JP2017221147A - 新規グルコースデヒドロゲナーゼ - Google Patents
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Abstract
【課題】グルコースの測定に有用なFAD-GDH及びその用途を提供することを課題とする。【解決手段】(1)作用: 電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する;(2)基質特異性: D-グルコースに対する反応性を100%としたときのD-キシロースに対する反応性が12%以下である;(3)pH安定性: pH4〜5で安定である;(4)アミノ酸配列: 配列番号1に示すアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と80%以上同一のアミノ酸配列を含む、という特徴を備えるグルコースデヒドロゲナーゼが提供される。【選択図】なし
Description
本発明は新規グルコースデヒドロゲナーゼ(グルコース脱水素酵素)に関する。詳しくは、アスペルギルス属由来のフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(E.C.1.1.99.10)及びその用途に関する。
糖尿病患者は年々増加しており、糖尿病患者、特にインスリン依存性の患者は血糖値を日常的に監視し血糖をコントロールする必要がある。近年、酵素を用いてリアルタイムで簡便にかつ正確に測定できる自己血糖測定器で糖尿病患者の血糖値をチェック出来るようになった。グルコースセンサ(例えば、自己血糖測定器に使用されるセンサ)用として、グルコースオキシダーゼ(E.C.1.1.3.4)、PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(E.C.1.1.5.2)(例えば特許文献1〜3を参照)が開発されたが、酸素反応性、マルトース、ガラクトースへの反応性が問題となった。この問題を解決すべく、FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、「FAD-GDH」と略称する)が開発された(例えば特許文献4、5、非特許文献1〜4を参照)。
一般に、糖尿病判定検査時には、経口グルコース負荷試験だけでなく、経口キシロース負荷試験、経静脈キシロース負荷試験が実施される。FAD-GDHは概してキシロースへ反応することが知られており、FAD-GDHを用いた場合、上記負荷試験時に血糖値へ影響することが問題となる。
Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. I. Induction of its synthesis by p-benzoquinone and hydroquinone, T.C. Bak, and R. Sato, Biochim. Biophys. Acta, 139, 265-276 (1967).
Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. II. Purification and physical and chemical properties, T.C. Bak, Biochim. Biophys. Acta, 139, 277-293 (1967).
Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. III. General enzymatic properties, T.C. Bak, Biochim. Biophys. Acta, 146, 317-327 (1967).
Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. IV. Histidyl residue as an active site, T.C. Bak, and R. Sato, Biochim. Biophys. Acta, 146, 328-335 (1967).
FAD-GDHはキシロースに対する反応性の問題はあるものの、基質特異性に優れ、また、グルコースオキシダーゼのように測定サンプル中の溶存酸素の影響を受けることがないため、グルコースセンサ用の酵素として有望視されている。FAD-GDHを実用化するにあたっては、上記の通り、キシロースに対する反応性が問題となる。本発明は、このような状況に鑑み、特にグルコースセンサ用として実用性の高い新規FAD-GDH及びその用途等を提供することを課題とする。尚、キシロースに対する反応性が低いFAD-GDHも報告されているが(特許文献6)、グルコースセンサに応用した場合に特に重要となるpH安定性等の特性は明らかにされておらず、その実用的価値は不明である。
上記課題を解決すべく本発明者は、広範な微生物を対象として大規模なスクリーニングを実施した。その結果、キシロースに対する反応性が低い新規FAD-GDHを取得することに成功した。当該FAD-GDHの特性を調べたところ、グルコースセンサ用途に適したpH特性を示し、実用性が高いことが判明した。
更なる検討の結果、取得に成功した新規FAD-GDHのアミノ酸配列及び遺伝子配列を同定することに成功した。同定したアミノ酸配列を問い合わせ配列として公共のデータベースで検索したところ、グルコースオキシダーゼとして登録されている配列に高い同一性を示した。この事実は、一次構造上、既知のグルコースオキシダーゼに近似した酵素がFAD-GDH活性を示したことを意味し、特筆に値する。
以下の発明は、以上の成果及び考察に基づく。
[1]以下の特徴を備える、グルコースデヒドロゲナーゼ:
(1)作用: 電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する;
(2)基質特異性: D-グルコースに対する反応性を100%としたときのD-キシロースに対する反応性が12%以下である;
(3)pH安定性: pH4〜5で安定である;
(4)アミノ酸配列: 配列番号1に示すアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と80%以上同一のアミノ酸配列を含む。
[2]前記グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列と85%以上同一のアミノ酸配列である、[1]に記載のグルコース測定用酵素剤。
[3]アミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列である、[1]に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
[4]以下の特徴を備える、グルコースデヒドロゲナーゼ:
(1)作用: 電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する;
(2)基質特異性: D-グルコースに対する反応性を100%としたときのD-キシロースに対する反応性が12%以下である;
(3)pH安定性: pH4〜5で安定である;
(4)分子量: 約60kDa(SDS-PAGEによる)。
[5]基質特異性が、D-グルコースに対する反応性を100%としたときのD-キシロースに対する反応性が10%以下である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
[6]アスペルギルス・バージカラーに由来する酵素である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
[7]アスペルギルス・バージカラーがNo.52439株(受託番号:NITE BP−02262)である、[6]に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
[8]以下の(A)〜(C)からなる群より選択されるいずれかのDNAからなるグルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子:
(A)配列番号1に示すアミノ酸配列をコードするDNA;
(B)配列番号2に示す塩基配列からなるDNA;
(C)配列番号2に示す塩基配列と等価な塩基配列を有し、且つグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
[9][8]に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子を含む組換えDNA。
[10][9]に記載の組換えDNAを保有する微生物。
[11]以下のステップ(1)及び(2)、或いは以下のステップ(i)及び(ii)を含む、グルコースデヒドロゲナーゼの製造法:
(1)アスペルギルス・バージカラーを培養するステップ;
(2)培養後の培養液及び/又は菌体より、グルコースデヒドロゲナーゼを回収するステップ;
(i)[10]に記載の微生物を、前記遺伝子がコードするタンパク質が産生される条件下で培養するステップ;
(ii)産生された前記タンパク質を回収するステップ。
[12]アスペルギルス・バージカラーがNo.52439株(受託番号:NITE BP−02262)である、[11]に記載の製造法。
[13][1]〜[7]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを用いて試料中のグルコースを測定することを特徴とする、グルコース測定法。
[14][1]〜[7]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを含む、グルコース測定用試薬。
[15][14]に記載のグルコース測定用試薬を含む、グルコース測定用キット。
[16][1]〜[7]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを含む、グルコースセンサ。
[17][1]〜[7]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを含有する酵素剤。
[1]以下の特徴を備える、グルコースデヒドロゲナーゼ:
(1)作用: 電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する;
(2)基質特異性: D-グルコースに対する反応性を100%としたときのD-キシロースに対する反応性が12%以下である;
(3)pH安定性: pH4〜5で安定である;
(4)アミノ酸配列: 配列番号1に示すアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と80%以上同一のアミノ酸配列を含む。
[2]前記グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列と85%以上同一のアミノ酸配列である、[1]に記載のグルコース測定用酵素剤。
[3]アミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列である、[1]に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
[4]以下の特徴を備える、グルコースデヒドロゲナーゼ:
(1)作用: 電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する;
(2)基質特異性: D-グルコースに対する反応性を100%としたときのD-キシロースに対する反応性が12%以下である;
(3)pH安定性: pH4〜5で安定である;
(4)分子量: 約60kDa(SDS-PAGEによる)。
[5]基質特異性が、D-グルコースに対する反応性を100%としたときのD-キシロースに対する反応性が10%以下である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
[6]アスペルギルス・バージカラーに由来する酵素である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
[7]アスペルギルス・バージカラーがNo.52439株(受託番号:NITE BP−02262)である、[6]に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
[8]以下の(A)〜(C)からなる群より選択されるいずれかのDNAからなるグルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子:
(A)配列番号1に示すアミノ酸配列をコードするDNA;
(B)配列番号2に示す塩基配列からなるDNA;
(C)配列番号2に示す塩基配列と等価な塩基配列を有し、且つグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
[9][8]に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子を含む組換えDNA。
[10][9]に記載の組換えDNAを保有する微生物。
[11]以下のステップ(1)及び(2)、或いは以下のステップ(i)及び(ii)を含む、グルコースデヒドロゲナーゼの製造法:
(1)アスペルギルス・バージカラーを培養するステップ;
(2)培養後の培養液及び/又は菌体より、グルコースデヒドロゲナーゼを回収するステップ;
(i)[10]に記載の微生物を、前記遺伝子がコードするタンパク質が産生される条件下で培養するステップ;
(ii)産生された前記タンパク質を回収するステップ。
[12]アスペルギルス・バージカラーがNo.52439株(受託番号:NITE BP−02262)である、[11]に記載の製造法。
[13][1]〜[7]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを用いて試料中のグルコースを測定することを特徴とする、グルコース測定法。
[14][1]〜[7]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを含む、グルコース測定用試薬。
[15][14]に記載のグルコース測定用試薬を含む、グルコース測定用キット。
[16][1]〜[7]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを含む、グルコースセンサ。
[17][1]〜[7]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを含有する酵素剤。
1.用語
本明細書において用語「単離された」は「精製された」と交換可能に使用される。用語「単離された」は、天然の状態、即ち、自然界において存在している状態のものと区別するために使用される。単離するという人為的操作によって、天然の状態とは異なる状態である、「単離された状態」となる。単離されたものは、天然物自体と明確且つ決定的に相違する。
本明細書において用語「単離された」は「精製された」と交換可能に使用される。用語「単離された」は、天然の状態、即ち、自然界において存在している状態のものと区別するために使用される。単離するという人為的操作によって、天然の状態とは異なる状態である、「単離された状態」となる。単離されたものは、天然物自体と明確且つ決定的に相違する。
単離された酵素の純度は特に限定されない。但し、純度の高いことが要求される用途への適用が予定されるのであれば、単離された酵素の純度は高いことが好ましい。
2.グルコースデヒドロゲナーゼ及びその生産菌
本発明の第1の局面はグルコースデヒドロゲナーゼ及びその生産菌を提供する。本発明のグルコースデヒドロゲナーゼ(以下、「本酵素」ともいう)は以下の特性を備える。まず、本酵素は次の反応、即ち、電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する。一方、本酵素は基質特異性に優れ、D-グルコースに対して選択的に作用する。詳しくは、本酵素はD-キシロースに対する反応性が低い。具体的にはD-グルコースに対する反応性を100%としたときのD-キシロースに対する反応性が12%以下である。好ましくは当該反応性が10%以下である。
本発明の第1の局面はグルコースデヒドロゲナーゼ及びその生産菌を提供する。本発明のグルコースデヒドロゲナーゼ(以下、「本酵素」ともいう)は以下の特性を備える。まず、本酵素は次の反応、即ち、電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する。一方、本酵素は基質特異性に優れ、D-グルコースに対して選択的に作用する。詳しくは、本酵素はD-キシロースに対する反応性が低い。具体的にはD-グルコースに対する反応性を100%としたときのD-キシロースに対する反応性が12%以下である。好ましくは当該反応性が10%以下である。
一方、本酵素はマルトースに対する反応性も極めて低い。D-グルコースに対する反応性を100%としたときのマルトースに対する反応性は、いずれも5%以下、好ましくは3%以下である。更に好ましくは当該反応性が1%以下である。更に更に好ましくは当該反応性が実質0%である(即ちマルトースに対する実質的な反応性がない)。
以上のような優れた基質特異性を有する本酵素は、試料中のグルコース量を正確に測定するための酵素として好ましい。即ち、本酵素によれば試料中にD-キシロースやマルトースなどの夾雑物が存在していた場合であっても目的のグルコース量をより正確に測定することが可能である。従って本酵素は、試料中にこのような夾雑物の存在が予想又は懸念される用途(典型的には血液中のグルコース量の測定)に適したものであるといえ、しかも当該用途も含め様々な用途に適用可能であること、即ち汎用性が高いともいえる。尚、本酵素の反応性及び基質特異性は、後述の実施例に示す方法で測定・評価することができる。
本酵素の由来、即ち本酵素の生産菌はアスペルギルス・バージカラー(Aspergillus versicolor)である。上記特性を有する本酵素を産生可能である限りにおいて生産菌は限定されない。生産菌の具体例を示せば、アスペルギルス・バージカラー No.52439株である。当該菌株は以下の通り所定の寄託機関に寄託されており、容易に入手可能である。
<アスペルギルス・バージカラー No.52439株>
寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)
識別の表示:Aspergillus versicolor APC52439
寄託日:2016年5月20日
受託番号:NITE BP−02262
<アスペルギルス・バージカラー No.52439株>
寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)
識別の表示:Aspergillus versicolor APC52439
寄託日:2016年5月20日
受託番号:NITE BP−02262
後述の実施例でも言及した通り、NBRC(NITE Biological Resource Center)には、No.52439株との間でITS領域の配列同一性が極めて高い(即ち、近縁株である)アスペルギルス・バージカラーが18株保存されている。本酵素の生産にこれらの菌株を利用することも想定できる。尚、アスペルギルス・バージカラーの分類について議論されており(例えばIMA Fungus Volume 3 No.1: 59-79.)、今後、細分類される可能性がある。
生産菌は野生株(天然からの分離株であって、遺伝子操作などの変異・改変処理が施されていないもの)であっても変異株であってもよい。尚、本酵素の遺伝子を宿主微生物に導入して得られた形質転換体を生産菌としてもよい。
本酵素の更なる特徴は、グルコースセンサ用の酵素として好ましいpH特性を示す点である。具体的には、グルコースセンサで頻用されるメディエータ(フェリシアン化カリウム)の至適pHを含むpH域(pH4.0〜5.0)で安定である。即ち、処理に供する酵素溶液のpHがこの範囲内にあれば、37℃、1時間の処理後、70%以上、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上の活性を維持する。
一態様では、本酵素を構成するポリペプチド鎖は、配列番号1に示すアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と等価なアミノ酸配列からなる。ここでの「等価なアミノ酸配列」とは、配列番号1に示すアミノ酸配列と一部で相違するが、当該相違がタンパク質の機能(ここではグルコースデヒドロゲナーゼ活性)に実質的な影響を与えていないアミノ酸配列のことをいう。従って、等価なアミノ酸配列からなるポリペプチド鎖を有する酵素はグルコースデヒドロゲナーゼ活性を示す。「グルコースデヒドロゲナーゼ活性」とは、グルコースの水酸基を酸化してグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する活性を意味するが、その活性の程度は、グルコースデヒドロゲナーゼとしての機能を発揮できる限り特に限定されない。但し、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド鎖を有する酵素と同程度又はそれよりも高いことが好ましい。
「アミノ酸配列の一部の相違」とは、典型的には、アミノ酸配列を構成する1〜数個のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1〜数個のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変異(変化)が生じていることをいう。ここでのアミノ酸配列の相違はグルコースデヒドロゲナーゼ活性が保持される限り許容される(活性の多少の変動があってもよい)。この条件を満たす限りアミノ酸配列が相違する位置は特に限定されず、また複数の位置で相違が生じていてもよい。ここでの「複数」とは例えば全アミノ酸の約30%未満に相当する数であり、好ましくは約20%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。即ち等価タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列と例えば約80%以上、好ましくは約85%以上、さらに好ましくは約90%以上、更に更に好ましくは約95%以上、より一層好ましくは約98%以上、最も好ましくは約99%以上の同一性を有する。
好ましくは、グルコースデヒドロゲナーゼ活性に必須でないアミノ酸残基において保存的アミノ酸置換を生じさせることによって等価なアミノ酸配列が得られる。ここでの「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
ところで、二つのアミノ酸配列又は二つの核酸(以下、これらを含む用語として「二つの配列」を使用する)の同一性(%)は例えば以下の手順で決定することができる。まず、最適な比較ができるよう二つの配列を並べる(例えば、第一の配列にギャップを導入して第二の配列とのアライメントを最適化してもよい)。第一の配列の特定位置の分子(アミノ酸残基又はヌクレオチド)が、第二の配列における対応する位置の分子と同じであるとき、その位置の分子が同一であるといえる。二つの配列の同一性は、その二つの配列に共通する同一位置の数の関数であり(すなわち、同一性(%)=同一位置の数/位置の総数 × 100)、好ましくは、アライメントの最適化に要したギャップの数およびサイズも考慮に入れる。
二つの配列の比較及び同一性の決定は数学的アルゴリズムを用いて実現可能である。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、KarlinおよびAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68に記載され、KarlinおよびAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77において改変されたアルゴリズムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、Altschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。本発明の核酸分子に等価なヌクレオチド配列を得るには例えば、NBLASTプログラムでscore = 100、wordlength = 12としてBLASTヌクレオチド検索を行えばよい。本酵素に等価なアミノ酸配列を得るには例えば、XBLASTプログラムでscore = 50、wordlength = 3としてBLASTポリペプチド検索を行えばよい。比較のためのギャップアライメントを得るためには、Altschulら (1997) Amino Acids Research 25(17):3389-3402に記載のGapped BLASTが利用可能である。BLASTおよびGapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳しくはhttp://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。配列の比較に利用可能な他の数学的アルゴリズムの例としては、MyersおよびMiller (1988) Comput Appl Biosci. 4:11-17に記載のアルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えばGENESTREAMネットワークサーバー(IGH Montpellier、フランス)またはISRECサーバーで利用可能なALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを利用する場合は例えば、PAM120残基質量表を使用し、ギャップ長ペナルティ=12、ギャップペナルティ=4とすることができる。
二つのアミノ酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、Blossom 62マトリックスまたはPAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重=12、10、8、6、又は4、ギャップ長加重=2、3、又は4として決定することができる。また、二つの核酸配列の相同度を、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで利用可能)のGAPプログラムを用いて、ギャップ加重=50、ギャップ長加重=3として決定することができる。
本酵素の分子量は約60kDaである(後述の実施例を参照)。分子量はSDS-PAGEで測定した値である。
本酵素が、より大きいタンパク質(例えば融合タンパク質)の一部であってもよい。融合タンパク質において付加される配列としては、例えば、多重ヒスチジン残基のような精製に役立つ配列、組み換え生産の際の安定性を確保する付加配列等が挙げられる。
上記アミノ酸配列を有する本酵素は、遺伝子工学的手法によって容易に調製することができる。例えば、本酵素をコードするDNAで適当な宿主細胞(例えば大腸菌)を形質転換し、形質転換体内で発現されたタンパク質を回収することにより調製することができる。回収されたタンパク質は目的に応じて適宜精製される。このように組換えタンパク質として本酵素を得ることにすれば種々の修飾が可能である。例えば、本酵素をコードするDNAと他の適当なDNAとを同じベクターに挿入し、当該ベクターを用いて組換えタンパク質の生産を行えば、任意のペプチドないしタンパク質が連結された組換えタンパク質からなる本酵素を得ることができる。また、糖鎖及び/又は脂質の付加や、あるいはN末端若しくはC末端のプロセッシングが生ずるような修飾を施してもよい。以上のような修飾により、組換えタンパク質の抽出、精製の簡便化、又は生物学的機能の付加等が可能である。
3.グルコースデヒドロゲナーゼをコードするDNA
本発明の第2の局面は本酵素に関連する核酸を提供する。即ち本酵素をコードする遺伝子、本酵素をコードする核酸を同定するためのプローブとして用いることができる核酸、本酵素をコードする核酸を増幅又は突然変異等させるためのプライマーとして用いることができる核酸が提供される。一態様において本発明の遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列をコードするDNAからなる。当該態様の具体例は、配列番号2に示す塩基配列からなるDNAである。
本発明の第2の局面は本酵素に関連する核酸を提供する。即ち本酵素をコードする遺伝子、本酵素をコードする核酸を同定するためのプローブとして用いることができる核酸、本酵素をコードする核酸を増幅又は突然変異等させるためのプライマーとして用いることができる核酸が提供される。一態様において本発明の遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列をコードするDNAからなる。当該態様の具体例は、配列番号2に示す塩基配列からなるDNAである。
本酵素をコードする遺伝子は典型的には本酵素の調製に利用される。本酵素をコードする遺伝子を用いた遺伝子工学的調製法によれば、より均質な状態の本酵素を得ることが可能である。また、当該方法は大量の本酵素を調製する場合にも好適な方法といえる。尚、本酵素をコードする遺伝子の用途は本酵素の調製に限られない。例えば、本酵素の作用機構の解明などを目的とした実験用のツールとして、或いは本酵素の変異体(改変体)をデザイン又は作製するためのツールとして、当該核酸を利用することもできる。
本明細書において「本酵素をコードする遺伝子」とは、それを発現させた場合に本酵素が得られる核酸のことをいい、本酵素のアミノ酸配列に対応する塩基配列を有する核酸は勿論のこと、そのような核酸にアミノ酸配列をコードしない配列が付加されてなる核酸をも含む。また、コドンの縮重も考慮される。
本発明の核酸は、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法、化学合成、PCR法(例えばオーバーラップPCR)或いはこれらの組合せによって、単離された状態に調製することができる。
本発明の他の態様では、本酵素をコードする遺伝子の塩基配列と比較した場合にそれがコードするタンパク質の機能は同等であるものの一部において塩基配列が相違する核酸(以下、「等価核酸」ともいう。また、等価核酸を規定する塩基配列を「等価塩基配列」ともいう)が提供される。等価核酸の例として、本発明の本酵素をコードする核酸の塩基配列を基準として1若しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む塩基配列からなり、本酵素に特徴的な酵素活性(即ちグルコースデヒドロゲナーゼ活性)を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。塩基の置換や欠失などは複数の部位に生じていてもよい。
以上のような等価核酸は例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)による変異の導入などによって得られる。また、紫外線照射など他の方法によっても等価核酸を得ることができる。
本発明の他の態様は、本発明の本酵素をコードする遺伝子の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する核酸に関する。本発明の更に他の態様は、本発明の本酵素をコードする遺伝子の塩基配列、或いはそれに相補的な塩基配列に対して少なくとも約60%、70%、80%、90%、95%、99%又は99.9%同一な塩基配列を有する核酸を提供する。
本発明の更に別の態様は、本発明の本酵素をコードする遺伝子の塩基配列又はその等価塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する核酸に関する。ここでの「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参照して設定することができる。ストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、5×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて約50℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃で洗浄する条件を挙げることができる。更に好ましいストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる条件を挙げることができる。
本発明の更に他の態様は、本発明の本酵素をコードする遺伝子の塩基配列、或いはそれに相補的な塩基配列の一部を有する核酸(核酸断片)を提供する。このような核酸断片は、本発明の本酵素をコードする遺伝子の塩基配列を有する核酸などを検出、同定、及び/又は増幅することなどに用いることができる。核酸断片は例えば、本発明の本酵素をコードする遺伝子の塩基配列において連続するヌクレオチド部分(例えば約10〜約100塩基長、好ましくは約20〜約100塩基長、更に好ましくは約30〜約100塩基長)にハイブリダイズする部分を少なくとも含むように設計される。プローブとして利用される場合には核酸断片を標識化することができる。標識化には例えば、蛍光物質、酵素、放射性同位元素を用いることができる。
本発明のさらに他の局面は、本発明の遺伝子(本酵素をコードする遺伝子)を含む組換えDNAに関する。本発明の組換えDNAは例えばベクターの形態で提供される。本明細書において用語「ベクター」は、それに挿入された核酸を細胞等のターゲット内へと輸送することができる核酸性分子をいう。
使用目的(クローニング、タンパク質の発現)に応じて、また宿主細胞の種類を考慮して適当なベクターが選択される。大腸菌を宿主とするベクターとしてはM13ファージ又はその改変体、λファージ又はその改変体、pBR322又はその改変体(pB325、pAT153、pUC8など)等、酵母を宿主とするベクターとしてはpYepSec1、pMFa、pYES2等、昆虫細胞を宿主とするベクターとしてはpAc、pVL等、哺乳類細胞を宿主とするベクターとしてはpCDM8、pMT2PC等を例示することができる。
本発明のベクターは好ましくは発現ベクターである。「発現ベクター」とは、それに挿入された核酸を目的の細胞(宿主細胞)内に導入することができ、且つ当該細胞内において発現させることが可能なベクターをいう。発現ベクターは通常、挿入された核酸の発現に必要なプロモーター配列や、発現を促進させるエンハンサー配列等を含む。選択マーカーを含む発現ベクターを使用することもできる。かかる発現ベクターを用いた場合には、選択マーカーを利用して発現ベクターの導入の有無(及びその程度)を確認することができる。
本発明の核酸のベクターへの挿入、選択マーカー遺伝子の挿入(必要な場合)、プロモーターの挿入(必要な場合)等は標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法)を用いて行うことができる。
宿主細胞としては、取り扱いの容易さの点から、大腸菌(エシェリヒア・コリ)、出芽酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)などの微生物を用いることが好ましいが、組換えDNAが複製可能で且つ本酵素の遺伝子が発現可能な宿主細胞であれば利用可能である。大腸菌の例としてT7系プロモーターを利用する場合は大腸菌BL21(DE3)pLysS、そうでない場合は大腸菌JM109を挙げることができる。また、出芽酵母の例として出芽酵母SHY2、出芽酵母AH22あるいは出芽酵母INVSc1(インビトロジェン社)を挙げることができる。
本発明の他の局面は、本発明の組換えDNAを保有する微生物(即ち形質転換体)に関する。本発明の微生物は、上記本発明のベクターを用いたトランスフェクション乃至はトランスフォーメーションによって得ることができる。例えば、塩化カルシウム法(ジャーナル オブ モレキュラー バイオロジー(J.Mol. Biol.)、第53巻、第159頁 (1970))、ハナハン(Hanahan)法(ジャーナル オブ モレキュラー バイオロジー、第166巻、第557頁 (1983))、SEM法(ジーン(Gene)、第96巻、第23頁(1990)〕、チャング(Chung)らの方法(プロシーディングズ オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ザ USA、第86巻、第2172頁(1989))、リン酸カルシウム共沈降法、エレクトロポーレーション(Potter,H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1984))等によって実施することができる。尚、本発明の微生物は、本発明の本酵素を生産することに利用することができる。
4.グルコースデヒドロゲナーゼの製造法
本発明の更なる局面はグルコースデヒドロゲナーゼの製造法を提供する。本発明の製造法の一態様では、アスペルギルス・バージカラーを培養するステップ(ステップ(1))及び培養後の培養液及び/又は菌体より、グルコースデヒドロゲナーゼを回収するステップ(ステップ(2))が行われる。
本発明の更なる局面はグルコースデヒドロゲナーゼの製造法を提供する。本発明の製造法の一態様では、アスペルギルス・バージカラーを培養するステップ(ステップ(1))及び培養後の培養液及び/又は菌体より、グルコースデヒドロゲナーゼを回収するステップ(ステップ(2))が行われる。
アスペルギルス・バージカラーとしてはアスペルギルス・バージカラーNo.52439株が好適であるが、本酵素を生産可能である限り、他の株を用いることにしてもよい。例えば、アスペルギルス・バージカラーNo.52439株との間でITS領域の配列同一性が高い株を本酵素の生産に利用するとよい。尚、公共の保存機関であるNBRCには、ITS領域の配列が、アスペルギルス・バージカラーNo.52439株のITS領域の配列(配列番号15)と99%以上同一である株(NBRC 4098、NBRC 4105、NBRC 4411、NBRC 5783、NBRC 6220、NBRC 6282、NBRC 6576、NBRC 7081、NBRC 7082、NBRC 7781、NBRC 8004、NBRC 30338、NBRC 31223、NBRC 31639、NBRC 31806、NBRC 33027、NBRC 100588、NBRC 100838)が保存されている。
培養法及び培養条件は目的の酵素が生産されるものである限り特に限定されない。即ち、グルコースデヒドロゲナーゼが生産されることを条件として、使用する微生物の培養に適合した方法や培養条件を適宜設定できる。以下、培養条件として培地、培養温度及び培養時間を例示する。
培地としては、使用する微生物が生育可能な培地であれば、如何なるものでも良い。例えば、グルコース、シュクロース、ゲンチオビオース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等の炭素源、更に硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、あるいは、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等の窒素源、更にカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等の無機塩を添加したものを用いることができる。使用する微生物の生育を促進するためにビタミン、アミノ酸などを培地に添加してもよい。培地のpHは例えば約3〜8、好ましくは約5〜7程度に調整し、培養温度は通常約10〜50℃、好ましくは約25〜35℃程度で、1〜15日間、好ましくは2〜5日間程度好気的条件下で培養する。培養法としては例えば振盪培養法、ジャー・ファーメンターによる好気的深部培養法が利用できる。
以上の条件で培養した後、培養液又は菌体よりグルコースデヒドロゲナーゼを回収する(ステップ(2))。培養液から回収する場合には、例えば培養上清をろ過(例えば珪藻土をろ過助剤としたろ過)、遠心処理等することによって不溶物を除去した後、限外ろ過膜による濃縮、硫安沈殿等の塩析、透析、各種クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて分離、精製を行うことにより目的の酵素を得ることができる。他方、菌体内から回収する場合には、例えば菌体を加圧処理、超音波処理、ビーズ処理などによって破砕した後、上記と同様に分離、精製を行うことにより目的の酵素を得ることができる。ろ過、遠心処理などによって予め培養液から菌体を回収した後、上記一連の工程(菌体の破砕、分離、精製)を行ってもよい。尚、各精製工程では原則としてグルコースデヒドロゲナーゼ活性を指標として分画を行い、次のステップへと進む。但し、予備試験などによって、適切な条件を既に設定可能な場合にはこの限りでない。
本発明の他の態様では、上記の形質転換体を用いてグルコースデヒドロゲナーゼを製造する。この態様の製造法ではまず、それに導入された遺伝子によってコードされるタンパク質が産生される条件下で上記の形質転換体を培養する(ステップ(i))。様々なベクター宿主系に関して形質転換体の培養条件が公知であり、当業者であれば適切な培養条件を容易に設定することができる。培養ステップに続き、産生されたタンパク質(即ち、グルコースデヒドロゲナーゼ)を回収する(ステップ(ii))。回収及びその後の精製については、上記態様の場合と同様に行えばよい。
酵素の精製度は特に限定されないが、例えば比活性が10〜1000(U/mg)、好ましくは比活性が50〜500(U/mg)の状態に精製することができる。また、最終的な形態は液体状であっても固体状(粉体状を含む)であってもよい。
5.グルコースデヒドロゲナーゼの用途
本発明の更なる局面は本酵素の用途に関する。この局面ではまず、本酵素を用いたグルコース測定法が提供される。本発明のグルコース測定法では本酵素による酸化還元反応を利用して試料中のグルコース量を測定する。この反応による変化が利用できる各種用途に本発明を適用可能である。
本発明の更なる局面は本酵素の用途に関する。この局面ではまず、本酵素を用いたグルコース測定法が提供される。本発明のグルコース測定法では本酵素による酸化還元反応を利用して試料中のグルコース量を測定する。この反応による変化が利用できる各種用途に本発明を適用可能である。
本発明は例えば血糖値の測定、食品(調味料や飲料など)中のグルコース濃度の測定などに利用される。また、発酵食品(例えば食酢)又は発酵飲料(例えばビールや酒)の製造工程において発酵度を調べるために本発明を利用してもよい。
本発明はまた、本酵素を含むグルコース測定用試薬を提供する。当該試薬は上記の本発明のグルコース測定法に使用される。グルコース測定用試薬の安定化や使用時の活性化等を目的として、血清アルブミン、タンパク質、界面活性剤、糖類、糖アルコール、無機塩類等を添加してもよい。
グルコース測定用試薬を測定キットの構成要素にすることもできる。換言すれば、本発明は、上記グルコース測定用試薬を含むキット(グルコース測定用キット)も提供する。本発明のキットは必須の構成要素として上記グルコース測定用試薬を含む。また、反応用試薬、緩衝液、グルコース標準液、容器などを任意の要素として含む。尚、本発明のグルコース測定キットには通常、使用説明書が添付される。
本酵素を利用してグルコースセンサを構成することが可能である。即ち、本発明は、本酵素を含むグルコースセンサも提供する。本発明のグルコースセンサの典型的な構造では、絶縁性基板上に作用電極及び対極を備えた電極系が形成され、その上に本酵素とメディエータを含む試薬層が形成される。参照電極も備えた測定系を用いることにしてもよい。このような、いわゆる3電極系の測定系を用いれば、参照電極の電位を基準として作用電極の電位を表すことが可能となる。各電極の材料は特に限定されない。作用電極及び対極の電極材料の例を示せば、金(Au)、カーボン(C)、白金(Pt)、チタン(Ti)である。メディエータとしては、フェリシアン化合物(フェリシアン化カリウムなど)、金属錯体(ルテニウム錯体、オスミウム錯体、バナジウム錯体など)、キノン化合物(ピロロキノリンキノンなど)などが使用される。尚、グルコースセンサの構成、グルコースセンサを利用した電気化学的測定法については、例えば、バイオ電気化学の実際−バイオセンサ・バイオ電池の実用展開−(2007年3月発行、シーエムシー出版)に詳しい。
本酵素を酵素剤の形態で提供することもできる。本発明の酵素剤は有効成分(本酵素)の他、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水などを含有していてもよい。賦形剤としてはデンプン、デキストリン、マルトース、トレハロース、乳糖、D-グルコース、ソルビトール、D-マンニトール、白糖、グリセロール等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としてはエタノール、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
1.微生物からのスクリーニング
公的機関から入手した保存菌株や自然界から入手した10,000株以上の菌株を各種液体培養・固体培養し得られたブロスライブラリーについて、マルトースに反応せず、キシロースへの反応性が低いものを以下の方法で選出した。
公的機関から入手した保存菌株や自然界から入手した10,000株以上の菌株を各種液体培養・固体培養し得られたブロスライブラリーについて、マルトースに反応せず、キシロースへの反応性が低いものを以下の方法で選出した。
グルコースデヒドロゲナーゼ活性の測定方法
(測定試液)
100 mmol/L PIPES cont. 0.1%(w/v) Triton X-100 pH 7.0: 24mL
3 mmol/L 1-Methoxy PMS(Phenazine methanesulfate): 2mL
6.6 mmol/L NTB(Nitrotetrazorium blue): 1mL
1 mol/L グルコース: 3mL
(測定試液)
100 mmol/L PIPES cont. 0.1%(w/v) Triton X-100 pH 7.0: 24mL
3 mmol/L 1-Methoxy PMS(Phenazine methanesulfate): 2mL
6.6 mmol/L NTB(Nitrotetrazorium blue): 1mL
1 mol/L グルコース: 3mL
(測定手順)
サンプルを20μLずつ96wellプレートに分注後、測定試液を1ウェルあたり200μLずつ添加し、37℃、60分後、570nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。上記測定試液のうち、グルコースをマルトース又はキシロースへ変更して同様に測定し、マルトース、キシロースへの反応性も確認した。
サンプルを20μLずつ96wellプレートに分注後、測定試液を1ウェルあたり200μLずつ添加し、37℃、60分後、570nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。上記測定試液のうち、グルコースをマルトース又はキシロースへ変更して同様に測定し、マルトース、キシロースへの反応性も確認した。
検討の結果、マルトースに反応せず、キシロースへの反応性が低い、No.52439株の生産するグルコースデヒドロゲナーゼが見出された。当該菌株について、マルトース及びキシロースへの反応性を以下の表に示す。マルトース及びキシロースへの反応性は、グルコースへの反応性を100%としたときの相対値(マルトース(又はキシロース)を基質とした場合の測定値/グルコースを基質とした場合の測定値 × 100)で表した。比較のため、グルコースオキシダーゼ(Aspergillus niger由来)、PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(Acinetobacter calcoaceticus由来)、FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(Aspergillus oryzae由来)の結果も示した。
No.52439株の生産するグルコースデヒドロゲナーゼは、既存のPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼと比較して優位にマルトース及びキシロースへの反応性が低いことがわかる。
2.精製酵素の調製
以上の検討によって見出された、No.52439株の生産するグルコースデヒドロゲナーゼについて、その精製酵素を取得すべく、No.52439株を以下の培地で30℃、5日間培養した。得られた培養液から菌体を除去し、粗酵素液とした。
(培地)
グルコース: 15.0%(w/v)
酵母エキス: 3.0%(w/v)
大豆ペプトン: 6.0%(w/v)
KH2PO4: 0.3%(w/v)
K2HPO4: 0.2%(w/v)
ヒドロキノン(pH6.0): 4mM
以上の検討によって見出された、No.52439株の生産するグルコースデヒドロゲナーゼについて、その精製酵素を取得すべく、No.52439株を以下の培地で30℃、5日間培養した。得られた培養液から菌体を除去し、粗酵素液とした。
(培地)
グルコース: 15.0%(w/v)
酵母エキス: 3.0%(w/v)
大豆ペプトン: 6.0%(w/v)
KH2PO4: 0.3%(w/v)
K2HPO4: 0.2%(w/v)
ヒドロキノン(pH6.0): 4mM
粗酵素液を精製(塩析、疎水結合クロマト、イオン交換クロマト、ゲル濾過クロマトグラフィー)し、精製酵素を得た。精製酵素をゲル濾過(GEヘルスケア社製Superdex 200を使用)及びSDS-PAGEで分析した。SDS-PAGEの結果を図1に示す。グルコースデヒドロゲナーゼ活性が最も高いフラクション(No.30)を以降の実験に使用した。
3.精製酵素の基質特異性確認
上記2.で得た精製酵素の基質特異性を調べた。
(活性測定方法)
FAD-GDHは、電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してD-グルコノ-δ-ラクトンを生成する反応を触媒する。FAD-GDH活性の測定は下記の反応系で行った。
尚、式中のPMSはフェナジンメタンスルフェート(Phenazine methanesulfate)を表し、NTBはニトロテトラゾリウムブルー(Nitrotetrazorium blue)を表す。反応(1)において、グルコースの酸化に伴って還元型PMSが生成し、更に反応(2)において還元型PMSによるNTBの還元により生成したDiformazanを570nmの波長で測定する。
上記2.で得た精製酵素の基質特異性を調べた。
(活性測定方法)
FAD-GDHは、電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してD-グルコノ-δ-ラクトンを生成する反応を触媒する。FAD-GDH活性の測定は下記の反応系で行った。
酵素活性は、以下の計算式によって算出される。
尚、式中のVtは総液量を、Vsはサンプル量を、20.1はDiformazanの0.5μ molあたりの吸光度係数(cm2 / 0.5μ mol)を、1.0は光路長(cm)を、dfは希釈倍数をそれぞれ表す。
0.1%(w/v)トリトンX-100を含む100mmol/L PIPES-NaOH緩衝液pH7.0 2.4mL、1mol/L D-グルコース溶液0.3mL、3 mmol/L PMS溶液0.2mL、及び6.6 mmol/L NTB溶液0.1mLを混合し、37℃で5分間保温後、酵素液0.1mLを添加し、反応を開始した。酵素反応の進行と共に570nmに吸収を持つDiformazanが生成される。1分間あたりの570nmにおける吸光度の増加を測定し、FAD-GDH活性を測定した。結果を以下の表に示す。尚、グルコースをマルトース又はキシロースへ変更して同様に測定し、マルトース、キシロースへの反応性を確認した。比較のため、Aspergillus oryzaeの生産するグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH”Amano”8 天野エンザイム株式会社)の結果を併記した。
No.52439株の生産するグルコースデヒドロゲナーゼは、Aspergillus oryzaeの生産するグルコースデヒドロゲナーゼと比較してキシロースへの反応性が低く、さらにマルトースには反応せず、血糖測定に適した性質を有していることが判明した。
4.精製酵素のpH安定性確認
上記2.で得た精製酵素のpH安定性を調べた。1 U/mLになるように酵素液を各種pHの緩衝液で調製後、37℃、1時間加温処理した。その後、測定に用いる緩衝液で希釈し、上記3.と同じ方法で残存活性を測定した。
上記2.で得た精製酵素のpH安定性を調べた。1 U/mLになるように酵素液を各種pHの緩衝液で調製後、37℃、1時間加温処理した。その後、測定に用いる緩衝液で希釈し、上記3.と同じ方法で残存活性を測定した。
測定結果を図2に示す。pH5.0で最も高い安定性を示し、pH 4〜pH 5の範囲では、残存活性が80%以上であった。また、pH6でも50%以上の残存活性が認められた。血糖測定用センサでは、感度や精度を高めるために、酵素と同時に用いるメディエータ(電子受容体)の種類に応じて反応時のpHが設定される。多くのセンサで使用されているフェリシアン化カリウムをメディエータとした場合には一般にpH5.0前後の反応条件が採用される。従って、当該pH条件で最も高い安定性を示した本酵素は、血糖測定用センサ用酵素として有用であり実用性が高いといえる。
5.N末端アミノ酸及びアミノ酸配列の決定
目的の酵素の活性ピークであるフラクションNo.30をSDS-PAGEで分離して得られたバンドについて、常法に従い、PVDF膜へブロッティング後、N末アミノ酸解析を実施したところ、約60KDaのタンパク質(図1、矢印)で「SRPYDYIVVGGGTSGLVVAN(配列番号3)」の配列情報が得られた。同配列を問い合わせ配列として、NCBIが提供するBLAST解析を実施したところ、Glucose-methanol-choline酸化還元酵素ファミリーに属している可能性が高いことが判明し、同配列を有するタンパク質が目的のグルコースデヒドロゲナーゼであると考えられた。BLAST解析結果を図3に示す。
目的の酵素の活性ピークであるフラクションNo.30をSDS-PAGEで分離して得られたバンドについて、常法に従い、PVDF膜へブロッティング後、N末アミノ酸解析を実施したところ、約60KDaのタンパク質(図1、矢印)で「SRPYDYIVVGGGTSGLVVAN(配列番号3)」の配列情報が得られた。同配列を問い合わせ配列として、NCBIが提供するBLAST解析を実施したところ、Glucose-methanol-choline酸化還元酵素ファミリーに属している可能性が高いことが判明し、同配列を有するタンパク質が目的のグルコースデヒドロゲナーゼであると考えられた。BLAST解析結果を図3に示す。
次に、本タンパク質の全長配列を入手すべく、内部アミノ酸解析を実施した。まず、以下の方法でトリプシン処理し(ゲル内消化)、得られたペプチド断片を高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分離した。その後、プロテインシークエンサーPPSQ-33A(株式会社島津製作所)を用いてアミノ酸解析をした。
(トリプシン処理)
(i)電気泳動後のゲル試料を適当な大きさに切断する。
(ii)2-メルカプトエタノール及び4−ビニルピリジンを用いて還元アルキル化処理。
(iii)緩衝液(0.1mol/L炭酸水素アンモニウム)中でプロメガ社製Sequencing Grade Modified Trypsinを用いて消化後、ゲルからペプチド断片を抽出する。
(i)電気泳動後のゲル試料を適当な大きさに切断する。
(ii)2-メルカプトエタノール及び4−ビニルピリジンを用いて還元アルキル化処理。
(iii)緩衝液(0.1mol/L炭酸水素アンモニウム)中でプロメガ社製Sequencing Grade Modified Trypsinを用いて消化後、ゲルからペプチド断片を抽出する。
(HPLC分離条件)
高速液体クロマトグラフ(HPLC): LC-20Aシステム(株式会社島津製作所)
カラム: Cadenza CD-C18(2.0mmI.D.×150mm)(インタクト株式会社)
カラム温度: 50℃
検出波長: 214mm
注入量: 70μL
移動相流速: 0.2mL/min
移動相A: 水/トリフルオロ酢酸(1000/1)
移動相B: アセトニトリル/水/トリフルオロ酢酸(800/200/1)
高速液体クロマトグラフ(HPLC): LC-20Aシステム(株式会社島津製作所)
カラム: Cadenza CD-C18(2.0mmI.D.×150mm)(インタクト株式会社)
カラム温度: 50℃
検出波長: 214mm
注入量: 70μL
移動相流速: 0.2mL/min
移動相A: 水/トリフルオロ酢酸(1000/1)
移動相B: アセトニトリル/水/トリフルオロ酢酸(800/200/1)
HPLC分離で得られたピーク(21個のピークを特定し、保持時間の短い方から順に番号を付した)の解析によって同定したアミノ酸配列を図4に示す。
6.遺伝子配列の決定
上記5.で得られたN末アミノ酸解析結果とピークNo.5のアミノ酸解析結果に基づき、以下のプライマーを設計した。
プライマーGDH52439-F:TAYGAYTAYATHGTNGTNGGNGGNGGNACNWSNGG(配列番号4)
プライマーGDH52439-12-3-R:RTCDATYTGNACRTCYTCNGC(配列番号5)
上記5.で得られたN末アミノ酸解析結果とピークNo.5のアミノ酸解析結果に基づき、以下のプライマーを設計した。
プライマーGDH52439-F:TAYGAYTAYATHGTNGTNGGNGGNGGNACNWSNGG(配列番号4)
プライマーGDH52439-12-3-R:RTCDATYTGNACRTCYTCNGC(配列番号5)
No.52439株ゲノムDNAをテンプレートにして、設計したプライマーとPrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社)を用いてPCRを行い、増幅されたDNA断片を得た。PCR条件は以下の通りとした。
(反応液)
PrimeSTAR Max Premix(2×) 25μL
GDH52439-F 15 pmol
GDH52439-12-3-R 15 pmol
ゲノムDNA(1/1000希釈) 1μL
滅菌蒸留水で50μLに調整
(サイクル条件)
98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で2分の条件で35サイクル
(反応液)
PrimeSTAR Max Premix(2×) 25μL
GDH52439-F 15 pmol
GDH52439-12-3-R 15 pmol
ゲノムDNA(1/1000希釈) 1μL
滅菌蒸留水で50μLに調整
(サイクル条件)
98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で2分の条件で35サイクル
得られたDNA断片をMighty Cloning Reagent Set (Blunt End)(タカラバイオ株式会社)を用いてサブクローニングし、常法に従いDNA断片の塩基配列を確認した。
得られたDNA断片を基に設計したプライマーを用いて、ゲノムDNAをテンプレートに常法に従いインバースPCRで全長配列(配列番号2)を取得した。当該塩基配列から新規FAD-GDHのアミノ酸配列(配列番号1)を決定した。
決定したアミノ酸配列(配列番号1)をBLASTで検索したところ、グルコースオキシダーゼとして登録されている配列に高い同一性を示した。尚、BLAST検索でリストアップされた上位3位までの配列は以下の通りである。
glucose oxidase [Aspergillus oryzae RIB40] Accession No. XP_001826806.1(Max score 967, Total score 967, Query cover 100%, E value 0.0 Ident 78%)
glucose oxidase [Aspergillus niger] Accession No. GAQ42375.1(Max score 960, Total score 960, Query cover 99%, E value 0.0 Ident 78%)
glucose oxidase [Aspergillus niger CBS 513.88] Accession No. XP_001394544.1(Max score 956, Total score 956, Query cover 99%, E value 0.0 Ident 78%)
glucose oxidase [Aspergillus oryzae RIB40] Accession No. XP_001826806.1(Max score 967, Total score 967, Query cover 100%, E value 0.0 Ident 78%)
glucose oxidase [Aspergillus niger] Accession No. GAQ42375.1(Max score 960, Total score 960, Query cover 99%, E value 0.0 Ident 78%)
glucose oxidase [Aspergillus niger CBS 513.88] Accession No. XP_001394544.1(Max score 956, Total score 956, Query cover 99%, E value 0.0 Ident 78%)
7.菌株の同定
ITS領域の塩基配列を解析することによってNo.52439株の同定を試みた。菌株のゲノムDNAをPrepMan Ultra(Applied Biosystems社)を用いて抽出した。添付のプロトコールに従い、アプライドバイオシステム社のPrepManTM Ultra 100μlにNo. 52439株の菌体を少量加えて懸濁し、PCR用サーマルサイクラーを用いて100℃、10分間、熱処理した後、12,000rpmで2分間、遠心処理した。上清を滅菌MillQ(登録商標)水で500倍に希釈し、鋳型DNAとしてPCR法に用いた。PCRの条件は以下の通りである。
<反応液組成>
ゲノム溶液 5μl
PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymerase(タカラバイオ社) 25μl
10μM ITS-F Primer 1μl
10μM ITS-R Primer 1μl
滅菌MillQ(登録商標)水 18μl
<プライマー>
ITS-F 5’-TAGGTGAACCTGCGGAAGGATC-3’(配列番号13)
ITS-R 5’-CCTCCGCTTATTGATATGCTTAAG-3’(配列番号14)
<サイクル条件>
98℃で10秒の反応
98℃で10秒の反応、55℃で5秒の反応、72℃で10秒の反応を35サイクル
72℃で1秒の反応
ITS領域の塩基配列を解析することによってNo.52439株の同定を試みた。菌株のゲノムDNAをPrepMan Ultra(Applied Biosystems社)を用いて抽出した。添付のプロトコールに従い、アプライドバイオシステム社のPrepManTM Ultra 100μlにNo. 52439株の菌体を少量加えて懸濁し、PCR用サーマルサイクラーを用いて100℃、10分間、熱処理した後、12,000rpmで2分間、遠心処理した。上清を滅菌MillQ(登録商標)水で500倍に希釈し、鋳型DNAとしてPCR法に用いた。PCRの条件は以下の通りである。
<反応液組成>
ゲノム溶液 5μl
PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymerase(タカラバイオ社) 25μl
10μM ITS-F Primer 1μl
10μM ITS-R Primer 1μl
滅菌MillQ(登録商標)水 18μl
<プライマー>
ITS-F 5’-TAGGTGAACCTGCGGAAGGATC-3’(配列番号13)
ITS-R 5’-CCTCCGCTTATTGATATGCTTAAG-3’(配列番号14)
<サイクル条件>
98℃で10秒の反応
98℃で10秒の反応、55℃で5秒の反応、72℃で10秒の反応を35サイクル
72℃で1秒の反応
得られたPCR断片をタカラバイオ社のNucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-upを用いて精製し、配列を解析した。解析結果から、ITS領域の塩基配列(配列番号15)を決定した。当該塩基配列をNBRCの保存菌株のITS領域と比較したところ、No.52439株はアスペルギルス・バージカラー(Aspergillus versicolor)に分類された。現在、NBRCにはアスペルギルス・バージカラーが18株(NBRC 4098、NBRC 4105、NBRC 4411、NBRC 5783、NBRC 6220、NBRC 6282、NBRC 6576、NBRC 7081、NBRC 7082、NBRC 7781、NBRC 8004、NBRC 30338、NBRC 31223、NBRC 31639、NBRC 31806、NBRC 33027、NBRC 100588、NBRC 100838)保存されており、それらのITS領域の配列は、No.52439株のITS領域の配列に対して99〜100%の同一性を示した。
本発明のグルコースデヒドロゲナーゼはキシロースに対する反応性が低く、またpH安定性に優れる。本発明のグルコースデヒドロゲナーゼは特にグルコースセンサへの利用に適したものであり、その実用性は高い。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
配列番号4:人工配列の説明:Primer GDH52439-F
配列番号5:人工配列の説明:Primer GDH52439-12-3-R
配列番号13:人工配列の説明:ITS-F Primer
配列番号14:人工配列の説明:ITS-R Primer
配列番号5:人工配列の説明:Primer GDH52439-12-3-R
配列番号13:人工配列の説明:ITS-F Primer
配列番号14:人工配列の説明:ITS-R Primer
Claims (17)
- 以下の特徴を備える、グルコースデヒドロゲナーゼ:
(1)作用: 電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する;
(2)基質特異性: D-グルコースに対する反応性を100%としたときのD-キシロースに対する反応性が12%以下である;
(3)pH安定性: pH4〜5で安定である;
(4)アミノ酸配列: 配列番号1に示すアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と80%以上同一のアミノ酸配列を含む。 - 前記グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列と85%以上同一のアミノ酸配列である、請求項1に記載のグルコース測定用酵素剤。
- アミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列である、請求項1に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
- 以下の特徴を備える、グルコースデヒドロゲナーゼ:
(1)作用: 電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する;
(2)基質特異性: D-グルコースに対する反応性を100%としたときのD-キシロースに対する反応性が12%以下である;
(3)pH安定性: pH4〜5で安定である;
(4)分子量: 約60kDa(SDS-PAGEによる)。 - 基質特異性が、D-グルコースに対する反応性を100%としたときのD-キシロースに対する反応性が10%以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
- アスペルギルス・バージカラーに由来する酵素である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
- アスペルギルス・バージカラーがNo.52439株(受託番号:NITE BP−02262)である、請求項6に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
- 以下の(A)〜(C)からなる群より選択されるいずれかのDNAからなるグルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子:
(A)配列番号1に示すアミノ酸配列をコードするDNA;
(B)配列番号2に示す塩基配列からなるDNA;
(C)配列番号2に示す塩基配列と等価な塩基配列を有し、且つグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。 - 請求項8に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子を含む組換えDNA。
- 請求項9に記載の組換えDNAを保有する微生物。
- 以下のステップ(1)及び(2)、或いは以下のステップ(i)及び(ii)を含む、グルコースデヒドロゲナーゼの製造法:
(1)アスペルギルス・バージカラーを培養するステップ;
(2)培養後の培養液及び/又は菌体より、グルコースデヒドロゲナーゼを回収するステップ;
(i)請求項10に記載の微生物を、前記遺伝子がコードするタンパク質が産生される条件下で培養するステップ;
(ii)産生された前記タンパク質を回収するステップ。 - アスペルギルス・バージカラーがNo.52439株(受託番号:NITE BP−02262)である、請求項11に記載の製造法。
- 請求項1〜7のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを用いて試料中のグルコースを測定することを特徴とする、グルコース測定法。
- 請求項1〜7のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを含む、グルコース測定用試薬。
- 請求項14に記載のグルコース測定用試薬を含む、グルコース測定用キット。
- 請求項1〜7のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを含む、グルコースセンサ。
- 請求項1〜7のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを含有する酵素剤。
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