JPWO2019208303A1 - 排出スラグのフォーミング鎮静方法およびこれに用いる精錬設備 - Google Patents

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Abstract

精錬反応容器から受滓容器への排滓に際して排出スラグのフォーミングを鎮静する方法であって、フォーミング鎮静剤として粘度低減効果を有する物質を前記受滓容器に排出したスラグの上面表層部に滞留するように添加することを特徴とする排出スラグのフォーミング鎮静方法。

Description

本開示は、排出スラグのフォーミング鎮静方法、すなわち、転炉等の精錬反応容器から受滓容器への排滓に際して排出スラグのフォーミングを鎮静する方法に関する。
転炉での溶銑の脱珪または脱燐処理後に転炉を傾転させることにより溶鉄を転炉内に残したまま炉口からスラグの一部を下方に配置した排滓鍋に流下させて排滓し、その後再度転炉を直立させて生石灰(主成分はCaO)等の副原料を添加し、引き続き精錬を行う方法がある。
この方法では、転炉内でスラグをフォーミング(泡立ち)させてスラグの嵩体積を増加させることにより排滓しやすくし、排滓量を確保している。ここで、スラグのフォーミングは、溶鉄中の炭素(C)とスラグ中の酸化鉄(FeO)の反応により、一酸化炭素(CO)ガスが生成し、そのCOガスがスラグに保持されることにより発生する。
一方で、受滓する側の排滓鍋ではフォーミングしたスラグが排滓鍋の容量を超えて溢出してしまうことがある。スラグが溢出すると、設備損傷、操業障害等のトラブルを招くため、スラグが溢出しないように排滓鍋内のフォーミング鎮静を待つことになり、転炉の傾転速度、すなわち排滓速度を低下させることになる。フォーミング鎮静がネックとなって排滓速度を低下せざるをえない状況になると、排滓時間の長期化による生産性の低下を招く。また、その間に転炉内のスラグのフォーミングが鎮静して嵩体積が減少するため、排滓性が悪化し、それにより、後工程の脱燐または脱炭処理に持ち込まれるスラグ量が増加して、復燐、スロッピング(溶鉄やスラグの液塊が転炉の炉口から炉外に飛び出すこと)の発生につながる。
そこで、フォーミングしたスラグの排滓鍋からの溢出を防止するため、従来様々な方法が提案されてきた。最も単純な方法として、排滓鍋の容量を拡大する方法がある。しかし、転炉炉下スペースや排滓鍋の運搬等の制約により、排滓鍋の容量拡大に限界があるとともに、排滓鍋の基数が多い場合は、設備投資が莫大になるなどの課題がある。
そこで、フォーミング鎮静剤を排滓鍋内に投入して、フォーミングを鎮静する方法が特許文献1、2、3に開示されている。フォーミング鎮静材としては、熱分解性物質(パルプ滓、プラスチック等の有機物、エンジンオイル等の油分、水分等)に、比重調整材(スラグ等)を加えたものが用いられ、それぞれに、鎮静剤を構成する物質とその配合比率、鎮静剤のサイズ、比重、投入方法等が規定されている。これらは、フォーミングしたスラグの内部に潜入することにより急激にガスを発生させる物質であるため、そのガス発生の衝撃が破泡、すなわち鎮静に寄与すると考えられている。しかし、スラグの内部に潜入させるため、容器に収納されたり、ブリケット状に成形されたりして、塊状で投入されることが多い。そのため、反応界面積が減少し、鎮静効果が低かったり、ばらつきが大きかったりすることがあり、必ずしも安定して十分な効果があるとは言えない。
また、トーピードカー等の精錬反応容器内のフォーミング鎮静剤として、炭材(コークス等)を吹き付けてあるいは吹き込んで鎮静する方法が特許文献4、5、6に開示されている。炭材は、スラグとの濡れ性が悪いため、気泡間の液膜を破壊して、気泡を凝集合体させる作用があり、鎮静に寄与するとされている。しかし一方で、炭材とスラグ中の酸化鉄が反応し、フォーミングの原因となるCOガスを生成することから、条件によっては効果が見られない場合もある。
その他、フォーミングやスロッピングの鎮静方法として、特許文献7には転炉において粘度調整剤(蛍石等)を添加してスラグの粘度を規定の範囲内に調整する方法、特許文献8には高炉から出銑された溶銑を受銑しながら脱珪する際にアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の化合物を投入する方法が開示されている。これらは、スラグの粘度を調整することにより、破泡や気泡の浮上を容易にし、鎮静に寄与するとされている。しかし、スラグの粘度を変化させるためには多量の鎮静剤(粘度調整剤)が必要であること、また、粘度を低減させることでスラグ中の物質移動が促進されて、COガス生成速度が増加し、逆にフォーミングが増加する場合があるなどの課題がある。
また、特許文献4〜8に開示の方法は、いずれの方法も精錬反応容器内に鎮静剤を添加する方法である。精錬反応容器内ではバルクの溶鉄とスラグが共存しており、また受滓容器内に比べて撹拌が強いことから、受滓容器内とは状況が大きく異なり、受滓容器内のフォーミング鎮静手段としてそのまま適用することはできない。例えば、精錬反応容器内では撹拌が強いため、添加した鎮静剤の分散が速く進行し、鎮静速度は速い。一方で、バルクの溶鉄とスラグが接触した状態で撹拌されているため、一旦鎮静したとしても、鎮静剤の添加を停止した時点で溶鉄中の炭素とスラグ中の酸化鉄が反応して発生したCOガスにより再度フォーミングが発生してしまうなど、状況が大きく異なる。
特開2008−255446号公報 特開2009−270178号公報 特開2009−287050号公報 特開平4−180507号公報 特開平5−287348号公報 特開平9−87719号公報 特開昭62−278213号公報 特開2003−147425号公報
本開示は、従来技術の課題に鑑み、転炉等の精錬反応容器から受滓容器への排滓に際して、排出スラグのフォーミングを迅速かつ安定に鎮静し、受滓容器からのスラグ溢出を防止することにより、設備損傷や操業障害等のトラブルを回避するとともに、排滓速度の低下による生産性の低下や排滓性の悪化を防止し、効率の高い排滓を実現することを目的とする。
本願の発明者らは、転炉等の精錬反応容器から受滓容器への排滓に際して、排出したスラグのフォーミングを迅速かつ安定に鎮静する方法について鋭意検討を行った。その結果、フォーミング鎮静剤として粘度低減効果を有する物質を受滓容器に排出したスラグの上面表層部に滞留するように添加することにより、迅速にフォーミングを鎮静することが可能であること、さらに、それを実施するために適正な条件を見出し、本開示を完成させた。本開示の要旨とするところは以下の通りである。
(1)
精錬反応容器から受滓容器への排滓に際して排出スラグのフォーミングを鎮静する方法であって、
フォーミング鎮静剤として粘度低減効果を有する物質を前記受滓容器に排出したスラグの上面表層部に滞留するように添加する
ことを特徴とする排出スラグのフォーミング鎮静方法。
(2)
粘度低減効果を有する物質として、アルカリ金属の化合物もしくはアルカリ土類金属の化合物、またはこれらの混合物を使用する
ことを特徴とする(1)に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
(3)
粘度低減効果を有する物質の添加量を排出スラグ量1tに対し、2kg以上とする
ことを特徴とする(1)または(2)に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
(4)
粘度低減効果を有する物質の粒度が10mm以下の範囲にあるもの比率を70質量%以上とする
ことを特徴とする(1)〜(3)の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
(5)
粘度低減物質を添加する高さは、前記受滓容器の上端から3m以下の高さである
ことを特徴とする(1)〜(4)の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
(6)
粘度低減物質を添加する高さは、前記精錬反応容器の側方に設けられた作業床の前記受滓容器の上端からの高さを基準にして60%以下の高さである
ことを特徴とする(1)〜(4)の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
(7)
粘度低減効果を有する物質を添加するに際し、滑走斜面を有するガイドを用いる
ことを特徴とする(1)〜(4)の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
(8)
粘度低減効果を有する物質を添加するに際し、滑走斜面を有するガイドを用い、
前記ガイドの下端の高さは、前記受滓容器の上端から3m以下の高さである
ことを特徴とする(1)〜(4)の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
(9)
粘度低減効果を有する物質を添加するに際し、滑走斜面を有するガイドを用い、
前記ガイドの下端の高さは、前記精錬反応容器の側方に設けられた作業床の前記受滓容器の上端からの高さを基準にして60%以下の高さである
ことを特徴とする(1)〜(4)の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
(10)
粘度低減効果を有する物質を添加するに際し、添加する粘度低減物質の80質量%以上がスラグ落下位置近傍以外に添加されるように、スラグ落下位置近傍を避けて添加する
ことを特徴とする(1)〜(9)の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
(11)
粘度低減効果を有する物質を添加するに際し、キャリアガスで粘度低減物質を上面表層部に沿う方向に吹き付ける
ことを特徴とする(1)〜(4)の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
(12)
精錬反応容器と、前記精錬反応容器からスラグを排出する受滓容器と、を備える精錬設備であって、
前記受滓容器に排出されたスラグの上面表層部に滞留するようにフォーミング鎮静剤を添加するためのガイドを更に備え、
前記ガイドは、滑走斜面を有する
ことを特徴とする精錬設備。
(13)
前記ガイドの下端の高さは、前記精錬反応容器の側方に設けられた作業床の前記受滓容器の上端からの高さを基準にして60%以下の高さである
ことを特徴とする(12)に記載の精錬設備。
本開示により、精錬反応容器から受滓容器への排滓に際して、排出スラグのフォーミングを迅速かつ安定に鎮静し、受滓容器からのスラグ溢出を防止することが可能となる。それに伴い、溢出したスラグによる設備損傷や操業障害等のトラブルを回避できるとともに、排滓速度の低下を防止し、高速での排滓が可能となるため、生産性が向上する。さらに、排滓性も向上するため、後工程の脱燐または脱炭処理に持ち込まれるスラグ量が減少し、復燐やスロッピング防止用に添加していた副原料ならびに発生するスラグ量を削減できる。
以上の効果により、生産性向上、コスト削減(副原料使用量の削減、発生スラグの削減、熱損失の抑制、鉄分歩留の向上)が可能となる。
粘度低減効果を有する物質をスラグの上面表層部に滞留するように添加することにより、フォーミングが鎮静する機構を示す図である。 本開示の実施の形態の一例で、転炉から排滓鍋に排滓する際のフォーミングの鎮静方法および精錬設備を示す図である。 本開示の実施例および比較例の条件および結果を示す表である。
〔フォーミングが鎮静する機構〕
まず、図1を用いて、本開示において、粘度低減効果を有する物質(以降、「粘度低減物質」と称する。)を受滓容器に排出したスラグの上面表層部に滞留するように添加することにより、フォーミングが鎮静する機構を説明する。
図1に示すように、フォーミングしたスラグは気相分率が高い気泡1の集合体(泡沫層2)となっている。泡沫層2内において、気泡1間の液膜が排出されて薄くなることにより、破泡してフォーミング鎮静が進行するが、液膜(スラグ)の粘度が高い場合、液膜の排出速度が遅くなるため、フォーミング鎮静速度が低下する。そこで、フォーミング鎮静速度を向上させるために、スラグの粘度を低減することが有効となるが、スラグ全体の粘度を低減するためには、多量の粘度低減物質を添加する必要がある。
本開示の方法により、粘度低減物質5をフォーミングしたスラグの上面表層部に滞留するように添加した場合、図1に示すように、粘度低減物質の濃度が高い局所的な極低粘度領域6が生成する。すると、その領域6において、スラグの液膜の排出(矢印4参照)が促進され、破泡が急速に進行する。次に、排出された液膜のスラグはその直下の気泡の液膜と混合するが、気相分率が高い(液相分率が低い)ため、粘度低減物質はほとんど希釈されずに、極低粘度領域6は維持されたまま下降していく。このように、フォーミングしたスラグの上層側から順次、極低粘度領域6が下降することにより、連鎖的かつ迅速な破泡が進行する。すなわち、少量の粘度低減物質の添加でも十分なフォーミング鎮静効果を有することになる。
反対に、粘度低減物質をフォーミングしていないバルクのスラグ(バルクスラグ層3)に添加した場合は、粘度低減物質が希釈されるため、極低粘度領域が維持できず、少量の添加ではほとんど効果がない。また、フォーミングしたスラグ(泡沫層2)の内部に添加した場合も、極低粘度領域は生成するが、鎮静効果は上方には作用しないため、上面表層部に滞留するように添加した場合に比べて、効果は限定的である。すなわち、粘度低減物質を添加するにあたり、粘度低減物質がフォーミングしていないバルクのスラグやフォーミングスラグの内部に潜入することを防止し、上面表層部に滞留するように添加することが重要となる。
〔受滓容器内のフォーミング鎮静に適している理由〕
さらに、転炉等の精錬反応容器内と排滓鍋等の受滓容器内のフォーミング状況との違いから、本開示の方法が受滓容器内のフォーミング鎮静に適している理由を説明する。
まず、精錬反応容器内に比べて、受滓容器内の撹拌は弱い。精錬反応容器の場合、撹拌が強いため、粘度低減物質をスラグの上面表層部に滞留するように添加したとしても、撹拌により粘度低減物質が希釈されたり、フォーミングスラグ内部に潜入したりして、効果を発揮しにくい。一方、受滓容器の場合は、撹拌が弱いため、粘度低減物質の添加方法を適切に調整すれば、粘度低減物質がスラグの上面表層部に滞留するようにすることは比較的容易である。
次に、精錬反応容器内にはバルクの溶鉄が多量に存在するのに対し、受滓容器内にはスラグ中に混入した粒鉄等が存在するのみで、バルクの溶鉄は存在しない。精錬反応容器の場合、バルクの溶鉄とスラグが接触しているため、フォーミングが一旦鎮静したとしても、溶鉄中の炭素とスラグ中の酸化鉄が反応して発生したCOガスにより、再度フォーミングが発生する。そのため、フォーミング発生を防止するためには、スラグ全体の粘度をフォーミングが発生しない領域まで低減する必要があり、多量の粘度低減物質が必要となる。一方、受滓容器内では、一旦フォーミングが鎮静してしまえば、再度フォーミングが発生することもないため、少量の粘度低減物質をスラグの上面表層部に滞留するように添加するだけで効果がある。
[実施の形態]
上述した機構に基づき、図2を用いて、本開示の実施の形態について説明する。図2に示すように、精錬反応容器としては転炉7を、受滓容器としては転炉7から排滓する際に使用する排滓鍋8を例として説明する。
(粘度低減物質)
まず、鎮静剤として使用する粘度低減物質12としては、アルカリ金属の化合物もしくはアルカリ土類金属の化合物、またはこれらの混合物を使用することが望ましい。
フォーミングしやすいスラグはSiO等の酸性酸化物を多く含有しているが、溶融スラグにおいて酸性酸化物はネットワーク構造を形成し、粘度を増加させる作用を持つ。これに対し、アルカリ金属の化合物やアルカリ土類金属の化合物はネットワーク構造を切断する作用を持ち、粘度を低下させるためである。
アルカリ金属の化合物、アルカリ土類金属の化合物の具体例としては、CaF、CaCO、CaO、Ca(OH)、NaCO、KCO等が挙げられる。
更に、鎮静剤として使用する粘度低減物質12が、アルカリ金属、アルカリ土類金属のフッ化物または酸化物であると、高温でガスを発生しないので、フォーミングを鎮静する観点から更に好ましい。上記具体例のうち、CaF、CaOがこれに当たる。
なお、鎮静剤として使用する粘度低減物質12がアルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩または水酸化物であると、高温でガスを発生する。上記具体例のうち、CaCO、Ca(OH)、NaCO、KCOがこれに当たる。
以降、鎮静剤として使用する粘度低減物質の添加方法、添加量、性状の条件について詳細を述べる。
まず、粘度低減物質の添加方法については、スラグ上面表層部に滞留するようにするために、スラグ上層表面部に粘度低減物質が達した時点での鉛直方向の速度を小さくすることが重要である。
(粘度低減物質を添加する高さ)
そのためには、粘度低減物質を低い位置から添加することが望ましい。具体的には、粘度低減物質を添加する高さは、排滓鍋上端から3m以下が望ましく、更に望ましくは2m以下である。
尚、転炉の側方には、通常作業床14が存在し、作業床14(の上面)の高さは、排滓鍋上端から約5mである。粘度低減物質を添加する高さは、作業床14を基準に設定してもよく、作業床14の排滓鍋上端からの高さを100%として、60%以下の高さ(排滓鍋上端からの高さ)が望ましく、更に望ましくは40%以下である。
(添加に用いる設備)
添加に用いる設備として、樋(gutter)やパイプ(pipe)等の滑走斜面を有するガイド(すなわち、物を滑り落とす機能を有する部材、chute)を用いてもよい。ガイドを通じて自然落下により添加する。粘度低減物質が滑走斜面を滑走することで、ガイドの下端(粘度低減物質を添加する高さ)における粘度低減物質の鉛直方向の速度を小さくすることができる。粘度低減物質の鉛直方向の速度を小さくする観点から、ガイドの下端におけるガイドの角度(すなわちガイドの下端における粘度低減物質の速度方向を規定する角度であって、水平方向に対する角度)は、30°以下が好ましい。
本実施形態のガイド11について、図2を用いて詳しく説明する。本実施形態のガイド11は、作業床14の下方に設けられており、ガイド11の下端および上端は、共に作業床14の下方に位置している。また、ガイド11の傾き(粘度低減物質が滑走する斜面の平均傾き)は、水平方向に対して45度未満であり、具体的には、30度未満となっている。ガイド11の下端の高さ(粘度低減物質を添加する高さ)は、排滓鍋8の上端から3m以内の高さであり、具体的には2m以内に設定されている。なお、作業床14を基準にすると、ガイド11の下端の高さは、作業床14の排滓鍋上端からの高さ(この例では5m)を100%として、60%以下の高さであり、具体的には40%以下に設定されている。
また、スラグ上面表層部に均一に添加できるようにするため、ガイドを可動式や旋回式にしたり、複数のガイドを使用したり、キャリアガスで粘度低減物質の粉粒を搬送して上面表層部に吹き付けたりしてもよい。
キャリアガスで上面表層部に吹き付ける方法とは、ホースなどを用いて粘度低減物質を上面表層部に沿う方向(水平方向に近い方向)に吹き付ける方法である。この方法によれば、スラグ上層表面部に粘度低減物質が達した時点での鉛直方向の速度を小さくすることが容易であり、粘度低減物質を効果的にスラグ上面表層部に滞留させることができる。
(スラグ落下位置近傍との関係)
また、受滓容器内において、スラグ落下位置近傍はスラグ落下の位置エネルギーにより局所的に撹拌が強くなっている。したがって、スラグ落下位置近傍に粘度低減物質を添加した場合、そのスラグ落下位置近傍に添加された粘度低減物質がスラグ上層表面部の滞留するようにすることは困難である。
よって、スラグ落下位置近傍を避けて添加することが望ましい。但し、添加する粘度低減物質のうちの一部がスラグ落下位置近傍に添加されてしまうことを除外する趣旨ではない。つまり、スラグ落下位置近傍を避けて添加することにより、添加する粘度低減物質の80質量%以上がスラグ落下位置以外に添加されることが望ましく、更に望ましくは95質量%以上である。
ここで、スラグ落下位置近傍とは、受滓容器内のスラグ上層表面とスラグ落下流が衝突する部分の中心部を中心としたスラグ上層表面上の仮想円の内部である。その仮想円の直径は、スラグ落下の位置エネルギーによって変動するため、一概には定義できないが、傾転した転炉(図2参照)の炉口下端から排滓鍋上端までが5〜10mの設備の場合、目安として1〜2mの範囲である。
尚、粘度低減物質の添加タイミングとしては、例えば、受滓容器内に粘度低減物質の添加を開始するスラグ面高さと停止するスラグ面高さを予め目安として規定しておき、受滓容器内のスラグ面を監視しながら、各々の規定高さにスラグ面が達した場合に、粘度低減物質の添加を開始あるいは停止することを断続的に繰り返せばよい。
(添加量)
次に、粘度低減物質の添加量としては、排出スラグ量1tに対し、2kg未満では十分な鎮静効果が得られず、2kg以上とすることが望ましいことを見出した。
尚、上記の範囲での最適添加量については、受滓容器の容量、スラグ組成、温度、フォーミングの状況等によって変化するが、一般的な操業条件範囲における適正な添加量を事前の試験によって調査しておくことが望ましい。
(性状:粒度)
さらに、粘度低減物質の粒度については、粒度が大きいと、粘度低減物質がフォーミングスラグの上面表層部に留まらずに内部に潜入しやすく、さらに、溶融に時間を要し、極低粘度領域の形成が遅れるという問題がある。そこで、検討を行った結果、10mm以下の範囲にあるものの鎮静効果が高いこと、また、必ずしもすべての粒度が上記の範囲である必要はなく、上記の範囲の粒度の比率が70質量%以上含まれていれば十分な効果が得られることを見出した。また、粒度の下限については、特に定めないが、粒度が小さすぎると、受滓容器内のスラグから発生する上昇気流やガス等により、受滓容器外への飛散が増加するため、それらを勘案して決定することが望ましい。
尚、粒度は、粒子が通過できる篩の網目で定義し、粒度が10mm以下とは、10mmの篩を通過できるものとする。
以上、本開示の実施の形態について、精錬反応容器としては転炉を、受滓容器として転炉から排滓する際に使用する排滓鍋を想定して説明してきた。ただし、本開示の適用対象はこれらの容器に限定されるものではなく、他の精錬反応容器(例えば、トーピードカー)から他の受滓容器(例えば、排滓ピット等)に排滓する際にも、本開示の適用は可能である。
さらに、設備や操業の制約により必要な鎮静剤の全量を本開示の方法で添加できない場合は、一部の鎮静剤を本開示の方法で添加し、残りの鎮静剤を従来と同様の方法で添加しても、相応の効果が得られる。
また、上記では図2を用いて具体的なガイド11について説明したが、本開示のガイドはこれに限定されない。例えば、ガイドの上端が作業床の上方に位置していてもよいし、屈折したパイプ等で角度が段階的あるいは連続的に変化しているガイドにしてもよい。
以下、本開示の実施例(以下、単に実施例という。)および比較例について説明する。
なお、実施例の条件は、本開示の実施可能性および効果を確認するために採用した条件の一例であり、本開示はこの例に限定されるものではない。本開示の要旨を逸脱せず、本開示の目的を達成する限りにおいては、種々の条件を採用し得るものである。
(共通条件)
試験は350t規模の上底吹き転炉において、脱燐処理後の排滓中に実施した。尚、条件のばらつきによる評価への影響をほぼ無視できる程度に条件を揃えるようにしており、脱燐処理後の炉内スラグ量は約20tであった。
(非共通条件)
脱燐処理後に転炉を傾転させて排滓する際、鎮静剤の添加方法(添加条件および添加位置を含む)、スラグ上面表層部での鎮静剤の滞留、鎮静剤の種類、添加量、粒度を変更し、排滓量、排滓時間、転炉の最終傾転角度を評価した。
ここで、排滓量は、排滓鍋台車に設置した秤量器で実秤した。また、排滓終了は、時間制約から排滓時間が3.0min(排滓にかけることができる最長の時間)に達した時点もしくは溶鉄が炉口から流出し始めた時点のいずれか早い時点とした。転炉の最終傾転角度とは、転炉が垂直の状態を0°とした時の排滓終了時点での傾転角度である。実施例および比較例の共通条件では、傾転角度が83°近傍で炉内の残容積と溶鉄の容積がほぼ等しくなり、溶鉄が炉口から流出し始めるため、最終傾転角度は83°がほぼ上限となる。この場合には、溶鉄が炉口から流出し始めた時点(傾転角度83°)で排滓を完了する。
(非共通条件および結果)
各水準の条件および結果を図3の表に示す。
ここで、鎮静剤の添加条件として、「鎮静剤を排滓鍋上端から5m上方より、ビニール袋に10kg単位で収納して投入する方法」と「排滓鍋上端から2m上方より、パイプを通じて粒状で添加する方法」を比較している。前者は後者に比べ、鎮静剤がフォーミングしたスラグの内部に潜入しやすい。
さらに、鎮静剤の添加位置として、「スラグ落下位置近傍」と「スラグ落下位置近傍外」を比較している。同様に、前者は後者に比べ、鎮静剤がフォーミングしたスラグの内部に潜入しやすい。
また、スラグ上面表層部での鎮静剤の滞留については、目視により判定した。「なし」とはスラグ内に瞬時に巻き込まれる状況、「あり」とはスラグ上層表面にしばらく(数秒程度)滞留する状況を指す。尚、「排滓鍋上端から2m上方より、パイプを通じて粒状で添加する方法」で「スラグ落下位置近傍外」に添加した場合は、目視判定が困難な場合を除き、スラグ上面表層部での鎮静剤の滞留は目視で確認できた。
フォーミング鎮静の評価指標としては、少量の鎮静剤でフォーミングを迅速に鎮静し、短時間で大量に排滓することが重要であるため、鎮静剤の添加量、平均排滓速度(排滓量/排滓時間)で評価を行った。
まず、水準1〜4は比較例であり、鎮静剤添加方法または鎮静剤種の少なくとも一方が本開示の方法と異なる。
尚、水準2に比べて、水準1が優位である理由は、鎮静剤として使用した「パルプ滓とスラグの成型物」が、そもそもフォーミングしたスラグの内部に潜入することにより急激にガスを発生させて鎮静することを企図したものであるためと考えられる。
また、水準3、4では鎮静剤として粘度低減物質を使用したが、スラグ上面表層部での鎮静剤の滞留が確認されなかったことから、鎮静剤がスラグ内部に潜入したため、効果が発現しなかったと考えられる。尚、水準1、2に比べて、水準3、4では少ない鎮静剤の量で同等以上の効果が得られてはいるが、鎮静剤のコストの面では見合わない。
次に、水準5〜12は実施例であり、いずれの水準でも比較例に比べて高いフォーミング鎮静効果が確認された。
水準5は、比較例である水準4に対して、鎮静剤の添加方法を本開示の方法に変更しているが、同等の平均排滓速度を得つつ、鎮静剤添加量が大幅に低減した。
水準6は、水準5に対して、鎮静剤(粘度低減物質)の種類を変更しているが、水準5と効果はほぼ同等であった。
水準7〜9は、水準5に対して、鎮静剤(粘度低減物質)の添加量(鎮静剤添加量原単位)を変更している。粘度低減物質の添加量を排出スラグ量1tに対し、2kg以上とすることで平均排滓速度が向上した。一方、水準9の結果からわかるように、鎮静剤添加量を増やしても効果が飽和する領域があった。
水準10〜12は、水準8に対して、鎮静剤(粘度低減物質)の粒度(10mm以下粒度の比率)を変更している。粘度低減物質の粒度が10mm以下の範囲にあるもの比率を70質量%以上とすることで平均排滓速度が向上した。一方、水準12の結果からわかるように、10mm以下の粒度の比率を増やしても効果が飽和する領域があった。
以上、本開示の実施例においては、比較例と比べて鎮静剤の添加量、平均排滓速度が優位であった。よって、本開示の実施例では、比較例に比べてフォーミング鎮静が良好であることがわかる。さらに、鎮静剤の添加量、粒度を適正な条件とすることで、一層効率的にフォーミング鎮静できることがわかる。
1 気泡
2 泡沫層
3 バルクスラグ層
4 液膜排出
5 粘度低減物質(フォーミング鎮静剤)
6 極低粘度領域
7 転炉(精錬反応容器)
8 排滓鍋(受滓容器)
9 溶鉄
10 スラグ
11 ガイド
12 粘度低減物質(フォーミング鎮静剤)
13 極低粘度領域
14 作業床

Claims (13)

  1. 精錬反応容器から受滓容器への排滓に際して排出スラグのフォーミングを鎮静する方法であって、
    フォーミング鎮静剤として粘度低減効果を有する物質を前記受滓容器に排出したスラグの上面表層部に滞留するように添加する
    ことを特徴とする排出スラグのフォーミング鎮静方法。
  2. 粘度低減効果を有する物質として、アルカリ金属の化合物もしくはアルカリ土類金属の化合物、またはこれらの混合物を使用する
    ことを特徴とする請求項1に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
  3. 粘度低減効果を有する物質の添加量を排出スラグ量1tに対し、2kg以上とする
    ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
  4. 粘度低減効果を有する物質の粒度が10mm以下の範囲にあるもの比率を70質量%以上とする
    ことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
  5. 粘度低減物質を添加する高さは、前記受滓容器の上端から3m以下の高さである
    ことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
  6. 粘度低減物質を添加する高さは、前記精錬反応容器の側方に設けられた作業床の前記受滓容器の上端からの高さを基準にして60%以下の高さである
    ことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
  7. 粘度低減効果を有する物質を添加するに際し、滑走斜面を有するガイドを用いる
    ことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
  8. 粘度低減効果を有する物質を添加するに際し、滑走斜面を有するガイドを用い、
    前記ガイドの下端の高さは、前記受滓容器の上端から3m以下の高さである
    ことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
  9. 粘度低減効果を有する物質を添加するに際し、滑走斜面を有するガイドを用い、
    前記ガイドの下端の高さは、前記精錬反応容器の側方に設けられた作業床の前記受滓容器の上端からの高さを基準にして60%以下の高さである
    ことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
  10. 粘度低減効果を有する物質を添加するに際し、キャリアガスで粘度低減物質を上面表層部に沿う方向に吹き付ける
    ことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
  11. 粘度低減効果を有する物質を添加するに際し、スラグ落下位置近傍を避けて添加する
    ことを特徴とする請求項1〜請求項10の何れか一項に記載の排出スラグのフォーミング鎮静方法。
  12. 精錬反応容器と、前記精錬反応容器からスラグを排出する受滓容器と、を備える精錬設備であって、
    前記受滓容器に排出されたスラグの上面表層部に滞留するようにフォーミング鎮静剤を添加するためのガイドを更に備え、
    前記ガイドは、滑走斜面を有する
    ことを特徴とする精錬設備。
  13. 前記ガイドの下端の高さは、前記精錬反応容器の側方に設けられた作業床の前記受滓容器の上端からの高さを基準にして60%以下の高さである
    ことを特徴とする請求項12に記載の精錬設備。
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