JP2005028999A - 空気入りタイヤ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】空気入りタイヤ10のトレッド面11に少なくとも溝18が形成され、溝18は、溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの比UT/GDを0.5〜2.0の範囲とし、特に、乗用車用の空気入りタイヤにおいては、溝下ゴム厚みUTを3.0mm〜6.0mmの範囲とし、且つ溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの和UT+GTを10.5mm以下とする。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、溝を有する空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、寿命の低下を抑制すると共に、少なくともロードノイズ(騒音)を低減することができる空気入りタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
乗用車用の空気入りタイヤは、溝下ゴム厚みUTを約2.5mm程度、溝深さGDを約8mm程度、つまり溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの比UT/GDを0.5よりも小さくしたものが一般的である(特許文献1参照)。この従来の空気入りタイヤの比UT/GDは、空気入りタイヤの寿命を考慮して決定されるものである。ここで、空気入りタイヤの寿命は、空気入りタイヤのトレッド面のブロックあるいはリブが摩耗し、上記各種性能の維持が困難となるまでをいい、通常の一般的な空気入りタイヤにおいては上記寿命を過ぎたものは、廃棄されるものである。
【0003】
ここで、空気入りタイヤの各種性能として、ロードノイズ(騒音)があげられる。このロードノイズは、乗用車が荒れた路面を走行した際に、車両内で発生する比較的周波数の低い騒音である。この振動は、荒れた路面の凹凸が空気入りタイヤを加振し、その振動がサスペンションなどの懸架系を通して車体に伝達され、車体各部が振動して発生する固体伝搬音が主な原因である。すなわち、空気入りタイヤが加振されることにより固体伝搬音が発生することから、空気入りタイヤの振動特性がロードノイズに大きな影響を与えるものである。
【0004】
【特許文献1】
特開平5−16612号公報
【0005】
近年においては、空気入りタイヤの製造や廃棄による環境負荷が問題となっており、空気入りタイヤの各種性能の向上による寿命の低下を抑制することが要望されている。一方で、車両の車室内の静粛性を向上させることが要望されており、静粛性の向上を妨げるロードノイズの低減を図ることが問題となっている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、寿命の低下を抑制すると共に、少なくともロードノイズ(騒音)を低減することができる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、この発明(請求項1)では、トレッド面に少なくとも溝が形成され、溝は、溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの比UT/GDが0.5〜2.0の範囲であることを特徴とする。ここで、溝下ゴム厚みUTとは、溝の底部から空気入りタイヤのキャップトレッドの下側に配置されるベルトのベルトコードのうち、最外層に位置するベルトコードのタイヤ径方向外方側の表面までの厚みをいう(以下同様)。また、溝深さGDとは、新品時の空気入りタイヤのトレッド面から溝の底部までの深さをいう(以下同様)。
【0008】
この発明によれば、溝深さGDに対して、溝下ゴム厚みUTを厚くする。つまり、溝深さGDが一定でも、溝下ゴム厚みGDが厚くすることができる。従って、溝深さGDを一定とすることで、寿命の低下を抑制することができる。また、ロードノイズは、上述のように、空気入りタイヤが加振することで発生するが、溝下ゴム厚みGDを厚くすることで、空気入りタイヤの加振入力を低減することができる。これにより、寿命の低下を抑制すると共に、ロードノイズ(騒音)を低減することができる。
【0009】
また、この発明(請求項2)では、溝下ゴム厚みUTが3.0mm〜6.0mmの範囲であり、且つ当該溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの和UT+GTが10.5mm以下であることを特徴する。
【0010】
この発明によれば、和UT+GTを10.5mm以下、つまりキャップトレッドの質量を増加させずに、溝下ゴム厚みUTを厚くする。従って、特に乗用車用の空気入りタイヤにおいて、空気入りタイヤの全体の質量の増加を抑制することができる。ここで、溝下ゴム厚みUTを厚くすると、溝深さGDが浅くなる。例えば、溝下ゴム厚みUTを6.5mmとすると溝深さGDが4.0mmとなる。この場合、溝深さGDが上記従来の一般的な溝深さGDである8.0mmと比較して、略半分となり、空気入りタイヤの寿命も同様に略半分となる。
【0011】
上記空気入りタイヤの寿命の低下を抑制するために、キャップトレッドの一部あるいは全部に対してリトレッドを行うことが好ましい。このリトレッドは、トレッド面を形成するブロックあるいはリブが摩耗した空気入りタイヤに対して、改めてキャップトレッドを形成し、タイヤ金型でトレッド面を成形するものである。従って、溝深さGDが浅い、すなわち寿命が短い空気入りタイヤに対してリトレッドを行うことで、この空気入りタイヤの寿命の低下を抑制することができる。これにより、上記空気入りタイヤの作用効果に加え、さらに空気入りタイヤの全体の質量の増加を抑制することができる。
【0012】
また、この発明では、トレッド面が構成されているキャップトレッドは2層構造であり、キャップトレッドのタイヤ径方向において内側に位置する内側ゴム層の60℃tanδが0.03〜0.08の範囲であり、且つ内側ゴム層の体積UVがキャップトレッドの全体積AVに対して40〜60%であることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、2層構造のキャップトレッドの内側ゴム層に粘性の低いゴムを多く用いる。ここで、従来の空気入りタイヤは、溝下ゴム厚みUTが薄いため、上記内側ゴム層に粘性の高いゴムを多く用いることができない。これは、トレッド面を構成するブロックやリブの摩耗後期に、粘性が低い内側ゴム層がこのトレッド面に露出し、ウェット路面における制動性能が低下するからである。しかしながら、上記本発明に係る空気入りタイヤは、溝下ゴム厚みUTが厚いので、キャップトレッドを2層構造とする従来の空気入りタイヤと比較して、粘性の低いゴムを多く用いることができる。これにより、上記空気入りタイヤの作用効果に加え、さらに空気入りタイヤの転動時の抵抗を低減することができる。
【0014】
また、この発明では、溝は、タイヤ周方向に形成される周方向溝を含み、且つ周方向溝の表面積CAが当該溝の全表面積AAに対して90%以上であることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、トレッド面を構成する溝、すなわち周方向溝および横溝のうち、周方向溝を横溝に対して多くトレッド面に形成する。ここで、溝下ゴム厚みUTを厚くすると、空気入りタイヤの制動時および旋回時におけるブロックの浮き上がりが発生する。これは、ブロックと連続する溝下ゴム厚みUTが厚いことで、各ブロックの変形が容易となるためである。従って、周方向溝を横溝に対して多くトレッド面に形成することで、トレッド面を構成するブロックの数を減し、ブロックの浮き上がりを抑制することができる。これにより、制動性能および旋回性能を向上することができる。
【0016】
また、この発明では、空気入りタイヤの接地幅CW(mm)とタイヤ幅TW(mm)と偏平比HW(%)とに基づくCW/TW×100+HWが120〜130の範囲であることを特徴とする。ここで、接地幅CW(mm)とは、空気入りタイヤをJATMAの規格で定められている標準リムに装着し、最大空気圧の空気を充填し、最大負荷状態で路面に空気入りタイヤを接地させた際の空気入りタイヤの接地面の幅をいう(以下同様)。また、タイヤ幅TW(mm)とは、空気入りタイヤをJATMAの規格で定められている標準リムに装着し、最大空気圧の空気を充填し、無負荷状態で、子午面で切った断面における空気入りタイヤの断面の幅をいう(以下同様)。
【0017】
この発明によれば、空気入りタイヤの偏平比HW(%)に応じたタイヤ幅TW(mm)の割に、狭い接地幅CW(mm)、すなわち狭いベルト幅を有する。ここで、従来の空気入りタイヤは、空気入りタイヤの偏平比HW(%)に応じたタイヤ幅(mm)の割に、広い接地幅CW(mm)、すなわち広いベルト幅を有する。これは、所望の旋回性能を得るためであるが、溝深さGDが浅いと旋回性能の向上、例えば高いコーナリング力を得ることができる。従って、従来の空気入りタイヤと同程度の旋回性能を維持するために、空気入りタイヤの偏平比HWに対して、接地幅CW(mm)、すなわちベルト幅を広く設定する必要はない。これにより、上記空気入りタイヤの作用効果に加え、さらに空気入りタイヤの全体の質量の低減をすることができ、空気入りタイヤのウェット路面におけるハイドロプレーニング性能を向上することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0019】
図1は、本発明に係る空気入りタイヤの構成例を示す図であり、同図(a)はタイヤをその回転軸を含む子午面で切った断面の一部断面図、同図(b)は空気入りタイヤのトレッド面の展開図である。図2は、図1のA部分拡大図であり、同図(a)は新品時、同図(b)は摩耗時、同図(c)は従来の空気入りタイヤの摩耗時を示す図である。同図に示すように、タイヤ10は、トレッド面11を形成するキャップトレッド12と、サイドトレッド13と、ベルト14と、カーカス15と、ビードワイヤ16とにより構成されている。ここで、図1は、本発明に係る空気入りタイヤ10が図示しないリムに装着された状態を示すものである。
【0020】
キャップトレッド12は、タイヤ10の路面接地部に配置されており、その外周面にトレッド面11が形成されており、カーカス15、ベルト14またはブレーカの外側を覆うゴム層である。また、キャップトレッド12は、2層構造であり、キャップトレッドのタイヤ径方向に向かって外側ゴム層12aと内側ゴム層12bとにより構成されている。キャップトレッド12は、路面との間で摩擦力を生み、制動力や駆動力を発揮するとともに、カット衝撃に対してカーカス15やベルト14を保護する役目を持っている。
【0021】
サイドトレッド13は、サイドウォール部の最も外側に配置されて外からの傷がカーカス15に達するのを防止する。ベルト14は、キャップトレッド12とカーカス15との間に配置されたゴム引きコード層である。なお、空気入りバイアスタイヤの場合にはブレーカと呼ぶ。空気入りラジアルタイヤにおいて、ベルト14は形状保持及び強度メンバーとして重要な役割を担っている。カーカス15はタイヤ10の骨格をなすゴム引きコード層である。カーカス15は、タイヤ10に空気を充填した際に圧力容器としての役目を果たす強度メンバーであり、その内圧によって荷重を支え、走行中の動的荷重に耐える構造を持っている。
【0022】
ビードワイヤ16は、内圧によって発生するカーカス15のコード張力を支えているスチールワイヤの束を、硬質ゴムで固めたリングである。空気入りタイヤ10を図示しないリムに固定させる役割を果たす他、カーカス15、ベルト14およびキャップトレッド12などとともに、空気入りタイヤ10の強度部材となる。ビードフィラ17は、カーカス15をビードワイヤ16の周囲に巻き込む際に生ずる空間へ充填するゴムである。カーカス15をビードワイヤ16に固定するとともに、その部分の形状を整え、ビード部全体の剛性を高める。
【0023】
トレッド面11は、図1(b)に示すように、溝18とこの溝18によって区画されるブロック(リブ)19とにより構成されている。溝18は、タイヤ周方向に複数本形成される周方向溝20とタイヤ幅方向に複数本形成される横溝21とにより構成されている。
【0024】
〔実施例1〕
このトレッド面11の溝18(周方向溝20と横溝21)は、図2(a)に示すように、溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの比UT/GDを0.5〜2.0の範囲とする。つまり、上記従来の空気入りタイヤと比較して、溝深さGDに対して、溝下ゴム厚みUTを厚くする。
【0025】
以下に、従来の空気入りタイヤと実施例1に係る空気入りタイヤ10との比較試験の実施結果について説明する。ここで、この比較試験に用いる各タイヤのタイヤサイズは、185/65 R14で共通である。各項目は以下のとおりである。
【0026】
○ GD:溝深さ(mm)であり、新品時の空気入りタイヤ10のトレッド面11から溝18の底部までの深さである。
○ UT:溝下ゴム厚み(mm)であり、図2(a)に示すように、溝18の底部から空気入りタイヤ10のキャップトレッド11の下側に配置されるベルト14のベルトコード14a、14bのうち、最外層に位置するベルトコード14aのタイヤ径方向外方側の表面までの厚みである。
○ UT+GD:トータルトレッドゲージ(mm)であり、溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの和である。
○ UT/GD:溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの比である。
○ RN(計測):ロードノイズ(dB)である。このロードノイズの測定方法は、上記空気入りタイヤ10に空気圧200kPaとなるように空気を充填し、2000ccの乗用車に装着し、時速60kmで走行させる。そして、2名乗車相当の荷重を乗用車(空気入りタイヤ10)に与え、車室内中央に設置されたマイクロフォンで収録し、A特性補正騒音のオーバーオール値により、基準タイヤ(従来1)とのdB差を求める。ここで、数値が低いとロードノイズ、すなわち騒音が低いものとする。
○ RN(5点法官能):ロードノイズの官能評価である。このロードノイズの官能評価は、訓練された6名のパネラーにより、基準タイヤ(従来例1)を3点とした場合における5段階評価を行ない、その平均値を評価とする。ここで、数値が高いとロードノイズ、すなわち騒音が低くなるものとする。
○ タイヤ質量:空気入りタイヤの全体の質量を指数化したものである。なお、基準タイヤ(従来例1)のタイヤ質量を100とする。ここで、数値が低いほど、基準タイヤよりも軽いものとする。
以下に、上記比較試験の実施結果を表示する。
【0027】
【表1】
【0028】
この表1から明らかなように、本発明に係る空気入りタイヤ10は、溝深さGDが一定(例えば、8.0mm)でも、溝下ゴム厚みGDが厚くすることができる。つまり、溝深さGDを一定とすることにより、空気入りタイヤ10の寿命の低下を抑制することができる。また、ロードノイズ(RN)は、空気入りタイヤ10が加振することで発生するが、溝下ゴム厚みGDを厚く、例えば、「本発明1〜4」とすることで、空気入りタイヤ10の加振入力を低減することができ、ロードノイズ(RN)を低減することができる。
【0029】
なお、UT/GTを0.5以上としたのは、「比較例2」のように、UT/GTを0.5以下でも、ロードノイズ(RN)が「従来例1」と比較して低減するが、このロードノイズの低減する量が小さいと、RN(5点法官能)においてロードノイズ(RN)の低減の効果を感知できないからである。一方、UT/GTを2.0以下としたのは、溝下ゴム厚みUTが厚くなりすぎると、車両の走行時においてキャップトレッド12に発生する熱、つまり内側ゴム層12bにおける蓄熱により空気入りタイヤ10の耐久性が低下することを抑制するためである。
【0030】
〔実施例2〕
上記実施例1では、表1に示すように、タイヤ質量が増加してしまう。そこで、乗用車用の空気入りタイヤ10においては、溝下ゴム厚みUTを3.0mm〜6.0mmの範囲とし、且つ溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの和UT+GTを10.5mm以下とすることが好ましい。つまり、キャップトレッド12の質量、つまりタイヤ質量を増加させずに、従来と同程度の溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの和UT+GTとするとともに、溝下ゴム厚みUTを厚くする。
【0031】
以下に、従来の空気入りタイヤと実施例2に係る空気入りタイヤ10との比較試験の実施結果について説明する。なお、この比較試験に用いる各タイヤのタイヤサイズおよび各項目の内容は、上記実施例1と同様であるので、その説明は省略する。以下に、上記比較試験の実施結果を表示する。
【0032】
【表2】
【0033】
この表2から明らかなように、乗用車用空気入りタイヤである本発明に係る空気入りタイヤ10は、この空気入りタイヤ10の全体の質量、すなわちタイヤ質量の増加を抑制する。また、タイヤ質量の増加を抑制しても、「本発明5〜10」に示すように、ロードノイズ(RN)を低減することができる。
【0034】
なお、溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの和UT+GTを10.5mm以下としたのは、「比較例3」のように、和UT+GTが10.5mm以上となるとタイヤ質量が「従来例1」と比較して増加するからである。また、溝下ゴム厚みUTを3.5mm以上としたのは、「従来例1」のように、溝下ゴム厚み3.5mmよりも薄くすると、ロードノイズ(RN)が低減されないからである。一方、溝下ゴム厚みUTを6.0mm以下としたのは、溝下ゴム厚みUTを厚くしすぎると、溝深さGDが極端に浅くなり、キャップトレッド12を形成するゴム層(外側ゴム層12a、内側ゴム層12b)の耐摩耗性能が著しく低下し、空気入りタイヤ10の寿命を極端に低下させてしまうからである。なお、溝下ゴム厚さUTを4〜5mm、溝深さGDを5〜6mm程度とすることが好ましい。
【0035】
ここで、実施例2では、和UT+GDを10.5mm以下とするため、溝下ゴム厚みUTを厚くすると、溝深さGDが浅くなる。例えば、「本発明6」のように、溝下ゴム厚みUTを6.5mmとすると溝深さGDが4.0mmとなる。溝深さが4.5mmである空気入りタイヤ10は、溝深さGDが8.0mmである「従来例1」の空気入りタイヤと比較すると、溝深さが略半分となる。従って、従来の空気入りタイヤと比較してトレッド面11のブロック19あるいはリブが早く摩耗し、ウェット路面での操縦安定性、制動性能、旋回性能などの維持が困難となり、空気入りタイヤ10の寿命の低下を抑制することができない。
【0036】
そこで、上記空気入りタイヤの寿命の低下を抑制するために、キャップトレッド12の一部、例えば外側ゴム層12aのみ、あるいはキャップトレッド12の外側ゴム層12aおよび内側ゴム層12bの全部に対してリトレッドを行うことが好ましい。このリトレッドは、トレッド面11を形成するブロック19あるいはリブが摩耗した空気入りタイヤ10に対して、改めてキャップトレッド12を形成し、タイヤ金型でトレッド面11を成形するものである。従って、上記表2に示す「本発明5〜10」のように、溝深さGDが浅い、すなわち寿命が短い空気入りタイヤ10に対してリトレッドを行うことで、この空気入りタイヤの寿命の低下を抑制することができる。
【0037】
また、実施例2に係る空気入りタイヤ10は溝深さGDが浅いため、空気入りタイヤ10の寿命が短くなるが、摩耗するトレッド面11のブロック19あるいはリブが形成されるキャップトレッド12以外の部分は、耐久性を維持している。そこで、上記リトレッドが行われる空気入りタイヤ10が新品時から寿命となった後、複数回リトレッドを行うこともできる。以下に、その具体例を説明する。
【0038】
通常、乗用車用の空気入りタイヤにおける摩耗指数は200〜300程度である。この摩耗指数は、UTQG(ユニフォーム・タイヤ・クオリティー・グレード)試験法により定められた定義である。この摩耗指数が100〜200程度となるように、空気入りタイヤ10を製造する。このとき、溝下ゴム厚みUTを3.0mm〜6.0mmの範囲とし、溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの和UT+GTを10.5mm以下とする。上記製造された空気入りタイヤは、実施例2に係る空気入りタイヤ10となり、少なくとも通常の空気入りタイヤよりもロードノイズ(騒音)が低減された空気入りタイヤとなる。ここで、摩耗指数が100よりも小さくなると、空気入りタイヤの寿命が著しく低下するため、リトレッドを行う期間が著しく短くなり、この空気入りタイヤ10を装着した車両を運転するユーザーに煩雑さを与えてしまう。
【0039】
上記製造された新品のリトレッド可能な空気入りタイヤをユーザーに無償、あるいは従来の空気入りタイヤと比較して安価に販売者が販売する。この際、販売者は、ユーザーの連絡先、使用環境、販売日、販売したリトレッド可能な空気入りタイヤの仕様などを図示しないリトレッドタイヤ管理システム(管理サーバーなどを含む)に入力し、このリトレッドタイヤ管理システムは上記条件より、ユーザーが使用しているリトレッド可能な空気入りタイヤの寿命を推定する。なお、リトレッド可能な空気入りタイヤが装着されている車両から、走行距離、走行時の路面状況などが無線などを介して、管理サーバーに入力され、リトレッド可能な空気入りタイヤの寿命を推定しても良い。
【0040】
次に、リトレッドタイヤ管理システムは、上記推定した寿命からユーザーの車両に装着されたリトレッド可能な空気入りタイヤの寿命となる日時を算出し、算出された日時をユーザーに直接的、あるいは販売者を介して間接的に連絡する。この連絡は、ハガキやインターネットを介したメールなどを用いて行う。ユーザーは、車両に装着されたリトレッド可能な空気入りタイヤが寿命となる前に、リトレッドが行われた空気入りタイヤを販売者から安価に購入する。さらに、ユーザーは、リトレッドが行われた空気入りタイヤが寿命となる前に、新たにリトレッドが行われた空気入りタイヤを購入することができるため、ユーザーに煩わしさを与えずに、従来の空気入りタイヤと同様の寿命を維持することができる。
【0041】
ここで、例えば、摩耗指数が250の従来の空気入りタイヤ2本を「従来タイヤ群」とし、摩耗指数が170のリトレッド可能な空気入りタイヤ1本とリトレッドが行われた空気入りタイヤ2本を「リトレッドタイヤ群」とする。この「従来タイヤ群」と「リトレッドタイヤ群」は、その寿命が略同一である。ここで、リトレッドされる部分、すなわちキャップトレッドの質量が空気入りタイヤの全体の質量に対して20%〜40%であるため、「従来タイヤ群」の製造のために必要な資源に対して、「リトレッドタイヤ群」の製造のために必要な資源は10%〜30%程度削減することができる。また、リトレッドを行う、すなわち再生加工するために必要な投入エネルギーは、従来の空気入りタイヤおよびリトレッド可能な空気入りタイヤを製造するために必要な投入エネルギーに対して80%〜90%程度削減できるため、「従来タイヤ群」の製造のために必要な投入エネルギーに対して、「リトレッドタイヤ群」の製造のために必要な投入エネルギーは30%〜40%程度削減することができる。
【0042】
なお、上記実施例2では、乗用車用の空気入りタイヤ10の溝下ゴム厚みUTおよび溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの和UT+GTを規定したが、本発明は乗用車用の空気入りタイヤに限定されるものではない。例えば、トラックやバスなどに装着される重荷重用空気入りタイヤの場合においても、リトレッドを行うことを考慮して、溝下ゴム厚みUTおよび溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの和UT+GTを規定しても良い。
【0043】
〔実施例3〕
上記実施例において、キャップトレッド12のタイヤ径方向において内側に位置する内側ゴム層12bの60℃tanδを0.03〜0.08の範囲とし、且つ内側ゴム層12bの体積UVをキャップトレッドの全体積AVに対して40〜60%とする。つまり、2層構造のキャップトレッドの内側ゴム層に粘性の低いゴムを多く用いる。
【0044】
図2(c)に示すように、従来の空気入りタイヤ100では、溝下ゴム厚みUTが薄いため、キャップトレッド120の全体積AVに対して、内側ゴム層120bの体積UVは20〜30%程度であった。つまり、内側ゴム層120bに粘性の低いゴムを多く用いていなかった。内側ゴム層120bに粘性の低いゴムを多く用いると、新品時のトレッド面110´からブロックやリブが摩耗し、摩耗後期のトレッド面110、すなわち溝180(周方向溝200と横溝)が摩耗により消滅する寸前となった際に、粘性が低い内側ゴム層120bがこのトレッド面110に露出する。従って、ウェット路面における制動性能が低下するからである。しかしながら、本発明に係る空気入りタイヤ10は、同図(a)に示すように、溝下ゴム層UTが厚い。これにより、従来の空気入りタイヤ100と比較して、粘性の低いゴムを多く用いても、同図(b)に示すように、新品時のトレッド面11からブロックやリブが摩耗し、摩耗後期のトレッド面11´となった際にも、粘性が低い内側ゴム層12bがこのトレッド面11´に露出することはない。
【0045】
以下に、従来の空気入りタイヤと実施例3に係る空気入りタイヤ10との比較試験の実施結果について説明する。なお、この比較試験に用いる各タイヤのタイヤサイズおよび各項目の内容は、上記実施例1と同様であるので、その説明は省略する。また、新たに加えられた各項目は以下のとおりである。
【0046】
○ 60℃tanδ:粘性スペクトロメーターを用いて、初期歪10%、振幅±2%および周波数20Hzの条件で、60℃の粘性特性を特性測定したものであり、キャップトレッド12の内側ゴム層12aの粘性特性を示すものである。ここで、数値が低いと粘性が低いものとする。
○ UV/AV:キャップトレッド12の全体積AVに対する内側ゴム層12bの体積UVをパーセント表示で示したものである。
○ タイヤ転動抵抗:空気入りタイヤの転動時の抵抗を指数で評価したものである。なお、基準タイヤ(従来例1)のタイヤ転動抵抗を100とする。ここで、数値が低いほど、基準タイヤよりも空気入りタイヤの転動時の抵抗が低いものとする。
以下に、上記比較試験の実施結果を表示する。
【0047】
【表3】
【0048】
この表3から明らかなように、「従来例1」あるいは「本発明5」に対して「本発明11〜14」は、タイヤの転動時の抵抗が低減している。これから、上記空気入りタイヤの作用効果に加え、さらに空気入りタイヤの転動時の抵抗を低減することができる。
【0049】
なお、60℃tanδを0.08以下としたのは、60℃tanδが0.13では上記表3に示す「比較例4」のように、タイヤの転動時の抵抗が多少低減されるが、60℃tanδが0.08以下であれば「本発明12〜14」のように、タイヤの転動時の抵抗が著しく低減されるからである。また、UV/AVを40%以上としたのは、UV/AVが30%では「比較例4」のように、タイヤの転動時の抵抗が多少低減されるが、UV/AVが40%以上であれば「本発明11〜14」のように、タイヤの転動時の抵抗が著しく低減されるからである。さらに、UV/AVを60%以下としたのは、UV/AVが60より大きくなると、摩耗後期のトレッド面11、すなわち溝18(周方向溝20と横溝21)が摩耗により消滅する寸前となった際に、粘性が低い内側ゴム層12bがこのトレッド面11に露出し、ウェット路面における制動性能が低下するからである。
【0050】
なお、キャップトレッド12の外側ゴム層12aの60℃tanδを0.20以上、好ましくは0.30以上とすることが好ましい。これにより、ウェット路面における制動性能および旋回性能を向上させることができる。
【0051】
〔実施例4〕
上記実施例において、図1(b)に示す溝18の周方向溝20の表面積CAが当該溝18の全表面積AAに対して90%以上とする。つまり、周方向溝20および横溝21のうち、周方向溝20を横溝21に対して多くトレッド面11に形成する。
【0052】
従来の空気入りタイヤ100では、溝180は周方向溝200と横溝とを適度にトレッド面110に形成されており、溝180の全表面積AAに対して、周方向溝200の表面積CAは75%〜85%程度であった。しかしながら、図2(a)に示すように、溝下ゴム厚みUTを厚くすると、空気入りタイヤ10の制動時および旋回時において、トレッド面11のブロック19の浮き上がりが発生し、空気入りタイヤの路面に対する有効な接地面積を維持することが困難である。これは、ブロック19と連続する溝下ゴムが厚いことで、各ブロック19の変形が容易となるためである。従って、周方向溝20を横溝21に対して多くトレッド面11に形成することで、トレッド面11を構成するブロック19の数を減し、ブロック19の浮き上がりを抑制する。
【0053】
以下に、従来の空気入りタイヤと実施例4に係る空気入りタイヤ10との比較試験の実施結果について説明する。なお、この比較試験に用いる各タイヤのタイヤサイズおよび各項目の内容は、上記実施例3と同様であるので、その説明は省略する。また、新たに加えられた各項目は以下のとおりである。
【0054】
○ CA/AA:溝18の全表面積AAに対する周方向溝20の表面積CAをパーセント表示で示したものである。
○ CP:コーナリングパワーである。このコーナリングパワーの測定方法は、上記空気入りタイヤ10に空気圧200kPaとなるように空気を充填し、4kNの荷重によりフラットベルトに押さえつけ、時速10kmで転動させる。そして、空気入りタイヤ10のフラットベルトに対するスリップ角を2°として、横力を計測し、この横力の1/2を求める。なお、基準タイヤ(従来例1)のコーナンリグパワーを100とする。ここで、数値が高いほど、基準タイヤよりもコーナリングパワーが高いものとする。
以下に、上記比較試験の実施結果を表示する。
【0055】
【表4】
【0056】
この表4から明らかなように、「従来例1」あるいは「本発明12」に対して「本発明15〜17」は、コーナリングパワー(CP)が高くなっている。これにより、上記空気入りタイヤの作用効果に加え、さらに制動性能および旋回性能を向上することができる。
【0057】
なお、CA/AAを90%以上としたのは、CA/AAが85%では上記表4に示す「比較例5」のように、コーナリングパワー(CP)が「本発明12」と同様であり、旋回性能を向上することができないからである。なお、上記表4のように、CA/AAを100%としても良い。この場合は、ウェット路面におけるトレッド面11と路面との間の水の排水性を考慮して、トレッド面11に溝幅が1.5mm以下の溝である細溝あるいはサイプを形成しても良い。
【0058】
なお、空気入りタイヤ10の制動時および旋回時において、トレッド面11のブロック19の浮き上がりの発生を抑制するためには、ブロックのタイヤ周方向における長さを長くしても良い。この場合は、トレッド面11のタイヤ周方向に形成されるブロック19のピッチ数を30〜60程度とすることが好ましい。例えば、溝下ゴム厚みUTを5mm、溝深さGDを5.5mmとした場合は、上記ピッチ数を40〜50の範囲内とすると、空気入りタイヤ10の路面に対する有効な接地面積を維持することができ、制動性能および旋回性能を向上することができる。また、キャップトレッド12の外側ゴム層12aの弾性率を高くしても良い。
【0059】
〔実施例5〕
上記実施例において、図1(a)に示すように、空気入りタイヤ10の接地幅CW(mm)とタイヤ幅TW(mm)と偏平比HW(%)とに基づくCW/TW×100+HWを120〜130の範囲とする。つまり、空気入りタイヤ10の偏平比HWに応じたタイヤ幅TW(mm)の割に、狭い接地幅CW(mm)、すなわち狭いベルト幅を有する。
【0060】
従来の空気入りタイヤ100では、所望の旋回性能を得るために、空気入りタイヤの偏平比HW(%)に応じたタイヤ幅TW(mm)の割に、広い接地幅CW(mm)、すなわち広いベルト幅を有し、CW/TW×100+HWは130〜140程度であった。しかしながら、図2(a)に示すように、溝深さGDが浅いと旋回性能の向上、例えばコーナリング力を得ることができる。従って、従来の空気入りタイヤ100と同程度の旋回性能を維持するために、空気入りタイヤの偏平比HWに対して、接地幅CW(mm)、すなわちベルト幅を広く設定する必要はない。
【0061】
以下に、従来の空気入りタイヤと実施例5に係る空気入りタイヤ10との比較試験の実施結果について説明する。なお、この比較試験に用いる各タイヤのタイヤサイズおよび各項目の内容は、上記実施例4と同様であるので、その説明は省略する。また、新たに加えられた各項目は以下のとおりである。
【0062】
○ CW:空気入りタイヤ10のトレッド面11が路面に接地した際の接地幅を示したものである。この接地幅CWの測定は、空気入りタイヤ10をJATMAの規格で定められている標準リムに装着し、最大空気圧の空気を充填し、最大負荷状態で路面に空気入りタイヤを接地し、その接地面の幅を計測することで行う。
○ TW:空気入りタイヤ10をその回転軸を含む子午面で切った断面における断面幅、つまりタイヤ幅を示したものである。このタイヤ幅TWの測定は、空気入りタイヤ10をJATMAの規格で定められている標準リムに装着し、最大空気圧の空気を充填し、無負荷状態で、子午面で切った断面における断面幅を計測することで行う。
○ HW:タイヤ断面高さTH/タイヤ幅TWから求められる偏平比を示したものである。ここで、タイヤ断面高さTHは、タイヤ外径とリム径との差の1/2である。
○ CW/TW×100+HW:タイヤ幅TW(mm)に対する接地幅CW(mm)をパーセント表示したものと、偏平比HW(%)との和を示したものである。
以下に、上記比較試験の実施結果を表示する。
【0063】
【表5】
【0064】
この表5から明らかなように、「従来例1」あるいは「本発明12」に対して「本発明18〜19」は、コーナリングパワーCPを維持しつつ、接地幅CWが狭くなっており、空気入りタイヤの全体の質量が低減している。これにより、上記空気入りタイヤの作用効果に加え、さらに空気入りタイヤの全体の質量の低減することができ、空気入りタイヤのウェット路面におけるハイドロプレーニング性能を向上することができる。また、接地幅CW(mm)とタイヤ幅TW(mm)を一定とした場合には、「本発明21」のように、「本発明20」に対して図示しないタイヤ外径を小さくすることで偏平比HW(%)を小さくすることもできる。
【0065】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明(請求項1)によれば、寿命の低下を抑制すると共に、ロードノイズ(騒音)を低減することができる。
【0066】
また、本発明(請求項2)によれば、さらに空気入りタイヤの全体の質量の増加を抑制することができる。
【0067】
また、本発明(請求項3)によれば、さらに空気入りタイヤの転動時の抵抗を低減することができる。
【0068】
また、本発明(請求項4)によれば、制動性能および旋回性能を向上することができる。
【0069】
また、本発明(請求項5)によれば、さらに空気入りタイヤの全体の質量の低減することができ、空気入りタイヤのウェット路面におけるハイドロプレーニング性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る空気入りタイヤの構成例を示す図であり、同図(a)はタイヤをその回転軸を含む子午面で切った断面の一部断面図、同図(b)は空気入りタイヤのトレッド面の展開図である。
【図2】図1のA部分拡大図であり、同図(a)は新品時、同図(b)は摩耗時、同図(c)は従来の空気入りタイヤの摩耗時を示す図である。
【符号の説明】
10 空気入りタイヤ
11 トレッド面
12 キャップトレッド
12a 外側ゴム層
12b 内側ゴム層
18 溝
19 ブロック
20 周方向溝
21 横溝
Claims (5)
- トレッド面に少なくとも溝が形成され、
前記溝は、溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの比UT/GDが0.5〜2.0の範囲であることを特徴とする空気入りタイヤ。 - 前記溝下ゴム厚みUTが3.0mm〜6.0mmの範囲であり、且つ当該溝下ゴム厚みUTと溝深さGDとの和UT+GTが10.5mm以下であることを特徴する請求項1に記載の空気入りタイヤ。
- 前記トレッド面が構成されているキャップトレッドは2層構造であり、
前記キャップトレッドのタイヤ径方向において内側に位置する内側ゴム層の60℃tanδが0.03〜0.08の範囲であり、且つ内側ゴム層の体積UVがキャップトレッドの全体積AVに対して40〜60%であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。 - 前記溝は、タイヤ周方向に形成される周方向溝を含み、且つ前記周方向溝の表面積CAが当該溝の全表面積AAに対して90%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
- 前記空気入りタイヤの接地幅CW(mm)とタイヤ幅TW(mm)と偏平比HW(%)とに基づくCW/TW×100+HWが120〜130の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
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