本発明の第1実施形態の構成について図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態の自動変速機を有する車両の一部を示す概略構成図である。
車両は、エンジン1と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、バルブボディ7と、パーキング機構9と、コントローラ10と、を備える。
エンジン1は、運転者が操作するアクセルペダルに連動して全閉から全開に向けて開度増大するスロットルバルブにより出力を加減され、エンジン1の出力回転はトルクコンバータ2を経て自動変速機3の入力軸4に入力される。
自動変速機3は、同軸に配置された入力軸4と出力軸5上に、図示しないフロントプラネタリギヤ組、リヤプラネタリギヤ組が配置されて構成され、油圧により作動する複数の締結要素6の締結、解放の組み合わせにより動力伝達経路を切り換えて、所望の変速段を実現する。
出力軸5は、シフトレバーがPレンジに操作された場合に、パーキング機構9によって回転不能にロックされる。
バルブボディ7内には、各締結要素6に油圧を供給する油路(図示せず)が形成されており、コントローラ10から入力される指令に基づいて駆動されるソレノイド8が、各油路に設けられた調圧弁(図示せず)を操作して、コントローラ10が設定した指令圧の油圧が所定の締結要素6に供給されるように制御される。また、車両の走行時には、ソレノイド8は所望の変速比を得るために必要な締結要素6のみに油圧を供給するように制御される。
コントローラ10は、エンジン回転センサ11、タービン回転センサ12、出力軸回転センサ13、インヒビタスイッチ14などの出力に基づいて、締結させる締結要素6に供給する作動油圧の指令圧を決定する。そして、コントローラ10は決定した指令圧の作動油圧が締結要素6に供給されるようにソレノイド8を駆動する指令を出力する。コントローラ10は、CPU、ROM、RAMなどによって構成され、CPUがROMに格納されたプログラムを実行することで、各機能が発揮される。
エンジン回転センサ11は、エンジン1の出力軸の回転を検出し、検出した出力軸の回転速度(エンジン回転速度Ne)を示す信号を、コントローラ10に出力する。タービン回転センサ12は、自動変速機3の入力軸4の回転を検出し、入力軸4の回転速度(タービン回転速度Nt)を示す信号を、コントローラ10に出力する。出力軸回転センサ13は、自動変速機3の出力軸5の回転を検出し、出力軸5の回転速度(出力軸回転速度No)を示す信号を、コントローラ10に出力する。出力軸回転センサ13によって検出される出力軸回転速度Noは、車速として用いられる。インヒビタスイッチ14は、シフトレバーの操作に連動して回動するマニュアルシャフト(図示せず)に設けられており、シフトレバーの選択レンジを示す信号を、コントローラ10に出力する。
コントローラ10は、締結要素6を締結する場合に、ピストンストロークフェーズ、締結進行フェーズ、最終締結フェーズの順に実行し、締結要素6を締結する。ピストンストロークフェーズでは、高い指令圧の指令後に低い指令圧を保持することにより油圧回路の充填及び締結要素6のピストンストロークが完了する。締結進行フェーズでは、ピストンストロークフェーズの指令圧から所定増加率で、指令圧が上昇する。最終締結フェーズでは、締結進行フェーズの後に、指令圧が短時間でクラッチ締結時の最大値まで上昇する。締結要素6は締結進行フェーズが終了すると締結状態となっている。
コントローラ10は、シフトレバーが非走行レンジから走行レンジに変更された場合に、通常制御と、オープンモード制御とを用いて締結要素6の締結を行う。非走行レンジはPレンジおよびNレンジである。走行レンジはDレンジ(Lレンジなどを含む。)およびRレンジである。
通常制御は、エンジン回転センサ11、タービン回転センサ12、出力軸回転センサ13などからの信号に基づいて締結要素6を締結する制御であり、車両が停車している場合に実行される。通常制御では、式(1)に示す進行度に基づいて締結要素6に供給される油圧が制御される。
進行度(%)=(Ne−Nt)/(Ne−No×ギア比)×100・・・(1)
進行度は、車両が停車しており、締結要素6が解放している場合にはエンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとが略等しいので略0%となり、車両が停車しており、締結要素6が完全に締結した場合にはタービン回転速度Ntと、出力軸回転速度Noに自動変速機3のギア比を掛けた値とが等しくなるので100%となる。
車両が走行している状態で、例えばシフトレバーがDレンジからNレンジへ変更され、その後再びDレンジに変更されると、締結要素6の締結状態にかかわらず、進行度がほぼ一定の値となるおそれがあり、進行度に基づいて締結要素6の状態を正確に検出することが困難になる。そのため、走行中はオープンモード制御によって締結要素6の締結を行う。
オープンモード制御は、コントローラ10に設けたタイマによる時間経過に従って締結要素6を締結する制御である。
なお、詳しくは以下において説明するが、本実施形態においては、ピストンストロークフェーズにおいては、車両が走行しているか、停車しているかにかかわらず通常制御が実行される。
次にシフトレバーが非走行レンジから走行レンジへ変更された場合の制御について図2のフローチャートを用いて説明する。なお、以下において非走行レンジをNレンジとし、走行レンジをDレンジとした場合を例として説明する。
ステップS100では、コントローラ10は、インヒビタスイッチ14からの信号に基づいてシフトレバーがNレンジからDレンジに変更されたかどうか判定する。コントローラ10は、シフトレバーがNレンジからDレンジに変更された場合には、タイマによってシフトレバーがNレンジからDレンジに変更されてからの経過時間の計測を開始してステップS101へ進み、シフトレバーがNレンジからDレンジに変更されていない場合、すなわちDレンジに変更された後の状態である場合や、Dレンジが選択されていない場合は、ステップS105へ進む。
ステップS101では、コントローラ10は、通常制御によって締結要素6に油圧を供給する。
ステップS102では、コントローラ10は、自動変速機3の状態を示す物理量である経過時間が所定時間(第1所定時間)となったかどうか判定する。所定時間は、固体間のばらつきを考慮し、シフトレバーがNレンジからDレンジに変更されてから、発進時に締結する締結要素6のピストンストロークが完了するまでの時間、つまりピストンストロークフェーズが終了するまでの時間よりも長い時間とならないように実験などにより予め設定した時間である。コントローラ10は、経過時間が所定時間となった場合にはステップS103へ進み、経過時間が所定時間となっていない場合にはステップS101に戻り、上記制御を繰り返す。
車両停車時に、出力軸5に捻れが発生していた場合であっても、所定時間が経過するまでの間に出力軸5の捻れは解消する。つまり、経過時間は、出力軸5の捻れが解消されたかどうかを示す物理量でもある。
ステップS103では、コントローラ10は、第1オープンモード制御条件が成立したかどうか判定する。コントローラ10は、進行度が第1閾値以上の場合には、第1オープンモード制御条件が成立したと判定する。コントローラ10は、第1オープンモード制御条件が成立するとステップS104へ進み、第1オープンモード制御条件が成立しない場合には通常制御を継続する。第1閾値は、車両が走行していると判定する値である。車両が停車しており、ピストンストロークフェーズが終了した直後に、エンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとの差はほとんどなく、進行度は略ゼロである。しかし、車両が走行している場合には、ピストンストロークフェーズが終了した直後は、エンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとの間に差が生じ、進行度が略ゼロとはならない場合がある。そこで、コントローラ10は、進行度が第1閾値以上となる場合には、車両が走行していると判定する。
ステップS104では、コントローラ10は、通常制御からオープンモード制御へ変更する。
ステップS105では、コントローラ10は、締結要素6を締結中であるかどうか判定する。コントローラ10は、締結要素6を締結中である場合には、ステップS106へ進み、締結要素6を締結中ではない場合、すなわち通常制御またはオープンモード制御による締結要素6の締結制御が終了している場合やDレンジが選択されておらず締結要素6の締結が行われていない場合には本制御を終了する。
ステップS106では、コントローラ10は、第2オープンモード制御条件が成立したかどうか判定する。コントローラ10は、締結要素6の締結状態が最終締結フェーズではなく、かつ(Ne−No×自動変速機3のギア比)が第2閾値以下の場合に、第2オープンモード制御条件が成立したと判定する。コントローラ10は、第2オープンモード制御条件が成立するとステップS107へ進み、第2オープンモード制御条件が成立しない場合には、現在の制御を継続する。第2閾値は車両が走行していると判定する値である。車両が走行している場合には、出力軸回転速度Noがゼロではないので車両が停車している場合と比較して、(Ne−No×自動変速機3のギア比)の値が小さくなる。そこで、コントローラ10は、(Ne−No×自動変速機3のギア比)が第2閾値以下となる場合には、車両が走行していると判定する。なお、最終締結フェーズである場合には、締結要素6は締結状態となっているので通常制御が行われている場合でもステップS107へは進まない。
ステップS107では、コントローラ10は、通常制御が行われている場合にはオープンモード制御へ変更する。
次にシフトレバーがNレンジからDレンジへ変更された場合の制御について図3、図4のタイムチャートを用いて説明する。
まず図3を用いて説明する。図3は、車両が停車している状態からシフトレバーがNレンジからDレンジへ変更された場合のタイムチャートである。
時間t0において、シフトレバーがNレンジからDレンジへ変更されると、ピストンストロークフェーズが開始される。ここでは通常制御によって締結要素6の締結制御が実行される。
時間t1において、ピストンストロークフェーズが終了し、締結進行フェーズが開始される。ここでは、進行度は0%であり、通常制御が継続される。油圧指令値が高くなるにつれて締結要素6が徐々に締結し、進行度が大きくなる。
時間t2において、締結進行フェーズが終了し、締結終了フェーズが開始される。
時間t3において、指示油圧が締結要素6の最大値となると締結終了フェーズが終了し、締結要素6の締結制御は終了する。
次に図4を用いて説明する。図4は、車両が走行しており、シフトレバーがDレンジからNレンジに変更され、さらにNレンジからDレンジへ変更される場合のタイムチャートである。なお、図4は、シフトレバーがDレンジからNレンジに変更された後のタイムチャートである。
時間t0において、シフトレバーがNレンジからDレンジへ変更されると、ピストンストロークフェーズが開始される。ここでは進行度は0%ではないが、通常制御が実行される。
時間t1において、ピストンストロークフェーズが終了し、締結進行フェーズが開始される。進行度は第1閾値以上となっているので、締結要素6の締結制御は、通常制御からオープンモード制御へ変更される。
時間t2において、締結進行フェーズが終了し、締結終了フェーズが開始される。
時間t3において、指示油圧が締結要素6の最大値となると締結終了フェーズが終了し、締結要素6の締結制御は終了する。
本発明の第1実施形態の効果について説明する。
本実施形態では、シフトレバーがNレンジからDレンジへ変更された場合に、NレンジからDレンジへ変更されてからタイマが所定時間となった後に、通常制御からオープンモード制御へ切り替えるかどうかの判定を行う。
本実施形態を用いない場合には、出力軸に捻れが生じた状態で停車していた場合に、出力軸の捻れが解消する際に車速センサから出力された信号に基づいて実際には車両が走行していないにもかかわらず、車両が走行していると誤判定され、締結要素がオープンモード制御で締結されるおそれがある。
本実施形態を用いた場合では、捻れが発生していた場合でも捻れが解消する所定時間経過後に判定を行うことにより、このような誤判定を防ぐことができ、車両が停車しているにもかかわらず、オープンモード制御が実行されることを抑制することができる。
次に本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態は、シフトレバーが非走行レンジから走行レンジへ変更された場合の制御が第1実施形態と異なっている。本実施形態におけるシフトレバーが非走行レンジから走行レンジへ変更された場合の制御について図5のフローチャートを用いて説明する。
ステップS200では、コントローラ10は、インヒビタスイッチ14からの信号に基づいてシフトレバーがNレンジからDレンジに変更されたかどうか判定する。コントローラ10は、シフトレバーがNレンジからDレンジに変更された場合にはステップS201へ進み、シフトレバーがNレンジからDレンジに変更されていない場合にはステップS205へ進む。
ステップS201では、コントローラ10は、通常制御によって締結要素6に油圧を供給する。
ステップS202では、コントローラ10は、自動変速機3の状態を示す物理量である締結要素6のピストンストローク量を算出し、ピストンストローク量が所定量以上であるかどうか判定する。ピストンストローク量は、予め実験などによって定めた締結要素6への指示油圧とピストンストローク速度とのマップに基づいて算出される。ピストンストローク速度は指示油圧が大きくなるほど大きくなる。ピストンストローク量は、ステップS202の判定周期毎の指示油圧に対するピストンストローク速度を積算することで算出される。所定量は、ピストンストロークが完了したと判断できる量である。コントローラ10は、ピストンストローク量が所定量以上となった場合にはステップS203へ進み、ピストンストローク量が所定量となっていない場合にはステップS201に戻り、上記制御を繰り返す。
ステップS203以降の制御は第1実施形態のステップS103と同じ制御なので、ここでの説明は省略する。
なお、ストロークセンサなどを用いてピストンストローク量を算出してもよい。
本発明の第2実施形態の効果について説明する。
ピストンストローク量に基づいて通常制御からオープンモード制御へ切り替えるかどうかの判定を行うことで、共通の制御方法であるピストンストロークが完了した後に、車両が走行している場合には通常制御からオープンモード制御へ適切に変更することができる。
次に本発明の第3実施形態について説明する。
本実施形態は、シフトレバーが非走行レンジから走行レンジへ変更された場合の制御が第1実施形態と異なっている。本実施形態におけるシフトレバーが非走行レンジから走行レンジへ変更された場合の制御について図6のフローチャートを用いて説明する。
ステップS300では、コントローラ10は、インヒビタスイッチ14からの信号に基づいてシフトレバーがNレンジからDレンジに変更されたかどうか判定する。コントローラ10は、シフトレバーがNレンジからDレンジに変更された場合には、タイマによってシフトレバーがNレンジからDレンジに変更されてからの時間の計測を開始してステップS301へ進み、シフトレバーがNレンジからDレンジに変更されていない場合には、ステップS305へ進む。
ステップS301では、コントローラ10は、通常制御によって締結要素6に油圧を供給する。
ステップS302では、コントローラ10は、自動変速機3の状態を示す物理量である出力軸回転センサ13からの信号、およびタイマの値に基づいて車速が所定車速以上となる状態が所定時間(第2所定時間)継続したかどうか判定する。所定車速は、車両が走行していると判断できる車速である。所定時間は、出力軸5の回転が出力軸5の捻れが解消されたことに基づく回転ではない判断できる時間である。コントローラ10は、車速が所定車速以上となる状態が所定時間継続した場合には車両が走行していると判定し、ステップS303へ進む。
ステップS303以降の制御は第1実施形態のステップS103と同じ制御なので、ここでの説明は省略する。
なお、車速センサからの信号数が所定数以上となった時に、出力軸5の捻れによる回転ではなく、車両が走行していると判定してもよい。
本発明の第3実施形態の効果について説明する。
出力軸5の捻れが確実に解消する時間が経過した後に、通常制御、またはオープンモード制御を選択することができ、車両が停車しているにもかかわらず、オープンモード制御が実行されることを抑制することができる。
次に本発明の第4実施形態について説明する。
本実施形態は、シフトレバーが非走行レンジから走行レンジへ変更された場合の制御が第1実施形態と異なっている。本実施形態におけるシフトレバーが非走行レンジから走行レンジへ変更された場合の制御について図7のフローチャートを用いて説明する。
ステップS400では、コントローラ10は、インヒビタスイッチ14からの信号に基づいてシフトレバーがNレンジからDレンジに変更されたかどうか判定する。コントローラ10は、シフトレバーがNレンジからDレンジに変更された場合にはステップS401へ進み、シフトレバーがNレンジからDレンジに変更されていない場合にはステップS405へ進む。
ステップS401では、コントローラ10は、通常制御によって締結要素6に油圧を供給する。
ステップS402では、コントローラ10は、自動変速機3の状態を示す物理量である締結要素6への指示油圧が所定油圧以上であるかどうか判定する。所定油圧は、ピストンストローク制御中であると判定できる油圧である。コントローラ10は、指示油圧が所定油圧以上となった場合にはステップS403へ進み、指示油圧が所定油圧よりも低い場合にはステップS401に戻り上記制御を繰り返す。
ステップS403以降の制御は第1実施形態のステップS103と同じ制御なのでここでの説明は省略する。
なお、本実施形態では指示油圧に基づいて判定を行ったが、油圧センサなどによって締結要素6に供給されている油圧を検出し、検出した油圧に基づいて判定を行ってもよい。また、シフトレバーがNレンジからDレンジへ変更されてから所定時間経過後の油圧に基づいて判定を行ってもよい。
本発明の第4実施形態の効果について説明する。
締結要素6への指示油圧に基づいても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
第1オープンモード条件が成立するかどうかの判定に進行度を用いたが、車速がしきい車速以上となった場合に通常制御からオープンモード制御へ変更してもよい。
本願は2011年11月18日に日本国特許庁に出願された特願2011−253169に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。