訳成分であるO−tRNA、O−RS及びその部分をコードするポリヌクレオチドも本発明の特徴である。
本発明は真核細胞用非天然アミノ酸を利用する所望翻訳成分、例えばO−RS、及び/又は直交対(直交tRNAと直交アミノアシルtRNAシンテターゼ)の作製方法(及び前記方法により作製された翻訳成分)も提供する。例えば、大腸菌に由来するチロシル−tRNAシンテターゼ/tRNACUA対が本発明のO−tRNA/O−RS対である。更に、本発明はある真核細胞で翻訳成分を選択/スクリーニングし、選択/スクリーニング後にこれらの成分を別の真核細胞(選択/スクリーニングに使用しなかった真核細胞)で使用する方法にも関する。例えば、真核細胞用翻訳成分を作製するための選択/スクリーニング方法は酵母(例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))で実施することができ、その後、選択された成分を別の真核細胞(例えば別の酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、真菌細胞等)で使用することができる。
本発明は更に非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を真核細胞で生産するための方法も提供する。蛋白質は本発明の翻訳成分を使用して生産される。本発明は非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質(及び本発明の方法により生産された蛋白質)も提供する。該当蛋白質又はポリペプチドは更に例えば[3+2]シクロ付加、又は原核細胞では行われない求核−求電子反応等により付加される翻訳後修飾を含むことができる。所定態様では、非天然アミノ酸を組込んだ転写モジュレーター蛋白質の生産方法(及び前記方法により生産された蛋白質)も本発明に含まれる。非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を含有する組成物も本発明の特徴である
非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質又はポリペプチドを生産するためのキットも本発明の特徴である。
直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)
真核細胞で非天然アミノ酸を該当蛋白質又はポリペプチドに特異的に組込むためには、所望非天然アミノ酸のみをtRNAに負荷し、20種の標準アミノ酸は負荷しないようにシンテターゼの基質特異性を改変する。直交シンテターゼが無差別な場合には、ターゲット位置に天然アミノ酸と非天然アミノ酸の混合物を含む突然変異体蛋白質となる。本発明は特定非天然アミノ酸に対する基質特異性を改変した直交アミノアシルtRNAシンテターゼを作製する組成物と方法を提供する。
直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)を含む真核細胞が本発明の特徴である。O−RSは真核細胞において直交tRNA(O−tRNA)を非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。所定態様では、O−RSは2種以上(例えば2種以上、3種以上等)の非天然アミノ酸を利用する。従って、本発明のO−RSはO−tRNAを複数の異なる非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する能力をもつことができる。このため、どの非天然アミノ酸もしくは非天然の組み合わせを細胞に添加するかを選択することにより及び/又は組込みのために細胞に添加する各種量の非天然アミノ酸を選択することにより制御レベルを増すことができる。
本発明のO−RSは場合により天然アミノ酸に比較して非天然アミノ酸に1種以上の改善又は強化された酵素性質をもつ。これらの性質としては、例えば天然アミノ酸(例えば20種の公知標準アミノ酸)に比較して非天然アミノ酸のKm増加、Km低下、kcat増加、kcat低下、kcat/km低下、kcat/km増加等が挙げられる。
場合により、O−RSはO−RSを含むポリペプチド及び/又はO−RSもしくはその一部をコードするポリヌクレオチドにより真核細胞に付加することができる。例えば、O−RS又はその一部は配列番号3−35(例えば3−19,20−35,又は配列3−35の他の任意サブセット)のいずれか1種に記載のポリヌクレオチド配列、又はその相補的ポリヌクレオチド配列によりコードされる。別の例では、O−RSは配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸配列、又はその保存変異体を含む。代表的O−RS分子の配列については、例えば本明細書の表5、6及び8並びに実施例6参照。
O−RSは更に天然に存在するチロシルアミノアシルtRNAシンテターゼ(TyrRS)のアミノ酸配列(例えば配列番号2に記載する配列)に例えば少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも99.5%一致するアミノ酸配列を含むと共に、A−E群の2種以上のアミノ酸を含むことができる。A群は大腸菌TyrRSのTyr37に対応する位置にバリン、イソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、アラニン、又はスレオニンを含み;B群は大腸菌TyrRSのAsn126に対応する位置にアスパラギン酸を含み;C群は大腸菌TyrRSのAsp182に対応する位置にスレオニン、セリン、アルギニン、アスパラギン又はグリシンを含み;D群は大腸菌TyrRSのPhe183に対応する位置にメチオニン、アラニン、バリン、又はチロシンを含み;E群は大腸菌TyrRSのLeu186に対応する位置にセリン、メチオニン、バリン、システイン、スレオニン、又はアラニンを含む。これらの群の組み合わせの任意サブセットが本発明の特徴である。例えば、1態様では、O−RSは大腸菌TyrRSのTyr37に対応する位置にバリン、イソロイシン、ロイシン、又はスレオニン;大腸菌TyrRSのAsp182に対応する位置にスレオニン、セリン、アルギニン、又はグリシン;大腸菌TyrRSのPhe183に対応する位置にメチオニン、又はチロシン;及び大腸菌TyrRSのLeu186に対応する位置にセリン、又はアラニンから選択される2種以上のアミノ酸をもつ。別の態様では、O−RSは大腸菌TyrRSのTyr37に対応する位置にグリシン、セリン、又はアラニン、大腸菌TyrRSのAsn126に対応する位置にアスパラギン酸、大腸菌TyrRSのAsp182に対応する位置にアスパラギン、大腸菌TyrRSのPhe183に対応する位置にアラニン、又はバリン、及び/又は大腸菌TyrRSのLeu186に対応する位置にメチオニン、バリン、システイン、又はスレオニンから選択される2種以上のアミノ酸を含む。例えば本明細書の表4、表6、及び表8も参照。
O−RSに加え、本発明の真核細胞は付加成分(例えば非天然アミノ酸)も含むことができる。真核細胞は更に(例えば大腸菌、バシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、及び/又は同等物等の非真核生物に由来する)直交tRNA(O−tRNA)を含み、前記O−tRNAはセレクターコドンを認識し、O−RSにより非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化される。該当ポリペプチドをコードし、O−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含むポリヌクレオチド、又はこれらの1種以上の組み合わせを含む核酸も細胞に存在することができる。
1側面では、O−tRNAは配列番号65に記載のポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列からプロセシングされるtRNAの例えば少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は99%以上の効率で非天然アミノ酸の蛋白質組込みを媒介する。別の側面では、O−tRNAは配列番号65を含み、O−RSは配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86のいずれか1種に記載のポリペプチド配列、及び/又はその保存変異体を含む。代表的O−RS及びO−tRNA分子の配列については、例えば本明細書の表5及び実施例6も参照。
1例では、真核細胞は直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と、直交tRNA(O−tRNA)と、非天然アミノ酸と、該当ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含み、前記ポリヌクレオチドはO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含む。O−RSは真核細胞において直交tRNA(O−tRNA)を非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化し、細胞は非天然アミノ酸の存在下におけるポリペプチドの収率の例えば30%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2.5%未満等の収率で非天然アミノ酸の不在下に該当ポリペプチドを生産する。
本発明の特徴であるO−RSの作製方法は場合により野生型シンテターゼの骨格から突然変異体シンテターゼのプールを作製する段階と、その後、20種の標準アミノ酸と比較した非天然アミノ酸に対する特異性に基づいて突然変異RSを選択する段階を含む。このようなシンテターゼを単離するために、本発明の選択方法は(i)初期ラウンドからの所望シンテターゼの活性を低くすることができ、集団が小さいので高感度であり、(ii)各選択ラウンドで選択ストリンジェンシーを変えることが望ましいので「調節可能」であり、(iii)汎用性であるため、種々の非天然アミノ酸に使用できる。
真核細胞において直交tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)の作製方法は一般にポジティブ選択後にネガティブ選択を行う組み合わせを適用する段階を含む。ポジティブ選択では、ポジティブマーカーの非必須位置に導入したセレクターコドンの抑圧により、真核細胞をポジティブ選択圧下で生存させる。従って、非天然アミノ酸の存在下で生存細胞は直交サプレッサーtRNAに非天然アミノ酸を負荷する活性シンテターゼをコードする。ネガティブ選択では、ネガティブマーカーの非必須位置に導入したセレクターコドンの抑圧により、天然アミノ酸特異性をもつシンテターゼを除去する。ネガティブ選択とポジティブ選択の生存細胞は直交サプレッサーtRNAを非天然アミノ酸でのみ(又は少なくとも優先的に)アミノアシル化(負荷)するシンテターゼをコードする。
例えば、前記方法は(a)i)アミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)のライブラリーのメンバーと、ii)直交tRNA(O−tRNA)と、iii)ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドと、iv)ネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドを各々含む第1の種の真核細胞の集団について非天然アミノ酸の存在下でポジティブ選択を実施し、ポジティブ選択後に生存している細胞が非天然アミノ酸の存在下で直交tRNA(O−tRNA)をアミノアシル化する活性RSであると判定する段階と;(b)ポジティブ選択後に生存している細胞について非天然アミノ酸の不在下でネガティブ選択を実施し、O−tRNAを天然アミノ酸でアミノアシル化する活性RSを排除することにより、O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化するO−RSを得る段階を含む。
ポジティブ選択マーカーは種々の分子の任意のものとすることができる。1態様では、ポジティブ選択マーカーは増殖用栄養補助剤を提供する物質であり、選択は栄養補助剤を含まない培地で実施される。ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドの例としては限定されないが、例えば細胞のアミノ酸栄養要求性の相補に基づくレポーター遺伝子、his3遺伝子(例えばhis3遺伝子は3−アミノトリアゾール(3−AT)を添加することにより検出されるイミダゾールグリセロールリン酸脱水素酵素をコードする)、ura3遺伝子、leu2遺伝子、lys2遺伝子、lacZ遺伝子、adh遺伝子等が挙げられる。例えばG. M. Kishore, & D. M. Shah, (1988), Amino acid biosynthesis inhibitors as herbicides, Annual Review of Biochemistry 57:627-663参照。1態様では、lacZ生産はオルト−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド(ONPG)加水分解により検出される。例えばI. G. Serebriiskii, & E. A. Golemis, (2000), Uses of lacZ to study gene function:evaluation of beta-galactosidase assays employed in the yeast two-hybrid system, Analytical Biochemistry 285:1-15参照。その他のポジティブ選択マーカーとしては、例えばルシフェラーゼ、緑色蛍光蛋白質(GFP)、YFP、EGFP、RFP、抗生物質耐性遺伝子産物(例えばクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT))、転写モジュレーター蛋白質(例えばGAL4)等が挙げられる。場合により、ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドはセレクターコドンを含む。
ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドは応答エレメントに機能的に連結することができる。応答エレメントからの転写を調節する転写モジュレーター蛋白質をコードし、少なくとも1個のセレクターコドンを含む付加ポリヌクレオチドも存在することができる。非天然アミノ酸でアミノアシル化されたO−tRNAにより非天然アミノ酸が転写モジュレーター蛋白質に組込まれる結果としてポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチド(例えばレポーター遺伝子)が転写される。例えば、図1A参照。場合により、セレクターコドンは転写モジュレーター蛋白質のDNA結合ドメインをコードするポリヌクレオチドの一部又は実質的にその近傍に配置される。
ネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドも転写モジュレーター蛋白質により転写を媒介される応答エレメントに機能的に連結することができる。例えばA. J. DeMaggioら, (2000), The yeast split-hybrid system, Method Enztmol. 328:128-137;H. M. Shihら, (1996), A positive genetic selection for disrupting protein-protein interactions:identification of CREB mutations that prevent association with the coactivator CBP, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 93:13896-13901;M. Vidalら, (1996), Genetic characterization of a mammalian protein-protein interaction domain by using a yeast reverse two-hybrid system. [comment], Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 93:10321-10326;及びM. Vidalら, (1996), Reverse two-hybrid and One-hybrid systems to detect dissociation of protein-protein and DNA-protein interactions. [comment], Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 93:10315-10320参照。天然アミノ酸でアミノアシル化されたO−tRNAにより天然アミノ酸が転写モジュレーター蛋白質に組込まれる結果としてネガティブ選択マーカーが転写される。場合により、ネガティブ選択マーカーはセレクターコドンを含む。1態様では、本発明のポジティブ選択マーカー及び/又はネガティブ選択マーカーは少なくとも2個のセレクターコドンを含むことができ、セレクターコドンは各々又は両方が少なくとも2個の異なるセレクターコドンを含むこともできるし、少なくとも2個の同一セレクターコドンを含むこともできる。
転写モジュレーター蛋白質は核酸配列(例えば応答エレメント)と(直接又は間接的に)結合し、応答エレメントに機能的に連結された配列の転写を調節する分子である。転写モジュレーター蛋白質としては、転写アクチベーター蛋白質(例えばGAL4、核内ホルモン受容体、AP1、CREB、LEF/tcfファミリーメンバー、SMAD、VP16、SP1等)、転写リプレッサー蛋白質(例えば核内ホルモン受容体、Groucho/tleファミリー、Engrailedファミリー等)、又は環境に依存して両活性をもつことができる蛋白質(例えばLEF/tcf、ホメオボックス蛋白質等)が挙げられる。応答エレメントは一般に転写モジュレーター蛋白質により認識される核酸配列又は転写モジュレーター蛋白質に呼応して作用する付加物質である。
転写モジュレーター蛋白質の別の例は転写アクチベーター蛋白質GAL4(例えば図1A参照)である。例えばA. Laughonら, (1984), Identification of two proteins encoded by the Saccharomyces cerevisiae GAL gene, Molecular & Cellular Biology 4:268-275;A. Laughon, & R. F. Gesteland, (1984), Primary structure of the Saccharomyces cerevisiae GAL4 gene, Molecular & Cellular Biology 4:260-267;L. Keeganら, (1986), Separation of DNA binding from the transcription-activating function of a eukaryotic regulatory protein, Science 231:699-704;及びM. Ptashne, (1988), How eukaryotic transcriptional activators work, Nature 335:683-689参照。この881アミノ酸蛋白質のN末端147アミノ酸はDNA配列と特異的に結合するDNA結合ドメイン(DBD)を形成する。例えばM. Careyら, (1989), An amino-terminal fragment of GAL4 binds DNA as a dimer, J. Mol. Biol. 209:423-432;及びE. Ginigerら, (1985), Specific DNA binding of GAL4, a positive regulatory protein of yeast, Cell 40:767-774参照。DBDはDNAと結合すると転写を活性化することができるC末端113アミノ酸活性化ドメイン(AD)と介在蛋白質配列により連結されている。例えばJ. Ma, & M. Ptashne, (1987), Deletion analysis of GAL4 defines two transcriptional activating segments, Cell 48:847-853:及びJ. Ma, & M. Ptashne, (1987), The carboxy-terminal 30 amino acids of GAL4 are recognized by GAL80, Cell 50:137-142参照。例えばGAL4のN末端DBDとそのC末端ADの両者を含む単一ポリペプチドのN末端DBD側にアンバーコドンを配置することにより、O−tRNA/O−RS対によるアンバー抑圧をGAL4による転写活性化に連携させることができる(図1A)。GAL4により活性化されたレポーター遺伝子を使用してこの遺伝子によりポジティブ選択とネガティブ選択の両方を実施することができる(図1B)。
ネガティブ選択に使用される培地はネガティブ選択マーカーにより検出可能な物質に変換される選択又はスクリーニング物質を含むことができる。本発明の1側面では、検出可能な物質は毒性物質である。ネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドは例えばura3遺伝子とすることができる。例えば、GAL4 DNA結合部位を含むプロモーターの制御下にURA3レポーターを置くことができる。例えばセレクターコドンをもつGAL4をコードするポリヌクレオチドの翻訳によりネガティブ選択マーカーが生産されると、GAL4はURA3の転写を活性化する。ネガティブ選択はura3遺伝子の遺伝子産物により検出可能な物質(例えば細胞を死滅させる毒性物質)に変換される5−フルオロオロト酸(5−FOA)を含む培地で実施される。例えばJ. D. Boekeら, (1984), A positive selection for mutants lacking orotidine-5’-phosphate decarboxylase activity in yeast:5-fluoroorotic acid resistance, Molecular & General Genetics 197:345-346);M. Vidalら, (1996), Genetic characterization of a mammalian protein-protein interaction domain by using a yeast reverse two-hybrid system. [comment], Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 93:10321-10326;及びM. Vidalら, (1996), Reverse two-hybrid and one-hybrid systems to detect dissociation of protein-protein and DNA-proteir interactions. [comment], Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 93:10315-10320参照。図8Cも参照。
ポジティブ選択マーカーと同様に、ネガティブ選択マーカーも種々の分子の任意のものとすることができる。1態様では、ポジティブ選択マーカー及び/又はネガティブ選択マーカーは適切な反応体の存在下で蛍光発光するか又は発光反応を触媒するポリペプチドである。例えば、ネガティブ選択マーカーとしては限定されないが、例えばルシフェラーゼ、緑色蛍光蛋白質(GFP)、YFP、EGFP、RFP、抗生物質耐性遺伝子産物(例えばクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT))、lacZ遺伝子産物、転写モジュレーター蛋白質等が挙げられる。本発明の1側面では、ポジティブ選択マーカー及び/又はネガティブ選択マーカーは蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)又は発光により検出される。別の例では、ポジティブ選択マーカー及び/又はネガティブ選択マーカーは親和性に基づくスクリーニングマーカーを含む。同一ポリヌクレオチドがポジティブ選択マーカーとネガティブ選択マーカーの両者をコードすることもできる。
本発明の方法では付加レベルの選択/スクリーニングストリンジェンシーを使用することもできる。選択又はスクリーニングストリンジェンシーはO−RSを作製するための方法の一方又は両方の段階で変動させることができる。これは例えばポジティブ及び/又はネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドにおける応答エレメントの量を変動させたり、段階の一方又は両方に変動量の不活性シンテターゼを添加したり、選択/スクリーニング物質の使用量を変動させる等の操作により実施することができる。付加ラウンドのポジティブ及び/又はネガティブ選択を実施することもできる。
選択又はスクリーニングは更に1種以上のポジティブ又はネガティブ選択又はスクリーニングを含むことができ、例えばアミノ酸浸透率の変化、翻訳効率の変化、翻訳忠実度の変化等が挙げられる。一般に、前記1種以上の変化は蛋白質を生産するために使用される直交tRNA−tRNAシンテターゼ対の成分を含むか又はコードする1種以上のポリヌクレオチドの突然変異に基づく。
過剰の不活性シンテターゼから活性シンテターゼを迅速に選択するためにモデル集積試験を使用することもできる。ポジティブ及び/又はネガティブモデル選択試験を実施することができる。例えば、潜在的活性アミノアシルtRNAシンテターゼを含む真核細胞を変動倍過剰の不活性アミノアシルtRNAシンテターゼと混合する。非選択培地で増殖させ、例えばX−GAL重層法によりアッセイした細胞と、選択培地で(例えばヒスチジン及び/又はウラシルの不在下に)増殖させて生存することができ、例えばX−GALアッセイによりアッセイした細胞の比率を比較する。ネガティブモデル選択では、潜在的活性アミノアシルtRNAシンテターゼを変動倍過剰の不活性アミノアシルtRNAシンテターゼと混合し、ネガティブ選択物質(例えば5−FOA)により選択を実施する。
一般に、RSのライブラリー(例えば突然変異体RSのライブラリー)は例えば非真核生物に由来する少なくとも1種のアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)に由来するRSを含む。1態様では、RSのライブラリーは不活性RSに由来し、例えば不活性RSは例えばシンテターゼの活性部位、シンテターゼの編集メカニズム部位、シンテターゼの種々のドメインを組み合わせた種々の部位等において活性RSを突然変異させることにより作製される。例えば、RSの活性部位の残基を例えばアラニン残基に突然変異させる。アラニンに突然変異したRSをコードするポリヌクレオチドを鋳型として使用し、アラニン残基を全20種のアミノ酸に突然変異誘発する。O−RSを生産するように突然変異RSのライブラリーを選択/スクリーニングする。別の態様では、不活性RSはアミノ酸結合ポケットを含み、結合ポケットを構成する1種以上のアミノ酸は1種以上の異なるアミノ酸で置換されている。1例では、置換アミノ酸はアラニンで置換されている。場合により、アラニンに突然変異したRSをコードするポリヌクレオチドを鋳型として使用し、アラニン残基を全20種のアミノ酸に突然変異誘発し、選択/スクリーニングする。
O−RSの作製方法は当分野で公知の種々の突然変異誘発技術を使用することによりRSのライブラリーを作製する段階を更に含む。例えば、突然変異体RSは部位特異的突然変異、ランダム点突然変異、相同組換え、DNAシャフリング又は他の再帰的突然変異誘発法、キメラ構築又はその任意組み合わせにより作製することができる。例えば、突然変異体RSのライブラリーは2種以上の他の例えばサイズとダイバーシティーの小さい「サブライブラリー」から作製することができる。シンテターゼにポジティブ及びネガティブ選択/スクリーニングストラテジーを実施した後、これらのシンテターゼに更に突然変異誘発を実施することができる。例えば、O−RSをコードする核酸を単離することができ;(例えばランダム突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、組換え又はその任意組み合わせにより)突然変異O−RSをコードする1組のポリヌクレオチドを核酸から作製することができ;O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する突然変異O−RSが得られるまでこれらの個々の段階又はこれらの段階の組み合わせを繰り返すことができる。本発明の1側面では、段階を少なくとも2回実施する。
O−RSの作製に関するその他の詳細についてはWO2002/086075、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(Methods and compositions for the production of orthogonal tRNA-aminoacyl tRNA synthetase pairs)」に記載されている。Hamano-Takakuら, (2000)A mutant Escherichia coli tyrosyl-tRNA Synthetase Utilizes the Unnatural Amino Acid Azatyrosine More Efficiently than tyrosine, Journal of Biological Chemistry, 275(51):40324-40328;Kigaら(2002), An engineered Escherichia coli tyrosyl-tRNA synthetase for site-specific incorporation of an unnatural amino acid into proteins in eukaryotic translation and its application in a wheat germ cell-free system, PNAS 99(15):9715-9723;及びFrancklynら, (2002), Aminoacyl-tRNA synthetases:Versatile players in the changing theater of translation;RNA, 8:1363-1372も参照。
直交tRNA
本発明は直交tRNA(O−tRNA)を含む真核細胞を提供する。直交tRNAはO−tRNAによりインビボ(in vivo)認識されるセレクターコドンを含むポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質への非天然アミノ酸の組込みを媒介する。所定態様では、本発明のO−tRNAは配列番号65に記載のポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列から細胞でプロセシングされるtRNAの例えば少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、又は90%以上の効率で非天然アミノ酸の蛋白質組込みを媒介する。本明細書の表5参照。
本発明のO−tRNAの1例は配列番号65である(本明細書の実施例6及び表5参照)。配列番号65は場合により例えば細胞の内在スプライシング及びプロセシング機構を使用して細胞中でプロセシングされ、修飾されて活性O−tRNAを形成するプレスプライシング/プロセシング転写産物である。一般に、このようなプレスプライシング転写産物の集団は細胞中で活性tRNAの集団を形成する(活性tRNAは1種以上の活性形態とすることができる)。本発明はO−tRNAの保存変異体とそのプロセシングされた細胞内産物も含む。例えば、O−tRNAの保存変異体としては、配列番号65のO−tRNAと同様に機能し、例えばプロセシングされた形態でtRNA L形構造を維持するが、同一配列をもたない(野生型tRNA分子以外の)分子が挙げられる。一般に、本発明のO−tRNAはセレクターコドンに応答してポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質への非天然アミノ酸の組込みを再媒介するためにインビボ(in vivo)再アミノアシル化することができるのでリサイクル可能なO−tRNAである。
原核生物と異なり、真核生物におけるtRNA転写はRNAポリメラーゼIIIにより行われるので、真核細胞で転写することができるtRNA構造遺伝子の一次配列は制限される。更に、真核細胞ではtRNAが翻訳機能するためにはその転写の場である核から細胞質に輸送する必要がある。本発明のO−tRNAをコードする核酸又はその相補的ポリヌクレオチドも本発明の特徴である。本発明の1側面では、本発明のO−tRNAをコードする核酸としては内部プロモーター配列、例えばAボックス(例えばTRGCNNAGY)とBボックス(例えばGGTTCGANTCC,配列番号88)が挙げられる。本発明のO−tRNAは転写後修飾することもできる。例えば、真核生物におけるtRNA遺伝子の転写後修飾としては夫々Rnase P及び3’−エンドヌクレアーゼによる5’−及び3’−フランキング配列の除去が挙げられる。3’−CCA配列の付加も真核生物におけるtRNA遺伝子の転写後修飾である。
1態様では、O−tRNAは第1の種の真核細胞の集団についてネガティブ選択を実施することにより得られ、真核細胞はtRNAのライブラリーのメンバーを含む。ネガティブ選択は真核細胞に内在するアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)によりアミノアシル化されるtRNAのライブラリーのメンバーを含む細胞を排除する。こうして第1の種の真核細胞に直交なtRNAのプールが得られる。
別法として又は非天然アミノ酸をポリペプチドに組込みための他の上記方法と組み合わせてトランス翻訳システムを使用することができる。このシステムは大腸菌に存在するtmRNAと呼ぶ分子を利用する。このRNA分子はアラニルtRNAと構造的に関連しており、アラニルシンテターゼによりアミノアシル化される。tmRNAとtRNAの相違はアンチコドンループが特殊な大きい配列で置換されていることである。この配列はtmRNA内でコードされるオープンリーディングフレームを鋳型として使用し、停止している配列でリボソームに翻訳を再開させることができる。本発明では、直交シンテターゼで優先的にアミノアシル化され、非天然アミノ酸を負荷される直交tmRNAを作製することができる。遺伝子をこのシステムにより転写することにより、リボソームは特定部位で停止し;非天然アミノ酸をこの部位に導入し、直交tmRNA内でコードされる配列を使用して翻訳が再開する。
組換え直交tRNAの他の作製方法も例えば国際特許出願WO2002/086075、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(Methods and compositions for the production of orthogonal tRNA-aminoacyl tRNA synthetase pairs)」に記載されている。Forsterら, (2003)Programming peptidomimetic synthetases by translating genetic codes designed de novo PNAS 100(11):6353-6357;及びFengら, (2003), Expanding tRNA recognition of a tRNA synthetase by a single amino acid change, PNAS 100(10):5676-5681も参照。
直交tRNA及び直交アミノアシルtRNAシンテターゼ対
直交対はO−tRNA(例えばサプレッサーtRNA、フレームシフトtRNA等)とO−RSから構成される。O−tRNAは内在シンテターゼによりアシル化されず、O−tRNAによりインビボ(in vivo)認識されるセレクターコドンを含むポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質への非天然アミノ酸の組込みを媒介することができる。O−RSはO−tRNAを認識し、真核細胞においてO−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。直交対の作製方法と前記方法により作製された直交対及び真核細胞で使用するための直交対の組成物も本発明に含まれる。多重直交tRNA/シンテターゼ対の開発により、真核細胞で各種コドンを使用して多重非天然アミノ酸の同時に組込みが可能になる。
種間アミノアシル化が非効率的な別の生物から対(例えばナンセンスサプレッサー対)を取り込むことにより真核細胞で直交O−tRNA/O−RS対を作製することができる。O−tRNAとO−RSは真核細胞で効率的に発現及びプロセシングされ、O−tRNAは効率的に核から細胞質に輸送される。例えば、このような対の1例は大腸菌に由来するチロシル−tRNAシンテターゼ/tRNACUA対である(例えばH. M. Goodmanら, (1968), Nature 217:1019-24;及びD. G. Barkerら, (1982), FEBS Letters 150:419-23参照)。大腸菌チロシル−tRNAシンテターゼはそのコグネイト大腸菌RNACUAと共にS.セレビシエ(S.cerevisiae)の細胞質で発現させると前記コグネイトを効率的にアミノアシル化するが、S.セレビシエ(S.cerevisiae)tRNAをアミノアシル化しない。例えばH. Edwards, & P. Schimmel, (1990), Molecular & Cellular Biology 10:1633-41;及びH. Edwardsら, (1991), PNAS United States of America 88:1153-6参照。更に、大腸菌チロシルtRNACUAはS.セレビシエ(S.cerevisiae)アミノアシルtRNAシンテターゼの不良基質である(例えばV. Trezeguetら, (1991), Molecular & Cellular Biology 11:2744-51参照)が、S.セレビシエ(S.cerevisiae)で蛋白質翻訳に効率的に機能する。例えばH. Edwards, & P. Schimmel, (1990)Molecular & Cellular Biology 10:1633-41;H. Edwardsら, (1991), PNAS United States of America 88:1153-6;及びV. Trezeguetら, (1991), Molecular & Cellular Biology 11:2744-51参照。更に、大腸菌TyrRSはtRNAにライゲートした非天然アミノ酸をプルーフリードするための編集メカニズムをもたない。
O−tRNAとO−RSは天然に存在するものでもよいし、種々の生物に由来するtRNAのライブラリー及び/又はRSのライブラリーを形成する天然に存在するtRNA及び/又はRSの突然変異により誘導してもよい。本明細書の「資源及び宿主生物」のセクション参照。種々の態様において、O−tRNAとO−RSは少なくとも1種の生物に由来する。別の態様では、O−tRNAは第1の生物に由来する天然に存在するか又は天然に存在するものを突然変異させたtRNAに由来し、O−RSは第2の生物に由来する天然に存在するか又は天然に存在するものを突然変異させたRSに由来する。1態様では、第1の非真核生物と第2の非真核生物は同一である。あるいは、第1の非真核生物と第2の非真核生物は異なるものでもよい。
O−RS及びO−tRNAの作製方法については本明細書の「直交アミノアシルtRNAシンテターゼ」及び「O−tRNA」のセクション参照。国際特許出願WO2002/086075、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(Methods and compositions for the production of orthogonal tRNA-aminoacyl tRNA synthetase pairs)」も参照。
忠実度、効率、及び収率
忠実度とは所望分子(例えば非天然アミノ酸又はアミノ酸)が成長中のポリペプチドの所望位置に組込まれる確度を意味する。本発明の翻訳成分はセレクターコドンに応答して非天然アミノ酸を高い忠実度で蛋白質に組込む。例えば、本発明の成分を使用すると、(例えばセレクターコドンに応答して)成長中のポリペプチド鎖の所望位置に所望非天然アミノ酸が組込まれる効率は成長中のポリペプチド鎖の所望位置への特定天然アミノ酸の望ましくない組込みに比較して例えば>75%、>85%、>95%、又は>99%又はそれ以上である。
効率とは、O−RSが関連対照に比較してO−tRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化する程度を意味する場合もある。本発明のO−RSはその効率により定義することができる。本発明の所定態様では、O−RSを別のO−RSと比較する。例えば、本発明のO−RSは例えば配列番号86又は45に記載のアミノ酸配列をもつO−RS(又は表5に示す別の特定RS)がO−tRNAをアミノアシル化する場合の例えば少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は99%以上の効率でO−tRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化する。別の態様では、本発明のO−RSはO−RSがO−tRNAを天然アミノ酸でアミノアシル化する場合の少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍等の効率でO−tRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化する。
本発明の翻訳成分を使用すると、非天然アミノ酸を含む該当ポリペプチドの収率はポリヌクレオチドにセレクターコドンをもたない細胞から天然に存在する該当ポリペプチドで得られる収率の例えば少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、50%以上である。別の側面では、細胞は非天然アミノ酸の存在下におけるポリペプチドの収率の例えば30%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2.5%未満等の収率で非天然アミノ酸の不在下に該当ポリペプチドを生産する。
資源及び宿主生物
本発明の直交翻訳成分は一般に真核細胞又は翻訳系で使用するために非真核生物に由来する。例えば、直交O−tRNAは例えば真正細菌(例えば大腸菌(Escherichia coli)、サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)、バシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)等)や始原菌(例えばメタノコッカス・ヤナシイ(Methanococcus jannaschii)、メタノバクテリウム・テルモオートロフィカム(Methanobacterium thermoautotrophicum)、ハロバクテリウム(Halobacterium)(例えばハロフェラックス・ボルカニ(Haloferax volcanii)及びハロバクテリウム(Halobacterium)種NRC−1)、アルカエオグロブス・フルギドゥス(Archaeoglobus fulgidus)、ピュロコッカス・フリオスス(Pyrococcus furiosus)、ピュロコッカス・ホリコシ(Pyrococcus horikoshii)、アエロピュルム・ペルニクス(Aeuropyrum pernix)等)等の非真核生物に由来することができ、直交O−RSは例えば真正細菌(例えば大腸菌(Escherichia coli)、サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)、バシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)等)や始原菌(例えばメタノコッカス・ヤナシイ(Methanococcus jannaschii)、メタノバクテリウム・テルモオートロフィカム(Methanobacterium thermoautotrophicum)、ハロバクテリウム(Halobacterium)(例えばハロフェラックス・ボルカニ(Haloferax volcanii)及びハロバクテリウム(Halobacterium)種NRC−1)、アルカエオグロブス・フルギドゥス(Archaeoglobus fulgidus)、ピュロコッカス・フリオスス(Pyrococcus furiosus)、ピュロコッカス・ホリコシ(Pyrococcus horikoshii)、アエロピュルム・ペルニクス(Aeuropyrum pernix)等)等の非真核生物に由来することができる。あるいは、例えば植物、藻類、原生動物、真菌、酵母、動物(例えば哺乳動物、昆虫、節足動物等)等の真核資源も使用することができ、例えば成分は該当細胞もしくは翻訳系に直交であるか又は該当細胞もしくは翻訳系に直交となるように改変(例えば突然変異)されている。
O−tRNA/O−RS対の個々の成分は同一生物に由来するものでも異なる生物に由来するものでもよい。1態様では、O−tRNA/O−RS対は同一生物に由来する。例えば、O−tRNA/O−RS対は大腸菌に由来するチロシル−tRNAシンテターゼ/tRNACUA対に由来することができる。あるいは、O−tRNA/O−RS対のO−tRNAとO−RSは場合により異なる生物に由来する。
直交O−tRNA、O−RS又はO−tRNA/O−RS対は非天然アミノ酸を組込んだポリペプチドを生産するために真核細胞で選択又はスクリーニング及び/又は使用することができる。真核細胞は種々の資源に由来することができ、例えば植物(例えば単子葉植物や双子葉植物等の複雑な植物)、藻類、原生生物、真菌、酵母(例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))、動物(例えば哺乳動物、昆虫、節足動物等)等が挙げられる。本発明の翻訳成分を組込んだ真核細胞の組成物も本発明の特徴である。
本発明は第1の種及び/又は第2の種で(場合により、付加選択/スクリーニングなしに)場合により使用するための第1の種における効率的スクリーニングも提供する。例えば、第1の種(例えば操作し易い種(例えば酵母細胞等))でO−tRNA/O−RSの成分を選択又はスクリーニングし、第2の真核種(例えば植物(例えば単子葉植物や双子葉植物等の複雑な植物)、藻類、原生生物、真菌、酵母、動物(例えば哺乳動物、昆虫、節足動物等)等)への非天然アミノ酸のインビボ(in vivo)組込みに使用するために第2の種に導入する。
例えば、単細胞であり、1世代の寿命が短く、遺伝が比較的十分に特性決定されていることから、サッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)を第1の真核種として選択することができる。例えばD. Burkeら, (2000)Methods in Yeast Genetics. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY参照。更に、真核生物の翻訳機構は高度に保存されている(例えば(1996)Translational Control. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY;Y. Kwok, & J. T. Wong, (1980), Evolutionary relationship between Halobacterium cutirubrum and eukaryotes determined by use of aminoacyl-tRNA synthetases as phylogenetic probes, Canadian Journal of Biochemistry 58:213-218;及び(2001)The Ribosome. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY参照)ので、S・セレビシエ(S. cerevisiae)で発見された非天然アミノ酸の組込み用aaRS遺伝子を高等真核生物に導入し、非天然アミノ酸を組込むためにコグネイトtRNAと併用することができる(例えばK. Sakamotoら, (2002)Site-specific incorporation of an unnatural amino acid into proteins in mammalian cells, Nucleic Acids Res. 30:4692-4699;及びC. Kohrerら, (2001), Import of amber and ochre suppressor tRNAs into mammalian cells:a general approach to site-specific insertion of amino acid analogues into proteins, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 98:14310-14315参照)。
1例では、本明細書に記載するように第1の種でO−tRNA/O−RSを生産する方法はO−tRNAをコードする核酸と、O−RSをコードする核酸を第2の種(例えば哺乳動物、昆虫、真菌、藻類、植物等)の真核細胞に導入する段階を更に含む。別の例では、真核細胞において直交tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)の生産方法は(a)第1の種(例えば酵母等)の真核細胞の集団について非天然アミノ酸の存在下でポジティブ選択を実施する段階を含む。前記真核細胞は各々i)アミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)のライブラリーのメンバーと、ii)直交tRNA(O−tRNA)と、iii)ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドと、iv)ネガティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドを含む。ポジティブ選択後に生存している細胞は非天然アミノ酸の存在下で直交tRNA(O−tRNA)をアミノアシル化する活性RSを含む。ポジティブ選択後に生存している細胞について非天然アミノ酸の不在下でネガティブ選択を実施し、O−tRNAを天然アミノ酸でアミノアシル化する活性RSを排除する。こうしてO−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化するO−RSが得られる。O−tRNAをコードする核酸と、O−RSをコードする核酸(又は成分O−tRNA及び/又はO−RS)を第2の種(例えば哺乳動物、昆虫、真菌、藻類、植物及び/又は同等物)の真核細胞に導入する。一般に、O−tRNAは第1の種の真核細胞の集団についてネガティブ選択を実施することにより得られ、前記真核細胞はtRNAのライブラリーのメンバーを含む。ネガティブ選択は真核細胞に内在するアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)によりアミノアシル化されるtRNAのライブラリーのメンバーを含む細胞を排除し、こうして第1の種と第2の種の真核細胞に直交なtRNAのプールが得られる。
セレクターコドン
本発明のセレクターコドンは蛋白質生合成機構の遺伝コドン枠を拡張する。例えば、セレクターコドンとしては例えばユニーク3塩基コドン、ナンセンスコドン(例えばアンバーコドン(UAG)又はオパールコドン(UGA)等の終止コドン)、非天然コドン、少なくとも4塩基のコドン、レアコドン等が挙げられる。例えば1個以上、2個以上、3個以上等の多数のセレクターコドンを所望遺伝子に導入することができる。1個の遺伝子が所与セレクターコドンの複数のコピーを含むこともできるし、複数の異なるセレクターコドン又はその任意組み合わせを含むこともできる。
1態様では、本方法は非天然アミノ酸を真核細胞にインビボ(in vivo)組込むために終止コドンであるセレクターコドンを使用する。例えば、終止コドン(例えばUAG)を認識し、O−RSにより所望非天然アミノ酸でアミノアシル化されるO−tRNAを作製する。このO−tRNAは天然に存在する宿主のアミノアシルtRNAシンテターゼにより認識されない。慣用部位特異的突然変異誘発を使用して終止コドン(例えばTAG)を該当ポリペプチドの該当部位に導入することができる。例えばSayers, J. R. ら(1988), 5’, 3’Exonuclease in phosphorothioate-based oligonucleotide-directed mutagenesis. Nucleic Acids Res, 791-802参照。O−RS、O−tRNA及び該当ポリペプチドをコードする核酸をインビボ(in vivo)で併用すると、UAGコドンに応答して非天然アミノ酸が組込まれ、特定位置に非天然アミノ酸を含むポリペプチドが得られる。
非天然アミノ酸のインビボ(in vivo)組込みは真核宿主細胞にさほど影響を与えずに行うことができる。例えば、UAGコドンの抑圧効率はO−tRNA(例えばアンバーサプレッサーtRNA)と(終止コドンと結合してリボソームから成長中のペプチドの放出を開始する)真核放出因子(例えばeRF)の競合に依存するので、例えばO−tRNA(例えばサプレッサーtRNA)の発現レベルを増加することにより抑圧効率を調節することができる。
セレクターコドンは更に拡張コドン(例えば4、5、6塩基以上のコドン等の4塩基以上のコドン)も含む。4塩基コドンの例としては例えばAGGA、CUAG、UAGA、CCCU等が挙げられる。5塩基コドンの例としては例えばAGGAC、CCCCU、CCCUC、CUAGA、CUACU、UAGGC等が挙げられる。本発明の1特徴はフレームシフト抑圧に基づく拡張コドンの使用を含む。4塩基以上のコドンは例えば1又は複数の非天然アミノ酸を同一蛋白質に挿入することができる。例えば、アンチコドンループ(例えば少なくとも8〜10ntアンチコドンループ)をもつ突然変異O−tRNA(例えば特殊フレームシフトサプレッサーtRNA)の存在下では、4塩基以上のコドンは単一アミノ酸として読取られる。他の態様では、アンチコドンループは例えば少なくとも4塩基コドン、少なくとも5塩基コドン、又は少なくとも6塩基以上のコドンをデコードすることができる。4塩基コドンは256種が考えられるので、4塩基以上のコドンを使用すると同一細胞で多重非天然アミノ酸をコードすることができる。Andersonら, (2002) Exploring the Limits of Codon and Anticodon Size, Chemistry and Biology, 9, 237-244;Magliery, (2001) Expanding the Genetic Code: Selection of Efficient Suppressors of Four-base Codons and Identification of “Shifty” Four-base Codons with a Library Approach in Escherichia coli, J. Mol. Biol. 307:755-769参照。
例えば、インビトロ(in vitro)生合成法を使用して非天然アミノ酸を蛋白質に組込むために4塩基コドンが使用されている。例えばMaら, (1993) Biochemistry, 32, 7939;及びHohsakaら, (1999) J. Am. Chem. Soc., 121:34参照。2個の化学的にアシル化されたフレームシフトサプレッサーtRNAを用いて2−ナフチルアラニンとリジンのNBD誘導体をストレプトアビジンに同時にインビトロ(in vitro)で組込むためにCGGGとAGGUが使用されている。例えばHohsakaら, (1999)J. Am. Chem. Soc., 121:12194参照。インビボ(in vivo)試験では、MooreらはNCUAアンチコドンをもつtRNALeu誘導体がUAGNコドン(NはU、A、G又はCであり得る)を抑圧する能力を試験し、四重項UAGAはUCUAアンチコドンをもつtRNALeuにより13〜26%の効率でデコードすることができるが、0又は−1フレームでは殆どデコードできないことを見出した。Mooreら, (2000)J. Mol. Biol., 298:195参照。1態様において、本発明ではレアコドン又はナンセンスコドンに基づく拡張コドンを使用し、他の望ましくない部位でのミスセンス読み飛ばしとフレームシフト抑圧を減らすことができる。
所与系では、セレクターコドンは更に天然3塩基コドンの1種を含むことができ、内在系はこの天然塩基コドンを使用しない(又は殆ど使用しない)。例えば、天然3塩基コドンを認識するtRNAをもたない系、及び/又は3塩基コドンがレアコドンである系がこれに該当する。
セレクターコドンは場合により非天然塩基対を含む。これらの非天然塩基対は更に既存遺伝アルファベットを拡張する。塩基対が1個増えると、三重項コドン数は64から125に増す。第3の塩基対の性質としては安定的且つ選択的な塩基対合、高い忠実度でポリメラーゼによるDNAへの効率的な酵素組込み、及び未完成非天然塩基対の合成後の効率的な持続的プライマー伸長が挙げられる。方法と組成物に適応可能な非天然塩基対については、例えばHiraoら, (2002)An unnatural base pair for incorporating amino acid analogues into protein, Nature Biotechnology, 20:177-182参照。他の関連文献は以下に挙げる。
インビボ(in vivo)使用では、非天然ヌクレオシドは膜透過性であり、リン酸化され、対応する三リン酸塩を形成する。更に、増加した遺伝情報は安定しており、細胞内酵素により破壊されない。Bennerらによる従来の報告はカノニカルワトソンクリック対とは異なる水素結合パターンを利用しており、そのうちで最も注目される例はイソC:イソG対である。例えばSwitzerら, (1989) J. Am. Chem. Soc., 111:8322;及びPiccirilliら, (1990) Nature, 343:33;Kool, (2000) Curr. Opin. Chem. Biol., 4:602参照。これらの塩基は一般に天然塩基とある程度まで誤対合し、酵素複製することができない。Koolらは水素結合を塩基間の疎水性パッキング相互作用に置き換えることにより塩基対の形成を誘導できることを立証した。Kool, (2000) Curr. Opin. Chem. Biol., 4:602;及びGuckian and Kool, (1998) Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 36, 2825参照。上記全要件を満足する非天然塩基対を開発する目的でSchultz, Romerbergらは一連の非天然疎水性塩基を体系的に合成し、試験した。PICS:PICS自己対は天然塩基対よりも安定であり、大腸菌DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメント(KF)によりDNAに効率的に組込むことができる。例えばMcMinnら, (1999) J. Am. Chem. Soc., 121:11586;及びOgawaら, (2000) J. Am. Chem. Soc., 122:3274参照。生物機能に十分な効率と選択性でKFにより3MN:3MN自己対を合成することができる。例えばOgawaら, (2000)J. Am. Chem. Soc., 122:8803参照。しかし、どちらの塩基も後期複製用チェーンターミネーターとして作用するものである。PICS自己対を複製するために使用できる突然変異体DNAポリメラーゼが最近開発された。更に、7AI自己対も複製することができる。例えばTaeら, (2001) J. Am. Chem. Soc., 123:7439参照。Cu(II)と結合すると安定な対を形成する新規メタロ塩基対Dipic:Pyも開発された。Meggersら, (2000) J. Am. Chem. Soc., 122:10714参照。拡張コドンと非天然コドンは天然コドンに本質的に直交性であるので、本発明の方法は直交tRNAを作製するためにこの性質を利用することができる。
翻訳バイパス系を使用して非天然アミノ酸を所望ポリペプチドに組込むこともできる。1翻訳バイパス系では、大きい配列が遺伝子に挿入されるが、蛋白質に翻訳されない。この配列はリボソームに配列を飛び越させて挿入の下流の翻訳を再開するための合図として機能する構造を含む。
非天然アミノ酸
本明細書で使用する非天然アミノ酸とはセレノシステイン及び/又はピロリジンと20種の遺伝的にコードされる以下のαアミノ酸、即ちアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトフアン、チロシン、バリン以外の任意アミノ酸、修飾アミノ酸又はアミノ酸類似体を意味する。αアミノ酸の一般構造は式I:
により表される。
非天然アミノ酸は一般に式Iをもつ任意構造であり、式中、R基は20種の天然アミノ酸で使用されている以外の任意置換基である。20種の天然アミノ酸の構造については、例えばL. Stryer著Biochemistry, 第3版, 1988, Freeman and Company, New Yorkを参照されたい。なお、本発明の非天然アミノ酸は上記20種のαアミノ酸以外の天然化合物でもよい。
本発明の非天然アミノ酸は一般に側鎖が天然アミノ酸と異なるので、天然蛋白質と同様に他のアミノ酸(例えば天然又は非天然アミノ酸)とアミド結合を形成する。一方、非天然アミノ酸は天然アミノ酸と異なる側鎖基をもつ。例えば、式IにおけるRは場合によりアルキル、アリール、アシル、ケト、アジド、ヒドロキシル、ヒドラジン、シアノ、ハロ、ヒドラジド、アルケニル、アルキニル、エーテル、チオール、セレノ、スルホニル、硼酸、ボロン酸、ホスホ、ホスホノ、ホスフィン、複素環、エノン、イミン、アルデヒド、エステル、チオ酸、ヒドロキシルアミン、アミン基等又はその任意組合せを含む。他の該当非天然アミノ酸としては限定されないが、光架橋基をもつアミノ酸、スピン標識アミノ酸、蛍光アミノ酸、金属結合性アミノ酸、金属含有アミノ酸、放射性アミノ酸、新規官能基をもつアミノ酸、他の分子と共有又は非共有的に相互作用するアミノ酸、フォトケージド及び/又は光異性化可能なアミノ酸、ビオチン又はビオチン類似体を含有するアミノ酸、ケト含有アミノ酸、ポリエチレングリコール又はポリエーテルを含むアミノ酸、重原子置換アミノ酸、化学分解性又は光分解性アミノ酸、天然アミノ酸に比較して延長側鎖(例えばポリエーテル又は例えば約5もしくは約10炭素長を上回る長鎖炭化水素等)をもつアミノ酸、炭素結合糖含有アミノ酸、レドックス活性アミノ酸、アミノチオ酸含有アミノ酸、及び1個以上の毒性部分を含むアミノ酸が挙げられる。所定態様では、非天然アミノ酸は例えば蛋白質を固体支持体に結合するために使用される光架橋基をもつ。1態様では、非天然アミノ酸はアミノ酸側鎖に結合した糖部分(例えばグリコシル化アミノ酸)及び/又は他の糖鎖修飾をもつ。
新規側鎖を含む非天然アミノ酸に加え、非天然アミノ酸は場合により例えば式II及びIII:
の構造により表されるような修飾主鎖構造を含み、式中、Zは一般にOH、NH2、SH、NH−R’又はS−R’を含み、XとYは同一でも異なっていてもよく、一般にS又はOであり、RとR’は場合により同一又は異なり、一般に式Iをもつ非天然アミノ酸について上記に記載したR基と同一の基及び水素から選択される。例えば、本発明の非天然アミノ酸は場合により式II及びIIIにより表されるようにアミノ又はカルボキシル基に置換を含む。この種の非天然アミノ酸としては限定されないが、例えば20種の標準天然アミノ酸に対応する側鎖又は非天然側鎖をもつα−ヒドロキシ酸、α−チオ酸、α−アミノチオカルボキシレートが挙げられる。更に、α−炭素の置換は場合によりL、D又はα,α−ジ置換アミノ酸(例えばD−グルタミン酸、D−アラニン、D−メチル−O−チロシン、アミノ酪酸等)を含む。他の代替構造としては環状アミノ酸(例えばプロリン類似体や、3、4、6、7、8及び9員環プロリン類似体)、β及びγアミノ酸(例えば置換β−アラニン及びγ−アミノ酪酸)が挙げられる。
例えば、多数の非天然アミノ酸は天然アミノ酸(例えばチロシン、グルタミン、フェニルアラニン等)をベースとする。チロシン類似体としてはパラ置換チロシン、オルト置換チロシン、及びメタ置換チロシンが挙げられ、置換チロシンは例えばケト基(例えばアセチル基)、ベンゾイル基、アミノ基、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、チオール基、カルボキシ基、イソプロピル基、メチル基、C6−C20直鎖又は分枝鎖炭化水素、飽和又は不飽和炭化水素、O−メチル基、ポリエーテル基、ニトロ基、アリキニル基等を含む。更に、多置換アリール環も考えられる。本発明のグルタミン類似体としては限定されないが、α−ヒドロキシ誘導体、γ置換誘導体、環状誘導体及びアミド置換グルタミン誘導体が挙げられる。フェニルアラニン類似体の例としては限定されないが、パラ置換フェニルアラニン、オルト置換フェニルアラニン、及びメタ置換フェニルアラニンが挙げられ、置換基は例えばヒドロキシ基、メトキシ基、メチル基、アリル基、アルデヒド基、アジド、ヨード、ブロモ、ケト基(例えばアセチル基)、ベンゾイル、アルキニル基等を含む。非天然アミノ酸の特定例としては限定されないが、p−アセチル−L−フェニルアラニン、p−プロパルギルオキシフェニルアラニン、O−メチル−L−チロシン、L−3−(2−ナフチル)アラニン、3−メチルフェニルアラニン、O−4−アリル−L−チロシン、4−プロピル−L−チロシン、トリ−O−アセチル−GlcNAcβ−セリン、L−Dopa、フッ素化フェニルアラニン、イソプロピル−L−フェニルアラニン、p−アジド−L−フェニルアラニン、p−アシル−L−フェニルアラニン、p−ベンゾイル−L−フェニルアラニン、L−ホスホセリン、ホスホノセリン、ホスホノチロシン、p−ヨードフェニルアラニン、p−ブロモフェニルアラニン、p−アミノ−L−フェニルアラニン、イソプロピル−L−フェニルアラニン等が挙げられる。非天然アミノ酸の構造の例を図7B及び図11に示す。各種非天然アミノ酸のその他の構造は例えばWO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(in vivo incorporation of unnatural amino acids)」の図16、17、18、19、26及び29に記載されている。その他のメチオニン類似体については、Kiickら, (2002) Incorporation of azides into recombinant proteins for chemoselective modification by the Staudinger ligtation, PNAS 99:19-24の図1構造2−5も参照。
1態様では、非天然アミノ酸(例えばp−(プロパルギルオキシ)−フェニルアラニン)を含む組成物を提供する。p−(プロパルギルオキシ)−フェニルアラニンと、例えば蛋白質及び/又は細胞を含む各種組成物も提供する。1側面では、p−(プロパルギルオキシ)−フェニルアラニン非天然アミノ酸を含む組成物は更に直交tRNAを含む。非天然アミノ酸は直交tRNAと(例えば共有的に)結合することができ、例えばアミノアシル結合を介して直交tRNAと共有結合することもできるし、直交tRNAの末端リボース糖の3’OH又は2’OHと共有結合することもできる。
蛋白質に組込むことができる非天然アミノ酸による化学部分は蛋白質の種々の利点と操作を提供する。例えば、ケト官能基のユニークな反応性により、多数のヒドラジン又はヒドロキシルアミンを含有する試薬の任意のものを使用して蛋白質を選択的にインビトロ(in vitro)及びインビボ(in vivo)修飾することが可能になる。重原子非天然アミノ酸は例えばx線構造データのフェージングに有用であると思われる。非天然アミノ酸を使用して重原子を部位特異的に導入すると、重原子の位置の選択に選択性と柔軟性も得られる。光反応性非天然アミノ酸(例えばベンゾフェノン及びアリールアジド(例えばフェニルアジド)側鎖をもつアミノ酸)は例えば蛋白質のインビボ(in vivo)及びインビトロ(in vitro)光架橋を可能にする。光反応性非天然アミノ酸の例としては限定されないが、例えばp−アジド−フェニルアラニンとp−ベンゾイル−フェニルアラニンが挙げられる。光反応性非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質はその後、光反応基を付与する時間(及び/又は空間)制御の励起により随意に架橋することができる。1例では、例えば核磁気共鳴及び振動スペクトロスコピーを使用することにより局所構造及び力学のプローブとして同位体標識した例えばメチル基で非天然アミノ酸のメチル基を置換することができる。アルキニル又はアジド官能基は例えば[3+2]シクロ付加反応により蛋白質を分子で選択的に修飾することができる。
非天然アミノ酸の化学的合成
上記非天然アミノ酸の多くは例えばSigma(米国)やAldrich(Milwaukee,WI,米国)から市販されている。市販されていないものは場合により本明細書に記載する方法や各種刊行物に記載されている方法や当業者に公知の標準方法を使用して合成される。有機合成技術については例えばFessendonとFessendon著Organic Chemistry(1982, 第2版, Willard Grant Press, Boston Mass.);March著Advanced Organic Chemistry(第3版, 1985, Wiley and Sons, New York);及びCareyとSundberg著Advanced Organic Chemistry(第3版, Parts A and B, 1990, Plenum Press, New York)を参照されたい。非天然アミノ酸の合成について記載しているその他の刊行物としては例えばWO2002/085923,発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(in vivo incorporation of unnatural amino acids)」;Matsoukasら, (1995) J. Med. Chem., 38, 4660-4669;King, F. E. & Kidd, D. A. A. (1949) A New Synthesis of Glutamine and of γ-Dipeptides of Glutamic Acid from Phthylated Intermediates. J. Chem. Soc., 3315-3319;Friedman, O. M. & Chatterrji, R. (1959) Synthesis of Derivatives of Glutamine as Model Substrates for Anti-Tumor Agents. J. Am. Chem. Soc. 81, 3750-3752;Craig, J. C. ら(1988) Absolute Configuration of the Enantiomers of 7-Chloro-4[[4-(diethylamino)-1-methylbutyl]amino]quinoline(Chloroquine). J. Org. Chem. 53, 1167-1170;Azoulay, M., Vilmont, M. & Frappier, F. (1991) Glutamine analogues as Potential Antimalarials., Eur. J. Med. Chem. 26, 201-5;Koskinen, A. M. P. & Rapoport, H. (1989) Synthesis of 4-Substituted Prolines as Conformationally Constrained Amino Acid Analogues. J. Org. Chem. 54, 1859-1866;Christie, B. D. & Rapoport, H. (1985) Synthesis of Optically Pure Pipecolates from L-Asparagine. Application to the Total Synthesis of(+)-Apovincamine through Amino Acid Decarbonylation and Iminium Ion Cyclization. J. Org. Chem. 1989:1859-1866;Bartonら, (1987) Synthesis of Novel α-Amino-Acids and Derivatives Using Radical Chemistry:Synthesis of L-and D-α-Amino-Adipic Acids, L-α-aminopimelic Acid and Appropriate Unsaturated Derivatives. Tetrahedron Lett. 43:4297-4308;及びSubasingheら, (1992) Quisqualic acid analogues:synthesis of beta-heterocyclic 2-aminopropanoic acid derivatives and their activity at a novel quisqualate-sensitized site. J. Med. Chem. 35:4602-7が挙げられる。2002年12月22日付け特許出願,発明の名称「蛋白質アレー(Protein Arrays)」(代理人整理番号P1001US00)も参照されたい。
本発明の1側面では、p−(プロパルギルオキシ)フェニルアラニン化合物の合成方法が提供される。1方法は、例えば(a)N−tert−ブトキシカルボニル−チロシンとK2CO3を無水DMFに懸濁する段階と;(b)臭化プロパルギルを(a)の反応混合物に加え、ヒドロキシル基とカルボキシル基をアルキル化することにより、構造:
をもつ保護中間体化合物を得る段階と;(c)保護中間体化合物をMeOH中で無水HClと混合し、アミン部分を脱保護することにより、p−(プロパルギルオキシ)フェニルアラニン化合物を合成する段階を含む。1態様では、前記方法は(d)p−(プロパルギルオキシ)フェニルアラニンHClをNaOHとMeOHの水溶液に溶かし、室温で撹拌する段階と;(e)pHをpH7に調整する段階と;(f)p−(プロパルギルオキシ)フェニルアラニン化合物を沈殿させる段階を更に含む。例えば本明細書の実施例4のプロパルギルオキシフェニルアラニンの合成の欄参照。
非天然アミノ酸の細胞取込み
真核細胞による非天然アミノ酸取り込みは例えば蛋白質に組込むように非天然アミノ酸を設計及び選択する場合に一般に考慮される問題の1つである。例えば、α−アミノ酸の電荷密度が高いと、これらの化合物は細胞に浸透しにくいと思われる。天然アミノ酸は一連の蛋白質輸送システムにより真核細胞に取り込まれる。非天然アミノ酸が細胞に取り込まれる場合にはどの非天然アミノ酸が取り込まれるかを判断する迅速なスクリーニングを実施することができる。例えば2002年12月22日付け特許出願,発明の名称「蛋白質アレー(Protein Arrays)」(代理人整理番号P1001US00);及びLiu, D. R. & Schultz, P. G. (1999) Progress toward the evolution of an organism with an expanded genetic code. PNAS United States 96-4780-4785における毒性アッセイ参照。取込みは種々の方法で容易に分析されるが、細胞取込み経路に利用可能な非天然アミノ酸を設計する代替方法は、アミノ酸をインビボ(in vivo)生産する生合成経路を提供する方法である。
非天然アミノ酸の生合成
細胞にはアミノ酸と他の化合物を生産するために多数の生合成経路が元々存在している。特定非天然アミノ酸の生合成法は自然界(例えば真核細胞中)には存在しないと思われるが、本発明はこのような方法を提供する。例えば、非天然アミノ酸の生合成経路は場合により新規酵素を付加するか又は既存宿主細胞経路を改変することにより宿主細胞で作製される。付加新規酵素は場合により天然酵素又は人工的に進化させた酵素である。例えば、(WO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(in vivo incorporation of unnatural amino acids)」の実施例に記載されているような)p−アミノフェニルアラニンの生合成は他の生物に由来する公知酵素の組合せの付加に依存している。これらの酵素の遺伝子はこの遺伝子を含むプラスミドで細胞を形質転換することにより真核細胞に導入することができる。遺伝子は細胞で発現されると、所望化合物を合成するための酵素経路を提供する。場合により付加される酵素種の例は下記実施例に記載する。その他の酵素配列は例えばGenbankから入手できる。人工的に進化させた酵素も場合により同様に細胞に付加する。このように、非天然アミノ酸を生産するように細胞機構と細胞資源を操作する。
生合成経路で使用する新規酵素の生産方法又は既存経路を進化させる方法は種々のものが入手可能である。例えば、場合により例えばMaxygen,Inc.(ワールドワイドウェブサイトwww.maxygen.com参照)により開発されたような再帰的組換えを使用して新規酵素及び経路を作製する。例えばStemmer (1994), Rapid evolution of a protein in vitro by DNA shuffling, Nature 370 (4):389-391;及びStemmer, (1994), DNA shuffling by random fragmentation and reassembly: in vitro recombination for molecular evolution, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 91:10747-10751参照。同様に、場合によりGenencor(ワールドワイドウェブサイトgenencor.com参照)により開発されたDesignPath(登録商標)を代謝経路作製に使用し、例えば細胞でO−メチル−L−チロシンを生産するように経路を作製する。この技術は例えば機能ゲノミクスと分子進化及び設計により同定した新規遺伝子の組合せを使用して宿主生物で既存経路を再構成する。Diversa Corporation(ワールドワイドウェブサイトdiversa.com参照)も例えば新規経路を作製するために遺伝子ライブラリーと遺伝子経路を迅速にスクリーニングするための技術を提供している。
一般に、本発明の人工生合成経路で生産される非天然アミノ酸は効率的蛋白質生合成に十分な濃度(例えば天然細胞量)で生産されるが、他のアミノ酸の濃度を変化させたり細胞資源を枯渇させる程ではない。このようにインビボ(in vivo)生産される典型濃度は約10mM〜約0.05mMである。特定経路に所望される酵素を生産するために使用される遺伝子を含むプラスミドで細菌を形質転換し、非天然アミノ酸が生産されたら、場合によりインビボ(in vivo)選択を使用してリボソーム蛋白質合成と細胞増殖のために非天然アミノ酸の生産を更に最適化させる。
非天然アミノ酸を組込んだポリペプチド
少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ該当蛋白質又はポリペプチドが本発明の特徴である。本発明は本発明の組成物と方法を使用して生産された少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだポリペプチド又は蛋白質も含む。賦形剤(例えば医薬的に許容可能な賦形剤)も蛋白質に加えることができる。
少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ該当蛋白質又はポリペプチドを真核細胞で生産することにより、蛋白質又はポリペプチドは一般に真核翻訳後修飾を含む。所定態様では、蛋白質は少なくとも1種の非天然アミノ酸と、真核細胞によりインビボ(in vivo)で行われる少なくとも1種の翻訳後修飾を含み、前記翻訳後修飾は原核細胞により行われない。例えば、翻訳後修飾としては例えばアセチル化、アシル化、脂質修飾、パルミトイル化、パルミチン酸付加、リン酸化、糖脂質結合修飾、グリコシル化等が挙げられる。1側面では、翻訳後修飾はGlcNAc−アスパラギン結合によるオリゴ糖(例えば(GlcNAc−Man)
2−Man−GlcNAc−GlcNAc)とアスパラギンの結合を含む。真核蛋白質のN結合オリゴ糖の数例を示す表7も参照(記載以外の残基も存在することができる)。別の側面では、翻訳後修飾はGalNAc−セリンもしくはGalNAc−スレオニン結合、又はGlcNAc−セリンもしくはGlcNAc−スレオニン結合によるオリゴ糖(例えばGal−GalNAc,Gal−GlcNAc等)とセリン又はスレオニンの結合を含む。
更に別の側面では、翻訳後修飾は前駆体(例えばカルシトニン前駆体、カルシトニン遺伝子関連ペプチド前駆体、プレプロ副甲状腺ホルモン、プレプロインスリン、プロインスリン、プレプロ−オピオメラノコルチン、プロ−オピオメラノコルチン等)の蛋白分解プロセシング、マルチサブユニット蛋白質又は巨大分子アセンブリへの会合、細胞の別の部位への輸送(例えば小胞体、ゴルジ装置、核、リソソーム、ペルオキシソーム、ミトコンドリア、クロロプラスト、液胞等のオルガネラへの輸送又は分泌経路を介する輸送)が挙げられる。所定態様では、蛋白質は分泌又は局在配列、エピトープタグ、FLAGタグ、ポリヒスチジンタグ、GST融合配列等を含む。
非天然アミノ酸の利点の1つは付加分子を付加するために使用することができる付加化学部分を提供する点である。これらの修飾は真核細胞でインビボ(in vivo)実施することもできるし、インビトロ(in vitro)実施することもできる。従って、所定態様では、翻訳後修飾は非天然アミノ酸を介して行われる。例えば、翻訳後修飾は求核−求電子反応を介して実施することができる。蛋白質の選択的修飾に現在使用されている大半の反応は求核反応パートナーと求電子反応パートナーの間の共有結合形成、例えばα−ハロケトンとヒスチジン又はシステイン側鎖の反応を利用している。これらの場合の選択性は蛋白質中の求核残基の数とアクセシビリティにより決定される。本発明の蛋白質では、非天然ケトアミノ酸とヒドラジド又はアミノオキシ化合物のインビトロ(in vitro)及びインビボ(in vivo)反応等の他のより選択的な反応を使用することができる。例えばCornishら, (1996) Am. Chem. Soc., 118:8150-8151;Mahalら, (1997) Science, 276:1125-1128;Wangら, (2001) Science 292:498-500;Chinら, (2002) Am. Chem. Soc. 124:9026-9027;Chinら, (2002) Proc. Natl. Acad. Sci., 99:11020-11024;Wangら, (2003) Proc. Natl. Acad. Sci., 100:56-61;Zhangら, (2003) Biochemistry, 42:6735-6746;及びChinら, (2003) Science(印刷中)参照。このため、フルオロフォア、架橋剤、糖誘導体及び細胞傷害性分子等の多数の試薬でほぼ任意の蛋白質を選択的に標識することができる。特許出願USSN 10/686,944、発明の名称「糖蛋白質合成(Glycoprotein synthesis)」(出願日2003年10月15日)も参照。例えばアジドアミノ酸を介する翻訳後修飾も(例えばトリアリールホスフィン試薬を用いて)シュタウジンガーライゲーションにより実施することができる。例えばKiickら, (2002) Incorporation of azides into recombinant proteins for chemoselective modification by the Staudinger ligtation, PNAS 99:19-24参照。
本発明は蛋白質を選択的に修飾するための非常に効率的な別法を提供するものであり、例えばアジド又はアルキニル部分を含む非天然アミノ酸(例えば図11の2及び1参照)をセレクターコドンに応答して蛋白質に遺伝的に組込む。これらのアミノ酸側鎖をその後、例えばHuisgen[3+2]シクロ付加反応(例えばPadwa, A. in Comprehensive Organic Synthesis, Vol. 4, (1991) Ed. Trost, B. M., Pergamon, Oxford, p. 1069-1109;及びHuisgen, R. in 1, 3-Dipolar Cycloaddition Chemistry, (1984) Ed. Padwa, A., Wiley, New York, p. 1-176参照)により例えば夫々アルキニル又はアジド誘導体で修飾することができる。例えば図16参照。この方法は求核置換ではなくシクロ付加を利用するので、蛋白質を非常に高い選択性で修飾することができる。この反応は触媒量のCu(I)塩を反応混合物に加えることにより室温で水性条件下に優れた部位選択性(1,4>1,5)で実施することができる。例えばTornoeら, (2002) Org. Chem. 67:3057-3064;及びRostovtsevら, (2002) Angew. Chem. Int. Ed. 41:2596-2599参照。使用可能な別法はビスヒ素化合物上でテトラシステインモチーフとのリガンド交換である。例えばGriffinら, (1998) Science 281:269-272参照。
[3+2]シクロ付加により本発明の蛋白質に付加することができる分子としてはアジド又はアルキニル誘導体をもつほぼ任意分子が挙げられる。例えば本明細書の実施例3及び5参照。このような分子としては限定されないが、色素、フルオロフォア、架橋剤、糖誘導体、ポリマー(例えばポリエチレングリコール誘導体)、光架橋剤、細胞傷害性化合物、アフィニティーラベル、ビオチン誘導体、樹脂、第2(又は第3以下)の蛋白質又はポリペプチド、ポリヌクレオチド(例えばDNA,RNA等)、金属キレート剤、補因子、脂肪酸、炭水化物等が挙げられる。例えば本明細書の図13Aと実施例3及び5参照。これらの分子は夫々アルキニル基(例えばp−プロパルギルオキシフェニルアラニン)又はアジド基(例えばp−アジド−フェニルアラニン)をもつ非天然アミノ酸に付加することができる。例えば図13B及び図17A参照。
別の側面では、本発明はこのような分子を含む組成物と、これらの分子の作製方法を提供し、分子は例えば(化学構造4及び化学構造6に示すような)アジド色素、(化学構造7に示すような)アルキニルポリエチレングリコールであり、前記構造中、nは例えば50〜10,000、75〜5,000、100〜2,000、100〜1,000等の整数である。本発明の1態様では、アルキニルポリエチレングリコールは例えば約5,000〜約100,000Da、約20,000〜約50,000Da、約20,000〜約10,000Da(例えば20,000Da)等の分子量をもつ。
例えば蛋白質及び細胞と共にこれらの化合物を含む種々の組成物も提供する。本発明の1側面では、(例えば化学構造4又は化学構造6の)アジド色素を含む蛋白質は更に少なくとも1種の非天然アミノ酸(例えばアルキニルアミノ酸)を含み、アジド色素は[3+2]シクロ付加により非天然アミノ酸と結合している。
1態様では、蛋白質は化学構造7のアルキニルポリエチレングリコールを含む。別の態様では、組成物は更に少なくとも1種の非天然アミノ酸(例えばアジドアミノ酸)を含み、アルキニルポリエチレングリコールは[3+2]シクロ付加により非天然アミノ酸と結合している。
アジド色素の合成方法も提供する。例えば、このような方法の1例は(a)ハロゲン化スルホニル部分を含む色素化合物を提供する段階と;(b)3−アジドプロピルアミンとトリエチルアミンの存在下に色素化合物を室温まで昇温させ、3−アジドプロピルアミンのアミン部分を色素化合物のハロゲン化物位置にカップリングすることにより、アジド色素を合成する段階を含む。1態様では、色素化合物はダンシルクロリドを含み、アジド色素は化学構造4の組成物を含む。1側面では、前記方法は反応混合物からアジド色素を精製する段階を更に含む。例えば本明細書の実施例5参照。
別の例では、アジド色素の合成方法は(a)アミン含有色素化合物を提供する段階と;(b)アミン含有色素化合物を適切な溶媒中でカルボジイミド及び4−(3−アジドプロピルカルバモイル)−酪酸と混合し、酸のカルボニル基を色素化合物のアミン部分とカップリングすることにより、アジド色素を合成する段階を含む。1態様では、カルボジイミンは1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)を含む。1側面では、アミン含有色素はフルオレセインアミンを含み、適切な溶媒はピリジンを含む。例えば、アミン含有色素は場合によりフルオレセインアミンを含み、アジド色素は場合により化学構造6の組成物を含む。1態様では、前記方法は(c)アジド色素を沈殿させる段階と;(d)沈殿をHClで洗浄する段階と;(e)洗浄した沈殿をEtOAcに溶かす段階と;(f)アジド色素をヘキサン中で沈殿させる段階を更に含む。例えば本明細書の実施例5参照。
プロパルギルアミドポリエチレングリコールの合成方法も提供する。例えば、本方法はプロパルギルアミンを有機溶媒(例えばCH2Cl2)中で室温にてポリエチレングリコール(PEG)−ヒドロキシスクシンイミドエステルと反応させ、化学構造7のプロパルギルアミドポリエチレングリコールを得る段階を含む。1態様では、前記方法は酢酸エチルを使用してプロパルギルアミドポリエチレングリコールを沈殿させる段階を更に含む。1側面では、前記方法はプロパルギルアミドポリエチレングリコールをメタノール中で再結晶させる段階と;生成物を減圧乾燥する段階を更に含む。例えば本明細書の実施例5参照。
本発明の真核細胞は非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を大量の有用な量で合成することができる。1側面では、組成物は場合により、非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を例えば少なくとも10μg、少なくとも50μg、少なくとも75μg、少なくとも100μg、少なくとも200μg、少なくとも250μg、少なくとも500μg、少なくとも1mg、少なくとも10mg以上、又はインビボ(in vivo)蛋白質生産方法で達成可能な量で含有する(組換え蛋白質生産及び精製に関する詳細は本明細書に記載する)。別の側面では、蛋白質は場合により例えば細胞溶解液、緩衝液、医薬緩衝液、又は他の懸濁液中(例えば約1nl〜約100Lの任意の容量中)に例えば少なくとも10μg蛋白質/l、少なくとも50μg蛋白質/l、少なくとも75μg蛋白質/l、少なくとも100μg蛋白質/l、少なくとも200μg蛋白質/l、少なくとも250μg蛋白質/l、少なくとも500μg蛋白質/l、少なくとも1mg蛋白質/l、又は少なくとも10mg蛋白質/l以上の濃度で組成物中に存在する。少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を真核細胞で大量(例えば他の方法、例えばインビトロ(in vitro)翻訳で一般に可能な量よりも多量)に生産することも本発明の特徴である。
非天然アミノ酸の組込みは例えば寸法、酸性度、求核性、水素結合、疎水性、プロテアーゼ標的部位接近性、(例えば蛋白質アレーのための)部分へのターゲット等を変化させるように例えば蛋白質構造及び/又は機能の変化を調整するために実施することができる。非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質は触媒性又は物性を強化するか又は全く新規にすることができる。例えば、非天然アミノ酸を蛋白質に組込むことにより、場合により毒性、生体分布、構造的性質、分光学的性質、化学及び/又は光化学的性質、触媒能、半減期(例えば血清半減期)、他の分子との(例えば共有又は非共有)反応性等の性質を改変する。少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を含有する組成物は例えば新規治療、診断、触媒酵素、産業用酵素、結合蛋白質(例えば抗体)、及び例えば蛋白質構造と機能の研究に有用である。例えばDougherty, (2000) Unnatural Amino Acids as Probes of Protein Structure and Function, Current Opinion in Chemical Biology, 4:645-652参照。
本発明の1側面では、組成物は少なくとも1個、例えば少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、又は少なくとも10個以上の非天然アミノ酸を組込んだ少なくとも1種の蛋白質を含有する。非天然アミノ酸は同一でも異なっていてもよく、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10種以上の異なる非天然アミノ酸を含む1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個以上の異なる部位が蛋白質に存在することができる。別の側面では、組成物は蛋白質に存在する特定アミノ酸の全部よりは少ないが少なくとも1個が非天然アミノ酸で置換された蛋白質を含有する。2個以上の非天然アミノ酸を組込んだ所与蛋白質では、非天然アミノ酸は同一でも異なっていてもよい(例えば蛋白質は2個以上の異なる型の非天然アミノ酸を組込んでもよいし、2個の同一非天然アミノ酸を組込んでもよい)。3個以上の非天然アミノ酸を組込んだ所与蛋白質では、非天然アミノ酸は同一でも異なっていてもよいし、同一種の複数の非天然アミノ酸と少なくとも1個の別の非天然アミノ酸の組み合わせでもよい。
本明細書に記載する組成物と方法を使用して非天然アミノ酸(及び例えば1個以上のセレクターコドンを含む対応する任意コーディング核酸)を組込んだほぼ任意蛋白質(又はその部分)を生産することができる。数十万種の公知蛋白質を同定しようとするのではなく、例えば該当翻訳系に1個以上の適当なセレクターコドンを含むように入手可能な任意突然変異法を調整することにより、1種以上の非天然アミノ酸を組込むように公知蛋白質の任意のものを改変することができる。公知蛋白質の一般的な配列寄託機関としてはGenBank、EMBL、DDBJ及びNCBIが挙げられる。他の寄託機関もインターネットを検索することにより容易に確認できる。
一般に、蛋白質は入手可能な任意蛋白質(例えば治療用蛋白質、診断用蛋白質、産業用酵素、又はその部分等)と例えば少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%以上一致しており、1種以上の非天然アミノ酸を含む。1種以上の非天然アミノ酸を組込むように改変することができる治療用、診断用、及び他の蛋白質の例としては限定されないが、例えばα1アンチトリプシン、アンジオスタチン、抗血友病因子、抗体(抗体の詳細については後述する)、アポリポ蛋白質、アポ蛋白質、心房性ナトリウム利尿因子、心房性ナトリウム利尿ポリペプチド、心房性ペプチド、C−X−Cケモカイン(例えばT39765、NAP−2、ENA−78、Gro−a、Gro−b、Gro−c、IP−10、GCP−2、NAP−4、SDF−1、PF−4、MIG)、カルシトニン、CCケモカイン(例えば単球化学誘引蛋白質−1、単球化学誘引蛋白質−2、単球化学誘引蛋白質−3、単球炎症性蛋白質−1α、単球炎症性蛋白質−1β、RANTES、I309、R83915、R91733、HCC1、T58847、D31065、T64262)、CD40リガンド、Cキットリガンド、コラーゲン、コロニー刺激因子(CSF)、補体因子5a、補体阻害剤、補体受容体1、サイトカイン(例えば上皮好中球活性化ペプチド−78、GROα/MGSA、GROβ、GROγ、MIP−1α、MIP−1δ、MCP−1)、表皮増殖因子(EGF)、エリスロポエチン(「EPO」、1種以上の非天然アミノ酸の組込みによる修飾の好適ターゲット)、表皮剥離毒素A及びB、IX因子、VII因子、VIII因子、X因子、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、G−CSF、GM−CSF、グルコセレブロシダーゼ、ゴナドトロピン、増殖因子、ヘッジホッグ蛋白質(例えばソニック、インディアン、デザート)、ヘモグロビン、肝細胞増殖因子(HGF)、ヒルジン、ヒト血清アルブミン、インスリン、インスリン様増殖因子(IGF)、インターフェロン(例えばIFN−α、IFN−β、IFN−γ)、インターロイキン(例えばIL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12等)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラクトフェリン、白血病阻害因子、ルシフェラーゼ、ニュールチュリン、好中球阻害因子(NIF)、オンコスタチンM、骨形成蛋白質、副甲状腺ホルモン、PD−ECSF、PDGF、ペプチドホルモン(例えばヒト成長ホルモン)、プレイオトロピン、プロテインA、プロテインG、発熱外毒素A、B及びC、リラキシン、レニン、SCF、可溶性補体受容体I、可溶性I−CAM1、可溶性インターロイキン受容体(IL−1、2、3、4、5、6、7、9、10、11、12、13、14、15)、可溶性TNF受容体、ソマトメジン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ストレプトキナーゼ、スーパー抗原即ちブドウ球菌エンテロトキシン(SEA、SEB、SEC1、SEC2、SEC3、SED、SEE)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、毒素性ショック症候群毒素(TSST−1)、チモシンα1、組織プラスミノーゲンアクチベーター、腫瘍壊死因子β(TNFβ)、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、血管内皮増殖因子(VEGEF)、ウロキナーゼ等が挙げられる。
本明細書に記載する非天然アミノ酸のインビボ(in vivo)組込み用組成物及び方法を使用して生産することができる蛋白質の1類としては転写モジュレーター又はその部分が挙げられる。転写モジュレーターの例としては細胞増殖、分化、制御等を調節する遺伝子及び転写モジュレーター蛋白質が挙げられる。転写モジュレーターは原核生物、ウイルス及び真核生物(例えば真菌、植物、酵母、昆虫、及び哺乳動物を含む動物)に存在し、広範な治療ターゲットを提供する。自明の通り、発現及び転写アクチベーターは例えば受容体との結合、シグナル伝達カスケードの刺激、転写因子の発現調節、プロモーターやエンハンサーとの結合、プロモーターやエンハンサーと結合する蛋白質との結合、DNA巻き戻し、プレmRNAスプライシング、RNAポリアデニル化及びRNA分解等の多数のメカニズムにより転写を調節する。例えば、GAL4蛋白質又はその部分を真核細胞に含む組成物も本発明の特徴である。一般に、GAL4蛋白質又はその部分は少なくとも1種の非天然アミノ酸を含む。本明細書の「直交アミノアシルtRNAシンテターゼ」のセクションも参照されたい。
本発明の蛋白質(例えば1種以上の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質)の1類としては発現アクチベーター(例えばサイトカイン、炎症性分子、増殖因子、その受容体、及び腫瘍遺伝子産物、例えばインターロイキン(例えばIL−1、IL−2、IL−8等)、インターフェロン、FGF、IGF−I、IGF−II、FGF、PDGF、TNF、TGF−α、TGF−β、EGF、KGF、SCF/c−キット、CD40L/CD40、VLA−4/VCAM−1、ICAM−1/LFA−1及びヒアルリン/CD44);シグナル伝達分子及び対応する腫瘍遺伝子産物(例えばMos、Ras、Raf及びMet);並びに転写アクチベーター及びサプレッサー(例えばp53、Tat、Fos、Myc、Jun、Myb、Rel、及びステロイドホルモン受容体(例えばエストロゲン、プロゲステロン、テストステロン、アルドステロン、LDL受容体リガンド及びコルチコステロン))が挙げられる。
少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ酵素(例えば産業用酵素)又はその部分も本発明により提供される。酵素の例としては限定されないが、例えばアミダーゼ、アミノ酸ラセマーゼ、アシラーゼ、デハロゲナーゼ、ジオキシゲナーゼ、ジアリールプロパンペルオキシダーゼ、エピメラーゼ、エポキシドヒドロラーゼ、エステラーゼ、イソメラーゼ、キナーゼ、グルコースイソメラーゼ、グリコシダーゼ、グリコシルトランスフェラーゼ、ハロペルオキシダーゼ、モノオキシゲナーゼ(例えばp450類)、リパーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、ニトリルヒドラターゼ、ニトリラーゼ、プロテアーゼ、ホスファターゼ、スブチリシン、トランスアミナーゼ及びヌクレアーゼが挙げられる。
これらの蛋白質の多くは市販されており(例えばSigma BioSciences 2002カタログ及び価格表参照)、対応する蛋白質配列と遺伝子及び、一般に多くのその変異体も周知である(例えばGenbank参照)。例えば1種以上の該当治療、診断又は酵素特性に関して蛋白質を改変するように本発明に従って1種以上の非天然アミノ酸を挿入することにより前記蛋白質の任意のものを改変することができる。治療関連特性の例としては血清半減期、貯蔵半減期、安定性、免疫原性、治療活性、(例えば非天然アミノ酸へのレポーター基(例えばラベル又はラベル結合部位)の付加による)検出性、LD50又は他の副作用の低減、胃管を経由して体内に導入できること(例えば経口利用性)等が挙げられる。診断特性の例としては貯蔵半減期、安定性、診断活性、検出性等が挙げられる。該当酵素特性の例としては貯蔵半減期、安定性、酵素活性、産生能等が挙げられる。
他の各種蛋白質も本発明の1種以上の非天然アミノ酸を組込むように改変することができる。例えば、本発明は例えば感染性真菌(例えばAspergillus、Candida種);細菌、特に病原細菌モデルとして利用できる大腸菌や医学的に重要な細菌(例えばStaphylococci(例えばaureus)又はStreptococci(例えばpneumoniae));原生動物(例えば胞子虫類(例えばPlasmodia)、根足虫類(例えばEntamoeba)及び鞭毛虫類(Trypanosoma、Leishmania、Trichomonas、Giardia等));ウイルス(例えば(+)RNAウイルス(例えばポックスウイルス(例えばワクシニア)、ピコルナウイルス(例えばポリオ)、トガウイルス(例えば風疹)、フラビウイルス(例えばHCV)、及びコロナウイルス)、(−)RNAウイルス(例えばラブドウイルス(例えばVSV)、パラミクソウイルス(例えばRSV)、オルトミクソウイルス(例えばインフルエンザ)、ブンヤウイルス及びアレナウイルス)、dsDNAウイルス(例えばレオウイルス)、RNA→DNAウイルス(即ちレトロウイルス、例えばHIV及びHTLV)、及び所定のDNA→RNAウイルス(例えばB型肝炎))に由来する蛋白質において、1種以上のワクチン蛋白質中の1種以上の天然アミノ酸を1種以上の非天然アミノ酸で置換することができる。
昆虫耐性蛋白質(例えばCry蛋白質)、澱粉及び脂質産生酵素、植物及び昆虫毒素、毒素耐性蛋白質、マイコトキシン解毒蛋白質、植物成長酵素(例えばリブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ、「RUBISCO」)、リポキシゲナーゼ(LOX)及びホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシラーゼ等の農業関連蛋白質も非天然アミノ酸修飾の適切なターゲットである。
本発明は少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ少なくとも1種の蛋白質を真核細胞で生産するための方法(及び前記方法により生産された蛋白質)も提供する。例えば、1方法は少なくとも1個のセレクターコドンを含み、蛋白質をコードする核酸を含む真核細胞を適当な培地で増殖させる段階を含む。真核細胞は更に前記細胞で機能し、セレクターコドンを認識する直交tRNA(O−tRNA)と;O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)を含み、培地は非天然アミノ酸を含む。
1態様では、前記方法は第1の反応基を含む非天然アミノ酸を蛋白質に組込む段階と;第2の反応基を含む分子(例えば色素、ポリマー、例えばポリエチレングリコール誘導体、光架橋剤、細胞傷害性化合物、アフィニティーラベル、ビオチン誘導体、樹脂、第2の蛋白質又はポリペプチド、金属キレート剤、補因子、脂肪酸、炭水化物、ポリヌクレオチド(例えばDNA,RNA等)等)と蛋白質を接触させる段階を更に含む。第1の反応基は第2の反応基と反応し、[3+2]シクロ付加により分子を非天然アミノ酸と結合する。1態様では、第1の反応基はアルキニル又はアジド部分であり、第2の反応基はアジド又はアルキニル部分である。例えば、第1の反応基は(例えば非天然アミノ酸p−プロパルギルオキシフェニルアラニンにおける)アルキニル部分であり、第2の反応基はアジド部分である。別の例では、第1の反応基は(例えば非天然アミノ酸p−アジド−L−フェニルアラニンにおける)アジド部分であり、第2の反応基はアルキニル部分である。
1態様では、O−RSは例えば配列番号86又は45に記載のアミノ酸配列をもつO−RSの少なくとも50%の効率でO−tRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化する。別の態様では、O−tRNAは配列番号65もしくは64、又はその相補的ポリヌクレオチド配列を含むか、前記配列からプロセシングされるか、又は前記配列によりコードされる。更に別の態様では、O−RSは配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸を含む。
コードされる蛋白質は例えば治療用蛋白質、診断用蛋白質、産業用酵素、又はその部分を含むことができる。場合により、前記方法により生産される蛋白質は更に非天然アミノ酸を介して修飾されている。例えば、前記方法により生産される蛋白質は場合により少なくとも1種のインビボ(in vivo)翻訳後修飾により修飾されている。
スクリーニング又は選択用転写モジュレーター蛋白質の生産方法(及び前記方法により生産されたスクリーニング又は選択用転写モジュレーター蛋白質)も提供する。例えば、1方法は、核酸結合ドメインをコードする第1のポリヌクレオチド配列を選択する段階と;少なくとも1個のセレクターコドンを含むように第1のポリヌクレオチド配列を突然変異させる段階を含む。こうしてスクリーニング又は選択用ポリヌクレオチド配列が得られる。本方法は更に転写活性化ドメインをコードする第2のポリヌクレオチド配列を選択する段階と;第2のポリヌクレオチド配列に機能的に連結されたスクリーニング又は選択用ポリヌクレオチド配列を含む構築物を提供する段階と;前記構築物と、非天然アミノ酸と、直交tRNAシンテターゼ(O−RS)と、直交tRNA(O−tRNA)を細胞に導入する段階を含む。これらの成分を使用すると、O−RSはO−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化し、O−tRNAはセレクターコドンを認識し、スクリーニング又は選択用ポリヌクレオチド配列のセレクターコドンに応答して非天然アミノ酸を核酸結合ドメインに組込むことにより、スクリーニング又は選択用転写モジュレーター蛋白質が得られる。
所定態様では、本発明の方法及び/又は組成物における該当蛋白質又はポリペプチド(又はその部分)は核酸によりコードされる。一般に、核酸は少なくとも1個のセレクターコドン、少なくとも2個のセレクターコドン、少なくとも3個のセレクターコドン、少なくとも4個のセレクターコドン、少なくとも5個のセレクターコドン、少なくとも6個のセレクターコドン、少なくとも7個のセレクターコドン、少なくとも8個のセレクターコドン、少なくとも9個のセレクターコドン、10個以上のセレクターコドンを含む。
該当蛋白質又はポリペプチドをコードする遺伝子は本明細書の「突然変異誘発及び他の分子生物学技術」のセクションに記載する当業者に周知の方法を使用して例えば非天然アミノ酸を組込むための1個以上のセレクターコドンを付加するように突然変異誘発することができる。例えば、1個以上のセレクターコドンを付加するように該当蛋白質の核酸を突然変異誘発し、1種以上の非天然アミノ酸を挿入できるようにする。本発明は例えば少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ任意蛋白質のこのような任意変異体(例えば突然変異体、変形)を含む。同様に、本発明は対応する核酸、即ち1種以上の非天然アミノ酸をコードする1個以上のセレクターコドンをもつ任意核酸も含む。
1態様では、本発明はGAL4のThr44,Arg110 TAG突然変異体を含む組成物(及び本発明の方法により製造された組成物)を提供し、前記GAL4蛋白質は少なくとも1種の非天然アミノ酸を含む。別の態様では、本発明はヒトスーパーオキシドジスムターゼ(hSOD)のTrp33 TAG突然変異体を含む組成物を提供し、前記hSOD蛋白質は少なくとも1種の非天然アミノ酸を含む。
非天然アミノ酸を組込んだ組換え蛋白質の精製
本発明の蛋白質(例えば非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質、非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質に対する抗体等)は当業者に使用されている公知標準手順に従って部分的又は実質的に均質まで精製することができる。従って、本発明のポリペプチドは当分野で周知の多数の方法の任意のものにより回収及び精製することができ、このような方法としては例えば硫安又はエタノール沈殿、酸又は塩基抽出、カラムクラマトグラフィー、アフィニティーカラムクラマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィー、ゲル電気泳動等が挙げられる。所望により蛋白質リフォールディング段階を使用して正しく折畳まれた成熟蛋白質を作製することができる。高純度が所望される最終精製段階では、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、アフィニティークロマトグラフィー又は他の適切な方法を使用することができる。1態様では、例えば1種以上の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質をアフィニティー精製するために、非天然アミノ酸(又は非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質)に対して作製した抗体を精製試薬として使用する。所望に応じて部分的又は均質まで精製した後、ポリペプチドを場合により例えばアッセイ成分、治療試薬又は抗体生産用免疫原として使用する。
本明細書に引用する他の文献以外に各種精製/蛋白質フォールディング方法が当分野で周知であり、例えばR. Scopes, Protein Purification, Springer-Verlag, N. Y. (1982);Deutscher, Methods in Enzymology Vol. 182:Guide to Protein Purification, Academic Press, Inc. N. Y. (1990);Sandana (1997) Bioseparation of Proteins, Academic Press, Inc. ;Bollagら (1996) Protein Methods, 2nd Edition Wiley-Liss, NY;Walker (1996) The Protein Protocols Handbook Humana Press, NJ, Harris and Angal (1990) Protein Purification Applications:A Practical Approach IRL Press at Oxford, Oxford, England;Harris and Angal Protein Purification Methods:A Practical Approach IRL Press at Oxford, Oxford, England;Scopes (1993) Protein Purification:Principles and Practice 3rd Edition Springer Verlag, NY;Janson and Ryden (1998) Protein Purification:Principles, High Resolution Methods and Applications, Second Edition Wiley-VCH, NY;及びWalker (1998) Protein Protocols on CD-ROM Humana Press, NJ;並びにその引用文献に記載されている方法が挙げられる。
非天然アミノ酸を組込んだ該当蛋白質又はポリペプチドを真核細胞で生産する1つの利点は一般に蛋白質又はポリペプチドがその天然コンフォーメーションで折り畳まれることである。しかし、本発明の所定態様では、当業者に自明の通り、合成、発現及び/又は精製後に蛋白質は該当ポリペプチドの所望コンフォーメーションと異なるコンフォーメーションをもつことができる。本発明の1側面では、発現される蛋白質を場合により変性させた後に再生する。これは例えばシャペロニンを該当蛋白質もしくはポリペプチドに添加するか、及び/又はグアニジンHCl等のカオトロピック剤で蛋白質を可溶化することにより実施される。
一般に、発現されたポリペプチドを変性及び還元した後にポリペプチドを好適コンフォーメーションにリフォールディングすることが望ましい場合がある。例えば、グアニジン、尿素、DTT、DTE及び/又はシャペロニンを該当翻訳産物に添加することができる。蛋白質の還元、変性及び再生方法も当業者に周知である(上記文献や、Debinskiら(1993) J. Biol. Chem., 268:14065-14070;Kreitman and Pastan (1993) Bioconjug. Chem., 4:581-585;及びBuchnerら, (1992) Anal. Biochem., 205:263-270参照)。例えば、Debinskiらはグアニジン−DTEでの封入体蛋白質の変性と還元について記載している。蛋白質は例えば酸化グルタチオンとL−アルギニンを加えたレドックス緩衝液中でリフォールディングすることができる。リフォールディング試薬を流すか又は他の方法で移動させて1種以上のポリペプチド又は他の発現産物と接触させるか、又はポリペプチドを移動させて試薬と接触させることができる。
抗体
1側面では、本発明は本発明の分子(例えばシンテターゼ、tRNA、及び非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質)に対する抗体を提供する。本発明の分子に対する抗体は例えば本発明の分子を精製するための精製試薬として有用である。更に、抗体は例えば前記分子の存在又は位置を(例えばインビボ(in vivo)又はインサイツ(in situ)で)追跡するために、シンテターゼ、tRNA、及び非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質の存在を指示するための指示試薬として使用することができる。
本発明の抗体は免疫グロブリン遺伝子又は免疫グロブリン遺伝子のフラグメントにより実質的又は部分的にコードされる1種以上のポリペプチドを含む蛋白質とすることができる。認識される免疫グロブリン遺伝子としてはκ、λ、α、γ、δ、ε及びμ定常領域遺伝子と、無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。L鎖はκ又はλに分類される。H鎖はγ、μ、α、δ又はεに分類され、夫々免疫グロブリンIgG、IgM、IgA、IgD及びIgE類と言う。典型的な免疫グロブリン(例えば抗体)構造単位は四量体からなる。各四量体は各々1本の「L」鎖(約25kD)と1本の「H」鎖(約50〜70kD)をもつ同一の2対のポリペプチド鎖から構成される。各鎖のN末端は主に抗原認識に関与する約100〜110又はそれ以上のアミノ酸からなる可変領域を規定する。可変L鎖(VL)及び可変H鎖(VH)なる用語は夫々これらのL鎖とH鎖を意味する。
抗体は無傷の免疫グロブリンとして存在するか又は各種ペプチドによる消化により生産された多数の明確に特性決定されたフラグメントとして存在する。従って、例えば、ペプシンはヒンジ部のジスルフィド結合下の抗体を消化し、それ自体ジスルフィド結合によりVH−CH1に結合したL鎖であるFabの二量体F(ab’)2を生産する。F(ab’)2を温和な条件下に還元してヒンジ部のジスルフィド結合を切断すると、F(ab’)2二量体をFab’単量体に変換することができる。Fab’単量体は主にヒンジ部を構成するFabである(他の抗体フラグメントの更に詳細な説明についてはFundamental Immunology, 4th addition, W. E. Paul, ed., Raven Press, N.Y. (1999)参照)。各種抗体フラグメントが無傷の抗体の消化により定義されるが、当業者に自明の通り、化学的方法又は組換えDNA技術を使用することによりこのようなFab’フラグメント等をde novo合成してもよい。従って、本明細書で使用する抗体なる用語は場合により抗体全体の改変により生産されるか又は組換えDNA技術を使用してde novo合成された抗体フラグメントも含む。抗体は単鎖抗体を含み、可変H鎖と可変L鎖が(直接又はペプチドリンカーを介して)結合して連続ポリペプチドを形成している単鎖Fv(sFv又はscFv)抗体を含む。本発明の抗体は例えばポリクローナル、モノクローナル、キメラ、ヒト化、単鎖、Fabフラグメント、Fab発現ライブラリーにより生産されたフラグメント等とすることができる。
一般に、本発明の抗体は各種分子生物学又は医薬プロセスで一般試薬及び治療試薬として有用である。ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体の製造方法は入手可能であり、本発明の抗体の製造に適用することができる。多数の基礎教科書が標準抗体製造法を記載しており、例えばBorrebaeck (ed) (1995) Antibody Engineering, 2nd Edition Freeman and Company, NY (Borrebaeck);McCaffertyら (1996) Antibody Engineering, A Practical Approach IRL at Oxford Press, Oxford, England (McCafferty), 及びPaul (1995) Antibody Engineering Protocols Humana Press, Towata, NJ (Paul);Paul (ed.), (1999) Fundamental Immunology, Fifth edition Raven Press, N.Y.;Coligan (1991) Current Protocols in Immunology Wiley/Greene, NY;Harlow and Lane (1989) Antibodies:A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Press, NY;Stitesら (eds.) Basic and Clinical Immunology (4th ed.) Lange Medical Publications, Los Altos, CAとその引用文献;Goding (1986) Monoclonal Antibodies: Principles and Practice (2d ed.) Academic Press, New York, NY;及びKohler and Milstein (1975) Nature 256:495-497が挙げられる。
例えば動物への抗原注射に依存しない各種組換え抗体製造技術が開発されており、本発明でも使用することができる。例えば、ファージ又は同様のベクターで組換え抗体のライブラリーを作製及び選択することが可能である。例えばWinterら (1994) Making Antibodies by Phage Display Technology Annu. Rev. Immunol. 12:433-55とその引用文献参照。更にGriffiths and Duncan (1998) Strategies for selection of antibodies by phage display Curr Opin Biotechnol 9:102-8;Hoogenboomら (1998) Antibody phage display technology and its applications Immunotechnology 4:1-20;Gramら(1992) in vitro selection and affinity maturation of antibodies from a native combinatorial immunoglobulin library PNAS 89:3576-3580;Huseら (1989) Science 246:1275-1281;及びWardら (1989) Nature 341:544-546も参照されたい。
1態様では、抗体ライブラリーは糸状バクテリオファージの表面にH鎖及びL鎖可変領域を組合せて提示するためにクローニングされる(例えばリンパ球集団から回収するか又はインビトロ(in vitro)構築した)V遺伝子のレパートリーを含むことができる。抗原との結合によりファージを選択する。ファージ感染細菌から可溶性抗体を発現させ、例えば突然変異誘発により抗体を改良することができる。例えばBalint and Larrick(1993)Antibody Engineering by Parsimonious Mutagenesis Gene 137:109-118;Stemmerら(1993)Selection of an Active Single Chain Fv Antibody From a Protein Linker Library Prepared by Enzymatic Inverse PCR Biotechniques 14(2):256-65;Crameriら(1996)Construction and evolution of antibody-phage libraries by DNA shuffling Nature Medicine 2:100-103;及びCrameri and Stemmer(1995)Combinatorial multiple cassette mutagenesis creates all the permutations of mutant and wildtype cassettes BioTechniques 18:194-195参照。
組換え抗体ファージシステムのクローニング及び発現用キットも公知であり、市販されており、例えばAmersham-Pharmacia Biotechnology(Uppsala, スウェーデン)から「組換えファージ抗体システム、マウスScFvモジュール」が販売されている。鎖シャフリングにより高親和性ヒト抗体を製造するためのバクテリオファージ抗体ライブラリーも作製されている(例えばMarksら(1992)By-Passing Immunization:Building High Affinity Human Antibodies by Chain Shuffling Biotechniques 10:779-782参照)。更に、当然のことながら、多数の業者(例えばBethyl Laboratories(Montgomery, TX)、Anawa(スイス)、Eurogentec(ベルギー及び米国Philadelphia, PA等)等)により抗体を製造させることもできる。
所定態様では、例えば抗体を治療投与しようとする場合には、本発明の抗体を「ヒト化」することが有用である。ヒト化抗体を使用すると、(例えば患者がヒトである場合に)治療用抗体に対する望ましくない免疫応答が発生しにくくなる。上記抗体関連文献はヒト化ストラテジーを記載している。ヒト化抗体に加え、ヒト抗体も本発明の特徴である。ヒト抗体はヒト免疫グロブリン配列から構成されることを特徴とする。ヒト抗体は多様な方法を使用して製造することができる(例えばLarrickら,米国特許第5,001,065号参照)。トリオーマ法によりヒト抗体を製造するための一般アプローチはOstbergら(1983), Hybridoma 2:361-367、Ostberg, 米国特許第4, 634, 664号、及びEngelmanら,米国特許第4,634,666号に記載されている。
蛋白質の精製と検出に抗体を使用する方法は種々のものが公知であり、本明細書に記載するような非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質の検出と精製に適用することができる。一般に、抗体はELISA、ウェスタンブロット法、免疫化学法、アフィニティークロマトグラフィー法、SPR及び他の多数の方法の有用な試薬である。上記文献にはELISAアッセイ、ウェスタンブロット法、表面プラズモン共鳴(SPR)等の実施方法が詳細に記載されている。
本発明の1側面では、本発明の抗体はそれ自体非天然アミノ酸を含み、該当特性(例えば半減期、安定性、毒性等の改善)をもつ抗体を提供する。本明細書の「非天然アミノ酸を組込んだポリペプチド」のセクションも参照。抗体は臨床試験で現在使用されている全化合物のほぼ50%を占めており(Wittrup,(1999)Phage on display Tibtech 17:423−424)、抗体は診断試薬として広く使用されている。従って、抗体を非天然アミノ酸で修飾できるならば、これらの有用試薬を修飾するための重要なツールとなる。
例えば、MAbは診断分野に多数の用途がある。アッセイは単純なスポット試験から腫瘍イメージングに使用されているDuPont Merck Co.製品放射標識NR−LU−10MAb(Ruschら(1993)NR−LU−10 monoclonal antibody scanning.A helpful new adjunct to computed tomography in evaluating non−small−cell lung cancer.J Thorac Cardiovasc Surg 106:200−4)等のより複雑な方法まで多岐にわたる。周知の通り、MAbはELISA、ウェスタンブロット法、免疫化学法、アフィニティークロマトグラフィー法等の中心試薬である。1種以上の非天然アミノ酸を含むようにこのような任意診断用抗体を改変し、例えばターゲットに対するAbの特異性又はアビディティを改変したり、例えば検出可能なラベル(例えば分光、蛍光、発光等)を非天然アミノ酸に付加することにより1種以上の検出可能な特性を改変することができる。
有用な抗体試薬の1類は治療用Abである。例えば、抗体は抗体依存性細胞傷害性(ADCC)又は補体介在性溶解(CML)により破壊するために腫瘍細胞にターゲティングすることにより腫瘍増殖を阻止する腫瘍特異的MAbとすることができる(これらの一般型のAbを「魔法の弾丸」と言う場合もある)。1例は非ホジキンリンパ腫の治療に使用される抗CD20MAbであるリツキサンである(Scott(1998)Rituximab:a new therapeutic monoclonal antibody for non−Hodgkin’s lymphom Cancer Pract 6:195−7)。第2の例は腫瘍増殖の重要成分を妨害する抗体に関する。ハーセプチンは転移性乳癌の治療に使用される抗HER−2モノクローナル抗体であり、この作用メカニズムをもつ抗体の1例である(Baselgaら(1998)Recombinant humanized anti−HER2 antibody(Herceptin)enhances the antitumor activity of paclitaxel and doxorubicin against HER2/neu overexpressing human breast cancer xenografts [Cancer Res(1999)59(8):2020に誤載],Cancer Res 58:2825−31)。第3の例は腫瘍又は他の該当部位に細胞傷害性化合物(毒素、放射性核種等)を直接送達するための抗体に関する。例えば、1例のMabは前立腺腫瘍細胞に放射線を直接送達する90Y結合抗体であるCYT−356である(Debら(1996)Treatment of hormone−refractory prostate cancer with 90Y CYT−356 monoclonal antibody Clin Cancer Res 2:1289−97)。第4の例は抗体特異的酵素プロドラッグ療法であり、腫瘍に同時局在させた酵素が全身投与したプロドラッグを腫瘍近傍で活性化する。例えば、カルボキシペプチダーゼAに結合した抗Ep−CAM1抗体が大腸癌治療用に開発中である(Wolfeら(1999)Antibody−directed enzyme prodrug therapy with the T268G mutant of human carboxypeptidase A1:インビトロ(in vitro) and インビボ(in vivo) studies with prodrugs of methotrexate and the thymidylate synthase inhibitors GW1031 and GW1843 Bioconjug Chem 10:38−48)。この他に、治療効果のために正常細胞機能を特に阻害するように設計したAb(例えばアンタゴニスト)もある。1例は急性臓器移植拒絶を緩和するためにJohnson and Johnsonから販売されている抗CD3MAbであるオルソクローンOKT3である(Strateら(1990)Orthoclone OKT3 as first−line therapy in acute renal allograft rejection Transplant Proc 22:219−20)。別の類の抗体製品はアゴニストである。これらのMabは治療効果のために正常細胞機能を特に強化するように設計されている。例えば、神経治療用のアセチルコリン受容体のMabアゴニストが開発中である(Xieら(1997)Direct demonstration of MuSK involvement in acetylcholine receptor clustering through identification of agonist ScFv Nat.Biotechnol.15:768−71)。1種以上の治療特性(特異性、アビディティ、血清半減期等)を強化するために1種以上の非天然アミノ酸を含むようにこれらの抗体の任意のものを改変することができる。
別の類の抗体製品は新規機能を提供する。この類の主な抗体は酵素の触媒能に似せて構築されたIg配列等の触媒抗体である(Wentworth and Janda(1998)Catalytic antibodies Curr Opin Chem Biol 2:138−44)。例えば、興味深い1例では触媒抗体mAb−15A10を使用し、中毒治療のためにコカインをインビボ(in vivo)加水分解している(Metsら(1998)A catalytic antibody against cocaine prevents cocaine’s reinforcing and toxic effects in rats Proc Natl Acad Sci U S A 95:10176−81))。触媒抗体も1種以上の該当性質を改善するために1種以上の非天然アミノ酸を含むように改変することができる。
免疫反応性によるポリペプチドの定義
本発明のポリペプチドは(例えば本発明の翻訳系で合成される蛋白質の場合には非天然アミノ酸を含み、例えば本発明の新規シンテターゼの場合には標準アミノ酸の新規配列を含む)種々の新規ポリペプチド配列を提供するので、ポリペプチドは例えばイムノアッセイで認識することができる新規構造特徴も提供する。本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体の作製又は抗体と前記抗体又は抗血清と結合したポリペプチドも本発明の特徴の1つである。
例えば、本発明は配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86の1種以上から選択されるアミノ酸配列を含む免疫原に対して作製した抗体又は抗血清に特異的に結合するか又は特異的に免疫反応性であるシンテターゼ蛋白質を含む。他の相同体との交差反応性をなくすために、野生型大腸菌チロシルシンテターゼ(TyrRS)(例えば配列番号2)等の入手可能な対照シンテターゼ相同体を用いて抗体又は抗血清をサブトラクションする。
典型的なフォーマットの1例では、イムノアッセイは配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86の1種以上に対応する配列の1種以上又はその実質的サブ配列(即ち記載する全長配列の少なくとも約30%)を含む1種以上のポリペプチドに対して作製したポリクローナル抗血清を使用する。配列番号36−63及び86に由来する潜在的ポリペプチド免疫原群を以下の文中では「免疫原性ポリペプチド」と総称する。得られた抗血清を場合により対照シンテターゼ相同体に対する交差反応性が低くなるように選択し、ポリクローナル抗血清をイムノアッセイで使用する前に例えば対照シンテターゼ相同体の1種以上に免疫吸着させることによりこのような交差反応性を除去する。
イムノアッセイで使用する抗血清を作製するためには、免疫原性ポリペプチドの1種以上を本明細書に記載するように作製し、精製する。例えば、組換え蛋白質を組換え細胞で生産することができる。標準アジュバント(例えばフロイントアジュバント)と標準マウス免疫プロトコールを使用して近交系マウス(マウスの仮想遺伝的同一性により結果の再現性が高いのでこのアッセイで使用)に免疫原性蛋白質を免疫する(抗体作製、イムノアッセイフォーマット及び特異的免疫反応性を測定するために使用可能な条件の標準解説については例えばHarlow and Lane(1988)Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Publications,New York参照。抗体に関する他の文献や資料も本明細書に記載しており、免疫反応性によりポリペプチドを定義/検出する抗体を作製するためにここで適用することができる)。あるいは、本明細書に開示する配列から誘導される1種以上の合成又は組換えポリペプチドをキャリヤー蛋白質に結合して免疫原として使用する。
ポリクローナル血清を収集し、イムノアッセイ(例えば固体支持体に固定化した免疫原性蛋白質の1種以上を使用する固相イムノアッセイ)で免疫原性ポリペプチドに対する力価を測定する。106以上の力価をもつポリクローナル抗血清を選択し、プールし、対照シンテターゼポリペプチドでサブトラクションし、高力価ポリクローナル抗血清サブトラクションプールを作製する。
高力価ポリクローナル抗血清サブトラクションプールを比較イムノアッセイで対照相同体に対する交差反応性について試験する。この比較アッセイでは、高力価ポリクローナル坑血清と免疫原性シンテターゼの結合のシグナル対ノイズ比が対照シンテターゼ相同体との結合の少なくとも約5〜10倍となるように、サブトラクション高力価ポリクローナル坑血清に差別的な結合条件を決定する。即ち、アルブミン又は脱脂粉乳等の非特異的競合剤を加えるか及び/又は塩条件、温度及び/又は同等条件を調節することにより結合/洗浄反応のストリンジェンシーを調整する。これらの結合/洗浄条件は、試験ポリペプチド(免疫原性ポリペプチド及び/又は対照ポリペプチドに比較するポリペプチド)がサブトラクションポリクローナル坑血清プールに特異的に結合しているか否かを調べる後期アッセイで使用される。特に、差別的結合条件下で対照シンテターゼ相同体の少なくとも2〜5倍のシグナル対ノイズ比と、免疫原性ポリペプチドの少なくとも約1/2のシグナル対ノイズ比を示す試験ポリペプチドは公知シンテターゼに比較して免疫原ポリペプチドと実質的な構造類似性をもつので、本発明のポリペプチドである。
別の例では、試験ポリペプチドの検出に競合的結合フォーマットのイムノアッセイを使用する。例えば、自明の通り、対照ポリペプチドに免疫吸着させることにより坑血清混合物プールから交差反応性抗体を除去する。次に、免疫原性ポリペプチドを固体支持体に固定化し、支持体をサブトラクション坑血清プールに暴露する。試験蛋白質をアッセイに添加し、サブトラクション坑血清プールとの結合を競合させる。試験蛋白質が固定化蛋白質に対してサブトラクション坑血清プールとの結合を競合する能力を、アッセイに添加した免疫原性ポリペプチドが結合を競合する能力と比較する(免疫原性ポリペプチドは坑血清プールとの結合について固定化免疫原性ポリペプチドと有効に競合する)。標準計算を使用して試験蛋白質の交差反応性百分率を計算する。
平行アッセイで場合により対照蛋白質がサブトラクション坑血清プールとの結合を競合する能力を、免疫原性ポリペプチドが坑血清との結合を競合する能力と比較測定する。この場合も、標準計算を使用して対照ポリペプチドの交差反応性百分率を計算する。試験ポリペプチドの交差反応性百分率が対照ポリペプチドの少なくとも5〜10倍である場合又は試験ポリペプチドの結合が免疫原性ポリペプチドの結合とほぼ同一範囲である場合に、試験ポリペプチドはサブトラクション坑血清プールに特異的に結合すると言う。
一般に、本明細書に記載する競合的結合イムノアッセイでは任意試験ポリペプチドを免疫原性及び/又は対照ポリペプチドと比較するために免疫吸着坑血清プールを使用することができる。この比較を行うためには、免疫原性、試験及び対照ポリペプチドを各々広い濃度範囲でアッセイし、サブトラクション坑血清と例えば固定化した対照、試験又は免疫原性蛋白質との結合の50%を阻害するために必要な各ポリペプチドの量を標準技術により決定する。競合アッセイで結合に必要な試験ポリペプチドの量が免疫原性ポリペプチドの必要量の2倍未満であり、対照ポリペプチドの少なくとも約5〜10倍である場合には試験ポリペプチドは免疫原性蛋白質に対して作製した抗体と特異的に結合すると言う。
付加特異性試験として、得られる免疫原性ポリペプチドサブトラクション坑血清プールと免疫吸着に使用する免疫原性ポリペプチドの結合が殆ど又は全く検出できなくなるまで場合により坑血清プールを(対照ポリペプチドではなく)免疫原性ポリペプチドに完全に免疫吸着させる。この完全に免疫吸着した坑血清を次に試験ポリペプチドとの反応性について試験する。反応性が殆ど又は全く観察されない場合(即ち完全に免疫吸着した坑血清と免疫原性ポリペプチドの結合に観察されるシグナル対ノイズ比の2倍以下)には、試験ポリペプチドは免疫原性蛋白質により誘導される坑血清に特異的に結合している。
医薬組成物
本発明のポリペプチド又は蛋白質(例えばシンテターゼ、1種以上の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質等)は場合により例えば適切な医薬キャリヤーと共に治療用に使用される。このような組成物は例えば治療有効量の化合物と医薬的に許容可能なキャリヤー又は賦形剤を含有する。このようなキャリヤー又は賦形剤としては限定されないが、食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール及び/又はその組合せが挙げられる。製剤は投与方法に合わせて製造される。一般に、蛋白質の投与方法は当分野で周知であり、本発明のポリペプチドの投与に適用することができる。
1種以上の本発明のポリペプチドを含有する治療用組成物は場合により1種以上の適当なインビトロ(in vitro)及び/又はインビボ(in vivo)動物疾患モデルで試験し、当分野で周知の方法により効力、組織代謝を確認し、用量を推定する。特に、天然アミノ酸相同体に対する本発明の非天然アミノ酸の活性、安定性又は他の適切な尺度(例えば1種以上の非天然アミノ酸を含むように改変したEPOと天然アミノ酸EPOの比較)により、即ち関連アッセイでまず用量を決定することができる。
投与は分子を最終的に血液又は組織細胞と接触させるために通常使用されている任意経路とする。本発明の非天然アミノ酸ポリペプチドは場合により1種以上の医薬的に許容可能なキャリヤーと共に適切な任意方法で投与される。本発明においてこのようなポリペプチドを患者に投与するのに適した方法は入手可能であり、特定組成物を投与するために2種以上の経路を使用することもできるが、特定経路が別の経路よりも迅速で有効な作用又は反応を生じることが多い。
医薬的に許容可能なキャリヤーは投与する特定組成物や、組成物を投与するために使用される特定方法によっても異なる。従って、本発明の医薬組成物の適切な製剤は多様である。
ポリペプチド組成物は多数の経路で投与することができ、限定されないが、例えば経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、経皮、皮下、局所、舌下又は直腸手段が挙げられる。非天然アミノ酸ポリペプチド組成物はリポソームにより投与することもできる。このような投与経路及び適切な製剤は一般に当業者に公知である。
非天然アミノ酸ポリペプチドは単独又は他の適切な成分と共にエアゾール製剤に処方(即ち「噴霧」)して吸入投与することもできる。エアゾール製剤はジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等の許容可能な加圧噴射剤に加えることができる。
例えば関節内、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内及び皮下経路等の非経口投与に適した製剤としては、酸化防止剤、緩衝液、静菌剤、及び製剤を所期レシピエントの血液に等張にする溶質を添加できる水性及び非水性等張滅菌注射溶液と、懸濁剤、溶解補助剤、増粘剤、安定剤及び防腐剤を添加できる水性及び非水性滅菌懸濁液が挙げられる。アンプルやバイアル等の単位用量又は多重用量密閉容器でパッケージ核酸製剤とすることもできる。
非経口投与と静脈内投与が好ましい投与方法である。特に、天然アミノ酸相同体治療で既に使用されている投与経路(例えばEPO、GCSF、GMCSF、IFN、インターロイキン、抗体及び/又は医薬として送達される他の任意蛋白質に一般に使用される投与経路)と現行製剤が本発明の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質の好ましい投与経路と製剤となる(例えば現行治療蛋白質のペグ化変異体等)。
本発明において患者に投与する用量は患者に有益な治療応答を経時的に生じるために十分な量又は例えば用途に応じて病原体による感染を阻害するか又は他の適当な活性を生じるために十分な量とする。用量は特定組成物/製剤の効力、使用する非天然アミノ酸ポリペプチドの活性、安定性又は血清半減期、患者の症状、更には治療する患者の体重又は体表面積により異なる。用量は特定患者における特定組成物/製剤の投与に伴う副作用の存在、性質及び程度等によっても異なる。
疾病(例えば癌、遺伝病、糖尿病、エイズ等)の治療又は予防に投与する組成物/製剤の有効量を決定する際には、医師は循環血漿値、製剤毒性、疾病の進行及び/又は該当する場合には抗非天然アミノ酸ポリペプチド抗体の生産を考慮する。
例えば体重70kgの患者の投与量は一般に現在使用されている治療用蛋白質の用量と同等の範囲であり、該当組成物の活性又は血清半減期の変化に合わせて調節する。本発明の組成物/製剤は抗体投与、ワクチン投与、細胞傷害性物質、天然アミノ酸ポリペプチド、核酸、ヌクレオチド類似体、生体応答調節剤等の投与を含む任意公知慣用治療による治療条件を補うことができる。
投与に当たり、本発明の製剤は該当製剤のLD50及び/又は例えば患者の体重と総合健康状態に応じた各種濃度の非天然アミノ酸の副作用の観察により決定される頻度で投与する。一度に投与してもよいし、分割して投与してもよい。
製剤を注入した患者が発熱、悪寒又は筋肉痛を生じる場合には、適当な用量のアスピリン、イブプロフェン、アセトアミノフェン又は他の鎮痛/解熱剤を投与する。発熱、筋肉痛及び悪寒等の注入反応を生じる患者には、次回注入の30分前にアスピリン、アセトアミノフェン又は例えばジフェニルヒドラミンを前投薬する。解熱剤や抗ヒスタミン剤がすぐに効かない重度悪寒及び筋肉痛にはメペリジンを使用する。反応の重度に応じて治療を遅らせるか又は中断する。
核酸及びポリペプチド配列と変異体
上記及び下記に記載するように、本発明は核酸ポリヌクレオチド配列及びポリペプチドアミノ酸配列(例えばO−tRNA及びO−RS)と、例えば前記配列を含む組成物及び方法を提供する。前記配列(例えばO−tRNA及びO−RS)の例を本明細書に開示する(表5,例えば配列番号3−65,86,並びに配列番号1及び2以外の配列参照)。しかし、当業者に自明の通り、本発明は本明細書(例えば実施例と表5)に開示する配列に限定されない。当業者に自明の通り、本発明は本明細書に記載する機能をもつ(例えばO−tRNA又はO−RSをコードする)多数の関連及び非関連配列も提供する。
本発明はポリペプチド(O−RS)とポリヌクレオチド、例えばO−tRNA、O−RS又はその部分(例えばシンテターゼの活性部位)をコードするポリヌクレオチド、アミノアシルtRNAシンテターゼ突然変異体を構築するために使用されるオリゴヌクレオチド等を提供する。例えば、本発明のポリペプチドとしては、配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号3−35(例えば3−19、20−35、又は配列3−35の他の任意サブセット)のいずれか1種に記載のポリヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド、並びに配列番号36−63、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド又は配列番号3−35(例えば3−19、20−35、又は配列3−35の他の任意サブセット)のいずれか1種に記載のポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドに特異的な抗体に対して特異的免疫反応性のポリペプチドが挙げられる。
天然に存在するチロシルアミノアシルtRNAシンテターゼ(TyrRS)(例えば配列番号2)のアミノ酸配列と少なくとも90%一致するアミノ酸配列を含むと共に、A−E群の2種以上のアミノ酸を含むポリペプチドも本発明のポリペプチドに含まれる。例えば、A群は大腸菌TyrRSのTyr37に対応する位置にバリン、イソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、アラニン、又はスレオニンを含み;B群は大腸菌TyrRSのAsn126に対応する位置にアスパラギン酸を含み;C群は大腸菌TyrRSのAsp182に対応する位置にスレオニン、セリン、アルギニン、アスパラギン又はグリシンを含み;D群は大腸菌TyrRSのPhe183に対応する位置にメチオニン、アラニン、バリン、又はチロシンを含み;E群は大腸菌TyrRSのLeu186に対応する位置にセリン、メチオニン、バリン、システイン、スレオニン、又はアラニンを含む。これらの群の組み合わせの任意サブセットが本発明の特徴である。例えば、1態様では、O−RSは大腸菌TyrRSのTyr37に対応する位置にバリン、イソロイシン、ロイシン、又はスレオニン;大腸菌TyrRSのAsp182に対応する位置にスレオニン、セリン、アルギニン、又はグリシン;大腸菌TyrRSのPhe183に対応する位置にメチオニン、又はチロシン;及び大腸菌TyrRSのLeu186に対応する位置にセリン、又はアラニンから選択される2種以上のアミノ酸をもつ。別の態様では、O−RSは大腸菌TyrRSのTyr37に対応する位置にグリシン、セリン、又はアラニン、大腸菌TyrRSのAsn126に対応する位置にアスパラギン酸、大腸菌TyrRSのAsp182に対応する位置にアスパラギン、大腸菌TyrRSのPhe183に対応する位置にアラニン、又はバリン、及び/又は大腸菌TyrRSのLeu186に対応する位置にメチオニン、バリン、システイン、又はスレオニンから選択される2種以上のアミノ酸を含む。同様に、本発明のポリペプチドは配列番号36−63(例えば36−47、48−63、又は36−63の他の任意サブセット)及び/又は86の少なくとも20個の連続するアミノ酸と、A−E群に上述したような2種以上のアミノ酸置換を含むポリペプチドも含む。本明細書の表4、表6、及び/又は表8も参照。上記ポリペプチドの任意のものの保存変異体を含むアミノ酸配列も本発明のポリペプチドに含まれる。
1態様では、組成物は本発明のポリペプチドと賦形剤(例えば緩衝液、水、医薬的に許容可能な賦形剤等)を含有する。本発明は更に本発明のポリペプチドに対して特異的免疫反応性の抗体又は抗血清も提供する。
本発明はポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリヌクレオチドとしては、本発明の該当蛋白質もしくはポリペプチドをコードするか、又は1個以上のセレクターコドンを含むか、又はその両方であるポリヌクレオチドが挙げられる。例えば、本発明のポリヌクレオチドとしては、例えば配列番号3−35(例えば3−19、20−35、又は配列3−35の他の任意サブセット)、64−85のいずれか1種に記載のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド;そのポリヌクレオチド配列に相補的であるか又はそのポリヌクレオチド配列をコードするポリヌクレオチド;及び/又は配列番号36−63、及び/又は86のいずれか1種に記載のアミノ酸配列、又はその保存変異体を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挙げられる。本発明のポリヌクレオチドは本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも含む。同様に、核酸の実質的に全長にわたって高ストリンジェント条件下で上記ポリヌクレオチドとハイブリダイズする核酸も本発明のポリヌクレオチドである。
本発明のポリヌクレオチドは天然に存在するチロシルアミノアシルtRNAシンテターゼ(TyrRS)(例えば配列番号2)のアミノ酸配列と少なくとも90%一致するアミノ酸配列を含むと共にA−E群(上記)に上述したような2種以上の突然変異を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも含む。上記ポリヌクレオチド及び/又は上記ポリヌクレオチドの任意のものの保存変異体を含むポリヌクレオチドと少なくとも70%(又は少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%以上)一致するポリヌクレオチドも本発明のポリヌクレオチドに含まれる。本明細書の表4、表6、及び/又は表8も参照。
所定態様では、ベクター(例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス等)に本発明のポリヌクレオチドを組込む。1態様では、ベクターは発現ベクターである。別の態様では、発現ベクターは本発明のポリヌクレオチドの1種以上と機能的に連結されたプロモーターを含む。別の態様では、本発明のポリヌクレオチドを組込んだベクターを細胞に導入する。
当業者に自明の通り、開示配列の多数の変異体も本発明に含まれる。例えば、機能的に同一配列となる開示配列の保存変異体も本発明に含まれる。少なくとも1種の開示配列とハイブリダイスする核酸ポリヌクレオチド配列の変異体も本発明に含むものとする。例えば標準配列比較法により本明細書に開示する配列のユニークサブ配列であるとみなされる配列も本発明に含まれる。
保存変異
遺伝コードの縮重により、「サイレント置換」(即ちコードされるポリペプチドに変化を生じない核酸配列の置換)はアミノ酸をコードする全核酸配列の暗黙の特徴である。同様に、「保存アミノ酸置換」はアミノ酸配列中の1又は数個のアミノ酸を高度に類似する特性をもつ別のアミノ酸で置換するものであり、このような置換も開示構築物と高度に類似することが容易に認められる。各開示配列のこのような保存変異は本発明の特徴である。
特定核酸配列の「保存変異」とは同一又は本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を意味し、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には本質的に同一の配列を意味する。当業者に自明の通り、コードされる配列中の単一アミノ酸又は低百分率(一般に5%未満、より一般には4%、2%又は1%未満)のアミノ酸を置換、付加又は欠失させる個々の置換、欠失又は付加の結果としてアミノ酸を欠失するか、アミノ酸が付加されるか、又はアミノ酸が化学的に類似するアミノ酸で置換される場合には、これらの変異は「保存修飾変異」である。従って、本発明のポリペプチド配列の「保存変異」としては、ポリペプチド配列のアミノ酸の低百分率、一般に5%未満、より一般には2%又は1%未満が同一保存置換基の保存的に選択されたアミノ酸で置換される場合が挙げられる。最後に、非機能的配列の付加のように核酸分子のコードされる活性を変えない配列の付加も基本核酸の保存変異である。
機能的に類似するアミノ酸を示す保存置換表は当分野で周知である。相互に「保存置換」を含む天然アミノ酸を含む代表群を以下に示す。
核酸ハイブリダイゼーション
比較ハイブリダイゼーションを使用して本発明の核酸の保存変異体を含む本発明の核酸を同定することができ、この比較ハイブリダイゼーション法は本発明の核酸を識別する好適な方法である。更に、高、超高及び超々高ストリンジェンシー条件下で配列番号3−35(例えば3−19、20−35、又は配列3−35の他の任意サブセット)、64−85により示す核酸とハイブリダイズするターゲット核酸も本発明の特徴である。このような核酸の例としては所与核酸配列と比較して1又は数個のサイレント又は保存核酸置換をもつものが挙げられる。
試験核酸が完全にマッチする相補的ターゲットに比較して少なくとも1/2の割合でプローブとハイブリダイズする場合、即ちマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも約5倍〜10倍で完全にマッチするプローブが完全にマッチする相補的ターゲットと結合する条件下におけるプローブとターゲットのハイブリダイゼーションに比較してシグナル対ノイズ比が少なくとも1/2である場合に試験核酸はプローブ核酸と特異的にハイブリダイズすると言う。
核酸は一般に溶液中で会合するときに「ハイブリダイズ」する。核酸は水素結合、溶媒排除、塩基スタッキング等の種々の十分に特性決定された物理化学的力によりハイブリダイズする。核酸ハイブリダイゼーションの詳しい手引きはTijssen (1993) Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Acid Probes part I chapter 2, “Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays, ”(Elsevier, New York)及びAusubel, 前出に記載されている。Hames and Higgins (1995) Gene Probes 1 IRL Press at Oxford University Press, Oxford, England, (Hames and Higgins 1) 及びHames and Higgins (1995) Gene Probes 2 IRL Press at Oxford University Press, Oxford, England (Hames and Higgins 2) はオリゴヌクレオチドを含むDNAとRNAの合成、標識、検出及び定量について詳細に記載している。
サザン又はノーザンブロットで100個を上回る相補的残基をもつ相補的核酸のハイブリダイゼーションをフィルター上で行うためのストリンジェントハイブリダイゼーション条件の1例は、50%ホルマリンにヘパリン1mgを加え、42℃で一晩ハイブリダイゼーションを実施する。ストリンジェント洗浄条件の1例は65℃、0.2×SSCで15分間洗浄する(SSC緩衝液の説明についてはSambrook,前出参照)。多くの場合には高ストリンジェンシー洗浄の前に低ストリンジェンシー洗浄を実施してバックグラウンドプローブシグナルを除去する。低ストリンジェンシー洗浄の1例は40℃、2×SSCで15分間である。一般に、シグナル対ノイズ比が特定ハイブリダイゼーションアッセイで非関連プローブに観測される比の5倍(以上)である場合に特異的ハイブリダイゼーションが検出されたとみなす。
サザン及びノーザンハイブリダイゼーション等の核酸ハイブリダイゼーション実験において「ストリンジェントハイブリダイゼーション洗浄条件」は配列依存的であり、各種環境パラメーターにより異なる。核酸ハイブリダイゼーションの詳しい手引きはTijssen(1993),前出やHames and Higgins 1及び2に記載されている。ストリンジェントハイブリダイゼーション及び洗浄条件は任意試験核酸について経験により容易に決定することができる。例えば、高ストリンジェントハイブリダイゼーション及び洗浄条件を決定するには、一連の選択基準に合致するまで(例えばハイブリダイゼーション又は洗浄における温度上昇、塩濃度低下、界面活性剤濃度増加及び/又はホルマリン等の有機溶媒濃度増加により)ハイブリダイゼーション及び洗浄条件を徐々に増加する。例えば、マッチしないターゲットとプローブのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも約5倍でプローブが完全にマッチする相補的ターゲットと結合するまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件を徐々に増加する。
「超ストリンジェント」条件は特定プローブの熱融点(Tm)に等しくなるように選択される。Tmは(規定イオン強度及びpH下で)試験配列の50%が完全にマッチするプローブとハイブリダイズする温度である。本発明の目的には、一般に規定イオン強度及びpHで特定配列のTmよりも約5℃低くなるように「高ストリンジェント」ハイブリダイゼーション及び洗浄条件を選択する。
「超高ストリンジェンシー」ハイブリダイゼーション及び洗浄条件は完全にマッチする相補的ターゲット核酸とプローブの結合に観測されるシグナル対ノイズ比がマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも10倍になるまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件のストリンジェンシーを増加する条件である。完全にマッチする相補的ターゲット核酸のシグナル対ノイズ比の少なくとも1/2で前記条件下にプローブとハイブリダイズする場合にターゲット核酸は超高ストリンジェンシー条件下でプローブと結合すると言う。
同様に、該当ハイブリダイゼーションアッセイのハイブリダイゼーション及び/又は洗浄条件を徐々に増加することにより更に高いレベルのストリンジェンシーを決定することもできる。例えば、完全にマッチする相補的ターゲット核酸とプローブの結合に観測されるシグナル対ノイズ比がマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも10倍、20倍、50倍、100倍又は500倍以上になるまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件のストリンジェンシーを増加する条件である。完全にマッチする相補的ターゲット核酸のシグナル対ノイズ比の少なくとも1/2で前記条件下にプローブとハイブリダイズする場合にターゲット核酸は超々高ストリンジェンシー条件下でプローブと結合すると言う。
ストリンジェント条件下で相互にハイブリダイズしない核酸でも、これらの核酸によりコードされるポリペプチドが実質的に同一である場合には実質的に同一である。これは、例えば遺伝コードに許容される最大コドン縮重を使用して核酸のコピーを作製する場合に該当する。
ユニークサブ配列
1側面では、本発明は本明細書に開示するO−tRNA及びO−RSの配列から選択される核酸中にユニークサブ配列を含む核酸を提供する。ユニークサブ配列は任意公知O−tRNA及びO−RS核酸配列に対応する核酸に比較してユニークである。例えばデフォルトパラメーターに設定したBLASTを使用してアラインメントを実施することができる。任意ユニークサブ配列は例えば本発明の核酸を同定するためのプローブとして有用である。
同様に、本発明は本明細書に開示するO−RSの配列から選択されるポリペプチド中にユニークサブ配列を含むポリペプチドを含む。この場合には、ユニークサブ配列は任意公知ポリペプチド配列に対応するポリペプチドに比較してユニークである。
本発明はO−RSの配列から選択されるポリペプチド中のユニークサブ配列をコードするユニークコーディングオリゴヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするターゲット核酸も提供し、この場合には、ユニークサブ配列は対照ポリペプチド(例えば本発明のシンテターゼを例えば突然変異により誘導した元の親配列)の任意のものに対応するポリペプチドに比較してユニークである。ユニーク配列は上記のように決定する。
配列比較、一致度及び相同度
2種以上の核酸又はポリペプチド配列に関して「一致」又は「一致度」百分率なる用語は2種以上の配列又はサブ配列を最大限に対応するように対比及び整列させ、以下に記載する配列比較アルゴリズム(又は当業者に入手可能な他のアルゴリズム)の1種を使用するか又は目視により測定した場合に相互に同一であるか又は同一のアミノ酸残基もしくはヌクレオチドの百分率が特定値であることを意味する。
2種以上の核酸又はポリペプチド(例えばO−tRNAもしくはO−RSをコードするDNA又はO−RSのアミノ酸配列)に関して「実質的に一致」なる用語は2種以上の配列又はサブ配列を最大限に対応するように対比及び整列させ、配列比較アルゴリズムを使用するか又は目視により測定した場合にヌクレオチド又はアミノ酸残基一致度が少なくとも約60%、好ましくは80%、最も好ましくは90〜95%であることを意味する。このような「実質的に一致」する配列は一般に実際の起源が記載されていなくても「相同」であるとみなす。少なくとも約50残基長の配列の領域にわたって「実質的一致」が存在していることが好ましく、少なくとも約100残基長の配列の領域がより好ましく、少なくとも約150残基又は比較する2配列の全長にわたって配列が実質的に一致していることが最も好ましい。
配列比較及び相同性決定には、一般に一方の配列を参照配列としてこれに試験配列を比較する。配列比較アルゴリズムを使用する場合には、試験配列と参照配列をコンピューターに入力し、必要に応じてサブ配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメーターを指定する。こうすると、配列比較アルゴリズムは指定プログラムパラメーターに基づいて参照配列に対して試験配列の配列一致度百分率を計算する。
比較のための最適な配列アラインメントは例えばSmith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズム、Needleman & Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson & Lipman,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 85:2444(1988)の類似性探索法、これらのアルゴリズムのコンピューターソフトウェア(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WIのGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)、又は目視(一般にAusubelら,後出参照)により実施することができる。
配列一致度及び配列類似度百分率を決定するのに適したアルゴリズムの1例はAltschulら,J.Mol.Biol.215:403−410(1990)に記載されているBLASTアルゴリズムである。BLAST分析を実施するためのソフトウェアはNational Center for Biotechnology Information(www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公共入手可能である。このアルゴリズムはデータベース配列中の同一長さの単語と整列した場合に所定の正の閾値スコアTと一致するか又はこれを満足するクエリー配列中の長さWの短い単語を識別することによりまず高スコア配列対(HSP)を識別する。Tを隣接単語スコア閾値と言う(Altschulら,前出)。これらの初期隣接単語ヒットをシードとして検索を開始し、これらの単語を含むもっと長いHSPを探索する。次に、累積アラインメントスコアを増加できる限り、単語ヒットを各配列に沿って両方向に延長する。ヌクレオチド配列の場合にはパラメーターM(1対のマッチ残基のリウォードスコア、常に>0)及びN(ミスマッチ残基のペナルティースコア、常に<0)を使用して累積スコアを計算する。アミノ酸配列の場合には、スコアリングマトリクスを使用して累積スコアを計算する。累積アラインメントスコアがその最大到達値から量Xだけ低下するか、累積スコアが1カ所以上の負スコア残基アラインメントの累積によりゼロ以下になるか、又はどちらかの配列の末端に達したら各方向の単語ヒットの延長を停止する。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T及びXはアラインメントの感度と速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は語長(W)11、期待値(E)10、カットオフ100、M=5、N=4、及び両鎖の比較をデフォルトとして使用する。アミノ酸配列用として、BLASTPプログラムは語長(W)3、期待値(E)10、及びBLOSUM62スコアリングマトリクスをデフォルトとして使用する(Henikoff & Henikoff(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915参照)。
配列一致度百分率の計算に加え、BLASTアルゴリズムは2配列間の類似性の統計分析も実施する(例えばKarlin & Altschul,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 90:5873−5787(1993)参照)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1尺度は2種のヌクレオチド又はアミノ酸配列間に偶然にマッチが起こる確率を示す最小合計確率(P(N))である。例えば、試験核酸を参照核酸に比較した場合の最小合計確率が約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合に核酸は参照核酸に類似しているとみなす。
突然変異誘発及び他の分子生物学技術
分子生物学技術について記載している一般教科書としてはBerger and Kimmel,Guide to Molecular Cloning Techniques,Methods in Enzymology volume 152 Academic Press,Inc.,San Diego,CA(Berger);Sambrookら,Molecular Cloning−A Laboratory Manual(第2版),Vol.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,1989(「Sambrook」)及びCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubelら編,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.,(1999年補遺)(「Ausubel」))が挙げられる。これらの教科書は突然変異誘発、ベクターの使用、プロモーター及び他の多くの関連事項について記載しており、例えば非天然アミノ酸、直交tRNA、直交シンテターゼ及びその対を含む蛋白質を生産するためのセレクターコドンを含む遺伝子の作製についても記載している。
例えばtRNAのライブラリーを作製するため、シンテターゼのライブラリーを作製するため、非天然アミノ酸をコードするセレクターコドンを該当蛋白質又はポリペプチドに挿入するために、本発明では各種突然変異誘発を使用する。これらの例としては限定されないが、部位特異的、ランダム点突然変異誘発、相同組換え、DNAシャフリング又は他の再帰的突然変異誘発法、キメラ構築、ウラシル含有鋳型を使用する突然変異誘発、オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発、ホスホロチオエート修飾DNA突然変異誘発、ギャップデュプレクスDNAを使用する突然変異誘発等、又はその任意組み合わせが挙げられる。他の適切な方法としては点ミスマッチ修復、修復欠損宿主株を使用する突然変異誘発、制限−選択及び制限−精製、欠失突然変異誘発、完全遺伝子合成による突然変異誘発、2本鎖切断修復等が挙げられる。例えばキメラ構築物を使用する突然変異誘発も本発明に含まれる。1態様では、天然分子又は改変もしくは突然変異させた天然分子の公知情報(例えば配列、配列比較、物性、結晶構造等)により突然変異誘発を実施することができる。
上記教科書と本明細書の実施例はこれらの手順について記載している。以下の刊行物とその引用文献にも情報が記載されている。Lingら,Approaches to DNA mutagenesis:an overview,Anal Biochem.254(2):157−178(1997);Daleら,Oligonucleotide−directed random mutagenesis using phosphorothioate method,Methods Mol.Bio.57:369−374(1996);Smith,インビボ(in vivo) mutagenesis,Ann.Rev.Genet.19:423−462(1985);Botstein & Shortle,Strategies and applications of インビトロ(in vitro) mutagenesis,Science 229:1193−1201(1985);Carter,Site−directed mutagenesis,Biochem.J.237:1−7(1986);Kunkel,The efficiency of oligonucleotide directed mutagenesis,in Nucleic Acids & Molecular Biology(Eckstein,F.and Lilley,D.M.J.編,Springer Verlag,Berlin))(1987);Kunkel,Rapid and efficient site−specific mutagenesis without phenotypic selection,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488−492(1985);Kunkelら,Rapid and efficient site−specific mutagenesis without phenotypic selection,Methods in Enzymol.154,367−382(1987);Bassら,Mutant Trp repressors with new DNA−binding specificities,Science 242:240−245(1988);Methods in Enzymol.100:468−500(1983);Methods in Enzymol.154:329−350(1987);Zoller & Smith,Oligonucleotide−directed mutagenesis using M13−derived vectors:an efficient and general procedure for the production of point mutations in any DNA fragment,Nucleic Acids Res.109:6487−6500(1982);Zoller & Smith,Oligonucleotide−directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors,Methods in Enzymol.100:468−500(1983);Zoller & Smith,Oligonucleotide−directed mutagenesis:a simple method using two oligonucleotide primers and a single−stranded DNA template,Methods in Enzymol.154:329−350(1987);Taylorら,The use of phosphorothioate−modified DNA in restriction enzyme reactions to prepare nicked DNA,Nucl.Acids Res.13:8749−8764(1985);Taylorら,The rapid generation of oligonucleotide−directed mutations at high frequency using phosphorothioate−modified DNA,Nucl.Acids Res.13:8765−8787(1985);Nakamaye & Eckstein,Inhibition of restriction endonuclease NciI cleavage by phosphorothioate groups and its application to oligonucleotide−directed mutagenesis,Nucl.Acids Res.14:9679−9698(1986);Sayersら,Y−T Exonucleases in phosphorothioate−based oligonucleotide−directed mutagenesis,Nucl.Acids Res.16:791−802(1988);Sayersら,Strand specific cleavage of phosphorothioate−containing DNA by reaction with restriction endonucleases in the presence of ethidium bromide,(1988)Nucl.Acids Res.16:803−814;Kramerら,The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide−directed mutation construction,Nucl.Acids Res.12:9441−9456(1984);Kramer & Fritz Oligonucletide−directed construction of mutations via gapped duplex DNA,Methods in Enzymol.154:350−367(1987);Kramerら,Improved enzymatic インビトロ(in vitro) reactions in the gapped duplex DNA approach to oligonucleotide−directed construction of mutations,Nucl.Acids Res 16:7207(1988);Fritzら,Oligonucleotide−directed construction of mutations:a gapped duplex DNA procedure without enzymatic reactions インビトロ(in vitro),Nucl.Acids Res.16:6987−6999(1988);Kramerら,Point Mismatch Repair,Cell 38:879−887(1984);Carterら,Improved oligonucleotide site−directed mutagenesis using M13 vectors,Nucl.Acids Res.13:4431−4443(1985);Carter,Improved oligonucleotide−directed mutagenesis using M13 vectors,Methods in Enzymol.154:382−403(1987);Eghtedarzadeh & Henikoff,Use of oligonucleotides to generate large deletions,Nucl.Acids Res.14:5115(1986);Wellsら,Importance of hydrogen−bond formation in stabilizing the transition state of subtilisin,Phil.Trans.R.Soc.Lond.A 317:415−423(1986);Nambiarら,Total synthesis and cloning of a gene coding for the ribonuclease S protein,Science 223:1299−1301(1984);Sakamar & Khorana,Total synthesis and expression of a gene for the a−subunit of bovine rod outer segment guanine nucleotide−binding protein(transducin),Nucl.Acids Res.14:6361−6372(1988);Wellsら,Cassette mutagenesis:an efficient method for generation of multiple mutations at defined sites,Gene 34:315−323(1985);Grundstromら,Oligonucleotide−directed mutagenesis by microscale ‘shot−gun’ gene synthesis,Nucl.Acids Res.13:3305−3316(1985);Mandecki,Oligonucleotide−directed double−strand break repair in plasmids of 大腸菌(Escherichia coli):a method for site−specific mutagenesis,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:7177−7181(1986);Arnold,Protein engineering for unusual environments,Current Opinion in Biotechnology 4:450−451(1993);Sieberら,Nature Biotechnology,19:456−460(2001);W.P.C.Stemmer,Nature 370,389−91(1994);及びI.A.Lorimer,I.Pastan,Nucleic Acids Res.23,3067−8(1995)。上記方法の多くに関する更に詳細な説明はMethods in Enzomology Volume 154に記載されており、この文献には各種突然変異誘発法に伴うトラブルシューティング問題の有用な解決方法も記載されている。
本発明は直交tRNA/RS対を介する非天然アミノ酸のインビボ(in vivo)組込みに用いる真核宿主細胞及び生物にも関する。本発明のポリヌクレオチド又は本発明のポリヌクレオチドを含む構築物(例えばクローニングベクター又は発現ベクター等の本発明のベクター)で宿主細胞を遺伝子組換え(例えば形質転換、形質導入又はトランスフェクション)する。ベクターは例えばプラスミド、細菌、ウイルス、裸のポリヌクレオチド又はポリヌクレオチドコンジュゲートの形態とすることができる。ベクターはエレクトロポレーション(Fromら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82,5824(1985))、ウイルスベクターによる感染、核酸を小ビーズもしくは粒子のマトリックスに埋込むか又は表面に付着させて小粒子形態で高速射入する(Kleinら,Nature 327,70−73(1987))等の標準方法により細胞及び/又は微生物に導入する。
組換え宿主細胞は例えばスクリーニング段階、プロモーター活性化又は形質転換細胞選択等の機能に合うように適宜改変した慣用栄養培地で培養することができる。これらの細胞は場合によりトランスジェニック生物で培養することができる。(例えば後期核酸単離のための)例えば細胞単離及び培養に関する他の有用な文献としてはFreshney(1994)Culture of Animal Cells,a Manual of Basic Technique,第3版,Wiley−Liss,New Yorkとその引用文献;Payneら(1992)Plant Cell and Tissue Culture in Liquid Systems John Wiley & Sons,Inc.New York,NY;Gamborg and Phillips(eds)(1995)Plant Cell,Tissue and Organ Culture;Fundamental Methods Springer Lab Manual,Springer−Verlag(Berlin Heidelberg New York)及びAtlas and Parks(eds)The Handbook of Microbiological Media(1993)CRC Press,Boca Raton,FLが挙げられる。
ターゲット核酸を細胞に導入する方法は数種の周知方法が入手可能であり、本発明ではその任意のものを使用することができる。これらの方法としては、DNAを含む細菌プロトプラストとレシピエント細胞の融合、エレクトロポレーション、遺伝子銃及びウイルスベクターによる感染(下記に詳述)等が挙げられる。本発明のDNA構築物を含むプラスミドの数を増幅するためには細菌細胞を使用することができる。対数期まで細菌を増殖させると、細菌内のプラスミドを当分野で公知の各種方法により分離することができる(例えばSambrook参照)。更に、細菌からプラスミドを精製するために多数のキットが市販されている(例えばEasyPrep(登録商標)、FlexiPrep(登録商標)(いずれもPharmacia Biotech);StrataClean(登録商標)(Stratagene);及びQIAprep(登録商標)(Qiagen))。単離精製したプラスミドを更に操作して他のプラスミドを作製し、細胞をトランスフェクトするために使用するか又は生物に感染させるために関連ベクターに組込む。典型的ベクターは転写及び翻訳ターミネーターと、転写及び翻訳開始配列と、特定ターゲット核酸の発現の調節に有用なプロモーターを含む。ベクターは場合により少なくとも1個の独立ターミネーター配列と、真核生物又は原核生物又は両者(例えばシャトルベクター)でカセットの複製を可能にする配列と、原核系と真核系の両者の選択マーカーを含む包括的発現カセットを含む。ベクターは原核生物、真核生物、又は好ましくは両者での複製と組込みに適している。Giliman & Smith,Gene 8:81(1979);Robertsら,Nature,328:731(1987);Schneider,B.ら,Protein Expr.Purif.6435:10(1995);Ausubel,Sambrook,Berger(いずれも前出)参照。クローニングに有用な細菌とバクテリオファージのカタログは例えばATCCから入手でき、例えばATCCから刊行されたThe ATCC Catalogue of Bacteria and Bacteriophage(1992)Ghernaら(編)が挙げられる。その他のシーケンシング、クローニング及び分子生物学の他の側面の基本手順と基礎理論事項もWatsonら(1992)Recombinant DNA Second Edition Scientific American Books,NYに記載されている。更に、Midland Certified Reagent Company(Midland,TX mcrc.com)、The Great American Gene Company(Ramona,CA,ワールドワイドウェブgenco.com参照)、ExpressGen Inc.(Chicago,IL,ワールドワイドウェブexpressgen.com参照)、Operon Technologies Inc.(Alameda,CA)、その他多数の各種販売会社からほぼ任意核酸(及び標準又は標準外を問わずほぼ任意標識核酸)をオーダーメード又は標準注文することができる。
キット
キットも本発明の特徴である。例えば、少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を細胞で生産するためのキットが提供され、前記キットはO−tRNAをコードするポリヌクレオチド配列、及び/又はO−tRNA、及び/又はO−RSをコードするポリヌクレオチド配列、及び/又はO−RSを収容する容器を含む。1態様では、キットは更に少なくとも1種の非天然アミノ酸を含む。別の態様では、キットは更に蛋白質を生産するための説明書を含む。
以下、実施例により本発明を例証するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。請求の範囲に記載する発明の範囲から逸脱せずに変更可能な種々の非必須パラメーターが当業者に認識されよう。
非天然アミノ酸を真核細胞に組込むアミノアシルtRNAシンテターゼの生産方法と組成物
新規な物理的、化学的又は生物学的性質をもつ非天然アミノ酸を付加するような真核遺伝コードの拡張は、これらの細胞における蛋白質機能を分析及び制御するための強力なツールとなろう。この目的のために、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)でアンバーコドンに応答して高い忠実度で非天然アミノ酸を蛋白質に組込むアミノアシルtRNAシンテターゼを単離するための一般アプローチについて記載する。この方法はGAL4のDNA結合ドメインと転写活性化ドメインの間のアンバーコドンの抑圧によるGAL4応答性レポーター遺伝子HIS3、URA3又はLacZの活性化に基づく。活性大腸菌チロシル−tRNAシンテターゼ(EcTyrRS)変異体のポジティブ選択のためのGAL4レポーターの最適化について記載する。「毒性対立遺伝子」として増殖培地に添加した小分子(5−フルオロオロト酸(5−FOA))の使用によりURA3レポーターを用いて不活性EcTyrRS変異体のネガティブ選択も行った。重要な点として、ポジティブ選択とネガティブ選択の両者を単一細胞で一連のストリンジェンシー下に実施することができる。このため、突然変異体シンテターゼの大きなライブラリーから一連のアミノアシルtRNAシンテターゼ(aaRS)活性を容易に単離できる。所望aaRS表現型を単離するこの方法の能力をモデル選択により立証する。
非天然アミノ酸を大腸菌(E.coli)の遺伝コードに付加する最近の方法は蛋白質構造及び機能をインビトロ(in vitro)及びインビボ(in vivo)の両面で分析及び操作するための強力な新規アプローチである。フォトアフィニティーラベル、重原子、ケト基、オレフィン基及びクロモフォアで修飾したアミノ酸が20種の標準アミノ酸に匹敵する効率と忠実度で大腸菌の蛋白質に組込まれている。例えばChinら, (2002), Addition of a Photocrosslinker to the Genetic Code of Escherichia coli, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 99:11020-11024;Chin and Schultz, (2002), インビボ(in vivo) Photocrosslinking with Unnatural Amino Acid Mutagenesis, Chem BioChem 11:1135-1137;Chinら, (2002), Addition of p-Azido-L-phenylalanine to the Genetic code of 大腸菌(Escherichia coli), J. Am. Chem. Soc. 124:9026-9027;Zhangら, (2002), The selective incorporation of alkenes into proteins in Escherichia coli, Angewandte Chemie. International Ed. in English 41:2840-2842;及びWang and Schultz, (2002), Expanding the Genetic Code, Chem. Comm. 1-10参照。
化学的にミスアシル化されたテトラヒメナ・サーモフィラ(Tetrahymena thermophila) tRNA(例えばM. E. Saksら(1996), An engineered Tetrahymena tRNAGln for in vivo incorporation of unnatural amino acids into proteins by nonsense suppression, J. Biol. Chem. 271:23169-23175)と関連mRNAのマイクロインジェクションにより、非天然アミノ酸がアフリカツメガエル卵母細胞でニコチン性アセチルコリン受容体に既に導入されている(例えばM. W. Nowakら(1998), in vivo incorporation of unnatural amino acids into ion channels in Xenopus oocyte expression system, Method Enzymol. 293:504-529)。この結果、ユニークな物理的又は化学的性質をもつ側鎖を含むアミノ酸の導入により卵母細胞で受容体の詳細な生物理学的研究が可能になった。例えばD. A. Dougherty(2000), Unnatural amino acids as probes of protein structure and function, Curr. Opin. Chem. Biol. 4:645-652参照。しかし、残念なことにこの方法はマイクロインジェクションすることができる細胞の蛋白質に限られており、tRNAは化学的にインビトロ(in vitro)でアシル化され、再アシル化できないため、蛋白質収率が非常に低い。従って、蛋白質機能をアッセイするために高感度の技術が必要である。
アンバーコドンに応答して非天然アミノ酸を真核細胞の蛋白質に遺伝的に組込む方法が注目されている。H. J. Drabkinら, (1996), Amber suppression in mammalian cells dependent upon expression of an Escherichia coli aminoacyl-tRNA synthetase gene, Molecular & Cellular Biology 16:907-913;A. K. Kowalら, (2001), Twenty-first aminoacyl-tRNA synthetase-suppressor tRNA pairs for possible use in site-specific incorporation of amino acid analogues into proteins in eukaryotes and in eubacteria. [comment], Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 98:2268-2273;及びK. Sakamotoら, (2002), Site-specific incorporation of an unnatural amino acid into proteins in mammalian cells, Nucleic Acids Res. 30:4692-4699も参照。tRNAはそのコグネイトシンテターゼにより再アシル化され、大量の突然変異体蛋白質が得られるのでこの方法は技術的及び実用的に非常に有利である。更に、遺伝的にコードされるアミノアシルtRNAシンテターゼとtRNAは原則として遺伝性であるため、指数的希釈なしに多数の細胞分裂を介して非天然アミノ酸を蛋白質に組込むことができる。
大腸菌の遺伝コードに新規アミノ酸を付加するために必要な段階は記載されており(例えばD. R. Liu, & P. G. Schultz, (1999), Progress toward the evolution of an organism with an expanded genetic code, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 96:4780-4785参照)、真核生物の遺伝コードを拡張するためにも同様の原理が有用であると思われる。第1段階では、直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(aaRS)/tRNACUA対を同定する。この対は宿主細胞翻訳機構と共働する必要があるが、aaRSは内在tRNAにアミノ酸を負荷すべきではなく、tRNACUAは内在シンテターゼによりアミノアシル化されるべきではない。例えばD. R. Liuら, Engineering a tRNA and aminoacyl-tRNA synthetase for the site-specific incorporation of unnatural amino acids into proteins in vivo, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 94:10092-10097参照。第2段階では、非天然アミノ酸しか使用することができないaaRS/tRNA対を突然変異体aaRSのライブラリーから選択する。大腸菌で2段階「二重シーブ」選択を使用してMjTyrRSの変異体を利用する非天然アミノ酸の選択が実施された。例えばD. R. Liu, & P. G. Schultz, (1999), Progress toward the evolution of an organism with an expanded genetic code, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 96:4780-4785参照。改変選択法を真核細胞で使用する。
単細胞であり、1世代の寿命が短く、遺伝が比較的十分に特性決定されていることから、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(S.cerevisiae)が真核宿主生物として選択された。例えばD. Burkeら, (2000)Methods in Yeast Genetics. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY参照。更に、真核生物の翻訳機構は高度に保存されている(例えば(1996)Translational Control. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY;Y. Kwok, & J. T. Wong, (1980), Evolutionary relationship between Halobacterium cutirubrum and eukaryotes determined by use of aminoacyl-tRNA synthetases as phylogenetic probes, Canadian Journal of Biochemistry 58:213-218;及び(2001)The Ribosome. Cold Spring harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY参照)ので、S.cerevisiaeで発見された非天然アミノ酸の組込み用aaRS遺伝子を高等真核生物に「切り貼り」し、非天然アミノ酸を組込むためにコグネイトtRNAと併用できると思われる(例えばK. Sakamotoら, (2002)Site-specific incorporation of an unnatural amino acid into proteins in mammalian cells, Nucleic Acids Res. 30:4692-4699;及びC. Kohrerら, (2001), Import of amber and ochre suppressor tRNAs into mammalian cells:a general approach to site-specific insertion of amino acid analogues into proteins, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 98:14310-14315参照)。従って、S.cerevisiaeの遺伝コードの拡張は複雑な多細胞真核生物の遺伝コードを拡張する糸口となる。例えばM. Buvoliら, (2000), Suppression of nonsense mutations in cell culture and mice by multimerized suppressor tRNA genes, Molecular & Cellular Biology 20:3116-3124参照。大腸菌の遺伝コードを拡張するために従来使用されているメタノコッカス・ヤナシイ(Methanococcus jannaschii) TyrRS(MjTyrRS)/tRNAに由来するチロシル対(例えばL. Wang, & P. G. Schultz, (2002), Expanding the Genetic Code, Chem. Comm. 1-10参照)は真核生物では直交でなく(例えばP. Fechterら, (2001), Major tyrosine identity determinants in Methanococcus jannaschii and Saccharomyces cerevisiae tRNA(Tyr) are conserved but expressed differently, Eur. J. Biochem. 268:761-767)、真核遺伝コードを拡張するためには新規直交対が必要である。Schimmelらは大腸菌チロシル−tRNAシンテターゼ(EcTyrRS)/tRNACUA対がS.cerevisiaeでアンバーコドンを抑圧し、大腸菌tRNACUAが酵母サイトゾルで内在アミノアシルtRNAシンテターゼにより負荷されないことを示している(図2)。例えばH. Edwardsら, (1991), An Escherichia coli tyrosine transfer RNA is a leucine-specific transfer RNA in the yeast Saccharomyces cerevisiae, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 88:1153-1156;及びH. Edwards, & P. Schimmel(1990), A bacterial amber suppressor in Saccharomyces cerevisiae is selectively recognized by a bacterial aminoacyl-tRNA synthetase, Molecular & Cellular Biology 10:1633-1641も参照。更に、EcTyrRSは酵母tRNAにインビトロ(in vitro)負荷しないことが示されている。例えばY. Kwok, & J. T. Wong, (1980), Evolutionary relationship between Halobacterium cutirubrum and eukaryotes determined by use of aminoacyl-tRNA synthetases as phylogenetic probes, Canadian Journal of Biochemistry 58:213-218;B. P. Doctorら, (1966), Studies on the species specificity of yeast and E. coli tyrosine tRNAs, Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 31:543-548;及びK. Wakasugiら, (1998), Genetic code in evolution:switching species-specific aminoacylation with a peptide transplant, EMBO Journal 17:297-305参照。従って、EcTyrRS/tRNACUA対はS.cerevisiaeと高等真核生物の両者において直交対の候補である(例えばA. K. Kowalら, (2001), Twenty-first aminoacyl-tRNA synthetase-suppressor tRNA pairs for possible use in site-specific incorporation of amino acid analogues into proteins in eukaryotes and in eubacteria. [comment], Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 98(2001)2268-2273)。
大腸菌におけるEcTyrRSの基質特異性を拡大するために、NishimuraらはエラープローンPCRにより作製したEcTyrRSの突然変異体のライブラリーをスクリーニングし、3−アザチロシンを組込む能力が改善された突然変異体を発見した。例えばF. Hamano-Takakuら, (2000), A mutant Escherichia coli tyrosyl tRNA synthetase utilizes the unnatural amino acid azatyrosine more efficiently than tyrosine, J. Biol. Chem. 275:40324-40328参照。しかし、このアミノ酸は大腸菌のプロテオーム全体に組込まれ、進化後の酵素も依然としてチロシンを基質とする。Yokoyamaらは麦芽翻訳系でEcTyrRSの設計活性部位変異体の小集合をスクリーニングし、3−ヨードチロシンをチロシンよりも有効に利用するEcTyrRS変異体を発見した。D. Kigaら, (2002), An engineered Escherichia coli tyrosyl-tRNA synthetase for site-specific incorporation of an unnatural amino acid into proteins in eukaryotic translation and its application in a wheat germ cellfree system, Proc. Natl. Sci. U. S. A. 99:9715-9720参照。本発明者らが大腸菌で進化させた酵素(例えばJ. W. Chinら, (2002), Addition of a Photocrosslinker to the Genetic Code of Escherichia coli, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. 99:11020-11024;J. W. Chinら, (2002), Addition of p-Azido-L-phenylalanine to the Genetic code of Escherichia coli, J. Am. Chem. Soc. 124:9026-9027;L. Wangら, (2001), Expanding the genetic code of Escherichia coli, Science 292:498-500;及びL. Wangら, (2002), Adding L-3-(2-naphthyl)alanine to the genetic code of E-coli, J. Am. Chem. Soc. 124:1836-1837)と異なり、この酵素は依然として非天然アミノ酸の不在下にチロシンを組込む。例えばD. Kigaら, (2002), An engineered Escherichia coli tyrosyl-tRNA synthetase for site-specific incorporation of an unnatural amino acid into proteins in eukaryotic translation and its application in a wheat germ cellfree system, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 99:9715-9720参照。最近、YokoyamaらはこのEcTyrRS突然変異体が哺乳動物細胞でアンバーコドンを抑圧するためにバシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)に由来するtRNACUAと共働することも示している。K. Sakamotoら, (2002), Site-specific incorporation of an unnatural amino acid into proteins in mammalian cells, Nucleic Acids Res. 30:4692-4699参照。
真核遺伝コードに付加した任意アミノ酸を20種の標準アミノ酸と同等の忠実度で組込むことが必要である。この目的を達成するために、アンバーコドンTAGに応答して非天然アミノ酸を組込むが、標準アミノ酸は全く組込まないようにS.cerevisiaeで機能するEcTyrRS/tRNACUA変異体を見いだすために一般的なインビボ(in vivo)選択法が使用されている。選択の主要な利点は非天然アミノ酸を選択的に組込む酵素を108個のEcTyrRS活性部位変異体のライブラリーから迅速に選択集積できることであり、インビトロ(in vitro)でスクリーニングされるよりも6〜7桁上回るダイバーシティである。例えばD. Kigaら, (2002), An engineered Escherichia coli tyrosyl-tRNA synthetase for site-specific incorporation of an unnatural amino acid into proteins in eukaryotic translation and its application in a wheat germ cellfree system, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 99:9715-9720参照。このダイバーシティの増加により、多種多様な有用機能を非常に高い忠実度で組込むためのEcTyrRS変異体を単離する可能性が著しく拡がる。例えばL. Wang, & P. G. Schultz, (2002), Expanding the Genetic Code, Chem. Comm. 1-10参照。
S.cerevisiaeの選択アプローチを拡大するために、転写アクチベーター蛋白質GAL4が使用された(図1参照)。例えばA. Laughonら, (1984), Identification of two proteins encoded by the Saccharomyces cerevisiae GAL4 gene, Molecular & Cellular Biology 4:268-275;A. Laughon, & R. F. Gesteland, (1984), Primary structure of the Saccharomyces cerevisiae GAL4 gene, Molecular & Cellular Biology 4:260-267;L. Keeganら, (1986), Separation of DNA binding from the transcription-activating function of a eukaryotic regulatory protein, Science 231:699-704;及びM. Ptashne, (1988), How eukaryotic transcriptional activators work, Nature 335:683-689参照。この881アミノ酸蛋白質のN末端147アミノ酸はDNA配列と特異的に結合するDNA結合ドメイン(DBD)を形成する。例えばM. Careyら, (1989), An amino-terminal fragment of GAL4 binds DNA as a dimer, J. Mol. Biol. 209:423-432;及びE. Ginigerら, (1985), Specific DNA binding of GAL4, a positive regulatory protein of yeast, Cell 40:767-774参照。DBDはDNAと結合すると転写を活性化することができるC末端113アミノ酸活性化ドメイン(AD)と介在蛋白質配列により結合している。例えばJ. Ma, & M. Ptashne, (1987), Deletion analysis of GAL4 defines two transcriptional activating segments, Cell 48:847-853:及びJ. Ma, & M. Ptashne, (1987), The carboxy-terminal 30 amino acids of GAL4 are recognized by GAL80, Cell 50:137-142参照。本発明者らはGAL4のN末端DBDとそのC末端ADの両者を含む単一ポリペプチドのN末端DBD側にアンバーコドンを配置することにより、EcTyrRS/tRNACUA対によるアンバー抑圧をGAL4による転写活性化と連携できるのではないかと予想した(図1A)。GAL4で活性化された適当なレポーター遺伝子を選択することにより、ポジティブ選択とネガティブ選択の両者を遺伝子で実施することができる(図1B)。細胞のアミノ酸栄養要求性の相補に基づく多数のレポーター遺伝子(例えばURA3,LEU2,HISS,LYS2)をポジティブ選択に使用することができるが、HIS3遺伝子はコードされる蛋白質(イミダゾールグリセロールリン酸脱水素酵素)の活性を3−アミノトリアゾール(3−AT)の添加により用量依存的に調節することができるので魅力的なレポーター遺伝子である。例えばG. M. Kishore, & D. M. Shah, (1988), Amino acid biosynthesis inhibitors as herbicides, Annual Review of Biochemistry 57:627-663参照。S.cerevisiaeでは、ネガティブ選択には少数の遺伝子しか使用されていない。数種のネガティブ選択ストラテジー(例えばA. J. DeMaggioら, (2000), The yeast split-hybrid system, Method Enzymol. 328:128-137;H. M. Shihら, (1996), A positive genetic selection for disrupting protein-protein interactions:identification of CREB mutations that prevent association with the coactivator CBP, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 93:13896-13901;M. Vidalら, (1996), Genetic characterization of a mammalian protein-protein interaction domain by using a yeast reverse two-hybrid system. [comment], Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 93:10321-10326;及びM. Vidalら, (1996), Reverse two-hybrid and one-hybrid systems to detect dissocation of protein-protein and DNA-protein interactions. [comment], Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 93:10315-10320参照)のうちで使用に成功している1例はVidalらにより開発された「逆二重ハイブリッド」システムで記載されているURA3/5−フルオロオロト酸(5−FOA)ネガティブ選択(例えば、J. D. Boekeら, (1984), A positive selection for mutants lacking orotidine-5’-phosphate decarboxylase activity in yeast:5-fluoroorotic acid resistance, Molecular & General Genetics 197:345-346)システムである。M. Vidalら, (1996), Genetic characterization of a mammalian protein-protein interaction domain by using a yeast reverse two-hybrid system. [comment], Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 93:10321-10326;及びM. Vidalら, (1996), Reverse two-hybrid and one-hybrid systems to detect dissocation of protein-protein and DNA-protein interactions. [comment], Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 93:10315-10320参照。逆二重ハイブリッドシステムでは、ゲノムに組込んだURA3レポーターを、GAL4 DNA結合部位を含む厳密に制御されたプロモーター下におく。相互作用する2種の蛋白質がGAL4 DBD及びGAL4 ADとの融合体として生産される場合には、GAL4の活性を再構成し、URA3の転写を活性化する。5−FOAの存在下で、URA3遺伝子産物は5−FOAを毒性物質に変換し、細胞を死滅させる。J. D. Boekeら, 前出参照。蛋白質−蛋白質相互作用を妨害する蛋白質と蛋白質−蛋白質相互作用を妨害する突然変異を選択するためにこの選択が使用されている。蛋白質−蛋白質相互作用の小分子阻害剤をスクリーニングするための変異体も記載されている。例えば、J. Huang, & S. L. Schreiber, (1997)A yeast genetic system for selecting small molecule inhibitors of protein-protein interactions in nanodroplets, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 94:13396-13401参照。
全長GAL4でアンバーコドンを適切に選択すると、酵母細胞でヒスチジン又はウラシル栄養要求性を相補するためにHIS3又はURA3 GAL4で活性化されたレポーターを使用して活性EcTyrRS変異体の効率的なポジフィブ選択が可能になる。更に、5−FOAの存在下で不活性EcTyrRS変異体のネガティブ選択にURA3レポーターを使用することができる。更に、lacZを使用する比色アッセイを使用して酵母細胞におけるアミノアシルtRNAシンテターゼ活性を読み取ることができる。
結果と考察
構成的ADH1プロモーターの制御下にEcTyrRS遺伝子を発現させ、同一の高コピー酵母プラスミド(pEcTyrRStRNACUA,図1C)からtRNACUA遺伝子を発現させた。キメラGAL構築物のDNA結合ドメインと活性化ドメインの間に単一アンバー突然変異を含む低コピーレポーターとpEcTyrRStRNACUAをMaV203に同時形質転換すると、細胞はヒスチジンを加えず、10−20mM 3−ATを添加した培地で増殖した(図2)。MaV203細胞を同一GAL4構築物と不活性シンテターゼ突然変異体(A5)又はEctRNA遺伝子を欠失する構築物のいずれかで形質転換すると、10mM 3−ATで増殖は観察されなかった(図2)。これらの実験から明らかなように、ADH1プロモーターからEcTyrRSを機能的形態で構成的に発現させることができ、MaV203における内在アンバー抑圧は最小であり、このシステムではEctRNACUAは酵母シンテターゼにより殆ど負荷されない。例えば、H. Edwardsら, (1991), An Escherichia coli tyrosine transfer RNA is a leucine-specific transfer RNA in the yeast Saccharomyces cerevisiae, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 88:1153-1156;及びH. Edwards, & P. Schimmel, (1990), A bacterial amber suppressor in Saccharomyces cerevisiae is selectively recognized by a bacterial aminoacyl-tRNA synthetase, Molecular & Cellular Biology 10:1633-1641参照。EcTyrRSはS.cerevisiae tRNAに負荷しない(例えば、Y. Kwok, & J. T. Wong, (1980), Evolutionary relationship between Halobacterium cutirubrum and eukaryotes determined by the use of aminoacyl-tRNA synthetases as phylogenetic probes, Canadian Journal of Biochemistry 58:213-218;B. P. Doctorら, (1966), Studies on the species specificity of yeast and E. coli tyrosine tRNAs, Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 31:543-548;及びK. Wakasugiら, (1998), Genetic code in evolution:switching species-specific aminoacylation with a peptide transplant, EMBO Journal 17:297-305)ので、これらの実験はEcTyrRS/EctRNACUAがS.cerevisiaeにおいて直交対であることを裏付けるものである。
第1世代GAL4キメラは弱いHIS3レポーターの転写を活性化することができたが、3−AT>20mMの濃度又は−URAプレートで有意増殖を可能にするために十分にMaV203でURA3レポーターの転写を活性化することはできなかった(図2)。EcTyrRS変異体の選択の目的で、第2世代GAL4構築物を作製した。このGAL4レポーターは活性が強く、ダイナミックレンジが広く、復帰突然変異体の蓄積を避けるように設計した。GAL4レポーターの活性を増加するために、(DBD−AD融合体の2倍の転写活性化活性をもつ)全長GAL4(例えばJ. Ma, & M. Ptashne, (1987), Deletion analysis of GAL4 defines two transcriptional activating segments, Cell 48:847-853参照)を強力なADH1プロモーターの制御下に使用し、高コピー2−μmプラスミド(元のGAL4キメラのセントロメアプラスミドの10−30倍のコピー数)を使用した。プラスミドのコピー数とコードされる蛋白質の活性の両者の増加は、レポーターのダイナミックレンジを拡大すると思われる。アミノ酸残基2及び147をコードするGAL4遺伝子の領域にアンバー突然変異を標的化した(図3)。この領域は配列特異的DNA結合に十分であり(例えばM. Careyら, (1989), An amino-terminal fragment of GAL4 binds DNA as a dimer, J. Mol. Biol. 209:423-432参照)、GAL4遺伝子の最初の潜在的活性化ドメインの5’側に位置する(例えばJ. Ma, & M. Ptashne, (1987)Deletion analysis of GAL4 defines two transcriptional activating segments, Cell 48:847-853参照)ので、アンバー抑圧の不在下に生産される切断産物は転写を活性化するとは思われない。突然変異させるアミノ酸コドンの選択はGAL4での従来の飽和突然変異誘発選択(例えばM. Johnston, & J. Dover, (1988), Mutational analysis of the GAL4-encoded transcriptional activator protein of Saccharomyces cerevisiae, Genetics 120:63-74参照)と、GAL4のN末端DNA結合ドメインのX線構造(例えばR. Marmorsteinら, (1992), DNA recognition by GAL4:structure of a protein-DNA complex. [comment], Nature 356:408-414;及びJ. D. Balejaら, (1992), Solution structure of the DNA-binding domain of Cd2-GAL4 from S. cerevisiae. [comment], Nature 356:450-453参照)及びその二量化領域のNMR構造に従った。例えば、P. Hidalgoら, (2001), Recruitment of the transcriptional machinery through GAL11P:structure and interactions of the GAL4 dimerization domain, Genes & Development 15:1007-1020参照。
全長GAL4を小さいpUC系ベクターにクローニングし、(アミノ酸L3,I13,T44,F68,R110,V114,T121,I127,S131,T145のコドンで)10種の単独アンバー突然変異体を部位特異的突然変異誘発により迅速に構築した。GAL4と得られたアンバー突然変異体を次に全長ADH1プロモーターの制御下に2−μm酵母ベクターにサブクローニングし、pGADGAL4と一連のアンバー突然変異体pGADGAL4(xxTAG)(図1C)(但し、xxはアンバーコドンに突然変異されたGAL4遺伝子内のアミノ酸コドンを表す)を作製した。各GAL4突然変異体をEcTyrRS/tRNACUA又はA5/tRNACUAと共にMaV203細胞に同時形質転換し、形質転換細胞をロイシン及びトリプトファン栄養要求性に変換した。pGADGAL4自体は非常に低い効率で変換し(GAL4アンバー突然変異体の<10−3倍)、このような高コピー数ではMaV203細胞に有害であると予想されるが、このような作用はGAL4のアンバー突然変異体では全く認められなかった。
活性又は不活性シンテターゼの存在下のGAL4レポーターの表現型を−URAプレートと0.1% 5−FOAプレートでアッセイした(図3A)。野生型又は不活性EcTyrRSの存在下では、5個のGAL4突然変異体(L3TAG,I13TAG,T44TAG,F68TAG,S131TAG)が−URAプレートで増殖したが、0.1% 5−FOAでは増殖できなかった。これらのアンバー突然変異体では、内在抑圧がMaV203でEcTyrRS/tRNACUAに媒介される抑圧をURA3レポーターのダイナミックレンジよりも高くするために十分であると思われる。5個のGAL4単独アンバー突然変異体(R110TAG,V114TAG,T121TAG,I127TAG,T145TAG)がウラシルの不在下でEcTyrRS/tRNACUAの存在下に増殖し(A5/tRNACUAの存在下では増殖しない)、5−FOAでは逆の表現型を示した。これらの突然変異体はMaV203でURA3レポーターのダイナミックレンジに該当するEcTyrRS依存性表現型を示す。−URA及び0.1%5−FOAの両者で最も純粋なEcTyrRS依存性表現型はGAL4のR110TAG突然変異体で観察された。しかし、この突然変異体はA5と同時形質転換させると、X−GALアッセイで多少青色を示した。ダイナミックレンジを更に改善するために、R110TAGを含むGAL4の6種の二重アンバー突然変異体を作製した(図3B),(L3TAG,R110TAG;I13TAG,R110TAG;T44TAG,R110TAG;R110TAG,T121TAG;R110TAG,I127TAG;R110TAG,T145TAG)。これらの二重突然変異体のうちの4種(I13TAG,R110TAG;R110TAG,T121TAG;R110TAG,I127TAG及びT145TAG,R110TAG)はウラシルの不在下では増殖できず、0.1% 5−FOAでは増殖した。これらの二重突然変異体の活性はプレートアッセイのダイナミックレンジ外(未満)であった。二重突然変異体の2種(L3TAG,R110TAG及びT44TAG,R110TAG)は−URAプレートで野生型EcTyrRS/tRNACUAの存在下に増殖したが、A5/tRNACUAの存在下では増殖せず、これらの突然変異体も5−FOAで予想された逆表現型を示した。これらの2種のGAL4突然変異体のうちで活性が高いほうのpGADGAL4(T44TAG,R110TAG)を選択し、更に詳細に特性決定した(図4)。pGADGAL4(T44TAG,R110TAG)/pEcTyrRS−tRNACUAを含むMaV203はX−GALで青色であったが、pA5/tRNACUAを含む対応株はそうではなかった。同様に、pGADGAL4(T44TAG,R110TAG)/pEcTyrRS/tRNACUAを含むMaV203は75mMまでの3−AT濃度のプレートと−URAプレートで確実に増殖したが、pA5/tRNACUAを含む対応株は10mM 3ATプレート又はウラシルの不在下では増殖できなかった。以上をまとめると、pGADGAL4(T44TAG,R110TAG)のEcTyrRS依存性表現型はMaV203でURA3,HIS3及びlacZレポーターのダイナミックレンジを拡大することができる。
GAL4の活性を変化させずに各種アミノ酸を置換できるならば非天然アミノ酸を蛋白質に組込むことができる突然変異体アミノアシルtRNAシンテターゼの選択に有用であると思われるので、T44又はR110をチロシン以外のアミノ酸で置換したGAL4突然変異体の活性を調べることが注目された。例えば、M. Pasternakら, (2000), A new orthogonal suppressor tRNA/aminoacyl-tRNA synthetase pair for evolving an organism with an expanded genetic code, Helvetica Chemica Acta 83:2277参照。pGADGAL4自体は毒性であるので、GAL4の残基T44の5種の突然変異体(T44Y,T44W,T44F,T44D,T44K)をpGADGAL4(R110TAG)で構築した。GAL4のR110位の同様の突然変異体(R110Y,R110W,R110F,R110D,R110K)もpGADGAL4(T44TAG)で構築した。これらの突然変異体は本発明者らが蛋白質組込みに着目する大きな疎水性アミノ酸側鎖をもつ傾向があるが、許容性のストリンジェント試験として正負荷電残基も含む。各突然変異体をpEcTyrRS/tRNACUAと共にMaV203細胞に同時形質転換し、leu+trp+単離株のlacZ生産をオルトニトロフエニル−β−D−ガラクトピラノシド(ONPG)加水分解によりアッセイした(図5)。T44又はR110を異なるアミノ酸で置換したGAL4を含む細胞間の活性変動はいずれの場合も3倍未満であった。この最小限の変動はGAL4の転写活性を変化させずにこれらの部位のアミノ酸置換を許容できることを実証するものである。選択プレートでアッセイした単独アンバー突然変異体の活性から予想される通り、GAL4(R110TAG)バックグラウンドで作製したT44の突然変異体はGAL4(T44TAG)バックグラウンドで作製したR110の突然変異体よりもONPGの加水分解が低下する。
システムが大過剰の不活性シンテターゼから活性シンテターゼを選択する能力を試験するためにモデル集積試験を実施した(表1,表2,図6)。この選択は非天然アミノ酸の存在下で変異体ライブラリーから活性シンテターゼを選択する能力をモデル化する。GAL4(T44,R110)とEcTyrRS/tRNA
CUAを含むMaV203細胞を10〜10
6倍過剰のGAL4(T44TAG,R110TAG)及びA5/tRNA
CUAと混合し、非選択的−leu,−trp培地にプレーティングしてX−GAL重層法によりアッセイした場合に青変したコロニーの割合とOD
660の両者により判定した。50mM 3−AT上又はウラシルの不在下で生存することが可能な細胞を選択した。3−AT又は−URAで生存する細胞のうち、X−GALアッセイで青色の細胞と白色の細胞の比を選択の不在下の同一比と比較すると、ポジティブ選択は不活性シンテターゼから活性シンテターゼを>10
5倍に集積できることが明白である(表1)。表現型を不確実にする細胞間の有意クロストークを生じずに10
6個以上の細胞を適切にプレーティングすることはできないので、1:10
5を上回る出発比の正確な集積の測定は一般に不可能であった。
非天然アミノ酸の存在下でポジティブ選択後に、選択された細胞は天然アミノ酸を使用することが可能なシンテターゼと付加した非天然アミノ酸を使用することが可能なシンテターゼを含む。非天然アミノ酸のみを使用することが可能なシンテターゼを単離するためには、選択したクローンから天然アミノ酸を使用するシンテターゼをコードする細胞を除去しなければならない。これは、非天然アミノ酸を保持すると共に天然アミノ酸と共働するシンテターゼを除去するネガティブ選択により実施することができる。モデルポジティブ選択と同様にモデルネガティブ選択を実施した。EcTyrRS/tRNACUAを10〜105倍過剰のA5/tRNACUAと混合し、0.1% 5−FOAで選択を行った。0.1% 5−FOAで生存する細胞のうち、X−GALアッセイで白色の細胞と青色の細胞の比を非選択条件下の同一比と比較する(表2参照)と、ネガティブ選択は活性シンテターゼから不活性シンテターゼを少なくとも0.6×104倍に集積できることが明白である。表現型を不確実にする細胞間の有意クロストークを生じずに105個以上の細胞を適切にプレーティングすることはできないので、1:104を上回る出発比の正確な集積の測定は一般に不可能であった。
非天然アミノ酸を認識するaaRSのポジティブ選択と天然アミノ酸を認識するaaRSのネガティブ選択の両者を可能にする一般アプローチを開発した。選択のストリンジェンシーを変えることにより、種々のシンテターゼを単離することができる。EcTyrRSの変異体を使用するモデル選択にこの方法を適用した処、ポジティブ選択1ラウンドで>105、ネガティブ選択1ラウンドで>0.6×104の集積を示した。これらの知見は、多様な側鎖をもつ非天然アミノ酸をS.cerevisiaeの蛋白質に部位特異的に組込むように機能する直交アミノアシルtRNAシンテターゼをこの方法により迅速に入手できることを示唆している。更に、S.cerevisiaeで進化させた酵素を高等真核生物で使用することができる。
材料と方法
ベクター構築
pESCSU3URAに由来するプライマーtRNA5’:GGGGGGACCGGTGGGGGGACCGGTAAGCTTCCCGATAAGGGAGCAGGCCAGTAAAAAGCATTACCCCGTGGTGGGTTCCCGA(配列番号89)、及びtRNA3’:GGCGGCGCTAGCAAGCTTCCCGATAAGGGAGCAGGCCAGTAAAAAGGGAAGTTCAGGGACTTTTGAAAAAAATGGTGGTGGGGGAAGGAT(配列番号90)を使用してtRNACUA遺伝子をPCRにより増幅した。この反応及び他の全PCR反応はRoche製品Expand PCRキットを製造業者の指示に従って使用して実施した。NheIとAgeIで制限エンドヌクレアーゼ消化後に、このtRNA遺伝子を2μmベクターpESCTrp(Stratagene)の同一部位間に挿入し、ptRNACUAを得た。プライマーADHf:IGGGGGGACCGGTIGGGGGGACCGGTCGGGATCGAAGAAATGATGGTAAATGAAATAGGAAATCAAGG(配列番号91)及びpADHR:GGGGGGGAATTCAGTTGATTGTATGCTTGGTATAGCTTGAAATATTGTGCAGAA AAAGAAAC(配列番号92)を使用してpDBLeu(Invitrogen)から全長ADH1プロモーターをPCRにより増幅し、AgeIとEcoRIで消化した。プライマーpESCTrp1:TCATAACGAGAATTCCGGGATCGAAGAAATGATGGTAAATGAAATAGGAAATCTCATAACGAGAATTCATGGCAAGCAGTAACTTG(配列番号93)及びpESCTrp2:TTACTACGTGCGGCCGCATGGCAAGCAGTAACTTGTTACTACGTGCG GCCGCTTATTTCCAGCAAATCAGAC(配列番号94)を使用してEcTyrRSを増幅した。EcTyrRS PCR産物をEcoRIとNotIで消化した。ptRNACUAを次にAgeIとNotIで消化した。これらの3種のDNAの三重ライゲーションにより、pEcTyrRS−tRNACUAを得た。オリゴヌクレオチドF37Afwd:CCGATCGCGCTCGCTTGCGGCTTCGATC(配列番号95)、N126Afwd:ATCGCGGCGAACGCCTATGACTGGTTC(配列番号96)、182,183,186A,GTTGCAGGGTTATGCCGCCGCCTGTGCGAACAAACAGTAC(配列番号97)及びその逆相補配列と、フランキングオリゴヌクレオチド4783:GCCGCTTTGCTATCAAGTATAAATAG(配列番号98)、3256:CAAGCCGACAACCTTGATTGG(配列番号99)と鋳型としてpEcTyrRS−tRNACUAを使用して活性部位のアミノ酸残基37,126,182,183及び186をアラニンに突然変異させたプラスミドpA5−tRNACUAをオーバーラップPCRにより作製した。PCR産物をEcoRIとNotIで消化し、同一酵素で消化して単離したpEcTyrRS−tRNACUAの大きいフラグメントにライゲートした。第1世代DB−ADレポーターを構築するために、フォワードプライマーpADfwd:GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCTACGCCAATTTTAATCAAAGTGGGAATATTGC(配列番号100)又はpADfwd(TAG)GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCTAGGCCAATTTTAATCAAAGTGG GAATATTGC(配列番号101)とADrev:GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTTACTCTTTTTTTGGGTTTGGTGG GGTATC(配列番号102)を使用してpGADT7(Clontech)からGAL4 DNA結合ドメインをPCR増幅した。Clonase法を製造業者の指示に従って使用してこれらのPCR産物をベクターpDEST3−2(invitrogen)にクローニングし、pDB−ADとpDB−(TAG)−ADを得た。PGADGAL4と変異体を構築するために、プライマーADH1428−1429 AAGCTATACCAAGCATACAATC(配列番号103)、及びGAL4C:ACAAGGCCTTGCTAGCTTACTCTTTTTTTGGGTTTGGTGGGGTATCTTC(配列番号104)を使用してGAL4遺伝子をpCL1(Clontech)からPCRにより増幅した。このフラグメントをベクターpCR2.1 TOPO(Invitrogen)に製造業者の指示に従ってクローニングした。GAL4遺伝子を含むクローン(pCR2.1TOPOGAL4)をHindIIIで消化し、2.7kb GAL4フラグメントをゲル精製し、予めHindIIIで消化して仔ウシ腸ホスファターゼで処理してゲル精製しておいたpGADT7の大きいフラグメントにライゲートした。添付情報に記載されているプライマーを使用してQuikchange反応(Stratagene)を製造業者の指示に従ってpCR2.1で実施することによりGAL4遺伝子の変異体を作製した。GAL4突然変異体を野生型GAL4遺伝子と同様にpGADT7にクローニングした。全最終構築物をDNAシーケンシングにより確認した。
酵母培地及び操作
S.cerevisiae株MaV203,(Invitrogen)はMATα;leu2−3,112;trp1109;his3 Δ200;ade2−101;cyh2R;cyh1R;GAL4Δ;gal80Δ;GAL1::lacZ;HIS3UASGAL1::HIS3@LYS2;SPAL10UASGAL1::URA3である。酵母培地はClontechから購入し、5−FOAとX−GALはInvitrogenから購入し、3−ATはBIO 101から購入した。YPER(Yeast Protein Extraction Reagent)とONPGはPierce Chemicalsから購入した。プラスミド形質転換はPEG/リチウム酢酸法(例えばD. Burkeら, (2000)Methods in Yeast Genetics. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY参照)により実施し、形質転換細胞は適当な合成完全ドロップアウト培地で選択した。MaV203で各種プラスミド組み合わせにより付与される表現型を試験するために、各形質転換の合成完全ドロップアウトプレートからの酵母コロニーを滅菌水15μLに再懸濁し、該当選択培地でストリークした。各表現型を少なくとも5個の独立コロニーで確認した。X−GALアッセイはアガロース重層法により実施した。I. G. Serebriiskii, & E. A. Golemis, (2000), Uses of lacZ to study gene function:evaluation of beta-galactosidase assays employed in the yeast two-hybrid system, Analytical Biochemistry 285:1-15参照。要約すると、ニートクロロホルムを数回加えることによりコロニー又は細胞パッチを寒天プレート上で溶解させた。クロロホルムの蒸発後、0.1M Na2PO4で緩衝した0.25g/L XGAL含有1%アガロースをプレート表面に添加した。アガロースが固まったら、プレートを37℃で12時間インキュベートした。96ウェルブロックのSD−leu,−trp1mLにコロニー1個を接種することによりONPGアッセイを実施し、30℃で振盪下にインキュベートした。細胞100μLのOD660と数回の細胞希釈倍率を96ウェルマイクロタイタープレートで平行して記録した。細胞(100μL)をYPER:ONPG(1X PBS,50% v/v YPER,20mM MgCl2,0.25% v/v β−メルカプトエタノール,及び3mM ONPG)100μLと混合し、37℃で振盪下にインキュベートした。発色後、細胞を遠心によりペレット化し、上清を清浄な96ウェルマイクロタイタープレート(Nunclon,cat.#167008)に移し、A420を記録した。記載する全データは少なくとも4個の独立クローンからの試験の平均であり、記載する誤差線は標準偏差を表す。ONPG加水分解は式:β−ガラクトシダーゼ単位=1000.A420/(V.t.OD660)(式中、Vはmlで表した細胞容量であり、tは分で表したインキュベーション時間である)を使用して計算した。例えば、I. G. Serebriiskii, & E. A. Golemis, (2000), Uses of lacZ to study gene function:evaluation of beta-galactosidase assays employed in the yeast two-hybrid system, Analytical Biochemistry 285:1-15参照。β−ガラクトシダーゼ1単位は1μmol ONPG/分/細胞の加水分解に対応する。Serebriiskii and Golemis,前出参照。分光光度読み取りはSPECTRAmax190プレートリーダーを使用して実施した。
モデル選択
ポジティブ選択:2種の一晩培養液をSD−Leu,−Trpで増殖させた。一方はpEcTyrRS−tRNACUA/pGADGAL4(T44,R110TAG)を接種したMaV203を含み、他方はpA5−tRNASU3/pGADGAL4(T44,R110TAG)を接種した。これらの細胞を遠心により回収し、ボルテックスにより0.9% NaClに再懸濁した。次に2種の細胞溶液を等しくOD660まで希釈した。pEcTyrRS−tRNACUA/pGADGAL4(T44,R110TAG)を含むMaV203を107倍以上に連続希釈した後、pA5−tRNACUA/pGADGAL4(T44,R110TAG)を含む未希釈MaV203と各希釈液を1:1 vol:volで混合し、活性チロシル−tRNAシンテターゼと不活性チロシル−tRNAシンテターゼを含む規定比の細胞を得た。各比について2回目の連続希釈を実施し、pEcTyrRS−tRNACUA/pGADGAL4(T44,R110TAG)を含む細胞とpA5−tRNACUA/pGADGAL4(T44,R110TAG)を含む細胞の比を維持しながら細胞数を減らした。これらの希釈液をSD−Leu,−trp,SD−Leu,−Trp,−URAとSD−Leu,−Trp,−His+50mM 3−ATにプレーティングした。60時間後にEagle Eye CCDカメラ(Stratagene)を使用して各プレートのコロニー数をカウントし、生存細胞の表現型をX−GAL β−ガラクトシダーゼアッセイで確認した。数個の独立した青色又は白色コロニーからの細胞を単離し、SD−leu,−trpで飽和まで増殖させ、プラスミドDNAを標準法により単離した。EcTyrRS変異体をDNAシーケンシングにより確認した。
ネガティブ選択:pA5−tRNACUA/pGADGAL4(T44,R110TAG)を含むMaV203を連続希釈し、pEcTyrRS−tRNACUA/pGADGAL4(T44,R110TAG)を含む一定密度のMaV203と混合した以外はポジティブ選択と同様にモデルネガティブ選択を実施した。細胞をSD−leu,−trp+0.1% 5−FOAにプレーティングし、48時間後にコロニー数をカウントし、プレートを上記のように処理した。
以下のオリゴヌクレオチド(表3)をその逆相補配列と併用し、Quikchange突然変異誘発により部位特異的突然変異体を構築した。突然変異の位置を太字で示す。
拡張真核遺伝コード
非天然アミノ酸をサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の遺伝コードに付加するための一般的で迅速な方法について記載する。5種のアミノ酸がナンセンスコドンTAGに応答して高い忠実度で効率的に蛋白質に組込まれている。これらのアミノ酸の側鎖は広範な化学的プローブ及び試薬でユニークにインビトロ(in vitro)及びインビボ(in vivo)修飾することができるケト基と;構造試験用重原子含有アミノ酸と;蛋白質相互作用の細胞内試験用光架橋剤を含む。この方法は酵母で蛋白質構造及び機能を操作する能力に及ぼす遺伝コードの制約を取り除くだけでなく、多細胞真核生物の遺伝コードの体系的拡張の糸口となる。
化学者らは小分子構造を合成及び操作するための強力な各種方法及びストラテジーを開発している(例えばE.J.Corey,& X.−M.Cheng,The Logic of Chemical Synthesis(Wiley−Interscience,New York,1995)参照)が、蛋白質構造及び機能を合理的に制御する能力は未だ揺籃期にある。多くの場合には、標準アミノ酸の近似構造類似体をプロテオーム全体に競合的に組込むことは可能であったが、突然変異誘発法は20種の標準アミノ酸構成単位に限られている。例えばK.Kirshenbaumら,(2002),ChemBioChem 3:235−7;及びV.Doringら,(2001),Science 292:501−4参照。完全合成(例えばB.Merrifield,(1986),Science 232:341−7(1986)参照)、及び半合成法(例えばD.Y.Jacksonら,(1994)Science 266:243−7;及びP.E.Dawson,& S.B.Kent,(2000),Annual Review of Biochemistry 69:923−60参照)によりペプチドと小蛋白質を合成することが可能になったが、これらの方法は10キロダルトン(kDa)を上回る蛋白質での利用に限られている。化学的にアシル化された直交tRNAを利用する生合成法(例えばD.Mendelら,(1995),Annual Review of Biophysics and Biomolecular Structure 24:435−462;及びV.W.Cornishら(Mar.31,1995),Angewandte Chemie−International Edition in English 34:621−633参照)により、非天然アミノ酸をより大きな蛋白質にインビトロ(in vitro)(例えばJ.A.Ellmanら,(1992),Science 255:197−200参照)及びマイクロインジェクション細胞(例えばD.A.Dougherty,(2000),Current Opinion in Chemical Biology 4:645−52参照)の両者で組込むことが可能になった。しかし、化学的アシル化は化学量論的であるため、作製できる蛋白質の量が著しく制限される。このように、多大な労力にも拘わらず、蛋白質と、恐らく完全な生物の性質は20種の遺伝的にコードされるアミノ酸(稀なケースではピロリジンとセレノシステインも含む(例えばA.Bockら,(1991),Molecular Microbiology 5:515−20;及びG.Srinivasanら,(2002),Science 296:1459−62)参照)により全進化を制限されている。
この制約を解決するために、原核生物である大腸菌(E.coli)の蛋白質生合成機構に新規成分を付加し(例えばL.Wangら,(2001),Science 292:498−500)、非天然アミノ酸を遺伝的にインビボ(in vivo)コードすることが可能になった。新規化学的、物理的又は生物学的性質をもつ多数の新規アミノ酸がアンバーコドンTAGに応答して効率的且つ選択的に蛋白質に組込まれている。例えばJ.W.Chinら,(2002),Journal of the American Chemical Society 124:9026−9027;J.W.Chin,& P.G.Schultz,(2002),ChemBioChem 11:1135−1137;J.W.Chinら,(2002),PNAS United States of America 99:11020−11024:及びL.Wang,& P.G.Schultz,(2002),Chem.Comm.,1:1−10参照。しかし、原核生物と真核生物の翻訳機構は十分に保存されていないので、真核細胞で細胞内プロセスを試験又は操作するために、大腸菌に付加された生合成機構の成分を使用して非天然アミノ酸を蛋白質に部位特異的に組込むことは一般にはできない。
そこで、真核細胞で遺伝的にコードされるアミノ酸の数を拡大する翻訳成分を作製した。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)は有用なモデル真核生物であり、遺伝操作が容易であり(例えばD.Burkeら,(2000),Methods in Yeast Genetics(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY)参照)、その翻訳機構が高等真核生物と高度に相同である(例えばT.R.Hughes,(2002),Funct.Integr.Genomics 2:199−211参照)ので、初期真核宿主生物として選択した。S.cerevisiae遺伝コードに新規構成単位を付加するには、酵母翻訳機構の成分と交差反応しないユニークコドン、tRNA、及びアミノアシルtRNAシンテターゼ(「aaRS」)が必要である(例えばNorenら,(1989)Science 244:182;Furter(1998)Protein Sci.7:419;及びLiuら,(1999)PNAS USA 96:4780参照)。1つの候補直交対は大腸菌に由来するアンバーサプレッサーチロシル−tRNAシンテターゼ−tRNACUA対である(例えばH.M.Goodmanら,(1968),Nature 217:1019−24;及びD.G.Barkerら,(1982),FEBS Letters 150:419−23参照)。大腸菌チロシル−tRNAシンテターゼ(TyrRS)は両者がS.cerevisiaeで遺伝的にコードされる場合には大腸菌tRNACUAを効率的にアミノアシル化するが、S.cerevisiae細胞質tRNAをアミノアシル化しない。例えばH.Edwards,& P.Schimmel,(1990),Molecular & Cellular Biology 10:1633−41;及びH.Edwardsら,(1991),PNAS United States of America 88:1153−6参照。更に、大腸菌チロシルtRNACUAはS.cerevisiaeアミノアシルtRNAシンテターゼの不良基質である(例えばV.Trezeguetら,(1991),Molecular & Cellular Biology 11:2744−51参照)が、プロセシングされ、核から細胞質に輸送され(例えばS.L.Wolin,& A.G.Matera,(1999)Genes & Development 13:1−10参照)、S.cerevisiaeで蛋白質翻訳に効率的に機能する。例えばH.Edwards,& P.Schimmel,(1990)Molecular & Cellular Biology 10:1633−41;H.Edwardsら,(1991),PNAS United States of America 88:1153−6;及びV.Trezeguetら,(1991),Molecular & Cellular Biology 11:2744−51参照。更に、大腸菌TyrRSは編集メカニズムをもたないので、tRNAにライゲートした非天然アミノ酸をプルーフリードできないと思われる。
tRNACUAを所望非天然アミノ酸でアミノアシル化し、内在アミノ酸でアミノアシル化しないように直交TyrRSのアミノ酸特異性を改変するために、TyrRS突然変異体の大きなライブラリーを作製し、遺伝的選択を実施した。バシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)に由来する相同TyrRSの結晶構造(例えばP.Brickら,(1989),Journal of Molecular Biology 208:83参照)に基づいて、結合チロシンのアリール環のパラ位から6.5Å以内にある大腸菌TyrRSの活性部位の5個の残基(B.stearothermophilus,図7A)を突然変異させた。例えば、突然変異体のEcTyrRSライブラリーを作製するために、突然変異の標的とした5個の位置をまずアラニンコドンに変換し、A5RS遺伝子を作製した。これを遺伝子のユニークPstI部位で2つのプラスミドに分割した。ライブラリーはほぼ当分野で公知の技術により記載されているように実施した(例えばStemmerら,(1993)Biotechniques 14:256−265参照)。一方のプラスミドはA5RS遺伝子の5’側半分を含み、他方のプラスミドはA5RS遺伝子の3’側半分を含む。完全プラスミドの増幅用オリゴヌクレオチドプライマーを使用して各フラグメントでPCRにより突然変異誘発を実施した。プライマーにはNNK(N=A+G+T+C及びK=G+T)とBsaI制限エンドヌクレアーゼ認識部位を加える。BsaI消化とライゲーションにより、各々EcTyrRS遺伝子の片側半分の突然変異体コピーを含む2個の環状プラスミドを得た。次に2個のプラスミドをPstIで消化し、ライゲーションにより単一プラスミドに組み立て、全長突然変異体遺伝子を構築した。突然変異体EcTyrRS遺伝子をこのプラスミドから切り出し、pA5RS/tRNACUAのEcoRI部位とNotI部位の間にライゲーションした。PEG−酢酸リチウム法を使用してライブラリーをS.cerevisiae Mav203:pGADGAL4(2TAG)に形質転換し、〜108個の独立した形質転換細胞を得た。
S.cerevisiaeの選択株[MaV203:pGADGAL4(2TAG)(例えばM.Vidalら,(1996),PNAS United States of America 93:10321−6;M.Vidalら,(1996),PNAS United States of America 93:10315−201及びChinら,(2003)Chem.Biol.10:511参照)]を前記ライブラリーで形質転換し、108個の独立した形質転換細胞を得、1mM非天然アミノ酸の存在下に増殖させた(図8C)。転写アクチベーターGAL4内の2個の許容アンバーコドンを抑圧すると、全長GAL4の生産と、GAL4応答性HIS3、URA3、及びlacZレポーター遺伝子の転写活性化が生じる(図8A)。例えば、許容コドンはGal4のT44とR110に配置する。ウラシルを含まない(−ura)か又は20mM 3−アミノトリアゾールを含み(例えばG.M.Kishore,& D.M.Shah,(1988),Annual Review of Biochemistry 57,627−63参照)(3−AT,His3蛋白質の競合的阻害剤)、ヒスチジンを含まない(−his)培地でHIS3とURA3を発現させると、活性aaRS−tRNACUA対を発現するクローンをポジティブ選択することができる。突然変異体TyrRSがtRNACUAにアミノ酸を負荷するならば、細胞はヒスチジンとウラシルを生合成し、生存する。生存細胞を3−ATと非天然アミノ酸の不在下に増幅させ、非天然アミノ酸を選択的に組込む細胞から全長GAL4を除去した。アンバーコドンに応答して内在アミノ酸を組込むクローンを除去するために、0.1% 5−フルオロオロト酸(5−FOA)を含み、非天然アミノ酸を含まない培地で細胞を増殖させた。天然アミノ酸によるGAL4突然変異の抑圧の結果として、URA3を発現する細胞は5−FOAを毒性物質に変換し、細胞を死滅させる。例えばJ.D.Boekeら,(1984),Molecular & General Genetics 197:345−6参照。生存クローンを非天然アミノ酸の存在下に増幅させ、再びポジティブ選択する。lacZレポーターは活性シンテターゼ−tRNA対と不活性シンテターゼ−tRNA対を比色分析により区別することができる(図8B)。
このアプローチを使用することにより、異なる立体的及び電子的性質をもつ5種の新規アミノ酸(図7B)をS.cerevisiaeの遺伝コードに個々に付加した。これらのアミノ酸はp−アセチル−L−フェニルアラニン(1)、p−ベンゾイル−L−フェニルアラニン(2)、p−アジド−L−フェニルアラニン(3)、O−メチル−L−チロシン(4)、及びp−ヨード−L−フェニルアラニン(5)(括弧内は図7Bの番号)である。p−アセチル−L−フェニルアラニンのケト官能基のユニークな反応性により、多数のヒドラジン又はヒドロキシルアミン含有試薬で蛋白質を選択的にインビトロ(in vitro)及びインビボ(in vivo)修飾することができる(例えばV.W.Cornishら,(Aug.28,1996),Journal of the American Chemical Society 118:8150−8151;及びZhang,Smith,Wang,Brock,Schultz,近刊参照)。p−ヨード−L−フェニルアラニンの重原子は(多波長異常回折の使用により)x線構造データのフェージングに有用であると思われる。p−ベンゾイル−L−フェニルアラニンとp−アジド−L−フェニルアラニンのベンゾフェノン及びフェニルアジド側鎖は蛋白質の効率的インビボ(in vivo)及びインビトロ(in vitro)光架橋を可能にする(例えばChinら,(2002)J.Am.Chem.Soc.,124:9026;Chin and Schultz,(2002)Chem.Bio.Chem.11:1135;及びChinら,(2002)PNAS,USA 99:11020参照)。O−メチル−L−チロシンのメチル基は核磁気共鳴及び振動スペクトロスコピーの使用により局所構造及び力学のプローブとして同位体標識したメチル基で容易に置換することができる。3ラウンドの選択(ポジティブ−ネガティブ−ポジティブ)後に、−ura又は20mM 3−AT−his培地での生存が選択した非天然アミノ酸の付加に厳密に依存する数個のコロニーを単離した。図8D参照。同一クローンは1mM非天然アミノ酸の存在下のみにx−galで青色であった。これらの実験は観察される表現型が進化アミノアシルtRNAシンテターゼ−tRNACUA対とそのコグネイトアミノ酸の組み合わせの結果であることを立証するものである(表4参照)。
例えば、突然変異体シンテターゼを選択するために、細胞(〜109)を液体SD−leu,−trp+1mMアミノ酸中で4時間増殖させた。次に細胞を遠心により回収し、0.9% NaClに再懸濁し、SD−leu,−trp,−his+20mM 3−AT,+1mM非天然アミノ酸又はSD−leu,−trp,−ura,+1mM非天然アミノ酸にプレーティングした。30℃で48〜60時間後に細胞をプレートから掻き取って液体SD−leu,−trpに加え、15時間30℃で増殖させた。細胞を遠心により回収し、0.9% NaClに再懸濁し、SD−leu,−trp+0.1% 5−FOAにプレーティングした。30℃で48時間後に細胞をプレートから掻き取って液体SD−leu,−trp+1mM非天然アミノ酸に加え、15時間増殖させた。細胞を遠心により回収し、0.9% NaClに再懸濁し、SD−leu,−trp,−his+20mM 3−AT,+1mM非天然アミノ酸又はSD−leu,−trp,−ura,+1mM非天然アミノ酸にプレーティングした。選択細胞の表現型をスクリーニングするために、SD−leu,−trp0.5mLを加えた96ウェルブロックのウェルに各選択からのコロニー(192)を移し、30℃で24時間増殖させた。グリセロール(50% v/v;0.5mL)を各ウェルに加え、細胞レプリカを1mM非天然アミノ酸の存在下又は不在下で寒天(SD−leu,−trp;SD−leu,−trp,−his,+20mM 3−AT;SD−leu,−trp,−ura)にプレーティングした。アガロース重層法を使用してSD−leu,−trpプレートでX−Galアッセイを実施した。
観察される表現型が直交突然変異体TyrRS/tRNA対による非天然アミノ酸の部位特異的組込みに起因することを更に立証するために、各々非天然アミノ酸を含むヒトスーパーオキシドジスムターゼ1(hSOD)の突然変異体(例えばH.E.Pargeら,(1992),PNAS United States of America 89:6109−13参照)を作製し、特性決定した。
例えば、PS356(ATCC)を鋳型としてオーバーラップPCRにより、C末端ヘキサヒスチジンタグをコードするDNAの付加と、ヒトスーパーオキシドジスムターゼ遺伝子のTrp33のコドンからアンバーコドンへの突然変異を実施した。hSOD(Trp33TAG)HISをpYES2.1(Invitrogen,Carlsbad,CA USA)からのGAL1プロモーターとCYC1ターミネーターの間にクローニングした。pECTyrRS−tRNACUAに由来するプラスミド上の突然変異体シンテターゼ及びtRNA遺伝子をpYES2.1 hSOD(Trp 33 TAG)HISと共にInvSc株(Invitrogen)に同時形質転換した。蛋白質発現のために、細胞をSD−trp,−ura+ラフィノースで増殖させ、ガラクトース添加によりOD660=0.5で発現を誘導した。HSOD突然変異体をNi−NTAクロマトグラフィー(Qiagen,Valencia,CA,USA)により精製した。
33位にアンバーコドンを含む遺伝子からのヘキサヒスチジンタグ付きhSODの生産はp−アセチルPheRS−1−tRNACUAと1mM p−アセチル−L−フェニルアラニンに厳密に依存していた(いずれかの成分の不在下でデンシトメトリーによると<0.1%)(図9参照)。大腸菌TyrRStRNACUAを含む細胞から精製した収率と同等の50ng/mLの収率で全長hSODを含むp−アセチル−L−フェニルアラニンを(例えばNi−NTAアフィニティークロマトグラフィーにより)精製した。比較のために、野生型hSODHISは同一条件下で250ng/mLの収率で精製することができる。
図9は非天然アミノ酸(図7Bに例示し、図9に図7Bの番号で示す)を遺伝的にコードするS.cerevisiaeにおけるhSOD(33TAG)HISの発現を示す。図9の上段は図7Bに示す非天然アミノ酸に対応する番号で示す非天然アミノ酸の存在下(+)及び不在下(−)で酵母から精製したhSODのSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動のクーマシー染色を示す。細胞は指定アミノ酸に選択した突然変異体シンテターゼ−tRNA対を含む。図9の中段はhSODに対する抗体でプローブしたウェスタンブロットを示す。図9の下段はC末端His6タグに対する抗体でプローブしたウェスタンブロットを示す。
突然変異体蛋白質のトリプシン消化産物で液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析を実施することにより、組込まれたアミノ酸を同定した。例えば、質量分析では、コロイド状クーマシー染色により蛋白質バンドを可視化した。野生型と突然変異体のSODに対応するゲルバンドをポリアクリルアミドから切り出し、1.5mm立方にスライスし、還元及びアルキル化後、ほぼ従来記載されているようにトリプシン加水分解した。例えばA.Shevchenkoら,(1996),Analytical Chemistry 68,850−858参照。LCQイオントラップ質量分析計を使用してナノフロー逆相HPLC/μESI/MSにより非天然アミノ酸を含むトリプシンペプチドを分析した。Finnigan LCQ Decaイオントラップ質量分析計(Thermo Finnigan)にNanospray HPLC(Agilent 1100 series)を装着して液体クロマトグラフィータンデム質量(LC−MS/MS)分析を実施した。例えば図10A−H参照。
非天然アミノ酸(Y*で示す)を含むペプチドVal−Y*−Gly−Ser−Ile−Lys(配列番号87)の1価及び2価イオンに対応する前駆イオンを分離し、イオントラップ質量分析計でフラグメント化した。フラグメントイオン質量は明白に割り当てることができ、p−アセチル−L−フェニルアラニンの部位特異的取り込みが確認された(図10A参照)。p−アセチル−L−フェニルアラニンの代わりとなるチロシン又は他のアミノ酸を表すものは全く認められず、ペプチドスペクトルのシグナル対ノイズ比から最低99.8%の組込み純度が得られた。p−ベンゾイルPheRS−1、p−アジドPheRS−1、O−メチルTyrRS−1、又はp−ヨードPheRS−1を使用してp−ベンゾイル−L−フェニルアラニン、p−アジド−L−フェニルアラニン、O−メチルL−チロシン、又はp−ヨード−L−フェニルアラニンをhSODに組込んだ場合にも蛋白質発現に同様の忠実度と効率が観察された(図9及び図10A−H参照)。本実験では、サンプル製造でp−アジド−L−フェニルアラニンをp−アミノ−L−フェニルアラニンに還元し、後者を質量スペクトルで観察する。還元はインビボ(in vivo)ではp−アジド−L−フェニルアラニンを含む精製SODの化学的誘導体化により生じない。対照実験では、33位にトリプトファン、チロシン、及びロイシンを含むヘキサヒスチジンタグ付きhSODを作製し、質量分析した(図10F、G及びH参照)。アミノ酸33を含むイオンはこれらのサンプルの質量スペクトルで明白に出現した。
5種の非天然アミノ酸をS.cerevisiaeの遺伝コードに別々に付加した結果、本発明の方法の汎用性が実証され、スピン標識、金属結合、又は光異性化可能なアミノ酸を含む他の非天然アミノ酸にも適用できると思われる。この方法は新規又は強化した性質をもつ蛋白質を作製できると共に、酵母における蛋白質機能の制御を容易にする。更に、哺乳動物細胞において大腸菌チロシル−tRNAシンテターゼはB.stearothermophilus tRNA
CUAと共に直交対を形成する。例えばSakamotoら,(2002)Nucleic Acids Res.30:4692参照。従って、非天然アミノ酸を高等真核生物の遺伝コードに付加するために、酵母で進化させたアミノアシルtRNAシンテターゼを使用することができる。
真核生物の遺伝コードへの新規反応性をもつアミノ酸の付加
[3+2]シクロ付加に基づく蛋白質への部位特異的で迅速で確実で不可逆的なバイオコンジュゲーション法を立証する。生理的条件下で高度に選択的に蛋白質を修飾する化学反応が大いに必要とされている。例えばLemineux,& Bertozzi,(1996)TIBTECH,16:506−513参照。蛋白質の選択的修飾に現在使用されている大半の反応は求核反応パートナーと求電子反応パートナーの間の共有結合形成、例えばα−ハロケトンとヒスチジン又はシステイン側鎖の反応を利用している。これらの場合の選択性は蛋白質中の求核残基の数とアクセシビリティにより決定される。合成又は半合成蛋白質の場合には、非天然ケトアミノ酸とヒドラジド又はアミノオキシ化合物の反応等の他のより選択的な反応を使用することができる。例えばCornishら,(1996)Am.Chem.Soc.,118:8150−8151;及びMahalら,(1997)Science,276:1125−1128参照。最近、アミノ酸特異性を改変した直交tRNA−シンテターゼ対を使用して細菌と酵母でケトン含有アミノ酸(例えばWangら,(2003)Proc.Natl.Acad.Sci.,100:56−61;Zhangら,(2003)Biochemistry,42:6735−6746;及びChinら,(2003)Science,印刷中参照)を含む非天然アミノ酸を遺伝的にコードすることが可能になった(例えばWangら,(2001)Science 292:498−500;Chinら,(2002)Am.Chem.Soc.124:9026−9027;及びChinら,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.,99:11020−11024参照)。この方法により、フルオロフォア、架橋剤及び細胞傷害性分子等の多数の試薬でほぼ任意の蛋白質を選択的に標識することが可能になった。
蛋白質の非常に効率的な選択的修飾方法として、アジド又はアセチレンを含む非天然アミノ酸を例えばアンバーナンセンスコドンTAGに応答して蛋白質に遺伝的に組込む方法について記載する。これらのアミノ酸側鎖はその後、Huisgen[3+2]シクロ付加反応(例えばPadwa,A.in Comprehensive Organic Synthesis.Vol.4,(1991)Ed.Trost,B.M.,Pergamon,Oxford,p.1069−1109;及びHuisgen,R.in 1,3−Dipolar Cycloaddition Chemistry,(1984)Ed.Padwa,A.,Wiley,New York,p.1−176参照)により例えば夫々アルキニル(アセチレン)又はアジド誘導体で修飾することができる。この方法は求核置換ではなくシクロ付加を利用するので、蛋白質を非常に高い選択性で修飾することができる(使用可能な別法はビスヒ素化合物上でテトラシステインモチーフとのリガンド交換である。例えばGriffinら,(1998)Science 281:269−272参照)。この反応は触媒量のCu(I)塩を反応混合物に加えることにより室温で水性条件下に優れた部位選択性(1,4>1,5)で実施することができる。例えばTornoeら,(2002)Org.Chem.67:3057−3064;及びRostovtsevら,(2002)Angew.Chem.Int.Ed.41:2596−2599参照。実際に、Finnらはこのアジド−アルキン[3+2]シクロ付加を無傷のカウピーモザイクウイルスの表面で実施できることを示している。例えばWangら,(2003)J.Am.Chem.Soc.,125:3192−3193参照。アジド基の求電子的蛋白質導入とその後の[3+2]シクロ付加の別の最近の例については、例えばSpeersら,(2003)J.Am.Chem.Soc.,125:4686−4687参照。
アルキニル(アセチレン)又はアジド官能基を真核蛋白質のユニーク部位に選択的に導入するために、夫々アセチレン及びアジドアミノ酸(図11の1及び2)を遺伝的にコードする進化型直交TyrRS/tRNACUA対を酵母で作製した。得られた蛋白質は後続シクロ付加反応で生理的条件下にフルオロフォアで効率的且つ選択的に標識することができる。
従来、大腸菌チロシルtRNA−tRNAシンテターゼ対は酵母で直交であることが立証されており、即ちtRNAもシンテターゼも内在酵母tRNA又はシンテターゼと交差反応しないことが立証されている。例えばChinら,(2003)Chem.Biol.,10:511−519参照。この直交tRNA−シンテターゼ対はTAGコドンに応答して多数の非天然アミノ酸を酵母に選択的且つ効率的に組込むために使用されている(例えばChinら,(2003)Science,印刷中)。図11のアミノ酸1又は2を受容するように大腸菌チロシル−tRNAシンテターゼのアミノ酸特異性を改変するために、Tyr37、Asn126、Asp182、Phe183、及びLeu186のコドンをランダムに選択することにより突然変異体〜107個のライブラリーを作製した。これらの5種の残基はB.stearothermophilusに由来する相同シンテターゼの結晶構造に基づいて選択した。特定アミノ酸を基質とするシンテターゼを得るために、転写アクチベーターGAL4の遺伝子のThr44及びArg110のコドンをアンバーナンセンスコドン(TAG)に変換した選択スキームを使用した。例えばChinら,(2003)Chem.Biol.,10:511−519参照。MaV203:pGADGAL4(2TAG)酵母株でこれらのアンバーコドンの抑圧により、全長GAL4が生産され(例えばKeeganら,(1986)Science,231:699−704;及びPtashne,(1988)Nature,335:683−689参照)、その結果、HIS3及びURA3レポーター遺伝子が発現される。後者遺伝子産物はヒスチジンとウラシルの栄養要求性を相補し、活性シンテターゼ突然変異体を含むクローンを図11の1又は2の存在下で選択することができる。図11の1又は2を含まず、URA3により毒性物質に変換される5−フルオロオロト酸を含む培地で増殖させることにより、内在アミノ酸に負荷するシンテターゼを除去する。ライブラリーを3ラウンド選択(ポジティブ、ネガティブ、ポジティブ)することにより、表8に示すような図11の1(pPR−EcRS1−5)と図11の2(pAZ−EcRS1−6)に選択的なシンテターゼを同定した。
全シンテターゼはAsn126の保存を含む強い配列類似性を示し、この残基の重要な機能的役割を示唆している。驚くべきことに、夫々図11の1及び2と結合するように進化させたシンテターゼpPR−EcRS−2及びpAZ−EcRS−6は同一配列に集束した(Tyr37→Thr37、Asn126→Asn126、Asp182→Ser182、及びPhe183→Ala183、Leu186→Leu186)。結合チロシンのフェノールヒドロキシ基とTyr37及びAsp182の間の水素結合は夫々Thr及びSerへの突然変異により妨害される。Phe183はAlaに変換され、恐らく非天然アミノ酸を受容するためのより大きなスペースを提供すると思われる。このシンテターゼ(及び他のシンテターゼ)が基質としていずれかのアミノ酸を受容できるかどうかを確認するために、ウラシルを含まず(ヒスチジンを含まない培地でも同じ結果が得られた)、図11の1又は2を補充した培地でシンテターゼプラスミドを含む選択株を増殖させた。増殖結果によると、5種のアルキンシンテターゼのうちの4種が両者非天然アミノ酸をそのtRNAに負荷できることが判明した。pAZ−EcRS−6(pPR−EcRS−2と同一)のみがそのtRNAを図11の1及び2の両方でアミノアシル化することができたので、アジドシンテターゼはより選択的であると思われる。図11の1又は2の不在下では増殖が検出されなかったという事実は、これらのシンテターゼが20種の標準アミノ酸を基質としないことを示唆している。図14参照。
他の全実験ではpPR−EcRS−2(pAZ−EcRS−6)を使用し、発現株を含む培地に図11の1又は2を添加するだけでどの非天然アミノ酸が組込まれるかを確認できるようにした。蛋白質生産のために、C末端6×Hisタグに融合したヒトスーパーオキシドジスムターゼ−1(SOD)の許容残基Trp33のコドンをTAGに突然変異させた。例えば、ヒトスーパーオキシドジスムターゼ(Trp33TAG)HISをpYES2.1(Invitrogen,Carlsbad,CA USA)からのGAL1プロモーターとCYC1ターミネーターの間にクローニングした。pECTyrRS−tRNACUAに由来するプラスミド上の突然変異体シンテターゼ及びtRNA遺伝子をpYES2.1 hSOD(Trp 33 TAG)HISと共にInvSc株(Invitrogen)に同時形質転換した。蛋白質発現のために、細胞をSD−trp,−ura+ラフィノースで増殖させ、ガラクトース添加によりOD660=0.5で発現を誘導した。1mMの図11の1又は2の存在下又は不在下で蛋白質を発現させ、Ni−NTAクロマトグラフィー(Qiagen,Valencia,CA,USA)により精製した。
SDS−PAGEとウェスタンブロットによる分析の結果、非天然アミノ酸依存性蛋白質発現は図11の1又は2の不在下の蛋白質発現とのデンシトメトリー比較により判定した場合に>99%の忠実度であることが判明した。図12参照。組込まれたアミノ酸を更に同定するために、トリプシン消化産物で液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析を実施した。
例えば、ニッケルアフィニティーカラムを使用して野生型と突然変異体のhSODを精製し、コロイド状クーマシー染色により蛋白質バンドを可視化した。野生型と突然変異体のSODに対応するゲルバンドをポリアクリルアミドから切り出し、1.5mm立方にスライスし、還元及びアルキル化後、ほぼ従来記載されているようにトリプシン加水分解した。例えばShevchenko,Aら,(1996)Anal.Chem.68:850−858参照。LCQイオントラップ質量分析計を使用してナノフロー逆相HPLC/μESI/MSにより非天然アミノ酸を含むトリプシンペプチドを分析した。図15A及びB参照。Finnigan LCQ Decaイオントラップ質量分析計(Thermo Finnigan)にNanosprayHPLC(Agilent 1100 series)を装着して液体クロマトグラフィータンデム質量(LC−MS/MS)分析を実施した。
非天然アミノ酸(Y*で示す)を含むペプチドVY*GSIK(配列番号87)の1価及び2価前駆イオンに対応する前駆イオンを分離し、イオントラップ質量分析計でフラグメント化した。フラグメントイオン質量は明白に割り当てることができ、各非天然アミノ酸の部位特異的取り込みが確認された。LC MS/MSはこの位置に天然アミノ酸の組込みを示さなかった。全突然変異体のシグナル対ノイズ比は>1000であり、99.8%を上回る組込み忠実度が示唆された。図15A及びB参照。
アジド−アルキレン[3+2]シクロ付加反応により小有機分子を蛋白質に共役できることを立証するために、アセチレン基又はアジド基を含み、ダンシル又はフルオレセインフルオロフォアをもつ図13Aに示す色素3−6を合成した(本明細書の実施例5参照)。シクロ付加自体は2mMの図13Aの3−6、1mM CuSO4、及び〜1mg Cu線の存在下にリン酸緩衝液(PB),pH8中0.01mM蛋白質の濃度で4時間37℃で実施した(図13B参照)。
例えば、PB緩衝液(pH=8)中蛋白質45μLにCuSO4(H2O中50mM)1μL、色素(EtOH中50mM)2μL、トリス(1−ベンジル−1H−[1,2,3]トリアゾール−4−イルメチル)アミン(DMSO中50mM)2μL、及びCu線を加えた。室温もしくは37℃で4時間又は4℃で一晩後に、H2O 450μLを加え、混合物を透析膜(10kDaカットオフ)に通して遠心した。上清を遠心により2×500μLで洗浄後、溶液を容量50mLにした。20mLサンプルをSDS−PAGEにより分析した。色素が残留している場合にはH2O/MeOH/AcOH(5:5:1)に一晩浸漬することによりゲルから除去することができる。トリス(カルボキシエチル)ホスフィンを還元剤として使用すると、一般に標識効率が低下した。初期知見(例えばWang,Q.ら,(2003)J.Am.Chem.Soc.125:3192−3193)に反して、トリス(トリアゾール)アミンリガンドの有無は反応結果に実質的影響がなかった。
透析後に、標識蛋白質をSDS−PAGEにより分析し、図13Aに示すダンシル色素3−4の場合にはデンシトメーター(λ
ex=337nm,;λ
em=506nm)を使用し、図13Aに示すフルオレセイン色素5−6の場合にはホスホロイメージャー(λ
ex=483nm,λ
em=516nm)を使用してゲル内イメージングした。例えばBlake,(2001)Curr.Opin.Pharmacol.,1:533−539;Woutersら,(2001)Trends in Cell Biology 11:203−211;及びZachariasら,(2000)Curr.Opin.Neurobiol.,10:416−421参照。標識蛋白質をトリプシン消化産物のLC MS/MS分析により特性決定した処、フルオロフォアの部位特異的結合が判明し、(例えば図13Aに示す5又は6で標識したSODのA
280/A
495値の比較により測定した場合に)変換率は平均75%であった。このバイオコンジュゲーションの選択性は図13Aに示す3とアルキン蛋白質又は図13Aに示す4とアジド蛋白質の間に観察可能な反応がなかったという事実により確認される。
アルキンアミノ酸の合成
本発明の1側面では、本発明はアルキニルアミノ酸を提供する。アルキニルアミノ酸の構造の1例は式IV:
により示される。
アルキンアミノ酸は一般にR1が20種の天然アミノ酸の1種で使用される置換基であり、R2がアルキニル置換基である式IVをもつ任意構造である。例えば、図11の1はパラ−プロパルギルオキシフェニルアラニンの構造を示す。p−プロパルギルオキシフェニルアラニンは例えば以下に要約するように合成することができる。この態様では、p−プロパルギルオキシフェニルアラニンの合成は市販N−Boc−チロシンから出発して3段階で完了することができる。
例えば、N−tert−ブトキシカルボニル−チロシン(2g,7mmol,1当量)とK2CO3(3g,21mmol,3当量)を無水DMF(15mL)に懸濁した。臭化プロパルギル(2.1mL,21mmol,3当量,トルエン中80%溶液)をゆっくりと加え、反応混合物を18時間室温で撹拌した。水(75mL)とEt2O(50mL)を加え、層分離し、水相をEt2O(2×50mL)で抽出した。有機層を合わせて乾燥(MgSO4)し、溶媒を減圧除去した。生成物が黄色油状物として得られ(2.3g,91%)、それ以上精製せずに次段階で使用した。Boc保護生成物は下記化学構造8として示される:
2−tert−ブトキシカルボニルアミノ−3−[4−(プロプ−2−イニルオキシ)フェニル]−プロピオン酸プロパルギルエステル。
塩化アセチル(7mL)を0℃のメタノール(60mL)に注意深く加え、無水HClのMeOH中5M溶液を得た。前段階の生成物(2g,5.6mmol)を加え、反応混合物を周囲温度まで昇温させながら4時間撹拌した。揮発分を減圧除去後、黄色がかった固体(1.6g,98%)(化学構造9参照)が得られ、次段階で直接使用した。
2−アミノ−3−[4−(プロプ−2−イニルオキシ)フェニル]−プロピオン酸プロパルギルエステル。
前段階からのプロパルギルエステル(1.6g,5.5mmol)を2N NaOH(14mL)とMeOH(10mL)の水溶液の混合物に溶かした。1.5時間室温で撹拌後に濃HClを加えることによりpHを7に調整した。水(20mL)を加え、混合物を4℃に一晩維持した。沈殿を濾過し、氷冷H2Oで洗浄し、減圧乾燥すると、図11の1(2−アミノ−3−フェニルプロピオン酸(1)(p−プロパルギルオキシフェニルアラニンとも言う))1.23g(90%)が白色固体として得られた。1H NMR(400MHz,D2O)(D2O中カリウム塩として)δ7.20(d,J=8.8Hz,2 H),6.99(d,J=8.8Hz,2H),4.75(s,2 H),3.50(dd,J=5.6,7.2Hz,1 H),2.95(dd,J=5.6,13.6Hz,1 H),2.82(dd,J=7.2,13.6Hz,1 H);13C NMR(100MHz,D2O)δ181.3,164.9,155.6,131.4,130.7,115.3,57.3,56.1,39.3;HRMS(CI)m/z 220.0969[C12H13NO3(M+1)理論値220.0968]。
[3+2]シクロ付加による非天然アミノ酸をもつ蛋白質への分子付加
1側面では、本発明は付加置換基分子に結合した非天然アミノ酸を含む蛋白質の製造方法と関連組成物を提供する。例えば、[3+2]シクロ付加により付加置換基を非天然アミノ酸に付加することができる。例えば図16参照。例えば、(例えばアジド基又は三重結合等の第1の反応基をもつ)非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質への(例えばアルキン三重結合又はアジド基等の第2の反応基をもつ)所望分子の[3+2]シクロ付加は[3+2]シクロ付加反応について公開されている条件に従って実施することができる。例えば、PB緩衝液(pH=8)中に非天然アミノ酸を含む蛋白質をCuSO4、所望分子、及びCu線に加える。混合物を(例えば室温もしくは37℃で4時間又は4℃で一晩)インキュベートした後に、H2Oを加え、混合物を透析膜で濾過する。サンプルの付加を例えばゲル分析により分析することができる。
このような分子の例としては限定されないが、例えば三重結合又はアジド基をもつ分子(例えば図13Aの式3、4、5、及び6等の構造をもつ分子)が挙げられる。更に、他の該当分子(例えばポリマー(例えばポリエチレングリコール及び誘導体)、架橋剤、付加色素、光架橋剤、細胞傷害性化合物、アフィニティーラベル、ビオチン、糖類、樹脂、ビーズ、第2の蛋白質又はポリペプチド、金属キレート剤、補因子、脂肪酸、炭水化物、ポリヌクレオチド(例えばDNA,RNA等)等)の構造に三重結合又はアジド基を組込むことができ、その後、更に[3+2]シクロ付加で使用することができる。
本発明の1側面では、図13Aの式3、4、5、又は6をもつ分子を以下のように合成することができる。例えば、プロパルギルアミン(250μL,3.71mmol,3当量)をダンシルクロリド(500mg,1.85mmol,1当量)とトリエチルアミン(258μL,1.85mmol,1当量)の0℃のCH2Cl2(10mL)溶液に加えることにより、図13Aの3と下記化学構造3に示すようなアルキン色素を合成した。1時間撹拌後、反応混合物を室温まで昇温させ、更に1時間撹拌した。揮発分を減圧除去し、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(Et2O/ヘキサン=1:1)により精製すると、図13Aの3(418mg,78%)が黄色固体として得られた。分析データは文献に報告されているデータに一致する。例えば、Bolletta,Fら,(1996)Organometallics 15:2415−17参照。本発明で使用することができるアルキン色素の構造の1例を化学構造3に示す:
(例えばCarboni,Bら,(1993)J.Org.Chem.58:3736−3741に記載されているような)3−アジドプロピルアミン(371mg,3.71mmol,3当量)をダンシルクロリド(500mg,1.85mmol,1当量)とトリエチルアミン(258μL,1.85mmol,1当量)の0℃のCH2Cl2(10mL)溶液に加えることにより、図13Aの4と下記化学構造4に示すようなアジド色素を合成した。1時間撹拌後、反応混合物を室温まで昇温させ、更に1時間撹拌した。揮発分を減圧除去し、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(Et2O/ヘキサン=1:1)により精製すると、図13Aの4(548mg,89%)が黄色固体として得られた。1H NMR(400MHz,CDCl3)δ8.55(d,J=8.4Hz,1H),8.29(d,J=8.5Hz,1H),8.23(dd,J=1.2,7.2Hz,1H),7.56−7.49(comp,2H),7.18(d,J=7.6Hz,1H),5.24(br s,1H),3.21(t,J=6.4Hz,2H),2.95(dt,J=6.4Hz,2H),2.89(s,6H),1.62(quin,J=6.4Hz,2H);13C NMR(100MHz,CDCl3)δ134.3,130.4,129.7,129.4,128.4,123.3,118.8,115.3,48.6,45.4,40.6,28.7(第四級炭素の全シグナルが13C NMRスペクトル中に出現しているわけではない);HRMS(CI)m/z 334.1336[C15H20N5O2S(M+1)理論値334.1332]。アジド色素の構造の1例を化学構造4に示す:
EDCI(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロプル)カルボジイミド塩酸塩)(83mg,0.43mmol,1当量)をフルオレセインアミン(150mg,0.43mmol,1当量)と10−ウンデシン酸(79mg,0.43,1当量)の室温のピリジン(2mL)溶液に加えることにより、図13Aの5と下記化学構造5に示すようなアルキン色素を合成した。懸濁液を一晩撹拌し、反応混合物をH2O(15mL)に注入した。濃HClを加えることにより溶液を酸性化した(pH<2)。1時間撹拌後、沈殿を濾別し、H2O(5mL)で洗浄し、少量のEtOAcに溶かした。ヘキサンを加えると、図13Aの5がオレンジ色結晶として沈殿し、これを集めて減圧乾燥した(138mg,63%)。分析データは文献に報告されているデータに一致する。例えばCrisp,G.T.;& Gore,J.(1997)Tetrahedron 53:1505−1522参照。アルキン色素の構造の1例を化学構造5に示す:
EDCI(83mg,0.43mmol,1当量)をフルオレセインアミン(150mg,0.43mmol,1当量)と4−(3−アジドプロピルカルバモイル)−酪酸(例えば3−アジドプロピルアミンをグルタル酸無水物と反応させることにより合成)(92mg,0.43,1当量)の室温のピリジン(2mL)溶液に加えることにより、図13Aの6と下記化学構造6に示すようなアジド色素を合成した。懸濁液を一晩撹拌し、反応混合物をH2O(15mL)に注入した。濃HClを加えることにより溶液を酸性化した(pH<2)。1時間撹拌後、沈殿を濾別し、1N HCl(3×3mL)で洗浄し、少量のEtOAcに溶かした。ヘキサンを加えると、図13Aの6がオレンジ色結晶として沈殿し、これを集めて減圧乾燥した(200mg,86%)。1H NMR(400MHz,CD3OD)δ8.65(s,1 H),8.15(d,J=8.4Hz,1 H),7.61−7.51(comp,2 H),7.40(d,J=8.4Hz,1 H),7.35(br s,2 H),7.22−7.14(comp,2 H),6.85−6.56(comp,3 H),3.40−3.24(comp,4 H),2.54(t,J=7.2Hz,2 H),2.39−2.30(comp,2 H),2.10−1.99(comp,2 H),1.82−1.72(comp,2H);13C NMR(100MHz,CD3OD)δ175.7,174.4,172.4,167.9,160.8,143.0,134.3,132.9,131.8,129.6,124.4,123.3,121.1,118.5 103.5,50.2,38.0,37.2,36.2,29.8,22.9(第四級炭素の全シグナルが13C NMRスペクトル中に出現しているわけではない);HRMS(CI)m/z 544.1835[C28H25N5O7(M+1)理論値544.1827]。アジド色素の構造の1例を化学構造6に示す:
1態様では、非天然アミノ酸(例えばアジドアミノ酸又はプロパルギルアミノ酸)を組込んだ蛋白質にPEG分子を付加することもできる。例えば、アジドアミノ酸を組込んだ蛋白質に[3+2]シクロ付加により(例えば図17Aに示す)プロパルギルアミドPEGを付加することができる。例えば図17A参照。図17BはPEG置換基を付加した蛋白質のゲル分析を示す。
本発明の1側面では、(例えば図17Aに示す)プロパルギルアミドPEGを以下のように合成することができる。例えば、プロパルギルアミン(30μL)のCH2Cl2(1mL)溶液を20kDa PEG−ヒドロキシスクシンイミドエステル(120mg,Nektarから購入)に加えた。反応混合物を4時間室温で撹拌した。次にEt2O(10mL)を加え、沈殿を濾別し、Et2O(10mL)を加えることによりMeOH(1mL)から2回再結晶させた。生成物を減圧乾燥すると、白色固体が得られた(105mg,88%収率)。例えば図17C参照。
代表的O−RS及びO−tRNA
代表的O−tRNAとしては配列番号65か挙げられる(表5参照)。代表的O−RSとしては配列番号36−63,86が挙げられる(表5参照)。O−RS又はその部分(例えば活性部位)をコードするポリヌクレオチドの例としては配列番号3−35が挙げられる。更に、O−RSの代表的アミノ酸置換を表6に示す。
当然のことながら、本明細書に記載する実施例及び態様は例証の目的に過ぎず、これらの記載に鑑みて種々の変形又は変更が当業者に想到され、このような変形又は変更も本願の精神及び範囲と特許請求の範囲に含むものとする。
以上、明確に理解できるように本発明を多少詳細に記載したが、本発明の真の範囲を逸脱することなく形態や細部に種々の変更が可能であることは以上の開示から当業者に自明である。例えば、上記全技術及び装置は種々に組合せて使用することができる。本明細書に引用した全刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文献はその開示内容全体を全目的で参考資料として組込み、各刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文献を全目的で参考資料として組込むと個々に記載しているものとして扱う。