JP2004323930A - 陽極基体、および陽極 - Google Patents
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Abstract
【課題】強酸性液を電解液とする電解に陽極として用いたとき、長寿命が得られ、しかも、コストが低減できる陽極基体、および陽極を提供すること。
【解決手段】導電性金属基体表面に、タンタル、ジルコニウムおよびニオブよりなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む薄膜が形成されていることを特徴とする陽極基体。
【選択図】 なし
【解決手段】導電性金属基体表面に、タンタル、ジルコニウムおよびニオブよりなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む薄膜が形成されていることを特徴とする陽極基体。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、陽極基体、および陽極に関し、特に、強酸性の条件下においても長寿命である陽極および、この陽極の基体となる陽極基体に関する。
【背景技術】
近年、化学工業の発展に伴い、生産のスピードアップが企業の生き残るための必須条件と言われるようになってきた。例えば、電解銅箔製造のための硫酸銅めっき液中の硫酸水溶液の濃度は、1mol/Lから2mol/Lへと2倍の濃度になっている。また、スチールワイヤーの電解液洗浄においても2mol/L以上の硫酸水溶液を用いているのが現状である。このため、強酸性下における電解が要求されるようになってきている。
【0002】
このような強酸性下における電解のためには、耐食性を備えた電極、いわゆる不溶性電極(Dimensionally Stable Electrode)と呼ばれる電極が必要となる。特にその陽極を不溶性陽極と呼んでいる。この不溶性陽極は、陽極の基体となるチタン表面をエッチングして表面を粗化するとともに、不動態の酸化チタン層を除去し、活性化したチタンの基体の表面に白金族元素の中から選ばれた金属(例えば、白金、イリジウム等)の被膜層をめっき法、あるいは溶射法等により形成したものである。
【0003】
ここで、チタンは、軽量でしかも大気中では化学的に非常に安定していることは周知のとおりであり、弱酸性(1規定程度)の酸性液にも耐えることができる安定な金属である。
【0004】
しかしながら、高濃度の酸性液において、前述のチタンは、耐食性に乏しく溶解する方向にある。このことは、電極寿命を著しく短縮するものであり、メンテナンスを含めて高額なコストとなる。そのため、耐食性を付与するため、白金族元素(例えば、白金、イリジウム等)からなる被膜層が形成されている(。
【0005】
上記のようにして形成された陽極をより強い酸性溶液中で陽極として電解を行うと、強酸性液の強い浸透力により白金族元素からなる被膜層を通過し、チタンと、白金族元素からなる被膜層とを二分し、電解時間1000時間前後で通電不能な状態に至らしめることとなる。
【0006】
このように、電解時間1000時間前後での電極寿命のため、その都度、電解を停止して、陽極の交換を行うという不都合が生じている。電解処理の現場では、できるだけ、長時間電解が継続できて、工務の省力化、そしてコストダウンにつなげられる不溶性陽極の出現を望んでいた。
【0007】
一方、バルブ金属よりなる導電性金属基体上に、スパッタリング法により酸化イリジウムおよび酸化タンタルの混合酸化物被膜を電極触媒層として設けた電極に関する技術が開示されている(特許文献1)。
【0008】
【特許文献1】
特許第3149629号(請求項1)
【0009】
しかしながら、上記したいずれの技術においても、強酸性の条件下で、長寿命とすることはできないという問題がある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような従来の問題点を解消し、強酸性液を電解液とする電解に陽極として用いたとき、長寿命が得られ、しかも、コストが低減できる陽極基体、および陽極を提供することをその課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
この発明の前記課題を解決するための第1の手段は、
(1)導電性金属基体表面に、タンタル、ジルコニウムおよびニオブよりなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む薄膜が形成されていることを特徴とする陽極基体である。
【0012】
この第1の手段における好ましい態様としては、下記〈1〉および〈2〉の陽極基体を挙げることができる。
〈1〉前記導電性金属基体は、チタン、およびチタン合金を有して形成されて成る陽極基体。
〈2〉前記薄膜は、スポット溶接法、または蒸着法により形成されて成る陽極基体。
【0013】
この発明における前記課題を解決するための第2の手段は、
(2)前記(1)の陽極基体の薄膜上に、該陽極基体の腐食を防止する腐食防止膜が形成されて成る陽極。
【0014】
この第2の手段における好ましい態様としては、下記〈1〉〜〈3〉の陽極を挙げることができる。
〈1〉前記腐食防止膜は、白金、イリジウム、これらの酸化物、または、これらの混合物から成る陽極。
〈2〉前記腐食防止膜は、めっき法、溶射法、または蒸着法により形成されて成る。
〈3〉電解液の濃度が2mol/L以上の強酸性の条件下で用いられる陽極。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の陽極基体は、導電性金属基体表面に、タンタル、ジルコニウムおよびニオブよりなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む薄膜が形成されている陽極基体である。
【0016】
ここで、陽極基体の形状としては、特に制限はなく、板状、網状、棒状、多孔板状等が挙げられる。
【0017】
また、導電性金属基体としては、電解液が酸性を示す場合に用いられ、導電性を示すものであればよく、銅、アルミニウム、鉄、チタン、およびチタン合金等を挙げることができる。これらの中でも、前記導電性金属基体は、チタン、およびチタン合金を有して形成されて成ることが好ましい。このチタン合金としては、チタン−タンタル、チタン−タンタル−ニオブ、チタン−パラジウム等のチタン合金が挙げられる。
【0018】
さらに、前記薄膜としては、タンタル、ジルコニウムおよびニオブよりなる群から選択される少なくとも1つの元素からなるものであればよい。
【0019】
前記薄膜は、溶接法、または蒸着法により形成されて成る。なお、この薄膜形成の前に、該導電性金属基体の表面を適当に粗くしておくと、薄膜の密着性をより向上させることができる。表面を粗くする方法としては、ブラスト処理や、プラズマ処理等が挙げられる。また、表面粗度Raとしては、2〜100μmの範囲内であることが好ましい(JIS B0651 触針式表面粗さ測定器、東京精密(株)製、サーフコム470A型にて測定)。
【0020】
ここで、溶接法としては、スポット溶接法、アーク溶接法、レーザー溶接法等が挙げられる。このなかでも、スポット溶接法が好ましい。スポット溶接法とは、抵抗溶接ともいい、複数の材料を接触させて、電流を流し、複数の材料が接触した部分の電気抵抗による発熱を利用し、材料の一部が溶解した状態になった時、その溶解した部分に加圧し、接合する方法である。本発明においては、導電性金属基体の表面上に、薄膜を構成する材料、例えば、タンタルからなる板状部材を接触させ、電流を流して、溶解させ、この溶解した部分に加圧して、接合する。
【0021】
蒸着法としては、物理的蒸着法と、化学的蒸着法とが挙げられる。物理的蒸着法としては、熱蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法等が挙げられる。
【0022】
熱蒸着法は、真空蒸着法ともいい、高真空中で原料を加熱蒸発させ、この蒸発粒子を沈着させて薄膜を形成する方法である。この熱蒸着法としては、抵抗加熱蒸着、フラッシュ蒸着、アーク蒸発、レーザー加熱、高周波加熱、電子ビーム、分子線エピタキシー等が挙げられる。
【0023】
スパッタリング法は、イオンをターゲットに照射し、照射されたターゲット表面から蒸発する原子や分子を沈着させて薄膜を形成する方法である。このスパッタリング法としては、2極DCグロー放電、3極DCグロー放電、2極RFグロー放電、イオンビームスパッタ、マグネトロン等が挙げられる。
【0024】
一方、化学的蒸着法としては、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition)が挙げられる。化学的気相成長法は、薄膜の原料のハロゲン化物、硫化物、水素化物等を高温中で熱分解、酸化、還元、重合あるいは気相化合反応等をさせた後、原料を沈着させて薄膜を形成する方法である。この化学的気相成長法としては、大気圧CVD、減圧CVD、プラズマCVD、光CVD等が挙げられる。
【0025】
本発明の陽極は、上記した陽極基体の薄膜上に、該陽極基体の腐食を防止する腐食防止膜が形成されて成る陽極である。
【0026】
ここで、腐食防止膜としては、該陽極基体の腐食を防止するものであればよい。前記腐食防止膜の材質としては、タングステン、白金、イリジウム、これらの酸化物、または、これらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、前記腐食防止膜としては、酸性の電解液の浸透を防止することができることから、白金、イリジウム、これらの酸化物、または、これらの混合物から成ることが好ましい。
【0027】
前記腐食防止膜は、めっき法、溶射法、または蒸着法により形成されて成る。ここで、めっき法としては、電気めっき、化学めっき、溶融めっき等が挙げられる。
【0028】
電気めっきは、イオン化した金属等を含むめっき液中で電気を流して、品物の表面に金属を析出させる方法である。化学めっきは、無電解めっきともいい、めっき液中の金属イオンを還元剤の働きで対象物の表面に析出させる方法である。この化学めっきによれば、めっき液に触れるところであれば容易にめっきがつくので、対象物表面に均一な厚さで形成することができる。
【0029】
溶融めっきは、溶かした金属等の中にめっきの対象物を入れて引き上げ、対象物の表面に金属等が凝固することにより、めっきを行う方法である。この溶融めっきは、電気めっきよりも厚い層を形成することができ、より耐食性が要望される用途に好適である。
【0030】
一方、溶射法とは、金属等加熱により溶融もしくは軟化させ、微粒子状にして加速させ、対象物表面に衝突させて、扁平に潰れた粒子を凝固・堆積させることにより膜を形成する方法であり、使用する熱源の種類等により、分類される。使用する熱源としては、燃焼ガス、電気等が挙げられる。この溶射法によれば、機械的噛み合いによる物理的な付着機構により接合するので、あらゆる材料に被膜の層を形成することができる。
【0031】
使用する熱源が燃焼ガスの場合の溶射法としては、フレーム溶射法等が挙げられる。フレーム溶射法は、酸素・アセチレン混合ガスの燃焼炎等のようなガス炎を溶射法の熱源に利用する溶射法方法である。
【0032】
使用する熱源が電気の場合の溶射法としては、アーク溶射法、プラズマ溶射法等が挙げられる。
【0033】
アーク溶射法とは、ワイヤアーク溶射法ともいい、2本の金属ワイヤの間にアークを発生させ、アークの熱によってワイヤを溶融し、その溶融速度にあわせて金属ワイヤを送給しながら,圧縮空気などのガス噴射によって溶滴を微細化させ、対象物に向かって吹き付け、皮膜を形成する溶射法方法である。
【0034】
プラズマ溶射法とは、電極の間に不活性ガスを流して放電すると、電離して高温・高速のプラズマができ、このプラズマを溶射法の熱源として用いる溶射法方法である。このプラズマ溶射法では、一般的には,電極として、水冷されたノズル状の銅製の陽極と、タングステン製の陰極を用い、不活性ガスとして、アルゴンを用いる。電極の間に、アークを発生させると、不活性ガスが、アークによってプラズマ化される。このプラズマ化した不活性ガスが、ノズル状の陽極から高温・高速のプラズマジェットとなって噴出される。このプラズマジェットに、粉末状の溶射法材料を投入し、加熱・加速して、対象物上に溶射法材料を吹き付けて膜を形成する。
【0035】
なお、上記した薄膜の形成時、および/または、腐食防止膜の形成時に熱を伴う処理を行った場合と、熱を伴わない処理を行った場合とでは、形成される薄膜の好適な厚みが異なる。熱を伴う処理とは、溶射法、蒸着法等が挙げられる。また、熱を伴わない処理とは、スポット溶接法、めっき法等が挙げられる。
【0036】
熱を伴う処理を行った場合には、形成される薄膜の厚みは、0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましい。この薄膜の厚みが、0.5μm未満であると、薄膜の耐食性が不十分となる場合がある。
【0037】
熱を伴わない処理を行った場合には、薄膜の厚みに特に制限はなく、用途に応じて適宜厚みを設定することができる。
【0038】
【実施例】
[実施例1]
具体的条件を下記の通りとして陽極基体を製造した。導電性金属基体として、厚み5mmのチタン板を用意した。このチタン板の表面を#36アルミナ研磨材を用いて、ブラスト処理をし、チタン板表面を粗面化および活性化した。粗面化および活性化されたチタン板表面には、#36アルミナ研磨材が残っているため、35質量%塩酸を用いて除去した。
【0039】
その後、チタン板の表面をイオン交換水で、よく洗浄した。次にドライヤを用い、チタン板表面を乾燥させた。清浄に乾燥させたチタン板表面は、観察の結果、凹凸のある均一で、ざらついた表面であった。このチタン板表面を触針式表面粗さ測定器(JIS B0651 触針式表面粗さ測定器、東京精密(株)製、サーフコム470A型)を用いて、測定したところ平均12.5μmの粗さであった。
【0040】
粗面化および活性化されたチタン板表面に、ジルコニウムからなる薄膜を蒸着法(スパッタリング法)により形成した。具体的には、純度99.5%のジルコニウム金属線(1.0mm 径)をターゲットに用いて、真空蒸着させて、厚さ0.5μmのジルコニウムの薄膜を形成し、陽極基体とした。
【0041】
上記した陽極基体の表面は、一様にざらついており、灰色のジルコニウム特有の色をしていた。この陽極基体の表面をSEM(電子顕微鏡)で断面観察したところ、チタン板の表面の粗さ通りに、かつ均一にコーティングされていた。
【0042】
[実施例2]
上記実施例1で得られた陽極基体、すなわち、チタンからなる導電性金属基体表面に、ジルコニウムの薄膜が形成されている陽極基体を用い、この陽極基体の薄膜上に、酸性電解液中で使用している際に該陽極基体の耐食を防止する腐食防止膜を形成する。具体的には、陽極基体のジルコニウムの薄膜の表面に、酸化イリジウム粉体(粒径1〜100μm)をプラズマ溶射機(プラズマ溶射条件;70V、500A)を用いて、厚み2μmの酸化イリジウムからなる腐食防止膜を形成した。以上により、実施例2に係る陽極を得た。
【0043】
この陽極を引き剥がし試験(JIS H8504で規定される引き剥がし試験法)を行ったが、剥離はなく密着性に優れたイリジウムの腐食防止膜を持つ陽極であった。
【0044】
この実施例2で得られた陽極を用いて、2.5mol/Lの硫酸水溶液で電解実験を行った。この際、ステンレスの板(SUS304材)を陰極として用いた。陽極電流密度が100A/dm2の条件で30日間連続電解を行った後、陽極を硫酸水溶液中から取り出し、この陽極をイオン交換水でよく洗浄し、そして乾燥した後、引き剥がし試験(JIS H8504で規定される引き剥がし試験法)を行ったが、剥離等の異常は認められず、本発明の効果を確認した。
【0045】
[実施例3]
導電性金属基体として、厚み5mmのチタン板を用意した。このチタン板の表面を#36アルミナ研磨材を用いて、ブラスト処理をし、チタン板表面を粗面化および活性化した。
【0046】
粗面化および活性化されたチタン板表面に、タンタルからなる薄膜を蒸着法(スパッタリング法)により形成した。具体的には、純度99.5%タンタル金属線(1.0mm 径)をターゲットに用いて、真空蒸着させて、厚さ0.5μmのタンタルの薄膜を形成し、陽極基体とした。この陽極基体の薄膜上に、腐食防止膜を形成する。具体的には、陽極基体のタンタルの薄膜の表面に、白金金属線(1mm径)を用いて2μmの厚みとなるように、アーク溶射法(30V、100A、アーク溶射機、加藤メタリコン(株)製)をして、白金からなる腐食防止膜を形成した。以上により、実施例3に係る陽極を得た。
【0047】
この実施例3で得られた陽極を用いて、2.0mol/Lの硫酸水溶液で電解実験を行った。この際、チタンの板(JIS H4600 2種主材)を陰極として用いた。陽極電流密度が、75A/dm2の条件で45日間連続電解を行った後、陽極を硫酸水溶液中から取り出し、この陽極をイオン交換水でよく洗浄し、そして乾燥した後、引き剥がし試験(JIS H8504で規定される引き剥がし試験法)を行った。
【0048】
[比較例1]
具体的条件を下記の通りとして陽極を製造した。導電性金属基体として、厚み5mmのチタン板を用意した。このチタン板の表面を#36アルミナ研磨材を用いて、ブラスト処理をし、チタン板表面を粗面化および活性化した。粗面化および活性化されたチタン板表面には、#36アルミナ研磨材が残っているため、35質量%塩酸を用いて除去した。
【0049】
その後、チタン板の表面をイオン交換水で、よく洗浄した。次にドライヤを用い、チタン板表面を乾燥させた。清浄に乾燥させたチタン板表面は、観察の結果、凹凸のある均一で、ざらついた表面であった。
【0050】
粗面化されたチタン板表面に、実施例2と同様に、酸化イリジウムの粉体(粒径1〜100μm)をプラズマ溶射して、厚み2μmの酸化イリジウムから成る腐食防止膜を形成した。以上により、比較例1に係る陽極を得た。
【0051】
この陽極を550℃酸素雰囲気下で、45分間加熱したが、薄膜の剥離は全く見られず、イリジウムの薄膜の密着性は、良好であった。
【0052】
この比較例1で得られた陽極を2.5mol/Lの硫酸水溶液で電解実験を行った。この際、ステンレスの板(SUS304材)を陰極として用いた。陽極電流密度が100A/dm2の条件で30日間連続電解を行った後、陽極基体を硫酸水溶液中から取り出し、この陽極基体をイオン交換水でよく洗浄し、そして乾燥した後、引き剥がし試験(JIS H8504で規定される引き剥がし試験法)を行った。
【0053】
引き剥がし試験に用いたテープに黒い異物が付着した。この黒い異物をX線エレメントモニタ(蛍光X線分析装置 SEA2110 セイコー電子工業(株)製)で測定したところ、イリジウムであることが確認された。
【0054】
[比較例2]
導電性金属基体として、厚み5mmのチタン板を用意した。このチタン板の表面を#36アルミナ研磨材を用いて、ブラスト処理をし、チタン板表面を粗面化および活性化した。粗面化および活性化されたチタン板表面には、#36アルミナ研磨材が残っているため、35質量%塩酸を用いて除去した。
【0055】
その後、チタン板の表面をイオン交換水で、よく洗浄した。次にドライヤを用い、チタン板表面を乾燥させた。清浄に乾燥させたチタン板表面は、観察の結果、凹凸のある均一で、ざらついた表面であった。
【0056】
粗面化および活性化されたチタン板表面に、白金からなる腐食防止膜を、厚みが2μmの厚みとなるように形成した。この白金の薄膜は、めっき法(電気めっき)により、日進化成(株)製 白金めっき液PTH−Hを用いて、形成した。以上により、比較例2に係る陽極を得た。
【0057】
この比較例2で得られた陽極を用いて、2.0mol/Lの硫酸水溶液で電解実験を行った。この際、チタンの板(JIS H4600 2種)を陰極として用いた。陽極電流密度が、75A/dm2の条件で45日間連続電解を行った後、陽極を硫酸水溶液中から取り出し、この陽極をイオン交換水でよく洗浄し、そして乾燥した後、引き剥がし試験(JIS H8504で規定される引き剥がし試験法)を行った。この引き剥がし試験の結果、陽極より白金の薄膜が剥がれ、陽極は、チタン板の表面が露出していた。
【0058】
[実施例4]
導電性金属基体として、厚み5mmのチタン板を用意した。このチタン板の表面にタンタルからなる厚み0.2mmの薄板をチタン板にスポット溶接法によりクラッドし、薄膜を形成した。
【0059】
次に、タンタルからなる薄膜の表面にアルミナ研削材を用いてブラスト加工をした。ブラスト加工して、粗面化したタンタルからなる薄膜の表面を35%塩酸液の中で洗浄し、表面に付着したアルミナ研削材を除去した。その後、イオン交換水により洗浄し、タンタルからなる薄膜の表面に、日進化成(株)製の酸性白金めっき液を用いて厚み2μmとなるように電気めっき(60℃、Dk 1A/dm2、32分間)し、実施例4に係る陽極とした。
【0060】
この実施例4で得られた陽極を用いて、2.5mol/Lの硫酸水溶液で電解実験を行った。この際、ステンレスの板(SUS 304材)を陰極として用いた。陽極電流密度が100A/dm2の条件で30日間連続電解を行った後、陽極を硫酸水溶液中から取り出し、この陽極をイオン交換水でよく洗浄し、そして乾燥した後、引き剥がし試験(JIS H8504で規定される引き剥がし試験法)を行ったが、剥離等の異常は認められず、本発明の効果を確認した。
【0061】
この後、30日間の連続電解を行った陽極を用い、電解実験として60日間連続電解を上記と同様の条件で行い、陽極表面の引き剥がし試験を行ったところ、表面の剥離等は認められなかった。
【0062】
[実施例5]
導電性金属基体として、アルミニウムを芯材としたニオブクラッド材を用いた。アルミニウムを芯材としたニオブクラッドは、アルミニウムの丸棒(140mm径)に、ニオブ金属板(約5mm厚)を巻いて、熱間圧延法で押し出して、ニオブの厚みが、1.5mmとなるように、製造されたもの(神鋼メタルプロダクツ(株)製)を用いた。
【0063】
次に、ニオブからなる薄膜の表面にアルミナ研削材を用いてブラスト加工をした。ブラスト加工して、粗面化したニオブからなる薄膜の表面を35%塩酸液の中で洗浄し、表面に付着したアルミナ研削材を除去した。その後、イオン交換水により洗浄し、ニオブからなる薄膜の表面に、日進化成(株)製の酸性白金めっき液を用いて厚み2μmとなるように電気めっき(60℃、Dk 1A/dm2、32分間)し、実施例5に係る陽極とした。
【0064】
この実施例5で得られた陽極を用いて、3.0mol/Lの硫酸水溶液で電解実験を行った。この際、カーボンの板を陰極とした。陽極電流密度が100A/dm2の条件で30日間連続電解を行った後、陽極を硫酸水溶液中から取り出し、この陽極をイオン交換水でよく洗浄し、そして乾燥した後、引き剥がし試験(JIS H8504で規定される引き剥がし試験法)を行ったが、剥離等の異常は認められず、本発明の効果を確認した。
【0065】
上記実施例1〜5、および比較例1、2に係る陽極基体および陽極の構成を以下の表1にまとめて示す。また、上記実施例1〜5、および比較例1、2に係る陽極を使用して、電解をし、その後、引き剥がし試験を行った。その条件および引き剥がし試験の結果をまとめて表2に示す。なお、表1、2中の―は、該当するものがないことを示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
以上の表2において、実施例2と、比較例1とを比較すると、実施例2では、引き剥がし試験後に剥離がないのに対して、比較例1では、剥離があった。このことにより、実施例2のように薄膜として、ジルコニウム(蒸着法(スパッタリング法))を形成することで、長時間の電解に耐えることができることがわかる。
【0069】
また、実施例3と、比較例2とを比較すると、実施例3では、引き剥がし試験後に剥離がないのに対して、比較例2では、剥離があった。このことにより、実施例3のように薄膜として、タンタル(蒸着法(スパッタリング法))を形成することで、長時間の電解に耐えることができることがわかる。
【0070】
さらに、実施例2〜5の全てにおいて、長時間の電解の後も剥離がないことがわかった。このことにより、薄膜を形成することで、電解液の濃度が2mol/L以上の強酸性の条件下で用いることができることがわかる。
【0071】
以上の実施例2〜5の陽極は、長時間の電解を行うことができるため、電極の交換頻度を少なくでき、コストを低減することができる。
【0072】
【発明の効果】
本発明によれば、強酸性液の電解に陽極として用いたとき、長寿命が得られ、しかも、コストが低減できる陽極基体、および陽極を提供することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、陽極基体、および陽極に関し、特に、強酸性の条件下においても長寿命である陽極および、この陽極の基体となる陽極基体に関する。
【背景技術】
近年、化学工業の発展に伴い、生産のスピードアップが企業の生き残るための必須条件と言われるようになってきた。例えば、電解銅箔製造のための硫酸銅めっき液中の硫酸水溶液の濃度は、1mol/Lから2mol/Lへと2倍の濃度になっている。また、スチールワイヤーの電解液洗浄においても2mol/L以上の硫酸水溶液を用いているのが現状である。このため、強酸性下における電解が要求されるようになってきている。
【0002】
このような強酸性下における電解のためには、耐食性を備えた電極、いわゆる不溶性電極(Dimensionally Stable Electrode)と呼ばれる電極が必要となる。特にその陽極を不溶性陽極と呼んでいる。この不溶性陽極は、陽極の基体となるチタン表面をエッチングして表面を粗化するとともに、不動態の酸化チタン層を除去し、活性化したチタンの基体の表面に白金族元素の中から選ばれた金属(例えば、白金、イリジウム等)の被膜層をめっき法、あるいは溶射法等により形成したものである。
【0003】
ここで、チタンは、軽量でしかも大気中では化学的に非常に安定していることは周知のとおりであり、弱酸性(1規定程度)の酸性液にも耐えることができる安定な金属である。
【0004】
しかしながら、高濃度の酸性液において、前述のチタンは、耐食性に乏しく溶解する方向にある。このことは、電極寿命を著しく短縮するものであり、メンテナンスを含めて高額なコストとなる。そのため、耐食性を付与するため、白金族元素(例えば、白金、イリジウム等)からなる被膜層が形成されている(。
【0005】
上記のようにして形成された陽極をより強い酸性溶液中で陽極として電解を行うと、強酸性液の強い浸透力により白金族元素からなる被膜層を通過し、チタンと、白金族元素からなる被膜層とを二分し、電解時間1000時間前後で通電不能な状態に至らしめることとなる。
【0006】
このように、電解時間1000時間前後での電極寿命のため、その都度、電解を停止して、陽極の交換を行うという不都合が生じている。電解処理の現場では、できるだけ、長時間電解が継続できて、工務の省力化、そしてコストダウンにつなげられる不溶性陽極の出現を望んでいた。
【0007】
一方、バルブ金属よりなる導電性金属基体上に、スパッタリング法により酸化イリジウムおよび酸化タンタルの混合酸化物被膜を電極触媒層として設けた電極に関する技術が開示されている(特許文献1)。
【0008】
【特許文献1】
特許第3149629号(請求項1)
【0009】
しかしながら、上記したいずれの技術においても、強酸性の条件下で、長寿命とすることはできないという問題がある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような従来の問題点を解消し、強酸性液を電解液とする電解に陽極として用いたとき、長寿命が得られ、しかも、コストが低減できる陽極基体、および陽極を提供することをその課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
この発明の前記課題を解決するための第1の手段は、
(1)導電性金属基体表面に、タンタル、ジルコニウムおよびニオブよりなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む薄膜が形成されていることを特徴とする陽極基体である。
【0012】
この第1の手段における好ましい態様としては、下記〈1〉および〈2〉の陽極基体を挙げることができる。
〈1〉前記導電性金属基体は、チタン、およびチタン合金を有して形成されて成る陽極基体。
〈2〉前記薄膜は、スポット溶接法、または蒸着法により形成されて成る陽極基体。
【0013】
この発明における前記課題を解決するための第2の手段は、
(2)前記(1)の陽極基体の薄膜上に、該陽極基体の腐食を防止する腐食防止膜が形成されて成る陽極。
【0014】
この第2の手段における好ましい態様としては、下記〈1〉〜〈3〉の陽極を挙げることができる。
〈1〉前記腐食防止膜は、白金、イリジウム、これらの酸化物、または、これらの混合物から成る陽極。
〈2〉前記腐食防止膜は、めっき法、溶射法、または蒸着法により形成されて成る。
〈3〉電解液の濃度が2mol/L以上の強酸性の条件下で用いられる陽極。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の陽極基体は、導電性金属基体表面に、タンタル、ジルコニウムおよびニオブよりなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む薄膜が形成されている陽極基体である。
【0016】
ここで、陽極基体の形状としては、特に制限はなく、板状、網状、棒状、多孔板状等が挙げられる。
【0017】
また、導電性金属基体としては、電解液が酸性を示す場合に用いられ、導電性を示すものであればよく、銅、アルミニウム、鉄、チタン、およびチタン合金等を挙げることができる。これらの中でも、前記導電性金属基体は、チタン、およびチタン合金を有して形成されて成ることが好ましい。このチタン合金としては、チタン−タンタル、チタン−タンタル−ニオブ、チタン−パラジウム等のチタン合金が挙げられる。
【0018】
さらに、前記薄膜としては、タンタル、ジルコニウムおよびニオブよりなる群から選択される少なくとも1つの元素からなるものであればよい。
【0019】
前記薄膜は、溶接法、または蒸着法により形成されて成る。なお、この薄膜形成の前に、該導電性金属基体の表面を適当に粗くしておくと、薄膜の密着性をより向上させることができる。表面を粗くする方法としては、ブラスト処理や、プラズマ処理等が挙げられる。また、表面粗度Raとしては、2〜100μmの範囲内であることが好ましい(JIS B0651 触針式表面粗さ測定器、東京精密(株)製、サーフコム470A型にて測定)。
【0020】
ここで、溶接法としては、スポット溶接法、アーク溶接法、レーザー溶接法等が挙げられる。このなかでも、スポット溶接法が好ましい。スポット溶接法とは、抵抗溶接ともいい、複数の材料を接触させて、電流を流し、複数の材料が接触した部分の電気抵抗による発熱を利用し、材料の一部が溶解した状態になった時、その溶解した部分に加圧し、接合する方法である。本発明においては、導電性金属基体の表面上に、薄膜を構成する材料、例えば、タンタルからなる板状部材を接触させ、電流を流して、溶解させ、この溶解した部分に加圧して、接合する。
【0021】
蒸着法としては、物理的蒸着法と、化学的蒸着法とが挙げられる。物理的蒸着法としては、熱蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法等が挙げられる。
【0022】
熱蒸着法は、真空蒸着法ともいい、高真空中で原料を加熱蒸発させ、この蒸発粒子を沈着させて薄膜を形成する方法である。この熱蒸着法としては、抵抗加熱蒸着、フラッシュ蒸着、アーク蒸発、レーザー加熱、高周波加熱、電子ビーム、分子線エピタキシー等が挙げられる。
【0023】
スパッタリング法は、イオンをターゲットに照射し、照射されたターゲット表面から蒸発する原子や分子を沈着させて薄膜を形成する方法である。このスパッタリング法としては、2極DCグロー放電、3極DCグロー放電、2極RFグロー放電、イオンビームスパッタ、マグネトロン等が挙げられる。
【0024】
一方、化学的蒸着法としては、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition)が挙げられる。化学的気相成長法は、薄膜の原料のハロゲン化物、硫化物、水素化物等を高温中で熱分解、酸化、還元、重合あるいは気相化合反応等をさせた後、原料を沈着させて薄膜を形成する方法である。この化学的気相成長法としては、大気圧CVD、減圧CVD、プラズマCVD、光CVD等が挙げられる。
【0025】
本発明の陽極は、上記した陽極基体の薄膜上に、該陽極基体の腐食を防止する腐食防止膜が形成されて成る陽極である。
【0026】
ここで、腐食防止膜としては、該陽極基体の腐食を防止するものであればよい。前記腐食防止膜の材質としては、タングステン、白金、イリジウム、これらの酸化物、または、これらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、前記腐食防止膜としては、酸性の電解液の浸透を防止することができることから、白金、イリジウム、これらの酸化物、または、これらの混合物から成ることが好ましい。
【0027】
前記腐食防止膜は、めっき法、溶射法、または蒸着法により形成されて成る。ここで、めっき法としては、電気めっき、化学めっき、溶融めっき等が挙げられる。
【0028】
電気めっきは、イオン化した金属等を含むめっき液中で電気を流して、品物の表面に金属を析出させる方法である。化学めっきは、無電解めっきともいい、めっき液中の金属イオンを還元剤の働きで対象物の表面に析出させる方法である。この化学めっきによれば、めっき液に触れるところであれば容易にめっきがつくので、対象物表面に均一な厚さで形成することができる。
【0029】
溶融めっきは、溶かした金属等の中にめっきの対象物を入れて引き上げ、対象物の表面に金属等が凝固することにより、めっきを行う方法である。この溶融めっきは、電気めっきよりも厚い層を形成することができ、より耐食性が要望される用途に好適である。
【0030】
一方、溶射法とは、金属等加熱により溶融もしくは軟化させ、微粒子状にして加速させ、対象物表面に衝突させて、扁平に潰れた粒子を凝固・堆積させることにより膜を形成する方法であり、使用する熱源の種類等により、分類される。使用する熱源としては、燃焼ガス、電気等が挙げられる。この溶射法によれば、機械的噛み合いによる物理的な付着機構により接合するので、あらゆる材料に被膜の層を形成することができる。
【0031】
使用する熱源が燃焼ガスの場合の溶射法としては、フレーム溶射法等が挙げられる。フレーム溶射法は、酸素・アセチレン混合ガスの燃焼炎等のようなガス炎を溶射法の熱源に利用する溶射法方法である。
【0032】
使用する熱源が電気の場合の溶射法としては、アーク溶射法、プラズマ溶射法等が挙げられる。
【0033】
アーク溶射法とは、ワイヤアーク溶射法ともいい、2本の金属ワイヤの間にアークを発生させ、アークの熱によってワイヤを溶融し、その溶融速度にあわせて金属ワイヤを送給しながら,圧縮空気などのガス噴射によって溶滴を微細化させ、対象物に向かって吹き付け、皮膜を形成する溶射法方法である。
【0034】
プラズマ溶射法とは、電極の間に不活性ガスを流して放電すると、電離して高温・高速のプラズマができ、このプラズマを溶射法の熱源として用いる溶射法方法である。このプラズマ溶射法では、一般的には,電極として、水冷されたノズル状の銅製の陽極と、タングステン製の陰極を用い、不活性ガスとして、アルゴンを用いる。電極の間に、アークを発生させると、不活性ガスが、アークによってプラズマ化される。このプラズマ化した不活性ガスが、ノズル状の陽極から高温・高速のプラズマジェットとなって噴出される。このプラズマジェットに、粉末状の溶射法材料を投入し、加熱・加速して、対象物上に溶射法材料を吹き付けて膜を形成する。
【0035】
なお、上記した薄膜の形成時、および/または、腐食防止膜の形成時に熱を伴う処理を行った場合と、熱を伴わない処理を行った場合とでは、形成される薄膜の好適な厚みが異なる。熱を伴う処理とは、溶射法、蒸着法等が挙げられる。また、熱を伴わない処理とは、スポット溶接法、めっき法等が挙げられる。
【0036】
熱を伴う処理を行った場合には、形成される薄膜の厚みは、0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましい。この薄膜の厚みが、0.5μm未満であると、薄膜の耐食性が不十分となる場合がある。
【0037】
熱を伴わない処理を行った場合には、薄膜の厚みに特に制限はなく、用途に応じて適宜厚みを設定することができる。
【0038】
【実施例】
[実施例1]
具体的条件を下記の通りとして陽極基体を製造した。導電性金属基体として、厚み5mmのチタン板を用意した。このチタン板の表面を#36アルミナ研磨材を用いて、ブラスト処理をし、チタン板表面を粗面化および活性化した。粗面化および活性化されたチタン板表面には、#36アルミナ研磨材が残っているため、35質量%塩酸を用いて除去した。
【0039】
その後、チタン板の表面をイオン交換水で、よく洗浄した。次にドライヤを用い、チタン板表面を乾燥させた。清浄に乾燥させたチタン板表面は、観察の結果、凹凸のある均一で、ざらついた表面であった。このチタン板表面を触針式表面粗さ測定器(JIS B0651 触針式表面粗さ測定器、東京精密(株)製、サーフコム470A型)を用いて、測定したところ平均12.5μmの粗さであった。
【0040】
粗面化および活性化されたチタン板表面に、ジルコニウムからなる薄膜を蒸着法(スパッタリング法)により形成した。具体的には、純度99.5%のジルコニウム金属線(1.0mm 径)をターゲットに用いて、真空蒸着させて、厚さ0.5μmのジルコニウムの薄膜を形成し、陽極基体とした。
【0041】
上記した陽極基体の表面は、一様にざらついており、灰色のジルコニウム特有の色をしていた。この陽極基体の表面をSEM(電子顕微鏡)で断面観察したところ、チタン板の表面の粗さ通りに、かつ均一にコーティングされていた。
【0042】
[実施例2]
上記実施例1で得られた陽極基体、すなわち、チタンからなる導電性金属基体表面に、ジルコニウムの薄膜が形成されている陽極基体を用い、この陽極基体の薄膜上に、酸性電解液中で使用している際に該陽極基体の耐食を防止する腐食防止膜を形成する。具体的には、陽極基体のジルコニウムの薄膜の表面に、酸化イリジウム粉体(粒径1〜100μm)をプラズマ溶射機(プラズマ溶射条件;70V、500A)を用いて、厚み2μmの酸化イリジウムからなる腐食防止膜を形成した。以上により、実施例2に係る陽極を得た。
【0043】
この陽極を引き剥がし試験(JIS H8504で規定される引き剥がし試験法)を行ったが、剥離はなく密着性に優れたイリジウムの腐食防止膜を持つ陽極であった。
【0044】
この実施例2で得られた陽極を用いて、2.5mol/Lの硫酸水溶液で電解実験を行った。この際、ステンレスの板(SUS304材)を陰極として用いた。陽極電流密度が100A/dm2の条件で30日間連続電解を行った後、陽極を硫酸水溶液中から取り出し、この陽極をイオン交換水でよく洗浄し、そして乾燥した後、引き剥がし試験(JIS H8504で規定される引き剥がし試験法)を行ったが、剥離等の異常は認められず、本発明の効果を確認した。
【0045】
[実施例3]
導電性金属基体として、厚み5mmのチタン板を用意した。このチタン板の表面を#36アルミナ研磨材を用いて、ブラスト処理をし、チタン板表面を粗面化および活性化した。
【0046】
粗面化および活性化されたチタン板表面に、タンタルからなる薄膜を蒸着法(スパッタリング法)により形成した。具体的には、純度99.5%タンタル金属線(1.0mm 径)をターゲットに用いて、真空蒸着させて、厚さ0.5μmのタンタルの薄膜を形成し、陽極基体とした。この陽極基体の薄膜上に、腐食防止膜を形成する。具体的には、陽極基体のタンタルの薄膜の表面に、白金金属線(1mm径)を用いて2μmの厚みとなるように、アーク溶射法(30V、100A、アーク溶射機、加藤メタリコン(株)製)をして、白金からなる腐食防止膜を形成した。以上により、実施例3に係る陽極を得た。
【0047】
この実施例3で得られた陽極を用いて、2.0mol/Lの硫酸水溶液で電解実験を行った。この際、チタンの板(JIS H4600 2種主材)を陰極として用いた。陽極電流密度が、75A/dm2の条件で45日間連続電解を行った後、陽極を硫酸水溶液中から取り出し、この陽極をイオン交換水でよく洗浄し、そして乾燥した後、引き剥がし試験(JIS H8504で規定される引き剥がし試験法)を行った。
【0048】
[比較例1]
具体的条件を下記の通りとして陽極を製造した。導電性金属基体として、厚み5mmのチタン板を用意した。このチタン板の表面を#36アルミナ研磨材を用いて、ブラスト処理をし、チタン板表面を粗面化および活性化した。粗面化および活性化されたチタン板表面には、#36アルミナ研磨材が残っているため、35質量%塩酸を用いて除去した。
【0049】
その後、チタン板の表面をイオン交換水で、よく洗浄した。次にドライヤを用い、チタン板表面を乾燥させた。清浄に乾燥させたチタン板表面は、観察の結果、凹凸のある均一で、ざらついた表面であった。
【0050】
粗面化されたチタン板表面に、実施例2と同様に、酸化イリジウムの粉体(粒径1〜100μm)をプラズマ溶射して、厚み2μmの酸化イリジウムから成る腐食防止膜を形成した。以上により、比較例1に係る陽極を得た。
【0051】
この陽極を550℃酸素雰囲気下で、45分間加熱したが、薄膜の剥離は全く見られず、イリジウムの薄膜の密着性は、良好であった。
【0052】
この比較例1で得られた陽極を2.5mol/Lの硫酸水溶液で電解実験を行った。この際、ステンレスの板(SUS304材)を陰極として用いた。陽極電流密度が100A/dm2の条件で30日間連続電解を行った後、陽極基体を硫酸水溶液中から取り出し、この陽極基体をイオン交換水でよく洗浄し、そして乾燥した後、引き剥がし試験(JIS H8504で規定される引き剥がし試験法)を行った。
【0053】
引き剥がし試験に用いたテープに黒い異物が付着した。この黒い異物をX線エレメントモニタ(蛍光X線分析装置 SEA2110 セイコー電子工業(株)製)で測定したところ、イリジウムであることが確認された。
【0054】
[比較例2]
導電性金属基体として、厚み5mmのチタン板を用意した。このチタン板の表面を#36アルミナ研磨材を用いて、ブラスト処理をし、チタン板表面を粗面化および活性化した。粗面化および活性化されたチタン板表面には、#36アルミナ研磨材が残っているため、35質量%塩酸を用いて除去した。
【0055】
その後、チタン板の表面をイオン交換水で、よく洗浄した。次にドライヤを用い、チタン板表面を乾燥させた。清浄に乾燥させたチタン板表面は、観察の結果、凹凸のある均一で、ざらついた表面であった。
【0056】
粗面化および活性化されたチタン板表面に、白金からなる腐食防止膜を、厚みが2μmの厚みとなるように形成した。この白金の薄膜は、めっき法(電気めっき)により、日進化成(株)製 白金めっき液PTH−Hを用いて、形成した。以上により、比較例2に係る陽極を得た。
【0057】
この比較例2で得られた陽極を用いて、2.0mol/Lの硫酸水溶液で電解実験を行った。この際、チタンの板(JIS H4600 2種)を陰極として用いた。陽極電流密度が、75A/dm2の条件で45日間連続電解を行った後、陽極を硫酸水溶液中から取り出し、この陽極をイオン交換水でよく洗浄し、そして乾燥した後、引き剥がし試験(JIS H8504で規定される引き剥がし試験法)を行った。この引き剥がし試験の結果、陽極より白金の薄膜が剥がれ、陽極は、チタン板の表面が露出していた。
【0058】
[実施例4]
導電性金属基体として、厚み5mmのチタン板を用意した。このチタン板の表面にタンタルからなる厚み0.2mmの薄板をチタン板にスポット溶接法によりクラッドし、薄膜を形成した。
【0059】
次に、タンタルからなる薄膜の表面にアルミナ研削材を用いてブラスト加工をした。ブラスト加工して、粗面化したタンタルからなる薄膜の表面を35%塩酸液の中で洗浄し、表面に付着したアルミナ研削材を除去した。その後、イオン交換水により洗浄し、タンタルからなる薄膜の表面に、日進化成(株)製の酸性白金めっき液を用いて厚み2μmとなるように電気めっき(60℃、Dk 1A/dm2、32分間)し、実施例4に係る陽極とした。
【0060】
この実施例4で得られた陽極を用いて、2.5mol/Lの硫酸水溶液で電解実験を行った。この際、ステンレスの板(SUS 304材)を陰極として用いた。陽極電流密度が100A/dm2の条件で30日間連続電解を行った後、陽極を硫酸水溶液中から取り出し、この陽極をイオン交換水でよく洗浄し、そして乾燥した後、引き剥がし試験(JIS H8504で規定される引き剥がし試験法)を行ったが、剥離等の異常は認められず、本発明の効果を確認した。
【0061】
この後、30日間の連続電解を行った陽極を用い、電解実験として60日間連続電解を上記と同様の条件で行い、陽極表面の引き剥がし試験を行ったところ、表面の剥離等は認められなかった。
【0062】
[実施例5]
導電性金属基体として、アルミニウムを芯材としたニオブクラッド材を用いた。アルミニウムを芯材としたニオブクラッドは、アルミニウムの丸棒(140mm径)に、ニオブ金属板(約5mm厚)を巻いて、熱間圧延法で押し出して、ニオブの厚みが、1.5mmとなるように、製造されたもの(神鋼メタルプロダクツ(株)製)を用いた。
【0063】
次に、ニオブからなる薄膜の表面にアルミナ研削材を用いてブラスト加工をした。ブラスト加工して、粗面化したニオブからなる薄膜の表面を35%塩酸液の中で洗浄し、表面に付着したアルミナ研削材を除去した。その後、イオン交換水により洗浄し、ニオブからなる薄膜の表面に、日進化成(株)製の酸性白金めっき液を用いて厚み2μmとなるように電気めっき(60℃、Dk 1A/dm2、32分間)し、実施例5に係る陽極とした。
【0064】
この実施例5で得られた陽極を用いて、3.0mol/Lの硫酸水溶液で電解実験を行った。この際、カーボンの板を陰極とした。陽極電流密度が100A/dm2の条件で30日間連続電解を行った後、陽極を硫酸水溶液中から取り出し、この陽極をイオン交換水でよく洗浄し、そして乾燥した後、引き剥がし試験(JIS H8504で規定される引き剥がし試験法)を行ったが、剥離等の異常は認められず、本発明の効果を確認した。
【0065】
上記実施例1〜5、および比較例1、2に係る陽極基体および陽極の構成を以下の表1にまとめて示す。また、上記実施例1〜5、および比較例1、2に係る陽極を使用して、電解をし、その後、引き剥がし試験を行った。その条件および引き剥がし試験の結果をまとめて表2に示す。なお、表1、2中の―は、該当するものがないことを示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
以上の表2において、実施例2と、比較例1とを比較すると、実施例2では、引き剥がし試験後に剥離がないのに対して、比較例1では、剥離があった。このことにより、実施例2のように薄膜として、ジルコニウム(蒸着法(スパッタリング法))を形成することで、長時間の電解に耐えることができることがわかる。
【0069】
また、実施例3と、比較例2とを比較すると、実施例3では、引き剥がし試験後に剥離がないのに対して、比較例2では、剥離があった。このことにより、実施例3のように薄膜として、タンタル(蒸着法(スパッタリング法))を形成することで、長時間の電解に耐えることができることがわかる。
【0070】
さらに、実施例2〜5の全てにおいて、長時間の電解の後も剥離がないことがわかった。このことにより、薄膜を形成することで、電解液の濃度が2mol/L以上の強酸性の条件下で用いることができることがわかる。
【0071】
以上の実施例2〜5の陽極は、長時間の電解を行うことができるため、電極の交換頻度を少なくでき、コストを低減することができる。
【0072】
【発明の効果】
本発明によれば、強酸性液の電解に陽極として用いたとき、長寿命が得られ、しかも、コストが低減できる陽極基体、および陽極を提供することができる。
Claims (7)
- 導電性金属基体表面に、タンタル、ジルコニウムおよびニオブよりなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む薄膜が形成されていることを特徴とする陽極基体。
- 前記導電性金属基体は、チタン、およびチタン合金を有して形成されて成ることを特徴とする前記請求項1に記載の陽極基体。
- 前記薄膜は、スポット溶接法、または蒸着法により形成されて成ることを特徴とする前記請求項1又は2に記載の陽極基体。
- 前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の陽極基体の薄膜上に、該陽極基体の腐食を防止する腐食防止膜が形成されて成ることを特徴とする陽極。
- 前記腐食防止膜は、白金、イリジウム、これらの酸化物、または、これらの混合物から成ることを特徴とする前記請求項4に記載の陽極。
- 前記腐食防止膜は、めっき法、溶射法、または蒸着法により形成されて成ることを特徴とする前記請求項4または請求項5に記載の陽極。
- 電解液の濃度が2mol/L以上の強酸性の条件下で用いられることを特徴とする前記請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の陽極。
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KR101200072B1 (ko) * | 2010-07-27 | 2012-11-12 | (주)명성인스트루먼트 | 내산성이 향상된 유체압력측정장치 |
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2003
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