JP5193501B2 - インクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法 - Google Patents

Description

本発明は、インクジェットヘッド用のノズルプレート、及びその製造方法・加工方法、並びに、その製造・加工のために用いられる処理液、等に関する。

従来より、インクジェットヘッドの寿命を伸ばす方法として、インクジェットヘッドのノズルプレート（ノズル基板）を表面処理して表面層を形成することが知られており、特にノズルプレートの表面等に撥インク層（撥水層）を形成したものが開示されている(例えば特許文献１)。

しかしながら、上記特許文献１記載のような層構造を有するインクジェットヘッドにおいては、ノズル周りの撥インク表面層にダメージを受けた場合、その表面層が腐食・剥離してインクの吐出直進性を阻害する要因となっている。
このような問題に対し、ノズルプレートにおけるインク吐出口の周りにカバープレートを形成する方法(特許文献２)によって、ノズル周りの撥インク表面層にダメージを受けにくくさせることが可能である。しかし、特許文献２に記載の方法では、ノズルプレートに対しカバープレートを精密に位置決めし、接着するなど、その生産加工に手間やコストがかかり、また、その生産プロセスは複雑な工程を要するために工場内での生産設備が必要であり、ユーザ先での簡便な、オンデマンドでの加工は不可能であった。
特開２００３−６３０１４号公報 特開２００５-７７８９号公報

本発明は上記背景の下なされたものであり、上記課題を解消し得るインクジェットヘッド用のノズルプレートの提供、並びに、その簡便な製造方法・加工方法や製造・加工のための処理薬液の提供を目的とする。
また、ユーザ先でのオンデマンドでの加工を可能にすることを目的とする。

本発明は、以下の構成を有する。
（構成１）
基板にインク吐出口を形成してなるノズルプレートにおけるインクが吐出する側の面に、撥インク層が形成され、かつ、インク吐出口の周囲の撥インク層の前記インク吐出口に処理薬液を充填することによって、インク吐出口の周囲の撥インク層の機械的強度を選択的に低下させた後、機械的な除去手段を用いることにより、機械的強度を選択的に低下させた部分である前記インク吐出口の周囲の撥インク層を選択的に除去させ、これにより、インク吐出口の周囲のノズルプレートを露出させたことを特徴とするインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
（構成２）
前記撥インク層が、フッ素樹脂と金属とを共析させることにより得られた層であって、前記インク吐出口に酸性液体を充填することによって、インク吐出口の周囲の撥インク層の機械的強度を選択的に低下させることを特徴とする構成１に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
（構成３）
前記インク吐出口の周囲の撥インク層を選択的に除去する機械的な除去手段は、前記撥インク層上を摺動させる、柔軟性を有するブレードであることを特徴とする構成１または２に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
（構成４）
前記柔軟性を有するブレードによる、撥インク層上の摺動は、一定の時間間隔で行うことを特徴とする構成３に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
（構成５）
前記柔軟性を有するブレードが、ゴム材料からなることを特徴とする構成３又は４に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
（構成６）
前記機械的な除去手段が、インクジェットプリンタ装置におけるインクジェットヘッドのワイピング機構からなるヘッドクリーニング機構であることを特徴とする構成３−５のいずれか一に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
（構成７）
前記処理薬液は、ノズルプレートの表面に形成された、フッ素樹脂と金属とを共析させることにより得られた層の加工を行う際に使用され、前記フッ素樹脂と金属とを共析させることにより得られた層の機械的強度を低下させる機能を有する酸性液体を含むことを特徴とする構成１−６のいずれか一に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
（構成８）
前記酸性液体が、ｐＨ１．５−４．０の範囲にある水溶液であることを特徴とする構成７に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
（構成９）
前記酸性液体が、有機カルボン酸を含有する水溶液であることを特徴とする構成７又は８に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
（構成１０）
前記有機カルボン酸が、ヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする構成９に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
（構成１１）
前記酸性液体が、更に浸透性界面活性剤を含有することを特徴とする構成７−１０のいずれか一に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
（構成１２）
前記浸透性界面活性剤が、アセチレン系の界面活性剤であることを特徴とする構成１１に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。

本発明に係るインクジェットヘッド用のノズルプレートによれば、インク吐出口の周囲に撥インク層が存在しないので、インク吐出口の周囲に撥インク層が存在する場合に生じる後で詳述する課題を解決できる。
本発明のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法・加工方法によれば、後述する簡便な方法によって、インク吐出口（ノズル開口、ノズルオリフィス）の周囲の撥インク層を選択的に除去可能となる。
また、インクジェットプリンタ装置に処理前のヘッドを取り付け、インク吐出口に処理薬液を供給することによって、専用加工設備が無い場所でも簡便に処理を行うことができる。これにより、ユーザ先でのオンデマンドでの加工が可能になる。

以下、本発明のインクジェットヘッド用のノズルプレートについて、図１を参照しながら説明する。
本発明に係るインクジェットヘッド用のノズルプレートによれば、例えば図１（１）に示すように、基板にインク吐出口１ａを形成してなるノズルプレート１におけるインクが吐出する側の面に、撥インク層２が形成され、かつ、インク吐出口１ａの周囲の撥インク層２が選択的に除去され、これにより、インク吐出口１ａの周囲のノズルプレート（表面）は露出している。
このように、本発明ではインク吐出口１ａの周囲に撥インク層２が存在しないので、インク吐出口の周囲に撥インク層が存在する場合における以下に示すような課題を解決できる。
具体的には、例えば図１（２）に示すようにインク吐出口１ａの周囲に撥インク層２が存在する場合（特許文献１参照）、例えば、ワイパによるワイピングによって撥インク層２の端面（エッジ）に直接ワイパが触れるため物理的ダメージを受けやすい構造になっており、撥インク層２の端面（エッジ）２’がダメージを受けた場合、インクの吐出直進性を阻害する要因となる。
また、例えば図１（３）に示すようにノズルプレートにおけるインク吐出口１ａの周りにカバープレート５を形成する方法(特許文献２)によって、インク吐出口１ａの周りの撥インク層２にワイパの接触等による物理的ダメージを受けにくくさせることが可能である。しかし、特許文献２に記載の方法では、インク吐出口１ａの周りの撥インク層２の端面（エッジ）２’が腐食され、インクの吐出直進性を阻害する要因となる。特に、撥インク層２の化学的耐久性が弱い場合（例えば特許文献２）、撥インク層の端面（エッジ）の腐食により、吐出直進性が悪くなる。
本発明ではインク吐出口１ａの周囲に撥インク層２が存在しないので、上記のようなインクの吐出直進性を阻害する要因がなく、したがって良好な印字品質を得ることができる。

次に、本発明のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法（加工方法）について、図２〜図３を参照しながら説明する。
図２（１）及び（２）は、インクジェットヘッドにおけるノズルプレートのインク吐出口に、撥インク層の機械的強度を低下させるための処理薬液を充填した状態を説明するための模式図であり、図２（１）は断面図、図２（２）は斜視図である。
また、図３（１）及び（２）は、インク吐出口の周囲の撥インク層を選択的に除去した状態を説明するための模式図であり、図３（１）は断面図、図３（２）は斜視図である。

本発明の製造方法（加工方法）においては、まず、図２（１）及び（２）示すように、平板状の基板にインク吐出口１ａを形成してなるノズルプレート１におけるインクが吐出する側の面に、撥インク層２が形成されたノズルプレート１を準備する。
ここで、ノズルプレート１は、例えば、ＮｉまたはＦｅ等を含有する合金素材からなる。
インク吐出口１ａは、ノズル開口、ノズルオリフィスなどと呼ばれることがある。
撥インク層２は、インクジェットヘッドにおける端面即ち最も表面側の面に形成される。

本発明の製造方法（加工方法）においては、次に、インク吐出口の周囲の撥インク層を選択的に除去する。この工程は、以下の工程（１）及び工程（２）からなることが好ましい。

工程(１)は、図２（１）及び（２）示すように、インク吐出口１ａに処理薬液３を充填することによって、インク吐出口１ａの周囲の撥インク層２の機械的強度を選択的に低下させる工程である。
詳しくは、図２（１）及び（２）に示すように、ノズルプレート１におけるインクが吐出する側の面を下方に向けた状態でノズルプレート１を水平に保持し、インク吐出口１ａに上方側から処理薬液３を充填する。これによって、図２（１）及び（２）に示すように、ノズルプレート１におけるインクが吐出する側の面から突出した処理薬液３は、撥インク層２の作用を受け、液滴（液だまり）３ａを生じる。これにより、インク吐出口１ａの周囲の撥インク層に処理薬液３を選択的に作用させることができ、これにより、インク吐出口１ａの周囲、即ちインク吐出口１ａの中心から一定半径内にある領域、における撥インク層の機械的強度を選択的に低下させ、この部分を選択的に除去することが可能となる。

工程(２)は、機械的な除去手段を用いて、機械的強度を選択的に低下させた部分であるインク吐出口の周囲の撥インク層を選択的に除去する工程である。
詳しくは、例えば、図２（２）示すように、機械的な除去手段として、撥インク層２上に柔軟性を有するブレード４を摺動させ、この柔軟性を有するブレード４によって前記撥インク層２をこする。これによって、機械的強度を選択的に低下させた部分であるインク吐出口の周囲の撥インク層が選択的に除去される。
この結果、図３（１）及び（２）に示すように、インク吐出口１ａの周囲の撥インク層２は選択的（部分的）に除去され、これにより、インク吐出口１ａの周囲のノズルプレート（表面）１ｂは露出する（露出面となる）。
上記のようにして得られたノズルプレートではインク吐出口１ａの周囲に撥インク層２が存在しないので、上記のようなインク吐出口の周囲に撥インク層が存在する場合に生じるインクの吐出曲がりが起きることがなく、したがって良好な印字品質を得ることができる。

本発明の製造方法（加工方法）によれば、上記のような簡便な方法によって、インク吐出口（ノズル開口、ノズルオリフィス）の周囲の撥インク層を選択的に除去可能となる。
また、本発明の製造方法（加工方法）によれば、インクジェットプリンタ装置に処理前のヘッドを取り付け、インク吐出口に処理薬液を供給することによって、専用加工設備が無い場所でも簡便に処理を行うことができる。これにより、ユーザ先でのオンデマンドでの加工が可能になる。

本発明において、前記撥インク層２は、フッ素樹脂と金属とを共析させることにより得られた層であることが好ましい。
本発明において、フッ素樹脂と金属とを共析させることにより得られた層は、例えば、フッ素樹脂粒子と金属とを複合メッキ法によって共析させることにより得られる。複合メッキ法は、メッキ浴中に微粒子を混入させ、金属と同時に共析させることにより、皮膜に新たな機能を付与させるメッキである。電解メッキ、無電解メッキのどちらでも複合メッキは可能である。
前記のフッ素樹脂としては、ＰＴＦＥ(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリパーフルオロアルコキシブタジエン、ポリフルオロビニリデン、ポリフルオロビニル、ポリジパーフルオロアルキルフマレートや、ＰＦＡ（テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体）、ＦＥＰ（テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体）、ＥＴＦＥ（テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体）、ＰＶＤＦ（ポリビニリデンフルオライド）、ＰＣＴＦＥ（ポリクロロトリフルオロエチレン）、等の樹脂を単独にまたは混合して用いることができる。これらのフッ素樹脂は、撥インク性（撥水性）を付与できる樹脂である。また、これらのフッ素樹脂は酸・アルカリ・有機溶剤などの化学薬品に対して安定である。
前記のフッ素樹脂としては、化学的耐久性等の観点から、ＦＥＰ（テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体）、ＰＴＦＥ(ポリテトラフルオロエチレン)、などが好ましい。
前記の金属としては、ニッケル、銅、銀、錫、亜鉛等を用いることが出来るが、ニッケル、ニッケル−コバルト合金、ニッケル−ホウ素合金等の表面硬度が大きく耐摩耗性に優れる材料の利用が好ましい。

本発明において、処理薬液３は、フッ素樹脂と金属とを共析させることにより得られた層における金属を徐々に溶解させることが可能な酸性液体であることが好ましい。
このとき、酸性液体が金属を溶解させることによってフッ素樹脂のみが残り、フッ素樹脂と金属とを共析層の機械的強度が低下する。例えば、ＮｉとＦＥＰの共析メッキからなる撥インク層は、酸性液体がＮｉを溶解させることによってＦＥＰのみが残り、これにより撥インク層の機械的強度が低下する。
前記酸性液体はｐＨ１．５〜４．０の範囲にある水溶液であることが好ましく、更に有機カルボン酸を含有する水溶液であることが好ましい。
前記有機カルボン酸としては、ヒドロキシカルボン酸(例えばグリコール酸)、酢酸、ギ酸等が例示されるが、臭気、生体安全性の理由でヒドロキシカルボン酸(例えばグリコール酸)を使用することが好ましい。
グリコール酸（ＣＨ_２(ＯＨ)ＣＯＯＨ）は、ヒドロキシ酢酸とも呼ばれ、一般にフルーツ酸と呼ばれるアルファヒドロキシ酸(ＡＨＡ)に分類される酸の一種である。

本発明において、前記の酸性液体に浸透性界面活性剤を含有させると、濡れ性を上げることができ、このにより、ノズル周りの撥インク層２の溶解を促進させる働きがあるので好ましい。

本発明において、ブレード４は、柔軟性があり、機械的に撥インク層２の除去を促進させる作用があり、撥インク層２の表面に傷をつけないこと、酸・アルカリ等に耐えうる素材でああること、等の特性を満たす材料からなることが好ましく、例えば、ゴム材料からなることが望ましい。本発明において、ブレード４は、上記と同様の特性を満たす材料であればゴム材料に限定するものではない。
本発明において、前記ブレードの１回の摺動動作は往復動作で行うことが好ましく、往復動作を行うことによって撥インク層２の溶解された部分は周縁に残存することなく除去される効果がある。
また、前記の摺動操作は一定の時間間隔で(定期的に) 行うことによって、ノズル毎の処理薬液３の液滴３ａの直径及び高さのばらつきをリセットし（余分なメニスカス又はノズル周りの薬液を物理的に除去し)、撥インク層２の除去部分の直径のばらつきを調整でき、ノズル毎の直径の大きさを均一化できるので好ましい。
本発明において、ブレード４を有する機械的な除去手段として、インクジェットプリンタ装置におけるインクジェットヘッドのワイピング機構からなるヘッドクリーニング機構を用いることができる。これにより、特別な装置を用いることなく、オンデマンドでの加工が容易となる。

本発明において、処理薬液３としてグリコール酸を用いる場合、グリコール酸の水溶液中のグリコール酸の濃度としては、１ｗｔ％〜１０ｗｔ％が好ましい。１ｗｔ％以下の濃度では撥インク層２を機械的強度を低下させる程度に溶解させることができないか、溶解させるのに時間がかかり過ぎてしまい、１０ｗｔ％以上の濃度では、溶解速度が速すぎて撥インク層２を溶解させる際のコントロールが難しく、また溶解作用が強すぎると下層のノズルプレート層１まで溶解する虞があるからである。
必要に応じ、浸透性界面活性剤、例えばアセチレン系界面活性剤（例：サーフィノール４６５（エアープロダクツ社製））を１ｗｔ％程度の濃度として、処理薬液３に添加すると、濡れ性を上げることができるので、ノズル周りの撥インク層２の溶解を促進させる働きがあるので好ましい。アセチレン系界面活性剤としては、ノニオン性・カチオン性・アニオン性いずれの界面活性剤でも使用可能である。
また、処理薬液３が撥インク層２を溶解させる速度が早すぎる場合には、例えば、ジエチレングリコールを０〜１５ｗｔ％の濃度となるように、処理薬液３に添加すると、反応速度を遅らせることができるので、撥インク層２の溶解速度の時間を制御するのが容易になる。

本発明において、インクジェット記録装置としては、圧電体素子の機械的体積変化によりインク滴を形成し、吐出させるいわゆるピエゾヘッド型インクジェット記録装置、インク組成物に熱エネルギーを加え、それによる体積膨張を利用してインク滴を形成し、吐出させるいわゆるバブルジェット型（バブルジェットは登録商標である）またはサーマルジェット型インクジェット記録装置のいずれであってもよい。

本発明のノズルプレートは、圧電素子を用いたインクジェット記録方法に極めて有利に用いられる。ピエゾ型のインクジェット記録ヘッドは耐久性にきわめて優れており、捺染のような長時間、安定的な吐出が求められる分野には特に好ましい。本発明のノズルプレートは、ピエゾ型のインクジェット記録ヘッドに極めて適合するものであり、広範囲の温度領域において長時間、安定した連続吐出を可能にする。このことは膨大な吐出を要求される長尺物の印捺に極めて好適であり、本発明により得られる大きな利点である。

本発明においてノズルプレートの材料は特に限定されないが、金属、セラミックス、シリコン、硝子、プラスチック等で形成されることが好ましく、より好ましくはチタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、錫、金等の単一材若しくはニッケル−リン合金、錫−銅−リン合金、銅−亜鉛合金、ステンレス鋼等の合金、ポリカーボネート、ポリサルフォン、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリサルフォンおよび各種の感光性樹脂で形成されている事が好ましい。

本発明は、上記実施の形態に限定されない。
例えば、処理薬液３として、撥インク層の構成成分の少なくとも一部を溶解又は腐食させる働きがあるものや、撥インク層を溶解又は腐食させる働きがあるものを用いることが可能である。そして、このような処理薬液３を、図２（１）及び（２）に示すように、インク吐出口１ａの周囲の撥インク層に選択的に作用させ、これにより、図３（１）及び（２）に示すように、インク吐出口１ａの周囲、即ちインク吐出口１ａの中心から一定半径内にある領域、における撥インク層を選択的に除去することも可能である。
また、例えば、処理薬液３は、インク吐出口に充填させることなく、インクジェットヘッド用の処理液として使用することが可能である。

尚、図１（１）及び図３（１）及び（２）に示した、インク吐出口の周囲の撥インク層を選択的に除去したノズルプレートは、撥インク層の非除去部分をマスキング処理した後、上記の処理薬液３や、より強力な鉱酸等を用いて処理することによって得ることができるが、この場合、非除去部分をマスキング処理する必要があり工程が複雑である。
同様に、図１（１）及び図３（１）及び（２）に示した、インク吐出口の周囲の撥インク層を選択的に除去したノズルプレートは、撥インク層の非除去部分をマスキング処理した後、特開２００３−６３０１４号公報(特許文献１)記載のプラズマ照射を用いて処理することによって得ることができるが、この場合、非除去部分をマスキング処理する必要があり工程が複雑であり、プラズマ照射装置が必要となる。

以下に本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
（実施例１）
インクジェットヘッドのノズルプレートの加工を下記のプロセスで行った。
［ノズルプレートの準備］
ノズルプレートの表面に、図２（１）及び（２）に示すように、撥インク層２を形成した。撥インク層２は、無電解複合メッキ法によって、無電解ニッケル−ＦＥＰ（テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体）複合メッキ層を形成した。
［加工プロセス］
（１）ヘッドへの酸性処理薬液の充填
インクジェットヘッドへの酸性処理薬液の充填を、通常のインクジェットヘッドへインクを充填するのと同様の方法で行なった。このときの、酸性処理薬液の組成、ｐＨを以下に示す。
・（酸性処理薬液組成）
グリコール酸：１０重量％
サーフィノール：１重量％
残部：水
・酸性処理薬液のｐＨ：１．５
（２）定期ワイピング作業
定期ワイピング作業を２時間おきに４〜８回実施した。これにより、ノズルプレートの吐出口周辺の撥インク層を選択的に除去した。
（３）洗浄液置換
ワイピング作業終了後から２〜１２時間後に酸性処理薬液を洗浄液で置換した。
（４）クリーニング作業
洗浄液によるクリーニング作業によってノズル周りの残渣の除去を行った。
尚、上記（１）〜（４）工程の温度条件は２０〜３０℃とした。
［加工の評価］
上記の条件で作製したヘッドを顕微鏡観察した結果、図３（１）及び（２）に示すようにノズルプレートのインク吐出口周辺の撥インク層が選択的に除去されたノズルプレートを有するインクジェットヘッドを作製することができた。
[印字品質の検証]
本発明によるインクジェットヘッドを大型インクジェットプリンタ装置本体に取り付け、該ヘッドに分散染料インクを充填させ、インクジェットプリンタで１ｍ×１ｍ吐出を行ない、ノズルチェックパターンにて、飛行曲がり、及びノズル抜けの数をカウントした。
上記の条件で試験した結果、ノズル抜け：０本、飛行曲がり：０本と、印字不良は認められず、高い印字品質を得ることが可能となった。

尚、上記実施例では、図３（１）及び（２）に示すようにノズルプレートのインク吐出口周辺の撥インク層が選択的に除去されたノズルプレートを有するヘッドを作製したが、酸性液体による撥インク層のノズル周囲の溶解処理時間を調整することで、任意の径が除去されたヘッドの作製が可能であり、本プロセスは、図３（１）及び（２）に示すようなインク吐出口周辺のみの除去に限定されるものではない。

（実施例２）
実施例１において、グリコール酸を１重量％とし、酸性処理薬液のｐＨを３．９とした。他は実施例１と同様とした。
作製したヘッドを顕微鏡観察した結果、図３（１）及び（２）に示すようにノズルプレートの吐出口周辺の撥インク層が選択的に除去されたノズルプレートを有するインクジェットヘッドを作製することができた。
また、実施例１と同じ条件で試験した結果、ノズル抜け：０本、飛行曲がり：０本と、印字不良は認められず、高い印字品質を得ることが可能となった。

(比較例１)
実施例１において、グリコール酸を０．００１重量％とし、酸性処理薬液のｐＨを４．１とした。他は実施例１と同様とした。
上記の条件で作製したヘッドを顕微鏡観察した結果、ノズルプレートの吐出口周辺の撥インク層を、満足な状態で溶解できず、明瞭且つ均一な径で選択的に除去することができなかった。
また、実施例１と同じ上記の条件で試験した結果、ノズル抜け：３本、飛行曲がり：１５本となり、印字不良が認められ、印字品質の良い状態ではなかった。

(比較例２)
実施例１において、グリコール酸を３０重量％とし、酸性処理薬液のｐＨを１．３９とした。他は実施例１と同様とした。
上記の条件で作製したヘッドを顕微鏡観察した結果、ノズルプレートの吐出口（オリフィス）周辺の撥インク層を選択的に除去する際に、除去の径が均一でないヘッドとなった。
また、実施例１と同じ上記の条件で試験した結果、ノズル抜け：５本、飛行曲がり：５本となり、印字品質の良い状態ではなかった。

撥インク層を有する本発明のノズルプレートの作用を説明するための模式図であり、図１（１）は本発明のノズルプレートの一態様を示す断面図、図１（２）は従来のノズルプレートの一態様を示す断面図、図１（３）は従来のノズルプレートの他の態様を示す断面図である。 ノズルプレートのインク吐出口に処理薬液を充填させた状態を説明するための模式図であり、図２（１）は断面図、図２（２）は斜視図である。 インク吐出口の周囲の撥インク層を選択的に除去した状態を説明するための模式図であり、図３（１）は断面図、図３（２）は斜視図である。

符号の説明

１ インクジェットヘッドのノズルプレート
１ａ インク吐出口
２ 撥インク層
３ 処理薬液
３ａ 液滴

Claims (12)

1. 基板にインク吐出口を形成してなるノズルプレートにおけるインクが吐出する側の面に、撥インク層が形成され、かつ、インク吐出口の周囲の撥インク層の前記インク吐出口に処理薬液を充填することによって、インク吐出口の周囲の撥インク層の機械的強度を選択的に低下させた後、機械的な除去手段を用いることにより、機械的強度を選択的に低下させた部分である前記インク吐出口の周囲の撥インク層を選択的に除去させ、
   これにより、インク吐出口の周囲のノズルプレートを露出させたことを特徴とするインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
2. 前記撥インク層が、フッ素樹脂と金属とを共析させることにより得られた層であって、前記インク吐出口に酸性液体を充填することによって、インク吐出口の周囲の撥インク層の機械的強度を選択的に低下させることを特徴とする請求項１に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
3. 前記インク吐出口の周囲の撥インク層を選択的に除去する機械的な除去手段は、前記撥インク層上を摺動させる、柔軟性を有するブレードであることを特徴とする請求項１又は２に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
4. 前記柔軟性を有するブレードによる、撥インク層上の摺動は、一定の時間間隔で行うことを特徴とする請求項３に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
5. 前記柔軟性を有するブレードが、ゴム材料からなることを特徴とする請求項３又は４に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
6. 前記機械的な除去手段が、インクジェットプリンタ装置におけるインクジェットヘッドのワイピング機構からなるヘッドクリーニング機構であることを特徴とする請求項３−５のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
7. 前記処理薬液は、ノズルプレートの表面に形成された、フッ素樹脂と金属とを共析させることにより得られた層の加工を行う際に使用され、
   前記フッ素樹脂と金属とを共析させることにより得られた層の機械的強度を低下させる機能を有する酸性液体を含むことを特徴とする請求項１−６のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
8. 前記酸性液体が、ｐＨ１．５−４．０の範囲にある水溶液であることを特徴とする請求項７に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
9. 前記酸性液体が、有機カルボン酸を含有する水溶液であることを特徴とする
   請求項７又は８に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
10. 前記有機カルボン酸が、ヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする請求項
    ９に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
11. 前記酸性液体が、更に浸透性界面活性剤を含有することを特徴とする請求項７−１０のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。
12. 前記浸透性界面活性剤が、アセチレン系の界面活性剤であることを特徴とする請求項１１に記載のインクジェットヘッド用のノズルプレートの製造方法。

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