JP2004123506A - フィルム状グラファイトの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高分子フィルムを直接高品質グラファイトに転化するフィルム状グラファイトの製法における、グラファイトへ転化するためには高温加熱が必要である、と言う2つの欠点を解決する。
【解決手段】100〜200℃の範囲における平均線膨張係数が2.5×10−5cm/cm/℃以下および/または複屈折が0.13以上であるポリイミドフィルムで、さらに、特殊な分子構造の繰り返し単位をもち脱水剤とアミン類を併用してイミド転化したポリイミドフィルムを、2400℃以上の温度で熱処理する事を特徴とするフィルム状グラファイトの製造方法によって解決しうる。
【選択図】なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、放熱フィルム、耐熱シール、ガスケット、発熱体等として使用される、柔軟かつ弾力性をもったフィルム状グラファイトの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
フィルム状グラファイトは、抜群の耐熱性、耐薬品性、高熱伝導性、高電気伝導性のため工業材料として重要な位置をしめ、放熱材料、耐熱シール材、ガスケット、発熱体等として広く使用されている。
【0003】
人工的なフィルム状グラファイトの製造方法の代表がエキスパンドグラファイト法と呼ばれる方法である。これは天然グラファイトを濃硫酸と濃硝酸の混合液に浸漬し、その後急激に加熱する事により製造される。この様にして製造されたグラファイトは洗浄によって酸を除いた後、高圧プレスする事によってフィルム状に加工される。しかし、この様にして製造されたフィルム状グラファイトは強度も弱く、得られる物性値も十分なものでなく、さらに残留酸の影響などの問題もあった。
【0004】
この様な問題を解決するために、特殊な高分子フィルムを直接熱処理してグラファイト化する方法が開発された(以下、高分子グラファイト化法と呼ぶ)。目的に使用される高分子フィルムとしては、ポリオキサジアゾール、ポリイミド、ポリフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリチアゾール、ポリアミドを含むフィルムなどがある。この方法は従来エキスパンドグラファイト化法に比べて遥かに簡単な方法であり、本質的に酸などの不純物を含まない方法であり、さらには単結晶グラファイトに近い優れた熱伝導性や電気伝導特性が得られると言う特徴があった。(特許文献1〜4参照)
しかし、この高分子グラファイト化法には以下に述べる二つの問題点があった。その第一は、高分子グラファイト化法ではエキスパンドグラファイト法に比較して、より厚いフィルム状グラファイトを得ることが難しいということである。この様な問題点を改良するために、いろいろな方法が試みられたが、それでも現状では、出発原料フィルムの厚さは、50μm程度のものしか良質なグラファイトへの転化はできなかった。
【0005】
第二の問題点は、グラファイト化のためには非常な高温と長時間の処理が必要であるという点である。一般に良質なグラファイトへの転化のためには2800℃以上の温度と当該温度領域で30分以上の保持が必要であった。
【0006】
【特許文献1】
特開昭61−275516
【0007】
【特許文献2】
特開昭61−275517
【0008】
【特許文献3】
特開平4−310569、
【0009】
【特許文献4】
特開平3−75211
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前述の高分子グラファイト化法の問題点を解決するために成されたもので、従来の高分子グラファイト化法に比べて厚いフィルム状グラファイトの作製が可能であり、かつ同じ厚さの、従来の用いられてきたフィルム状グラファイトの原料である高分子フィルムと比較して、より低温、短時間でグラファイト化が可能である様な高分子原料フィルムを提供する事にある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の問題を解決するために、グラファイト化可能な高分子の代表であるポリイミドを取り上げ、各種ポリイミドフィルムのグラファイト化を試みた。その結果、ポリイミドの分子構造およびその高次構造を制御する事、中でも分子配向性を制御すれば、良質のグラファイトへ転化できることを見出した。特には、線膨張係数、複屈折率で表現できる物性が最も直接的に良質のグラファイトに転化出来るかどうかの指標となる事を見出した。ここで言う線膨張係数はフィルム面方向の線膨張係数である。すなわち、本発明は以下の構成による新規なフィルム状グラファイトの製造方法および、フィルム状グラファイトに用いる原料となるポリイミドフィルムを提供するものであり、これにより上記課題が解決しうる。
1)100〜200℃の範囲におけるフィルム面方向の平均線膨張係数が2.5×10−5cm/cm/℃以下であるポリイミドフィルムを2400℃以上の温度で熱処理する事を特徴とするフィルム状グラファイトの製造方法。
2)複屈折が0.13以上であるポリイミドフィルムを2400℃以上の温度で熱処理する事を特徴とするフィルム状グラファイトの製造方法。
3)100〜200℃の範囲におけるフィルム面方向の平均線膨張係数が2.5×10−5cm/cm/℃以下であり、かつ、複屈折が0.13以上であるポリイミドフィルムを2400℃以上の温度で熱処理する事を特徴とするフィルム状グラファイトの製造方法。
4)前記ポリイミドフィルムが、下記構造で表される酸二無水物を原料に用いて得られるポリイミドフィルムであることを特徴とする1)〜3)に記載のフィルム状グラファイトの製造方法。
【0012】
【化4】
Figure 2004123506
であり、式中Rは、
【0013】
【化5】
Figure 2004123506
からなる群から選択される2価の有機基であって、Rはそれぞれ独立して、−CH、−Cl、−Br、−F、または−OCHである。
5)前記ポリイミドフィルムが、下記構造で表される酸二無水物を原料に用いて得られるポリイミドフィルムであることを特徴とする4)に記載のフィルム状グラファイトの製造方法。
【0014】
【化6】
Figure 2004123506
6)前記ポリイミドフィルムが、ピロメリット酸二無水物を原料に用いて得られるポリイミドフィルムであることを特徴とする1)〜5)に記載のフィルム状グラファイトの製造方法。
7)前記ポリイミドフィルムが、p−フェニレンジアミンを原料に用いて得られるポリイミドフィルムであることを特徴とする1)〜6)に記載のフィルム状グラファイトの製造方法。
8)前記ポリイミドフィルムは、前駆体であるポリアミド酸を脱水剤とイミド化促進剤を用してイミド化して得られるポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1〜7に記載のフィルム状グラファイトの製造方法。
9)フィルム状グラファイトに用いるためのポリイミドフィルムであって、100〜200℃の範囲における平均線膨張係数が2.5×10−5cm/cm/℃以下であるポリイミドフィルム。
10)フィルム状グラファイトに用いるためのポリイミドフィルムであって複屈折が0.13以上であるポリイミドフィルム。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられるフィルム状グラファイトの原料となるポリイミドフィルムは、100〜200℃の範囲における平均線膨張係数が、2.5×10−5cm/cm/℃以下であるフィルムである。このポリイミドフィルムを原料として用いる事によって、グラファイトへの転化が2400℃から始まり、2700℃で十分良質のグラファイトに転化することができる。また、線膨張係数を上記範囲にすることによって、従来の知られているフィルム状グラファイトの原料である、線膨張係数が2.5×10−5cm/cm/℃以上のポリイミドフィルムを用いた場合に比較して、同じ厚みであってもより低温でグラファイトに転化することが可能となる。従って、従来より厚いフィルムを原料に用いても、容易にグラファイト化を進行させることができる。前記線膨張係数は、2.0×10−5cm/cm/℃以下であることが好ましく、更には1.5×10−5cm/cm/℃以下であることが好ましい。フィルムの線膨張係数が2.5×10−5cm/cm/℃より大きいと、焼成中にフィルムが破損しやすくなり、電気伝導性、熱伝導性、柔軟性、機械強度に劣る傾向にある。一方、2.5×10−5cm/cm/℃以下であると張力をかけながら焼成することが可能となり、収縮による破損を防止することができ、各種特性に優れたものを得ることができる。尚、フィルムの線膨張係数は、TMA(熱機械分析装置)を用いて、まず試料を10℃/分の昇温速度で350℃まで昇温させたのち一旦室温まで空冷し、再度10℃/分の昇温速度で350℃まで昇温させ、2回目昇温時の100℃〜200℃の平均線膨張係数を測定することによって得られる。具体的には、熱機械分析装置(TMA:セイコー電子製SSC/5200H;TMA120C)を用いて、測定試料サイズ:3mm幅×20mm長で所定の治具にセットし、引張モードで3gの荷重をかけて、窒素雰囲気下で測定する。
【0016】
また、本発明に用いられるポリイミドフィルムの、面内配向性を示す複屈折Δnは、フィルム面内のどの方向においても0.13以上、好ましくは0.15以上、最も好ましくは0.16以上である。フィルムの複屈折率が0.13よりも小さいとフィルムの面配向が悪くなり、グラファイト化に高温の加熱を要し、焼成時間も長くなり、電気伝導性、熱伝導性、柔軟性、機械強度に劣る傾向にある。一方、0.13以上、特に0.15以上であると、張力をかけながらの焼成が可能となり、さらに最高温度を下げ、焼成温度も短くすることができる。また、できあがったフィルム状グラファイトの配向性が良くなるため、電気伝導性、熱伝導性、柔軟性、機械強度に優れたものとなる。この理由は明かではないが、グラファイト化のためには分子が再配列する必要があるが、配向性にすぐれたポリイミドではその再配列が最小で済むために、低温グラファイト化が実現するものと推測される。
ここでいう複屈折とはフィルム面内方向の屈折率と厚み方向の屈折率の差であり、本明細書においてはフィルム面内X方向の複屈折Δnは下式で与えられる。複屈折Δnx=(面内X方向の屈折率Nx)−(厚み方向の屈折率Nz)
具体的測定方法を説明すると、フィルム試料をくさび形に切り出してナトリウム光をフィルム面内のX方向に垂直な方向から当て、偏光顕微鏡で観察すると干渉縞がみられる。この干渉縞の数をnとすると、フィルム面内X方向の複屈折Δnxは、
Δn=n×λ/d
で表される。ここで、λはナトリウム光の波長589nm、dは試料の巾(nm)である。詳しくは「新実験化学講座」第19巻(丸善(株))などに記載されている。
なお、前記した「複屈折Δnがフィルム面内のどの方向においても」とは、例えばフィルム製膜時の流れ方向を基準として、面内の0゜方向、45゜方向、90゜方向、135゜方向のどの方向においても、の意味である。
また、本発明に用いられるポリイミドフィルムは、弾性率が、350kg/mm以上であることも、よりグラファイト化が容易にできるという点から好ましい。350kg/mm以上であると張力をかけながら焼成することが可能となり、収縮による破損を防止することができ、各種特性に優れたものを得ることができる。尚、フィルムの弾性率は、ASTM D 882に準拠して測定できる。弾性率は、好ましくは400kg/mm以上、さらに好ましくは500kg/mm以上である。フィルムの弾性率が350kg/mmより小さいと、焼成中にフィルムが破損しやすくなり、電気伝導性、熱伝導性、柔軟性、機械強度に劣る場合がある。
【0017】
本発明のポリイミドフィルムは、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の有機溶剤溶液をエンドレスベルト、ステンレスドラムなどの支持体上に流延し、乾燥・イミド化させることにより製造される。
本発明に用いられるポリアミド酸の製造方法としては公知の方法を用いることができ、通常、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種を、実質的等モル量を有機溶媒中に溶解させて、得られたポリアミド酸有機溶媒溶液を、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで攪拌することによって製造される。これらのポリアミド酸溶液は通常5〜35wt%、好ましくは10〜30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得る。
【0018】
重合方法としてはあらゆる公知の方法を用いることができるが、特に好ましい重合方法として次のような方法が挙げられる。すなわち、
1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
2)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
3)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いてここに芳香族ジアミン化合物を追加添加後、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解及び/または分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
5)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
などのような方法である。
【0019】
ここで、本発明にかかるポリイミド前駆体ポリアミド酸組成物に用いられる材料について説明する。
【0020】
本発明のポリイミドに用いられる酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物を含み、これらを単独または、任意の割合の混合物が好ましく用い得る。
【0021】
本発明のポリイミドに用いられるジアミンとしては、4,4’−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン及びそれらの類似物を含み、これらを単独または、任意の割合の混合物が好ましく用い得る。
特に、線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折率を大きくできるという点から、本発明におけるポリイミドフィルムは、下記構造で表される酸二無水物を原料に用いることが好ましい。
【0022】
【化7】
Figure 2004123506
であり、Rは、
【0023】
【化8】
Figure 2004123506
からなる群から選択される2価の有機基であって、Rはそれぞれ独立して、−CH、−Cl、−Br、−F、または−CHOである。
【0024】
また、前記の酸二無水物を用いることにより比較的低吸水率のポリイミドフィルムが得られるので、グラファイト過程での水分による発泡を防止することができるという点からも好ましい。
【0025】
特に、前記酸二無水物におけるRが、
【0026】
【化9】
Figure 2004123506
に示すようなベンゼン核が結合されたものを使用すると、得られるポリイミドフィルムの配向性が高くなり、線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折率が高く、さらには吸水率が低くなるという点から好ましい。
さらに、線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折率が大きく、吸水率を小さくするためには、本発明におけるポリイミドは、下記構造で表される酸二無水物を原料に用いているとよい。
【0027】
【化10】
Figure 2004123506
特に、酸二無水物として2つ以上のエステル結合でベンゼン環が直線状に結合された構造を持つ前記酸二無水物を原料に用いて得られるポリイミドフィルムは、屈曲鎖を含むものの全体として非常に直線的なコンフォメーションをとりやすく、比較的剛直なポリイミドとなる。その結果、この原料を用いれば線膨張係数を小さくすることができ、例えば1.5×10−5cm/cm/℃以下にできる。また、弾性率を大きく、吸水率を小さくすることができ、弾性率は500kgf/mm以上、吸水率は1.5%以下にすることができる。
さらに、線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折率を大きくするためには、本発明におけるポリイミドは、p−フェニレンジアミンを原料に用いているとよい。
本発明に用いられるポリイミドフィルムにおいて、最も適当な酸二無水物はピロメリット酸二無水物及び/または
【0028】
【化11】
Figure 2004123506
で表されるp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物:TMHQと称する)であり、これら単独もしくは2者の合計モルが全酸二無水物に対して40モル%以上、更には50モル%以上、更には70モル%以上、また更には80モル%以上を用いるのが好ましい。これら酸二無水物の使用量がこの範囲を外れると、線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折率が小さくなる傾向にある。
また、本発明に用いられるポリイミドにおいて、最も適当なジアミンは4,4’−オキシジアニリンとp−フェニレンジアミンであり、これら単独もしくは2者の合計モルが全ジアミンに対して40モル%以上、更には50モル%以上、更には70モル%以上、また更には80モル%以上を用いるのが好ましい。さらに、p−フェニレンジアミンが10モル%以上、更には20モル%以上、更には30モル%以上、また更には40モル%以上を用いるのが好ましい。これらジアミンの使用量がこの範囲を外れると、線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折率が小さくなる。
【0029】
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、アミド系溶媒すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用い得る。
次に、ポリイミドの製造方法には、前駆体であるポリアミド酸を加熱でイミド転化する熱キュア法、ポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤や、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類をイミド化促進剤として用い、イミド転化するケミカルキュア法のいずれを用いても良いが、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折率が大きくなりやすく、フィルムの焼成中に張力をかけたとしても破損することなく、また早くかつ低温でグラファイト化され、品質の良いグラファイトを得ることができるという点から、ケミカルキュアの方が好ましい。特に、脱水剤とイミド化促進剤を併用することが、線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折率が大きくできる点から好ましくい。また、ケミカルキュア法は、イミド化反応がより速く進行するために加熱処理プロセスにおいてイミド化反応を短時間に完結させることができることから、生産性に優れ、工業的に有利な方法である。
具体的にケミカルキュアによるフィルムの製造は、以下のようになる。まず上記ポリアミド酸溶液に化学量論以上の脱水剤と触媒量のイミド化促進剤を加え支持板やPET等の有機フィルム、ドラム又はエンドレスベルト等の支持体上に流延又は塗布して膜状とし、有機溶媒を蒸発させることにより自己支持性を有する膜を得る。次いで、これを更に加熱して乾燥させつつイミド化させ、本発明のポリイミド重合体からなるポリイミド膜を得る。加熱の際の温度は、150℃から550℃の範囲の温度が好ましい。加熱の際の昇温速度には特に制限はないが、連続的もしくは断続的に、徐々に加熱して最高温度が上記の温度になるようにするのが好ましい。加熱時間はフィルム厚みや最高温度によって異なるが一般的には最高温度に達してから10秒から10分の範囲が好ましい。さらに、ポリイミドの製造工程中に、収縮を防止するためにフィルムを固定したり、延伸したりする工程を含むと、線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折率が大きくなりやすくなるために好ましい。
次に、ポリイミドフィルムのグラファイト化のプロセスについて述べる。
本発明では出発物質であるポリイミドフィルムを窒素ガス中で予備加熱し、炭素化を行う。予備加熱は通常1000℃程度の温度で行い、例えば、10℃/分昇温速度で予備処理を行った場合には1000℃の温度領域で30分程度の保持を行なう事が望ましい。予備処理の段階では出発高分子フィルムの配向性が失われない様に、フィルムの破壊が起きない程度の面方向の圧力を加える事が有効である。
【0030】
次に、上記の方法で炭素化されたフィルムを超高温炉内にセットし、グラファイト化を行なう。グラファイト化は不活性ガス中で行なうが不活性ガスとしてはアルゴンが最も適当であり、アルゴンに少量のヘリウムを加えるとさらに好ましい。処理温度は最低でも2400℃以上が必要で最終的には2700℃以上の温度で処理する事、より好ましくは2800℃以上が好ましい。
【0031】
処理温度は高ければ高いほど良質のグラファイトに転化出来るが、経済性の面からは出来るだけ低温で良質のグラファイトに転化できる事が好ましい。2500℃以上の超高温を作り出すには、通常グラファイトヒーターに直接電流を流し、そのジュ−ル熱を利用して加熱を行なう。このグラファイトヒーターの消耗は2700℃以上で進行し、2800℃では消耗速度は約10倍、2900℃ではさらにその約10倍になる。従って良質のグラファイトに転化出来る温度を、原材料の高分子フィルムの工夫で、例えば2800℃から2700℃に下げる事は大きな経済的な効果を生む。
【0032】
グラファイト化は予備処理で作製した炭素化フィルムをグラファイト構造に転化する事によって起きるが、その際には炭素−炭素結合の開裂・再結合化が起きなくてはならない。グラファイト化を出来る限り低温で起こすためには、その開裂・再結合が最小のエネルギーで起こる様にする必要がある。出発ポリイミドフィルムの分子配向は炭素化フィルムの炭素の配列に影響を与え、それはグラファイト化の際の、炭素−炭素結合の開裂・再結合化のエネルギーを少なくする効果を持つ。従って分子が配向するように分子設計を行い、高度な配向を生むことで低温でのグラファイト化が可能になるのである。特にこの配向はフィルムの面方向に二次元的な分子配向とすることで一層の効果を持つ。
【0033】
グラファイト化反応の特徴の第二は、炭素化フィルムが厚いと低温でグラファイト化が進行しにくいということである。従って、厚い炭素化フィルムをグラファイト化する時には表面ではグラファイト構造が形成されているのに内部ではまだグラファイト構造になっていないと言う状況が生まれる。炭素化フィルムの配向性はフィルム内部でのグラファイト化を促進し、結果的に低温での良質のグラファイトへの転化を実現する。
【0034】
炭素化フィルムの表面と内部とでほぼ同時にグラファイト化が進行すると言うことは内部から発生するガスのために表面に形成されたグラファイト構造が破壊すると言う事態を避ける事にも役立ち、より厚いフィルムのグラファイト化を可能にする。本発明のポリイミドフィルムはまさにこの様な役割を果たすのに最適な分子配向を有していると考えられる。
【0035】
以上のように、本発明のポリイミドフィルムでは従来のグラファイト化可能なポリイミドの厚さより厚いフィルムのグラファイト化が可能となった。具体的には厚さ200μmのフィルムにおいても、適当な熱処理プロセスを選択する事により、良質なフィルム状グラファイトへの転化が可能となった。
【0036】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【0037】
(実施例1)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18wt%のDMF溶液100gに無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を120℃で150秒間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムを300℃、400℃、500℃で各30秒間加熱して、厚さ25μm、50μm、75μm、100μm、200μmの5種類のポリイミドフィルム(試料A:弾性率400kg/mm、吸水率>2.0%)を製造した。
【0038】
それぞれの厚さの試料Aフィルムを、電気炉を用いて窒素ガス中、10℃/分の速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保って予備処理した。
次に、得られた炭素化フィルムを自由に伸び縮み出来る様に円筒状のグラファイトヒーターの内部にセットし、20℃/分の昇温速度で2800℃までの適当な最高温度まで昇温、最高温度で10分間保持し、その後40℃/分の速度で降温した。 処理はアルゴン雰囲気で0.5kg/cmの加圧下でおこなった。得られたグラファアイト化フィルムは柔軟でしなやかであった。
グラファイト化の進行状況は、フィルム面方向の電気伝導度を測定する事によって行った。その結果を表1に示す。この実施例のポリイミド(試料A)では2700℃ですでに良質のグラファイトへの転化が起きており、電気伝導度、熱伝導度のいずれもすぐれた特性を示した。比較例1に示した従来のカプトン型のポリイミドに比較して、厚いポリイミドフィルムでもグラファイト化が可能であり、2700℃でカプトン型ポリイミドよりも100℃も低い温度での良質グラファイトへの転化が可能である事が分った。
【0039】
電気伝導度は、4端子法で測定にて測定した。具体的には、まず約3mm×6mmサイズのフィルム状グラファイトを作成し、光学顕微鏡で試料に破れや皺が無いことを確認した後、両端銀ペーストで外部電極を取り付け、外部電極間に銀ペーストで内部電極を取り付けた。定電流源(ケースレー(株)社「プログラマブルカレントソース220」)を用いて外部電極間から1mAの定電流を印加し、内部電極間の電圧を電圧計(ケースレー(株)社「ナノボルトメーター181」)で測定した。電気伝導度は(印加電流/測定電圧)×(内部電極間距離/サンプル断面積)の式に代入することで算出した。
【0040】
熱伝導性は、レーザーフラッシュ法熱伝導率測定装置(理学電機工業(株)社製「LF/TCM−FA8510B」)を用い、測定温度20℃にて測定した。また、表面状態の均質性を目視で確認し、均一性の特に優れたものを「◎」、均質性の優れたものを「○」、少し劣るものを「△」としたところ、実施例1では全ての厚みで優れていた。
【0041】
【表1】
Figure 2004123506
(比較例1)
ピロメリット酸二無水物と4,4’−オキシジアニリンをモル比で1/1の割合で合成したポリアミド酸の18wt%のDMF溶液100gに無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を120℃で150秒間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムを300℃、400℃、500℃で各30秒間加熱して、厚さ25μm、50μm、75μm、100μmの一般式(2)で表される最も代表的なカプトン型ポリイミドフィルム(弾性率300kg/mm、吸水率>2.0%)を作製した。
このフィルムを用いて実施例1と同じ方法でグラファイト化を行った。その結果を表2に示す。その結果厚さ75μm以上のフィルムではボロボロのフィルム状グラファイトしか得られず、厚さ25μmと50μmの2種類でのみグラファイト化が可能であった。2700℃での熱処理で得られたグラファイト化フィルムの特性は実施例1で示した本発明になるポリイミド(試料A)に比較してかなり劣るものであった。また、比較例1では、表面性が「×」〜「△」で、実施例1に劣っていた。
この事から、本発明のポリイミドのグラファイト化反応における優位性が明らかとなった。
【0042】
【表2】
Figure 2004123506
(実施例2)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミンをモル比で3/2/1の割合で合成したポリアミド酸の18wt%のDMF溶液100gに無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を120℃で150秒間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムを300℃、400℃、500℃で各30秒間加熱して、厚さ25μm、50μm、75μm、100μm、200μmの5種類のポリイミドフィルム(試料B:弾性率500kg/mm、吸水率>2.0%)を製造した。
このフィルムを用いて実施例1と同じ方法でグラファイト化を行った。その結果を表3に示す。得られたグラファイト化フィルムの特性は実施例1とほぼ同じであった。また、表面性は、全ての厚みで比較例1より優れていた。
【0043】
【表3】
Figure 2004123506
(実施例3)
ピロメリット酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、パラフェニレンジアミン、4,4’−オキシジアニリンをそれぞれモル比で1/1/1/1となるようにして合成したポリアミド酸の18wt%のDMF溶液100gに無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を120℃で150秒間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムを300℃、400℃、500℃で各30秒間加熱して、厚さ25μm、50μm、75μm、100μm、200μmの5種類のポリイミドフィルム(試料C:弾性率500kg/mm、吸水率1.5%)を製造した。
このフィルムを用いて実施例1と同じ方法でグラファイト化を行った。その結果を表4に示す。得られたグラファイト化フィルムの特性は実施例1とほぼ同じであった。また、表面性は、全ての厚みで比較例1、実施例1〜2よりも優れていた。
【0044】
【表4】
Figure 2004123506
(実施例4)
ピロメリット酸二無水物、4,4’−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18wt%のDMF溶液100gにイソキノリン10gからなる硬化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を120℃で150秒間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムを300℃、400℃、500℃で加熱して、厚さ25μm、50μm、75μm、100μm、200μmの5種類のポリイミドフィルム(試料A:弾性率380kg/mm、吸水率>2.2%)を製造した。
このフィルムを用いて実施例1と同じ方法でグラファイト化を行った。その結果を表6に示す。得られたグラファイト化フィルムの特性は実施例1には若干劣るものの比較例より優れていた。また、表面性は、全ての厚みで比較例1より優れていた。
【0045】
【表5】
Figure 2004123506
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、従来の高分子グラファイト化法に比べて厚いフィルム状グラファイトの作製が可能であり、かつ同じ厚さの高分子フィルムをグラファイト化する場合には、より低温、短時間でグラファイト化が可能である

Claims (10)

  1. 100〜200℃の範囲におけるフィルム面方向の平均線膨張係数が2.5×10−5cm/cm/℃以下であるポリイミドフィルムを2400℃以上の温度で熱処理する事を特徴とするフィルム状グラファイトの製造方法。
  2. 複屈折が0.13以上であるポリイミドフィルムを2400℃以上の温度で熱処理する事を特徴とするフィルム状グラファイトの製造方法。
  3. 100〜200℃の範囲におけるフィルム面方向の平均線膨張係数が2.5×10−5cm/cm/℃以下であり、かつ、複屈折が0.13以上であるポリイミドフィルムを2400℃以上の温度で熱処理する事を特徴とするフィルム状グラファイトの製造方法。
  4. 前記ポリイミドフィルムが、下記構造で表される酸二無水物を原料に用いて得られるポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1〜3に記載のフィルム状グラファイトの製造方法。
    Figure 2004123506
    であり、式中Rは、
    Figure 2004123506
    からなる群から選択される2価の有機基であって、Rはそれぞれ独立して、−CH、−Cl、−Br、−F、または−OCHである。
  5. 前記ポリイミドフィルムが、下記構造で表される酸二無水物を原料に用いて得られるポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項4に記載のフィルム状グラファイトの製造方法。
    Figure 2004123506
  6. 前記ポリイミドフィルムが、ピロメリット酸二無水物を原料に用いて得られるポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1〜5に記載のフィルム状グラファイトの製造方法。
  7. 前記ポリイミドフィルムが、p−フェニレンジアミンを原料に用いて得られるポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1〜6に記載のフィルム状グラファイトの製造方法。
  8. 前記ポリイミドフィルムは、前駆体であるポリアミド酸を脱水剤とイミド化促進剤を用してイミド化して得られるポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1〜7に記載のフィルム状グラファイトの製造方法。
  9. フィルム状グラファイトに用いるためのポリイミドフィルムであって、100〜200℃の範囲における平均線膨張係数が2.5×10−5cm/cm/℃以下であるポリイミドフィルム。
  10. フィルム状グラファイトに用いるためのポリイミドフィルムであって複屈折が0.13以上であるポリイミドフィルム。
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