本発明の金属箔の製造方法は、上述した特許文献1〜6に開示される電解法の技術分野に属し、製造対象となる金属の電析、金属膜の剥離、電解液の組成などの基本的な製造装置および電解条件については、公知の技術を適用することができる。一般的に、厚さが薄い金属箔(例えば厚さが20μm以下の金属箔)の機械的強さを確保するためには、金属箔の内部に空孔などが存在しないことが望ましい。しかし、例えば金属箔がアルミニウム箔である場合は、非水性のアルミニウム電解液の含水量(例えば100ppm以上)に起因し、意図しなかった微細な空孔(表面では窪みになる)が分散しているような形態のアルミニウム箔が得られることがある。空孔が多く内在するアルミニウム箔などの金属箔は、機械的強さが低下しやすく、これに起因して破損する虞があるので好ましくない。そのため、金属箔の内部に微細な空孔が形成され難い製造方法が望ましい。
本発明に適用可能な金属箔の製造装置の構成例について説明する。
図1は、ドラム型の陰極(陰極ドラム)を用いた構成例であり、陰極ドラム1の回転軸1aに垂直な方向における装置100の断面を示す概略図である。図1に示す構成例では、金属箔の製造を行う前の準備段階として、電析させる金属に適するように組成などを調整した電解液5を作製する。作製した電解液5は、その電解液5に適するように雰囲気などを調整した電解浴槽4に貯留する。その電解液5中に、陰極ドラム1の外周2の一部と、その外周2に対向するように配置した陽極部材3を浸漬する。電解液5に浸漬されない陰極ドラム1の外周2に、電析して所定の厚さに成長した最初の金属膜9を剥離して引き出すためのリード材8の一端を密着させて固定する。リード材8の他端は、電解浴槽4の引出し口6から外側へ導いて巻取りリール7へ固定する。リード材8は、事前に陰極ドラム1の外周2に電析させたリード用金属膜の一端を残して剥離した他端側をリード用金属箔として用いることもできる。陰極ドラム1の外周2が例えばチタン材質の場合、後述する銅の電解法によってリード材8(リード用金属膜およびリード用金属箔)を形成すると、陰極ドラム1の外周2への十分な密着が得られるので好ましい。
こうした準備段階を経た後に、金属箔の製造に際して、金属が電析してから剥離されるまでに成長する金属膜9が製造すべき金属箔と同等の厚さに形成されるように、電解液5の温度や、陰極ドラム1と陽極部材3の間に印加する電流(電解電流)の大きさや、陰極ドラム1の回転時の周速などの製造条件を調整する。その後に、陰極ドラム1の電析面と陽極部材3との間に所定の電解電流を印加し、陰極ドラム1を一方向に回転し、陰極ドラム1の電析面の表面上に金属を電析させ成長させる。所定の厚さまで成長した金属膜9が陰極ドラム1の回転によって電解液5中から引き出された後は、陰極ドラム1の回転に同期する巻取りリール7の回転によってリード材8を引き出し、リード材8とともに金属膜9を陰極ドラム1の電析面から剥離する。そのまま陰極ドラム1および巻取りリール7の同期回転を継続することにより、リード材8とともに剥離された金属膜9に続いて、新たに電析して成長した金属膜そのものが連続的に剥離されて巻取りリール7に回収される。こうした一連の製造プロセスにより、所定の厚さ(例えば約1μm〜約50μm)の長尺の金属箔を連続的に製造することができる。こうして製造された厚さが約3μm〜約20μmの金属箔は各種の用途に好適なものとなる。例えばアルミニウム箔は正極集電体の本体などに好適なものとなる。
本発明に適用可能な金属箔の別の製造装置について説明する。
図2は、ベルト型の陰極(陰極ベルト)を用いた構成例であり、後述する各ローラの回転軸28に垂直な方向における装置200の断面を示す概略図である。図2に示す構成例では、金属(例えばアルミニウム)を電析させるための電解液22は、その電解液22に適するように雰囲気などを調整した電解浴槽21に貯留する。その電解液22中に、陰極ベルト24の一部(下方側)と、その陰極ベルト24に対向するように配置した陽極部材23を浸漬する。陰極ベルト24は、輪状に構成された帯状電極である。陰極ベルト24は、駆動ローラ25を含む複数のローラ(駆動ローラ25、従動ローラ26)に架け渡され、駆動ローラ25の回転によって電解液22中を移動(走行)可能に構成されている。陽極部材23および陰極ベルト24は、電解浴槽21の外部の電源(図示せず)に接続される。陽極部材23と陰極ベルト24との間で通電した状態で陰極ベルト24が移動(走行)することにより、電解液22に浸漬された陰極24ベルトの表面(接液面)に金属が析出して成長する。所定の厚さに成長した金属膜は、図中に破線で示す矢印の位置で陰極ベルト24から連続的に剥離されて金属箔となる。剥離された金属箔を連続的に巻き取ることにより、所定の厚さの長尺の金属箔を連続的に形成することができる。陰極ベルト24が例えばチタン材質の場合、上述した陰極ドラム1の場合と同様に銅の電解法によってリード材(リード用金属膜およびリード用金属箔)を形成すると、陰極ベルト24への十分な密着が得られるので好ましい。
陰極ベルト24のうち陽極部材23に対向する部分は、水平方向(x方向)に対して平行である。具体的には、陰極ベルト24を架け渡す複数のローラ(駆動ローラ25、従動ローラ26)が水平方向(x方向)に配置されている。また、駆動ローラ25と従動ローラ26は、回転軸28が電解液22の液面よりも上になるように配置されている。また、陰極24ベルトのうち、駆動ローラ25と従動ローラ26との間の部分(平面部)の下側の平面部と、駆動ローラ25と従動ローラ26に接する部分(曲面部)の一部が、電解液22に浸漬されている。一方、陽極部材23は、電析させる金属の板材(例えばアルミニウム板材)で構成され、陰極ベルト24の下側の平面部と対向している。駆動ローラ25と従動ローラ26との間隔を大きくし、電解液22中に浸漬される帯状電極の長さを大きくすることで、金属膜の成膜効率(金属箔の製造効率)を高めることができる。
電解液22中に発生した気泡や浮遊物の滞留あるいは金属膜への付着などを防止する観点からは、陰極ベルト24の陽極部材23に対向する部分が、水平方向(x方向)に対して非平行であることが好ましい。そのため、駆動ローラ25と従動ローラ26の上下方向(y方向)の位置をずらして陰極ベルト24の下側の平面部を傾斜させることも可能である。ただし、電解液22中に発生した気泡の滞留などを防止する観点からは、陰極ベルト24の平面部が、水平方向(x方向)に対して垂直(y方向)である構成がより好ましい。
本発明の金属箔の製造方法について、ドラム型の陰極(陰極ドラム1)を用いる構成例を示す図1を参照して説明する。なお、本発明におけるチタン製またはチタン合金製の陰極は、図1に示すようなドラム型の陰極(陰極ドラム)に限られるものではなく、例えば図2に示すようなベルト型の陰極(陰極ベルト24)なども用いることができる。こうしたベルト型の陰極(陰極ベルト24)となる帯状素材(板材)などの陰極用素材対しても同様に、本発明における粗化処理や酸化処理などの処理を施すことができる。
本発明の金属箔の製造方法における重要な特徴は、特定の処理を行って形成された電析面を有するチタン製またはチタン合金製の陰極(ドラム型の陰極など)を用いて、陰極に形成した特定の表面性状を備える電析面の表面上に金属を電析させることである。電析面を形成するための特定の処理とは、製造する金属箔の幅寸法を考慮し、耐食性に優れたチタン製またはチタン合金製の素材を準備し、そのチタン材質の素材を所定の形状に加工した後に、次に説明する(1)〜(3)の各処理をこの順で行う一連のプロセスを意図する。ドラム型の陰極を用いる場合、チタン材質の素材を例えば直径が100mm〜3000mmで胴長が100mm〜2000mmの円筒形状に加工した後に、次に説明する(1)〜(3)の各処理をこの順で行う一連のプロセスを意図する。これにより、陰極(ドラム型の陰極など)の電析面に対応する面が特定性状を備えるように形成する、すなわち、表面粗さRZJISが4μm〜10μmの適切な凹凸の表面形態に形成するとともに、その最表層に厚さが30nm〜250nmの適切な酸化層を形成する。
次に、本発明に適用可能なドラム型の陰極(陰極ドラム)の外周に形成する電析面の形成プロセスを図3に示し、これを参照して、上記の(1)〜(3)の各処理について説明する。
(1)平滑化処理
本発明における平滑化処理では、陰極の電析面となる素地の面を形成する。具体的には、陰極ドラムに対応する円筒形状に加工されたチタン材質の外周に対して平滑化処理を行い、均等的に平滑な外周(平滑加工面)を形成する。平滑化処理は、例えば切削、研削、研磨などの機械的加工法であってよく、均等的に平滑な例えば表面粗さRZJISが2μm未満(好ましくは1μm未満)の表面形態を有する面を形成することができればよい。なお、平滑化処理を行った後の外周に平滑化処理の痕跡が残っていても、次の粗化処理によって解消できる程度であれば許容することができる。
(2)粗化処理
本発明における粗化処理では、上記の平滑加工面を粗化し、陰極ドラムに対応する円筒形状の均等的に粗い凹凸の表面形態を有する外周(粗化処理面)を形成する。金属箔の自由面は凹凸の表面形態になりやすいことから、陰極の電析面の表面粗さが大きいと、その電析面に電析した金属(金属膜)の剥離によって得られる金属箔の剥離面と自由面の表面形態(表面粗さ)が均質化し、両面の表面形態(表面粗さ)の差が小さくなると考えられる。この観点から、平滑加工面を凹凸の表面形態に変化させる粗化処理は、陰極の電析面に対応する平滑加工面を所定の範囲の表面粗さを有する粗化処理面に変化させることができるので有効である。
粗化処理は、例えば、投射材を用いるブラスト処理や、アルカリ性や酸性のエッチング液を用いた化学的研磨処理や、金属粒子を意図的に疎な例えば島状に分散したような表面形態にめっきする金属めっき処理など、幾つかの処理が考えられる。その中でも、広い面積をより均等的に粗い表面形態に容易に加工でき、繰り返し再現性が期待できる処理が望ましいとの観点から、乾式ブラスト、湿式ブラスト、スチールブラスト、またはサンドブラストなど、多様な選択が可能なブラスト処理が好ましい。ブラスト処理は、金属系、セラミック系、ガラス系、硬質樹脂系などの投射材の種類や大きさの選択や、投射の速度、角度、量、あるいは時間の設定などにより、粗化対象面の表面粗さを容易に調整することができる。例えば、多角形のアルミナ粒子を噴射する乾式ブラスト処理または湿式ブラスト処理は、チタン材質の平滑加工面(粗化対象面)に残存する加工の痕跡を除去して所定の表面粗さの凹凸の表面形態に形成することが容易であるし、繰り返しの再現性が期待できるので好ましい。こうした乾式ブラスト処理または湿式のブラスト処理などの粗化処理を行うことにより、陰極ドラムに対応する円筒形状の均等的に粗い凹凸の表面形態を有する外周として、4μm〜10μmの表面粗さRZJISを有する外周(粗化処理面)を形成することができる。
(3)酸化処理
本発明における酸化処理では、陰極ドラムに対応する円筒形状の均等的に粗い凹凸の表面形態を有する外周(粗化処理面)を酸化させ、その最表層に酸化層を有する外周(酸化処理面)を形成する。酸化処理では、粗化処理面を積極的に酸化させ、その最表層に、自然酸化による薄い表面酸化層(自然酸化層)ではなく、30nm〜250nmの厚さの酸化層を形成する。積極的な酸化処理によれば、粗化処理面の凹凸の表面形態の最表層に偏りなく均等的に酸化層が形成されるため、凹凸の表面形態を有する均質的な酸化表面を得ることができる。積極的な酸化処理として、本発明では、熱酸化処理、陽極酸化処理、あるいは熱酸化処理と陽極酸化処理との組み合わせ酸化処理のうちのいずれかの酸化処理を行う。組み合わせ酸化処理は、熱酸化処理の後に陽極酸化処理を行うか、陽極酸化処理の後に熱酸化処理を行う。こうした積極的な酸化処理を行うことにより、均等的に粗い凹凸の表面形態を有する陰極ドラムに対応する円筒形状の外周であって、最表層に30nm〜250nmの厚さの酸化層を有するとともに、4μm〜10μmの表面粗さRZJISを有する外周(酸化処理面)を形成することができる。
上記の酸化処理により形成された酸化層は、チタン製またはチタン合金製の陰極の粗化処理面に存在するチタン(元素)などが酸化され、チタン(元素)などを含む酸化物の層であると考えられる。例えば、純チタンからなる粗化処理面では、一般的には酸化チタン(TiO2)からなる酸化層が形成されると考えられる。また、Ti−6Al−4V合金やTi−3Al−2.5V合金などのチタン合金からなる粗化処理面では、主となる酸化チタンの他、チタン以外の含有元素の酸化物(酸化アルミニウムや酸化バナジウムなど)や、チタンおよびチタン以外の含有元素からなる複合酸化物などを含む、複数種の酸化物からなる酸化層が形成される可能性がある。
粗化処理面の最表層に自然酸化層よりも十分に厚い酸化層を形成する積極的な酸化処理は、陰極の電析面からの金属膜の剥離を容易化することができる。これは、酸化層が金属膜と電析面とを隔てることとなり、原子レベルで作用すると考えられる金属膜と電析面とが引き合う力が低減し、金属膜を剥離するときに発生する負荷(剥離抵抗)が軽減するためと考えられる。なお、自然酸化層の場合、剥離による金属膜あるいは金属箔の損傷が抑制できない場合があることを確認している。これは、自然酸化層の厚さが薄い(純チタンの自然酸化層の厚さは約10nm以下程度である)ことから、金属膜と電析面との隔たり(離間距離)が小さく、金属膜の剥離抵抗の軽減度合いが不十分であるためと考えられる。
上述した本発明における酸化処理において、熱酸化処理は、大気雰囲気での炉内加熱(大気加熱)などであってよく、加熱温度と加熱時間の設定などにより、酸化対象面全体の最表層に対して均等的に酸化層を形成することが容易である。例えば、純チタンの大気加熱では、約500℃で約60分〜約120分の保持あるいは約600℃で約10分の保持で約30nmの厚さの酸化層を形成することができる。同様に、約600℃で約20分の保持で約50nm程度、約600℃で約120分の保持で100nm程度、約700℃で約30分〜約120分の保持で130nm程度の厚さの酸化層を形成することができる。なお、熱処理の保持温度が高いと水素の放出量が増えることがあり、結晶化の速度差が大きくなることに起因して粗化処理面の最表層が不均等的に粗くなるリスクが高まる。こうした場合は、保持温度を約500℃〜約600℃の範囲で選定することが好ましい。また、熱酸化処理は、指示した温度や時間などの加熱条件の変化に対する熱処理空間の温度変化(加熱状態変化)が緩やかであるため、酸化対象面の温度変化(実体温度変化)の感度が比較的低い。こうした場合は、酸化対象面の酸化の均等性に影響が及ぶことがないように、熱処理空間内の温度差を小さく抑制することが好ましい。
大気加熱による酸化能(酸化層の形成能)は自然酸化よりも十分に高いものの、酸化層を短時間で成長させることができる陽極酸化処理が優る。したがって、酸化能の観点からすれば、積極的な酸化処理としては陽極酸化処理が好ましい。陽極酸化処理によれば、印加電流または印加電圧および通電時間の設定などにより、酸化対象面に対して十分に厚い酸化層を短時間(例えば数秒間)で形成することができる。また、陽極酸化処理は、陽極酸化処理液の濃度や温度の管理が容易であるし、印加電流または印加電圧の変化に対する酸化対象面の酸化の変化の感度が高いため、酸化対象面の酸化の度合いを容易に判別することができる。なお、熱酸化処理と陽極酸化処理との組み合わせ酸化処理によれば、それぞれの酸化処理を単独で行う場合に比べて、酸化層をより厚く形成することができる。
陽極酸化処理を行う場合は、必要に応じて前処理を行った後、チタン製やチタン合金製の部材に適する陽極酸化用の電解液(例えば0.5%以上20%以下の濃度のリン酸水溶液からなる陽極酸化処理液)が保温(例えば20℃以上50℃以下)された浴槽中に酸化対象物を浸漬し、5Vを超えて200V未満のカットオフ電圧で0.5秒以上5秒以下の通電(印加電圧)を行う陽極酸化処理が好ましい。従来、酸化対象物が陽極酸化処理液中に全く浸漬されない状態で、陽極酸化処理液を掛け流しながら酸化対象物(酸化対象面)の陽極酸化を行う方法が知られている(特許文献5、7)。しかし、酸化対象面が粗化処理面である場合、掛け流した陽極酸化処理液が粗化処理面の凹みに残留し、陽極酸化処理中に発生した気泡(ガス)が粗化処理面の凹みに停留しやすい。また、陽極酸化処理液を掛け流すときに気泡(大気などの雰囲気ガス)が巻込まれやすく、巻込まれた気泡が粗化処理面の凹みに停留しやすい。陽極酸化処理に際して気泡が粗化処理面の凹みに頻繁に停留すると、その気泡に起因する欠陥が酸化処理面に発生し、酸化処理面(電析面)からの金属膜の剥離を阻害する虞がある。したがって、酸化処理面である粗化処理面を陽極酸化処理液中に浸漬して行う陽極酸化処理が好ましい。
また、従来のチタン製またはチタン合金製の部材に適用される陽極酸化処理では、その処理中に酸化対象面に接した処理液が分解されて気泡(ガス)が発生するため、陽極酸化処理中に発生した気泡(ガス)が酸化対象面(粗化処理によって凹凸の表面形態になっている粗化処理面)の凹みに停留することがある。酸化対象面の凹みに気泡(ガス)が頻繁に停留すると、その凹み部分の陽極酸化の進行が阻害されて適切な酸化層が生成されなくなり、金属膜の剥離に悪影響が及ぶ虞がある。このような場合には、粗化処理された後の粗化処理面(酸化対象面)に接する陽極酸化処理液を動かしながら陽極酸化処理を行うことが好ましい。酸化対象面に接する陽極酸化処理液が動くことにより、陽極酸化処理中に発生した気泡(ガス)が酸化対象面の凹みから容易に離脱し、気泡(ガス)の酸化対象面の凹みへの残留を十分に抑制することができる。陽極酸化処理液を動かしながら行う陽極酸化処理は、チタン製またはチタン合金製の部材に適用される従来の陽極酸化法では特段に注視されていなかったが、粗化処理面の最表層に適切な酸化層を形成する手段としては極めて有効である。
粗化処理された後の粗化処理面(酸化対象面)に接する陽極酸化処理液を動かしながら行う陽極酸化処理は、液流を付与する手段、超音波を印加する手段、あるいは液流を付与する手段と超音波を印加する手段とが組み合わされた手段のうちのいずれかの手段が好ましい。
液流を付与する手段は、例えば、ポンプを備える液送装置などを用いて、陽極酸化処理液の陽極酸化処理槽内への注送および陽極酸化処理槽内からの排出の液循環系を構成する手段、あるいは、撹拌翼などの撹拌具を備える撹拌装置などを用いて、陽極酸化処理槽内の陽極酸化処理液を撹拌する手段であってよい。こうした手段を適用し、陽極酸化処理槽内の陽極酸化処理液に強制的に流れを発生させることにより、酸化対象面に接する陽極酸化処理液に対して、陽極酸化処理中に発生した気泡(ガス)が酸化対象面(粗化処理面)の凹みから離脱可能な程度に流動する液流を付与することができる。液流による陽極酸化処理液の動きを利用することにより、酸化対象面に接する陽極酸化処理液を動かすことができるし、酸化対象面に接する陽極酸化処理液を動かしながら陽極酸化処理を行うことができる。なお、上記の液送装置や撹拌装置などを用いる手段は、後述する超音波を印加する手段と比べて、一般的に装置構成が簡易かつ安価であり、大型の金属箔製造装置に適用しやすい。
超音波を印加する手段は、例えば、陽極酸化処理中に発生した気泡(ガス)が酸化対象面(粗化処理面)の凹みから離脱可能な程度の周波数および発振出力(もしくは音強度)を印加することができる超音波発信装置を選定し、これを用いて陽極酸化処理槽内の陽極酸化処理液に対して所定の超音波を印加する手段であってよい。超音波を印加する手段によれば、上述した陽極酸化処理槽内の陽極酸化処理液を撹拌する手段と比べて、より高効率で酸化対象面に接する陽極酸化処理液を動かすことができると考えられる。一般に20kHzを超える周波数をもつ超音波が陽極酸化処理液中を伝播するとき、陽極酸化処理液中に微視的な高圧域と低圧域が発生し、陽極酸化処理液が微視的な収縮と膨張を繰り返すため、陽極酸化処理液を高速で連続的に動かすことができる。なお、超音波の印加による陽極酸化処理液の動きの度合いは、媒質である陽極酸化処理液の実質的な液質が変化しないような管理下において、超音波の周波数および発振出力(音強度)を、言い換えれば超音波の振幅を、適切に選定することにより、容易に調整することができる。
こうした超音波を印加する手段による陽極酸化処理液の微動を利用することにより、酸化対象面に接する陽極酸化処理液をより高効率で動かし、陽極酸化処理中に発生した気泡(ガス)の酸化対象面(粗化処理面)の凹みへの残留を確実に抑制しながら陽極酸化処理を行うことができる。なお、超音波による撹拌方法は、陽極酸化処理液が大きく動き難いので、小型の金属箔製造装置に適用することが好ましい。また、超音波による撹拌方法を大型の金属箔製造装置に適用する場合などにおいて、超音波が効果的に伝播する範囲が限られると考えられるときは、複数の超音波振動子を陽極酸化処理槽内の適所に配置することが好ましい。
上記の液流を付与する手段と、上記の超音波を印加する手段とが組み合わされた手段を採用することも好ましい。この場合、液流を付与する手段が陽極酸化処理槽内の陽極酸化処理液に強制的に流れを発生させるとともに、超音波を印加する手段が酸化対象面に接する陽極酸化処理液をより高効率で動かすことができる。これにより、陽極酸化処理中に発生した気泡(ガス)の酸化対象面(粗化処理面)の凹みへの残留を確実に抑制しながら、酸化対象面(粗化処理面)の陽極酸化処理を行うことができる。
上述した酸化処理の前処理として、アルカリ性溶液中へ浸漬する処理、強酸性溶液中へ浸漬する処理、あるいはアルカリ溶液中への浸漬と強酸性溶液中への浸漬とが組み合わされた処理のうちのいずれかの処理を行うことができる。アルカリ性溶液中へ浸漬する処理は、例えば、約20℃〜約80℃程度の水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を用いて表面の油分などの汚れを除去する(脱脂効果)ことができる。強酸性溶液中へ浸漬する処理は、最表面に形成されている自然酸化層を除去する(酸洗効果)ことができる。強酸性溶液中へ浸漬する処理は、粗化処理面の凹凸の表面形態が毀損されない程度に止めることが好ましい。アルカリ性溶液中へ浸漬する処理または強酸性溶液中へ浸漬する処理は必要に応じて選択することが好ましく、それぞれの処理を単独で行うこともできるし、両方の処理を組み合わせて行うこともできる。こうした前処理は、熱酸化処理の前処理にも、陽極酸化処理の前処理にも、適用することができる。
本発明の金属箔の製造方法では、上記の(1)〜(3)の各処理、すなわち、平滑化処理、粗化処理、酸化処理をこの順で行うことによって形成された、最表層に30nm〜250nmの厚さの酸化層を有し、4μm〜10μmの表面粗さRZJISを有して成る、凹凸の表面形態を有する酸化処理面を、電析面に用いる。こうした電析面を有して成るチタン製またはチタン合金製の陰極は、最表層に30nm〜250nmの厚さの酸化層を有し、4μm〜10μmの表面粗さRZJISを有して成る、上記の電析面を有して成る本発明の金属箔製造用陰極である。
電析面の最表層に30nm以上の厚さの酸化層を有していると、その電析面に電析した金属(金属膜)が剥離しやすくなり、剥離の際に発生しやすい金属膜(金属箔)のエッジ部の亀裂や、凹凸の表面形態に起因する金属膜の破断が抑制される。金属膜の電析面からの剥離の容易化の観点からは、酸化層の厚さは大きいことが好ましい。また、陰極の電析面の最表層に250nm以下の厚さの酸化層を有していると、酸化層が厚くなり過ぎることによる電気的絶縁の度合いが過度にならないため、金属の電析面への電析あるいは電析した金属の成長を損なうことがない。
また、電析面が4μm〜10μmの表面粗さRZJISを有していると、その電析面に電析した金属が成長した金属膜が剥離されて成る金属箔の剥離面は、その電析面の表面形態が転写されることによって、実質的に4μm〜10μmの表面粗さRZJISを有する面となる。このとき、4μm〜10μmの表面粗さRZJISを有する電析面の影響が金属箔の自由面側にも少なからず及び、金属箔の剥離面と自由面とが実質的に同等の表面粗さを有するものとなる。したがって、金属箔の剥離面と自由面の表面形態の実質的な差異が小さく抑制される。なお、表面粗さRZJISの差としては例えば2μm以下に抑制される。これにより、表裏の表面形態が実質的に同等な金属箔の製造が可能となり、例えば正極集電体の本体などに好適な金属箔であるアルミニウム箔の製造が可能となる。
上述したように、陰極が、最表層に30nm〜250nmの厚さの酸化層を有し、4μm〜10μmの表面粗さRZJISを有する電析面を備えることにより、その電析面に電析した金属(金属膜)の剥離が容易でありながら、その剥離によって得られる金属箔の剥離面と自由面との表面粗さの差を小さくすることができる。
電解法によって例えばドラム型の陰極(陰極ドラム1)やベルト型の陰極(陰極ベルト24)を用いて金属箔を製造する場合は、金属箔の幅寸法に対応する間隔でドラム状やベルト状の電析面の幅方向の両側を絶縁帯によって帯状に被覆し、電析面の両側を絶縁帯で挟まれた中央部の表面上に金属(金属膜)を電析させることが一般的である。しかし、凹凸の表面形態を有する電析面を用いると、絶縁帯を構成する絶縁材と電析面の隙間にも金属が電析する異常な電析が発生する虞がある。こうした状態の金属膜は、その異常な電析部分が剥離の際の抵抗となるため、金属膜のエッジ部に亀裂を発生させることや、その亀裂が過度であるときは金属膜が破断することがある。したがって、凹凸の表面形態を有する電析面を用いる本発明の金属箔の製造方法では、陰極の幅方向において、一様に表面粗さRZJISが4μm〜10μmであってもよいが、実質的に金属箔の製品部分に対応する中央部の表面粗さRZJISを4μm〜10μmとし、その中央部の両側の隣接部の表面粗さRZJISを2.5μm以下とした電析面を用いることが好ましい。その隣接部の外側に上述した絶縁帯を設けることにより、陰極の電析面から金属膜を剥離する際に、金属膜のエッジ部の亀裂や、その亀裂に起因する金属膜の破断などの不具合の発生がより一層低減される。
金属膜のエッジ部を含む両端側を形成する隣接部の表面粗さRZJISが2.5μm以下である場合は、その表面形態の転写によって形成される金属箔の剥離面のエッジ部を含む両端側の表面粗さも実質的に同等になるため、金属箔のエッジ部側の表裏の表面形態は異なるものとなる。こうした金属箔のエッジ部側に限定される表面形態の差異が許容できずに隣接部に対応する金属箔のエッジ部側を除去する場合にも、表面形態が異なる隣接部と中央部とは容易に区別することができる。隣接部は、その表面粗さRZJISが2μm以下であってもよい。隣接部は、例えば表面粗さRZJISが2μm未満の平滑加工面の隣接部に対応する領域をマスキングし、その状態で粗化処理および酸化処理を行うなどの簡易な方法によって形成することができる。
図4は、上述した好ましい電析面を有するドラム型の陰極(陰極ドラム)の構成例である。図4に示す構成例では、陰極ドラム1は、電析面に対応する円柱形状の外周2が幅方向に5つの領域に区分され、中央部2cと、その中央部2cの両側の隣接部2aと、その隣接部2aの外側の絶縁部2iとによって構成されている。中央部2cは、上述したように図3に示す形成プロセスによって形成され、表面粗さRZJISが4μm〜10μmの凹凸の表面形態を有し、最表層に30nm〜250nmの厚さの酸化層を有して成る、酸化処理面である。絶縁部2iは、金属箔の幅寸法を決定するために設けられ、陰極ドラム1を浸漬する電解液への耐性と、その電解液や一般的な電解条件では金属が容易に電析しない絶縁性を有する絶縁材を、外周2に貼り付ける方法などによって形成することができる。
隣接部2aは、中央部2cと同様に形成され、中央部2cよりもやや平滑な表面粗さRZJISが2.5μm以下の表面形態を有し、最表層に中央部2cとほぼ同様な酸化層を有して成る、酸化処理面である。中央部2cよりもやや平滑な表面形態を有して成る酸化処理面(隣接部2a)は、例えば、粗化処理の途中で隣接部2aに対応する領域をマスキングして粗化の進行を抑制する方法や、粗化処理の後に隣接部2aに対応する領域を機械的または化学的に研磨する方法や、酸化処理の後に隣接部2aに対応する領域を機械的に研磨する方法などによって形成することができる。なお、隣接部2aを酸化処理の後に研磨してやや平滑な面に形成した場合、隣接部2aの酸化層の厚さが中央部2cよりもやや薄くなるが、これは許容できる程度と考えられる。
このような構成を備える陰極ドラム1を用いて金属箔を製造すると、陰極ドラム1の中央部2cおよび隣接部2aの表面上に金属(金属膜)が健全に電析し、その金属膜はリード材を用いて容易かつ健全に剥離することができる。これは、陰極ドラム1の中央部2cおよび隣接部2aの最表層に30nm〜250nmの厚さの酸化層を有するとともに、金属膜の中央部を形成する表面粗さRZJISが4μm〜10μmの電析面(中央部2c)に隣接して、金属膜のエッジ部を形成する表面粗さRZJISが2.5μm以下の電析面(隣接部2a)を設けているからである。つまり、陰極ドラム1の外周2(電析面の表面)と絶縁部1iとの隙間に発生する上述した異常な電析が抑制されるからである。
上述した隣接部2aを有する電析面を用いる場合は、隣接部2aそれぞれの幅の比率を中央部2cの幅の約0.1%〜約10%程度に設定することが好ましい。上述したように、隣接部2aが中央部2cよりもやや平滑な面に形成されていると、金属箔のエッジ部側の表裏に表面形態の差異が発生する。こうした差異が許容できないなどの場合は、その隣接部2aに対応する金属箔のエッジ部側を除去することがある。こうした場合に、隣接部2aそれぞれの幅の比率が中央部2cの幅の約0.1%〜約10%程度であると、金属箔のエッジ部側の除去による歩留低下を抑制することができる。
また、隣接部2aそれぞれの幅の比率が中央部2cの幅の約0.1%以上であると、上述した凹凸の表面形態を有する中央部2cと絶縁部1iに起因する電解電流の集中を抑制しやすく、金属膜の剥離性を確保しやすい。また、隣接部2aそれぞれの幅の比率が中央部2cの幅の約10%以下であると、金属箔から除去するエッジ部側の幅が比較的小さくなり、金属箔の歩留低下を抑制しやすい。なお、金属箔のエッジ部側の除去は、陰極ドラム1の中央部2cの凹凸の表面形態が転写された部分のみとなるように行うことにより、表裏面が同程度に粗化された表面形態を有する金属箔を得ることができる。
本発明を、好ましいと考える本発明例および比較例を挙げて、詳細に説明する。また、説明に際し、簡便のため図1〜図4に示す記載を援用する。なお、本発明は以下の記載に限定する意図はない。
本発明例および比較例では、電解法で形成した銅製のリード材8を外周2に備える陰極ドラム1を用いて、厚さが12μmで幅が600mmのアルミニウム箔(金属箔)を電解法により製造した。陰極ドラム1の外周2はチタン製とし、その胴長方向(幅方向)を5つの領域(中央部2c、2つの隣接部2a、2つの絶縁部2i)に区分した。リード材8は、同じ陰極ドラム1の外周2に対して電解法で形成した銅膜を途中まで剥離して形成した銅箔(電解銅箔)とした。したがって、電解法によりアルミニウム箔の製造を開始したとき、上記の銅膜の表面上にアルミニウムが電析し、そのアルミニウムが電析した銅膜が剥離されて銅箔(リード材8)となった後の電析面に対して新たにアルミニウムが電析し、その新たに電析して成長したアルミニウム膜が剥離されることになる。陽極部材3は、アルミニウム製とした。
アルミニウムを電析させるための電解液は、モル比で、溶媒のジメチルスルホン(DMSO2)を10とし、電解質の塩化アルミニウム(AlCl3)を3.8とし、添加剤のトリメチルアミン塩酸塩(TMA−HCl)を0.05として配合した、非水系溶液を用いることにした。電解液は、DMSO2を110℃で溶融させた中にAlCl3とTMA−HClを混合して溶融させ、十分に撹拌して均質的な溶液とした。また、電解液を貯留してアルミニウムの電析を行う電解浴槽4は、露点が−60℃以下の窒素ガスを導入し、電解液中への水分の混入を抑制した。
電析面となる外周2を有する陰極ドラム1は、図3に示す形成プロセスによって作製した。具体的には、チタン製の素材を、外径が300mmで、胴長が700mmの円筒形状に形成し、それを用いて陰極ドラム1に対応する形状のドラム部材を作製した。続いて、そのドラム部材の外周を機械的研磨によって平滑化処理し、外周(平滑加工面)の表面粗さRZJISを2.1μm程度に形成した。次いで、ドラム部材の外周(平滑加工面)を、より好ましいと考えるブラスト処理により粗化処理した。具体的には多角形のアルミナ粒子を噴射する乾式ブラスト処理によって粗化処理した。粗化処理した外周(粗化処理面)の表面粗さRZJISは、アルミナ粒子の平均粒径を小さくした場合は4.5μm程度に形成され、大きくした場合は8.5μm程度に形成されるようにした。ここで、外周(粗化処理面)の隣接部2aに対応する領域を研磨紙で研磨し、表面粗さRZJISが粗化処理面よりも平滑で平滑加工面に近い2.3μm程度に形成した。
ここで、製品となるアルミニウムは、銅膜が剥離されて銅箔(リード材8)となった後の外周2(電析面)に新たに電析することになる。そのため、新たに電析して成長したアルミニウム膜が健全な状態で剥離される電析面であることが必要である。例えば、銅膜を剥離した後の外周2(電析面)に銅が残存していると、その電析面に電析して成長した新たなアルミニウム膜の剥離に影響を及ぼす虞や、たとえ剥離ができたとしても健全なアルミニウム箔が得られない虞がある。なお、電析面に残存している銅は、酸化層の表面の凹部の内部に銅が電析し、銅膜の剥離時に銅膜から離断されて残存したものと考えられる。こうした観点から、上述したドラム部材の外周(粗化処理面)を酸化処理して得られる酸化処理面について、電解法により銅を電析させて銅膜を形成し、その銅膜を剥離するときの容易性や、さらに銅膜を剥離した後の酸化処理面への銅の残存の程度などを確かめておくことが必要である。そこで、5mmの厚さの純チタン製の平滑加工面を有する板材から80mmの長さで20mmの幅の試験片を切り出し、その試験片の所定の面積に対して上述した粗化処理(乾式ブラスト処理)を行った後に上述した各種の酸化処理を行い、それぞれの試験片の酸化処理面に一般的な電解法により銅を電析させて銅膜を形成し、その銅膜を試験片から剥離する試行を実施した。粗化処理した後の試験片の粗化処理面の表面粗さRZJISは、上述した陰極ドラム1の場合の粗化処理面と同様な4.5μm程度から8.5μm程度となるようにした。
上記の試行において、剥離の良否の判定は、銅膜を試験片からリード材として十分に利用可能な品質で剥離することができた場合は「優」とし、銅膜を試験片から少なくともリード材として利用可能な程度の品質で剥離することができた場合は「良」とし、銅膜を試験片から実質的に剥離することができた場合は「可」とし、剥離した銅膜がリード材として利用可能な品質でなかった場合および銅膜が試験片から剥離できなかった場合は「不可」とした。
上記の試行において、銅箔表裏の表面形態差の判定は、剥離できた銅箔については表裏面の表面形態の差が大きい場合は「大」とし、小さい場合は「小」とし、剥離できなかった銅箔については「評価不可」とした。
上記の試行において、銅膜を剥離した後の試験片についての酸化処理面の良否の判定は、その酸化処理面に残存する銅に由来する着色が認められたことから、その着色の有無やその濃淡の程度に基づいて、銅の残存の有無、残存する銅の分布状態およびその量的程度などを勘案して行った。具体的には、銅膜を剥離した後の試験片の酸化処理面において、着色が全く認められない場合は「優」とし、散逸的な極めて薄い着色が全面もしくは局所に認められる場合は「良」とし、あるいは比較的濃い着色であっても散逸的に認められる場合は「可」とし、剥離時の破損や金属箔の表面欠陥の発生リスクが小さく、電析面に適する面とした。また、局所であっても比較的濃い着色が集中的に認められる場合、あるいは濃い着色が全面的に認められる場合は「不可」とし、剥離時の破損や金属箔の表面欠陥の発生リスクが大きく、電析面に適さない面と判断した。
上述した試行を繰り返し行って得られた傾向をまとめて、表1に示す。なお、表1に記載の「−」は評価対象ではないことを意味する。
表1に記載の「ブラスト」は上述した乾式ブラスト処理を意味する。表1に記載の「熱酸化」は上述した大気雰囲気での炉内加熱で約500℃の温度で約60分程度の保持を行う熱酸化処理を意味する。表1に記載の「陽極酸化」は、上述した好ましい陽極酸化処理の条件から選択し、0.5%を超える程度の濃度のリン酸水溶液を20℃〜30℃に保持して100Vのカットオフ電圧で0.5秒を超える程度の通電(印加電圧)を行う陽極酸化処理を意味する。表1に記載の「液流の付与」は、アズワン株式会社のホットスターラーREXIM(型番:RSH−1DN、回転数:1200rpm)を用いて渦撹拌による液流を付与する手段を意味する。表1に記載の「超音波の印加」は、アズワン株式会社の超音波洗浄器(型番:AUS−3D、出力:80W、周波数:23kHzまたは43kHz)を用いて所定の周波数を印加する手段を意味する。
(剥離の良否)
表1に示す試行1〜3を繰り返し行って得られた傾向に基づいて、粗化処理の有無による銅箔の剥離の可否の傾向と、粗化処理および熱酸化処理を行った場合の銅箔の剥離の良否の傾向を確認することができた。具体的には、試行1(粗化処理あり、酸化処理なし)の場合は、銅箔が実質的に剥離できない傾向が確認された。試行2(粗化処理なし、熱酸化処理あり)の場合は、銅箔がリード材として十分に利用可能な品質で剥離できる傾向が確認された。試行3(粗化処理あり、熱酸化処理あり)の場合は、銅箔が実質的に剥離できる傾向が確認された。これにより、粗化処理の後に熱酸化処理を行うことにより、銅箔の剥離が可能になることが分かった。また、試行2、3の比較により、粗化処理によって表面形態が凸凹になっていた分だけ銅箔の剥離抵抗が大きくなることが分かった。
表1に示す試行4〜15を繰り返し行って得られた傾向に基づいて、粗化処理および陽極酸化処理を行った場合の銅箔の剥離の良否の傾向と、さらに陽極酸化処理において陽極酸化処理液を動かして行った場合の銅箔の剥離の良否の傾向を確認することができた。具体的には、粗化処理および陽極酸化処理を行った試行4〜15のいずれの場合においても、銅膜を試験片から少なくともリード材として利用可能な程度の品質で剥離できる傾向が確認された。特に、粗化処理および陽極酸化処理液を動かす手段を用いた陽極酸化処理を行った試行5〜7、9〜11および13〜15の場合は、銅膜を試験片からリード材として十分に利用可能な品質で剥離できる傾向が確認された。これにより、粗化処理の後に陽極酸化処理を行うことにより、銅箔の剥離が可能になることが分かった。陽極酸化処理に際して、陽極酸化処理液を動かす液流を付与する手段や超音波を印加する手段を用いることにより、銅箔の剥離が容易になることが分かった。銅箔の剥離の容易化には、液流を付与する手段と超音波を印加する手段とを組み合わせることにより、陽極酸化処理液をより積極的に動かすことが好ましいと考えられる。
粗化処理の後に行う酸化処理において、試行8〜11と試行12〜15の比較により、熱酸化処理と陽極酸化処理との組み合わせ酸化処理を行う場合、熱酸化処理と陽極酸化処理の処理順の違いが銅箔の剥離性に影響を及ぼさないことが分かった。粗化処理の後に行う酸化処理において、熱酸化処理、陽極酸化処理、あるいは熱酸化処理と陽極酸化処理との組み合わせ酸化処理のいずれによっても銅箔が剥離できることが分かった。試行3と試行4、8および12の比較により、銅箔の剥離の容易化には、熱酸化処理よりも陽極酸化処理が効果的であることが分かった。
(銅箔表裏の表面形態差)
表1に示す試行1(粗化処理あり、酸化処理なし)の場合は、銅箔が実質的に剥離できない傾向が確認されたので、銅箔表裏の表面形態差の評価を行わなかった。試行2(粗化処理なし、熱酸化処理あり)の場合は、銅箔表裏の表面形態差が大きくなる傾向が確認され、これは粗化処理を行っていないためであるといえる。その他の試行3〜15のいずれの場合においても銅箔表裏の表面形態差が小さくなる傾向が確認され、これは粗化処理を行っているためであるといえる。
(酸化処理面の良否)
表1に示す熱酸化処理を行った試行2(粗化処理なし)および3(粗化処理あり)の場合は、銅膜を剥離した後の試験片の酸化処理面に着色が全く発生しない傾向が確認された。粗化処理の後に陽極酸化処理液を動かす手段を用いずに陽極酸化処理を行った試行4の場合は、銅膜を剥離した後の試験片の酸化処理面に散逸的に認められる比較的濃い着色が発生する傾向が確認された。試行3と試行4の比較により、陽極酸化処理による酸化処理面は、熱酸化処理による酸化処理面よりも着色が発生しやすいことが分かった。粗化処理の後に陽極酸化処理液を動かす手段を用いて陽極酸化処理を行った試行5〜7の場合は、散逸的な極めて薄い着色が全面もしくは局所に認められる傾向が確認された。試行4と試行5〜7の比較により、陽極酸化処理液を動かす手段を用いて陽極酸化処理を行った酸化処理面は、陽極酸化処理液を動かす手段を用いずに陽極酸化処理を行った酸化処理面よりも着色の抑制効果があることが分かった。この着色の抑制効果は、試行4と試行8〜11の比較あるいは試行4と試行12〜15の比較からも同様に分かる。なお、酸化処理を行っていない試行1は酸化処理面の良否の評価対象ではない。
また、酸化処理面の最表層には、試行2、3の場合においては熱酸化処理による酸化層が確認され、試行4〜11の場合においては陽極酸化処理による酸化層が確認された。熱酸化処理による酸化層は、大気に接して自然に形成される極めて緻密な酸化層(自然酸化層)よりも厚く、比較的緻密に形成されていた。陽極酸化処理による酸化層は、熱酸化処理による比較的緻密な酸化層に比べて、緻密さでは及ばないものの十分に厚く形成されていた。粗化処理した後に酸化処理を行った場合は、酸化処理面の最表層に形成された酸化層の厚さや緻密さの違いが、銅箔の剥離の良否(剥離の難易度合い)や酸化処理面の良否(着色の度合い)に影響を及ぼすと考えられる。
上述した試行を繰り返し行って得られた傾向に基づいて、銅箔の剥離を可能にするとともに銅箔の表面形態の差を小さくするためには、粗化処理面の酸化処理が重要であることが分った。そのための酸化処理としては、熱酸化処理、陽極酸化処理、あるいは熱酸化処理と陽極酸化処理との組み合わせ酸化処理のうちのいずれかの酸化処理を適用することができることが分った。また、陽極酸化処理に際しては、液流を付与する手段や超音波を印加する手段などを用いて、粗化処理面に接する陽極酸化処理液を動かしながら行うことが好ましいことが分かった。
次に、粗化処理した後の陰極ドラム1に対応するドラム部材の外周(粗化処理面)に対して酸化処理を行った。酸化処理としては、上述した試験片を用いた表1に示す各種の試行によって得られた傾向に基づいて、好ましいと考えられる液流を付与する手段を用いて陽極酸化処理液を動かしながら行う陽極酸化処理を選択した。液流を付与する手段は、超音波を印加する手段に比べて簡易かつ安価な装置構成にすることができ、陽極酸化処理液の陽極酸化処理槽内への注送および陽極酸化処理層内からの排出の液循環系を構成するものとした。陽極酸化処理は、濃度を0.5%としたリン酸水溶液が約20℃〜約30℃で保温された浴槽中に陽極となるドラム部材の外周(粗化処理面)を完全に浸漬し、約100mA/cm2程度の電流密度の定電流条件下(カットオフ電圧を約5V〜約200Vの範囲で選択)で、上記の手段で液流を発生させながら約2秒程度の処理時間で行った。なお、陽極酸化処理を行う前に、前処理として、50℃の水酸化ナトリウム水溶液を用いた脱脂処理のみを行い、強酸を用いた酸洗は行わなかった。上述した前処理および陽極酸化処理により、陽極酸化処理で例えばカットオフ電圧を10Vとした場合において、平均的な厚さが約30nmの酸化層を粗化処理面の最表層に形成することができた。
なお、形成された酸化層の厚さは、印加電圧の増大、処理時間の増長、またはその両方によって厚くなることを利用して制御し、その平均的な厚さはTEM(Transmission Electron Microscope)によって酸化層断面を観察し、その観察領域内で酸化層と認められる帯状のコントラスト像の幅を、任意に選択した数か所の位置で測定し、その測定値を平均して求めた。
また、陽極酸化処理した陰極ドラム1に対応するドラム部材の外周(酸化処理面)は、上述したように胴長方向(幅方向)の中央の領域を中央部2cとし、その中央部2cに隣接する領域を隣接部2aとした。中央部2cの表面粗さRZJISは、粗化処理面と実質的に同等であり、細かくは4.5μm程度に、粗くは8.5μm程度に形成された。表面粗さRZJISは粗化処理面と同等であった隣接部2aは、さらに研磨によって2.5μm以下の表面粗さRZJISになるようにした。
次に、陰極ドラム1に対応するドラム部材の外周(酸化処理面)の隣接部2aの外側に、絶縁テープを用いて絶縁部2iを形成した。絶縁部2iの胴長方向の間隔は、製造するアルミニウム箔の幅(600mm)に対応させた。これにより、陰極ドラム1の外周2、すなわち、中央部2cの幅が580mmで、その両側に隣接する隣接部2aの1つの幅が10mmで、全幅(絶縁部2iの胴長方向の間隔)が600mmのアルミニウムを電析させる電析面を形成することができる。なお、この場合、隣接部2aの幅は中央部2cの幅の約1.7%(=10mm/580mm×100)になる。
上述した陰極ドラム1の電析面(外周2)の形成に際して、上述した平滑化処理、粗化処理、および酸化処理の各プロセスを行ったグループの中央部2cに対応する面の酸化層の平均的な厚さと、その表面粗さRZJISを、表2に示す。本発明例として表2に示す試行D1〜D3の場合は、平滑化処理、粗化処理、および陽極酸化処理をこの順で行うことにより、最表層に約30nm〜約250nmの範囲の平均的な厚さの酸化層を有するようにした。粗化処理と酸化処理のいずれか一方の処理を行っていないため比較例として表2に示す試行Bおよび試行C1〜C3の場合は、試行Aを行ったグループから任意に選んだものを用いて所定の粗化処理もしくは酸化処理を行った。酸化層の厚さ(平均厚さ)が本発明の範囲から外れているため比較例として表2に示す試行D4、D5の場合は、試行C2を行ったグループから任意に選んだものを用いて所定の粗化処理および酸化処理を行った。
表2に示す試行A、B、C1〜C3およびD1〜D5によって作製したそれぞれの陰極ドラム1を用いた図1に示す金属箔の製造装置により、厚さが12μmで幅が600mmのアルミニウム箔の製造を試みた。最初に、アルミニウム箔の初期の剥離およびそれ以後の巻取りリール7への巻取りのために、陰極ドラム1の外周2にリード材8を形成した。リード材8は、陰極ドラム1を電解浴槽4内に設置する前に、その外周2に銅の電解法によって電析させた銅(銅膜)を連続的に剥離した先端部分と、陰極ドラム1の外周2に密着させた状態の後端部分を有するように形成した。その後に、リード材8を伴った陰極ドラム1を、十分に洗浄して乾燥させてから電解浴槽4内に設置した。なお、リード材8の後端部分を伴った陰極ドラム1を電解液5中に浸漬させる際には、電解液5中に浸漬させた陽極部材3との間隔がほぼ一定になるように対向させて配置した。また、リード材8の先端部分を、電解浴槽4の引出し口6から外部へ引出し、巻取りリール7にテープを用いて固定した。
上述した段取り後、試行A、B、C1〜C3およびD1〜D5のいずれの場合においても、電解液5を約110℃に保温するとともに撹拌しながら、電流密度を100mA/cm2に設定して通電を行なった。続いて、陰極ドラム1の外周2に密着したリード材8の表面の少なくとも一部にアルミニウムを電析させながら陰極ドラム1の回転および巻取りリール7の回転を開始し、電解液5中で電析して成長したアルミニウム膜9が巻取りリール7の引張力でリード材8と一緒に剥離されるようにした。こうした製箔プロセスにより、その後も通電を止めることなくアルミニウムの電析を連続的に継続することができれば、リード材8が全て陰極ドラム1から剥離された後はアルミニウム膜9そのものが電析面から剥離し、平均的な厚さが約12μmで幅が約600mmのアルミニウム箔を巻取りリール7に巻取ることができる。
表3に、上述した製箔プロセスによりアルミニウム箔の連続的な作製を試みたときのアルミニウム膜の剥離性(剥離の可否、剥離可の場合の安定性など)と、得られたアルミニウム箔に発生しやすかった不具合などと、得られたアルミニウム箔の剥離面および自由面の平均的な表面粗さRZJISを示す。なお、表3に比較例として示す試行C1〜C3の場合は、剥離の途中でアルミニウム膜に亀裂や破断がたびたび発生したため連続的に剥離することができなかったが、部分的に剥離することができたアルミニウム薄片を得ることができた。得られたアルミニウム箔やアルミニウム箔片の表面粗さは、剥離面では陰極ドラム1の外周2の中央部2cに対応する領域で無作為に測定し、自由面では剥離面の測定箇所の概ね裏側の領域で無作為に測定した。表面粗さの測定は、株式会社キーエンスの形状解析レーザ顕微鏡(型番:VK−X160、50倍レンズ)を用いて、平面視で100μm×100μmの大きさの5箇所の領域にレーザ光がほぼ垂直に照射される状態で行った。表面粗さは、それぞれの領域における平均値をその領域における表面粗さ値とした。
表3に示すそれぞれの試行において、試行C1〜C3を除き、試行A、BおよびD1〜D5のいずれの場合も、陰極ドラム1の電析面の表面上に電析させて成長させたアルミニウム膜の連続的な剥離は可能であった。また、粗化処理(ブラスト処理)した後に酸化処理(陽極酸化処理)を行って形成した酸化処理面を電析面に用いた試行D1〜D5では、アルミニウム箔の自由面と剥離面との表面粗さRZJISの差が2μm以下であり、表面形態の差が小さくなることが確認された。しかし、粗化処理を行わなかった試行A、Bでは、アルミニウム箔の自由面と剥離面との表面粗さRZJISの差が2μmを超えており、表面形態の差が大きくなることが確認された。なお、試行D4では、剥離が不安定になる場合があり、剥離することができたアルミニウム箔のエッジ部に亀裂が発生しているものがあり、電析面の剥離性が不十分であった可能性がある。また、試行D5では、容易かつ安定に剥離することができたが、剥離することができたアルミニウム箔に電析不良と考えられるピンホールが発生しているものがあり、陽極酸化処理による厚い酸化層を有する電析面に形成された深い凹みによってアルミニウムの電析が阻害された可能性がある。
図5〜図8に、上述した陰極ドラムを用いて作製したアルミニウム箔の外観的組織の観察像の一例を示す。図5および図6は試行Aの場合を、図7および図8は試行D1の場合を示す。図5および図7にはアルミニム箔の剥離面を、図6および図8にはアルミニム箔の自由面を示す。それぞれの観察像は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によるものである。図5および図6に示す試行Aの場合のアルミニウム箔は、自由面にはランダムな細かい網目状の組織が観察され、剥離面には平滑化処理による筋模様の研磨痕が明確に観察された。一方、図7および図8に示す試行D1の場合のアルミニウム箔は、自由面と剥離面には同様なランダムな細かい網目状が観察され、表面粗さRZJISの差(1.6μm)分だけ剥離面がやや粗くなっていたものの、この程度の差異は実質的な影響を及ぼさないと考えられる。また、観察像の記載は略すが、試行D1よりも表面粗さRZJISの差が小さい試行D2(0.1μm未満)や試行D3(0.3μm)では、図7および図8に示す試行D1に比べて、アルミニウム箔の剥離面と自由面の表面形態の差異が十分に小さくなっていることが確認された。
以上より、本発明の適用により、陰極の電析面に電析して成長した金属膜(アルミニウム膜など)の剥離が容易でありながら、その金属膜の剥離によって得られる金属箔(アルミニウム箔など)の剥離面と自由面には、外観的組織に筋模様などの明確な差異が認められず、剥離面と自由面の表面粗さRZJISが同等程度に粗く(4μm〜10μm)なり、剥離面と自由面との表面粗さRZJISの差が小さくなる(2μm以下)ことが確認できた。