JP3596234B2 - オゾン含有水用ステンレス鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体製造プロセスなどで使用されるオゾン含有超純水等のオゾン含有水に対する耐食性(以下、耐オゾン含有水性という)に優れたステンレス鋼材およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体製造分野においては、近年高集積化が進んでいる。そのために、超LSIと称されるデバイスでは、シリコンウエハ等の基板に対して、幅が1μm以下のような微細な配線パターンの加工が必要になってきている。
【0003】
このような微細な配線パターンに、微小な塵が付着したり、微量の不純物ガスが付着すると、回路のショート等が起こり回路不良の原因となる。したがって、超LSIの製造プロセスにおいては、基板を加工する際に、このような汚染が起こらないようにさまざまな対策が採られている。
【0004】
作業環境から基板が汚染されるころを防止するために、基板の加工はクリーンルーム内で行われる。クリーンルームの清浄さを確保するためには、室内の空気が清浄でなければならないことはむろんのこと、そこで使用されるガスおよび水なども高純度でなければならない。このため、微粒子や不純物成分の少ない高純度ガス、純水などが用いられる。特に純水は、通常、純度の高い超純水が用いられている。
【0005】
さらに、このような高純度ガスや超純水を供給するための配管、配管部材および超LSI製造装置の部材に対しては、それらの材料の表面や内部からの微粒子や不純物成分の放出(以下、発塵と記す)およびガス成分の放出が極力少ないことが要求されている。
【0006】
従来、半導体製造プロセスに用いられる配管および部材には、フェライト系またはオーステナイト系のステンレス鋼が使用されてきた。これらのステンレス鋼材を高純度ガス用の配管として使用する場合には、高純度ガスが汚染されないように、ステンレス鋼材にも発塵を起こさないこと、水分の付着および吸着を起こさないことが要求される。また、超純水用の配管等として使用される場合には、金属イオンが溶出しにくいことも要求される。
【0007】
このため、高純度ガスや超純水と接触するステンレス鋼材には、通常、表面積ができるだけ少なくなるように、その表面を平滑にする処置が施されている。例えば、配管用の鋼管の内面は、JIS B 0601に規定されている表面粗さの最大高さ(Rmax、以下最大粗さと記す)が1μm以下程度に平滑化されることが多い。この内面の平滑処理には、通常、冷間抽伸された鋼管や機械研磨した部材に、さらに電解研磨を施す方法が採られている。しかし、この電解研磨法には、研磨の際に電解液および電解条件の管理が難しいこと、生産性が低いことといった問題点があり、その結果、鋼材の製造コストの上昇を招いている。
【0008】
また、内面に平滑処理が施されたステンレス鋼材であっても、その構成元素であるFe、Cr、Niなどの金属イオンが超純水等の純水中で溶出することがある。この金属イオンの溶出を防止するために、以下に示すようなさまざまな提案がなされてきた。
【0009】
その有力な対策は、ステンレス鋼の母材の表面に酸化物等の皮膜を設けることである。
【0010】
特開平1−87760号公報には、電解研磨処理された母材の表面に膜厚75オングストローム以上の非晶質酸化皮膜を備える半導体製造装置用ステンレス鋼材が提案されている。また、特開平1−180946号公報には、特定の化学組成のフェライト系ステンレス鋼管の内表面に、最大粗さ(Rmax)5μm以下の不働態膜を備える超純水用配管材料が開示されている。
【0011】
さらに、特開平6−33264号公報には、本発明者らのうちの一部の者によって、重量%で、Ti:0.02〜1.0%およびAl:0.02〜1.0%のうちの少なくとも1種を含み、最大粗さ(Rmax)が1μm以下に平滑化処理された母材の表面に、Ti酸化物とAl酸化物の少なくとも一方を主体とする酸化物皮膜を備える高純度ガス用オーステナイト系ステンレス鋼材が提案されている。また、特開平7−62520号公報には、Siを0.5〜5.0重量%含有する母材の表面に、Si酸化物を主体とする酸化物皮膜を備えるクリーンルーム用オーステナイト系ステンレス鋼材が提案されている。
【0012】
酸化物皮膜を備える鋼材としては、特開平7−60099号公報に、1〜6重量%のAlを含有するステンレス鋼を母材とし、その母材の表面に膜厚10〜150オングストロームの緻密なAl酸化物皮膜を備える超真空用材料が提案されている。このほか、本発明者らは、特定の化学組成の母材の表面にAl系酸化物を主体とする皮膜を生成させた耐酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を提案した(特開平6−271992号公報)。
【0013】
上記のような対策が採られたステンレス鋼材は、超純水の配管用、装置部材用、高純度ガス用、高温用などの材料としては、ほぼ実用に耐えるものであった。
【0014】
しかし、最近、半導体製造工程などにおけるシリコンウエハ等の基板の洗浄には、オゾンを含有する洗浄水が用いられるようになってきた。
【0015】
通常、半導体製造工程においては、シリコンウエハ等の洗浄には、超純水または界面活性剤、酸、アルカリ成分などを含有する超純水が用いられている。しかし、このような洗浄水を用いる洗浄方法には、金属成分は除去できても、有機物、なかでも薬品に対して比較的安定な特性を持っている脂肪分が除去されにくいという難点がある。また、洗浄水中の界面活性剤、酸およびアルカリ成分は、それ自体が不純物である。したがって、シリコンウエハの表面に残留した洗浄水中の不純物を除去するために、さらに高純度の超純水による”すすぎ”を行わなければならない。
【0016】
この”すすぎ”工程を省略するために、最近、オゾン(O3 )を含有する超純水(オゾン含有超純水)によってシリコンウエハを洗浄する方法が試みられている。オゾンは、漂白剤、殺菌剤として使用されていることからもわかるように、強い酸化力を持っているので、金属をイオン化し、有機物を分解する作用がある。そのため、オゾン含有超純水で洗浄すると、付着している金属はイオン化されて除去され、有機物は分解されて除去される。さらにオゾンは、洗浄後自己分解するため、シリコンウエハ上に汚染物として残留することがない。したがって、オゾン含有超純水で洗浄した場合には、”すすぎ”工程を省略することができるという利点がある。
【0017】
このようにオゾン含有超純水はシリコンウエハの洗浄に極めて有効である。しかし、オゾン含有超純水による洗浄の場合には、オゾン含有超純水の供給などに用いられる配管や装置部材によって、オゾン含有超純水が汚染されるという問題がある。このオゾン含有超純水の汚染は、配管や装置部材として使用されるステンレス鋼材がオゾン含有超純水によって腐食され、鋼材からFe、Cr、Niなどの金属イオンが溶出することに起因している。
【0018】
オゾンを含まない通常の超純水用、高純度ガス用に開発されている前述のステンレス鋼材は、超純水への金属イオンの溶出または発塵の防止にはほぼ良好な性能を持っている。しかし、オゾン含有水への適用を考慮して開発されたものではないので、オゾン含有水用の材料として用いた場合、どの鋼材についても、Fe、Cr、Niなどの金属イオンの溶出が起こり、実用に耐えるものではなかった。
【0019】
さらに、特開平1−87760号公報、特開平6−33264号公報などに提案されている鋼材の場合には、その製造過程で電解研磨法による研磨処理が必要である。そのために、前述のように、研磨処理に起因する生産性の低下および鋼材の製造コストの上昇という問題を避けることができない。
【0020】
このような観点から、耐オゾン含有水性に優れ、かつ安価に製造できるオゾン含有水用ステンレス鋼材の開発の必要性が高まっている。このような鋼材は、半導体製造以外の分野、例えば医薬品、医療などの分野においても必要である。
【0021】
ステンレス鋼は、半導体製造プロセスなどで使用される超純水の配管用および装置部材用の素材として必要な強度を持っており、加工性にも優れている。しかし、上述のように、現状では、オゾンを含む水に対する耐食性(耐オゾン含有水性)に劣るという欠点がある。
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、オゾン含有水用の部材として使用されても金属イオンの溶出を起こすことがなく、安価に製造することができる耐オゾン含有水性に優れたステンレス鋼材とその製造方法を提供することを目的としている。
【0023】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記(1)のオゾン含有水用ステンレス鋼材および下記(2)のその製造方法にある。
【0024】
(1)下記の化学組成で構成される母材の表面に、Al酸化物およびSi酸化物のうちの少なくとも一方を主体とする酸化物皮膜を備えているステンレス鋼材。
重量%で、Cr:12〜30%、Ni:0〜35%、Al+Si:1〜6%、Mo:0〜3%、B+La+Ce:0〜0.01%、Cu:0.1%以下、Nb+Ti+Zr:0.1%以下、C:0.03%以下、Mn:0.2%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、N:0.05%以下、O:0.01%以下、残部:Feおよび不可避的不純物。
【0025】
すなわち、本発明のステンレス鋼材は、母材がステンレス鋼であるとともに、AlとSiを合わせて1〜6%含み、その他の合金元素ができるだけ低く制限されている。さらに、母材の表面に、母材中のAlとSiによって形成されたAl酸化物とSi酸化物のうちの少なくとも一方を主体とする酸化物皮膜を備えることを特徴としている。
【0026】
上記のステンレス鋼材のなかでも、母材のNi含有率が重量%で0〜5%のフェライト系ステンレス鋼材、母材のCr、NiおよびSi含有率が重量%でCr:12〜25%、Ni:14〜35%、Si:0.2%以下で、酸化物皮膜がAl酸化物であるオーステナイト系ステンレス鋼材などが実用上もっとも好適である。
【0027】
本発明のステンレス鋼材は上記の条件で十分な性能を持っているが、さらに好ましい条件は、JIS B 0601に規定されている表面の最大高さ(Rmax、最大粗さと記す)が3μm未満、酸化物皮膜の厚さが5nm以上500nm以下および皮膜の酸化物がAl酸化物、特にαAl2O3であることである。
【0028】
(2)本発明のステンレス鋼材を製造する場合、母材の表面への酸化物皮膜の形成は、つぎの(a)〜(c)のいずれかの方法によればよい。
【0029】
(a) 母材を、酸素ガスおよび水蒸気を合わせたガスの分圧が10−11 MPa以上10−5MPa以下の弱酸化性雰囲気下で、600℃以上1200℃以下に加熱する。
【0030】
(b) 母材を、重量%で濃度5%以上50%以下の硝酸水溶液に浸漬する。
【0031】
(c) 母材を、pHが1以下の溶液中で陽極電解する。
【0032】
本発明のステンレス鋼材および本発明の製造方法によって得られるステンレス鋼材は、オゾン含有水中への母材の金属イオンの溶出を防止する効果が大きいAl酸化物とSi酸化物の少なくとも一方を主体とする皮膜を備えている。本発明の酸化物皮膜が、特に耐オゾン含有水性に有効なのは、これらの酸化物がオゾン含有水の特徴である高い酸化還元電位においても安定であることが挙げられる。さらに、Cr、Ni、Al、Si等必要な元素以外の合金元素が低く制限されているので、Al酸化物とSi酸化物以外の金属イオンの溶出防止効果をさげるような酸化物が形成されにくいことがあげられる。
【0033】
また、金属イオンの溶出防止以外の点でも、腐食の起点および微粒子の発生等の原因になるS、C、Mn、N、Pなどの元素が少ない。したがって、本発明の鋼材は、耐食性に優れるほか、発塵も少ないという特長を持っている。
【0034】
本発明者らは、さまざまな化学組成のステンレス鋼を母材として、その表面に酸化物皮膜を形成させた鋼材を作製し、それらの鋼材について、オゾンを含む超純水中での金属イオンの溶出挙動を調査した。その結果得られた下記の▲1▼〜▲6▼の知見を基に本発明を完成させた。
【0035】
なお、上記調査においては、母材を酸化処理する条件を変えて酸化させることにより、組成の異なる酸化物皮膜を形成させた。
【0036】
▲1▼ 金属イオンの溶出の抑制に有効な酸化物皮膜は、鋼中に含有されるAlまたはSiを優先的に酸化させることによって形成されるAl酸化物とSi酸化物のいずれかまたは両者で構成された皮膜である。この酸化物皮膜は、オゾン含有水に対して化学的に安定であり、ほとんど反応しない。また、母材の合金元素がオゾン含有水中へ溶出するのを防止する効果が特に顕著である。そのために、鋼材がオゾン含有水に接しても、金属イオンの溶出が起こりにくい。
【0037】
▲2▼ 鋼材からの金属イオンの溶出および微粒子の発生(発塵)を抑制するためには、C、Si、Mn、P、S、Cu、N、O(酸素)などの少量含まれる元素(以下、これらの元素をまとめて不純物元素と記す)の含有率を低く制限する必要がある。上記の酸化物皮膜と不純物元素の含有率の制限の組み合わせが、オゾン含有水中における鋼材からの金属イオンの溶出および発塵の防止に特に有効である。
【0038】
▲3▼ 上記▲1▼および▲2▼は、フェライト系、オーステナイト系等のいずれのステンレス鋼に対しても有効である。
【0039】
▲4▼ 上記▲1▼の酸化物皮膜は、所定の条件の酸化性雰囲気下での加熱によって容易に形成させることができる。このほか、硝酸溶液への浸漬、陽極電解等の処理によっても形成させることができる。
【0040】
【発明の実施の形態】
(A)鋼材表面の酸化物皮膜
本発明のステンレス鋼材の特徴は、母材のステンレス鋼の表面に、母材中に含有されているAlとSiの少なくとも一方が酸化されて形成されたAl酸化物とSi酸化物のいずれかまたは両者を主体とする酸化物皮膜[以下、単に(Al、Si)酸化物皮膜と記す]を備えていることである。
【0041】
この酸化物皮膜は、おもにSi酸化物とAl酸化物で構成されているのが望ましい。酸化物中のSi酸化物とAl酸化物の割合が多いほど、耐オゾン含有水性がよい。したがって、Al酸化物とSi酸化物を合わせた酸化物の割合は、(Al、Si)酸化物中のAlとSiの合計が、酸化物皮膜中の全金属元素に対して60原子%以上に相当することが好ましい。さらに好ましいのは80原子%以上である。Al酸化物とSi酸化物以外の酸化物には、Cr酸化物、Fe酸化物などが挙げられる。ただし、上述のように、これらの酸化物はできるだけ少ない方がよい。
【0042】
Al酸化物とSi酸化物は、いずれも鋼材の耐オゾン含有水性を向上させるのに優れた効果を持っている。ただし、両者を比較すると、Al酸化物の方がその効果が大きい。したがって、酸化物皮膜中の酸化物としては、Si酸化物を含まないAl酸化物主体の方がより好ましい。Al酸化物、すなわちアルミナ(Al2O3)には、α、θ、γおよびδ型があるが、そのなかでも、特にα型(αAl2O3)がもっとも好ましい。
【0043】
本発明のステンレス鋼材の表面粗さ、すなわち酸化物皮膜の表面粗さは、最大粗さ(Rmax)で3μm未満が望ましい。Rmaxが3μm以上の場合には、ステンレス鋼材の製造過程および鋼材を製品に加工し使用するまでの間で、海塩粒子、塵などの異物が表面に付着しやすいためである。鋼材の表面にこれらの異物が付着すると、発塵の原因になるほか、鋼材の耐オゾン含有水性を悪くする原因にもなる可能性がある。
【0044】
酸化物皮膜の厚さは、5〜500nm程度が望ましい。厚さが5nmに満たない場合には、十分な耐オゾン含有水性が得られない。また、厚さが500nmを超えると皮膜が厚くなるとともに膜質が低下するため、十分な耐オゾン含有水性が得られない。酸化物皮膜のさらに好ましい厚さは、10〜300nmである。
【0045】
(B)母材の化学組成
本発明のステンレス鋼材の母材の化学組成はつぎのとおりである。なお、各元素の含有率の%表示は、重量%を意味する。
【0046】
Cr:
Crは、母材にとって必要不可欠な元素である。Crは鋼材が使用される環境下でのステンレス鋼としての耐食性を確保するために必要である。さらに、Crを含有させることによって、純水等の中性の水溶液中およびクリーンルームの雰囲気中での錆の発生を防止することができる。このようなCrの効果を発揮させるためには、12%以上含有させる必要がある。
【0047】
一方、Crの含有率が30%を超えると、母材の熱間加工性が悪くなる。また、ステンレス鋼材を溶接した際に、溶接部にシグマ相などのCrを含む金属間化合物が析出しやすいため靭性が低下する。したがって、Crの含有率は、12〜30%とした。好ましくは、18〜25%である。
【0048】
なお、母材がNiを14〜35%含むオーステナイト系ステンレス鋼の場合には、熱間加工性と溶接部の靱性の観点から、Crの含有率の上限は25%とするのが好ましい。
【0049】
Ni:
Niは、母材の耐食性を向上させる作用があり、また、安定なオーステナイト組織を得るのにも有効な元素である。本発明のステンレス鋼材では、必要に応じてNiを含有させる。
【0050】
母材は、フェライト系、2相系、オーステナイト系のいずれでもよい。ただし、フェライト系およびオーステナイト系のような単一相の方が、2相系より均一な酸化物皮膜を生成させやすいという特長がある。
【0051】
母材をフェライト系とする場合には、耐食性を向上させるために、Niを0〜5%含有させるのがよい。Ni含有率が5%を超えると母材は2相系になるので、酸化物皮膜を形成させる際に、処理条件の管理をより正確に行う必要があるからである。
【0052】
母材をオーステナイト系とする場合には、安定なオーステナイト組織を得るために、Niは14%以上含有させるのが好ましい。一方、35%を超えて含有させると、NiとAlからなる金属間化合物が析出するため、母材の熱間加工性および靭性が低下する。したがって、Ni含有率は14〜35%がよい。オーステナイト系の場合の好ましい含有率は18〜25%である。
【0053】
AlおよびSi:
AlとSiは、本発明のステンレス鋼材にとって、もっとも特徴的で重要な合金元素である。すなわち、本発明のステンレス鋼材の特徴は、母材のステンレス鋼の表面に、母材中に含有するAlとSiの少なくとも一方が酸化されて形成された(Si、Al)酸化物皮膜を備えている。
【0054】
すでに述べたように、この酸化物皮膜は、酸化物皮膜中の全金属元素に占めるAlとSiを合わせた割合が、60原子%以上であることが望ましい。母材のAlとSiの含有率の合計が1%未満の場合には、酸化物中に占めるAl酸化物とSi酸化物の割合が少なすぎて、上記の条件を満足させることができない。そのために、ステンレス鋼材に十分な耐オゾン含有水性を持たせることができない。
【0055】
一方、AlとSiの含有率の合計が6%を超えると、母材の靱性が低下する傾向がある。また、オーステナイト系の場合には、NiとAlからなる金属間化合物が析出するため、母材の熱間加工性と靭性が低下する。
【0056】
したがって、SiとAlの含有率の合計を1〜6%とした。なお、耐オゾン含有水性を高めるとともに良好な熱間加工性と靭性を確保するために、AlとSiの含有率の合計を1〜4%とすることが好ましい。さらに好ましくは、2〜4%である。
【0057】
なお、Al酸化物とSi酸化物の皮膜を比較した場合、Al酸化物の方がさらに耐オゾン含有水性に優れている。したがって、酸化物皮膜としては、Al酸化物の方がより好ましい。皮膜中にSi酸化物を含めない場合には、Si含有率は低い方がよい。この場合のSi含有率は0.2%以下とするのが好ましい。
【0058】
Mo:
Moは必要に応じて添加する元素である。Moは耐オゾン含有水性を高める作用を持っているので、この効果をいっそう高める場合に添加する。Moの効果を発揮させるためには、0.3%以上の含有させるのが好ましい。しかし、含有率が3%を超えると、MoとSiとの金属間化合物が析出しやすくなるので、母材の靭性が低下する。したがって、Moの含有率は0〜3%とした。Moを添加する場合には、含有率を0.01〜3%とするのがよい。
【0059】
B、LaおよびCe:
B、LaおよびCeは、必要に応じて添加する元素である。これらの元素は、母材の靱性や熱間加工性を向上させる作用をもっている。本発明のステンレス鋼材では、AlおよびSi含有率が高めで、Niが高めな場合には、靱性や熱間加工性をさらに向上させる方が熱間加工が容易な場合がある。このような場合には、B、LaおよびCeのうちの少なくともひとつの元素を添加するのがよい。これらの元素が添加されると、PやSの結晶粒界への偏析および結晶粒の粗大化が抑制されるので、靱性および熱間加工性が改善される。
【0060】
これらの元素の効果を発揮させるためには、B、LaおよびCeを合わせて0.003%以上含有させるのがよい。ただし、Bが過剰な場合はCr炭化物の析出が多くなるため、鋭敏化が進み母材の耐食性が低下する。また、LaおよびCeが過剰な場合には、これらの酸化物が増加するため熱間加工性が低下する。したがって、B、LaおよびCeの含有率の合計の上限は0.01%とするのがよい。
【0061】
上記の理由から、B、LaおよびCeの含有率の合計は0〜0.01%とした。添加する場合の好ましい含有率は、0.003〜0.01%、さらに好ましくは0.003〜0.008%である。
【0062】
Cu:
Cuは、オゾン含有水中でCuイオン溶出の一因となることがあるので、Cuの含有率は低く制限するのがよい。したがって、Cuは0.1%以下とするのがよい。
【0063】
Nb、TiおよびZr:
Nb、TiおよびZrはいずれも酸化されやすい元素である。そのため、これらの元素が鋼中に存在すると、これらの元素の酸化物が生成し、その酸化物が鋼材の酸化物皮膜中に混入する。すなわち、生成する酸化物皮膜中の全金属元素に占めるAlとSiの割合が60原子%を下回るようになる。その場合には、鋼材の耐オゾン含有水性が悪くなる。特に、Nb、TiおよびZrの含有率の合計が0.1%を超える場合には、耐オゾン含有水性の低下が著しい。
【0064】
したがって、Nb、TiおよびZrの含有率の合計を0.1%以下とした。好ましくは0.05%以下である。
【0065】
C:
Cの含有率が高すぎる場合には、ステンレス鋼材を溶接した際に、溶接部にCr炭化物が生成しやすいので、結晶粒界近傍のCr含有率が低下する。そのため、耐錆性および耐粒界腐食性が著しく低下する。また、酸化物皮膜を形成させるための処理の1つである加熱処理の際に、炭化物を生成し、耐錆性および耐粒界腐食性が著しく低下することがある。Cはできるだけ少ない方がよいので、Cの含有率は0.03%以下とした。好ましくは0.02%以下である。
【0066】
Mn:
Mnは、Al酸化物とSi酸化物の皮膜の生成を阻害し、耐オゾン含有水性を悪くする。また、Mnは、鋼材が溶接された際に、溶接部の表面に優先的に濃化し、鋼材の耐錆性および耐孔食性を著しく悪くする。したがって、Mn含有率は低い方がよい。ただし、Mnはステンレス鋼の熱間加工性を向上させる作用を持っているので、その効果を得る場合には少量添加してもよい。
【0067】
本発明のステンレス鋼材では、上記の点を考慮して、Mnの含有率を0.2%以下とした。好ましくは、0.05%以下である。
【0068】
P:
Pは、鋼材の溶接性を悪くするので、含有率は低い方がよい。特に、P含有率が0.03%を超えると、溶接性が著しく悪くなる。したがって、P含有率を0.03%以下とした。好ましくは、0.02%以下である。
【0069】
S:
Sは硫化物を形成し、硫化物は鋼中の非金属介在物となる。硫化物系の非金属介在物が酸化物皮膜中に存在すると皮膜の欠陥となり、耐オゾン含有水性を低下させる。また、この非金属介在物は、母材表面の平滑度を低下させる一因になるとともに、鋼材の腐食の起点にもなる。さらに、この非金属介在物は、鋼材が半導体製造装置の配管などとして使用された際に微粒子(塵)となり、シリコンウエハ等の基板を汚染させる原因にもなる。このように、Sはできるだけ低い方がよいので、S含有率は0.01%以下とした。好ましくは、0.005%以下、さらに好ましくは0.002%以下である。
【0070】
N:
Nは、鋼中のAl結合してAl窒化物を形成するほか、CとともにCr、Ti、Nbなどと結合して炭窒化物を形成しやすい。これらの非金属介在物は、硫化物系の非金属介在物と同様に、微粒子を発生させる原因となる。また、Al酸化物皮膜の形成に必要なAlの量を減少させるので、耐オゾン含有水性の低下を招く。このように、N含有率はできるだけ低い方がよいので、N含有率は0.05%以下とした。好ましくは0.03%以下である。
【0071】
O(酸素):
Oは、鋼中ではおもに酸化物系の非金属介在物として存在する。酸化物系の非金属介在物は、前述の硫化物系の非金属介在物と同様に、酸化物皮膜の欠陥となり、耐オゾン含有水性を低下させる。また、この非金属介在物は、配管等として使用される際の鋼材からの微粒子の発生(発塵)の原因にもなる。このように、O含有率は低い方がよいので、0.01%以下とした。好ましくは、0.002%以下である。
【0072】
(C)母材の研磨処理
鋼材の表面は、異物の付着を防止するために、できるだけ平滑であることが好ましい。酸化物皮膜の厚さは前述のように、500nm以下程度で極めて薄いので、鋼材の表面を平滑にするためには、酸化物皮膜を形成させる前に、母材の表面を平滑にしておけばよい。
【0073】
したがって、酸化物皮膜を形成させる処理を行う前に、母材の表面に研磨処理を施すのがよい。この場合、前述のように、酸化物皮膜が形成された鋼材の表面粗さがRmaxで3μm未満が好ましいので、母材の表面の最大粗さ(Rmax)も3μm未満にしておくのがよい。
【0074】
この母材の研磨には、研磨後の表面粗さがRmaxで3μm未満程度でよいので、Rmaxで1μm以下に仕上げる場合に用いられる電解研磨法を用いる必要はない。ホーニング、ラッピングなどの機械研磨法やバフ研磨法によって研磨することができる。
【0075】
(D)酸化物皮膜の形成方法
本発明のステンレス鋼材は、鋼中のAl、Siを他の酸化されやすい合金元素より優先的に酸化させることによって形成された(Si、Al)酸化物皮膜を備えることを特徴としている。鋼中の他の合金元素の酸化を抑制して、Al、Siを優先的に酸化させる本発明の製造方法には、高温酸化法と湿式酸化法がある。
【0076】
以下に、この2つの酸化法について説明する。
【0077】
(高温酸化法)
高温酸化法によって、鋼中のAlとSiを優先的に酸化させるためには、酸素と水蒸気を分圧の和で10−11 〜10−5MPa含有する不活性ガス雰囲気、水素雰囲気または真空雰囲気等の弱酸化性雰囲気中で、600〜1200℃に加熱するのがよい。酸素と水蒸気のいずれか一方のみを含む場合も、その分圧は10 −11 〜10−5MPaでよい。
【0078】
高温酸化の条件を、酸素と水蒸気を分圧の和で10−11 〜10−5MPa含有する不活性ガス、水素または真空等の弱酸化性雰囲気とする理由はつぎのとおりである。
【0079】
酸素と水蒸気の分圧の和が10−11 MPa未満の場合には、AlとSiが十分に酸化しないので、耐オゾン含有水性を発揮させるのに必要な酸化物皮膜が形成されない。一方、酸素と水蒸気の分圧の和が10−5MPaを超えると、Cr、FeなどAlとSi以外の元素が酸化されやすくなる。そのために、酸化物皮膜中のCr酸化物、Fe酸化物等の割合が増加し、耐オゾン含有水性が悪くなる。また、表面の平滑性も悪くなる傾向があり、Rmaxで3μm未満の表面粗さが得られない。なお、酸素と水蒸気の分圧の和の好ましい範囲は10−8 〜10−5MPaである。
【0080】
加熱温度が600℃未満の場合には、AlとSiが十分に酸化されない。一方、加熱温度が1200℃を超えると、CrやFeなどのAl、Si以外の元素も酸化されるので、酸化物皮膜中のCr酸化物およびFe酸化物の割合が増加する。さらに、表面の平滑性も低下する。したがって、加熱温度が600℃未満の場合、1200℃を超える場合のいずれにおいても、鋼材に良好な耐オゾン含有水性を持たせることができる酸化物皮膜を形成させることができない。なお、加熱温度は850〜1100℃の範囲とすることが好ましい。
【0081】
加熱時間は、5分〜2時間とすることが好ましい。上記の条件で加熱を行った場合でも、加熱時間が5分に満たない場合には、酸化物皮膜を十分に形成させにくい。一方、加熱時間が2時間を超えると、生産性の低下を招く。加熱時間は5分〜1時間とすることがより好ましい。
【0082】
上記の高温酸化条件は、本発明で規定する範囲の化学組成のステンレス鋼に対して、同じ条件で適用することが可能である。
【0083】
(湿式酸化法)
湿式酸化法には、浸漬法と陽極電解法がある。
【0084】
浸漬法に用いる溶液としては、硝酸溶液が適当である。この場合の溶液中の硝酸の濃度は、5〜50重量%とするのがよい。この濃度範囲の場合には、鋼中のAlとSiを優先的に酸化させることができる。
【0085】
硝酸溶液の硝酸濃度が5重量%未満の場合には、Al、Si以外のCr、Feなどの元素も酸化されやすい。したがって、酸化物皮膜中のこれらの元素の酸化物の割合が高くなる。一方、硝酸の濃度が50重量%を超えると、鋼材が硝酸によって腐食される。そのため、表面の平滑性が悪くなり、Rmaxで3μm以上になることがある。
【0086】
硝酸溶液の温度は20〜90℃、処理時間は10分〜5時間とすることが好ましい。硝酸溶液の温度が20℃未満の場合には、酸化物皮膜の形成速度が遅く、酸化処理に長時間を要する。一方、溶液の温度が90℃を超えると、硝酸溶液から硝酸の蒸気が激しく放散されるようになるので、硝酸溶液の硝酸濃度が低くなる。さらに、作業環境が極めて悪くなる。なお、硝酸溶液の温度は40〜70℃とすることがより好ましい。
【0087】
硝酸溶液への浸漬時間が10分未満の場合には、酸化物皮膜が十分に生成しない。一方、硝酸溶液への浸漬時間が5時間を超える場合は、生産性の低下を招く。なお、硝酸溶液への浸漬時間は30分〜3時間とすることがより好ましい。
【0088】
陽極電解法の場合には、例えば濃度10重量%の硫酸水溶液のようなpHが1以下の酸性溶液中で陽極電解するのがよい。
【0089】
陽極電解法に用いられる電解液のpHが1を超える場合には、Cr、FeなどAlおよびSi以外の元素も酸化されやすい。そのため、酸化物皮膜中のCr酸化物、Fe酸化物等の割合が高くなる。
【0090】
なお、陽極電解は電極の表面積が変化しても溶解速度が一定となるように電位制御をすることが好ましい。この電位制御は、例えば、基準電極として飽和カロメル電極(SCE)を用い、基準電極に対する電位を制御することによって実施できる。この場合、電位は0.2〜1.5V(vsSCE)、電解液の温度は20〜90℃、処理時間は10分〜5時間とすることが好ましい。
【0091】
上記のようにpHが1以下の電解液であっても、SCEに対する電位が0.2V未満の場合には、鋼中のSiおよびAlの溶解速度が小さいため、十分な酸化物皮膜が得られない場合がある。一方、SCEに対する電位が1.5Vを超えると、酸化物皮膜が多孔質となる。また、酸化物皮膜中のSi酸化物およびAl酸化物の割合が低くなる。なお、SCEに対する電位は0.4〜1.0Vとすることがより好ましい。
【0092】
電解液の温度は20〜90℃が好ましい。20℃未満の場合には酸化物皮膜が十分に形成されない。一方、90℃を超えると、電解液から硫酸等の溶媒の蒸気が激しく放散するようになるので、電解液のpHが低下する。さらに、作業環境が極めて悪くなる。なお、電解液の温度は40〜70℃とすることがより好ましい。
【0093】
陽極電解の処理時間は10分〜5時間がよい。10分未満の場合には、酸化物皮膜を十分に形成させることができない。一方、5時間を超えると、生産性の低下を招く。なお、陽極電解の処理時間は30分〜3時間とすることがより好ましい。
【0094】
【実施例】
フェライト系ステンレス鋼とオーステナイト系ステンレス鋼をおもな母材とするステンレス鋼材について調査を行った。
【0095】
(実施例1)
母材として、表1に示す化学組成を備えたステンレス鋼a〜lそれぞれ50kgを真空溶解炉を用いて溶解し、鋼塊に鋳造した。鋼a〜hは本発明例であり、そのうち鋼a〜gはフェライト系、鋼hは2相系である。また、鋼i〜lは化学成分のいずれかが本発明で規定する含有率の範囲から外れた比較例であり、そのうち鋼i〜kはフェライト系、鋼lはJIS G 4303に規定されているオーステナイト系のSUS316L相当材である。
【0096】
【表1】
【0097】
つぎに、これらの鋼塊を熱間鍛造および熱間圧延し、その後、冷間圧延を行って厚さ2mmの板材に加工した。さらに、この母材である板材に960℃で10分間保持した後水冷する溶体化熱処理を施した。
【0098】
これらの板材から、機械加工により幅50mm、長さ50mm、厚さ1mmの試験片を採取し、全面にバフ研磨を施して、鏡面(Rmaxで0.3〜0.5μm)に仕上げた。さらに、この試験片に高温酸化法または湿式酸化法によって酸化処理を行い、母材である板材の表面に酸化物皮膜を形成させた。高温酸化法の場合の雰囲気条件を表2に示す。高温酸化法の加熱時間は、いずれの場合も2時間とした。また、湿式酸化法の場合の処理条件を表3に示す。なお、湿式酸化法については、酸溶液浸漬法および陽極電解法の2つの方法を試験した。陽極電解法による酸化処理の場合には、電極の表面積が変化しても溶解速度が一定となるように電位制御を行った。すなわち、基準電極として飽和カロメル電極(SCE)を用いて、この電極に対する電位を制御して陽極電解した。湿式酸化法の場合、処理後の試験片を超純水で洗浄し、その後99.999体積%のアルゴンガスにより乾燥させた。
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
酸化処理後の試験片について、酸化物皮膜中の酸化物の種類、酸化物皮膜中の全金属元素に占めるAlおよびSiの割合と皮膜厚さおよび耐オゾン含有水性を調査した。
【0102】
酸化物の種類は、レーザーラマン分光法を用いて、皮膜中に含まれる化合物のの結晶構造を調べることによってAl2O3、SiO2 等の存在を判断する方法で調査した。
【0103】
酸化物皮膜中の全金属元素に占めるAlおよびSiの割合と皮膜厚さは、2次イオン質量分析法によって、表面から深さ方向の各位置での元素分析を行う方法によって調査した。スパッタリングには窒素ガスイオンを用いた。
【0104】
耐オゾン含有水性はつぎの方法で調査した。まず、比抵抗16MΩcmの超純水50mlに試験片を浸漬した状態で、オゾン110g/m3 含む80℃の酸素雰囲気中で100時間保持した。この場合、超純水は約7mg/lのオゾンを含むオゾン含有水になる。つぎに、このオゾン含有水を誘導結合プラズマイオン質量分析法により定量分析し、オゾン含有水中に溶出した金属イオン量(Feイオン、Crイオン、Niイオン、SiイオンおよびAlイオンの総和)を求めた。この結果を基に、試験片の端面を含む見かけ上の表面積当たりの金属イオン溶出量に換算し、耐オゾン含有水性を評価した。溶出量が0.5mg/m2 未満の場合は良好、0.5mg/m2 以上2.0mg/m2 未満の場合は普通、2.0mg/m2 以上の場合は不良とした。なお、表2には、それぞれ、○、△、×で表示した。
【0105】
表4に酸化処理条件、酸化物皮膜の性状および耐オゾン含有水性の調査結果をまとめて表4に示す。なお、表4における酸化処理条件A〜Kは、表2に示した高温酸化雰囲気条件(A〜F)と表3に示した湿式酸化法による処理条件(G〜K)を意味する。
【0106】
【表4】
【0107】
本発明例の試験No.1〜3は鋼中のSi含有率が1%以上、試験No.4〜7は鋼中のAl含有率が1%以上で、いずれもSiとAlを合わせた含有率が本発明で規定する1〜6%を満足している。さらに、酸化物皮膜の形成条件も、本発明の製造方法で規定する条件を満足している。したがって、酸化物皮膜中の酸化物の種類がSiO2 、Al2O3またはその両者となっており、その両者を合わせた割合が、皮膜中の全金属元素に対して62〜92原子%と高かった。また、耐オゾン含有水性にも優れていた。なお、酸化物皮膜の厚さ(酸化物皮膜中の全金属元素の占めるSiおよびAlを合わせた割合が60原子%以上の領域)は、本発明例の場合は16〜43nmの範囲であった。
【0108】
試験No.6および試験No.8〜10は、酸化処理温度を650℃から1080℃の範囲で変えた場合、試験No.11および12は、雰囲気を酸素および水蒸気が存在するアルゴンまたは真空雰囲気とした場合である。いずれの試験においても、上述のように、酸化物皮膜、耐オゾン含有水性ともに良好であった。
【0109】
試験No.13は、鋼中のNi含有率が6.03%とフェライト系よりやや高めの例である。また、試験No.14と15は湿式法によって酸化物皮膜を形成させた場合である。これらの場合には、酸化物皮膜、耐オゾン含有水性ともに良好であった。
【0110】
上記の本発明例に対して、比較例の試験No.18を除く16〜24については、いずれも、酸化物皮膜中のSiとAlの割合が少なく、耐オゾン含有水性に劣っていた。その原因は、試験No.16、17および19はSiとAlの含有率が低くすぎたためであり、試験No.20〜24は、酸化物皮膜の形成条件が本発明で規定する条件を満足していないためである。試験No.18は、母材のSiとAlを合わせた含有率が高すぎる例である。この場合には、母材の熱間加工性が悪く、熱間加工の際に割れが発生したため、その後の試験を行うことができなかった。
【0111】
(実施例2)
母材として、表5に示す化学組成を備えたオーステナイト系のステンレス鋼a〜oを、真空溶解炉を用いてそれぞれ50kgを溶解し、鋼塊に鋳造した。鋼a〜jは本発明例であり、いずれもオーステナイト系ステンレス鋼である。また、鋼k〜oはいずれかの化学成分が本発明で規定する含有率の範囲から外れた比較例であり、いずれもオーステナイト系ステンレス鋼である。そのうち鋼oはJIS G 4303に規定されているSUS316L相当材である。
【0112】
【表5】
【0113】
上記の鋼塊を実施例1の場合と同じ方法で板材に加工し、固溶化熱処理を施した。ただし、溶体化熱処理温度は1150℃とした。
【0114】
これらの板材から、機械加工により幅50mm、長さ50mm、厚さ1mmの試験片を採取し、全面にバフ研磨を施して、鏡面(Rmaxで1.6μm)に仕上げた。さらに、この試験片に高温酸化法または湿式酸化法によって酸化処理を行い、母材である板材の表面に酸化物皮膜を形成させた。高温酸化法の場合の雰囲気条件は表2に、湿式酸化法の場合の処理条件は表3に示した。それぞれの場合の酸化処理方法は、実施例1の場合と同じである。
【0115】
酸化処理後の試験片について、酸化物皮膜中の酸化物の種類、酸化物皮膜中の全金属元素に占めるAlおよびSiの割合と皮膜厚さおよび耐オゾン含有水性を調査した。調査方法は、ほぼ実施例1の場合と同じである。実施例1の場合と相違する点は、耐オゾン含有水性の試験条件のうち、超純水の比抵抗が17MΩcmであること、試験片を超純水に浸漬した状態で保持する条件がオゾンを110mg/m3 含む40℃の酸素雰囲気中で240時間であることの2点である。
【0116】
表6に酸化処理条件、酸化物皮膜の性状および耐オゾン含有水性の調査結果をまとめて示す。なお、表6における酸化処理条件A〜Kは、表2に示した高温酸化雰囲気条件(A〜F)と表3に示した湿式酸化法による処理条件(G〜K)を意味する。
【0117】
【表6】
【0118】
本発明例の試験No.1〜7および9は鋼中のAl含有率が1%以上、試験No.8および10は鋼中のSi含有率が1%以上で、いずれもSiとAlを合わせた含有率が本発明で規定する1〜6%を満足している。さらに、酸化物皮膜の形成条件も、本発明の製造方法で規定する条件を満足している。したがって、酸化物皮膜中の酸化物の種類がAl2O3、SiO2 またはその両者となっており、その両者を合わせた割合が、皮膜中の全金属元素に対して68〜93原子%と高かった。また、耐オゾン含有水性にも優れていた。なお、酸化物皮膜の厚さ(酸化物皮膜中の全金属元素に対するSiおよびAlを合わせた割合が60原子%以上の領域)は、15〜26nmであった。
【0119】
試験No.11〜13は、酸化処理温度を650℃から1080℃の範囲で変えた場合の高温酸化法、試験No.14および15は硝酸浸漬法、試験No.16は陽極電解法によって酸化物皮膜を形成させた場合である。いずれの試験においても、酸化処理条件が本発明で規定する条件を満足しているので、酸化物皮膜の酸化物の種類と厚さおよび耐オゾン含有水性が良好であった。
【0120】
上記の本発明例に対して、比較例の試験No.21を除く17〜27については、いずれも、酸化物皮膜中のSiとAlの割合が少なく、耐オゾン含有水性に劣っていた。その原因は、試験No.17〜21は母材のいずれかの化学成分が、本発明で規定する範囲を外れているためである。また、試験No.22〜27は、酸化物皮膜の形成条件が本発明で規定する条件を満足していないためである。試験No.21は、母材のSiとAlを合わせた含有率が高すぎる例である。この場合には、母材の熱間加工性が悪く、熱間加工の際に割れが発生したため、その後の試験を行うことができなかった。
【0121】
【発明の効果】
本発明のステンレス鋼材および本発明の製造方法によって得られるステンレス鋼材は、耐オゾン含有水性に優れているとともに、鋼材からの微粒子の発生(初塵)が少ない。さらに、安いコストで製造することができる。したがって、本発明のステンレス鋼材は、オゾンを含む超純水等が使用される半導体製造、医薬品製造等の分野で使用される配管、装置用の部材として極めて好適である。
Claims (6)
- 下記の化学組成で構成される母材の表面に、Al酸化物およびSi酸化物のうちの少なくとも一方を主体とする酸化物皮膜を備えるオゾン含有水用ステンレス鋼材。
重量%で、
Cr:12〜30%、
Ni:0〜35%、
Al+Si:1〜6%、
Mo:0〜3%、
B+La+Ce:0〜0.01%、
Cu:0.1%以下、
Nb+Ti+Zr:0.1%以下、
C:0.03%以下、
Mn:0.2%以下、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下、
N:0.05%以下、
O:0.01%以下、
残部:Feおよび不可避的不純物。 - 母材のNi含有率が重量%で0〜5%である請求項1に記載のオゾン含有水用ステンレス鋼材。
- 母材のCr、NiおよびSi含有率が、重量%で、Cr:12〜25%、Ni:14〜35%、Si:0.2%以下であり、酸化物皮膜がAl酸化物である請求項1に記載のオゾン含有水用ステンレス鋼材。
- 請求項1から3のいずれかに記載の化学組成で構成される母材を、酸素ガスおよび水蒸気を合わせたガスの分圧が10−11 MPa以上10−5MPa以下の弱酸化性雰囲気下で、600℃以上1200℃以下に加熱することにより、母材の表面に、Al酸化物およびSi酸化物のうちの少なくとも一方を主体とする酸化物皮膜を形成させるオゾン含有水用ステンレス鋼材の製造方法。
- 請求項1から3のいずれかに記載の化学組成で構成される母材を、重量%で濃度5%以上50%以下の硝酸水溶液に浸漬することにより、母材の表面にAl酸化物およびSi酸化物のうちの少なくとも一方を主体とする酸化物皮膜を形成させるオゾン含有水用ステンレス鋼材の製造方法。
- 請求項1から3のいずれかに記載の化学組成で構成される母材を、pHが1以下の溶液中で陽極電解することにより、母材の表面にAl酸化物およびSi酸化物のうちの少なくとも一方を主体とする酸化物皮膜を形成させるオゾン含有水用ステンレス鋼材の製造方法。
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