本発明は、結晶配向セラミックス及びその製造方法に関し、更に詳しくは、加速度センサ、焦電センサ、超音波センサ、電界センサ、温度センサ、ガスセンサ、ノッキングセンサ、ヨーレートセンサ、エアバックセンサ、圧電ジャイロセンサ等の各種センサ、圧電トランス等のエネルギー変換素子、圧電アクチュエータ、超音波モータ、レゾネータ等の低損失アクチュエータ又は低損失レゾネータ、キャパシタ、バイモルフ圧電素子、振動ピックアップ、圧電マイクロホン、圧電点火素子、ソナー、圧電ブザー、圧電スピーカ、発振子、フィルタ等に用いられる圧電材料、あるいは、コンデンサ並びに積層コンデンサ等に用いられる誘電材料、熱電変換材料、イオン伝導材料等として好適な結晶配向セラミックス及びその製造方法に関する。
圧電材料は、圧電効果を有する材料であり、その形態は、単結晶、セラミックス、薄膜、高分子及びコンポジット(複合材)に分類される。これらの圧電材料の中で、特に、圧電セラミックスは、高性能で、形状の自由度が大きく、材料設計が比較的容易なため、広くエレクトロニクスやメカトロニクスの分野で応用されているものである。
圧電セラミックスは、強誘電体セラミックスに電界を印加し、強誘電体の分域の方向を一定の方向にそろえる、いわゆる分極処理を施したものである。圧電セラミックスにおいて、分極処理により自発分極を一定方向にそろえるためには、自発分極の方向が三次元的に取りうる等方性ペロブスカイト型の結晶構造が有利である。そのため、実用化されている圧電セラミックスの大部分は、等方性ペロブスカイト型強誘電体セラミックスである。
等方性ペロブスカイト型強誘電体セラミックスとしては、例えば、Pb(Zr・Ti)O3(以下、これを「PZT」という。)、PZTに対して鉛系複合ペロブスカイトを第三成分として添加したPZT3成分系、BaTiO3、Bi0.5Na0.5TiO3(以下、これを「BNT」という。)などが知られている。
これらの中で、PZTに代表される鉛系の圧電セラミックスは、他の圧電セラミックスに比較して高い圧電特性を有しており、現在実用化されている圧電セラミックスの大部分を占めている。しかしながら、蒸気圧の高い酸化鉛(PbO)を含んでいるために、環境に対する負荷が大きいという問題がある。そのため、低鉛あるいは無鉛でPZTと同等の圧電特性を有する圧電セラミックスが求められている。
一方、BaTiO3セラミックスは、鉛を含まない圧電材料の中では比較的高い圧電特性を有しており、ソナーなどに利用されている。また、BaTiO3と他の非鉛系ペロブスカイト化合物(例えば、BNTなど)との固溶体の中にも、比較的高い圧電特性を示すものが知られている。しかしながら、これらの無鉛圧電セラミックスは、PZTに比して、圧電特性が低いという問題がある。
そこで、この問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、(1−x)BNT−BaTiO3(但し、x=0.06〜0.12)の基本組成を有し、かつ、0.5〜1.5重量%の希土類元素の酸化物(例えば、La2O3、Y2O3、Yb2O3等)を含有する圧電セラミックス材料が開示されている。
また、特許文献2には、一般式:{Bi0.5(Na1−xKx)0.5}TiO3(但し、0.2<x≦0.3)で表される圧電磁器組成物、及び、これに2wt%以下の添加物(例えば、Fe2O3、Cr2O3、MnO2、NiO、Nb2O5等)を含有させた圧電磁器組成物が開示されている。
また、特許文献3には、一般式:xNaNbO3−yBaNb2O6−zBiNb3O9(但し、x+y+z=1、(x、y、z)は、3成分組成図上における所定の領域内にある。)で表されるタングステンブロンズ型の複合酸化物を主成分とし、かつ、全重量中Biを金属換算で3〜6重量%の割合で含有する圧電磁器組成物が開示されている。
また、特許文献4には、一般式:K1−xNaxNbO3(但し、x=0〜0.8)で表される固溶体に、Cu、Li、Taより選択される1種又は2種以上の元素を含む化合物を添加したアルカリ金属含有ニオブ酸物系圧電磁器組成物が本願出願人により開示されている。
また、特許文献5には、組成式:(1−x)NaNbO3+xMnTiO3(但し、0.014≦x≦0.08)で表される圧電磁器、並びに、この組成式で表される化合物に対し、さらに副成分としてKNbO3又はNaNbO3を0.5〜10モル%含有させた圧電磁器が開示されている。
また、特許文献6には、NaxNbO3(0.95≦x≦1)で表される主成分と、組成式がAyBOf(Aは、K、Na及びLiの内の少なくとも1種とBi、Bは、Li、Ti、Nb、Ta及びSbの内の少なくとも1種、0.2≦y≦1.5、fは任意)で表される副成分とを含み、副成分の含有量は、8モル%以下であり、さらに、原子番号21のScから原子番号30のZnまでの第1遷移金属元素の少なくとも1種を酸化物換算で0.01〜3重量%含有させた圧電磁器組成物が開示されている。
また、特許文献7には、層状ペロブスカイト型化合物の一種であるNa0.5Bi4.5Ti4O15からなり、c軸が一方向に配向し、かつc軸の配向方向と直交する方向に分極された圧電体セラミックスが開示されている。同文献には、出発原料を含むグリーンシートの表面に平行に並んだ線状の電極を形成し、電極が積層方向に沿って互いに重なるようにグリーンシートを積層し、グリーンシートの積層方向に圧力を加えながら焼成し、さらにシート面上において対向する電極間に直流電界を印加することにより、シートの面内方向において、互いに逆方向に分極した圧電体セラミックスが得られる点が記載されている。
また、特許文献8には、層状ペロブスカイト型化合物の1種であるCaBi4Ti4O15からなり、c軸が一方向に配向し、c軸の配向方向と直交する方向に分極され、さらにc軸の配向方向及び分極方向に平行な面上に部分電極が形成された圧電素子が開示されている。同文献には、原料粉末を仮焼、粗粉砕及び成形することにより得られる円柱状の前処理試料を600℃で熱処理し、熱処理された前処理試料を厚み方向に一軸加圧を行いながら焼成し、焼成試料から加圧方向が幅方向となるように矩形試料を切り出し、矩形試料を長手方向に分極することにより、c軸の配向方向と直交する方向に分極した圧電セラミックスが得られる点が記載されている。
また、特許文献9には、一般式がABO3(但し、Aは、2価の金属元素、Bは、4価の金属元素)で表される結晶配向ペロブスカイト型化合物が開示されている。同文献には、Ba6Ti17O40板状粉末、BaTiO3粉末及びBaCO3粉末を含む原料をシート状に成形し、これを積層圧着し、さらにこの積層体を所定温度で焼成することにより、(111)面配向したチタン酸バリウム焼結体が得られる点が記載されている。
さらに、特許文献10には、菱面体晶を端相として含むペロブスカイト型セラミックス(例えば、BNTに対してBi0.5K0.5TiO3、BaTiO3、NaNbO3等を固溶させたペロブスカイト型セラミックス)からなり、かつ擬立方{100}面のロットゲーリング法による配向度が30%以上である圧電セラミックスが本願出願人により開示されている。
また、同文献には、板状形状を有し、かつ、層状ペロブスカイト型化合物からなるホスト材料A(Bi4Ti3O12)と、等方性ペロブスカイト型構造を有するゲスト材料B又はゲスト材料Bを生成可能な原料Q(Bi0.5(Na0.85K0.15)0.5TiO3の等軸形状粉末)と、ホスト材料Aを等方性ペロブスカイト型化合物に転換するためのゲスト材料C(Bi2O3粉末、Na2CO3粉末、K2CO3粉末及びTiO2粉末)とを混合し、ホスト材料Aが配向するようにこれらを成形し、次いで加熱焼結する圧電セラミックスの製造方法が開示されている。
特開平11−180769号公報
特開2000−272962号公報
特開2000−281443号公報
特開2000−313664号公報
特開2002−137966号公報
特開2001−240471号公報
特開2001−291908号公報
特開2001−039766号公報
特開2002−193663号公報
特開平11−60333号公報
BaTiO3、BNT、K1−yNayNbO3(0≦y≦1)等の等方性ペロブスカイト化合物からなる非鉛系の強誘電体の圧電、焦電、誘電、熱電、電子導電、イオン導電等の特性(以下、これらを「圧電特性等」という。)は、一般に、PZTに代表される鉛系の強誘電体に比べて劣っている。一方、特許文献1〜6に記載されるように、非鉛系の強誘電体に対して各種の添加物を加えると、焼結性や圧電特性等が向上することが知られている。
しかしながら、等方性ペロブスカイト型化合物を通常のセラミックス製造プロセス、すなわち、成分元素を含む単純化合物を出発原料に用いて、仮焼、成形及び焼結を行う製造プロセスにより製造すると、得られる焼結体は、各結晶粒がランダムに配向したものとなる。そのため、本質的には高い圧電特性等を有している組成であっても、得られる焼結体の圧電特性等は不十分である。
これに対し、等方性ペロブスカイト型化合物の圧電特性等は、一般に、結晶軸の方向によって異なることが知られている。そのため、圧電特性等の高い結晶軸を一定の方向に配向させることができれば、圧電特性等の異方性を最大限に利用することができ、圧電セラミックスの高特性化が期待できる。実際に、非鉛系強誘電体材料からなる単結晶の中には、優れた圧電特性等を示すものがあることが知られている。
しかしながら、単結晶は、製造コストが高いという問題がある。また、複雑な組成を有する固溶体の単結晶は、製造時に組成のずれを引き起こしやすく、実用材料としては不適当である。さらに、単結晶は、破壊靱性が劣るため、高応力下での使用は困難であり、応用範囲が限られるという問題がある。
また、特許文献7、8に記載されるように、焼結時に一軸加圧すれば、特定の結晶面を配向させることも可能である。しかしながら、この方法は、層状ペロブスカイト型化合物のように、本質的に異方性の大きな結晶系及び結晶面に対してのみ適用でき、等方性ペロブスカイト型化合物のような異方性の小さい結晶系及び結晶面に対しては適用できないという問題がある。
一方、特許文献9、10に記載されるように、所定の組成を有する板状粉末を反応性テンプレートとして用いて特定の結晶面を配向させる方法によれば、異方性の小さい結晶系及び結晶面であっても、特定の結晶面が高い配向度で配向した結晶配向セラミックスを容易かつ安価に製造することができる。
しかしながら、Ba6Ti17O40、Bi4Ti4O12等からなる板状粉末を反応性テンプレートとして用いる方法では、得られた結晶配向セラミックス中に板状粉末に含まれるAサイト元素(Ba又はBi)及びBサイト元素(Ti)が必ず残留する。そのため、この方法を、非鉛系の中でも相対的に高い圧電特性を示す等方性ペロブスカイト型ニオブ酸カリウムナトリウム(K1−yNayNbO3)又はその固溶体に適用した場合には、最も望ましい組成を実現できない場合があり、不可避的に含まれるAサイト元素及び/又はBサイト元素によって圧電特性等が害されるおそれがある。
本発明が解決しようとする課題は、等方性ペロブスカイト型ニオブ酸カリウムナトリウムを基本組成とし、かつ優れた圧電特性等を示す結晶配向セラミックス及びその製造方法を提供することにある。また、本発明が解決しようとする他の課題は、等方性ペロブスカイト型ニオブ酸カリウムナトリウムを基本組成とし、かつ特定の結晶面が高い配向度で配向した結晶配向セラミックス及びその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明に係る結晶配向セラミックスは、一般式:ABO3において、Aサイト元素がK、Na及び/又はLiであり、Bサイト元素がNb、Sb及び/又はTaである
{Lix(K1−yNay)1−x}{Nb1−z−wTazSbw}O3
(但し、x、y、z、wがそれぞれ0≦x≦0.2、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0≦w≦0.2、x+z+w>0)
で表される等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなり、かつ該多結晶体を構成する各結晶粒の特定の結晶面が配向していることを要旨とする。
また、本発明に係る結晶配向セラミックスの製造方法は、その発達面が請求項1に記載の等方性ペロブスカイト型化合物の特定の結晶面と格子整合性を有する第1異方形状粉末と、該第1異方形状粉末と反応して、少なくとも前記等方性ペロブスカイト型化合物を生成する第1反応原料とを混合する混合工程と、該混合工程で得られた混合物を前記第1異方形状粉末が配向するように成形する成形工程と、該成形工程で得られた成形体を加熱し、前記第1異方形状粉末と前記第1反応原料とを反応させる熱処理工程とを備えていることを要旨とする。
等方性ペロブスカイト型ニオブ酸カリウムナトリウムにおいて、Aサイト元素の一部を所定量のLiで置換し、並びに/又は、Bサイト元素の一部を所定量のTa及び/若しくはSbで置換すると、これらを含まない組成に比べて圧電特性が向上する。また、特定の結晶面を配向させると、同一組成を有する無配向焼結体に比べて、圧電d31定数、圧電g31定数及び電気機械結合係数kpが向上する。
所定の条件を満たす第1異方形状粉末と、所定の組成を有する第1反応原料とを反応させると、第1異方形状粉末の配向方位を継承した請求項1に記載の等方性ペロブスカイト型化合物からなる異方形状結晶が生成する。そのため、第1異方形状粉末を成形体中に配向させ、成形体を所定の温度に加熱すれば、請求項1に記載の等方性ペロブスカイト型化合物からなり、かつ、特定の結晶面を発達面とする結晶粒が特定の方向に配向した結晶配向セラミックスが得られる。
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。本発明に係る結晶配向セラミックスは、次の(1)式に示す一般式で表される等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなり、かつ該多結晶体を構成する各結晶粒の特定の結晶面が配向していることを特徴とする。
{Lix(K1−yNay)1−x}{Nb1−z−wTazSbw}O3 ・・・(1)
(但し、0≦x≦0.2、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0≦w≦0.2、x+z+w>0)
本発明に係る結晶配向セラミックスは、等方性ペロブスカイト型化合物の一種であるニオブ酸カリウムナトリウム(K1−yNayNbO3)を基本組成とし、Aサイト元素(K、Na)の一部が所定量のLiで置換され、並びに/又は、Bサイト元素(Nb)の一部が所定量のTa及び/若しくはSbで置換されたものからなる。(1)式において、「x+z+w>0」は、置換元素として、Li、Ta及びSbの内の少なくとも1つが含まれていればよいことを示す。
また、(1)式において、「y」は、結晶配向セラミックスに含まれるKとNaの比を表す。本発明に係る結晶配向セラミックスは、Aサイト元素として、K又はNaの少なくとも一方が含まれていればよい。すなわち、KとNaの比yは、特に限定されるものではなく、0以上1以下の任意の値を取ることができる。高い圧電特性等を得るためには、yの値は、好ましくは、0.05以上0.75以下、さらに好ましくは、0.20以上0.70以下、さらに好ましくは、0.35以上0.65以下、さらに好ましくは、0.40以上0.60以下、さらに好ましくは、0.42以上0.60以下である。
「x」は、Aサイト元素であるK及び/又はNaを置換するLiの置換量を表す。K及び/又はNaの一部をLiで置換すると、圧電特性等の向上、キュリー温度の上昇、及び/又は緻密化の促進という効果が得られる。xの値は、具体的には、0以上0.2以下が好ましい。xの値が0.2を越えると、圧電特性(圧電d31定数、電気機械結合係数kp、圧電g31定数等)が低下するので好ましくない。xの値は、好ましくは、0以上0.15以下であり、さらに好ましくは、0以上0.10以下である。
「z」は、Bサイト元素であるNbを置換するTaの置換量を表す。Nbの一部をTaで置換すると、圧電特性等の向上という効果が得られる。zの値は、具体的には、0以上0.4以下が好ましい。zの値が0.4を越えると、キュリー温度が低下し、家電や自動車用の圧電材料としての利用が困難になるので好ましくない。zの値は、好ましくは、0以上0.35以下であり、さらに好ましくは、0以上0.30以下である。
さらに、「w」は、Bサイト元素であるNbを置換するSbの置換量を表す。Nbの一部をSbで置換すると、圧電特性等の向上という効果が得られる。wの値は、具体的には、0以上0.2以下が好ましい。wの値が0.2を越えると、圧電特性、及び/又はキュリー温度が低下するので好ましくない。wの値は、好ましくは、0以上0.15以下であり、さらに好ましくは、0以上0.10以下である。
また、「(1)式に示す一般式で表される等方性ペロブスカイト型化合物(以下、これを「第1のKNN系化合物」という)を主相とする」とは、結晶配向セラミックス全体に占める第1のKNN系化合物の割合が90vol%以上であることをいう。本発明に係る結晶配向セラミックスは、第1のKNN系化合物のみからなることが望ましいが、等方性ペロブスカイト型の結晶構造を維持でき、かつ、焼結特性、圧電特性等の諸特性に悪影響を及ぼさないものである限り、他の元素又は他の相が含まれていても良い。
このような「他の元素」としては、具体的には、第1のKNN系化合物のAサイト元素を置換する他の1価の陽イオン元素(例えば、Ag+、Cs+等)、第1のKNN系化合物のBサイト元素を置換する他の5価の陽イオン元素(例えば、V5+、Re5+等)等が一例として挙げられる。
また、Aサイト元素及びBサイト元素を置換する「他の元素」は、これらの価数の和が6価になる組み合わせであっても良い。具体的には、Ba2+とTi4+の組み合わせ、Sr2+とTi4+の組み合わせ、Ca2+とTi4+の組み合わせ等が一例として挙げられる。また、Bサイト元素を置換する「他の元素」として、6価の金属元素(例えば、W6+、Mo6+等)のみが含まれていても良い。この場合、陽イオン元素全体の価数が6価となるように、Aサイトには欠陥が形成されることになる。
また、「他の相」としては、具体的には、後述する製造方法や使用する出発原料に起因する添加物、焼結助剤、副生成物、不純物等(例えば、Bi2O3、CuO、MnO2、NiO等)が一例として挙げられる。圧電特性等に悪影響を及ぼすおそれのある他の元素又は他の相の含有量は、少ないほど良い。
「特定の結晶面が配向している」とは、第1のKNN系化合物の特定の結晶面が互いに平行になるように、各結晶粒が配列していること(以下、このような状態を「面配向」という。)、又は、特定の結晶面が成形体を貫通する1つの軸に対して平行になるように、各結晶粒が配列していること(以下、このような状態を「軸配向」という。)の双方を意味する。
配向している結晶面の種類は、特に限定されるものではなく、第1のKNN系化合物の自発分極の方向、結晶配向セラミックスの用途、要求特性等に応じて、選択される。すなわち、配向している結晶面は、擬立方{100}面、擬立方{110}面、擬立方{111}面等、目的に合わせて選択される。
なお、「擬立方{HKL}」とは、一般に、等方性ペロブスカイト型化合物は、正方晶、斜方晶、三方晶など、立方晶からわずかに歪んだ構造を取るが、その歪は僅かであるので、立方晶とみなしてミラー指数表示することを意味する。
また、特定の結晶面が面配向している場合において、面配向の程度は、次の数1の式で表されるロットゲーリング(Lotgering)法による平均配向度F(HKL)で表すことができる。
なお、数1の式において、ΣI(hkl)は、結晶配向セラミックスについて測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和であり、ΣI0(hkl)は、結晶配向セラミックスと同一組成を有する無配向セラミックスについて測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和である。また、Σ'I(HKL)は、結晶配向セラミックスについて測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和であり、Σ'I0(HKL)は、結晶配向セラミックスと同一組成を有する無配向セラミックスについて測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和である。
従って、多結晶体を構成する各結晶粒が無配向である場合には、平均配向度F(HKL)は0%となる。また、多結晶体を構成するすべての結晶粒の(HKL)面が測定面に対して平行に配向している場合には、平均配向度F(HKL)は100%となる。
一般に、配向している結晶粒の割合が多くなる程、高い特性が得られる。例えば、特定の結晶面を面配向させる場合において、高い圧電特性等を得るためには、数1の式で表されるロットゲーリング(Lotgering)法による平均配向度F(HKL)は、30%以上が好ましく、さらに好ましくは、50%以上である。また、配向させる特定の結晶面は、分極軸に垂直な面が好ましい。例えば、該ペロブスカイト型化合物の結晶系が正方晶の場合において、配向させる特定の結晶面は、{100}面が好ましい。
なお、特定の結晶面を軸配向させる場合には、その配向の程度は、面配向と同様の配向度(数1の式)では定義できない。しかしながら、配向軸に垂直な面に対してX線回折を行った場合の(HKL)回折に関するLotgering法による平均配向度(以下、これを「軸配向度」という。)を用いて、軸配向の程度を表すことができる。また、特定の結晶面がほぼ完全に軸配向している成形体の軸配向度は、特定の結晶面がほぼ完全に面配向している成形体について測定された軸配向度と同程度になる。
本発明に係る結晶配向セラミックスは、第1のKNN系化合物を主相とする多結晶体からなるので、非鉛系の圧電セラミックスの中でも高い圧電特性等を示す。また、本発明に係る結晶配向セラミックスは、多結晶体を構成する各結晶粒の特定の結晶面が一方向に配向しているので、同一組成を有する無配向焼結体に比して、高い圧電特性等を示す。
具体的には、その主相をなす第1のKNN系化合物の組成、配向度、製造条件等を最適化することによって、室温における圧電d31定数が同一組成を有する無配向焼結体の少なくとも1.1倍以上である結晶配向セラミックスが得られる。また、これらの条件を最適化すれば、室温における圧電d31定数が同一組成を有する無配向焼結体の1.2倍以上、さらに最適化すれば1.3倍以上である結晶配向セラミックスも得られる。
同様に、その主相をなす第1のKNN系化合物の組成、配向度、製造条件等を最適化することによって、室温における電気機械結合係数kpが同一組成を有する無配向焼結体の少なくとも1.1倍以上である結晶配向セラミックスが得られる。また、これらの条件を最適化すれば、室温における電気機械結合係数kpが同一組成を有する無配向焼結体の1.2倍以上、さらに最適化すれば1.3倍以上である結晶配向セラミックスも得られる。
さらに、その主相をなす第1のKNN系化合物の組成、配向度、製造条件等を最適化することによって、室温における圧電g31定数が同一組成を有する無配向焼結体の少なくとも1.1倍以上である結晶配向セラミックスが得られる。また、これらの条件を最適化すれば、室温における圧電g31定数が同一組成を有する無配向焼結体の1.2倍以上、さらに最適化すれば1.4倍以上である結晶配向セラミックスも得られる。
また、アクチュエータ用材料では、電界強度100V/mm以上の大電界下において、電圧印加方向と平行方向に発生する変位を利用している。その主相をなす第1のKNN系化合物の組成、配向度、製造条件等を最適化することによって、同一温度、同一電界強度の条件の大電界下において発生する変位が同一組成を有する無配向焼結体の少なくとも1.1倍以上である結晶配向セラミックスが得られる。また、これらの条件を最適化すれば、同一組成を有する無配向焼結体の1.2倍以上、さらに最適化すれば、1.3倍以上である結晶配向セラミックスも得られる。
また、アクチュエータ用材料においては、大電界下において発生する変位の温度依存性が小さいことが望まれる。無配向焼結体では、発生変位の温度依存性が大きく、アクチュエータ用途に適さない。しかしながら、その主相をなす第1のKNN系化合物の組成、配向度、製造条件等を最適化することによって、大電界下で発生する変位の最大値と最小値の平均値からの変動幅が、任意の100℃以上の温度範囲に渡って、少なくとも±20%以内である温度域を有する温度特性に優れた結晶配向セラミックスが得られる。さらに、これらの条件を最適化すれば、任意の100℃以上の温度範囲における最大変位と最小変位の平均値からの変動幅が少なくとも±10%以内、さらに最適化すれば±7%以内、より最適化すれば±5%以内である温度域を有する結晶配向セラミックスも得られる。なお、変位量を大きくするためには、駆動時の電界強度は、好ましくは500V/mm以上、より好ましくは1000V/mm以上が適する。
さらに、大電界下で発生する変位を制御する方式は、(a)電圧をパラメータとして制御する電圧制御法、(b)注入エネルギをパラメータとして変位を制御するエネルギ制御法、並びに、(c)注入電荷をパラメータとして変位を制御する電荷制御法に分類できる。
(a)電圧制御法の場合は、一定電圧での発生変位の温度依存性が小さいことが望ましく、(b)エネルギ制御法の場合は、一定注入エネルギでの発生変位の温度依存性が小さいことが望ましく、(c)電荷制御法の場合は、一定注入電荷での発生変位の温度依存性が小さいことが望ましい。
また、エネルギ制御と電荷制御の場合は、大電界下での静電容量の温度依存性によってアクチュエータ及び駆動回路に負荷される端子電圧が変動するため、端子電圧変動幅の上限で回路を設計する必要がある。静電容量の温度特性によっては、高耐圧・高価格の回路素子が必要となる場合があるため、静電容量の温度特性は小さいことが望ましい。以上のことは、A3式及びA4式から容易に理解できる。
W=1/2×C×V2 ・・・A3
Q=C×V ・・・A4
ここで、W:エネルギ(J)、C:静電容量(F)、V:印加電圧(V)、及び,Q:電荷(C)である。
また、アクチュエータの変位(電界誘起変位量:ΔL)は、印加電圧と比例の関係にあるため、定電界駆動(EF:一定)における変位は、A5式より、D33largeに比例する。
ΔL=D33large×EFmax×L ・・・A5
ここで、D33large:動的歪量(m/V)、EFmax:最大電界強度(V/m)、及び、L:電圧を印加する前の元の長さ(m)であり、D33largeは、電界強度0〜2000V/mmの高電圧を、一定の振幅で印加し駆動した場合に、電圧印加方向と平行方向に発生する変位を式A6により動的歪量として求めた。
D33large=Smax/EFmax
=(ΔL/L)/(V/L) ・・・A6
ここで、Smax:最大歪量である。
また、定エネルギ駆動(W:一定)における変位(ΔL)は、A7式並びにA8式より、D33large/(E33large)1/2に比例する。
ΔL=D33large×(2×W/C)1/2 ・・・A7
C=E33large×ε0×A/L ・・・A8
ここで、ΔL:電界誘起変位量(m)、E33large:動的比誘電率、A:電極面積(m2)、及び、ε0:真空中の比誘電率(F/m)である。
なお、E33largeは、電界強度0〜2000V/mmの高電圧を、一定の振幅で印加し駆動した場合において、式A9により、分極量−電界ヒステリシスループから分極量を測定し、これをもとに高電界下における駆動における注入電荷量を比誘電率(動的比誘電率)として算出した。
E33large=Pmax/(EFmax×ε0)
=(Qmax/A)/((V/L)×ε0) ・・・A9
ここで、Pmax:最大電荷密度(C/m2、及び、Qmax:最大電荷(C)である。
さらに、定電荷駆動(Q:一定)における変位(電界誘起変位量:ΔL)は、A10式並びにA8式より、D33large/E33largeに比例する。
ΔL=D33large×Q/C ・・・A10
無配向焼結体では、D33largeとE33largeの温度依存性が大きく、D33large/(E33large)1/2、並びに、D33large/E33largeの温度依存性も大きいため、アクチュエータ用途に適さない。しかしながら、その主相をなす第1のKNN系化合物の組成、配向度、製造条件等を最適化することによって、大電界下で発生するD33large/(E33large)1/2、D33large/E33large、並びに、E33largeの最大値と最小値の平均値からの変動幅の中で、いずれか一つ以上が、任意の100℃以上の温度範囲に渡って、少なくとも±20%以内である温度域を有する温度特性に優れた結晶配向セラミックスが得られる。
さらに、これらの条件を最適化すれば、D33large/(E33large)1/2、D33large/E33large、並びに、E33largeのいずれか一つ以上において、任意の100℃以上の温度範囲における最大変位と最小変位の平均値からの変動幅が±15%以内、さらに最適化すれば±10%以内、より最適化すれば±8%以内、さらにより最適化すれば±5%以内である温度域を有する結晶配向セラミックスも得られる。
次に、本発明に係る結晶配向セラミックスの製造に用いられる第1異方形状粉末について説明する。第1のKNN系化合物のような複雑な組成を有するセラミックスは、通常、成分元素を含む単純化合物を化学量論比になるように混合し、この混合物を成形・仮焼した後に解砕し、次いで解砕粉を再成形・焼結する方法によって製造される。しかしながら、このような方法では、各結晶粒の特定の結晶面が特定の方向に配向した配向焼結体を得るのは極めて困難である。
本発明は、この問題を解決するために、特定の条件を満たす第1異方形状粉末を成形体中に配向させ、この第1異方形状粉末をテンプレート又は反応性テンプレートとして用いて第1のKNN系化合物の合成及びその焼結を行わせ、これによって多結晶体を構成する各結晶粒の特定の結晶面を一方向に配向させた点に特徴がある。本発明において、第1異方形状粉末には、以下の条件を満たすものが用いられる。
第1に、第1異方形状粉末には、成形時に一定の方向に配向させることが容易な形状を有しているものが用いられる。そのためには、第1異方形状粉末の平均アスペクト比(=第1異方形状粉末の最大寸法/最小寸法の平均値)は、3以上であることが望ましい。平均アスペクト比が3未満であると、成形時に第1異方形状粉末を一方向に配向させるのが困難となるので好ましくない。高い配向度の結晶配向セラミックスを得るためには、第1異方形状粉末の平均アスペクト比は、5以上が好ましく、さらに好ましくは、10以上である。
一般に、第1異方形状粉末の平均アスペクト比が大きくなるほど、成形時における第1異方形状粉末の配向が容易化される傾向がある。但し、平均アスペクト比が過大になると、後述する混合工程において第1異方形状粉末が破砕され、第1異方形状粉末が配向した成形体が得られない場合がある。従って、第1異方形状粉末の平均アスペクト比は、100以下が好ましい。
また、第1異方形状粉末の平均粒径(長手方向の寸法の平均値)は、0.05μm以上が好ましい。第1異方形状粉末の平均粒径が0.05μm未満であると、成形時に作用する剪断応力によって第1異方形状粉末を一定の方向に配向させるのが困難になる。また、界面エネルギーの利得が小さくなるので、結晶配向セラミックスを作製する際の反応性テンプレートとして用いた時に、テンプレート粒子へのエピタキシャル成長が生じにくくなる。
一方、第1異方形状粉末の平均粒径は、20μm以下が好ましい。第1異方形状粉末の平均粒径が20μmを越えると、焼結性が低下し、焼結体密度の高い結晶配向セラミックスが得られない。第1異方形状粉末の平均粒径は、さらに好ましくは、0.1μm以上10μm以下である。
第2に、第1異方形状粉末には、その発達面(最も広い面積を占める面)が第1のKNN系化合物の特定の結晶面と格子整合性を有するものが用いられる。所定の形状を有する異方形状粉末であっても、その発達面が第1のKNN系化合物の特定の結晶面と格子整合性を有していない場合には、本発明に係る結晶配向セラミックスを製造するための反応性テンプレートとして機能しない場合があるので好ましくない。
格子整合性の良否は、第1異方形状粉末の発達面の格子寸法と、第1のKNN系化合物の特定の結晶面の格子寸法との差の絶対値を、第1異方形状粉末の発達面の格子寸法で割った値(以下、この値を「格子整合率」という。)で表すことができる。この格子整合率は、格子を取る方向によって若干異なる場合がある。一般に、平均格子整合率(各方向について算出された格子整合率の平均値)が小さくなるほど、その第1異方形状粉末は、良好なテンプレートとして機能することを示す。高配向度の結晶配向セラミックスを得るためには、第1異方形状粉末の平均格子整合率は、20%以下が好ましく、さらに好ましくは、10%以下である。
第3に、第1異方形状粉末は、必ずしも第1のKNN系化合物と同一組成を有するものである必要はなく、後述する第1反応原料と反応して、目的とする組成を有する第1のKNN系化合物を生成するものであっても良い。従って、第1異方形状粉末は、作製しようとする第1のKNN系化合物に含まれる陽イオン元素の内のいずれか1種以上の元素を含む化合物あるいは固溶体の中から選ばれることになる。
なお、「異方形状」とは、幅方向又は厚さ方向の寸法に比して、長手方向の寸法が大きいことをいう。具体的には、板状、柱状、鱗片状等が好適な一例として挙げられる。また、発達面を構成する結晶面の種類は、特に限定されるものではなく、種々の結晶面の中から目的に応じて選択される。
以上のような条件を満たす第1異方形状粉末であれば、いずれも本発明に係る結晶配向セラミックスを製造するためのテンプレート又は反応性テンプレートとして機能する。このような条件を満たす材料としては、具体的には、以下のようなものがある。
第1異方形状粉末の材料として好適な第1の具体例は、等方性ペロブスカイト型化合物の一種であるNaNbO3(以下、これを「NN」という。)、KNbO3(以下、これを「KN」という。)、若しくはK1−yNayNbO3、又はこれらに所定量のLi、Ta及び/若しくはSbが置換・固溶したものであって、次の(2)式に示す一般式で表されるもの(以下、これらを総称して「第2のKNN系化合物」という。)である。
{Lix(K1−yNay)1−x}{Nb1−z−wTazSbw}O3 ・・・(2)
(但し、x、y、z、wがそれぞれ0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦w≦1)
第2のKNN系化合物は、当然に第1のKNN系化合物と良好な格子整合性を有している。そのため、第2のKNN系化合物からなり、かつ特定の結晶面を発達面とする第1異方形状粉末(以下、これを特に「異方形状粉末A」という。)は、本発明に係る結晶配向セラミックスを作製するための反応性テンプレートとして機能する。また、異方形状粉末Aは、実質的に第1のKNN系化合物に含まれる陽イオン元素から構成されているので、不純物元素の極めて少ない結晶配向セラミックスを製造することができる。これらの中でも、擬立方{100}面を発達面とする第2のKNN系化合物からなる板状粉末は、本発明に係る結晶配向セラミックスを作製するための反応性テンプレートとして好適であり、擬立方{100}面を発達面とするNN若しくはKN板状粉末は、特に好適である。
第1異方形状粉末の材料として好適な第2の具体例は、層状ペロブスカイト型化合物からなり、かつ表面エネルギーの小さい結晶面が第1のKNN系化合物の特定の結晶面と格子整合性を有しているものである。層状ペロブスカイト型化合物は、結晶格子の異方性が大きいので、表面エネルギの小さい結晶面を発達面とする異方形状粉末(以下、これを特に「第2異方形状粉末」という。)を比較的容易に合成することができる。
第2異方形状粉末の材料として好適な層状ペロブスカイト型化合物の第1の具体例は、次の(3)式に示す一般式で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物である。
(Bi2O2)2+(Bi0.5AMm−1NbmO3m+1)2− ・・・(3)
(但し、mは2以上の整数、AMはLi、K及びNaから選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属元素)
(3)式で表される化合物は、{001}面の表面エネルギが他の結晶面の表面エネルギより小さいので、{001}面を発達面とする第2異方形状粉末を容易に合成できる。ここで、{001}面とは、(3)式で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物の(Bi2O2)2+層に平行な面である。しかも、(3)式で表される化合物の{001}面は、第1のKNN系化合物の擬立方{100}面との間に極めて良好な格子整合性がある。
そのため、(3)式で表される化合物からなり、かつ{001}面を発達面とする第2異方形状粉末は、擬立方{100}面を発達面とする結晶配向セラミックスを作製するための反応性テンプレートとして好適である。また、(3)式で表される化合物を用いると、後述する第1反応原料の組成を最適化することによって、Aサイト元素として実質的にBiを含まない第1のKNN系化合物を主相とする結晶配向セラミックスであっても製造することができる。
第2異方形状粉末の材料として好適な層状ペロブスカイト型化合物の第2の具体例は、Sr2Nb2O7である。Sr2Nb2O7の{010}面は、その表面エネルギーが他の結晶面の表面エネルギーより小さく、しかも、第1のKNN系化合物の擬立方{110}面との間に極めて良好な格子整合性がある。そのため、Sr2Nb2O7からなり、かつ、{010}面を発達面とする異方形状粉末は、{110}面を発達面とする結晶配向セラミックスを作製するための反応性テンプレートとして好適である。
第2異方形状粉末の材料として好適な層状ペロブスカイト型化合物の第3の具体例は、Na1.5Bi2.5Nb3O12、Na2.5Bi2.5Nb4O15、Bi3TiNbO9、Bi3TiTaO9、K0.5Bi2.5Nb2O9、CaBi2Nb2O9、SrBi2Nb2O9、BaBi2Nb2O9、BaBi3Ti2NbO12、CaBi2Ta2O9、SrBi2Ta2O9、BaBi2Ta2O9、Na0.5Bi2.5Ta2O9、Bi7Ti4NbO21、Bi5Nb3O15等である。これらの化合物の{001}面は、第1のKNN系化合物の擬立方{100}面と良好な格子整合性を有している。そのため、これらの化合物からなり、かつ{001}面を発達面とする異方形状粉末は、擬立方{100}面を発達面とする結晶配向セラミックスを作製するための反応性テンプレートとして好適である
第2異方形状粉末の材料として好適な層状ペロブスカイト型化合物の第4の具体例は、Ca2Nb2O7、Sr2Ta2O7等である。これらの化合物の{010}面は、第1のKNN系化合物の擬立方{110}面と良好な格子整合性を有している。そのため、これらの化合物からなり、かつ{010}面を発達面とする異方形状粉末は、擬立方{110}面を発達面とする結晶配向セラミックスを作製するための反応性テンプレートとして好適である
次に、第1異方形状粉末の製造方法について説明する。所定の組成、平均粒径及び/又はアスペクト比を備えた層状ペロブスカイト型化合物からなる第1異方形状粉末(すなわち、第2異方形状粉末)は、第2異方形状粉末の成分元素を含む酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の原料(以下、これを「異方形状粉末生成原料」という。)を、液体又は加熱により液体となる物質と共に加熱することにより容易に製造することができる。
異方形状粉末生成原料を原子の拡散が容易な液相中で加熱すると、表面エネルギーの小さい面(例えば、(3)式で表される物質の場合は{001}面)が優先的に発達した第2異方形状粉末を容易に合成することができる。この場合、第2異方形状粉末の平均アスペクト比及び平均粒径は、合成条件を適宜選択することにより、制御することができる。
第2異方形状粉末の製造方法としては、具体的には、異方形状粉末生成原料に適当なフラックス(例えば、NaCl、KCl、NaClとKClの混合物、BaCl2、KF等)を加えて所定の温度で加熱する方法(フラックス法)、作製しようとする第2異方形状粉末と同一組成を有する不定形粉末をアルカリ水溶液と共にオートクレーブ中で加熱する方法(水熱合成法)等が好適な一例として挙げられる。
一方、第2のKNN系化合物は、結晶格子の異方性が極めて小さいので、第2のKNN系化合物からなり、かつ特定の結晶面を発達面とする第1異方形状粉末(すなわち、異方形状粉末A)を直接、合成するのは困難である。しかしながら、異方形状粉末Aは、上述した第2異方形状粉末を反応性テンプレートとして用いて、これと所定の条件を満たす第2反応原料とを、フラックス中で加熱することにより製造することができる。
なお、第2異方形状粉末を反応性テンプレートとして用いて異方形状粉末Aを合成する場合、反応条件を最適化すれば、結晶構造の変化のみが起こり、粉末形状の変化はほとんど生じない。また、第2異方形状粉末の平均粒径及び/又はアスペクト比は、通常、反応前後においてそのまま維持されるが、反応条件を最適化すれば、得られる異方形状粉末Aの平均粒径及び/又はアスペクト比を増減させることもできる。
しかしながら、成形時に一方向に配向させることが容易な異方形状粉末Aを容易に合成するためには、その合成に使用する第2異方形状粉末もまた、成形時に一方向に配向させることが容易な形状を有していることが望ましい。
すなわち、第2異方形状粉末を反応性テンプレートとして用いて異方形状粉末Aを合成する場合においても、第2異方形状粉末の平均アスペクト比は、少なくとも3以上が好ましく、好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。また、後工程における粉砕を抑制するためには、平均アスペクト比は、100以下が好ましい。さらに、第2異方形状粉末の平均粒径は、0.05μm以上20μm以下が好ましく、さらに好ましくは0.1μm以上10μm以下である。
「第2反応原料」とは、上述した第2異方形状粉末と反応して、少なくとも第2のKNN系化合物からなる異方形状粉末Aを生成するものをいう。この場合、第2反応原料は、第2異方形状粉末との反応によって、第2のKNN系化合物のみを生成するものであっても良く、あるいは、第2のKNN系化合物と余剰成分の双方を生成するものであっても良い。ここで、「余剰成分」とは、目的とする第2のKNN系化合物以外の物質をいう。また、第2異方形状粉末と第2反応原料によって余剰成分が生成する場合、余剰成分は、熱的又は化学的に除去が容易なものからなることが望ましい。
第2反応原料の形態は、特に限定されるものではなく、酸化物粉末、複合酸化物粉末、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩等の塩、アルコキシド等を用いることができる。また、第2反応原料の組成は、作製しようとする第2のKNN系化合物の組成、及び、第2異方形状粉末の組成によって決まる。
例えば、(3)式で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物の1種であるBi2.5Na0.5Nb2O9(以下、これを「BINN2」という。)からなる第2異方形状粉末を用いて、第2のKNN系化合物の一種であるNNからなる異方形状粉末Aを合成する場合、第2反応原料として、Naを含む化合物(酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等)を用いればよい。この場合、1モルのBINN2に対して、Na原子1.5モルに相当するNa含有化合物を第2反応原料として添加すれば良い。
このような組成を有する第2異方形状粉末及び第2反応原料に対して、適当なフラックス(例えば、NaCl、KCl、NaClとKClの混合物、BaCl2、KF等)を1wt%〜500wt%加えて、共晶点・融点に加熱すると、NNと、Bi2O3を主成分とする余剰成分が生成する。Bi2O3は、融点が低く、酸にも弱いので、得られた反応物から湯洗等によりフラックスを取り除いた後、これを高温で加熱するか、あるいは、酸洗を行えば、{100}面を発達面とするNNからなる異方形状粉末Aが得られる。
また、例えば、BINN2からなる第2異方形状粉末を用いて、第2のKNN系固溶体の一種であるK0.5Na0.5NbO3(以下、これを「KNN」という。)からなる異方形状粉末Aを合成する場合、第2反応原料として、Naを含む化合物(酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等)及びKを含む化合物(酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等)、又は、Na及びKの双方を含む化合物を用いればよい。この場合、1モルのBINN2に対して、Na原子0.5モルに相当するNa含有化合物、及び、K原子1モルに相当するK含有化合物を第2反応原料として添加すれば良い。
このような組成を有する第2異方形状粉末及び第2反応原料に対して、適当なフラックスを1wt%〜500wt%加えて、共晶点・融点に加熱すると、KNNと、Bi2O3を主成分とする余剰成分が生成するので、得られた反応物からフラックス及びBi2O3を除去すれば、{100}面を発達面とするKNNからなる異方形状粉末Aが得られる。
第2異方形状粉末と第2反応原料との反応によって、第2のKNN系化合物のみを生成させる場合も同様であり、所定の組成を有する第2異方形状粉末と所定の組成を有する第2反応原料とを適当なフラックス中で加熱すればよい。これにより、フラックス中において、目的とする組成を有する第2のKNN系化合物が生成する。また、得られた反応物からフラックスを取り除けば、第2のKNN系化合物からなり、かつ特定の結晶面を発達面とする異方形状粉末Aが得られる。
第2のKNN系化合物は、結晶格子の異方性が小さいので、直接、異方形状粉末Aを合成するのは困難である。また、任意の結晶面を発達面とする異方形状粉末Aを直接、合成することも困難である。
これに対し、層状ペロブスカイト型化合物は、結晶格子の異方性が大きいので、異方形状粉末を直接合成するのは容易である。また、層状ペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末の発達面は、第2のKNN系化合物の特定の結晶面との間に格子整合性を有しているものが多い。さらに、第2のKNN系化合物は、層状ペロブスカイト型化合物に比して熱力学的に安定である。
そのため、層状ペロブスカイト型化合物からなり、かつ、その発達面が第2のKNN系化合物の特定の結晶面と格子整合性を有する第2異方形状粉末と第2反応原料とを、適当なフラックス中で反応させると、第2異方形状粉末が反応性テンプレートとして機能し、第2異方形状粉末の配向方位を承継した第2のKNN系化合物からなる異方形状粉末Aを容易に合成することができる。
また、第2異方形状粉末及び第2反応原料の組成を最適化すると、第2異方形状粉末に含まれていたAサイト元素(以下、これを「余剰Aサイト元素」という。)が余剰成分として排出され、かつ、余剰Aサイト元素を含まない第2のKNN系化合物からなる異方形状粉末Aが生成する。
特に、第2異方形状粉末が(3)式に示すビスマス層状ペロブスカイト型化合物からなる場合には、Biが余剰Aサイト元素として排出され、Bi2O3を主成分とする余剰成分が生成する。そのため、この余剰成分を熱的又は化学的に除去すれば、実質的にBiを含まず、第2のKNN系化合物からなり、かつ、特定の結晶面を発達面とする異方形状粉末Aが得られる。
次に、本発明に係る結晶配向セラミックスの製造方法について説明する。本発明に係る結晶配向セラミックスの製造方法は、混合工程と、成形工程と、熱処理工程とを備えている。
初めに、混合工程について説明する。混合工程は、第1異方形状粉末と第1反応原料とを混合する工程である。ここで、「第1異方形状粉末」とは、その発達面が第1のKNN系化合物の特定の結晶面と格子整合性を有するものをいう。第1異方形状粉末としては、具体的には、上述した異方形状粉末A、第2異方形状粉末等を用いることができる。
また、「第1反応原料」とは、第1異方形状粉末と反応して、少なくとも第1のKNN系化合物を生成するものをいう。この場合、第1反応原料は、第1異方形状粉末との反応によって、第1のKNN系化合物のみを生成するものであっても良く、あるいは、第1のKNN系化合物と余剰成分の双方を生成するものであっても良い。また、第1異方形状粉末と第1反応原料との反応によって余剰成分が生成する場合、余剰成分は、熱的又は化学的に除去が容易なものであることが望ましい。
第1反応原料の組成は、第1異方形状粉末の組成、及び、作製しようとする第1のKNN系化合物の組成に応じて定まる。また、第1反応原料の形態は、特に限定されるものではなく、酸化物粉末、複合酸化物粉末、水酸化物粉末、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩等の塩、アルコキシド等を用いることができる。
例えば、第1異方形状粉末としてKNN組成又はNN組成を有する異方形状粉末Aを用いて、第1のKNN系化合物からなる結晶配向セラミックスを作製する場合には、第1反応原料として、Li、K、Na、Nb、Ta及びSbの少なくとも1つの元素を含む化合物の混合物を用い、異方形状粉末Aと第1反応原料から目的とする組成を有する第1のKNN系化合物が生成するように、これらを化学量論組成となるように配合すればよい。
また、例えば、第1異方形状粉末として、(3)式で表される組成を有する第2異方形状粉末を用いて、第1のKNN系化合物からなる結晶配向セラミックスを作製する場合には、第1反応原料として、Li、K、Na、Nb、Ta及びSbの少なくとも1つの元素を含む化合物の混合物を用い、第2異方形状粉末と第1反応原料から目的とする組成を有する第1のKNN系化合物及びBi2O3が生成するように、これらを化学量論組成となるように配合すればよい。他の組成を有する結晶配向セラミックスを作製する場合も同様である。
なお、混合工程においては、所定の比率で配合された第1異方形状粉末及び第1反応原料に対して、さらに、これらの反応によって得られる第1のKNN系化合物と同一組成を有する化合物からなる不定形の微粉(以下、これを「化合物微粉」という。)、及び/又は、焼結助剤(例えば、CuO等)を添加しても良い。第1異方形状粉末及び第1反応原料に対して、さらに化合物微粉や焼結助剤を添加すると、焼結体の緻密化がさらに容易化するという利点がある。
また、化合物微粉を配合する場合において、化合物微粉の配合比率が過大になると、必然的に原料全体に占める第1異方形状粉末の配合比率が小さくなり、特定の結晶面の配向度が低下するおそれがある。従って、化合物微粉の配合比率は、要求される焼結体密度及び配向度に応じて、最適な配合比率を選択するのが好ましい。
第1異方形状粉末の配合比率は、第1異方形状粉末中の1つないし複数の成分元素により、ABO3で表される第1のKNN系化合物のAサイトが占有される比率が、0.01〜70at%となるようにすることが好ましく、より好ましくは、0.1〜50at%である。また、さらに好ましくは、1〜10at%である。
さらに、第1異方形状粉末及び第1反応原料、並びに、必要に応じて配合される化合物微粉及び焼結助剤の混合は、乾式で行っても良く、あるいは、水、アコール等の適当な分散媒を加えて湿式で行っても良い。さらに、この時、必要に応じてバインダ及び/又は可塑剤を加えても良い。
次に、成形工程について説明する。成形工程は、混合工程で得られた混合物を第1異方形状粉末が配向するように成形する工程である。この場合、第1異方形状粉末が面配向するように成形しても良く、あるいは、第1異方形状粉末が軸配向するように成形しても良い。
成形方法については、第1異方形状粉末を配向させることが可能な方法であれば良く、特に限定されるものではない。第1異方形状粉末を面配向させる成形方法としては、具体的には、ドクターブレード法、プレス成形法、圧延法等が好適な一例として挙げられる。また、第1異方形状粉末を軸配向させる成形方法としては、具体的には、押出成形法、遠心成形法等が好適な一例として挙げられる。
また、第1異方形状粉末が面配向した成形体(以下、これを「面配向成形体」という。)の厚さを増したり、配向度を上げるために、面配向成形体に対し、さらに積層圧着、プレス、圧延などの処理(以下、これを「面配向処理」という。)を行っても良い。この場合、面配向成形体に対して、いずれか1種類の面配向処理を行っても良く、あるいは、2種以上の面配向処理を行っても良い。また、面配向成形体に対して、1種類の面配向処理を複数回繰り返り行っても良く、あるいは、2種以上の配向処理をそれぞれ複数回繰り返し行っても良い。
次に、熱処理工程について説明する。熱処理工程は、成形工程で得られた成形体を加熱し、第1異方形状粉末と第1反応原料とを反応させる工程である。第1異方形状粉末と第1反応原料とを含む成形体を所定の温度に加熱すると、これらの反応によって第1のKNN系化合物が生成し、これと同時に、生成した第1のKNN系化合物の焼結が進行する。また、第1異方形状粉末及び/又は第1反応原料の組成によっては、余剰成分も同時に生成する。
加熱温度は、反応及び/又は焼結が効率よく進行し、かつ、目的とする組成を有する反応物が生成するように、使用する第1異方形状粉末、第1反応原料、作製しようとする結晶配向セラミックスの組成等に応じて最適な温度を選択すればよい。
例えば、KNN組成を有する異方形状粉末Aを用いて第1のKNN系化合物からなる結晶配向セラミックスを製造する場合、加熱は、一般に、900℃以上1300℃以下で行われる。最適な加熱温度は、第1のKNN系化合物の組成に応じて異なる。また、加熱は、大気中、酸素中、減圧下又は真空下のいずれの雰囲気下で行っても良い。さらに、加熱時間は、所定の焼結体密度が得られるように、加熱温度に応じて最適な時間を選択すればよい。
また、第1異方形状粉末と第1反応原料との反応によって余剰成分が生成する場合、焼結体中に余剰成分を副相として残留させても良く、あるいは、焼結体から余剰成分を除去しても良い。余剰成分を除去する場合、その方法には、熱的に除去する方法と、化学的に除去する方法とがある。
熱的に除去する方法は、第1のKNN系化合物及び余剰成分が生成した焼結体(以下、これを「中間焼結体」という。)を所定温度に加熱し、余剰成分を揮発させる方法である。具体的には、中間焼結体を減圧下もしくは真空下において、余剰成分の揮発が生じる温度で加熱する方法、中間焼結体を大気中もしくは酸素中において、余剰成分の揮発が生じる温度で長時間加熱する方法等が好適な一例として挙げられる。
余剰成分を熱的に除去する際の加熱温度は、余剰成分の揮発が効率よく進行し、かつ、副生成物の生成が抑制されるように、第1のKNN系化合物及び/又は余剰成分の組成に応じて、最適な温度を選択すればよい。例えば、余剰成分が酸化ビスマス単相である場合、加熱温度は、800℃以上1300℃以下が好ましく、さらに好ましくは、1000℃以上1200℃以下である。
余剰成分を化学的に除去する方法は、余剰成分のみを浸食させる性質を有する処理液中に中間焼結体を浸漬し、余剰成分を抽出する方法である。使用する処理液は、第1のKNN系化合物及び/又は余剰成分の組成に応じて、最適なものを選択すればよい。例えば、余剰成分が酸化ビスマス単相である場合、処理液は、硝酸、塩酸等の酸を用いるのが好ましい。特に、硝酸は、酸化ビスマスを主成分とする余剰成分を化学的に抽出する処理液として好適である。
第1異方形状粉末と第1反応原料との反応及び余剰成分の除去は、同時、逐次又は個別のいずれのタイミングで行っても良い。例えば、成形体を減圧下又は真空下において、第1異方形状粉末と第1反応原料との反応及び余剰成分の揮発の双方が効率よく進行する温度まで直接加熱し、反応と同時に余剰成分の除去を行っても良い。
また、例えば、大気中又は酸素中において、第1異方形状粉末と第1反応原料との反応が効率よく進行する温度で成形体を加熱し、中間焼結体を生成させた後、引き続き中間焼結体を減圧下又は真空下において、余剰成分の揮発が効率よく進行する温度で加熱し、余剰成分の除去を行っても良い。あるいは、中間焼結体を生成させた後、引き続き中間焼結体を大気中又は酸素中において、余剰成分の揮発が効率よく進行する温度で長時間加熱し、余剰成分の除去を行っても良い。
また、例えば、中間焼結体を生成させ、中間焼結体を室温まで冷却した後、中間焼結体を処理液に浸漬して、余剰成分を化学的に除去しても良い。あるいは、中間焼結体を生成させ、室温まで冷却した後、再度、中間焼結体を所定の雰囲気下において所定の温度に加熱し、余剰成分を熱的に除去しても良い。
なお、バインダを含む成形体の場合、熱処理工程の前に、脱脂を主目的とする熱処理を行っても良い。この場合、脱脂の温度は、少なくともバインダを熱分解させるに十分な温度であれば良い。但し、原料中に揮発しやすい物(例えば、Na化合物)が含まれる場合、脱脂は、500℃以下で行うのが好ましい。
また、配向成形体の脱脂を行うと、配向成形体中の第1異方形状粉末の配向度が低下したり、あるいは、配向成形体に体積膨張が発生する場合がある。このような場合には、脱脂を行った後、熱処理を行う前に、配向成形体に対して、さらに静水圧(CIP)処理を行うのが好ましい。脱脂後の成形体に対して、さらに静水圧処理を行うと、脱脂に伴う配向度の低下、あるいは、配向成形体の体積膨張に起因する焼結体密度の低下を抑制できるという利点がある。
また、第1異方形状粉末と第1反応原料との反応によって余剰成分が生成する場合において、余剰成分の除去を行う時には、余剰成分を除去した中間焼結体に対し、さらに、静水圧処理を施し、これを再焼成しても良い。また、焼結体密度及び配向度をさらに高めるために、熱処理後の焼結体に対してさらにホットプレスを行う方法も有効である。さらに、化合物微粉を添加する方法、CIP処理、ホットプレス等の方法とを組み合わせて用いても良い。
次に、本発明に係る結晶配向セラミックスの製造方法の作用について説明する。第1異方形状粉末及び第1反応原料を混合し、これを第1異方形状粉末に対して一方向から力が作用するような成形方法を用いて成形すると、第1異方形状粉末に作用する剪断応力によって第1異方形状粉末が成形体中に配向する。このような成形体を所定の温度で加熱すると、第1異方形状粉末と第1反応原料が反応し、第1のKNN系化合物が生成する。
この時、第1異方形状粉末の発達面と第1のKNN系化合物の特定の結晶面との間には格子整合性があるので、第1異方形状粉末の発達面が、生成した第1のKNN系化合物の特定の結晶面として承継される。そのため、焼結体中には、特定の結晶面が一方向に配向した状態で、第1のKNN系化合物の異方形状結晶が生成する。
層状ペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末を反応性テンプレートとして用いて、等方性ペロブスカイト型化合物のみを生成させる従来の方法は、異方形状粉末及びその他の原料に含まれるすべてのAサイト元素及びBサイト元素を含む等方性ペロブスカイト型化合物からなる結晶配向セラミックス又は異方形状粉末のみが製造可能である。
一方、反応性テンプレートとして用いる異方形状粉末の材質は、結晶格子の異方性の大きく、かつ、等方性ペロブスカイト型化合物との間に格子整合性を有するものであることが必要であるが、作製しようとする等方性ペロブスカイト型化合物の組成によっては、このような条件を満たす材料が存在しないか、あるいは、その探索に著しい困難を伴う場合がある。従って、従来の方法では、得られる結晶配向セラミックス又は異方形状粉末の組成制御、特に、Aサイト元素の組成制御には限界があった。
これに対し、まず、異方形状粉末の合成が容易な層状ペロブスカイト型化合物からなる第2異方形状粉末を反応性テンプレートに用いて、第2のKNN系化合物からなる異方形状粉末Aを合成し、次いで、この異方形状粉末Aを反応性テンプレートに用いて結晶配向セラミックスを製造する第1の方法によれば、結晶格子の異方性の小さい第1のKNN系化合物であっても、任意の結晶面が配向した結晶配向セラミックスを容易かつ安価に製造することができる。
しかも、第2異方形状粉末及び第2反応原料の組成を最適化すれば、余剰Aサイト元素を含まない異方形状粉末Aであっても合成することができる。そのため、従来の方法に比してAサイト元素の組成制御が容易化し、従来の方法では得られない組成を有する第1のKNN系化合物を主相とする結晶配向セラミックスであっても製造することができる。
また、第1異方形状粉末として、層状ペロブスカイト型化合物からなる第2異方形状粉末を用いる第2の方法によれば、焼結と同時に第1のKNN系化合物を合成することができる。また、成形体中に配向させる第2異方形状粉末及びこれと反応させる第1反応原料の組成を最適化すれば、第1のKNN系化合物を合成すると同時に、第2異方形状粉末から余剰Aサイト元素を余剰成分として排出することができる。
また、熱的又は化学的な除去が容易な余剰成分を生成する第2異方形状粉末を第1異方形状粉末として用いた場合には、実質的に余剰Aサイト元素を含まず、第1のKNN系化合物からなり、かつ、特定の結晶面が配向した結晶配向セラミックスが得られる。
さらに、本発明に係る方法により得られる結晶配向セラミックスは、所定量のLi、Ta及び/又はSbを含む第1のKNN系化合物からなるので、これらを含まない等方性ペロブスカイト型化合物からなる焼結体に比べて、高い圧電d31定数及び電気機械結合係数kpを示す。また、このようにして得られた結晶配向セラミックスは、特定の結晶面が高い配向度で配向しているので、同一組成を有する無配向焼結体より高い圧電d31定数、電気機械結合係数kp及び圧電g31定数を示す。
(実施例1)
(1) NN板状粉末の合成。
化学量論比でBi2.5Na3.5Nb5O18(以下、これを「BINN5」という。)組成となるようにBi2O3粉末、Na2CO3粉末及びNb2O5粉末を秤量し、これらを湿式混合した。次いで、この原料に対し、フラックスとしてNaClを50wt%添加し、1時間乾式混合した。
次に、得られた混合物を白金るつぼに入れ、850℃×1hの条件下で加熱し、フラックスを完全に溶解させた後、さらに1100℃×2hの条件下で加熱し、BINN5の合成を行った。なお、昇温速度は、200℃/hとし、降温は、炉冷とした。冷却後、反応物から湯洗によりフラックスを取り除き、BINN5粉末を得た。得られたBINN5粉末は、{001}面を発達面とする板状粉末であった。
次に、このBINN5板状粉末に対し、NN合成に必要な量のNa2CO3粉末を加えて混合し、NaClをフラックスとして、白金るつぼ中において、950℃×8時間の熱処理を行った。
得られた反応物には、NN粉末に加えてBi2O3が含まれているので、反応物からフラックスを取り除いた後、これをHNO3(1N)中に入れ、余剰成分として生成したBi2O3を溶解させた。さらに、この溶液を濾過してNN粉末を分離し、80℃のイオン交換水で洗浄した。得られたNN粉末は、擬立方{100}面を発達面とし、粒径が10〜20μmであり、かつアスペクト比が10〜20程度の板状粉末であった。
(2) {Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.94Sb0.06}O3組成を有する結晶配向セラミックスの作製。
(1)で作製したNN板状粉末、並びに、非板状のNN粉末、KN粉末、KT(KTaO3)粉末、LS(LiSbO3)粉末及びNS(NaSbO3)粉末を、
目的とする組成となるように秤量し、20時間の湿式混合を行った。
スラリーに対してバインダ(積水化学(株)製、エスレック(登録商標)BH−3)及び可塑剤(フタル酸ブチル)を、出発原料から合成される1molの{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.94Sb0.06}O3に対して、それぞれ、10.35g及び10.35g加えた後、さらに2時間混合した。
なお、NN板状粉末の配合量は、出発原料から合成される第1のKNN系固溶体(ABO3)のAサイト元素の5at%がNN板状粉末から供給される量とした。また、非板状のNN粉末、KN粉末、KT粉末、LS粉末及びNS粉末は、所定量のK2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、Ta2O5粉末及び/又はSb2O5粉末を含む混合物を750℃で5時間加熱し、反応物をボールミル粉砕する固相法により作製した。
次に、ドクターブレード装置を用いて、混合したスラリを厚さ100μmのテープ状に成形した。さらに、このテープを積層、圧着及び圧延することにより、厚さ1.5mmの板状成形体を得た。次いで、得られた板状成形体を、大気中において、加熱温度:600℃、加熱時間:2時間、昇温速度:50℃/h、冷却速度:炉冷の条件下で脱脂を行った。さらに、脱脂後の板状成形体に圧力:300MPaでCIP処理を施した後、酸素中において、焼成温度:1100℃、加熱時間:1時間、昇・降温速度:200℃/hrの条件下で常圧焼結を行った。
得られた焼結体について、焼結体密度、及びテープ面と平行な面についてのロットゲーリング法による{100}面の平均配向度F(100)、並びに圧電特性である圧電歪み定数(d31)、電気機械結合係数(kp)及び圧電電圧センサg係数(g31)を測定した。
なお、平均配向度F(100)は、数1の式を用いて算出した。また、圧電特性は、得られた焼結体から研削、研磨、加工により、その上下面がテープ面に対して平行である厚さ0.7mm、直径11mmの円盤状試料を作製し、その上下面にAu電極をスパッタによりコーティングし、円盤状試料の上下方向に分極処理を施した後、室温において電界強度1V/mmの条件下で共振反共振法により測定した。また、必要に応じて、0℃〜200℃の温度範囲における圧電d31定数の温度依存性及びキュリー温度を評価した。
本実施例で得られた結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、擬立方{100}面は、テープ面に対して平行に配向しており、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、82%に達した。さらに、室温における圧電特性を評価した結果、d31は85.9pm/V、kpは0.532、及びg31は15.6×10−3Vm/Nであり、後述する同一組成の無配向焼結体(比較例1)に比べて、それぞれ、1.29倍、1.22倍及び1.69倍に向上した。また、この結晶配向セラミックスは、後述するLi、Ta及びSbを添加しないKNN結晶配向セラミックス(比較例5)に比べて、約2倍のd31を有していた。
(実施例2)
脱脂後の板状成形体の焼成温度を1125℃とした以外は、実施例1と同一の手順に従い、{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.94Sb0.06}O3組成を有する結晶配向セラミックスを作製した。得られた結晶配向セラミックスについて、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本実施例で得られた結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、擬立方{100}面は、テープ面に対して平行に配向しており、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、82%に達した。さらに、室温における圧電特性を評価した結果、d31は93.2pm/V、kpは0.588、及びg31は16.5×10−3Vm/Nであり、後述する同一組成の無配向焼結体(比較例1)に比べて、それぞれ、1.40倍、1.35倍及び1.79倍に向上した。さらに、d31の温度依存性を評価した結果、0〜200℃の範囲におけるd31の最大値は、146.7pm/Vに達し、比較例1に比べて、1.17倍に向上した。また、キュリー温度は、311℃であった。
(実施例3)
{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.88Ta0.10Sb0.02}O3組成となるように出発原料を配合し、脱脂後の板状成形体の焼成温度を1125℃とした以外は、実施例1と同一の手順に従い、{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.88Ta0.10Sb0.02}O3組成を有する結晶配向セラミックスを作製した。得られた結晶配向セラミックスについて、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本実施例で得られた結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、擬立方{100}面は、テープ面に対して平行に配向しており、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、81%に達した。さらに、室温における圧電特性を評価した結果、d31は79.9pm/V、kpは0.537、及びg31は16.0×10−3Vm/Nであり、後述する同一組成の無配向焼結体(比較例2)に比べて、それぞれ、1.20倍、1.20倍及び1.67倍に向上した。
(実施例4)
Aサイト元素の2at%がNN板状粉末から供給され、かつ{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.81Ta0.14Sb0.05}O3組成となるように出発原料を配合し、脱脂後の板状成形体の焼成温度を1150℃とした以外は、実施例1と同一の手順に従い、{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.81Ta0.14Sb0.05}O3組成を有する結晶配向セラミックスを作製した。得られた結晶配向セラミックスについて、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本実施例で得られた結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、擬立方{100}面は、テープ面に対して平行に配向しており、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、75%に達した。さらに、室温における圧電特性を評価した結果、d31は123.0pm/V、kpは0.588、及びg31は11.8×10−3Vm/Nであり、後述する同一組成の無配向焼結体(比較例3)に比べて、それぞれ、1.54倍、1.45倍及び1.63倍に向上した。
(実施例5)
{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.81Ta0.14Sb0.05}O3組成となるように出発原料を配合し、脱脂後の板状成形体の焼成温度を1150℃とした以外は、実施例1と同一の手順に従い、{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.81Ta0.14Sb0.05}O3組成を有する結晶配向セラミックスを作製した。得られた結晶配向セラミックスについて、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本実施例で得られた結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、擬立方{100}面は、テープ面に対して平行に配向しており、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、72%に達した。さらに、室温における圧電特性を評価した結果、d31は116.6pm/V、kpは0.540、及びg31は10.3×10−3Vm/Nであり、後述する同一組成の無配向焼結体(比較例3)に比べて、それぞれ、1.46倍、1.33倍及び1.43倍に向上した。さらに、d31の温度依存性を評価した結果、0〜200℃におけるd31の最大値は、123.2pm/Vに達し、比較例3に比べて1.18倍に向上した。また、キュリー温度は、248℃であった。
(実施例6)
{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.81Ta0.14Sb0.05}O3組成となるように出発原料を配合し、脱脂後の板状成形体の焼成温度を1150℃、加熱時間を5時間とした以外は、実施例1と同一の手順に従い、{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.81Ta0.14Sb0.05}O3組成を有する結晶配向セラミックスを作製した。得られた結晶配向セラミックスについて、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本実施例で得られた結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、擬立方{100}面は、テープ面に対して平行に配向しており、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、85%に達した。さらに、室温における圧電特性を評価した結果、d31は135.3pm/V、kpは0.606、及びg31は14.8×10−3Vm/Nであり、後述する同一組成の無配向焼結体(比較例3)に比べて、それぞれ、1.70倍、1.49倍及び2.06倍に向上した。さらに、d31の温度依存性を評価した結果、0〜200℃におけるd31の最大値は、146.4pm/Vに達し、比較例3に比べて1.40倍に向上した。また、キュリー温度は、248℃であった。
(実施例7)
{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.81Ta0.14Sb0.05}O3組成となるように出発原料を配合し、脱脂後の板状成形体を、酸素中において、焼成温度:1150℃、加熱時間:1時間、加圧力:35kg/cm2(3.43MPa)、昇・降温速度:200℃/hの条件下でホットプレスした以外は、実施例1と同一の手順に従い、{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.81Ta0.14Sb0.05}O3組成を有する結晶配向セラミックスを作製した。得られた結晶配向セラミックスについて、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本実施例で得られた結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、擬立方{100}面は、テープ面に対して平行に配向しており、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、85%に達した。さらに、室温における圧電特性を評価した結果、d31は131.8pm/V、kpは0.663、及びg31は15.5×10−3Vm/Nであり、後述する同一組成の無配向焼結体(比較例3)に比べて、それぞれ、1.65倍、1.63倍及び2.15倍に向上した。さらに、d31の温度依存性を評価した結果、0〜200℃におけるd31の最大値は、204.8pm/Vに達し、比較例3に比べて1.96倍に向上した。また、キュリー温度は、248℃であった。
(実施例8)
{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.81Ta0.14Sb0.05}O3組成となるように出発原料を配合し、脱脂後の板状成形体を、酸素中において、焼成温度:1150℃、加熱時間:5時間、加圧力:50kg/cm2(4.90MPa)、昇・降温速度:200℃/hの条件下でホットプレスした以外は、実施例1と同一の手順に従い、{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.81Ta0.14Sb0.05}O3組成を有する結晶配向セラミックスを作製した。得られた結晶配向セラミックスについて、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本実施例で得られた結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、擬立方{100}面は、テープ面に対して平行に配向しており、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、96%に達した。さらに、室温における圧電特性を評価した結果、d31は126.8pm/V、kpは0.655、及びg31は17.2×10−3Vm/Nであり、後述する同一組成の無配向焼結体(比較例3)に比べて、それぞれ、1.59倍、1.61倍及び2.39倍に向上した。さらに、d31の温度依存性を評価した結果、0〜200℃におけるd31の最大値は、177.1pm/Vに達し、比較例3に比べて1.70倍に向上した。また、キュリー温度は、248℃であった。
(実施例9)
{Li0.04(K0.46Na0.54)0.96}{Nb0.84Ta0.10Sb0.06}O3組成となるように出発原料を配合し、脱脂後の板状成形体を、酸素中において、焼成温度:1150℃、加熱時間:1時間、加圧力:35kg/cm2(3.43MPa)、昇・降温速度:200℃/hの条件下でホットプレスした以外は、実施例1と同一の手順に従い、{Li0.04(K0.46Na0.54)0.96}{Nb0.84Ta0.10Sb0.06}O3組成を有する結晶配向セラミックスを作製した。得られた結晶配向セラミックスについて、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価し、さらに、−42〜162℃の温度範囲において、周波数1Hzで電界強度0〜2000V/mmの高電圧を、周波数1Hzの三角波で印加し駆動した場合に、電圧印加方向と平行方向に発生する変位を式A6により動的歪量(D33large)として求めて評価した。また、式A9により、高電界下での駆動における注入電荷量を比誘電率(動的比誘電率:E33large)として算出した。
本実施例で得られた結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、擬立方{100}面は、テープ面に対して平行に配向しており、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、92%に達した。さらに、室温における圧電特性を評価した結果、d31は166.1pm/V、kpは0.664、及びg31は14.3×10−3Vm/Nであり、後述する同一組成の無配向焼結体(比較例6)に比べて、それぞれ、1.25倍、1.30倍及び2.04倍に向上した。さらに、d31の温度依存性を評価した結果、0〜200℃におけるd31の最大値は、180.1pm/Vに達し、比較例6に比べて1.30倍に向上した。また、キュリー温度は、260℃であった。
さらに、高電圧(電界強度:0〜2000V/mm)を、周波数1Hzの三角波で印加し駆動した場合に発生する変位量を評価した結果、24〜162℃(温度範囲:138℃)の温度域におけるD33largeの最大値は800pm/V、D33largeの最小値は750pm/Vであり、これらの平均値(775pm/V)に対する変動幅は±3%であった。また、この際の駆動におけるE33largeを評価した結果、24〜162℃(温度範囲:138℃)の温度域におけるE33largeの最大値は3219、E33largeの最小値は2824であり、これらの平均値(3021pm/V)に対する変動幅は±6.5%であった。
以上の結果をもとに、電圧一定駆動以外の駆動方式において本実施例の材料を用いたアクチュエータの変位の温度特性を計算で求めた。式A5、式A7、式A8、及び式A10より、電界一定でアクチュエータを駆動する場合の変位は、D33largeに比例し、エネルギ一定でアクチュエータを駆動する場合の変位は、アクチュエータのD33large/(E33large)1/2に比例し、また、注入電荷一定でアクチュエータを駆動する場合の変位はアクチュエータのD33large/E33largeに比例する。
本実施例で得られた材料について、前記定電圧駆動(特性指数:D33large)、定エネルギ駆動(特性指数:D33large/(E33large)1/2)、定電荷駆動(特性指数:D33large/E33large)する場合に関する計算を行った。
その結果、24〜162℃(温度範囲:138℃)の温度域におけるD33largeの最大値は800pm/V、D33largeの最小値は750pm/Vであり、これらの平均値(775pm/V)に対する変動幅は±3%であった。また、D33large/(E33large)1/2の最大値は15.06pm/V、最小値は14.10pm/Vであり、これらの平均値(14.58pm/V)に対する変動幅は±3%であった。さらに、D33large/E33largeの最大値は0.2833pm/V、最小値は0.2485pm/Vであり、これらの平均値(0.2659pm/V)に対する変動幅は±6.5%であった。
(比較例1)
出発原料としてNN板状粉末を用いなかった以外は、実施例1と同一の手順に従い、{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.94Sb0.06}O3組成を有する無配向焼結体を作製した。得られた無配向焼結体について、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本比較例で得られた無配向焼結体の相対密度は、95%以上であった。また、テープ面に対して平行な面について測定されたロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、0%であった。また、室温における圧電特性を評価した結果、d31は66.8pm/V、kpは0.435、及びg31は9.2×10−3Vm/Nであった。さらに、0℃〜200℃におけるd31の最大値は、125.4pm/Vであった。また、キュリー温度は、311℃であった。
(比較例2)
出発原料としてNN板状粉末を用いなかった以外は、実施例3と同一の手順に従い、{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.88Ta0.10Sb0.02}O3組成を有する無配向焼結体を作製した。得られた無配向焼結体について、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本比較例で得られた無配向焼結体の相対密度は、95%以上であった。また、テープ面に対して平行な面について測定されたロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、0%であった。さらに、室温における圧電特性を評価した結果、d31は66.4pm/V、kpは0.446、及びg31は9.5×10−3Vm/Nであった。
(比較例3)
出発原料としてNN板状粉末を用いなかった以外は、実施例5と同一の手順に従い、{Li0.02(K0.5Na0.5)0.98}{Nb0.81Ta0.14Sb0.05}O3組成を有する無配向焼結体を作製した。得られた無配向焼結体について、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本比較例で得られた無配向焼結体の相対密度は、95%以上であった。また、テープ面に対して平行な面について測定されたロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、0%であった。さらに、室温における圧電特性を評価した結果、d31は79.7pm/V、kpは0.406、及びg31は7.2×10−3Vm/Nであった。さらに、0℃〜200℃におけるd31の最大値は、104.3pm/Vであった。また、キュリー温度は、248℃であった。
(比較例4)
出発原料としてNN板状粉末を用いなかった以外は、実施例7と同一の手順に従い、{Li0.02(K0.50Na0.50)0.96}{Nb0.81Ta0.14Sb0.05}O3組成を有する無配向焼結体を作製した。得られた無配向焼結体について、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本比較例で得られた無配向焼結体の相対密度は、95%以上であった。また、テープ面に対して平行な面について測定されたロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、0%であった。さらに、室温における圧電特性を評価した結果、d31は77.0pm/V、kpは0.434、及びg31は7.6×10−3Vm/Nであり、NN板状粉末をテンプレートとして用いた実施例7に比べて、いずれの特性も低い値を示した。
(比較例5)
実施例1の(1)で作製したNN板状粉末、並びに非板状のNN粉末、KN粉末を、(K0.5Na0.5)NbO3組成となるように秤量し、20時間の湿式混合を行った。なお、NN板状粉末の配合量は、Aサイト元素の5at%がNN板状粉末から供給される量とした。
次に、スラリーに対してバインダ(積水化学(株)製、エスレック(登録商標)BH−3)、可塑剤(フタル酸ブチル)及び焼結助剤(CuO)を、出発原料から合成される1molの(K0.5Na0.5)NbO3に対して、それぞれ、10.35g、10.35g及び0.795g加えて2時間混合した。以下、実施例1と同一の手順に従い、板状成形体の作製、脱脂及びCIP処理を行った。
さらに、脱脂後の板状成形体を、加熱温度:1075℃、加熱時間:5時間、昇・降温速度:200℃/hの条件下で常圧焼結を行った。得られた結晶配向セラミックスについて、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本比較例で得られたKNN結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、テープ面に対して平行な面について測定されたロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、96%であった。さらに、室温における圧電特性を評価した結果、d31は42.4pm/V、kpは0.490、及びg31は22.0×10−3Vm/Nであった。
(比較例6)
出発原料としてNN板状粉末を用いなかった点、及びホットプレスに代えて、加熱温度:1125℃、加熱時間:1時間、昇・降温速度:200℃/hrの条件下で常圧焼結を行った点以外は、実施例9と同一の手順に従い、{Li0.04(K0.46Na0.54)0.96}{Nb0.84Ta0.10Sb0.06}O3組成を有する無配向焼結体を作製した。得られた無配向焼結体について、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価し、さらに、実施例9と同一の条件下で、高電圧(電界強度:0〜2000V/mm)を周波数1Hzの三角波で印加し駆動した場合のD33large並びにE33largeを評価した。
本比較例で得られた無配向焼結体の相対密度は、95%以上であった。また、テープ面に対して平行な面について測定されたロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、0%であった。また、室温における圧電特性を評価した結果、d31は132.4pm/V、kpは0.511、及びg31は7.0×10−3Vm/Nであった。さらに、0〜200℃におけるd31の最大値は、138.7pm/Vであった。また、キュリー温度は、260℃であった。
また、高電圧(電界強度:0〜2000V/mm)を周波数1Hzの三角波で印加し駆動した場合に発生する変位量を評価した結果、52〜165℃(温度範囲:113℃)の温度域におけるD33largeの最大値は450pm/V、D33largeの最小値は275pm/Vであり、これらの平均値(363pm/v)に対する変動幅は±24%であった。また、この際の駆動におけるE33largeを評価した結果、52〜165℃(温度範囲:113℃)の温度域におけるE33largeの最大値は2711、E33largeの最小値は1995であり、これらの平均値(2353)に対する変動幅は±15.2%であった。
以上の測定結果をもとに、実施例9の場合と同様の方法で、比較例6で得られた材料について、定電圧駆動(特性指数:D33large)、定エネルギ駆動(特性指数:D33large/(E33large)1/2)、定電荷駆動(特性指数:D33large/E33large)する場合に関する計算を行った。
その結果、52〜165℃(温度範囲:113℃)の温度域におけるD33largeの最大値は450pm/V、D33largeの最小値は275pm/Vであり、これらの平均値(363pm/V)に対する変動幅は±24%であった。また、D33large/(E33large)1/2の最大値は8.64pm/V、最小値は6.16pm/Vであり、これらの平均値(7.40pm/V)に対する変動幅は±17%であった。さらに、D33large/E33largeの最大値は0.1660pm/V、最小値は0.1378pm/Vであり、これらの平均値(0.1519pm/V)に対する変動幅は±9.3%であった。
(比較例7)
Liの添加量xを0.22とし、焼結温度を1050℃とした以外は、実施例3と同一の手順に従い、{Li0.22(K0.50Na0.50)0.78}{Nb0.88Ta0.10Sb0.02}O3組成を有する結晶配向セラミックスを作製した。得られた結晶配向セラミックスについて、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本比較例で得られた結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、テープ面に対して平行な面について測定されたロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、53%であった。しかしながら、室温における圧電特性を評価した結果、d31は29.9pm/V、kpは0.171、及びg31は3.2×10−3Vm/Nであり、Liの添加量xを0.02とした実施例3に比べて、いずれの特性も低い値を示した。
(比較例8)
Taの添加量zを0.45とし、常圧焼結に代えて、加熱温度:1200℃、保持時間:1時間、加圧力:35kg/cm2(3.43MPa)、昇・降温速度:200℃/hの条件下でホットプレスを行った以外は、実施例3と同一の手順に従い、{Li0.02(K0.50Na0.50)0.98}{Nb0.53Ta0.45Sb0.02}O3組成を有する結晶配向セラミックスを作製した。得られた結晶配向セラミックスについて、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本比較例で得られた結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、テープ面に対して平行な面について測定されたロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、89%であった。さらに、室温における圧電特性を評価した結果、d31は107.1pm/V、kpは0.469、及びg31は6.4×10−3Vm/Nであり、圧電d31定数については、Taの添加量zを0.10とした実施例3に比べて、高い値を示した。しかしながら、この組成におけるキュリー温度は117℃と低く、家電及び自動車用の圧電材料としての利用は困難と考えられる。
(比較例9)
Sbの添加量wを0.22とし、焼結温度を1150℃とした以外は、実施例3と同一の手順に従い、{Li0.02(K0.50Na0.50)0.98}{Nb0.68Ta0.10Sb0.22}O3組成を有する結晶配向セラミックスを作製した。得られた結晶配向セラミックスについて、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本比較例で得られた結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、テープ面に対して平行な面について測定されたロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、79%であった。しかしながら、室温における圧電特性を評価した結果、d31は17.1pm/V、kpは0.074、及びg31は8.7×10−3Vm/Nであり、Sbの添加量xを0.02とした実施例3に比べて、いずれの特性も低い値を示した。
(比較例10)
Liの添加量x、Taの添加量z及びSbの添加量wを、それぞれ、0.22、0.45及び0.22とし、焼結温度を1225℃とした以外は、実施例3と同一の手順に従い、{Li0.22(K0.50Na0.50)0.78}{Nb0.33Ta0.45Sb0.22}O3組成を有する結晶配向セラミックスを作製した。得られた結晶配向セラミックスについて、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。
本比較例で得られた結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、テープ面に対して平行な面について測定されたロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、73%であった。しかしながら、室温における圧電特性を評価した結果、d31は4.2pm/V、kpは0.030、及びg31は7.2×10−3Vm/Nであり、実施例3に比べて、いずれの特性も低い値を示した。
表1に、実施例1〜9及び比較例1〜10で得られた焼結体の製造条件及び圧電特性を示す。
また、図1、図2及び図3(a)、並びに図3(b)に、それぞれ、実施例1、実施例3及び実施例8で得られた結晶配向セラミックス、並びに比較例3で得られた無配向焼結体のテープ面に対して平行な面について測定されたX線回折図形を示す。図1〜3より、実施例1、3、8で得られた結晶配向セラミックスは、擬立方{100}面が極めて高い配向度で配向していることがわかる。
また、図4に、実施例2で得られた結晶配向セラミックス及び比較例1で得られた無配向焼結体の圧電d31定数の温度依存性を示す。また、図5に、実施例7で得られた結晶配向セラミックス及び比較例3で得られた無配向焼結体の圧電d31定数の温度依存性を示す。さらに、図6に、実施例9で得られた結晶配向セラミックス及び比較例6で得られた無配向焼結体の圧電d31定数の温度依存性を示す。図4〜図6より、多結晶体を構成する各結晶粒の擬立方{100}面を一方向に配向させることによって、すべての温度域において圧電d31定数が向上することがわかる。
(実施例10〜21、比較例11〜22)
{Li0.04(K1−yNay)0.96}{Nb0.84Ta0.10Sb0.06}O3組成において、Naの添加量yを0〜0.8とし、板状のNNテンプレート粉末をABO3のAサイト原子の5at%の割合で配合した配向試料(実施例10〜21)、及び板状のNNテンプレート粉末を使用しない無配向試料(比較例11〜22)を調製し、脱脂後の板状成形体を、酸素中、加熱温度:1050〜1200℃、加熱時間:1時間、昇・降温速度:200℃/hとし、加熱時間中に35kg/cm2(3.42MPa)の圧力を印加するホットプレスを行い、焼結体を作製した。
表2に、実施例10〜21及び比較例11〜22の配合組成を示す。また、表2には、実施例9及び比較例6で作製した焼結体の配合組成も併せて示した。
得られた焼結体について、実施例1と同一の手順に従い、焼結体密度、平均配向度及び圧電特性を評価した。実施例10〜21及び比較例11〜22で得られた焼結体の相対密度は、いずれも95%以上であった。また、テープ面に対して平行な面について測定されたロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、無配向焼結体の場合、いずれも0%であるのに対し、配向焼結体の場合は、いずれも70%以上であった。
図7に、実施例9及び実施例10〜21、並びに、比較例5、6及び比較例11〜22について測定された、室温における圧電d31定数を示す。図7に示すように、配向焼結体のd31定数は、同一組成の無配向焼結体に比べて1.2倍以上の特性向上が見られた。図7より、x=0.04、z=0.1、z=0.06の組成において、yを0.2以上0.7以下とすると、室温における圧電d31定数が約70pm/V以上である結晶配向セラミックスが得られ、yを0.4以上0.6以下とすると、室温における圧電d31定数が約120pm/V以上である結晶配向セラミックスが得られることがわかる。
(実施例22)
{Li0.08(K0.5Na0.5)0.92}{Nb0.84Ta0.10Sb0.06}O3組成となるように出発原料を混合し、脱脂後の板状成形体の焼成温度を1105℃とした以外は、実施例1と同一の手順に従い、{Li0.08(K0.5Na0.5)0.92}{Nb0.84Ta0.10Sb0.06}O3組成を有する結晶配向セラミックスを作製した。
得られた焼結体から研削、研磨、加工により、その上下面がテープ面に対して平行である厚さ0.5mm、直径8.5mmの円盤状試料を作製し、円盤状試料の上下面の全面にAu焼付電極を大気中において、焼付温度:850℃、加熱時間:10分の条件でメッシュベルト炉を用いて焼付を行った。円盤状試料の上下方向に分極処理を施した後、得られた結晶配向セラミックスを40枚積層してアクチュエータを作製した。
実施例1と同一の手順に従い、焼結体密度及び平均配向度を評価し、得られたアクチュエータにプリセット荷重16.4MPaを印加した状態で、−40〜160℃の温度範囲において、2.9N/μmのバネ荷重下で、電界強度:0〜1500V/mmを周波数1Hzの正弦波で印加し駆動した場合のD33large、並びにE33largeを評価した。
本実施例で得られた結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、擬立方{100}面は、テープ面に対して平行に配向しており、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、89%に達した。
また、得られたアクチュエータに高電圧(電界強度:0〜1500V/mm)を、周波数1Hzの正弦波で印加し駆動した場合に発生する変位量を評価した結果、−40〜70℃(温度範囲:110℃)の温度域におけるD33largeの最大値は322pm/V、D33largeの最小値は287pm/Vであり、これらの平均値(305pm/v)に対する変動幅は±6%であった。また、この際の駆動におけるE33largeを評価した結果、−40〜70℃(温度範囲:110℃)の温度域におけるE33largeの最大値は1620、E33largeの最小値は1444であり、これらの平均値(1532)に対する変動幅は±6%であった。
以上の測定結果をもとに、実施例9の場合と同様の方法で、実施例22で得られた材料について、定電圧駆動(特性指数:D33large)、定エネルギ駆動(特性指数:D33large/(E33large)1/2)、定電荷駆動(特性指数:D33large/E33large)する場合に関する計算を行った。
その結果、−40〜70℃(温度範囲:110℃)の温度域におけるD33largeの最大値は322pm/V、D33largeの最小値は287pm/Vであり、これらの平均値(305pm/V)に対する変動幅は±6%であった。また、D33large/(E33large)1/2の最大値は8.28pm/V、最小値は7.18pm/Vであり、これらの平均値(7.73pm/V)に対する変動幅は±7.1%であった。さらに、D33large/E33largeの最大値は0.2130pm/V、最小値は0.1784pm/Vであり、これらの平均値(0.1957pm/V)に対する変動幅は±8.8%であった。
また、実施例9の場合と同様の方法で、高電圧を周波数1Hzの正弦波、並びに三角波で印加した場合の単板におけるD33large及びE33largeの評価を行った結果、いずれの電界(正弦波並びに三角波)下においても、アクチュエータの場合と同様の良好な温度特性が得られた。
(実施例23)
{Li0.07(K0.43Na0.57)0.93}{Nb0.84Ta0.09Sb0.07}O3組成となるように出発原料を混合し、脱脂後の板状成形体を、酸素中において、焼成温度:1130℃、加熱時間:5時間、加圧力:35kg/cm2(3.43MPa)、昇・降温速度:200℃/hの条件下でホットプレスした以外は、実施例1と同一の手順に従い、{Li0.07(K0.43Na0.57)0.93}{Nb0.84Ta0.09Sb0.07}O3組成を有する結晶配向セラミックスを作製した。
得られた結晶配向セラミックスについて、実施例1と同一の条件下で、焼結体密度及び平均配向度を評価し、さらに、実施例9と同一の条件下で、高電圧(電界強度:0〜2000V/mm)を周波数1Hzの三角波で駆動した場合のD33large、並びに、E33largeを評価した。また、注入エネルギ(W)を一定(定エネルギ駆動)、並びに注入電荷(Q)を一定(定電荷駆動)にして素子を駆動した場合の発生変位並びに発生電界を評価した。
本実施例で得られた結晶配向セラミックスの相対密度は、95%以上であった。また、擬立方{100}面は、テープ面に対して平行に配向しており、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度は、78%に達した。
高電圧(電界強度:0〜2000V/mm)を、周波数1Hzの三角波で印加し駆動した場合に発生する変位量を評価した結果、−30〜161℃(温度範囲:191℃)の温度域におけるD33largeの最大値は692pm/V、D33largeの最小値は650pm/Vであり、これらの平均値(671pm/v)に対する変動幅は±3.1%であり、E33largeは、−30〜161℃(温度範囲:191℃)の温度域において、最大値2429、最小値は2315であり、これらの平均値(2372)に対する変動幅は±2.4%であった。また、アクチュエータを作製し、実施例22と同様の方法でアクチュエータのD33largeの評価を行った結果、単板での評価の場合と同様の良好な温度特性を示した。
以上の測定結果をもとに、実施例9の場合と同様の方法で、実施例23で得られた材料について、定電圧駆動(特性指数:D33large)、定エネルギ駆動(特性指数:D33large/(E33large)1/2)、定電荷駆動(特性指数:D33large/E33large)する場合に関する計算を行った。
その結果、−30〜161℃(温度範囲:191℃)の温度域におけるD33largeの最大値は692pm/V、最小値は650pm/Vであり、これらの平均値(671pm/V)に対する変動幅は±3.1%であった。また、D33large/(E33large)1/2の最大値は14.04pm/V、最小値は13.27pm/Vであり、これらの平均値(13.65pm/V)に対する変動幅は±2.8%であった。さらに、D33large/E33largeの最大値は0.2849pm/V、最小値は0.2708pm/Vであり、これらの平均値(0.2778pm/V)に対する変動幅は±2.5%であった。
また、電界強度を0〜500V/mmとした以外は、電界強度を0〜2000V/mmとした場合と同様の条件下で評価を行った結果、所定の100℃以上の温度域におけるD33large、並びにE33largeの変動幅は、電界強度を0〜2000V/mmとした場合と同様に、いずれも±20%以下、並びに±15%以下であった。
さらに、注入エネルギ(W)を一定(30000J/m3)にして素子を駆動した場合(定エネルギ駆動)の発生変位、並びに発生電界を測定した結果、−30〜161℃(温度範囲:191℃)の温度域における変位の最大値は1250ppm、最小値は1160ppmであり、これらの平均値(1205ppm)に対する変動幅は±3.7%であり、電界は、−30〜161℃(温度範囲:191℃)の温度域において、最大値は1750V/mm、最小値は1660V/mmであり、これらの平均値(1705V/mm)に対する変動幅は、±2.6%であった。
また、注入電荷(Q)を一定(3μC/cm2)にして素子を駆動した場合(定電荷駆動)の発生変位並びに発生電界を測定した結果、−30〜161℃(温度範囲:191℃)の温度域における変位の最大値は1020ppm、最小値は900ppmであり、これらの平均値(960ppm)に対する変動幅は±6.3%であり、電界は、−30〜161℃(温度範囲:191℃)の温度域において最大値は1550V/mm、最小値は1450V/mmであり、これらの平均値(1500V/mm)に対する変動幅は±3.3%であった。
(実施例9及び比較例6の温度特性)
図8及び図9に、実施例9で得られた結晶配向セラミックス及び比較例6で得られた無配向焼結体に、−42℃〜165℃の温度範囲において、電界強度0〜2000V/mmを周波数1Hzの三角波で印加し駆動した場合のD33large及びE33largeをそれぞれ示す。また、表3及び表4に、実施例9並びに比較例6で得られた焼結体に、−42〜165℃の温度範囲において、高電圧(電界強度:0〜2000V/mm)を周波数1Hzの三角波で印加し駆動した場合のD33large並びにE33largeの所定の温度域における変動幅を示す。また、表3及び表4には、実施例22(電界強度:0〜1500V/mm)及び実施例23(電界強度:0〜2000V/mm)で作製した焼結体の変動幅も併せて示した。
さらに、図10並びに図11に、実施例9及び比較例6で得られた焼結体を、−42〜165℃の温度範囲において、高電圧(電界強度:0〜2000V/mm)を周波数1Hzの三角波で印加し駆動した場合のD33large/(E33large)1/2、及びD33large/E33largeの温度特性を示す。また、表5及び表6に、−40〜165℃の温度範囲において、高電圧(電界強度:0〜2000V/mm)を周波数1Hzの三角波で印加し駆動した場合のD33large/(E33large)1/2、及びD33large/E33largeの所定の温度域における変動幅を示す。
図8並びに表3より、多結晶体を構成する各結晶粒の擬立方{100}面を一方向に配向させることによって、−42〜165℃での任意の100℃以上の温度範囲に渡って、D33large並びにE33largeの最大値と最小値の平均値からの変動幅が、それぞれ±20%以内並びに±15%以内である温度域を有する結晶配向セラミックスが得られ、無配向焼結体に比べて優れた温度特性を発現することがわかった。また、D33largeの温度による変動幅は、約20℃以下の斜方晶の結晶相領域よりも、約20℃以上の正方晶の結晶相領域において小さかった。
さらに、図8、図10及び図11、並びに、表3、表5及び表6より、多結晶体を構成する各結晶粒の擬立方{100}面を一方向に配向させることによって、−40〜165℃での任意の100℃以上の温度範囲に渡って、定電圧駆動(特性指数:D33large)、定エネルギ駆動(特性指数:D33large/(E33large)1/2)、定電荷駆動(特性指数:D33large/E33large)する場合の変位量の変動幅は、それぞれ±20%以内、±10%以内、及び±9%以内を示す温度域を有し、いずれの駆動方法においても、無配向焼結体に比べて変位量の温度に対する変動幅が小さい優れた温度特性を有し、制御しやすい特性を発現することがわかる。
(実施例22の温度特性)
図12に実施例22で得られた結晶配向セラミックスでアクチュエータを作製し、−40〜161℃の温度範囲において、電界強度0〜1500V/mmの高電圧を周波数1Hzの正弦波で印加し駆動した場合のD33largeを示す。また、表3及び表4には、その際の実施例22におけるD33large並びにE33largeの変動幅を示した。図12、表3及び表4より、多結晶体を構成する各結晶粒の擬立方{100}面を一方的に配向させることによって、−40〜161℃での任意の100℃以上の温度範囲にわたって、D33large並びにE33largeの最大値と最小値の平均値からの変動幅が、それぞれ±20%以内並びに±15%以内である温度域を有する優れた温度特性を有する結晶配向セラミックスが得られることがわかる。
また、表5及び表6に、−40〜161℃の温度範囲において、高電圧(電界強度0〜2000V/mm)を周波数1Hzの正弦波で印加し駆動した場合のD33large/(E33large)1/2、及びD33large/E33largeの所定の温度域における変動幅を示す。
図12、表3、表5及び表6より、多結晶体を構成する各結晶粒の擬立方{100}面を一方向に配向させることによって、−40〜161℃での任意の100℃以上の温度範囲に渡って、定電圧駆動(特性指数:D33large)、定エネルギ駆動(特性指数:D33large/(E33large)1/2)、定電荷駆動(特性指数:D33large/E33large)する場合の変位量の変動幅は、それぞれ±20%以内、±10%以内、及び±9%以内を示す温度域を有し、いずれの駆動方法においても、変位量の温度に対する変動幅が小さい優れた温度特性を有し、制御しやすい特性を発現することがわかる。
(実施例23の温度特性)
図13に、実施例23で得られた結晶配向セラミックスの−40〜161℃の温度範囲において、電界強度0〜2000V/mmの高電圧を周波数1Hzの三角波で印加し駆動した場合のD33largeを示す。また、表3及び表4には、その際の実施例23におけるD33large並びにE33largeの変動幅を示した。
図13、表3並びに表4より、多結晶体を構成する各結晶粒の擬立方{100}面を一方向に配向させることによって、−40〜161℃での任意の100℃以上の温度範囲に渡って、D33large並びにE33largeの最大値と最小値の平均値からの変動幅が、それぞれ±20%以内並びに±15%以内である温度域を有する優れた温度特性を有する結晶配向セラミックスが得られることがわかる。
また、図14に、室温における変位量を基準値(100%)として、定電圧駆動(特性指数:D33large)、定エネルギ駆動(特性指数:D33large/(E33large)1/2)、並びに定電荷駆動(特性指数:D33large/E33large)する場合の変位量の温度特性を計算した結果を示す。また、表5及び表6に、−40〜161℃の温度範囲において、高電圧(電界強度:0〜2000V/mm)を周波数1Hzの三角波で印加し駆動した場合のD33large/(E33large)1/2、及びD33large/E33largeの所定の温度域における変動幅を示す。
図14、表3、表5及び表6より、多結晶体を構成する各結晶粒の擬立方{100}面を一方向に配向させることによって、−40〜161℃での任意の100℃以上の温度範囲に渡って、D33large、D33large/(E33large)1/2、並びにD33large/E33largeの最大値と最小値の平均値からの変動幅が、それぞれ±20%以内、±10%以内、及び±9%以内を示す温度域を有し、いずれの駆動方法においても、変位量の温度に対する変動幅が小さい優れた温度特性を有し、制御しやすい特性を発現することがわかる。
さらに、注入エネルギ(W)を一定(定エネルギ駆動)、並びに注入電荷(Q)を一定(定電荷駆動)にして駆動した場合の変位の温度依存性(温度範囲:−30〜161℃)を測定した結果、図14の結果と同様に、変位量の温度に対する変動幅が小さい優れた温度特性を示した。
さらに、図15及び図16に、実施例23で得られた結晶配向セラミックスの−40〜161℃の温度範囲において、注入エネルギ(W)を一定にして駆動した場合(定エネルギ駆動)の発生変位並びに発生電界をそれぞれ示す。また、表7及び表8には、その際の発生変位並びに発生電界の変動幅を示した。
図15、図16、表7及び表8より、多結晶体を構成する各結晶粒の擬立方{100}面を一方向に配向させることによって、−40〜161℃での任意の100℃以上の温度範囲に渡って、発生変位並びに発生電界の最大値と最小値の平均値からの変動幅が、それぞれ、±10%以内、±15%以内を示す温度域を有し、発生変位並びに発生電界の温度に対する変動幅が小さい優れた温度特性を有することがわかる。
さらに、図17及び図18に、実施例23で得られた結晶配向セラミックスの−40〜161℃の温度範囲において、注入電荷(Q)を一定にして駆動した場合(定電荷駆動)の発生変位並びに発生電界をそれぞれ示す。また、表9及び表10には、その際の発生変位並びに発生電界の変動幅を示した。
図17、図18、表9及び表10より、多結晶体を構成する各結晶粒の擬立方{100}面を一方向に配向させることによって、−40〜161℃での任意の100℃以上の温度範囲に渡って、発生変位並びに発生電界の最大値と最小値の平均値からの変動幅が、それぞれ±9%以内、±15%以内を示す温度域を有し、発生変位並びに発生電界の温度に対する変動幅が小さい優れた温度特性を有することがわかる。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
例えば、上記実施例では、結晶配向セラミックスを製造するに際し、常圧焼結法又はホットプレス法が用いられているが、他の焼結法(例えば、HIP処理等)を用いても良い。
第1異方形状粉末は、本発明に係る結晶配向セラミックスを作製するための反応性テンプレートとして特に好適であるが、本発明に係る第1異方形状粉末の用途はこれに限定されるものではなく、圧電ゴム複合材料用の粉末等としても用いることができる。
さらに、上記実施の形態では、圧電材料並びに誘電材料として好適な第1のKNN系化合物からなる結晶配向セラミックス及びその製造方法について主に説明したが、第1のKNN系化合物に対して適当な副成分及び/又は副相を添加すれば、熱電特性やイオン伝導特性を付与することができる。そのため、本発明に係る製造方法を応用すれば、熱電材料やイオン伝導材料として好適な結晶配向セラミックスであっても製造することができる。
図1は、実施例1で得られた結晶配向セラミックスのX線回折図形である。
図2は、実施例3で得られた結晶配向セラミックスのX線回折図形である。
図3(a)及び図3(b)は、それぞれ、実施例8で得られた結晶配向セラミックス及び比較例3で得られた無配向焼結体のX線回折図形である。
図4は、実施例2で得られた結晶配向セラミックス及び比較例1で得られた無配向焼結体の圧電d31定数の温度依存性を示す図である。
図5は、実施例7で得られた結晶配向セラミックス及び比較例3で得られた無配向焼結体の圧電d31定数の温度依存性を示す図である。
図6は、実施例9で得られた結晶配向セラミックス及び比較例6で得られた無配向焼結体の圧電d31定数の温度依存性を示す図である。
図7は、室温における圧電d31定数の組成依存性を示す図である。
実施例9で得られた結晶配向セラミックス及び比較例6で得られた無配向焼結体の温度とD33largeとの関係を示す図である。
実施例9で得られた結晶配向セラミックス及び比較例6で得られた無配向焼結体の温度とE33largeとの関係を示す図である。
実施例9で得られた結晶配向セラミックス及び比較例6で得られた無配向焼結体の温度とD33large/(E33large)1/2との関係を示す図である。
実施例9で得られた結晶配向セラミックス及び比較例6で得られた無配向焼結体の温度とD33large/E33largeとの関係を示す図である。
実施例22で得られた結晶配向セラミックスの温度とD33largeとの関係を示す図である。
実施例23で得られた結晶配向セラミックスの温度とD33largeとの関係を示す図である。
実施例23で得られた結晶配向セラミックスの温度とD33large、D33large/(E33large)1/2、及びD33large/E33largeとの関係を示す図である。
実施例23で得られた結晶配向セラミックスの注入エネルギを変化させた場合における温度と変位との関係を示す図である。
実施例23で得られた結晶配向セラミックスの注入エネルギを変化させた場合における温度と電界との関係を示す図である。
実施例23で得られた結晶配向セラミックスの注入電荷を変化させた場合における温度と変位との関係を示す図である。
実施例23で得られた結晶配向セラミックスの注入電荷を変化させた場合における温度と電界との関係を示す図である。