JP2004064045A - 圧電素子、圧電アクチュエータ、及び、液体噴射ヘッド - Google Patents

圧電素子、圧電アクチュエータ、及び、液体噴射ヘッド Download PDF

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Abstract

【課題】多層構造の圧電素子における変形効率を高める。
【解決手段】互いに積層された上層圧電体34と下層圧電体35とを有し、これらの上層圧電体34と下層圧電体35の間には駆動電極33を形成し、上層圧電体34の表面には共通上電極36を形成し、下層圧電体35と振動板23の間には共通下電極37を形成した多層構造の圧電素子26を用い、上層圧電体34を下層圧電体35よりも焼成時における収縮率の小さい圧電材料で作製し、焼成後における上層圧電体34の残留応力を下層圧電体35の残留応力よりも小さくした。
【選択図】   図5

Description

【特許請求の範囲】
【請求項1】互いに積層された上層圧電体と下層圧電体を有し、電場に応じて変形する圧電体層と
記上層圧電体と下層圧電体との間に第1の電極を形成し、該第1の電極とは反対側となる下層圧電体の下部に第2の電極を、第1の電極とは反対側となる上層圧電体の上部に第3の電極をそれぞれ形成した圧電素子であって、
前記上層圧電体を下層圧電体よりも焼成時における収縮率の小さい圧電材料で作製し、焼成後における上層圧電体の残留応力を下層圧電体の残留応力よりも小さくしたことを特徴とする圧電素子。
【請求項2】前記上層圧電体を、その幅方向の断面形状が下層圧電体とは反対側に凸となるように設けたことを特徴とする請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】請求項1又は請求項2に記載の圧電素子を、振動板表面に形成したことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項4】ノズル開口に連通された圧力室と、該圧力室の一部を区画する振動板と、前記圧力室とは反対側の振動板表面に設けられた圧電素子とを備え、圧電素子の変形によって圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることで、液体を液滴状にして吐出させる液体噴射ヘッドにおいて、
前記圧電素子を、請求項1又は請求項2に記載の圧電素子によって構成したことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、駆動信号の供給によって変形する圧電素子、この圧電素子を駆動源として用いた圧電アクチュエータ及び液体噴射ヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】
圧電素子は、圧電効果を示す圧電材料である、BaTiO3、PbZrO3、PbTiO3などの金属酸化物の粉末を圧縮焼成した圧電セラミックス、または高分子化合物を利用した圧電性高分子膜などから成る電気エネルギーの供給によって変形するものであり、例えば、液体噴射ヘッド、マイクロポンプ、発音体(スピーカ等)用の駆動素子として広く用いられている。ここで、液体噴射ヘッドは、ノズル開口から液滴を吐出させるものであり、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレーの製造に用いられる液晶噴射ヘッド、カラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド等がある。また、マイクロポンプは、極く微量の液体を扱うことができる超小型のポンプであり、例えば、極く少量の薬液を送出する際に用いられる。
【0003】
このような圧電素子では、高周波駆動に対する強い要請があり、素子自体の剛性を高めることが求められている。例えば、上記の記録ヘッドにおいて、圧電素子は10kHz〜30kHzもの高周波数で駆動される。このような駆動条件で耐久性を向上させるためには、素子自体の剛性を高めることが必要となる。ここで、単に素子自体の剛性を高めるだけなら圧電体層を厚くすればよいが、この場合十分な変形量を得るためには駆動電圧を高くしなければならず、高周波駆動に適さない。
【0004】
そして、必要な剛性が得られ従来と同程度の駆動電圧で駆動できる圧電素子として、多層構造の圧電素子が提案されている。例えば、特開平2−289352号公報(特許文献1)には、圧電体層を上層圧電体と下層圧電体の2層構造とし、上層圧電体と下層圧電体の境界に駆動電極(個別電極)を形成すると共に、上層圧電体の外表面と下層圧電体の外表面とにそれぞれ共通電極を形成した構造の圧電素子が開示されている。同様に、特開平10−34924号公報(特許文献2)にも多層構造の圧電素子が開示されている。
【0005】
上記多層構造の圧電素子では、上層圧電体と下層圧電体の境界に駆動電極が設けられているので、各層の圧電素子には、駆動電極から各共通電極までの間隔(即ち、各層圧電体の厚さ)と、駆動電極と各共通電極の電位差とによって定まる強さの電場が付与される。このため、共通電極と駆動電極とで単層の圧電体を挟んだ単層構造の圧電素子と比べた場合、圧電素子全体の厚さを多少厚くして剛性を高めても、従来と同じ駆動電圧で大きく変形させることができる。
【0006】
【特許文献1】
特開平2−289352号公報
【特許文献2】
特開平10−34924号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記多層構造の圧電素子を単に用いただけでは、近年の高い要請に応え得る程度の特性は得られなかった。このため、実際の製品としては、単層の圧電体を共通電極と駆動電極とで挟んだ単層構造の圧電素子を用いることを余儀なくされている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、多層構造の圧電素子における変形効率をより向上させることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1に記載のものは、互いに積層された上層圧電体と下層圧電体を有し、電場に応じて変形する圧電体層と
記上層圧電体と下層圧電体との間に第1の電極を形成し、該第1の電極とは反対側となる下層圧電体の下部に第2の電極を、第1の電極とは反対側となる上層圧電体の上部に第3の電極をそれぞれ形成した圧電素子であって、
前記上層圧電体を下層圧電体よりも焼成時における収縮率の小さい圧電材料で作製し、焼成後における上層圧電体の残留応力を下層圧電体の残留応力よりも小さくしたことを特徴とする圧電素子である。
【0010】
ここで、「上、下」とあるのは、圧電素子が設けられる支持部材(例えば振動板)を基準とした位置関係を示している。即ち、この支持部材から近い側を「下」とし、支持部材から遠い側を「上」として示している。
【0011】
請求項2に記載のものは、前記上層圧電体を、その幅方向の断面形状が下層圧電体とは反対側に凸となるように設けたことを特徴とする請求項1に記載の圧電素子である。
【0012】
請求項3に記載のものは、請求項1又は請求項2に記載の圧電素子を、振動板表面に形成したことを特徴とする圧電アクチュエータである。
【0013】
請求項4に記載のものは、ノズル開口に連通された圧力室と、該圧力室の一部を区画する振動板と、前記圧力室とは反対側の振動板表面に設けられた圧電素子とを備え、圧電素子の変形によって圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることで、液体を液滴状にして吐出させる液体噴射ヘッドにおいて、
前記圧電素子を、請求項1又は請求項2に記載の圧電素子によって構成したことを特徴とする液体噴射ヘッドである。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ここでは、圧電素子を用いた記録ヘッド(液体噴射ヘッドの一種)を例に挙げて説明する。図1に例示するように、この記録ヘッド1は、流路ユニット2と、複数のアクチュエータユニット3…と、フィルム状の配線基板4とから概略構成されている。そして、流路ユニット2の表面に各アクチュエータユニット3…を横並びに接合し、流路ユニット2とは反対側のアクチュエータユニット3の表面に配線基板4を取り付けている。
【0015】
流路ユニット2は、図2に示すように、オリフィスとしてのインク供給口5及びノズル連通口6の一部となる通孔を開設した供給口形成基板7と、共通インク室8となる通孔及びノズル連通口6の一部となる通孔を開設したインク室形成基板9と、ノズル開口10…を副走査方向(即ち、記録ヘッド1の移動方向である主走査方向に対して直交する方向)に沿って開設したノズルプレート11から構成されている。これらの供給口形成基板7、インク室形成基板9、及び、ノズルプレート11は、例えば、ステンレス製の板材をプレス加工することで作製されている。
【0016】
そして、流路ユニット2は、インク室形成基板9の一方の表面(図中下側)にノズルプレート11を、他方の表面(同上側)に供給口形成基板7をそれぞれ配置し、これらの供給口形成基板7、インク室形成基板9、及び、ノズルプレート11を接合することで作製される。例えば、シート状の接着剤によって各部材7,9,11を接着することで作製される。
【0017】
上記のノズル開口10は、図3に示すように、所定ピッチで複数個列状に開設される。そして、列設された複数のノズル開口10…によってノズル列12が構成される。例えば、92個のノズル開口10…で1つのノズル列12が構成される。また、このノズル列12は、1つのアクチュエータユニット3に対して2列形成される。そして、本実施形態の記録ヘッド1は3つのアクチュエータユニット3…を備えているため、1つの流路ユニット2に対して合計6列のノズル列12…が横並びに形成される。
【0018】
アクチュエータユニット3は、ヘッドチップとも呼ばれる部材である。このアクチュエータユニット3は、圧力室21となる通孔を開設した圧力室形成基板22と、圧力室21の一部を区画する振動板23と、供給側連通口24となる通孔及びノズル連通口6の一部となる通孔を開設した蓋部材25と、駆動源としての圧電素子26とによって構成される。これら各部材22,23,25の板厚に関し、圧力室形成基板22、及び、蓋部材25は、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上である。また、振動板23は、好ましくは50μm以下、より好ましくは3〜12μm程度である。本実施形態の振動板23は、約6μmの厚さに作製されている。
【0019】
なお、このアクチュエータユニット3において、振動板23と圧電素子26が本発明の圧電アクチュエータを構成する。また、振動板23は、圧電素子26が設けられる支持部材の一種である。
【0020】
このアクチュエータユニット3は、複数ユニット分の構成要素(圧力室21…や圧電素子26…等)が形成されたセラミックスシートから作製される。例えば、アルミナや酸化ジルコニウムなどのセラミックス原料、バインダー、及び、液媒によってセラミックスのスラリーを調整し、ドクターブレード装置やリバースロールコーター装置等の一般的な装置を用いて、このスラリーをグリーンシート(未焼成のシート材)に成形する。そして、このグリーンシートに対して切削や打ち抜き等の加工を施して必要な通孔等を形成するなどして、圧力室形成基板22、振動板23、及び、蓋部材25の各シート状前駆体を作製する。
【0021】
そして、圧力室形成基板22となる前駆体の一方の表面に蓋部材25の前駆体を、他方の表面に振動板23の前駆体をそれぞれ配置して焼成することにより、各前駆体は一体化されて1枚のシート状部材となる。この焼成後のシート状部材に対して圧電素子26等を形成することでセラミックスシートが作製される。この場合において、各シート状前駆体や圧電素子26は焼成により一体化されるので、特別な接着処理が不要である。また、各部材の接合面において高いシール性を得ることもできる。
【0022】
セラミックスシートを作製したならば、このセラミックスシートを切断することにより、複数のアクチュエータユニット3…が得られる。
【0023】
上記の圧力室21は、ノズル列12とは直交する方向に細長い空部であり、図3に示すように、ノズル開口10に対応する複数形成され、ノズル列方向に並べられた状態で設けられている。そして、各圧力室21…の一端は、ノズル連通口6を通じて対応するノズル開口10に連通する。また、ノズル連通口6とは反対側の圧力室21の他端は、供給側連通口24及びインク供給口5を通じて共通インク室8に連通している。さらに、この圧力室21の一部は、振動板23によって区画されている。
【0024】
上記の圧電素子26は、所謂撓み振動モードの圧電素子であり、圧力室21とは反対側の振動板表面に圧力室21毎に形成されている。この圧電素子26の幅W(図5参照)は圧力室21の幅(内寸法)と略等しく、長さは圧力室21の長さよりも多少長い。さらに、この圧電素子26は、その両端部が圧力室21の長手方向両端部を越えるように配設されている。
【0025】
この圧電素子26は、例えば、図4や図5に示すように、圧電体層31と共通枝電極32と駆動電極33等によって構成されており、駆動電極33と共通枝電極32によって圧電体層31を挟んでいる。なお、この圧電素子26の構造については、後で詳しく説明する。
【0026】
そして、駆動電極33には駆動信号の供給源(図示せず)が電気的に接続され、共通枝電極32は例えば接地電位に調整される。駆動電極33に駆動信号が供給されると、駆動電極33と共通枝電極32との間には電位差に応じた強さの電場が発生される。この電場は圧電体層31に付与され、圧電体層31は電場の強さに応じて変形する。
【0027】
即ち、駆動電極33の電位を高くする程、圧電体層31は電場と直交する方向に収縮し、圧力室21の容積を少なくするように振動板23を変形させる(例えば図6の状態)。一方、駆動電極33の電位を低くする程、圧電体層31は電界と直交する方向に伸長し、圧力室21の容積を増やすように振動板23を変形させる。
【0028】
そして、このアクチュエータユニット3と上記の流路ユニット2とは、互いに接合される。例えば、供給口形成基板7と蓋部材25との間にシート状接着剤を介在させ、この状態でアクチュエータユニット3を流路ユニット2側に加圧することで接着される。
【0029】
上記構成の記録ヘッド1は、共通インク室8からインク供給口5、供給側連通口24、圧力室21、及び、ノズル連通口6を通じてノズル開口10に至る一連のインク流路がノズル開口10毎に形成されている。使用時においてこのインク流路内はインクで満たされている。そして、圧電素子26を変形させることで対応する圧力室21が収縮或いは膨張し、圧力室21内のインクに圧力変動が生じる。このインク圧力を制御することで、ノズル開口10からインク滴を吐出させることができる。例えば、定常容積の圧力室21を一旦膨張させた後に急激に収縮させると、圧力室21の膨張に伴ってインクが充填され、その後の急激な収縮によって圧力室21内のインクが加圧されてインク滴が吐出される。
【0030】
ここで、高速記録のためには、より多くのインク滴を短時間で吐出させる必要がある。この要求に応えるためには、圧電素子26の剛性と駆動電圧とを考慮する必要がある。即ち、従来よりも高い周波数での駆動に耐えるため、剛性を従来よりも高める必要がある。また、高周波駆動を実現するにあたっては駆動電圧を高くすることは好ましくない。
【0031】
そこで、本実施形態では、多層構造の圧電素子26を用いている。以下、この点について説明する。
【0032】
まず、図4及び図5を参照して、圧電素子26の構造について詳細に説明する。上記の圧電体層31は、圧力室長手方向に細長いブロック状に成形され、互いに積層された上層圧電体(外側圧電体)34及び下層圧電体(内側圧電体)35から構成される。また、共通枝電極32は、共通上電極(共通外電極,本発明の第3の電極)36及び共通下電極(共通内電極,本発明の第2の電極)37から構成される。そして、これらの電極36,37と駆動電極33とが電極層を構成する。
【0033】
なお、ここでいう「上(外)」或いは「下(内)」とは、振動板23(支持部材の一種)を基準とした位置関係を示している。即ち、「上(外)」とあるのは振動板23から遠い側を示し、「下(内)」とあるのは振動板23に近い側を示している。
【0034】
上記の駆動電極33は個別電極(本発明の第1の電極)として機能し、上層圧電体34と下層圧電体35の境界に形成される。また、共通上電極36び共通下電極37は、共通幹電極38と共に共通電極を構成する。即ち、この共通電極は、共通幹電極38から複数の共通枝電極32(共通上電極36,共通下電極37)…が延出形成された櫛歯状に形成されている。
【0035】
上記の共通下電極37は駆動電極33とは反対側の下層圧電体35の下部に形成され、共通上電極36は駆動電極33とは反対側の上層圧電体34の上部に形成される。即ち、この圧電素子26は、振動板側から、共通下電極37、下層圧電体35、駆動電極33、上層圧電体34、共通上電極36の順で積層された多層構造である。そして、この圧電素子26では、下層圧電体35により共通下電極37をその全幅を越えて覆うと共に、上層圧電体34により駆動電極33をその全幅を越えて覆っている。従って、駆動電極33は、その幅方向において両圧電体層34,35内に埋設された状態となる。
【0036】
本実施形態における圧電体層31の厚さは、幅方向の中央部分にて、上層圧電体34と下層圧電体35の2層を合計して約17μmである。そして、共通下電極37の厚さが約3μmであり、共通上電極の厚さが0.3μm程度であるため、共通枝電極32を含めた圧電素子26の全体の厚さは約20μmである。
【0037】
なお、従来の単層構造の圧電素子26は、素子全体の厚さが約15μmである。従って、圧電素子26の厚さが増したことから、その分だけ圧力室21における変形部分(即ち、振動板23及び圧電素子26の全体)の剛性が増している。
【0038】
また、上記したように、圧電素子26の長さは圧力室21の長手方向の長さよりも長く、その長手方向の両端部は同じ側に位置する圧力室21の端を越えて形成されている。そして、圧電素子26の幅Wは、圧力室21の幅と同寸法に揃えられている。従って、各圧電素子26…は、圧力室21の長手方向を覆う状態で形成されていると表現することもできる。
【0039】
上記の共通上電極36及び共通下電極37は、駆動信号に拘わらず一定の電位、例えば接地電位に調整される。上記の駆動電極33は、供給された駆動信号に応じて電位を変化させる。従って、駆動信号の供給によって、駆動電極33と共通上電極36との間、及び、駆動電極33と共通下電極37との間には、それぞれ向きが反対の電場が生じる。
【0040】
これらの各電極33,36,37を構成する材料としては、例えば、金属単体、合金、電気絶縁性セラミックスと金属との混合物等の各種導体が選択されるが、焼成温度において変質等の不具合が生じないことが要求される。本実施形態では、共通上電極36に金を用い、共通下電極37及び駆動電極33に白金を用いている。
【0041】
上記の上層圧電体34と下層圧電体35は共に圧電材料によって作製されている。この圧電材料としては、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)を主成分とするものなど、種々の材料を用いることができる。そして、上層圧電体34と下層圧電体35とは反対方向に分極されている。このため、駆動信号印加時の伸縮方向が上層圧電体34と下層圧電体35とで揃い、支障なく変形することができる。即ち、上層圧電体34及び下層圧電体35は、駆動電極33の電位を高くする程に圧力室21の容積を少なくするように振動板23を変形させ、駆動電極33の電位を低くする程に圧力室21の容積を増やすように振動板23を変形させる。
【0042】
そして、本実施形態では、圧電素子26を効率よく変形させるため、即ち、印加電圧に対する変形量を増大させるために、上層圧電体34を下層圧電体35よりも焼成時における収縮率の小さい圧電材料で作製し、焼成後における上層圧電体34の残留応力を下層圧電体35の残留応力よりも小さくしている。
【0043】
このように焼成後における上層圧電体34の残留応力を下層圧電体35の残留応力よりも小さくすると、駆動信号の供給時において上層圧電体34を下層圧電体35よりも変形させ易くすることができる。即ち、上層圧電体34の方を下層圧電体35よりも大きく撓ませることができる。そして、上層圧電体34が下層圧電体35よりも相対的に大きく撓むと、上層圧電体34の方が振動板23から離隔しているため、その変形量が増幅されて振動板23に作用し、振動板23の変形量を大きくすることができる。
【0044】
例えば、上層圧電体34と下層圧電体35の積層高さ(要するに圧電素子26の高さ)、幅、及び、長さが同じであって、上層圧電体34の方が下層圧電体35よりも厚い構造の圧電素子と比較すると、本実施形態の圧電素子26は、相対的に変形量が大きい上層圧電体34が振動板23から離れて位置しているのに対し、比較例の圧電素子では相対的に変形量が大きい下層圧電体35が振動板23の間近に位置することになる。そして、変形量が大きい圧電体層が振動板23から離れている方が振動板23を大きく変形できるので、本実施形態の圧電素子26の方が振動板23をより大きく変形させることができる。なお、圧電素子26の高さ、幅、長さが同じであることから、静電容量については、本実施形態の圧電素子26と比較例の圧電素子で同じである。
【0045】
そして、振動板23を大きく変形できることから、図6に示す収縮時において、圧力室21の容積をより小さくできる。従って、単に多層構造の圧電素子26を用いた場合よりも、圧力室21の膨張時と収縮時の容積差を広げることができ、インク滴の吐出量を増やすことができる。
【0046】
ここで、熱収縮率の相違する材料としては、種々のものが考えられる。例えば、圧電材料の一種であるチタン酸ジルコン酸鉛[Pb(Zr・Ti1−X)O]では、ZrとTiの添加比率を変えることで収縮率を変えることができる。
一例を挙げると、ZrとTiを22:78の比率で添加したものと、40:60の比率で添加したものとでは、22:78の比率の方が収縮率が大きい。
【0047】
また、この収縮率は、焼成温度によっても相違する。従って、上記の添加比率と焼成温度とを調整し、所望の収縮率としたチタン酸ジルコン酸鉛を上層圧電体34に用いることで、その残留応力を制御することができる。
【0048】
また、この熱収縮率については圧電材料毎に相違する。このため、所望の収縮率が得られる圧電材料を上層圧電体34と下層圧電体35とに用いることでも、同様の効果が得られる。上記のチタン酸ジルコン酸鉛以外の圧電材料としては、例えば、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、チタン酸鉛等があるが、これらの圧電材料の中から収縮率に基づき2種類を選択し、選択した圧電材料によって各層圧電体34,35を作製してもよい。
【0049】
さらに、圧電材料が同じであっても、その熱収縮率はスラリー中のバインダーの含有割合によって相違する。即ち、このバインダーは、焼成によって圧電材料から除去されてしまうので、含有割合が多い程に熱収縮率が大きくなる。従って、スラリー中のバインダーの含有割合に関し、上層圧電体34の方を下層圧電体35よりも少なくすることにより、上層圧電体34の熱収縮率を下層圧電体35の熱収縮率よりも小さくすることができる。その結果、焼成後における残留応力に関し、上層圧電体34の方を下層圧電体35よりも小さくすることができる。
【0050】
また、同様の観点から、上層圧電体34を下層圧電体35よりも圧電定数が大きい圧電材料で構成してもよい。このように構成した場合、各層圧電体の厚さが同じ(つまり、付与される電場が同じ強さ)であっても、上層圧電体34の変形量を下層圧電体35の変形量よりも大きくすることができ、同様の作用効果を得ることができる。即ち、上層圧電体34の方が振動板23から離隔しているため、その変形量が増幅されて振動板23に作用し、振動板23の変形量を大きくすることができる。
【0051】
例えば、上記のチタン酸ジルコン酸鉛[Pb(Zr・Ti1−X)O]においては、ZrとTiの添加比率を変えることにより、圧電定数を変えることができる。一例を挙げると、ZrとTiを52:48の比率で添加した場合には、圧電定数(d31)は93.5×10−12となる。そして、ZrとTiを60:40の比率で添加した場合には、圧電定数は44.2×10−12となる。なお、この圧電定数は、温度や湿度等の焼成環境の違いによっても変化する。
【0052】
従って、所望の圧電定数に調整した2種類のチタン酸ジルコン酸鉛を、上層圧電体34と下層圧電体35とに用いることで、上層圧電体34の変形量を下層圧電体35の変形量よりも大きくすることができる。
【0053】
また、圧電定数は、圧電材料の種類によっても相違する。このため、各層圧電体34,35を異なる圧電材料で構成してもよい。
【0054】
さらに、本実施形態では圧電素子26の上層圧電体34に関し、その幅方向の断面形状が下層圧電体35とは反対側に凸となるように設けている。以下、この点について説明する。
【0055】
図5は圧電素子26を電極幅方向(短尺方向)に切断した図である。この圧電素子26において、駆動電極33の幅方向両端のそれぞれから上下方向に設定される一対の第1仮想線L1,L1の範囲内の部分を幅中央領域WCとする。また、この第1仮想線L1よりも幅方向外側の部分を幅端部領域WL,WRとする。即ち、幅中央領域WCよりも左側の部分を左幅端部領域WLとし、幅中央領域WCよりも右側の部分を右幅端部領域WRとする。
【0056】
この図5に示すように、下層圧電体35は共通下電極37をその全幅を越えて覆うように設けられ、上層圧電体34は駆動電極33をその全幅を越えて覆うように設けられている。このため、駆動電極33は、その大部分が両圧電体層34,35内に埋設された状態となる。また、駆動電極33と共通下電極37との間には電気絶縁性を有する下層圧電体35が存在するので、駆動電極33と共通下電極37との短絡を確実に防止することもできる。
【0057】
そして、上層圧電体34に関し、幅端部領域WL,WR内の厚さを幅方向外側に向かう程に漸次薄くし、当該領域WL,WR内の厚さを幅中央領域WC内の厚さよりも薄く構成している。これにより、この上層圧電体34を下層圧電体35とは反対側に凸となるように設けている。
【0058】
このように構成することにより、幅端部領域WL,WRにおける各圧電体層34,35の応力が幅中央領域WCにおける各圧電体層34,35の応力よりも小さくなる。このため、幅端部領域WL,WRの部分が幅中央領域WCの部分よりも撓み易くなり、圧電素子26を効率よく変形させることができる。即ち、圧力室21の膨張状態(図5の状態)から収縮状態(図6の状態)へ移行する際に必要となるエネルギーの量を少なくすることができる。
【0059】
そして、上層圧電体34に関し、その表面は段差がなく滑らかであるため、共通上電極36を欠損させることなく一様に形成できる。これにより、共通上電極36の断線や上層圧電体34の部分的な非変形等の不具合も防止できる。その結果、圧電素子26の信頼性を高めることもできる。
【0060】
なお、上層圧電体34と下層圧電体35の収縮率に差を与えるにあたり、上記実施形態では、元素(Zr,Ti)の添加比率、圧電材料の組み合わせ、バインダーの含有割合を変えた場合について説明したが、この場合に限定されるものではない。例えば、圧電材料の粒径や見掛け密度等を上層圧電体34と下層圧電体35で変えることによっても収縮率に差を与えることができる。
【0061】
また、以上は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド1を例に挙げて説明したが、本発明は他の用途にも適用できる。例えば、マイクロポンプや発音体にも適用できる。さらに、各製品の一部を構成する部品、例えば、圧電素子26を振動板23上に設けた圧電アクチュエータにも適用できる。
【0062】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば以下の効果を奏する。
【0063】
即ち、上層圧電体を、下層圧電体よりも焼成時における収縮率の小さい圧電材料で構成したので、上層圧電体内の残留応力を少なくすることができ、電場に対する変形量を大きくすることができる。従って、効率よく変形させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】記録ヘッドの構成を説明する分解斜視図である。
【図2】アクチュエータユニット及び流路ユニットを説明する断面図である。
【図3】ノズルプレートを説明する部分拡大図である。
【図4】(a)は圧電素子の平面図、(b)は長手方向に切断した圧電素子の断面図である。
【図5】圧電素子を幅方向に切断した状態を模式化した図である。
【図6】変形状態(圧力室の収縮状態)を模式化した図である。
【符号の説明】
1 記録ヘッド
2 流路ユニット
3 アクチュエータユニット
4 配線基板
5 インク供給口
6 ノズル連通口
7 供給口形成基板
8 共通インク室
9 インク室形成基板
10 ノズル開口
11 ノズルプレート
12 ノズル列
21 圧力室
22 圧力室形成基板
23 振動板
24 供給側連通口
25 蓋部材
26 圧電素子
31 圧電体層
32 共通枝電極
33 駆動電極
34 上層圧電体
35 下層圧電体
36 共通上電極
37 共通下電極
38 共通幹電極

Claims (4)

  1. 互いに積層された上層圧電体と下層圧電体を有し、電場に応じて変形する圧電体層と、
    互いに導通された共通上電極及び共通下電極と、駆動信号の供給源に導通される駆動電極を有し、前記圧電体層に付与される電場を発生する電極層とを備え、
    前記上層圧電体と下層圧電体との間に駆動電極を形成し、駆動電極とは反対側となる下層圧電体の下部に共通下電極を、駆動電極とは反対側となる上層圧電体の上部に共通上電極をそれぞれ形成した圧電素子であって、
    前記上層圧電体を下層圧電体よりも焼成時における収縮率の小さい圧電材料で作製し、焼成後における上層圧電体の残留応力を下層圧電体の残留応力よりも小さくしたことを特徴とする圧電素子。
  2. 前記上層圧電体を、その幅方向の断面形状が下層圧電体とは反対側に凸となるように設けたことを特徴とする請求項1に記載の圧電素子。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の圧電素子を、振動板表面に形成したことを特徴とする圧電アクチュエータ。
  4. ノズル開口に連通された圧力室と、該圧力室の一部を区画する振動板と、前記圧力室とは反対側の振動板表面に設けられた圧電素子とを備え、圧電素子の変形によって圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることで、液体を液滴状にして吐出させる液体噴射ヘッドにおいて、
    前記圧電素子を、請求項1又は請求項2に記載の圧電素子によって構成したことを特徴とする液体噴射ヘッド。
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