フラビンアデニンジヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵素 技術分野
[0001] 本発明は補酵素結合型グルコース脱水素酵素及びその用途に関する。詳しくは、 本発明はフラビンアデ-ンジヌクレオチドを補酵素とするグルコース脱水素酵素、及 び当該酵素の生産菌、当該酵素の製造法、当該酵素を使用したグルコース測定法 などに関する。
背景技術
[0002] 近年、電気化学的バイオセンサを用いた簡易型の自己血糖測定器が広く用いられ ている。バイオセンサは、絶縁性の基板上に電極、酵素反応層を形成したものである 。ここで用いられる酵素としては、グルコース脱水素酵素(GDH)、グルコースォキシ ダーゼ (GO)などが挙げられる。 GOを用いた方法は、測定サンプル中の溶存酸素 の影響を受けやすぐ溶存酸素が測定結果に影響を及ぼすといった問題点が指摘さ れている。
[0003] 一方、溶存酸素の影響を受けず且つ NAD (P)非存在下でグルコースに作用する 酵素としてピロ口キノリン(PQQ)を補酵素とする GDH (PQQ— GDH)が知られてい る(例えば特許文献 1〜3を参照)。し力しながら PQQ— GDHには、(l) PQQが酵素 から解離しやすいこと、(2)グルコースに対する選択性が低いこと、及び (3)—般に 膜画分に存在していることからその抽出'単離操作に困難を伴うことなどの問題があ る。
[0004] ところで近年、病院で簡易血糖自己測定器を使用した患者において低血糖等を発 症した例が報告された。その後の調査'分析の結果、 PQQ— GDHが輸液成分とし て含まれるマルトースに反応し、実際の血糖値より高値を示したことが、このような発 症例の原因であることが判明した (医薬品 ·医療用具等安全性情報 206号 (Pharmace uticals and Medical Devices Safety Information No.206)、平成 16年(2004年) 10月、 厚生労働省医薬食品局)。このような事情もあって、グルコースに特異的に作用し、 特にマルトースへの作用性が低い血糖測定用酵素の開発が切望されている。
尚、 PQQ— GDHの他、溶存酸素の影響を受けず且つ NAD (P)非存在下でダル コースに作用する酵素としてフラビンアデ-ンジヌクレオチドを補酵素とするダルコ一 ス脱水素酵素(本明細書にぉ 、て「FAD— GDH」とも!/、う)が知られて!/、る。これまで に、 Aspergillus oryzae ( 特許文献 1〜4)及び Aspergillus terreus (特許文献 4)力 それぞれ FAD— GDHが取得されて!、る。
特許文献 1:特開 2000 - 350588号公報
特許文献 2:特開 2001— 197888号公報
特許文献 3:特開 2001— 346587号公報
特許文献 4 :国際公開第 2004Z058958号パンフレット
非特干文献 1: Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. I. Inducti on of its synthesis by p— benzoquinone and hydroquinone, T.C. Bak, and R. Sato, Bi ochim. Biophys. Acta, 139, 265—276 (1967).
非特許文献 2 : Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. II. Purifi cation and physical and chemical properties, T.C. Bak, Biocnim. Biophys. Acta, 139 , 277-293 (1967).
非特許文献 3 : Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. III. Gene ral enzymatic properties, T.C. Bak, Biochim. Biophys. Acta, 146, 317-327 (1967). 非特許文献 4 : Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. IV. Histi dyl residue as an active site, T.C. Bak, and R. Sato, Biochim. Biophys. Acta, 146, 3 28-335 (1967).
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0005] 上記背景の下で本発明は、グルコース量のより正確な測定を可能とする新規な酵 素及びその生産菌、並びにその用途を提供することを課題とする。
課題を解決するための手段
[0006] 以上の課題を解決するために本発明者らはまず、フラビンアデ-ンジヌクレオチド を補酵素とするグルコース脱水素酵素 (FAD— GDH)に注目した。そして、広く微生 物を対象としてスクリーニングした結果、 FAD— GDHの生産性に優れた菌株を見出
した。同定の結果、 Aspergillus oryzae (ァスペルギルス'ォリゼ)と判明した。また、 当該菌株が生産する FAD— GDHを精製することに成功し、その諸性状を決定する ことにも成功した。決定された諸性状より、当該 FAD— GDHが新規な酵素であること が判明した。また、当該 FAD— GDHがグルコースに対する選択性に優れ、し力も反 応系に存在する溶存酸素の影響を受けにくぐ試料中のダルコース量のより正確な 測定を可能にするものであることが示された。一方、当該 FAD— GDHと同等の酵素 を他の菌株 (Aspergillus oryzae)が生産することが確認された。
更に検討を進めた結果、上記菌株が保有する FAD— GDHのアミノ酸配列及びそ れをコードする遺伝子の配列を決定することに成功した。
本発明は以上の知見ないし成果に基づくものであり、以下に示すフラビンアデニン ジヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵素などを提供する。
[1]以下の性状を備えるフラビンアデ-ンジヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵 素、
(1)作用: 電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸ィ匕してダルコノー δ—ラタ トンを生成する反応を触媒する、
(2)分子量: SDS-ポリアクリルアミド電気泳動による分子量が約 100kDa、ゲルろ 過クロマトグラフィーによる分子量が約 400kDa、
(3)基質特異性: マルトース、 D-フルクトース、 D-マンノース及び D-ガラクトースに 対する反応性が低い。
[2] D-グルコースに対する反応性を 100%としたときのマルトースに対する反応性が 5%以下である、 [1]に記載のフラビンアデ-ンジヌクレオチド結合型グルコース脱水 素酵素。
[3]D-グルコースに対する反応性を 100%としたときの D-ガラクトースに対する反応 性が 5%以下である、 [1]又は [2]に記載のフラビンアデ-ンジヌクレオチド結合型グ ルコース脱水素酵素。
[4]D-グルコースに対する反応性を 100%としたときの D-フルクトース及び D-マンノ ースに対する反応性カ^、ずれも 5%以下である、 [1]〜 [3]の 、ずれか一項に記載 のフラビンアデ-ンジヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵素。
[5]以下の性状を更に備える、 [1]〜 [4]の 、ずれか一項に記載のフラビンアデニン ジヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵素、
(4)至適 pH : 7付近、
(5)至適温度: 60°C付近、
(6) pH安定性: pH3. 0〜7. 0の範囲で安定、
(7)温度安定性: 40°C以下で安定。
[6]以下の性状を更に備える、 [1]〜 [5]の 、ずれか一項に記載のフラビンアデニン ジヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵素、
(8) Km値: D-グルコースにつ!/、ての Km値が約 8mM。
[7] Aspergillus oryzaeに由来する酵素である、 [1]〜[6]のいずれか一項に記載 のフラビンアデ-ンジヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵素。
[8]配列番号 20で示されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と相同なアミノ酸配列 を有することを特徴とする、 [1]〜 [7]の 、ずれか一項に記載のフラビンアデ-ンジヌ クレオチド結合型グルコース脱水素酵素。
[9]フラビンアデニンジヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵素の生産能を有する 、受託番号が NITE BP— 236の Aspergillus oryzae BB— 56。
[10]以下の (A)〜(C)力もなる群より選択される 、ずれかの DNAからなるフラビン アデ-ンジヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵素遺伝子:
(A)配列番号 20で示されるアミノ酸配列をコードする DNA;
(B)配列番号 19で示される塩基配列力 なる DNA;
(C)配列番号 19で示される塩基配列と相同な塩基配列を有し、且つフラビンアデ ニンジヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵素活性をもつタンパク質をコードする DNA0
[11] [10]に記載の遺伝子を含有するベクター。
[12] [10]に記載の遺伝子が導入されている形質転換体。
[13]以下のステップ(1)及び(2)、又はステップ (i)及び (ii)を含んでなる、フラビン アデニンジヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵素の製造法:
(1) [7]に記載のフラビンアデニンジヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵素の
生産能を有する Aspergillus oryzaeを培養するステップ;
(2)培養後の培養液及び Z又は菌体より、フラビンアデ-ンジヌクレオチド結合型 グルコース脱水素酵素を回収するステップ;
(i) [12]に記載の形質転換体を、前記遺伝子がコードするタンパク質が産生される 条件下で培養するステップ;
(ii)産生された前記タンパク質を回収するステップ。
[14] [1]〜 [8]の 、ずれか一項に記載のフラビンアデ-ンジヌクレオチド結合型ダル コース脱水素酵素を用 、て試料中のダルコースを測定することを特徴とする、ダルコ ース測定法。
[15] [1]〜[8]の 、ずれか一項に記載のフラビンアデ-ンジヌクレオチド結合型ダル コース脱水素酵素を含むことを特徴とするグルコース測定用試薬。
[16] [15]に記載のグルコース測定用試薬を含む、グルコース測定用キット。
図面の簡単な説明
[図 1] Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD— GDHの SDS— PAGE。 両端のレーンは、分子量マーカーで、上力も順にホスホリラーゼ b (97kDa)、アルブ ミン(66kDa)、オボアルブミン(45kDa)、カルボニックアンヒドラーゼ(30kDa)、トリ プシンインヒビター(20. lkDa)、 α—ラクトアルブミン(14. 4kDa)。
[図 2] Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD— GDHの HPLCによる分子 量の測定。(A)分子量マーカー。グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(290kDa、 11. 508 min)、乳酸デヒドロゲナーゼ(142kDa、 13. 012min)、エノラーゼ(67kDa、 14. 6 43min)、ミオキナーゼ(32kDa、 15. 321min)、シトクローム C (12. 4kDa、 20. 3 03min) (B)精製 FAD— GDH。
[図 3] Aspergillus oryzae由来の FAD— GDHの分子量の比較。(A)分子量マー カー。溶出が早い順にグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GLDH、 290kDa)、乳酸デヒ ドロゲナーゼ(LDH、 142kDa)、ミオキナーゼ(32kDa)。 (B) , (C) , (D) , (Ε) , (F ) , (G) , (Η)は、それぞれ A. oryzae ΒΒ— 56、 ΙΑΜ2603、 ΙΑΜ2628、 ΙΑΜ26 83、 ΙΑΜ2736, ΙΑΜ2706及び NBRC30113由来の培養ろ液を試料とした。
[図 4]Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD— GDHの 400— 800nmに
おける吸収スペクトル。
[図 5]Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD— GDHの至適 pH。
[図 6]Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD— GDHの至適温度。
[図 7]Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD— GDHの pH安定性。
[図 8] Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD— GDHの温度安定性。
[図 9]グリセロール密度勾配等電点電気泳動による Aspergillus oryzae BB— 56 由来の精製 FAD— GDHの等電点の測定。
[図 10]Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD — GDHのグルコースに対 する Line we aver— Burk plot。
[図 11] Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD GDHの糖含量の測定。
[図 12]Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD - GDHによるグノレコース濃 度の測定。
発明を実施するための最良の形態
(用語)
本発明において「タンパク質をコードする DNA」とは、それを発現させた場合に当 該タンパク質が得られる DNA、即ち、当該タンパク質のアミノ酸配列に対応する塩基 配列を有する DNAのことを 、う。従ってコドンの縮重も考慮される。
本明細書において用語「単離された」は「精製された」と交換可能に使用される。本 発明の酵素 (FAD— GDH)に関して使用する場合の「単離された」とは、本発明の 酵素が天然材料に由来する場合、当該天然材料の中で当該酵素以外の成分を実 質的に含まない (特に夾雑タンパク質を実質的に含まない)状態をいう。具体的には 例えば、本発明の単離された酵素では、夾雑タンパク質の含有量は重量換算で全体 の約 20%未満、好ましくは約 10%未満、更に好ましくは約 5%未満、より一層好ましく は約 1%未満である。一方、本発明の酵素が遺伝子工学的手法によって調製された ものである場合の用語「単離された」とは、使用された宿主細胞に由来する他の成分 や培養液等を実質的に含まない状態をいう。具体的には例えば、本発明の単離され た酵素では夾雑成分の含有量は重量換算で全体の約 20%未満、好ましくは約 10% 未満、更に好ましくは約 5%未満、より一層好ましくは約 1%未満である。尚、それと異
なる意味を表すことが明らかでない限り、本明細書において単に「フラビンアデ-ンジ ヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵素」と記載した場合は「単離された状態のフ ラビンアデ-ンジヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵素」を意味する。フラビンァ デニンジヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵素の代わりに使用される用語「FA D GDH」及び「酵素」につ!/、ても同様である。
DNAにつ 、て使用する場合の「単離された」とは、もともと天然に存在して 、る DN Aの場合、典型的には、天然状態において共存するその他の核酸から分離された状 態であることをいう。但し、天然状態において隣接する核酸配列(例えばプロモータ 一領域の配列やターミネータ一配列など)など一部の他の核酸成分を含んで ヽても よい。例えばゲノム DNAの場合の「単離された」状態では、好ましくは、天然状態に おいて共存する他の DNA成分を実質的に含まない。一方、 cDNA分子など遺伝子 工学的手法によって調製される DNAの場合の「単離された」状態では、好ましくは、 細胞成分や培養液などを実質的に含まない。同様に、化学合成によって調製される DNAの場合の「単離された」状態では、好ましくは、 dNTPなどの前駆体 (原材料)や 合成過程で使用される化学物質等を実質的に含まない。尚、それと異なる意味を表 すことが明らかでない限り、本明細書において単に「DNA」と記載した場合には単離 された状態の DNAを意味する。
(FAD— GDH及びその生産菌)
本発明の第 1の局面はフラビンアデ-ンジヌクレオチドを補酵素とするグルコース脱 水素酵素 (FAD— GDH)及びその生産菌を提供する。本発明の FAD— GDH (以 下、「本酵素」ともいう)は以下の性状を備えることを特徴とする。まず、本酵素は次の 反応、即ち、電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してダルコノー δーラ タトンを生成する反応を触媒する。また、 SDS-ポリアクリルアミド電気泳動による本酵 素の分子量は約 lOOkDaであり、ゲルろ過による本酵素の分子量は約 400kDaであ る。尚、本発明の FAD— GDHは 4量体からなる。
一方、本酵素は基質特異性に優れ、 D-グルコースに対して選択的に作用する。詳 しくは、本発明の FAD— GDHはマルトースに対する反応性が極めて低ぐ D-フルク トースゃ D-マンノース、 D-ガラクトースなどに対する反応性も非常に低い。具体的に
は D-グルコースに対する反応性を 100%としたときの、これらの基質に対する反応性 は 、ずれも 5%以下である。本発明の好ま 、態様ではマルトースに対する反応性 は 1%以下又は実質的に認められない。更に好ましい態様では、 D-フルクトースに 対する反応性及び D-ガラクトースに対する反応性のいずれについても 1%以下又は 実質的に認められない。以上のような優れた基質特異性を有する本酵素は、試料中 のグルコース量を正確に測定するための酵素として好ましい。即ち、本酵素によれば 試料中にマルトースゃガラタトースなどの夾雑物が存在していた場合であっても目的 のグルコース量をより正確に測定することが可能である。従って本酵素は、試料中に このような夾雑物の存在が予想又は懸念される用途 (典型的には血液中のダルコ一 ス量の測定)に適したものであるといえ、しかも当該用途も含め様々な用途に適用可 能であること、即ち汎用性が高いともいえる。尚、本酵素の反応性及び基質特異性は 、後述の実施例に示す方法((1 2)の欄、(7— 1)の欄、(7— 2— 2)の欄)で測定- 評価することができる。
[0010] 本酵素は好ましくは Aspergillus oryzaeに由来する FAD— GDHである。ここで の「Aspergillus oryzaeに由来する FAD— GDH」とは、 Aspergillus oryzaeに分 類される微生物(野生株であっても変異株であってもよい)が生産する FAD— GDH 、或いは Aspergillus oryzae (野生株であっても変異株であってもよい)の FAD— GDH遺伝子を利用して遺伝子工学的手法によって得られた FAD— GDHであるこ とを意味する。従って、 Aspergillus oryzaeより取得した FAD— GDH遺伝子(又は 当該遺伝子を改変した遺伝子)を導入した宿主微生物によって生産された組み換え 体も、「 Aspergillus oryzaeに由来する FAD— GDH」に該当する。
[0011] 本酵素がそれに由来することとなる Aspergillus oryzaeのことを、説明の便宜上、 本酵素の生産菌という。本酵素の生産菌の例として、後述の実施例に示す Aspergil lus oryzae BB— o6、 Aspergillus oryzae IAM2603、 Aspergillus oryzae IAM2628, Aspergillus oryzae IAM2683、 Aspergillus oryzae IAM273 6、 Aspergillus oryzae IAM2706、及び Aspergillus oryzae NBRC30113 を挙げることができる。この中でも BB— 56株は FAD— GDHの生産性に優れ、特に 好ましい生産菌である。 BB— 56株は以下の通り所定の寄託機関に寄託されており、
容易に入手可能である。
寄託機関: NITEバイオテクノロジー本部 特許微生物寄託センター (〒 292-0818 日本国千葉県木更津巿かずさ鎌足 2— 5 -8)
寄託日(受領日): 2006年 5月 17日
受託番号: NITE BP— 236
尚、 Aspergillus oryzae IAM2603、 Aspergillus oryzae IAM2628、 Aspe rgillus oryzae IAM2683、 Aspergillus oryzae IAM2736、及び Aspergillu s oryzae IAM2706は IAMカルチャーコレクション(東京大学分子細胞生物学研 究所 細胞機能情報研究センター)に保管された菌株であり、所定の手続を経ること によってその分譲を受けることができる。同様に Aspergillus oryzae NBRC3011 3は NBRC (独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 生物 遺伝資源部門)に保管された菌株であり、所定の手続を経ることによってその分譲を 受けることができる。
本発明者らは、後述の実施例に示す通り、 Aspergillus oryzae BB— 56より、上 記性状 (作用、分子量、基質特異性)を備える FAD— GDHを調製することに成功し た。得られた FAD— GDHを詳細に検討した結果、以下の性状を更に備えることが 明らかとなった。
(4)至適 pH : 7付近
(5)至適温度: 60°C付近
(6) pH安定性: pH3. 0〜7. 0の範囲で安定
(7)温度安定性: 40°C以下で安定
(8) Km値: D-グルコースにつ!/、ての Km値が約 8mM
(9)等電点: 6. 4付近
ここで、至適 pHについては後述の実施例に示すように例えば Mcllvaineバッファ 一中で測定した値であり、至適温度についても同様に例えば PIPES— NaOHバッフ ァー(pH6. 5)中で測定した値である。また、特定の pH条件の下、 37°Cで 30分間処 理したときに 80%以上の活性を維持したとき、当該 pH条件において「安定」であると いうことができる。同様に、特定の温度条件の下、適当な緩衝液中(例えば PIPES—
NaOHバッファー、 pH6. 5)で 20分間処理した後に活性の実質的な低下が認めら れな 、 (つまり約 100%の活性を維持する)とき、当該温度条件にお!、て「安定」であ るということができる。 Km値及び等電点に関しては、後述の実施例に示す方法 (8. の欄、 6.の欄)で測定'評価することができる。
[0013] 以上のように、取得に成功した本酵素の性状の詳細が明ら力となった。その結果、 本酵素がグルコースに対して選択的且つ高親和性であり、しかも安定性に優れ、グ ルコースセンサなどへの応用.実用化に適したものであることが判明した。
一方、本酵素の性状の詳細が明らかになった結果、過去に報告された補酵素結合 型酵素と全く異なる酵素であることが確認された。
尚、上で例示した他の菌株、即ち Aspergillus oryzae IAM2603、 Aspergillus oryzae IAM2o28、 Aspergillus oryzae IAM2683、 Aspergillus oryzae IAM2736, Aspergillus oryzae IAM2706、及び Aspergillus oryzae NBR C 30113についても、 Aspergillus oryzae BB— 56が生産する FAD— GDHと同 等の性状を備えた FAD— GDHを生産することが確認された。
[0014] 本発明者らの更なる検討の結果、 Aspergillus oryzae BB— 56が保有する FA D— GDHのアミノ酸配列が決定された。そこで、配列番号 20のアミノ酸配列を有す るタンパク質力もなるという特徴によって本酵素を更に特徴づけることができる。ここで
、一般に、あるタンパク質のアミノ酸配列の一部に改変を施した場合において改変後 のタンパク質が改変前のタンパク質と同等の機能を有することがある。即ちアミノ酸配 列の改変がタンパク質の機能に対して実質的な影響を与えず、タンパク質の機能が 改変前後において維持されることがある。そこで本発明は他の態様として、配列番号 20で示されるアミノ酸配列と相同なアミノ酸配列を有し FAD— GDH活性をもつタン パク質 (以下、「相同タンパク質」ともいう)を提供する。ここでの「相同なアミノ酸配列」 とは、配列番号 20で示されるアミノ酸配列と一部で相違するが、当該相違がタンパク 質の機能 (ここでは FAD— GDH活性)に実質的な影響を与えて 、な 、アミノ酸配列 のことをいう。
「アミノ酸配列の一部の相違」とは、典型的には、アミノ酸配列を構成する 1〜数個 のアミノ酸の欠失、置換、若しくは 1〜数個のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組
合せによりアミノ酸配列に変異 (変ィ匕)が生じていることをいう。ここでのアミノ酸配列 の相違は FAD— GDH活性が保持される限り許容される(活性の多少の変動があつ てもよい)。この条件を満たす限りアミノ酸配列が相違する位置は特に限定されず、ま た複数の位置で相違が生じて 、てもよ 、。ここでの複数とは例えば全アミノ酸の約 30 %未満に相当する数であり、好ましくは約 20%未満に相当する数であり、さらに好ま しくは約 10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約 5%未満に相当する数 であり、最も好ましくは約 1%未満に相当する数である。即ち相同タンパク質は、配列 番号 20のアミノ酸配列と例えば約 70%以上、好ましくは約 80%以上、さらに好ましくは 約 90%以上、より一層好ましくは約 95%以上、最も好ましくは約 99%以上の同一性を有 する。
[0015] 好ましくは、 FAD— GDH活性に必須でないアミノ酸残基において保存的アミノ酸 置換を生じさせることによって相同タンパク質を得る。ここでの「保存的アミノ酸置換」 とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することを いう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖 (例えばリシン、アルギニン、ヒスチ ジン)、酸性側鎖 (例えばァスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖 (例えばグ リシン、ァスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システィン)、非極性 側鎖(例えばァラニン、ノ リン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フエ-ルァラニン、メ チォニン、トリブトファン)、 β分岐側鎖 (例えばスレオニン、パリン、イソロイシン)、芳 香族側鎖(例えばチロシン、フエ-ルァラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、い くつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のフアミ リー内のアミノ酸残基間の置換である。
[0016] ところで、二つのアミノ酸配列又は二つの核酸 (以下、これらを含む用語として「二 つの配列」を使用する)の同一性(%)は例えば以下の手順で決定することができる。 まず、最適な比較ができるよう二つの配列を並べる(例えば、第一の配列にギャップ を導入して第二の配列とのァライメントを最適化してもよ 、)。第一の配列の特定位置 の分子 (アミノ酸残基又はヌクレオチド)が、第二の配列における対応する位置の分 子と同じであるとき、その位置の分子が同一であるといえる。二つの配列の同一性は 、その二つの配列に共通する同一位置の数の関数であり(すなわち、同一性(%) =
同一位置の数 Z位置の総数 X 100)、好ましくは、ァライメントの最適化に要したギヤ ップの数およびサイズも考慮に入れる。
二つの配列の比較及び同一性の決定は数学的アルゴリズムを用いて実現可能で ある。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、 Karlinおよび Altschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264- 68に記載され、 Karlinおよび Alt schul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873- 77において改変されたァルゴリズ ムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、 Altschulら(1990 ) J. Mol. Biol. 215:403- 10に記載の NBLASTプログラムおよび XBLASTプログラム(バ 一ジョン 2.0)に組み込まれている。本発明の核酸分子に相同的なヌクレオチド配列を 得るには例えば、 NBLASTプログラムで score = 100、 wordlength = 12として BLASTヌ クレオチド検索を行えばよい。本発明のポリペプチド分子に相同的なアミノ酸配列を 得るには例えば、 XBLASTプログラムで score = 50、 wordlength = 3として BLASTポリ ペプチド検索を行えばよい。比較のためのギャップァライメントを得るためには、 Altsc hulら(1997) Amino Acids Research 25(17):3389- 3402に記載の Gapped BLASTが利 用可能である。 BLASTおよび Gapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム (例えば XBLASTおよび NBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳 しくは http:〃 www.ncbi.nlm.nih.govを参照された!ヽ。配列の比較に利用可能な他の 数学的アルゴリズムの例としては、 Myersおよび Miller (1988) Comput Appl Biosci. 4: 11- 17に記載のアルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えば GENESTREAM ネットワークサーバー(IGH Montpellier,フランス)または ISRECサーバーで利用可能 な ALIGNプログラムに組み込まれて!/、る。アミノ酸配列の比較に ALIGNプログラムを 利用する場合は例えば、 PAM120残基質量表を使用し、ギャップ長ペナルティ = 12、 ギャップペナルティ =4とすることができる。
二つのアミノ酸配列の同一性を、 GCGソフトウェアパッケージの GAPプログラムを用 いて、 Blossom 62マトリックスまたは PAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重 = 12、 10、 8、 6、又は 4、ギャップ長加重 =2、 3、又は 4として決定することができる。また、二 つの核酸配列の相同度を、 GCGソフトウェアパッケージ(http:〃 www. gcg.comで利用 可能)の GAPプログラムを用いて、ギャップ加重 = 50、ギャップ長加重 =3として決定
することができる。
[0017] 上記アミノ酸配列を有する本酵素は、遺伝子工学的手法によって容易に調製する ことができる。例えば、本酵素をコードする DNAで適当な宿主細胞 (例えば大腸菌) を形質転換し、形質転換体内で発現されたタンパク質を回収することにより調製する ことができる。回収されたタンパク質は目的に応じて適宜精製される。このように組換 えタンパク質として本酵素を得ることにすれば種々の修飾が可能である。例えば、本 酵素をコードする DNAと他の適当な DNAとを同じベクターに挿入し、当該ベクター を用いて組換えタンパク質の生産を行えば、任意のペプチドな!/、しタンパク質が連結 された組換えタンパク質力もなる本酵素を得ることができる。また、糖鎖及び Z又は脂 質の付加や、あるいは N末端若しくは C末端のプロセッシングが生ずるような修飾を 施してもよい。以上のような修飾により、組換えタンパク質の抽出、精製の簡便化、又 は生物学的機能の付加等が可能である。
[0018] (FAD— GDHをコードする DNA)
本発明の第 2の局面は本酵素をコードする遺伝子、即ち新規な FAD— GDH遺伝 子を提供する。一態様において本発明の遺伝子は、配列番号 20のアミノ酸配列をコ ードする DNAからなる。当該態様の具体例は、配列番号 19で示される塩基配列か らなる DNAである。
ところで、一般に、あるタンパク質をコードする DNAの一部に改変を施した場合に おいて、改変後の DNAがコードするタンパク質力 改変前の DNAがコードするタン ノ ク質と同等の機能を有することがある。即ち DNA配列の改変が、コードするタンパ ク質の機能に実質的に影響を与えず、コードするタンパク質の機能が改変前後にお いて維持されることがある。そこで本発明は他の態様として、配列番号 19で示される 塩基配列と相同な塩基配列を有し、 FAD— GDH活性をもつタンパク質をコードする DNA (以下、「相同 DNA」ともいう)を提供する。ここでの「相同な塩基配列」とは、配 列番号 19で示される核酸と一部で相違するが、当該相違によってそれがコードする タンパク質の機能 (ここでは FAD— GDH活性)が実質的な影響を受けていない塩基 配列のことをいう。
[0019] 相同 DNAの具体例は、配列番号 19で示される塩基配列に相補的な塩基配列に
対してストリンジェントな条件下でハイブリダィズする DNAである。ここでの「ストリンジ ェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリツ ドが形成されない条件をいう。このようなストリンジヱントな条件は当業者に公知であつ て ί列 ば Molecularし loning (Third Edition,し old bpnng Harbor Laboratory Press, N ew York)や Current protocols in molecular biology (edited by Frederick M. Ausubel et al, 1987)を参照して設定することができる。ストリンジェントな条件として例えば、 ハイブリダィゼーシヨン液(50%ホルムアミド、 10 X SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium ci trate, pH 7.0)、 5 X Denhardt溶液、 1% SDS、 10%デキストラン硫酸、 10 /z g/mlの変 性サケ精子 DNA、 50mMリン酸バッファー (pH7.5))を用いて約 42°C〜約 50°Cでイン キュベーシヨンし、その後 0.1 X SSC、 0.1% SDSを用いて約 65°C〜約 70°Cで洗浄する 条件を挙げることができる。更に好ましいストリンジェントな条件として例えば、ハイプリ ダイゼーシヨン液として 50%ホルムアミド、 5 X SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate , pH 7.0)、 I X Denhardt溶液、 1%SDS、 10%デキストラン硫酸、 10 g/mlの変性サケ 精子 DNA、 50mMリン酸バッファー (pH7.5))を用いる条件を挙げることができる。 相同 DNAの他の具体例として、配列番号 19で示される塩基配列を基準として 1若 しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む塩基配列力 なり、 F AD— GDH活性をもつタンパク質をコードする DNAを挙げることができる。塩基の置 換ゃ欠失などは複数の部位に生じて 、てもよ 、。ここでの「複数」とは、当該 DNAが コードするタンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異な るが例えば 2〜40塩基、好ましくは 2〜20塩基、より好ましくは 2〜 10塩基である。以 上のような相同 DNAは例えば、制限酵素処理、ェキソヌクレアーゼゃ DNAリガーゼ 等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapte r 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やランダム突然変異導入法( Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press , New York)による変異の導入などを利用して、塩基の置換、欠失、挿入、付加、及 び Z又は逆位を含むように配列番号 19で示される塩基配列を有する DNAを改変す ることによって得ることができる。また、紫外線照射など他の方法によっても相同 DNA を得ることができる。
相同 DNAの更に他の例として、 SNP (—塩基多型)に代表される多型に起因して 上記のごとき塩基の相違が認められる DNAを挙げることができる。
[0021] 本発明の遺伝子は、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし 、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いること によって単離された状態に調製することができる。具体的には、適当な糸状菌類、酵 母菌類のゲノム DNAライブラリー又は cDNAライブラリー、或は糸状菌類、酵母菌類 の菌体内抽出液から、本発明の遺伝子に対して特異的にハイブリダィズ可能なオリ ゴヌクレオチドプローブ 'プライマーを適宜利用して調製することができる。オリゴヌク レオチドプローブ 'プライマーは、市販の自動化 DNA合成装置などを用いて容易に 合成することができる。尚、本発明の遺伝子を調製するために用いるライブラリーの 作製方法については、例えば Molecular Cloning, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照できる。
例えば、配列番号 19で示される塩基配列を有する遺伝子であれば、当該塩基配 列又はその相補配列の全体又は一部をプローブとしたノ、イブリダィゼーシヨン法を利 用して単離することができる。また、当該塩基配列の一部に特異的にハイブリダィズ するようにデザインされた合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いた核酸増幅反応( 例えば PCR)を利用して増幅及び単離することができる。
[0022] (ベクター)
本発明のさらなる局面は本発明の遺伝子を含有するベクターに関する。本明細書 において用語「ベクター」は、それに挿入された核酸分子を細胞等のターゲット内へ と輸送することができる核酸性分子をいい、その種類、形態は特に限定されるもので はない。従って、本発明のベクターはプラスミドベクター、コスミドベクター、ファージ ベクター、ウィルスベクター(アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウィルスベクター、レ トロウィルスベクター、ヘルぺスウィルスベクター等)の形態をとり得る。
使用目的 (クローニング、タンパク質の発現)に応じて、また宿主細胞の種類を考慮 して適当なベクターが選択される。ベクターの具体例を挙げれば、大腸菌を宿主とす るベクター(M13ファージ又はその改変体、 λファージ又はその改変体、 pBR322又は その改変体 (pB325、 pAT153、 pUC8など)など)、酵母を宿主とするベクター(pYepSe
cl、 pMFa、 pYES2等、昆虫細胞を宿主とするベクター(pAc、 pVLなど)、哺乳類細胞 を宿主とするベクター(pCDM8、 pMT2PCなど)等である。
[0023] 本発明のベクターは好ましくは発現ベクターである。「発現ベクター」とは、それに挿 入された核酸を目的の細胞 (宿主細胞)内に導入することができ、且つ当該細胞内に おいて発現させることが可能なベクターをいう。発現ベクターは通常、挿入された核 酸の発現に必要なプロモーター配列や発現を促進させるェンノヽンサ一配列等を含 む。選択マーカーを含む発現ベクターを使用することもできる。かかる発現ベクター を用いた場合には選択マーカーを利用して発現ベクターの導入の有無 (及びその程 度)を確認することができる。
本発明の遺伝子のベクターへの挿入、選択マーカー遺伝子の挿入 (必要な場合) 、プロモーターの挿入 (必要な場合)等は標準的な組換え DNA技術 (例えば、 Molec ularし loning, Third Edition, 1.84, Cold bpnng Harbor Laboratory Press, New Yor を参照することができる、制限酵素及び DNAリガーゼを用いた周知の方法)を用い て行うことができる。
[0024] (形質転換体)
本発明は更に、本発明の遺伝子が導入された形質転換体に関する。本発明の形 質転換体では、本発明の遺伝子が外来性の分子として存在することになる。本発明 の形質転換体は、好ましくは、上記本発明のベクターを用いたトランスフエクシヨン乃 至はトランスフォーメーションによって調製される。トランスフエクシヨン、トランスフォー メーシヨンはリン酸カルシウム共沈降法、エレクト口ポーレーシヨン (Potter, H. et al., P roc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161—7165(1984》、リポフエクシヨン (Feigner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413—7417(1984》、マイクロインジェクション (Gr aessmann, M. & Graessmann.A., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 73,366-370(1976》、 Hanahanの方法 (Hanahan, D., J. Mol. Biol. 166, 557-580(1983》、酢酸リチウム法 (Sc hiestl, R.H. et al., Curr. Genet. 16, 339-346(1989))、プロトプラスト ポリエチレング リコール法 (Yelton, M.M. et al, Proc. Natl. Acad. Sci. 81, 1470- 1474(1984》等によ つて実施することができる。
宿主細胞としては大腸菌などの細菌細胞、酵母細胞(例えば、 Saccharomyces cere
visiae, Schizosaccharomyces pombe, Pichia pastoris)、糸状菌糸田胞 (例えば、 Aspergil lus oryzae, Aspergillus niger)等を f列 すること でさ 。
[0025] (FAD— GDHの製造法)
本発明の更なる局面は FAD— GDHの製造法を提供する。本発明の製造法の一 態様では、本酵素 (FAD— GDH)の生産能を有する微生物を培養するステップ (ス テツプ(1) )及び培養後の培養液及び Z又は菌体より、フラビンアデ-ンジヌクレオチ ド結合型グルコース脱水素酵素を回収するステップ (ステップ(2) )が行われる。
ステップ(1)に使用される微生物として例えば上記の Aspergillus oryzae BB— 56等を使用することができる。培養法及び培養条件は、目的の酵素が生産されるも のである限り特に限定されない。即ち、本酵素が生産されることを条件として、使用す る微生物の培養に適合した方法や培養条件を適宜設定できる。以下、培養条件とし て、培地、培養温度、及び培養時間を例示する。
[0026] 培地としては、使用する微生物が生育可能な培地であれば、如何なるものでも良!、 。例えば、グルコース、シュクロース、ゲンチオビオース、可溶性デンプン、グリセリン、 デキストリン、糖蜜、有機酸等の炭素源、更に硫酸アンモ-ゥム、炭酸アンモ-ゥム、 リン酸アンモ-ゥム、酢酸アンモ-ゥム、あるいは、ペプトン、酵母エキス、コーンステ ィープリカ一、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等の窒素源、更にカリウム塩、 マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等の無機塩を添 カロしたものを用いることができる。使用する微生物の生育を促進するためにビタミン、 アミノ酸などを培地に添カ卩してもよい。培地の pHは例えば約 3〜8、好ましくは約 5〜 7程度に調整し、培養温度は通常約 10〜50°C、好ましくは約 25〜35°C程度で、 1 〜15日間、好ましくは 3〜7日間程度好気的条件下で培養する。培養法としては例 えば振盪培養法、ジャー'フアーメンターによる好気的深部培養法が利用できる。
[0027] 以上の条件で培養した後、培養液又は菌体より FAD— GDHを回収する (ステップ
(2) )。培養液力 回収する場合には、例えば培養上清をろ過、遠心処理等すること によって不溶物を除去した後、限外ろ過膜による濃縮、硫安沈殿等の塩析、透析、 各種クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて分離、精製を行うことにより本酵素を 得ることができる。
他方、菌体内から回収する場合には、例えば菌体を加圧処理、超音波処理などに よって破砕した後、上記と同様に分離、精製を行うことにより本酵素を得ることができ る。尚、ろ過、遠心処理などによって予め培養液力 菌体を回収した後、上記一連の 工程 (菌体の破砕、分離、精製)を行ってもよい。
尚、各精製工程では原則として FAD— GDH活性を指標として分画を行い、次のス テツプへと進む。但し、予備試験などによって、適切な条件を既に設定可能な場合に はこの限りでない。
[0028] 本発明の他の態様では、上記の形質転換体を用いて FAD— GDHを製造する。こ の態様の製造法ではまず、それに導入された遺伝子によってコードされるタンパク質 が産生される条件下で上記の形質転換体を培養する (ステップ (i) )。様々なベクター 宿主系に関して形質転換体の培養条件が公知であり、当業者であれば適切な培養 条件を容易に設定することができる。培養ステップに続き、産生されたタンパク質 (即 ち、?八0— 0011)を回収する(ステップ^) )。回収及びその後の精製については、 上記態様の場合と同様に行えばよい。
[0029] 本酵素の精製度は特に限定されないが、例えば比活性が 50〜160(UZmg)、好 ましくは比活性が 100〜160(UZmg)の状態に精製することができる。また、最終的 な形態は液体状であっても固体状 (粉体状を含む)であってもよ ヽ。
[0030] (FAD— GDHの用途)
本発明の更なる局面は本酵素の用途に関する。この局面ではまず、本酵素を用い たグルコース測定法が提供される。本発明のグルコース測定法では本酵素による酸 化還元反応を利用して試料中のグルコース量を測定する。本発明は例えば血糖値 の測定、食品(調味料や飲料など)中のグルコース濃度の測定などに利用される。ま た、発酵食品(例えば食酢)又は発酵飲料 (例えばビールや酒)の製造工程にお 、て 発酵度を調べるために本発明を利用してもよい。本酵素では補酵素である FADが常 に GDHに結合していることから測定に際して補酵素の添加が不要であり、簡便な測 定系を構築できる。
本発明はまた、本酵素を含むグルコース測定用試薬を提供する。当該試薬は上記 の本発明のグルコース測定法に使用される。
[0031] 本発明は更に、本発明のグルコース測定法を実施するためのキット(グルコース測 定用キット)を提供する。本発明のキットは、本酵素を含むグルコース測定用試薬の 他、反応用試薬、緩衝液、グルコース標準液などを任意の要素として含む。また、本 発明のグルコース測定キットには通常、使用説明書が添付される。
実施例
[0032] 1. FAD— GDH生産菌のスクリーニング
(,1— 1) Aspergillus oryzaeの; ¾·
Aspergillus oryzaeの 7菌株(BB— 56、 IAM2603、 IAM2628、 IAM2683、 I AM2736、 IAM2706, NBRC30113)を以下の方法によって培養した。
[0033] (1 1 1)前培養
酵母エキス(Becton, Dickinson Company) 0. 2% (w/v)、大豆ペプトン(D MV社) 1. 0% (w/v)、グルコース(和光純薬工業株式会社) 2. 0% (w/v)、 KH P
2
O (和光純薬工業株式会社) 0. 1% (w/v)、及び MgSO · 7Η O (シグマ'アルドリツ
4 4 2
チ'ジャパン株式会社) 0. 05% (w/v) (pH5. 7)の組成からなる培地 50mLを 300m L容の三角フラスコに分注し、 121°C、 0. 12MPaで 20分間殺菌した。冷却後、 Asp ergillus oryzaeの各種菌株をスラント 5 X 5mm角で接種し、 30°C、 200rpmで 3日 間前培養を行った。
[0034] (1 1 2)本培養
グルコース 15. 0% (w/v)、 Meast PIG (アサヒフードアンドへルスケア株式会社) 3. 0% (w/v)、大豆ペプトン 6. 0% (w/v)、 KH PO 0. 3% (w/v)、 K HPO (和光
2 4 2 4 純薬工業株式会社) 0. 2% (w/v)、及び 4mM Hydroquinone (和光純薬工業株 式会社)(ρΗ6. 0)の組成からなる培地 50mLを 300mL容の三角フラスコに分注し、 121°C、 0. 12MPaで 20分間殺菌した。冷却後、上記前培養の培養液 lmLを接種 し、 30°C、 200rpmで 4日間本培養を行った。培養終了後、培養液を No. 2のろ紙( アドバンテック株式会社)でろ過し、各菌株の培養ろ液の FAD— GDH活性の有無を 確認した。
[0035] (1 2) ?八0— 0011活性の検出
FAD GDHは、電子受容体存在下でダルコースの水酸基を酸化してダルコノー
δ ラタトンを生成する反応を触媒する。 FAD— GDH活性の検出は、下記の反応 系で行った。
[数 1]
(1) D グノレコース + PMS → D グルコノー(3—ラタ トン + 還元型 PMS
(2) 2還元型 PMS + ΝΤΒ → 2 PMS + D i f o rma z a n
[0036] 尚、式中の PMSは Phenazine methosulfateを表し、 NTBは Nitrotetrazoriu m blueを表す。
反応(1)において、グルコースの酸ィ匕に伴って還元型 PMSが生成し、更に反応(2 )において還元型 PMSによる NTBの還元により生成した Diformazanを 570nmの 波長で測定する。
酵素活性 (ユニット)は以下の計算式によって算出される。
[数 2]
Δ O D/min( Δ ODtest- Δ ODblank) XVtXdf
酵素活性 =
(U/mL) 20. 1 X I . 0 XVs 尚、式中の Vtは総液量を、 Vsはサンプル量を、 20.1は diformazanの 0.5 ^ mol eあたりの吸光係数 (cm2/0.5 mole)を、 1.0は光路長(cm)を、 dfは希釈倍数を それぞれ表す。
[0037] 0.22%(w/v)トリトン X— 100を含む 50mM PIPES— NaOH緩衝液 pH6.5 2 .55mL、 1M D—グルコース溶液 0.09mL、 3mM PMS溶液 0.2mL、及び 6. 6mM NTB溶液 0. ImLを混合し、 37°Cで 5分間保温後、上記培養ろ液 0. ImLを 添加し、反応を開始した。酵素反応の進行と共に 570nmに吸収を持つ Diformazan が生成される。 1分間あたりの 570nmにおける吸光度の増加を測定することにより、 F AD - GDH活性を測定した。
その結果、 Aspergillus oryzae BB— 56、 IAM2603、 IAM2628、 IAM2683 、 IAM2736, IAM2706、 NBRC30113由来の培養ろ液中に FAD— GDH活性が 検出された(表 1)。特に、 Aspergillus oryzae BB— 56及び NBRC30113の生産
性が優れていた
[表 1]
表 1 . FAD一 GDH生産菌のスクリーニング
菌名 活性
(u/mL)
Aspergilk JS oryzae BB— 56 1.97
Aspergilk JS oryzae IAM2063 0.1 1
Aspergilk JS oryzae IAM2628 0.87
Aspergilk JS oryzae IAM2683 0.41
Aspergilk JS oryzae IAM2736 0.20
Aspergilk JS oryzae IAM2706 0.75
Aspergilk JS oryzae NBRC301 1 3 2.12
[0038] 2. FAD— GDHの生産、及び酵素の精製
(2— 1)菌株の培養
Aspergillus oryzae BB— 56を培養して FAD— GDHを生産させた。酵母ェキ ス 0. 2% (w/v)、大豆ペプトン 0. 5% (w/v)、グルコース 2. 0% (w/v)、 KH PO
2 4
0. 1% (w/v)、 MgSO · 7Η O 0. 05% (w/v) (pH5. 7)の組成からなる前培養の
4 2
培地を調製した。この液体培地 50mLを 300mL三角フラスコに分注し、 121°C、 0. 12MPaで 20分間殺菌後、 Aspergillus oryzae BB— 56を接種し、 30。C、 200rp mで 3日間培養した。
FAD— GDHの生産は、以下の組成からなる本培養の培地で行った。グルコース 1 0. 0% (w/v)、 Meast PIG 2. 0% (w/v)、大豆ペプトン 4. 0% (w/v)、 KH PO
2 4
0. 3% (w/v)、 K HPO 0. 2% (w/v)、及び 4mM Hydroquinone (pH6. 0)
2 4
。この本培養の培地 20Lを 30Lジャ一'フアーメンター中で 121°C、 0. 12MPa、 200 rpmで 20分間殺菌後、 30°Cに冷却した。上記前培養の培養液 200mLを本培養の 培地に接種し、 30。C、 350rpm、 0. 05MPa、通気量 0. 75wmで 4日間培養するこ とにより、 FAD— GDHの生産を行った。
[0039] (2— 2) FAD— GDHの精製
上記のようにして得られた 30Lジャ一'フアーメンターの培養液 15. 0Lをシリカ # 60
OS (中央シリカ株式会社)を用いた珪藻土ろ過により培養液中の菌体及びその他の 固形成分を除去した。該操作によって得られた清澄液 16. 4Lを限外ろ過膜 (ACP — 3013、 13, 000カット、旭化成株式会社、以下同様)で 3. 0Lに脱塩 '濃縮した。 該濃縮液を 90%飽和硫安で塩析処理し、遠心上清を限外ろ過膜により脱塩(10mm ol/L Mcllvaineバッファー pH5. 5) ·濃縮を行い、 pH5. 5、電導度 1. lOmS/cm に調整した。該脱塩'濃縮液を 10mmol/L Mcllvaineバッファー pH5. 5で平衡化し た CM— Sepharose Fast Flow 刀フム谷積 1, 000mL、 Amersham Bioscien ces)にアプライし、 FAD— GDHをカラムに吸着させた。 10mmol/L Mcllvaineバッ ファー pH5. 5でカラムを洗浄後、 0. lmol/L NaClを含む 10mmol/L Mcllvaine バッファー pH5. 5で FAD— GDHを溶出させ、 FAD— GDH活性画分を回収した。 回収した活性画分を限外ろ過膜で濃縮し、該濃縮液を 2. 5mol/L硫酸アンモ-ゥム を含む 10mmol/L K HPO—NaOHバッファー pH6. 5で平衡化した Octvl— Sep
2 4
harose (カラム容積 200mL)にアプライし、 FAD— GDHをカラムに吸着させた。 2. 5mol/L硫酸アンモ-ゥムを含む 10mmol/L K HPO—NaOHバッファー pH6. 5で
2 4
カラムを洗浄後、同ノ ッファー中の硫酸アンモ-ゥムの濃度を段階的に 2. 0、 1. 5、 1. 0、 0. 5mol/Lに変更することにより、 FAD— GDHを溶出させた。 FAD— GDHの 活性画分を回収し、限外ろ過膜で脱塩(20mmol/L K HPO—NaOHバッファー p
2 4
H6. 5) '濃縮した。該脱塩'濃縮液を 20mmol/L KH PO -NaOH pH6. 5バッ
2 4
ファーで平衡化した DEAE— Sepharose CL— 6B (カラム容積 50mL、 Amersha m Biosciences)にアプライし、 20mmol/L KH PO -NaOH pH6. 5バッファー
2 4
により FAD— GDHを溶出させた。この画分を限外ろ過膜により脱塩(lOmmol/L K H PO -NaOH pH6. 5) '濃縮することにより、 FAD— GDHの精製酵素標品を
2 4
得た。表 2に示すように、精製酵素の収率は、珪藻土ろ液に対して 14%の収率であり 、比活性は約 41, 000倍に上昇した。
[0040] 3.分子量の測定
(3- 1)ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS— PAGE)によ る FAD— GDHの分子量の測定
Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD— GDHの分子量を SDS— PA GEにより測定した。ゲルは Homogeneously. 5 (GE Healthcare Bio— Scienc es)、分子量マーカーは Protein Molecular Markers 14. 4— 97kDa (GE H ealthcare Bio— Sciences)を使用し、 PhastSystem (GE Healthcare Biosci ences)により行った。 PhastGel Blue R (クマシ一 R350染色)でゲル上の蛋白質 のバンドを染色し、蛋白質を検出した。その結果、分子量 lOOkDaの付近に単一バ ンドとして検出された (図 1)。
[0041] (3- 2)ゲルろ過クロマトグラフィーによる FAD— GDHの分子量の測定
Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製?八0— 0011の分子量を11?1^ (1^ - 10 AD VP、株式会社島津製作所)によるゲルろ過クロマトグラフィーにより測定 した。 0. 3M NaClを含んだ 50mMリン酸バッファー pH6. 9で平衡化した TSK— g el G3000SW(7. 5mml. D. X 30cm、東ソ一株式会社)に精製 FAD— GDH溶 液 25 μ Lをアプライし、カラム温度 25°C、流速 0. 7mL/minで同バッファ一により溶 出させ、 280nmの吸光度を測定した。分子量マーカー(MW— Marker proteins, オリエンタル酵母工業株式会社)により検量線を作成した結果、精製 FAD— GDHは 分子量が約 400, 000の蛋白であることが示された(図 2)。
[0042] Aspergillus oryzae BB— 56、 IAM2603、 IAM2628、 IAM2683, IAM273 6、 IAM2706、 NBRC30113の各菌株が生産する FAD— GDHの分子量を比較し た。 0. 1M KH PO—NaOHバッファー pH6. 5で平衡化した Sephadex G— 10
0 (直径 2. 2cm X 高さ 105cm、カラム容積 360mLゝ GE Healthcare Bio— Sc iences)に Aspergillus oryzae BB— 56、 IAM2603、 IAM2628、 IAM2683、 I AM2736、 IAM2706, NBRC30113の培養ろ液3mLをァプラィし、 FAD— GDH をカラムにチャージさせた。チャージした FAD— GDHを上記バッファーで溶出し、溶 出画分を回収し、各画分の FAD— GDH活性を上記 1.の方法で測定した。分子量 マーカーにより検量線を作成した結果、何れの培養ろ液も分子量約 400, 000の位 置で FAD— GDH活性が検出された(図 3)。このことから、 Aspergillus oryzae B B— 56、 IAM2603、 IAM2628, IAM2683、 IAM2736, IAM2706, NBRC30 113由来の FAD— GDHは、共通して分子量 400, 000の蛋白質であることが示さ れた。
[0043] 4.吸収スペクトル
A. oryzae BB— 56由来の精製 FAD— GDHを 10mMリン酸バッファー pH6. 5 で希釈し、 400— 800nmにおける吸収スペクトルを吸光度計 (株式会社島津製作所 )によりスキャンした。その結果、フラビン酵素に特有の 460nm付近に極大吸収があ ることが示されたことから、この酵素は、フラビン結合蛋白質であることが確認された( 図 4)。
[0044] 5. FAD— GDHの至適 ρΗ·温度、及び ρΗ·温度安定性
(5— 1)至適 ρΗの検討
0. 22% (w/v)トリトン X— 100を含む lOOmM Mcllvaineバッファー(pH4. 5、 pH 5. 0、 pH6. 0、 pH7. 0、又は pH8. 0に調整) 2. 55mL、 1M D—グルコース溶液 0. lmL、 3mM PMS溶液 0. 2mL、及び 6. 6mM NTB溶液 0. ImLを混合し、 3 7°Cで 5分間保温後、 Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD— GDH溶 液 0. ImLを添カ卩し、反応を開始した。酵素反応によって生成する Diformazanを 57 Onmの吸光度で測定し、 1分間当たりの Diformazanの生成量を測定することにより 酵素活性を測定した。 Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD— GDHの 至適 pHは、 7. 0であった(図 5)。
[0045] (5— 2)至適温度の検討
0. 220/0 (w/v)トリトン X— 100を含む 50mM PIPES— NaOHバッファー pH6. 5
2. 55mL、 1M D—グルコース溶液 0. lmL、 3mM PMS溶液 0. 2mL、及び 6. 6 mM NTB溶液 0. ImLを混合し、 30、 37、 45、 55、 60又は 65。Cで 5分間保温後、 Aspergillus oryzae 88— 56由来の精製 八0— 0011溶液0. ImLを添カ卩し、 3 0、 37、 45、 50、 55、 60又は 65°Cで反応を開始した。酵素反応によって生成する Di formazanを 570nmの吸光度で測定し、 1分間当たりの Diformazanの生成量を測 定することにより酵素活性を測定した。 Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 F AD— GDHの至適温度は約 60°Cであった(図 6)。
[0046] (5— 3) pH安定性の検討
精製 FAD— GDH溶液を 0. 1M酢酸バッファー(pH3、 pH4)、 0. 1M Mcllvain eノ ッファー(pH4. 5、 pH5. 0、 pH6. 0、 pH7. 0、 pH8. 0)、又は 0. 1M Na CO
2
-NaHCOバッファー(pH9. 5)で希釈し(50U/mL)、各 pHにおいて 37°Cで 30
3 3
分間処理した。各処理液を 0. 2M KH PO—NaOHバッファー pH6. 5で適宜希
2 4
釈し、上記 1.の方法で FAD— GDH活性を測定した。コントロールとして 0. 1M K H PO—NaOHバッファー pH6. 5で希釈した氷冷保存した精製 FAD— GDHの活
2 4
性も測定した。その結果、 FAD— GDHは、少なくとも pH3. 0— 7. 0の範囲で 80% 以上の活性を維持しており、 pH3. 0〜7. 0の範囲で安定であることが示された(図 7
) o
[0047] (5— 4)温度安定性の検討
精製 FAD— GDHを ImM塩化カルシウム、 0. 1% (w/v)トリトン X— 100、及び 0. l% (w/v)ゥシ血清アルブミンを含む 50mM PIPES— NaOHバッファー pH6. 5で lUZmLに希釈し、各指定温度(5、 30、 40、 50、又は 60°C)で 20分間処理した。 氷中で冷却後、各処理液を ImM塩化カルシウム、 0. 1% (w/v)トリトン X— 100、 0 . 1% (w/v)ゥシ血清アルブミンを含む 50mM PIPES— NaOHバッファー pH6. 5 で希釈し、上記 1.に記載の方法で FAD— GDH活性を測定した。コントロールとして 、熱処理していない酵素の FAD— GDHも測定した。その結果、 FAD— GDHは 40 °C以下でほぼ 100%の活性を維持して 、たことから、 40°C以下で安定であることが 示された(図 8)。
[0048] 6.等電点の測定
Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD— GDH溶液 3mLをダイァライシ スメンプレン 36 (和光純薬工業株式会社)に入れ、精製水に浸漬し、 4°Cで一晩、透 析を行った。この透析サンプルをグリセロール密度勾配電気泳動に供した。カラム容 直 l lOmL、両性担体 (Pharmalyte '3— 10 for IEF (Amersham Biosciences
AB)、平均終濃度 1%)、を使用し、 5°Cで 400Vの定電圧で 48時間、通電を行つ た。通電後、約 2mL/minの流速でサンプルの回収を行った(1フラクションを 1. 5m とした)。各フラクションの pH及び FAD— GDH活性を測定した結果、 Aspergillus oryzae BB— 56由来の FAD— GDHの piは、 6. 4であった(図 9)。
[0049] 7.基質特異性
(7— 1)基質特異性の検討 1 (精製 FAD— GDHの基質特異性)
0. 220/0 (w/v)トリトン X— 100を含む 50mM PIPES— NaOHバッファー pH6. 5 2. 55mL、 1M 基質(D—グルコース、マルトース、ガラクトース、キシロース、マルト トリオース、マルトへキサオース、又はマルトペンタオース)溶液 0. 09mL、 3mM P MS溶液 0. 2mL、及び 6. 6mM NTB溶液 0. ImLを混合し、 37°Cで 5分間保温後 、精製 FAD— GDH溶液 0. ImLを添加し、反応を開始した。酵素反応によって生成 する Diformazanを 570nmの吸光度で測定し、 1分間当たりの Diformazanの生成 量を測定することにより酵素活性を測定した。 D—グルコースに対する反応速度を 10 0%とした各基質に対する相対活性を算出した (表 3)。
[表 3]
性
マル! ス 0.582
ガラクト一ス 0.349
キシ口一ス 22.7
マルトトリオ一ス 0.239
マルトへキサォ一ス 0.479
マルトペンタォ一ス 4.55
[0050] (7- 2)基質特異性の検討 2 (各菌株が生産する FAD— GDHの基質特異性の比較 )
(7— 2— 1)酵素サンプルの調製
Aspergillus oryzae BB— 56、 IAM2603、 IAM2628、 IAM2683、 IAM2736 、 IAM2706,又は NBRC30113由来の各培養ろ液 lOmLをダイァライシスメンブレ ン 36に入れ、 10mM KH PO— NaOH中、 4°Cでー晚、透析を行った。
2 4
[0051] (7— 2— 2)相対活性の測定
2mM塩化カルシウムを含む 20mM MOPSバッファー pH7. 0 2. 5mL、 0. 4M 基質溶液(D—グルコース、 2—デォキシグルコース、キシロース、フルクトース、マン ノース、又はマルトース) 0. 3mLを混合し、 25°Cで 5分間保温後、 20mM PMS溶 液 0. 05mL、 4mM DCIP (2, 6— dichloroindophenol)溶液 0. 05mL、各透析 サンプル 0. ImLを添カ卩して酵素反応を開始した。本還元反応による DCIP減少を 6 OOnmの吸光度で測定することによって、 FAD— GDH活性を測定した。 D—ダルコ 一スを基質としたときの活性を 100%とし、各基質に対する相対活性を算出した (表 4 )。この結果より、 Aspergillus oryzae BB— 56、 IAM2603、 IAM2628、 IAM2 683、 IAM2736, IAM2706,又は NBRC30113由来の FAD— GDHの基質特異 性は同じであることが示された。
[表 4] 表 4.各基質に対する相対活性の比較
相対活性 (%)
基質 BB-56 IAM2603 IA 2628 IAM2683 IA 2736 IAM2706 NBRC301
1 3 グルコース 100 100 100 100 100 100 100
2-デォキジグルコース 35.1 29.0 34.2 32.7 31.3 33.9 35.3 キシロース 17.6 16.1 16.4 17.3 14.6 16.1 17.6 フルク! ス 0 0 1.40 0 0 0 0 マンノース 1.40 0 2.70 1.90 2.10 0 1.20 マル! ス 0 0 0 0 0 0 0
[0052] 8.ミカエリス-メンテン (Michaelis- Menten、 Km)定数の測定
0. 220/0 (w/v)トリトン X— 100を含む 50mM PIPES— NaOHバッファー pH6. 5 2. 55mL、 (6. 1— 610mM D—グルコース溶液 0. lmL、 3mM PMS溶液 0. 2 mL、及び 6. 6mM NTB溶液 0. ImLを混合し、 37°Cで 5分間保温後、精製 FAD — GDH溶液 0. ImLを添加し、反応を開始した。酵素反応によって生成する Dif or mazanを 570nmの吸光度で測定し、 1分間当たりの Diformazanの生成量を測定
することにより酵素反応速度を測定した。 Lineweaver-burk plotにより Km値を算 出(図 10)した結果、精製 FAD— GDHの D—グルコースに対する Km値は 8. 2mM であった。
[0053] 9.糖含量
フエノール硫酸法で酵素蛋白あたりの糖含量を測定した。精製 FAD—GDH溶液 1 . OmL、 5% (w/v)フエノール溶液 1. OmL、 98%硫酸 5. OmLを混合し、室温で 20 分間放置した。流水で冷却後、 490nmの吸光度を測定した。 0— 0. 03mg/mLの D -グルコース標準液で検量線を作成(図 11)し、酵素 lmgあたりの糖含量を算出した 。その結果、 FAD— GDHの糖含量は、酵素 lmg当たり 0. 43mg (43%)であった。
[0054] 10.グルコースォキシダーゼ(GO)との比較
(10— 1) FAD— GDH活性の測定
0. 220/0 (w/v)トリトン X— 100を含む 50mM PIPES— NaOHバッファー pH6. 5
2. 55mL、 1M D—グルコース溶液 0. lmL、 3mM PMS溶液 0. 2mL、及び 6. 6mM NTB溶液 0. lmLを混合し、 37°Cで 5分間保温後、適宜希釈した酵素溶液( Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD— GDH、又は GO (天野ェンザィ ム株式会社)) 0. lmLを添加し、 37°Cで反応を開始した。酵素反応によって生成す る Diformazanを 570nmの吸光度で測定し、 1分間当たりの Diformazanの生成量 を測定することによって酵素活性を測定した。
[0055] (10— 2) GO活性の測定
グルコースォキシダーゼ活性は、以下の反応原理で測定される。
[数 3] 反応 1 : D—グルコース + 0 2 → D—ダルコノー όーラク トン + Η 2 0 2
反応 2 : Η 2 0 2 + 4ーァミノアンチピリン + フエノール → キノンィミン染料 + 4 Η 2 0 反応 1において GOによって生成した H Oは、反応 2においてペルォキシダーゼに
2 2
よるキノンィミン染料の生成反応に使用される。キノンィミン染料を 500nmの吸光度 で測定することにより、 GO活性を測定した。 GO活性 1ユニットは、 37°Cにおけるこの 反応条件下において、 1分間に 1 μ moleの D—グルコースを酸ィ匕する酵素量と定義
する。以下に実際の測定方法を示す。
フエノーノレ溶液(0. 152%のフエノーノレと 0. 152%のトリトン X— 100を含む 0. 1M リン酸ノ ッファー pH7. 0) 2. OmL、 0. 555mol/L D—グルコース溶液 0. 5mL、 2 5U/mLペルォキシダーゼ(天野ェンザィム株式会社)溶液 0. 5mL、及び 4mg/mL
4—ァミノアンチピリン溶液 0. lmLを混合し、 37°Cで 5分間保温後、適宜希釈した 酵素溶液 (Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD— GDH、又は GO) 0. lmLを添加し、 37°Cで反応を開始した。反応開始 2分後及び 5分後の 500nmにお ける吸光度を測定した。また、酵素ブランクとして、酵素溶液の代わりに 0. 1Mリン酸 バッファー pH7. 0を添加し、同様に吸光度を測定した。以下の計算式で GO活性を 算出し 7こ。
[数 4]
( A 5 - A 2 ) 一 (A b 5 - A b 2 )
G O活性 g ) =
3 1 D m
X 3 . 2 X
2 . 8 8 X 1 / 2 0 . 1 上記式中の「3」は反応時間を、「12. 88」はキノンィミン染料の分子吸光定数 (mM )を、「1/2」は 2moleの H O力 lmoleのキノンィミン染料が生成することに基づく
2 2
係数を、「3. 2」は反応液の最終液量を、「0. 1」はサンプル量 (mL)を、「Dm」は希 釈倍数をそれぞれ表す。
この結果から、 Aspergillus oryzae BB— 56由来の精製 FAD— GDHは、専ら GDH活性を有し、 GO活性を実質的に有さないことが示された。一方、 GOは主とし て GO活性を有する力 GDH活性も併せ持つことが判明した (表 5)。即ち、 Aspergil lus oryzae BB— 56由来の FAD— GDHは、電子伝達系の物質を用いて D—グ ルコースを測定する際、 GOと比べて反応系の溶存酸素の影響を受けにくいことが示 された。
[表 5]
表 5. FAD— GDHと GOの比較
GDH活性 GO活性
Aspergillus oryzae BB— 56 FAD— GDH 1 1 9U/mL 0. 0025UZmし
GO 8. 86U/mL 67. 8U mし
[0057] 11.グルコース濃度の測定
本願発明に係る Aspergillus oryzae由来の FAD— GDHの利用例を以下に示 す。 0. 22%トリトン X— 100を含む 50mM PIPES— NaOHノ ッファー pH6. 5 2. 55mL、 D—グルコース溶液(0、 100、 200、 400、 600、 800、 1000mg/dL) 0. 10 mL、 3mM PMS溶液 0. 20mL、及び 6. 6mM NTB溶液 0. lOmLを混合し、 37 °Cで 5分間放置後、 Aspergillus oryzae BB— 56由来の FAD— GDH酵素液(0 . 3U/mL) 0. 10mLを添カ卩し、反応を開始した。酵素反応によって生成する Dif or mazanを 570nmの吸光度で測定し、 3分間当たりの 570nmにおける吸光度の増加 とグルコース濃度の関係を図 12に示した。 Aspergillus oryzae由来の FAD— GD Hは、 800mg/dL以下のグルコース濃度であれば、試料検体中のグルコース濃度を 精度よく測定できることが示された。
[0058] 12.阻害試験
以下の方法で対照群及び試験群(1, 10—フエナント口リン添加群)の酵素活性を 測定して両者を比較することにより、精製 FAD— GDHに対する 1, 10—フエナント口 リンの阻害効果を調べた。
(対照群の酵素活性の測定 (表 6を参照) )
[表 6]
対照群の測定法
0. 1M KH2P04-NaOH ρΗ7· 0 1. 0mL
1M グルコース溶液 w) 1. 0mL
3mM DCI P溶液 0. ImL
3mM 1-メ卜キシ PMS溶液 0. 2mL
精製水 0. 65mL
37°C, 5m i n予熱
サンプル 0. 05mL
37°C, 600nm (A1-A3)
*1)希釈バッファー: 0.1M KH PO -NaOH pH7.0
2 4
[0059] まず、 O. 1Mのリン酸カリウム緩衝液(pH7. O) 1. OmL、 1Mの D—グルコース溶液 1. OmL、 3mMのDCIP (2, 6—ジクロロフェノールインドフエノール) O. lmL、 3mM の 1ーメトキシ PMS (5—メチルフエナジゥムメチルサルフェイト)溶液 O. 2mL、精製 水 0. 65mLを石英セルに入れ、 37°Cで 5分間保温した。続いて、酵素溶液 0. 05m Lを添カ卩し、 DCIPの 600nmにおける吸光度変化(AABSZmin)を測定し、次式に よって酵素活性を算出した。
[数 5]
-AABS 3.0
酵素活性(unit/ml) = X X 酵素の希釈率
16.3 0.05
[0060] (試験群の酵素活性の測定 (表 7を参照) )
[表 7]
試験群 (阻害剤添加群) の測定法
0.1M KH2P04-NaOH pH7.0 1.0mL
1M グルコース溶液 I.OmL
3mM DCIP溶液 0.1mL
3mM トメトキシ PMS溶液 0.2mL
精製水 0.35mL
各濃度 1.10~フ1ナント卩リン溶液 0.3mL
37°C, 5m in予熱
サンプル 0.05mL
37°C, 600nm (A1-A3)
上記の測定法において、それぞれ終濃度が lmM、 5mM、 10mM、 25mM、及び 50mMとなるように 1, 10—フエナント口リンをカ卩えた場合の酵素活性を求めた。 (試験結果)
表 8に示すように、精製 FAD— GDHに対する 1, 10—フエナント口リンの阻害効果 は低く、 ImMの 1, 10—フエナント口リンでは 2%程度の阻害効果が認められるに過 ぎなかった。
[表 8]
13. Aspergillus oryzae BB— 56株の同定
(1)方法
(1 1)菌株
Aspergillus oryzae BB— 56
(1 2)培地組成
Klich, M. A. (2002). Iaentincation of し ommon Aspergillus species. Utrecht: Centr aalbureau voor Schimmelcultures, 116 pp.の報告を参考にし、以下の培地を調製した
CYA培地: K HPO lg, Czapek Concentrate 10mL, Yeast extract (Difco) 5g, Sucr
2 4
ose 30g,寒天(和光) 15g,精製水 lOOOmL
CZ培地: K HPO lg, Czapek Concentrate lOmL, Sucrose 30g,寒天(和光) 17.5g
2 4
,精製水 lOOOmL
CY20S培地: K HPO lg, Czapek Concentrate lOmL, Yeast extract. (Difco) 5g, Su
2 4
crose 200g,寒天(和光) 15g,精製水 lOOOmL
MEA培地: Malt extract (Difco) 20g, Glucose 20g, Bacto- peptone (Difco) lg, Agar (和光) 15g,精製水 lOOOmL
PDA培地: Potato dextrose agar (栄研)を用いた。
Czapek Concentrate: NaNO 30g, KC1 5g, MgSO - 7H O 5g, FeSO - 7H O O.lg, Z
3 4 2 4 2 nSO - 7H O O.lg, CuSO - 5H O 0.05g,精製水 lOOmL
4 2 4 2
(1 3)表現形質
生育度は、 25°C若しくは 37°Cで 7日間培養し、コロニーの直径を測定した。
生育状態は、 CYA培地、 CZ培地、 CY20S培地、 MEA培地で観察した (25°C、 7日間 )。
形態観察は、 CYA培地、 25°C培養で行った (6〜21日間培養)。
走査型電顕による分生子表面の観察は、 CYA培地で 25°C、 15日培養し、オスミウム 酸蒸気固定による処理を行い、観察した。
コロニーの色調は、日本園芸植物標準色票 (財団法人日本色彩研究所発行)に つ 7こ。
(2)結果
(2 - 1)生育度 (コロニーの直径)
各種培地における生育度(7日培養)を以下の表に示す。
[表 9] 各種培地における生育度 (7ョ培養)
[0064] (2— 2)生育状態
各種培地における生育状態 (25°C、 7日培養)を以下の表に示す。尚、色は、日本 園芸植物標準色票 (財団法人 日本色彩研究所発行)に従った (括弧内の数字は色 票番号)。
[表 10] 表 1 0 . 各種培地における生育状態 (25°C、 7日培養)
[0065] (2— 3)形態
Raper, K. B. & Fennell, D. I. (1965). The genus Aspergillus. Williams & Wilkins C
o., Baltimore, 686 pp.、 Kozakiewicz, Z. (1989). Aspergillus species on stored produc ts. Mycological Papers. No.161: 1— 188.、 Klich, M. A. (2002). Identification of Comm on Aspergillus species. Utrecht : Centraalbureau voor Schimmelcultures , 116 pp.、 S amson, R. A. Hoekstra, E. S. Frisvad, J. C. & Filtenborg, O. (2002). Introduction to food- and airborne lungi, 6th edn, pp.64— 97. Utrecht : Centraalbureau voor Schim melcultures, 389 pp.を参考にすると、 Aspergillus oryzae BB— 56は、コロニーの 色が濃緑黄色または暗緑黄色であること(表 7)、生育度が CYA培地 (25°C、 7日培養 )で 59〜62mm、 MEA培地(25°C、 7日培養)で 52〜64mmであること(表 6)、分生子頭 が放射状とゆるいカラム状であること、分生子柄が頂のうの下でくびれないこと、単列 と 2列のァスペルジラが混在すること、頂のうが亜球形な 、しフラスコ形でその直径が 10〜42 μ mであること、分生子が亜球形なぃし球形でその大きさカ .6〜8.8 5.2〜8 .8 μ m、表面が滑面な!/、しわずかに粗面であること(表 8)から Aspergillus oryzae であることが確認された。
[表 11] 表 1 1 . CYA培地での形態
14. Aspergillus oryzae BB— 56由来 FAD— GDHの同定
(1)アミノ酸配列の解析
ァスペルギルス ·ォリゼ (Aspergillus oryzae) BB - 56を培養し、得られた精製酵
素を 6.に示した方法で等電点分画した。得られた精製酵素をゲル PAG Mini DAIIC HI 7.5 (第一化学薬品株式会社)を用いた SDS-PAGEに供した。転写緩衝液 1 (0.3M Tris (pH10.4)、 20% methanol)、転写緩衝液 2 (30mM Tris (pH10.4)、 20% methanol)、 転写緩衝液 3 (40mM 6-aminohexanoic acid(pH7.6)、 20% methanol)を転写緩衝液とし て用い、泳動後のゲルを PVDF膜に転写した。転写操作は転写緩衝液 1を陽極側、 転写緩衝液 2をメンブレンを含む中央部、転写緩衝液 3を陰極側で用い、セミドライ 転写装置を用いて定電流 0.8mAZPVDF膜 cm2、 90minの条件下で行った。転写後に CBB (Coomassie Brilliant Blue R-250)染色を行い当該酵素にあたるバンドを切り出 し N末端アミノ酸配列解析用サンプルとした。同様に泳動後のゲルを CBB染色し当該 酵素にあたるバンドを切り出し、そのまま内部アミノ酸配列解析用サンプルとした。解 祈の結果、 N末端アミノ酸配列及び内部アミノ酸配列が明ら力となった。
[0067] (2) N末端アミノ酸配列〖こよる相同性検索
特開 2005— 176602により公開されたァスペルギルス'ォリゼ RIB40の遺伝子情 報のうち全 CDS配列を特開 2005— 176602の出願人より入手し、明らかになった N 末端アミノ酸配列による相同性検索をデータベースソフトウェア Kiroku Ver.3 (株式 会社ワールドフュージョン)を用いて実施した。その結果、 Glucose Oxidase Precurs orとホモロジ一のあるアミノ酸配列(特開 2005— 176602の配列表における配列番 号 20494)との間に高い相同性が認められた。同配列には内部アミノ酸配列解析に より明らかになったアミノ酸配列と一致する領域も存在していた。これらの事実より、同 配列 (配列番号 1)が当該酵素のアミノ酸配列に対応することが明らかになった。
[0068] (3)ァスペルギルス 'ォリゼ BB— 56からのゲノム抽出
ァスペルギルス'ォリゼ BB— 56を YPD培地(Yeast Extract 1%、 Peptone 2%、 Glue ose 2%) 100mlを入れた坂口フラスコを用いて 30°C—晚培養した後、ブフナー漏斗及 びヌッチ 吸引瓶を用いて培養液をろ過し、菌体を得た。 -80°Cで凍結後、凍結乾燥 して得られた重量約 0.3gの菌体を薬匙 1杯の海砂とともに乳鉢、乳棒を用いて破砕し 、 Extraction buffer (1% hexadecyltnmetnyiammonium bromide ^ 0.7M Naし 1、 50mM Tri s- HCl(pH8.0)、 lOmM EDTA、 1%メルカプトエタノール) 12mlに懸濁した。室温で 30分 回転撹拌を続けた後、等量のフエノール:クロ口ホルム:イソアミルアルコール(25:24: 1
)溶液を加えて攪拌、遠心分離 (l,500g、 5分、室温)して上清を得た。得られた上清 に等量のクロ口ホルム:イソアミルアルコール(24:1)溶液を加えて攪拌し、その後遠心 分離(l,500g、 5分、室温)を行った。その結果得られた上清に等量のイソプロパノー ルを穏や力にカ卩えた。この処理によって析出した染色体 DNAを遠心分離 (20,000g、 1 0分、 4°C)して得られた沈殿を 70%エタノールで洗浄し、真空乾燥した。このようにして 得られた染色体 DNAを再び TE 4mlに溶解し、 10mg/ml RNase A (シグマアルドリッチ ジャパン株式会社) 200 1をカ卩えた後、 37°C、 30分間インキュベートした。次いで、 20 mg/ml Proteinase K,recombinant,PCR Grade (ロシュ'ダイァグノスティックス株式会社 )溶液 40 1を加えて 37°C、 30分間インキュベートした後、等量のフエノール:クロロホ ルム:イソアミルアルコール (25 :24:1)溶液をカ卩えた。攪拌後、遠心分離(l,500g、 5分 、室温)し、上清を得た。この洗浄操作を 2回繰り返した後、得られた上清に等量のク ロロホルム:イソアミルアルコール (24: 1)溶液を加えて攪拌し、その後遠心分離(1 ,50 0g、 5分、室温)を行った。その結果得られた上清に対して、その 1/10容量の 3M NaO Ac(pH4.8)と 2倍容量のエタノールを加えて- 80°Cで冷却することにより染色体 DNAを 析出させた。析出した染色体 DNAを遠心処理 (20,000g、 20分、 4°C)により回収した。 回収された染色体 DNAを 70%エタノールで洗浄した後、真空乾燥させ、最後に 400 1 の TE溶液に溶解して濃度約 lmg/mlの染色体 DNA溶液を得た。
[0069] (4)合成プライマーの設計
配列番号 1のアミノ酸配列(特開 2005— 176602の配列表において配列番号 204 94で示される配列)をコードする全鎖長 3226bpの RIB40株由来遺伝子配列(配列番 号 2)の 5'、 3'両末端の配列に相当する合成プライマー FG-F、 FG- R (配列番号 3、 4 )を合成した。
[0070] (5) PCR法による FAD— GDH遺伝子の増幅
(3)で調製した染色体 DNAを铸型とした PCR反応を実施した。反応は TAKARA LA -Taq™ (タカラバイオ社)を用い、反応液組成は添付の定法に従った。プライマー (F G- F、 FG-R)をそれぞれ 0.4 M、铸型ゲノムを 10ng/ 1の濃度になるように加え PCR 反応を実施した。反応サイクルは次の通りとした。即ち、 94°C2分の反応後、 94°C30秒 の反応、 60°C30秒の反応、 72°C10分の反応力もなるサイクルを 35回繰り返し、最後
に 72°C10分の反応を行った。反応終了後、サンプルを 4°Cで保存した。
[0071] (6) FAD— GDH遺伝子の塩基配列解析
PCR反応液をァガロース電気泳動に供して増幅断片とプライマーを分離し、 GENE CLEAN™ ΠΙを (BIO 101社)用いてァガロースゲルカゝら抽出した。抽出した増幅断片 はベクター PUC19 (タカラバイオ社) Smalサイトにサブクローンした。その後サブクロー ンしたプラスミド PFG2の当該酵素遺伝子に相当する領域の塩基配列解析を実施した 。シークェンス反応は BigDye™ Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit (アプライドバ ィォシステムズジャパン株式会社)を用い、製品の使用説明書に従ってシークェンス 反応を行った。解析には ABI PRISM 310シークェンサ一(アプライドバイオシステムズ ジャパン株式会社)を使用した。当該酵素遺伝子の塩基配列解析を実施するために 合成プライマー FG-1 (配列番号 5)、 FG-2 (配列番号 6)、 FG-3 (配列番号 7)、 FG-4 (配列番号 8)、 FG-5 (配列番号 9)、 FG-6 (配列番号 10)、 FG-7 (配列番号 11)、 FG -8 (配列番号 12)、 FG-9 (配列番号 13)、 FG-10 (配列番号 14)、 FG-11 (配列番号 1 5)、 FG-12 (配列番号 16)、 M13-M5 (配列番号 17)、 M13-RV2 (配列番号 18)を合 成した。塩基配列解析の結果、配列番号 19に示す全鎖長 3241bpのァスペルギルス -ォリゼ BB— 56由来当該酵素遺伝子配列が明らかとなった。当該遺伝子配列より 予測した当該酵素遺伝子のアミノ酸配列を配列番号 20に示した。
産業上の利用可能性
[0072] 本発明の FAD— GDHは基質特異性に優れ、グルコース量をより正確に測定する ことを可能にする。従って本発明の FAD— GDHは血糖値の測定や食品(調味料や 飲料など)中のグルコース濃度の測定などに好適と!/、える。
[0073] この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものでは ない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々 の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その 全ての内容を援用によって引用することとする。