JP4720004B2 - 結晶配向セラミックスの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、結晶配向セラミックスの製造方法に関し、更に詳しくは、バイモルフ圧電素子、振動ピックアップ、圧電マイクロホン、圧電点火素子、加速度センサ、ノッキングセンサ、圧電アクチュエータ、ソナー、超音波センサ、圧電ブザー、圧電スピーカ、発信子、フィルタ等に用いられる圧電材料として好適な結晶配向セラミックスの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
圧電材料は、圧電効果を有する材料であり、その形態は、単結晶、セラミックス、薄膜、高分子及びコンポジット(複合材)に分類される。これらの圧電材料の中で、特に、圧電セラミックスは、高性能で、形状の自由度が大きく、材料設計が比較的容易なため、広くエレクトロニクスやメカトロニクスの分野で応用されているものである。
【0003】
圧電セラミックスは、強誘電体セラミックスに直流電圧を印加し、強誘電体の分域の方向を一定の方向にそろえる、いわゆる分極処理を施したものである。分極処理により自発分極を一定方向にそろえるためには、自発分極が三次元的に取りうる等方性ペロブスカイト型の結晶構造が有利であることから、実用化されている圧電セラミックスの大部分は、等方性ペロブスカイト型強誘電体セラミックスである。ここで、「等方性ペロブスカイト型強誘電体」とは、一般式:ABO(A、Bは金属元素)で表される、いわゆるRegular Perovskite型化合物の内、立方晶型からのわずかな歪みによって自発分極を生じる物質である。
【0004】
等方性ペロブスカイト型強誘電体セラミックスとしては、例えば、Pb(Zr・Ti)O(以下、これを「PZT」という。)、PZTに対して鉛系複合ペロブスカイトを第三成分として添加したPZT3成分系、BaTiO、Bi0.5Na0.5TiO(以下、これを「BNT」という。)などが知られている。
【0005】
これらの中で、PZTに代表される鉛系の圧電セラミックスは、他の圧電セラミックスに比較して高い圧電特性を有しており、現在実用化されている圧電セラミックスの大部分を占めている。しかしながら、蒸気圧の高い酸化鉛(PbO)を含んでいるために、環境に対する負荷が大きいという問題がある。そのため、低鉛あるいは無鉛でPZTと同等の圧電特性を有する圧電セラミックスが求められている。
【0006】
一方、BaTiOセラミックスは、鉛を含まない圧電材料の中では比較的高い圧電特性を有しており、ソナーなどに利用されている。また、BaTiOと他の非鉛系ペロブスカイト化合物(例えば、BNTなど)との固溶体の中にも、比較的高い圧電特性を示すものが知られている。しかしながら、これらの無鉛圧電セラミックスは、PZTに比して、圧電特性が低いという問題がある。
【0007】
そこで、この問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。例えば、特開平10−139552号公報には、層状ペロブスカイト型化合物からなり、かつ、形状異方性を有するホスト材料A(例えば、BiTi12、SrTi、CaTi等)と、等方性ペロブスカイト型構造を有するゲスト材料B又はゲスト材料Bを生成可能な原料Qと、ホスト材料Aを等方性ペロブスカイト型化合物に転換するためのゲスト材料Cとを混合し、ホスト材料Aが配向するようにこれらを成形し、次いで加熱焼結する結晶配向セラミックスの製造方法が本願出願人により提案されている。
【0008】
また、特公昭63−24948号公報には、C面が発達した板状形状を有する二酸化チタン、バリウムを含有する化合物(例えば、酸化バリウム、炭酸バリウム等)、有機結合材、可塑剤及び溶剤を混練した後、一軸性の加圧下で成形し、得られた成形体を焼成するチタン酸バリウム磁器の製造方法が開示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
等方性ペロブスカイト型化合物の圧電特性は、一般に、結晶軸の方向によって異なることが知られている。そのため、圧電特性の高い結晶軸を一定の方向に配向させることができれば、圧電特性の異方性を最大限に利用することができ、圧電セラミックスの高特性化が期待できる。実際に、非鉛系強誘電体材料からなる単結晶の中には、優れた圧電特性を示すものがあることが知られている。
【0010】
しかしながら、単結晶は、製造コストが高いという問題がある。また、複雑な組成を有する固溶体の単結晶は、製造時に組成のずれを引き起こしやすく、実用材料としては不適当である。さらに、単結晶は、破壊靱性が劣るため、高応力下での使用は困難であり、応用範囲が限られるという問題がある。
【00011】
これに対し、層状ペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末(ホスト材料A)は、特開平10−139552号公報に開示されているように、等方性ペロブスカイト型化合物を生成させるための反応性テンプレートとして機能する。そのため、ホスト材料Aを成形体中に配向させ、これとゲスト材料Cとを反応させれば、結晶格子の異方性が小さい等方性ペロブスカイト型化合物であっても、特定の結晶面が高い配向度で配向した結晶配向セラミックスを容易かつ安価に製造することができる。
【0012】
しかしながら、この方法は、ホスト材料Aとゲスト材料Cとの反応によって等方性ペロブスカイト型化合物(一般式:ABO)を生成させるものであり、得られた結晶配向セラミックスの組成中には、ホスト材料Aに含まれるAサイト元素(例えば、Bi、Sr、Ca等)が必ず残留する。そのため、この方法では、最も望ましい組成を実現できず、不可避的に含まれるAサイト元素によって圧電材料としての特性が害されるおそれがある。
【0013】
また、特公昭63−24948号公報には、C面が発達した板状形状を有する二酸化チタンを成形体中に配向させ、これとバリウムを含む化合物とを反応させると、C面配向したチタン酸バリウム磁器が得られる点が記載されている。しかしながら、板状形状を有し、かつ、等方性ペロブスカイト型化合物と格子整合性を有する二酸化チタンの単結晶粉末の作製は困難である。そのため、この方法では、高配向度の等方性ペロブスカイト型セラミックスを作製することはできない。
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、等方性ペロブスカイト型化合物からなる高配向度の結晶配向セラミックスが製造可能であり、かつ、結晶配向セラミックス中に含まれるAサイト元素の組成制御が容易な結晶配向セラミックスの製造方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明に係る結晶配向セラミックスの製造方法は、ビスマス層状チタン酸化合物からなり、かつ、その発達面が等方性ペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面と格子整合性を有し、格子整合率が20%以下である板状粉末と、該板状粉末と反応して前記等方性ペロブスカイト型化合物及び酸化ビスマスを含む余剰成分を生成するペロブスカイト生成原料とを混合する混合工程と、該混合工程で得られた混合物を前記板状粉末が配向するように成形する成形工程と、該成形工程で得られた成形体に含まれる前記板状粉末と前記ペロブスカイト生成原料との反応、及び、反応により生成した前記余剰成分の除去を行う反応・除去工程とを備えていることを要旨とするものである。
【0016】
板状粉末を配向させた成形体を所定温度に加熱し、板状粉末とペロブスカイト生成原料とを反応させると、板状粉末の配向方位を承継した等方性ペロブスカイト型化合物の板状結晶と酸化ビスマスを含む余剰成分が生成し、中間焼結体となる。この余剰成分を反応と同時に、又は、反応後に中間焼結体から除去すると、等方性ペロブスカイト型化合物からなり、かつ、擬立方{100}面が配向した結晶配向セラミックスが得られる。また、ペロブスカイト生成原料の組成を最適化すれば、高配向度を有し、かつ、Aサイト元素として実質的にBiの残存しない等方性ペロブスカイト型化合物からなる結晶配向セラミックスが得られる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。初めに、本発明に係る結晶配向セラミックスの製造方法に用いられる板状粉末について説明する。板状粉末は、結晶格子の異方性の小さい等方性ペロブスカイト型化合物を特定方向に配向させるための反応性テンプレートとして用いるものである。本発明においては、板状粉末として、以下の条件を備えたものが用いられる。
【0018】
第1に、板状粉末には、ビスマス層状チタン酸化合物が用いられる。板状粉末としてビスマス層状チタン酸化合物を用いるのは、(1)結晶格子の異方性が大きく、板状粉末の作製が比較的容易であること、及び、(2)後述するペロブスカイト生成原料との反応によってBiを系外に容易に除去することができ、等方性ペロブスカイト型化合物に含まれるAサイト元素の組成制御が容易であることによる。
【0019】
第2に、板状粉末には、その発達面(最も広い面積を占める面)が等方性ペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面と格子整合性を有するものが用いられる。ビスマス層状チタン酸化合物からなる板状粉末であっても、その発達面が等方性ペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面と格子整合性を有していない場合には、擬立方{100}面を配向面とする結晶配向セラミックス製造用の反応性テンプレートとして機能しないので好ましくない。
【0020】
ここで、「等方性ペロブスカイト型化合物」とは、一般に、一般式:ABOで表される化合物をいうが、本発明に係る製造方法により得られる結晶配向セラミックスは、これらの内、Bサイト元素としてTiを含む等方性ペロブスカイト型化合物からなる。Bサイト元素としてTiを含むのは、板状粉末として、上述したビスマス層状チタン酸化合物を用いることに起因する。
【0021】
なお、本発明に係る方法で製造可能な結晶配向セラミックスは、Bサイト元素としてTiのみを含むを等方性ペロブスカイト型化合物に限らず、Tiに加えて1種又は2種以上の他のBサイト元素(例えば、Cr、Zr、Mn、Fe、Mo、Nb、Zn、Ta、W、Ni等)を含むものであっても製造可能である。等方性ペロブスカイト型化合物中のTiの含有量、並びに、他のBサイト元素の種類及びそれらの含有量は、板状粉末の組成とペロブスカイト生成原料の組成によって定まる。
【0022】
一方、本発明に係る製造方法によれば、Aサイト元素として、板状粉末に由来するBiを含む等方性ペロブスカイト型化合物からなる結晶配向セラミックスを製造することも可能であるが、Aサイト元素として実質的にBiを含まない(Bi換算で1wt%以下)等方性ペロブスカイト型化合物からなる結晶配向セラミックスであっても製造可能である。この点が、従来の方法とは異なる。
【0023】
等方性ペロブスカイト型化合物に含まれるAサイト元素としては、具体的には、Biの他に、Ba、Sr、Ca、La等が好適な一例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。等方性ペロブスカイト型化合物中のAサイト元素の種類及びそれらの含有量は、板状粉末の組成とペロブスカイト生成原料の組成によって定まる。
【0024】
また、格子整合性の良否は、板状粉末の発達面の格子寸法と等方性ペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面の格子寸法との差を、板状粉末の発達面の格子寸法で割った値(以下、この値を「格子整合率」という。)で表すことができる。格子整合率の値が小さいほど、その板状粉末は、良好な反応性テンプレートとして機能することを示す。高配向度の結晶配向セラミックスを製造するためには、板状粉末の格子整合率は、20%以下であり、好ましくは10%以下である。
【0025】
なお、「擬立方{HKL}」とは、等方性ペロブスカイト型化合物は、一般に、正方晶、斜方晶、三方晶など、立方晶から歪んだ構造をとるが、その歪みは僅かであるので、立方晶とみなしてミラー指数表示することを意味する。
【0026】
第3に、板状粉末には、成形時に一定の方向に配向させることが容易な形状を有しているものが用いられる。そのためには、板状粉末の平均アスペクト比(=板状粉末の直径/厚さの平均値)は、3以上であることが好ましい。平均アスペクト比が3未満であると、成形時に板状粉末を一方向に配向させるのが困難になる。板状粉末の平均アスペクト比は、さらに好ましくは5以上である。
【0027】
一般に、板状粉末の平均アスペクト比が大きくなるほど、板状粉末の配向が容易化される傾向がある。但し、平均アスペクト比が過大になると、後述する混合工程において板状粉末が粉砕され、板状粉末が配向した成形体が得られない場合がある。従って、板状粉末の平均アスペクト比は、100以下が好ましい。
【0028】
また、板状粉末の発達面直径の平均値(平均粒径)は、0.05μm以上が好ましい。板状粉末の平均粒径が0.05μm未満であると、成形時に作用する剪断応力によって板状粉末を一定の方向に配向させるのが困難になる。また、界面エネルギーの利得が小さくなるので、結晶配向セラミックスを作製する際の反応性テンプレートとして用いた時に、テンプレート粒子へのエピタキシャル成長が生じにくくなる。
【0029】
一方、板状粉末の平均粒径は、20μm以下が好ましい。板状粉末の平均粒径が20μmを超えると、焼結性が低下し、焼結体密度の高い結晶配向セラミックスが得られない。板状粉末の平均粒径は、さらに好ましくは、0.1μm以上10μm以下である。
【0030】
板状粉末の材料として好適なビスマス層状チタン酸化合物としては、具体的には、BiTi12(チタン酸ビスマス)、BaBiTi15、SrBiTi15等のビスマス層状ペロブスカイト型化合物が好適な一例として挙げられる。
【0031】
これらの化合物は、いずれも、その{001}面の表面エネルギーが他の結晶面の表面エネルギーより小さいので、{001}面を発達面とし、かつ、所定の形状を有する板状粉末を容易に作製することができる。また、これらの化合物の{001}面は、等方性ペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面との間に極めて良好な格子整合性がある。そのため、これらの化合物からなる板状粉末は、等方性ペロブスカイト型化合物からなり、かつ、{100}面を配向面とする結晶配向セラミックスを製造するための反応性テンプレートとして好適である。
【0032】
なお、ビスマス層状チタン酸化合物からなる板状粉末は、ビスマス層状チタン酸化合物を生成可能な原料(以下、これを「板状粉末生成原料」という。)を、液体又は加熱により液体となる物質と共に加熱することにより容易に製造することができる。板状粉末生成原料を原子の拡散が容易な液相中で加熱すると、表面エネルギーの小さい{001}面が優先的に発達した板状粉末を容易に合成することができる。この場合、板状粉末の平均アスペクト比及び平均粒径は、合成条件を適宜選択することにより、制御することができる。
【0033】
板状粉末の製造方法としては、具体的には、フラックス(例えば、NaCl、KCl、NaClとKClの混合物、BaCl、KFなど。)と共に板状粉末生成原料を加熱する方法(フラックス法)、固相反応法で合成した非板状のビスマス層状チタン酸化合物粉末をアルカリ水溶液と共にオートクレーブ中で加熱する方法(水熱合成法)等が好適な一例として挙げられる。
【0034】
次に、本発明に係る結晶配向セラミックスの製造方法について説明する。本発明に係る製造方法は、混合工程と、成形工程と、反応・除去工程とを備えている。
【0035】
初めに、混合工程について説明する。混合工程は、上述した板状粉末と、ペロブスカイト生成原料とを混合する工程である。この場合、板状粉末は、上述したビスマス層状チタン酸化合物の内、いずれか1種類の化合物からなるものであっても良く、あるいは、2種以上の化合物の混合物であっても良い。
【0036】
また、「ペロブスカイト生成原料」とは、上述した板状粉末と反応して、等方性ペロブスカイト型化合物と酸化ビスマスを含む余剰成分とを生成するものをいう。ペロブスカイト生成原料の組成及び配合比率は、合成しようとする等方性ペロブスカイト型化合物の組成、及び、反応性テンプレートとして使用する板状粉末の組成に応じて定まる。また、ペロブスカイト生成原料の形態については、特に限定されるものではなく、酸化物粉末、複合酸化物粉末、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩などの塩、アルコキシド等を用いることができる。
【0037】
例えば、チタン酸ビスマス(BiTi12)の板状粉末を用いて、チタン酸バリウム(BaTiO)からなる結晶配向セラミックスを製造する場合、ペロブスカイト生成原料として、炭酸バリウム(BaCO)、酸化バリウム(BaO)、水酸化バリウム(Ba(OH))等のBa含有化合物を用いるのが好ましい。この場合、チタン酸ビスマス1モルに対して、バリウム原子3モルに相当するBa含有化合物を配合すれば良い。
【0038】
化1の式に、チタン酸ビスマスと炭酸バリウムの反応式を示す。板状粉末及びペロブスカイト生成原料として、それぞれ、チタン酸ビスマス及び炭酸バリウムを用い、これらを1:3のモル比で反応させると、化1の式に示すように、等方性ペロブスカイト型化合物であるチタン酸バリウムと、余剰成分である酸化ビスマス(Bi)を生成させることができる。化1の式が右方向に進行するのは、ビスマス層状チタン酸化合物よりも等方性ペロブスカイト型化合物の方が熱力学的に安定なためである。
【0039】
【化1】
Bi4Ti3O12 + 3BaCO3 → 3BaTiO3 + 2Bi2O3 + 3CO2
【0040】
なお、化1の式は、チタン酸ビスマスと炭酸バリウムの理想的な反応式を表現したものであり、実際にはさらに複雑な反応が生じている可能性がある。また、余剰成分は、理想的には、化1の式に示すように酸化ビスマスのみであることが望ましいが、実際には、BiとBaCOやBaTiOとの反応で生じたBa−Bi−O系化合物など、他の酸化物成分が含まれている可能性もある。しかしながら、後述する熱処理工程における余剰成分の除去に支障がない限り、余剰成分には、酸化ビスマス以外の酸化物成分が含まれていてもかまわない。
【0041】
チタン酸バリウム以外の等方性ペロブスカイト型化合物を合成する場合も同様であり、等方性ペロブスカイト型化合物が生成する際に、ビスマス層状チタン酸化合物に含まれるBiの全部又は一部が酸化ビスマスとして板状粉末外に排出され、かつ、所定量のAサイト元素が板状粉末に導入されるように、ペロブスカイト生成原料の組成及び配合比を決定すれば良い。
【0042】
なお、混合工程においては、所定の比率で配合された板状粉末及びペロブスカイト生成原料に対して、さらに、これらの反応によって得られる等方性ペロブスカイト型化合物と同一組成を有する化合物からなる非板状の微粉(以下、これを「化合物微粉」という。)、及び/又は焼結助剤を添加しても良い。板状粉末及びペロブスカイト生成原料に対して、さらに化合物微粉や焼結助剤を添加すると、焼結体を容易に緻密化できるという利点がある。
【0043】
また、化合物微粉を配合する場合において、化合物微粉の配合比率が過大になると、必然的に原料全体に占める板状粉末の配合比率が小さくなり、得られる結晶配向セラミックスの擬立方{100}面の配向度が低下するおそれがある。従って、化合物微粉の配合比率は、要求される焼結体密度及び擬立方{100}面の配向度に応じて、最適な配合比率を選択するのが好ましい。
【0044】
さらに、板状粉末及びペロブスカイト生成原料、並びに、必要に応じて配合される化合物微粉及び焼結助剤の混合は、乾式で行っても良く、あるいは、水、アコール等の適当な分散媒を加えて湿式で行っても良い。さらに、この時、必要に応じてバインダ及び/又は可塑剤を加えても良い。
【0045】
次に、成形工程について説明する。成形工程は、混合工程で得られた混合物を板状粉末が配向するように成形する工程である。ここで、「板状粉末が配向する」とは、各板状粉末の発達面が互いに平行に配列(以下、このような状態を「面配向」という。)すること、又は、各板状粉末の発達面が成形体を貫通する1つの軸に対して平行に配列(以下、このような状態を「軸配向」という。)することをいう。
【0046】
成形方法については、板状粉末を配向させることが可能な方法であれば良く、特に限定されるものではない。板状粉末を面配向させる成形方法としては、具体的には、ドクターブレード法、プレス成形法、圧延法等が好適な一例として挙げられる。また、板状粉末を軸配向させる成形方法としては、具体的には、押出成形法、遠心成形法等が好適な一例として挙げられる。
【0047】
また、板状粉末が面配向した成形体(以下、これを「面配向成形体」という。)の厚さを増したり、配向度を上げるために、面配向成形体に対し、さらに積層圧着、プレス、圧延などの処理(以下、これを「面配向処理」という。)を行っても良い。この場合、面配向成形体に対して、いずれか1種類の面配向処理を行っても良く、あるいは、2種以上の面配向処理を行っても良い。また、面配向成形体に対して、1種類の面配向処理を複数回繰り返り行っても良く、あるいは、2種以上の配向処理をそれぞれ複数回繰り返し行っても良い。
【0048】
次に、反応・除去工程について説明する。反応・除去工程は、成形工程で得られた成形体に含まれる板状粉末とペロブスカイト生成原料との反応、及び、反応により生成した余剰成分の除去を行う工程である。板状粉末とペロブスカイト生成原料とを含む成形体を所定の温度に加熱すると、これらの反応によって等方性ペロブスカイト型化合物及び余剰成分が生成し、これと同時に、生成した等方性ペロブスカイト型化合物の焼結が進行する。
【0049】
加熱温度は、反応及び/又は焼結が効率よく進行し、かつ、等方性ペロブスカイト型化合物及び酸化ビスマス以外の副生成物の生成が抑制されるように、使用する板状粉末、ペロブスカイト生成原料、作製しようとする結晶配向セラミックスの組成等に応じて最適な温度を選択すればよい。
【0050】
例えば、チタン酸ビスマスと炭酸バリウムを用いて、チタン酸バリウム単相からなる結晶配向セラミックスを製造する場合、加熱温度は、400℃以上1300℃以下が好ましく、さらに好ましくは、800℃以上1250℃以下である。この場合、反応は、大気中、酸素中、減圧下又は真空下のいずれの雰囲気下で行っても良い。また、加熱時間は、所定の反応状態及び焼結体密度が得られるように、加熱温度に応じて最適な時間を選択すればよい。
【0051】
余剰成分の除去は、熱的に除去する方法と、化学的に除去する方法がある。熱的に除去する方法は、等方性ペロブスカイト型化合物及び余剰成分が生成した焼結体(以下、これを「中間焼結体」という。)を所定温度に加熱し、余剰成分を揮発させる方法である。具体的には、中間焼結体を減圧下もしくは真空下において、余剰成分の揮発が生じる温度で加熱する方法、中間焼結体を大気中もしくは酸素中において、余剰成分の揮発が生じる温度で長時間加熱する方法等が好適な一例として挙げられる。
【0052】
余剰成分を熱的に除去する際の加熱温度は、余剰成分の揮発が効率よく進行し、かつ、副生成物の生成が抑制されるように、等方性ペロブスカイト型化合物及び余剰成分の組成に応じて、最適な温度を選択すればよい。例えば、等方性ペロブスカイト型化合物がチタン酸バリウム単相であり、余剰成分が酸化ビスマス単相である場合、加熱温度は、800℃以上1300℃以下が好ましく、さらに好ましくは、1000℃以上1250℃以下である。
【0053】
余剰成分を化学的に除去する方法は、余剰成分のみを浸食させる性質を有する処理液中に中間焼結体を浸漬し、余剰成分を抽出する方法である。使用する処理液は、等方性ペロブスカイト型化合物及び余剰成分の組成に応じて、最適なものを選択すればよい。例えば、等方性ペロブスカイト型化合物がチタン酸バリウム単相であり、余剰成分が酸化ビスマス単相である場合、処理液は、硝酸、塩酸等の酸を用いるのが好ましい。特に、硝酸は、余剰成分を化学的に抽出する処理液として好適である。この場合、熱処理と酸処理を交互に繰り返すと、余剰成分の除去をより効果的に実施できる。
【0054】
板状粉末とペロブスカイト生成原料との反応及び余剰成分の除去は、同時、逐次又は個別のいずれのタイミングで行っても良い。例えば、成形体を減圧下又は真空下において、板状粉末とペロブスカイト生成原料との反応及び余剰成分の揮発の双方が効率よく進行する温度まで直接加熱し、反応と同時に余剰成分の除去を行っても良い。
【0055】
また、例えば、大気中又は酸素中において、板状粉末とペロブスカイト生成原料との反応が効率よく進行する温度で成形体を加熱し、中間焼結体を生成(反応工程)させた後、引き続き中間焼結体を減圧下又は真空下において、余剰成分の揮発が効率よく進行する温度で加熱し、余剰成分の除去(除去工程)を行っても良い。あるいは、中間焼結体を生成(反応工程)させた後、引き続き中間焼結体を大気中又は酸素中において、余剰成分の揮発が効率よく進行する温度で長時間加熱し、余剰成分の除去(除去工程)を行っても良い。
【0056】
また、例えば、中間焼結体を生成させ、中間焼結体を室温まで冷却(反応工程)した後、中間焼結体を処理液に浸漬して、余剰成分を化学的に除去(除去工程)しても良い。あるいは、中間焼結体を生成させ、室温まで冷却(反応工程)した後、再度、中間焼結体を所定の雰囲気下において所定の温度に加熱し、余剰成分を熱的に除去(除去工程)しても良い。
【0057】
なお、バインダを含む成形体の場合、反応・除去工程の前に、脱脂を主目的とする熱処理を行っても良い。この場合、脱脂の温度は、少なくともバインダを熱分解させるに十分な温度であれば良い。
【0058】
また、配向成形体の脱脂を行うと、配向成形体中の板状粉末の配向度が低下したり、あるいは、配向成形体に膨れが発生する場合がある。このような場合には、脱脂を行った後、反応及び除去を行う前に、配向成形体に対して、さらに静水圧(CIP)処理を行うのが好ましい。脱脂後の成形体に対して、さらに静水圧処理を行うと、脱脂に伴う配向度の低下、あるいは、配向成形体の膨れに起因する焼結体密度の低下を抑制できるという利点がある。
【0059】
また、中間焼結体から余剰成分を除去した後、CIP処理し、これを再焼成しても良い。また、高密度化のためには、熱処理後の焼結体に対してさらにホットプレスを行う方法も有効である。さらに、化合物微粉を添加する方法、CIP処理、ホットプレス等の方法を組み合わせて用いても良い。また、ホットプレスについては、ダイスを用いずに上下からの圧力のみで20MPa以下の比較的小さな加重を印加する方法が、配向度を低下させることなく焼結体密度を上げるために有効である。
【0060】
なお、本発明に係る製造方法により得られる結晶配向セラミックスが、例えば圧電コンポジットとして用いられる場合、結晶配向セラミックスは、必ずしも高密度である必要はない。従って、このような場合には、化合物微粉を原料に添加したり、あるいは、CIP処理等を行うことなく、混合、成形並びに反応・除去を行い、これらの工程を経て得られたものをそのまま使用すればよい。
【0061】
次に、本発明に係る製造方法の作用について説明する。板状粉末及びペロブスカイト生成原料を混合し、これを板状粉末に対して一方向から力が作用するような成形方法を用いて成形すると、板状粉末に作用する剪断応力によって板状粉末が成形体中に配向する。このような成形体を所定の温度で加熱すると、板状粉末とペロブスカイト生成原料が反応し、等方性ペロブスカイト型化合物と余剰成分が生成する。
【0062】
この時、板状粉末の発達面と等方性ペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面との間には格子整合性があるので、板状粉末の発達面が、生成した等方性ペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面として承継される。そのため、中間焼結体中には、擬立方{100}面が一方向に配向した状態で、等方性ペロブスカイト型化合物の板状結晶が生成する。
【0063】
また、反応により生成した余剰成分は、融点が低く、化学的な抽出が容易な酸化ビスマスを主成分とする。そのため、板状粉末とペロブスカイト生成原料の反応と同時に又は反応後に、中間焼結体から余剰成分を熱的又は化学的に容易に除去することができる。
【0064】
層状ペロブスカイト型化合物からなる板状粉末を反応性テンプレートとして用いて等方性ペロブスカイト型化合物のみを生成させる従来の方法は、板状粉末及びその他の原料に含まれるすべてのAサイト元素及びBサイト元素を含む等方性ペロブスカイト型化合物からなる結晶配向セラミックスのみが製造可能である。
【0065】
一方、板状粉末の材質は、結晶格子の異方性の大きく、かつ、等方性ペロブスカイト型化合物との間に格子整合性を有するものであることが必要であるが、作製しようとする等方性ペロブスカイト型化合物の組成によっては、このような条件を満たす材料が存在しないか、あるいは、その探索に著しい困難を伴う場合がある。従って、従来の方法では、得られる結晶配向セラミックスの組成制御、特に、Aサイト元素の組成制御には限界があった。
【0066】
これに対し、本発明に係る製造方法においては、板状粉末としてビスマス層状チタン酸化合物が用いられるので、その発達面が等方性ペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面と良好な格子整合性を有する板状粉末が容易に得られる。しかも、所定の組成を有するペロブスカイト生成原料と反応させることによって、板状粉末に含まれるBiを余剰成分として系外に容易に取り除くことができる。そのため、本実施の形態に係る製造方法によれば、Aサイト元素としてBiの残存しない等方性ペロブスカイト型化合物からなる結晶配向セラミックスであっても、容易に製造することができる。
【0067】
【実施例】
(実施例1)
まず、BiとTiOとをモル比で2:3の割合で混合した。次いで、この混合物に対し、この混合物と同じ重量のNaCl+KCl混合フラックス(NaClとKClの混合モル比=1:1)を加えてさらに混合した。得られた混合物を白金ルツボに入れ、1100℃で1時間加熱し、BiTi12からなる板状の単結晶粉末(粒径約5μm×厚さ約0.5μm)を合成した。白金ルツボを室温まで冷却した後、白金ルツボ内の塊を繰り返し湯煎して塩化物を除去し、BiTi12板状粉末を得た。
【0068】
次に、得られたBiTi12板状粉末とBaCOとをモル比で1:3の割合で配合し、所定時間湿式混合した後、有機結合材及び可塑剤を添加してさらに混合した。次いで、得られたスラリーを取り出し、ドクターブレード法を用いてテープ成形した。さらに、得られたテープを積層圧着し、さらにロール成形を施して、厚さ約1mmの面配向成形体を作製した。得られた面配向成形体についてX線回折を行ったところ、BiTi12板状粉末の擬正方{001}面が元のテープ面に平行に配向していることが確認された。
【0069】
次に、この面配向成形体を真空加熱炉に入れて熱処理を行った。なお、熱処理は、大気中400℃で1時間加熱した後、引き続き、炉内圧力が133Pa以下になるように真空排気しながら1200℃まで昇温し、1200℃で2時間加熱することにより行った。
【0070】
得られた結晶配向セラミックスの面の内、元のテープ面と平行な面に対してX線回折を行い、結晶相の同定と擬立方{100}面の配向度を調べた。図1(a)に、X線回折パターンを示す。図1(a)より、本実施例で得られた結晶配向セラミックスは、等方性ペロブスカイト型化合物であるBaTiO単相からなり、かつ、擬立方表示で(100)面と(200)面の回折強度が著しく高くなっていることがわかる。また、この結晶配向セラミックスの成分をICP分析法により測定したところ、Bi含有量は、酸化物換算で0.2重量%であった。
【0071】
(実施例2)
熱処理を、大気中1000℃で1時間加熱した後、引き続き、炉内圧力が133Pa以下になるように真空排気しながら1200℃まで昇温し、1200℃で2時間加熱する条件下で行った以外は、実施例1と同一の手順に従って結晶配向セラミックスを作製し、結晶相の同定及び擬立方{100}面の配向度の評価を行った。図1(b)に、X線回折パターンを示す。図1(b)より、本実施例の熱処理条件下においても、BaTiO単相からなり、かつ、擬立方表示で(100)面と(200)面の回折強度が著しく高い結晶配向セラミックスが得られることがわかる。
【0072】
(実施例3)
実施例1で得られた結晶配向セラミックスに対して、さらにホットプレス処理を行い、緻密化させた。ホットプレス条件は、温度:1350℃、加熱時間:4時間、圧力:10MPaとした。ホットプレス後の焼結体の相対密度は、99%であった。
【0073】
次に、この焼結体を厚さ0.5mm、直径11mmの円板状に加工し、上下面に電極を設けて分極した。次いで、共振反共振法にて電気機械結合係数Kpを測定したところ、Kp=0.38であり、同じ組成の無配向BaTiO焼結体に比べて、約20%高い値を示した。
【0074】
(比較例1)
市販のBaTiO粉末をプレス成形し、ホットプレス温度:1350℃、加熱時間:4時間、圧力:20MPaの条件下でホットプレスすることにより、相対密度99.5%の無配向焼結体を得た。この無配向焼結体について、実施例3と同一の条件下で電気機械結合係数Kpを測定したところ、Kp=0.32であった。
【0075】
(比較例2)
実施例1と同一の手順に従い、面配向成形体を作製した。次に、得られた面配向成形体を大気中400℃で1時間加熱した後、さらに、1気圧の大気中において1300℃で4時間加熱した。得られた焼結体について、実施例1と同一の条件下でX線回折を行った。図1(c)に、X線回折パターンを示す。
【0076】
得られた焼結体は、図1(c)に示すように、BaTiOの他に、副生成物が生じており、BaTiOの単相焼結体を得ることはできなかった。焼結体中に含まれる副生成物は、Bi−Ba−O系の複合酸化物又はこの複合酸化物とBiと考えられる。また、得られた焼結体は、電気抵抗が小さく、分極できなかった。
【0077】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0078】
例えば、上記実施例では、BaTiOに対して本発明に係る製造方法を適用した例について主に説明したが、Ba以外のAサイト元素を含む等方性ペロブスカイト型化合物、及び/又は、TiとTi以外のBサイト元素の双方を含む等方性ペロブスカイト型化合物に対しても本発明を同様に適用することができる。
【0079】
さらに、上記実施例では、熱処理後にホットプレスを行い、結晶配向セラミックスの緻密化を行っているが、熱処理後にHIP処理を施し、これによって緻密化させるようにしても良い。
【0080】
【発明の効果】
本発明に係る結晶配向セラミックスの製造方法は、成形体中に配向させた板状粉末及びペロブスカイト生成原料が反応して等方性ペロブスカイト型化合物が生成する際に、板状粉末の発達面が等方性ペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面として承継されるので、擬立方{100}面が高い配向度で配向した結晶配向セラミックスが得られるという効果がある。
【0081】
また、板状粉末に含まれるビスマスは、ペロブスカイト生成原料と反応する際に余剰成分として除去することができるので、Aサイト元素としてBiの残存しない等方性ペロブスカイト型化合物であっても、高配向度を有する結晶配向セラミックスが得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1(a)及び図1(b)は、それぞれ、実施例1及び実施例2で得られた結晶配向セラミックスのX線回折パターンであり、図1(c)は、比較例2で得られた焼結体のX線回折パターンである。

Claims (3)

  1. ビスマス層状チタン酸化合物からなり、かつ、その発達面が等方性ペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面と格子整合性を有し、格子整合率が20%以下である板状粉末と、該板状粉末と反応して前記等方性ペロブスカイト型化合物及び酸化ビスマスを含む余剰成分を生成するペロブスカイト生成原料とを混合する混合工程と、
    該混合工程で得られた混合物を前記板状粉末が配向するように成形する成形工程と、
    該成形工程で得られた成形体に含まれる前記板状粉末と前記ペロブスカイト生成原料との反応、及び、反応により生成した前記余剰成分の除去を行う反応・除去工程とを備えた結晶配向セラミックスの製造方法。
  2. 前記反応・除去工程は、前記成形体を加熱し、前記板状粉末と前記ペロブスカイト生成原料とを反応させると同時に、反応により生成した前記余剰成分を熱的に除去するものである請求項1に記載の結晶配向セラミックスの製造方法。
  3. 前記反応・除去工程は、前記成形体を加熱し、前記板状粉末と前記ペロブスカイト生成原料とを反応させ、中間焼結体とする反応工程と、
    前記中間焼結体から前記余剰成分を熱的又は化学的に除去する除去工程とを備えたものである請求項1に記載の結晶配向セラミックスの製造方法。
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