JP2007154237A - 電解用電極及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来の電解用電極より耐剥離性及び耐食性に優れた中間層を有し、かつより長い電解寿命を有し、工業的レベルの大電流を流すことの出来る電解用電極とその製造方法を提供する。
【解決手段】あらかじめ金属酸化物層を形成するか又は金属酸化物に変換可能な金属化合物を塗布した後、その表面を酸化して一体化させた金属酸化物層3と基体由来の酸化物である高温酸化皮膜2から成る中間層を形成したバルブメタル又はバルブメタル合金電極基体1の前記金属酸化物層表面に、電極触媒層4を被覆した電解用電極。高温酸化皮膜が電極基体と一体化して耐剥離性が向上し、又あらかじめ金属酸化物層を形成するか又は金属酸化物に変換可能な金属化合物を塗布した後加熱することにより、本来それ自体は電子伝導性に劣る高温酸化皮膜が改質されて電子伝導性が増大し、大きな電流を流すことが可能になる。中間層は電極基体を保護し、より長い電解寿命を実現できる。
【選択図】図1

Description

本発明は、各種工業電解に使用される電解用電極及びその製造方法に関し、より詳細には電解銅箔製造、アルミニウム液中給電、連続電気亜鉛メッキ鋼板製造等の工業電解で使用される酸素発生用陽極及びその製造方法に関する。
近年、電解銅箔、アルミニウム液中給電、連続電気亜鉛めっき鋼板製造等の工業電解では金属チタン基体に主として酸化イリジウムを電極触媒としてコーティングした陽極が多く用いられるようになった。しかし食塩電解で用いられる、主として酸化ルテニウムを電極触媒とする塩素発生用陽極は塩素及び苛性ソーダの製品の純度に直結するため電解浴管理が徹底しており、電極触媒の消耗を早める不純物が電解浴に混入することは希であるのに対して、主として陰極において付加価値のある製品を生み出す前記の工業電解では、製品の安定化のために有機物や不純物元素が添加される。このため無隔膜状態で酸素発生が行なわれている陽極近傍においては、種々の電気化学反応や化学反応が起こり、酸素発生反応に伴う水素イオン濃度の高まり(pHが低下)による電極触媒の消耗を、さらに早めることになる。
また、塩素発生用に通常用いられている酸化ルテニウム電極触媒が触媒担持量の約90%まで使用出来るのに対し、酸素発生用に多く用いられる酸化イリジウム電極触媒は50%程度までしか使用できないまま電極電位が上昇して電解不能になる場合が多い。
酸素発生用電極の電位上昇は、上述の電極触媒の消耗と、それと共通する原因による電極基体の腐食から開始される。この電極基体の腐食には、通常の溶解腐食に加え、電解中の高圧の発生期の酸素が基体中へ泳動・拡散し、基体内へ固溶することによって生じる基体の脆化や、数μmにも達する異常な酸化物層の形成とその脆化も含まれる。さらに、電極触媒の部分的な内部消耗と剥離によって、残った電極触媒への電流集中が加わり、連鎖的かつ加速度的に電位上昇が進行するものと考えられる。
電極基体の腐食溶解やそれに伴う有効な電極触媒の電極基体からの剥離を抑制するために、チタン基体と電極触媒層の間に中間層を設けることを中心に多くの方法が採られている。
通常、中間層の電極活性は電極触媒層より低いものが選択され、いずれのタイプも電子伝導性を持ち、腐食性の電解液及びpHの低下をもたらす酸素発生部位から電極基体を遠ざけることによって、基体のダメージを緩和するという役割を担っている。
このような条件を満たす中間層として、特公昭60−21232号公報においては、タンタル及び/又はニオブの酸化物を金属換算で0.001〜1g/mの薄さで設け、基体表面に生成するチタン酸化皮膜に導電性を付与した中間層が提案された。さらに、特公昭60-22074号公報においては、チタン及び/又はスズの酸化物に、タンタル及び/又はニオブの酸化物を添加した原子価制御半導体が提案され、いずれも工業的に広く用いられている。しかし、近年経済的効率を重視する流れから、運転条件が益々過酷となり、より高い耐久性を持った電極が求められている。
簡単で実用的な手段として、電極触媒の塗布量を多くして対応する場合があるが、塗布量と電極寿命は必ずしも正比例するわけではない。前述のように熾烈な環境下では電極基体と電極触媒の界面近傍でも劣化が進行するから、増量した電極触媒すべてが有効に利用されるとは限らず、その結果貴重な電極触媒を浪費することになる。
特開平7−90665号公報(請求項4、段落0025〜0037) 特開2004−360067号公報
このような中間層形成の問題点を解消するために、チタン製電極基体自体を電解酸化して該電極基体表面のチタンを酸化チタンに変換して中間層(第1のチタン酸化物単独層)を形成する方法が特許文献1に記載されている。しかしながら特許文献1記載の電極では、電解酸化で形成可能な中間層が極めて薄いため十分な耐食性が得られず(段落0034)、そのため前記第1のチタン酸化物単独層の表面に熱分解法で厚い第2のチタン酸化物単独層を形成し、その上に電極触媒層を形成している。なお第1のチタン酸化物単独層を含酸素雰囲気中で加熱して形成することも開示されているが、この場合にも第2のチタン酸化物単独層が形成される。
特許文献1に記載の方法では、中間層形成に2工程、特に電解と熱分解といった全く異なった設備を要する工程を要するため、作業性が劣り経済的にも負担が大きく、十分な実用性を有し得なかった。
電極基体の高温酸化で得られる高温酸化皮膜は耐食性に富み、緻密で電極基体と強固に接合しているため、電極基体を保護し、さらに主として酸化物から成る電極触媒を酸化物−酸化物結合により確実に担持することが出来るはずであるが、実際には前記高温酸化皮膜は電子伝導性に劣るという欠点があった。そしてその厚みを増大させるとこの欠点がより顕著になっていた。
本発明者は特許文献2で、この高温酸化皮膜上に、塗布熱分解法によって電極触媒層を焼き付けることによって、電極基体を保護する効果が大きくなること、及び電子伝導性が劣る領域にある高温酸化皮膜(重量増加量が0.5g/m以上、TiO換算では1.25g/m以上)においても電子伝導性が結果的に増大し、工業電解レベルの大電流を流すことが出来るようになることを開示した。この重量増加量は0.67g/m以上(TiO換算では1.67g/m以上)で特に効果が顕著であり、上限は17 g/m(TiO換算では42g/m程度)である。この上限値以上では膜厚は10μm以上となり、酸化皮膜はグレーから白色化して、酸化皮膜と電極基材の密着性は劣化する。
しかしながら前記各種工業電解では、より緻密で電解耐食性と電子伝導性を高めた高温酸化皮膜を有する電解用電極が要請されている。
本発明はこのような従来技術の欠点及び要請に鑑み、電極基体と電極触媒の中間に、電解耐食性と電子伝導性に富み、しかも緻密で電極基体と強固に接合でき、更に好ましくは塗布と焼成という簡易な工程で同時に作製出来る、二層構造の中間層(金属酸化物層と基体由来の高温酸化皮膜)を形成した電解用電極及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、第1に、バルブメタル又はバルブメタル合金電極基体、該バルブメタル又はバルブメタル合金電極基体の表面にその重量増加量が0.50g/m以上となるように前記電極基体の高温酸化処理により形成された基体由来の高温酸化皮膜、該高温酸化皮膜の表面に設けられた1層の金属酸化物層、及び該金属酸化物層の表面に設けられた電極触媒層を含んで成ることを特徴とする電解用電極(以下本発明電極ともいう)であり、第2に、バルブメタル又はバルブメタル合金電極基体表面に、金属酸化物に変換可能な金属化合物を含有するコーティング液の塗布後、前記電極基体の高温酸化処理により、前記金属化合物を金属酸化物に変換して金属酸化物層を形成するとともに、前記電極基体表面と前記金属酸化物層の間に基体由来の高温酸化皮膜を形成し、次いで該金属酸化物層上に電極触媒層を形成することを特徴とする電解用電極の製造方法(以下本発明第1方法ともいう)であり、第3に、バルブメタル又はバルブメタル合金電極基体表面に、金属酸化物層を形成した後に、該電極基体の高温酸化処理により、該電極基体表面と該金属酸化物層の間に基体由来の高温酸化皮膜を形成し、次いで該金属酸化物層上に電極触媒層を形成することを特徴とする電解用電極の製造方法(以下本発明第2方法ともいう)である。
本発明では、前記金属酸化物層として、5価の原子価数を取るタンタル及びニオブから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物、又は4価の原子価数を取るチタン及びスズから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物と5価の原子価数を取るタンタル及びニオブから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物との混合酸化物からなる酸化物を用いることが出来る。
以下本発明を詳細に説明する。
本発明電極は、バルブメタル又はバルブメタル合金電極基体(以下「バルブメタル基体」又は「電極基体」あるいは単に「基体」ともいう)と電極触媒層間で機能する、基体由来の酸化物から成る高温酸化皮膜とその上層の単一の金属酸化物層(合わせて中間層ともいう)を形成することにより、電解耐食性と電子伝導性に富み、しかも緻密で電極基体と強固に接合できかつ比較的簡単に製造できる構造の電極として提供できる。
従来法と異なり高温酸化皮膜と電極触媒層間に単一層の金属酸化物層を配置させているため、当該金属酸化物層の形成に過剰な手間を掛けることなく、前記金属酸化物層が高温酸化皮膜と密着して当該高温酸化皮膜とともに電極基体を保護し、更に通常酸化物である電極触媒層の電極触媒を酸化物−酸化物接合によって前記金属酸化物層上に確実に担持出来ることから、触媒層内部の電極触媒を有効に活用するとともに電極寿命を延ばすことが出来る。
なお基体由来の酸化物又は高温酸化皮膜とは、基体の金属・合金成分それ自体から主として形成される酸化物又は高温酸化皮膜を意味する。
本発明第1方法では、従来技術と異なり、金属酸化物に変換可能な金属化合物を含有するコーティング液の塗布後、実質的に酸化性雰囲気中における高温酸化処理のみの簡便な工程で、電極基体の表面に、当該基体と後述する電極触媒層間の中間層として機能する、基体由来の酸化物から成る高温酸化皮膜とその上層の金属酸化物層を形成する。塗布と高温酸化処理のみの実質的な単一工程で2層からなる中間層を形成できる。
本発明第2方法では、従来技術と異なり、電極基体表面に金属酸化物層を形成した後に、酸化性雰囲気中における高温酸化処理により前記電極基体の表面に基体由来の酸化物から成る高温酸化皮膜を形成する。例えば前記金属酸化物層の形成を、金属酸化物に変換可能な金属化合物を含有するコーティング液を塗布し、その後に高温加熱して前記金属化合物を金属酸化物層に変換する場合には、金属酸化物層形成時の加熱条件を高温酸化皮膜形成時の加熱条件より緩和に行って、当初の加熱により金属酸化物層を、引き続く加熱により高温酸化皮膜が形成されるようにする。
さらに本発明者は、高温酸化皮膜と電極触媒層の間に、金属酸化物層、好ましくは5価の原子価数を取るタンタル及びニオブから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物層、又は4価の原子価数を取るチタン及びスズから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物と5価の原子価数を取るタンタル及びニオブから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物との混合酸化物からなる酸化物層を挿入し高温酸化皮膜と一体化させた中間層とすることにより、より長寿命の電解用電極が得られることを見出した。
本発明における基体材料として、チタン及びチタン合金を好ましく用いることが出来るが、いわゆるバルブメタルといわれるタンタル、ニオブ、ジルコニウム及びそれらの合金も、バルブたる酸化皮膜の改質の可能性から、使用可能である。チタン及びチタン合金が好ましいのは、その耐食性と経済性のほか、強度/比重つまり比強度が大きくかつ圧延等の加工が比較的容易で、切削等の加工技術も近年非常に向上しているからである。その形状は棒状、板状の単純なものでも、機械加工により複雑な形状を持つものでもよく、表面は平滑なものでも多孔質なものでも対応が可能である。ここで表面とは電解液に浸漬したとき液に触れることが可能な部分のことをいう。
基体表面の油脂、切削屑、塩類等の汚れは高温酸化皮膜の性状に悪影響を及ぼすため、あらかじめ洗浄して出来る限り取り除いておくことが望ましい。洗浄は水洗、アルカリ洗浄、超音波洗浄、蒸気洗浄、スクラブ洗浄等を用いることが出来る。
その表面をブラスチングやエッチングにより粗面化し、表面積を拡大することによって、接合強度を高め、電解電流密度を実質的に下げることも出来る。エッチングすると単に表面洗浄するより表面の清浄度は上がる。ブラスチングを行った場合には表面に刺さったブラスト粒子を除去するために、エッチングを行うことが非常に好ましい。エッチングは塩酸、硫酸、蓚酸等の非酸化性酸又はこれらの混合酸を用いて沸点かそれに近い温度で行うか、硝弗酸を用いて室温付近で行う。
仕上げとして、純水でリンスした後十分乾燥させておく。純水を使う前に大量の水道水でリンスしておくことも可能である。
本発明第1方法では、電極基体に高温酸化処理を行う前に、酸化性雰囲気中の加熱によって金属酸化物に変換可能な金属化合物の塗布を行い、本発明第2方法では金属酸化物層の形成を行う。
酸化性雰囲気中の加熱によって金属酸化物に変換可能な金属化合物としては、有機溶媒に溶解させた金属アルコキシドや、主として強酸水溶液に溶解させた金属塩化物や硝酸塩があり、これらに適宜安定化剤として塩酸、硝酸、蓚酸、又は錯化剤としてサリチル酸、2-エチルヘキサン酸、アセチルアセトン、EDTA、エタノールアミン、クエン酸、エチレングリコール等を添加する。
塗布方法としては、ブラシ塗布、ローラー塗布、スプレー塗布、スピンコート、印刷及び静電塗装等既知のコーティング方法を用いることが出来る。この段階では塗布層は溶媒の乾燥後も溶質か錯体のままか、或いはせいぜい加水分解程度にとどまっている。
一方、本発明第2方法の金属酸化物層の形成にはイオンプレーティング法、スパッタリング法、イオン注入法、CVD法、溶射法等一般的な薄膜の形成方法はもちろん、アノード電着法、電気泳動法も用いることが出来るが、前述の酸化性雰囲気中の加熱によって金属酸化物に変換可能な金属化合物を表面に塗布する工程を利用し、この工程にさらに加熱焼成させる工程を加えたいわゆる塗布熱分解法が好適である。
塗布熱分解法を用いれば、ほとんどの場合金属酸化物が得られるが、硫酸チタンTi(SO等の硫酸化合物となってしまうこともある。因みに、CVDでは部分的に窒化物、炭化物、水素化物等となることも起こり得る。さらにまた、生じる金属酸化物は、必ずしも結晶性酸化物だけではなく、非晶質状態となる場合もある。例えば、塩化タンタルを塩酸に溶解した液を金属チタン上に塗布し、空気中で300℃以下で乾燥又は加熱させれば非晶質状態の酸化タンタルになる。これらは、いずれも引き続いて行われる高温酸化過程で結晶性の金属酸化物に変換させることが出来る。
すなわち、酸化性雰囲気中の加熱によって金属酸化物に変換可能な金属化合物を表面に塗布した後に直ちに高温酸化処理を行っても、塗布熱分解法で金属酸化物層を形成した後に高温酸化処理を行っても、いずれも同質の金属酸化物層と基体由来の高温酸化皮膜が形成される。前者は塗布熱分解法による酸化物層の形成と高温酸化皮膜の形成を焼成炉から出さずに連続した工程で行ったことになり、より簡便な工程といえるが、塗布と加熱を一連のコンベアで行うタイプのコンベア炉では、移動速度、塗布ゾーンの長さ、均熱ゾーンの長さ、最高温度等々の制約があり、高温酸化に必要な加熱温度と保持時間をとることが出来ない場合もある。このようなときは後者を選択することになる。
金属酸化物としては、4価のチタン基体と一体化して原子価制御半導体となる5価のタンタル、ニオブ、バナジウム酸化物等のような酸化物か、5価のタンタル、ニオブ、バナジウム酸化物等に6価のモリブデン酸化物等を加えるか、又は4価のチタン、ジルコニウム、スズ酸化物等に5価のタンタル、ニオブ、バナジウム、アンチモン酸化物等を加えた単相で原子価制御半導体となる酸化物か、又は不定比組成のチタン、タンタル、ニオブ、スズ、モリブデン酸化物等のn型半導体を用いることが出来る。特に5価の原子価数を取るタンタル及びニオブから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物層、又は4価の原子価数を取るチタン及びスズから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物と5価の原子価数を取るタンタル及びニオブから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物との混合酸化物からなる酸化物が好適である。
次いでこのように酸化性雰囲気中の加熱によって金属酸化物に変換可能な金属化合物の塗布、又は金属酸化物層の形成を行った電極基体に高温酸化処理を行って電極基体表面に高温酸化皮膜を形成する。なお比較例1に示したように金属化合物の塗布や金属酸化物層の形成を行っていない電極基体に単独に高温酸化処理を行ってその表面にあらかじめ高温酸化皮膜を形成しておいてから、付加的に金属酸化物層の形成を行っても、本発明の効果は生じない。
本発明で行う高温酸化皮膜の形成方法は、基本的には酸化性雰囲気中で行う焼鈍ないしは塗布熱分解法の焼成方法と大きく異なるところはない。
熱処理炉の加熱方式は、雰囲気(対流)加熱、ニクロムやカンタル線、近赤外線ランプ、遠赤外線パネル、ラジアントチューブ等の直接加熱、ホットプレート等の伝導加熱、あるいは電磁誘導加熱のいずれの方式も可能であるが、例えば600℃における純チタンの熱伝導率は純鉄の約半分と小さく、出来るだけ均一な温度分布を得るためには対流加熱の要素を多く持った加熱方式が好ましい。雰囲気は酸化性であればよく、空気、酸素、水蒸気、二酸化炭素、都市ガス燃焼ガスのほか、安価なキャリアーガスにオゾンガスを混合させたガスのいずれのガスも用いることが出来る。水素ガスやこれを含むアンモニア分解ガスが混入すると、チタンやチタン合金は水素化され、最深部まで脆化するので避けることが望ましい。言うまでもなくアルゴンなどの不活性ガスや真空は効果がなく不適である。
次に所定の形状に成形加工され、洗浄等の前処理が終わった基体を、ハンガーに吊るすか又は架台に載せるなどして炉内に挿入する。いずれの場合でも複数の基体は密着させずに、基体と接触する気体の更新が滞りなく行われるように注意しなければならない。酸化性の気体の供給が律速となると、重ね合わされた基体表面の中央付近の酸化皮膜の成長が遅れるので好ましくない。
基体の炉内への挿入は炉内を所定の温度に昇温させてから行ってもよいが、均一な温度分布を得るためには出来るだけ低い温度で挿入してから昇温させるのが望ましい。
所定の温度に到達後、一定の厚みの高温酸化皮膜を得るために、所定の時間内温度を保持してから降温させる。
本発明において観察されるチタン等のバルブメタル又はバルブメタル合金の高温酸化皮膜の厚みは通常0.1μm以上であり、このレベルの厚みを評価する方法としては重量増加量の測定、SEMによる断面観察、SIMS、GDS、X線回折、電子線回折、エリプソメータ等があり、それぞれ長短があるが、重量増加量の測定が簡便で好適である。
ここで高温酸化皮膜中間層の形態に関して、指標となるべき重量増加量を中心にして述べる。
本発明において、mm、cm、m等の単位で表記した表面積の値とは、例えば3辺の長さがa、b、cの直方体の場合、(a×b+b×c+c×a)×2であることを意味する。いわば基体の形状に対応した表面積であり、メッシュやパンチメタルにおいては、多角体や円柱等に分割された三次元形状モデルで近似される。又これは単分子層ガス吸着量から算出されるBET法による比表面積とは区別される。
高温酸化による重量増加量をΔWg/m、O= 16.00、Ti= 47.88とするとチタンの高温酸化皮膜の重量WTiO2g/mは、次のように換算される。
TiO2= ΔW/(16.00×2)×(47.88+16.00×2)
また、チタンの高温酸化皮膜のX線回折による結晶相の同定からはルチル相のTiOのみ検出されるので、ルチル相のTiOの密度を4.27 g/mlとすると、厚みt(μm)は、次のように換算される。
t=ΔW/(16.00×2)×(47.88+16.00×2)/100/4.27×10000
さらにまた金属チタンが酸素と反応してTiO2組成の高温酸化皮膜が形成されるとすると、反応する金属チタンの重量WTig/mは次のように換算される。
Ti=ΔW/(16.00×2)×47.88
基体の表面粗さが大きければ実表面積は大きくなり、従って重量増加量も大きくなるから、厚みへの換算値はより厚く計算され、酸化皮膜がTiOの定比組成より酸素欠損になっていればより薄く、基体の金属チタン中に酸素が固溶すればより薄く計算される。実際には基体の表面粗さの影響が最も大きく、断面観察による実測値としての厚みより厚く計算される傾向がある。
断面観察による実際の表面粗さの凸部は熱放射を受けたり気体と接する面積が大きいために酸化皮膜が厚く成長するのに対し、凹部は逆に熱放射を受けたり気体と接する面積が小さいために酸化皮膜は薄い。平滑で粗さのない鏡面のチタン基体を実際の工業電解用基体として用いることは少なく、このように高温酸化皮膜の厚みは表面の凹凸やその形状によって大きく変化するので、厚みをもって高温酸化皮膜の第一の量的評価方法として規定するのは適切ではない。
例えば、表面粗さRa=12.5μmのチタン基体を用いて、空気中において加熱温度600℃、保持時間1時間で高温酸化皮膜を生成させたときの断面SEM写真からの実測値では、凸部の厚い部分の厚みはおおむね0.5〜0.7μmに達したが、凹部のもっとも薄い部分の厚みは約0.1μmに過ぎなかった。なお、この時の重量増加量の実測値は0.67g/m(0.067mg/cm)で、上記計算式によるTiO換算の重量増加量は1.67g/m、ルチル型TiO厚み換算値は0.39μmであった。
ただし、高温酸化による重量増加量を求めることが困難な場合は、第二の方法として、SEM等を用いて、1万倍程度の断面画像(数画面)の高温酸化皮膜の厚み(1画面につき10点前後)の平均値を求めるか、又は画像処理による皮膜の断面積を基準長さで除した値を求め、これを前述の厚みt(μm)の式から逆算して、高温酸化皮膜の重量を簡易的に求めることができる。
純チタンの空気中における高温酸化皮膜の重量増加量についてはいくつかの文献が知られている。その中の一文献においては、600℃の空気中における純チタンの高温酸化の速度定数Kp=33.46×10−4(40時間以下)から、600℃1時間の高温酸化皮膜の重量増加量は、0.058mg/cmと計算される(A.M.Chaze and C.Coddet, Oxidation of Metals, Vol.27, Nos.1/2, 1-20 (1987).)。
前述の空気中における加熱温度600℃、保持時間1時間で生成するチタン基体の高温酸化皮膜の重量増加量0.67g/m(0.067mg/cm)は、この文献値よりやや大きいが、これは表面の結晶粒径、結晶方位等の金属物性及びブラスティングの有無、酸洗、研磨等の表面処理条件が必ずしも同一ではなかったためである。
よって、特許文献2においては、チタン基体の本質的に有効な高温酸化皮膜中間層の重量増加量は、0.50g/m(0.050mg/cm)以上として提案した。このときのTiO重量換算値は1.25g/m、ルチル型TiO厚み換算値は0.29μmである。前記重量増加量の下限値は実際の重量増加量である0.67g/mとしても良い。
また、チタン合金の場合はおおむね純チタンより高温酸化皮膜の成長は抑制される。
同様に、あらかじめ基体上に酸化性雰囲気中の加熱によって金属酸化物に変換可能な金属化合物の塗布、又は金属酸化物層の形成を行っておいた場合も、高温酸化皮膜の成長は抑制される。特に5価の金属又は4価と5価の金属を混合した化合物の塗布、又はそれらの金属酸化物層の形成を行っておいた場合には、チタン基体上に形成される高温酸化皮膜の成長は重量表示でおおむね20%程度まで抑制される。
ただし後述のように、それ自体の電子伝導性が劣るタイプの金属酸化物層の形成を行う場合には、より薄い層が適するために、極限まで薄くすれば、チタン基体上に形成される高温酸化皮膜の成長はほとんど抑制されず、その重量増加量は金属酸化物層を設けない単純な高温酸化による重量増加量に限りなく近づく。よって、本発明の方法(あらかじめ金属化合物塗布や金属酸化物層形成を行う方法)においても、チタン基体の本質的に有効な高温酸化皮膜の重量増加量は0.50g/m(0.050mg/cm)以上とすることが望ましい。このときのTiO重量換算値は1.25g/m、ルチル型TiO厚み換算値は0.29μm、金属チタン重量換算値は0.75g/mである。前記重量増加量の下限値は実際の重量増加量である0.67g/m(TiO重量換算値では1.67g/m、ルチル型TiO厚み換算値では0.39μm、金属チタン重量換算値では1.00g/m)としても良い。
ここで塗布熱分解法等による金属酸化物層と基体由来の高温酸化皮膜の層構造上の位置関係について述べる(チタン製電極基体を例にとる)。
金属チタンは表面上に存在する物質と高温で反応しない限り、高温酸化皮膜の成長は空気中の酸素の内部への移動、いわゆる内方拡散、によって行われる。よってこの場合には表面に存在した物質の下側に高温酸化皮膜が成長することになる。
酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ及び酸化スズ等バルブメタル酸化物は高温酸化皮膜の成長に対し不活性なため、その成長には関与せず、表面上に残ったまま、その下側(下層)に緻密で高耐食性の高温酸化皮膜の成長が進行する。この場合、表面酸化物層が酸素の移動のバリアーとなって、成長が遅くなるとともに緻密な高温酸化皮膜が得られることが多い。
一方、金属チタンは表面上に存在する物質と高温で反応が生じる場合には、チタン基体からのチタンと物質表面からの酸素がともに移動し、高温酸化皮膜が接触した物質を取り込むように渾然一体となって成長することがある。接触した物質が層状で崩れなければその層の下に皮膜が成長することが可能であるが、この場合も含めて通常の高温酸化皮膜の成長速度よりも異常に大きくなる。この異常高温酸化皮膜は緻密さや耐食性に欠けるために、腐食液の侵食を許し、電極電解寿命を著しく劣化させる。
後述の比較例5で例示するが、白金、酸化イリジウム等の白金族金属又は酸化物の電極触媒層の存在下で高温酸化させたときに見られる金属チタン基体の高温酸化皮膜の異常成長がこれに相当する。
ところで、塗布熱分解法による酸化物層の形成と高温酸化皮膜の形成を焼成炉から出さずに連続した工程で行った場合、言い換えると、酸化性雰囲気中の加熱によって金属酸化物に変換可能な金属化合物を表面に塗布した後に直ちに高温酸化処理を行った場合、金属酸化物層の重量と金属基体由来の高温酸化皮膜の重量は、分離して測定することが出来ない。
このようなときには、塗布した正味の金属化合物量が、100%金属酸化物に変換したとして、金属モル量から計算した重量を金属酸化物量として用いてもよく、又は模擬的にアルミナAl等の不活性な基体上に、所定の温度で塗布熱分解させたときの重量増加量の実測値をもって金属酸化物の重量として用いてもよい。両者とも相互に10%程度の誤差範囲内でほとんど大差なく利用することが出来る。これは空気中においては、塗布〜乾燥〜焼成の塗布熱分解工程で、タンタル、ニオブ、チタン及びスズの各原材料が溶液中または固形物から揮発することなく、そのまま加水分解〜縮重合〜熱分解して定比組成(化学量論的組成)のTa、Nb、TiO及びSnOに近い酸化物となるからである。どちらかの金属酸化物重量を、金属酸化物と基体由来の高温酸化皮膜が重層して形成される高温酸化処理による総重量から引いて、便宜的に基体由来の高温酸化皮膜単味の重量を求めることが出来る。
金属酸化物層の形成を高温酸化皮膜の形成工程と分離してその前に行った場合は、もちろん高温酸化皮膜の重量増加は高温酸化工程前後において測定すればよく、特に問題となるようなことはない。
また、前述したようにSEM等を用いて断面画像から高温酸化皮膜層の厚みを求め、その皮膜の重量を換算することも出来る。
本発明は、金属酸化物、好ましくは4価の原子価数を取る金属チタン基体の高温酸化皮膜と一体化する4価のチタン及び/又はスズと5価のタンタル及び/又はニオブの混合酸化物か、あるいは又は5価のタンタル及び/又はニオブの酸化物が、高温酸化皮膜の上層に設定される。高温酸化皮膜の表面近傍は通常定比組成の二酸化チタンTiOに近く、それ自体は電子伝導性に乏しいが、高温加熱による相互拡散で両層は一体化され、十分な電子伝導性を生じる。この現象は一般的にいわれているような、n価の状態で結晶を構成する金属酸化物の金属を、n+1価の金属元素により一部置換するとn+1価元素はエネルギー帯においてドナー準位を形成し、n型半導体になるという原子価制御原理に則したものと考えられる。
また、この一体化された中間層は、緻密で電解液の浸透を許さず、さらに電極作製中に高温加熱された酸素や、電解中に電極触媒上で生じた高圧の酸素の電極基体中への移動・侵入を抑制することによって、腐食や異常な酸化から電極基体を保護する。
この酸素の移動に関しては、一文献に、500〜850℃におけるTi−Nb合金(5、20wt%Nb)の測定で、金属チタン中にニオブが存在すると酸化物層中の酸素の拡散速度を遅くすることが述べられている(K.Ramoul, C.Coddet et G.Beranger, Journal of the Less-Common Metals, Vol.99(1984) 45-62)。
さらに加えて、この一体化された中間層は、金属チタン等の基体と白金族、白金族酸化物及びバルブメタル(弁金属)混合電極触媒との密着性に優れ、長時間の電解に耐える。
金属酸化物層と基体由来の高温酸化皮膜との一体化とは、例えばタンタル酸化物層とチタン基体由来の高温酸化皮膜の場合、タンタル酸化物層/チタン+タンタルの混合酸化物/チタン高温酸化皮膜/金属チタン基体という多層構造で示すことが出来るような、チタン及びタンタルについてそれぞれ傾斜した組成を持つこと、又は少なくとも界面近傍において共通した金属成分を持つ積層を生じることを意味している。
高温酸化皮膜の上層に設けられる金属酸化物は、不定比組成又は不純物原子による格子欠陥を有するものであり、前述したように、4価の原子価数を取る金属(チタン、スズ)の酸化物と、5価の原子価数を取る金属(タンタル、ニオブ)の酸化物の両者の組み合わせを取るものについては、酸化チタン−酸化タンタル、酸化チタン−酸化ニオブ、酸化スズ−酸化タンタル、酸化スズ−酸化ニオブ、酸化チタン−酸化スズ−酸化タンタル、酸化チタン−酸化スズ−酸化ニオブ、酸化チタン−酸化タンタル−酸化ニオブ、酸化スズ−酸化タンタル−酸化ニオブ及び酸化チタン−酸化スズ−酸化タンタル−酸化ニオブのいずれも好適に用いることが出来、十分な効果を奏するものである。また、両者の組成割合は、特に限定されず、広範囲に設定出来るが、4価の金属の酸化物に対して5価の金属の酸化物を、金属モル比で95:5ないし10:90の範囲とすることが電極の耐久性及び導電性を維持する上で好適である。
この酸化物層物質の被覆量は、特に限定されず広範囲に設定出来るが、金属モル換算値で1×10−3〜1×10−1mol/mの範囲とすることが好ましい。
一方、5価の原子価数を取るものについては、酸化タンタル、酸化ニオブ及び酸化タンタル−酸化ニオブのいずれも好適に用いることが出来るが、前記4価の金属の酸化物と5価の金属の酸化物の混合酸化物と比較してそれ自体の電子伝導性が劣るためより薄い層が適し、この酸化物層物質の被覆量は、金属モル換算値で1×10−5〜1×10−2mol/mの範囲で十分な効果を現す。
次に、続けてこのように形成した金属酸化物層上に、白金族金属又は白金族金属酸化物等を主触媒とする電極触媒層を設ける。各種電解に対応して、白金、ルテニウム酸化物、イリジウム酸化物、ロジウム酸化物、パラジウム酸化物等から適宜、単独で又は組合わせて選択するが、基体との密着性や電解耐久性を高めるために、チタン酸化物、タンタル酸化物、スズ酸化物等を混合させておくことが望ましい。
この電極触媒層の被覆方法としては、塗布熱分解法、ゾルゲル法、ペースト法、電気泳動法、CVD法、PVD法等を用いることが出来るが、特に特公昭48−3954号及び特公昭46−21888号に詳細に記載されているような塗布熱分解法が好適である。
本発明電極は、電解中に熾烈な条件に曝される酸素発生用電極を主要な用途としたが、副反応としての酸素発生反応の割合が大きい次亜塩素酸水用や極性が反転するアルカリイオン水/酸性水用に代表される希薄塩水電解用電極はもちろん、電解条件によっては電極基体が腐食するタイプの塩素発生用電極にも有効に使用することが出来る。
以上のように、本発明は、従来の電解用電極より耐剥離性及び耐食性に優れた中間層を有し、かつより長い電解寿命を有し、工業的レベルの大電流を流すことの出来る電解用電極とその製造方法を提供できる。
特に電極基体上に、あらかじめ酸化性雰囲気中の加熱によって金属酸化物に変換可能な金属化合物の塗布、又は金属酸化物層の形成を行っておいた後に、酸化性雰囲気で熱処理を行い、重量増加量では0.50g/m2以上、TiO重量換算値では1.25g/m2以上、TiO厚み換算値では0.29μm以上、金属チタン重量換算値では0.75g/m2以上の高温酸化皮膜を形成すると、結果的に本来それ自体は電子伝導性に劣る高温酸化皮膜の電子伝導性を増大させることが出来る。さらにこのような処理を行った電極基体上に電極触媒層を形成させれば、工業電解に適するレベルの大電流を流すことが出来る電解用電極が得られる。
この高温酸化皮膜は耐食性に富み、緻密で電極基体と強固に接合することによって、腐食性の電解液や電解反応から電極基体を保護し、さらに酸化物−酸化物接合によって電極触媒を確実に担持出来ることから、触媒層内部の電極触媒を有効に活用することが出来る。
図1は、本発明に係る電解用電極の一例を示す概念図である。
チタン等のバルブメタル又はその合金から成り表面の粗面化が行われた電極基体1上には、基体由来の酸化物から成る高温酸化皮膜2とその上層に金属酸化物層3が形成され、両層で中間層として機能する。この中間層は、あらかじめ酸化性雰囲気中の加熱によって金属酸化物に変換可能な金属化合物が塗布された後に、高温熱処理により電極金属1表面が酸化されて、電極基体1基体由来の酸化物から成る高温酸化皮膜2とともに、前記金属化合物が酸化により金属酸化物に変換されて金属酸化物層3が生成することにより一体形成される。あるいは前記電極基体1表面に金属酸化物層3の形成が行われた後、高温熱処理により電極金属1表面を酸化して、電極基体1基体由来の酸化物から成る高温酸化皮膜2とその上層に金属酸化物層3が中間層として一体化して形成しても良い。金属酸化物層との一体化によって、本来それ自体は電子伝導性に劣る高温酸化皮膜の電子伝導性を増大させることが出来る。この中間層は高温酸化皮膜2とも一体化しているため、電極基体1から剥離することがなく、耐食性にも富むため、電極基体を確実に保護する。
次いでこの金属酸化物層3表面に白金やイリジウム等の白金族金属や白金族金属酸化物を触媒として含む電極触媒層4が被覆形成される。
金属酸化物層3は、主として白金族金属酸化物である電極触媒層4との間に、酸化物−酸化物結合を形成して確実に電極触媒層を担持する。
又電極触媒層4中にバルブメタルが含まれていると、金属酸化物層3中のバルブメタルと電極触媒層4中のバルブメタル間に更に強固な結合が生じて耐久性が十分に向上する。
次に本発明に係る電解用電極に関する実施例及び比較例を記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
計9枚の厚さ3mmの一般工業用チタン板のそれぞれの表面を#20のアルミナ粒子でブラスチングして粗面化した後、沸騰した20%塩酸に浸漬して表面洗浄を行い、電極基体とした(実施例1−1〜1−9)。
まず、基体の高温酸化皮膜を形成する前に、4価の原子価を持つ金属の酸化物層の形成のための塗布液として、表1に示したタンタル及び/又はニオブをそれぞれ含む塩化タンタルTaCl及び/又は塩化ニオブNbClの10%塩酸溶液を各基体に1回塗布した。乾燥後、空気を導入しながらマッフル炉中で各基体に対し、表1に示す所定の温度・保持時間の熱処理を施した。これにより、チタン基体上に、高温酸化皮膜とその上層に表1に示す所定のコーティング量(金属モル量表示)と酸化物組成(金属モル比表示)のタンタル及び/又はニオブ酸化物の金属酸化物層を形成させた後、冷却させた。
なお、表1中に示した各コーティング量0.0004、0.0012、0.0036金属mol/mを得るために、それぞれ0.03、0.09、0.27M(mol/l)の金属濃度の塗布液を用いた。
また、このときの塗布液による酸化物層の重量及び正味の高温酸化皮膜重量は実測できないので、表1中の(1)に原材料から計算した酸化物層重量、(2)に実測した高温焼成による総重量増加量、(3)に正味の高温酸化皮膜重量として[(2)−(1)]の値、をそれぞれ表示した。
実施例1−8のタンタル酸化物を上層に持った高温酸化皮膜のX線回折による解析からは、基体の金属チタンの他には、その高温酸化皮膜として不可避的に生成されるTiO(ルチル型)、塗布層から生成されるTa及び高温酸化皮膜と基体の界面に存在すると思われるTiOの各回折ピークが検出された。
次に、これら中間層が形成されたチタン基体上に0.36Mのイリジウムを含む塩化イリジウムと0.17Mのタンタルを含む塩化タンタルの10%塩酸混合溶液を塗布し、乾燥後、500℃に保持したマッフル炉中で10分間焼成し、この操作を12回繰り返して約12g/m(0.062mol/m)のイリジウムを含む、イリジウム酸化物とタンタル酸化物の混合酸化物を電極触媒とする計9枚の電極を作製した。
これらの電極を、60℃、150g/lの硫酸水溶液中で、白金板を陰極として、3A/cmの電流密度で電解寿命試験を行った。セル電圧が1Vアップした時点を電極の寿命と判定した。各電極の寿命を表1に示した。
これらの電極は、それぞれ安定した電解を維持し、後述する比較例に示すように金属酸化物層を設けずに単に同じ温度と保持時間で高温酸化処理を行い、中間層としては高温酸化皮膜を設けたのみの電極に比較して、十分な電解耐久性を持つことが確認できた。
これらの条件および電解結果を表1に示した。
Figure 2007154237
[実施例2]
実施例1と同様にして、厚さ3mmの一般工業用チタン板1枚の表面を#20のアルミナ粒子でブラスチングして粗面化した後、沸騰した20%塩酸に浸漬して表面洗浄を行い、電極基体とした。
まず、基体の高温酸化皮膜を形成する前に、5価の原子価を持つ金属の酸化物層の形成のための塗布液として、金属濃度0.09Mの塩化タンタルTaClの10%塩酸溶液を1回塗布した。乾燥後、空気を導入しながら500℃に保持したマッフル炉中で10分間の焼成を行い、チタン基体上にコーティング量0.0012mol/m(重量換算値0.26g/m)を目標としたタンタル酸化物層を形成させた後、冷却させた。参考までに、このとき得られた重量増加量の実測値は0.29g/mで、目標値に極めて近く、この基体のX線回折からは、基体の金属チタンの他にはタンタル酸化物Taの回折ピークのみが検出されたこともあり、チタン酸化物は生成していても微量と思われた。なお本実施例は、中間層形成の際、基体に塩化タンタルの塩酸溶液を塗布し、乾燥後、そのまま650℃まで到達させずに、空気中で500℃10分間の焼成を行い、冷却し、常温付近でチタン基体上にタンタル酸化物層の形成を確定させたことが、実施例1−8と異なり、この時点では高温酸化皮膜は殆ど生成していない。
この酸化物層が形成されたチタン基体に、マッフル炉中で650℃3時間の加熱処理を施し、タンタル酸化物の下層に高温酸化皮膜を形成させた後、冷却させた。このときの重量増加量の実測値は、2.52g/mであった。
次に、実施例1と同様にして、イリジウム酸化物とタンタル酸化物の混合酸化物を電極触媒とする電極を作製し、同様の電解寿命試験を行った。
この電極は、3266時間安定した電解を維持し、(比較例2−3に示したように)金属酸化物層を設けずに単に同じ温度と保持時間で高温酸化処理を行い、中間層としては高温酸化皮膜を設けたのみの電極に比較して十分な電解耐久性を持つことを確認した。
[実施例3]
実施例1と同様に、厚さ3mmの一般工業用チタン板1枚の表面を#20のアルミナ粒子でブラスチングして粗面化した後、沸騰した20%塩酸に浸漬して表面洗浄を行い、電極基体とした。
まず、基体の高温酸化皮膜を形成する前に、5価の原子価を持つ金属と4価の原子価をもつ金属の混合酸化物層の形成のための塗布液として、金属濃度0.03Mの塩化タンタルTaClと金属濃度0.12Mの塩化チタンTiClの10%塩酸溶液を1回塗布した。なお本実施例は、中間層形成の際、基体に塗布した塩酸溶液が金属濃度0.03Mの塩化タンタルTaClと金属濃度0.12Mの塩化チタンTiClを含有することが、実施例1―8と異なる。
乾燥後、空気を導入しながらマッフル炉中で650℃1時間の加熱処理を施し、チタン基体上にコーティング量0.002mol/mを目標としたチタン−タンタル混合酸化物(金属モル比でTi/Ta=80/20)を上層に持った高温酸化皮膜を形成させた。このときのチタン−タンタル混合酸化物層の目標計算値は0.22g/mであるが、重量増加量の実測値は、1.65g/mであり、チタン−タンタル混合酸化物層の目標計算値0.22g/mを減じると、正味の高温酸化皮膜の重量増加量は、1.43g/mとなった。
次に、実施例1と同様にして、イリジウム酸化物とタンタル酸化物の混合酸化物を電極触媒とする電極を作製し、同様の電解寿命試験を行った。
この電極は、4309時間安定した電解を維持し、(比較例2−2に示したように)金属酸化物層を設けずに単に同じ温度と保持時間で高温酸化処理を行い、中間層としては高温酸化皮膜を設けたのみの電極や(比較例5に示したように)同様な組成と量の混合金属酸化物層でも比較的に低温の焼成しか行わなかった中間層を持つ電極に比較して十分な電解耐久性を持つことを確認した。
[比較例1]
実施例1と同様にして、厚さ3mmのチタン板1枚の表面を#20のアルミナ粒子でブラスチングして粗面化した後、沸騰した20%塩酸に浸漬して表面洗浄を行い、電極基体とした。
まず、この基体に対して、空気を導入しながらマッフル炉中で650℃1時間の熱処理を施し、基体由来の高温酸化皮膜を形成させた。このときの高温酸化による基体の重量増加量の実測値は、1.77g/mであった。
さらに、5価の原子価を持つ金属と4価の原子価をもつ金属の混合酸化物層の形成のための塗布液として、金属濃度0.03Mの塩化タンタルTaClと金属濃度0.12Mの塩化チタンTiClの10%塩酸溶液を1回塗布し、乾燥後、マッフル炉中で500℃10分の加熱処理を施し、チタン基体上にコーティング量0.002mol/m(0.22g/m)を目標としたチタン−タンタル混合酸化物(金属モル比でTi/Ta=80/20)を高温酸化皮膜の上層に持った中間層を形成させた。この混合金属酸化物層形成による重量増加量の実測値は、0.24g/mだった。
次に、実施例1と同様にして、イリジウム酸化物とタンタル酸化物の混合酸化物を電極触媒とする電極を作製し、同様の電解寿命試験を行った。
この電極は、実施例3と同じ金属酸化物層と高温酸化皮膜の層構造を持つ中間層でありながら、層を構築させる順序が異なるために、同様の高温酸化処理を単独で行った比較例2−2と同水準の2946時間の電解時間にとどまり、その後セル電圧は急速に上昇した。
[比較例2]
5価又は5価と4価の原子価を持つ金属の酸化物層の形成のための塗布液を塗布せず、単に到達温度および保持時間をそれぞれ500℃1時間(比較例2−1)、650℃1時間(比較例2−2)、650℃3時間(比較例2−3)とした熱処理を行ってから炉冷して、チタン基体由来の高温酸化皮膜のみの中間層を得たこと以外は実施例1と同様に試料を作製し、電解寿命試験を行った。なお、比較例2−1は実施例1−1、1−2、1−3に、比較例2−2は実施例1−4、1−5、1−6に、比較例2−3は実施例1−7、1−8、1−9にそれぞれ対応する。
これらの電極は、酸素発生を主反応とする工業電解槽において十分な性能を発揮するのに対応した電解試験寿命である、1300時間以上の使用は可能であったが、1385時間(比較例2−1)、3014時間(比較例2−2)、2177時間(比較例2−3)の電解寿命時間にとどまり、その後セル電圧は急速に上昇した。
これらの条件および電解結果を表2に示した。
Figure 2007154237
[比較例3]
塗布液を塗布し、乾燥後、到達温度および保持時間を500℃10分間とした熱処理を行ってから炉冷して、チタン基体上に金属酸化物層を得たこと以外は実施例1−1と同様に試料を作製し、同様の電解寿命試験を行った。
このときのタンタル酸化物層の目標計算値は0.088g/mであるが、実測値として0.090g/mの値を得た。このときの重量増加量の実測値0.090g/mからタンタル酸化物層の計算値0.088g/mを減じると、正味の高温酸化皮膜の重量増加量は、わずか0.002g/mにとどまったことになる。
この電極は、5価の原子価を持つ金属の酸化物層は形成されたが、その下層に十分な高温酸化皮膜層が形成されなかったため、717時間で急速にセル電圧が上昇した。
[比較例4]
塗布液を塗布し、乾燥後、到達温度および保持時間を500℃10分間とした熱処理を行ってから炉冷して、チタン基体上に金属酸化物中間層を得たこと以外は実施例3と同様に試料を作製し、同様の電解寿命試験を行った。
このときのチタン−タンタル混合酸化物層の目標計算値は0.210g/mであるが、実測値として0.221g/mの値を得た。このときの重量増加量の実測値からチタン−タンタル混合酸化物層の計算値を減じると、正味の高温酸化皮膜の重量増加量は、わずか0.011g/mに過ぎなかったことになる。
この電極は、4価と5価の原子価を持つ金属の混合酸化物層は形成されたが、その下層に十分な高温酸化皮膜層が形成されなかったため、1752時間の電解寿命時間にとどまり、その後セル電圧は急速に上昇した。
[比較例5]
実施例1と同様に粗面化及び洗浄して得た電極基体上に、中間層としての金属酸化物層及び高温酸化皮膜を形成させずに、直接電極触媒層を形成させるために、実施例1と同様に70g/lのイリジウムを含む塩化イリジウムと30g/l のタンタルを含む塩化タンタルの10%塩酸混合溶液を塗布し、乾燥後、500℃に保持したマッフル炉中で10分間焼成し、この操作を12回繰り返して約12g/mのイリジウムを含む、イリジウム酸化物とタンタル酸化物の混合酸化物を電極触媒とする電極を作製した。
さらにこの電極に対して、空気を導入しながらマッフル炉中で650℃3時間の熱処理を施し、基体それ自体から高温酸化皮膜を形成させた。このときの高温酸化による基体の重量増加量の実測値は、12.18g/mとなり、単に基体を高温酸化させた場合(比較例2−3)の約4倍もの異常な高温酸化皮膜層が基体と電極触媒層の間に盛り上がるように形成され、電極触媒層には断裂が多く生じた。
実施例1と同様にして、電解寿命試験を行った。この電極は、タンタル、ニオブ等の金属の酸化物層ではなく、白金族酸化物層の存在下で高温酸化されたため、高温酸化処理の効果はなく、わずか77時間の電解寿命時間にとどまり、その後セル電圧は急速に上昇した。
本発明に係る電解用電極の一例を示す概念図。
符号の説明
1 電極基体(電極金属)
2 高温酸化皮膜
3 金属酸化物層
4 電極触媒層

Claims (10)

  1. バルブメタル又はバルブメタル合金電極基体、該バルブメタル又はバルブメタル合金電極基体の表面にその重量増加量が0.50g/m以上となるように前記電極基体の高温酸化処理により形成された基体由来の高温酸化皮膜、該高温酸化皮膜の表面に設けられた1層の金属酸化物層、及び該金属酸化物層の表面に設けられた電極触媒層を含んで成ることを特徴とする電解用電極。
  2. 高温酸化による重量増加が0.67g/m以上である請求項1に記載の電解用電極。
  3. 金属酸化物層が、5価の原子価数を取るタンタル及びニオブから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物層である請求項1に記載の電解用電極。
  4. 金属酸化物層が、4価の原子価数を取るチタン及びスズから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物と5価の原子価数を取るタンタル及びニオブから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物との混合酸化物からなる酸化物層である請求項1に記載の電解用電極。
  5. バルブメタル又はバルブメタル合金電極基体表面に、金属酸化物に変換可能な金属化合物を含有するコーティング液を塗布した後、前記電極基体の高温酸化処理により、前記金属化合物を金属酸化物に変換して金属酸化物層を形成するとともに、前記電極基体表面と前記金属酸化物層の間に基体由来の高温酸化皮膜を形成し、次いで該金属酸化物層上に電極触媒層を形成することを特徴とする電解用電極の製造方法。
  6. バルブメタル又はバルブメタル合金電極基体表面に、金属酸化物層を形成した後に、該電極基体の高温酸化処理により、該電極基体表面と該金属酸化物層の間に基体由来の高温酸化皮膜を形成し、次いで該金属酸化物層上に電極触媒層を形成することを特徴とする電解用電極の製造方法。
  7. 高温酸化皮膜の重量増加量を、空気中における加熱温度600℃、保持時間1時間で生成するバルブメタル又はバルブメタル合金基体の高温酸化皮膜の重量増加量以上とする請求項5又は6記載の電解用電極の製造方法。
  8. 金属酸化物層が、5価の原子価数を取るタンタル及びニオブから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物層である請求項5から7までのいずれか1項に記載の電解用電極の製造方法。
  9. 金属酸化物層が、4価の原子価数を取るチタン及びスズから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物と5価の原子価数を取るタンタル及びニオブから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物との混合酸化物からなる酸化物層である請求項5から7までのいずれか1項に記載の電解用電極の製造方法。
  10. 金属酸化物層を設ける際に、塗布熱分解法によって前記金属酸化物層の形成を行うようにした請求項5から7までのいずれか1項に記載の電解用電極の製造方法。
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