JPWO2004113599A1 - ポリエーテルエステル弾性繊維及びこれを用いた布帛、衣料 - Google Patents
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Abstract
Description
背景の技術
従来、衣料用や産業資材用の弾性繊維としては、ポリウレタン弾性繊維が主に用いられているが、耐熱性、耐薬品性、耐候(光)性が劣るという欠点がある。また、製造上、乾式紡糸プロセスが必要なため、溶剤回収が必要であり、低生産性、エネルギー多消費性であるという問題がある。更に、ポリウレタン弾性繊維はリサイクルが困難であり、燃焼時には有害ガスを発生するなどといった、今後の循環型社会の到来に向けて多くの課題を有している。
このような背景のもと、溶融紡糸が可能な、ポリアルキレンテレフタレートのような高結晶性のポリエステルをハードセグメントとし、ポリアルキレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステル弾性繊維が、高生産性であること、耐熱性、耐熱セット性に優れることなどの利点を活かし実用化されている。さらに、リサイクルが可能で、有害ガスの発生もないことから、循環型社会に適した弾性繊維として今後の発展が期待されている(例えば、特公昭47−14054号公報、特開昭48−10346号公報、特開昭57−77317号公報など)。
かかるポリエーテルエステル弾性繊維としては、弾性的性能がポリウレタン弾性繊維に匹敵できるものとして、ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレート、ソフトセグメントとしてポリオキシブチレングリコールを用いたポリエーテルエステル弾性繊維などが使用されている。しかしながら、これらのハードセグメント及びソフトセグメントはいずれも一般的には疎水性であり、吸湿性や吸水性などの親水性を有するポリエーテルエステル弾性繊維では実用化されているものはほとんど皆無である。
一方、国際公開第00/47802号パンフレットには、吸湿性能を付与した弾性繊維が提案されているが、吸水率500〜4,000重量%の吸水性樹脂を含有したポリウレタン弾性体の具体例が記載されているに過ぎない。
また、従来提案されているように繊維自身に吸湿性を持たせるだけでは、これを布帛あるいはさらに衣服として、その快適性を向上させるのには限界があり、さらに新しい機能を持つ弾性繊維が求められている。
本発明者らは、かかる背景の技術に鑑み検討を重ねた結果、本発明の目的は、次に示すポリエーテルエステル弾性繊維に達成できることを見出した。
1.ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとしポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなる弾性繊維であって、35℃95%RHでの吸湿率が5%以上、吸水伸長率が10%以上であることを特徴とするポリエーテルエステル弾性繊維。
2.ポリエーテルエステルエラストマーに、下記一般式(1)で表される有機スルホン酸金属塩が共重合されており、かつ弾性繊維の固有粘度が0.9以上である、1に記載のポリエーテルエステル弾性繊維。
(式中、R1は芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基、X1はエステル形成性官能基、X2はX1と同一もしくは異なるエステル形成性官能基あるいは水素原子、M1はアルカリ金属またはアルカリ土類金属、jは1または2を示す。)
3.弾性繊維の沸水収縮率が10%以上である、2に記載のポリエーテルエステル弾性繊維。
4.有機スルホン酸金属塩が、下記一般式(2)で表される化合物である、2に記載のポリエーテルエステル弾性繊維。
(式中、R2は芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基、M2はアルカリ金属またはアルカリ土類金塩を示す。)
5.有機スルホン酸金属塩の共重合量が、ポリエーテルエステルエラストマーを構成する酸成分を基準として0.1〜20モル%の範囲である、2に記載のポリエーテルエステル弾性繊維。
6.弾性繊維が示差走査型熱量計により得られるDSC曲線で2つの結晶融解ピークを有し、低温側の結晶融解ピーク高さHm1と高温側の結晶融解ピーク高さHm2との比Hm1/Hm2が0.6〜1.2の範囲であり、破断伸度が400%以上である、1に記載のポリエーテルエステル弾性繊維。
7.2つの結晶融解ピークの、低温側の結晶融解ピーク温度Tm1と高温側の結晶融解ピーク温度Tm2が、下記式を満足する、6に記載のポリエーテルエステル弾性繊維。
200℃≦Tm1<Tm2≦225℃
8.ハードセグメント:ソフトセグメントの比率が、重量を基準として30:70〜70:30の範囲である、1、2、6のいずれかに記載のポリエーテルエステル弾性繊維。
9.弾性繊維の表面に、該繊維重量を基準として0.5〜5.0重量%の油剤が付着しており、該油剤において、鉱物油、シリコーン、及び脂肪族エステルからなる群より選らばれる少なくとも1種の平滑剤が該油剤の70〜100重量%を、エーテル系又はエステル系のノニオン界面活性剤が該油剤の0〜30重量%を占めている、1、2、6のいずれかに記載のポリエーテルポリエステル弾性繊維。
10.油剤の30℃における粘度が、5×10−6〜4×10−5m2/sである、9に記載のポリエーテルポリエステル弾性繊維。
11.1、2、6のいずれかに記載のポリエーテルエステル弾性繊維を少なくとも一部に用いてなる布帛。
12.1、2、6のいずれかに記載のポリエーテルエステル弾性繊維を少なくとも一部に用いてなる衣料。
13.1、2、6のいずれかに記載のポリエーテルエステル弾性繊維を少なくとも一部に用いてなる下着、スポーツウェアー、裏地、ストッキング、靴下。
ハードセグメントであるポリブチレンテレフタレートは、ブチレンテレフタレート単位を少なくとも70モル%以上含有することが好ましい。ブチレンテレフタレートの含有率は、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
上記ポリブチレンテレフタレートには、本発明の目的の達成が実質的に損なわれない範囲内で他の成分が共重合されていてもよい。他の共重合成分としては、ジカルボン酸成分では、例えばナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のような芳香族、脂肪族、脂環族のジカルボン酸成分を挙げることができる。さらに、トリメリット酸、ピロメリット酸、のような三官能性以上のポリカルボン酸を共重合成分として用いても良い。また、ジオール成分では、例えばトリメチレングリコール、エチレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコールのような脂肪族、脂環族、芳香族のジオール成分を挙げることができる。さらに、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールのような三官能性以上のポリオールを共重合成分として用いてもよい。
一方、ソフトセグメントであるポリオキシエチレングリコールは、オキシエチレングリコール単位を少なくとも70モル%以上含有することが好ましい。オキシエチレングリコールの含有量は、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。上記ポリオキシエチレングリコールには、本発明の目的の達成が実質的に損なわれない範囲内で、例えば、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリンなどが共重合されていてもよい。
上記ポリオキシエチレングリコールの数平均分子量としては、400〜8000が好ましく、なかでも1000〜6000が特に好ましい。
本発明においては、ハードセグメント:ソフトセグメントの重量比率は、70:30〜30:70の範囲にあることが好ましく、より好ましくは60:40〜40:60の範囲である。ハードセグメントの重量比率が70%を超えると、弾性繊維の伸度が低くなり、高ストレッチ用途に使用することが難しくなり、吸湿性が低下する傾向にある。また、ハードセグメントの重量比率が30%未満であると、ポリブチレンテレフタレート結晶部の割合が低くなるため強度が低下する傾向にあり、添加したポリオキシエチレングリコールをすべて共重合させることが困難となり、精練・染色などの高次加工工程や、製品として使用される場合の洗濯堅牢性が劣ったものになりやすい。
本発明においては、弾性繊維の35℃95%RHでの吸湿率が5%以上、吸水伸長率が10%以上であることが肝要である。これにより、かかる弾性繊維からなる織編物は、汗などを吸水した際には繊維が伸長し織編物の目が開いて衣料内部の湿度を逃がし、乾燥した際には繊維は収縮してもとの長さに戻り、織編物の目が詰まって、衣料内部の温度を逃がさない、いわゆる自己調節機能を有する、快適性に優れた布帛となる。
吸湿率が5%未満では、ベタツキ感、ムレ感があり、吸水伸長率が10%未満では、吸放水による可逆的伸長収縮特性が不十分となり、織編物の目が十分に開いたり閉じたりせず、快適性に優れた布帛が得られない。一方、前述したポリエーテルエステルからなる本発明の弾性繊維においては、上記の、吸湿率あるいは吸水伸長率が大きくなり過ぎると、弾性性能、耐熱性、耐候(光)性、耐薬品性などが悪化する傾向がある。このため、吸湿率は5〜45%の範囲が好ましく、より好ましくは10〜40%の範囲である。また、吸水伸長率は10〜100%の範囲が好ましく、より好ましくは10〜80%の範囲であり、さらに好ましくは15〜60%の範囲である。
本発明においては、弾性繊維の表面に、該繊維重量を基準として0.5〜5.0重量%の油剤が付着しており、該油剤において、鉱物油、シリコーン、及び脂肪族エステルからなる群より選らばれる少なくとも1種の平滑剤が該油剤の70〜100重量%を占めていることが好ましい。
上記の鉱物油、シリコーン、脂肪族エステルといった平滑剤は弾性繊維を膨潤させることが少なく、これに起因する摩擦増大や力学的特性の低下がなく、製糸工程や後加工工程での工程安定性が良好となる。これらの平滑剤の含有量(複数種を用いる場合はこれらの合計の含有量)は、70〜100重量%とすることで、製糸時の走行安定性が向上し、糸の異常伸長やスカムの発生を抑制することができる。
上記の鉱物油としては、30℃における粘度が5×10−6〜4×10−5m2/sであるものが好ましく、かかる粘度範囲の鉱物油は、保存中に該鉱物油が揮散して弾性繊維上の油剤組成比率が変化することが少なく、高い平滑性を維持できる。また、シリコーンは、ポリジメチルシシロキサンであることが好ましく、30℃におけるその粘度は鉱物油の場合と同様の理由により5×10−6〜4×10−5m2/sであるものが好ましい。さらに、上記の脂肪族エステルとしては、脂肪酸モノアルキルエステル、脂肪族ジカルボン酸ジアルキルエステル、脂肪族多価アルコールのモノもしくは多脂肪酸エステル等の化合物であり、分子量250〜550の範囲のものが好ましい。かかる分子量の範囲とすることで、高い平滑性を維持することができる。好ましく用いられる脂肪族エステルとしては、例えば脂肪酸モノアルキルエステルとしては、オクチルオクタノエート、オクチルステアレート、イソトリデシルラウレート、イソトリデシルオレート、ラウリルオレートなどがあげられ、脂肪族ジカルボン酸ジアルキルエステルとしては、ジイソオクチルアジペートなどがあげられ、脂肪族多価アルコールのモノもしくは多脂肪酸エステルとしては、トリメチロールプロパントリオクタネートなどがあげられる。なかでも、脂肪酸モノアルキルエステルが好ましい。
一方、エーテル系又はエステル系のノニオン界面活性剤は、30℃における粘度が8×10−6〜5×10−5m2/sであるものが好ましい。好ましく用いられるエーテル系ノニオン界面活性剤としては、例えばポリアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールアリールエーテルなどがあげられ、エステル系ノニオン界面活性剤としては多価アルコール部分エステルのアルキレンオキサイド付加物等が例示され、なかでもポリアルキレングリコールアルキルエーテルが好ましい。この際アルキル基の炭素数は8〜20の範囲が、弾性繊維が膨潤しにくく、高い平滑性も同時に達成できる。ポリアルキレングリコール鎖のアルキレン基の炭素数は炭素数2〜3、特に2が好ましく、その連鎖数(アルコールへのエチレンオキサイドの付加モル数)は3〜20の範囲が適当である。この連鎖数の範囲とすることで、上記の鉱物油、シリコーン又は脂肪族エステルからなる平滑剤との相溶性が低下しない。
なお、前述した鉱物油、シリコーンなどが、その30℃における粘度が5×10−6〜2×10−5m2/sの場合は、上記のエーテル系又はエステル系のノニオン界面活性剤は必ずしも油剤に含まれていなくてもよいが、上記粘度が2×10− 5m2/sを越えるような場合は、該ノニオン界面活性剤が30重量%以下含まれていることが取扱い性の点で好ましい。
本発明で用いられる油剤は、上記の成分から構成されるものであるが、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲内で他の配合剤を少量添加してもよい。例えば他のノニオン界面活性剤、アニオン性又はカチオン性のイオン界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定性向上剤などの平滑助剤を少量添加してもよい。
なお、本発明で用いられる上述の油剤は、30℃での粘度が5×10−6〜4×10−5m2/sであるものが好ましい。かかる粘度の範囲とすることで弾性繊維の保存中に油剤成分が揮散にくく、高い平滑性を維持することができる。なお、油剤の30℃における粘度が2×10−5〜4×10−5m2/sと高い場合には、これをニート油剤として紡糸時に付与する際には例えば加温して2×10−5m2/s以下にするのが好ましい。但し、油剤をあまり高温に加温すると得られる繊維物性に影響を及ぼし安野で、高々60℃に留めることが好ましい。
次に、上記油剤の弾性繊維への付着量は、該繊維重量を基準として好ましくは0.5〜5.0重量%、より好ましくは1.0〜4.0重量%であり、これにより製糸時に糸切れやスカム発生などのトラブルが起こりにくく、工程安定性が向上する。
前述した高い吸湿率及び吸水伸長率は、上記ポリエーテルエステルエラストマーに、下記一般式(1)で表される有機スルホン酸金属塩を共重合し、かつ弾性繊維の固有粘度を0.9以上とすることで、より容易に達成することができる。
式中、R1は芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基であり、好ましくは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基または炭素数10以下の脂肪族炭化水素基である。特に好ましいR1は、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、とりわけベンゼン環である。M1はアルカリ金属またはアルカリ土類金属であり、jは1または2である。なかでもM1がアルカリ金属(例えばリチウム、ナトリウムまたはカリウム)であり、かつjが1であるものが好ましい。X1はエステル形成性官能基を示し、X2はX1と同一もしくは異なるエステル形成性官能基を示すかあるいは水素原子を示すが、エステル形成性官能基であるのが好ましい。エステル形成性官能基としてはポリエーテルエステルの主鎖または末端に反応して結合する基であればよく具体的には下記の基を挙げることができる。
(上記式中、R’は低級アルキル基またはフェニル基を示し、aおよびdは1〜10の整数を示し、bは2〜6の整数を示す。)
上記一般式(1)で表わされる有機スルホン酸金属塩の好ましい具体例としては、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸リチウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸ナトウリム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸カリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸リチウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシスフタレン−1−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−3−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ナトリウム、2,5−ビス(ヒドロエトキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、α−ナトリウムスルホコハク酸などをあげることができる。上記有機スルホン酸金属塩は1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
本発明においては、下記一般式(2)で表される有機スルホン酸金属塩を共重合させることが、ポリエーテルエステルエラストマーの固有粘度を容易に0.9以上とすることができる点、さらに得られる弾性繊維の吸湿率および吸水伸長率を格段に高くできる点で好ましい。我々の研究によれば、かかる有機スルホン酸金属塩を共重合させることにより、吸水伸長率20%以上といった極めて高い水準を達成でき、より快適性に優れた布帛が容易に得られることがわかった。
式中、R2は芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基であり、前述した一般式(1)におけるR1の定義と同じであり、M2はアルカリ金属またはアルカリ土類金属であり、前述した一般式(1)におけるM1の定義と同じある。かかる有機スルホン酸金属塩の好ましい具体例としては、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸リチウム等が例示される。
上記有機スルホン酸金属塩の共重合量は、あまり多すぎると弾性繊維の融点が低下して耐熱性、耐候(光)性、耐薬品性などが低下する傾向にあるため、ポリエーテルエステルエラストマーを構成する全酸成分を基準として0.1〜20モル%の範囲とするのが好ましい。逆に、上記共重合量が少なすぎても、吸湿率および吸水伸長率が低下する傾向にあり、0.5〜15モル%の範囲とするのがより好ましい。
本発明に用いるポリエーテルエステルエラストマーは、たとえば、テレフタル酸ジメチル、テトラメチレングリコールおよびポリオキシエチレングリコールとを含む原料を、エステル交換触媒の存在下でエステル交換反応させ、ビス(ω−ヒドロキシブチル)テレフタレート及び/またはオリゴマーを形成させ、その後、重縮合触媒及び安定剤の存在下で高温減圧下にて溶融重縮合を行うことにより得ることができる。
上記のエステル交換触媒としては、ナトリウムなどのアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属塩、チタン、亜鉛、マンガン等の金属化合物を使用するのが好ましい。
重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、コバルト化合物、錫化合物を使用するのが好ましい。触媒の使用量は、エステル交換反応、重縮合反応を進行させるために必要な量であるならば特に限定されるものではなく、また、複数の触媒を併用することも可能である。
また、上記ポリエーテルエステルには、後述するヒンダードフェノール系化合物やヒンダードアミン系化合物が添加されていることが、溶融紡糸時のポリマーの固有粘度の低下を抑制するだけでなく、得られた該弾性繊維の熱劣化、酸化劣化、光劣化などが抑制する効果をも有しており、より好ましい。
なかでも、下記一般式(3)で示される分子中に二重結合を有するヒンダードフェノール系化合物を使用することは、本発明のポリエーテルエステルエラストマーの重縮合反応を促進する効果をも持つため、高固有粘度をもつ弾性繊維が得られ易く、高い吸湿性と吸水伸長性を有するポリエーテルエステル弾性繊維を容易に製造できる点で、より好ましい。
式(3)中、置換基R3およびR4は、各々独立に、炭素数1〜6の1価の有機基を示し、ここで置換基R3およびR4のいずれかあるいは両方が複数個存在するときは、複数個存在する置換基は同一であっても異なっていてもよく、mおよびnは各々独立に0〜4の整数であり、そしてR5は水素原子または炭素数1〜5の有機基を示す。
かかる分子中に二重結合を有するヒンダードフェノール系化合物の具体例として、下記(4)〜(7)の化合物を挙げることができる。なかでも下記式(4)で示されるものが、前述した高い吸湿性と吸水伸長性を有する弾性繊維が得られ易く、特に好ましい。
エステル交換触媒の供給は、原料調製時の他、エステル交換反応の初期の段階において行うことができる。また、安定剤の供給は、重縮合反応初期までに行うことができるが、エステル交換反応終了時に添加することが好ましい。さらに、重縮合触媒は重縮合反応工程の初期までに供給することができる。
なお、弾性繊維の固有粘度を0.9以上にする方法としては、上述した方法以外にも、ポリエーテルエステルエラストマーを固相重合する方法やポリエステルエーテルエラストマーの合成段階や溶融紡糸段階で鎖延長剤を使用する方法なども採用することができる。この際に使用する鎖延長剤の好ましい具体例としては、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)などのオキサゾリン化合物やN,N’−テレフタロイルビスカプロラクタムなどを挙げることができる。
前述したように、弾性繊維が以上に述べたポリエーテルエステルエラストマーからなることに加え、弾性繊維の固有粘度が0.9以上であることが好ましい。上記の固有粘度が0.9以上では、極めて高い吸湿率および吸水伸長率を実現することができ、快適性に優れた布帛を容易に得ることができる。一方で、固有粘度があまり大きくなり過ぎると製糸性が低下するだけでなく、製造コストが高くなる。このため、固有粘度は0.9〜1.2の範囲にあることがより好ましい。
上記弾性繊維においては、破断伸度を400%以上とすることが、吸湿性を5%以上、吸水伸長率を10%以上とすることができる点、また、製織編の際に工程の僅かなブレによる断糸を少なくできる点で好ましい。上記破断伸度としては、400〜900%の範囲がより好ましく、さらに好ましくは400〜800%の範囲である。
また、弾性繊維の沸水収縮率を10%以上とすることが、吸湿性を5%以上、吸水伸長率を10%以上とする上でより好ましい。
本発明の弾性繊維は、例えば、ペレット状としたポリエーテルエステルを、紡糸口金から溶融して押し出し、口金直下から少なくとも10cm、好ましくは少なくとも15cmの間は保温し、口金下直下から5m以内、好ましくは4m以内の位置で油剤を付与し、引取速度300〜1200m/分、好ましくは400〜980m/分で引取り、巻取ドラフト率をさらに該引取速度の1.3〜1.6、好ましくは1.4〜1.5で巻き取ることにより製造することができる。ただし、巻取ドラフトが1.3未満では、ゴデットローラ間およびゴデットローラと捲取機の間において、繊維にかかる張力が不足し、繊維がゴデットローラに捲き付いて断糸してしまうため、好ましくない。上記のように、口金下を保温し、紡速をできるだけ低速に抑え、油剤付与装置までの距離が長くならないようにして配向が進まないようにし、さらに引取った後の弾性繊維ができるだけ繊維が引き伸ばされないように、繊維を巻取ることができる範囲内で巻取ドラフトをできるだけ小さくして巻取ることが、吸湿率を5%以上、吸水伸長率を10%以上とする上では好ましい。かかる観点から、弾性繊維は、これを巻取った後、あるいは、引取り後連続して、延伸、あるいはさらに熱処理することは好ましくない。
一方、有機スルホン酸金属塩を実質的に共重合していないポリエーテルエステルからなる弾性繊維であっても、35℃95%RHの吸湿率が5%以上、吸水伸長率が10%以上の弾性繊維とすることができる。
すなわち、弾性繊維が示差走査型熱量計により得られるDSC曲線で2つの結晶融解ピークを有し、低温側の結晶融解ピーク高さHm1と高温側の結晶融解ピーク高さHm2との比Hm1/Hm2が0.6〜1.2の範囲であり、かつ破断伸度が400%以上であるものは、上記のような高い吸湿率および吸水伸長率を容易に達成できる。
ポリエーテルエステルの、ハードセグメント:ソフトセグメントの比率が、重量を基準として30:70〜70:30であることが好ましいことは前にも述べたが、ハードセグメントの比率を70重量%以下とすることは、Hm1/Hm2の比率を1.2以下とする上で好ましい。
上記のように、Hm1/Hm2が0.6〜1.2の範囲にあるものが、高い吸湿率や吸水伸長率を示す理由としては以下のことが考えられる。2つの結晶融解ピークは、サイズが大きく異なる2つのタイプの結晶が存在することによるものと考えられ、低温側のピークがサイズの小さな結晶の融解温度ピーク、高温側のピークがサイズの大きな結晶の融解温度ピークであると推される。このことは、繊維の横断面を原子間力顕微鏡により硬軟を走査し、硬部を結晶性のハードセグメント、軟部をソフトセグメントに帰属させて考えることでほぼ確認されている。また、ポリエーテルエステルは、ソフトセグメントを構成するポリオキシエチレングリコールが水分子を収着し抱水することで吸湿性が発現しているものと考えられる。以上のことから、Hm1/Hm2が1.2以下では、サイズの小さな結晶の数が少なく、ハードセグメントを拘束する結晶架橋点数も少ないことから、ソフトセグメントの膨潤が妨げられず、十分に抱水でき、吸湿率および吸水伸長が著しく向上するためと考えられる。一方、Hm1/Hm2が0.6以上では、結晶架橋点数の低下しすぎず、繊維の伸長弾性が高く維持され、繊維物性として実用的なレベルにある。Hm1/Hm2のより好ましい範囲は0.8〜1.2である。
また、2つの結晶融解ピークの温度Tm1及びTm2が200℃以上であることが好ましく、十分な耐熱性を維持できる。一方、結晶融解ピーク温度Tm1及びTm2が225℃以下であることが好ましく、繊維の弾性を高くすることができる。これは、Tm1及びTm2がかかる関係にあるものは、結晶のサイズが大きくなり過ぎず、結晶架橋点数が低下し過ぎないためと考えられる。
さらに、前述したように弾性繊維の破断伸度は400%以上とすることが好ましく、より好ましくは500〜1000%の範囲、さらに好ましくは600〜900%の範囲である。破断伸度が400%以上において、より高い吸湿率や吸水伸張率を達成できる。また、製編・製織の際、破断伸度が十分に大きいため、工程の条件の僅かなブレによっても弾性繊維が断糸しにくくなる。
上記の2つの結晶融解ピーク温度をもつ弾性繊維は、例えば、ペレット状としたポリエーテルエステルを、紡糸口金から溶融して押し出し、口金下直下から少なくとも10cm、好ましくは少なくとも15cmの間は保温し、口金下直下から5m以内、好ましくは4m以内の位置で油剤を付与し、引取速度300〜1200m/分、好ましくは400〜980m/分で引取り、巻取ドラフト率をさらに該引取速度の1.0〜1.2、好ましくは1.0〜1.1で巻き取ることにより製造することができる。つまり、上記のように、口金下を保温し、紡速をできるだけ低速に抑え、油剤付与装置までの距離が長くならないようにして配向が進まないようにし、さらに引取った後の弾性繊維ができるだけ繊維が引き伸ばされないように巻取ドラフトをできるだけ小さくして巻取ることが、小さいサイズの結晶を増やさず、前述した2つの結晶溶解ピーク高さを0.6〜1.2の範囲とする上で好ましい。かかる観点から、ポリエーテルエステル弾性繊維は、これを巻取った後、あるいは、引取り後連続して、延伸、あるいはさらに熱処理することは好ましくない。
(1)吸湿率
試料を所定の条件に調節した恒温恒湿室中に24時間調湿し、絶乾試料の重量と調湿試料の重量から次式により吸湿率を求めた。
吸湿率(%)=(調湿試料の重量−絶乾試料の重量)×100/絶乾試料の重量
(2)吸水伸長率・吸湿伸長率
繊維をかせ取りし、無緊張下にて30分間沸水処理後、20℃65%RHで風乾・調湿した後に非接触の160℃環境下で無緊張下にて2分間乾熱処理した糸を20℃65%RHの環境下に24時間放置し、これに0.88×10−3cN/dtexの荷重を掛けて測定した糸の長さを「乾燥時の糸の長さ」とし、その後この糸を20℃に調節された軟化水中に1分間浸漬後、水中から引き上げ、繊維表面に残存している水分を20℃65%RHで風乾させた濾紙で挟み、水平な台の上に置いて1.5g/cm2の重しを乗せ2秒間放置して繊維表面の余分な水分を拭き取った後、10秒後に0.88×10−3cN/dtexの荷重を掛けて測定した長さを「吸水時の糸の長さ」とし、下記の式により吸水伸長率を計算した。測定は全て20℃65%RHの環境下で行った。
吸水伸長率=(吸水時の糸の長さ−乾燥時の糸の長さ)÷乾燥時の糸の長さ×100%
また上記と同様にして「乾燥時の糸の長さ」を測定し、その後この測定をした糸を35℃95%RHに調節された恒温恒湿室内で24時間調湿後、恒温恒湿室内で0.88×10−3cN/dtexの荷重を掛けて測定した長さを「吸湿時の糸の長さ」とし、下記の式により吸湿伸長率を計算した。
吸湿伸長率=(吸湿時の糸の長さ−乾燥時の糸の長さ)÷乾燥時の糸の長さ×100%
(3)破断強度・破断伸度
20℃×65%RHに調湿された恒温恒湿室内にて、東洋ボールドウィン社製テンシロンRTM−100引張試験機を用い、引張テストをすることにより測定した。
(4)ベタツキ感、ムレ感
弾性繊維を、筒編み機を用いて132g/m2のニットとし、これを任意に選んだ5人のひじとひざにつけ、1日過ごしてもらい、ベタツキ感、ムレ感を評価した。結果をそれぞれ、ベタツキ感、ムレ感が少ない(少)、大きい(大)で示した。
(5)結晶融解ピーク温度Tm1、Tm2
示差走査型熱量計(TA Instrument社2920型DSC)を用い、窒素気流下20℃/分の昇温速度で走査して測定した。そして、2つの結晶融解ピークのうち、低温側のピーク温度をTm1、高温側のピーク温度をTm2とした。
(6)結晶融解ピーク高さの比Hm1/Hm2
上記の2つの結晶融解ピークのうち、低温側(ピーク温度Tm1側)及び高温側(ピーク温度Tm2側)の、ベースラインからの結晶融解ピークトップまでの高さを測定し、それぞれHm1、Hm2とし、その比Hm1/Hm2を求めた。
得られたポリエーテルエステルエラストマーを230℃で溶融し、紡糸口金より吐出量3.05g/分で押出した。この際、口金直下から9cmを保温した。この溶融ポリマーに口金下3mの位置で、30℃における粘度が1×10−5m2/sのポリジメチルシロキサン100%からなる油剤を繊維重量を基準として3.0重量%付与し、ゴデットローラで510m/分で引取り、さらに750m(巻取ドラフト1.47)で巻き取って44デシテックス/1フィラメントのポリエーテルエステル弾性繊維を得た。結果を表1に示す。
次に上記弾性繊維を、筒編み機を用いて132g/m2のニットとした。このニットを20℃65%RHの環境下に24時間放置した後と、さらにこれを20℃軟化水中に1分間浸漬し水から取り出しニット表面に付着している水分を濾紙で挟んで取り除いた後とで、それぞれのニットの目開きを観察した。その結果、軟化水中に浸漬した後では、ニットの目開きが大きくなっているのが確認できた。
[比較例1]
5−Naスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルエステル(3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウムに同じ)に代えて、5−Naスルホイソフタル酸ジメチルを使用した以外は実施例1と同様に合成反応を行って固有粘度が1.10のポリエーテルエステルエラストマーを得た。このポリエーテルエステルエラストマーを用いて、以下実施例1と同様に溶融紡糸を行った。結果を表1に示す。
[実施例5及び比較例2]
紡糸速度、巻取速度を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして弾性繊維を得た。結果を表1に示す。
[比較例3]
実施例1と同一の方法で得た弾性繊維を、2つの非加熱ローラ間で、延伸倍率2.0倍で延伸を施し、巻取り弾性繊維を得た。結果を表1に示す。
弾性繊維を132g/m2のニットとし、これを20℃65RH%の環境に24時間放置した後と、さらにこれを35℃95RH%の恒温恒湿室中に24時間放置した後でニットの目開きをそれぞれ観察したが、35℃95RH%では空隙が大きくなっているのが確認できた。
さらに、上記とは別に準備した132g/m2のニットを、20℃65RH%の環境下に24時間放置した後と、20℃に調節された軟化水中に1分間浸漬し水中から引き上げ、ニット表面に残存している水分を濾紙で挟んでとった後で、ニットの目開きをそれぞれ観察したが、軟化水中に浸漬した後は空隙が大きくなっているのが確認できた。
[実施例8〜11、比較例4]
ポリオキシエチレングリコールの比率、紡糸速度、巻取速度を表2に示すように変更した以外は、実施例7と同様にして弾性繊維を得た。結果を表2に示す。
さらに実施例7と同様にして、吸湿前後、吸水前後のニットの目開きをそれぞれ観察したが、実施例8〜11は実施例7と同様に空隙が大きくなっているのが確認されたが、比較例4は空隙がほとんど変化しなかった。
Claims (13)
- ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとしポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなる弾性繊維であって、35℃95%RHでの吸湿率が5%以上、吸水伸長率が10%以上であることを特徴とするポリエーテルエステル弾性繊維。
- 弾性繊維の沸水収縮率が10%以上である請求項2に記載のポリエーテルエステル弾性繊維。
- 有機スルホン酸金属塩の共重合量が、ポリエーテルエステルエラストマーを構成する酸成分を基準として0.1〜20モル%の範囲である請求項2に記載のポリエーテルエステル弾性繊維。
- 弾性繊維が示差走査型熱量計により得られるDSC曲線で2つの結晶融解ピークを有し、低温側の結晶融解ピーク高さHm1と高温側の結晶融解ピーク高さHm2との比Hm1/Hm2が0.6〜1.2の範囲であり、破断伸度が400%以上である請求項1記載のポリエーテルエステル弾性繊維。
- 2つの結晶融解ピークの、低温側の結晶融解ピーク温度Tm1と高温側の結晶融解ピーク温度Tm2が、下記式を満足する請求項6に記載のポリエーテルエステル弾性繊維。
200℃≦Tm1<Tm2≦225℃ - ハードセグメント:ソフトセグメントの比率が、重量を基準として30:70〜70:30の範囲である請求項1、2、6のいずれかに記載のポリエーテルエステル弾性繊維。
- 弾性繊維の表面に、該繊維重量を基準として0.5〜5.0重量%の油剤が付着しており、該油剤において、鉱物油、シリコーン及び脂肪族エステルからなる群より選らばれる少なくとも1種の平滑剤が該油剤の70〜100重量%を、エーテル系又はエステル系のノニオン界面活性剤が該油剤の0〜30重量%を占めている請求項1、2、6のいずれかに記載のポリエーテルポリエステル弾性繊維。
- 油剤の30℃における粘度が、5×10−6〜4×10−5m2/sである請求項9記載のポリエーテルポリエステル弾性繊維。
- 請求項1、2、6のいずれかに記載のポリエーテルエステル弾性繊維を少なくとも一部に用いてなる布帛。
- 請求項1、2、6のいずれかに記載のポリエーテルエステル弾性繊維を少なくとも一部に用いてなる衣料。
- 請求項1、2、6のいずれかに記載のポリエーテルエステル弾性繊維を少なくとも一部に用いてなる下着、スポーツウェアー、裏地、ストッキング、靴下。
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