JP2006232729A - ファージ・ウイルスの不活性化剤及び水溶性塗料 - Google Patents

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Abstract

【課題】 ファージ・ウイルスの不活性化に効果を発揮する銅を含有するアナターゼ型酸化チタンからなるファージ・ウイルスの不活性化剤とそれを用いる水溶性塗料を提供する。
【解決手段】 紫外線強度10μW/cmで60分照射によるファージ相対力価が1×10−2〜1×10−5の範囲となることを特徴とするCuO/TiO2(質量%比)=1.0〜3.5の範囲で銅を含有するアナターゼ型酸化チタンからなるファージ・ウイルスの不活性化剤である。
また、塗料用バインダーと上記ファージ・ウイルスの不活性化剤とを含有する水溶性塗料である。このような不活性化剤は、微弱な紫外光を発する蛍光灯照射下でファージ・ウイルスを不活性化することができる。更に、本発明の水溶性塗料によれば、これを塗布することにより、室内環境のウイルスの繁殖を抑制する等、衛生的な環境が要望される各種の用途に優れた効果を発揮する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、銅を含有するアナターゼ型酸化チタンからなるファージ・ウイルスの不活性化剤及び水溶性塗料に関し、ファージ・ウイルスの不活性化に効果を発揮することから、殊に室内空間のファージ・ウイルス防除に有効であることを特徴とするファージ・ウイルスの不活性化剤及び水溶性塗料に関する。本発明でいうファージ・ウイルスとは、DNAかRNAのどちらかをゲノムとしてもつ感染細胞内だけで増殖する感染性の微小構造体である。
近年、鳥インフルエンザやSARSといった新規高病原性ウイルスやMRSのような殺菌剤耐性菌が出現し、衛生的な室内環境を確保することや院内感染防止のための複合策の1つとして安心した環境の維持が望まれるようになっている。特に、病院や家畜の飼育場では、ウイルスや高病原性微生物が出現しやすく、社会的に大きな影響を与えている。
このような現状下で各種の抗菌剤が検討されている。例えば、抗菌剤として、無機の抗菌性金属成分と無機酸化物コロイドからなる抗菌剤が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかし、これらの抗菌剤は、一般的に知られている無機の抗菌性金属成分であれば何れのものであってもよい。また、これらの技術は、無機の抗菌性金属成分を溶出させることなく吸着・分散させるために、その分散媒体として無機酸化物コロイドを利用したものであって、無機の抗菌性金属成分それ自体が有する抗菌能を維持させたものにすぎない。
一方、光触媒材料として紫外線のエネルギーを有効に利用し、酸化チタンから発生するOHラジカルなどの酸化力によって抗菌性が得られることが知られている(非特許文献1)。また、紫外線でなく可視光で酸化力を発揮する光触媒材料、所謂可視光応答型光触媒の開発も行われている。しかしながら、未だその酸化力は非常に弱く実用的に供し得ないのが現状である。そこで、我々人間が生活している室内では、蛍光灯が多く利用されていることに着目し、衛生的な室内環境を確保するために実質的にこの蛍光灯に含まれる微弱な紫外線の照射下でファージ・ウイルスに対する抗菌効果を発揮することができる材料の開発が強く望まれている。
特開平7−33616号公報 特開2000−93889公報 「高機能な酸化チタン光触媒」2004年株式会社エヌ・ティー・エス発行、p.10〜13
このような現状に鑑み、本発明者らは、大腸菌に代表される微生物とは異なる生活環を有するファージ・ウイルスに蛍光灯照射で得られる微弱な紫外線下で酸化作用がある材料を得ることを目的として鋭意検討を重ねた。
その結果、蛍光灯照射で得られる微弱な紫外線下で銅を含むアナターゼ型酸化チタンがファージ・ウイルスを不活性化することを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成させたものである。
即ち本発明は、紫外線強度10μW/cmで60分照射によるファージ相対力価が1×10−2〜1×10−5の範囲となることを特徴とするCuO/TiO2(質量%比)=1.0〜3.5の範囲で銅を含有するアナターゼ型酸化チタンからなるファージ・ウイルスの不活性化剤に関する。
更に本発明は、塗料用バインダーと上記アナターゼ型酸化チタンからなるファージ・ウイルスの不活性化剤とを含有する水溶性塗料に関する。
本発明のファージ・ウイルス不活性化剤は、蛍光灯照射で得られる微弱な紫外線下でファージ・ウイルスを不活性化することができる。また、本発明の水溶性塗料は、これを塗布することにより、室内環境のウイルスの繁殖を抑制し、あるいは死滅させることができ、衛生的な環境が要望される各種の用途に優れた効果を発揮する。
本発明のファージ・ウイルスの不活性化剤は、銅を含有するアナターゼ型酸化チタンからなり、アナターゼ型酸化チタンと銅化合物とを反応させることにより製造することができる。
以下、本発明を更に詳細に説明する。
銅を含有するアナターゼ型酸化チタンの製法の一例を示せば以下の通りである。
硫酸チタニル溶液の加熱加水分解により得られた酸化チタン懸濁液中に水溶性銅塩を添加する。これをアルカリ性化合物の溶液で中和したのち、溶液中の陽イオンや陰イオンなどの不純物を除去する。次いで、これを乾燥或いは400℃以下の温度で熱処理する方法により、銅を含有するアナターゼ型酸化チタンを微粉末で得ることができる。
本発明に用いる水溶性銅塩の種類としては、塩化第2銅、硝酸第2銅、硫酸第2銅5水和物等を例示できる。更に、アルカリ性化合物の種類としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム等を例示できる。
加熱加水分解時の硫酸チタニル溶液の濃度は、TiO2として5〜25質量%の範囲が好ましい。5%より低いと生産効率が低く経済的でない。また、25質量%以上になると、溶液の粘性が高くなり過ぎ取扱いが困難となる。
加熱加水分解温度に関しては、60〜100℃の範囲、より好ましくは80〜100℃の範囲であることが望ましい。殊に60℃より低いときは、加水分解が充分に進行せず、長時間を要しても完全には加水分解しない。また、加熱時間に関しては、処理条件によって特段制約されるものではないが、概ね1〜10時間の範囲である。
次いで、上記の如く製造して得られた酸化チタン懸濁液中に水溶性銅塩を添加し、アルカリ性化合物の溶液で中和する。中和の終了は反応液のpHが5〜9の範囲になればよく、中和温度は常温でよい。中和終了時の反応液中のチタン濃度は、TiO2として2〜11質量%の範囲になるように添加するアルカリ性化合物の溶液濃度を調整すればよい。このようにして得られた銅を含有するチタンゲルを、脱塩洗浄し、これを乾燥または焼成する。
本発明の銅を含有するアナターゼ型酸化チタンは、微粉末であり、X線回折装置によるアナターゼ型酸化チタンの回折ピークから求めた結晶子サイズは2〜20nmであり、2次凝集によって0.5〜100μmの粒子径を有している。
銅とチタンの含有比率は、CuO/TiO2(質量%比)=1.0〜3.5の範囲が好ましい。
上記範囲を下廻るとファージ・ウイルス不活性化剤としての効果に乏しく、上限を大きく越えると銅の含有量に見合った効果が得られなく経済的でない。
アナターゼ型酸化チタンの形態がゾルである場合について、更に詳細に説明する。
銅を含有するアナターゼ型酸化チタンであるファージ・ウイルスの不活性化剤の形態は、その利用用途によって使い分けられる。即ち、室内に本発明のファージ・ウイルスの不活性化剤を塗布して利用する場合、アナターゼ型酸化チタンの微粉末を用いると、塗装面が白色または着色顔料を含む色調となり、室内の金属調、木質調、ガラスの透明性などの意匠性を重視する室内環境には十分対応できない。そこで、アナターゼ型酸化チタンの粒子径を非常に微細にすることにより、光の乱反射がなくなり透明な塗装面が得られることから銅を含むアナターゼ型酸化チタンをゾル状にすることにより、透明な膜状のファージ・ウイルスの不活性化剤とすることができる。
銅を含有するアナターゼ型酸化チタンゾルの製法について詳述する。先ず第1にアナターゼ型酸化チタンゾルの製造時に銅を含有させる製法について説明する。水溶性チタン塩溶液に水溶性銅塩を均一に溶解させた後、アルカリ性溶液もしくはアンモニア水で中和させることにより銅を含有するチタンゲルを製造する。この複合ゲルをよく洗浄して脱塩した後、後述する酸又はアルカリの存在下で加熱処理してアナターゼ型に結晶化させ所望するゾルを得ることができる。
本発明に用いる水溶性チタン塩の種類としては、無水塩化チタン、塩化チタン、硫酸チタニル、酢酸チタン、チタンアルコキシド等を例示できる。
ゾル化させる際のTiO2濃度に関しては、特段限定されるものではないが、概ね2〜11質量%が好ましい。上限に関しては、チタンゲルの濃度が11質量%以下で得られるため、その濃度以下でのゾル化となる。一方、下限を下廻る場合には、生産性が低下するばかりでなく、添加する酸またはアルカリの濃度が低くなり過ぎるため、添加する酸またはアルカリ量が必要以上に多くなることから好ましくない。
酸化チタンゲルを結晶化させてアナターゼ型とする際に、同時にあるいはその後に加える酸としては、塩酸、硝酸またはヒドロキシカルボン酸を例示することができる。ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、グリセリン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、トロパ酸、マンデル酸、ベンジル酸等を例示できる。また、加えるアルカリとしては、アンモニア水、アルカノールアミン類を例示することができる。
ところで、ゾル化に必要な追加する酸やアルカリの添加量に関しては、酸化チタンゲル中に残存している酸またはアルカリ量や所望するゾル粒子径の大きさによって異なるため、限定できないが概ねTiO2に対して0.01〜0.6当量の範囲である。
ゾルの結晶化を行うための温度に関しては、80℃以上であれば特段制約はないが、温度が低いと長時間反応させないとアナターゼ型酸化チタンが得られず、製造効率が悪いため、100℃以上のオートクレーブ中で反応を行えばよい。その温度に関しては、100℃以上200℃以下がよい。
一般に製造時に酸またはアルカリを多く使用することにより、より容易に酸化チタンゾルを製造することができるが、酸またはアルカリの添加量が多過ぎて問題になる場合には、ゾル化させた後、限外ろ過装置で洗浄することにより、過剰分を除くことができる。このようにして得られたアナターゼ型酸化チタンゾル中の酸またはアルカリ量は、TiOに対して0.05〜0.4当量の範囲であり、より好ましくは0.1〜0.3当量の範囲である。
ところで、結晶化させるときに同時にあるいはその後にアルカリを加えてゾル化させると、アルカリ安定なアナターゼ型酸化チタンゾルが得られ、優れた光触媒能を有するものとなる。また、結晶化させる際に酸を加えてゾル化させると、酸安定なアナターゼ型酸化チタンゾルが得られる。酸安定なアナターゼ型酸化チタンゾルを用いて塗料化すると、アルカリ性ゾルよりもより透明性の優れた膜が得られ、ガラスへの塗装に適している。よって、使用する用途に応じてアルカリ安定型あるいは酸安定型のアナターゼ型酸化チタンゾルを使い分けることができる。
次に、アナターゼ型酸化チタンゾルの製造後に銅化合物を添加し、本発明の銅を含有するアナターゼ型酸化チタンゾルを製造する方法について更に説明する。
本発明の銅を含有するアナターゼ型酸化チタンゾルは、塩酸や硝酸などの鉱酸で安定化されたアナターゼ型酸化チタンゾルに水溶性有機酸銅を添加して、紫外線ランプを照射することによって得ることができる。具体的には波長360nmの紫外線を発生するブラックライトの周りにガラス管を設置し、その管内に水溶性有機酸銅を添加したゾル溶液を循環させることにより、限外濾過によっても銅イオンを分離できない程の安定性の高い銅を含有するアナターゼ型酸化チタンゾルを製造することができる。
水溶性有機酸銅としては、シュウ酸第2銅、酒石酸第2銅、酢酸第2銅のような有機酸第2銅化合物を例示することができる。尚、市販の水溶性銅化合物以外に、水酸化第2銅や金属銅を原料にする場合には、予め、酸に溶解させて水溶性銅塩にして用いることもできる。
本発明の限外濾過によっても銅イオンを分離できない程の安定性の高い銅を含有するアナターゼ型酸化チタンゾルの生成機構に関しては定かでないが、塩酸や硝酸などの鉱酸で安定化された透明性のあるアナターゼ型酸化チタンゾルは、ゾルの内部に紫外光を透過させることができることから、紫外灯またはブラックライトの紫外光で効率的に有機酸銅塩が光分解されて変成されたものと推定することができる。
次に、塗料用バインダーとファージ・ウイルスの不活性化剤を含有する水溶性塗料について説明する。本発明に用いる塗料用バインダーとしては、耐久性の優れた樹脂が好ましく、シリコンアクリルエマルション、フッ素樹脂エマルション、アルコキシシランの加水分解物を例示することができる。
本発明の銅を含有するアナターゼ型酸化チタンからなるファージ・ウイルスの不活性化剤は、蛍光灯による微弱紫外線下でファージ・ウイルスを不活性化する効果を有し、一般的な有機物を分解する効果はほとんどない。従って、微弱な紫外線しか発生しない蛍光灯の照射下として、例えば手術室などの環境では、特段耐久性の優れた樹脂を用いる必要はないが、直射日光が窓から差し込む時や意図的に強い紫外線を照射する時には、ファージ・ウイルスの不活性能だけではなく、有機物分解能も発揮してしまうことから、アクリル樹脂やウレタン樹脂よりは耐久性に優れた樹脂を選択しておくことが望ましい。
水溶性塗料の乾燥固形分(A)と銅を含有するアナターゼ型酸化チタンのチタン分(B)の混合割合については、A/(A+B)=10〜40質量%の範囲が好ましい。
A/(A+B)が10質量%未満では、樹脂のバインダー力が不足し、長期間安定的に銅を含有するアナターゼ型酸化チタンを固定保持することが困難となる。また、A/(A+B)が40質量%以上では、銅を含有するアナターゼ型酸化チタン表面を樹脂が被覆し過ぎるため、ファージ・ウイルスの不活性能が低下することから好ましくない。
また、その水溶性塗料のpHに関しては、2〜4の範囲であることが好ましい。一般に酸性下では殺菌性があると推定されるが、暗所では、塗膜の表面のpHが2〜4でもファージ・ウイルスは不活性化せず、酸性側で特異的な吸着もしなかったため、銅を含有するアナターゼ型酸化チタン微粉末またはゾルではpH=2〜4の範囲の酸性領域でOHラジカルの発生が顕著になるのではないかと推定されるが、その明確なメカニズムについては定かでない。
このようにして得られた本発明の銅を含有するアナターゼ型酸化チタンについて、紫外線強度10μW/cmでのファージ・ウイルスの不活性能の評価方法について下記する。
「ファージ・ウイルスの不活性化能の評価方法」
(1)宿主大腸菌懸濁液の調製:
イオン交換水1m当たりpolypepton (和光純薬工業製)10Kg、yeast extract(Difco USA) 5Kg、NaCl 5Kgを溶解し、1N-NaOH水溶液を用いてpH7.2に調整した培地(L-broth)をL字管に10ml注いで通気性のシリコン栓でキャップをしてオートクレーブし、これにEscherichia.coli(ATCC15597株)を保存培地ごと0.5cm加え、37℃で約20時間、浸とう培養した。
(2)不活性化試験:
滅菌処理したイオン交換水100mlに対し、大腸菌ファージMS2(ATCC15597B1)用い、初期ファージ力価が約1×1012PFU(plaque forming unit)/mになるよう懸濁し、反応液とした。銅を含むアナターゼ型酸化チタンをコーティングしたガラス基板上に、2mm厚(内寸法30mm×30mm)のシリコンゴム製枠を設け、反応相有効総面積9cmとした枠内に反応液2mlを滴下し、蛍光灯を照射して試験を開始した。蛍光灯照射条件は、20W白色蛍光灯(FLR-202W/M、NEC)2本を用い、紫外線強度10μW/cmになるように距離を調整した。試験開始前及び所定時間ごとに、反応液中の活性なファージの濃度(ファージ力価)を求めるため、反応液0.1mlを採取して、イオン交換水を用いて適宜希釈した(サンプル1)。10mlの軟寒天培地(0.5%Agar)中に、上記の宿主大腸菌懸濁液の調製法で調製した宿主菌培養液20μlとサンプル1の希釈液100μlを添加し、寒天培地プレート上に重層し、37℃で約20時間培養した。
(3)宿主生存細胞数(ファージ力価)の計測:
上記の不活性化試験の寒天培地プレート上に培養されたE.coli(ATCC15597株)に対してファージを感染させ、形成されたプラーク数をカウントし、希釈倍率よりファージ力価Nを求めた。
(4)ファージ相対力価:
ファージ相対力価は、所定時間後のファージ力価(N)/初期ファージ力価(N)で表わすことができる。
例えば、N/Nが1×10−2とは、宿主細胞に対し、所定時間後のファージの感染力が百分の一となったことである。本発明においては、不活性化の目安として60分間照射時のファージ相対力価を用いる。
一般的に、大腸菌が紫外線や抗菌剤で死滅することはよく知られている。蛍光灯に含まれる微弱な紫外線では抗菌効果がないことは、日々の生活の中で経験していることであり、本発明が蛍光灯から出ている微弱な紫外線のみで効果を発揮しているのではないことは明白である。また、無機抗菌剤の中では、一般に銅イオンよりも銀イオンが少量で抗菌効果があるとされている。しかしながら、驚くべきことに後述の比較例4で示したように、銀を含むアナターゼ型酸化チタンゾルからなる水溶性塗料を調合して塗装した試験では、1時間でファージ・ウイルスは不活性化しなかった。即ち、抗菌成分として単に銅が含まれているから効果を発揮するものではなかった。更に、本発明の銅を含有するアナターゼ型酸化チタンゾルからなる塗膜から溶出する銅イオン濃度は、μmol/lオーダーと微量であり、後述の比較例1で示したように、短時間に溶出する銅イオンのみによる宿主大腸菌の死滅でもなかった。何故、本発明の銅を含有するアナターゼ型酸化チタンが、蛍光灯での微弱な紫外線でファージ・ウイルスの不活性化能を有するか不明である。本発明は、銅を含有するアナターゼ型酸化チタンが、短時間の微弱な紫外線でファージ・ウイルスを不活性化することに特徴がある。
以下に、本発明の実施例を挙げ更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、%は断らない限りすべて質量%を示す。
〔実施例1〕
硫酸チタニル水溶液(和光純薬工業製、TiO2=8%)1000gを85℃で3時間加熱加水分解して得られた酸化チタン懸濁液をろ過水洗し、オートクレーブに入れて150℃で8時間水熱処理した。この水熱処理品に無水塩化第2銅(和光純薬工業製)5gを溶解させたのち、反応液のpHが7.5になるまで2%水酸化ナトリウム溶液を添加して、塩化第2銅を加水分解させた。その懸濁液を再度ろ過水洗して乾燥させたのち、200℃で3時間焼成して銅を含むアナターゼ型酸化チタン微粉末(TiO2=79.8%、CuO/TiO2=3.5%)を得た。この酸化チタンはX線回折分析の結果、アナターゼ型酸化チタンであり、結晶子サイズは12nmであった。アナターゼ型酸化チタン以外のピークは見られず、銅は無定形状態であった。
この銅を含有するアナターゼ型酸化チタン20gにシリコーンアクリルエマルション樹脂(信越化学工業製、X-41-7001、乾燥固形分42%)16.3g、イオン交換水20gを加えて水溶性塗料(A(樹脂)/A(樹脂)+B(チタン)=30%)を調合した。スレート板に刷毛で塗装したのち、100℃で10分乾燥させた。塗膜の厚みは23μmであった。そのスレート基板上に2mm厚(内寸法30×30mm)のシリコンゴム製枠を設け、初期ファージ力価が約1×1012PFU/m3となるように調製した反応液を滴下して、20W白色蛍光灯 (FLR-202W/M、NEC)2本を用い、紫外線強度10μW/cmで照射した。なお、紫外線強度の測定には紫外線照度計(ウシオ電機製 UIT-101、受光器感度中心波長=365nm)を用いて、10μW/cmになった基板と蛍光灯の距離は9cmであった。 所定時間ごとに反応液中の活性なファージ・ウイルス(MS2)の濃度(ファージ力価)を求めるために、反応液0.1mlを採取してサンプルとし、イオン交換水を用いて適宜希釈した。10mlの軟寒天培地(0.5%Ager)中に、宿主大腸菌培養液20μlと上記のサンプル100μlを添加し、寒天培地プレート上に重層して、37℃で約20時間培養した。この寒天培地プレートのファージプラーク数をカウントし、希釈倍率よりサンプル中のファージ力価Nを求めて、所定時間ごとのファージ相対力価(N/N)の結果を表1に示した。60分後のファージ相対力価は2×10−3であった。
Figure 2006232729
〔実施例2〕
四塩化チタン水溶液(TiO2=2%)2000gにアンモニア水(NH3=2%)2212g(NH3/Cl当量比=1.3)を攪拌下で添加し、チタンゲルを生成させた。これをろ液中に塩素イオンが定性的に認められなくなるまでろ過水洗し、TiO2=10%、NH3=0.3%のチタンゲルを得た。このゲル400gに、NH3/TiO2(モル比)=0.2となるようにアンモニア水(NH3=4.5%)11.2gを添加し、これをオートクレーブに入れ、130℃で6時間水熱処理し、アナターゼ型酸化チタンゾルを得た。このチタンゾル350gに水酸化第2銅(関東化学製)1.3gを加え、加熱反応させた。そのゾル溶液を限外ろ過装置にかけて、ろ液の電気電導度が100μS/cm以下になるまで洗浄し、遊離のアンモニウムイオンなどを除去して本発明の銅を含有するアナターゼ型酸化チタンゾル(TiO2=3%、CuO/TiO2=2.5%)を得た。
この銅を含有するアナターゼ型酸化チタンゾル(TiO2=3%、CuO/TiO2=2.5%)20gにアニオン型アクリルシリコンエマルション樹脂(ダイセル化学工業製 ASi-91Z3固形分24%)0.3gを加えて、水性塗料(A(樹脂)/A(樹脂)+B(チタン)=10質量%)を調合した。スピンナーを用いて、この塗料を76×52mmのスライドガラス基板に塗布し、100℃で乾燥させ膜厚5μmの塗膜を得た。この塗膜の600nmでの直線透過率は92%で、実質的に透明な膜であった。本発明の銅を含有するアナターゼ型酸化チタンを含む塗膜が形成されたスライドガラス基板上に、実施例1と同様に2mm厚(内寸法30×30mm)のシリコンゴム製枠を設け、初期ファージ力価が約1×1012PFU/m3となるように調製した反応液を滴下して、20W白色蛍光灯 (FLR-202W/M、NEC)2本を用い、紫外線強度10μW/cmで照射した。 所定時間ごとに反応液中の活性なファージ・ウイルス(MS2)の濃度(ファージ力価)を求めるために、反応液0.1mlを採取してサンプルとし、イオン交換水を用いて適宜希釈した。10mlの軟寒天培地(0.5%Ager)中に、宿主大腸菌培養液20μlと上記のサンプル100μlを添加し、寒天培地プレート上に重層して、37℃で約20時間培養した。この寒天培地プレートのファージプラーク数をカウントし、希釈倍率よりサンプル中のファージ力価Nを求めて、60分後ファージ相対力価(N/N)の結果を表2に示した。
また、この銅を含有するアナターゼ型酸化チタンゾルを含む塗膜が形成されたスライドガラス基板に、2mm厚(内寸法30×30mm)のシリコンゴム製枠を設け、イオン交換水2mlを入れて、20W白色蛍光灯 (FLR-202W/M、NEC)2本を用い、紫外線強度10μW/cmで1〜6時間まで照射した。このイオン交換水を回収し、その水中の銅濃度はICPを用いて測定した結果、1時間後のCuイオン濃度は7.9μmol/l、6時間後のCuイオン濃度は11μmol/lしか検出されず、一般的に1時間でこの銅イオン濃度による抗菌効果は著しく少なく、銅イオンのみによるファージ・ウイルスの不活性化ではなかった。
〔比較例1〕
実施例2と同じスライドガラス基板(塗膜厚5μm)を用いて、蛍光灯を照射せずに(暗所)同様にして60分後のファージ相対力価(N/N)を求めた。その結果を表2に示した。少し測定バラツキがあるもののファージ不活性化効果は全く無かった。
〔比較例2〕
実施例2と同じスライドガラス基板(塗膜厚5μm)を用いて、20W白色蛍光灯 (FLR-202W/M、NEC)2本の表面を390nm以下の紫外線をカットするフィルム(住友化学製 スミペックスLF-39 厚み2mm)で覆い、可視光のみが照射されるようにして同様に試験を行った。基板と蛍光灯の距離9cmでの紫外線強度は紫外線照度計の測定限度外に小さかった。実施例2と同様にして60分後のファージ相対力価(N/N)を求め、その結果を表2に示した。
表2からわかるように、可視光のみの照射ではファージ・ウイルスを不活性化できなかった。
〔比較例3〕
実施例2の水酸化銅を添加する前のアナターゼ型酸化チタンゾル(TiO2=9.7%、NH3=0.4%)をTiO2=3%に希釈して銅を含まないアナターゼ型酸化チタンゾル(TiO2=3%、CuO/TiO2=0、NH3=0.1%)を得た。実施例2と同様にアニオン型アクリルシリコンエマルション樹脂(ダイセル化学工業製 ASi-91Z3固形分24%)を用いて塗料を作成し、スライドガラス基板上に膜厚5μmの塗膜を得た。実施例2と同様にして60分後のファージ相対力価(N/N)を求め、その結果を表2に示した。
〔実施例3〕
無水四塩化チタン(和光純薬工業製)を水に希釈して調製した四塩化チタン水溶液(TiO2=2%、Cl=2.4%)2000gに無水塩化第2銅(和光純薬工業製)1.02gを溶解させた均一溶液にアンモニア水(NH3=2%)1395g(NH3/Cl当量比=1.2)を攪拌下で添加し、水酸化銅を含有するチタンゲルを生成させた。これをろ液の電気電導度が100μS/cm以下になるまで洗浄し、遊離イオンを除去して、チタンゲル(TiO2=8.0%、CuO =1100ppm、NH3=0.2%)を得た。これをオートクレーブに入れ、150℃で24時間水熱処理し、銅を含有する酸化チタンゾル(TiO2=8.0%、CuO =1100ppm(CuO/TiO2=1.4%)、NH3=0.2%、pH=9.6)460gを得た。X線回折分析の結果、アナターゼ型酸化チタンであり、結晶子サイズは9nmであった。アナターゼ型酸化チタン以外のピークは見られず、銅は無定形状態であった。
アルカリ安定型酸化チタンゾルから酸安定型酸化チタンゾルに転換させるために、この460gのアナターゼ型酸化チタンゾルにイオン交換水1000gとリンゴ酸(関東化学製)18.5gを加えて、限外ろ過装置にかけて、ろ液の電気電導度が100μS/cm以下になるまで洗浄し、遊離の副生塩を除去し、アルカリ型から酸性型のゾルを得た。この転換処理によって、本発明の銅を含有するアナターゼ型酸化チタンゾル(TiO2=5.6%、CuO =670ppm、(CuO/TiO2=1.2%)、pH=3.2)を得た。
また、この銅を含有するアナターゼ型酸化チタンゾルを含む塗膜が形成されたスライドガラス基板に、2mm厚(内寸法30×30mm)のシリコンゴム製枠を設け、イオン交換水2mlを入れて、20W白色蛍光灯 (FLR-202W/M、NEC)2本を用い、紫外線強度10μW/cmで1〜6時間まで照射した。このイオン交換水を回収し、その水中の銅濃度はICPを用いて測定した結果、1時間後のCuイオン濃度は1.8μmol/lであり、6時間後のCuイオン濃度は2.1μmol/lであった。
テトラエトキシシラン(多摩化学工業製SiO2=28.8%)20gにエタノール33gと水3.5gと1N-HNO1.0gを加えて、加水分解させて水と相溶するアルキルシリケート樹脂(SiO2=10%)57gを作製した。上記の酸安定型アナターゼ型酸化チタンゾル50gにアルキルシリケート樹脂(SiO2=10%)3.2gを加えて、水溶性無機塗料(A(樹脂)/A(樹脂)+B(チタン)=10質量%)を調合した。スピンナーを用いて、この塗料を76×52mmのスライドガラス基板に塗布し、100℃で乾燥させ膜厚0.2μmの塗膜を得た。
実施例1と同様にして、紫外線強度10μW/cmでの60分後のファージ相対力価(N/N0)を求めて、その結果を表2に示した。
〔実施例4〕
四塩化チタン水溶液(TiO2=2%、Cl=2.4%)10Kgに水酸化ナトリウム水溶液(Na=2%)7386g(Na/Cl当量比=0.95)を攪拌下で添加し、チタンゲルを生成させた。これをよくろ過水洗し、チタンゲル(TiO2=4.0%、Cl=230ppm)を得た。このゲル4.5Kgに、硝酸/TiO2(モル比)=0.3となるように60%硝酸(関東化学製)71gを添加し、これをオートクレーブに入れ、150℃で6時間水熱処理し得られた酸安定型の酸化チタンゾルを限外ろ過装置にかけて、約5倍量のイオン交換水で洗浄して、酸化チタンゾルに含まれているアンモニウムイオンなどを除去させて、濃縮して酸安定型酸化チタンゾル(TiO2=9.7%、NO=0.8%、pH=2.0)1.7Kgを得た。X線回折分析の結果、アナターゼ型酸化チタンであり、結晶子サイズは6nmであった。動的散乱法による粒度分布測定装置(堀場製作所、LB-500)による平均粒子径は8nmであった。
イオン交換水100gにリンゴ酸(和光純薬工業製)14gと水酸化第2銅(和光純薬製)10gを加えて、加熱溶解させた後、ろ紙でろ過してリンゴ酸第2銅水溶液(CuO =6.5%)を作製した。
このリンゴ酸第2銅水溶液(CuO =6.5%)1.5gを上記の酸化チタンゾル(TiO2=9.7%、NO=0.8%)100gに加えて均一溶液を調製した。この液を点灯した20Wブラックライト(TOSHIBA FL20S. BLB)の周囲に設置(紫外線強度0.8mW/cm2)した細いガラス管中に10ml/minの速度で24時間循環してリンゴ酸を分解させて、本発明の銅を含有するアナターゼ型酸化チタンゾル(TiO2=9.5%、CuO =950ppm(CuO/TiO2=1.0%)、NO3=0.8%、pH=2.0)を得た。実施例3と同じ樹脂を用いて、A(樹脂)/A(樹脂)+B(チタン)=10質量%の水溶性塗料(pH=2.1)を調合して、76×52mmのスライドガラスの塗装基板(膜厚2μm)を作成した。実施例1と同様にして、紫外線強度10μW/cmでの60分後のファージ相対力価(N/N)を求めて、その結果を表2に示した。
[比較例4]
硫酸酸性にした硫酸チタニル水溶液(TiO2=8%、SO=28.8%)1000gに硝酸銀(和光純薬工業製試薬特級)1.6gを添加して均一に溶解させた液に塩化ナトリウム0.82gを含む水酸化ナトリウム水溶液(Na=2%)6900g(Na/SOモル比=2.0)を攪拌下で添加し、銀含有チタンゲルを生成させた。これをろ過水洗し、銀含有チタンゲル(TiO2=4.0%、Ag2O=520ppm)を得た。このゲル1500gに、硝酸/TiO2(モル比)=0.2となるように60%硝酸(関東化学製)15.8gを添加し、これをオートクレーブに入れ、150℃で6時間水熱処理し、酸化チタンゾルを得た。この酸安定型の酸化チタンゾルを限外ろ過装置にかけて、約5倍量のイオン交換水で洗浄して、酸化チタンゾルに含まれている過剰イオンを除去濃縮し、酸性の酸化チタンゾルを得た。これを濃度調整して、銀を含有するアナターゼ型酸化チタンゾル(TiO2=5.6%、Ag2O=720ppm(Ag2O/TiO2=1.3%)、NO3=0.4%、pH=2.2)1000gを得た。X線回折分析の結果、アナターゼ型酸化チタンであり、結晶子サイズは6nmであった。なお、アナターゼ型酸化チタンの回折ピークのみであった。実施例3と同じ樹脂を用いて、A(樹脂)/A(樹脂)+B(チタン)=10質量%の水溶性塗料(pH=2.3)を調合して、76×52mmのスライドガラスの塗装基板(膜厚2μm)を作成した。実施例1と同様にして、紫外線強度10μW/cmでの60分後のファージ相対力価(N/N)を求めて、その結果を表2に示した。
Figure 2006232729


Claims (3)

  1. 紫外線強度10μW/cmで60分照射によるファージ相対力価が1×10−2〜1×10−5の範囲となることを特徴とするCuO/TiO2(質量%比)=1.0〜3.5の範囲で銅を含有するアナターゼ型酸化チタンからなるファージ・ウイルスの不活性化剤。
  2. アナターゼ型酸化チタンがゾルである請求項1記載のファージ・ウイルスの不活性化剤。
  3. 塗料用バインダーと請求項1記載のファージ・ウイルスの不活性化剤とを含有する水溶性塗料。
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