JP2006035517A - 圧電インクジェットヘッド - Google Patents

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Abstract

【課題】 印刷時に、開口から吐出されたインク滴をできるだけまっすぐ前方に飛翔させることができるため、印刷精度の高い印刷を行うことが可能な圧電インクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】 ノズルプレート1dの、ノズル3の開口30が形成された表面1eに、その平面形状の中心から外周縁までの距離Lが、全周に亘って、式(1):
1.2R<L<2R (1)
〔Rは、ノズルの開口30の円の半径である。〕
を満足する範囲内とされた、撥水処理されない領域A1を設け、この領域A1より外は撥水層12を形成して撥水処理した圧電インクジェットヘッドである。
【選択図】 図3

Description

本発明は、特にプリンタ、コピア、ファクシミリ、およびそれらの複合機などに好適に用いることのできる圧電インクジェットヘッドに関するものである。
例えば、オンデマンド型のインクジェットプリンタなどに用いる、圧電素子の電歪効果を駆動源とする圧電インクジェットヘッドにおいては、当該圧電素子に電圧を印加して変形させ、それによって振動板を撓ませて加圧室の容積を減少させることで、当該加圧室内のインクを、連通するノズルからインク滴として吐出させて、紙面にドットを形成している。
詳しく説明すると、圧電セラミックと、圧電セラミックを支持する振動板とを含む圧電アクチュエータが、圧電セラミックが発生する力を加圧室内のインクに圧力として伝えることで、この加圧室に連通するノズルからインク滴を吐出させるための駆動源としての役割を果たしている。それと同時に、圧電アクチュエータは、加圧室内のインクの圧力を受けることによって振動板が撓むため、当該加圧室を含むヘッド内のインクの振動に対して、弾性体としての役割も持っている。
圧電セラミックに駆動電圧を印加して力を発生させると、ヘッド内のインクは、振動板を介して圧電アクチュエータから受けた圧力によって振動を起こす。この振動は、圧電アクチュエータと加圧室とを弾性、加圧室にインクを供給する供給口、加圧室とノズルとを繋ぐノズル流路、およびノズルを慣性として発生する。この振動における、ヘッド内のインクの、体積速度の固有振動周期は、上記各部の寸法とインクの物性値、圧電アクチュエータの寸法と物性値とによって決まる。
そして、圧電インクジェットヘッドにおいては、かかるインクの振動による、ノズル内でのインクメニスカスの振動を利用してインク滴を発生させて、紙面にドットを形成している。すなわち、ノズル内のインクメニスカスは、振動の速度がノズルの外方へ向かうことによって、ノズル先端の開口から、外部へと柱状に押し出される。この押出されたインクは、その形状からインク柱と呼ばれる。振動の速度は、やがてノズルの内方向へ向かうが、インク柱はそのまま外方向に運動を続けるため、インクメニスカスから切り離される。そして、切り離されたインク柱が1〜2滴程度のインク滴にまとまり、それが紙面の方向に飛翔して、紙面にドットを形成する。
上記のうちノズルは、通常、ノズルの長さに対応した厚みを有する平板状のノズルプレートを貫通するように形成される。また、このノズルプレートは、インクに濡れやすい材料によって形成されるのが一般的である。ノズルの内壁がインクに濡れやすいことによって、ノズル内に、安定したインクメニスカスを形成できるからである。
しかし、ノズルプレートの、インク滴吐出側の先端が開口された表面がインクに濡れやすいと、インクの付着によるインク滴の吐出不良を招きやすいという問題がある。そのため、上記表面を、インクジェットインクの主流である水性のインクに濡れにくくするべく、撥水処理することが行われる。
図5は、撥水処理したノズルプレートの一例を示す拡大断面図である。図の例では、ノズルプレート91の、インク滴吐出側の表面91aに、例えば共析メッキやゾル−ゲル法によって撥水性を有する層(撥水層92)を積層することで、当該表面91aを撥水処理している。
従来、撥水層92は、前記のようにインクの付着によるインク滴の吐出不良を極力、防止する観点から、同図に示すように、ノズル93の、開口93aの外周縁のぎりぎりまで形成するのが望ましいと考えられきた。例えば、後述する特許文献2においては、開口93aの周囲の、撥水層92で覆われていない領域の面積が、開口93aの面積の10%以下となるように、撥水層92を、ノズル93の、開口93aの外周縁のぎりぎりまで、できるだけ近接させて形成する必要があるとされている。
表面91aに撥水層92が形成されたノズルプレート91の形成方法としては、大別すると、下記の2つの方法が挙げられる。
(i) ノズルプレート91にノズル93を穴あけ加工した後、このノズルプレート91の表面91aに、撥水層92を積層して撥水処理する。
(ii) ノズルプレート91の表面91aを、先に撥水層92を積層して撥水処理した後、ノズル93を穴あけ加工する。
しかし、(i)の方法では、ノズル93の内周面93bまで撥水層92が形成されて撥水性となり、安定したインクメニスカスを形成できなくなる。そこで、フォトリソグラフィーの技術を利用して、ノズル93を穴あけ加工したノズルプレート91の表面91aを感光性のレジストで覆い、露光して、ノズル93の開口93aと重なり、かつ開口93aよりもごく僅かだけ広い領域のレジストを硬化させてレジスト膜を形成した後、未硬化のレジストを除去して、残ったレジスト膜で開口93aに蓋をした状態で、ノズルプレート91の露出された表面91aに、選択的に、撥水層92を形成することが考えられる。
ところが、
・ ノズル93の、インク滴吐出側の先端の開口93aの直径が、およそ30μm以下というごく微小なものであること、
・ ノズルプレート91には、かかる微小な開口93aを有するノズル93が、インクジェットプリンタの画像解像度に合わせたごく微小なノズルピッチで複数個、配列されていること、および
・ ノズル93は、例えばプレス加工やレーザー加工等によって形成されるが、これら加工方法の加工精度に応じて、複数個のノズル93の形成位置にずれが生じやすいこと、
から、ノズルプレート91上の全てのノズル93について、レジスト膜を、精度良く位置決めした状態で形成することは困難である。ノズルプレート91上の多くのノズル93においては、レジスト膜が、開口93aに対して位置ずれして形成されることになる。
そのため、撥水層92を形成すると、例えば図6(a)(b)に示すように、開口93aの外周縁の一部は、ぎりぎりまで撥水層92で覆われているが、その他の部分では撥水層92が外周縁まで到達せず、ノズルプレート91が露出した状態となることが多い。そして、この状態では、開口93aの外周縁のうち、ぎりぎりまで撥水層92で覆われた部分よりも、ノズルプレート91が露出した部分の方が、インクに対する濡れ性が高くなる。
そして、インクメニスカスがノズル93の開口93aから外部へと押し出されてインク柱が形成される際に、図7の上側に示すように、インク柱の後端の、インクメニスカスと接合している部分が、開口93aの外周縁のうち、濡れ性の高い、ノズルプレート91が露出した部分に引っ張られてインク柱が曲げられ、それに伴ってインク滴の飛翔方向が曲げられるという現象を生じるため、図7の下側に示すように、インク滴をまっすぐ前方に飛翔させることができなくなる。
しかも、同じノズルプレート91上に形成された複数のノズル93の、開口93aの位置ずれの方向は一定でないため、各開口93aにおける、インクに対する濡れ性が高い部分と低い部分の位置も一定しない。そのため、個々のノズル93ごとに、インク滴の飛翔方向にばらつきを生じる結果、印刷精度が低下する。
また、図6(a)中に破線で示すように、撥水層92が、部分的に開口93aに覆い被さった状態で形成される場合もあり、その場合には、覆い被さった撥水層92によってインク滴の吐出が阻害されるため、さらに印刷精度が悪化する。
これに対し、前記(ii)の方法によれば、ノズルプレート91に、先に撥水層92を積層し、次いで、プレス加工やレーザー加工などによってノズル93が形成されることから、撥水層92を、開口93aの全周に亘って、いずれも外周縁のぎりぎりまで残して、図5の、理想的であると考えられている形態に近い状態とすることができるものと予測されている(例えば特許文献1、2参照)。
特開2001−260360号公報(請求項1、第0008欄〜第0010欄、図3) 特開2003−205610号公報(請求項1、3、第0007欄〜第0012欄、第0015欄〜第0016欄、図7)
しかし、実際には、ノズル93の穴あけ加工時に生じる応力や熱等によって、開口93aの外周縁の近傍の撥水層92が部分的かつ不規則に剥がれたり傷ついたり、あるいは除去されずに残った撥水層92が開口93aに覆い被さった状態となったりして、前記(i)の場合と同様に、印刷時に、開口93aから吐出されたインク滴をまっすぐ前方に飛翔せることができず、印刷精度が悪化するという問題を生じる。
本発明は、印刷時に、開口から吐出されたインク滴をできるだけまっすぐ前方に飛翔させることができるため、印刷精度の高い印刷を行うことが可能な圧電インクジェットヘッドを提供することにある。
請求項1記載の発明は、
(A) インクが充てんされる加圧室、
(B) 加圧室に連通したノズル、および
(C) 圧電素子と、この圧電素子の変形によって撓んで加圧室の容積を減少させることで、加圧室内のインクを、ノズルを通してインク滴として吐出させるための振動板とを含む圧電アクチュエータ、
を備え、ノズルのインク滴吐出側の先端が、当該ノズルを形成する部材の表面に円形に開口されていると共に、この表面に、所定の平面形状を有する撥水処理されない領域が、ノズルの開口と重ねて設けられ、この領域以外の表面が撥水処理されている圧電インクジェットヘッドであって、
上記撥水処理されない領域の、平面形状の中心から外周縁までの距離Lが、その全周に亘って、式(1):
1.2R<L<2R (1)
〔Rは、ノズルの開口の円の半径である。〕
を満足する範囲内とされていることを特徴とするものである。
従来の圧電インクジェットヘッドは、いずれのものも、先に説明したように、開口の外周縁の全周に亘って、できる限りぎりぎりまで撥水処理しようとして、逆に加工精度や加工時に発生する応力等の影響によって均一に撥水処理できないため、印刷精度が低下していた。
これに対し、前記請求項1記載の発明によれば、開口に重ねて設ける、撥水処理されない領域の、平面形状の中心から外周縁までの距離Lを式(1):
1.2R<L<2R (1)
〔Rは、ノズルの開口の円の半径である。〕
を満足する範囲に規定することによって、当該領域の大きさにある程度の余裕を持たせてあるため、たとえ加工精度等による開口の位置ずれが発生しても、その周囲に、ノズルプレート等の表面が適当な幅で露出された領域を確保して、開口の外周縁の全周に亘って、インクに対する濡れ性を一定の範囲内に維持することができる。
つまり、上記距離Lを、ノズルの開口の円の半径Rの1.2倍を超える範囲に設定することによって、ノズルの開口の外周縁と、撥水処理されない領域の外周縁との間でノズルプレート等の表面が露出される領域の幅を、例えば、プレス加工やレーザー加工等の通常の穴あけ加工の加工精度に基づく位置ずれに比べて十分に大きい幅とすることができる。そのため、ノズルプレート等の表面を、開口の外周縁の全周に亘って確実に露出させて、開口に撥水層が覆い被さってインク滴の吐出を妨げたり、外周縁のぎりぎりまで撥水層に覆われて、その他の部分よりインクに対する濡れ性が低い部分が生じたりするのを防止することができる。また、上記距離Lを、半径Rの2倍未満に設定することによって、上記ノズルプレート等の表面が露出される領域の幅が広くなりすぎて、インクの付着によるインク滴の吐出不良を生じるのを防止することもできる。
したがって、請求項1記載の発明によれば、開口の外周縁の全周に亘って、インクに対する濡れ性を一定の範囲内に維持することができるため、印刷時に、開口から吐出されたインク滴をできるだけまっすぐ前方に飛翔させて、印刷精度の高い印刷を行うことが可能となる。
図1は、本発明の圧電インクジェットヘッドの一例において、圧電素子と振動板とを含む圧電アクチュエータを取り付ける前の状態を示す平面図である。
図の例の圧電インクジェットヘッドは、1枚の基板1上に、加圧室2とそれに連通するノズル3とを含むドット形成部を複数個、配列したものである。
また図2(a)は、上記例の圧電インクジェットヘッドにおいて、圧電アクチュエータを取り付けた状態での、1つのドット形成部を拡大して示す断面図、図2(b)は1つのドット形成部を構成する各部の重なり状態を示す透視図である。
各ドット形成部のノズル3は、図1に白矢印で示す主走査方向に複数列並んでいる。図の例では4列に並んでおり、同一列内のドット形成部間のピッチは90dpiであって、圧電インクジェットヘッドの全体として360dpiを実現している。
各ドット形成部は、基板1の、図2(a)において上面側に形成した、矩形状の中央部の両端に半円形の端部を接続した平面形状を有する加圧室2と、上記基板1の下面側の、加圧室2の一端側の端部の、半円の中心と重なる位置に形成したノズル3とを、上記端部の半円と同径の、断面円形のノズル流路4で繋ぐと共に、上記加圧室2の他端側の端部の、半円の中心と重なる位置に形成した供給口5を介して、加圧室2を、基板1内に、各ドット形成部を繋ぐように形成した共通供給路6(図1に破線で示す)に繋ぐことで構成してある。
また上記各部は、図の例では、加圧室2を形成した第1基板1aと、ノズル流路4の上部4aと供給口5とを形成した第2基板1bと、ノズル流路4の下部4bと共通供給路6とを形成した第3基板1cと、ノズルプレートとしての、ノズル3を形成した第4基板1dとを、この順に積層、一体化することで形成してある。
またノズル3は、図3(a)(b)に示すように、インク滴吐出側の先端の開口30を、基板1の下面側である第4基板1dの下側の表面1eに円形に形成してある。それと共にノズル3は、この先端側の開口30が、加圧室2側の開口31よりも小さくなるように、テーパー状に形成してある。
第1基板1aと第2基板1bには、図1に示すように、第3基板1cに形成した共通供給路6を、基板1の上面側で、図示していないインクカートリッジからの配管と接続するためのジョイント部11を構成するための通孔11aを形成してある。
さらに各基板1a〜1dは、例えば樹脂や金属などからなり、フォトリソグラフ法を利用したエッチングなどによって上記各部となる通孔を設けた、所定の厚みを有する板体にて形成してある。
基板1の上面側には、当該基板1と同じ大きさを有する1枚の振動板7と、少なくとも各ドット形成部を覆う大きさを有する1枚の薄膜状の共通電極8と、図1中に一点鎖線で示すように各ドット形成部の加圧室2の中央部と重なる位置に個別に設けた、略矩形状の平面形状を有する横振動モードの薄板状の圧電素子9と、各圧電素子9上に形成した、同じ平面形状を有する個別電極10とを、この順に積層することで圧電アクチュエータACを構成してある。
なお圧電素子9を、いくつかのドット形成部の加圧室2にまたがる大きさに一体形成して、個別電極10のみ、図1中に一点鎖線で示すように各ドット形成部の加圧室2の中央部と重なる位置に個別に設けてもよい。
上記のうち振動板7は、例えばモリブデン、タングステン、タンタル、チタン、白金、鉄、ニッケルなどの単体金属や、これら金属の合金、あるいはステンレス鋼などの金属材料にて、所定の厚みを有する板状に形成してある。また振動板7には、先の基板1の通孔11aと共にジョイント部11を構成する通孔11bを形成してある。
共通電極8、個別電極10は、共に金、銀、白金、銅、アルミニウムなどの導電性に優れた金属の箔や、これらの金属からなるめっき被膜、真空蒸着被膜などで形成してある。なお振動板7を、例えば白金などの導電性の高い金属で形成して共通電極8を省略してもよい。
圧電素子9を形成する圧電材料としては、例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT)や、当該PZTにランタン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガンなどの酸化物の1種または2種以上を添加したもの、例えばPLZTなどの、PZT系の圧電材料を挙げることができる。また、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、ニッケルニオブ酸鉛(PNN)、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、チタン酸鉛、チタン酸バリウムなどを主要成分とするものを挙げることもできる。
薄板状の圧電素子9は、従来と同様にして形成することができる。
例えば上記の圧電材料を焼結して形成した焼結体を薄板状に研磨した所定の平面形状を有するチップを、共通電極8上の所定の位置に接着、固定したり、いわゆるゾル−ゲル法(またはMOD法)によって、共通電極8上に、圧電材料のもとになる有機金属化合物から形成したペーストを所定の平面形状に印刷し、乾燥、仮焼成、焼成の工程を経て形成したり、あるいは共通電極8上に、反応性スパッタリング法、反応性真空蒸着法、反応性イオンプレーティング法などの気相成長法によって、圧電材料の薄膜を所定の平面形状に形成したりすることによって、圧電素子9を形成することができる。
圧電素子9を、例えば横振動モードとして駆動するためには、圧電材料の分極方向を、当該圧電素子9の厚み方向、より詳しくは個別電極10から共通電極8に向かう方向に配向させる。そのためには、例えば高温分極法、室温分極法、交流電界重畳法、電界冷却法などの従来公知の分極法を採用することができる。また、分極後の圧電素子9をエージング処理してもよい。
圧電材料の分極方向を上記の方向に配向させた圧電素子9は、共通電極8を接地した状態で、個別電極10から正の駆動電圧VPを印加することによって、分極方向と直交する面内で収縮する。しかし圧電素子9は、共通電極8を介して振動板7に固定されているため、結果的に、圧電素子9と振動板7とが加圧室方向に撓むことになる。
このため、撓みが発生する際の力が加圧室2内のインクに圧力変化として伝えられ、この圧力変化によって、供給口5、加圧室2、ノズル流路4、およびノズル3内のインクが振動を起こす。そして振動の速度が、結果的にノズル3の外に向かうことによって、ノズル3内のインクメニスカスが、インク滴吐出側の先端の開口30から外部へと押し出されて、先に説明したようにインク柱が形成される。
振動の速度は、やがてノズル内方向に向かうが、インク柱はそのまま外方向に運動を続けるため、インクメニスカスから切り離されて1〜2滴程度のインク滴にまとまり、それが紙面の方向に飛翔して、紙面にドットを形成する。
インク滴が飛翔して減少した分のインクは、ノズル3内のインクメニスカスの表面張力によって、インクカートリッジから、当該インクカートリッジの配管、ジョイント部11、共通供給路6、供給口5、加圧室2、およびノズル流路4を介してノズル3に再充てんされる。
基板1の下面側である第4基板1dの下側の表面1eには、前記のように、所定の平面形状を有する撥水処理されない領域A1を、ノズル3のインク滴吐出側の先端の、円形の開口30と重ねて設けてある。すなわち、この領域A1を除くそれ以外の表面1eに撥水層12を積層して撥水処理すると共に、領域A1内は撥水層12を形成せずに、第4基板1dの表面を露出させて、撥水処理されていない状態としてある。
領域A1は、図3(a)(b)に示すように、その平面形状を円形とし、なおかつ、円の中心C1から円形の外周縁までの距離L(すなわち円の半径)を、式(1):
1.2R<L<2R (1)
〔Rは、ノズルの開口の円の半径である。〕
を満足する範囲に設定してある。これにより、先に説明したように、加工精度等による開口30の位置ずれが発生しても、当該開口30の外周縁の全周に亘って、第4基板1dの表面1eが適当な幅で露出された領域を確保して、そのインクに対する濡れ性を一定の範囲に維持することができる。
したがって、前記のようにインクメニスカスがノズル3の開口30から外部へと押し出されてインク柱が形成される際に、インク柱の後端の、インクメニスカスと接合している部分が、開口30の外周縁のうち濡れ性の高い部分に引っ張られてインク柱が曲げられ、それに伴ってインク滴の飛翔方向も曲げられるという現象を生じることなく、インク滴をまっすぐ前方に飛翔させることが可能となる。
なお、開口30の位置ずれが発生しても、より確実に、開口30の外周縁の全周に亘って、表面1eが露出された領域を確保することを考慮すると、距離Lは、半径Rの1.4倍以上であるのが好ましい。また、表面1eが露出された領域の幅が広くなりすぎて、インクの付着によるインク滴の吐出不良を生じるのを防止することを考慮すると、距離Lは、半径Rの1.8倍以下であるのが好ましい。
領域A1は、図4に示すように、正多角形状(図の場合は正八角形状)等の、円形以外の他の平面形状に形成することもできる。図の、正八角形状の領域A1においては、当該正八角形と外接する外接円Cの中心C1から円形の外周縁までの距離Lを、その全周に亘って、つまり最長距離L1と最短距離L2を共に、前記式(1)を満足する範囲に設定すればよい。それにより、加工精度等による開口30の位置ずれが発生しても、当該開口30の外周縁の全周に亘って、第4基板1dの表面1eが適当な幅で露出された領域を確保して、そのインクに対する濡れ性を一定の範囲に維持することができる。
第4基板1dの表面1eのうち、上記領域A1を除くその他の領域に撥水層12を形成し、それによって開口30と重ねて領域A1を設けるためには、従来同様に、フォトリソグラフィーの技術を利用した、下記の方法が好適に採用される。
すなわち、ノズル3を穴あけ加工した第4基板1dの表面1eを感光性のレジストで覆い、露光して、開口30と重なるように、上記の寸法、形状を有する領域のレジストを硬化させてレジスト膜を形成する。次いで、未硬化のレジストを除去して、第4基板1dの露出された表面1eに選択的に、撥水層12を形成した後、硬化させたレジスト膜を除去すると、領域A1を除くその他の領域に撥水層12が形成されると共に、開口30と重ねて領域A1が設けられる。
また、上記の手順により、あらかじめ、領域A1を除くその他の領域に撥水層12を形成した後、ノズル3を穴あけ加工しても良い。その場合も、領域A1が、前記式(1)を満足する大きさを有するため、加工精度等による開口30の位置ずれが発生しても、当該開口30の外周縁の全周に亘って、第4基板1dの表面1eが適当な幅で露出された領域を確保して、そのインクに対する濡れ性を一定の範囲に維持することができる。
撥水層12としては、上記の方法によって所定の平面形状に形成することが可能な、撥水性を有する種々の材料からなる層が、いずれも採用できる。かかる撥水層12の例としては、共析メッキによる撥水層や、ゾル−ゲル法による撥水層等が挙げられる。また、例えばフッ素含有ガラスからなる撥水層を用いることもできる。
このうち、共析メッキによる撥水層は、例えばニッケル等の金属と、フッ素樹脂等の撥水性樹脂とを、第4基板1dの、レジスト膜が形成されずに露出された表面に共析メッキ処理(分散メッキ処理)することによって形成される。
また、ゾル−ゲル法による撥水層は、例えばケイ素酸化物の前駆体であるアルコキシシラン化合物(メトキシシラン、エトキシシラン等)と、フッ化炭素鎖を含むアルコキシシラン化合物とを含有する塗布液を、上記第4基板1dの、レジスト膜が形成されずに露出された表面に塗布し、乾燥後、加熱してゾル−ゲル反応させて、ケイ素酸化物を生成させることによって形成される。
撥水層12の厚みは、特に限定されないが、0.5〜2μmであるのが好ましい。撥水層12の厚みがこの範囲未満では、撥水性が低下して、インクの付着によるインク滴の吐出不良を生じるおそれがある。また、この範囲を超える撥水層12は膜形成が容易でない上、形成できたとしても、それ以上の効果が得られないおそれがある。
第4基板1dの表面の、撥水層12が形成されずに露出された表面や、ノズル3の内周面32には、第4基板1dを、金属等の、インクに濡れやすい材料によって形成することによって、本来的に親水性を付与してあるが、さらに親水処理をして親水性を高めることもできる。親水処理としては、酸素プラズマ処理、オゾン処理、レーザー処理等が挙げられる。
本発明の圧電インクジェットヘッドは、ドット形成の直前に加圧室の容量を拡大させる方向に圧電素子を変形させることで、ノズル内のインクメニスカスを引き込み、その後、加圧室の容量を縮小させる方向に圧電素子を変形させることで、インク滴をインクメニスカスから分離させて吐出させる引き打ち式、およびドット形成時に、加圧室の容量を縮小させる方向に圧電素子を変形させることで、ノズル内のインクメニスカスを押し出し、次いで、加圧室の容量を拡大させる方向に圧電素子を変形させることで、インクメニスカスを引き込んで、インク滴をインクメニスカスから分離させて吐出させる押し打ち式のいずれの駆動方法によって駆動しても良い。
以下に本発明を、実施例に基づいて説明する。
圧電インクジェットヘッドの作製:
図1および図2(a)(b)に示す構造を有し、なおかつ加圧室2の面積が0.2mm2、幅が200μm、深さが100μm、ノズル流路4の直径が200μm、長さが800μm、供給口5の直径が30μm、長さが40μm、ノズル3の長さが30μm、開口30の形状が円形で半径Rが10μmであると共に、この各部からなるドット形成部が1列で64個、全体(4列)で256個、基板1上に配列された圧電インクジェットヘッドを用意した。同一列内のドット形成部間のピッチは90dpiとし、また隣り合う各列を1/4ピッチずつずらすことで、全体として360dpiとした。
そして、基板1の下面側である、ステンレス鋼製の第4基板1dの、下側の表面1eに、前記フォトリソグラフ法によって、図3(a)に示すように、いずれも平面形状が円形で、なおかつ距離Lが表1に示す値である256個の領域A1を有する、厚み1.0μmの、ニッケルとフッ素樹脂の共析メッキによる撥水層12を形成して、実施例、比較例の圧電インクジェットヘッドを作製した。
印刷精度試験:
上記で作製した各実施例、比較例の圧電インクジェットヘッド上の、4列のドット形成部のうち、1列分の64個を使用し、各ドット形成部を駆動周波数の1/8のタイミングで10回、駆動させて、紙面上に、64×10個のドットを格子状に形成した。
各ドット形成部のノズル3から吐出されるインク滴が、いずれもまっすぐ前方に飛翔する場合、形成される各ドットの重心位置は、64×10個の格子点上に並ばなければならない。しかし、インク滴がまっすぐ前方に飛翔しない場合、各ドットは、その重心位置が、上記格子点上からずれた位置に形成される。
そこで、形成した全てのドットの位置を画像解析装置で解析して、最小二乗法によって、それぞれの重心位置の、本来あるべき格子点上からのずれ量を求め、その平均値と最大値とを記録して、各ドット形成部のノズル3から吐出されるインク滴が、どの程度まっすぐ前方に飛翔しているかを評価した。結果を表1に示す。
Figure 2006035517
表の、実施例、比較例の結果より、領域A1の距離Lを、ノズル3の開口30の半径Rの1.2倍を超え、かつ2.0倍未満の範囲とすることにより、各ドット形成部のノズル3から吐出されるインク滴を、できるだけまっすぐ前方に飛翔させて、印刷精度を向上できることが判った。
また、各実施例、比較例の圧電インクジェットヘッドの、第4基板1dの、撥水層12を形成した表面1eを、実体顕微鏡によって観察したところ、領域A1の距離Lが、ノズル3の開口30の半径Rの1.2倍以下であった比較例1、2においては、撥水層12が開口30の外周縁の一部でぎりぎりまで形成されて、表面1eが露出していない個所がある開口30や、撥水層12が覆い被さっている開口30が存在していることが確認された。そして、このことから、これらの比較例においては、開口30の外周縁における、インクに対する濡れ性のばらつきや、開口30に覆い被さった撥水層12が原因となって、インク滴をまっすぐ前方に飛翔できなかったことが確認された。
また、印刷後の表面1eを、同様に実体顕微鏡によって観察したところ、領域A1の距離Lが、ノズル3の開口30の半径Rの2倍以上であった比較例4〜6においては、表面1eの、開口30の周囲が、広い面積に亘ってインクによって着色されているのが確認された。そして、このことから、これらの比較例においては、インクの付着によるインク滴の吐出不良が原因となって、インク滴をまっすぐ前方に飛翔できなかったことが確認された。
本発明の圧電インクジェットヘッドの一例において、圧電素子と振動板とを含む圧電アクチュエータを取り付ける前の状態を示す平面図である。 同図(a)は、上記例の圧電インクジェットヘッドにおいて、圧電アクチュエータを取り付けた状態での、1つのドット形成部を拡大して示す断面図、同図(b)は、1つのドット形成部を構成する各部の重なり状態を示す透視図である。 同図(a)は、上記例の圧電インクジェットヘッドのうち、ノズルプレートとしての第4基板の表面の、ノズルの開口と、それに重ねて撥水処理しない領域を形成した部分を拡大した平面図、同図(b)は、上記部分の断面図である。 撥水処理しない領域の変形例を示す平面図である。 従来、理想的と考えられていたノズルの開口の、撥水処理の状態を示す断面図である。 図5の状態を実現すべく実際に撥水処理した際に生じる、開口と撥水層のずれを示す図であって、同図(a)は平面図、同図(b)破断面図である。 図6(a)(b)の状態のノズルの開口からインクを吐出させた際の、インクメニスカスから分離する前後のインク柱の形状変化を示す図である。
符号の説明
1d 第4基板(ノズルプレート)
1e 表面
2 加圧室
3 ノズル
30 開口
R 半径
A1 領域
C1 中心
L 距離
12 撥水層
AC 圧電アクチュエータ
7 振動板
9 圧電素子

Claims (1)

  1. (A) インクが充てんされる加圧室、
    (B) 加圧室に連通したノズル、および
    (C) 圧電素子と、この圧電素子の変形によって撓んで加圧室の容積を減少させることで、加圧室内のインクを、ノズルを通してインク滴として吐出させるための振動板とを含む圧電アクチュエータ、
    を備え、ノズルのインク滴吐出側の先端が、当該ノズルを形成する部材の表面に円形に開口されていると共に、この表面に、所定の平面形状を有する撥水処理されない領域が、ノズルの開口と重ねて設けられ、この領域以外の表面が撥水処理されている圧電インクジェットヘッドであって、
    上記撥水処理されない領域の、平面形状の中心から外周縁までの距離Lが、その全周に亘って、式(1):
    1.2R<L<2R (1)
    〔Rは、ノズルの開口の円の半径である。〕
    を満足する範囲内とされていることを特徴とする圧電インクジェットヘッド。
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