JP6127496B2 - ジアホラーゼ - Google Patents

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Description

本発明はジアホラーゼに関する。詳しくは、本発明はジアホラーゼ活性を有する酵素、それをコードするDNA、及び当該酵素の生産菌、当該酵素の製造方法、当該酵素を使用した、臨床診断薬、酵素電極、酵素センサなどに関する。
ジアホラーゼ[EC.1.6.99.−]は、生体内では電子伝達系において重要な役割を果たしている。
ジアホラーゼは、様々な技術分野において、その生体外での利用が検討され、一部が実用化されている。そのような技術分野としては、有用物質の生産、エネルギー関連物質の生産、測定又は分析、環境保全、医療などが挙げられる。例えば、臨床診断の分野では、ジアホラーゼは、それが還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)または還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を基質とするという特性を利用して、種々の体外診断用試薬に使用されている。また、ジアホラーゼは、燃料電池の一種である酵素電池にも使用されている(特許文献9、特許文献10、特許文献11、非特許文献1)。
ジアホラーゼは、クロストリジウム(Clostridium)属(非特許文献2)、または、バチルス(Bacillus)属(特許文献1、特許文献2)に属する微生物から単離・精製されたものが市販されている。特許文献1および特許文献2で記載のジアホラーゼを生産するバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus・stearothermophilus)は、2001年にゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)として再分類された(非特許文献3)。ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)由来のもの、あるいは、それらを改変したものなどが知られており、その遺伝子配列、アミノ酸配列および理化学的特性が調べられている(特許文献2、特許文献3、特許文献8、非特許文献1)。
特開昭60−156381 特許3953578号 特開2007−143493 特開2008−048703 特開2008−289398 特開2008−289419 特許4769412号 WO2011/148938 特開2009−140760 特許第4839569号 特開2007−12281
Sugiyama et al., Biosens Bioelectron. 2010 Oct 15;26(2):452−7. Epub 2010 Aug 3. Kaplan, N.O.,et al.,Arch. Biochem. Biophys, vol132, p91−98, 1969 T.N.Nazina., Int.Jour.Syst.Evol.Micro.51:433−446. 2001 Tokita et al., ECS Transactions. 2008;13(21):89−97.
本発明は、臨床診断・産業利用における使用により適した、新たなジアホラーゼを提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明者らは日夜検討を重ね、これまでにジアホラーゼを生産することが報告されていない多くの微生物や、ジアホラーゼ活性を有する蛋白質をコードすることが報告されていない多くの遺伝子情報に接してスクリーニングした結果、Geobacillus sp. Y4.1MC1に属する微生物に由来する新たな遺伝子配列がジアホラーゼ活性を有する蛋白質をコードすることを見出した。そして、本発明者等は、当該酵素を単離精製し、その特性を調べた結果、優れた耐熱性、高いNADHに対する親和性を備えていることを見出し、更に研究を重ねて、該ジアホラーゼおよびそれに関連する発明を完成させ、特願2012−011755として出願した。
本発明者らは、係る知見を基に、該ジアホラーゼにさらに蛋白質工学的な改変を加えることで、臨床診断・産業利用により適した新たなジアホラーゼを提供できないか検討した。
その過程で、本発明者らは、ジアホラーゼの反応を、NADHなどの基質濃度が高い状態で行おうとすると、酵素反応が阻害されることを見出した。酵素の反応速度論によれば、通常、基質濃度がKm値より高いと、酵素は基質との複合体を形成しやすく効率的に触媒反応を進めることができると考えられているが、この知見はそれに反する意外なものであった。
この特性により、例えば燃料電池において、基質であるNADHの添加量を上げることが出来ないため、起電力や寿命などの点で満足のいくものが得られないという問題点が発生する。
そこで、本発明者らは、この新たに見出した課題を解決するために、該ジアホラーゼに蛋白質工学的な改変を加え、ある種の変異型ジアホラーゼが、上記の諸特性に加えて、さらに、NADHなどの基質濃度が高いときの反応阻害が低減した特性を有することを見出し、本発明を完成させた。
代表的な本発明は、以下の通りである。
項1
下記の(a)〜(c)のいずれかのポリペプチドからなるジアホラーゼ;
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位したアミノ酸配列からなり、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチド、
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチド。
項2
下記の特性(1)〜(5)を有するジアホラーゼ。
(1)サブユニット分子量: SDS−ポリアクリルアミド電気泳動で測定した酵素のポリペプチド部分の分子量が約23.7kDa
(2)複合体分子量: ゲルろ過で測定した酵素のポリペプチド部分の分子量が約53.3kDa
(3)Km値: NADHに対するKm値が約0.1mM以下
(4)温度安定性:70℃以下で安定
(5)pH安定性: pH5.0〜9.0の範囲で安定
項3
下記の(a)〜(c)のいずれかのポリペプチドからなる変異型ジアホラーゼである、項1または項2に記載のジアホラーゼ。
(a)配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号4のアミノ酸配列において、122位以外の箇所で、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位したアミノ酸配列からなり、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチド、
(c)配列番号4のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり、配列番号4とのアラインメントにおいて122位のグリシンがアスパラギン酸に改変されていて、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチド。
項4
さらに、下記の(d)または(e)のいずれか1つ以上の特性を有する、項3に記載の変異型ジアホラーゼ。
(d)20mM NADH存在下の比活性を100%としたとき、80mM NADH存在下で比活性が50%以上保たれる。
(e)(1)DCPIPをメディエータとして用いた場合、37℃での活性値を100%とした時、25℃の相対活性が70%以上であるか、または、(2)ナフトキノン誘導体をメディエータとして用いた場合、37℃での活性値を100%とした時、25℃の相対活性が50%以上である。
項5
さらに、下記の(f)の特性を有する、項3または項4の変異型ジアホラーゼ。
(f)ナフトキノン誘導体をメディエータとして用いた場合、比活性が野生型ジアホラーゼと比較して1.5倍以上である。
項6
以下の(A)〜(E)のいずれかのDNA:
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードするDNA、
(B)配列番号2に示される塩基配列をからなるDNA、
(C)配列番号2に示される塩基配列との相同性が80%以上である塩基配列からなり、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(D)配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、且つジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA、
(E)配列番号2に示される塩基配列において、一若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位されている塩基配列であり、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA、
(F)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位したアミノ酸配列からなり、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
項7
以下の(A)〜(F)のいずれかのDNAである、項6に記載のDNA。
(A)配列番号4のアミノ酸配列をコードするDNA、
(B)配列番号5の塩基配列からなるDNA、
(C)配列番号5の塩基配列との同一性が80%以上である塩基配列からなり、配列番号5とのアラインメントにおいて364位〜366位のトリプレットがアスパラギン酸をコードし、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
(D)配列番号5の塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、配列番号5とのアラインメントにおいて364位〜366位のトリプレットがアスパラギン酸をコードし、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA、
(E)配列番号5に示される塩基配列において、一若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位されている塩基配列であり、配列番号5とのアラインメントにおいて364位〜366位のトリプレットがアスパラギン酸をコードし、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA、
(F)配列番号4のアミノ酸配列において、122位以外の箇所で、1若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位したアミノ酸配列からなり、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
項8
項6または項7に記載のDNAを組み込んだベクター。
項9
項8に記載のベクターを含む形質転換体。
項10
項9に記載の形質転換体を培養することを含む、項1〜項5のいずれかに記載のジアホラーゼの製造方法。
項11
項1〜項5のいずれかに記載のジアホラーゼを含むプロダクト。

項A.更に下記の特性(6)を備える、項2に記載のジアホラーゼ。
(6)至適活性pH: pH6.7〜8.0
項B.更に下記の特性(7)を備える、項2または項Aに記載のジアホラーゼ。
(7)由来: ゲオバチルス(Geobacillus)属に分類される微生物に由来する
項C.ゲオバチルス属に分類される微生物を培養すること、及び、ジアホラーゼを回収すること、を含む、項2、項Aまたは項Bのいずれかに記載のジアホラーゼの製造方法。

項D.下記の特性(1)〜(4)を備える変異型ジアホラーゼ。
(1)サブユニット分子量: SDS−ポリアクリルアミド電気泳動で測定した酵素のポリペプチド部分の分子量が約23.7kDa
(2)複合体分子量: ゲルろ過で測定した酵素のポリペプチド部分の分子量が約55.3kDa
(3)Km値: NADHに対するKm値が約0.37mM以下
項E.更に下記の特性(4)および/または(5)を備える、項Dに記載の変異型ジアホラーゼ。
(4)温度安定性: 70℃以下で安定
(5)pH安定性: pH5.0〜9.0の範囲で安定
項F.更に下記の特性(6)を備える、項Dまたは項Eに記載の変異型ジアホラーゼ。
(6)至適活性pH: pH6.5〜8.0
項G.更に下記の特性(7)を備える、項D〜項Fのいずれかに記載の変異型ジアホラーゼ。
(7)由来: ゲオバチルス(Geobacillus)属に分類される微生物に由来する
項H.ゲオバチルス属に分類される微生物を培養すること、及び
ジアホラーゼを回収すること
を含む、項D〜項Gのいずれかに記載の変異型ジアホラーゼの製造方法。
本発明のジアホラーゼは、ジアホラーゼ活性を有し、NADHとの親和性が高い(即ち、NADHに対するKm値が有意に低い)ため、より少ない酵素量で試料中のNADHと短時間反応することを可能にする。更に、本発明のジアホラーゼは、熱安定性に優れるため、センサストリップへの固定化を比較的高い温度条件下で実施することができる。加えて、本発明のジアホラーゼは、広い範囲のpH領域に対して安定であるため、幅広い条件下での使用に適している。これらの特性を備えるため、本発明のジアホラーゼは、NADHを含むあらゆる試料(例えば、血液や食品(調味料や飲料等))におけるグルコース濃度を正確に測定することを可能にする。更に本発明のDNAは、本発明のジアホラーゼをコードするため、遺伝子工学的手法を用いて、効率的に本発明のジアホラーゼを製造することを可能にする。
さらに本発明のジアホラーゼは、NADHなどの基質濃度が高くても反応が効率的に進行するため、燃料電池に適用する場合などに、寿命と起電力を両立させることを可能にする。
Geobacillus stearothermophilusのジアホラーゼ(ACCESSION AAD24436)とGeobacillus sp. Y4.1MC1のNAD(P)H dehydrogenase (ACCESSION YP_003989131)のアライメント Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼのポリペプチド配列の特定。(D)Geobacillus stearothermophilusのジアホラーゼ(ACCESSION AAD24436)とGeobacillus sp. Y4.1MC1の変異型ジアホラーゼのアライメント (A)Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼの精製酵素のSDS−PAGEの結果を示す。(B) Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼの精製酵素のゲルろ過の結果を示す。 (A)Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼの精製酵素のSDS−PAGEの結果を示す。(B) Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼの精製酵素のゲルろ過の結果を示す。 (A)Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼの活性に対するpHの影響を示す。(B)Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼの活性に対するpHの影響を示す。 (A)Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼのpH安定性を測定した結果を示す。(B)Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼのpH安定性を測定した結果を示す。 (A)Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼの温度安定性を測定した結果を示す。(B)Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼの温度安定性を測定した結果を示す。 Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)の温度安定性を測定した結果を示す。 (A)Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼの反応速度とNADH濃度との関係を示す。(B)Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼの反応速度とNADH濃度との関係を示す。 (B)Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)の反応速度とNADH濃度との関係を示す。 (A)ANQをメディエータとしたときの、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼ、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼ、Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)のNADH濃度と比活性の関係を示す。(B)ANQをメディエータとしたときの、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼ、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼ、Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)のNADH濃度と比活性低下の関係を示す。 (A)DCPIPをメディエータとしたときの、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼ、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼ、Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)の反応温度と相対活性の関係を示す。(B)DCPIPをメディエータとしたときの、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼ、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼ、Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)の反応温度と比活性の関係を示す。 (A)ANQをメディエータとしたときの、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼ、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼ、Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)の反応温度と相対活性の関係を示す。(B)ANQをメディエータとしたときの、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼ、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼ、Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)の反応温度と比活性の関係を示す。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.ジアホラーゼ
1−1.ジアホラーゼ活性
「ジアホラーゼ(Diaphorase)」は、NADH又はNADPHをフェリシアン化カリウム、メチレンブルー、2,6-ジクロルインドフェノール(DCPIP)、テトラゾリウム塩等の色素で酸化する反応を触媒する活性(即ち、ジアホラーゼ活性)を持つ酵素であり、細菌、酵母等の微生物から哺乳類動物まで広く分布する。このジアホラーゼは、生体内の電子伝達系において重要な役割を果たし、このジアホラーゼによって、NAD又はNADP依存性の脱水素酵素類による基質からの脱水素反応により生成されるNADH又はNADPHは、電子受容体で酸化され、電子受容体は還元型となる。
ジアホラーゼ活性は、公知の方法で測定することができる。例えば、DCPIPを電子受容体として用い、反応前後における600nmの波長における試料の吸光度の変化を指標に活性を測定することができる。また、ANQを電子受容体として用い、反応前後における520nmの波長における試料の吸光度の変化を指標に活性を測定することができる。より具体的には、下記の試薬及び測定条件を用いて活性を測定することができ、本願ではこれらの方法で測定した値を用いる。
1−1−1 DCPIPをもちいたジアホラーゼ活性の測定方法
<試薬>
蒸留水
200mM Tris−HCl緩衝液pH7.5
6.0mM NADH水溶液
1.2mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)溶液
酵素希釈溶液 0.1%牛血清アルブミンを含む200mM Tris−HCl緩衝液pH7.5
<手順1>
ジアホラーゼ溶液を、予め氷冷した上記酵素希釈溶液で0.4〜0.8U/mlに希釈し、氷冷保存したものを酵素溶液とする。
<手順2>
上記蒸留水2.4mL、Tris−HCl緩衝液0.3mL、NADH水溶液0.1mLを混合し、25℃にて5分間予備加温したものを反応混液とする。
<測定条件>
反応混液2.8mLに、酵素溶液0.1mL、DCPIP溶液0.1mLの順番で添加しゆるやかに混和後、水を対照に25℃に制御された分光光度計(光路長1.0cm)で、600nmの吸光度変化を2〜3分間記録し、その後直線部分から(即ち、反応速度が一定になってから)1分間あたりの吸光度変化(ΔODTEST)を測定する。盲検は酵素溶液の代わりにジアホラーゼを溶解する酵素希釈溶液とDCPIP溶液を反応混液に加えて同様に1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を測定する。これらの値から次の式に従ってジアホラーゼ活性を求める。ここでジアホラーゼ活性における1単位(U)とは、上記の測定条件で1分間に600nmの吸光度を1.0減少させる酵素量である。

活性(U/mL)=
{−(ΔODTEST−ΔODBLANK)×希釈倍率}/(1.0×0.1)

なお、式中の1.0は活性定義に基いて定められた600nmにおける単位吸光度、0.1は酵素溶液の液量(mL)を示す。本書においては、メディエータをDCPIPにした場合、酵素活性は上記の測定方法に従って、測定される。後述の実施例6〜14において、ジアホラーゼ活性の測定は本測定方法にて行った。
1−1−2 ANQをもちいたジアホラーゼ活性の測定方法
<試薬>
蒸留水
100mM リン酸カリウム緩衝液pH8.0
100mM 2−amino−1,4−naphthoquinone(ANQ)溶液(DMSOに溶解)
400mM NADHを含む100mM リン酸カリウム緩衝液pH8.0
酵素希釈溶液 0.1%TritonX−100を含む200mM リン酸カリウム緩衝液pH7.5
<手順1>
ジアホラーゼ溶液を、予め氷冷した上記酵素希釈溶液で0.01〜0.02mg/mlに希釈し、氷冷保存したものを酵素溶液とする。
<手順2>
上記100mM リン酸ナトリウム緩衝液79.0mL、100mM 2−amino−1,4−naphthoquinone(本明細書ではANQとも表記する。)溶液1.0mL、400mM NADHを含む100mM リン酸ナトリウム緩衝液20mLを混合し、100mL混合液とする。本手順により、終濃度80mM NADHの混合液となる。
NADH濃度の異なる混合液を作成する場合は、100mM リン酸ナトリウム緩衝液と400mM NADHを含む100mM リン酸ナトリウム緩衝液の混合量を変えることにより、混合液を調整する。例えば、100mM リン酸ナトリウム緩衝液89.0mL、100mM 2−amino−1,4−naphthoquinone(ANQ)溶液1.0mL、400mM NADHを含む100mM リン酸ナトリウム緩衝液10mLを混合し、100mL混合液とし、終濃度40mM NADHの混合液となる。あるいは、100mM リン酸ナトリウム緩衝液94.0mL、100mM 2−amino−1,4−naphthoquinone(ANQ)溶液1.0mL、400mM NADHを含む100mM リン酸ナトリウム緩衝液5mLを混合し、100mL混合液とし、終濃度20mM NADHの混合液となる。
<手順3>
手順2で作成した混合液から3.0mlを抜き取り、25℃にて5分間予備加温したものを反応混液とする。
<測定条件>
反応混液3.0mLに、酵素溶液0.1mLを添加しゆるやかに混和後、水を対照に25℃に制御された分光光度計(光路長1.0cm)で、520nmの吸光度変化を2〜3分間記録し、その後直線部分から(即ち、反応速度が一定になってから)1分間あたりの吸光度変化(ΔODTEST)を測定する。盲検は酵素溶液の代わりにジアホラーゼを溶解する酵素希釈溶液を反応混液に加えて同様に1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を測定する。これらの値から次の式に従ってジアホラーゼ活性を求める。ここでジアホラーゼ活性における1単位(U)とは、上記の測定条件で1分間に520nmの吸光度を1.0減少させる酵素量である。

活性(U/mL)=
{−(ΔODTEST−ΔODBLANK)×3.1×希釈倍率}/{0.68×0.1×1.0}

なお、式中の3.1は反応試薬+酵素溶液の液量(mL)、0.68は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm/マイクロモル)、0.1は酵素溶液の液量(mL)、1.0はセルの光路長(cm)を示す。本書においては、メディエータをANQにした場合、酵素活性は上記の測定方法に従って、測定される。後述の実施例15において、ジアホラーゼ活性の測定は本測定方法にて行った。
本発明のジアホラーゼは、単離されたジアホラーゼ又は精製されたジアホラーゼであることが好ましい。また、本発明のジアホラーゼは、後述の保存方法に適した溶液中に溶解した状態又は凍結乾燥された状態(例えば、粉末状)で存在してもよい。本発明の酵素(ジアホラーゼ)に関して使用する場合の「単離された」とは、当該酵素以外の成分(例えば、宿主細胞に由来する夾雑タンパク質、他の成分、培養液等)を実質的に含まない)状態をいう。具体的には例えば、本発明の単離された酵素は、夾雑タンパク質の含有量が重量換算で全体の約20%未満、好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満、より一層好ましくは約1%未満である。一方で、本発明のジアホラーゼは、保存又は酵素活性の測定に適した溶液(例えば、バッファー)中に存在してもよい。
1−2.ポリペプチド
本発明のジアホラーゼは、下記(a)〜(c)のいずれかのポリペプチドで構成されることが好ましい。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加および/または逆位したアミノ酸配列からなり、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチド。
配列番号1で示されるアミノ酸配列とは、実施例5に示される通り、Geobacillus sp. Y4.1MC1に由来するジアホラーゼのアミノ酸配列であり、下記1−3、1−4、1−7〜1−11の特性を全て満たす。
上記(b)のポリペプチドは、ジアホラーゼ活性を保持する限度で、配列番号1に示されるアミノ酸において、1若しくは数個のアミノ酸配残基が置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位(以下、これらを纏めて「変異」とする場合がある。)されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである。ここで「数個」とは、ジアホラーゼ活性及び好ましくは後述する1−3、1−4、1−7〜1−10(特に1−3、1−4、1−8および1−9)の特性が維持される限り制限されないが、例えば、全アミノ酸の約20%未満に相当する数であり、好ましくは約15%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。より具体的には、変異されるアミノ酸残基の個数は、例えば、2〜127個、好ましくは2〜96個、より好ましくは2〜64個、更に好ましくは2〜32個であり、より更に好ましくは2〜20個、一層好ましくは2〜15個、より一層好ましくは2〜10個、特に好ましくは2〜5個である。
上記(c)のポリペプチドは、ジアホラーゼ活性を保持することを限度で、好ましくは下記1−3、1−4、1−7〜1−10の特性を保持する限度で、配列番号1に示されるアミノ酸配列と比較した同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。好ましくは、本発明のジアホラーゼが有するアミノ酸配列と配列番号1に示されるアミノ酸配列との同一性は、85%以上であり、より好ましくは88%以上、更に好ましくは90%以上、より更に好ましくは93%以上、一層好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。このような一定以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドは、後述するような公知の遺伝子工学的手法に基づいて作成することができる。
あるいは、本発明のジアホラーゼは、下記(a)〜(c)のいずれかのポリペプチドで構成されることが好ましい。
(a)配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号4のアミノ酸配列において、122位以外の箇所で、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位したアミノ酸配列からなり、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチド、
(c)配列番号4のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり、配列番号4とのアラインメントにおいて122位のグリシンがアスパラギン酸に改変されていて、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチド。
配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、配列番号1の122位のグリシンをアスパラギン酸に改変したアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、下記1−3〜1−10の特性を全て満たす。
配列番号1で示されるアミノ酸配列とは、実施例6に示される通り、Geobacillus sp. Y4.1MC1に由来するジアホラーゼのアミノ酸配列である。
上記(b)のポリペプチドは、ジアホラーゼ活性を保持する限度で、配列番号4のアミノ酸配列において、122位以外の箇所で、1若しくは数個のアミノ酸配残基が置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位(以下、これらを纏めて「変異」とする場合がある。)されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
ここで「数個」とは、ジアホラーゼ活性及び好ましくは後述する1−3〜1−11の特性のうち1つ以上が維持される限り制限されないが、例えば、全アミノ酸の約20%未満に相当する数であり、好ましくは約15%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約6%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。より具体的には、変異されるアミノ酸残基の個数は、例えば、2〜127個、好ましくは2〜96個、より好ましくは2〜64個、更に好ましくは2〜32個であり、より更に好ましくは2〜20個、一層好ましくは2〜15個、より一層好ましくは2〜10個、特に好ましくは2〜5個である。
当該変異がアミノ酸の置換である場合、置換の種類は、特に制限されないが、ジアホラーゼの表現型に顕著な影響を与えないという観点から保存的アミノ酸置換が好ましい。「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。よって、同一のファミリー内のアミノ酸残基間で置換されることが好ましい。
一又は数個の変異は、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)など公知の手法を利用して後述する本発明のジアホラーゼをコードするDNAに変異を導入することによって実施することが可能である。また、紫外線照射など他の方法によってもバリアントジアホラーゼを得ることができる。バリアントジアホラーゼには、ジアホラーゼを保持する微生物の個体差、種や属の違いに基づく場合などの天然に生じるバリアント(例えば、一塩基多型も含まれる。)
本発明の改変型ジアホラーゼにおける「改変前の野生型ジアホラーゼ」は特に限定されない。たとえば後述の1−11.に記載される微生物等に由来するもの、あるいは、それらを改変したものを挙げることができる。
また、本発明の改変型ジアホラーゼにおける「122位以外の変異箇所」は、特に限定されない。例えば、特許文献8に記載のバチルス・ステアロサーモフィラス由来のジアホラーゼの改変部位である、65位、96位、117位、120位、130位、133位、150位、167位および168位からなる群より選択される少なくとも1以上の箇所に相当する箇所が挙げられる。
また、ジアホラーゼの活性を維持するという観点からは、ジアホラーゼの活性部位又は基質結合部位に影響を与えない部位において上記変異が存在することが好ましい。
上記(c)のポリペプチドは、ジアホラーゼ活性を保持することを限度で、好ましくは1−3〜1−11の特性のうち少なくとも1つ以上を保持する限度で、配列番号4のアミノ酸配列と比較した同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり、配列番号4とのアラインメントにおいて122位のグリシンがアスパラギン酸に改変されているポリペプチドである。
好ましくは、本発明のジアホラーゼが有するアミノ酸配列と配列番号4のアミノ酸配列との同一性は、85%以上であり、より好ましくは88%以上、更に好ましくは90%以上、より更に好ましくは93%以上、より更に好ましくは94%以上、一層好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。このような一定以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドは、上述するような公知の遺伝子工学的手法に基づいて作成することができる。
アミノ酸配列の同一性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、例えば、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/ においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いることにより、算出することができる。本願ではアミノ酸配列の同一性の計算にこの方法を用いる。
1−3.温度安定性
本明細書において、特定の温度条件の下、適当な緩衝液中(例えばリン酸カリウムバッファー(pH7.5))で50U/mLの精製酵素を60分間処理した後の残存酵素活性が、処理前の酵素活性と比較して実質的な低下が認められない(つまり約80%以上を維持する)とき、当該酵素は当該温度条件において安定であると判断する。本発明のジアホラーゼは、少なくとも0℃〜70℃の温度範囲において安定であることが好ましい。
上記条件における処理後の酵素活性が約90%以上を維持するとき、当該酵素が当該温度条件において安定である、と判断する場合では、本発明のジアホラーゼは、少なくとも0℃〜60℃の温度範囲において安定であることが好ましい。
あるいは、上記条件において処理時間が15分間であり、処理後の酵素活性が約90%以上を維持するとき、当該酵素が当該温度条件において安定である、と判断する場合では、本発明のジアホラーゼは、少なくとも0℃〜70℃の温度範囲において安定であることが好ましい。
1−4.NADHに対する親和性
本発明のジアホラーゼは、NADHに対する親和性が高いことが好ましい。親和性が高いことにより、試料中のNADHの濃度が低い場合であっても、上述する触媒反応を進めることができ、より正確なNADH濃度の測定、より短時間での測定、及びより少ない酵素量での測定に資するからである。ジアホラーゼのNADHに対する親和性は、Km値によって示される。Km値は、いわゆるミカエリス・メンテン式から求められる値であり、具体的には、上記1−1.に示す活性測定方法においてNADHの濃度を変化させて各濃度における活性を測定し、ラインウィーバー・バーク・プロットを作成することによって求めることができる。
酵素の反応速度論から判断して、Km値が低いほど、酵素は基質に対する親和性が高く、基質濃度が低い場合でも基質との複合体を形成することができ、より早い速度で触媒反応を進めることができる。
項1、項2、項Aまたは項Bに記載の、本発明のジアホラーゼのNADHに対するKm値は、1mM以下であることが好ましく、より好ましくは0.5mM以下、更に好ましくは0.3mM以下、より更に好ましくは0.1mM以下であり、特に好ましくは0.08mM以下である。
項3、項4、項5、項D、項E、項Fまたは項Gに記載の、本発明のジアホラーゼのNADHに対するKm値は、1.5mM以下であることが好ましく、より好ましくは1.0mM以下、更に好ましくは0.8mM以下、より更に好ましくは0.5mM以下であり、特に好ましくは0.4mM以下である。
1−5.高濃度NADH存在下でのジアホラーゼ酵素反応阻害
本発明の変異型ジアホラーゼは、野生型に比べて、高濃度NADH存在下でのジアホラーゼ酵素反応阻害が低減されている。本発明の変異型ジアホラーゼは、20mMのNADH存在下の比活性を100%としたとき、40mMのNADH存在下で比活性が90%以上保たれることが好ましく、および/または、80mMのNADH存在下で比活性が50%以上保たれることが好ましい。
阻害の程度は、NADHとメディエータの供役下で酵素反応の進行する速度を測定することで示すことができる。具体的には、上記1−1−2.に示す活性測定方法においてNADHの濃度を変化させて各濃度における活性を測定することによって求めることができる。
本発明のジアホラーゼの高濃度NADH存在下での酵素活性は、40mMNADHで450U/mg以上であることが好ましく、より好ましくは500U/mg以上、更に好ましくは550U/mg以上以下、より更に好ましくは580U/mg以上であり、特に好ましくは600U/mg以上である。
上記のように、基質(NADH)に対する親和性が良く、かつ、温度安定性が良いことによって、本発明のジアホラーゼを種々のプロダクトに適用するときには、その添加量を他のジアホラーゼと比較してごく少量に抑えることができる。
理論上は、基質に対する親和性が低かったり、また、温度安定性が多少良くなかったりしても、酵素添加量を上げれば所望のジアホラーゼの性能を確保できる可能性はある。しかし、例えば酵素センサのようにチップ上に酵素を乾燥状態で塗布する場合には、添加量を上げるにともなって固形分が増え、少量の血液試料のセンサ上への均一な拡散に支障が出て測定の精密性に悪影響を与える等の問題点が考えられる。あるいは、少量の添加では問題にならなかった不純物が、添加量の上昇と共に測定や反応に悪影響を与える可能性もある。しかし、本発明のジアホラーゼを用いることによってそのような問題点を回避することができる。
さらに、本発明のジアホラーゼを用いることによって、例えば燃料電池において、基質であるNADHの添加量を上げることが出来ないため、起電力や寿命などの点で満足のいくものが得られないという問題点を回避することができる。
このような変異型ジアホラーゼとしては、特に限定されないが、項3、項4、項5、項D、項E、項Fまたは項Gに記載のジアホラーゼが好ましいものとして例示できる。
1−6.温度依存性
本発明の変異型ジアホラーゼは、野生型に比べて温度依存性が改善(低減)している。本願において、温度依存性とは、温度変化に伴って酵素活性が変化することを意味する。温度依存性の改善とは酵素活性の変化が少なく、広い範囲で一定の酵素活性を示すことを意味する。
本願請求項において「温度依存性が改善されているか」を判断する方法は以下のとおりである。
(1)37℃、24時間処理後における活性値(U/ml)を測定し、これをAとする。
(2)25℃、24時間処理後における活性値(U/ml)を測定し、これをBとする。
(3)Aを100%としたときのBの相対値(%)を計算し、「温度依存性」とする。
(4)相対値(%)が大きければ、温度依存性は良いと判断する。よって、相対値(%)が野生型酵素(WT)<改変型酵素であれば温度依存性は改善されていると判断する。
なお、上記の計算方法は、Bの値がAを超えない場合間での比較を行う方法である。Bの値がAを越える場合間の比較においては、Aを100%としたときのBの相対値(%)は小さいほど温度依存性がよいと判断し、相対値(%)が野生型酵素(WT)>改変型酵素であれば温度依存性は改善されていると判断する。また、「Bの値がAを超えない場合」と「Bの値がAを越える場合」との比較であれば、AとBとの差の絶対値が小さい方が温度依存性がよいと判断し、AとBとの差の絶対値が野生型酵素(WT)>改変型酵素であれば温度依存性は改善されていると判断する。
本発明の変異型ジアホラーゼは、DCPIPをメディエータとして用いた場合、37℃での活性値を100%とした時、25℃の相対活性が70%以上であることが好ましい。または、本発明の変異型ジアホラーゼは、ナフトキノン誘導体をメディエータとして用いた場合、37℃での活性値を100%とした時、25℃の相対活性が50%以上であることが好ましい。
さらに、本発明の変異型ジアホラーゼは、30℃での活性値を100%とした時、25℃の相対活性が90%以上であることが好ましい。または、本発明の変異型ジアホラーゼは、ナフトキノン誘導体をメディエータとして用いた場合、30℃での活性値を100%とした時、25℃の相対活性が90%以上であることが好ましい。すなわち本発明のジアホラーゼは、室温に近い温度範囲である25〜30℃において、特に温度依存性が低減されている。
本発明の変異型ジアホラーゼは、さらに好ましくは、ナフトキノン誘導体をメディエータとして用いた場合、25〜37℃の範囲において、比活性が野生型ジアホラーゼと比較して1.5倍以上である。
このような変異型ジアホラーゼとしては、特に限定されないが、項3、項4、項5、項D、項E、項Fまたは項Gに記載のジアホラーゼが好ましいものとして例示できる。
1−7.至適活性pH
項1、項2、項Aまたは項Bに記載の、本発明のジアホラーゼは、実施例に示す通り、pH7.3(リン酸カリウム緩衝液)において最も高い活性を示すことが好ましい。また、pH6.5〜8.0(リン酸カリウム緩衝液)、pH7.5〜8.0(Tris HCl緩衝液)において、本発明のジアホラーゼは、pH7.3(リン酸カリウム緩衝液)における活性を100%として、80%以上の相対活性を示すことが好ましい。即ち、本発明のジアホラーゼの至適活性pHは6.7〜8.0であり、好ましくはpH7.3である。
項3、項4、項5、項D、項E、項Fまたは項Gに記載の、本発明のジアホラーゼは、実施例に示す通り、pH7.9(リン酸カリウム緩衝液)において最も高い活性を示すことが好ましい。また、pH7.5〜8.0(TrisHCl緩衝液)、pH6.5〜8.0(リン酸カリウム緩衝液)において、本発明のジアホラーゼは、pH7.9(リン酸カリウム緩衝液)における活性を100%として、60%以上の相対活性を示すことが好ましい。即ち、本発明のジアホラーゼの至適活性pHは6.5〜8.0である。より好ましくは80%以上の相対活性を示す6.8〜8.0である。さらに好ましくはpH7.9である。
1−8.pH安定性
本明細書において、特定のpH条件の下、25U/mLの酵素を25℃で16時間処理した後の残存酵素活性が、処理前の酵素活性と比較して95%以上である場合に、当該酵素は、当該pH条件において安定であると判断する。本発明のジアホラーゼは、少なくともpH5.0〜9.0の範囲で安定であることが好ましい。
項1、項2、項Aまたは項Bに記載の、本発明のジアホラーゼは、上記1−3、1−4、1−7および1−8で示される特徴のうち少なくとも1つ以上を備えていることが好ましく、より好ましくはその2つ以上を備え、更に好ましくはその3つの特性を備え、特に好ましくはその全てを備える。本発明のジアホラーゼは、上記1−3、1−4、1−7または1−8の特性を如何なる組合せで備えていても良い。
項3、項4、項5、項D、項E、項Fまたは項Gに記載の、本発明のジアホラーゼは、上記1−3〜1−8で示される特徴のうち少なくとも1つ以上を備えていることが好ましく、より好ましくはその2つ以上を備え、更に好ましくはその3つの特性を更に備え、より更に好ましくはその4つ以上を備え、一層好ましくはその5つ以上を備え、より一層好ましくはその6つ以上を備え、特に好ましくはその全てを備える。本発明のジアホラーゼは、上記1−3〜1−8の特性を如何なる組合せで備えていても良い。
なお、本発明のジアホラーゼのpH安定性や至適活性pH等その他の特性は、許容可能な変動の幅を有する場合がありうる。
1−9.サブユニットの分子量
本発明のジアホラーゼを構成するポリペプチド部分の分子量は、SDS−PAGEで測定した場合に約23.7kDaであることが好ましい。「約23.7kDa」とは、SDS−PAGEで分子量を測定した際に、当業者が、通常23.7kDaの位置にバンドがあると判断する範囲を含むことを意味する。「ポリペプチド部分」とは、実質的に糖鎖が結合していない状態のジアホラーゼを意味する。
SDS−PAGEでの分子量の測定は、一般的な手法及び装置を用い、市販される分子量マーカーを用いて行うことができる。
1−10.複合体の分子量
項1、項2、項Aまたは項Bに記載の、本発明のジアホラーゼを構成するポリペプチド部分の分子量は、ゲルろ過で測定した場合に約53.3kDaであることが好ましい。「約53.3kDa」とは、ゲルろ過で分子量を測定した際に、当業者が、通常53.3kDaの位置に保持時間(Retention time)があると判断する範囲を含むことを意味する。「ポリペプチド部分」とは、実質的に糖鎖が結合していない状態のジアホラーゼを意味する。
項3、項4、項5、項D、項E、項Fまたは項Gに記載の、本発明のジアホラーゼを構成するポリペプチド部分の分子量は、ゲルろ過で測定した場合に約55.3kDaであることが好ましい。
ゲルろ過での分子量の測定は、一般的な手法及び装置を用い、市販される分子量マーカーを用いて行うことができる。
項3、項4、項5、項D、項E、項Fまたは項Gに記載の、本発明のジアホラーゼは、好ましくは、分子量約23,700ダルトンのサブユニットが2量体を形成する、分子量約55,300Daのホモ2量体である。
1−11.由来
本発明のジアホラーゼは、上述する特性を備える限り、その由来は特に制限されない。本発明のジアホラーゼは、例えば、ゲオバチルス(Geobacillus)属に帰属する微生物であるに由来し得る。ゲオバチルス属に属する微生物としては、特に制限されないが、例えば、Geobacillus stearothermophilus、 Geobacillus kaustophilus HTA426、 Geobacillus thermoleovorans、 Geobacillus thermoglucosidasius、 Geobacillus caldoxylosilyticus、 Geobacillus tepidamans、 Geobacillus toebii subsp. decanicus、 Geobacillus galactosidasius、Geobacillus sp. Y412MC61、Geobacillus sp. Y412MC52、Geobacillus sp. G11MC16、Geobacillus sp. Y4.1MC1、Geobacillus zalihae、Geobacillus thermodenitrificansを例示することができる。より具体的には、Geobacillus sp. Y4.1MC1を例示することができる。Geobacillus sp. Y4.1MC1はATCC(American Type Culture Collection)に保管された菌株であり、所定の手続を経ることによってその分譲を受けることができる。
本発明のジアホラーゼが由来する他の生物としては、例えば、土壌や河川・湖沼などの水系又は海洋に存在する微生物や各種動植物の表面または内部に常在する微生物などを挙げることができる。低温環境、火山などの高温環境、深海などの無酸素・高圧・無光環境、油田など特殊な環境に生育する微生物を単離源としてもよい。
本発明のジアホラーゼには、微生物から直接単離されるジアホラーゼだけでなく、単離されたジアホラーゼを蛋白質工学的な方法によりアミノ酸配列等を改変したものや、遺伝子工学的手法により改変したものも含まれる。例えば、バチラス(Bacillaceae)科に分類される微生物、より具体的にはゲオバチルス(Geobacillus)属に分類される微生物等から取得した酵素に改変を加えることによって上述する上述する特性を備えるように改変したものであってもよい。更に具体的には、Geobacillus stearothermophilus、 Geobacillus kaustophilus HTA426、Geobacillus thermoleovorans、 Geobacillus thermoglucosidasius、 Geobacillus caldoxylosilyticus、 Geobacillus tepidamans、 Geobacillus toebii subsp. decanicus、 Geobacillus galactosidasius、Geobacillus sp. Y412MC61、Geobacillus sp. Y412MC52、Geobacillus sp. G11MC16、Geobacillussp. Y4.1MC1、Geobacillus zalihae、Geobacillus thermodenitrificansに帰属する微生物に由来するものを改変したものであっても良い。
2.ジアホラーゼをコードするDNA
本発明のDNAは、上記1のジアホラーゼをコードするDNAであり、具体的には以下の(A)〜(F)のいずれかである。
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードするDNA;
(B)配列番号2に示される塩基配列をからなるDNA;
(C)配列番号2に示される塩基配列との相同性が80%以上である塩基配列をからなり、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(D)配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを含み、且つジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(E)配列番号2に示される塩基配列において、一若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位されている塩基配列であり、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(F)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位したアミノ酸配列からなり、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
本発明のDNAは、それがコードするタンパク質がジアホラーゼ活性を有し、好ましくは上記1−2〜1−4および1−7〜1−11の特性の少なくとも1つを備える限り、配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであっても良い。
あるいは、本発明のDNAは、上記1のジアホラーゼをコードするDNAであり、具体的には以下の(A)〜(F)のいずれかである。
(A)配列番号4のアミノ酸配列をコードするDNA、
(B)配列番号5の塩基配列からなるDNA、
(C)配列番号5の塩基配列との同一性が80%以上である塩基配列からなり、配列番号5とのアラインメントにおいて364位〜366位のトリプレットがアスパラギン酸をコードし、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
(D)配列番号5の塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、配列番号5とのアラインメントにおいて364位〜366位のトリプレットがアスパラギン酸をコードし、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA、
(E)配列番号5に示される塩基配列において、一若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位されている塩基配列であり、配列番号5とのアラインメントにおいて364位〜366位のトリプレットがアスパラギン酸をコードし、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA、
(F)配列番号4のアミノ酸配列において、122位以外の箇所で、1若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位したアミノ酸配列からなり、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
本発明のDNAは、配列番号5とのアラインメントにおいて364位〜366位のトリプレットがアスパラギン酸をコードし、且つ、それがコードするタンパク質がジアホラーゼ活性を有し、好ましくは上記1−2〜1−11の特性の少なくとも1つを備える限り、配列番号5に示される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであっても良い。
本書において「タンパク質をコードするDNA」とは、それを発現させた場合に当該タンパク質が得られるDNA、即ち、当該タンパク質のアミノ酸配列に対応する塩基配列を有するDNAのことをいう。従ってコドンの縮重によって相違するDNAも含まれる。
塩基配列の相同性(同一性)は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、例えば、FASTA、BLAST、PSI−BLAST、SSEARCH等のソフトウェアを用いて計算される。BLAST検索に一般的に用いられる主な初期条件は、以下の通りである。即ち、Advanced BLAST 2.1において、プログラムにblastnを用い、各種パラメータはデフォルト値に設定して検索を行うことにより、ヌクレオチド配列の相同性の値(%)を算出することができる。本願では塩基配列の同一性の計算にこの方法を用いる。
本書において「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって、例えば、Molecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参照して設定することができる。
具体的なストリンジェントな条件としては、例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、5×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて約42℃〜約50℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃〜約70℃で洗浄する条件を挙げることができる。更に好ましいストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる条件を挙げることができ、本願における「ストリンジェントは条件」はこの条件を指す。
このような条件でハイブリダイズするDNAの中には途中にストップコドンが発生したものや、活性中心の変異により活性を失ったものも含まれ得るが、それらについては、市販の活性発現ベクターに組み込み、適当な宿主で発現させて、酵素活性を公知の手法で測定することによって容易に取り除くことができる。
上記のDNAの変異箇所数に関し、「数個」とは上記1−2に説明したものと同義である。即ち、「数個」とは、ジアホラーゼ活性及び好ましくは上述の1−3〜1−11の特性のうちいずれか1つ以上が維持される限りにおいて、例えば、全DNAの約20%未満に相当する数であり、好ましくは約15%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約6%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。より具体的には、変異される塩基の個数は、例えば、2〜382個、好ましくは2〜286個、より好ましくは2〜290個、更に好ましくは2〜95個であり、より更に好ましくは2〜19個、一層好ましくは2〜15個、より一層好ましくは2〜10個、特に好ましくは2〜5個である。
好適な一実施形態において、本発明のジアホラーゼをコードするDNAは、単離された状態で存在するDNAである。ここで「単離されたDNA」とは、天然状態において共存するその他の核酸やタンパク質等の成分から分離された状態であることをいう。但し、天然状態において隣接する核酸配列(例えばプロモーター領域の配列やターミネーター配列など)など一部の他の核酸成分を含んでいてもよい。例えば染色体DNAの場合の「単離された」状態とは、好ましくは、天然状態において共存する他のDNA成分を実質的に含まない。一方、cDNA分子など遺伝子工学的手法によって調製されるDNAの場合の「単離された」状態では、好ましくは、細胞成分や培養液などを実質的に含まない。同様に、化学合成によって調製されるDNAの場合の「単離された」状態では、好ましくは、dNTPなどの前駆体(原材料)や合成過程で使用される化学物質等を実質的に含まない。尚、それと異なる意味を表すことが明らかでない限り、本明細書において単に「DNA」と記載した場合には単離された状態のDNAを意味する。本発明のDNAには、上記(A)〜(F)のDNAと相補的なDNA(cDNA)も含まれる。本発明のDNAには、組換DNAも含まれる。
本発明のDNAは、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報(特に、配列番号2または配列番号5)を基に、化学的DNA合成法により製造、取得することができるが、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって容易に調製することができる(Molecular Cloning 2d Ed, Cold Spring Harbor Lab. Press (1989);続生化学実験講座「遺伝子研究法I、II、III」、日本生化学会編(1986)等参照)。化学的DNA合成法としては、フォスフォアミダイト法による固相合成法を例示することができる。この合成法には自動合成機を利用することができる。
標準的な遺伝子工学的手法としては、具体的には、本発明のジアホラーゼが発現される適当な起源微生物より、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、該ライブラリーから、本発明のDNA配列(例えば、配列番号2または配列番号5の塩基配列)に特有の適当なプローブや抗体を用いて所望クローンを選択することにより実施できる〔Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 78, 6613 (1981);Science122, 778 (1983)等〕。
cDNAライブラリーを調整するための起源微生物は、本発明ジアホラーゼを発現する微生物であれば特に制限されないが、好ましくは、ゲオバチルス(Geobacillus)属に分類される微生物である。起源微生物として好適なゲオバチルス属種は、Geobacillus sp. Y4.1MC1が好ましい。
上記の微生物からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニング等は、いずれも常法に従って実施することができる。本発明のDNAをcDNAライブラリーからスクリーニングする方法も、特に制限されず、通常の方法に従うことができる。例えば、cDNAによって産生されるポリペプチドに対して、該ポリペプチド特異抗体を使用した免疫的スクリーニングにより対応するcDNAクローンを選択する方法、目的のヌクレオチド配列に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション等やこれらの組合せ等を適宜選択して実施することができる。
DNAの取得に際しては、PCR法〔Science130, 1350 (1985)〕またはその変法によるDNA若しくはRNA増幅法が好適に利用できる。殊に、ライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法〔Rapid amplification of cDNA ends;実験医学、12(6), 35 (1994)〕、特に5’−RACE法〔M.A. Frohman, et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 8, 8998 (1988)〕等の採用が好適である。
PCR法の採用に際して使用されるプライマーも配列番号2または配列番号5の塩基配列に基づいて適宜設計し合成することができる。尚、増幅させたDNA若しくはRNA断片の単離精製は、前記の通り常法に従うことができ、例えばゲル電気泳動法、ハイブリダイゼーション法等によることができる。
本発明のDNAを使用することにより、本発明のジアホラーゼを容易に大量に、安定して製造することができる。
3.ベクター
本発明のベクターは、上記2.で説明する本発明のジアホラーゼをコードするDNAが組み込まれたベクターである。ここで「ベクター」とは、それに挿入された核酸分子を細胞等のターゲット内へと輸送することができる核酸性分子(キャリアー)であり、適当な宿主細胞内で本発明のDNAを複製可能であり、且つ、その発現が可能である限り、その種類や構造は特に限定されない。即ち、本発明のベクターは発現ベクターである。ベクターの種類は、宿主細胞の種類を考慮して適当なベクターが選択される。ベクターの具体例としては、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター(アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等)等を挙げることができる。また、糸状菌を宿主とする場合に適したベクターや、セルフクローニングに適したベクターを使用することも可能である。
大腸菌を宿主とする場合は、例えば、M13ファージ又はその改変体、λファージ又はその改変体、pBR322又はその改変体(pB325、pAT153、pUC8など)など)を使用することができる。酵母を宿主とする場合は、pYepSec1、pMFa、pYES2等を使用することができる。昆虫細胞を宿主とする場合は、例えば、pAc、pVL等が使用でき、哺乳類細胞を宿主とする場合は、例えば、pCDM8、pMT2PC等を使用することができるが、これらに限定される訳ではない。
発現ベクターは通常、挿入された核酸の発現に必要なプロモーター配列や発現を促進させるエンハンサー配列等を含む。選択マーカーを含む発現ベクターを使用することもできる。かかる発現ベクターを用いた場合には選択マーカーを利用して発現ベクターの導入の有無(及びその程度)を確認することができる。本発明のDNAのベクターへの挿入、選択マーカー遺伝子の挿入(必要な場合)、プロモーターの挿入(必要な場合)等は標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法)を用いて行うことができる。
4.形質転換体
本発明は、宿主細胞に本発明のDNAが導入された形質転換体に関する。本発明のDNAの宿主への導入手段は特に制限されないが、例えば、上記3.で説明するベクターに組み込まれた状態で宿主に導入される。宿主細胞は、本発明のDNAを発現してジアホラーゼを生産することが可能である限り、特に制限されない。
具体的には、大腸菌、枯草菌等の原核細胞や、酵母、カビ、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の真核細胞等を使用することができる。
宿主が大腸菌の特にK−12由来株が好ましく、BL21(DE3),BB4,BM25.5,BMH71−18mutS,BW313,C−la,C600,CJ236,DH1,DH5,DH5α,DH10B,DP50supF,ED8654,ED8767,ER1647,HB101,HMS174,HST02,HST04dam−/dcm−,HST08Premium,JM83,JM101,JM105,JM106,JM107,JM108,JM109,JM110,K802,K803,LE392,MC1061,MV1184,MV1193,NovaBlue,RR1,TAP90,TG1,TG2,TH2,XL1−Blue,Χ−1776,γ−1088,γ−1089,γ−1090などが用いられ、ベクターとしてはpBR322、pUC19、pUC57、pBluescript、pET22b,pUC18,pHSG398,pHSG399,pRIT2T,pUEX1〜3,pKK223−3,pINIII 1,pTTQ18,pGEMEX−1,pGH−L9,pKK233−2などが例として挙げられる。
宿主が枯草菌の場合は、バチルス・スブチルス、ブレビバチルス・ブレビス、ブレビバチルス・チョウシネンシスなどが例として挙げられ、ベクターとしてはpTB53又はその改変体、pHY300PLK又はその改変体、pAL10,pAL12、pHT01、pHT08、pHT09、pHT10、pHT43、pNY326、pNCMO2などが挙げられる。
宿主が酵母の場合は、サッカロミセス・セレビシエ、シゾサッカロミセス・ポンベ、キャンデイダ・ウチリス、ピキア・パストリスなどが例として挙げられ、ベクターとしてはpAUR101、pAUR224、pYE32などが挙げられる。
宿主が糸状菌細胞である場合は、例えば、Aspergillus oryzae等を例示することができる。
また、本発明のジアホラーゼが単離されたゲオバチルス属に帰属する微生物を宿主とすることも好ましい。即ち、形質転換体では、通常、外来性のDNAが宿主細胞中に存在するが、DNAが由来する微生物を宿主とするいわゆるセルフクローニングによって得られる形質転換体も好適な実施形態である。
本発明の形質転換体は、好ましくは、上記3.に示される発現ベクターを用いたトランスフェクション乃至はトランスフォーメーションによって調製される。形質転換は、一過性であっても安定的な形質転換であってもよい。
トランスフェクション、トランスフォーメーションはリン酸カルシウム共沈降法、エレクトロポーレーション(Potter, H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161−7165(1984))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413−7417(1984))、マイクロインジェクション(Graessmann, M. & Graessmann,A., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 73,366−370(1976))、Hanahanの方法(Hanahan, D., J. Mol. Biol. 166, 557−580(1983))、酢酸リチウム法(Schiestl, R.H. et al., Curr. Genet. 16, 339−346(1989))、プロトプラスト−ポリエチレングリコール法(Yelton, M.M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 81, 1470−1474(1984))等を利用して実施することができる。
本発明の形質転換体は、本発明のジアホラーゼを産生する能力を有するため、それを用いて効率的に本発明のジアホラーゼを製造することが可能となる。
5.ジアホラーゼの製造方法
本発明のジアホラーゼは、本発明のジアホラーゼの生産能を有する微生物を培養することで製造される。培養に供される微生物は、本発明のジアホラーゼを産生する能力を有する限り特に制限されず、例えば、上記1.に示すゲオバチルス属に帰属する野生型の微生物及び上記4.に示す形質転換体を好適に利用することができる。
具体的なゲオバチルス属に分類される微生物としては、Geobacillus stearothermophilus、Geobacillus kaustophilus HTA426、Geobacillus thermoleovorans、 Geobacillus thermoglucosidasius、 Geobacillus caldoxylosilyticus、 Geobacillus tepidamans、 Geobacillus toebii subsp. decanicus、 Geobacillus galactosidasius、Geobacillus sp. Y412MC61、Geobacillus sp. Y412MC52、Geobacillus sp. G11MC16、Geobacillussp. Y4.1MC1、Geobacillus zalihae、Geobacillus thermodenitrificansが挙げられる。
上記のゲオバチルス(Geobacillus)属に分類される微生物は、例えば、NBRC(NITE Biological Resource Center)(独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門)とATCC(American Type Culture Collection)に保管された菌株であり、所定の手続を経ることによってその分譲を受けることができる。
培養方法及び培養条件は、本発明のジアホラーゼが生産される限り特に限定されない。即ち、ジアホラーゼが生産されることを条件として、使用する微生物の生育に適合した方法及び条件を適宜設定できる。以下に、培養条件として、培地、培養温度、及び培養時間を例示する。
培地としては、使用する微生物が生育可能な培地であれば、特に制限されない。例えば、グルコース、シュクロース、ゲンチオビオース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等の炭素源、更に硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、あるいは、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等の窒素源、更にカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等の無機塩を添加したものを用いることができる。使用する微生物の生育を促進するためにビタミン、アミノ酸などを培地に添加してもよい。
市販のLB培地(Luria−Bertai Medium)、M9培地(M9 Minimal Medium)、NZCYM培地(NZCYM Medium)、NZYM培地(NZYM Medium)、NZM培地(NZM Medium)、SOB培地(SOB Medium)、TB培地(Terrific Broth)、2XYT培地(2XYT Medium)を用いてもよい。
ゲオバチルス(Geobacillus)属に分類される微生物を培養して本発明のジアホラーゼを得る場合は、その微生物の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよい。多くの場合は液体培養で行い、工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。ただし、生産性を考えた場合に、固体培養で行った方が有利な場合もある。
培地のpHは、培養する微生物の生育に適していればよく、例えば約4〜9、好ましくは約6〜8程度に調整し、培養温度は通常約10〜50℃、好ましくは約25〜35℃程度で、1〜15日間、好ましくは3〜7日間程度好気的条件下で培養する。培養法としては例えば振盪培養法、ジャー・ファーメンターによる好気的深部培養法が利用できる。
上記のような条件で培養した後、培養液又は菌体よりジアホラーゼを回収することが好ましい。ジアホラーゼを菌体外に分泌する微生物を用いる場合は、例えば培養上清をろ過、遠心処理等することによって不溶物を除去した後、限外ろ過膜による濃縮、硫安沈殿等の塩析、透析、各種クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて分離、精製を行うことにより本酵素を得ることができる。ゲオバチルス属に属する微生物が産生するジアホラーゼは基本的に分泌型のタンパク質である。
他方、菌体内から回収する場合には、例えば菌体を加圧処理、超音波処理、機械的手法、又はリゾチーム等の酵素を利用した手法等によって破砕した後、必要に応じて、EDTA等のキレート剤及び界面活性剤を添加してジアホラーゼを可溶化し、水溶液として分離採取し、分離、精製を行うことにより本酵素を得ることができる。ろ過、遠心処理などによって予め培養液から菌体を回収した後、上記一連の工程(菌体の破砕、分離、精製)を行ってもよい。
精製は、例えば、減圧濃縮、膜濃縮、さらに硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、あるいは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿処理、加熱処理や等電点処理、吸着剤あるいはゲルろ過剤などによるゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等を適宜組み合わせて実施することができる。
カラムクロマトグラフィーを用いる場合は、例えば、セファデックス(Sephadex)ゲル(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)などによるゲルろ過、DEAEセファロースCL−6B (GEヘルスケア バイオサイエンス社製)、オクチルセファロースCL−6B(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)等を用いることができる。該精製酵素標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的に単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
なお、培養液からのジアホラーゼ活性を有するタンパク質の採取(抽出、精製など)にあたっては、ジアホラーゼ活性、熱安定性などのうちいずれか1つ以上を指標に行ってもよい。
各精製工程では原則としてジアホラーゼ活性を指標として分画を行い、次のステップへと進む。但し、予備試験などによって、適切な条件を予め設定可能な場合にはこの限りでない。
本発明の野生型ジアホラーゼを精製標品とする場合は、例えば比活性の下限が1000(U/mg)の状態に精製することが好ましい。さらに好ましい比活性の下限は2000(U/mg)であり、さらに好ましい比活性の下限は2200(U/mg)であり、さらに好ましい比活性の下限は2400(U/mg)である。また、比活性の上限は3000(U/mg)の状態に精製することが好ましい。さらに好ましい比活性の上限は2800(U/mg)であり、さらに好ましい比活性の上限は2600(U/mg)である。また、最終的な形態は液体状であっても固体状(粉体状を含む)であってもよい。
本発明の変異型ジアホラーゼを精製標品とする場合は、例えば比活性の下限が1000(U/mg)の状態に精製することが好ましい。さらに好ましい比活性の下限は1200(U/mg)である。また、比活性の上限は3000(U/mg)の状態に精製することが好ましい。さらに好ましい比活性の上限は2000(U/mg)であり、さらに好ましい比活性の上限は1400(U/mg)である。また、最終的な形態は液体状であっても固体状(粉体状を含む)であってもよい。
なお、本書において「比活性」という用語を特に断りなく用いる場合は、1−1−1の測定条件にてDCPIPをメディエータとした時の比活性を指すものとする。また、「比活性」は、タンパク質当たりの活性を意味するが、溶液においてはA280の値をタンパク質濃度とみなして相対比較を行ってもよい。
組換えタンパク質として本酵素を得ることにすれば種々の修飾が可能である。例えば、本酵素をコードするDNAと他の適当なDNAとを同じベクターに挿入し、当該ベクターを用いて組換えタンパク質の生産を行えば、任意のペプチドないしタンパク質が連結された組換えタンパク質からなる本酵素を得ることができる。また、糖鎖及び/又は脂質の付加や、あるいはN末端若しくはC末端のプロセッシングが生ずるような修飾を施してもよい。以上のような修飾により、組換えタンパク質の抽出、精製の簡便化、又は生物学的機能の付加等が可能である。
6.本発明のジアホラーゼの用途
本発明のジアホラーゼは、種々のプロダクトに適用できる。
本明細書において「プロダクト」とは、使用者が或る用途を実行する目的で用いる1セットのうち一部または全部を構成する製品であって、本発明のジアホラーゼを含むものを意味する。
本発明のプロダクトは、種々の用途に適用することができ、その用途は特に限定されるものではないが、典型的には以下の2つの原理のうちいずれかを利用するものが例示できる。
(a)ジアホラーゼによりNADHなどの基質を測定すること。
(b)ジアホラーゼによる酵素反応により電流を発生させること。
上記の(a)の原理を用いるものとしては、体外診断の用途(例えば種々の生体成分の測定)が挙げられる。これらの生体成分測定方法は既に当該技術分野において確立されている。よって、公知の方法に従い、本発明のジアホラーゼを用いて、各種試料中の生体成分の量又は濃度を測定することができる。
本発明のジアホラーゼを用いて生体成分の濃度又は量を測定する限り、その態様は特に制限されないが、例えば、グルコース、ラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)、クレアチンキナーゼ(CK)、中性脂肪(TG)、胆汁酸および総分岐鎖アミノ酸(BCAA)などの生体成分等を測定するための試薬、キット、センサなど種々の形態が例示できる。
LDHを測定する場合は、LDH反応により生じたNADHが、ジアホラーゼを介して、ニトロテトラゾリウムブルーなどを還元させ自身はNADに戻りホルマザン色素を生成させるので、これを比色定量することによりLDHの活性値を求めることができる。
胆汁酸を測定する場合においても、3−α−ヒドロキシステロイド脱水素酵素が胆汁酸を基質として反応が進みNADHが発生するので、これを上記と同様の方法により比色定量することで胆汁酸の濃度を求めることができる。
BCAAを測定する場合においても、ロイシンデヒドロゲナーゼがBCAAを基質として反応が進みNADHが発生するので、これを上記と同様の方法により比色定量することでBCAAの濃度を求めることができる。
CKを測定する場合は、CK反応においてはNADHを直接生じないので、CK反応で発生したATPを、予め試薬に添加したグルコースと共にグルコキナーゼと反応させてグルコース6リン酸を生じさせ、さらに、グルコース6リン酸を、予め試薬に添加したNADと共にグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼと反応させてNADHを生じさせる、いわゆる共役反応を設計することにより、ジアホラーゼによるCK活性値の定量が可能になる。
TGを測定する場合は、TGを基質とするリポプロテインリパーゼ、および、共役酵素としてグリセロールデヒドロゲナーゼを用いてNADHを生じさせることにより、ジアホラーゼによるTG濃度の定量が可能になる。
このような共役反応を適宜設計することにより、上記以外の生体成分の濃度又は量を測定することも可能である。
グルコースを測定する場合は、グルコースデヒドロゲナーゼ反応により生じたNADHが、ジアホラーゼを介して、DCPIPなどの電子受容体を還元させて自身はNADに戻り、DCPIPの構造が変化することによって生じる吸光度の差を比色定量することにより、グルコースの濃度を求めることができる。より具体的には、上記1−1.に示す方法に従って、実施することができる。
グルコースを含有する試料は、特に制限されないが、例えば、血液、飲料、食品等を挙げることができる。
後述するセンサの形態でのグルコース濃度の測定は、例えば、以下のようにして実施することができる。恒温セルに緩衝液を入れ、一定温度に維持する。メディエータとしては、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。作用電極として本発明のジアホラーゼなどを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
[グルコースアッセイキット]
本発明のプロダクトにおけるキットの形態を、グルコースアッセイキットを事例に説明する。本発明のグルコースアッセイキットは、本発明のジアホラーゼを少なくとも1回のアッセイに十分な量で含む。典型的には、キットは、本発明のジアホラーゼに加えて、NAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、アッセイに必要な緩衝液、メディエータ、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明のジアホラーゼは種々の形態で、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。
[グルコースセンサ]
本発明のプロダクトにおけるセンサの形態を、グルコースセンサを事例に説明する。本発明のグルコースセンサにおいて、電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上に本発明の酵素を固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどがあり、あるいはフェロセンあるいはその誘導体に代表される電子メディエータとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。本発明のジアホラーゼは、熱安定性に優れるため、比較的高温度条件下で固定化を実施することができる。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明のジアホラーゼをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。
グルコース濃度の測定は、以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、一定温度に維持する。メディエータとしては、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。作用電極として本発明のジアホラーゼを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
上記の(b)の原理を用いるものとしては、酵素電極(固定化電極であっても良い)、酵素センサ、燃料電池、さらには一つまたは複数の燃料電池を有する電子機器など種々の形態が例示できる。
[燃料電池]
グルコースデヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼを用いた、グルコースの酸化反応により電子を取り出す燃料電池は既に当該技術分野において確立されている。よって、公知の方法に従い、本発明のジアホラーゼを用いて、燃料電池を作製し稼動させることができる。
本発明のジアホラーゼを用いて燃料電池を作製し稼動させる限り、その態様は特に制限されないが、例えば、以下のような手段により電池として稼動させることができる。まず、本発明のジアホラーゼをバイオ燃料電池の負極において、グルコースデヒドロゲナーゼ、オスミウム錯体などの電子メディエータなどとともに固定化し、一方、正極において、ビリルビンオキシダーゼ(BOD)、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどから選択される酸化還元酵素と、ヘキサシアノ鉄酸イオンなどのメディエータを固定化する。さらに、負極と正極とを電子伝導性を持たずプロトンのみ伝導する電解質層を介して対向した構造を構築し、負極では、燃料として供給されたグルコースを酵素により分解し電子を取り出すとともにプロトン(H+)を発生させ、正極では、負極から電解質層を通って輸送されたプロトンと負極から外部回路を通って送られた電子と例えば空気中の酸素とにより水を生成させる。
グルコースを含有する試料は、特に制限されないが、例えば、血液、飲料、食品等を挙げることができる。
[燃料電池を有する電子機器など]
本発明のジアホラーゼを用いた燃料電池は電力が必要なものであれば何にでも用いることができ、また、大きさも問わない。具体的には、この燃料電池は、例えば、電子機器、移動体(自動車、二輪車、航空機、ロケット、宇宙船など)、動力装置、建設機械、工作機械、発電システム、コージェネレーションシステムなどに用いることができる。
電子機器は、どのようなものであってもよく、例えば、携帯型のものであっても、据え置き型のものであっても良い。例えば、携帯電話、モバイル機器、ロボット、パーソナルコンピュータ(デスクトップ型、ノート型の双方を含む)、ゲーム機器、カメラ一体型VTR(ビデオテープレコーダ)、車載機器、家庭電気製品、工業製品などが挙げられる。モバイル機器は、携帯情報端末機(PDA)などが例示できる。
燃料電池の出力、大きさ、形状、燃料の種類などは、共役反応を含めた電池の設計性能や、用途などによって適宜決めることができる。
[酵素電極(酵素固定化電極)]
上記の燃料電池の例において、例えば、ポリ−L−リシン(PLL)とグルタルアルデヒド(GA)とからなる組成からなる固定化剤を用いて、本発明のジアホラーゼ等を正極および負極に固定化することができる。このようにして得られる酵素電極(酵素固定化電極)もまた、既に当該技術分野において確立されている。よって、公知の方法に従い、本発明のジアホラーゼを用いて、酵素電極(酵素固定化電極)を作製し稼動させることができる。
[酵素センサ]
上記で得られた酵素電極(酵素固定化電極)を用いて、グルコースを測定するための酵素センサ(グルコースセンサ)を作製することもまた、既に当該技術分野において確立されている。よって、公知の方法に従い、本発明のジアホラーゼを用いて、酵素センサ(グルコースセンサ)を作製し稼動させることができる。
本発明のジアホラーゼを、センサ、電極、燃料電池などに用いる場合、メディエータとの相性が重要となる。本発明のジアホラーゼに適用できるメディエータは特に限定されるものではないが、ジアホラーゼとメディエータの関係が調べられている。例えば、2−アミノ−1,4−ナフトキノン(ANQ)、2−アミノ−3−メチル−1,4−ナフトキノン(AMNQ)、2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノン(ACNQ)、2,3−ジアミノ−1,4−ナフトキノン、4−アミノ−1,2−ナフトキノン、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2−メチル−3−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、ビタミンK1(2−methyl−3−phyty1,4−naphthoquinone)、ビタミンK2(2−farnesyl−3−methyl−1,4−naphtoquinone)、ビタミンK3(2−methy 1,4−naphthoquinone)、などをメディエータとして用いることができる。また、キノン骨格を有する化合物としては、例えば、anthraquinone−1−sulfonate、anthraquinone−2−sulfonateなどのようなアントラキノン骨格を有する化合物やその誘導体を用いることもできる。特に、ナフトキノン骨格を有する分子の誘導体はメディエータとして安価で安全性がある(特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献9、特許文献10、特許文献11、非特許文献1、非特許文献4)。よって、ナフトキノン骨格を有するメディエータに反応性が高いことが好ましい。
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1 相同性タンパク質の検索
Geobacillus stearothermophilusのジアホラーゼのアミノ酸配列(ACCESSION AAD24436)(配列番号3)を全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のデータベースより取得した。取得した211アミノ酸残基を全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のprotein blastのアルゴリズムblastpにより検索した。その結果、Geobacillus stearothermophilusのジアホラーゼのアミノ酸配列(ACCESSION AAD24436)とアミノ酸配列相同性をもつタンパク質を同定した。
次に、blastp の検索結果においてIdentities = 128/211 (61%)以上の相同性を持つアミノ酸配列は除外した。次に、Identities = 126/211 (60%)以下の相同性であり、好熱菌由来のアミノ酸配列を同定した。その結果、Identities = 126/211 (60%)であるGeobacillus sp. Y4.1MC1のNAD(P)H dehydrogenase (ACCESSION YP_003989131)(配列番号1)を見出した。アライメント比較をEuropean Bioinformatics Instituteのホームページにて利用できるClustalW2(http://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalw2/)にて行い、アミノ酸配列の相違点を明らかにした(図1)。
実施例2 全長タンパク質をコードする遺伝子の取得
実施例1において同定したGeobacillus sp. Y4.1MC1のNAD(P)H dehydrogenase (ACCESSION YP_003989131)がジアホラーゼ活性を持つポリペプチドであることを確認する必要がある。よって、211アミノ残基を元に、211アミノ酸残基をコードする636塩基の合成遺伝子を設計した(配列番号2)。また、大腸菌にて酵素タンパク質を生産させやすくするため、あらかじめリボゾーム結合配列であるシャイン−ダルガルノ配列(Shine‐Dalgarno sequence)を開始メチオニンの上流に付加した合成遺伝子を設計した。合成遺伝子は、GenScript社により合成した。GenScript社により受領した合成遺伝子はクローニングベクター用プラスミドであるpUC57に挿入されていた。
実施例3 形質転換体の取得
実施例2において取得した合成遺伝子はプラスミドであるpUC57のLacZプロモーター下流に挿入されていた。そこで、合成遺伝子が挿入されていたプラスミドをそのまま発現ベクターとして用いることとし、これを組換え発現プラスミドpUC−DI−1と命名した。pUC−DI−1を用いて、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)DH5α株コンピテントセル(東洋紡製)を形質転換し、SOC培地中で1hr、37℃で前培養後、LB−amp寒天培地に展開し、コロニーである該形質転換体を取得した。得られた形質転換体を、エシェリヒア・コリーDH5α(pUC−DI−1)と命名した。
実施例4 変異の導入および形質転換体の取得
(1)変異の導入
実施例1と実施例2において同定したGeobacillus sp. Y4.1MC1の211アミノ酸残基のNAD(P)H dehydrogenaseに変異を導入した。変異部位は公知情報(非特許文献1)をもとに決定した。具体的には、122番目のアミノ酸であるグリシンをアスパラギン酸に置換した(配列番号4)(図2)。このようにして設計した変異型ポリペプチドである、211アミノ酸残基のNAD(P)H dehydrogenaseがジアホラーゼ活性を持つポリペプチドであることを確認するために、122番目のアミノ酸であるグリシンをアスパラギン酸に置換した211アミノ酸残基をコードする636塩基の合成遺伝子を設計した(配列番号5)。合成遺伝子の開始メチオニンの上流には、大腸菌にて酵素タンパク質を生産させやすくするため、あらかじめリボゾーム結合配列であるシャイン−ダルガルノ配列(Shine‐Dalgarno sequence)を付加した。合成遺伝子の作製は、GenScript社に委託した。GenScript社より受領した合成遺伝子はクローニングベクター用プラスミドであるpUC57に挿入されていた。
(2)形質転換体の取得
取得した変異型ポリペプチドの合成遺伝子はプラスミドであるpUC57のLacZプロモーター下流に挿入されていた。そこで、合成遺伝子が挿入されていたプラスミドをそのまま発現ベクターとして用いることとし、これを組換え発現プラスミドpUC−DI−1G122Dと命名した。pUC−DI−1G122Dを用いて、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)DH5α株コンピテントセル(東洋紡製)を形質転換し、SOC培地中で1hr、37℃で前培養後、LB−amp寒天培地に展開し、コロニーである該形質転換体を取得した。得られた形質転換体を、エシェリヒア・コリーDH5α(pUC−DI−1G122D)と命名した。
実施例5 培養上清の準備
実施例3にて取得した形質転換体エシェリヒア・コリーDH5α(pUC−DI−1)のコロニーを一白金耳試験管5mlのLB−amp液体培地に植菌し、30℃で16時間培養した。培養終了より菌体を遠心分離により集菌し、50mMリン酸緩衝液(pH7.5)に懸濁した後、ソニケーターにて超音波破砕し、更に遠心分離を行い、上清液を粗酵素液として得た。
実施例4にて取得した形質転換体エシェリヒア・コリーDH5α(pUC−DI−1G122D)についても同様の操作を行い、粗酵素液を得た。
実施例6 ジアホラーゼ活性の確認
実施例5で得た粗酵素液中のジアホラーゼ活性を、上記1−1.に示したジアホラーゼ活性測定方法を用いて測定した。
その結果、形質転換体エシェリヒア・コリーDH5α(pUC−DI−1)由来の粗酵素液にジアホラーゼ活性が存在することが確認された。よって、本合成遺伝子はGeobacillus sp. Y4.1MC1のNAD(P)H dehydrogenaseをコードしている遺伝子であることがわかった。
また、形質転換体エシェリヒア・コリーDH5α(pUC−DI−1G122D)由来の粗酵素液についても同様の操作を行い、もジアホラーゼ活性が存在することを確認した。よって、変異型ポリペプチドをコートするpUC−DI−1G122D合成遺伝子はジアホラーゼ活性を持っていることがわかった。
実施例7 Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼと変異型ジアホラーゼの調製(培養および精製)
5mLのLB液体培地(トリプトン1.0%、イーストイクストラクト0.5%、NaCl1.0%、pH7.0)を試験管に入れ、オートクレーブで滅菌し、前培養用の培地とした。予めLBプレート培地で培養した形質転換体であるエシェリヒア・コリーDH5α(pUC−DI−1)を前培養培地に一白金耳植菌し、30℃、180rpmで16時間振とう培養し、種培養液を得た。
形質転換体エシェリヒア・コリーDH5α(pUC−DI−1G122D)についても同様の操作を行い、種培養液を得た。
次に、上記で得た2種類の種培養液を用いて、それぞれ下記の操作を行った。
500mLのTB液体培地(トリプトン1.2%、イーストイクストラクト2.4%、グリセロール0.4%、KHPO 0.23%、KHPO 1.25%、pH7.0)を2L坂口フラスコに入れ、オートクレーブで滅菌し、本培養培地の培地とした。5mLの種培養液を本培養培地に植菌し、培養温度30℃、180rpmで24時間振とう培養した。その後、培養液を遠心分離して集菌し、菌体を回収した。得られた菌体を20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に懸濁した。
次に、上記で得た2種類の懸濁液を用いて、それぞれ下記の操作を行った。
懸濁液をフレンチプレス(Niro Soavi製)に流速160mL/分で送液し、700〜1000barで破砕した。続いて、エチレンイミン(ポリマー)(ナカライテスク株式会社)をポリエチレンイミン含有量5%になるように調整した5%ポリエチレンイミン溶液(pH7.5)を準備し、破砕液へ破砕液量に対し5%になるように徐々に添加して、室温で30分間攪拌した後、ろ過助剤を用いて余分な沈殿を除去した。次に0.5飽和になるように硫酸アンモニウム(住友化学(株)製)を徐々に添加し、硫安分画を行い、ジアホラーゼ活性を持つタンパク質を沈殿させ回収し、回収したタンパク質の沈殿を20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に懸濁した。次に、懸濁液をSephadex G−25のゲルを用いて脱塩した。その後、予め20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で平衡化した400mLのDEAEセファロースFastFlow(GEヘルスケア製)カラムにかけ、0.5M NaClを含む20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)のリニアグラジエントで溶出させた。そして、溶出されたジアホラーゼ画分を分画分子量10,000の中空糸膜(スペクトラムラボラトリーズ製)で濃縮した。濃縮液をSephadex G−25のゲルを用いて脱塩し、精製酵素を得た。
本実施例では、形質転換体エシェリヒア・コリーDH5α(pUC−DI−1)から得られたジアホラーゼを「野生型ジアホラーゼ」と表記する。また、形質転換体エシェリヒア・コリーDH5α(pUC−DI−1G122D)から得られたジアホラーゼ「変異型ジアホラーゼ」と表記する。
次に、上記で得た2種類の精製酵素を用いて、それぞれ下記の操作を行った。
得られた精製酵素をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PhastSystemおよびPhastGelTM Gradient 10−15 、GEヘルスケアバイオサイエンス製)に供した。この際、タンパク質分子量マーカーとしてフォスフォリラーゼb(97,000ダルトン)、アルブミン(66,000ダルトン)、オバルブミン(45,000ダルトン)、カルボニックアンヒドラーゼ(30,000ダルトン)、トリプシンインヒビター(20,100ダルトン)、α・ラクトアルブミン(14,400ダルトン)を用いた。
その結果、それぞれの酵素において単一のバンドが得られたことから、野生型ジアホラーゼと変異型ジアホラーゼが十分に精製されていることが分かった。
実施例9 サブユニットの分子量
サブユニット分子量の測定は、定法のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PhastSystemおよびPhastGelTM Gradient 10−15 、GEヘルスケアバイオサイエンス製)で測定を行った。タンパク質分子量マーカー(Low Molicular Weight Calibration Kit、GEヘルスケアバイオサイエンス製)フォスフォリラーゼb(Phosphorylase b):97,000ダルトン、アルブミン(Albumin):66,000ダルトン、オバルブミン(Ovalbumin):45,000ダルトン、カルボニックアンヒドラーゼ(Carbonic anhydrase):30,000ダルトン、トリプシンインヒビター(Trypsin inhibitor):20,100ダルトン、α・ラクトアルブミン(α−Lactalbumin):14,400ダルトンの移動度より求めた分子量は少なくとも野生型ジアホラーゼが分子量約23,700ダルトンのサブユニット、変異型ジアホラーゼが分子量約23,700ダルトンのサブユニットであった。野生型ジアホラーゼの結果を図3(A)、変異型ジアホラーゼの結果を図4(A)に示す。
実施例10 複合体の分子量
本酵素の分子量測定はTSK−gel G3000SW (7.5mm I.D. X60センチ, TOSOH)を使用した。緩衝液は0.15 M NaClを含む20 mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7)を使用し、流速0.5ml/minで測定した。分子量を測定するタンパク質マーカーとして、MW−Marker Proteins (HPLC) (オリエンタル酵母)を使用し、本精製酵素の分子量を決定した。タンパク質マーカーの分子量は以下のとおりである。グルタミン酸脱水素酵素(Glutamate dehydrogenase):290kDa、乳酸脱水素酵素(Lactate dehydrogenase):142kDa、エノラーゼ(Enolase):67kDa、ミオキナーゼ(Myokinase):32kDa、シトクローム C(Ctyochrome C):12.4kDa。本測定条件において、タンパク質マーカーと本酵素の保持時間は、グルタミン酸脱水素酵素(Glutamate dehydrogenase):26.47 min、乳酸脱水素酵素(Lactate dehydrogenase):30.44 min、エノラーゼ(Enolase):35.63 min、ミオキナーゼ(Myokinase):38.79 min、シトクローム C(Ctyochrome C):44.84 min、野生型ジアホラーゼ:36.31min、変異型ジアホラーゼ:36.06minであった。以上の結果から、野生型ジアホラーゼの分子量は約53,300Da、変異型ジアホラーゼの分子量は約55,300Daであることが確認された。野生型ジアホラーゼの結果を図3(B)、変異型ジアホラーゼの結果を図4(B)に示す。
TSK−gel G3000SWによるゲルろ過の分子量測定とSDS−PAGEによる分子量測定から、野生型ジアホラーゼは分子量約23,700ダルトンのサブユニットが2量体を形成する、分子量約53,300Daのホモ2量体である。
TSK−gel G3000SWによるゲルろ過による分子量測定とSDS−PAGEによる分子量測定から、変異型ジアホラーゼは分子量約23,700ダルトンのサブユニットが2量体を形成する、分子量約55,300Daのホモ2量体である。
実施例11 至適活性pH
実施例5で得られたジアホラーゼ酵素液(2U/mL)を用いて、至適pHを調べた。100mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0−8.0、図中◆印でプロット)、100mMTris−HCl緩衝液(pH7.5−9.0、図中■印でプロット)、100mM グリシン−NaOH緩衝液(pH9.0−10.0、図中▲でプロット)、を用い、それぞれのpHにおいて、温度25℃にて酵素反応を行い、相対活性を比較した。結果を図5に示す。図5(A)はGeobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼ、図5(B)は本発明のGeobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼをそれぞれ用いて至適活性pHを検討した結果である。
その結果、野生型ジアホラーゼの至適活性pHは、pH7.3において最も高い活性値を示した。また、凡そpH6.7〜pH8.0の間においては、最大活性値の80%以上の相対活性を示したことから、このpH域では好適に使用できると考えられる。
また、変異型ジアホラーゼの至適活性pHは、pH7.9において最も高い活性値を示した。また、凡そpH6.5〜pH8.0の間においては、最大活性値の60%以上の相対活性を示したことから、このpH域では好適に使用できると考えられる。
実施例12 pH安定性
実施例5で得られたジアホラーゼ酵素液(25U/mL)を用いて、pH安定性を調べた。100mM 酢酸カリウム緩衝液(pH5.0−pH6.0:図中◆印でプロット)、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0−pH8.0:図中■印でプロット)、100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5−pH9.0:図中▲印でプロット)、を用い、25℃、16時間処理した後の活性の残存率を測定した。結果を図6に示す。図6(A)はGeobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼ、図6(B)は本発明のGeobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼをそれぞれ用いてpH安定性を検討した結果である。
その結果、野生型ジアホラーゼおよび変異型ジアホラーゼは、いずれもpH5.0〜pH9.0の間において安定であることが示された。
実施例13 温度安定性
実施例5で得られたジアホラーゼ酵素液(50U/mL)を用いて、温度安定性を調べた。100mM酢酸カリウム緩衝液(pH7.5)を用いて、ジアホラーゼ酵素液を各温度(50℃、60℃、70℃)で15〜60分間処理した後、見かけの活性の残存率を測定した。結果を図7に示す。図7(A)はGeobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼの温度安定性、図7(B)は本発明のGeobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼの温度安定性をそれぞれ示す。さらに、同様の方法にてGeobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)の温度安定性を調べた(図8)。
その結果、野生型ジアホラーゼは70℃・60分間での処理後83%の残存率を有しており、70℃以下ではより高い残存活性(50℃および60℃で残存90%以上)を有していた。それに対し、Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)は70℃・60分間での処理後44%の残存率であった。このことから、本発明の野生型ジアホラーゼは、70℃以下で安定であることが示された。
なお、本発明の野生型ジアホラーゼは4℃、30℃、40℃においても60分間での処理後90%以上の残存率を有しており、広い温度範囲において安定であることが示された。
また、50℃、60℃、70℃のそれぞれにおいて15分間処理後の酵素活性はいずれも90%以上であった。
また、本発明の変異型ジアホラーゼは、70℃・60分間での処理後88.5%の残存率を有しており、70℃以下ではより高い残存活性(50℃および60℃で残存90%以上)を有していた。このことから、変異型ジアホラーゼは、70℃以下で安定であることが示された。
実施例14 NADHに対するKm値の測定
実施例5で得られたジアホラーゼ酵素液を用いて、上述したジアホラーゼの活性測定法において、基質であるNADHの濃度を変化させて活性測定を行い、基質濃度と反応速度のグラフ(図9(A)(B))からLineweaver−burk plotを作成し、Km値を算出した。その結果、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼのNADHに対するKm値は、0.073mMであることが判明した(図9(A))。同様の方法にて、本発明のGeobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼの活性測定を行った。その結果、本発明の変異型ジアホラーゼのNADHに対するKm値は、0.363mMであることが判明した(図9(B))。さらに、同様の方法にてGeobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)の活性測定を行った(図10)。その結果、Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)のNADHに対するKm値は、0.115mMであることが判明した。
実施例15 ANQをメディエータとした時の比活性
実施例5で得られたジアホラーゼ酵素液(0.01〜0.02mg/mL)を用いて、ANQへの反応性を調べた(図11(A)(B))。ANQは非特許文献5に記載の方法によって合成し、利用することができる。Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼ、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼ、Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)の酵素活性を測定し、NADH濃度と比活性(U/mg)の関係を一覧表にした(表1)。
その結果、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼはGeobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼに比べ、1.7〜2.6倍の高い比活性を示した(図11(A))。
NADH濃度が20mM以上では、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼはGeobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)に比べ、比活性が高いことが判明した。
また、高濃度NADHによるジアホラーゼ活性阻害効果を図11(B)にて示す。図11(B)はNADHが20mMのときの酵素活性を100%とした時の相対活性をグラフにしたものである。その結果、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼは80mM NADH時の相対活性が79%であった。Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼは80mM NADH時の相対活性が50%であった。Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)は80mM NADH時の相対活性が39%であった。
この結果から、本発明の変異型ジアホラーゼは、野生型に比べて、NADHの濃度が高いときの活性阻害が抑制されていることがわかる。
実施例16 DCPIPをメディエータとした時の温度依存性
実施例5で得られたジアホラーゼ酵素液を用いて、1−1−1記載のジアホラーゼの活性測定法において、25℃、30℃、37℃で測定し温度依存性を調べた。1−6で定義された温度依存性を図12(A)に示す。反応温度と比活性との関係を図12(B)に示す。
図12(A)が示すとおり、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼは25℃の相対値が37℃に対して79.6%であったのに対し、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼは25℃の相対値が37℃に対して61.3%であった。Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)は25℃の相対値が37℃に対して69.6%であった。この結果から、本発明の変異型ジアホラーゼは、野生型に比べて、温度依存性が改良されていることがわかる。
また、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼは25℃の相対値が30℃に対して93.0%であったのに対し、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼは25℃の相対値が30℃に対して84.1%であった。Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)は25℃の相対値が30℃に対して83.7%であった。この結果から、本発明の変異型ジアホラーゼは、野生型に比べて、室温に近い温度範囲である25〜30℃において、特に温度依存性が改善されていることがわかる。
実施例17 ANQをメディエータとした時の温度依存性
実施例4および実施例5で得られたジアホラーゼ酵素液を用いて、1−1−2記載のジアホラーゼの活性測定法において、20mM NADH時の25℃、30℃、37℃で測定し温度依存性を調べた。1−6で定義された温度依存性を図13(A)に示す。反応温度と比活性との関係を図13(B)に示す。
図13(A)が示すとおり、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼは25℃の相対値が37℃に対して52.9%であった。Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼは25℃の相対値が37℃に対して36.0%であった。Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)は25℃の相対値が37℃に対して46.3%であった。この結果から、本発明の変異型ジアホラーゼは、野生型に比べて、温度依存性が改良されていることがわかる。
また、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼは25℃の相対値が30℃に対して98.0%であったのに対し、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼは25℃の相対値が30℃に対して59.0%であった。Geobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)は25℃の相対値が30℃に対して83.0%であった。この結果から、本発明の変異型ジアホラーゼは、野生型に比べて、室温に近い温度範囲である25〜30℃において、特に温度依存性が改善されていることがわかる。
これらの結果から、本発明の変異型ジアホラーゼは、野生型に比べて、温度依存性が改良されていることがわかる。特に、室温に近い温度範囲である25〜30℃で温度依存性が改良されていることがわかる。
図13(B)が示すとおり、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼは、25〜37℃の範囲において、何れの温度においても、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼとGeobacillus stearothermophilus由来ジアホラーゼ(ユニチカ製)より、比活性が高い。37℃での比活性は、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼが678.8U/mgに対し、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼは942.8U/mgで、1.39倍であった。また、30℃での比活性は、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼが413.3U/mgに対し、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼは509.6U/mgで、1.23倍であった。特に、25℃での比活性は、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来野生型ジアホラーゼが244.2U/mgに対し、Geobacillus sp. Y4.1MC1由来変異型ジアホラーゼは498.8U/mgと、2倍以上高くなっていた。
これらの結果から、本発明の変異型ジアホラーゼは、ナフトキノン誘導体をメディエータとして用いた場合、野生型に比べて温度依存性が改良されており、かつ、さらに比活性が野生型に比べて向上していることがわかる。特に25〜37℃の範囲において、その効果が顕著である。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
本発明のジアホラーゼはNADHとの親和性に優れNADH量をより正確に測定することを可能にする。従って本発明のジアホラーゼはNADHの測定などに好適といえる。

Claims (8)

  1. 下記の(a)または(c)のポリペプチドからなる変異型ジアホラーゼ。
    (a)配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチド
    c)配列番号4のアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、配列番号4とのアラインメントにおいて122位のグリシンがアスパラギン酸に改変されていて、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチド。
  2. さらに、下記の(d)または(e)のいずれか1つ以上の特性を有する、請求項に記載の変異型ジアホラーゼ。
    (d)20mM NADH存在下の比活性を100%としたとき、80mM NADH存在下で比活性が50%以上保たれる。
    (e)(1)DCPIPをメディエータとして用いた場合、37℃での活性値を100%とした時、25℃の相対活性が70%以上であるか、または、(2)ナフトキノン誘導体をメディエータとして用いた場合、37℃での活性値を100%とした時、25℃の相対活性が50%以上である。
  3. さらに、下記の(f)の特性を有する、請求項またはの変異型ジアホラーゼ。
    (f)ナフトキノン誘導体をメディエータとして用いた場合、比活性が野生型ジアホラーゼと比較して1.5倍以上である。
  4. 以下の(A)〜(D)のいずれかのDNA。
    (A)配列番号4のアミノ酸配列をコードするDNA
    (B)配列番号5の塩基配列からなるDNA
    (C)配列番号5の塩基配列との同一性が90%以上である塩基配列からなり、配列番号5とのアラインメントにおいて364位〜366位のトリプレットがアスパラギン酸をコードし、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA
    (D)配列番号5の塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、配列番号5とのアラインメントにおいて364位〜366位のトリプレットがアスパラギン酸をコードし、且つ、ジアホラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
  5. 請求項に記載のDNAを組み込んだベクター。
  6. 請求項に記載のベクターを含む形質転換体。
  7. 請求項に記載の形質転換体を培養することを含む、請求項1〜のいずれかに記載のジアホラーゼの製造方法。
  8. 請求項1〜のいずれかに記載のジアホラーゼを含む体外診断用試薬、体外診断用キット、酵素電極、酵素センサまたは燃料電池
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