JP2010222185A - 異方形状粉末及び結晶配向セラミックスの製造方法 - Google Patents

異方形状粉末及び結晶配向セラミックスの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高配向度及び高密度を兼ね備え、優れた圧電特性を発揮することができる結晶配向セラミックスの製造方法、及び該結晶配向セラミックスを製造するための異方形状粉末を提供すること。
【解決手段】前駆体1を酸処理し加熱して得られ、結晶面{100}面が配向する配向粒子からなる異方形状粉末、及びこの異方形状粉末を用いて得られる結晶配向セラミックスである。異方形状粉末は、次のようにして得られる。まず、所定の組成のビスマス層状ペロブスカイト型化合物を前駆体1の目的組成とし、この目的組成とは異なる配合割合で原料を混合して原料混合物を作製する。次いで、原料混合物を加熱することにより、前駆体1を合成する。前駆体1を3時間以上酸処理して酸処理体を得る酸処理体に、K源及び/又はNa源を添加し、フラックス中で加熱することにより、異方形状粉末を得る。
【選択図】図1

Description

本発明は、特定の結晶面が配向する配向粒子からなる異方形状粉末、及び該異方形状粉末を用いた結晶配向セラミックスの製造方法に関する。
セラミックスからなる多結晶体は、例えば、温度、熱、ガス、及びイオン等の各種センサ、或いはコンデンサ、抵抗体、及び集積回路用基板等の電子回路部品、或いは光学的又は磁気的記録素子等に利用されている。特に、圧電効果を有するセラミックス(以下、圧電セラミックスという)からなる多結晶体は、高性能で、形状の自由度が大きく、材料設計が比較的容易なため、広くエレクトロニクスやメカトロニクスの分野で応用されている。
圧電セラミックスは、強誘電体セラミックスに電界を印加し、強誘電体の分域の方向を一定の方向にそろえる、いわゆる分極処理を施したものである。圧電セラミックスにおいて、分極処理により自発分極を一定方向にそろえるためには、自発分極の方向が三次元的に取りうる等方性ペロブスカイト型の結晶構造が有利である。そのため、実用化されている圧電セラミックスの大部分は、等方性ペロブスカイト型強誘電体セラミックスである。
等方性ペロブスカイト型強誘電体セラミックスとしては、例えば、Pb(Zr・Ti)O3(以下、これを「PZT」という。)、PZTに対して鉛系複合ペロブスカイトを第三成分として添加したPZT3成分系、BaTiO3、Bi0.5Na0.5TiO3(以下、これを「BNT」という。)等が知られている。
これらの中で、PZTに代表される鉛系の圧電セラミックスは、他の圧電セラミックスに比較して高い圧電特性を有しており、現在実用化されている圧電セラミックスの大部分を占めている。しかしながら、蒸気圧の高い酸化鉛(PbO)を含んでいるために、環境に対する負荷が大きいという問題がある。そのため、低鉛あるいは無鉛でPZTと同等の圧電特性を有する圧電セラミックスが求められている。
一方、BaTiO3セラミックスは、鉛を含まない圧電材料の中では比較的高い圧電特性を有しており、ソナーなどに利用されている。また、BaTiO3と他の非鉛系ペロブスカイト化合物(例えば、BNTなど)との固溶体の中にも、比較的高い圧電特性を示すものがある。しかしながら、これらの無鉛圧電セラミックスは、PZTに比して、圧電特性が低いという問題があった。
このような問題を解決するために、従来から様々な圧電セラミックスが提案されてきた。
例えば、非鉛系の中でも相対的に高い圧電特性を示す等方性ペロブスカイト型ニオブ酸カリウムナトリウムや、その固溶体からなる圧電セラミックスがある(特許文献1〜6参照)。しかし、これらの無鉛圧電セラミックスは、PZT系の圧電セラミックスに比べてまだ充分な圧電特性を発揮できないという問題があった。
このような背景の中、形状異方性を有し、自発分極が1つの平面内に優先配向するセラミック結晶粒を含む圧電セラミックスを有する圧電素子として、(Li,K,Na)(Nb,Ta,Sb)O3系の結晶配向セラミックスが有望視されている。
具体的には、例えば(K1-yNay)(Nb1-z-wTazSbw)O3(但し、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦w≦1)で表される等方性ペロブスカイト型化合物の結晶配向セラミックスが開発されている(特許文献7)。この結晶配向セラミックスは、例えば一般式{Lix(K1-yNay)1-x}(Nb1-z-wTazSbw)O3(但し、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦w≦1)で表される板状粉末と、反応原料と焼結助剤(CuO)とを混合して得られる混合物をシート状に成形し、得られるシートを複数枚積層して積層体を作製し、その後、積層体の圧延、脱脂及び静水圧(CIP)処理を行い、大気中で加熱することにより作製することができる。また、上記板状粉末は、一般式(Bi22)2+(Bi0.5AMm-1.5Nbm3m+1)2-(但し、mは2以上の整数、AMはNa、K、Liの少なくとも1つ)で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物を用いて、フラックス法により作製することができる。
また、一般式{Lix(K1-yNay)1-x}(Nb1-z-wTazSbw)O3(但し、0≦x≦0.2、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0≦w≦0.2、x+z+w>0)で表される等方性ペロブスカイト型結晶配向セラミックスが開発されている(特許文献8参照)。この結晶配向セラミックスの作製には、NaNbO3からなる板状粉末が用いられていた。具体的には、板状粉末と反応原料とを混合して得られる混合物をシート成形し、得られるシートを複数枚積層して積層体を作製し、その後、積層体の圧延、脱脂、及び静水圧(CIP)処理を行い、酸素中で加熱することにより結晶配向セラミックスを作製することができる(特許文献8参照)。
特開2000−313664号公報 特開2003−300776号公報 特開2003−306479号公報 特開2003−327472号公報 特開2003−342069号公報 特開2003−342071号公報 特開2003−12373号公報 特開2004−300019号公報
しかしながら、板状粉末と反応原料とを焼結させてセラミックスからなる多結晶体(結晶配向セラミックス)を作製する場合においては、反応性の異なる板状粉末と反応原料とを焼結させるため、緻密な多結晶体が得られないという問題があった。特に、非鉛系の材料を用いた場合には、焼結体全体にわたって配向度を均一にすることが困難になるという問題があった。また、板状粉末そのものの結晶性や配向性が均一でなく、焼結中に異方粒成長を起こしやすい。そのため、特に焼結体の厚み方向において、表面から内部に至るまで配向度を均一に保つことが困難であった。このような配向が不均一な多結晶体は、圧電d33定数等の圧電特性が低くなるという問題があった。
本発明はかかる問題点を鑑みてなされたものであって、高配向度及び高密度を兼ね備え、優れた圧電特性を発揮することができる結晶配向セラミックスの製造方法、及び該結晶配向セラミックスを製造するための異方形状粉末を提供しようとするものである。
第1の発明は、前駆体を酸処理し加熱して得られ、結晶面{100}面が配向する配向粒子からなる異方形状粉末において、
一般式(1)(Bi22)2+{Bi0.5(KaNa1-a)m-1.5(Nb1-bTab)m3m+1}2-(ここで、5<m≦10、0≦a≦0.8、0.02≦b≦0.4)で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物を上記前駆体の目的組成とすると、該目的組成におけるmの値に対してm+0.5以上という仕込み組成の配合割合で、Bi源、Na源、Nb源、及びTa源と必要に応じて添加されるK源とを混合して原料混合物を作製する調合工程と、
上記原料混合物を温度1100℃以上で2時間以上加熱することにより、上記前駆体を合成する合成工程と、
上記前駆体を3時間以上酸処理して酸処理体を得る酸処理工程と、
上記酸処理体に、K源及び/又はNa源を添加し、NaCl及び/又はKClを主成分とするフラックス中で加熱する加熱工程とを行って得られることを特徴とする異方形状粉末にある(請求項1)。
第2の発明は、等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなり、該多結晶体を構成する結晶粒の特定の結晶面{100}面が配向する結晶配向セラミックスの製造方法であって、
異方形状粉末と、該異方形状粉末と反応する反応原料粉末とを、一般式(2){Lix(K1-yNay)1-x}(Nb1-z-wTazSbw)O3(但し、0≦x≦0.2、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0≦w≦0.2、x+z+w>0)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物を生成する配合割合で混合することにより原料混合物を作製する混合工程と、
上記異方形状粉末の結晶面{100}面が略同一の方向に配向するように、上記原料混合物を成形して成形体を作製する成形工程と、
上記成形体を加熱することにより、上記異方形状粉末と上記反応原料粉末とを反応させると共に焼結させ、上記結晶配向セラミックスを得る焼成工程とを有し、
上記異方形状粉末としては、上記第1の発明の異方形状粉末を採用することを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法にある(請求項7)。
上記第1の発明の上記異方形状粉末は、上記調合工程、上記合成工程、上記酸処理工程、上記加熱工程とを行って得られる。
上記調合工程においては、上述のごとく、上記一般式(1)で表される目的組成におけるmの値に対して、m+0.5以上という上記仕込み組成の配合割合で、上記原料混合物を作製する。そして、上記合成工程においては、上記原料混合物を温度1100℃以上で2時間以上加熱することにより、上記異方形状粉末の上記前駆体を得る。
このようにして得られる上記前駆体は、従来用いられていたビスマス層状ペロブスカイト型化合物がm≦5であるのに対し(図2参照)、生成が困難とされるm>5のビスマス層状ペロブスカイト型化合物からなる(図1参照)。該ビスマス層状ペロブスカイト型化合物の結晶構造においては、ビスマス層に挟まれるペロブスカイト型化合物層の数であるmが5を越える。そのため、結晶の配向性が向上し、組成中に含まれるBi量が低下する。
上記酸処理工程においては、上記のごとくm>5のビスマス層状ペロブスカイト型化合物からなる上記前駆体を3時間以上酸処理する。これにより、上記ビスマス層状ペロブスカイト型化合物からビスマスが除去され、上記酸処理体を得ることができる。本発明においては、上記のごとく、もともと組成中のBi量の少ない上記前駆体を用いているため、上記酸処理工程後の上記酸処理体のBi残存量を非常に小さくすることができる。また、上記酸処理工程後に得られる上記酸処理体においては、Na欠陥及び/又はK欠陥が生じている。そこで、上記加熱工程において、上記酸処理体に、K源及び/又はNa源を添加し、NaCl及び/又はKClを主成分とするフラックス中で加熱することにより、上記酸処理体におけるNa欠陥及び/又はK欠陥をアルカリ元素、即ちNa及び/又はKで置換させることができる。その結果、結晶面{100}面が配向する配向粒子からなる上記異方形状粉末を得ることができる。
該異方形状粉末は、例えば一般式(4)(KgNa1-g)(Nb1-bTab)O3(但し、0≦g≦0.8、0.02≦b≦0.4)で表される等方性ペロブスカイト型の5価金属酸アルカリ化合物を主成分とする。
このように、上記第1の発明においては、m>5のビスマス層状ペロブスカイト型化合物からなる、Bi量の少ない前駆体を作製し、該前駆体を酸処理することによりBiを除去している。そのため、Biがほとんど残存しない上記異方形状粉末を得ることができる。具体的には、上記異方形状粉末に残存するBi含有量を例えば1モル%以下にまで抑制することができる。
かかる異方形状粉末を用いて結晶配向セラミックスを製造すると、高配向度及び高密度を兼ね備え、優れた圧電特性を発揮できる結晶配向セラミックスを作製することができる。
次に、第2の発明においては、上記混合工程と上記成形工程と上記焼成工程とを行って上記結晶配向セラミックスを製造する。上記第2の発明においては、上記異方形状粉末として、上記第1の発明を採用している。
そのため、高密度かつ高配向度で、圧電特性に優れた結晶配向セラミックスを製造することができる。
また、上記第1の発明の異方形状粉末を採用しているため、上記焼成工程における緻密化が進行し易い。そのため、上記焼成工程において、焼結助剤等をほとんど使用しなくても緻密化が可能になる。それ故、焼結助剤を大量に使用することによる圧電特性の低下という不具合を回避することができる。また、従来のように、圧延処理、静水圧処理、及び酸素焼成等を行わなくとも、簡単に高配向度かつ高密度の結晶配向セラミックスを製造することができる。
このように、上記第2の発明によれば、高配向度及び高密度を兼ね備え、優れた圧電特性を発揮することができる結晶配向セラミックスの製造方法を提供することができる。
実施例1にかかる、ビスマス層間にペロブスカイト型化合物層が10層形成されたビスマス層状ペロブスカイト型化合物の結晶構造を示す説明図。 実施例1にかかる、ビスマス層間にペロブスカイト型化合物層が5層形成されたビスマス層状ペロブスカイト型化合物の結晶構造を示す説明図。
本発明において、上記配向粒子からなる上記異方形状粉末は、等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなり、該多結晶体を構成する結晶粒の特定の結晶面{100}面が配向する結晶配向セラミックスを製造するために用いることができる(請求項2)。具体的には、上記混合工程、上記成形工程、及び上記焼成工程を行って、上記結晶配向セラミックスを製造することができる。
上述の「等方性」とは、擬立方基本格子でペロブスカイト型構造ABO3を表現したとき、軸長a、b、cの相対比が0.8〜1.2であり、軸角α、β、γが80〜100°の範囲にあることを示す。
好ましくは、上記異方形状粉末は、一般式(2){Lix(K1-yNay)1-x}(Nb1-z-wTazSbw)O3(但し、0≦x≦0.2、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0≦w≦0.2、x+z+w>0)で表される等方性ペロブスカイト型化合物を生成する配合割合で反応原料粉末と混合し、加熱して用いられることがよい(請求項3)。
この場合には、上記異方形状粉末を用いて、圧電特性に優れた上記等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする上記結晶配向セラミックスを高密度かつ高配向度で得ることができる。
また、加熱(焼成)後に得られる実際の結晶配向セラミックスの組成は、上記一般式(2)で表される組成から若干ずれる場合がある。具体的には、例えば上記一般式(2)で表される組成をペロブスカイト構造の組成式ABO3にあてはめたときに、Aサイト原子とBサイト原子の構成比が1:1である組成に対して、Aサイト欠陥が生じてAサイト原子の構成比が5%程度減少した組成になる場合がある。即ち、例えば一般式(2’){Lix(K1-yNay)1-x}c(Nb1-z-wTazSbw)O3(但し、0≦x≦0.2、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0≦w≦0.2、x+z+w>0、0.95≦c≦1.0)で表される等方性ペロブスカイト型化合物を得ることができる。好ましくは、0.97≦c≦1.0がよい。
上記一般式(2)において、「x+z+w>0」は、置換元素として、Li、Ta及びSbの内の少なくとも1つが含まれていればよいことを示す。
また、一般式(2)において、「y」は、等方性ペロブスカイト型化合物に含まれるKとNaの比を表す。上記等方性ペロブスカイト型化合物は、Aサイト元素として、K又はNaの少なくとも一方が含まれていればよい。
上記一般式(2)におけるyの範囲は、0<y≦1であることがより好ましい。
この場合には、上記一般式(2)で表される化合物において、Naが必須成分となる。そのため、この場合には、上記結晶配向セラミックスの圧電g31定数をさらに向上させることができる。
また、上記一般式(2)におけるyの範囲は、0≦y<1とすることができる。
この場合には、上記一般式(2)で表される化合物において、Kが必須成分となる。そのため、この場合には、上記結晶配向セラミックスの圧電d31定数等の圧電特性をさらに向上させることができる。また、この場合には、K添加量の増加に伴い、より低温での焼結が可能になるため、省エネルギーかつ低コストで上記結晶配向セラミックスを作製することができる。
また、上記一般式(2)において、yは、0.05≦y≦0.75であることがより好ましく、0.20≦y≦0.70であることがさらに好ましい。これらの場合には、上記結晶配向セラミックスの圧電d31定数及び電気解決合計数Kpを一層向上させることができる。さらに一層好ましくは、0.20≦y<0.70がよく、さらには0.35≦y≦0.65がよく、さらには0.35≦y<0.65がより好ましい。また、最も好ましくは、0.42≦y≦0.60がよい。
「x」は、Aサイト元素であるK及び/又はNaを置換するLiの置換量を表す。K及び/又はNaの一部をLiで置換すると、圧電特性等の向上、キュリー温度の上昇、及び/又は緻密化の促進という効果が得られる。
上記一般式(2)におけるxの範囲は、0<x≦0.2であることが好ましい。
この場合には、上記一般式(2)で表される化合物において、Liが必須成分となるので、上記結晶配向セラミックスは、その作製時の焼成を一層容易に行うことができると共に、圧電特性がより向上し、キュリー温度(Tc)を一層高くすることができる。これは、Liを上記のxの範囲内において必須成分とすることにより、焼成温度が低下すると共に、Liが焼成助剤としての役割を果たし、空孔の少ない焼成を可能にするからである。
xの値が0.2を越えると、圧電特性(圧電d31定数、電気機械結合係数kp、圧電g31定数等)が低下するおそれがある。
また、上記一般式(2)におけるxの値は、x=0とすることができる。
この場合には、上記一般式(2)は、(K1-yNay)a(Nb1-z-wTazSbw)O3で表される。そしてこの場合には、上記結晶配向セラミックスを作製する際に、その原料中に例えばLiCO3のように、最も軽量なLiを含有してなる化合物を含まないので、原料を混合し上記結晶配向セラミックスを作製するときに原料粉の偏析による特性のばらつきを小さくすることができる。また、この場合には、高い比誘電率と比較的大きな圧電g定数を実現できる。上記一般式(2)において、xの値は、0≦x≦0.15がより好ましく、0≦x≦0.10がさらに好ましい。
「z」は、Bサイト元素であるNbを置換するTaの置換量を表す。Nbの一部をTaで置換すると、圧電特性等の向上という効果が得られる。上記一般式(2)において、zの値が0.4を越えると、キュリー温度が低下し、家電や自動車用の圧電材料としての利用が困難になるおそれがある。
上記一般式(2)におけるzの範囲は、0<z≦0.4であることが好ましい。
この場合には、上記一般式(2)で表される化合物において、Taが必須成分となる。そのため、この場合には、焼結温度が低下すると共に、Taが焼結助剤の役割を果たし、上記結晶配向セラミックス中の空孔を少なくすることができる。
上記一般式(2)におけるzの値は、z=0とすることができる。
この場合には、上記一般式(2)は、{Lix(K1-yNay)1-x}a(Nb1-wSbw)O3で表される。そして、この場合には、上記一般式(2)で表される化合物はTaを含まない。そのためこの場合には、上記一般式(2)で表される化合物は、その作製時に高価なTa成分を使用することなく、優れた圧電特性を示すことができる。
上記一般式(2)において、zの値は、0≦z≦0.35がより好ましく、0≦z≦0.30がさらに好ましい。
さらに、「w」は、Bサイト元素であるNbを置換するSbの置換量を表す。Nbの一部をSbで置換すると、圧電特性等の向上という効果が得られる。wの値が0.2を越えると、圧電特性、及び/又はキュリー温度が低下するので好ましくない。
また、上記一般式(2)におけるwの値は、0<w≦0.2であることが好ましい。
この場合には、上記一般式(2)で表される化合物において、Sbが必須成分となる。そのため、この場合には、焼結温度が低下し、焼結性を向上させることができると共に、誘電損失tanδの安定性を向上させることができる。
また、上記一般式(2)におけるwの値は、w=0とすることができる。この場合には、上記一般式(2)は、{Lix(K1-yNay)1-x}a(Nb1-zTaz)O3で表される。そして、この場合には、上記一般式(2)で表される化合物は、Sbを含まず、比較的高いキュリー温度を示すことができる。上記一般式(2)において、wの値は、0≦w≦0.15であることがより好ましく、0≦w≦0.10であることがさらに好ましい。
また、上記結晶配向セラミックスは、高温から低温になるにつれて、結晶相が立方晶→正方晶(第1の結晶相転移温度=キュリー温度)、正方晶→斜方晶(第2の結晶相転移温度)、斜方結晶→菱面体晶(第3の結晶相転移温度)と変化する。第1の結晶相転移温度より高い温度領域では立方晶となるため変位特性が消滅し、また、第2の結晶相転移温度より低い温度領域では斜方結晶となり、変位ならびに見かけの動的静電容量の温度依存性が大きくなる。従って、第1の結晶相転移温度は使用温度範囲より高く、第2の結晶相転移温度は使用温度範囲より低くすることで使用温度範囲全域にわたって正方晶であることが望ましい。
ところが、上記結晶配向セラミクスの基本組成であるニオブ酸カリウムナトリウム(K1-yNayNbO3)は、「ジャーナル・オブ・アメリカン・セラミック・ソサイエティ“Journal of American Ceramic Society ”」、米国、1959年、第42巻[9]p.438−442、ならびに米国特許2976246号明細書によれば、高温から低温になるにつれて、結晶相が立方晶→正方晶(第1の結晶相転移温度=キュリー温度)、正方晶→斜方晶(第2の結晶相転移温度)、斜方結晶→菱面体晶(第3の結晶相転移温度)と変化する。また、「y=0.5」における第1の結晶相転移温度は約420℃、第2の結晶相転移温度は約190℃、第3の結晶相転移温度は約−150℃である。従って、正方晶である温度領域は190〜420℃の範囲であり、一般的な工業製品の使用温度範囲である−40〜160℃と一致しない。
一方、上記結晶配向セラミックスは、基本組成であるニオブ酸カリウムナトリウム(K1-yNayNbO3)に対して、Li、Ta、Sb等の置換元素の量を変化させることにより、第1の結晶相転移温度ならびに第2の結晶相転移温度を自由に変えることができる。
圧電特性が最も大きくなるy=0.4〜0.6において、Li,Ta,Sbの置換量と
結晶相転移温度実測値の重回帰分析を行った結果を下記の式B1、式B2に示す。
式B1及び式B2から、Li置換量は第1の結晶相転移温度を上昇させ、かつ、第2の
結晶相転移温度を低下させる作用を有することがわかる。また、TaならびにSbは第1
の結晶相転移温度を低下させ、かつ、第2の結晶相転移温度を低下させる作用を有するこ
とがわかる。
第1の結晶相転移温度=(388+9x−5z−17w)±50[℃]・・・(式B1)
第2の結晶相転移温度=(190−18.9x−3.9z−5.8w)±50[℃]・・・(式B2)
第1の結晶相転移温度は圧電性が完全に消失する温度であり、かつその近傍で動的容量急激に大きくなることから、(製品の使用環境上限温度+60℃)以上が望ましい。第2の結晶相転移温度は単に結晶相転移する温度であり、圧電性は消失しないため変位、あるいは動的容量の温度依存性に悪影響が出ない範囲に設定すればよいため、(製品の使用環境下限温度+40℃)以下が望ましい。
一方、製品の使用環境上限温度は、用途により異なり、60℃、80℃、100℃、120℃、140℃、160℃などである。製品の使用環境下限温度は−30℃、−40℃などである。
従って、上記式B1に示す第1の結晶相転移温度は120℃以上が望ましいため、「x」、「z」、「w」は(388+9x−5z−17w)+50≧120を満足することが望ましい。
また、式B2に示す第2の結晶相転移温度は、10℃以下が望ましいため、「x」、「z」、「w」は(190−18.9x−3.9z−5.8w)−50≦10を満足することが望ましい。
即ち、上記一般式(2)は、9x−5z−17w≧−318、及び−18.9x−3.9z−5.8w≦−130という関係を満足することが好ましい。
なお、上記結晶配向セラミックスは、上記一般式(2)で表される等方性ペロブスカイト型化合物のみからなることが望ましいが、等方性ペロブスカイト型の結晶構造を維持でき、かつ、焼結特性、圧電特性等の諸特性に悪影響を及ぼさないものである限り、他の元素又は他の相が含まれていても良い。
上記結晶配向セラミックスにおいては、その多結晶体を構成する結晶粒の結晶面{100}面が配向する。
「特定の結晶面が配向する」とは、上記ペロブスカイト型化合物の特定の結晶面が互いに平行になるように、各結晶粒が配列していること(以下、このような状態を「面配向」という。)を意味する。
また、上記ペロブスカイト型化合物の結晶系が正方晶の場合において、配向させる特定の結晶面は擬立方{100}面が好ましい。この場合には、上記結晶配向セラミックスの圧電特性等をより向上させることができる。
「擬立方{HKL}」とは、一般に等方性ペロブスカイト型化合物は、正方晶、斜方晶、三方晶等、立方晶からわずかにゆがんだ構造をとるが、その歪みはわずかであるので、立方晶とみなしてミラー指数表示することを意味する。
特定の結晶面が面配向している場合において、面配向の程度は、次の数1の式で表されるロットゲーリング(Lotgering)法による平均配向度F(HKL)で表すことができる。
Figure 2010222185
数1の式において、ΣI(hkl)は、結晶配向セラミックスについて測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和であり、ΣI0(hkl)は、結晶配向セラミックスと同一組成を有する無配向の圧電セラミックスについて測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和である。また、Σ’I(HKL)は、結晶配向セラミックスについて測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和であり、Σ’I0(HKL)は、結晶配向セラミックスと同一組成を有する無配向の圧電セラミックスについて測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和である。
したがって、多結晶体を構成する各結晶粒が無配向である場合には、平均配向度F(HKL)は0%となる。また、多結晶体を構成するすべての結晶粒の(HKL)面が測定面に対して平行に配向している場合には、平均配向度F(HKL)は100%となる。
上記結晶配向セラミックスにおいて、配向している結晶粒の割合が多くなるほど、高い特性が得られる。
また、配向させる特定の結晶面は、分極軸に垂直な面であることが好ましい。
上記結晶配向セラミックスは、上記等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなるので、非鉛系の圧電セラミックスの中でも高い圧電特性等を示すことができる。また、上記結晶配向セラミックスは、多結晶体を構成する各結晶粒の特定の結晶面が一方向に配向しているので、同一組成を有する無配向焼結体に比して、高い圧電特性等を示すことができる。
次に、上記配向粒子からなる上記異方形状粉末について説明する。
本発明において、「異方形状」とは、幅方向又は厚さ方向の寸法に比して、長手方向の寸法が大きいことをいう。具体的には、板状、柱状、鱗片状、針状等の形状が好適な例として挙げられる。
上記配向粒子としては、上記成形工程の際に一定の方向に配向させることが容易な形状を有しているものを用いることが好ましい。そのため、上記配向粒子としては、平均アスペクト比が3以上であることが好ましい。平均アスペクト比が3未満の場合には、後述の成形工程において、上記異方形状粉末を一方向に配向させることが困難になる。より高い配向度の上記結晶配向セラミックスを得るためには、上記配向粒子のアスペクト比は5以上であることがより好ましい。なお、平均アスペクト比は、上記配向粒子の最大寸法/最小寸法の平均値である。
また、上記配向粒子の平均アスペクト比が大きくなるほど、成形工程において上記配向粒子を配向させることがより容易になる傾向がある。しかし、平均アスペクト比が過大になると、上記混合工程において、上記配向粒子が破壊されてしまうおそれがある。その結果、成形工程において、上記配向粒子が配向した成形体が得られなくなるおそれがある。したがって、上記配向粒子の平均アスペクト比は、100以下であることが好ましい。より好ましくは50以下、さらには30以下が良い。
また、上記配向粒子からなる上記異方形状粉末を用いて結晶配向セラミックスを作製する場合には、焼成工程において、上記配向粒子と反応原料粉末が反応焼結することにより結晶粒子が形成されるため、配向粒子が大きすぎると結晶粒子が大きくなり、得られる結晶配向セラミックスの強度が低下するおそれがある。従って、上記配向粒子の長手方向の最大寸法は、30μm以下であることが好ましい。より好ましくは20μm以下、さらには15μm以下が良い。また、配向粒子が小さすぎると結晶粒子が小さくなり、得られる結晶配向セラミックスの圧電性能が低下するおそれがある。従って、上記配向粒子の長手方向の最大寸法は、0.5μm以上であることが好ましい。より好ましくは1μm以上、さらには2μm以上が良い。
上記異方形状粉末は、上記調合工程と上記合成工程と上記酸処理工程と上記加熱工程とを行うことにより得ることができる。
これにより、例えば一般式(4)(KgNa1-g)(Nb1-bTab)O3(但し、0≦g≦0.8、0.02≦b≦0.4)で表される等方性ペロブスカイト型の5価金属酸アルカリ化合物を主成分とする上記異方形状粉末を作製することができる。
上記調合工程においては、上記のごとく、一般式(1)(Bi22)2+{Bi0.5(KaNa1-a)m-1.5(Nb1-bTab)m3m+1}2-(ここで、5<m≦10、0≦a≦0.8、0.02≦b≦0.4)で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物を上記前駆体の目的組成とする。
上記一般式(1)におけるbの値は、上記一般式(4)におけるbの値と同じ値である。即ち、上記一般式(1)で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物は、上記一般式(4)で表される5価金属酸アルカリ化合物と、Nb及びTaの原子比率が等しい。
上記一般式(1)において、a又はbの値が上記特定の範囲から外れる場合には、例えば上記一般式(4)で表される上記異方形状粉末を得ることができなくなり、その結果、
高配向度の結晶配向セラミックスを得ることが困難になり、圧電特性に優れた結晶配向セラミックスを得ることが困難になるおそれがある。
また、mが5以下の場合には、上記前駆体のBi量が多くなり、上記酸処理工程においても充分にBiを除去することが困難になるおそれがある。その結果、Bi含有量の低い異方形状粉末を得ることが困難になり、該異方形状粉末を用いても配向度の高い結晶配向セラミックスを製造することが困難になるおそれがある。また、mが10を越えると、その合成時においてビスマス層状ペロブスカイト型化合物の異方形状粉末以外にペロブスカイトの非異方形状微粒子が発生するおそれがある。
また、上記一般式(4)について、g>0.8の場合には、上記異方形状粉末の融点が低下し、該異方形状粉末を用いて結晶配向セラミックスを作製する際に、高配向度の結晶配向セラミックスを得ることが困難になるおそれがある。また、b<0.02の場合には、結晶配向セラミックスの密度及び配向度を高めるために、従来のように圧延処理やCIP処理等が必要になるおそれがある。一方、b>0.4の場合には、上記異方形状粉末を用いて得られる結晶配向セラミックスにおけるTa量が多くなり過ぎて、キュリー温度が低下し、家電製品及び自動車部品用の圧電材料として用いることが困難になるおそれがある。したがって、上記異方形状粉末は上記一般式(4)で表される上記5価金属酸アルカリ化合物を主成分とすることが好ましく、かかる異方形状粉末は、上記調合工程と上記合成工程と上記酸処理工程と上記加熱工程とを行うことにより得ることができる。
また、上記調合工程においては、上記一般式(1)の目的組成におけるmの値に対して、m+0.5以上という組成の配合割合で、Bi源、Na源、Nb源、及びTa源と必要に応じて添加されるK源とを混合して原料混合物を作製する。即ち、作製しようとする上記ビスマス層状ペロブスカイト型化合物(一般式(1))の目的組成のmの値よりも、mの値が0.5以上大きくなるような配合割合で各原料(Bi源、Na源、Nb源、Ta源、及び必要に応じて添加されるK源)の配合を行う。
目的組成通りの配合を行った場合や目的組成のmの値に比べての増加分が0.5未満の場合には、Bi残存量の少ない上記異方形状粉末を得ることができなくなるおそれがある。
また、上記調合工程においては、上記目的組成におけるmの値に対してm+1.5以下という上記仕込み組成の配合割合で混合を行うことが好ましい(請求項5)。
上記仕込み組成が上記目的組成のmに対してm+1.5を越える場合には、目的組成以外の副生成物が異方形状粉末の周囲に付着し易くなる。その結果、かかる異方形状粉末を用いても、高配向度の結晶配向セラミックスを得ることができなくなるおそれがある。より好ましくは、m+1.0以下がよい。
上記調合工程において、Bi源、Na源、Nb源、Ta源、及びK源としては、それぞれ、少なくともBi、Na、Nb、Ta、及びKの各元素を含有する化合物を採用することができる。具体的には、例えば各元素の酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、硝酸塩、及び複合酸化物等を用いることができる。
また、上記一般式(1)からも知られるごとく、K源は任意成分であり、必要に応じて添加することができる。
次に、上記合成工程においては、上記原料混合物を温度1100℃以上で2時間以上加熱することにより、上記前駆体を合成する。
加熱温度が1100℃未満の場合又は加熱時間が2時間未満の場合には、上記一般式(1)においてm>5である上記ビスマス層状ペロブスカイト型化合物を生成することが困難になるおそれがある。
上記合成工程は、NaCl及び/又はKClを主成分とするフラックス中で行うことができる。即ち、上記原料混合物に対してフラックスを添加混合し、これらの混合物を加熱することにより、上記前駆体を合成することができる。
また、上記合成工程後であって上記酸処理工程の前においては、湯洗を行ってフラックスを取り除くことができる。
また、上記酸処理工程においては、上記前駆体を3時間以上酸処理して酸処理体を得る。
酸処理の時間が3時間未満の場合には、Biを充分に除去することができず、Bi残存量を例えば1モル%以下にまで低下させることができなくなるおそれがある。
ここでBiの含有量(残存量)は例えば、例えばX線マイクロアナライザ(WDXやEDX)を用いることで容易に測定することができる。
上記酸処理工程における酸処理は、例えば上記前駆体を、塩酸等の酸に接触させることにより行うことができる。具体的には、例えば上記前駆体を酸中で加熱しながら混合する方法を採用することができる。
また、上記加熱工程においては、上記酸処理体に、K源及び/又はNa源を添加し、NaCl及び/又はKClを主成分とするフラックス中で加熱する。
上記K源としては、例えばK2CO3、KHCO3等の少なくともK元素を含む化合物を用いることができる。また、上記Na源としては、例えばNa2CO3、NaHCO3等の少なくともNa元素を含む化合物を用いることができる。
また、上記目的組成の上記ビスマス層状ペロブスカイト型化合物1モルに対して、上記K源及び/又は上記Na源中に含まれるK元素とNa元素とが合計で1〜5モルとなる割合で上記K源及び/又は上記Na源を混合することが好ましい(請求項6)。
上記ビスマス層状ペロブスカイト型化合物は、上記酸処理を行なうことによって、ビスマス層が酸に溶出し水素置換され、ペロブスカイト層中のビスマスが酸に溶出する。また、同時にペロブスカイト層中のK及び/又はNaの少なくとも一部が溶出し、Na欠陥及び/又はK欠陥を形成することができる。その結果、上記酸処理体は、ペロブスカイト化合物の構造を含んだ複雑な構造を有し、上記酸処理体をペロブスカイト型組成物ABOαと見なすと、A/B=0.35〜0.65(但し、AはK、Naの合計モル数、BはNb、Taの合計モル数、αは2<α<4.5)の範囲となる。従って、上記K源及び/又は上記Na源中に含まれるK元素とNa元素とが合計で1モル未満の場合には、上記酸処理体中の上記Na欠陥及び/又は上記K欠陥をK及び/Naで十分に置換させることができなくなり、その結果、上記異方形状粉末にAサイト欠陥が多く発生するおそれがある。一方、5モルを超える場合には、フラックス中での加熱時に、異方形状粉末同士が融着するおそれがある。
上記配向粒子の結晶面{100}におけるロッキングカーブ法による半値幅(FWHM)は8度以下であることが好ましい(請求項4)。
上記半値幅が8°を越える場合には、最終的に得られる結晶配向セラミックスの配向度にばらつきが発生し、その結果、圧電特性の低い結晶配向セラミックスが製造されるおそれがある。より好ましくは6°以下がよい。
上記ロッキングカーブ法による半値幅は、例えば次のようにして測定することができる。
即ち、上記異方形状粉末についてX線回折を行い、上記配向面に由来するピーク位置付近にθ角を固定してさらにX線回折測定を行う。次いで、得られたX線回折パターン(山形波形)について、その最大強度が半分になる強度におけるピーク幅を求め、これを半値幅(全半値幅)とする。
上記ロッキングカーブ法による半値幅の測定は、上記異方形状粉末を基板上に単層で配列させて行うことができる。即ち、上記基板上に単層で配列させた上記異方形状粉末について、ロッキングカーブ法による半値幅の測定を行うことができる。
上記基板としては、例えば平滑な硝子基板等を用いることができる。
また、上記異方形状粉末をアルコール系有機溶媒中に超音波分散機を用いて分散させてなる分散液を準備し、該分散液を基板上に滴下して乾燥させることにより上記異方形状粉末を基板上に配列させることができる。
この場合には、上記基板上に上記異方形状粉末を簡単に単層で配列させることができる。また、アルコール系有機溶媒を用いることにより、短時間で簡単に乾燥を行うことができる。アルコール系有機溶媒としては、例えばエタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール(IPA)、ブタノール、ペンタノール等を用いることができる。
また、上記アルコール系有機溶媒中には、上記異方形状粉末を濃度2〜4wt%で分散させることができる。
上記異方形状粉末の濃度が2wt%未満の場合には、ロッキングカーブ法によって半値幅を測定する際に、X線回折パターンのピーク強度が十分に得られなくなり、正確な半値幅の測定が困難になるおそれがある。一方、4wt%を越える場合には、上記異方形状粉末を単層で配列させることが困難になるおそれがある。
上記異方形状粉末を用いて上記結晶配向セラミックスを作製する際には、上述のごとく上記混合工程、上記成形工程、及び上記焼成工程を行うことができる。
上記混合工程においては、上記異方形状粉末と、該異方形状粉末と反応することにより上記一般式(2)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物を生成する反応原料粉末とを混合することにより原料混合物を作製する。
上記反応原料粉末は、上記異方形状粉末の1/3以下の粒径を有することが好ましい。
上記反応原料粉末の粒径が上記異方形状粉末の粒径の1/3を超える場合には、上記成形工程において、上記異方形状粉末の上記配向面が略同一の方向に配向するように、上記原料混合物を成形することが困難になるおそれがある。より好ましくは、1/4以下がよく、さらには1/5以下がよい。
上記反応原料粉末と上記異方形状粉末との粒径の比較は、上記反応原料粉末の平均粒径と上記異方形状粉末の平均粒径とを比較することによって行うことができる。なお、上記異方形状粉末の粒径及び上記反応原料粉末の粒径は、いずれも最も長尺の径のことをいう。
上記反応原料粉末としては、Li源、K源、Na源、Nb源、Ta源、及びSb源から選ばれる1種以上の原料源を混合し、得られる混合物を仮焼してなる仮焼粉を採用することが好ましい(請求項8)。
また、上記原料源の混合は、一般式(3){Lip(K1-qNaq)1-p}(Nb1-r-sTarSbs)O3(但し、0≦p≦1、0≦q≦1、0≦r≦1、0≦s≦1)で表される等方性ペロブスカイト型化合物が生成する配合割合で行うことが好ましい(請求項9)。
これらの場合には、上記焼成工程後に目的組成の上記等方性ペロブスカイト型化合物を容易に生成することができる。
上記反応原料粉末の具体的な組成は、上記異方形状粉末及び作製しようとする例えば一般式(2)で表される等方性ペロブスカイト型化合物の組成に応じて決定できる。
また、上記原料源は、上記のごとく、上記一般式(3)で表される等方性ペロブスカイト型化合物が生成する配合比で混合を行うことができるが、仮焼後に得られる実際の組成は一般式(3)の組成からずれる場合がある。例えば上記一般式(3)のAサイトとBサイト比が1:1からはずれ、一般式(3’){Lip(K1-qNaq)1-p}e(Nb1-r-sTarSbs)O3(但し、0≦p≦1、0≦q≦1、0≦r≦1、0≦s≦1、0.95≦e≦1.0)で表される組成を生成することができる。
また、仮焼時の仮焼温度は、例えば温度700℃以下で行うことが好ましい。
仮焼温度が700℃を越えると仮焼が過剰に進行し易くなる。そのため、上記反応原料粉末の結晶成長が過剰に進行し、上記反応原料粉末の多くが結晶整合性の高いペロブスカイト化合物となるおそれがある。その結果、上記反応原料粉末の結晶の整合性が整い、また、平均一次粒径が大きくなる。かかる反応原料粉末は、焼成工程において上記異方形状粉末との反応性が低く、結晶配向セラミックスが緻密化し難くなるおそれがある。
上記原料源としては、Li、K、Na、Nb、Ta、及びSbから選ばれる1種以上の元素を含有する化合物を採用することができる。各原料源は、それぞれLi、K、Na、Nb、Ta、及びSbから選ばれる1種又は2種の元素を含むことがよい。この場合には、上記反応原料粉末の調製が容易になる。上述のごとく、上記反応原料粉末としては、これらの元素を含有する各原料源の粉末の混合物を仮焼してなる仮焼粉を用いることができ、焼成時における上記異方形状粉末と上記反応原料粉末との反応により、目的の上記等方性ペロブスカイト化合物が生成するように、各原料源の粉末を組み合わせて使用することができる。各原料源としては、上述の元素をそれぞれ含有する例えば酸化物粉末、複合酸化物粉末、水酸化物粉末、あるいは炭酸塩、硝酸塩、主酸塩等の塩、あるいはアルコキシド等を用いることができる。
また、上記反応原料粉末は、上記異方形状粉末との反応によって、目的の等方性ペロブスカイト型化合物のみを生成するものであってもよく、あるいは目的の等方性ペロブスカイト型化合物と余剰成分との双方を生成するものであってもよい。上記異方形状粉末と上記反応原料粉末との反応によって余剰成分が生成する場合には、該余剰成分は熱的又は化学的に除去することが容易なものであることが好ましい。
次に、上記混合工程においては、上記反応原料粉末と上記異方形状粉末とを混合して原料混合物を作製する。
上記混合工程においては、所定の比率で配合された上記異方形状粉末、及び上記反応原料粉末に対して、さらにこれらの物質の反応によって得られる等方性ペロブスカイト型化合物と同一組成の化合物からなる不定形の微粉(以下、これを「化合物微粉」という。)を添加することができる。また、例えばCuO等の焼結助剤を添加することもできる。上記化合物微粉や上記焼結助剤を添加すると、焼結体の緻密化がさらに容易になるという利点がある。
また、上記化合物微粉を配合する場合には、該化合物微粉の配合比率が過大になると、必然的に原料全体に占める上記異方形状粉末の配合比率が小さくなり、特定の結晶面の配向度が低下するおそれがある。したがって、上記化合物微粉の配合比率は、要求される焼結体密度及び配向度に応じて最適な配合比率を選択することが好ましい。
上記一般式(2)で表される等方性ペロブスカイト型化合物を生成する場合には、上記異方形状粉末の配合比率は、上記異方形状粉末中の1つ乃至複数の成分元素により、上記一般式(2)のAサイトが占有される比率が、0.01〜70at%となるようにすることが好ましく、より好ましくは、0.1〜50at%がよい。さらに好ましくは、1〜10at%がよい。ここで、「at%」とは、原子の数の割合を100分率で示したものである。
また、上記原料混合物には、周期律表における2〜15族に属する金属元素、半金属元素、遷移金属元素、貴金属元素、及びアルカリ土類金属元素から選ばれる1種以上の添加元素を含有させることが好ましい。
この場合には、上記添加元素を含有する多結晶体からなる上記結晶配向セラミックスを作製することができる。これにより、結晶配向セラミックスの圧電d33定数、電気機械結合係数Kp、圧電g31定数等の圧電特性や、比誘電率、誘電損失等の誘電特性を向上させることができる。上記添加元素は、上記一般式(2)で表される化合物のAサイトやBサイトに対して、置換添加されていても良いが、外添加されて上記一般式(2)で表される化合物の粒内又は粒界中に存在することもできる。
上記原料混合物に上記添加元素を含有させる具体的な方法としては、例えば次のような方法がある。
即ち、上記添加元素は、上記異方形状粉末を合成する際に添加することができる。
また、上記添加元素は、上記反応原料粉末を合成する際に添加することができる。
また、上記添加元素は、上記混合工程において、上記反応原料粉末及び上記異方形状粉末と共に添加することができる。
このような方法によって上記添加元素を添加することにより、上記添加元素を含有する上記原料混合物を簡単に得ることができる。そして、該原料混合物を成形及び焼成することにより、上記添加元素を含有する多結晶体からなる上記結晶配向セラミックスを得ることができる。
上記添加元素としては、具体的には、例えばMg、Ca、Sr、Ba、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Mo、Hf、W、Re、Pd、Ag、Ru、Rh、Pt、Au、Ir、Os、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、及びBi等がある。
また、上記添加元素は、添加元素単体で添加されていても良いが、上記添加元素を含む酸化物や化合物として添加されていても良い。
また、上記添加元素は、上記焼成工程後に得られる上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物1molに対して、0.0001〜0.15molとなるような割合で添加することが好ましい。
上記添加元素が0.0001mol未満の場合には、上記添加元素による上記圧電特性等の向上効果を充分に得られないおそれがある。一方、0.15molを超える場合には、上記結晶配向セラミックスの圧電特性や誘電特性がかえって低下するおそれがある。
また、上記混合工程においては、上記焼成工程において上記等方性ペロブスカイト型化合物におけるAサイト元素又は/及びBサイト元素のいずれか1種以上の元素に対して、上記添加元素が0.01〜15at%の割合で置換添加されるように、上記添加元素の混合割合を調整することができる。
この場合には、上記添加元素が上記等方性ペロブスカイト型化合物に置換添加された上記結晶配向セラミックスを得ることができる。かかる結晶配向セラミックスは、より一層優れた圧電d33定数や電気機械結合係数Kp等の圧電特性、及びより一層優れた比誘電率ε33T/ε0等の誘電特性を示すことができる。
上記添加元素が0.01at%未満の場合には、上記結晶配向セラミックスの圧電特性や誘電特性の向上効果が充分に得られないおそれがある。一方、15at%を超える場合には、上記結晶配向セラミックスの圧電特性や誘電特性がかえって低下するおそれがある。より好ましくは、0.01〜5at%がよく、さらに好ましくは、0.01〜2at%がよく、さらにより好ましくは、0.05〜2at%がよい。
ここで、「at%」とは、上記一般式(1)で表される化合物におけるLi、K、Na、Nb、Ta、及びSbの原子の数に対する置換された原子の数の割合を100分率で示したものである。
上記混合工程において、上記異方形状粉末、上記反応原料粉末、並びに必要に応じて配合される化合物微粉及び焼結助剤の混合は、乾式で行ってもよく、あるいは、水、アルコール等の適当な分散媒を加えて湿式で行ってもよい。さらにこのとき、必要に応じてバインダ、可塑剤、及び分散材等から選ばれる1種以上を加えることもできる。
次に、上記成形工程について説明する。
上記成形工程は、上記異方形状粉末の上記配向面({100}面)が略同一の方向に配向するように、上記原料混合物を成形して成形体を作製する工程である。
成形方法については、上記異方形状粉末を配向させることが可能な方法であればよい。上記異方形状粉末を面配向させる成形方法としては、具体的にはドクターブレード法、プレス成形法、圧延法等が好適な例としてあげられる。
また、上記異方形状粉末が面配向した成形体(以下、これを適宜「面配向成形体」という。)の厚さを増したり、配向度を上げるために、面配向成形体に対し、さらに積層圧着、プレス、圧延等の処理(以下、これを適宜「面配向処理」という。)を行うことができる。
この場合には、上記面配向成形体に対して、いずれか1種類の面配向処理を行うこともできるが、2種以上の面配向処理を行うこともできる。また、上記面配向成形体に対して、1種類の面配向処理を繰り返し行うこともでき、また、2種以上の面配向処理をそれぞれ複数回繰り返し行うこともできる。
上記成形工程においては、上記原料混合物を厚み200μm以下のシート状に成形することが好ましい(請求項10)。
厚みが200μmを越えると、上記成形体中で上記異方形状粉末を略同一方向に配向させることが困難になるおそれがある。
また、上記成形工程においては、上記成形体を厚み30μm以上のテープ状に成形すると共に、該成形体の表面と裏面とにおける上記成形体配向度の差を10%以下にすることが好ましい。
厚みが30μm未満の場合には、作製時における成形体の取り扱いが非常に困難になるおそれがある。また、配向度の差が10%を超えると、焼成工程後に得られる結晶配向セラミックス内部の配向度が大きくばらつき、良好な特性が得られなくなるおそれがある。より好ましくは上記成形体配向度の差は5%以下がよく、さらにより好ましくは3%以下がよい。
上記成形工程において得られる上記成形体は、焼成の前に、脱脂を主目的とする熱処理を行うことができる。この場合、脱脂の温度は、少なくとも上記成形助剤(バインダ)等の有機成分を熱分解させるのに充分な温度に設定することができる。但し、上記成形体に揮発しやすい物質(例えばNa化合物等)が含まれる場合には、脱脂は500℃以下で行うことが好ましい。
また、上記成形体の脱脂を行うと、該成形体中の上記異方形状粉末の配向度が低下したり、あるいは、上記成形体に体積膨張が発生したりする場合がある。このような場合には、脱脂を行った後、焼成を行う前に、上記成形体に対して、さらに静水圧(CIP)処理を行うことができる。この場合には、脱脂に伴う配向度の低下、あるいは、上記成形体の体積膨張に起因する焼結体密度の低下を抑制することができる。
次に、上記焼成工程について説明する。
上記焼成工程は、上記成形体を加熱し、上記異方形状粉末と上記反応原料粉末とを焼結させる工程である。上記焼成工程においては、上記成形体を加熱することにより焼結が進行し、等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなる結晶配向セラミックスを作製することができる。このとき、上記異方形状粉末と上記反応原料粉末とを反応させて、例えば上記一般式(2)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物を生成させることができる。また、上記焼成工程においては、上記異方形状粉末及び/又は反応原料粉末の組成によっては、余剰成分も同時に生成する。
上記焼成工程における加熱温度は、反応及び/又は焼結が効率よく進行し、かつ目的とする組成を有する反応物が生成するように、使用する異方形状粉末、反応原料粉末、作製しようとする結晶配向セラミックスの組成等に応じて最適な温度を選択することができる。
例えば、上記異方形状粉末を用いて、上記一般式(2)で表される化合物からなる結晶配向セラミックスを作製する場合には、上記焼成工程における加熱は、温度900℃〜1300℃で行うことができる。この温度範囲においてさらに最適な加熱温度は、目的物質である上記一般式(2)で表される化合物の組成に応じて決定できる。さらに、加熱時間は、所望の焼結体密度が得られるように、加熱温度に応じて最適な時間を選択することができる。
また、上記異方形状粉末と上記反応原料粉末との反応によって余剰成分が生成する場合には、焼結体中に余剰成分を副相として残留させることができる。また、焼結体から余剰成分を除去することもできる。余剰成分を除去する場合には、その方法として、上述のごとく、例えば熱的に除去する方法や化学的に除去する方法等がある。
熱的に除去する方法としては、例えば上記一般式(2)で表される化合物と余剰成分とが生成した焼結体(以下、これを「中間焼結体」という。)を所定温度で加熱し、余剰成分を揮発させる方法がある。具体的には、上記中間焼結体を減圧下もしくは酸素中において、余剰成分の揮発が生じる温度で長時間加熱する方法が好適な例として挙げられる。
余剰成分を熱的に除去する際の加熱温度は、余剰成分の揮発が効率よく進行し、かつ副生成物の生成が抑制されるように、上記一般式(2)で表される化合物及び/又は上記余剰成分の組成に応じて、最適な温度を選択すれすることができる。例えば、余剰成分が酸化ビスマス単相である場合には、加熱温度は、800℃〜1300℃であることが好ましく、さらに好ましくは1000℃〜1200℃がよい。
また、余剰成分を化学的に除去する方法としては、例えば余剰成分のみを浸食させる性質を有する処理液中に中間焼結体を浸漬し、余剰成分を抽出する方法等がある。このとき、使用する処理液としては、上記一般式(2)で表される化合物及び/又は余剰成分の組成に応じて最適なものを選択することができる。例えば、余剰成分が酸化ビスマス単相である場合には、処理液としては、硝酸、塩酸等の酸を用いることができる。特に、硝酸は、酸化ビスマスを主成分とする余剰成分を化学的に抽出する処理液として好適である。
上記異方形状粉末と上記反応原料粉末との反応、及び余剰成分の除去は、同時、逐次又は個別のいずれのタイミングで行ってもよい。例えば、成形体を減圧下又は真空下において、上記異方形状粉末と反応原料粉末との反応及び余剰成分の揮発の双方が効率よく進行する温度まで直接加熱し、反応と同時に余剰成分の除去を行うことができる。なお、上記添加元素は、上記異方形状粉末と上記反応原料粉末との反応の際に、目的物質である上記一般式(2)で表される化合物に置換されたり、上記のごとく結晶粒内又は/及び粒界中に配置される。
また、例えば大気中又は酸素中において、上記異方形状粉末と上記反応原料粉末との反応が効率よく進行する温度で成形体を加熱して上記中間焼結体を生成した後、引き続き該中間焼結体を減圧下又は真空下において、余剰成分の揮発が効率よく進行する温度で加熱し、余剰成分の除去を行うこともできる。また、上記中間焼結体を生成した後、引き続き、該中間焼結体を大気中又は酸素中において、余剰成分の揮発が効率よく進行する温度で長時間加熱し、余剰成分の除去を行うこともできる。
また、例えば上記中間焼結体を生成し、上記中間焼結体を室温まで冷却した後、該中間焼結体を処理液に浸漬して、余剰成分を化学的に除去することもできる。あるいは、上記中間焼結体を生成し、室温まで冷却した後、再度上記中間焼結体を所定の雰囲気下において所定の温度に加熱し余剰成分を熱的に除去することもできる。
また、上記異方形状粉末と上記反応原料粉末との反応によって余剰成分が生成する場合において、余剰成分の除去を行う時には、余剰成分を除去した中間焼結体に対し、さらに、静水圧処理を施し、これを再焼成することができる。また、焼結体密度及び配向度をさらに高めるために、上記熱処理工程後の焼結体に対してさらにホットプレスを行うことができる。さらに、上記化合物微粉を添加する方法、CIP処理、及びホットプレス等の方法を組み合わせて用いることもできる。
また、上記成形工程においては、成形後の上記成形体を複数積層し、上記焼成工程においては、積層された上記成形体を加熱することができる(請求項11)。
この場合には、任意の厚みで上記結晶配向セラミックスを作製することができる。即ち、上記成形工程においては、上記成形体中で上記異方形状粉末を略同一方向に配向させる必要があるため、大きな厚みで成形を行うことは好ましくない。上記のごとく、成形体を積層することにより、厚みの大きな結晶配向セラミックスを、配向度を低下させることなく作製することができる。
(実施例1)
次に、本発明の実施例について説明する。
本例は、結晶面{100}面が配向する配向粒子からなる異方形状粉末を用いて結晶配向セラミックスを作製する例である。
本例の異方形状粉末は、調合工程と合成工程と酸処理工程と加熱工程とを行って得られる。
調合工程においては、一般式(1)(Bi22)2+{Bi0.5(KaNa1-a)m-1.5(Nb1-bTab)m3m+1}2-(ここで、5<m≦10、0≦a≦0.8、0.02≦b≦0.4)を上記前駆体の目的組成とすると、該目的組成におけるmの値に対してm+0.5以上という仕込み組成の配合割合で、Bi源、Na源、Nb源、及びTa源と必要に応じて添加されるK源とを混合して原料混合物を作製する。本例においては、一般式(1)においてm=7、a=0、b=0.07の場合、即ち、(Bi22){Bi0.5Na5.5(Nb0.93Ta0.07)722}(又はBi2.5Na5.5(Nb0.93Ta0.07)724)を前駆体の目的組成とする。そして、m+0.5、即ち(Bi22){Bi0.5Na6(Nb0.93Ta0.07)7.523.5}(又はBi2.5Na6(Nb0.93Ta0.07)7.525.5)という仕込み組成の配合割合で各元素源を混合して原料混合物を作製する。
合成工程においては、原料混合物を温度1100℃以上で2時間以上加熱することにより、前駆体を合成する。酸処理工程においては、前駆体を3時間以上酸処理して酸処理体を得る。そして、加熱工程においては、酸処理体に、K源及び/又はNa源を添加し、NaCl及び/又はKClを主成分とするフラックス中で加熱する。本例においては、酸処理体にNa源(NaHCO3粉末)を添加して、NaClフラックス中で加熱を行う。
以下、本例の異方形状粉末の製造方法につき、詳細に説明する。
具体的には、まず、前駆体の目的組成Bi2.5Na5.5(Nb0.93Ta0.07)724に対して、上述のm+0.5、即ちBi2.5Na6(Nb0.93Ta0.07)7.525.5という組成(仕込み組成)になるような化学量論比で、Bi23粉末、NaHCO3粉末、Nb25粉末、及びTa25粉末を秤量し、湿式混合した(調合工程)。次いで得られた原料混合物100重量部に対して、フラックスとしてNaClを80重量部添加し、1時間乾式混合した。
次に、原料混合物を白金るつぼ中で温度1120℃で2時間加熱した(合成工程)。その後、反応物を湯洗してフラックスを取り除くことで、前駆体を得た。得られた前駆体は{001}面を配向面(最大面)とする板状粉末であった。
次に、ビーカ内で、前駆体粉末(粉末)1gに対して30mlの割合で6NのHClを添加し、10時間撹拌した(酸処理工程)。その後、吸引ろ過し酸処理体を得た。
次いで、酸処理体に、Na源としてのNaHCO3粉末を加える。NaHCO3粉末は、酸処理体の作製に用いた前駆体(粉末)1molに対して2molという割合で添加した。次いで、酸処理体とNa源との混合物100重量部に対してフラックスとしてのNaClを80重量部添加し、1時間乾式混合した。次に、得られた混合物を白金るつぼ中で、温度1000℃で8時間加熱した(加熱工程)。その後、反応物を湯洗してフラックスを取り除くことで異方形状粉末を得た。この異方形状粉末は、擬立方{100}面を最大面(配向面)とし、平均粒径約12μm、アスペクト比約10〜20の表面平滑性に優れた板状粉末であった。これを試料e1とする。
次に、得られた異方形状粉末(試料e1)中に含まれるBi量の測定を行った。
具体的には、X線マイクロアナライザ(堀場製作所製EX−250)用いて組成分析を行い、Bi量を測定した。その結果を後述の表1に示す。
また、異方形状粉末(試料e1)の配向面({100}面)について、ロッキングカーブ法による半値幅の測定を行った。
具体的には、まず、異方形状粉末をエタノール中に投入した。異方形状粉末の投入量は3wt%とした。次いで、超音波分散機((株)島津理化製のSUS−103)を用いて、28kHzで2分間異方形状粉末を均一に分散させ、分散液を得た。次いで、表面が平滑なガラス基板上に分散液を滴下し、その後乾燥させた。これにより、ガラス基板上に異方形状粉末を単層で配列させた。
次いで、基板上に配列させた異方形状粉末のX線回折強度を測定した。X線回折強度の測定は、X線回折装置((株)リガク製のRINT−TTR)を用いて、CuKα線、50kV/300mAという条件のX線回折(2θ法)により、任意の角度0〜180°(本例においては20°〜50°)の範囲で行った。次いで、得られたX線回折パターンにおいて、{100}面に由来するピークの位置(θ=約22°の位置)にθ角を固定してX線回折(θ法)を行い、得られる山形波形(ロッキングカーブ)の最大強度が半分になる強度におけるピーク幅(全幅)を求めた。これを半値幅とした。その結果を後述の表1に示す。
また、本例においては、前駆体の目的組成(一般式(1)におけるmの値)、目的組成におけるmの値に対する実際の仕込み組成(mの値)、加熱条件(合成工程)、及び酸処理時間(酸処理工程)を上記試料e1の場合とは変更してさらに6種類の異方形状粉末(試料e2、試料e3、試料c1〜試料c4)を作製した。各異方形状粉末(試料e1〜e3及び試料c1〜試料c4)の作製時における条件を後述の表1に示す。
試料e2は、調合工程において、前駆体の目的組成を(Bi22){Bi0.5(K0.4Na0.6)8.5(Nb0.9Ta0.1)1031}(一般式(1)におけるm=10)とし、この目的組成に対してm+0.8、即ち(Bi22){Bi0.5(K0.4Na0.6)9.3(Nb0.9Ta0.1)10.831.8}となる化学量論比で、Bi23粉末(Bi源)、KHCO3粉末(K源)、NaHCO3粉末(Na源)、Nb25粉末(Nb源)、及びTa25粉末(Ta源)を秤量し、合成工程において、原料混合物を温度1150℃で5時間加熱し、酸処理工程において、15時間酸処理を行い、加熱工程において、Na源(NaHCO3粉末)の他にK源(KHCO3粉末)を添加し、フラックスとしてNaClとKClとの混合物を採用した点を除いては、上記試料e1と同様にして作製した。なお、加熱工程においては、酸処理体の作製に用いた前駆体1molに対し、K源とNa源とを目的組成と同じ4:6の割合で、かつ合計2molという割合で添加し、酸処理体とK源とNa源との混合物100重量部に対してKClとNaClフラックスとを同様に4:6の割合で合計80重量部添加した。
試料e3は、調合工程において、目的組成を(Bi22){Bi0.5Na5.5(Nb0.97Ta0.03)722}(一般式(1)におけるm=7)とし、この目的組成に対して上記試料e1と同様にm+0.5、即ち(Bi22){Bi0.5Na6(Nb0.97Ta0.03)7.523.5}となる化学量論比で、Bi23粉末(Bi源)、NaHCO3粉末(Na源)、Nb25粉末(Nb源)、及びTa25粉末(Ta源)を秤量し、合成工程において、原料混合物を温度1050℃で5時間加熱し、また、酸処理工程において、3時間酸処理を行った点を除いては、上記試料e1と同様にして作製した。
試料c1は、調合工程において、上記試料e3と同様に目的組成を(Bi22){Bi0.5Na5.5(Nb0.97Ta0.03)722}(一般式(1)におけるm=7)とし、この目的組成に対してm+0.4、即ち(Bi22){Bi0.5Na6(Nb0.97Ta0.03)7.423.2}となる化学量論比で、Bi23粉末(Bi源)、NaHCO3粉末(Na源)、Nb25粉末(Nb源)、及びTa25粉末(Ta源)を秤量し、合成工程において、原料混合物を温度1100℃で5時間加熱し、また、酸処理工程において、2時間酸処理を行った点を除いては、上記試料e1と同様にして作製した。
また、試料c2及び試料c3は、目的組成の通りに原料混合物の配合を行い、酸処理を行わずに作製した異方形状粉末である。
即ち、試料c2の作製にあたっては、まず、(Bi22){Bi0.5Na3.5Nb516(一般式(1)におけるm=5)いう目的組成に対して、m=0、即ちこの目的組成となる化学量論比でBi23粉末(Bi源)、NaHCO3粉末(Na源)、及びNb25粉末(Nb源)を秤量し、湿式混合を行って、原料混合物を作製した。次いで、上記試料e1の場合と同様に、原料混合物100重量部に対して、フラックスとしてNaClを80重量部添加し、1時間乾式混合した。次いで、原料混合物を白金るつぼ中で温度1050℃で5時間加熱した(合成工程)。その後、反応物を湯洗してフラックスを取り除くことで、前駆体を得た。次いで、前駆体1molに対して、Na源としてのNaHCO3粉末を2mol添加し、これらの混合物100重量部対してフラックスとしてのNaClを80重量部添加し、1時間乾式混合した。次に、得られた混合物を白金るつぼ中で、温度950℃で8時間加熱した(加熱工程)。その後、反応物を湯洗してフラックスを取り除くことで異方形状粉末(試料c2)を得た。
また、試料c3の作製にあたっては、まず、(Bi22)(Bi0.5Na0.5Nb27)(一般式(1)におけるm=2)という目的組成に対して、m=0、即ちこの目的組成となる化学量論比でBi23粉末(Bi源)、NaHCO3粉末(Na源)、及びNb25粉末(Nb源)を秤量し、湿式混合を行って、原料混合物を作製した。次いで、上記試料e1の場合と同様に、原料混合物100重量部に対して、フラックスとしてNaClを80重量部添加し、1時間乾式混合した。次いで、原料混合物を白金るつぼ中で温度1020℃で5時間加熱した(合成工程)。その後、反応物を湯洗してフラックスを取り除くことで、前駆体を得た。次いで、上記試料c2と同様にして、前駆体にNa源を添加し、フラックス中で加熱する加熱工程を行い、その後フラックスを取り除くことにより、異方形状粉末(試料c3)を作製した。
次に、試料c4は、調合工程において、目的組成を(Bi22)(Bi0.5Na10.5Nb1237)(一般式(1)におけるm=12)とし、この目的組成に対してm+1、即ち(Bi22)(Bi0.5Na11.5Nb1340)となる化学量論比で、Bi23粉末(Bi源)、NaHCO3粉末(Na源)、及びNb25粉末(Nb源)を秤量し、合成工程において、原料混合物を温度1150℃で5時間加熱した点を除いては、上記試料e1と同様にして作製した。
上記試料e2、e3、及び試料c1〜c4の異方形状粉末についても、上記試料e1と同様にして、Bi含有量及び半値幅を測定した。その結果を表1に示す。
Figure 2010222185
表1より知られるごとく、目的組成におけるmの値に対してm+0.5以上という仕込み組成の配合割合で配合を行い、温度1100℃以上で2時間以上合成を行って作製した前駆体を3時間以上酸処理して作製した異方形状粉末(試料e1〜試料e3)は、ビスマス量が少なく、さらに半値幅の小さい配向度に優れたものであった。
これに対し、2時間という比較的短い時間の酸処理を行って作製した試料c1においては、ビスマス量が多くなっていた。
また、一般式(1)においてm=5という組成を目的組成とし、この目的組成通りに配合を行い、さらに酸処理を行わずに作製した試料c2においては、ビスマス量は少ないものの、半値幅が高く、配向度が不十分であった。
また、一般式(1)においてm=2という組成を目的組成とし、この目的組成通りに配合を行い、さらに酸処理を行わずに作製した試料c3においては、ビスマス量が多く、配向度も不十分であった。
さらに、一般式(1)においてm=12という組成を目的組成として作製した試料c4においては、ビスマス量は少ないものの、半値幅が非常に高く配向度が不十分になっていた。
なお、以下に、一般式(1)で表されるmの値について説明する。
図1に、一般式(1)においてm=10であるビスマス層状ペロブスカイト型化合物(試料e2の作製に用いた前駆体)の結晶構造を示す。また、図2に、一般式(1)においてm=5である従来用いられていたビスマス層状ペロブスカイト型化合物(試料c2の作製に用いた前駆体)の結晶構造を示す。
図1及び図2より知られるごとく、一般式(1)で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物1、9は、ビスマス層11、91(Bi22層)の間に、ペロブスカイト型化合物層12、92が挟まれた結晶構造を有している。ここで、mは、ビスマス層11、19に挟まれたペロブスカイト型化合物層12、92の数を表す。
試料e1〜試料e3においては、図1に示すごとく、ビスマス層11に挟まれるペロブスカイト型化合物層12が5層をより多く、10層以下(図1においては10層)という特徴的な構造の前駆体を用いた。
これに対し、試料c2及び試料c3においては、図2に示すごとく、ビスマス層91に挟まれるペロブスカイト型化合物層92が5層以下(図2においては5層)という従来用いられていた前駆体を用いた。
(実施例2)
次に、本例においては、実施例1で作製した異方形状粉末を用いて、結晶配向セラミックスを作製する。
本例においては、混合工程と、成形工程と、焼成工程とを行うことにより、(Li0.060.423Na0.517)(Nb0.835Ta0.1Sb0.065)O3で表される等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなり、該多結晶体を構成する結晶粒の結晶面{100}面が配向する結晶配向セラミックスを作製する。
混合工程においては、異方形状粉末と、該異方形状粉末と反応することにより上記一般式(2)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物を生成する反応原料粉末とを混合することにより原料混合物を作製する。
成形工程においては、上記異方形状粉末の結晶面{100}が略同一の方向に配向するように、上記原料混合物を成形して成形体を作製する。
また、焼成工程においては、上記成形体を加熱することにより、上記異方形状粉末と上記反応原料とを反応させると共に焼結させ、上記結晶配向セラミックスを得る。
具体的には、まず、以下のようにして反応原料粉末を作製した。
即ち、まず、異方形状粉末(試料e1)と反応原料粉末との焼結後の目的組成である(Li0.060.423Na0.517)(Nb0.835Ta0.1Sb0.065)O3という化学量論組成1モルから、異方形状粉末(試料e1)0.05モルを差し引いた組成となるように、市販のNaHCO3粉末、KHCO3粉末、Li2CO3粉末、Nb25粉末、Ta2O5粉末、及びNaSbO3粉末を秤量し、有機溶剤を媒体としてZrO2ボールで20時間の湿式混合を行った。その後、750℃で5時間仮焼し、さらに有機溶剤を媒体としてZrO2ボールで20時間の湿式粉砕を行うことで平均粒径が約0.5μmの仮焼物粉体(反応原料粉末)を得た。
次に、異方形状粉末と反応原料粉末とを、焼結後の組成が(Li0.060.423Na0.517)(Nb0.835Ta0.1Sb0.065)O3になるような化学量論比で秤量した。具体的には、異方形状粉末と反応原料粉末とをモル比で0.05:0.95(異方形状粉末:反応原料)となるように秤量した。秤量後、有機溶剤を媒体にして、ZrO2ボールで湿式混合を20時間行うことにより、スラリーを得た。その後、スラリーに対してバインダ(ポリビニルブチラール)及び可塑剤(フタル酸ジブチル)を加え、さらに混合した。なお、バインダ及び可塑剤は、出発原料から合成される100gの(Li0.060.423Na0.517)(Nb0.835Ta0.1Sb0.065)O3に対して、それぞれ8.0g(バインダ)及び4.0g(可塑剤)添加した。このようにして、スラリー状の原料混合物を得た。
次に、ドクターブレード装置を用いて、混合したスラリー状の原料混合物を厚み100μmのテープ状に成形し、得られるテープを積層及び圧着することにより、厚さ1.2mmの積層状態の成形体を得た。ドクターブレート装置によって成形を行うと、異方形状粉末に作用するせん断応力等によって、異方形状粉末を成形体内で略同一の方向に配向させることができる。
次いで、成形体を大気中において温度400℃で加熱することにより脱脂を行った。脱脂後の成形体をマグネシア鉢中のPt版上に配置し、大気中で温度1120℃で5時間加熱することにより焼成し、その後冷却することにより、円盤状の結晶配向セラミックスを得た。これを試料E1とする。なお、加熱及び冷却は、昇温速度200℃/h、冷却速度200℃/hの焼成パターンで行った。
このように、試料E1は、異方形状粉末の試料e1を用いて作製した結晶配向セラミックスである。
また、試料E1と同様に、実施例1で作製した各異方形状粉末(試料e2、試料e3、及び試料c1〜試料c4)をそれぞれ用いて結晶配向セラミックスを作製した。これらをそれぞれ試料E2、試料E3、及び試料C1及び試料C4とする(後述の表2参照)。
次に、上記のようにして作製した各結晶配向セラミックス(試料E1〜試料E3及び試料C1〜試料C4)について、嵩密度を測定した。
具体的には、まず結晶配向セラミックスの乾燥時の重量(乾燥重量)を測定した。次いで、結晶配向セラミックスを水に浸漬して開口部に水を浸透させた後、結晶配向セラミックスの重量(含水重量)を測定した。次いで、含水重量と乾燥重量との差から、結晶配向セラミックス中に存在する開気孔の体積を算出した。また、アルキメデス法により、結晶配向セラミックスについて、開気孔を除いた部分の体積を測定した。次に、結晶配向セラミックスの乾燥重量を全体積(開気孔の体積と開気孔を除いた部分の体積との合計)で除することにより、結晶配向セラミックスの嵩密度を算出した。その結果を後述の表2に示す。
また、各結晶配向セラミックス(試料E1〜試料E3及び試料C1〜試料C4)について、その内部の配向度を測定した。
具体的には、まず、テープ面と平行な面を表面から150μmの深さまで研磨した。この研磨面について、ロットゲーリング法による{100}面の平均配向度F(100)を上述の数1の式を用いて算出した。その結果を後述の表2に示す。
次に、7種類の各結晶配向セラミックス(試料E1〜試料E3及び試料C1〜試料C4)について、圧電d33定数を測定した。
具体的には、研磨した各試料の上下面にAu焼付電極ペースト(住友金属鉱山(株)製 ALP3057)を印刷し乾燥させた後、メッシュベルト炉を用いて850℃×10minの焼付を行うことにより、各結晶配向セラミックスに厚さ0.01mmの一対の電極を形成した。さらに、印刷により不可避に形成された電極外周部の数マイクロメートルの盛り上り部を除去する目的で、円板状の各試料を円筒研削により直径8.5mmに加工した。その後、上下方向に分極処理を施し全面電極を有する7種類の圧電素子を得た。得られた各圧電素子について、室温において、d33メータ(ZJ-3D:インスティテュート オブ アカデミア シニカ(Institute of Academia Sinica)製により圧電歪定数(d33)を測定した。その結果を表2に示す。
Figure 2010222185
表2より知られるごとく、試料e1〜試料e3の異方形状粉末を用いて作製した結晶配向セラミックス(試料E1〜試料E3)は、配向度が非常に高く、かつかさ密度も十分に高い。即ち、高い配向度と優れた緻密性とを両立していた。かかる結晶配向セラミックス(試料E1〜試料E3)は、圧電d33定数が高く優れた圧電特性を示した。
これに対し、試料c1〜試料c4の異方形状粉末を用いて作製した結晶配向セラミックス(試料C1〜試料C4)は、配向度と嵩密度との両方を高めることができず、圧電特性が不十分になっていた。
試料c1の異方形状粉末は、酸処理を2時間行って作製しており、酸処理の時間が短い(表1参照)。そのため、異方形状粉末に残存するビスマス量が多い(表1参照)。かかる異方形状粉末(試料c1)を用いて作製した結晶配向セラミックス(試料C1)は、配向度は比較的高いものの、嵩密度が低くなっていた(表2参照)。その結果、圧電特性が不十分であった(表2参照)。
また、試料c2は、一般式(1)で表される前駆体の目的組成におけるmの値を5とし、この目的組成通りに配合を行い、さらに酸処理を行わずに作製した異方形状粉末である(表1参照)。そのため、異方形状粉末の半値幅が高く、配向度が不十分になっていた(表1参照)。かかる異方形状粉末(試料c2)を用いて作製した結晶配向セラミックス(試料C2)は、嵩密度は比較的高いものの、配向度が低くなっていた(表2参照)。その結果、圧電特性が不十分であった(表2参照)。
試料c3は、一般式(1)で表される前駆体の目的組成におけるmの値を2とし、この目的組成通りに配合を行い、さらに酸処理を行わずに作製した異方形状粉末である(表1参照)。そのため、異方形状粉末に残存するビスマス量が多く、さらに異方形状粉末の半値幅が高く、配向度が不十分になっていた(表1参照)。かかる異方形状粉末(試料c3)を用いて作製した結晶配向セラミックス(試料C3)は、嵩密度も配向度も低くなっていた(表2参照)。その結果、圧電特性が非常に劣化していた(表2参照)。
また、試料c4は、一般式(1)で表される前駆体の目的組成におけるmを12という非常に高い値にして作製した異方形状粉末である(表1参照)。そのため、異方形状粉末に残存するビスマス量は少ないものの、異方形状粉末の半値幅が高く、配向度が不十分になっていた(表1参照)。かかる異方形状粉末(試料c4)を用いて作製した結晶配向セラミックス(試料C4)は、嵩密度は比較的高いものの、配向度が低くなっていた(表2参照)。その結果、圧電特性が不十分であった(表2参照)。
以上のように、本例によれば、上記一般式(1)を上記前駆体の目的組成とし、この目的組成におけるmの値に対してm+0.5以上という仕込み組成の配合割合で配合を行い、温度1100℃以上で2時間以上加熱して作製した前駆体を3時間酸処理して作製した異方形状粉末を用いると、高い配向度と優れた緻密性を兼ね備え、優れた圧電特性を発揮できる結晶配向セラミックス(試料E1〜試料E3)を製造できることがわかる。
1 ビスマス層状ペロブスカイト型化合物(前駆体)
11 ビスマス層
12 ペロブスカイト型化合物層

Claims (11)

  1. 前駆体を酸処理し加熱して得られ、結晶面{100}面が配向する配向粒子からなる異方形状粉末において、
    一般式(1)(Bi22)2+{Bi0.5(KaNa1-a)m-1.5(Nb1-bTab)m3m+1}2-(ここで、5<m≦10、0≦a≦0.8、0.02≦b≦0.4)で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物を上記前駆体の目的組成とすると、該目的組成におけるmの値に対してm+0.5以上という仕込み組成の配合割合で、Bi源、Na源、Nb源、及びTa源と必要に応じて添加されるK源とを混合して原料混合物を作製する調合工程と、
    上記原料混合物を温度1100℃以上で2時間以上加熱することにより、上記前駆体を合成する合成工程と、
    上記前駆体を3時間以上酸処理して酸処理体を得る酸処理工程と、
    上記酸処理体に、K源及び/又はNa源を添加し、NaCl及び/又はKClを主成分とするフラックス中で加熱する加熱工程とを行って得られることを特徴とする異方形状粉末。
  2. 請求項1において、上記異方形状粉末は、等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなり、該多結晶体を構成する結晶粒の特定の結晶面{100}面が配向する結晶配向セラミックスを製造するために用いられることを特徴とする異方形状粉末。
  3. 請求項1又は2において、上記異方形状粉末は、一般式(2){Lix(K1-yNay)1-x}(Nb1-z-wTazSbw)O3(但し、0≦x≦0.2、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0≦w≦0.2、x+z+w>0)で表される等方性ペロブスカイト型化合物を生成する配合割合で反応原料粉末と混合し、加熱して用いられることを特徴とする異方形状粉末。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項において、上記配向粒子の結晶面{100}におけるロッキングカーブ法による半値幅(FWHM)は8度以下であることを特徴とする異方形状粉末。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項において、上記調合工程においては、上記目的組成におけるmの値に対してm+1.5以下という上記仕込み組成の配合割合で混合を行うことを特徴とする異方形状粉末。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項において、上記加熱工程においては、上記目的組成の上記ビスマス層状ペロブスカイト型化合物1モルに対して、上記K源及び/又は上記Na源中に含まれるK元素とNa元素とが合計で1〜5モルとなる割合で上記K源及び/又は上記Na源を混合することを特徴とする異方形状粉末。
  7. 等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなり、該多結晶体を構成する結晶粒の特定の結晶面{100}面が配向する結晶配向セラミックスの製造方法であって、
    異方形状粉末と、該異方形状粉末と反応する反応原料粉末とを、一般式(2){Lix(K1-yNay)1-x}(Nb1-z-wTazSbw)O3(但し、0≦x≦0.2、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0≦w≦0.2、x+z+w>0)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物を生成する配合割合で混合することにより原料混合物を作製する混合工程と、
    上記異方形状粉末の結晶面{100}面が略同一の方向に配向するように、上記原料混合物を成形して成形体を作製する成形工程と、
    上記成形体を加熱することにより、上記異方形状粉末と上記反応原料粉末とを反応させると共に焼結させ、上記結晶配向セラミックスを得る焼成工程とを有し、
    上記異方形状粉末としては、請求項1〜5のいずれか一項に記載の異方形状粉末を採用することを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
  8. 請求項7において、上記反応原料粉末としては、Li源、K源、Na源、Nb源、Ta源、及びSb源から選ばれる1種以上の原料源を混合し、得られる混合物を仮焼してなる仮焼粉を採用することを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
  9. 請求項8において、上記原料源の混合は、一般式(3){Lip(K1-qNaq)1-p}(Nb1-r-sTarSbs)O3(但し、0≦p≦1、0≦q≦1、0≦r≦1、0≦s≦1)で表される等方性ペロブスカイト型化合物が生成する配合割合で行うことを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
  10. 請求項7〜9のいずれか一項において、上記成形工程においては、上記原料混合物を厚み200μm以下のシート状に成形することを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
  11. 請求項7〜10のいずれか一項において、上記成形工程においては、成形後の上記成形体を複数積層し、上記焼成工程においては、積層された上記成形体を加熱することを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
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