本開示は、ブラシレスモータを回転制御するブラシレスモータ制御装置およびブラシレスモータ制御方法に係わる。特に、本開示は、ブラシレスモータの回転動作時、ホールセンサ等の位置検出手段によりロータ位置を検出し、モータコイルへの通電タイミングを決定するブラシレスモータ制御装置およびブラシレスモータ制御方法に関する。
昨今、一般的に使われているハイブリッド自動車の電池冷却用ファンには、その寿命、省エネルギー化および静音性の要求から、ブラシレスモータが使用されている。冷却用ファンには、その時々の気温および冷却対象の温度に応じて、ファンに必要とされる風量、および、周辺付近に発する駆動音が定められている。それらを満足するよう制御する必要がある。風量のバラツキは、インペラー(羽根車)に取り付けられているモータの回転速度のバラツキに依存することが知られている。駆動音およびモータ振動は、モータの回転トルクに依存することが知られている。
ところで、パルス幅変調(Pulse Width Modulation、以下、PWMと記す)駆動で制御される三相ブラシレスモータの場合、次のようにモータ制御装置で制御される。まず、モータ制御装置では、ホールセンサの出力レベルの立上りエッジおよび立下りエッジから、ロータの回転位置を検出する。単位時間当たりの回転位置の変化量から、実回転速度を算出する。モータ制御装置において、算出された実回転速度に従い、PWM駆動を実現するインバータ回路内に備え付けられたMOS−FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)のスイッチングパルス幅が制御される。
そのため、ホールセンサの取付け位置、および、ロータマグネットのN極およびS極の着磁バラツキなどにより、ロータの所定回転位置において、ホールセンサの出力レベルが切替わらず、立上りまたは立下りエッジのタイミングがズレてしまう。これにより、インバータ回路からモータコイルへの通電位相または周期などがズレてしまうことが知られている。また、モータのトルクリップルが増大、振動、および騒音も大きくなってしまうことが知られている。
これらのようなバラツキ対策として、誘起電圧を検出し、各ホールセンサの相対的な位置ズレを補正する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
本開示は、通常回転時に不必要な部品を追加することなく、ホールセンサの反応バラツキ、位置ズレに起因した、ロータの検出位置ズレを補正し、トルクリップルを低減するブラシレスモータ制御装置および方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本開示におけるモータ制御装置の一態様は、ブラシレスモータの各相の巻き線に対して駆動電圧を印加するインバータ回路と、ホールセンサにより検出された磁極の変化に基づいて、ブラシレスモータのロータ位置に対応する磁極検出信号を出力するロータ磁極検出部と、ロータ推定位置を電気角で示すロータ推定位置信号であって、磁極検出信号のレベルが切り替わる毎に、切り替わり後のレベルに対応して予め定められた電気角を示すロータ推定位置信号を出力するロータ位置推定部と、インバータ回路に供給される電流を電源電流値として検出する電流検出部と、電源電流値の変動に基づいて電気角オフセットを決定し、電気角オフセットをロータ推定位置信号が示す電気角に加算することによって、ロータ推定位置信号を補正する電気角補正部とを備える。
また、本開示におけるブラシレスモータ制御方法の一態様は、ブラシレスモータの各相の巻き線に対して駆動電圧を印加するインバータ回路を用いるブラシレスモータ制御方法であって、ホールセンサにより検出された磁極の変化に基づいて、ブラシレスモータのロータ位置に対応する磁極検出信号を出力し、ロータ推定位置を電気角で示すロータ推定位置信号であって、磁極検出信号のレベルが切り替わる毎に、切り替わり後のレベルに対応して予め定められた電気角を示すロータ推定位置信号を出力し、インバータ回路に供給される電流を電源電流値として検出し、電源電流値の変動に基づいて電気角オフセットを決定し、電気角オフセットをロータ推定位置信号が示す電気角に加算することによってロータ推定位置信号を補正する。
本開示のブラシレスモータ制御装置およびブラシレスモータ制御方法によれば、通常回転時に不必要な部品を追加することなく、ホールセンサの反応バラツキ、位置ズレに起因した、ロータの検出位置ズレを補正し、トルクリップルを低減することができる。
図1は、実施の形態におけるブラシレスモータ制御装置の構成例とブラシレスモータとを示すブロック図である。
図2Aは、電気角テーブル部の一例を示す図である。
図2Bは、ロータ磁極検出部から出力される磁極検出信号の波形と、ロータ位置推定部から出力されるロータ推定位置信号の波形とを示すタイミングチャートである。
図3は、ロータ磁極検出部から出力される磁極検出信号の波形と、電気角オフセット生成部から出力される電気角オフセットの波形と、電気角オフセット切替部から出力される電気角オフセットの波形とを示すタイミングチャートである。
図4は、ロータ磁極検出部から出力される磁極検出信号の波形と、ロータ位置推定部から出力されるロータ推定位置信号の波形と、電気角オフセット切替部から出力される電気角オフセットの波形と、電気角補正部から出力されるロータ推定位置信号の波形とを示すタイミングチャートである。
図5は、電気角オフセット生成部から出力される電気角オフセットの値を変化させた際の、評価値算出部から出力される評価値をプロットしたグラフである。
図6は、電気角オフセットを0にした場合の、磁極検出信号と電源電流値とを示すグラフである。
図7は、電気角オフセットを、図5に記載の電気角オフセットPbにした場合の、磁極検出信号と電源電流値とを示すグラフである。
図8は、電気角補正部における電気角オフセットを決定する処理例を示すフローチャートである。
図9は、電気角補正部における電気角オフセットを決定する他の処理例を示すフローチャートである。
図10は、実施の形態におけるブラシレスモータ制御方法を示すフローチャートである。
特許文献1では、通常回転時に不必要な部品、例えば、モータコイルの中性点と誘起電圧を比較するコンパレータ、または、これとホールセンサ出力との排他的論理和を出力するEX−OR(exclusive OR)回路(排他的論理和回路)が必要である。これにより、部品点数が増加するので、モータ制御装置の大型化、コストアップとなってしまう。
以下、実施の形態について図面を用いて説明する。
(実施の形態)
図1は、実施の形態におけるブラシレスモータ制御装置14の構成例とブラシレスモータ5とを示すブロック図である。図1では、ブラシレスモータ制御装置14は、モータ駆動用電源線+BとGND線とから電力供給を受ける。ブラシレスモータ制御装置14は、速度指令SPreqを入力とし、ブラシレスモータ5を回転制御する。ブラシレスモータ制御装置14は、速度制御部1と、PWM波形生成部2と、電流検出部3と、インバータ回路4と、ロータ磁極検出部6と、電気角補正部7と、ロータ位置推定部11と、速度推定部13とで構成されている。更に、ロータ磁極検出部6は、ブラシレスモータ5に備えられたホールセンサ6aに接続される。電気角補正部7は、評価値算出部8と、電気角オフセット生成部9と、電気角オフセット切替部10と、加算器7aとで構成されている。ロータ位置推定部11は、電気角テーブル部12を備える。
速度制御部1は、ブラシレスモータ5の回転速度を指示するための速度指令SPreqと、速度推定部13から推定速度SPestとが入力される。速度制御部1は、推定速度SPestが速度指令SPreqを満たすように、PWMデューティ値Dutを設定し出力する。
PWM波形生成部2は、速度制御部1からのPWMデューティ値Dutに従って、インバータ回路に、PWM信号Wpwmを出力する。PWM信号Wpwmは、インバータ回路4内のスイッチング素子のオンおよびオフを制御する。
電流検出部3は、インバータ回路4に供給される電流を電源電流値Adetとして検出する。
インバータ回路4は、PWM波形生成部2からのPWM信号Wpwmに従って、ブラシレスモータ5の各相の巻き線に対して駆動電圧を印加する。
ブラシレスモータ5は、例えば3相のブラシレスモータであり、U相巻線、V相巻線およびW相巻線を有するステータと、磁性を帯びたロータとを有する。
ロータ磁極検出部6は、ホールセンサ6aにより検出された磁極の変化に基づいて、ブラシレスモータ5のロータ位置に対応するデジタルの磁極検出信号Hdetを出力する。
ロータ位置推定部11は、ロータ推定位置を電気角で示すロータ推定位置信号Pestを出力する。ロータ推定位置信号Pestは、電気角0度から360度までの値を示す信号である。ロータ位置推定部11は、電気角テーブル部12と推定速度SPestとに基づいて、ロータ推定位置信号Pestを生成する。具体的には、磁極検出信号Hdetのレベルが切り替わる毎に、切り替わり後のレベルに対応して、予め定められた電気角を示すロータ推定位置信号Pestを出力する。予め定められた電気角は、レベルが切り替わる種別(つまり立上りエッジおよび立下りエッジ)毎に、電気角テーブル部12に設定されている。また、ロータ位置推定部11は、磁極検出信号Hdetのレベルの切り替わりから次の切り替わりまでの区間では、推定速度SPestに基づいてロータ推定位置信号Pestの電気角を推定する。
電気角補正部7は、電流検出部3により検出された電源電流値Adetの変動に基づいて、電気角オフセットPofsを決定する。電気角補正部7は、電気角オフセットPofsをロータ推定位置信号Pestが示す電気角に加算することによって、ロータ推定位置信号Pestを補正する。電気角補正部7は、補正後のロータ推定位置信号Posiを出力する。電気角オフセットPofsは、電気角オフセット生成部9によって、電源電流値Adetの変動を抑制するのに適切な値に決定される。
電気角テーブル部12は、電気角テーブルを保持する。図2Aは、電気角テーブル部12の一例を示す図である。図2Aでは、磁極検出信号Hdetの立下りエッジのタイミングに対応するロータの電気角は210度であり、立ち上がりエッジのタイミングに対応するロータの電気角は30度であることを示している。この場合、電気角テーブルはIndex0に対応する電気角(210度)と、Index1に対応する電気角(30度)とを保持するテーブルでよい。例えば、電気角テーブル部12は、Index0が入力されると、電気角210度に対応するアナログ値またはデジタル値を、ロータ位置推定部11に出力する。また、電気角テーブル部12は、Index1が入力されると、電気角30度に対応するアナログ値またはデジタル値を、ロータ位置推定部11に出力する。例えば、ロータ位置推定部11は、磁極検出信号Hdetの立下りエッジのタイミングで、Index0を電気角テーブル部12に出力する。ロータ位置推定部11は、磁極検出信号Hdetの立上がりエッジのタイミングで、Index1を電気角テーブル部12に出力する。
速度推定部13は、補正後のロータ推定位置信号Posiに基づいて、ロータの回転速度を推定し、推定速度SPestとして出力する。
電気角補正部7の構成について説明する。
評価値算出部8は、電流検出部3に検出された電源電流値Adetを入力し、ブラシレスモータ5の一定速での回転動作時に、電源電流値Adetの変動を示す評価値Evalを算出する。この評価値Evalは、例えば分散、振幅の大きさ、周波数分布等でよい。
電気角オフセット生成部9は、評価値Evalの最小値に対応する電気角オフセットPosnを生成する。例えば、電気角オフセット生成部9は、ブラシレスモータ5を一定速度で回転動作中に電気角オフセットPosnを漸次増加または減少させながら、ロータ推定位置信号Pestを複数回補正する。評価値算出部8は、各電気角オフセットPosnにおける電流検出部3が検出した複数の電源電流値Adetの分散を、評価値Evalとして算出および保持する。電気角オフセット生成部9は、電気角オフセットPosnと評価値との関係を多項式で近似し、多項式において最小の評価値Evalを算出する。電気角オフセット生成部9は、多項式から評価値Evalが最小になるときの電気角オフセットを、適切な電気角オフセットPosnと決定する。このように電気角オフセットPosnは、電源電流値Adetの変動に基づいて決定されるので、新たな部品の追加による回路規模の増大を抑制することができる。
電気角オフセット切替部10は、磁極検出信号Hdetがハイレベルおよびローレベルのうち一方のレベルの区間において、ロータ推定位置信号Pestが示す電気角に加算する電気角オフセットPofsを出力する。電気角オフセット切替部10は、ゼロ発生部10aとセレクタ10bとを備える。ゼロ発生部10aは、電気角0度を示すゼロ信号(例えば、グランドレベルの信号)を発生する。セレクタ10bは、ゼロ信号および電気角オフセットPosnの一方を選択する。セレクタ10bは、磁極検出信号Hdetがハイレベルおよびローレベルのうち、一方のレベルの区間において、電気角オフセットPosnを選択し、他方のレベルの区間においてゼロ信号を選択する。選択結果つまりセレクタ10bの出力信号を電気角オフセットPofsと呼ぶ。
加算器7aは、ロータ推定位置信号Pestと電気角オフセットPofsとを加算する。加算結果つまり加算器7aの出力信号は、補正されたロータ推定位置信号Pestであり、ロータ推定位置信号Posiと呼ぶ。
磁極検出信号Hdetが、ハイレベルおよびローレベルのうち一方のレベルの区間というのは、例えばローレベルの区間である。この場合、電気角補正部7は、磁極検出信号Hdetのローレベル区間において、ロータ推定位置信号Pestに電気角オフセットPosnを加算し、磁極検出信号Hdetのハイレベル区間において、ロータ推定位置信号Pestにゼロ信号を加算する。言い換えれば、電気角テーブルに予め設定されているロータの電気角の片側(立上りエッジまたは立下りエッジに対応する電気角)のみに対して、電気角オフセットを加算する。このように加算するのは次の理由による。ブラシレスモータ5にトルクリップルが生じるような場合は、磁極検出信号Hdetのハイレベル区間とローレベル区間の時間が均等でなく、ロータ推定位置信号Pestに示される変化量が、ハイレベル区間とローレベル区間とで異なるため、ロータ推定位置信号Pestの値が不連続に大きく変化する(図2Bを参照)。一方のレベルの区間において、ロータ推定位置信号Pestが示す電気角に適切な電気角オフセットPosnを加算することによって、ロータ推定位置信号Pestの値が大きな変化を打ち消すように補正し、つまりロータ推定位置信号Pestが示す変化量の不均一性を補正し、ひいてはトルクリップルを抑制することが可能になる。
次に、磁極検出信号Hdetおよびロータ推定位置信号Pestの具体例について説明する。
図2Bは、ロータ磁極検出部6から出力される磁極検出信号Hdetの波形と、ロータ位置推定部11から出力されるロータ推定位置信号Pestの波形とを示すタイミングチャートである。ホールセンサ6aが理想的な位置に実装された場合、ブラシレスモータ5が一定速度で回転すると、ロータ磁極検出部6の磁極検出信号Hdetは、ハイレベル区間とローレベル区間が等しくなる。ここでは、ホールセンサ6aの位置ズレ、または、ホールセンサ6aのN極およびS極に対する反応バラツキ等、何らかの理由により、ロータ磁極検出部6の磁極検出信号Hdetのハイレベル区間とローレベル区間とが等しくない場合を示す。図2Bの磁極検出信号Hdetでは、ハイレベル区間:ローレベル区間が、50:50ではなく、(50−x):(50+x)になっている例を示している。
図1に示すように、ロータ位置推定部11は、電気角テーブル部12を備える。ロータ位置推定部11は、磁極検出信号Hdetを入力とする。図2Bにおいて、磁極検出信号Hdetの信号レベルが切替わる時刻t0およびt1において、ロータ位置推定部11は、図2Aに記載の電気角テーブル部12を参照し、磁極検出信号Hdetのエッジ種別に対して、予め定められた電気角をロータ推定位置信号Pestとして出力する。その結果、ロータ推定位置信号Pestは、時刻t0では電気角30度を示し、時刻t1では電気角210度を示す。
そして、次回の信号レベル切替わりまでの間(例えば、区間t0〜t1,t1〜t0)、推定速度SPestの速度に従い、ロータ推定位置信号Pestの値を徐々に増加させる。そのため、磁極検出信号Hdetのハイレベル区間とローレベル区間の時間が等しくない場合(例えば、図2Bに示すように、ハイレベル区間が短く、ローレベル区間が長い場合)、ロータ推定位置信号Pestに示される変化量が、区間t0〜t1と区間t1〜t0とで異なるため、時刻t0およびt1でロータ推定位置信号Pestの値が不連続に大きく変化している。
次に、電気角オフセット切替部10に入力される磁極検出信号Hdetおよび電気角オフセットPosnと、電気角オフセット切替部10から出力される電気角オフセットPofsの具体例について説明する。
図3は、ロータ磁極検出部6から出力される磁極検出信号Hdetの波形と、電気角オフセット生成部9から出力される電気角オフセットPosnの波形と、電気角オフセット切替部10から出力される電気角オフセットPofsの波形とを示すタイミングチャートである。図1に示すように、電気角オフセット生成部9は、後述する方法で決定された値(−n度)を電気角オフセットPosnとして電気角オフセット切替部10へ出力する。
電気角オフセット切替部10は、磁極検出信号Hdetを切替制御用の信号として入力する。電気角オフセット切替部10は、磁極検出信号Hdetのレベルが切替わる、図3の時刻t0において、電気角オフセットPosn(−n)からゼロ信号に切り替える。電気角オフセット切替部10は、時刻t1においてゼロ信号から電気角オフセットPosn(―n)に切り替える。こうして、電気角オフセット切替部10は、電気角オフセットPofsとして出力している。その結果、電気角オフセットPofsは、磁極検出信号Hdetがローレベルであるとき−n度であり、磁極検出信号Hdetがハイレベルであるとき0度である。
次に、電気角オフセットPofsによるロータ推定位置信号Pestの補正の具体例について、説明する。
図4は、ロータ磁極検出部6から出力される磁極検出信号Hdetの波形と、ロータ位置推定部11から出力されるロータ推定位置信号Pestの波形と、電気角オフセット切替部10から出力される電気角オフセットPofsの波形と、電気角補正部7から出力されるロータ推定位置信号Posiの波形とを示すタイミングチャートである。図1に示すように、電気角補正部7の出力信号であるロータ推定位置信号Posiは、ロータ推定位置信号Pestと電気角オフセット切替部10から出力される電気角オフセットPofsとの和となっている。そのため、電気角オフセット切替部10から出力される電気角オフセットPofsが、時刻t0において、−nから0へ、および、時刻t1において、0から−nへ切替わることにより、電気角補正部7から出力されるロータ推定位置信号Posiは、段差なく直線的に増加するノコギリ波形となる。
続いて、電気角オフセットPosnの適切な値をどのように決定するのかについて説明する。
図5は、電気角オフセット生成部9から出力される電気角オフセットPosnの値を変化させた際の、評価値算出部8から出力される評価値Evalをプロットしたグラフである。図1に示すように、評価値算出部8の入力は、電流検出部3からの電源電流値Adetである。評価値算出部8は、予め定められた時間における、電流検出部3からの電源電流値Adetの分散である評価値Evalを、(式1)により算出する。図5では、電気角オフセットPosnの値を増加させ、回転安定後、1秒間のデータN個の分散値をEvalとしている。
ただし、iは1からNの整数である。xiは連続して検出されたN個の電源電流値Adetである。μは、xiの平均値である。
評価値算出部8は、図5の例では、0から徐々に増加させたN個の電気角オフセットPosnに対してN個の評価値Evalを算出する。
評価値Evalは、バラツキの大きさを表現できればよく、標準偏差や最大値と最小値の差(幅)でも良い。
図2Bのように、磁極検出信号Hdetのハイレベル区間とローレベル区間とが等しくない場合、図5に示すように、電気角オフセット生成部9からの電気角オフセットPosnが値Pbにおいて、評価値Evalは最小値Ebを持つ。このように、図5は、下に凸のグラフとなる。調整作業時、値Pbを求めるとともに、図3で示した、電気角オフセット生成部9から出力される電気角オフセットPosnの値(−n)をPbとすることにより、電流振幅(リップル)を小さくすることができる。
図6は、電気角オフセットPosnを0にした場合の、磁極検出信号Hdetと電源電流値Adetとを示すグラフである。図7は、電気角オフセットPosnを、図5に記載の電気角オフセットPbにした場合の、磁極検出信号Hdetと電源電流値Adetとを示すグラフである。図6と図7から、電気角オフセットPosnを、評価値Evalが最小になるときの電気角オフセットPbにすると、電流検出部3の電源電流値Adetの振動幅が小さくなっていること、言い換えれば、トルクリップルが低減されることが分かる。
次に、適切な電気角オフセットPosnを決定する具体的な処理例について説明する。
図8は、電気角補正部7における電気角オフセットPosnを決定する処理例を示すフローチャートである。図8の処理は、適切な電気角オフセットPosnを決定する調整作業として、回転動作中に随時実行してもよいし、回転動作の開始直後に実行してもよいし、工場出荷時に実行してもよい。図8において、まず、電気角補正部7は、ブラシレスモータ5が一定速度で回転動作中であるか否かを判定する(ステップS80)。一定速度の回転動作中でなければ(ステップS80で“no”)、電気角補正部7は、一定速度の回転動作になるまで判定を繰り返す。一定速度の回転動作中であれば(ステップS80で“yes”)、電気角補正部7は、電気角オフセットPosnの値を−αに初期化する(ステップS81)。αは、例えば、1度でも0.5度でも他の値でもよい。さらに、電気角補正部7は、電気角オフセットPosnにαを加算することにより、Posnを更新する(ステップS82)。初回の電気角オフセットPosnは0になる。電気角補正部7は、磁極検出信号Hdetがローレベルである区間において、ロータ推定位置信号Pestに電気角オフセットPosnを加算することによって、ロータ推定位置信号Pestを補正する(ステップS83)。この状態で、電気角補正部7は、(式1)に従って評価値Evalを算出し、電気角オフセットPosnと評価値Evalとを対応させて保持する(ステップS84)。さらに、電気角補正部7は、ステップS82〜S84の繰り返し回数がK回に達したか否かを判定し(ステップS85)、達していなければ(ステップS85で“no”)ステップS82に戻る。Kは、繰り返し回数を示す整数である。
こうして、K個の電気角オフセットPosnに対する評価値Evalが保持される。
電気角補正部7は、K組の電気角オフセットPosnと評価値Evalとの関係を多項式で近似する(ステップS86)。この近似は、図5に示したように、二次式による近似でもよい。電気角補正部7は、多項式において最小となる評価値Evalに対応する電気角オフセットPosnの値を、適切な電気角オフセットPosnと決定する(ステップS87)。
以降、電気角補正部7が適切な電気角オフセットPosnを出力することにより、図7に示したように、電源電流値Adetの変動を抑制し、ひいてはトルクリップルを低減することができる。
本実施の形態におけるブラシレスモータ制御装置14によれば、誘起電圧検出回路、および、高精度・高感度なホールセンサを備える必要がなくなる。このため、ブラシレスモータ制御装置14を簡易な回路構成にすることができる。また、回路面積、コストを抑制することができる。また、トルクリップルの低減による、回転振動および騒音の低下、軸受けの長寿命化だけでなく、モータ回転中の電流振動が小さくなる。このため、モータに流れる平均電流値を、回路の許容可能な最大値へ更に近づけることができる。よって、これら余裕を確保するために、より大型な回路を搭載する必要がなくなる。例えば、ブラシレスモータ5が冷却ファンに用いられる場合、冷却ファンの更なる小型化・軽量化を図ることができる。
なお、適切な電気角オフセットPosnを決定する処理は、図8に限らない。例えば、図9に示す処理によって適切な電気角オフセットPosnを決定してもよい。図9は、電気角補正部7における電気角オフセットPosnを決定する他の処理例を示すフローチャートである。図9は、図8と比べて、ステップS84、S86、S87の代わりに、ステップS84a、S86a、S87aを有する点が異なっている。以下、異なる点を中心に説明する。
ステップS84aにおいて、電気角補正部7は、電源電流値Adetを周波数解析し、電気角オフセットPosnと解析結果とを対応させて保持する。
ステップS86aにおいて、電気角補正部7は、解析結果のうち、予め定められた周波数成分が最小の解析結果を判別する。予め定められた周波数成分は、ロータ磁石の極対数と回転速度から算出してもよい。
ステップS87aにおいて、電気角補正部7は、最小の解析結果に対応する電気角オフセットPosnを適切な電気角オフセットPosnと決定する。
ブラシレスモータ制御装置14におけるブラシレスモータ制御方法について説明する。
図10は、実施の形態におけるブラシレスモータ制御方法を示すフローチャートである。図10は、図1に示したブラシレスモータ制御装置14において、ブラシレスモータの各相の巻き線に対して、駆動電圧を印加するインバータ回路4を用いる、ブラシレスモータ制御方法を示している。
図1のように、ロータ磁極検出部6は、ホールセンサ6aにより検出された磁極の変化に基づいて、ブラシレスモータ5のロータ位置に対応するデジタルの磁極検出信号Hdetを出力する(ステップS101)。ロータ位置推定部11は、ロータ推定位置を電気角で示すロータ推定位置信号Pestであって、電気角テーブル部12を参照しつつ、磁極検出信号Hdetのレベルが切り替わる毎に、切り替わり後のレベルに対応して予め定められた電気角を示すロータ推定位置信号Pestを出力する(ステップS102)。
また、電流検出部3は、インバータ回路4に供給される電流を電源電流値Adetとして検出し(ステップS110)、電源電流値Adetの変動に基づいて電気角オフセットPofsを決定する(ステップS111)。
電気角補正部7は、電気角オフセットPofsをロータ推定位置信号Pestが示す電気角に加算することによって、ロータ推定位置信号Pestを補正する(ステップS103)。電気角補正部7は、補正後のロータ推定位置信号Posiを速度推定部13に出力する(ステップS104)。
ステップS101〜S104は、それぞれブラシレスモータ5の回転動作中の時間的に継続する処理であり、並行して実行される。これらのステップの各信号は、時系列的な信号であり、並行して出力される。また、ステップS110およびS111は、実質的に図8または図9の処理と同じ処理でよく、図8または図9の処理を簡略化して表記している。ステップS110およびS111は、図8および図9と同様に、随時実行してもよいし、回転動作の開始直後に実行してもよいし、工場出荷時に実行してもよい。
このように、本実施の形態におけるブラシレスモータ制御装置14およびブラシレスモータ制御方法では、ホールセンサ6aにより検出された磁極の変化に基づいてロータ磁極検出部6が出力する、ブラシレスモータ5のロータ位置に対応するデジタルの磁極検出信号Hdetに関して、ローレベル区間だけ、電気角の推定位置に対して、所定の方法で予め定めたオフセットを加算する。これにより、本実施の形態では、ホールセンサ6aの反応バラツキ(ホール素子のオフセットおよび内部コンパレータのヒステリシス)の影響により、磁極検出信号Hdetが示すハイレベル区間とローレベル区間とが不均等になっている場合でも、PWM波形生成部2に入力される、電気角を示す信号であるロータ推定位置信号Posiは、ロータの位置がどこであっても、回転中、常に真のロータ位置に近い値となる。このため、ブラシレスモータ5に印加される駆動電圧の位相が、ホールセンサ6aの立上りエッジまたは立下りエッジで、不連続に大きく変化(ジャンプ)することなく、連続的に変化していく。そのため、ブラシレスモータ5の電流波形が綺麗な正弦波形状となり、トルクリップルが低減する。
本実施の形態により、トルクリップルが低減すると、回転振動および騒音の低下、軸受けの長寿命化を図ることができる。また、ブラシレスモータ5の回転中、電源からインバータ回路4への電流振動も小さくなるため、電源から供給される平均電流値を電源回路が許容可能な値(過電流エラーの閾値)へ更に近づけることができる。よって、これら余裕を確保するために、より大型なモータコア、軸受け、回路を搭載する必要がなくなる。また、誘起電圧検出回路、および、高精度なホールセンサを備える必要がなくなる。併せて、センサ位置の高精度な取付けも必要がなくなる。したがって、簡易な回路構成で実現でき、部品コストおよび製造コストを抑制することができる。例えば、冷却ファンでは、小型化・軽量化・低コスト化を図ることができる。
以上のように、本実施の形態におけるブラシレスモータ制御装置14は、ブラシレスモータ5の各相の巻き線に対して駆動電圧を印加するインバータ回路4と、ホールセンサ6aにより検出された磁極の変化に基づいて、ブラシレスモータ5のロータ位置に対応する磁極検出信号Hdetを出力するロータ磁極検出部6と、ロータ推定位置を電気角で示すロータ推定位置信号Pestであって、磁極検出信号Hdetのレベルが切り替わる毎に、切り替わり後のレベルに対応して予め定められた電気角を示すロータ推定位置信号Pestを出力するロータ位置推定部11と、インバータ回路4に供給される電流を電源電流値Adetとして検出する電流検出部3と、電源電流値Adetの変動に基づいて電気角オフセットPofsを決定し、電気角オフセットPofsをロータ推定位置信号Pestが示す電気角に加算することによって、ロータ推定位置信号Pestを補正する電気角補正部7とを備える。
これによれば、通常回転時に不必要な部品を追加することなく、ホールセンサ6aの反応バラツキ、位置ズレに起因した、ロータの検出位置ズレを補正し、電源電流値Adetの変動を抑制することができる。したがって、トルクリップルを低減させることができる。
ここで、電気角補正部7は、ブラシレスモータ5の一定速での回転動作時に電源電流値Adetの分散を評価値Evalとして算出し、評価値Evalの最小値に対応する電気角オフセットPofsを決定してもよい。
これによれば、電源電流値Adetの分散を最小にする電気角オフセットPofsを決定することができる。
ここで、電気角補正部7は、磁極検出信号Hdetがハイレベルおよびローレベルのうちのいずれか一方のレベルである区間において、ロータ推定位置信号Pestが示す電気角に電気角オフセットPofsを加算してもよい。
これによれば、磁極検出信号Hdetの立上りエッジおよび立下りエッジの一方に対応する電気角を補正することにより、電流変動を低減し、トルクリップルを低減させる。
ここで、電気角補正部7は、ブラシレスモータ5を一定速度で回転動作中に、電気角オフセットPofsを漸次増加または減少させながらロータ推定位置信号Pestを複数回補正し、各電気角オフセットPofsに対して電流検出部3が検出した複数の電源電流値の分散を評価値Evalとして保持すると共に、電気角オフセットPofsと評価値Evalとの関係を多項式で近似し、この多項式において最小の評価値Evalに対応する電気角オフセットPofsを決定してもよい。
これによれば、電気角オフセットPosnを、多項式を用いて適切に決定することができる。
ここで、電気角補正部7は、ブラシレスモータ5を一定速度で回転動作中に、電気角オフセットPofsを漸次増加または減少させ、各電気角オフセットPofsにおける電流検出部3が検出した電源電流値Adetを周波数解析し、予め定められた周波数の成分の最小値に対応する電気角オフセットPofsを決定してもよい。
これによれば、電気角オフセットPosnを、周波数解析により適切に決定することができる。
また、本実施の形態におけるブラシレスモータ制御方法は、ブラシレスモータ5の各相の巻き線に対して駆動電圧を印加するインバータ回路4を用いるブラシレスモータ制御方法であって、ホールセンサ6aにより検出された磁極の変化に基づいて、ブラシレスモータ5のロータ位置に対応する磁極検出信号Hdetを出力し、ロータ推定位置を電気角で示すロータ推定位置信号Pestであって、磁極検出信号Hdetのレベルが切り替わる毎に、切り替わり後のレベルに対応して予め定められた電気角を示すロータ推定位置信号Pestを出力し、インバータ回路4に供給される電流を電源電流値Adetとして検出し、電源電流値Adetの変動に基づいて電気角オフセットPofsを決定し、電気角オフセットPofsをロータ推定位置信号Pestが示す電気角に加算することによってロータ推定位置信号Pestを補正する。
これにより、通常回転時に不必要な部品を追加することなく、ホールセンサ6aの反応バラツキ、位置ズレに起因した、ロータの検出位置ズレを補正し、電源電流値Adetの変動を抑制することができる。したがって、トルクリップルを低減させることができる。
本開示のモータ制御装置および方法は、簡単な構成でトルクリップルが低減し、振動を小さくすることが可能となる。したがって、ハイブリッド自動車の電池冷却用ブロアだけでなく、家庭用あるいは産業用のブラシレスモータにも適用でき、特に高効率、低騒音が要求される冷却ファンおよびブロア用モータの制御に好適である。
1 速度制御部
2 PWM波形生成部
3 電流検出部
4 インバータ回路
5 ブラシレスモータ
6 ロータ磁極検出部
6a ホールセンサ
7 電気角補正部
7a 加算器
8 評価値算出部
9 電気角オフセット生成部
10 電気角オフセット切替部
10a ゼロ発生部
10b セレクタ
11 ロータ位置推定部
12 電気角テーブル部
13 速度推定部
14 ブラシレスモータ制御装置
SPreq 速度指令
+B 電源端子
Adet 電源電流値
Dut PWMデューティ値
Wpwm PWM信号
Hdet 磁極検出信号
Pest ロータ推定位置信号
Eval 評価値
Posn 電気角オフセット
Pofs 電気角オフセット
Posi ロータ推定位置信号
SPest 推定速度
本開示は、ブラシレスモータを回転制御するブラシレスモータ制御装置およびブラシレスモータ制御方法に係わる。特に、本開示は、ブラシレスモータの回転動作時、ホールセンサ等の位置検出手段によりロータ位置を検出し、モータコイルへの通電タイミングを決定するブラシレスモータ制御装置およびブラシレスモータ制御方法に関する。
昨今、一般的に使われているハイブリッド自動車の電池冷却用ファンには、その寿命、省エネルギー化および静音性の要求から、ブラシレスモータが使用されている。冷却用ファンには、その時々の気温および冷却対象の温度に応じて、ファンに必要とされる風量、および、周辺付近に発する駆動音が定められている。それらを満足するよう制御する必要がある。風量のバラツキは、インペラー(羽根車)に取り付けられているモータの回転速度のバラツキに依存することが知られている。駆動音およびモータ振動は、モータの回転トルクに依存することが知られている。
ところで、パルス幅変調(Pulse Width Modulation、以下、PWMと記す)駆動で制御される三相ブラシレスモータの場合、次のようにモータ制御装置で制御される。まず、モータ制御装置では、ホールセンサの出力レベルの立上りエッジおよび立下りエッジから、ロータの回転位置を検出する。単位時間当たりの回転位置の変化量から、実回転速度を算出する。モータ制御装置において、算出された実回転速度に従い、PWM駆動を実現するインバータ回路内に備え付けられたMOS−FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)のスイッチングパルス幅が制御される。
そのため、ホールセンサの取付け位置、および、ロータマグネットのN極およびS極の着磁バラツキなどにより、ロータの所定回転位置において、ホールセンサの出力レベルが切替わらず、立上りまたは立下りエッジのタイミングがズレてしまう。これにより、インバータ回路からモータコイルへの通電位相または周期などがズレてしまうことが知られている。また、モータのトルクリップルが増大、振動、および騒音も大きくなってしまうことが知られている。
これらのようなバラツキ対策として、誘起電圧を検出し、各ホールセンサの相対的な位置ズレを補正する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
本開示は、通常回転時に不必要な部品を追加することなく、ホールセンサの反応バラツキ、位置ズレに起因した、ロータの検出位置ズレを補正し、トルクリップルを低減するブラシレスモータ制御装置および方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本開示におけるモータ制御装置の一態様は、ブラシレスモータの各相の巻き線に対して駆動電圧を印加するインバータ回路と、ホールセンサにより検出された磁極の変化に基づいて、ブラシレスモータのロータ位置に対応する磁極検出信号を出力するロータ磁極検出部と、ロータ推定位置を電気角で示すロータ推定位置信号であって、磁極検出信号のレベルが切り替わる毎に、切り替わり後のレベルに対応して予め定められた電気角を示すロータ推定位置信号を出力するロータ位置推定部と、インバータ回路に供給される電流を電源電流値として検出する電流検出部と、電源電流値の変動に基づいて電気角オフセットを決定し、電気角オフセットをロータ推定位置信号が示す電気角に加算することによって、ロータ推定位置信号を補正する電気角補正部とを備える。
また、本開示におけるブラシレスモータ制御方法の一態様は、ブラシレスモータの各相の巻き線に対して駆動電圧を印加するインバータ回路を用いるブラシレスモータ制御方法であって、ホールセンサにより検出された磁極の変化に基づいて、ブラシレスモータのロータ位置に対応する磁極検出信号を出力し、ロータ推定位置を電気角で示すロータ推定位置信号であって、磁極検出信号のレベルが切り替わる毎に、切り替わり後のレベルに対応して予め定められた電気角を示すロータ推定位置信号を出力し、インバータ回路に供給される電流を電源電流値として検出し、電源電流値の変動に基づいて電気角オフセットを決定し、電気角オフセットをロータ推定位置信号が示す電気角に加算することによってロータ推定位置信号を補正する。
本開示のブラシレスモータ制御装置およびブラシレスモータ制御方法によれば、通常回転時に不必要な部品を追加することなく、ホールセンサの反応バラツキ、位置ズレに起因した、ロータの検出位置ズレを補正し、トルクリップルを低減することができる。
図1は、実施の形態におけるブラシレスモータ制御装置の構成例とブラシレスモータとを示すブロック図である。
図2Aは、電気角テーブル部の一例を示す図である。
図2Bは、ロータ磁極検出部から出力される磁極検出信号の波形と、ロータ位置推定部から出力されるロータ推定位置信号の波形とを示すタイミングチャートである。
図3は、ロータ磁極検出部から出力される磁極検出信号の波形と、電気角オフセット生成部から出力される電気角オフセットの波形と、電気角オフセット切替部から出力される電気角オフセットの波形とを示すタイミングチャートである。
図4は、ロータ磁極検出部から出力される磁極検出信号の波形と、ロータ位置推定部から出力されるロータ推定位置信号の波形と、電気角オフセット切替部から出力される電気角オフセットの波形と、電気角補正部から出力されるロータ推定位置信号の波形とを示すタイミングチャートである。
図5は、電気角オフセット生成部から出力される電気角オフセットの値を変化させた際の、評価値算出部から出力される評価値をプロットしたグラフである。
図6は、電気角オフセットを0にした場合の、磁極検出信号と電源電流値とを示すグラフである。
図7は、電気角オフセットを、図5に記載の電気角オフセットPbにした場合の、磁極検出信号と電源電流値とを示すグラフである。
図8は、電気角補正部における電気角オフセットを決定する処理例を示すフローチャートである。
図9は、電気角補正部における電気角オフセットを決定する他の処理例を示すフローチャートである。
図10は、実施の形態におけるブラシレスモータ制御方法を示すフローチャートである。
特許文献1では、通常回転時に不必要な部品、例えば、モータコイルの中性点と誘起電圧を比較するコンパレータ、または、これとホールセンサ出力との排他的論理和を出力するEX−OR(exclusive OR)回路(排他的論理和回路)が必要である。これにより、部品点数が増加するので、モータ制御装置の大型化、コストアップとなってしまう。
以下、実施の形態について図面を用いて説明する。
(実施の形態)
図1は、実施の形態におけるブラシレスモータ制御装置14の構成例とブラシレスモータ5とを示すブロック図である。図1では、ブラシレスモータ制御装置14は、モータ駆動用電源線+BとGND線とから電力供給を受ける。ブラシレスモータ制御装置14は、速度指令SPreqを入力とし、ブラシレスモータ5を回転制御する。ブラシレスモータ制御装置14は、速度制御部1と、PWM波形生成部2と、電流検出部3と、インバータ回路4と、ロータ磁極検出部6と、電気角補正部7と、ロータ位置推定部11と、速度推定部13とで構成されている。更に、ロータ磁極検出部6は、ブラシレスモータ5に備えられたホールセンサ6aに接続される。電気角補正部7は、評価値算出部8と、電気角オフセット生成部9と、電気角オフセット切替部10と、加算器7aとで構成されている。ロータ位置推定部11は、電気角テーブル部12を備える。
速度制御部1は、ブラシレスモータ5の回転速度を指示するための速度指令SPreqと、速度推定部13から推定速度SPestとが入力される。速度制御部1は、推定速度SPestが速度指令SPreqを満たすように、PWMデューティ値Dutを設定し出力する。
PWM波形生成部2は、速度制御部1からのPWMデューティ値Dutに従って、インバータ回路に、PWM信号Wpwmを出力する。PWM信号Wpwmは、インバータ回路4内のスイッチング素子のオンおよびオフを制御する。
電流検出部3は、インバータ回路4に供給される電流を電源電流値Adetとして検出する。
インバータ回路4は、PWM波形生成部2からのPWM信号Wpwmに従って、ブラシレスモータ5の各相の巻き線に対して駆動電圧を印加する。
ブラシレスモータ5は、例えば3相のブラシレスモータであり、U相巻線、V相巻線およびW相巻線を有するステータと、磁性を帯びたロータとを有する。
ロータ磁極検出部6は、ホールセンサ6aにより検出された磁極の変化に基づいて、ブラシレスモータ5のロータ位置に対応するデジタルの磁極検出信号Hdetを出力する。
ロータ位置推定部11は、ロータ推定位置を電気角で示すロータ推定位置信号Pestを出力する。ロータ推定位置信号Pestは、電気角0度から360度までの値を示す信号である。ロータ位置推定部11は、電気角テーブル部12と推定速度SPestとに基づいて、ロータ推定位置信号Pestを生成する。具体的には、磁極検出信号Hdetのレベルが切り替わる毎に、切り替わり後のレベルに対応して、予め定められた電気角を示すロータ推定位置信号Pestを出力する。予め定められた電気角は、レベルが切り替わる種別(つまり立上りエッジおよび立下りエッジ)毎に、電気角テーブル部12に設定されている。また、ロータ位置推定部11は、磁極検出信号Hdetのレベルの切り替わりから次の切り替わりまでの区間では、推定速度SPestに基づいてロータ推定位置信号Pestの電気角を推定する。
電気角補正部7は、電流検出部3により検出された電源電流値Adetの変動に基づいて、電気角オフセットPofsを決定する。電気角補正部7は、電気角オフセットPofsをロータ推定位置信号Pestが示す電気角に加算することによって、ロータ推定位置信号Pestを補正する。電気角補正部7は、補正後のロータ推定位置信号Posiを出力する。電気角オフセットPofsは、電気角オフセット生成部9によって、電源電流値Adetの変動を抑制するのに適切な値に決定される。
電気角テーブル部12は、電気角テーブルを保持する。図2Aは、電気角テーブル部12の一例を示す図である。図2Aでは、磁極検出信号Hdetの立下りエッジのタイミングに対応するロータの電気角は210度であり、立ち上がりエッジのタイミングに対応するロータの電気角は30度であることを示している。この場合、電気角テーブルはIndex0に対応する電気角(210度)と、Index1に対応する電気角(30度)とを保持するテーブルでよい。例えば、電気角テーブル部12は、Index0が入力されると、電気角210度に対応するアナログ値またはデジタル値を、ロータ位置推定部11に出力する。また、電気角テーブル部12は、Index1が入力されると、電気角30度に対応するアナログ値またはデジタル値を、ロータ位置推定部11に出力する。例えば、ロータ位置推定部11は、磁極検出信号Hdetの立下りエッジのタイミングで、Index0を電気角テーブル部12に出力する。ロータ位置推定部11は、磁極検出信号Hdetの立上がりエッジのタイミングで、Index1を電気角テーブル部12に出力する。
速度推定部13は、補正後のロータ推定位置信号Posiに基づいて、ロータの回転速度を推定し、推定速度SPestとして出力する。
電気角補正部7の構成について説明する。
評価値算出部8は、電流検出部3に検出された電源電流値Adetを入力し、ブラシレスモータ5の一定速での回転動作時に、電源電流値Adetの変動を示す評価値Evalを算出する。この評価値Evalは、例えば分散、振幅の大きさ、周波数分布等でよい。
電気角オフセット生成部9は、評価値Evalの最小値に対応する電気角オフセットPosnを生成する。例えば、電気角オフセット生成部9は、ブラシレスモータ5を一定速度で回転動作中に電気角オフセットPosnを漸次増加または減少させながら、ロータ推定位置信号Pestを複数回補正する。評価値算出部8は、各電気角オフセットPosnにおける電流検出部3が検出した複数の電源電流値Adetの分散を、評価値Evalとして算出および保持する。電気角オフセット生成部9は、電気角オフセットPosnと評価値との関係を多項式で近似し、多項式において最小の評価値Evalを算出する。電気角オフセット生成部9は、多項式から評価値Evalが最小になるときの電気角オフセットを、適切な電気角オフセットPosnと決定する。このように電気角オフセットPosnは、電源電流値Adetの変動に基づいて決定されるので、新たな部品の追加による回路規模の増大を抑制することができる。
電気角オフセット切替部10は、磁極検出信号Hdetがハイレベルおよびローレベルのうち一方のレベルの区間において、ロータ推定位置信号Pestが示す電気角に加算する電気角オフセットPofsを出力する。電気角オフセット切替部10は、ゼロ発生部10aとセレクタ10bとを備える。ゼロ発生部10aは、電気角0度を示すゼロ信号(例えば、グランドレベルの信号)を発生する。セレクタ10bは、ゼロ信号および電気角オフセットPosnの一方を選択する。セレクタ10bは、磁極検出信号Hdetがハイレベルおよびローレベルのうち、一方のレベルの区間において、電気角オフセットPosnを選択し、他方のレベルの区間においてゼロ信号を選択する。選択結果つまりセレクタ10bの出力信号を電気角オフセットPofsと呼ぶ。
加算器7aは、ロータ推定位置信号Pestと電気角オフセットPofsとを加算する。加算結果つまり加算器7aの出力信号は、補正されたロータ推定位置信号Pestであり、ロータ推定位置信号Posiと呼ぶ。
磁極検出信号Hdetが、ハイレベルおよびローレベルのうち一方のレベルの区間というのは、例えばローレベルの区間である。この場合、電気角補正部7は、磁極検出信号Hdetのローレベル区間において、ロータ推定位置信号Pestに電気角オフセットPosnを加算し、磁極検出信号Hdetのハイレベル区間において、ロータ推定位置信号Pestにゼロ信号を加算する。言い換えれば、電気角テーブルに予め設定されているロータの電気角の片側(立上りエッジまたは立下りエッジに対応する電気角)のみに対して、電気角オフセットを加算する。このように加算するのは次の理由による。ブラシレスモータ5にトルクリップルが生じるような場合は、磁極検出信号Hdetのハイレベル区間とローレベル区間の時間が均等でなく、ロータ推定位置信号Pestに示される変化量が、ハイレベル区間とローレベル区間とで異なるため、ロータ推定位置信号Pestの値が不連続に大きく変化する(図2Bを参照)。一方のレベルの区間において、ロータ推定位置信号Pestが示す電気角に適切な電気角オフセットPosnを加算することによって、ロータ推定位置信号Pestの値が大きな変化を打ち消すように補正し、つまりロータ推定位置信号Pestが示す変化量の不均一性を補正し、ひいてはトルクリップルを抑制することが可能になる。
次に、磁極検出信号Hdetおよびロータ推定位置信号Pestの具体例について説明する。
図2Bは、ロータ磁極検出部6から出力される磁極検出信号Hdetの波形と、ロータ位置推定部11から出力されるロータ推定位置信号Pestの波形とを示すタイミングチャートである。ホールセンサ6aが理想的な位置に実装された場合、ブラシレスモータ5が一定速度で回転すると、ロータ磁極検出部6の磁極検出信号Hdetは、ハイレベル区間とローレベル区間が等しくなる。ここでは、ホールセンサ6aの位置ズレ、または、ホールセンサ6aのN極およびS極に対する反応バラツキ等、何らかの理由により、ロータ磁極検出部6の磁極検出信号Hdetのハイレベル区間とローレベル区間とが等しくない場合を示す。図2Bの磁極検出信号Hdetでは、ハイレベル区間:ローレベル区間が、50:50ではなく、(50−x):(50+x)になっている例を示している。
図1に示すように、ロータ位置推定部11は、電気角テーブル部12を備える。ロータ位置推定部11は、磁極検出信号Hdetを入力とする。図2Bにおいて、磁極検出信号Hdetの信号レベルが切替わる時刻t0およびt1において、ロータ位置推定部11は、図2Aに記載の電気角テーブル部12を参照し、磁極検出信号Hdetのエッジ種別に対して、予め定められた電気角をロータ推定位置信号Pestとして出力する。その結果、ロータ推定位置信号Pestは、時刻t0では電気角30度を示し、時刻t1では電気角210度を示す。
そして、次回の信号レベル切替わりまでの間(例えば、区間t0〜t1,t1〜t0)、推定速度SPestの速度に従い、ロータ推定位置信号Pestの値を徐々に増加させる。そのため、磁極検出信号Hdetのハイレベル区間とローレベル区間の時間が等しくない場合(例えば、図2Bに示すように、ハイレベル区間が短く、ローレベル区間が長い場合)、ロータ推定位置信号Pestに示される変化量が、区間t0〜t1と区間t1〜t0とで異なるため、時刻t0およびt1でロータ推定位置信号Pestの値が不連続に大きく変化している。
次に、電気角オフセット切替部10に入力される磁極検出信号Hdetおよび電気角オフセットPosnと、電気角オフセット切替部10から出力される電気角オフセットPofsの具体例について説明する。
図3は、ロータ磁極検出部6から出力される磁極検出信号Hdetの波形と、電気角オフセット生成部9から出力される電気角オフセットPosnの波形と、電気角オフセット切替部10から出力される電気角オフセットPofsの波形とを示すタイミングチャートである。図1に示すように、電気角オフセット生成部9は、後述する方法で決定された値(−n度)を電気角オフセットPosnとして電気角オフセット切替部10へ出力する。
電気角オフセット切替部10は、磁極検出信号Hdetを切替制御用の信号として入力する。電気角オフセット切替部10は、磁極検出信号Hdetのレベルが切替わる、図3の時刻t0において、電気角オフセットPosn(−n)からゼロ信号に切り替える。電気角オフセット切替部10は、時刻t1においてゼロ信号から電気角オフセットPosn(―n)に切り替える。こうして、電気角オフセット切替部10は、電気角オフセットPofsとして出力している。その結果、電気角オフセットPofsは、磁極検出信号Hdetがローレベルであるとき−n度であり、磁極検出信号Hdetがハイレベルであるとき0度である。
次に、電気角オフセットPofsによるロータ推定位置信号Pestの補正の具体例について、説明する。
図4は、ロータ磁極検出部6から出力される磁極検出信号Hdetの波形と、ロータ位置推定部11から出力されるロータ推定位置信号Pestの波形と、電気角オフセット切替部10から出力される電気角オフセットPofsの波形と、電気角補正部7から出力されるロータ推定位置信号Posiの波形とを示すタイミングチャートである。図1に示すように、電気角補正部7の出力信号であるロータ推定位置信号Posiは、ロータ推定位置信号Pestと電気角オフセット切替部10から出力される電気角オフセットPofsとの和となっている。そのため、電気角オフセット切替部10から出力される電気角オフセットPofsが、時刻t0において、−nから0へ、および、時刻t1において、0から−nへ切替わることにより、電気角補正部7から出力されるロータ推定位置信号Posiは、段差なく直線的に増加するノコギリ波形となる。
続いて、電気角オフセットPosnの適切な値をどのように決定するのかについて説明する。
図5は、電気角オフセット生成部9から出力される電気角オフセットPosnの値を変化させた際の、評価値算出部8から出力される評価値Evalをプロットしたグラフである。図1に示すように、評価値算出部8の入力は、電流検出部3からの電源電流値Adetである。評価値算出部8は、予め定められた時間における、電流検出部3からの電源電流値Adetの分散である評価値Evalを、(式1)により算出する。図5では、電気角オフセットPosnの値を増加させ、回転安定後、1秒間のデータN個の分散値をEvalとしている。
ただし、iは1からNの整数である。xiは連続して検出されたN個の電源電流値Adetである。μは、xiの平均値である。
評価値算出部8は、図5の例では、0から徐々に増加させたN個の電気角オフセットPosnに対してN個の評価値Evalを算出する。
評価値Evalは、バラツキの大きさを表現できればよく、標準偏差や最大値と最小値の差(幅)でも良い。
図2Bのように、磁極検出信号Hdetのハイレベル区間とローレベル区間とが等しくない場合、図5に示すように、電気角オフセット生成部9からの電気角オフセットPosnが値Pbにおいて、評価値Evalは最小値Ebを持つ。このように、図5は、下に凸のグラフとなる。調整作業時、値Pbを求めるとともに、図3で示した、電気角オフセット生成部9から出力される電気角オフセットPosnの値(−n)をPbとすることにより、電流振幅(リップル)を小さくすることができる。
図6は、電気角オフセットPosnを0にした場合の、磁極検出信号Hdetと電源電流値Adetとを示すグラフである。図7は、電気角オフセットPosnを、図5に記載の電気角オフセットPbにした場合の、磁極検出信号Hdetと電源電流値Adetとを示すグラフである。図6と図7から、電気角オフセットPosnを、評価値Evalが最小になるときの電気角オフセットPbにすると、電流検出部3の電源電流値Adetの振動幅が小さくなっていること、言い換えれば、トルクリップルが低減されることが分かる。
次に、適切な電気角オフセットPosnを決定する具体的な処理例について説明する。
図8は、電気角補正部7における電気角オフセットPosnを決定する処理例を示すフローチャートである。図8の処理は、適切な電気角オフセットPosnを決定する調整作業として、回転動作中に随時実行してもよいし、回転動作の開始直後に実行してもよいし、工場出荷時に実行してもよい。図8において、まず、電気角補正部7は、ブラシレスモータ5が一定速度で回転動作中であるか否かを判定する(ステップS80)。一定速度の回転動作中でなければ(ステップS80で“no”)、電気角補正部7は、一定速度の回転動作になるまで判定を繰り返す。一定速度の回転動作中であれば(ステップS80で“yes”)、電気角補正部7は、電気角オフセットPosnの値を−αに初期化する(ステップS81)。αは、例えば、1度でも0.5度でも他の値でもよい。さらに、電気角補正部7は、電気角オフセットPosnにαを加算することにより、Posnを更新する(ステップS82)。初回の電気角オフセットPosnは0になる。電気角補正部7は、磁極検出信号Hdetがローレベルである区間において、ロータ推定位置信号Pestに電気角オフセットPosnを加算することによって、ロータ推定位置信号Pestを補正する(ステップS83)。この状態で、電気角補正部7は、(式1)に従って評価値Evalを算出し、電気角オフセットPosnと評価値Evalとを対応させて保持する(ステップS84)。さらに、電気角補正部7は、ステップS82〜S84の繰り返し回数がK回に達したか否かを判定し(ステップS85)、達していなければ(ステップS85で“no”)ステップS82に戻る。Kは、繰り返し回数を示す整数である。
こうして、K個の電気角オフセットPosnに対する評価値Evalが保持される。
電気角補正部7は、K組の電気角オフセットPosnと評価値Evalとの関係を多項式で近似する(ステップS86)。この近似は、図5に示したように、二次式による近似でもよい。電気角補正部7は、多項式において最小となる評価値Evalに対応する電気角オフセットPosnの値を、適切な電気角オフセットPosnと決定する(ステップS87)。
以降、電気角補正部7が適切な電気角オフセットPosnを出力することにより、図7に示したように、電源電流値Adetの変動を抑制し、ひいてはトルクリップルを低減することができる。
本実施の形態におけるブラシレスモータ制御装置14によれば、誘起電圧検出回路、および、高精度・高感度なホールセンサを備える必要がなくなる。このため、ブラシレスモータ制御装置14を簡易な回路構成にすることができる。また、回路面積、コストを抑制することができる。また、トルクリップルの低減による、回転振動および騒音の低下、軸受けの長寿命化だけでなく、モータ回転中の電流振動が小さくなる。このため、モータに流れる平均電流値を、回路の許容可能な最大値へ更に近づけることができる。よって、これら余裕を確保するために、より大型な回路を搭載する必要がなくなる。例えば、ブラシレスモータ5が冷却ファンに用いられる場合、冷却ファンの更なる小型化・軽量化を図ることができる。
なお、適切な電気角オフセットPosnを決定する処理は、図8に限らない。例えば、図9に示す処理によって適切な電気角オフセットPosnを決定してもよい。図9は、電気角補正部7における電気角オフセットPosnを決定する他の処理例を示すフローチャートである。図9は、図8と比べて、ステップS84、S86、S87の代わりに、ステップS84a、S86a、S87aを有する点が異なっている。以下、異なる点を中心に説明する。
ステップS84aにおいて、電気角補正部7は、電源電流値Adetを周波数解析し、電気角オフセットPosnと解析結果とを対応させて保持する。
ステップS86aにおいて、電気角補正部7は、解析結果のうち、予め定められた周波数成分が最小の解析結果を判別する。予め定められた周波数成分は、ロータ磁石の極対数と回転速度から算出してもよい。
ステップS87aにおいて、電気角補正部7は、最小の解析結果に対応する電気角オフセットPosnを適切な電気角オフセットPosnと決定する。
ブラシレスモータ制御装置14におけるブラシレスモータ制御方法について説明する。
図10は、実施の形態におけるブラシレスモータ制御方法を示すフローチャートである。図10は、図1に示したブラシレスモータ制御装置14において、ブラシレスモータの各相の巻き線に対して、駆動電圧を印加するインバータ回路4を用いる、ブラシレスモータ制御方法を示している。
図1のように、ロータ磁極検出部6は、ホールセンサ6aにより検出された磁極の変化に基づいて、ブラシレスモータ5のロータ位置に対応するデジタルの磁極検出信号Hdetを出力する(ステップS101)。ロータ位置推定部11は、ロータ推定位置を電気角で示すロータ推定位置信号Pestであって、電気角テーブル部12を参照しつつ、磁極検出信号Hdetのレベルが切り替わる毎に、切り替わり後のレベルに対応して予め定められた電気角を示すロータ推定位置信号Pestを出力する(ステップS102)。
また、電流検出部3は、インバータ回路4に供給される電流を電源電流値Adetとして検出し(ステップS110)、電源電流値Adetの変動に基づいて電気角オフセットPofsを決定する(ステップS111)。
電気角補正部7は、電気角オフセットPofsをロータ推定位置信号Pestが示す電気角に加算することによって、ロータ推定位置信号Pestを補正する(ステップS103)。電気角補正部7は、補正後のロータ推定位置信号Posiを速度推定部13に出力する(ステップS104)。
ステップS101〜S104は、それぞれブラシレスモータ5の回転動作中の時間的に継続する処理であり、並行して実行される。これらのステップの各信号は、時系列的な信号であり、並行して出力される。また、ステップS110およびS111は、実質的に図8または図9の処理と同じ処理でよく、図8または図9の処理を簡略化して表記している。ステップS110およびS111は、図8および図9と同様に、随時実行してもよいし、回転動作の開始直後に実行してもよいし、工場出荷時に実行してもよい。
このように、本実施の形態におけるブラシレスモータ制御装置14およびブラシレスモータ制御方法では、ホールセンサ6aにより検出された磁極の変化に基づいてロータ磁極検出部6が出力する、ブラシレスモータ5のロータ位置に対応するデジタルの磁極検出信号Hdetに関して、ローレベル区間だけ、電気角の推定位置に対して、所定の方法で予め定めたオフセットを加算する。これにより、本実施の形態では、ホールセンサ6aの反応バラツキ(ホール素子のオフセットおよび内部コンパレータのヒステリシス)の影響により、磁極検出信号Hdetが示すハイレベル区間とローレベル区間とが不均等になっている場合でも、PWM波形生成部2に入力される、電気角を示す信号であるロータ推定位置信号Posiは、ロータの位置がどこであっても、回転中、常に真のロータ位置に近い値となる。このため、ブラシレスモータ5に印加される駆動電圧の位相が、ホールセンサ6aの立上りエッジまたは立下りエッジで、不連続に大きく変化(ジャンプ)することなく、連続的に変化していく。そのため、ブラシレスモータ5の電流波形が綺麗な正弦波形状となり、トルクリップルが低減する。
本実施の形態により、トルクリップルが低減すると、回転振動および騒音の低下、軸受けの長寿命化を図ることができる。また、ブラシレスモータ5の回転中、電源からインバータ回路4への電流振動も小さくなるため、電源から供給される平均電流値を電源回路が許容可能な値(過電流エラーの閾値)へ更に近づけることができる。よって、これら余裕を確保するために、より大型なモータコア、軸受け、回路を搭載する必要がなくなる。また、誘起電圧検出回路、および、高精度なホールセンサを備える必要がなくなる。併せて、センサ位置の高精度な取付けも必要がなくなる。したがって、簡易な回路構成で実現でき、部品コストおよび製造コストを抑制することができる。例えば、冷却ファンでは、小型化・軽量化・低コスト化を図ることができる。
以上のように、本実施の形態におけるブラシレスモータ制御装置14は、ブラシレスモータ5の各相の巻き線に対して駆動電圧を印加するインバータ回路4と、ホールセンサ6aにより検出された磁極の変化に基づいて、ブラシレスモータ5のロータ位置に対応する磁極検出信号Hdetを出力するロータ磁極検出部6と、ロータ推定位置を電気角で示すロータ推定位置信号Pestであって、磁極検出信号Hdetのレベルが切り替わる毎に、切り替わり後のレベルに対応して予め定められた電気角を示すロータ推定位置信号Pestを出力するロータ位置推定部11と、インバータ回路4に供給される電流を電源電流値Adetとして検出する電流検出部3と、電源電流値Adetの変動に基づいて電気角オフセットPofsを決定し、電気角オフセットPofsをロータ推定位置信号Pestが示す電気角に加算することによって、ロータ推定位置信号Pestを補正する電気角補正部7とを備える。
これによれば、通常回転時に不必要な部品を追加することなく、ホールセンサ6aの反応バラツキ、位置ズレに起因した、ロータの検出位置ズレを補正し、電源電流値Adetの変動を抑制することができる。したがって、トルクリップルを低減させることができる。
ここで、電気角補正部7は、ブラシレスモータ5の一定速での回転動作時に電源電流値Adetの分散を評価値Evalとして算出し、評価値Evalの最小値に対応する電気角オフセットPofsを決定してもよい。
これによれば、電源電流値Adetの分散を最小にする電気角オフセットPofsを決定することができる。
ここで、電気角補正部7は、磁極検出信号Hdetがハイレベルおよびローレベルのうちのいずれか一方のレベルである区間において、ロータ推定位置信号Pestが示す電気角に電気角オフセットPofsを加算してもよい。
これによれば、磁極検出信号Hdetの立上りエッジおよび立下りエッジの一方に対応する電気角を補正することにより、電流変動を低減し、トルクリップルを低減させる。
ここで、電気角補正部7は、ブラシレスモータ5を一定速度で回転動作中に、電気角オフセットPofsを漸次増加または減少させながらロータ推定位置信号Pestを複数回補正し、各電気角オフセットPofsに対して電流検出部3が検出した複数の電源電流値の分散を評価値Evalとして保持すると共に、電気角オフセットPofsと評価値Evalとの関係を多項式で近似し、この多項式において最小の評価値Evalに対応する電気角オフセットPofsを決定してもよい。
これによれば、電気角オフセットPosnを、多項式を用いて適切に決定することができる。
ここで、電気角補正部7は、ブラシレスモータ5を一定速度で回転動作中に、電気角オフセットPofsを漸次増加または減少させ、各電気角オフセットPofsにおける電流検出部3が検出した電源電流値Adetを周波数解析し、予め定められた周波数の成分の最小値に対応する電気角オフセットPofsを決定してもよい。
これによれば、電気角オフセットPosnを、周波数解析により適切に決定することができる。
また、本実施の形態におけるブラシレスモータ制御方法は、ブラシレスモータ5の各相の巻き線に対して駆動電圧を印加するインバータ回路4を用いるブラシレスモータ制御方法であって、ホールセンサ6aにより検出された磁極の変化に基づいて、ブラシレスモータ5のロータ位置に対応する磁極検出信号Hdetを出力し、ロータ推定位置を電気角で示すロータ推定位置信号Pestであって、磁極検出信号Hdetのレベルが切り替わる毎に、切り替わり後のレベルに対応して予め定められた電気角を示すロータ推定位置信号Pestを出力し、インバータ回路4に供給される電流を電源電流値Adetとして検出し、電源電流値Adetの変動に基づいて電気角オフセットPofsを決定し、電気角オフセットPofsをロータ推定位置信号Pestが示す電気角に加算することによってロータ推定位置信号Pestを補正する。
これにより、通常回転時に不必要な部品を追加することなく、ホールセンサ6aの反応バラツキ、位置ズレに起因した、ロータの検出位置ズレを補正し、電源電流値Adetの変動を抑制することができる。したがって、トルクリップルを低減させることができる。
本開示のモータ制御装置および方法は、簡単な構成でトルクリップルが低減し、振動を小さくすることが可能となる。したがって、ハイブリッド自動車の電池冷却用ブロアだけでなく、家庭用あるいは産業用のブラシレスモータにも適用でき、特に高効率、低騒音が要求される冷却ファンおよびブロア用モータの制御に好適である。
1 速度制御部
2 PWM波形生成部
3 電流検出部
4 インバータ回路
5 ブラシレスモータ
6 ロータ磁極検出部
6a ホールセンサ
7 電気角補正部
7a 加算器
8 評価値算出部
9 電気角オフセット生成部
10 電気角オフセット切替部
10a ゼロ発生部
10b セレクタ
11 ロータ位置推定部
12 電気角テーブル部
13 速度推定部
14 ブラシレスモータ制御装置
SPreq 速度指令
+B 電源端子
Adet 電源電流値
Dut PWMデューティ値
Wpwm PWM信号
Hdet 磁極検出信号
Pest ロータ推定位置信号
Eval 評価値
Posn 電気角オフセット
Pofs 電気角オフセット
Posi ロータ推定位置信号
SPest 推定速度