以下本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明に係る光学素子としては、一般カメラ用レンズ及びファインダー、ビデオカメラ用レンズ、レーザーピックアップレンズ、レーザープリンター用のfθレンズ、シリンドリカルレンズ及びオリゴンミラー、プロジェクションTV用レンズ、液晶プロジェクター用のマルチレンズ、リレー系レンズ、コンデンサーレンズ、投射レンズ及びフレネルレンズ、眼鏡用レンズ等のレンズ、コンパクトディスク(CD、CD−ROM等)、ミニディスク、DVD用のディスク基板、LCD用基板、有機EL用基板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、ゼロ位相差フィルム、光拡散フィルム、液晶素子結合用接着剤等の液晶素子用部材、プロジェクター用スクリーン、光学フィルター、光ファイバー、光導波路、プリズム、光電変換素子用レンズなどが挙げられる。本発明の樹脂組成物は、ミニディスク用ピックアップレンズ(対物レンズ、回折格子、コリメータレンズ等)及びDVD用ピックアップレンズ(対物レンズ、回折格子、コリメータレンズ等)等の光学素子に用いることもできる。
本発明では、特に上記光学素子の中で偏光板保護フィルム、位相差フィルム、ゼロ位相差フィルム等に用いられる光学フィルムを対象に以下説明する。
従来、偏光板保護フィルムに用いられる光学フィルムとしては、一般的にセルロースエステルフィルムが用いられているが、セルロースエステルフィルムはアクリルフィルムに比べて吸湿性が高いという欠点を有していた。しかしながらセルロースエステル樹脂にアクリル樹脂を混合させて吸湿性を改善しようとすると、互いに相溶せずにヘーズが上昇し、光学フィルムとしての使用は困難であった。特に、分子量の大きなアクリル樹脂は、セルロースエステル樹脂に対しては相溶しないと考えられており、樹脂の混合による吸湿性の改善は困難であると考えられていた。特許文献5では、可塑剤として比較的分子量の低いアクリル樹脂をセルロースエステル樹脂に添加することが記載されているものの、添加量が少ないため吸湿性が改善できず、また、分子量の小さいアクリル樹脂を添加することで、耐熱性が低下し、大型の液晶表示装置や屋外用途の液晶表示装置に用いられる光学フィルムとして適した特性を得ることはできていなかった。
一方、アクリル樹脂フィルムは、耐熱性に乏しく高温下での使用、長期的な使用などにおいて、形状が変わり易く、脆性に劣るという性質を有している。特許文献1〜3ではアクリル樹脂の特性の改善に取り組んでいるものの、十分な光学フィルムとしての特性は得られていなかった。特許文献3では、アクリル樹脂に対して、セルロースエステル樹脂を混合させることで耐熱性を改善する技術も考案されていたが、分子量の高いセルロースエステル樹脂はアクリル樹脂と相溶しないと考えられていたため、分子量の低いセルロースエステル樹脂が添加され、結果として脆性が十分に改善できていなかった。
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、アクリル樹脂に対して、特定の置換度を有するセルロースエステル樹脂が高い相溶性を示すことを見出し、更に驚くべきことに分子量の比較的高いセルロースエステル樹脂もヘーズを上昇させることなく、相溶させることができることが判明した。
更に、アクリル樹脂(A)と特定の置換度を有するセルロースエステル樹脂(B)とを特定の混合比の範囲でブレンドにより相溶化し、更に沸点が常圧下で165℃以上の連鎖移動剤を0.1〜0.5質量部含有することで、アクリル樹脂、セルロースエステル樹脂それぞれの欠点が改善され、脆性に優れ、低い複屈折かつ低い光弾性を示し、湿度変化や温度変化による複屈折の変動が小さく、ヘーズ、臭気の少ない安定な光学素子が得られることを見出し、本発明を成すに至った次第である。
即ち、本願発明の光学素子は、アクリル樹脂(A)50〜90質量部に対して、セルロースエステル樹脂(B)を10〜50質量部含有する光学素子であって、該セルロースエステル樹脂(B)の少なくとも一種が、アシル基の総置換度(T)が2.00〜2.99であり、アセチル基置換度(ac)が0.10〜1.89であって、アセチル基以外の部分が、3〜7の炭素数で構成されるアシル基で置換されており、その置換度(r)が1.10〜2.89であり、かつ沸点が常圧下で165℃以上の連鎖移動剤をアクリル樹脂(A)に対して0.1〜0.5質量%含有することを特徴とする。
また、該光学素子の光弾性定数は−3.0×10−12/Pa〜7.0×10−12/Pa(23℃55%RH)であることが好ましく、前記面内複屈折(i)の絶対値、または厚さ方向の複屈折(ii)の絶対値の少なくともいずれかが、2.0×10−4(23℃55%RH)以下を満たすことが好ましく、該光学素子の面内複屈折および厚さ方向の複屈折が、湿度23℃20%RHの複屈折と23℃80%RHの複屈折の差の絶対値が共に1.5×10−4以下であることが好ましく、更に該光学素子の面内複屈折および厚さ方向の複屈折が、温度35℃27%RHの複屈折と23℃55%RHの複屈折の差の絶対値が共に1.0×10−4以下であることが本発明の効果をより向上する上で好ましい。
特に、本発明に係る光学素子の一形態である光学フィルムを偏光板の少なくとも一方の面に適用することで、視野角の変動やカラーシフトが低減された液晶表示装置を得ることが可能である。
以下、本発明を詳細に説明する。
〈アクリル樹脂(A)〉
本発明に用いられるアクリル樹脂には、メタクリル樹脂も含まれる。樹脂としては特に制限されるものではないが、メチルメタクリレート単位50〜99質量%、およびこれと共重合可能な他の単量体単位1〜50質量%からなるものが好ましい。
共重合可能な他の単量体としては、アルキル数の炭素数が2〜18のアルキルメタクリレート、アルキル数の炭素数が1〜18のアルキルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル、無水マレイン酸、マレイミド、N−置換マレイミド、グルタル酸無水物等が挙げられ、これらは単独で、あるいは2種以上の単量体を併用して用いることができる。
これらの中でも、共重合体の耐熱分解性や流動性の観点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が好ましく、メチルアクリレートやn−ブチルアクリレートが特に好ましく用いられる。
アクリル樹脂の構造中に、メチルメタクリレート(MMA)単位が多いことは耐熱性の観点で好ましいが、MMAが単独でアクリル樹脂として構成されると、加熱時にジッパー型の分解に代表される解重合が生じることがある。特に汎用のアクリル樹脂は、高分子の末端に二重結合を持つことが多く、末端から解重合を引き起こすことがある。このような解重合の対策のために、若干メチルアクリレート単位を樹脂にアクリル樹脂に対して0.1〜5質量%を用いて、その他はメチルメタクリレート単位を用いることで解重合が抑制できることがある。しかしながら従来の既存のアクリル樹脂では、やはり解重合が生じてしまうために、光学素子として用いる場合に好ましくない。本発明においては、アクリル樹脂にセルロースエステル樹脂を相溶させることで、セルロースエステル樹脂の存在により上記分解が抑制できる好ましい現象が認められている。
一方、光学素子を加工するときに、空気を構成する酸素の存在により、解重合を抑制することが認められた。したがって光学素子を構成する樹脂はラジカル的に解重合が進行していることがわかる。
(連鎖移動剤)
本発明の光学素子は、これらの解重合性を抑制して安定にするために、連鎖移動剤を含有することにより、光学素子の安定化を行っている。前記連鎖移動剤は、重合体の分子量の調整することを目的として用いることができるが、本発明においては、光学素子の安定化のために効果が発揮できる。前記連鎖移動剤については、併用する重合性モノマーの種類に応じて、適宜、種類および添加量を選択することができる。中でも、作製される光学部材の加工性ひいては光学性能の観点で、モノマーに対する連鎖移動定数が0.1〜10のものを用いるのが好ましく、連鎖移動定数が0.2〜8のものを用いるのがより好ましく、0.3〜4のものを用いるのがさらに好ましい。本発明の重合性組成物は、複数の重合性モノマーを含有するが、連鎖移動剤は、それぞれの重合性モノマーに対する連鎖移動定数が前記範囲であるのが好ましい。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)を参照することができる。また、該連鎖移動定数は大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊を参考にして、実験によっても求めることができる。本発明では、前記連鎖移動剤をアクリル樹脂(A)の解重合を抑制するためのラジカル補足剤として用いるものである。
例えば、本発明の光学素子を構成するアクリル樹脂(A)は、重合性モノマーとしてメチルメタクリレートを主に用いる。連鎖移動剤としては、一般にアルキルメルカプタン類(n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン等)、チオフェノール類(チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオール等)などが挙げられるが、本発明においては、光学素子を成形または樹脂溶液をキャストして乾燥するために加熱するときに、連鎖移動剤が揮発しないことが、製造時の臭気を発生させないことに寄与できる。
これらの観点から、本発明に係る連鎖移動剤の沸点は165℃以上であり、好ましくは180℃、さらに好ましくは250℃以上である。これは光学素子に加工するときに、連鎖移動剤が揮発しない、あるいは揮発量が低下するために、連鎖移動剤固有の臭気、特にアルキルメルカプタン臭の発生が抑制できる。同時に連鎖移動剤が揮発しない、あるいは揮発しにくいために光学素子中に存在する連鎖移動剤が、アクリル樹脂(A)の解重合を効率的に抑制することができる。例えばn−ブチルメルカプタン(沸点:98℃)は、成形加工時に臭気をともなう欠点を持つ。成形加工や溶液流延時に加熱乾燥するとき、連鎖移動剤の沸点が低いと、樹脂から揮発するために樹脂中の連鎖移動剤の存在量が低下し、本発明の効果が得られなくなる。連鎖移動剤の沸点の上限は320℃以下であることが好ましい。
本発明で用いる連鎖移動剤としては、n−オクチルメルカプタン(沸点:198℃)、n−ドデシルメルカプタン(266℃)、α−メチルスチレンダイマー(沸点:316℃)を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。前記連鎖移動剤は、2種類以上を併用してもよい。
前記連鎖移動剤は、アクリル樹脂(A)に対して0.10〜0.50質量%含有することが好ましく、0.15〜0.30質量%で含有することがより好ましい。前記連鎖移動剤の量が本発明の範囲よりも少ないと本発明効果が得られず、また前記連鎖移動剤の量が本発明の範囲よりも多いと、光学素子の透明性の低下やヘーズの上昇を引き起こし、あるいは可塑化することがあり、本発明の光学素子として用いることができなくなる。
本発明の光学素子である光学フィルムを、熱質量測定装置(セイコー電子工業社製TG/DTA200)を用いて質量減少の測定を行ったところ、連鎖移動剤を含まないアクリル樹脂(A)を窒素雰囲気下では昇温速度20℃/分で25℃から加熱を行ったところ、160℃付近で著しい質量減少が認められ、同温度で揮発する成分をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、MMAモノマーが揮発していることがわかった。
一方、本発明の構成を満たす連鎖移動剤を含む光学素子では、160℃付近の質量減少がほとんど認められなかった。また、酸素雰囲気下で同様に加熱すると、同質量減少がより少なく、成形するための熱分解、および使用時の熱分解が抑制されることが示唆できる。
本発明の光学素子は、アクリル樹脂(A)およびセルロースエステル樹脂(B)を汎用のハロゲンを含む有機溶媒を用いて、加工することができる。この場合、ハロゲンを含む有機溶媒として、ジクロロメタンが好ましく用いることができる。塩素や臭素が炭化水素に共有結合で構成されている有機溶媒は、樹脂を合成する場合には連鎖移動反応が生じやすくしばしば重合反応の阻害となることがあった。
本発明においては、光学素子としての構造体に加工するとき、ハロゲン系の溶媒として特にジクロロメタンを用いることが、アクリル樹脂の解重合によって発生するラジカルを、連鎖移動性の高いジクロロメタンで解重合のラジカルを補足かつ転移させる観点で好ましく考えている。通常、熱分解性を引き起こしやすい溶融成形と比較して、有機溶媒を用いることは、低い温度で加工できる点で樹脂の熱分解がおさえられ、またアクリル樹脂と相溶させるセルロースエステル樹脂の存在と、溶媒であるジクロロメタンの存在が、本発明の光学素子の構成及び加工する観点で好ましい。
本発明の光学素子が光学フィルムに用いられる場合、アクリル樹脂(A)は、特に光学フィルムとしての脆性の改善及びセルロースエステル樹脂(B)と相溶した際の透明性の改善の観点で、重量平均分子量(Mw)が80000以上であることが好ましい。アクリル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)が80000を下回ると、十分な脆性の改善が得られず、セルロースエステル樹脂(B)との相溶性が劣化する。アクリル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、80000〜1000000の範囲内であることが更に好ましく、100000〜600000の範囲内であることが特に好ましく、150000〜400000の範囲であることが最も好ましい。アクリル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)の上限値は特に限定されるものではないが、製造上の観点から1000000以下とされることが好ましい形態である。
本発明のアクリル樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。測定条件は以下の通りである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=2,800,000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
本発明におけるアクリル樹脂(A)の製造方法としては、特に制限は無く、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、あるいは溶液重合等の公知の方法のいずれを用いても良い。ここで、重合開始剤としては、通常のパーオキサイド系およびアゾ系のものを用いることができ、また、レドックス系とすることもできる。重合温度については、懸濁または乳化重合では30〜100℃、塊状または溶液重合では80〜160℃で実施しうる。得られた共重合体の還元粘度を制御するために、アルキルメルカプタン等を連鎖移動剤として用いて重合を実施することもできる。
本発明に係るアクリル樹脂としては、市販のものも使用することができる。例えば、デルペット60N、80N(旭化成ケミカルズ(株)製)、ダイヤナールBR73、BR80、BR83、BR85、BR88(三菱レイヨン(株)製)、KT75(電気化学工業(株)製)等が挙げられる。アクリル樹脂は2種以上を併用することもできる。
〈セルロースエステル樹脂(B)〉
本発明のセルロースエステル樹脂(B)は、特に脆性の改善やアクリル樹脂(A)と相溶させたときに透明性の観点から、アシル基の総置換度(T)が2.00〜2.99であり、アセチル基置換度(ac)が0.10〜1.89であって、アセチル基以外の部分が、3〜7の炭素数で構成されるアシル基で置換されており、その置換度(r)が1.10〜2.89であることが好ましい。即ち、本発明のセルロースエステル樹脂は炭素数が3〜7のアシル基により置換されたセルロースエステル樹脂であり、具体的には、プロピオニル、ブチリル等が好ましく用いられるが、特にプロピオニル基が好ましく用いられる。
セルロースエステル樹脂(B)の、アシル基の総置換度が2.0を下回る場合、即ち、セルロースエステル分子の2,3,6位の水酸基の残度が1.0を上回る場合には、アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)が十分に相溶せず光学フィルムとして用いる場合にヘーズが問題となる。また、アシル基の総置換度が2.0以上であっても、炭素数が3〜7のアシル基の置換度が1.10を下回る場合は、やはり十分な相溶性が得られないか、脆性が低下することとなる。例えば、アシル基の総置換度が2.0以上の場合であっても、炭素数2のアシル基、即ちアセチル基の置換度が高く、炭素数3〜7のアシル基の置換度が1.2を下回る場合は、相溶性が低下しヘーズが上昇する。また、アシル基の総置換度が2.0以上の場合であっても、炭素数8以上のアシル基の置換度が高く、炭素数3〜7のアシル基の置換度が1.10を下回る場合は、脆性が劣化し、所望の特性が得られない。
本発明のセルロースエステル樹脂(B)のアシル置換度は、総置換度(T)が2.0〜2.99であり、炭素数が3〜7のアシル基の置換度が1.10〜2.89であれば問題ないが、炭素数が3〜7以外のアシル基、即ち、アセチル基や炭素数が8以上のアシル基の置換度の総計が1.3以下とされることが好ましい。
また、セルロースエステル樹脂(B)のアシル基の総置換度(T)は、2.5〜2.99の範囲であることが更に好ましい。
本発明において前記アシル基は、脂肪族アシル基であっても、芳香族アシル基であってもよい。脂肪族アシル基の場合は、直鎖であっても分岐していても良く、さらに置換基を有してもよい。本発明におけるアシル基の炭素数は、アシル基の置換基を包含するものである。
上記セルロースエステル樹脂(B)が、芳香族アシル基を置換基として有する場合、芳香族環に置換する置換基Xの数は0〜5個であることが好ましい。この場合も、置換基を含めた炭素数が3〜7であるアシル基の置換度が1.10〜2.89となるように留意が必要である。例えば、ベンゾイル基は炭素数が7になる為、炭素を含む置換基を有する場合は、ベンゾイル基としての炭素数は8以上となり、炭素数が3〜7のアシル基には含まれないこととなる。
更に、芳香族環に置換する置換基の数が2個以上の時、互いに同じでも異なっていてもよいが、また、互いに連結して縮合多環化合物(例えばナフタレン、インデン、インダン、フェナントレン、キノリン、イソキノリン、クロメン、クロマン、フタラジン、アクリジン、インドール、インドリンなど)を形成してもよい。
本発明に係るセルロースエステル樹脂(B)としては、特にセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、即ち、炭素原子数3または4のアシル基を置換基として有するものが好ましい。
アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在しているものである。これらは公知の方法で合成することが出来る。
なお、アセチル基の置換度や他のアシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により求めたものである。
本発明に係るセルロースエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、光学フィルムに用いる場合、特にアクリル樹脂(A)との相溶性、脆性の改善の観点から75000以上であり、75000〜300000の範囲であることが好ましく、100000〜240000の範囲内であることが更に好ましく、160000〜240000のものが特に好ましい。セルロースエステル樹脂の重要平均分子量(Mw)が75000を下回る場合は、耐熱性や脆性の改善効果が十分ではなく、本発明の効果が得られない。本発明では2種以上のセルロース樹脂を混合して用いることもできる。
本発明の光学フィルムにおいて、アクリル樹脂(A)50〜90質量部に対して、セルロースエステル樹脂(B)を10〜50質量部含有した樹脂組成物で、かつ相溶状態で含有されるが、好ましくはアクリル樹脂(A)60〜80質量部に対して、セルロースエステル樹脂(B)を20〜40質量部である。
アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)の質量部比が、90:10よりもアクリル樹脂(A)が多くなると、セルロースエステル樹脂(B)による効果が十分に得られず、同質量部比が50:50よりもアクリル樹脂が少なくなると、耐湿性が不十分となる。
本発明の光学フィルムにおいては、アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)が相溶状態で含有される必要がある。光学フィルムとして必要とされる物性や品質を、異なる樹脂を相溶させることで相互に補うことにより達成している。
アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)が相溶状態となっているかどうかは、例えばガラス転移温度Tgにより判断することが可能である。
例えば、両者の樹脂のガラス転移温度が異なる場合、両者の樹脂を混合したときは、各々の樹脂のガラス転移温度が存在するため混合物のガラス転移温度は2つ以上存在するが、両者の樹脂が相溶したときは、各々の樹脂固有のガラス転移温度が消失し、1つのガラス転移温度となって相溶した樹脂のガラス転移温度となる。
尚、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)とする。
アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)は、それぞれ非結晶性樹脂であることが好ましく、いずれか一方が結晶性高分子、あるいは部分的に結晶性を有する高分子であってもよいが、本発明においてアクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)が相溶することで、非結晶性樹脂となることが好ましい。
本発明の光学フィルムにおけるアクリル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)やセルロースエステル樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)や置換度は、両者の樹脂の溶媒に対して溶解性の差を用いて、分別した後に、それぞれ測定することにより得られる。樹脂を分別する際には、いずれか一方にのみ溶解する溶媒中に相溶された樹脂を添加することで、溶解する樹脂を抽出して分別することができ、このとき加熱操作や還流を行ってもよい。これらの溶媒の組み合わせを2工程以上組み合わせて、樹脂を分別してもよい。溶解した樹脂と、不溶物として残った樹脂を濾別し、抽出物を含む溶液については、溶媒を蒸発させて乾燥させる操作によって樹脂を分別することができる。これらの分別した樹脂は、高分子の一般の構造解析によって特定することができる。本発明の光学フィルムが、アクリル樹脂(A)やセルロースエステル樹脂(B)以外の樹脂を含有する場合も同様の方法で分別することができる。
また、相溶された樹脂の重量平均分子量(Mw)がそれぞれ異なる場合は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、高分子量物は早期に溶離され、低分子量物であるほど長い時間を経て溶離されるために、容易に分別可能であるとともに分子量を測定することも可能である。
また、相溶した樹脂をGPCによって分子量測定を行うと同時に、時間毎に溶離された樹脂溶液を分取して溶媒を留去し乾燥した樹脂を、構造解析を定量的に行うことで、異なる分子量の分画毎の樹脂組成を検出することで、相溶されている樹脂をそれぞれ特定することができる。事前に溶媒への溶解性の差で分取した樹脂を、各々GPCによって分子量分布を測定することで、相溶されていた樹脂をそれぞれ検出することもできる。
また、本発明において、「アクリル樹脂(A)やセルロースエステル樹脂(B)を相溶状態で含有する」とは、各々の樹脂(ポリマー)を混合することで、結果として相溶された状態となることを意味しており、モノマー、ダイマー、あるいはオリゴマー等のアクリル樹脂の前駆体をセルロースエステル樹脂(B)に混合させた後に重合させることにより混合樹脂とされた状態は含まれないものとする。
例えば、モノマー、ダイマー、あるいはオリゴマー等のアクリル樹脂の前駆体をセルロースエステル樹脂(B)に混合させた後に重合されることにより混合樹脂を得る工程は、重合反応が複雑であり、この方法で作成した樹脂は、反応の制御が困難であり、分子量の調整も困難となる。また、このような方法で樹脂を合成した場合は、グラフト重合、架橋反応や環化反応が生じることが多く、溶媒に溶解しいケースや、加熱により溶融できなくなることが多く、混合樹脂中におけるアクリル樹脂を溶離して重量平均分子量(Mw)を測定することも困難である為、物性をコントロールすることが難しく光学フィルムを安定に製造する樹脂として用いることはできない。
本発明の光学フィルムは、光学フィルムとしての機能を損なわない限りは、アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)以外の樹脂や添加剤を含有して構成されていても良い。
アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)以外の樹脂を含有する場合、添加される樹脂が相溶状態であっても、溶解せずに混合されていてもよい。
本発明の光学フィルムにおけるアクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)の総質量は、光学フィルムの55質量%以上であることが好ましく、更に好ましくは60質量%以上であり、特に好ましくは、70質量%以上である。
アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)以外の樹脂や添加剤を用いる際には、本発明の光学フィルムの機能を損なわない範囲で添加量を調整することが好ましい。
〈アクリル粒子(C)〉
本発明の光学フィルムは、アクリル粒子を含有することが好ましい。
本発明に用いられるアクリル粒子(C)とは、前記アクリル樹脂(A)及びセルロースエステル樹脂(B)を相溶状態で含有する光学フィルム中に粒子の状態(非相溶状態ともいう)で存在するアクリル成分を表す。
上記アクリル粒子(C)は、例えば、作製した光学フィルムを所定量採取し、溶媒に溶解させて攪拌し、充分に溶解・分散させたところで、アクリル粒子(C)の平均粒子径未満の孔径を有するPTFE製のメンブレンフィルターを用いて濾過し、濾過捕集された不溶物の重さが、光学フィルムに添加したアクリル粒子(C)の90質量%以上あることが好ましい。
本発明に用いられるアクリル粒子(C)は特に限定されるものではないが、2層以上の層構造を有するアクリル粒子(C)であることが好ましく、特に下記多層構造アクリル系粒状複合体であることが好ましい。
多層構造アクリル系粒状複合体とは、中心部から外周部に向かって最内硬質層重合体、ゴム弾性を示す架橋軟質層重合体、および最外硬質層重合体が、層状に重ね合わされてなる構造を有する粒子状のアクリル系重合体を言う。
すなわち、多層構造アクリル系粒状複合体とは、中心部から外周部に向かって最内硬質層、架橋軟質層、および最外硬質層からなる多層構造アクリル系粒状複合体である。この3層コアシェル構造の多層構造アクリル系粒状複合体が好ましく用いられる。
本発明に係るアクリル樹脂組成物に用いられる多層構造アクリル系粒状複合体の好ましい態様としては、以下の様なものが挙げられる。(a)メチルメタクリレート80〜98.9質量%、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレート1〜20質量%、および多官能性グラフト剤0.01〜0.3質量%からなる単量体の混合物を重合して得られる最内硬質層重合体、(b)上記最内硬質層重合体の存在下に、アルキル基の炭素数が4〜8のアルキルアクリレート75〜98.5質量%、多官能性架橋剤0.01〜5質量%および多官能性グラフト剤0.5〜5質量%からなる単量体の混合物を重合して得られる架橋軟質層重合体、(c)上記最内硬質層および架橋軟質層からなる重合体の存在下に、メチルメタクリレート80〜99質量%とアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレート1〜20質量%とからなる単量体の混合物を重合して得られる最外硬層重合体、よりなる3層構造を有し、かつ得られた3層構造重合体が最内硬質層重合体(a)5〜40質量%、軟質層重合体(b)30〜60質量%、および最外硬質層重合体(c)20〜50質量%からなり、アセトンで分別したときに不溶部があり、その不溶部のメチルエチルケトン膨潤度が1.5〜4.0であるアクリル系粒状複合体が挙げられる。
なお、特公昭60−17406号あるいは特公平3−39095号において開示されている様に、多層構造アクリル系粒状複合体の各層の組成や粒子径を規定しただけでなく、多層構造アクリル系粒状複合体の引張り弾性率やアセトン不溶部のメチルエチルケトン膨潤度を特定範囲内に設定することにより、さらに充分な耐衝撃性と耐応力白化性のバランスを実現することが可能となる。
ここで、多層構造アクリル系粒状複合体を構成する最内硬質層重合体(a)は、メチルメタクリレート80〜98.9質量%、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレート1〜20質量%および多官能性グラフト剤0.01〜0.3質量%からなる単量体の混合物を重合して得られるものが好ましい。
ここで、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、メチルアクリレートやn−ブチルアクリレートが好ましく用いられる。
最内硬質層重合体(a)におけるアルキルアクリレート単位の割合は1〜20質量%であり、該単位が1質量%未満では、重合体の熱分解性が大きくなり、一方、該単位が20質量%を越えると、最内硬質層重合体(c)のガラス転移温度が低くなり、3層構造アクリル系粒状複合体の耐衝撃性付与効果が低下するので、いずれも好ましくない。
多官能性グラフト剤としては、異なる重合可能な官能基を有する多官能性単量体、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸のアリルエステル等が挙げられ、アリルメタクリレートが好ましく用いられる。多官能性グラフト剤は、最内硬質層重合体と軟質層重合体を化学的に結合するために用いられ、その最内硬質層重合時に用いる割合は0.01〜0.3質量%である。
アクリル系粒状複合体を構成する架橋軟質層重合体(b)は、上記最内硬質層重合体(a)の存在下に、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレート75〜98.5質量%、多官能性架橋剤0.01〜5質量%および多官能性グラフト剤0.5〜5質量%からなる単量体の混合物を重合して得られるものが好ましい。
ここで、アルキル基の炭素数が4〜8のアルキルアクリレートとしては、n−ブチルアクリレートや2−エチルヘキシルアクリレートが好ましく用いられる。
また、これらの重合性単量体と共に、25質量%以下の共重合可能な他の単官能性単量体を共重合させることも可能である。
共重合可能な他の単官能性単量体としては、スチレンおよび置換スチレン誘導体が挙げられる。アルキル基の炭素数が4〜8のアルキルアクリレートとスチレンとの比率は、前者が多いほど重合体(b)のガラス転移温度が低下し、即ち軟質化できるのである。
一方、樹脂組生物の透明性の観点からは、軟質層重合体(b)の常温での屈折率を最内硬質層重合体(a)、最外硬質層重合体(c)、および硬質熱可塑性アクリル樹脂に近づけるほうが有利であり、これらを勘案して両者の比率を選定する。
多官能性グラフト剤としては、前記の最内層硬質重合体(a)の項で挙げたものを用いることができる。ここで用いる多官能性グラフト剤は、軟質層重合体(b)と最外硬質層重合体(c)を化学的に結合するために用いられ、その最内硬質層重合時に用いる割合は耐衝撃性付与効果の観点から0.5〜5質量%が好ましい。
多官能性架橋剤としては、ジビニル化合物、ジアリル化合物、ジアクリル化合物、ジメタクリル化合物などの一般に知られている架橋剤が使用できるが、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量200〜600)が好ましく用いられる。
ここで用いる多官能性架橋剤は、軟質層(b)の重合時に架橋構造を生成し、耐衝撃性付与の効果を発現させるために用いられる。ただし、先の多官能性グラフト剤を軟質層の重合時に用いれば、ある程度は軟質層(b)の架橋構造を生成するので、多官能性架橋剤は必須成分ではないが、多官能性架橋剤を軟質層重合時に用いる割合は耐衝撃性付与効果の観点から0.01〜5質量%が好ましい。
多層構造アクリル系粒状複合体を構成する最外硬質層重合体(c)は、上記最内硬質層重合体(a)および軟質層重合体(b)の存在下に、メチルメタクリレート80〜99質量%およびアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレート1〜20質量%からなる単量体の混合物を重合して得られるものが好ましい。
ここで、アクリルアルキレートとしては、前述したものが用いられるが、メチルアクリレートやエチルアクリレートが好ましく用いられる。最外硬質層(c)におけるアルキルアクリレート単位の割合は、1〜20質量%が好ましい。
また、最外硬質層(c)の重合時に、アクリル樹脂(A)との相溶性向上を目的として、分子量を調節するためアルキルメルカプタン等を連鎖移動剤として用い、実施することも可能である。
とりわけ、最外硬質層に、分子量が内側から外側へ向かって次第に小さくなるような勾配を設けることは、伸びと耐衝撃性のバランスを改良するうえで好ましい。具体的な方法としては、最外硬質層を形成するための単量体の混合物を2つ以上に分割し、各回ごとに添加する連鎖移動剤量を順次増加するような手法によって、最外硬質層を形成する重合体の分子量を多層構造アクリル系粒状複合体の内側から外側へ向かって小さくすることが可能である。
この際に形成される分子量は、各回に用いられる単量体の混合物をそれ単独で同条件にて重合し、得られた重合体の分子量を測定することによって調べることもできる。
本発明に好ましく用いられるアクリル粒子(C)の粒子径については、特に限定されるものではないが、10nm以上、1000nm以下であることが好ましく、さらに、20nm以上、500nm以下であることがより好ましく、特に50nm以上、400nm以下であることが最も好ましい。
本発明に好ましく用いられる多層構造重合体であるアクリル系粒状複合体において、コアとシェルの質量比は、特に限定されるものではないが、多層構造重合体全体を100質量部としたときに、コア層が50質量部以上、90質量部以下であることが好ましく、さらに、60質量部以上、80質量部以下であることがより好ましい。なお、ここでいうコア層とは、最内硬質層のことである。
このような多層構造アクリル系粒状複合体の市販品の例としては、例えば、三菱レイヨン社製“メタブレン”、鐘淵化学工業社製“カネエース”、呉羽化学工業社製“パラロイド”、ロームアンドハース社製“アクリロイド”、ガンツ化成工業社製“スタフィロイド”およびクラレ社製“パラペットSA”などが挙げられ、これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。
また、本発明に好ましく用いられるアクリル粒子(C)として好適に使用されるグラフト共重合体であるアクリル粒子(c−1)の具体例としては、ゴム質重合体の存在下に、不飽和カルボン酸エステル系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、芳香族ビニル系単量体、および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体の混合物を共重合せしめたグラフト共重合体が挙げられる。
グラフト共重合体であるアクリル粒子(c−1)に用いられるゴム質重合体には特に制限はないが、ジエン系ゴム、アクリル系ゴムおよびエチレン系ゴムなどが使用できる。具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メチルメタクリレート共重合体、アクリル酸ブチル−メチルメタクリレート共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体、エチレン−イソプレン共重合体、およびエチレン−アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらのゴム質重合体は、1種または2種以上の混合物で使用することが可能である。
また、本発明の光学フィルムにアクリル粒子(C)を添加する場合は、アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)との混合物の屈折率とアクリル粒子(C)の屈折率が近いことが、透明性が高いフィルムを得る点では好ましい。具体的には、アクリル粒子(C)とアクリル樹脂(A)の屈折率差が0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.02以下、とりわけ0.01以下であることが好ましい。
このような屈折率条件を満たすためには、アクリル樹脂(A)の各単量体単位組成比を調整する方法、および/またはアクリル粒子(C)に使用されるゴム質重合体あるいは単量体の組成比を調製する方法などにより、屈折率差を小さくすることができ、透明性に優れた光学フィルムを得ることができる。
尚、ここで言う屈折率差とは、アクリル樹脂(A)が可溶な溶媒に、本発明の光学フィルムを適当な条件で十分に溶解させ白濁溶液とし、これを遠心分離等の操作により、溶媒可溶部分と不溶部分に分離し、この可溶部分(アクリル樹脂(A))と不溶部分(アクリル粒子(C))をそれぞれ精製した後、測定した屈折率(23℃、測定波長:550nm)の差を示す。
本発明においてアクリル樹脂(A)に、アクリル粒子(C)を配合する方法には、特に制限はなく、アクリル樹脂(A)とその他の任意成分を予めブレンドした後、通常200〜350℃において、アクリル粒子(C)を添加しながら一軸または二軸押出機により均一に溶融混練する方法が好ましく用いられる。
また、アクリル粒子(C)を予め分散した溶液を、アクリル樹脂(A)、及びセルロースエステル樹脂(B)を溶解した溶液(ドープ液)に添加して混合する方法や、アクリル粒子(C)及びその他の任意の添加剤を溶解、混合した溶液をインライン添加する等の方法を用いることができる。
本発明に係るアクリル粒子としては、市販のものも使用することができる。例えば、メタブレンW−341(C2)(三菱レイヨン(株)製)を、ケミスノーMR−2G(C3)、MS−300X(C4)(綜研化学(株)製)等を挙げることができる。
本発明の光学フィルムにおいて、該フィルムを構成する樹脂の総質量に対して、0.5〜30質量%のアクリル粒子(C)を含有することが好ましく、1.0〜15質量%の範囲で含有することが更に好ましい。
〈その他の添加剤〉
本発明の光学フィルムにおいては、組成物の流動性や柔軟性を向上するために、可塑剤を併用することも可能である。可塑剤としては、フタル酸エステル系、脂肪酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系、あるいはエポキシ系等が挙げられる。
この中で、ポリエステル系とフタル酸エステル系の可塑剤が好ましく用いられる。ポリエステル系可塑剤は、フタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル系の可塑剤に比べて非移行性や耐抽出性に優れるが、可塑化効果や相溶性にはやや劣る。
従って、用途に応じてこれらの可塑剤を選択、あるいは併用することによって、広範囲の用途に適用できる。
ポリエステル系可塑剤は、一価ないし四価のカルボン酸と一価ないし六価のアルコールとの反応物であるが、主に二価カルボン酸とグリコールとを反応させて得られたものが用いられる。代表的な二価カルボン酸としては、グルタル酸、イタコン酸、アジピン酸、フタル酸、アゼライン酸、セバシン酸などが挙げられる。
特に、アジピン酸、フタル酸などを用いると可塑化特性に優れたものが得られる。グリコールとしてはエチレン、プロピレン、1,3−ブチレン、1,4−ブチレン、1,6−ヘキサメチレン、ネオペンチレン、ジエチレン、トリエチレン、ジプロピレンなどのグリコールが挙げられる。これらの二価カルボン酸およびグリコールはそれぞれ単独で、あるいは混合して使用してもよい。
このエステル系の可塑剤はエステル、オリゴエステル、ポリエステルの型のいずれでもよく、分子量は100〜10000の範囲が良いが、好ましくは600〜3000の範囲が、可塑化効果が大きい。
また、可塑剤の粘度は分子構造や分子量と相関があるが、アジピン酸系可塑剤の場合相溶性、可塑化効率の関係から200〜5000MPa・s(25℃)の範囲が良い。さらに、いくつかのポリエステル系可塑剤を併用してもかまわない。
可塑剤は本発明の光学フィルム100質量部に対して、0.5〜30質量部を添加するのが好ましい。可塑剤の添加量が30質量部を越えると、表面がべとつくので、実用上好ましくない。
本発明の光学フィルムは、紫外線吸収剤を含有することも好ましく、用いられる紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、2−ヒドロキシベンゾフェノン系またはサリチル酸フェニルエステル系のもの等が挙げられる。例えば、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のトリアゾール類、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類を例示することができる。
ここで、紫外線吸収剤のうちでも、分子量が400以上の紫外線吸収剤は、高沸点で揮発しにくく、高温成形時にも飛散しにくいため、比較的少量の添加で効果的に耐候性を改良することができる。
分子量が400以上の紫外線吸収剤としては、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2−ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等のベンゾトリアゾール系、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート等のヒンダードアミン系、さらには2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、1−[2−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の分子内にヒンダードフェノールとヒンダードアミンの構造を共に有するハイブリッド系のものが挙げられ、これらは単独で、あるいは2種以上を併用して使用することができる。これらのうちでも、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2−ベンゾトリアゾールや2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が特に好ましい。
さらに、本発明の光学フィルムには、成形加工時の熱分解性や熱着色性を改良するために各種の酸化防止剤を添加することもできる。また帯電防止剤を加えて、光学フィルムに帯電防止性能を与えることも可能である。
本発明の光学フィルムには、リン系難燃剤を配合した難燃アクリル系樹脂組成物を用いても良い。
ここで用いられるリン系難燃剤としては、赤リン、トリアリールリン酸エステル、ジアリールリン酸エステル、モノアリールリン酸エステル、アリールホスホン酸化合物、アリールホスフィンオキシド化合物、縮合アリールリン酸エステル、ハロゲン化アルキルリン酸エステル、含ハロゲン縮合リン酸エステル、含ハロゲン縮合ホスホン酸エステル、含ハロゲン亜リン酸エステル等から選ばれる1種、あるいは2種以上の混合物を挙げることができる。
具体的な例としては、トリフェニルホスフェート、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド、フェニルホスホン酸、トリス(β−クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート等が挙げられる。
本発明の光学フィルムによれば、従来の樹脂フィルムでは成し得なかった低吸湿性、透明性、高耐熱性及び脆性の改善を同時に達成することができる。
本発明においては、脆性の指標としては、「延性破壊が起こらない光学フィルム」であるかどうかという基準により判断する。延性破壊が起こらない、脆性が改善された光学フィルムを得ることで、大型の液晶表示装置用の偏光板を作成する際にも、製造時の破断や割れが発生せず、取り扱い性に優れた光学フィルムとすることができる。ここで、延性破壊とは、ある材料が有する強度よりも、大きな応力が作用することで生じる破断のことであり、最終破断までに材料の著しい伸びや絞りを伴う破壊と定義される。その破面には、ディンプルと呼ばれる窪みが無数に形成される特徴がある。
本発明では、「延性破壊が起こらない光学フィルム」であるか否かは、フィルムを2つに折り曲げるような大きな応力を作用させても破断等の破壊がみられないことにより評価するものとする。このような大きな応力が加えられても延性破壊が起こらない光学フィルムであれば、大型化された液晶表示装置用の偏光板保護フィルムとして用いられた場合であっても製造時の破断等の問題を十分に低減することが可能となり、さらに、一度貼り合わされた後に再度引き剥がして光学フィルムを使用する場合においても、破断が発生せず、光学フィルムの薄型化へも十分に対応可能である。
本発明においては、耐熱性の指標として、張力軟化点を用いる。液晶表示装置が大型化され、バックライト光源の輝度が益々高くなっていることに加え、デジタルサイネージ等の屋外用途への利用により、より高い輝度が求められていることから、光学フィルムはより高温の環境下での使用に耐えられることが求められているが、張力軟化点が、105℃〜145℃であれば、十分な耐熱性を示すものと判断できる。特に110℃〜130℃に制御することがより好ましい。
光学フィルムの張力軟化点を示す温度の具体的な測定方法としては、例えば、テンシロン試験機(ORIENTEC社製、RTC−1225A)を用いて、光学フィルムを120mm(縦)×10mm(幅)で切り出し、10Nの張力で引っ張りながら30℃/minの昇温速度で昇温を続け、9Nになった時点での温度を3回測定し、その平均値により求めることができる。
また、耐熱性の観点では、光学フィルムは、ガラス転移温度(Tg)が110℃以上であることが好ましい。より好ましくは120℃以上である。特に好ましくは150℃以上である。
尚、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)である。
(光弾性定数)
光学素子に応力がかかっているときに発生する複屈折から以下のように光弾性定数をもとめた。試料は、1cm幅×10cm長、厚さ40μmのフィルムの長尺状のフィルムとして、測定方向はフィルムを作成するときの製膜搬送方向、すなわち長手方向に対して幅手方向が10cmになるように切り出した。23℃・相対湿度55%に24時間調湿したフィルムについて590nmの光に対するリタデーション測定を以下のように行った。KOBRA−31PRWを用いて、1N〜15Nの範囲で10点の応力で長手方向(10cm長)に沿って応力をかけて、その際発現するリタデーションの測定を行い、各点での張力とリタデーションをプロットして、その傾きとフィルムの厚さの値を用いて算出した。横軸に応力(荷重をフィルム断面積で割った値)のグラフを表記し、傾きから光弾性定数(1/Pa)を求めた。本測定では配向複屈折が発現しない範囲で適宜、応力の範囲を選択した。
本発明の光学素子は、光弾性定数が−3.0×10−12/Pa〜7.0×10−12/Pa(23℃55%RH)であることが好ましい。より好ましくは−1.0×10−12/Pa〜3.0×10−12/Paの範囲であり、ゼロに近いことが好ましく、ゼロであることが最良である。
光弾性定数が正または負に大きいと、光学素子に外部応力がかかったときに、設計値以外の複屈折をもつことになり、特に偏光板を介した複屈折系の光学素子においては光の透過率に変化を与える観点で好ましくない。
複屈折系の光学素子に代表される液晶表示装置に用いる光学部材は、温度の変化によって偏光子として代表的なポリビニルアルコール偏光子が、熱や湿度によって収縮や膨張が顕著であるために、環境の変化によって隣接する偏光板保護フィルムに応力がかかり、応力複屈折が発現する。この応力複屈折の発現性を示す値として光弾性定数が定義されており、この値がゼロに近いほど、応力がかかった場合、応力複屈折が発現しにくくなる。光弾性定数の低減は、環境変動に対して液晶表示装置の画面に明暗ムラを低減できることにつながっている。
(複屈折)
本発明においては、光弾性測定時の用意したフィルム状の試料を光学素子とした。成形加工したときの複屈折が小さく、下記面内複屈折(i)または厚さ方向の複屈折(ii)の少なくともいずれかが、絶対値として2.0×10−4(23℃55%RH、24時間調湿)以下であることが求められる好ましい特性である。ガラスは、等方性であるメリットを有しているが割れやすい欠点があり、樹脂に置き換えることで割れにくく軽量化にも寄与できる。面内複屈折(i)または厚さ方向の複屈折(ii)が少なくともいずれかが、絶対値としてより好ましくは1.0×10−4以下、さらに好ましくは5.0×10−5以下である。
(i) Δno=(nx−ny)
(ii) Δnth=((nx+ny)/2−nz)
(但し、nxは光学素子を平面としたときの面内の最大屈折率、nyは面内でnxと直交方向の屈折率、nzは光学素子の厚み方向の屈折率、各々の屈折率は波長が590nmの光に対する値である。)
本発明において、光学素子の面内複屈折と厚さ方向の複屈折において、湿度23℃20%RH(24時間環境室に放置した試料)の複屈折と23℃80%RH(24時間環境室に放置した試料)の複屈折の差の絶対値が複屈折の湿度変動として表され、光学素子の面内複屈折と厚さ方向の複屈折が共に1.5×10−4以下であることが好ましい。
上述の液晶表示装置は、画像の駆動と背面からのバックライトによって熱がかかり温度のムラを生じやすい。同時に偏光板保護フィルムに代表されるTACフィルムおよび偏光子は透湿性を有しており、熱のムラと熱ムラによる水分の出入りの差、および外部の湿度変動が加わり、液晶表示画面の中でも場所によって温湿度の状態が異なっている。
光学素子としては、複屈折の変動があると設計値以外の光の進み方に変化を伴うので、環境による複屈折の変動を小さくすることが求められている。本発明において、上記で定義される複屈折の湿度変動として、湿度23℃20%RHの複屈折と23℃80%RHの複屈折の差の絶対値が好ましくは1.0×10−4以下、より好ましくは5.0×10−5以下である。光学素子の面内複屈折と厚さ方向の複屈折において、絶対湿度を固定した考えでの温度変化を定義すると、複屈折の温度変動は、温度35℃27%RHの複屈折と23℃55%RHの複屈折の差の絶対値が共に1.0×10−4以下である。複屈折の温度変動は好ましくは7.0×10−5、より好ましくは4.0×10−5以下であることが好ましい。この範囲外よりも大きいと、光学的に等方性でなくなり、設計以外の光の透過を伴い、特に液晶表示値において、2枚の偏光子に挟まれた偏光板保護フィルムとして本発明の光学素子体を用いるときは、液晶画面に明暗あるいは色表示のずれを生じることとなる。
本発明で複屈折がゼロに近いことは光学的に等方性に近いことを意味しており、前記熱または、熱及び湿度の変動による複屈折変動が小さいことは、環境変動を伴っても、複屈折変動が小さく光学的に等方性に近いことを意味しており、その他の光学素子においても同様に等方性に近い、あるいは等方性であることが本願の目的である。
本発明における光学フィルムの透明性を判断する指標としては、ヘーズ値(濁度)を用いる。特に屋外で用いられる液晶表示装置においては、明るい場所でも十分な輝度や高いコントラストが得られることが求められる為、ヘーズ値は1.0%以下であることが必要とされ、0.5%以下であることが更に好ましい。
アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)を含有する本発明の光学フィルムによれば、高い透明性を得ることができるが、別の物性を改善する目的でアクリル粒子を使用する場合は、樹脂(アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B))とアクリル粒子(C)との屈折率差を小さくすることで、ヘーズ値の上昇を防ぐことができる。
また、表面の粗さも表面ヘーズとしてヘーズ値に影響するため、アクリル粒子(C)の粒子径や添加量を前記範囲内に抑えること、製膜時のフィルム接触部の表面粗さを小さくすることも、有効である。
また、本発明における光学フィルムの吸湿性については、湿度変化に対する寸法変化により評価するものとする。
湿度変化に対する寸法変化の評価方法としては、以下の方法が用いられる。
作製した光学フィルムの流延方向に、目印(十字)を2箇所つけて60℃、90%RHで1000時間処理し、処理前と処理後の目印(十字)の距離を光学顕微鏡で測定し、寸法変化率(%)を求める。寸法変化率(%)は下記式で表される。
寸法変化率(%)=〔(a1−a2)/a1〕×100
a1:熱処理前の距離
a2:熱処理後の距離
液晶表示装置の偏光板用保護フィルムとして光学フィルムが用いられる場合は、吸湿による寸法変化により光学フィルムにムラや位相差値の変化が発生してしまい、コントラストの低下や色むらといった問題を発生させる。特に屋外で使用される液晶表示装置に用いられる偏光板保護フィルムであれば、上記の問題は顕著となる。しかし、上記の条件における寸法変化率(%)が0.5%未満であれば、十分な低吸湿性を示す光学フィルムであると評価できる。更に、0.3%未満であることが好ましい。
また、本発明に係る光学フィルムは、フィルム面内の直径5μm以上の欠点が1個/10cm四方以下であることが好ましい。更に好ましくは0.5個/10cm四方以下、一層好ましくは0.1個/10cm四方以下である。
ここで欠点の直径とは、欠点が円形の場合はその直径を示し、円形でない場合は欠点の範囲を下記方法により顕微鏡で観察して決定し、その最大径(外接円の直径)とする。
欠点の範囲は、欠点が気泡や異物の場合は、欠点を微分干渉顕微鏡の透過光で観察したときの影の大きさである。欠点が、ロール傷の転写や擦り傷など、表面形状の変化の場合は、欠点を微分干渉顕微鏡の反射光で観察して大きさを確認する。
なお、反射光で観察する場合に、欠点の大きさが不明瞭であれば、表面にアルミや白金を蒸着して観察する。
かかる欠点頻度にて表される品位に優れたフィルムを生産性よく得るには、ポリマー溶液を流延直前に高精度濾過することや、流延機周辺のクリーン度を高くすること、また、流延後の乾燥条件を段階的に設定し、効率よくかつ発泡を抑えて乾燥させることが有効である。
欠点の個数が1個/10cm四方より多いと、例えば後工程での加工時などでフィルムに張力がかかると、欠点を基点としてフィルムが破断して生産性が低下する場合がある。また、欠点の直径が5μm以上になると、偏光板観察などにより目視で確認でき、光学部材として用いたとき輝点が生じる場合がある。
また、目視で確認できない場合でも、該フィルム上にハードコート層などを形成したときに、塗剤が均一に形成できず欠点(塗布抜け)となる場合がある。ここで、欠点とは、溶液製膜の乾燥工程において溶媒の急激な蒸発に起因して発生するフィルム中の空洞(発泡欠点)や、製膜原液中の異物や製膜中に混入する異物に起因するフィルム中の異物(異物欠点)を言う。
また、本発明の光学フィルムは、JIS−K7127−1999に準拠した測定において、少なくとも一方向の破断伸度が、10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。
破断伸度の上限は特に限定されるものではないが、現実的には250%程度である。破断伸度を大きくするには異物や発泡に起因するフィルム中の欠点を抑制することが有効である。
本発明の光学フィルムは、その全光線透過率が90%以上であることが好ましく、より好ましくは93%以上である。また、現実的な上限としては、99%程度である。かかる全光線透過率にて表される優れた透明性を達成するには、可視光を吸収する添加剤や共重合成分を導入しないようにすることや、ポリマー中の異物を高精度濾過により除去し、フィルム内部の光の拡散や吸収を低減させることが有効である。
また、製膜時のフィルム接触部(冷却ロール、カレンダーロール、ドラム、ベルト、溶液製膜における塗布基材、搬送ロールなど)の表面粗さを小さくしてフィルム表面の表面粗さを小さくすることや、アクリル樹脂の屈折率を小さくすることによりフィルム表面の光の拡散や反射を低減させることが有効である。
本発明の光学フィルムは、上記のような物性を満たしていれば、大型の液晶表示装置や屋外用途の液晶表示装置用の偏光板保護フィルムとして特に好ましく用いることができる。
〈光学フィルムの製膜〉
光学フィルムの製膜方法の例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明の光学フィルムの製膜方法としては、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルジョン法、ホットプレス法等の製造法が使用できるが、着色抑制、異物欠点の抑制、ダイラインなどの光学欠点の抑制などの観点から流延法による溶液製膜が好ましい。
(有機溶媒)
本発明の光学フィルムを溶液流延法で製造する場合のドープを形成するのに有用な有機溶媒は、アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)、その他の添加剤を同時に溶解するものであれば制限なく用いることが出来る。
例えば、塩素系有機溶媒としては、塩化メチレン、非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることができ、塩化メチレン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンを好ましく使用し得る。
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有させることが好ましい。ドープ中のアルコールの比率が高くなるとウェブがゲル化し、金属支持体からの剥離が容易になり、また、アルコールの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒系でのアクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)の溶解を促進する役割もある。
特に、メチレンクロライド、及び炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有する溶媒に、アクリル樹脂(A)と、セルロースエステル樹脂(B)と、アクリル粒子(C)の3種を、少なくとも計15〜45質量%溶解させたドープ組成物であることが好ましい。
炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることが出来る。これらの内ドープの安定性、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等からエタノールが好ましい。
以下、本発明の光学フィルムの好ましい製膜方法について説明する。
1)溶解工程
アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)に対する良溶媒を主とする有機溶媒に、溶解釜中で該アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)、場合によってアクリル粒子(C)、その他の添加剤を攪拌しながら溶解しドープを形成する工程、或いは該アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)溶液に、場合によってアクリル粒子(C)溶液、その他の添加剤溶液を混合して主溶解液であるドープを形成する工程である。
アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)の溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報、または特開平9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載の如き高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることが出来るが、特に主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法が好ましい。
ドープ中のアクリル樹脂(A)と、セルロースエステル樹脂(B)は、計15〜45質量%の範囲であることが好ましい。溶解中または後のドープに添加剤を加えて溶解及び分散した後、濾材で濾過し、脱泡して送液ポンプで次工程に送る。
濾過は捕集粒子径0.5〜5μmで、かつ濾水時間10〜25sec/100mlの濾材を用いることが好ましい。
この方法では、粒子分散時に残存する凝集物や主ドープ添加時発生する凝集物を、捕集粒子径0.5〜5μmで、かつ濾水時間10〜25sec/100mlの濾材を用いることで凝集物だけ除去出来る。主ドープでは粒子の濃度も添加液に比べ十分に薄いため、濾過時に凝集物同士がくっついて急激な濾圧上昇することもない。
図1は、本発明に好ましい溶液流延製膜方法のドープ調製工程、流延工程及び乾燥工程の一例を模式的に示した図である。
必要な場合は、アクリル粒子仕込釜41より濾過器44で大きな凝集物を除去し、ストック釜42へ送液する。その後、ストック釜42より主ドープ溶解釜1へアクリル粒子添加液を添加する。
その後主ドープ液は主濾過器3にて濾過され、これに紫外線吸収剤添加液が16よりインライン添加される。
多くの場合、主ドープには返材が10〜50質量%程度含まれることがある。返材にはアクリル粒子が含まれることがある、その場合には返材の添加量に合わせてアクリル粒子添加液の添加量をコントロールすることが好ましい。
アクリル粒子を含有する添加液には、アクリル粒子を0.5〜10質量%含有していることが好ましく、1〜10質量%含有していることが更に好ましく、1〜5質量%含有していることが最も好ましい。
上記範囲内であれば、添加液は低粘度で取り扱い易く、主ドープへの添加が容易であるため好ましい。
返材とは、光学フィルムを細かく粉砕した物で、光学フィルムを製膜するときに発生する、フィルムの両サイド部分を切り落とした物や、擦り傷などでスペックアウトした光学フィルム原反が使用される。
また、予めアクリル樹脂、セルロースエステル樹脂、場合によってアクリル粒子を混練してペレット化したものも、好ましく用いることができる。
2)流延工程
ドープを、送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通して加圧ダイ30に送液し、無限に移送する無端の金属ベルト31、例えばステンレスベルト、或いは回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、加圧ダイスリットからドープを流延する工程である。
ダイの口金部分のスリット形状を調整出来、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。
加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、何れも好ましく用いられる。金属支持体の表面は鏡面となっている。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。或いは複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のフィルムを得ることも好ましい。
3)溶媒蒸発工程
ウェブ(流延用支持体上にドープを流延し、形成されたドープ膜をウェブと呼ぶ)を流延用支持体上で加熱し、溶媒を蒸発させる工程である。
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/又は支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱方法が乾燥効率が良く好ましい。又、それらを組み合わせる方法も好ましく用いられる。流延後の支持体上のウェブを40〜100℃の雰囲気下、支持体上で乾燥させることが好ましい。40〜100℃の雰囲気下に維持するには、この温度の温風をウェブ上面に当てるか赤外線等の手段により加熱することが好ましい。
面品質、透湿性、剥離性の観点から、30〜120秒以内で該ウェブを支持体から剥離することが好ましい。
4)剥離工程
金属支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。
金属支持体上の剥離位置における温度は好ましくは10〜40℃であり、更に好ましくは11〜30℃である。
尚、剥離する時点での金属支持体上でのウェブの剥離時残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、金属支持体の長さ等により50〜120質量%の範囲で剥離することが好ましいが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損ね、剥離張力によるツレや縦スジが発生し易いため、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。
ウェブの残留溶媒量は下記式で定義される。
残留溶媒量(%)=(ウェブの加熱処理前質量−ウェブの加熱処理後質量)/(ウェブの加熱処理後質量)×100
尚、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、115℃で1時間の加熱処理を行うことを表す。
金属支持体とフィルムを剥離する際の剥離張力は、通常、196〜245N/mであるが、剥離の際に皺が入り易い場合、190N/m以下の張力で剥離することが好ましく、更には、剥離できる最低張力〜166.6N/m、次いで、最低張力〜137.2N/mで剥離することが好ましいが、特に好ましくは最低張力〜100N/mで剥離することである。
本発明においては、該金属支持体上の剥離位置における温度を−50〜40℃とするのが好ましく、10〜40℃がより好ましく、15〜30℃とするのが最も好ましい。
5)乾燥及び延伸工程
剥離後、ウェブを乾燥装置内に複数配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置35、及び/またはクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター延伸装置34を用いて、ウェブを乾燥する。
乾燥手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウェーブを当てて加熱する手段もある。余り急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ね易い。高温による乾燥は残留溶媒が8質量%以下くらいから行うのがよい。全体を通し、乾燥は概ね40〜250℃で行われる。特に40〜160℃で乾燥させることが好ましい。
テンター延伸装置を用いる場合は、テンターの左右把持手段によってフィルムの把持長(把持開始から把持終了までの距離)を左右で独立に制御出来る装置を用いることが好ましい。また、テンター工程において、平面性を改善するため意図的に異なる温度を持つ区画を作ることも好ましい。
また、異なる温度区画の間にそれぞれの区画が干渉を起こさないように、ニュートラルゾーンを設けることも好ましい。
尚、延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施することも好ましい。また、二軸延伸を行う場合には同時二軸延伸を行ってもよいし、段階的に実施してもよい。
この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。即ち、例えば、次のような延伸ステップも可能である。
・流延方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
・幅手方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
また、同時2軸延伸には、一方向に延伸し、もう一方を、張力を緩和して収縮させる場合も含まれる。同時2軸延伸の好ましい延伸倍率は幅手方向、長手方向ともに×1.01倍〜×1.5倍の範囲でとることができる。
テンターを行う場合のウェブの残留溶媒量は、テンター開始時に20〜100質量%であるのが好ましく、かつウェブの残留溶媒量が10質量%以下になる迄テンターを掛けながら乾燥を行うことが好ましく、更に好ましくは5質量%以下である。
テンターを行う場合の乾燥温度は、30〜160℃が好ましく、50〜150℃が更に好ましく、70〜140℃が最も好ましい。
テンター工程において、雰囲気の幅手方向の温度分布が少ないことが、フィルムの均一性を高める観点から好ましく、テンター工程での幅手方向の温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。
6)巻き取り工程
ウェブ中の残留溶媒量が2質量%以下となってから光学フィルムとして巻き取り機37により巻き取る工程であり、残留溶媒量を0.4質量%以下にすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることが出来る。特に0.00〜0.10質量%で巻き取ることが好ましい。
巻き取り方法は、一般に使用されているものを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等があり、それらを使いわければよい。
本発明の光学フィルムは、長尺フィルムであることが好ましく、具体的には、100m〜5000m程度のものを示し、通常、ロール状で提供される形態のものである。また、フィルムの幅は1.3〜4mであることが好ましく、1.4〜2mであることがより好ましい。
本発明の光学フィルムの膜厚に特に制限はないが、後述する偏光板保護フィルムに使用する場合は20〜200μmであることが好ましく、25〜100μmであることがより好ましく、30〜80μmであることが特に好ましい。
〔偏光板〕
本発明の光学フィルムを偏光板用保護フィルムとして用いる場合、偏光板は一般的な方法で作製することが出来る。本発明の光学フィルムの裏面側に粘着層を設け、沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、貼り合わせることが好ましい。
もう一方の面には本発明の光学フィルムを用いても、別の偏光板保護フィルムを用いてもよい。例えば、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UY、KC4UY、KC12UR、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC8UCR−5、KC8UE、KC4UE、KC4FR−3、KC4FR−4、KC4HR−1、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、以上コニカミノルタオプト(株)製)等が好ましく用いられる。
偏光板の主たる構成要素である偏光子とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光膜は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。
偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。
上記粘着層に用いられる粘着剤としては、粘着層の少なくとも一部分において25℃での貯蔵弾性率が1.0×104Pa〜1.0×109Paの範囲である粘着剤が用いられていることが好ましく、粘着剤を塗布し、貼り合わせた後に種々の化学反応により高分子量体または架橋構造を形成する硬化型粘着剤が好適に用いられる。
具体例としては、例えば、ウレタン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、水性高分子−イソシアネート系粘着剤、熱硬化型アクリル粘着剤等の硬化型粘着剤、湿気硬化ウレタン粘着剤、ポリエーテルメタクリレート型、エステル系メタクリレート型、酸化型ポリエーテルメタクリレート等の嫌気性粘着剤、シアノアクリレート系の瞬間粘着剤、アクリレートとペルオキシド系の2液型瞬間粘着剤等が挙げられる。
上記粘着剤としては1液型であっても良いし、使用前に2液以上を混合して使用する型であっても良い。
また上記粘着剤は有機溶剤を媒体とする溶剤系であってもよいし、水を主成分とする媒体であるエマルジョン型、コロイド分散液型、水溶液型などの水系であってもよいし、無溶剤型であってもよい。上記粘着剤液の濃度は、粘着後の膜厚、塗布方法、塗布条件等により適宜決定されれば良く、通常は0.1〜50質量%である。
〔液晶表示装置〕
本発明の光学フィルムを貼合した偏光板を液晶表示装置に組み込むことによって、種々の視認性に優れた液晶表示装置を作製することが出来るが、特に大型の液晶表示装置やデジタルサイネージ等の屋外用途の液晶表示装置に好ましく用いられる。本発明に係る偏光板は、前記粘着層等を介して液晶セルに貼合する。
本発明に係る偏光板は反射型、透過型、半透過型LCDまたはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型(PVA型、MVA型)、IPS型(FFS方式も含む)等の各種駆動方式のLCDで好ましく用いられる。特に画面が30型以上、特に30型〜54型の大画面の表示装置では、画面周辺部での白抜け等もなく、その効果が長期間維持される。
また、色ムラ、ギラツキや波打ちムラが少なく、長時間の鑑賞でも目が疲れないという効果があった。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例で用いたアクリル樹脂(A)は以下のものである。
アクリル樹脂A1 Mw85000(メチルメタクリレート/メチルアクリレート比=98/2)
アクリル樹脂A2 Mw95000(メチルメタクリレート/メチルアクリレート比=97/3)
アクリル樹脂A3 Mw40000(メチルメタクリレート/メチルアクリレート比=95/5)
アクリル樹脂A4 Mw280000(メチルメタクリレート/メチルアクリレート比=99/1)
アクリル樹脂A5 Mw480000(メチルメタクリレート/メチルアクリレート比=98/2)
アクリル樹脂A6 Mw100000(メチルメタクリレート/メチルアクリレート比=97/3)
アクリル樹脂A7 Mw100000(メチルメタクリレート/メチルアクリレート比=97/3)
アクリル樹脂A6の合成
先ず、メチルメタクリレート/アクリルアミド共重合体系懸濁剤を、次の様にして調製した。
メチルメタクリレート 20質量部
アクリルアミド 80質量部
過硫酸カリウム 0.3質量部
イオン交換水 1500質量部
上記を反応器中に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら、単量体が完全に重合体に転化するまで、70℃に保ち反応を進行させた。得られた水溶液を懸濁剤とした。容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、上記懸濁剤0.05質量部をイオン交換水165質量部に溶解した溶液を供給し、系内を窒素ガスで置換しながら400rpmで撹拌した。
次に、下記仕込み組成の混合物質を、反応系を撹拌しながら添加した。
メチルアクリレート 4質量部
メチルメタクリレート 96質量部
n−ドデシルメルカプタン 0.5質量部
2,2′−アゾビスイソブチロニトリル 0.4質量部
添加後、70℃まで昇温し、内温が70℃に達した時点を重合開始時点として、180分間保ち、重合を進行させた。
その後、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体を得た。この共重合体の重合率は97%であり、重量平均分子量は10万であった。
アクリル樹脂A6と同じように、アクリル樹脂A1〜A5について懸濁重合法によって合成し、表1に示すようなアクリル樹脂を得た。
アクリル樹脂A7は、同A6のn−ドデシルメルカプタンを無しとして2,2′−アゾビスイソブチロニトリルを0.25質量部として、重量平均分子量が10万になるように重合反応時間を調整して合成した。
〔光学フィルムの作製〕
〈光学フィルム1の作製〉
(ドープ液組成1)
アクリル樹脂A4 70質量部
セルロースエステル(セルロースアセテートプロピオネート アシル基総置換度2.75、アセチル基置換度0.19、プロピオニル基置換度2.56、Mw=200000) 30質量部
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 40質量部
上記組成物を、加熱しながら十分に溶解し、ドープ液を作製した。
本発明の光学素子に必要な連載移動剤は、表1記載の定量値になるように、アクリル樹脂(A)に含まれる連鎖移動剤が光学素子に対して不足な場合は、ドープ液を作成時に同時に溶解して添加量を調整して光学素子を得た。
連鎖移動剤の含有量は、液体クロマトグラフィー法によって、光学素子中の連鎖移動剤の定量値を求めた。その結果を表1に示した。
(製膜)
上記作製したドープ液を、ベルト流延装置を用い、温度22℃、2m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が100%になるまで溶媒を蒸発させ、剥離張力162N/mでステンレスバンド支持体上から剥離した。
剥離したウェブを35℃で溶媒を蒸発させ、1.6m幅にスリットし、その後、テンターで幅手方向に1.3倍に延伸しながら、140℃で乾燥温度で乾燥させた。このときテンターで延伸を始めたときの残留溶剤量は10%であった。
テンターで延伸後、110℃で10秒間緩和を行った後、110℃5分間かつ搬送張力は、フィルムに対して30N/mかかるように搬送し、続いて、120℃5分間かつ搬送張力はフィルムに対して50N/mかかるようにして多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、1.5m幅にスリットし、フィルム両端に幅10mm高さ5μmのナーリング加工を施し、初期張力220N/m、終張力110N/mで内径15.24cmコアに巻き取り、アクリル樹脂(A)/セルロースエステル樹脂(B)を含有する光学フィルム1を得た。
ステンレスバンド支持体の回転速度とテンターの運転速度から算出される長手方向の延伸倍率は1.1倍であった。
表1に記載の光学フィルム1の残留溶剤量は0.1%であり、膜厚は40μm、巻長は4000mであった。
〈光学フィルム2〜31の作製〉
上記光学フィルム1の作製において、アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)の種類と組成比、連鎖移動剤の種類と量を、表1に記載のように代えた以外は同様にして、光学フィルム2〜31を作製した。
また、表1に記載のセルロースエステル樹脂のアシル基は、acはアセチル基、prはプロピオニル基、buはブチリル基を表す。
〔アクリル粒子の調製〕
〈アクリル粒子(C)の調製〉
内容積60リットルの還流冷却器付反応器に、イオン交換水38.2リットル、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム111.6gを投入し、250rpmの回転数で攪拌しながら、窒素雰囲気下75℃に昇温し、酸素の影響が事実上無い状態にした。APS0.36gを投入し、5分間攪拌後にMMA1657g、BA21.6g、およびALMA1.68gからなる単量体の混合物を一括添加し、発熱ピークの検出後さらに20分間保持して最内硬質層の重合を完結させた。
次に、APS3.48gを投入し、5分間攪拌後にBA8105g、PEGDA(200)31.9g、およびALMA264.0gからなる単量体の混合物を120分間かけて連続的に添加し、添加終了後さらに120分間保持して,軟質層の重合を完結させた。
次に、APS1.32gを投入し、5分間攪拌後にMMA2106g、BA201.6gからなる単量体の混合物を20分間かけて連続的に添加し、添加終了後さらに20分間保持して最外硬質層1の重合を完結した。
次いで、APS1.32gを投入し、5分後にMMA3148g、BA201.6g、およびn−OM10.1gからなる単量体の混合物を20分間かけて連続的に添加し、添加終了後にさらに20分間保持した。ついで95℃に昇温し60分間保持して、最外硬質層2の重合を完結させた。
このようにして得られた重合体ラテックスを、3質量%硫酸ナトリウム温水溶液中へ投入して、塩析・凝固させ、次いで、脱水・洗浄を繰り返したのち乾燥し、3層構造のアクリル粒子(C1)を得た。吸光度法により平均粒子径を求めたところ100nmであった。
上記の略号は各々下記材料である。
MMA;メチルメタクリレート
MA;メチルアクリレート
BA;n−ブチルアクリレート
ALMA;アリルメタクリレート
PEGDA;ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量200)
n−OM;n−オクチルメルカプタン
APS;過硫酸アンモニウム
表1に記載のアクリル粒子を含む試料は、表1記載の組成になるように上記組成物を、加熱しながら十分に溶解し、ドープ液を作製して、同様に光学フィルムを作製した。
表1中の比較1は、市販品であるKM−4UE(コニカミノルタオプト(株)製)、比較3は市販品であるKM−4UY(コニカミノルタオプト(株)製)を同様に評価した結果である。
表1中の比較2は、市販のトリアセチルセルロースフィルムであるZ−TACフィルム(富士フイルム(株)製)を同様に評価した結果である。
《評価》
<光弾性定数の測定>
試料フィルムを1cm幅×10cm長(測定方向は製膜搬送方向に対して幅手方向が10cmになるようにする)に切り出した。23℃・相対湿度55%に24時間調湿したフィルムについて590nmの光に対するリタデーション測定を以下のように行った。KOBRA−31PRWを用いて、1N〜15Nの範囲で10点の応力で長手方向(10cm長)に沿って応力をかけて、その際発現するリタデーションの測定を行い、各点での張力とリタデーションをプロットして、その傾きとフィルムの厚さの値を用いて算出した。横軸に応力(荷重をフィルム断面積で割った値)のグラフを表記し、傾きから光弾性定数(1/Pa)を求めた。本測定では配向複屈折が発現しない範囲で適宜、応力の範囲を選択した。
<複屈折値および複屈折の変動値の測定>
アッベ屈折率計(1T)と分光光源を用いてフィルム試料の平均屈折率を測定した。また、市販のマイクロメーターを用いて光学フィルムの厚さを測定した。
自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下24時間放置したフィルムにおいて、同環境下、波長が589nmにおいてフィルムのリタデーション測定を行った。上述の平均屈折率と膜厚を下記式に入力し、3次元屈折率を算出した。
面内複屈折Δnoおよび厚さ方向の複屈折Δthは下記式の関係から算出した。
(i) Δno=(nx−ny)
(ii) Δnth=((nx+ny)/2−nz)
但し、nxは光学素子を平面としたときの面内の最大屈折率、nyは面内でnxと直交方向の屈折率、nzは光学素子の厚み方向の屈折率、各々の屈折率は波長が590nmの光に対する値である。
また、23℃20%の環境下と23℃80%の環境下の面内複屈折および厚さ方向の複屈折においても測定のための環境下に24時間放置したフィルムのリタデーション測定を行い、面内複屈折の湿度変動値の絶対値、および厚さ方向複屈折の湿度変動値の絶対値の測定を行い、相対的な湿度の変動の影響についての結果を表2に記載した。
一方、23℃55%の環境下と35℃27%の環境下の面内複屈折および厚さ方向の複屈折においても測定のための環境下に24時間放置したフィルムのリタデーション測定を行い、絶対湿度を一定とした考えで温度を変化させて、面内複屈折の温度変動値の絶対値、および厚さ方向複屈折の温度変動値絶対値の測定結果を表2に記載した。
<延性破壊>
23℃、55%RHの空調室で24時間調湿したアクリル樹脂含有フィルムを、同条件下、100mm(縦)×10mm(幅)で切り出し、縦方向の中央部で、曲率半径0mm、折り曲げ角が180°でフィルムがぴったりと重なるように山折り、谷折りと2つにそれぞれ1回ずつ折りまげ、この評価を3回測定して、以下のように評価した。尚、ここでの評価の折れるとは、割れて2つ以上のピースに分離したことを表わす。
○・・・3回とも折れない
×・・・3回のうち少なくとも1回は折れる。
《評価結果》
<相溶状態の確認>
示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定したところ、本発明の試料はアクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)の各々のガラス転移温度の絶対温度からみた体積平均近傍の温度に吸熱ピークが1つ現れた。
アクリル樹脂(A)固有のガラス転移温度<セルロースエステル樹脂(B)固有のガラス転移温度の関係をもつ樹脂を本発明では選択した。これらの結果から熱量的に均一であることを確認した。相溶していない場合は、ブレンドしても、アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)各々由来のガラス転移温度が生じることとなり、2種のガラス転移温度が発現することになるが、本発明の試料では認められていないために相溶したと判断した。また、このような構成は、アクリル樹脂からみて、セルロース樹脂のブレンドによって耐熱性が向上することとなる。
<ヘーズの測定>
上記作製した各々のフィルム試料について、23℃、55%RHの空調室で24時間調湿した後、同条件下においてフィルム試料1枚をJIS K−7136に従って、ヘーズメーター(NDH2000型、日本電色工業(株)製)を使用して測定し、0.4%以下を○、0.4%よりも高い値を示す試料を×として表2に示した。本発明に係る光学フィルムは、すべて0.4%以下で透明であり、光学的な観点からも相溶していることを確認した。本発明の範囲外のセルロースであるトリアセチルセルロース(総置換度2.94)のセルロース樹脂を本発明の範囲のアクリル樹脂と相溶させようと同様の評価を行ったところ、アクリル樹脂ダイヤナールBR85(三菱レイヨン(株)製)が85質量部に対してトリアセチルセルロースが15質量部存在させて同様に作製したフィルムは、白濁しており40μm厚のフィルムでヘーズ値が3.5%であり、折り曲げたところ折れたために延性破壊性を示した。
従って、熱量的にも光学的にも相溶したフィルムは、ヘーズの点でも改良されることは明白である。
<臭気>
フィルムを140℃に加熱した乾燥ボックスに2時間試料を放置して、メルカプト臭の有無を確認した。5名の観察者の中から3名以上、メルカプト臭があるとした場合を×、それ以下の場合を○とした。本発明の光学フィルムは、メルカプト臭がなかった。
本発明に用いたアクリル樹脂(A)は、メチルメタクリレートの組成が高いことを常法によりプロトンNMRのスペクトルから確認した。本発明に用いたアクリル樹脂中のメチルメタクリレートは全体100質量部に対し80質量部以上の共重合体であった。本発明に用いたアクリル樹脂は、メチルメタクリレートの組成が高いことから、フィルムとしたときに延伸方向に対して負の複屈折を示し、配向複屈折が負である。また、メチルメタクリレートの組成が高いことから、光弾性定数は負である。
一方、本発明に用いたセルロースエステル樹脂(B)は、相溶性の観点から本発明の領域の置換基組成が選択され、この領域のセルロースエステル樹脂(B)は、配向複屈折が正、かつ光弾性複屈折は正である。
上記アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)を相溶した樹脂は、配向複屈折が相互に異符号の負と正の樹脂を相溶させることで、相溶した樹脂の複屈折はゼロに近づくこととなる。同時に光弾性定数が同様に相互に異符号の負と正の樹脂を相溶させることで、相溶した樹脂の光弾性はゼロに近づくこととなる。表1に示した本発明の樹脂構成は、表2に示すように複屈折および光弾性が著しくゼロに近いことは明白である。
透湿度はJIS Z 0208に記載の方法に従い測定することが出来る。表で用いたアクリル樹脂(A)単独の透湿度は、40μmのフィルムとしたときに、40℃、90%RHで40〜110g/m2・24hの範囲にあった。一方表で用いたセルロースエステル樹脂(B)は、40μmのフィルムとしたときに、700g〜1600gの範囲にあった。
本発明に用いたセルロースエステル樹脂(B)の比率が50質量部を越えると、光学素子としては透湿度が高く湿度や温度変化に伴う水分の出入りにより複屈折の変動が大きい。一方、本発明に用いたアクリル樹脂(A)の比率が90質量部を越えるとセルロースエステル樹脂(B)と比較して透湿度が低く、対応して湿度や温度変化に伴う水分の出入りによる複屈折の変動は小さいが、脆性に劣る。光学素子として用いる本発明の樹脂構成は、これらの観点からアクリル樹脂(A)が90質量部を越える系や、セルロースエステル樹脂(B)が50質量部を越える系に比較して、温度、湿度変化に伴う水分の出入りによる複屈折の変動に格段に優れていることになる。
アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)の相溶した系に、アクリル粒子(C)は、光学的な影響がほとんど無い範囲で衝撃性を向上し、延性破壊を起こさない観点においても良好であった。
本発明に用いたアクリル樹脂(A)を示差熱質量測定装置(セイコー電子工業社製TG/DTA200)で昇温速度20℃/分後160℃で30分間温度を固定したところ、窒素雰囲気下において15質量%減少した。表1の光学フィルム試料1記載の同条件の結果は5質量%の減少にとどまった。一方、表1の光学フィルム試料1を空気をフローしながら同様に測定したところ、質量の減少は1%未満であった。このことから、光学素子を加工するときは、空気中で加工するほうが質量減少が少なく、これはアクリル樹脂固有の熱分解性から、セルロース樹脂との相溶化と加工時に窒素雰囲気下よりも空気中で加工することが安定に加工できることを示している。表1記載の本発明の光学フィルム試料は、幅手方向に1.3倍、搬送方向に1.1倍延伸されているが、複屈折が低く優れている。また、延伸倍率を小さくすることでより小さな複屈折をもつ光学フィルムを得ることができる。