JP2006044226A - インクジェットヘッド、インクジェットヘッドの製造方法、インクジェット記録装置及びインクジェット塗布装置 - Google Patents

インクジェットヘッド、インクジェットヘッドの製造方法、インクジェット記録装置及びインクジェット塗布装置 Download PDF

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Abstract

【課題】 撥インク性及び耐擦性に優れ、長期間の使用においても信頼性の高い安定した吐出が可能なインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】 金属部材のノズル本体1に形成したノズル6よりインクを吐出させるインクジェットヘッドにおいて、金属部材のノズル本体1の少なくともインク吐出側表面にSiOを主成分とするSiO膜2を設け、SiO膜2上にパーフルオロポリエーテル鎖の末端にアルコキシシラン残基を有する化合物が結合した撥インク膜7を形成したことを特徴とする。
【選択図】 図2

Description

本発明は、ノズル本体に耐擦性の高い撥インク膜を有するインクジェットヘッドとその製造方法、ならびにそれを備えたインクジェット記録装置及びインクジェット塗布装置に関する。
汚れ付着防止、防水等の用途で種々の撥水材料が開発されている。撥水材料としてはシリコン系、フッ素系の材料が主に検討されている。シリコン系とフッ素系の材料を比較した場合、表面を低表面エネルギー化するためにはフッ素系の材料が好適である。フッ素系の材料としては、単分子膜としてはパーフルオロアルキル鎖を有する化合物、或いはパーフルオロポリエーテル鎖を有する化合物が、高分子膜としては含フッ素樹脂が主に検討されている。
用途としては、キッチンや洗面所等の水周り、ウインドーや車体等自動車関連、ディスプレイ表面やインクジェットヘッドのオリフィス表面の如くオフィスユーズ等が挙げられる。
このうちインクジェットプリンタは、電子写真方式のプリンタに比べて装置の小型化が可能であるためオフィスばかりでなく家庭へもかなり普及している。このインクジェットプリンタの画像形成は、ヘッドのノズルから用紙に向かってインクを吐出することで、用紙上にインクが付着することで達成される。
その際、オリフィスのノズル近傍にインクが付着して乾燥すると、これに新たに吐出されたインクが接触し、吐出方向が変化してしまうことがある。このため通常のインクジェットプリンタでは、ヘッドのインク吐出側表面にはインクを弾く処理が施されている。またノズル表面をワイプする機構も設けられている。
従来例として、特開2003−19803号公報(特許文献1)には、パーフルオロポリエーテル鎖とアルコキシシラン残基を有する化合物でヘッドのインク吐出側表面を処理することが記載されている。この提案により、水性インクにおいて高い撥水性及びワイピングに対する高い耐擦性を発揮するようになったが、油性インクや溶剤系インクにおいては十分な撥インク性及びワイピングに対する十分な耐擦性が得られないと言う問題があった。
また、特開2003−341070号公報(特許文献2)には、ノズル形成部材、特に樹脂材料で形成されたノズルの表面がフッ素系撥水剤でコーティングされていること、及びノズル形成部材とフッ素系撥水剤との間に、SiO膜が形成されていることが開示されている。
ここでノズル形成部材を樹脂材料で形成している例が挙げられているが、油性インクや溶剤系インクに対する耐インク性から、ノズル形成部材は、金属材料を用いることが望ましい。そこでノズル形成部材に金属材料を用い、ノズル形成部材と撥インク膜との間に、SiO膜を設けた構成で作製をしたが、油性インクや溶剤系インクにおいては十分な撥インク性及びワイピングに対する十分な耐擦性が得られるものとそうでないものが生じ、一定した効果が得られなかった。そこで、更なる性能向上の検討を進めた結果、金属材料のノズル形成部材とSiO膜の間の処理が重要であることがわかった。
特開2004−34331号公報(特許文献3)に、ガラス転移点(Tg)100℃以上の樹脂又は金属を予め粗面化処理(酸素プラズマ処理又はサンドブラスト処理)により表面粗さ(Ra)0.01〜0.1とされたノズルプレート表面に、フッ素含有化合物又はシラン化合物を原料としてプラズマCVD法により0.5μm以下のプラズマ重合膜を形成し、その皮膜上にフッ素樹脂を塗布し、撥インク膜を形成することが開示されているが、金属材料のノズル形成部材にSiO膜を形成するための最適な処理は知られていなかった。
近年、インクジェットの特徴を生かしフラットパネルディスプレイ製造装置、3次元造形機、プリント基板回路形成、燃料電池の電極形成など各種パターニング装置への応用が急速に進んでおり、用いられるインクは水性以外に油性や溶剤系のものもあり、その中には有機樹脂成分を含んだものもある。
このようなインクは表面張力が小さいため、撥インク性が高い撥インク膜でないと十分弾かないという問題、及びインクがノズル付近で乾燥すると、そこで固化し粘着するといった問題を引き起こすことがある。本発明者の検討では、油性インクや溶剤系インクの場合でもヘッドのノズル部分との接触角は、40°以上は必要であることが分かっている。
特開2003−19803号公報 特開2003−341070号公報 特開2004−34331号公報
上記従来技術では、油性インクや溶剤系インクに対して十分な撥インク性及びワイピングに対する十分な耐擦性を有した表面処理が困難であった。
本発明の目的は、このような従来技術の欠点を解消し、撥インク性及び耐擦性に優れ、長期間の使用においても信頼性の高い安定した吐出が可能なインクジェットヘッド、インクジェットヘッドの製造方法、インクジェット記録装置及びインクジェット塗布装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の第1の手段は、金属部材のノズル本体に形成したノズルよりインクを吐出させるインクジェットヘッドにおいて、前記ノズル本体の少なくともインク吐出側表面にSiOを主成分とするSiO膜を設け、そのSiO膜上にパーフルオロポリエーテル鎖の末端にアルコキシシラン残基を有する化合物が結合した撥インク膜を形成し、前記ノズル本体の表面粗さRaが0.13μm以下、好ましくは0.11以下に規制されていることを特徴とするものである。
本発明の第2の手段は前記第1の手段において、前記パーフルオロポリエーテル鎖の末端にアルコキシシラン残基を有する化合物が、下記の一般式を有する化合物であることを特徴とするものである。
Figure 2006044226
本発明の第3の手段は前記第2の手段において、前記一般式中の末端が−Si(OR)3であることを特徴とするものである。
本発明の第4の手段は前記第2の手段において、前記一般式中の結合部位X,Yが下記の分子構造を有することを特徴とするものである。
Figure 2006044226
本発明の第5の手段は前記第1の手段において、前記SiO膜がノズル本体のインク流路側に延びて形成されていることを特徴とするものである。
本発明の第6の手段は前記第1の手段において、前記SiO膜がノズル本体のインク流路側まで延びていないことを特徴とするものである。
本発明の第7の手段は、金属部材のノズル本体に形成したノズルよりインクを吐出させるインクジェットヘッドの製造方法において、前記ノズル本体の表面を例えば表面平均粗さRaが0.13μm以下になるように平坦化する工程と、前記ノズル本体のノズルが塞がらない例えば0.1重量%以下の濃度に調整されたシリカゾル溶液を前記ノズル本体に塗布する工程と、前記ノズル本体上に形成されたシリカゾル膜を加熱してSiO膜に変化する工程と、パーフルオロポリエーテル鎖の末端にアルコキシシラン残基を有する化合物を溶剤に溶解した撥インク処理剤溶液を前記SiO膜上に塗布し、乾燥して撥インク膜を形成する工程と、前記ノズル本体のインク流路と接する側に形成されている撥インク膜を除去して、ノズル本体の少なくともインク吐出側表面に形成されている撥インク膜を残す工程とを有することを特徴とするものである。
本発明の第8の手段は、金属部材のノズル本体に形成したノズルよりインクを吐出させるインクジェットヘッドの製造方法において、前記ノズル本体の表面を平坦化する工程と、前記ノズル本体のインク吐出側表面に例えばスパッタリングでSiO膜を形成する工程と、パーフルオロポリエーテル鎖の末端にアルコキシシラン残基を有する化合物を溶剤に溶解した撥インク処理剤溶液を前記SiO膜上に塗布し、乾燥して撥インク膜を形成する工程とを有することを特徴とするものである。
本発明の第9の手段は前記第7または第8の手段において、前記パーフルオロポリエーテル鎖の末端にアルコキシシラン残基を有する化合物が、下記の一般式を有する化合物であることを特徴とするものである。
Figure 2006044226
本発明の第10の手段は前記第9の手段において、前記一般式中の末端が−Si(OR)3であることを特徴とするものである。
本発明の第11の手段は前記第9の手段において、前記一般式中の結合部位X,Yが下記の分子構造を有することを特徴とするものである。
Figure 2006044226
本発明の第12の手段は、インクジェットヘッドと、例えば用紙などの被記録材を所定の方向に搬送する搬送手段とを備えて、前記インクジェットヘッドから吐出されるインクを前記被記録材上に付着して情報を記録するインクジェット記録装置において、前記インクジェットヘッドが第1ないし第6の手段のインクジェットヘッドであることを特徴とするものである。
本発明の第13の手段は、インクジェットヘッドと、例えば基板などの被塗布部材を所定の方向に搬送する搬送手段とを備えて、前記インクジェットヘッドから吐出されるインクを前記被塗布部材上に付着する例えばパターンニング装置などのインクジェット塗布装置において、前記インクジェットヘッドが第1ないし第6の手段のインクジェットヘッドであることを特徴とするものである。
本発明は前述のような構成になっており、従来に比べて水性インクはもちろん油性インク及び溶剤系インク等に対し撥インク性及び耐擦性の点で優れ、長期間の使用においても信頼性の高い安定した吐出が可能なインクジェットヘッドを提供することができる。
次に本発明の実施形態を図と共に説明する。図13は、本発明の実施形態に係るインクジェットヘッドの断面図である。
図中の5はノズル6を形成するノズルプレート、6はノズルで図示していないが紙面に向けて垂直方向に所定の間隔をおいて多数個形成されている。9はフィルタ部、10は振動板17と圧電素子18とを連結するシリコン接着剤等の弾性を有する接着剤、11はリストリクタ21を形成するリストリクタプレート、12は加圧室16を形成する加圧室プレート、15は共通インク供給路22を形成する共通インク供給路形成部材、19a,19bは信号入力端子、20は圧電素子固定板、21は共通インク供給路22と加圧室16とを連結し加圧室16へのインク流入を制御するリストリクタである。
リストリクタプレート11や加圧室プレート12などは、例えばステンレス材のエッチング加工または精密プレス加工により作られ、ノズルプレート5はステンレス材に精密プレス加工により多数個のノズル6を形成する。圧電素子固定板20は、セラミックスやポリイミドなどの絶縁物から構成されている。ノズルプレート5と加圧室プレート12を接着剤で一体に接合することにより、加圧室16(インク流路)が区画形成される。
インクは共通インク供給路22の中を上流から下流へ向かって流れ、共通インク供給路22の途中でフィルタ部9を通過して、リストリクタ21、加圧室16、ノズル6の順に流れ込む。圧電素子18は信号入力端子19aと19bの間に電圧が印加されたときに伸縮し、電圧が無くなれば伸縮前の形に戻る。この圧電素子18の変形によって、加圧室16内のインクに圧力が加わり、ノズル6からインクが液滴となって吐出する。
このような構成のインクジェットヘッドのノズルプレート5を、後述の各実施例で製作した。本実施例により得られたインクジェットヘッドに顔料含有の油性インクを充填し吐出を行ったところ、ノズルプレート5の表面にインクが濡れ広がることがなく、長時間の使用においても安定した吐出が得られることが確認できた。また、インクの充填等によりノズルプレート5の表面に付着したインクを拭き取るために繰り返しワイピングを行ったが、長期間にわたり良好な拭き取り性が持続することも確認した。
本発明のインクジェットヘッドは、ノズル表面を平坦化し、その上にSiO膜を設け、さらにそのSiO膜上にパーフルオロポリエーテル鎖の末端にアルコキシシラン残基を有する化合物を結合させた撥インク膜を形成した。
ノズルプレートの加工精度は、インクジェットヘッドのインク吐出特性に大きな影響を及ぼす。多数のノズル間においてノズル精度のばらつきを低く抑えることから、ノズルプレートの製法は高い加工精度が要求される。このためノズルプレートは精密プレス加工法、レーザ加工法、エッチング加工法またはエレクトロフォーミング等により形成されるため、金属材料が好ましい。
しかしインクが水性の場合、油性インクに比べて空気中の水分が溶解しやすく、これがノズルを腐食する原因になる可能性がある。そのためノズルプレートの材料は防錆性を考えるとステンレス鋼板が望ましい。
具体的にはオーステナイト系のSUS201、SUS202にSUS301、SUS302にSUS303、SUS303Se、SUS304、SUS304L、SUS304N1、SUS304N2、SUS304LN、SUS305、SUS309S、SUS310S、SUS316、SUS316L、SUS316N、SUS316LN、SUS316J1、SUS316J1L、SUS317、SUS317L、SUS317J1、SUS321、SUS347、SUSXM7、SUSXM15J1、SUS329J1、
フェライト系のSUS405、SUS410L、SUS430、SUS430F、SUS434、SUS447J1、SUSXM27、
マルテンサイト系のSUS403、SUS410、SUS410J1、SUS416、SUS420J1、SUS420F、SUS431、SUS440A、SUS440B、SUS440C、SUS440F、析出硬化系のSUS630、SUS631等が適用される。
またインクに防錆剤が添加されている場合や腐食性のないインクを使用する場合は、鉄−ニッケル合金等でも用いることができる。インクジェットヘッドのインク流路の母材がシリコンウエハで、熱硬化型接着剤でインク流路とノズルプレートを接着する際は、シリコンウエハと線膨張率の近い鉄:ニッケル=50〜65:50〜35の比率の合金が好ましい。またエレクトロフォーミングによってノズルプレートを形成する場合は、ニッケルやパラジュウム及びそれらの合金等が好ましい。
本発明においては、ノズル表面の平坦化が重要である。ノズルプレートは約30〜150μm程度の薄板で圧延材料を用いるのが一般的であり、その表面粗さはRa≧0.14μm程度である。この表面粗さでは所望の性能が確保出来ないから、積極的に平坦化して表面平均粗さRaを0.13μm以下、理想的には0μmにする必要がある。その方法としてサンドペーパや研磨テープあるいはポリッシングスラリー等を用いての研磨などが挙げられる。
表面を平坦化処理した後に、SiOの製膜がなされる。この製膜はスパッタリング、蒸着、CVD法あるいはSiOの前駆体であるシリカゾルを刷毛塗り、スプレーコート、スピンコート、ディップコート等の方法でノズルプレートに塗布した後、加熱処理によってSiO膜にする方法が望ましい。
シリカゾルはアルコキシシランが平均数十〜数百個重合したもので、平均分子量は数千〜数万である。これはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類に溶解する。シリカゾルをSiOの膜にするためには、80℃以上に加熱する必要がある。望ましくは180℃程度に加熱することで膜強度をさらに高めることができる。
また膜厚は数十〜数百nm程度が望ましい。膜厚が数nm程度と薄い場合はピンホールの発生や強度不足が懸念され、反対に膜厚が厚すぎると、ノズル表面の平坦化の効果が無くなることや、ノズル径がSiO膜の厚みの分小径化するため設計時に小径分を考慮する必要があるなどの弊害を生じる。
本発明の撥インク膜を形成するための撥インク処理剤は、分子内にパーフルオロポリエーテル鎖とアルコキシシラン残基を有するものが好適である。この理由は、下地のSiOとの結合性が高まり、また、SiO膜との結合により撥インク処理剤が移動することが無いので、撥インク膜の形成位置の精度が高い。
本発明において賞用される撥インク処理剤としては、以下に示す一般式が挙げられる。
Figure 2006044226
上記一般式中の末端が−Si(OR)2よりも−Si(OR)3の方が、撥インク膜の耐擦性が優れている。これはノズルプレート(ノズル本体)との結合部位が分子1個当り−Si(OR)2が2箇所であるのに対して、−Si(OR)3は3箇所であるためと考えられる。
上記一般式における結合部位X,Yは特に限定されるものではないが、若干塩基性に片寄っているインクを用いた場合でも加水分解を受けないような分子構造のものが好ましい。具体的にはアミド結合やエーテル結合等のある分子構造、またはエステル結合やイオン結合の無い分子構造が望ましい。具体的には、本発明では下記に示すものが賞用される。
Figure 2006044226
次に本発明で適用される撥インク処理剤(化合物1〜8)の具体的な合成方法を説明する。
(化合物1の合成)
デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)を3M社製PF−5080(100重量部)に溶解し、これに塩化チオニル(20重量部)を加え、攪拌しながら48時間還流する。次いで塩化チオニルとPF−5080をエバポレータで揮発させ、クライトックス157FS−Lの酸クロライド(25重量部)を得る。
これにPF−5080(100重量部)、チッソ社製サイラエースS330(3重量部)、トリエチルアミン(3重量部)を加え、室温で20時間攪拌する。反応液を昭和化学工業社製ラジオライトファインフローAで濾過し、濾液中のPF−5080をエバポレータで揮発させ、下記の化合物1(20重量部)を得た。
Figure 2006044226
(化合物2の合成)
チッソ社製サイラエースS330(3重量部)の代わりにチッソ社製サイラエースS360(3重量部)を用いる以外は化合物1の合成と同様にして、下記の化合物2(20重量部)を得た。
Figure 2006044226
(化合物3の合成)
デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)の代わりにダイキン工業社製デムナムSH(平均分子量3500)(35重量部)を用いる以外は化合物1の合成と同様にして、下記の化合物3(30重量部)を得た。
Figure 2006044226
(化合物4の合成)
チッソ社製サイラエースS330(3重量部)の代わりにチッソ社製サイラエースS360(3重量部)を用い、デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)の代わりにダイキン工業社製デムナムSH(平均分子量3500)(35重量部)を用いる以外は化合物1の合成と同様にして、下記の化合物4(30重量部)を得た。
Figure 2006044226
(化合物5の合成)
チッソ社製サイラエースS330(3重量部)の代わりにチッソ社製サイラエースS320(1重量部)を用いる以外は化合物1の合成と同様にして、下記の化合物5(20重量部)を得た。
Figure 2006044226
(化合物6の合成)
チッソ社製サイラエースS320(1重量部)の代わりにチッソ社製サイラエースS310(1重量部)を用いる以外は化合物5の合成と同様にして、下記の化合物6(20重量部)を得た。
Figure 2006044226
(化合物7の合成)
デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)の代わりにダイキン工業社製デムナムSH(平均分子量3500)(35重量部)を用いる以外は化合物5の合成と同様にして、下記の化合物7(30重量部)を得た。
Figure 2006044226
(化合物8の合成)
チッソ社製サイラエースS320(1重量部)の代わりにチッソ社製サイラエースS310(1重量部)を用い、デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)の代わりにダイキン工業社製デムナムSH(平均分子量3500)(35重量部)を用いる以外は化合物5の合成と同様にして、下記の化合物8(30重量部)を得た。
Figure 2006044226
撥インク処理剤の平均分子量はパーフルオロポリエーテル鎖の大きさ、分子内のパーフルオロポリエーテル鎖の本数によって異なるが、概ね1000前後から12000前後である。形成される撥インク膜は分子レベルオーダーの層であり、膜厚は数nmである。膜厚は、非接触式の膜厚測定装置(溝尻光学株式会社製エリプソメーター)か、IRスペクトルの反射モードで1200カイザー付近のCF伸縮振動を調べることで求められる。
我々の実験の結果、これら撥インク処理剤で処理された表面は水に易溶の水性インクだ
けでなく、水に不溶あるいは難溶の油性インクも弾くことがわかった。
撥インク膜の形成方法は、撥インク処理剤を溶媒に希釈した溶液を調製する。この溶液を刷毛塗り、スプレーコート、スピンコート、ディップコート等の方法でノズルプレートに塗布する。次に加熱することで、撥インク処理剤のアルコキシシラン残基とSiO膜表面の水酸基が反応し、撥インク処理剤が化学的にSiO膜表面に結合して撥インク膜が形成できる。
本発明で用いる撥インク処理剤は水分と接触すると加水分解する。また直径10〜50μm程度のノズル内に入っていく必要もある。そのため塗布溶液の調製で用いる溶媒は含水率が低く、且つ表面張力の小さなフッ素系の溶媒が望ましい。具体的には3M社製のFC−72、FC−77、PF−5060、PF−5080、HFE−7100、HFE−7200、デュポン社製バートレルXF等が挙げられる。
図1は、ノズル本体の表面に撥インク膜を形成した状態を示す模式図である。同図に示すように、ノズル本体1の表面にSiO膜2が形成され、そのSiO膜2の表面に撥インク膜7が形成されている。この撥インク膜7は、模式的に示しているようにSiO膜表面の水酸基が反応して化学的に結合している結合部位3と、パーフルオロポリエーテル鎖を有する部位4とを有している。
次に具体的な実施例について説明する。
本発明の実施例1について図2と図3を用いて具体的に説明する。図3(a)に示すように幅10mm、長さ100mm、厚さ0.08mmのSUS304の板材に精密プレス加工によりノズル径Dが50μmのノズル6が多数個設けられたノズルプレート5を製作し、その表面を研磨テープにより研磨した。研磨後のノズル表面粗さはRa≦0.11μmであった。
このノズルプレート5をエタノールで希釈したシリカゾル溶液に浸漬して、ノズルプレート5の全体にシリカゾルをコートした。この溶液はノズル6(ノズル径D:50μm)がシリカゾルによって塞がらない濃度に調整する必要があり、本実施例ではシリカゾル濃度を0.1重量%以下に調整した。
その後、180℃で30分間加熱しシリカゾル膜を図3(b)に示すようにSiO膜2へ変化させた。SiO膜2はノズルプレート5の全体に形成され、その厚さは数十nm程度であった。ノズルプレート5を室温に戻した後、撥インク処理剤であるダイキン工業社製デムナムDSX(オプツールDSX)溶液を3M社製HFE−7200溶液で0.1重量%に希釈した溶液に10分間浸漬後、120℃で20分間加熱する。
前記デムナムDSXの構造式は、次の通りである。
F(CF2CF2CF2O)−nCF2CF2−O−Si−(OR)3
ここで得られた撥インク膜7の膜厚は6〜10nmであった。この時点では図3(c)に示すように撥インク膜7はノズルプレート全面に形成されているので、インクと接する上でインク流路側の撥インク膜7は除去する必要がある。
そのため図3(d)に示すように、ノズルプレート5のインクが吐出する側の表面にデュポン社製ドライフィルムレジストFX130からなるドライフィルムレジスト23を大成ラミネーター社製MAII−700型を用いてラミネートし、露光装置により紫外線24をドライフィルムレジスト23の上から照射して、図3(e)に示すようにマスク25を形成する。
その後、ヤマト硝子社製プラズマアッシング装置によりプラズマ照射を行い、インク流路側の撥インク膜7を除去し、その後マスク25を除去して、図2に示すようなインク吐出側表面にのみ撥インク膜7を形成したノズルプレート5を得る。
幅10mm、長さ100mm、厚さ0.08mmのFe−42Niの板材に精密プレス加工によりノズル径Dが50μmのノズルが多数個設けられたノズルプレートを製作し、その表面を研磨テープにより研磨した。研磨後のノズル表面粗さは、Ra≦0.07μmであった。
その後のSiO膜ならびに撥インク膜は実施例1と同様にして形成し、インク吐出側表面に撥インク膜を形成したノズルプレートを得た。
ニッケルのエレクトロフォーミングにより製作された幅10mm、長さ100mm、厚さ0.08mm、ノズル径がD50μmのノズルが多数個設けられたノズルプレートの表面を研磨テープにより研磨した。研磨後のノズル表面粗さは、Ra≦0.13μmであった。
その後のSiO膜ならびに撥インク膜は実施例1と同様にして形成し、インク吐出側表面に撥インク膜を形成したノズルプレートを得た。
本発明の実施例4を図4と共に説明する。幅10mm、長さ100mm、厚さ0.08mmのSUS304の板材に精密プレス加工によりノズル径Dが50μmのノズル6が多数個設けられたノズルプレート5を製作し、その表面を研磨テープにより研磨した。研磨後のノズル表面粗さはRa≦0.11μmであった。
このノズルプレート5のインクが吐出する側の表面にアルバック社製RFスパッタリング装置を用いSiOをスパッタリングして、厚さが数十nm程度のSiO膜2を形成した。
その後実施例1と同様にしてSiO膜2の上に撥インク膜7を形成したノズルプレート5を得た。
幅10mm、長さ100mm、厚さ0.08mmのFe−42Niの板材に精密プレス加工によりノズル径Dが50μmのノズルが多数個設けられたノズルプレートの表面を研磨テープにより研磨した。研磨後のノズル表面粗さはRa≦0.07μmであった。
その後のSiO膜ならびに撥インク膜は実施例4と同様にして形成し、インク吐出側表面に撥インク膜を形成したノズルプレートを得た。
ニッケルのエレクトロフォーミングにより製作された幅10mm、長さ100mm、厚さ0.08mm、ノズル径がD50μmのノズルが多数個設けられたノズルプレートの表面を研磨テープにより研磨した。研磨後のノズル表面粗さはRa≦0.13μmであった。
その後のSiO膜ならびに撥インク膜は実施例4と同様にして形成し、インク吐出側表面に撥インク膜を形成したノズルプレートを得た。
実施例4における撥インク処理剤の代わりに前記化合物1の溶液を3M社製フロリナートPF−5080溶液で0.3重量%に希釈した溶液を用い、その溶液にSiO膜付きのノズルプレートを10分間浸漬後、120℃で20分間加熱する。ここで得られた撥インク膜の膜厚は4〜7nmであった。
その後は実施例4と同様にして処理して、インク吐出側表面に撥インク膜を形成したノズルプレートを得た。
化合物1の代わりに前記化合物2を用いた以外は実施例7と同様にして、インク吐出側表面に膜厚が6〜10μmの撥インク膜を形成したノズルプレートを得た。
化合物1の代わりに前記化合物3を用いた以外は実施例7と同様にして、インク吐出側表面に膜厚が6〜10μmの撥インク膜を形成したノズルプレートを得た。
上記9種類の実施例を記述したが、ノズルプレートの材質とSiO膜の製膜方法とパーフルオロポリエーテル鎖とアルコキシシラン残基を有する化合物との組み合わせはこれに限定されるものではない。また撥インク膜の除去に用いたドライフィルムレジスト、ラミネート装置、プラズマアッシング装置において、これらに限定されるものではない。
[比較例1]
幅10mm、長さ100mm、厚さ0.08mmのSUS304の板材に精密プレス加工によりノズル径Dが50μmのノズルが多数個設けられたノズルプレートを製作した。そのノズル表面粗さはRa≧0.14μmであった。
そのノズルプレートを、ダイキン工業社製デムナムDSX溶液を3M社製HFE−7200溶液で0.1重量%に希釈した溶液に10分間浸漬後、120℃で20分間加熱する。
ここで得られた撥インク膜の膜厚は6〜10nmであった。この時点で撥インク膜はノズルプレート全面に形成されているため、インクと接する上でインク流路側の撥インク膜は除去する必要がある。
そのため、ノズルプレートのインクが吐出する面にデュポン社製ドライフィルムレジストFX130からなるドライフィルムレジストを大成ラミネーター社製MAII−700型を用いてラミネートし、露光装置により紫外線を照射してマスクを形成する。その後、ヤマト硝子社製プラズマアッシング装置によりプラズマ照射を行い、インク流路側の撥インク膜を除去し、しかる後にマスクを除去してノズルプレートを得た。
[比較例2]
ノズルプレートの表面を研磨テープにより研磨して、その表面粗さRaを≦0.11μmにした以外は、比較例1と同様にしてノズルプレートを得た。
[比較例3]
幅10mm、長さ100mm、厚さ0.08mmのSUS304の板材に精密プレス加工によりノズル径Dが50μmのノズルが多数個設けられたノズルプレートを製作した。そのノズル表面粗さはRa≧0.14μmであった。
このノズルプレートをエタノールで希釈して濃度を0.1%以下に調整したシリカゾル溶液に浸漬して、ノズルプレートにシリカゾルをコートした。その後、180℃で30分間加熱してシリカゾル膜をSiO膜2へ変化させた。SiO膜2の厚さは数十nm程度であった。その後は比較例1と同様にして撥インク膜を形成してノズルプレートを得た。
上記実施例1〜9及び比較例1〜3で作製したノズルプレートの撥インク膜の評価を行った。評価方法は、顔料混入の油性インクを不織布にしみこませてノズルプレートの撥インク膜面上で摺動を行い、摺動後の撥インク膜面に対する油性インクの接触角を測定した。
具体的には、直径が7mmの金属軸の外周を、厚さ2mmでショア硬度55のシリコンゴムで覆い、更にその上に顔料混入の油性インクを含浸させた不織布を巻きつけ、荷重150g、摺動速度50mm/sec、摺動距離20mmにて摺動試験を行った。評価として接触角が40°以上を維持するまでの摺動回数を調べ、その結果を次の表に示す。
Figure 2006044226
この摺動試験から明らかなように、実施例と同じような撥インク処理剤を使用しても、比較例1のようにノズルプレートの平均表面粗さRaが0.14μm以上と粗く、しかも撥インク膜をノズルプレートの表面に直接形成した場合、比較例2のようにノズルプレートの平均表面粗さRaを0.11μm以下と小さくしても、撥インク膜をノズルプレートの表面に直接形成し場合、あるいは比較例3のようにSiO膜を介して撥インク膜をノズルプレートの上に形成しても、ノズルプレートの平均表面粗さRaが0.14μm以上と粗い場合は、接触角が40°以上を維持する摺動回数がともに10回以下と少なく、従って比較例1〜3の撥インク膜は耐擦性が不十分である。
これに対して本発明の実施例1〜9に係るノズルプレートは、それの平均表面粗さRaを0.13μm以下に規制すると共に、そのノズルプレート表面にSiO膜を形成し、そのSiO膜上にパーフルオロポリエーテル鎖の末端にアルコキシシラン残基を有する化合物を結合した撥インク膜を形成している。
そのためこれらの相乗効果により、摺動回数を比較例の約20倍程度まで延長することができ、耐擦性に優れていることが立証できる。
本発明の実施例10を図5と図6に基づいて説明する。実施例1と同様にして図6に示すように、ノズルプレート5の全面にSiO膜2を介して撥インク膜7を形成する。
次にノズルプレート5のインク吐出側表面にデュポン社製ドライフィルムレジストFX130からなるドライフィルムレジスト23を、大成ラミネーター社製MAII−700型を用いてラミネートする。ラミネートが完了した後、ローラー温度120℃、ローラー速度30mm/s、ローラー圧力0.4MPaに設定し、再度ラミネーターに通過させる。
これにより図6に示すように、ドライフィルムレジスト23の一部がノズル6内に入り込む。ノズル内への入り込み量は、ラミネーターの前記条件を変更するか通過させる回数を変更することにより、任意に調整可能である。本実施例においては、ノズル径Dの1/4に相当する入り込み量Aとした(図5参照)。
このドライフィルムレジスト23によりノズルプレート5のインク吐出面とその表面から1/4入り込んだ位置まで撥インク膜7が覆われた状態で、露光装置により紫外線を照射してマスクを形成する。
その後ヤマト硝子社製プラズマアッシング装置によりプラズマ照射を行い、インク流路側の撥インク膜7を除去し、その後に前記マスクを除去した。
これにより図5に示すように、ノズルプレート5の表面からノズル径の1/4入り込んだ位置まで撥インク膜7が施されたノズルプレート5を得た。
本実施例においてはノズルプレート材にSUS304を用い、SiO膜の形成をシリカゾルの塗布後加熱処理する方法を、撥インク膜の形成にオプツールDSXを使用して実施したが、ノズルプレートの材質、SiO膜の製膜方法、パーフルオロポリエーテル鎖とアルコキシシラン残基を有する化合物の組み合わせなどはこれに限定されるものではない。
また撥インク膜の除去に用いたドライフィルムレジスト、ラミネート装置、プラズマアッシング装置においても、これらに限定されるものではない。さらにノズル内への撥インク膜の入り込み量をノズル径の1/4相当としたが、1/4以下であってもなんら問題は無い。ただし1/4以上になる場合は、インクメニスカスの形成位置がノズル表面から深い位置になってくるためインクが吐出し難くなる可能性がある。
本発明の実施例11を図7ないし図9を用いて説明する。本実施例の場合、ノズルプレート5のインク吐出側表面に、ノズルプレート5のノズル6よりも大きい穴26を有するカバープレート27を設けている。具体的には、エッチング加工により直径250μmの穴26がノズルプレート5の各ノズル6に対応した位置に設けられた、幅10mm、長さ100mm、厚さ0.03mmのSUS304の板材からなるカバープレート27が用いられる。
前記実施例1〜10ではノズルプレート5単独でノズル本体1を構成しているが、本実施例ではノズルプレート5とカバープレート27の組み合わせでノズル本体1を構成している。
図9(a)〜(c)は、この実施例に係るノズル本体1の製造過程を説明するための図である。図9(a)に示すようにノズルプレート5の全面にSiO膜2を介して撥インク膜7を形成する手順は、前記実施例1〜10の何れかと同様である。
このノズルプレート5のインク吐出側表面にデュポン社製ドライフィルムレジストFX130からなるドライフィルムレジスト23を、大成ラミネーター社製MAII−700型を用いてラミネートする。そして、カバープレート27が接合される部分以外、すなわちノズル近傍の撥インク膜7上のレジスト23が残るようにカバー28で覆い、その上から露光29を行う[図9(a)参照]。
その後現像してカバープレート27が接合される部分にマスク25を形成し[図9(b)参照]、ヤマト硝子社製プラズマアッシング装置によりプラズマ照射を行い、ノズルプレート5上の不要な撥インク膜7を除去し、その後にマスク25をノズルプレート5から取り外す。
一方、カバープレート27の表面を研磨テープにより研磨し、表面粗さRaを≦0.11μmとした。このカバープレート27をメタノールで希釈したシリカゾル溶液に浸漬して、カバープレート27にシリカゾルをコートした。この溶液は穴26がシリカゾルによって塞がらない濃度に調整する必要があり、本実施例ではシリカゾル濃度を0.3重量%以下とした。
その後、180℃で30分間加熱しシリカゾル膜をSiO膜2へ変化させた。このSiO膜2の厚さは数十nm程度であった。カバープレート27を室温に戻した後、ダイキン工業社製オプツールDSX溶液を3M社製HFE−7200溶液で0.1重量%に希釈した溶液に10分間浸漬し、その後120℃で20分間加熱する。ここで得られた撥インク膜7の膜厚は6〜10nmであった。
この時点で撥インク膜7はカバープレート27の全面に形成されているので、ノズルプレート5と接合する面の撥インク膜7を除去する必要がある。この撥インク膜7の部分的な除去手順は、ノズルプレート5の場合と同様であるので説明は省略する。
本実施例では、表面に撥インク膜7を形成したノズルプレート5を用いたが、表面に撥インク膜7を形成しないノズルプレート5を用いることもできる。
図9(c)に示すように、部分的に撥インク膜7を形成したノズルプレート5とカバープレート27を、ノズル6と穴26が同心円上になるように重ね合わせて、両者を接着などの手段で一体化する(図7参照)。なお、本実施例の場合図7に示すように、カバープレート27における穴26の周面の撥インク膜7は除去されている。
図10(a)〜(d)は、本実施例に係るインクジェットヘッドにおけるノズル近傍のインクの挙動を説明するための図である。
吐出不良が起きたノズルを復旧するために行われるインク吸引あるいはインク加圧、あるいは長時間の連続吐出によるしぶき等によって、図10(a)に示すように、ノズル6の開口部周囲にインク60が溜まろうとする。
しかし、穴26の周面には撥インク膜7が形成されておらず、撥インク性がないため、インク60がその周面に接触すると、図10(b)に示すように周面に吸い寄せられて一様に濡れ広がり、インク60はカバープレート27の表面近くまで移行する。
この状態で図10(c)に示すように、不織布などからなるインク吸収部材61をカバープレート27の表面に接触させると、カバープレート27の表面近傍に付着したインク60がインク吸収部材61に素早く吸収され、カバープレート27の表面を簡単に清掃することができる。これにより図10(d)に示すように、ノズル6からのインク滴の正常な吐出が可能となる。
本発明者らの実験の結果、穴26の直径はノズル6の直径Dの4〜8倍程度、カバープレート27の厚さはノズル6の直径Dの0.4〜1倍程度の範囲が良好であることが判明した。
図11は、実施例12を説明するための図である。図7に示す実施例と相違する点は、ノズルプレート5には撥インク膜7が形成されておらず、カバープレート27のインク吐出側表面のみに撥インク膜7が形成されている点である。
図12は、実施例13を説明するための図である。図7に示す実施例と相違する点は、ノズルプレート5とカバープレート27が一体となったノズル本体1を用いている点と、それの穴26の周面にも撥インク膜7が形成されている点である。
例えば図2や図10に示すように、インク流路側にSiO膜2が形成されていると、次のような効果を有する。
(1)SiO膜は親水性があるので、特に水性インクのインク充填時に気泡の排出が容易で、インクの充填がスムーズに行われる。
(2)SiO膜は化学的に安定しているため、ノズル本体を腐食性の強いインクから保護する保護膜としての機能も有している。
反対に例えば図4や図11に示すように、インク流路側にSiO膜2が形成されていないと、次のような効果を有する。
(1)SiO膜に対して濡れ性の悪いインクの場合は、SiO膜が形成されていない方が、インク充填時に気泡の排出が容易で、インクの充填がスムーズに行われる。
(2)SiO膜付きのノズルプレート(ノズル本体)とインク流路形成部材(加圧室プレート)を接着する際、所望の接着強度が得られず、ノズルプレート(ノズル本体)とSiO膜の間で剥がれる心配があるが、ノズルプレート(ノズル本体)とインク流路形成部材を直接接着すると、高い接着強度が得られる。
(3)上述のようにSiO膜が剥がれると、それが異物となる心配があるが、インク流路側にSiO膜が形成されていないとそのような心配はない。
(4)SiO膜の形成領域が限られることにより、材料費の低減を図ることができる。
図14は、本発明に係るインクジェットヘッドを搭載したインクジェット記録装置の斜視図である。筐体30の上部にヘッドベース31が配置され、その上に4本のヘッド組32が設けられている。筐体30の内部にはロール紙搬送装置や制御装置などが収納されているが、図示を省略してある。
前記4本のヘッド組32には、4本のインク供給管34から、カラー印刷のためにシアン、マジェンタ、イエロー、ブラックの4種類のインクが個別に供給される。
各ヘッド組32には、印刷用紙33の長手方向(搬送方向)と直交する方向に、例えば20個のインクジェットヘッド(図13参照)が配列され、各インクジェットヘッドには図2に示したノズル6が例えば128個列設されている。ノズルと対向するように印刷用紙(ロール紙)33が搬送され、その上流側に前記ロール紙搬送装置(図示せず)が配置されている。
筐体30の上部のフレーム39,40の間にロッド37,38が架設され、そのロッド37,38に支持体35,36が摺動可能に支持されて、この支持体35,36の間に前記ヘッドベース31が取り付けられている。従ってヘッド組32は、印刷用紙33の長手方向(搬送方向)と直交する方向に移動して、ヘッドクリーニング機構41の位置まで待機することができる。
本発明に係るインクジェットヘッドは上記のような記録装置の他に汎用の小型インクジェット記録装置にも適用可能である。
図15は、本発明に係るインクジェットヘッドを搭載したインクジェット塗布装置の斜視図である。基体50の上部にヘッドベース51が配置され、その上に1個または複数個のインクジェットヘッド(図13参照)を搭載したヘッド組52が設けられている。ヘッド組52には吐出溶液供給管54から、吐出溶液が供給される。ヘッド組52のノズルと対向するように被吐出基板ベース53が設けられ、その上にインクによりパターンなどが形成される被塗布部材55をセットする。
本実施例ではヘッド組52がX方向及びZ方向に移動できる機構となっており、被吐出基板ベース53にY方向に移動できる機構が備わっていて、任意のパターンが被塗布部材55上に形成可能である。本実施例では、カットされた板、紙、フィルムなどを被塗布部材として用いているが、連続したシート状の被塗布部材を用い、それを搬送する機構を搭載してもよい。
具体的には、インクジェットの特徴を生かしフラットパネルディスプレイ製造装置、3次元造形機、プリント基板回路形成、燃料電池の電極形成など各種パターニング装置への適用が可能である。
前記実施例ではSiO単独からなるSiO膜を形成した場合を説明したが、必要に応じてあるいは必然的に他の成分を含んだSiOを主成分とするSiO膜を用いることもある。なお、前記他の成分としては、例えばテトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ブチルトリブトキシシランなどがある。
本発明においてノズル本体の表面にSiO膜を介して撥インク膜を形成した状態を示す模式図である。 本発明の実施例1に係るノズル本体の一部断面図である。 そのノズル本体にSiO膜と撥インク膜を形成する過程を説明するための図である。 本発明の実施例4に係るノズル本体の一部断面図である。 本発明の実施例10に係るノズル本体の一部断面図である。 そのノズル本体にSiO膜と撥インク膜を形成する過程を説明するための図である。 本発明の実施例11に係るノズル本体の一部断面図である。 そのノズル本体をインク吐出表面側から視た図である。 そのノズル本体にSiO膜と撥インク膜を形成する過程を説明するための図である。 そのノズル本体におけるノズル近傍のインクの挙動を説明するための図である。 本発明の実施例12に係るノズル本体の一部断面図である。 本発明の実施例13に係るノズル本体の一部断面図である。 本発明の実施例に係るインクジェットヘッドの断面図である。 そのインクジェットヘッドを搭載したインクジェット記録装置の斜視図である。 そのインクジェットヘッドを搭載したインクジェット塗布装置の斜視図である。
符号の説明
1:ノズル本体、2:SiO膜、3:結合部位、4:パーフルオロポリエーテル鎖を有する部位、5:ノズルプレート、6:ノズル、7:撥インク膜、9:フィルタ部、10:接着剤、11:リストリクタプレート、12:加圧室プレート、15:共通インク供給路形成部材、16:加圧室、17:振動板、18:圧電素子、19a、19b:信号入力端子、20:圧電素子固定板、21:リストリクタ、22:共通インク供給路、23:ドライフィルムレジスト、24:紫外線、25:マスク、26:穴、27:カバープレート、28:カバー、29:露光、30:筺体、31:ヘッドベース、32:ヘッド組、33:印刷用紙、34:インク供給管、35、36:支持体、37、38:ロッド、39、40:フレーム、41:ヘッドクリーニング機構、50:基体、51:ヘッドベース、52:ヘッド組、53:被吐出基板ベース、54:吐出溶液供給管、55:被塗布部材、60:インク、61:インク吸収部材、A:入り込み量、D:ノズル径。

Claims (13)

  1. 金属部材のノズル本体に形成したノズルよりインクを吐出させるインクジェットヘッドにおいて、前記ノズル本体の少なくともインク吐出側表面にSiOを主成分とするSiO膜を設け、そのSiO膜上にパーフルオロポリエーテル鎖の末端にアルコキシシラン残基を有する化合物が結合した撥インク膜を形成し、前記ノズル本体の表面平均粗さRaが0.13μm以下に規制されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
  2. 請求項1記載のインクジェットヘッドにおいて、前記パーフルオロポリエーテル鎖の末端にアルコキシシラン残基を有する化合物が、下記の一般式を有する化合物であることを特徴とするインクジェットヘッド。
    Figure 2006044226
  3. 請求項2記載のインクジェットヘッドにおいて、前記一般式中の末端が−Si(OR)3であることを特徴とするインクジェットヘッド。
  4. 請求項2記載のインクジェットヘッドにおいて、前記一般式中の結合部位X,Yが下記の分子構造を有することを特徴とするインクジェットヘッド。
    Figure 2006044226
  5. 請求項1記載のインクジェットヘッドにおいて、前記SiO膜がノズル本体のインク流路側に延びて形成されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
  6. 請求項1記載のインクジェットヘッドにおいて、前記SiO膜がノズル本体のインク流路側まで延びていないことを特徴とするインクジェットヘッド。
  7. 金属部材のノズル本体に形成したノズルよりインクを吐出させるインクジェットヘッドの製造方法において、
    前記ノズル本体の表面を平坦化する工程と、
    前記ノズル本体のノズルが塞がらない濃度に調整されたシリカゾル溶液を前記ノズル本体に塗布する工程と、
    前記ノズル本体上に形成されたシリカゾル膜を加熱してSiO膜に変化する工程と、
    パーフルオロポリエーテル鎖の末端にアルコキシシラン残基を有する化合物を溶剤に溶解した撥インク処理剤溶液を前記SiO膜上に塗布し、乾燥して撥インク膜を形成する工程と、
    前記ノズル本体のインク流路と接する側に形成されている撥インク膜を除去して、ノズル本体の少なくともインク吐出側表面に形成されている撥インク膜を残す工程とを有することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
  8. 金属部材のノズル本体に形成したノズルよりインクを吐出させるインクジェットヘッドの製造方法において、
    前記ノズル本体の表面を平坦化する工程と、
    前記ノズル本体のインク吐出側表面にSiO膜を形成する工程と、
    パーフルオロポリエーテル鎖の末端にアルコキシシラン残基を有する化合物を溶剤に溶解した撥インク処理剤溶液を前記SiO膜上に塗布し、乾燥して撥インク膜を形成する工程とを有することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
  9. 請求項7または8記載のインクジェットヘッドの製造方法において、前記パーフルオロポリエーテル鎖の末端にアルコキシシラン残基を有する化合物が、下記の一般式を有する化合物であることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
    Figure 2006044226
  10. 請求項9記載のインクジェットヘッドの製造方法において、前記一般式中の末端が−Si(OR)3であることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
  11. 請求項8記載のインクジェットヘッドの製造方法において、前記一般式中の結合部位X,Yが下記の分子構造を有することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
    Figure 2006044226
  12. インクジェットヘッドと、被記録材を所定の方向に搬送する搬送手段とを備えて、前記インクジェットヘッドから吐出されるインクを前記被記録材上に付着して情報を記録するインクジェット記録装置において、
    前記インクジェットヘッドが請求項1ないし6の何れか1項に記載のインクジェットヘッドであることを特徴とするインクジェット記録装置。
  13. インクジェットヘッドと、被塗布部材を所定の方向に搬送する搬送手段とを備えて、
    前記インクジェットヘッドから吐出されるインクを前記被塗布部材上に付着するインクジェット塗布装置において、
    前記インクジェットヘッドが請求項1ないし6の何れか1項に記載のインクジェットヘッドであることを特徴とするインクジェット塗布装置。
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