JP4942551B2 - 電解用電極 - Google Patents

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本発明は、電解用の電極に関する。詳しくは、電気めっきや金属箔製造等の電解工程において陽極として使用される電極に関する。
各種の電解工程で使用される電極として、チタン、タンタル等のバルブ金属からなる電極基材を、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム等の貴金属又はこれら貴金属の酸化物を含む電極触媒活性物質からなる触媒層で被覆した電極が知られている。このような電解用電極は、不溶性電極とも称されており、電解液の汚染等の問題に対して、古くから使用されてきた鉛電極より優れており、近年多用されるようになっている。
かかる不溶性電極において、求められる性能として、電極活性の維持、寿命の増大がある。不溶性電極の劣化の機構としては、使用過程における酸素発生及び触媒層の消耗に伴い、電極基材表面に絶縁性の酸化物が成長する不働態化現象によるものと考えられており、これにより電極としての機能が消失する。
不溶解性電極の耐久性向上の手段としては、上記のような劣化機構を考慮したものとして、電極基材と触媒層との間に、電極基材の不働態化を抑制するための中間層を形成するものが提案されている。例えば、特許文献1では、電極基材上に中間層としてスパッタリング法によりタンタル皮膜を形成し、その後触媒層を形成した電極が開示されている。
特開平2−282491号公報
上記従来技術において、電極基材の不働態化抑制のために中間層を形成する手法は極めて有用である。しかしながら、この従来技術には電極製造のコスト面において改善が必要である。即ち、電極の製造コストは、原材料及び製造工程における製造効率が影響するところ、従来技術では中間層製造の方法としてスパッタリング法が適用されている。スパッタリング法は、所望の組成の薄膜を均一に形成する点においては有用であるが、成膜速度は低い。上記特許文献においては、3μmのタンタル皮膜を形成した例のみが記載されているが、このような厚さのタンタル皮膜をスパッタリングで形成するためには、相当の時間を要し製造効率に乏しい。
一方、製造コストを考慮し、タンタル皮膜の厚さを減少させた場合、中間層本来の機能を発揮することができない。本願発明者等による検証によれば、タンタル層の厚さを1μm程度以下とした場合、十分な耐久性向上の効果が得られないことが確認されている。
そこで、本発明は、中間層を有する不溶性電極において、製造コストを低減しつつも、耐久性に優れるものを提供することを目的とする。
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、中間層の構成として、所定の厚さの貴金属皮膜とタンタル皮膜の2層構造を採ることで耐久性に優れる電極とすることができることを見出し本発明に想到した。
即ち、本発明は、導電性金属からなる電極基材、該電極基材上に形成される中間層、該中間層上に形成される電極触媒活性物質からなる触媒層、からなる電解用電極において、前記中間層は、電極基材上に形成され、厚さ0.3〜0.7μmの白金、イリジウム、ロジウムのいずれかよりなる下地層と、該下地層上に形成され、厚さ0.5〜1.5μmのタンタルからなる第2層とからなることを特徴とする電解用電極である。
本発明は、基材の不働態化抑制のためのタンタル層を薄くすることで、製造コストの低減を図ると共に、これにより消失するタンタルの作用(電極基材の不働態化の阻止)を確保するためにその下地層として所定厚さの貴金属層を形成するものである。
タンタル層の下地層として貴金属層を形成することにより、電極基材の不働態化抑制の効果が生じる理由については必ずしも明らかではないが、本発明者等によれば、貴金属層を下地層として形成することで、その後に形成されるタンタル層の表面形態が改善され、比較的粒径の揃った皮膜が形成されるためと考える。そして、この皮膜は、その後の触媒層形成のための熱処理を受けても、その表面形態を維持することができ、中間層として安定性を有するものとなる。このように薄いタンタル層を安定性に富む皮膜とすることで、電極基材の不働態化を抑制し、電極の耐久性を確保することができる。
また、下地層を構成する白金、イリジウム、ロジウムは、タンタルとは異なり、スパッタリング法以外の方法、例えばめっき法等の簡易な方法によって薄膜とすることができる。従って、下地層形成による製造効率の影響は微小であり、タンタル層を薄くすることによる改善効果を考慮すると全体として電極製造のコストを低減することができる。
ここで、下地層として、貴金属の中でも白金、イリジウム、ロジウムに限定するのは、これらの貴金属はタンタル層の形態を良好なものとするのに好適であり、更に、電極の使用過程において溶出することなく基材を保護することができるからである。この点、貴金属に属する金、銀については、使用時において電解液中に溶出し易く、電極基材を保護する材料として機能し難い。
また、中間層を構成する各層の厚さについて、タンタル層を0.5〜1.5μmとするのは、0.5μm未満では電極基材の不働態化抑制の効果が生じないからであり、1.5μmを超えるタンタル層の製造はコスト高となるからである。一方、下地層の厚さを0.3〜0.7μmとするのは、0.3μm未満では耐久性向上の効果が見られないからである。また、下地層は厚ければいいというものではなく、その原因は定かではないが、下地層の厚さ0.7μmを超えると電極の寿命が大きく低下する。
そして、白金、イリジウム、ロジウムよりなる下地層は、めっきにより形成されるものが好ましい。めっきにより形成される皮膜は結晶粒の揃ったものとなる傾向があり、その上に形成されるタンタル皮膜の結晶粒が下地層の形態に追従し、形態性の良好なタンタル層とすることができるからである。
電極基材は、従来の不溶性電極で使用されているものが適用でき、チタニウム、ニオブ、タンタル等のバルブ金属からなるものが使用できる。
中間層の上に形成される触媒層についても、従来の不溶性電極の触媒層を適用でき、例えば、酸化イリジウム又は酸化ルテニウム等の白金族金属の酸化物、及び、その混合物、更にこれらにチタン、タンタル等のバルブ金属(酸化物)を含むものが使用できる。この触媒層の膜厚は、0.1μm〜10μmであることが望ましい。0.1μm未満では、電気分解効率が良好なものとなりにくい傾向があり、10μmを超えても電気分解効率に問題はないが、高コストになってしまう傾向がある。
本発明に係る電解用電極の製造においては、電極基材上に下地層、タンタル層、触媒層を順次積層させることで製造できる。このとき、電極基材表面について、脱脂、酸化皮膜除去のための前処理として酸洗、研磨を行っても良い。
上記のように、下地層の形成はめっきによるものが好ましい。簡易かつ安価に貴金属皮膜を形成することができ、皮膜の形態性にも優れるからである。めっき法による下地層の形成は、形成目的の貴金属塩を含むめっき液に電極基材を浸漬し、通電することでなされる。めっき液としては、白金層を形成する白金めっき液としては、例えば、ジニトロジアンミン白金、ヘキサヒドロオクソ白金酸塩、塩化白金酸塩等を含むめっき液が適用可能である。また、イリジウムめっき液としては、ヘキサクロロイリジウム酸塩、ヘキサブロモイリジウム酸塩、ヘキサフルオロイリジウム酸塩等を含むめっき液があり、ロジウムめっき液としては、硫酸ロジウムめっき液、リン酸ロジウムめっき液が適用可能である。
めっき条件は、めっき液中の貴金属塩濃度としては、安定的な析出を得るため、5〜10g/Lとするのが好ましい。また、電解条件は、液温50〜60℃、電流密度0.5〜1.0A/dmとするのが好ましい。めっき液のpHを1〜3に調製するのが好ましい。尚、下地層の厚さはめっき時間により制御することができるが、3〜30分間とするのが好ましい。
タンタル層の形成については、特に限定するものではないが、適当なタンタル塩を含むめっき液が存在せず、常温でのめっき法(電解法)で形成することが困難である。そこで、タンタル層の形成はスパッタリング法によるのが好ましい。
触媒層の形成は、簡易的な方法であり、工業的規模での電極作成にも好適である焼成法が好ましい。焼成法は、触媒層を構成する貴金属の塩、及び、タンタル塩、チタン塩をアルコール等の溶媒に溶解させた溶液を塗布し、これを400〜500℃で20分間〜1時間焼成し、この塗布及び焼成を繰返すものである。繰返しの回数は、目的とする触媒層の厚さに対応するものである。
以上説明したように、本発明に係る電解用電極は、中間層を2層構造とし、白金等からなる下地層を設けることで、その上のタンタル層を薄くしつつも電極基材の不働態化を抑制し、電極の耐久性を確保する。本発明に係る電極は、低コストで製造可能である。
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
実施例1:ここでは、電極基材であるチタン基板上に、白金層をめっきし、更にタンタル層をスパッタ法で形成して中間層を形成した後、焼成法により触媒層を形成した。
100mm×100mm×0.5mmのチタン板を基材として、酸性、アルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、酸洗して酸化皮膜を除去した後、下地層となる白金の電解めっきを行った。白金濃度5g/Lのめっき液(ジニトロジアンミン白金、硫酸浴)を用いて、pH2、液温50℃、電流密度0.5A/dmの条件下で、撹拌しながら15分間めっきし、厚さ0.5μmの白金からなる下地層を形成した。
次に、めっきした基板をマグネトロンスパッタリング装置に導入しタンタル層を形成した。使用したターゲットは、純タンタルターゲットであり、基板温度20℃、チャンバー内圧力5×10−3torr、直流電流1kW、スパッタ時間60分としてスパッタリングを行った。その結果、1μmのタンタル層が形成された。
以上の方法によって、チタン基板上に中間層を形成した後、焼成法により酸化イリジウム−酸化タンタルからなる触媒層を形成した。濃度10%の塩化イリジウム酸と有機タンタル化合物をブタノールに溶解して中間層上に塗布し、室温で10分間乾燥させた後、450℃、30分間焼成した。この塗布、焼成作業を10回繰り返して電解用の電極を得た。尚、このときの触媒層の膜厚は、約5μmであった。
実施例2、3:ここでは、下地層である白金層の厚さを変化させて電極を作成した。白金層の厚さは、めっき時間の調整により行い、めっき時間9分で0.3μm、めっき時間21分で0.7μmの白金層を形成した。尚、白金層形成のためのその他の条件、及び、タンタル層、触媒層の形成方法は実施例1と同様とした。
実施例4、5:ここでは、タンタル層の厚さを変化させて電極を作成した。タンタル層の厚さは、スパッタ時間の調整により行った。尚、白金層形成のための条件、及び、タンタル層形成のその他の条件、触媒層の形成方法は実施例1と同様とした。
比較例1、2:めっき時間を調整して下地層である白金層の厚さを0.1μm、1.0μmとして電極を作成した。タンタル層、触媒層の形成方法は実施例1と同様とした。
比較例3、4:ここでは、中間層としてタンタル層のみを形成し電極とした。実施例1において、チタン基材の前処理後、これをスパッタリング装置に導入し、スパッタ時間を調整し、タンタル層を1μm、0.5μmとした。そして、実施例1と同様にして触媒層を形成し電極とした。
比較例5、6、7:中間層として白金層のみを形成し電極を製造した。実施例1において、チタン基材の前処理、白金めっきを行った後、触媒層を形成した。白金層の厚さは、めっき時間の調整により、0.1μm、0.5μm、1.0μmとした。
比較例8、9:ここでは、中間層を2層構造としつつ、下地層として金を適用した。金層の形成は、めっきにより行い、金濃度10g/Lのめっき液(シアン化金カリウム溶液)を用いて、pH12、液温50℃、電流密度1A/dmの条件下で金めっきした。金層の厚さは、めっき時間を調整し、0.3μm、1.0μmとした。そして、実施例1と同様にして、タンタル層及び触媒層を形成し電極とした。
比較例10、11:上記比較例と同様、中間層を2層構造としつつ、下地層として銀を適用した。銀層の形成もめっきにより行い、銀濃度15g/Lのめっき液(シアン化銀カリウム溶液)を用いて、pH12、液温50℃、電流密度1A/dmの条件下で金めっきした。金層の厚さは、めっき時間を調整し、0.3μm、1.0μmとした。そして、実施例1と同様にして、タンタル層及び触媒層を形成し電極とした。
電解試験:以上製造した電極について、その寿命を検討すべく電解試験を行った。電解試験は、各実施例、比較例に係る電極を陽極とし、陰極としてZr金属を用い、両者を光沢剤入り錫めっき液中に浸漬して、電流密度200A/dm、液温40℃として電解を行い耐久時間を測定した。耐久時間(陽極の寿命)の評価は、初期のセル電圧から5V上昇した時点を終点とし、終点までの時間を寿命と判断した。電解試験の結果を表1に示す。
Figure 0004942551
タンタル層のみからなる中間層を有する比較例3、4を基準としてみると、白金の下地層を有する実施例1〜2は耐久時間が長いことがわかる。また、比較例1、2の結果から、下地層の厚さは0.1μmでは効果が十分発揮されない一方、1.0μmと厚くすると耐久時間が短くなる。下地層の好ましい範囲は、0.3〜0.7μmであるといえる。また、下地層の白金は、これを単独で用いても耐久性向上には寄与しない(比較例5〜6)。更に、下地層としては金、銀は電解中の溶出が容易に生じ、耐久時間が著しく短かくなることが確認された。従って、中間層の構造を2層構造とするだけでは効果はなく、下地層の適切な選択を要することがわかる。
タンタル層の表面形態の検討:本願実施形態においては、実施例1、比較例1について、タンタル層の形態についても検討している。図1は、実施例1、比較例1においてスパッタ後のタンタル層の表面形態を示す写真である。図1からわかるように、白金下地層を供える実施例1のタンタル層は、比較的粒径が近似した表面形態を示している。これに対し、比較例1のように、下地層無しで直接基材に形成されたタンタル層の表面形態は粒径が不定なものとなっている。
以上のタンタル層形成後の基材について、空気中で450℃で加熱したところ、図2のような表面形態となった。これによると、比較例1では熱処理により結晶粒の成長・粗大化が生じ粗い表面形態に変化している。これに対し、実施例1では、加熱されても成膜直後の表面形態をほぼ維持している。
以上のようなタンタル層の形態変化と、電極の耐久性との関係については、明確ではないが、タンタル層の厚さを1μmと薄くした場合、その形態の変化により基材の不働態化抑制という中間層としての作用を失ったものと考えられる。
実施例1、比較例1のタンタル層表面のSEM写真。 焼成後の実施例1、比較例1のタンタル層表面のSEM写真。

Claims (4)

  1. 導電性金属よりなる電極基材と、該電極基材上に形成される中間層と、該中間層上に形成され電極触媒活性物質よりなる触媒層と、からなる電解用電極において、
    前記中間層は、電極基材上に形成され、厚さ0.3〜0.7μmの白金、イリジウム、ロジウムのいずれかよりなる下地層と、該下地層上に形成され、厚さ0.5〜1.5μmのタンタル層とからなることを特徴とする電解用電極。
  2. 下地層は、めっきにより形成されるものである請求項1記載の電解用電極。
  3. 電極基材は、チタニウム、ニオブ、タンタルのいずれかよりなる請求項1又は請求項2記載の電解用電極。
  4. 触媒層は、白金族金属酸化物、又は、その混合物、若しくは、これらにバルブ金属の酸化物を含むもの、のいずれかである請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の電解用電極。
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