WO2012043323A1

WO2012043323A1 - 印刷用塗工紙および印刷画像を形成する方法

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Publication number: WO2012043323A1
Application number: PCT/JP2011/071448
Authority: WO
Inventors: 応昇名越; 和俊飯田; 出井　晃治; 了兼子
Original assignee: 三菱製紙株式会社
Priority date: 2010-09-29
Filing date: 2011-09-21
Publication date: 2012-04-05
Also published as: DE112011103314T5; CN103119219A; DE112011103316T5; US9174479B2; US20130187977A1; CN103119219B; WO2012043322A1; US8927110B2; CN103119218A; US20130176371A1

Abstract

　本発明は、原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、原紙が、炭酸カルシウムを含有し、塗工層が、顔料として重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料１００質量部に対して５０質量部以上含有し、原紙及び／又は塗工層が、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有し、該カルシウム化合物由来のカルシウム含有量は、原紙及び／又は塗工層１ｍ^２あたりカルシウムイオン換算で３ｍｍｏｌ以上６０ｍｍｏｌ以下である、印刷用塗工紙を提供する。

Description

印刷用塗工紙および印刷画像を形成する方法

　本発明は、印刷用塗工紙に関する。本発明はまた、印刷用塗工紙を用いた印刷画像を形成する方法に関する。

　インクジェット記録方式の技術が急速に進歩し、インクジェット記録方式を利用するプリンター（以下、「インクジェットプリンター」と記載する。）によって、紙やフィルムなど記録用の媒体にカラーでかつ高画質に画像を形成できるようになった。このようなインクジェットプリンターには、家庭用の小型プリンターから印刷業者などが使用する大判プリンターがある。基本的には１枚単位で印刷を実行するために、主に少部数の印刷現場でこれらプリンターは利用されていた。印刷業者などが使用する大判プリンターの印刷速度は、印刷サイズや画質に依存するが数ｍ／分以下である。

　近年、さらなる技術の進歩により、インクジェット記録方式を利用する産業印刷（以下、「インクジェット印刷」と記載する。）の応用が始まっている。産業印刷分野は印刷部数が多く、生産性および印刷コストの兼ね合いから印刷速度が重視される。インクを吐出するヘッドが用紙の搬送方向に直行する幅方向全体に固定されたラインヘッドを備える印刷機（以下、「インクジェット印刷機」と記載する。）によって、インクジェット印刷に適した印刷速度は達成される（例えば、特許文献１参照）。また最近では、印刷速度が１５ｍ／分以上、より高速では６０ｍ／分以上、さらに高速では１２０ｍ／分を超える顔料インクを搭載する輪転方式のインクジェット印刷機も開発されている。

　可変情報を取り扱うことができるため、インクジェット印刷機は特にオンデマンド印刷に応用される。固定情報をオフセット印刷機で印刷し、可変情報をインクジェット印刷機で印刷する形態が産業印刷では好ましい。

　しかしながら、従来のオフセット印刷用塗工紙をインクジェット印刷機に採用すると、インクジェットインクの定着性や吸収性が悪いために上記の印刷速度では印刷後の取り扱いで印刷画像が擦れて汚れ、またインクの吸収が不十分であるために上記の印刷速度では印刷ムラや印刷滲み、酷い場合はインク流れ（吸収されなかったインクが塗工紙面上を流れる現象）が発生するなど問題があった。

　インクジェット印刷におけるインク定着性やインク吸収性を改良するために単純に塗工層のバインダーを減量した場合あるいは塗工層に多孔性顔料を多用した場合では、塗工層の塗層強度が失われてブランケットパイリングなどが発生し、印刷用塗工紙のオフセット印刷適性は損なわれる。

　耐候性の観点から、インクジェットインクに顔料インクを採用するインクジェット印刷機が増加する傾向である。顔料インクの問題点としては、印刷部分の印刷ムラが挙げられる。印刷ムラとは、印刷速度が速い時に印刷用塗工紙のインク吸収性にバラツキが発生し、インクが乾燥した後の印刷画像において定着したインクの濃度が不均一となる現象である。インクジェット印刷に用いるインクは色材の濃度が低く、オフセット印刷に比べて印刷ムラが顕著となり易い。印刷ムラが存在することによって印刷物の商品価値は低下する。

　原紙上にＢＥＴ比表面積の高い多孔性顔料を塗布したインクジェット記録方式の専用紙（例えば、特許文献２および特許文献３参照）は、インクジェット印刷におけるインク定着性、インク吸収性に優れる。しかしながらこれらインクジェット記録方式の専用紙は、塗工層の強度が不足し、オフセット印刷適性に劣る。

　また、印字画像の印字ムラを抑制したインクジェット記録方式の専用紙として、支持体として水溶性金属塩を含有する紙を用い、支持体上のインク受理層がたんぱく質を含有するインクジェット記録シート（例えば、特許文献４参照）、支持体上にインク受理層と光沢発現層を有し、光沢発現層が周期表２Ａ族元素の塩化物を５～３０重量％含有するインクジェット記録用紙（例えば、特許文献５参照）、基材上にインク受理層と光沢層を有し、さらに多価金属塩と浸透剤を含有するオーバーコート層を設けたインクジェット記録用紙（例えば、特許文献６参照）がある。しかしながら、これらのインクジェット記録方式の専用紙はインクジェットプリンター用であり、オフセット印刷適性に劣り、インクジェット印刷機においては十分に満足できるレベルに印刷ムラを抑制するものではない。一方、カチオン性ポリマーが含有された基紙上に、無機顔料とバインダーを主体とした塗工層を有するインクジェット記録紙（例えば、特許文献７参照）がある。オフセット印刷適性は良好であるが、インクジェット印刷機の印刷ムラの点において、必ずしも優れているとはいえない。

特開２００９－２３２９２号公報特開平３－４３２９０号公報特開平５－２５４２３９号公報特開２００４－２７６４２０号公報特開２００５－１６１６０１号公報特開２００８－１１４５４３号公報特開２０１０－１０００３９号公報

　オフセット印刷適性を損なうことなく、インクジェット印刷適性を満足する印刷用塗工紙は得られていない。特にオフセット印刷適性を損なうことなく、顔料インクを採用するインクジェット印刷機に適する印刷用塗工紙は得られていない。

　すなわち、本発明の第一目的は、印刷用塗工紙において次の課題を満足させることである。（１）オフセット印刷適性が良いこと。（２）インクジェット印刷において十分なインク定着性およびインク吸収性を有すること。（３）顔料インクを採用するインクジェット印刷機において印刷部分の印刷ムラが十分に抑制されていること。

　また本発明の第二目的は、顔料インクを用いたインクジェット印刷を印刷速度１５ｍ／分以上で行う場合においても印刷ムラの無い印刷画像を形成する方法を提供することである。また、オフセット印刷機および／またはインクジェット印刷機を用いて優れた印刷画像を形成する方法を提供することである。

　本発明によれば、原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーとを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、原紙が、炭酸カルシウムを含有し、塗工層が、顔料として重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料１００質量部に対して５０質量部以上含有し、原紙及び／又は塗工層が、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有し、該カルシウム化合物由来のカルシウム含有量は、原紙及び／又は塗工層１ｍ^２あたりカルシウムイオン換算で３ｍｍｏｌ以上６０ｍｍｏｌ以下である、印刷用塗工紙が提供される。かかる印刷用塗工紙によれば、上記第一目的が解決され、オフセット印刷適性が良好であり、且つインクジェット印刷において良好なインク定着性とインク吸収性を有する印刷用塗工紙を得ることができる。特に、顔料インクを搭載するインクジェット印刷機においても印刷部分の印刷ムラが抑えられる印刷用塗工紙を得ることができる。これにより、本発明の印刷用塗工紙は、固定情報をオフセット印刷機で印刷し、可変情報をインクジェット印刷機で印刷する産業印刷に好ましく使用できる。

　本発明の第一の態様は、原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、原紙が、炭酸カルシウムを含有し、塗工層が、顔料として重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料１００質量部に対して５０質量部以上含有し、原紙が、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有し、該カルシウム化合物由来のカルシウム含有量は、原紙１ｍ^２あたりカルシウムイオン換算で３ｍｍｏｌ以上６０ｍｍｏｌ以下である、印刷用塗工紙である。かかる印刷用塗工紙によれば、上記第一目的が解決され、オフセット印刷適性が良好であり、且つインクジェット印刷において良好なインク定着性とインク吸収性を有する印刷用塗工紙を得ることができる。特に、顔料インクを搭載するインクジェット印刷機においても印刷部分の印刷ムラが抑えられる印刷用塗工紙を得ることができる。これにより、本発明の印刷用塗工紙は、固定情報をオフセット印刷機で印刷し、可変情報をインクジェット印刷機で印刷する産業印刷に好ましく使用できる。

　また本発明の第二の態様は、原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、原紙が、炭酸カルシウムを含有し、塗工層が、顔料として重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料１００質量部に対して５０質量部以上含有し、塗工層が、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有し、該カルシウム化合物由来のカルシウム含有量は、塗工層１ｍ^２あたりカルシウムイオン換算で３ｍｍｏｌ以上６０ｍｍｏｌ以下である、印刷用塗工紙である。かかる印刷用塗工紙によれば、上記第一目的が解決され、オフセット印刷適性が良好であり、且つインクジェット印刷において良好なインク定着性とインク吸収性を有する印刷用塗工紙を得ることができる。特に、顔料インクを搭載するインクジェット印刷機においても印刷部分の印刷ムラが抑えられる印刷用塗工紙を得ることができる。これにより、本発明の印刷用塗工紙は、固定情報をオフセット印刷機で印刷し、可変情報をインクジェット印刷機で印刷する産業印刷に好ましく使用できる。

　また、本発明によれば、第三の態様として、インクジェット印刷機での印刷方法であって、上記印刷用塗工紙を用いて、印刷用塗工紙の塗工層上に顔料インクを用いたインクジェット印刷を印刷速度１５ｍ／分以上で行って印刷画像を形成する方法が提供される。かかる方法によれば、上記第二目的を解決することができ、顔料インクを用いたインクジェット印刷を印刷速度１５ｍ／分以上で行う場合においても印刷ムラの無い印刷画像を形成することができる。

　また、本発明によれば、第四の態様として、上記印刷用塗工紙を用いて、印刷用塗工紙の塗工層上にオフセット印刷機および／またはインクジェット印刷機を適用することを含む、印刷画像を形成する方法が提供される。かかる方法によれば、上記第三目的を解決することができ、オフセット印刷機および／またはインクジェット印刷機を用いて優れた印刷画像を形成することができる。

　本明細書中で使用される場合、「インクジェット印刷機」とは、インクジェット記録方式を利用する産業印刷に用いられる産業用の印刷機をいう。例えば、印刷速度が１５ｍ／分以上、より高速では６０ｍ／分以上、さらに高速では１２０ｍ／分を超えるインクジェット印刷機や、顔料インクを搭載する輪転方式のインクジェット印刷機が挙げられる。本明細書中で使用される場合、「インクジェット印刷機」は、家庭用の小型プリンターや印刷業者などが使用する大判プリンターを含む、印刷速度が数ｍ／分のインクジェット記録方式を利用するプリンター（以下、「インクジェットプリンター」と記載する。）と区別される。本明細書中で使用される場合、「インクジェット印刷」とは、インクジェット記録方式を利用する産業印刷であり、インクジェット印刷機を用いて印刷することをいう。

　オフセット印刷とは、インクを一度ブランケットに移してから被印刷体に再び転移する間接印刷方式である。オフセット印刷適性が良好とは、オフセット印刷後にブランケットパイリングなどが発生していないことをいう。

　印刷ムラとは、印刷速度が速い時に印刷用塗工紙のインク吸収性にバラツキが発生し、インクが乾燥した後の印刷画像において定着したインクの濃度が不均一となる現象である。

　以下、本発明の印刷用塗工紙について詳細に説明する。

　本発明の印刷用塗工紙は、原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙であり、原紙は、炭酸カルシウムを含有する。
　本発明の印刷用塗工紙に用いられる原紙としては、ＬＢＫＰ（Leaf Bleached Kraft Pulp）、ＮＢＫＰ（Needle Bleached Kraft Pulp）などの化学パルプ、ＧＰ（Groundwood Pulp）、ＰＧＷ（Pressure GroundWood pulp）、ＲＭＰ（Refiner Mechanical Pulp）、ＴＭＰ（ThermoMechanical Pulp）、ＣＴＭＰ（ChemiThermoMechanical Pulp）、ＣＭＰ（ChemiMechanical Pulp）、ＣＧＰ（Chemi-Groundwood Pulp）などの機械パルプ、およびＤＩＰ（DeInked Pulp）などの古紙パルプに、炭酸カルシウムを必須の填料として有し、サイズ剤、定着剤、歩留まり剤、カチオン化性化合物、紙力剤など各種添加剤を必要に応じて配合した紙料から、酸性、中性、アルカリ性などで抄造した紙を使用できる。

　炭酸カルシウムは、重質炭酸カルシウムと軽質炭酸カルシウムに分類することができる。本発明において、原紙に含まれる炭酸カルシウムは、重質炭酸カルシウムまたは軽質炭酸カルシウムのいずれでもよく、併用してもよい。原紙に炭酸カルシウムが含まれることにより、良好なオフセット印刷適性が得られ、また印刷ムラの抑制も良好となる。なお、填料としてタルク、クレー、カオリンなどの各種填料を併用することもできる。

　本発明の第一の態様において、原紙は、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物（以下、単にカルシウム化合物ともいう）を含有し、該カルシウム化合物由来のカルシウム含有量は、原紙１ｍ^２あたりカルシウムイオン換算で３ｍｍｏｌ以上６０ｍｍｏｌ以下である。

　本明細書中で使用される場合、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物とは、水溶性のカルシウム化合物であり、好ましくは２０℃の水に１質量％以上溶解することができる水溶性のカルシウム化合物である。水溶性のカルシウム化合物の例としては、乳酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム等の塩類化合物、またはエチレンジアミン四酢酸カルシウム等の錯体化合物を挙げることができる。これらは単独および２種以上を併用してもよい。本発明の好ましい態様において、カルシウム化合物は、塩化カルシウムである。塩化カルシウムの高い吸湿性がインクジェット印刷における印刷ムラの抑制に特に優れた効果をもたらすと考えられる。

　特開２００７－２６８９２６号公報に記載するが如くの水溶性多価金属塩は、インクジェット記録方式の専用紙の塗工層に含有されることが知られている。インクジェット印刷機のインクは色材の濃度が低く、定着するまでに色材は移動し易い。また一般にインクジェットプリンターのインクはアニオン性である。塗工層が多価金属塩を含有することにより、多価金属塩から発生する多価金属の陽イオンによってインクを定着させることができる。一方では、水溶性多価金属塩のなかでも、水溶性のカルシウム化合物は、水溶液中ではカルシウムイオンを生成し、カルシウムイオンは容易に水酸化カルシウムや炭酸カルシウムの水難溶性塩を生成することから、その使用が困難である。しかしながら、本発明者らは、原紙および塗工層に炭酸カルシウムを含有する印刷用塗工紙が、さらに原紙にカルシウム化合物を有することで、インクジェット印刷における印刷ムラを抑制できることを見出した。この理由は定かではないが、印刷ムラは、インク定着の不均一とインク吸収速度の不均一に起因するため、カルシウム化合物によって上記のインク定着性を発現することに加え、微視的にはインク吸収の遅い領域の炭酸カルシウム表面に水難溶性カルシウム塩を形成して毛細管現象を生み出すのではないかと考えている。このため、原紙や塗工層は炭酸カルシウムを含有する必要があり、このような効果は他の多価金属塩の金属イオンからは得られない。

　本態様において、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物由来のカルシウム含有量は、原紙１ｍ^２あたりカルシウムイオン換算で３ｍｍｏｌ以上６０ｍｍｏｌ以下の範囲である。この範囲より少ないと、印刷部分の印刷ムラの抑制効果が得られない。この範囲より多いと、印刷部分の印刷ムラが発生してしまう原因になることがある。より好ましくは、６ｍｍｏｌ以上５５ｍｍｏｌ以下、さらに好ましくは、８ｍｍｏｌ以上５０ｍｍｏｌ以下である。

　炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を原紙に含有させる方法としては、原紙の紙料中にカルシウム化合物を含有させてから抄紙する方法、原紙にカルシウム化合物を塗工または含浸させる方法などがある。塗工は、サイズプレス、フィルムプレス、ゲートロールコーター、フィルムトランスファーコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーターなど各種塗工装置を用いる方法が可能である。製造コストの観点から、抄紙機に設置されているサイズプレス、ゲートロールコーター、フィルムトランスファーコーターなどオンマシンで塗工する方法が好ましい。

　本発明において、その他の添加剤として顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤などを本発明の所望の効果を損なわない範囲で、原紙の紙料に適宜含有することもできる。

　本発明において、原紙のサイズ度は本発明の所望の効果を損なわない限りいずれのサイズ度でもよい。サイズ度は、内添サイズ剤の量、原紙に塗布する表面サイズ剤の塗工量によって調整することができる。内添サイズ剤は、例えば、酸性紙であればロジン系サイズ剤、中性紙であればアルケニル無水コハク酸、アルキルケテンダイマー、中性ロジン系サイズ剤またはカチオン性スチレン－アクリル系サイズ剤などである。表面サイズ剤は、例えば、スチレン－アクリル系サイズ剤、オレフィン系サイズ剤、スチレン－マレイン系サイズ剤などである。特に、カチオン性化合物と一緒に塗布する場合には、カチオン系かノニオン系の表面サイズ剤が好ましい。

　インクジェットインクのインク吸収性の観点から、原紙中の灰分量は、８質量％以上２５質量％以下の範囲が好ましい。この範囲ではオフセット印刷適性やインクジェット印刷のインク吸収性がより良好となる。より好ましくは、原紙中の灰分量は、１０質量％以上２０質量％以下である。

　本発明の灰分量とは、原紙を５００℃で１時間燃焼処理を行った後の不燃物の質量と、燃焼処理前の原紙の絶乾質量との比率（質量％）である。灰分量は、原紙中の填料などの含有量により、調整することができる。

　本発明において、原紙の厚さは特に限定されない。原紙の厚さは、５０μｍ以上３００μｍ以下が好ましく、８０μｍ以上２５０μｍ以下がさらに好ましい。

　本発明の印刷用塗工紙は、原紙上に顔料およびバインダーを主成分とする塗工層を有する。塗工層を設けることによって、印刷品質および外観の点で上質紙と差別化することができる。

　インクジェット記録方式の専用紙の塗工層に用いられる合成シリカ等の多孔性顔料は、インクジェットインクを吸収することができる。しかしながら、一般の印刷用塗工紙の塗工層に用いられるカオリンや炭酸カルシウムは、粒子自体が多孔性を有しないためにインクジェットインクをほとんど吸収しない。

　本発明において、塗工層は顔料として重質炭酸カルシウムを含有する。重質炭酸カルシウムは、上記のとおり炭酸カルシウムの一種である。塗工層中の重質炭酸カルシウムの含有量は、塗工層中の総顔料１００質量部に対して５０質量部以上であり、好ましくは６０質量部以上である。重質炭酸カルシウムの粒子自体にはインクジェットインクを吸収する性質はない。しかし、不定形である重質炭酸カルシウム粒子に起因する粒子間に形成される空隙によって、インクジェットインクを吸収することができる。そして、塗工層が重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料１００質量部中５０質量部以上を占めることによって、オフセット印刷適性を損なわず、インクジェット印刷適性を有することができる。この理由は定かではないが、重質炭酸カルシウムが不定形であるために、空隙が定形粒子と比べて比較的多く形成されるのではないかと考えられる。塗工層中の重質炭酸カルシウムの含有量が５０質量部未満の場合には、塗工層の空隙の形成が不十分となり、インクジェット印刷適性が得られない。

　本発明の塗工層には、前記重質炭酸カルシウム以外の顔料として、従来公知の顔料を併用することができる。このような顔料としては、例えば、カオリン、軽質炭酸カルシウム、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、スチレン－アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂などの有機顔料が挙げられる。

　但し、合成非晶質シリカに代表されるような吸油度の高い多孔性顔料を多用した場合、塗層強度が低下する場合がある。塗層強度が低下するとオフセット印刷でのブランケットパイリングの発生などトラブルを引き起こすため、塗工層中に使用される顔料の平均吸油量は、１００ｍｌ／１００ｇ以下とすることが好ましい。

　本発明の第二の態様において、塗工層は、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有し、該カルシウム化合物由来のカルシウム含有量は、塗工層１ｍ^２あたりカルシウムイオン換算で３ｍｍｏｌ以上６０ｍｍｏｌ以下である。炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物とは、上記第一の態様と同様、水溶性のカルシウム化合物であり、好ましくは２０℃の水に１質量％以上溶解することができる水溶性のカルシウム化合物である。水溶性のカルシウム化合物の例としては、乳酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム等の塩類化合物、またはエチレンジアミン四酢酸カルシウム等の錯体化合物を挙げることができる。これらは単独および２種以上を併用してもよい。本発明の好ましい態様では、カルシウム化合物は、塩化カルシウムである。塩化カルシウムの高い吸湿性がインクジェット印刷における印刷ムラの抑制に特に優れた効果をもたらすと考えられる。

　本発明者らは、原紙および塗工層に炭酸カルシウムを含有する印刷用塗工紙が、さらに塗工層にカルシウム化合物を有することでインクジェット印刷における印刷ムラを抑制できることを見出した。この理由は定かではないが、印刷ムラはインク定着の不均一とインク吸収速度の不均一に起因するため、カルシウム化合物によって上記のインク定着性を発現することに加え、微視的にはインク吸収の遅い領域の炭酸カルシウム表面に水難溶性カルシウム塩を形成して毛細管現象を生み出すのではないかと考えている。このため、原紙や塗工層は炭酸カルシウムを含有する必要があり、このような効果は他の多価金属塩の金属イオンからは得られない。

　本態様において、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物由来のカルシウム含有量は、塗工層１ｍ^２あたりカルシウムイオン換算で３ｍｍｏｌ以上６０ｍｍｏｌ以下の範囲である。この範囲より少ないと、十分なインク定着性や印刷部分の印刷ムラの抑制効果が得られない。この範囲より多くても、それ以上のインク定着性や印刷部分の印刷ムラの抑制効果は得られないばかりか、印刷用塗工紙のインク吸収性の低下の原因になることがある。より好ましくは、３ｍｍｏｌ以上５０ｍｍｏｌ以下、さらに好ましくは、５ｍｍｏｌ以上４５ｍｍｏｌ以下である。

　本発明において、原紙または塗工層に含まれる炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物由来のカルシウムイオン換算のカルシウム含有量（本明細書中、「カルシウム量Ｂ」ともいう）は、印刷用塗工紙を原紙と塗工層（両面塗工の場合は、表裏別々にする。）に剥離・粉砕し、各々を超純水に浸し、超音波洗浄機で抽出し、抽出されたカルシウムイオン量として求められる。炭酸カルシウム由来のカルシウムイオン換算のカルシウム含有量（本明細書中、「カルシウム量Ａ」ともいう）は、印刷用塗工紙を原紙と塗工層に剥離・粉砕し、各々から０．１規定の硝酸溶液に溶出するカルシウムイオン量から、上記超純水に抽出されたカルシウムイオン量Ｂを差し引くことによって求められる。カルシウムイオン量は、公知の定量分析方法で測定できる。

　本発明の好ましい態様において、印刷用塗工紙１ｍ^２あたりの、炭酸カルシウム由来のカルシウム量Ａと炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物由来のカルシウム量Ｂとのカルシウムイオン換算ｍｏｌ比（Ａ／Ｂ）は、１以上５０以下の範囲である。より好ましくは、５以上３０以下である。この範囲にすることによって、インク定着性、印刷部分の印刷ムラの抑制あるいはインク吸収性の効果をより得ることができる。

　本発明において、印刷用塗工紙の塗工層の塗工量は特に限定されない。印刷用塗工紙の外観とインク定着性から、片面あたり２．０ｇ／ｍ^２以上２５．０ｇ／ｍ^２以下が好ましい。本発明において、塗工層の塗工量とは、乾燥固形分の塗工量を示す。

　本発明の印刷用塗工紙において、光沢感を上げる目的のために、光沢発現能力の高いプラスチックピグメントを、塗工層に適宜使用して光沢感を調整することができる。また、本発明の印刷用塗工紙において、カレンダー処理を施すことによって、より高い光沢度を得ることができる。その際のカレンダー処理装置としては、マシンカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトニップカレンダーなどが挙げられる。また、公知のキャストコート法を用いてグロスを施すこともできる。

　本発明の塗工層は、顔料とバインダーを主成分とする。本発明において、塗工層は、バインダーとして従来公知の水分散性バインダーおよび／または水溶性バインダーを含有する。水分散性バインダーとしては、例えば、スチレン－ブタジエン共重合体またはアクリロニトリル－ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの重合体あるいはメチルメタクリレート－ブタジエン共重合体などのアクリル系共重合体ラテックス、エチレン－酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル－酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス、ポリウレタン樹脂ラテックス、アルキド樹脂ラテックス、不飽和ポリエステル樹脂ラテックス、またはこれらの各種共重合体のカルボキシル基などの官能基含有単量体による官能基変性共重合体ラテックス、あるいはメラミン樹脂、尿素樹脂などの熱硬化合成樹脂が挙げられる。水溶性バインダーとしては、例えば、リン酸エステル化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉などの澱粉誘導体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコールまたはシラノール変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール誘導体、カゼイン、ゼラチンまたはそれらの変性物、大豆蛋白、プルラン、アラビアゴム、カラヤゴム、アルブミンなどの天然高分子樹脂またはこれらの誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンなどのビニルポリマー、アルギン酸ソーダ、ポリエチレンイミン、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、無水マレイン酸またはその共重合体などが挙げられる。本発明のバインダーは、これら例示に限定されない。

　これらの水分散性バインダーおよび／または水溶性バインダーは、単独または２種以上を混合して用いることができる。特に水分散性バインダーであるラテックスバインダーを塗工層に用いると塗層強度に優れるため、本発明にかかる塗工層は、バインダーとしてラテックスバインダーを主に含有することが好ましい。本明細書中で使用される場合、「バインダーとしてラテックスバインダーを主に含有する」とは、塗工層中のラテックスバインダーの量が、塗工層中のバインダーの総含有量の５０質量％以上であること、好ましくは６０質量％以上であることである。

　塗工層におけるバインダーの総含有量は、塗工層の強度とインク吸収性の観点から、塗工層中の顔料の総和１００質量部に対して５質量部以上５０質量部以下が好ましく、１０質量部以上３０質量部以下がさらに好ましい。

　本発明の印刷用塗工紙は、塗工層を原紙の少なくとも一方の面に塗工することにより製造することができる。本発明において、塗工層を原紙上に塗工する方法としては、通常使用される塗工方法を用いることができる。例えば、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、フィルムトランスファーコーター、バーコーター、ロッドブレードコーター、ショートドウェルコーター、カーテンコーターなど各種塗工装置を用いる方法である。塗工する方法はこれらに限定されない。

　塗工された印刷用塗工紙は、そのままでも使用できる。塗工された印刷用塗工紙はまた、必要に応じてマシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー、マルチニップカレンダー等により印刷用塗工紙の表面を平滑化することもできる。

　但し、平滑化のため過度のカレンダー処理を行うと、印刷用塗工紙の空隙を潰すこととなり、結果として、インクジェット印刷でのインク吸収性を悪化させるため、適度のカレンダー処理が好ましい。

　本発明の印刷用塗工紙では、原紙の少なくとも一方の面に塗工層が設けられていればよく、塗工層を原紙の両面に設けることができる。両面に設けることで、印刷機によっては両面に印刷できるために好ましい。本発明の第二態様において、両面塗工の場合は、少なくとも一方の塗工層が、重質炭酸カルシウムおよび炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を本発明の範囲内で含有していればよい。

　本発明において、平滑性やインク吸収性の調整等の必要に応じて、塗工層と原紙との間に顔料およびバインダーを含有する中間層を設けてもよい。中間層に用いられる顔料およびバインダーは、塗工層に用いることができる顔料やバインダーから適宜選択することができる。

　最終的に得られる印刷用塗工紙は、用途に合わせて大小のシート判またはロール状に加工された製品となる。製品を保存する際は、吸湿を避けるために防湿性の包装を施すことが好ましい。印刷用塗工紙の坪量は特に限定されないが、４０ｇ／ｍ^２以上３００ｇ／ｍ^２以下が好ましい。

　本発明の印刷用塗工紙は、オフセット印刷にも、インクジェット印刷にも用いることができ、優れた画像品質および耐久性を有する印刷画像を得ることができる。本発明の印刷用塗工紙は、顔料インクを採用するインクジェット印刷機にも好ましく使用することができ、優れた画像品質および耐久性を有する印刷画像を得ることができる。本発明の印刷用塗工紙は、印刷速度が１５ｍ／分以上、より高速では６０ｍ／分以上、さらに高速では１２０ｍ／分を超える輪転方式のインクジェット印刷機にも好ましく使用することができ、優れた画像品質および耐久性を有する印刷画像を得ることができる。

　また本発明の印刷用塗工紙は、オフセット印刷のみならずグラビア印刷、湿式および乾式電子写真や他の印刷方式に用いることも可能であり、何ら制限されない。さらに、輪転方式や枚葉方式のインクジェット印刷機の他に市販のインクジェットプリンターなどに用いることも可能である。

　本発明において、第三の態様は、上記印刷用塗工紙を用いて、印刷用塗工紙の塗工層上に顔料インクを用いたインクジェット印刷を印刷速度１５ｍ／分以上で行って印刷画像を形成する方法である。本発明の方法を使用すれば、顔料インクを用いたインクジェット印刷を印刷速度１５ｍ／分以上、より高速では６０ｍ／分以上、さらに高速では１２０ｍ／分で行っても、印刷ムラの無い印刷画像を形成する方法を提供することができる。また第四の様態は、上記印刷用塗工紙を用いて、印刷用塗工紙の塗工層上にオフセット印刷機および／またはインクジェット印刷機を用いて印刷画像を形成する方法である。この方法によって、オフセット印刷機および／またはインクジェット印刷機を用いて優れた印刷画像を形成することができる。

　なお、本発明の第一から第四の実施態様をとおして、第一の実施態様と同様の構成、作用効果及び内容については、適宜説明を省略する。

　以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」および「％」は、光沢度の値を除き乾燥固形分あるいは実質成分の質量部および質量％を示す。また、塗工量は乾燥固形分の塗工量を示す。

（原紙の作製）
＜原紙１の作製＞
　濾水度４００ｍｌｃｓｆのＬＢＫＰ１００部からなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウム１２部、両性澱粉０．８部、硫酸バンド０．８部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤（サイズパインＫ９０３、荒川化学工業社製）１．０部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面あたりリン酸エステル化澱粉を３．０ｇ／ｍ^２および塩化カルシウムを３．０ｇ／ｍ^２付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量１００ｇ／ｍ^２の原紙１を作製した。この原紙の灰分は１３．０％であった。

＜原紙２の作製＞
　濾水度４００ｍｌｃｓｆのＬＢＫＰ１００部からなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウム１２部、両性澱粉０．８部、硫酸バンド０．８部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤（サイズパインＫ９０３、荒川化学工業社製）１．０部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面あたりリン酸エステル化澱粉を３．０ｇ／ｍ^２および塩化カルシウムを０．６ｇ／ｍ^２付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量１００ｇ／ｍ^２の原紙２を作製した。この原紙の灰分は１０．６％であった。

＜原紙３の作製＞
　濾水度４００ｍｌｃｓｆのＬＢＫＰ１００部からなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウム１２部、両性澱粉０．８部、硫酸バンド０．８部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤（サイズパインＫ９０３、荒川化学工業社製）１．０部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面あたりリン酸エステル化澱粉を３．０ｇ／ｍ^２および塩化カルシウムを０．９ｇ／ｍ^２付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量１００ｇ／ｍ^２の原紙３を作製した。この原紙の灰分は１０．９％であった。

＜原紙４の作製＞
　濾水度４００ｍｌｃｓｆのＬＢＫＰ１００部からなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウム１２部、両性澱粉０．８部、硫酸バンド０．８部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤（サイズパインＫ９０３、荒川化学工業社製）１．０部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面あたりリン酸エステル化澱粉を３．０ｇ／ｍ^２および塩化カルシウムを６．４ｇ／ｍ^２付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量１００ｇ／ｍ^２の原紙４を作製した。この原紙の灰分は１６．４％であった。

＜原紙５の作製＞
　濾水度４００ｍｌｃｓｆのＬＢＫＰ１００部からなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウム１２部、両性澱粉０．８部、硫酸バンド０．８部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤（サイズパインＫ９０３、荒川化学工業社製）１．０部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面あたりリン酸エステル化澱粉を３．０ｇ／ｍ^２および硝酸カルシウムを３．０ｇ／ｍ^２付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量１００ｇ／ｍ^２の原紙５を作製した。この原紙の灰分は１３．０％であった。

＜原紙６の作製＞
　濾水度４００ｍｌｃｓｆのＬＢＫＰ１００部からなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウム１２部、両性澱粉０．８部、硫酸バンド０．８部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤（サイズパインＫ９０３、荒川化学工業社製）１．０部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面あたりリン酸エステル化澱粉を３．０ｇ／ｍ^２および塩化カルシウムを０．２ｇ／ｍ^２付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量１００ｇ／ｍ^２の原紙６を作製した。この原紙の灰分は１０．２％であった。

＜原紙７の作製＞
　濾水度４００ｍｌｃｓｆのＬＢＫＰ１００部からなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウム１２部、両性澱粉０．８部、硫酸バンド０．８部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤（サイズパインＫ９０３、荒川化学工業社製）１．０部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面あたりリン酸エステル化澱粉を３．０ｇ／ｍ^２および塩化カルシウムを７．２ｇ／ｍ^２付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量１００ｇ／ｍ^２の原紙７を作製した。この原紙の灰分は１７．２％であった。

＜原紙８の作製＞
　濾水度４００ｍｌｃｓｆのＬＢＫＰ１００部からなるパルプスラリーに、填料としてカオリン１２部、両性澱粉０．８部、硫酸バンド０．８部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤（サイズパインＫ９０３、荒川化学工業社製）１．０部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面あたりリン酸エステル化澱粉を３．０ｇ／ｍ^２および塩化カルシウムを３．０ｇ／ｍ^２付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量１００ｇ／ｍ^２の原紙８を作製した。この原紙の灰分は１３．０％であった。

＜原紙９の作製＞
　濾水度４００ｍｌｃｓｆのＬＢＫＰ１００部からなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウム１２部、両性澱粉０．８部、硫酸バンド０．８部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤（サイズパインＫ９０３、荒川化学工業社製）１．０部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面あたりリン酸エステル化澱粉を３．０ｇ／ｍ^２および塩化マグネシウムを３．０ｇ／ｍ^２付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量１００ｇ／ｍ^２の原紙９を作製した。この原紙の灰分は１３．０％であった。

＜原紙１０の作製＞
　濾水度４００ｍｌｃｓｆのＬＢＫＰ１００部からなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウム１２部、両性澱粉０．８部、硫酸バンド０．８部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤（サイズパインＫ９０３、荒川化学工業社製）１．０部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面あたりリン酸エステル化澱粉を３．０ｇ／ｍ^２およびジメチルアミン－エピクロルヒドリン重縮合物（ジェットフィックス３６Ｎ、里田化工社製）を３．０ｇ／ｍ^２付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量１００ｇ／ｍ^２の原紙１０を作製した。この原紙の灰分は１０．０％であった。

＜原紙１１の作製＞
　濾水度４００ｍｌｃｓｆのＬＢＫＰ１００部からなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウム１２部、両性澱粉０．８部、硫酸バンド０．８部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤（サイズパインＫ９０３、荒川化学工業社製）１．０部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面あたりリン酸エステル化澱粉を３．０ｇ／ｍ^２付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量１００ｇ／ｍ^２の原紙１１を作製した。この原紙の灰分は１０．０％であった。

＜原紙１２の作製＞
　填料として軽質炭酸カルシウム４部及びカオリン８部を用いた以外は原紙１１と同様にして、原紙１２を作製した。この原紙の灰分は１０％であった。

＜原紙１３の作製＞
　填料としてカオリン１２部を用いた以外は原紙１１と同様にして、原紙１３を作製した。この原紙の灰分は１０％であった。

　実施例１～１４および比較例１～９について、以下の手順により作製した。

＜塗工層の塗工液の調製＞
　塗工層の塗工液は、下記の内容により調製した。
　　顔料　　　　　　　　　　　　　配合部数は表１に記載
　　バインダー　　　　　　　　　　配合部数は表１に記載
　上記の内容で配合し、水で混合・分散して、固形分濃度６０％に調整した。

＜印刷用塗工紙の作製＞
　原紙に、塗工液をブレードコーターにて両面塗工し、乾燥させた後、カレンダー処理をして印刷用塗工紙を作製した。カレンダーは弾性ロールと金属ロールからなる装置を用いてた。ニップ線圧は、幅方向の厚みプロファイルが適切に得られる範囲において、弱い線圧（８０ｋＮ／ｍ）（実施例２と比較例２）と、強い線圧（１８０ｋＮ／ｍ）（実施例１、３～１４、比較例１、３～９）の２水準で行った。また、金属ロールの温度は、弱い線圧の処理では４０℃、強い線圧の処理では１８０℃とした。カレンダー条件に関して表１に示した。

　塗工液の塗工量は、片面あたりの塗工量として表１に示した。

　表１に略称で示した顔料およびバインダーは、以下の通りである。

（顔料）
　　ａ１：重質炭酸カルシウム（ＳＥＴＡＣＡＲＢ－ＨＧ、備北粉化工業社製）
　　ｂ：軽質炭酸カルシウム（ＴＰ１２３、奥多摩工業社製）
　　ｃ：カオリン（ＵＷ９０、エンゲルハード社製）
　　ｄ：合成非晶質シリカ（Ｐ７０５、東ソー・シリカ社製）
　　ｅ：スチレン－アクリル系プラスチックピグメント（ローペイクＨＰ９１、ロームアンドハース社製）
（バインダー）
　　ｆ：スチレン－ブタジエン共重合体ラテックス（ＪＳＲ－２６０５Ｇ、ＪＳＲ社製）
　　ｇ：ポリビニルアルコール（ＰＶＡ１０５、クラレ社製）

　表１中の「原紙のＣａ量」は、本発明にかかるカルシウム化合物由来のカルシウム含有量を表し、原紙１ｍ^２あたりの、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物由来のカルシウムイオン換算カルシウム含有量である。表１中の「Ａ／Ｂ比」は、印刷用塗工紙１ｍ^２あたりの、炭酸カルシウム由来のカルシウムイオン換算カルシウム含有量Ａと炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物由来のカルシウムイオン換算カルシウム含有量Ｂのｍｏｌ比（Ａ／Ｂ）である。

　カルシウム量Ａ（ｍｍｏｌ数）は、原紙と塗工層からなる印刷用塗工紙１ｍ^２に含有される炭酸カルシウムの質量（ｇ数）をもとに算出される。原紙に含有される炭酸カルシウムの質量（ｇ数）は、原紙の灰分質量（ｇ数、原紙の坪量に灰分［％］をかけたもの）から炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物または他水溶性多価金属塩の質量（ｇ数）を引いた値となる。塗工層に含有される炭酸カルシウムの質量（ｇ数）は、配合から（ａ１＋ｂ）／（ａ１＋ｂ＋ｃ＋ｄ＋ｅ＋ｆ＋ｇ）の値に、片面あたりの塗工量を掛け、両面の場合は２倍した値となる。カルシウム量Ａ（ｍｍｏｌ数）は、これら原紙に含有される炭酸カルシウムの質量と塗工層に含有される炭酸カルシウムの質量（ｇ数）を足し、炭酸カルシウムの分子量：１００で割り、その値を１０００倍した値として算出される。カルシウム量Ｂ（ｍｍｏｌ数）は、原紙１ｍ^２に含有される炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物の質量（ｇ数）を、各カルシウム化合物の分子量（ここでは、塩化カルシウム：１１０、硝酸カルシウム：１６４）で割り、１０００倍した値として算出される。

＜印刷用塗工紙の評価＞
　実施例１～１４および比較例１～９の印刷用塗工紙に対して光沢度、オフセット印刷適性、インク吸収性、インク定着性および印刷ムラについて下記の方法により評価した。その結果を表２に示す。

　オフセット印刷適性の評価以外はインクジェット印刷機を用いた。インクジェット印刷機としてコダック社製印刷機Ｖｅｒｓａｍａｒｋ　ＶＬ２０００を用いた。また、インクは顔料インクを用いた。印刷は毎分あたりの印刷搬送速度７５ｍに設定し、行った。

（光沢度の評価）
　印刷用塗工紙の白紙光沢度は、ＪＩＳ　Ｚ８７４１に準拠し、村上色彩技術研究所製デジタル光沢計ＧＭ－２６Ｄ型を用いて入反射角度７５°で測定した。マット系の印刷用塗工紙として光沢度が４０％以下であればよく、グロス系の印刷用塗工紙として光沢度が５０％以上であればよく、優れたグロス系の印刷用塗工紙として６０％～９０％がよい。

（オフセット印刷適性の評価）
　ミヤコシ社製オフセットフォーム輪転機で、印刷速度：１５０ｍ／分、使用インク：Ｔ＆Ｋ　ＴＯＫＡ　ＵＶベストキュア墨および金赤、ＵＶ照射量：８ｋＷ２基の条件で６０００ｍの印刷を行った。印刷後、ブランケットパイリングの発生状況および印刷サンプルの状態について目視評価で判定した。３～５の評価であれば、実用上に問題はない。
　　５：極めて良好。
　　４：良好。
　　３：実用上問題ない範囲。
　　２：不良。
　　１：極めて不良。

（インク吸収性の評価）
　印刷用塗工紙に、印刷機でブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各単色および、ブラックインクを除く他の３色インクでの２重色（レッド、グリーン、ブルー）の計７色のベタパターンを、２ｃｍ×２ｃｍ四方で横一列に隙間なく並べて記録するという方法で、ベタ印刷を行った。印刷部分の各色ベタ部および境界部について目視評価で判定した。３～５の評価であれば、実用上に問題はない。
　　５：色の境界部に滲みがない。
　　４：色の境界部にほとんど滲みがない。
　　３：色の境界部に滲みはあるものの、境界部がはっきり識別できる。
　　２：色の境界部が、はっきりせず、隣接する色が境界部を越えて若干移動している。
　　１：各色の境界がわからず、隣接する色への滲み出しが大きい。

（インク定着性の評価）
　所定の搬送速度で印刷機の排紙部に排出された印刷用塗工紙の印刷面を観察し、インクの擦れ跡の度合いを目視評価で判定した。３～５の評価であれば、実用上に問題はない。
　　５：インクの擦れ跡が認められない。
　　４：インクの擦れ跡がほとんど認められない。
　　３：インクの擦れ跡がかすかに認められる。
　　２：インクの擦れ跡があり、部分的に印刷物が汚れたように見える。
　　１：印刷部分の全体的に、インクの擦れ跡が発生している。

（印刷ムラの評価）
　印刷用塗工紙に、印刷機でブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各単色および、ブラックインクを除く他の３色インクでの２重色（レッド、グリーン、ブルー）の計７色のベタパターンを、３ｃｍ×３ｃｍ四方で横一列に並べて記録するという方法で、ベタ印刷を行った。印刷部分の各色ベタ部の印刷濃度ムラについて目視評価で判定した。３～５の評価であれば、実用上に問題はない。
　　５：印刷濃度ムラが認められない。
　　４：色によってはごく僅かに印刷濃度ムラが認められる。
　　３：印刷濃度ムラが僅かに認められる。
　　２：印刷濃度ムラが部分的に認められる。
　　１：印刷部分の全体的に、印刷濃度ムラが認められる。

　上記実施例１～１４および比較例１～９における印刷用塗工紙を用いた印刷において、評価結果を表２に示す。

　表２より、実施例１～１４で示される原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、原紙が、炭酸カルシウムを含有し、塗工層が、顔料として重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料１００質量部に対して５０質量部以上含有し、原紙が、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有し、該カルシウム化合物由来のカルシウム含有量は、原紙１ｍ^２あたりカルシウムイオン換算で３ｍｍｏｌ以上６０ｍｍｏｌ以下である、印刷用塗工紙は、オフセット印刷適性、インク吸収性、インク定着性に優れ、さらに印刷部分の印刷ムラが抑制できることがわかる。実施例１と実施例１３とから、塩化カルシウムが好ましいことがわかる。

　一方、表２より、本発明の条件を満足しない比較例１～９では本発明の効果は得られない。特に、印刷ムラが認められることがわかる。

　実施例１５～３６および比較例１０～１７について、以下の手順により作製した。

＜塗工層の塗工液の調製＞
　塗工層の塗工液は、下記の内容により調整した。
　　顔料　　　　　　　　　　　　　　　　　　　配合部数は表３に記載
　　バインダー　　　　　　　　　　　　　　　　配合部数は表３に記載
　　カルシウム化合物　　　　　　　　　　　　　配合部数は表３に記載
　　カチオン剤（但し、カルシウム化合物を除く）配合部数は表３に記載
　上記の内容で配合し、水で混合・分散して、固形分濃度３０％に調製した。

＜印刷用塗工紙の作製＞
　原紙に、塗工液をエアーナイフコーターにて両面塗工し、乾燥させた後、カレンダー処理をして印刷用塗工紙を作製した。使用した原紙は表３に示した。

　塗工液の塗工量は、片面あたりの塗工量として表３に示した。

　表３に略称で示した顔料、バインダー、カルシウム化合物およびカチオン剤（但し、カルシウム化合物を除く）は、以下の通りである。

（顔料）
　ａ２：重質炭酸カルシウム（ＳＥＴＡＣＡＲＢ、白石カルシウム社製）
　ｂ：軽質炭酸カルシウム（ＴＰ１２３、奥多摩工業社製）
　ｃ：カオリン（ＵＷ９０、エンゲルハード社製）
　ｄ：合成非晶質シリカ（Ｐ７０５、東ソー・シリカ社製）
（バインダー）
　ｇ：ポリビニルアルコール（ＰＶＡ１０５、クラレ社製）
　ｈ：エチレン－酢酸ビニル樹脂（リカボンドＢＥＦ９８５７、中央理化工業社製）
（カルシウム化合物）
　ｉ：塩化カルシウム
　ｊ：硝酸カルシウム
（カチオン剤）
　ｋ：塩化マグネシウム
　ｌ：カチオン性樹脂（パピオゲンＰ１０５、センカ社製）

　表３中の「塗工層のＣａ量」は、本発明にかかるカルシウム化合物由来のカルシウム含有量を表し、印刷用塗工紙の片面の塗工層１ｍ^２あたりの炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物由来のカルシウムイオン換算カルシウム含有量である。表３中の「Ａ／Ｂ比」は、印刷用塗工紙１ｍ^２あたりの炭酸カルシウム由来のカルシウムイオン換算カルシウム含有量Ａと炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物由来のカルシウムイオン換算カルシウム含有量Ｂのｍｏｌ比（Ａ／Ｂ）である。

　カルシウム量Ａ（ｍｍｏｌ数）は、原紙と塗工層からなる印刷用塗工紙１ｍ^２に含有される炭酸カルシウムの質量（ｇ数）をもとに算出される。原紙に含有される炭酸カルシウムの質量（ｇ数）は、原紙の灰分質量（ｇ数、原紙の坪量に灰分［％］をかけたもの）に填料の比（ここでは、軽質炭酸カルシウム／（軽質炭酸カルシウム＋カオリン））を掛けた値となる。塗工層に含有される炭酸カルシウムの質量（ｇ数）は、配合から（ａ２＋ｂ）／（ａ２＋ｂ＋ｃ＋ｄ＋ｇ＋ｈ＋ｉ+ｊ＋ｋ＋ｌ）の値に、片面あたりの塗工量を掛け、両面の場合は２倍した値となる。カルシウム量Ａ（ｍｍｏｌ数）は、これら原紙に含有される炭酸カルシウムの質量と塗工層に含有される炭酸カルシウムの質量（ｇ数）を足し、炭酸カルシウムの分子量：１００で割り、その値を１０００倍した値として算出される。カルシウム量Ｂ（ｍｍｏｌ数）は、配合からｉ／（ａ２＋ｂ＋ｃ＋ｄ＋ｇ＋ｈ＋ｉ+ｊ＋ｋ＋ｌ）及びｊ／（ａ２＋ｂ＋ｃ＋ｄ＋ｇ＋ｈ＋ｉ+ｊ＋ｋ＋ｌの各値に、片面あたりの塗工量を掛け、両面の場合は２倍し、その各値を各カルシウム化合物（ｉまたはｊ）の分子量（ここでは、塩化カルシウム：１１０、硝酸カルシウム：１６４）で割り、１０００倍した値を足すことで算出される。

（印刷用塗工紙の評価）
　実施例１５～３６および比較例１０～１７の印刷用塗工紙に対してオフセット印刷適性、インク吸収性、インク定着性および印刷部分の印刷ムラについて前記の方法により評価した。その結果を表４に示す。

　オフセット印刷適性の評価以外はインクジェット印刷機を用い、インクジェット印刷機としてコダック社製印刷機Ｖｅｒｓａｍａｒｋ　ＶＬ２０００を用いた。また、インクは顔料インクを用いた。印刷は毎分あたりの印刷搬送速度７５ｍに設定し、行った。

　表４より、実施例１５～３６で示される原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、原紙が、炭酸カルシウムを含有し、塗工層が、顔料として重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料１００質量部に対して５０質量部以上含有し、塗工層が、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有し、該カルシウム化合物由来のカルシウム含有量は、塗工層１ｍ^２あたりカルシウムイオン換算で３ｍｍｏｌ以上６０ｍｍｏｌ以下である、印刷用塗工紙は、オフセット印刷適性、インク吸収性、インク定着性に優れ、さらに印刷部分の印刷ムラが抑制されることがわかる。実施例１５～１７と実施例２０～２２とから、塩化カルシウムが好ましいことがわかる。

　一方、表４より、本発明の条件を満足しない比較例１０～１７では本発明の効果は得られない。

Claims

　原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーとを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、原紙が、炭酸カルシウムを含有し、塗工層が、顔料として重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料１００質量部に対して５０質量部以上含有し、原紙及び／又は塗工層が、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有し、該カルシウム化合物由来のカルシウム含有量は、原紙及び／又は塗工層１ｍ^２あたりカルシウムイオン換算で３ｍｍｏｌ以上６０ｍｍｏｌ以下である、印刷用塗工紙。
　原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、原紙が、炭酸カルシウムを含有し、塗工層が、顔料として重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料１００質量部に対して５０質量部以上含有し、原紙が、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有し、該カルシウム化合物由来のカルシウム含有量は、原紙１ｍ^２あたりカルシウムイオン換算で３ｍｍｏｌ以上６０ｍｍｏｌ以下である、請求項１に記載の印刷用塗工紙。
　原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、原紙が、炭酸カルシウムを含有し、塗工層が、顔料として重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料１００質量部に対して５０質量部以上含有し、塗工層が、炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有し、該カルシウム化合物由来のカルシウム含有量は、塗工層１ｍ^２あたりカルシウムイオン換算で３ｍｍｏｌ以上６０ｍｍｏｌ以下である、請求項１に記載の印刷用塗工紙。
　印刷用塗工紙１ｍ^２あたりの、前記炭酸カルシウム由来のカルシウム量Ａと前記カルシウム化合物由来のカルシウム量Ｂのカルシウムイオン換算ｍｏｌ比（Ａ／Ｂ）が、１以上５０以下である、請求項１～３のいずれかに記載の印刷用塗工紙。
　カルシウム化合物が、塩化カルシウムである、請求項１～４のいずれかに記載の印刷用塗工紙。
　請求項１～５のいずれかに記載の印刷用塗工紙を用いて、印刷用塗工紙の塗工層上に顔料インクを用いたインクジェット印刷を印刷速度１５ｍ／分以上で行って印刷画像を形成する方法。