JPH06116632A - クロム酸化物層を表面に有する酸化不動態膜の形成方法及び耐食性に優れたステンレス鋼 - Google Patents

クロム酸化物層を表面に有する酸化不動態膜の形成方法及び耐食性に優れたステンレス鋼

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JPH06116632A
JPH06116632A JP4266382A JP26638292A JPH06116632A JP H06116632 A JPH06116632 A JP H06116632A JP 4266382 A JP4266382 A JP 4266382A JP 26638292 A JP26638292 A JP 26638292A JP H06116632 A JPH06116632 A JP H06116632A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 従来に比べ格段に耐食性に優れステンレス鋼
および酸化クロム層を表面に有する酸化不動態膜の形成
方法を提供することを目的とする。 【構成】(1)クロム酸化物を主成分とする層を最表面
側に20Å以上の厚さで有する酸化不動態膜が表面に形
成されていることを特徴とする。(2)ステンレス鋼母
材表面に微結晶からなる加工歪層を形成し、次いで、不
活性ガス中においてベーキングを行うことによりステン
レス鋼の表面から水分を除去し、次いで、不活性ガス
と、500ppb〜2%のH2Oガス(あるいは4pp
m〜1%の酸素ガス)との混合ガス雰囲気 中におい
て、450℃〜600℃の温度で熱処理を行うことを特
徴とする。微結晶からなる加工歪層の形成は、電解複合
研磨により行い、また、前記混合ガス中にさらに水素ガ
スを10%以下添加することが好ましい。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、クロム酸化物を主成分
からなる層(鉄酸化物を含まない層をいい、以下、『ク
ロム酸化物層』ということがある。)を最表面に有する
酸化不動態膜の形成方法及び耐食性に優れたステンレス
鋼に係る。
【0002】
【関連する技術】従来、ステンレス鋼表面に不動態膜を
形成する方法としては、電解研磨後、60℃程度の温度
になっている硝酸等の薬液にステンレス鋼を浸漬するウ
エット法が知られている。しかし、この方法によって形
成された不動態膜は、クロムリッチではあるものの鉄酸
化物をを含んでおり、また、厚さが20Å程度以下と薄
く、同時にピンホールも多いため、耐食性が良好ではな
い。
【0003】また、その表面から水分の放出が多い。図
9にウエット法で得た酸化不動態膜からの常温での放出
水分をAPIMSで測定したデータを示す(黒丸で示
す)。図9から明らかなように、ウエット法で得た酸化
不動態膜は100分たっても水分が放出しきれていな
い。このように、ウエット法で得た酸化不動態膜は水分
を多く含んでいるため、アウトガスフリーを求められて
いる半導体製造装置に使用できない。そこで、水分を放
出するために、ベーキング等の熱処理が必要となり、そ
のために多大の時間を要することとなる。
【0004】一方、放出水分が極めて少ない不動態膜の
形成方法として、本発明者は、電解研磨後、ステンレス
鋼を、酸素ガスと直接反応させた後、水素ガスによる酸
化鉄の還元及び還元後のアルゴン等の不活性ガスによる
熱処理によって、クロム酸化物を主成分とする不動態膜
を得るドライ法を提案している。図10にドライ法の工
程図を示す。
【0005】図10において、(1)はステンレス鋼表
面に付着している水分を除去するためのベーキング工程
である。(2)は酸素雰囲気下での酸化工程である。こ
の酸化工程で得られる膜は酸化鉄を主成分とした酸化不
動態膜である。(3)は酸化鉄を還元し、クロム酸化物
を得るための水素雰囲気下での還元工程である。(4)
はクロム酸化物を主成分とする不動態膜に転換させる為
の不活性ガス雰囲気下におけるアニール工程である。
【0006】かかるドライ法で形成した不動態膜からの
ガス放出量を図9に黒三角で示す。図9から明らかなよ
うに、ドライ法で形成した場合には、ウエット法で形成
した場合に比べ水分の放出量は激減している。
【0007】しかし、上記ドライ法による不動態膜の形
成は、酸化・還元反応を独立して行うため工程時間が長
くなる。
【0008】そこで、本発明者は、上記問題を解決する
技術の一つとして、別途、ステンレス鋼を電解研磨ある
いは電解複合研磨し、次いで、不活性ガス中においてベ
ーキングを行うことによりステンレス鋼の表面から水分
を除去し、次いで、水素ガス又は水素と不活性ガスとの
混合ガス中に、酸素又は水分を100ppb程度含有せ
しめたガス雰囲気中において300℃〜600℃の温度
で熱処理を行うことを特徴とする酸化クロムを主成分と
する酸化不動態膜の形成方法を提案している(特願平4
−164377号、出願人大見忠弘)。
【0009】この技術によれば、最表面におけるCr/
Fe(原子比:以下同じ)が1以上である酸化不動態膜
を形成でき、また、表面側がクロム酸化物のみからなる
層構成となっている不動態膜をも形成することができ
る。この不動態膜は、ガス放出が少なく、また、耐食性
にも優れている。
【0010】ただ、この技術においては、クロム酸化物
のみからなる層の厚さは最大でも20Å程度である。現
在耐食性に対する要求が一段と高まっており、そのた
め、クロム酸化物のみからなる層の厚さがより厚く、耐
食性が一段と優れた不動態膜を形成することができる技
術が求められている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来に比べ
格段に耐食性に優れステンレス鋼を提供することを目的
とする。
【0012】また、本発明は、クロム酸化物のみからな
る層を20Å以上の厚さで表面に有する不動態膜を形成
することができるクロム酸化物層を表面に有する酸化不
動態膜の形成方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明の耐食性に優れた
ステンレス鋼は、クロム酸化物を主成分とする層を最表
面側に20Å以上の厚さで有する酸化不動態膜が表面に
形成されていることを特徴とする。
【0014】本発明のクロム酸化物層を表面に有する酸
化不動態膜の形成方法は、ステンレス鋼母材表面に微結
晶からなる加工歪層を形成し、次いで、不活性ガス中に
おいてベーキングを行うことによりステンレス鋼の表面
から水分を除去し、次いで、不活性ガスと、500pp
b〜2%のH2Oガスとの混合ガス雰囲気 中において、
450℃〜600℃の温度で熱処理を行うことを特徴と
する。
【0015】本発明のクロム酸化物層を表面に有する酸
化不動態膜の形成方法は、ステンレス鋼母材表面に微結
晶からなる加工歪層を形成し、次いで、不活性ガス中に
おいてベーキングを行うことによりステンレス鋼の表面
から水分を除去し、次いで、不活性ガスと、4ppm〜
1%の酸素ガスとの混合ガス雰囲気中において、450
℃〜600℃の温度で熱処理を行うことを特徴とする。
【0016】
【作用】以下の本発明の作用を実施態様例とともに説明
する。
【0017】本発明で対象とするステンレス鋼として
は、例えば、C≦0.030%(重量%:以下同じ)、
Si≦0.70%、Mn≦0.80%、P≦0.030
%、S≦0.0020%、Ni:12.0〜17.0
%、Cr:16.0〜24.0%、Mo:0.05〜
3.5%、Al≦0.020%、O≦0.0020%な
る組成のSUS316Lを用いることが好ましい。
【0018】(請求項2の発明)本発明方法(請求項
2)では、まず、ステンレス鋼の表面に微結晶の加工歪
層を形成する。かかる微結晶の加工歪層は、例えば、電
解複合研磨(ECB)により形成することができる。
【0019】本発明で適用する電解複合研磨法として
は、例えば、電解により陽極性の被研磨金属を電解溶出
させると共に、被研磨金属の表面に生成された不働態化
酸化皮膜を、研磨砥粒による擦過作用で鏡面に加工する
方法である。研磨砥粒に一定以上の速度を与えて研磨面
を擦過すると同時に、不働態化型電解液を介して数A/
cm2以下の電解電流速度で、溶出と酸化の陽極反応を
研磨面に発生させる方法でを用いればよい。
【0020】図8に基づきさらに具体的に説明する。
【0021】図8は、この発明の鏡面加工法に使用され
る工具の一例を示し、1は駆動軸に接続され駆動装置に
より回転される工具、2は、工具1の下部に形成された
銅板からなる円板状の陰極、3は陰極2の下面に十字状
に形成された露出面、4は陰極2の中央に透設された電
解液5の流出口、6は陰極2の下面の露出面З及び流出
口4を除いて全面貼付された研磨砥粒、7は電気的に絶
縁性をもつ塗料などの薄膜であり、陰極2の周面および
工具1の周面から無益な漏れ電流の流出を防止し、電解
液5は、工具1の駆動軸を介して、電解液供給装置から
移送され、流出口4から露出面Зと、被研磨金属(図示
せず)との間隙に供給され、工具の外へ放出される。そ
して工具1の陰極2と被研磨金属に直流あるいはパルス
性の電圧の陰極側と陽極側がそれぞれ接続される。
【0022】そして、研磨加工に際し、工具1の陰極2
と被研磨金属間に前記のとおり電圧を印加するととも
に、その間に電解液5を供給し、陰極2を被研磨金属に
押付けつつ回転することにより、電解作用で被研磨金属
の陽極溶解を行い、かつ被研磨金属の表面の凹凸部に生
成された不働態化酸化皮膜のうち、その凸部を研磨砥粒
6により、擦過除去し被研磨金属の凸部を優先的選択的
に電解溶出し鏡面に仕上げる。
【0023】研磨する一例を述べると、#120〜#1
500のSiC系砥粒で初期表面粗さが、20〜50μ
mRmaxのSUS316L内表面を擦過する場合、不働
態化型電解液に20%NaNO3水溶液を用いて電解電
流密度を0〜6A/cm2の範囲で変えて研磨すれば、
粗さが0.1μmRmax以下の表面粗度を有する内表面
を得ることができる。
【0024】本発明では、電解複合研磨等による表面加
工歪層の形成を必須とするものである。電解研磨(E
P)を行ったのみ場合では、表面に加工歪層が存在しな
いため20Å以上の厚さのクロム酸化物のみからなる層
を形成することができない。
【0025】その理由は明確ではないが、次のように推
測される。電解研磨の場合とは異なり、電解複合研磨の
場合には、表面が機械的にも研磨されるが、その研磨に
より切削、塑性変形、溶融、化学変化が生じる。そのた
め、表面には、ごく微細な結晶からできている化学的に
活性ないわゆるベイルビ層、すなわち加工歪層が形成さ
れるとともにその内部に向かって塑性変形層が形成さ
れ、このベイルビ層の存在が、クロム酸化物のみからか
らなる層の形成に関与しているのではないかと考えられ
る。すなわち、極微結晶粒界に沿うCrの拡散が促進さ
れ、弱酸化性雰囲気では、表面にCr23が形成され
る。
【0026】電解複合研磨による表面粗度は、より緻密
な不動態膜を形成する上からは、5μm以下とすること
が好ましく、1μm以下とすることがより好ましく、
0.5μm以下とすることがさらに好ましい。
【0027】本発明では、電解複合研磨後、不活性ガス
中においてベーキングを行うことによりステンレス鋼の
表面から水分を除去する。ベーキング温度、時間として
は、付着水分の除去が可能な温度であれば特に限定され
ないが、例えば、少なくとも150℃から200℃ある
いはそれより高い400℃〜500℃の温度で行えばよ
い。なお、ベーキングは、水分含有量が数ppm以下
(より好ましくは数ppb以下)の不活性ガス(例え
ば、Arガス,N2ガス)雰囲気中で行うことが好まし
い。
【0028】次いで、不活性ガスと、500ppb〜2
%のH2Oガスと、の混合ガスの弱酸化性雰囲気中にお
いて、450℃〜600℃の温度で熱処理を行う。
【0029】不活性ガスとしては例えば、アルゴンガ
ス、窒素ガス等を用いればよい。
【0030】H2Oガスは、500ppb〜2%とす
る。500ppb未満では、酸化クロムのみからなる層
を表面に形成することはできず、表面が鉄酸化物とクロ
ム酸化物との混合組成となってしまう。
【0031】一方、2%を越えると鉄酸化物を主成分と
し、しかもポーラスな不動態膜が形成されてしまい、耐
食性が悪くなる。
【0032】なお、不活性ガスと、500ppb〜2%
のH2Oガスとの混合ガス中に水素ガスを10%以下添
加することが好ましい。水素ガスはステンレス表面の触
媒作用によりH*ラジカルになり、鉄酸化物を還元する
作用を担っている。すなわち、鏡面仕上げした電解複合
研磨面では、ステンレス中に含まれるNiが触媒として
働き、450℃〜600℃の温度においても水素はほぼ
完全にラジカル化し、このラジカル化した水素が鉄酸化
物を還元するため、クロム酸化物のみからなる層がより
形成されやすくなるものと考えられる。ただ、水素ガス
が10%を超えると不動態膜の緻密さが失われてしまう
ため、10%以下とすることが好ましい。なお、水素ガ
スが0.1ppm未満の場合には、鉄酸化物の還元が十
分には行われない場合があるため、0.1ppmを下限
とすることがより好ましい。
【0033】なお、不活性ガスと500ppb〜2%の
2Oガスとの混合ガス雰囲気とするためには、一般的
には、不活性ガスと500ppb〜2%のH2Oガスと
を予め混合した状態で、不動態膜を形成するステンレス
鋼表面に供給するが、不活性ガスと250ppb〜1%
の酸素ガスと500ppb〜2%の水素ガスとの混合ガ
スを、不動態膜を形成するステンレス鋼表面に供給して
もよい。後者の場合、ステンレス鋼中のNiが触媒とな
り水素ラジカルを発生するとともにこの水素ラジカルが
酸素と反応してH2Oガスが生成し、所望の弱酸化性雰
囲気が得られることになる。
【0034】熱処理温度は、450℃〜600℃であ
る。450℃未満では、熱処理時間を長くしてもクロム
酸化物のみからなる層の厚さを20Å以上とすることは
できない。逆に600℃を越えると、鉄酸化物を偏析し
た状態で含む層が表面に形成されるとともに、不動態膜
全体としても不均一な組成となり、耐食性の悪い不動態
膜が形成されてしまう。これは、600℃を超えると母
材においてクロムカーバイト(例えば、Cr236等)
が析出し、この析出物のためにCrがとられてしまうた
め不動態膜の組成に偏りが生じてしまうためと考えられ
る。
【0035】なお、熱処理時間は、温度にも依存する
が、0.5時間以上が好ましい。一方、5時間以上の処
理を行ってもクロム酸化物層の厚さは飽和するため、経
済上の観点から5時間を上限とすることが好ましい。
【0036】本発明では、結晶粒度が6以上のステンレ
ス鋼を用いることが好ましく、結晶粒度が8以上のステ
ンレス鋼を用いることがより好ましい。かかる粒度のス
テンレス鋼を用いた場合、クロム酸化物のみからなる層
を表面に有する不動態膜を極めて容易に形成することが
できる。その理由は必ずしも明確ではないが、かかる結
晶粒度のステンレスを用いた場合、結晶粒界を介して、
クロム原子が表面に拡散しやすくなるためではないかと
考えられる。また、母材の結晶粒径が小さいほど前述し
たベイルビ層あるいはその下の塑性変形層の結晶粒度も
小さくなり、これらの層中を、その粒界を介してCrが
表面に拡散しやすくなるためと考えられる。
【0037】(請求項7)一方、請求項7の発明におい
ては、不活性ガスと4ppm〜1%の酸素ガスと混合ガ
ス雰囲気中において熱処理を行う。
【0038】酸素が4ppm未満では、20Å以上のク
ロム酸化物層を表面に有する不動態膜を形成することが
できない。また1%を越える表面が鉄酸化物とクロム酸
化物との混合層となってしまう。
【0039】熱処理温度は、450℃〜600℃であ
る。その理由は請求項2の発明で述べたと同じである。
【0040】なお、熱処理時間は、温度にも依存する
が、1時間以上が好ましい。
【0041】請求項7の発明においても請求項2の発明
と同様の理由によりステンレス鋼母材として、少なくと
も表面が結晶粒度番号が6以上のものを用いることが好
ましく、結晶粒度番号が8以上のものを用いることがよ
り好ましい。
【0042】
【実施例】以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく
説明する。
【0043】(実施例1)本実施例では、粒度番号が6
であり、酸素を25ppm含有するSUS316Lステ
ンレス鋼を、作用の欄において述べた手順により電解複
合研磨し、約5μmの表面粗度にした。
【0044】次いで、炉内にステンレス鋼を装入し、不
純物濃度が数ppb以下のArガスを炉内に流しながら
150℃において2時間ベーキングを行い表面から付着
水分を除去した。
【0045】上記ベーキング終了後、水素濃度が10%
になるように水素ガスをアルゴンガスで希釈し、さら
に、H2Oガスを各種濃度で添加した混合ガス雰囲気下
で500℃、1時間熱処理した。
【0046】図1(a)及び図2(a)に、H2Oガス
を1ppmとした場合と1%とした場合の不動態膜のX
PS解析図を示す。なお、エッチング速度は70Å/分
である。
【0047】図1(a)、図2(a)に示すように、本
実施例により形成した不動態膜は、その最表面は完全に
鉄酸化物を含まずクロム酸化物を主成分としている。
【0048】また、図3にH20濃度とクロム酸化物層
の厚み及び耐食性との関係を示す。図3に示すように、
20濃度が10ppmまではH20濃度が増すにつれク
ロム酸化物層の厚み(図3上黒丸で示す)が増してい
き、10ppm以上でほぼ飽和する。特に、H20濃度
が2ppm以上では、従来存在しなかった20Å以上の
クロム酸化物層の形成が可能となっている。
【0049】一方、クロム酸化物層の厚さが増すにつれ
耐食性(図3上白丸で示す)が良好となっている。
【0050】なお、耐食性試験は、容器内に、試料とと
もに1000ppmの水分を含む塩化水素ガスを導入
し、50℃で14日放置することにより行った。耐食性
の評価は、ESCにて試料表面を解析し、Clピーク高
さにより行った。塩化水素ガスにより腐食された表面
は、一部が塩化物に変わるため大量の塩素が検出され
る。表面に緻密な酸化クロム層が形成されると耐腐食性
が急激に向上することをこの結果は示唆している。
【0051】なお、上記実施例では、熱処理温度を50
0℃としたが、熱処理温度を550℃以上として上記実
施例と同様の試験を行ったところ、H2Oの濃度を50
0ppbとした場合であっても20Å以上のクロム酸化
物層の形成が可能であった。
【0052】(比較例1)本比較例では、実施例1にお
ける電解複合研磨に代え電解研磨を行った。他の条件は
実施例1と同様とした。
【0053】図1(b)及び図2(b)に前記条件で形
成された不動態膜のXPS解析図を示す。これらの図か
ら明らかなように、電解研磨を行った場合には、表面層
は、クロム酸化物が多いとはいえ鉄酸化物をも含む層と
なっていた。
【0054】(実施例2)本例では、熱処理時の時間の
影響を調べた。
【0055】アルゴンガスをベースに水素10%、H2
Oガス8ppmとした混合ガス中で500℃において、
各種時間で熱処理を行った。他の条件は、実施例1と同
様とした。
【0056】図4に熱処理時間とクロム酸化物の厚みと
の関係を示す。
【0057】図4から明らかなように、0.5時間とい
う短い時間の熱処理で、クロム酸化物が100%の層が
100Å近くもの厚さで表面に形成されている。また、
5時間までは時間の増加につれその厚みは増している。
ただ、5時間以上の熱処理を行ってもそれ以上の厚みの
増加はほとんど認められなかった。
【0058】(実施例3)本例では、熱処理温度の影響
を調べた。
【0059】アルゴンガスをベースに水素10%、H2
Oガス8ppmとした混合ガス中で、各種温度におい
て、1時間の熱処理を行った。他の条件は、実施例1と
同様とした。
【0060】図5に熱処理温度とクロム酸化物層の厚み
及び耐食性との関係を示す。
【0061】図5から明らかなように、450℃以上の
温度で、クロム酸化物が100%の層が100Åもの厚
さで表面に形成されている。また、温度の上昇につれそ
の厚みは増している。
【0062】ただ、600℃を超えると、クロム酸化物
層の厚みは増すものの耐食性の低下が始まっていること
も図5のHClガス中の放置試験後の表面Clピーク値
上昇が示している。
【0063】(実施例4)実施例1から実施例3では、
水素濃度10%になるように水素ガスをアルゴンガスで
希釈し、さらに、H2Oガスを予め添加した混合ガスを
用いて不動態膜の形成を行ったが、本例では、H2Oガ
スを添加する代わりに酸素を添加し、ステンレス表面に
おいてH2Oガスを生成せしめた。
【0064】なお、ガスの組成は、次の通りである。
【0065】アルゴンベース 水素ガス 10% 酸素ガス 1000ppm 熱処理条件は、温度500℃、時間1時間である。
【0066】図6(a)に前記条件で形成された不動態
膜のXPS解析図を示す。この図から明らかなように、
本例でも実施例1と同様の結果が得られている。
【0067】なお、図6(b)電解複合研磨に代え、電
解研磨を行った場合のXPS解析図を示しているが、不
動態膜の表面は、鉄酸化物を含む層となっている。
【0068】(実施例5)本実施例では、粒度番号が6
であり、酸素を25ppm含有するSUS316Lステ
ンレス鋼を、作用の欄において述べた手順により電解複
合研磨し、約5μmの表面粗度にした。
【0069】次いで、炉内にステンレス鋼を装入し、不
純物濃度が数ppb以下のArガスを炉内に流しながら
150℃において2時間ベーキングを行い表面から付着
水分を除去した。
【0070】上記ベーキング終了後、アルゴンガスと各
種濃度の酸素ガスとの混合ガスの雰囲気下で熱処理を行
った。
【0071】熱処理温度は、500℃、時間は1時間と
した。
【0072】図6(a)に前記条件で形成された不動態
膜のXPS解析図を示す。なお、エッチング速度は70
Å/分である。図7から明らかなように、酸素ガス濃度
が4ppm〜1%の範囲において、クロム酸化物のみか
らなる層が400Åもの厚さで形成されており、また、
優れた耐食性を示している。4ppm未満あるいは1%
を超えると、クロム酸化物のみからなる層の厚さは急激
に減少し、また耐食性も悪くなることを、水分を含むH
Clガス中放置試験後の表面塩濃度上昇が示している。
【0073】(実施例6)本例では、ステンレス鋼の結
晶粒度の影響を調べた。
【0074】結晶粒度番号として、5,6,7,8のそ
れぞれの結晶粒度番号を有するものを用いた。それぞれ
の結晶粒度番号のステンレス鋼を、アルゴンガスと、1
0%水素ガスと8ppmH2Oガスの混合ガス雰囲気中
で熱処理を行った。熱処理温度は500℃、時間は1時
間とした。
【0075】それぞれの不動態膜のXPS解析図を求め
たところ、結晶粒度番号6のものは、実粒度番号5のも
のよりも100%クロム酸化物からなる層の厚さが厚
く、また、粒度番号7のものは、粒度番号6のものより
も100%クロム酸化物からなる層の厚さが厚く、さら
に、粒度番号8のものは、粒度番号7のものより100
%クロム酸化物からなる層の厚さが厚かった。結局、結
晶粒度が小さなものの方がより厚く100%クロム酸化
物層が形成されることがわかった。
【0076】また、耐食性は、結晶粒度が小さいほど優
れていることも確認された。
【0077】
【発明の効果】本発明によれば、従来存在しなかった。
100%クロム酸化物からなる層を2nm以上の厚さで
表面に有する酸化不動態膜をステンレス鋼表面上に容易
にかつ迅速に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(a)は実施例1においてH2Oを1pp
mとして形成した酸化不動態膜のXPS解析図であり、
図1(b)は比較例1においてH2Oを1ppmとして
形成した酸化不動態膜のXPS解析図である。
【図2】図2(a)は実施例1においてH2Oを1%と
して形成した酸化不動態膜のXPS解析図であり、図1
(b)は比較例1においてH2Oを1%として形成した
酸化不動態膜のXPS解析図である。
【図3】H2濃度Oと形成されるクロム酸化物層の厚み
及び耐食性との関係を示すグラフである。
【図4】熱処理時間と形成されるクロム酸化物層の厚み
及び耐食性との関係を示すグラフである。
【図5】熱処理温度と形成されるクロム酸化物層の厚み
との関係を示すグラフである。
【図6】図6(a)は実施例6において形成した酸化不
動態膜のXPS解析図であり、図6(b)は比較例1に
おいて形成した酸化不動態膜のXPS解析図である。
【図7】O2濃度と形成されるクロム酸化物層の厚み及
び耐食性との関係を示すグラフである。
【図8】電解複合研磨の手順を示す図である。
【図9】ステンレス鋼表面からの水分の放出量を示すグ
ラフである。
【図10】ドライ法の工程図である。

Claims (10)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 クロム酸化物を主成分とする層を最表面
    側に20Å以上の厚さで有する酸化不動態膜が表面に形
    成されていることを特徴とする耐食性に優れたステンレ
    ス鋼。
  2. 【請求項2】 ステンレス鋼母材表面に微結晶からなる
    加工歪層を形成し、次いで、不活性ガス中においてベー
    キングを行うことによりステンレス鋼の表面から水分を
    除去し、次いで、不活性ガスと、500ppb〜2%の
    2Oガスとの混合ガス雰囲気 中において、450℃〜
    600℃の温度で熱処理を行うことを特徴とする酸化ク
    ロム層を表面に有する酸化不動態膜の形成方法。
  3. 【請求項3】 前記微結晶からなる加工歪層の形成は、
    電解複合研磨により行うことを特徴とする請求項2記載
    の酸化クロム層を表面に有する酸化不動態膜の形成方
    法。
  4. 【請求項4】 前記混合ガス中にさらに水素ガスを10
    %以下添加したことを特徴とする請求項1または2記載
    の酸化不動態膜の形成方法。
  5. 【請求項5】 前記ステンレス鋼母材として、少なくと
    も表面が結晶粒度番号が6以上のものを用いることを特
    徴とする請求項2ないし4のいずれか1項記載の酸化ク
    ロム層を表面に有する酸化不動態膜の形成方法。
  6. 【請求項6】 前記ステンレス鋼母材として、少なくと
    も表面が結晶粒度番号が8以上のものを用いることを特
    徴とする請求項5記載の酸化クロム層を表面に有する酸
    化不動態膜の形成方法。
  7. 【請求項7】 ステンレス鋼母材表面に微結晶からなる
    加工歪層を形成し、次いで、不活性ガス中においてベー
    キングを行うことによりステンレス鋼の表面から水分を
    除去し、次いで、不活性ガスと、4ppm〜1%の酸素
    ガスとの混合ガス雰囲気中において、450℃〜600
    ℃の温度で熱処理を行うことを特徴とする酸化クロム層
    を表面に有する酸化不動態膜の形成方法。
  8. 【請求項8】 前記微結晶からなる加工歪層の形成は、
    電解複合研磨により行うことを特徴とする請求項7記載
    の酸化クロム層を表面に有する酸化不動態膜の形成方
    法。
  9. 【請求項9】 前記ステンレス鋼母材として、少なくと
    も表面が結晶粒度番号が6以上のものを用いることを特
    徴とする請求項7または8記載の酸化クロム層を表面に
    有する酸化不動態膜の形成方法。
  10. 【請求項10】 前記ステンレス鋼母材として、少なく
    とも表面が結晶粒度番号が8以上のものを用いることを
    特徴とする請求項9記載の酸化クロム層を表面に有する
    酸化不動態膜の形成方法。
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