モナティンまたはその塩の製造方法
技術分野
本発明は甘味料として有用なモナティンの製造方法に関し、 特に 2位の立体配置が R配置で ある光学活性モナティンを効率的に製造するための製造方法に関する。 , 背景技術
下記式 (3) で表される 4—ヒドロキシー 4— (3—インドリルメチル) 一 2—アミノグ ルタル酸 (以下 「モナティン」 と称することがある) の (2 S, 4 S) 体は、 南アフリカ北部 卜ランスバール (Northern Transvaal) 地方に自生する植物シユレ口チトン イリシホリアス (Schlerochitom ilicifol ius) の根皮に含まれ、 ショ糖の数百倍の甘味を有し、 甘味料とし て有用なアミノ酸誘導体であることが知られている (特許文献 1 :特開昭 64— 2 57 5 7号 公報参照)。
モナティンは 2位と 4位に不斉炭素原子を有し、 以下の 4種の光学異性体が存在する。
4 R) モナティン (2 R, 4 R) モナティン
(2 R, 4 S) モナティン (2 S, 4 S) モナティン
モナティンの製造方法については、 種々の報告がなされており (非特許文献 1 :テトラへド ロン ' レターズ (Tetrahedron Letters), 200 1年, 42巻, 3 9号, p 6 793— 6 7 96、 非特許文献 2 :オーガニック · レターズ (Organic Letters), 2000年, 2巻, 1 9
号, p 2967— 2970、 非特許文献 3 :シンセテイツク ·コミュニケーション (Synthetic Co讓 uni cat ion), 1 994年, 24巻, 2 2号, p 3 1 97— 3 2 1 1、 特許文献 2 :米国特 許第 5994559号、 特許文献 3 :特開 2002 - 60382号公報等参照)、 光学活性な モナティンの製造方法についてもいくつか検討された例はあるが、 製造に非常に多くの工程を 必要とし工業的に適した製造方法とは言えなかつた。
一方本出願人は、 最近、 インドールー 3—ピルビン酸からモナティン前駆体を合成し、 特定 の光学活性ァミンとジァステレオマー塩を形成させて光学分割する工程を経て、 最終的に特定 の光学活性モナティンを製造する方法を見出し、 報告している (特許文献 4 :国際公開第 03 /059865号参照)。 例えば、 (2 R, 4 R) モナティンを例にとると、 該方法は以下のス キー厶で表すことができる。
本製造方法は、 従来の方法と比較し工程数が少なく、 効率的に光学活性モナティンを製造で き、 工業的にも適した製造方法である。 しかし、 晶析工程で目的外の 2位光学異性体は母液側 に淘汰され、例えばこれを異性化して目的とする光学活性モナティンに変換できれば効率性は 更に向上することになる。
また、 本出願人は、 4種のモナティンの光学異性体中では、 2位の立体配置が Sのモナティ ンよりも 2位の立体配置が Rであるモナティン、すなわち(2 R, 4 R)モナティンおよび(2 R, 4 S) モナティンが甘味強度の点ではるかに優れていることを見出し、 報告している (特 許文献 5 :国際公開第 03/0459 1 4号参照)。 従って、 甘味強度のより低い、 (2 S, 4 S) モナティンまたは (2 S, 4 R) 体モナティンの 2位を異性化し、 それぞれ (2 R, 4 S) モナティンまたは (2 R, 4 R) モナティンに効率的に誘導できれば、 モナティンを甘味料と して用いる場合に好都合である。
アミノ酸などの光学活性体のラセミ化方法としては、 強酸性、 強アルカリ性条件又は高温に て処理する方法、 アルデヒド存在下比較的温和な条件でラセミ化させる方法 (特許文献 6 :特 開昭 57— 1 23 1 50号公報、 特許文献 7 :特開昭 58 - 1 6 7 562号公報参照) などが 知られているが、 これらの方法では異性対比が 1 : 1 に収束するため最大収率が 50%程度で あり効率的なラセミ方法とは言い難い。 また特定の光学活性体と組み合わせて目的の光学異性 体を高収率で生成させる異性化析出法も知られているが (非特許文献 4 :テトラへドロン (Tetrahedron), 1 997年, 53巻, 28号, p 94 1 7— 94 76、 非特許文献 5 :テ卜 ラへドロン 'アシンメトリー (Tetrahedron Asymmetry), 2002年, 1 3巻, 2649— 2 6 52参照)、 その組み合わせを見出すには膨大な試行錯誤が必要となる。
[特許文献 1 ]
特開昭 64— 25 757号公報
[特許文献 2]
米国特許第 5994559号明細書
[特許文献 3]
特開 2002— 60382号公報
[特許文献 4]
国際公開第 03Z059865号パンフレツ卜
[特許文献 5 ]
国際公開第 03Z0459 1 4号パンフレツ卜
[特許文献 6 ]
特開昭 57— 1 23 1 50号公報
[特許文献 7]
特開昭 58— 1 6 7562号公報
[非特許文献 1 ]
テトラへドロン ' レターズ (Tetrahedron Letters), 200 1年, 42巻, 39号, p 6 793 - 67 96
[非特許文献 2]
オーガニック ' レターズ (Organic Letters), 2000年, 2巻, 1 9号, p 2967— 2 9 70
[非特許文献 3 ]
シンセテイツク 'コミュニケーション (Synthetic Communication), 1 994年, 24巻, 2 2号, p 3 1 97— 32 1 1
[非特許文献 4]
テトラへドロン (Tetrahedron), 1 99 7年, 53巻, 28号, p 94 1 7— 9476 [非特許文献 5 ]
テトラへドロン 'アシンメトリー (Tetrahedron Asymmetry), 2002年, 1 3巻, 2 64 9 - 2652 発明の開示
[発明が解決しょうとする課題]
本発明は、 2位の立体配置が S配置であるモナティンの 2位を異性化することにより 2位の 立体配置が R配置であるモナティン又はその塩を製造する方法を提供することを目的とする。
[課題を解決するための手段]
本発明者らは、 上記解決課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、 アルデヒド存在下、 水と有機溶 媒の混合溶媒中で、 2位の立体配置が S配置であるモナティン (以下、 (2 S) モナティンと 略称することがある) の 2位の異性化反応 (ェピメリ化反応) を行った後、 2位の立体配置が R配置であるモナティン (以下、 (2 R) モナティンと略称することがある) またはその塩を 晶析することで、 (2 R) モナティンを優先的に得られることを見出し、 更に (2 R) モナテ インを晶析する前に、 (2 S) モナティンを晶析により除去し、 その後 (2 R) モナティンを 晶析することによリ、 より純度の高い (2 R) モナティンが得られることを見出し、 本発明を 完成させた。
すなわち、 本発明には、 以下の内容が含まれる。
[1 ] アルデヒド存在下、 水と有機溶媒の混合溶媒中で、 2位の立体配置が S配置であるモ ナティンの 2位の異性化反応を行う工程、 および該異性化反応を行う工程の後、 2位の立体配 置が R配置であるモナティンまたはその塩を晶析する工程を含むことを特徴とする、 2位の立 体配置が R配置であるモナティンまたはその塩の製造方法。
[2] 異性化反応を行う工程の後に行われる、 2位の立体配置が R配置であるモナティンま たはその塩を晶析する工程が、 反応溶液から 2位の立体配置が S配置であるモナティンまたは その塩を晶析により除去し、 晶析母液から 2位の立体配置が R配置であるモナティンまたはそ の塩を晶析することにより行われる上記 [ 1 ] 記載の製造方法。
[3] 異性化反応を行う工程の後に行われる、 2位の立体配置が R配置であるモナティンま たはその塩を晶析する工程が、 反応溶液を晶析して得られる結晶を再結晶することにより行わ れる上記 [ 1 ] 記載の製造方法。
[4] 異性化反応が、 2位の立体配置が S配置であるモナティンおよび 2位の立体配置が R 配置であるモナティンの存在下に行われる上記 [1 ] ~ [3] 記載の製造方法。
[5] アルデヒドが芳香族アルデヒドである上記 [1 ] ~ [3] 記載の製造方法。
[6] 芳香族アルデヒドがサリチルアルデヒドである上記 [5] 記載の製造方法。
[7] 有機溶媒がアルコールである上記 [1 ] 〜 [3] 記載の製造方法。
[8] 異性化反応の反応溶媒の p Hが 2 ~ 8の条件で行われる上記 [ 1 ] 〜 [3] 記載の製 造方法。
[ 9 ] 異性化反応の反応温度が 60〜 90 °Cである上記 [ 1 ] ~ [ 3 ] 記載の製造方法。
[1 0] アルデヒド存在下、 水と有機溶媒の混合溶媒中で、 式 (1 ):
で表される (2 S, 4 R) モナティンの 2位の異性化反応を行った後、 式 (2) :
で表される (2 R, 4 R) モナティンまたはその塩を晶析する工程を含むことを特徴とする、 (2 R, 4 R) モナティンまたはその塩の製造方法。
[ 1 1 ] 異性化反応を行う工程の後に行われる、 式 (2) で表される (2 R, 4 R) モナテ インまたはその塩を晶析する工程が、 反応溶液から式 (1 ) で表される (2 S, 4 R) モナテ インまたはその塩を晶析により除去し、 晶析母液から式 (2) で表される (2 R, 4 R) モナ ティンまたはその塩を晶析することにより行われる上記 1 0記載の製造方法。
[1 2] 異性化反応を行う工程の後に行われる、 式 (2) で表される (2 R, 4 R) モナテ ィンまたはその塩を晶析する工程が、 反応溶液を晶析して得られる結晶を再結晶することによ リ行われる上記 [1 ] 記載の製造方法。
[1 3] 異性化反応が、 式 (1 ) で表される (2 S, 4 R) モナティンおよび式 (2) で表 される (2 R, 4 R) モナティンの存在下に行われる上記 [1 0] または [ 1 1 ] 記載の製造
方法。
[1 4] アルデヒドが芳香族アルデヒドである上記 [1 0]または [ 1 1 ]記載の製造方法。
[ 1 5] 芳香族アルデヒドがサリチルアルデヒドである上記 [1 ] 記載の製造方法。
[1 6] 有機溶媒がアルコールである上記 [1 0] または [1 1 ] 記載の製造方法。
[1 7] 異性化反応の反応溶媒の p Hが 2〜 8の条件で行われる上記 [1 0] または [1 1 ] 記載の製造方法。
[ 1 8] 異性化反応の反応温度が 60-90°Cである上記 [1 0] または [1 1 ] 記載の製 造方法。
なお本発明において、 2位の立体配置が S配置であるモナティンとは、 (2 S, 4 R) モナ ティンおよび または (2 S, 4 S) モナティンを意味する用語であり、 2位の立体配置が R 配置であるモナティンとは、 (2 R, 4 R) モナティンおよび Zまたは (2 R, 4 S) モナテ ィンを意味する用語である。 発明を実施するための最良の形態
本発明の製造方法に出発原料として使用されるモナティンは、 (2 S, 4 R) モナティン又 は (2 S, 4 S) モナティンが単独で存在する場合のみならず、 (2 S, 4 R) モナティンと (2 R, 4 R)モナティンが任意の割合で存在する混合物及び( 2 S、 4 S)モナティンと ( 2 R、 4 S) モナティンが任意の割合で存在する混合物なども挙げることができる。
本発明の製造方法は、 (2 S, 4 R) モナティン及び (2 R, 4 R) モナティンが任意の割 合で存在する 4位光学活性モナティンにおいて (2 R, 4 R) モナティンを選択的に取得した い場合、 又は (2 S, 4 S) モナティン及び (2 R, 4 S) モナティンが任意の割合で存在す る 4位光学活性モナティンにおいて (2 R、 4 S) モナティンを選択的に取得したい場合に特 に好適に用いることができる。
本発明の製造方法に出発原料として用いられるモナティンは、 ナトリウム塩、 カリウム塩、 アンモニゥ厶塩等の各種塩の形態であってもよい。 また本発明の製造方法で得られる (2 R, 4 R) モナティン及び (2 R, 4 S) モナティンも、 同様に各種塩の形態であってもよい。 こ れら各種モナティンは、例えば特許文献 4または特許文献 5に記載された方法に従って製造す ることができる。
特許文献 4に記載された光学活性モナティンの製造方法を例にとると、 例えば、 式 (4) :
で表される (4 R) —4—ヒドロキシー 4— (3—インドリルメチル) 一 2—ヒドロキシイミ ノグルタミン酸を口ジゥ厶炭素等の触媒で水素添加反応を行い( 2 S、 4 R)モナティンと( 2 R、 4 R) モナティンが含まれる反応混合物を得る。 反応混合物中の触媒を濾過し、 水とアル コールの混合溶媒で晶析を行うことで、 (2 R、 4 R) モナティンを選択的に得ることができ る。
この場合、 反応混合物中に含まれる (2 S、 4 R) モナティンは母液側に淘汰されることに なる。しかしながら、本発明の製造方法に従って特定の条件で晶析と同時に異性化反応を行い、 (2 S、 4 R)モナティンを (2 R, 4 R)モナティンへに変換することで、 より効率的に(2 R、 4 R) モナティンを取得することができる。
また、 (2 R, 4 R) モナティンと (2 S, 4 R) モナティンの反応混合物から晶析により (2 R, 4 R) モナティンを取得した後の晶析母液には、 目的物である (2 R, 4 R) モナテ インよりもその 2位光学異性体である (2 S, 4 R) モナティンが高比率で含まれる。 該母液 に本発明の製造方法を適用し、 (2 S, 4 R) モナティンを (2 R、 4 R) モナティンに異性 化させ、 母液から (2 R、 4 R) モナティンを回収するために用いることもできる。 異性化反 応は、 目的物である (2 R, 4 R) モナティンの多い平衡混合物を与えるため、 目的物の異性 体がよリ高い比率で含まれる晶析前の反応混合物に対してではなく、 目的物の異性体がよリ低 い比率で含まれる晶析母液に対して適用する方が効率的で好ましい。 このように晶析母液から 本発明の方法により得られた (2 R, 4 R) モナティン結晶を、 一連のモナティン製造プロセ スの一工程に循環することで、 生産性を高めることができる。 例えば該モナティン結晶を (2 S, 4 R) モナティンと (2 R, 4 R) モナティンの反応混合物から (2 R, 4 R) モナティ ンを晶析する工程における反応混合物に加えることで、 より効率的に (2 R, 4 R) モナティ ンを製造することが可能である。 晶析母液から得られた、 (2 R, 4 R) モナティン結晶の純 度が高ければ、 そのまま該結晶を、 反応混合物から晶析して得られた (2 R, 4 R) モナティ ンの結晶と混合することもできる。
以上、 (2 R, 4 R) モナティンを取得する場合を例にとり説明したが、 (2 R, 4 S) モナ ティンを取得する場合も全く同様である。 また本発明における異性化反応は、 例えばモナティ ンの 4種の光学異性体混合物、 (2 S, 4 R) モナティンと (2 R, 4 S) モナティンの混合
物および (2 S, 4 S) モナティンと (2 R, 4 R) モナティンの混合物などの各種混合物に も適用することができる。 その場合、 例えば目的に応じて、 (2 S, 4 S) モナティンと (2 R, 4 R) モナティンの混合物または (2 S, 4 R) モナティンと (2 R, 4 S) モナティン の混合物を取得することもできる (後掲参考例 3参照)。
本発明の製造方法においては、 異性化反応のためにアルデヒドが使用される。 アルデヒドは 脂肪族アルデヒド又は芳香族アルデヒドのいずれを使用してもよい。
脂肪族アルデヒドとしては、 例えばホルムアルデヒド、 ァセトアルデヒド、 プロピオンアル デヒド、 n—ブチルアルデヒド、 1 一ブチルアルデヒド、 n—バレルアルデヒド、 力プロンァ ルデヒド、 n—へプチルアルデヒド、 ァクロレイン、 メタクロレイン等の炭素数 1 ~ 7の飽和 又は不飽和アルデヒドを用いることができる。
芳香族アルデヒドとしては、 例えばべンズアルデヒド、 サリチルアルデヒド、 m—ヒドロキ シアルデヒド、 p—ヒドロキシアルデヒド、 0—ニトロべンズアルデヒド、 p—二トロべンズ アルデヒド、 5—ニトロサリチルアルデヒド、 ァニスアルデヒド、 0—バニリン、 バニリン、 フルフラール、 ピルドキサ一ル等を用いることができる。
アルデヒドとしては、 特に、 サリチルアルデヒド、 ピルドキサール、 0—バニリンが好まし い。
アルデヒドは、 系に存在するモナティンに対して 0. 01 ~1. 0モル当量、 より好ましく は 0. 05~0. 5モル当量、 更に好ましくは 0. 1から 0. 3当量の範囲で使用することが できる。
本発明の製造方法における異性化反応の反応溶媒としては水と有機溶媒との混合溶媒が使 用される。 有機溶媒としては、 水と混和する有機溶媒が使用されるが、 特にメタノール、 エタ ノール、 プロパノール、 イソプロパノール等のアルコールが好ましい。 有機溶媒は異なる 2種 以上のものを混合して用いてもよい。 有機溶媒と水の比率は好ましくは体積比で有機溶媒:水 = 1 : 0. 01 ~1 : 1、 更に好ましくは 1 : 0. 1 ~ 1 : 0. 5の範囲で設定される。 異性化反応の温度は好ましくは 50-1 00°C、 更に好ましくは 60〜90°Cの範囲で設定 される。 異性化反応の P Hは通常 2〜 8、 好ましくは 3~ 7の範囲で設定される。 pHの調整 は酸及びアルカリを用いて行うことができる。 用いられる酸は特に限定されず、 酢酸などの有 機酸、 又は塩酸、 硫酸などの無機酸を使用することができる。 アルカリも特に限定されず、 水 酸化ナトリウム、 水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、 アンモニア、 ァミン等の有機塩 基を使用することができる。
異性化反応の反応時間は通常 1 ~ 48時間、 好ましくは 1 ~ 6時間の範囲とすることができ る。 なお異性化反応において、 副反応によりモナティンのラクタム化化合物が生成するが、 反 応時間が長いほど該ラクタム化化合物の生成量が多くなる傾向にあるため、 異性化反応におい て (2 R) モナティンと (2 S) モナティンの比率が平衡値に達した時点で反応を終了するの が好ましい。 該ラクタ厶化化合物は、 アルカリ条件で加熱することで、 ラクタ厶環が加水分解 され、 もとのモナティンに誘導することができ、 必要に応じて、 該ラクタムの加水分解工程を 行ってもよい。
異性化反応終了後、 反応溶液を晶析することにより、 (2 R) モナティン又はその塩を結晶 として得ることができる。 晶析方法は特に限定されないが、 好ましくは、 反応溶液に例えば、 水酸化ナトリウム、 水酸化カリウム、 アンモニア等の塩基を加えた後、 反応溶液を濃縮または 反応溶液中の溶媒を留去し、 残渣を適量の水に溶解した後、 適量のエタノールを添加すること により (2 R) モナティン塩の結晶を析出させる方法が挙げられる。 なお、 異性化反応におい て、 一定時間経過後、 (2 R) モナティンと (2 S) モナティンの比率が平衡値に達し、 例え ば、 (2 S, 4 R) モナティンを用いて異性化反応を行った場合、 反応溶液中の (2 R, 4 R) モナティンと (2 S, 4 R) モナティンの比率は約 2 : 1に収束する。 従って、 上述したよう な方法で反応溶液を晶析することにより得られる結晶には (2 S, 4 R) モナティン塩が相当 量含まれることになるため、 より純度の高い (2 R, 4 R) モナティン塩を得るために、 得ら れた結晶を再結晶するのが好まし t、。再結晶は上記と同様 l£水ーェタノ一ル溶媒を用いて行う ことができる。 また再結晶の際、 適量の酸を加えることにより、 遊離体のモナティンを得るこ とができ、 また必要により、 適量の塩基を加えて再結晶を行いモナティン塩の結晶を得ること もできる。
なお、 (2 S, 4 R) モナティンと (2 R, 4 R) モナティンと、 或は (2 R, 4 S) モナ ティンと(2 S, 4 S)モナティンとのエタノールに対する溶解度の差を利用することにより、 効率的に立体異性体を分離することもできる。 即ち、 エタノールを貧溶媒として晶析を行う場 合、 (2 R, 4 R) モナティンと比較して (2 S, 4 R) モナティンがエタノールに対する溶 解度が低いため、 (2 S, 4 R) モナティンの存在比が少ないにもかかわらず (2 S, 4 R) モナティンの結晶が優先的に析出する傾向にある。 従って、 (2 R, 4 R) モナティン (塩) の晶析に先立って、 まず (2 S, 4 R) モナティンを晶析し、 得られた結晶を除去する。 得ら れる晶析母液中の (2 R, 4 R) モナティンの比率は反応直後の反応溶液よりも大幅に高くな るため、 これを再度晶析することにより、 より純度の高い (2 R, 4 R) モナティン塩の結晶
を得ることができる。 (2 S, 4 R) モナティンの結晶を晶析により予め除去する場合、 晶析 温度を 70〜80°C程度の高温に設定し、 晶析で得られた結晶を好ましくは高温のまま濾過す ることで、 効率的に (2 S, 4 R) モナティンを反応溶液から除去することができる。 また得 られた (2 R, 4 R) モナティン (塩) の結晶は、 更に純度を高めるため上記と同様に再結晶 を行ってもよい。 (2 R, 4 S) モナティンと (2 S, 4 S) モナティンについても同様であ る。
塩の形態で得られた (2 R) モナティンは、 当業者に公知の方法により、 塩から遊離体に変 換することもできる。 以下、 実施例により本発明を詳細に説明するが、 本発明は当該実施例に何等限定されるもの ではない。 なお実施例中、 光学純度測定は下記条件で H P LCにて行った。
1 H— NM Rスペクトルについては、 B r u k e r AVANC E 400 (40 OMH z) により、 MSスペクトルについては、 T h e r mo Q u e s t T SQ 700により、 それ ぞれ測定した。 陽イオン交換樹脂として、 AM B E R L I T E I R 1 20 B H AGを使 用した。
モナティンの高速液体クロマ卜グラフィ一による分析は以下の条件で行った。
(分析条件 1 )
カラム: I n e r t s i l OD S— 80 A 6 X 1 50 mm
溶離液: 1 2 %CH3CN a q 0. 05%T F A
流速: 1. 5 m I /m i n
検出: U V 2 1 0 nm
カフム;皿 6t: 皿
(分析条件 2)
カラム: C ROWN PAK C R ( + ) 4 X 1 50mm
溶離液: HC I 04 a q (p H 2. 0) /C H3OH=90/1 0
流 : 1. 2 m I / m i n
検出: U V 2 1 0 nm
カフム;皿 J¾t: ¾■ '皿 く実施例 1〉
(2 R, 4 R) モナティンのナトリウム塩と (2 S, 4 R) モナティンのナトリウム塩の混 合物 [(2 R, 4 R): (2 S, 4 R) = 26 : 74] 3. 1 52 g (1 0ミリモル)、 サリチル アルデヒド 244mg (0. 2当量) 及び酢酸 601 mg (1 · 0当量) を 25 %メタノール水溶 液 60 m Iに加え、 85 °Cで 6時間加熱撹拌した。 加熱終了後の反応液を H P L Cで分析した ところ、 (2 R, 4 R) モナティンと (2 S, 4 R) モナティンの比は 63 : 27であった。 反応溶液を減圧下にて濃縮し、 残渣に水 5ml を加え溶解した後にエタノール 5 Oml を加える と結晶が析出した。 スラリー状のまま、 85 °Cにて 1時間加熱すると、 一度結晶が溶解し均一 になった後、 再び結晶が析出した。 高温のまま反応溶液を濾過し、 析出した結晶を濾取した。 得られた結晶の (2 R, 4 R) モナティンと (2 S, 4 R) モナティンの比率は 1 5 : 85で あった。 得られた結晶を 5%アンモニア水に溶解後、 減圧下にて濃縮して活性炭を加えた。 活 性炭を濾過により除去し、 濾液にエタノールを加えて晶析し、 (2 S, 4 R) モナティンのァ ンモニゥ厶塩 773 mg [ 2. 50ミリモル、 (2 R, 4 R): (2 S, 4 R) =4 : 94] を得 た。
上記濾過によリ得られた晶析母液を、 2 N水酸化ナ卜リゥム水溶液 5 m Iで弱アル力リ性に 調整し、 反応溶液を減圧下に濃縮した。 得られた残渣に水 5 m Iを加えて溶解し、 これにエタ ノール 6 Om Iを加え攪拌し、 析出した結晶を濾取した。 得られた結晶の (2 R, 4 R) モナ ティンと (2 S, 4 R) モナティンの比率は 90 : 1 0であった。 得られた結晶を水 5 Om l に溶解し、 陽イオン交換樹脂を加えて P Hをほぼ中性に調整した後に陽イオン交換樹脂を濾過 によリ除去した。 濾液に活性炭を加えしばらく撹拌した後に活性炭を濾過によリ除去した。 濾 液を減圧濃縮した後にエタノールを加えて結晶化を行い、 (2 R, 4 R) モナティンのナ卜リ ゥ厶塩 (0. 6エタノール和物) 85 1 mg [2. 48ミリモル、 (2 R, 4 R): (2 S, 4 R) = 88 : 1 2] を得た。
(2 R, 4 R) モナティンのナトリウム塩結晶 (0. 6エタノール和物) の1 H— NMR及 び質量分析の結果は以下の通りであつた。
1 H-NM R (D20) [主要ピーク] (5 : 1. 95 - 2. 02 (m, 1 H), 2. 58-2. 62 (m, 1 H), 3. 01 -3. 05 (m, 1 H), 3. 2 1 -3. 24 (m, 1 H), 3. 55 - 3. 58 (m, 1 H), 7. 07-7. 1 1 (m, 1 H), 7. 1 4-7. 1 8 (m, 2 H), 7. 42 - 7. 44 (d, 1 H), 7. 66— 7. 68 (d, 1 H)。
E S I -M S : 29 1. 49 (M-H) -。
(2 R, 4 S) モナティンのアンモニゥ厶塩結晶の1 H— NMR及び質量分析の結果は以下
の通りであった。
1 H-NM R (D20) [主要ピーク] (5 : 2. 1 1 -2. 1 7 (m, 1 H), 2. 38-2. 43 (m, 1 H), 3. 1 6 (s, 2 H), 3. 90 - 3. 93 (m, 1 H), 7. 06-7. 1 0 (m, 1 H), 7. 1 3-7. 1 7 (m, 2 H), 7. 4 1 -7. 43 (d, 1 H), 7. 66— 7. 68 (d, 1 H)。
E S I -M S : 291. 1 9 (M-H) ―。 ぐ実施例 2 >
(2 R, 4 R) モナティンのナトリウム塩と (2 S, 4 R) モナティンのナトリウム塩との 混合物 [(2 R, 4 R): (2 S, 4 R) =26 : 74] 3. 1 52 g (1 0ミリモル)、 サリチ ルアルデヒド 244mg (0. 2当量) 及び酢酸601 (1. 0当量) を 25 %メタノール水 溶液 60 m I に加え、 85。 で 6時間加熱撹袢した (反応開始時 p H = 4. 27、 反応終了時 p H = 4. 3 1 )。 反応終了後、 反応溶液に 2 N水酸化ナトリウ厶水溶液 5 m Iを加え ( p H =6. 21 )、 85 °Cで 30分間加熱撹拌した。 反応溶液を減圧下に濃縮し、 得られた残渣を 水 5m Iに溶解し、 エタノール 75m Iを加えて結晶を析出させた。 得られた結晶を一旦水に 溶解した後に、 減圧下に濃縮し、 残渣をイソプロパノールとエタノールの 1 : 1混合溶媒 1 0 Om lで晶析し、 (2 R, 4 R) モナティンのナトリウム塩結晶 [(2 R, 4 R): (2 S, 4 R) =64 : 36] を得た。 該結晶を乾燥せずにそのまま水に溶解後、 減圧下に濃縮して溶媒量を 約 1 Om Iとした。 溶液に 2 N塩酸水溶液 5 m Iを加え、 得られた (2 R, 4 R) モナティン 遊離体結晶 (結晶 1 ) を濾取した [(2 R, 4 R : (2 S, 4 R) =84 : 1 6)。 結晶 1の晶 析母液を水一エタノールにより晶析し、 結晶 2を得た [(2 R, 4 R): (2 S, 4 R) = 1 2 : 88]。 結晶 2の晶析母液を水一エタノールにより晶析し、 結晶 3を得た [(2 R, 4 R): (2 S, 4 R) = 85 : 1 5]。 結晶 1 と結晶 3を合わせ、 5 %アンモニア水に溶解した後に、 反 応液を減圧下に濃縮し、 残渣にエタノールを加えて晶析した。 この晶析操作をもう一度繰り返 し、 (2 R, 4 R) モナティンのアンモニゥ厶塩結晶 1. 1 9 g [3. 38ミリモル、 ( 2 R , 4 R): (2 S, 4 R) =92 : 8] を得た。 結晶 2と結晶 3の晶析母液を合わせ、 水—ェタノ —ルにより晶析し、 (2 S, 4 R)モナティンのアンモニゥ厶塩 978mg[3. 1 6ミリモリ 14、 (2 R, 4 R): (2 S, 4 R) =33 : 67] を得た。 <参考例 1 >
モナティン (2 R, 4 R) 体のナトリウム塩と (2 S, 4 R) 体のナトリウム塩の 26 : 7 4の混合物 1 58mg (0. 5ミリモル) を 50 %メタノール水溶液 3 m Iに溶解し、 所定の 酢酸とサリチルアルデヒドを加えた。 反応液を 85°Cで加熱し、 モナティン (2 R, 4 R) 体 と (2 S, 4 S) 体の比率を H P LCで測定した。 併せて、 副生物であるモナティンのラクタ 厶も測定した。 尚、 生成したラクタムのほとんどがモナティン (2 R, 4 R) 体に由来する立 体異性体であった。
ほ 1一 1 ]
ェピメリ化率 [(2 R, 4 R) 体の存在比 (%)]
サリチルアルデヒド 0. 2当量
ェピメリ化率 [(2 R, 4 R) 体の存在比 (%)]
サリチルアルデヒド 0. 5当量
ェピメリ化率 [(2 R, 4 R) 体の存在比 (%)]
サリチルアルデヒド 1. 0当量
反応時間
酢酸 (当量) 1時間 3時間 6時間
1. 0 47. 3 59. 5 63. 7
1. 5 49. 3 60. 7 64. 0
2. 0 50. 9 61. 0 64. 1
ほ 2]
ラクタムの生成率 (H P LCIU7%)
<参考例 2 >
(2 R, 4 R) モナティンのナトリウム塩と (2 S, 4 R) モナティンのナトリウム塩の 2 6 : 74の混合物 1 58mg (0. 5ミリモル) を 25、 50及び 75 %メタノール水溶液 3 m Iに溶解し、 1. 0当量の酢酸と 0. 2当量のサリチルアルデヒドを加えた。反応液を 85°C で加熱し、 モナティン (2 R, 4 R) 体と (2 S, 4 S) 体の比率を H P L Cで測定した。 併 せて、 副生物であるモナティンのラクタムも測定した。 尚、 生成したラクタムのほとんどがモ ナティン (2 R, 4 R) 体に由来する立体異性体であった。
3]
ェピメリ化率 [(2 R, 4 R) 体の存在比 (%)]
溶媒のメタノール比率の影響
ラクタムの生成率 (H P LCIU7%)
メタノール 反応時間
(%) 1時間 3時間 6時間
25 1. 8 4. 2 7. 7
50 2. 6 5. 7 1 0. 7
75 2. 4 6. 6 1 1. 9
<参考例 3 >
(2 S, 4 R) モナティンのアンモニゥ厶塩と (2 R, 4 S) モナティンのアンモニゥ厶塩 の混合物 [(2 S, 4 R): (2 R, 4 S) = 1 : 1 ] 300 m g (0. 97ミリモル)、 酢酸 2 33 mg (4. 0当量) 及びサリチルアルデヒド 1 2 Omg (1. 0当量) をメタノール 30 m I に加え、 反応液を 80°Cで 1 6時間撹拌した。 反応溶液を H P LCで分析した所、 [モナ ティン (2 S, 4 S) 体 + (2 R, 4 R) 体] : [モナティン (2 S, 4 R) 体 + (2 R, 4 S) 体] =45 : 55であった。
反応液を減圧濃縮し、残渣に 2 N水酸化ナ卜リゥ厶水溶液 1. 5 m I と水 30 m Iを加えた。 反応液を 80°Cで 30分間加熱した後に、 陽イオン交換樹脂を加え反応液を中和した。 樹脂を 濾過して除去した後に濾液を減圧濃縮した。 残渣を水とエタノールを用いて結晶化し、 結晶を 濾過して集め、 モナティンナトリウム塩の 4種立体異性体混合物 20 Omgを得た。 結晶を H P L Cで分析した所、 [モナティン (2 S, 4 S) 体 + (2 R, 4 R) 体] : [モナティン (2 S, 4 R) 体 + (2 R, 4 S) 体] =43 : 57であった。 産業上の利用可能性
本発明によれば、 (2 S) モナティンを、 異性化反応により、 より甘味強度の高い (2 R) モナティンへ誘導することができ、 特に (2 S) モナティンと (2 R) モナティンが混在する 系で簡便に (2 R) モナティンを優先的に得ることができるため、 (2 R, 4 R) モナティン 及び (2 R, 4 S) モナティンの工業的規模の生産に有利となる。