JP7441187B2 - 保持装置 - Google Patents

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本開示は、接着用構造体および複合部材に関する。
従来、対象物を保持する保持装置として、例えば、半導体を製造する際にウェハ等の対象物を保持する静電チャックが知られている。静電チャックは、対象物が載置されるセラミック部と、冷媒流路が形成されるベース部と、セラミック部とベース部とを接合する接合部と、を備える。例えば、特許文献1には、アルミニウム等によって金属部材(ベース部)を形成し、アルミナ等によってセラミック部材(セラミック部)を形成し、シリコーン樹脂等によって接着剤層(接合部)を形成する構成が開示されている。また、特許文献2には、静電チャックを-100~200℃の広い温度範囲で使用すること、そのように広い温度範囲で使用すると、ベース部材(ベース部)と静電チャック部材(セラミック部)との熱膨張率差が大きくなることにより、静電チャックに歪などの不都合が生じること、および、接合部をシリコーン樹脂によって構成することで、静電チャック部材とベース部材の熱膨張率差を吸収しやすくなることが記載されている。
特開2014-207374号公報 特開平04-287344号公報
しかしながら、上記のように熱膨張率差を吸収し易い性質を有するシリコーン樹脂を用いる場合であっても、例えば-30℃程度の比較的低温の条件下において、シリコーン樹脂の熱膨張率が極めて大きくなるという問題を、本願発明者らは新たに見いだした。温度変化に伴って、接合部を構成するシリコーン樹脂の熱膨張率が大きくなると、接合部において大きな熱応力が生じ、接合部が損傷する可能性がある。このような課題は、静電チャック等の保持部材における接合部に限らず、複数の部材が積層されて、上記のような比較的低温の条件を含む比較的広い温度範囲で使用する複合部材に備えられ、隣り合う部材間を接合する接合部において、共通する課題であった。
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、複数の部材間を接着する接着用構造体が提供される。この接着用構造体は、ポリオルガノシロキサン構造における側鎖の一部にフェニル基が導入されたシリコーン樹脂を含み、-100℃から200℃の温度範囲において、熱膨張率のピークが存在しないことを特徴とする。
この形態の接着用構造体によれば、接着用構造体が、ポリオルガノシロキサン構造における側鎖の一部にフェニル基が導入されたシリコーン樹脂を含んでおり、それにより、フェニル基が導入されていない場合には熱膨張率が極めて大きくなる温度条件(例えば、シリコーン樹脂の融点Tmや結晶化温度Tcに対応する比較的低温の温度条件)であっても、温度変化に伴う接着用構造体の熱膨張率の増大が抑えられている。その結果、接着用構造体において熱応力の発生を抑え、熱応力に起因する接着用構造体の損傷等の不都合を抑えることができる。
(2)上記形態の接着用構造体において、-100℃から200℃の温度範囲において、前記接着用構造体の温度を変化させて前記接着用構造体の熱膨張率を測定したときの、温度変化1℃あたりの熱膨張率の変化量が、-5×10-6(K-2)より大きく5×10-6(K-2)より小さいこととしてもよい。このような構成とすれば、-100℃から200℃の温度範囲において、接着用構造体の熱膨張率の変化量を十分に抑えて、接着用構造体における熱応力の発生を抑えることができる。
(3)上記形態の接着用構造体において、さらに、平均粒子径が50nm以下の無機微粒子を含むこととしてもよい。このような構成とすれば、接着用構造体が無機微粒子を含むことにより、接着用構造体の熱膨張率および熱膨張率の変化量を抑えることができる。その結果、接着用構造体において熱応力の発生を抑え、熱応力に起因する接着用構造体の損傷等の不都合を抑える効果を高めることができる。
(4)上記形態の接着用構造体において、前記無機微粒子の含有割合が、0.05質量%以上、2.5質量%以下であることとしてもよい。このような構成とすれば、無機微粒子を添加することに起因する不都合、例えば、接着用構造体が硬くなって、応力緩和性能が低下する等の不都合を抑えつつ、接着用構造体の熱膨張率および熱膨張率の変化量を抑えることができる。
(5)上記形態の接着用構造体において、前記無機微粒子は、酸化ケイ素粒子を含むこととしてもよい。このような構成とすれば、接着用構造体を構成するシリコーン樹脂と無機微粒子との間で、SiO単位が共通して、構造的な類似性が高い組み合わせとなる。そのため、無機微粒子の添加量を抑えつつ、無機微粒子の添加によって接着用構造体の熱膨張率および熱膨張率の変化量を抑える効果を、高めることが可能となる。
(6)本開示の他の一形態によれば、複数の部材を接合して成る複合部材が提供される。この複合部材は、前記複数の部材のうちの隣り合う部材間を接合する接合部として、(1)から(5)までのいずれか一項に記載の接着用構造体を備える。この形態の複合部材によれば、接合部を構成する接着用構造体の温度変化に伴う熱膨張率の増大を抑えることができるため、接合部において熱応力の発生を抑え、熱応力に起因して接合部の剥がれ等の損傷が生じる不都合を抑えることができる。
(7)上記形態の複合部材において、前記複合部材は、対象物を保持する保持装置であり、セラミックを主成分とし、板状に形成されるセラミック部と、金属を含み、板状に形成されたベース部と、を備え、前記接着用構造体は、前記セラミック部と前記ベース部との間に配置され、前記セラミック部と前記ベース部とを接合することとしてもよい。このような構成とすれば、保持装置において、接合部を構成する接着用構造体の温度変化に伴う熱膨張率の増大を抑えることができるため、接合部において熱応力の発生を抑え、熱応力に起因して接合部の剥がれ等の損傷が生じる不都合を抑えることができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、接着用構造体の製造方法、保持装置、保持装置を含む半導体製造装置、保持装置の製造方法、複合部材の製造方法などの形態で実現することができる。
静電チャックの外観の概略を表す斜視図。 静電チャックの構成を模式的に表す断面図。 ポリジメチルシロキサンにおける温度と熱膨張率との関係を示すグラフ。 高分子の相転移を模式的に表す説明図。 高分子の温度変化に伴う相転移を概念的に示す説明図。 高分子の相転移を模式的に表す説明図。 引張弾性率の測定に用いた試験片の形状を模式的に表す説明図。 せん断接着歪みの算出方法を模式的に示す説明図。 サンプルS1の熱膨張率と熱膨張率の変化量とを示す説明図。 サンプルS2の熱膨張率と熱膨張率の変化量とを示す説明図。 サンプルS3の熱膨張率と熱膨張率の変化量とを示す説明図。 サンプルS1~S3における温度と熱膨張率との関係を示す説明図。 図12に示した30℃以上の温度範囲の結果を拡大して示す説明図。 サンプルS4の熱膨張率と熱膨張率の変化量とを示す説明図。 サンプルS5の熱膨張率と熱膨張率の変化量とを示す説明図。 サンプルS6の熱膨張率と熱膨張率の変化量とを示す説明図。 サンプルS7の熱膨張率と熱膨張率の変化量とを示す説明図。 サンプルS4~S7における温度と熱膨張率との関係を示す説明図。 熱膨張率のピークの有無と共に、各サンプルの物性値をまとめた説明図。 他の実施形態の複合部材の構成を模式的に表す説明図。 他の実施形態の複合部材の構成を模式的に表す説明図。 他の実施形態の複合部材の構成を模式的に表す説明図。
A.第1実施形態:
(A-1)静電チャックの構造:
図1は、第1実施形態における静電チャック10の外観の概略を表す斜視図である。図2は、静電チャック10の構成を模式的に表す断面図である。図1では、静電チャック10の一部を破断して示している。また、図1および図2には、方向を特定するために、互いに直交するXYZ軸を示している。各図に示されるX軸、Y軸、Z軸は、それぞれ同じ向きを表す。本願明細書においては、Z軸は鉛直方向を示し、X軸およびY軸は水平方向を示している。なお、図1および図2は、各部の配置を模式的に表しており、各部の寸法の比率を正確に表すものではない。
静電チャック10は、対象物を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバ内で、対象物であるウェハWを固定するために使用される。静電チャック10は、セラミック部20と、ベース部30と、接合部40と、を備える。これらは、-Z軸方向(鉛直下方)に向かって、セラミック部20、接合部40、ベース部30の順に積層されている。本実施形態における静電チャック10を、「保持装置」とも呼ぶ。
セラミック部20は、略円形の板状部材であり、セラミック(例えば、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等)を主成分として形成されている。セラミック部20の構成材料として、酸化アルミニウムは、耐プラズマ性に優れるため好ましい。また、セラミック部20の構成材料として、窒化アルミニウムは、熱伝導性が高いため好ましい。本願明細書において、特定成分が「主成分である」とは、当該特定成分の含有率が、50体積%以上であることを意味する。セラミック部20の直径は、例えば、50mm~500mm程度とすればよく、通常は200mm~350mm程度である。セラミック部20の厚さは、例えば1mm~10mm程度とすればよい。
図2に示すように、セラミック部20の内部には、チャック電極22が配置されている。チャック電極22は、例えば、タングステンやモリブデンなどの導電性材料により形成されている。チャック電極22に対して図示しない電源から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWがセラミック部20の載置面24に吸着固定される。チャック電極22は、双極型であってもよく、単極型であってもよい。また、セラミック部20の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された抵抗発熱体で構成されて、載置面24に吸着固定されたウェハWを加熱するための、図示しないヒータ電極を設けてもよい。
ベース部30は、金属を含み、略円形に形成された板状部材である。ベース部30は、例えば、アルミニウム、マグネシウム、モリブデン、チタン、タングステン、ニッケルのうちの少なくとも一種の金属を含むこととすることができる。モリブデン、チタン、タングステンは、上記した金属の中でも熱膨張率が比較的小さいため、これらのうちの少なくとも一種の金属を用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30とセラミック部20との間の熱膨張率差を抑えることができて望ましい。なお、本願明細書において、「熱膨張率」は、「線膨張率」を指す。また、マグネシウムは、ヤング率が比較的小さいため、マグネシウムを用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30で生じる熱応力を低減することができて望ましい。また、アルミニウムは、熱伝導率が比較的高く、加工が容易で低コストである。そのため、アルミニウムを用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30によるセラミック部20およびウェハWの冷却効率を高めることができ、静電チャック10の製造コストを抑えることができて望ましい。ベース部30による冷却効率を高めつつ製造コストを抑える観点からは、ベース部30における金属の含有割合が高い方が望ましく、ベース部30は、金属を主成分とすることが望ましい。例えば、汎用性が高いアルミニウムを90質量%以上含有すること(例えば、A6061、A5052などのアルミニウム合金により構成すること)が望ましい。ただし、ベース部30は、セラミックなどの金属以外の成分を含んでいてもよい。ベース部30の直径は、例えば、220mm~550mm程度とすればよく、通常は220mm~350mmである。ベース部30の厚さは、例えば、20mm~40mm程度とすればよい。
ベース部30の内部には、複数の冷媒流路32がXY平面に沿うように形成されている。冷媒流路32に、例えばフッ素系不活性液体や水や液体窒素等の冷媒を流すことにより、ベース部30が冷却される。そして、接合部40を介したベース部30とセラミック部20との間の伝熱によりセラミック部20が冷却され、セラミック部20の載置面24に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。ベース部30の内部に冷媒流路32を有する形態の他、ベース部30の外部からベース部30を冷却することにより、ベース部30に冷却機能を持たせてもよい。
接合部40は、セラミック部20とベース部30との間に配置されて、セラミック部20とベース部30とを接合する。接合部40は、接着剤として、ポリオルガノシロキサン構造における側鎖の一部にフェニル基が導入されたシリコーン樹脂を含んでいる。接合部40の厚さは、例えば0.1mm~1.0mm程度とすることができる。接合部40の構成については、後に詳しく説明する。
静電チャック10には、さらに、複数のガス供給路50が形成されている。ガス供給路50は、セラミック部20、接合部40,およびベース部30をZ方向に貫通して設けられており、載置面24に形成されたガス吐出口52において開口している。ガス供給路50は、図示しないガス供給装置から、例えばヘリウムガス等の不活性ガスを供給されて、載置面24とウェハWとの間の空間に対して、ガス吐出口52から不活性ガスを供給する。これにより、セラミック部20とウェハWとの間の伝熱性を高めて、ウェハWの温度分布の制御性がさらに高められる。なお、ガス供給路50は必須ではなく、静電チャック10にガス供給路50を設けないこととしてもよい。
(A-2)接合部の構成:
以下では、接合部40の構成について説明する。接合部40は、「接着用構造体」とも呼ぶ。
接合部40は、既述したように、ポリオルガノシロキサン構造における側鎖の一部にフェニル基が導入されたシリコーン樹脂を含んでいる。また、接合部40は、-100℃から200℃の温度範囲において、熱膨張率のピークが存在しないという特徴を有している。
接合部40が備えるシリコーン樹脂は、両末端にR1 3SiO1/2単位(以下、「M単位」ともいう)と、m個のR2 2SiO2/2単位(以下、「第1のD単位」ともいう)と、n個のR34SiO2/2単位(以下、「第2のD単位」ともいう)とを含んでいる(ここで、mは1以上の整数であり、nは1以上の整数である)。このようなポリオルガノシロキサンは、下記一般式(A)で表される。
(R1 3SiO1/22(R2 2SiO2/2m(R34SiO2/2n ・・・(A)
(R1およびR2は互いに独立に炭素数1~12の非置換または置換の脂肪族炭化水素基であり、R3は炭素数1~12の非置換もしくは置換の脂肪族炭化水素基、または、炭素数6~10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、R4はフェニル基であり、かつ、上記ポリオルガノシロキサンはケイ素原子(Si原子)に直接結合するアルケニル基を1分子中に少なくとも2個含んでいる。)
なお、シリコーン樹脂は、当該接着剤の柔軟性を高める観点から、ポリオルガノシロキサン構造中に、RSiO3/2単位(T単位)およびSiO4/2単位(Q単位)を含まないことが好ましい。
上記一般式(A)において、R1およびR2は、炭素数2~8のアルケニル基、または、炭素数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基であることが好ましい。上記一般式(A)のM単位において、M単位に含まれるR1の内の少なくとも1つは、炭素数2~8 のアルケニル基であることが好ましく、炭素原子数2~4の低級アルケニル基であることがより好ましく、ビニル基であることがさらに好ましい。上記一般式(A)のM単位において、M単位に含まれるR1の内の残りの2つは、互いに独立に炭素数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1~3の低級アルキル基であることがより好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。すなわち、上記一般式(A)のM単位において、M単位に含まれるR1の内の1つは、ビニル基であり、R1の内の残りの2つは、メチル基であることが好ましい。
上記一般式(A)において、R3は、炭素数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基、または、炭素数6~10の非置換もしくは置換の一価芳香族炭化水素基であることが好ましい。上記一般式(A)において、R3は、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基を含むアリール基であることがより好ましく、フェニル基であることがさらに好ましい。
上記一般式(A)において、R4は、既述したようにフェニル基である。上記一般式(A)において、R3とR4とは、同一の置換基であること、すなわち、双方がフェニル基であることが好ましい。上記一般式(A)においてR3とR4とが共にフェニル基であるシリコーン樹脂であれば、合成が容易で、市場において容易且つ安価に入手可能となる。具体的には、上記一般式(A)で表されるポリオルガノシロキサンは、ジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー(ポリジメチルジフェニルシロキサン)であることが好ましい。なお、シリコーン樹脂を、例えばジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーとする場合であっても、シリコーン樹脂全体の性質への影響が許容範囲であれば、さらに他の官能基が導入されていてもよい。
本実施形態では、上記したように、接合部40が含むシリコーン樹脂にフェニル基を導入することにより、接合部40は、-100℃から200℃の温度範囲において、熱膨張率のピークが存在しない性質を有している。
図3は、フェニル基を導入しないポリオルガノシロキサンの例としての、ポリジメチルシロキサンにおける温度と熱膨張率との関係を示すグラフである。図3において、横軸は温度を表し、縦軸は熱膨張率を表す。図3では、ポリジメチルシロキサンの熱膨張率のピークが、-30℃付近に存在することが示されている。以下では、この熱膨張率のピークの説明に先立って、ポリオルガノシロキサンの温度変化に伴う相転移について説明する。
図4は、ポリオルガノシロキサンのような高分子の相転移を模式的に表す説明図である。図4に示すように、ポリオルガノシロキサンは、一般に、固体状態において、結晶部分(分子鎖が規則的に配列する部分)と非晶部分(液体状態がそのまま凍結した部分)とを有している。そして、このような固体状態の高分子が温度上昇すると、結晶構造が失われて液体状態になり、また、液体状態の高分子が温度低下すると、部分的に結晶化が起きて結晶部分が生じる。
図5は、上記高分子の温度変化に伴う相転移を、さらに詳しく概念的に示す説明図である。ポリオルガノシロキサンの固体を極低温から昇温した時には、ガラス転移温度Tgにおいては非晶部分が融解し、さらに昇温させると、融点Tmにおいては結晶部分が融解する。また、融解したポリオルガノシロキサンの降温時には、結晶化温度Tcにおいて一部の分子が結晶化して結晶部分を形成し、さらに降温させると、ガラス転移温度Tgにおいては残余の部分が凍結され非晶部分となる。ただし、硬化させた高分子は分子間が架橋されており、上記した融解は架橋点間で生じる変化であるため、高分子が融点Tm以下の温度になっても、高分子全体は、軟化するものの流動化することはない。
図3に示すようなポリオルガノシロキサンの熱膨張率のピークは、ポリオルガノシロキサンの骨格の融点Tmや結晶化温度Tcに相当する温度付近で生じると考えられる。すなわち、ポリオルガノシロキサンにおいて、骨格に相当する結晶部分が、温度変化に伴って融解や結晶化を起こすときには、大きな熱膨張率の変化が引き起こされると考えられる。特に、ポリジメチルシロキサンのように、比較的高度の立体規則性(対称な構造)を有する場合には、降温時に結晶化し易く、結晶部分の割合が高くなって、上記した熱膨張率の変化(ピークの大きさ)が大きくなる傾向がある。
これに対して、本実施形態では、ポリオルガノシロキサンにフェニル基を導入することにより、上記した熱膨張率のピークを抑え、ピークが存在しない状態にしている。すなわち、本実施形態では、フェニル基の導入により、分子構造を非対称化して立体規則性を低下させることにより、結晶部分の割合を低下させて非晶部分の割合を増加させている。その結果、シリコーン樹脂の融点Tmや結晶化温度Tcにおいて、結晶部分の融解や結晶化に起因する熱膨張率の変化が抑えられると考えられる。上記のように熱膨張率のピークを抑えることにより、-100℃から200℃の温度範囲において、接着用構造体の温度を変化させて接着用構造体の熱膨張率を測定したときの、温度変化1℃あたりの熱膨張率の変化量を、-5×10-6(K-2)より大きく5×10-6(K-2)より小さくすることが望ましい。
接合部40が備えるシリコーン樹脂におけるフェニル基の含有量は、シリコーン樹脂中の結晶部分の割合を十分に低下させる観点から、3mol%を超えることが好ましく、4mol%以上とすることがより好ましく、5mol%以上とすることがさらに好ましい。また、フェニル基を導入することにより、フェニル基同士がπ-πスタッキングによる相互作用を引き起こし、結晶化を招くことを抑える観点から、シリコーン樹脂中のフェニル基の含有量は、16mol%未満とすることが好ましく、12mol%以下とすることがより好ましく、8mol%以下とすることがさらに好ましい。ここで、上記フェニル基の導入割合を表す「mol%」は、シリコーン樹脂が有するすべての側鎖の官能基の合計のモル数に対する、側鎖に導入されたフェニル基のモル数の割合を示す。なお、シリコーン樹脂は、フェニル基に加えて、さらに他の官能基が導入されていてもよい。シリコーン樹脂の既述した温度変化1℃あたりの熱膨張率の変化量を、-5×10-6(K-2)より大きく5×10-6(K-2)より小さくすることができるならば、フェニル基の含有量は上記した範囲外であってもよく、例えばシリコーン樹脂に導入される他の官能基の種類や割合に応じて、フェニル基の含有量を適宜調整することができる。シリコーン樹脂に導入されるフェニル基以外の官能基が、メチル基よりも大きくかさ高い官能基であれば、フェニル基と同様に、シリコーン樹脂への導入により、シリコーン樹脂の結晶部分を低減する効果を得ることが可能になる。
なお、「接合部40を構成するシリコーン樹脂の側鎖にフェニル基が導入されていること」「シリコーン樹脂におけるフェニル基の含有量」「ケイ素原子(Si)に対し、片側のみにフェニル基が結合しているのか、両側にフェニル基が結合しているのか(すなわち、一般式(A)においてR4のみがフェニル基であるのか、R3とR4の双方がフェニル基であるのか)」といった事項は、1H-NMR測定、および29Si-NMR測定を実施することで特定可能である。
接合部40が備えるシリコーン樹脂は、単一種類のポリオルガノシロキサンからなることが好ましい。「単一種類のポリオルガノシロキサンからなる」とは、接合部40を構成する全てのポリオルガノシロキサンが、上記一般式(A)において、R1,R2,R3,R4のいずれの置換基においても一意に定められた分子構造を有していることを意味し、R1,R2,R3,R4の全てまたはいずれかの置換基が異なる分子構造を有するポリオルガノシロキサンの混合物でないことを意味する。複数種類の樹脂の混合物の場合には、接合部40の作製時に、樹脂の分離を抑えて攪拌等により均一化するための動作が必要になる可能性があるが、単一種類のポリオルガノシロキサンからなることとすれば、ポリオルガノシロキサンの分子同士の相溶性が向上して接合部40の材料の均一化が容易になる。
接合部40は、セラミック粉末等の種々の充填材(無機フィラー)を含むことができる。具体的には、例えば、二酸化ケイ素(シリカ:SiO2)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al23)、酸化イットリウム、フッ化イットリウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、酸化鉄、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等のうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。
接合部40は、さらに、接着剤の硬化速度の調整を目的とする反応抑制剤、硬化反応を促進する触媒、硬化や接着を促進するためのシランカップリング剤、あるいは架橋剤等を含んでいてもよい。接合部40が含む反応抑制剤としては、従来知られる種々の反応抑制剤を利用可能であり、例えば、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン、トリアリルイソシアヌレート等を用いることができる。接合部40が含む触媒としては、従来知られる種々の触媒を利用可能であり、例えば、白金触媒、ロジウム触媒、チタン触媒、ビスマス触媒等を用いることができる。中でも、反応性が高い白金触媒を用いることが望ましい。接合部40が含むシランカップリング剤としては、特に制限は無く、例えば、有機反応性基としてビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基のいずれかを有するものなど、従来知られるシランカップリング剤の中から適宜選択することができる。接合部40が含む架橋剤としては、1分子中に少なくとも3つのヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いることができる。より具体的には、例えば、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、および、ポリ(ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン)の少なくとも一方を用いることができる。
(A-3)静電チャックの製造方法:
次に、本実施形態における静電チャック10の製造方法を説明する。はじめに、チャック電極22およびヒータ電極等の導電性材料層が内部に配置された板状のセラミック部20を作製する。セラミック部20の作製は、例えば、公知のシート積層法やプレス成形法により行うことができる。そして、さらに、ベース部30と、接合部40を形成するための接着シートとを準備する。
接着シートを作製するためには、まず、硬化前のシリコーン樹脂、白金触媒、シランカップリング剤、架橋剤、充填材等の接合部40の構成材料を真空下で撹拌することにより、ペースト状のシリコーン樹脂組成物(接着ペースト)を作製する。そして、作製した接着ペーストを、ロールコーター等を用いてシート状に成形した後、適宜設定した温度および時間の条件下で加熱し、半硬化させることにより、接着シートを得る。その後、セラミック部20とベース部30との間に接着シートを配置し、真空中で貼り合せて加熱する。これにより、接着剤が硬化して接合部40が形成され、セラミック部20とベース部30とが接合部40により接着される。その後、必要により後処理(外周の研磨、端子の形成等)を行うことにより、静電チャック10が製造される。
以上のように構成された本実施形態の静電チャック10によれば、接合部40は、ポリオルガノシロキサン構造における側鎖の一部にフェニル基が導入されたシリコーン樹脂を含んでいる。そして、上記フェニル基の導入により、フェニル基が導入されていない場合には熱膨張率が極めて大きくなる温度条件(例えば、シリコーン樹脂の融点Tmや結晶化温度Tcに対応する比較的低温の温度条件)であっても、温度変化に伴う接合部40の熱膨張率の増大が抑えられている。その結果、接合部40において熱応力の発生を抑え、熱応力に起因する接合部40の損傷等(例えば、接合部40の剥離等)の不都合を抑えることができる。このことは、フェニル基の導入によって、シリコーン樹脂における結晶部分の割合が低下され、結晶部分の融解や結晶化に起因する熱膨張率の変化が抑えられ、その結果、-100℃から200℃の温度範囲において、接合部40における熱膨張率のピークが抑えられる(熱膨張率のピークが存在しない状態にしている)ことによると考えられる。
B.第2実施形態:
第2実施形態の静電チャック10は、接合部40の組成が異なる点を除いて、第1実施形態の静電チャック10と同様の構成を有する。第2実施形態において、第1実施形態の静電チャック10と共通する部分には同じ参照番号を付す。
第2実施形態の静電チャック10が備える接合部40を構成する接着用構造体は、第1実施形態と同様のセラミック樹脂組成物に加えて、さらに、平均粒子径が50nm以下の無機微粒子を含んでいる。無機微粒子は、表面に極性基を有していればよく、従来公知の種々の無機微粒子を使用することが可能であり、特に限定されない。無機微粒子としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ:SiO2)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al23)、酸化チタン(チタニア:TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO2)カーボンブラックのうちの少なくとも一種によって形成される微粒子を用いることができる。無機酸化物で構成される微粒子を用いるならば、シリコーン樹脂組成物の絶縁性を保つことが容易になる。無機微粒子の構成材料としては、酸化ケイ素を用いることが、より好ましい。
本実施形態では、接合部40が無機微粒子を含むことにより、接合部40の熱膨張率および熱膨張率の変化量を抑えている。無機微粒子の添加により接合部40の熱膨張率が抑えられる理由は、以下のように推定される。
図6は、接合部40に含まれるシリコーン樹脂(ポリオルガノシロキサン)を構成する高分子の相転移を模式的に表す説明図である。無機微粒子は極性基を有するため、第2実施形態の接合部40では、図6に示すように、無機微粒子の表面の極性基と、シリコーン樹脂の極性成分とが結合して(無機微粒子の表面にポリオルガノシロキサン骨格の一部が吸着して)、ポリオルガノシロキサン骨格において擬似的な架橋点が形成されると考えられる。このように擬似的な架橋点が形成されると、ポリオルガノシロキサン骨格の動きが擬似的な架橋点によって制限される。その結果、シリコーン樹脂が温度変化するときに、ポリオルガノシロキサン骨格の大規模な結晶化や溶融が抑制されて、接合部40の熱膨張率、および、熱膨張率の変化量が抑えられると考えられる。第2実施形態の接合部40が備えるシリコーン樹脂は、第1実施形態と同様にフェニル基が導入されて、結晶部分の割合が低下されているが、無機微粒子をさらに含有して、上記のようにポリオルガノシロキサン骨格の移動が制限されることにより、結晶部分の割合がさらに抑えられる。
なお、第2実施形態の無機微粒子は、接合部40における熱伝導率、強度、耐熱性等の制御、あるいは、接合部40を形成するためのペーストの粘度調整等を行うための充填材(無機フィラー)に含まれるものであり、上記した擬似的な架橋点の形成以外にも、種々の機能を果たすものであってもよい。
接合部40が含有する無機微粒子の平均粒径は、既述したように、50nm以下とすればよい。これにより、接合部40に添加する無機微粒子の量(質量)に対して、無機微粒子の粒子数をより多く確保して、上記した擬似的な架橋点をより多く形成することができるため、接合部40の熱膨張率および熱膨張率の変化量を抑えることが容易になる。また、無機微粒子の平均粒径は、5nm以上とすることが好ましい。このようにすれば、上記した擬似的な架橋点の数が過剰になることを抑制可能となる。擬似的な架橋点が過剰に存在すると、接合部40を構成するシリコーン樹脂組成物が硬くなり、接合部40の柔軟性が低下する可能性がある。擬似的な架橋点が過剰に形成されることを抑えて接合部40の柔軟性の低下を抑えることにより、異種材料から成る部材であるセラミック部20とベース部30との間で接合部40において生じる応力を緩和する機能を、確保することができる。
無機微粒子の平均粒径の測定方法について説明する。無機微粒子の平均粒径は、公知の透過型電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社製のJEM-ACE200Fハイスループット解析電子顕微鏡)により測定できる。具体的には、無機微粒子を撮影した画像(接合部40の断面の拡大画像)に対し、スケールバーをあて、例えば20以上の粒子について粒子径を測定する。このとき、粒子径は、各粒子が取り得る最大幅とすればよい。このようにして得られた各粒子の粒子径の測定値の平均値を、無機微粒子の平均粒径とすればよい。
接合部40が含有する無機微粒子の形状は、特に制限されない。例えば、球状、粒状、不規則形状(不規則な形状を有するもの、不定形のもの)が挙げられる。無機微粒子の分散性を良好にして均一分散することで、シリコーン樹脂との疑似架橋点を形成し易くして、接合部40の熱膨張率および熱膨張率の変化量の抑制を効果的に行う観点から、無機微粒子の形状は、球状とすることがより好ましい。
接合部40を構成する樹脂組成物における無機微粒子の含有割合は、上記した擬似的な架橋点の数を確保して、接合部40の熱膨張率および熱膨張率の変化量を抑える観点から、また、接合部40を構成する材料を混合する際に、材料の混合物の粘度を確保する観点から、0.05質量%以上とすることが好ましく、0.1質量%以上とすることがより好ましく、0.15質量%以上とすることがさらに好ましい。また、接合部40を構成する樹脂組成物における混合割合は、シリコーン樹脂の硬化反応を妨げる影響を抑えると共に、擬似的な架橋点が過剰となることに起因してシリコーン樹脂組成物が硬くなる影響を抑える観点から、2.5質量%以下とすることが好ましく、1.0質量%以下とすることがより好ましく、0.5質量%以下とすることがさらに好ましい。
さらに、接合部40を構成する樹脂組成物における混合割合は、接合部40を構成する樹脂組成物の弾性率が高くなることに起因して、静電チャック10の平面度が低下することを抑える観点から、また、接合部40を構成する樹脂組成物の伸び率やせん断歪みが低下することに起因して、静電チャック10の信頼性や耐久性が低下することを抑える観点から、1.5質量%以下とすることが好ましく、1.0質量%以下とすることがより好ましく、0.5質量%以下とすることがさらに好ましい。樹脂組成物の弾性率が高いほど、静電チャック10の温度変化に伴いベース部30が膨張あるいは収縮する影響を、セラミック部20が受け易くなり、セラミック部20の平面度が変化し易くなるためである。また、樹脂組成物の伸び率やせん断歪みが低下すると、接合部40の応力緩和性能が低下することにより、静電チャック10の温度変化に伴いベース部30が膨張あるいは収縮する際に、接合部40が損傷する可能性があるためである。
樹脂組成物における無機微粒子の含有割合の測定方法について説明する。無機微粒子の含有割合を測定するには、まず、静電チャック10から接合部40の部分を取り出して、取り出した接合部40の質量を測定する。接合部40の取り出しは、例えば、静電チャック10のセラミック部20を平面研削盤等で削り取り、接合部40を露出させた後に、カミソリのような薄い刃を用いて、接合部40をそぎ落とすことにより行えばよい。その後、取り出した接合部40中のシリコーン樹脂を、シリコーン溶解剤(例えば、株式会社日新化学研究所製シリコーンクリーナーX-300や、関東化学株式会社製KSRシリーズなど)により溶解し、得られた溶解液をろ過することで、溶解したシリコーン樹脂を除去する。ろ過により得られた残渣の質量を、無機微粒子の質量として測定し、予め測定した接合部40の質量に対する割合を、無機微粒子の含有割合として算出すればよい。なお、ろ過の際、目詰まりを防ぐため、必要に応じて上記溶解液を希釈した後、減圧濾過してもよい。また、接合部40が、本実施形態の無機微粒子以外に充填材を含む場合には、いずれの充填材も実質的に溶解しない液体を加えて上記した残渣を懸濁し、それぞれの充填材の粒子径に合わせたフィルターにてろ過することで、無機微粒子を分離すればよい。
以上のように構成された第2実施形態の静電チャック10によれば、接合部40は、ポリオルガノシロキサン構造における側鎖の一部にフェニル基が導入されたシリコーン樹脂に加えて、さらに、無機微粒子を含んでいる。そのため、接合部40を構成するシリコーン樹脂において、接合部40の熱膨張率および熱膨張率の変化量を抑えることができる。その結果、接合部40において熱応力の発生を抑え、熱応力に起因する接合部40の損傷等(例えば、接合部40の剥離等)の不都合を抑える効果を高めることができる。
特に、無機微粒子を添加することにより接合部40の熱膨張率を抑える効果は、無機微粒子が、ポリオルガノシロキサン骨格において擬似的な架橋点を形成するためであると考えられ、このような擬似的な架橋点は、静電チャック10の使用温度範囲と重なる広い温度範囲で維持されると考えられる。そのため、広い温度範囲、例えば、例えば室温(約25度)を超える比較的高い温度条件下であっても、無機微粒子の添加によって接合部40の熱膨張率および熱膨張率の変化量を抑える効果を得ることができる。
また、無機微粒子として酸化ケイ素を用いる場合には、接合部40を構成するシリコーン樹脂と無機微粒子との間で、-Si-O-の結合単位が共通しており、構造的な類似性が高い組み合わせとなる。そのため、他の無機微粒子、例えば酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムと比較すると、酸化ケイ素の方が、ポリオルガノシロキサンが表面に吸着しやすいため、ポリオルガノシロキサン分子同士での結晶化が抑制され、ポリオルガノシロキサンの結晶部分の融解や結晶化に起因する熱膨張率の変化が抑えられると考えられる。したがって、無機微粒子として酸化ケイ素を用いる場合には、無機微粒子の添加量を抑えつつ、無機微粒子の添加によってシリコーン樹脂の結晶化を抑える効果を高めることが可能となる。
C.実施例:
(C-1)接着用構造体としての特性の評価:
以下では、本開示の接着用構造体について、実施例に基づいて説明する。ここでは、シリコーン樹脂へのフェニル基の導入の有無やフェニル基の含有量、あるいは、無機微粒子の添加の有無や添加量が異なる接着用構造体として、サンプルS1~S3、サンプルS4~S7、サンプルS8~S15を作製し、比較した。
<各サンプルの作製>
各々のサンプルの組成は、シリコーン樹脂へのフェニル基の導入の有無やシリコーン樹脂におけるフェニル基の含有量、および、無機微粒子の添加の有無や無機微粒子の添加量以外の条件は、すべてのサンプルS1~S15の間で共通とした。すなわち、すべてのサンプルは、構成材料として、シリコーン樹脂、白金触媒、シランカップリング剤、架橋剤(オルガノハイドロジェンシロキサン)、充填材(無機微粒子よりも平均粒径が大きな酸化アルミニウム)を、共通する割合で含んでいる。
また、後述するように、一部のサンプル(サンプルS2,S9~S14)は、さらに、無機微粒子として微粉末シリカを含んでいる。微粉末シリカとしては、ヒュームドシリカを用いた。ヒュームドシリカは、ケイ素塩化物を気化し、高温の水素炎中における気相反応によって合成されたものであり、表面に親水性のシラノール基(Si-OH)を備える。ヒュームドシリカとしては、平均粒径16nm、比表面積102m2/g、水分量0.09%、かさ密度50g/Lのものを用いた。
また、後述するように、他の一部のサンプル(サンプルS15)は、さらに、無機微粒子として微粉末アルミナを含んでいる。微粉末アルミナとしては、ヒュームドアルミナを用いた。ヒュームドアルミナとしては、平均粒径13nm、比表面積100m2/g、水分量3.2%、かさ密度50g/Lのものを用いた。微粉末アルミナを用いた場合は、微粉末シリカを添加した場合と比較し、接着剤の経時変化が大きく、安定したサンプルの作製が、より困難であった。微粉末アルミナに含まれる水分量が比較的多く、水分とオルガノハイドロジェンシロキサンとが反応して、オルガノハイドロジェンシロキサンが分解し易いためと考えられる。
サンプルS1~S3は、角柱状のサンプルであり、フェニル基の導入の有無、および、無機微粒子(微粉末シリカ)の添加の有無を異ならせている。サンプルS1は、フェニル基の含有量が5.0ml%のシリコーン樹脂(ポリジメチルジフェニルシロキサン)を用いており、無機微粒子は含有していない。サンプルS2は、サンプルS1と同様のシリコーン樹脂を用いると共に、さらに、0.1質量%の無機微粒子を含有している。サンプルS3は、比較例であって、フェニル基を導入していないシリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン)を用いており、無機微粒子は含有していない。
サンプルS4~S7は、シート状のサンプルであり、フェニル基の導入の有無、および、フェニル基の含有量を異ならせている。サンプルS4~S7は、いずれのサンプルも無機微粒子は含有していない。サンプルS4は、フェニル基を導入していないシリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン)を用いており、サンプルS3と同じ組成である。サンプルS5は、フェニル基の含有量が3.3mol%のシリコーン樹脂(ポリジメチルジフェニルシロキサン)を用いている。サンプルS6は、フェニル基の含有量が5.0mol%のシリコーン樹脂(ポリジメチルジフェニルシロキサン)を用いている。サンプルS7は、フェニル基の含有量が16.0mol%のシリコーン樹脂(ポリジメチルジフェニルシロキサン)を用いている。
サンプルS8~S15は、シート状のサンプルであり、無機微粒子の添加の有無、無機微粒子の種類、および、無機微粒子の添加量を異ならせている。サンプルS8~S15は、いずれのサンプルも、フェニル基の含有量が5.0ml%のシリコーン樹脂(ポリジメチルジフェニルシロキサン)を用いている。サンプルS8は、無機微粒子を含有していない。サンプルS9は、0.04質量%の無機微粒子(微粉末シリカ)を含有している。サンプルS10は、0.1質量%の無機微粒子(微粉末シリカ)を含有している。サンプルS11は、0.25質量%の無機微粒子(微粉末シリカ)を含有している。サンプルS12は、0.5質量%の無機微粒子(微粉末シリカ)を含有している。サンプルS13は、1.0質量%の無機微粒子(微粉末シリカ)を含有している。サンプルS14は、2.5質量%の無機微粒子(微粉末シリカ)を含有している。サンプルS15は、1.0質量%の無機微粒子(微粉末アルミナ)を含有している。なお、サンプルS8は、サンプルS6と同じ組成である。
角柱状のサンプルの作製方法は、以下の通りである。硬化前のシリコーン樹脂、白金触媒、シランカップリング剤、架橋剤、無機微粒子(微粉末シリカ)、充填材(酸化アルミニウム)等の上記した構成材料を真空下で撹拌することにより、ペースト状のシリコーン樹脂組成物(接着ペースト)を作製した。その後、作製した接着ペーストを、例えば縦10mm、横20mm、深さ10mmのポリテトラフルオロエチレン容器に入れて、真空下で脱泡した後、適宜設定した温度および時間の条件下で加熱することによって、硬化させた。その後、硬化したシリコーン樹脂組成物をポリテトラフルオロエチレン容器から取り出した後、研磨することで、縦5mm、横5mm、高さ15mmの角柱状の試験片を作製した。
シート状のサンプルの作製方法は、以下の通りである。硬化前のシリコーン樹脂、白金触媒、シランカップリング剤、架橋剤、無機微粒子(微粉末シリカまたは微粉末アルミナ)、充填材(酸化アルミニウム)等の上記した構成材料を真空下で撹拌することにより、ペースト状のシリコーン樹脂組成物(接着ペースト)を作製した。その後、作製した接着ペーストを、ドクターブレードを用いてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に塗り広げた。次に、接着ペーストが塗り広げられたPETフィルムを切断し、その後、切断されたPETフィルム付きの接着ペーストを、乾燥機を用いて、適宜設定した温度および時間の条件下で加熱することによって半硬化または硬化させることにより、各サンプルとしての接着シートを作製した。
<熱膨張率の測定方法>
熱膨張率は、公知の熱膨張率測定装置(株式会社リガク製のThermo plus EVO2熱機械分析装置 TMAシリーズ)により測定した。具体的には、サンプルS1~S7として硬化後の試験片に圧縮荷重または引張荷重を付与しつつ、予め設定した昇温速度で昇温し、予め設定した時間間隔で、上記試験片の温度と長さの変化を測定して、熱膨張率を算出した。サンプルS1~S3としては、縦5mm、横5mm、高さ15mmの角柱状の試験片を用いた。サンプルS1~S3の熱膨張率の測定条件は、測定長15mm、荷重-10mN(圧縮荷重)、昇温速度10.0℃/min、時間間隔1.0秒とした。サンプルS4~S7としては、幅5mm、長さ20mm、厚さ0.35mmまたは0.15mmのシート状の試験片(測定部長さは中央部の15mmで、両側にチャック部が各2.5mmある)を用いた。サンプルS4~S7の熱膨張率の測定条件は、測定長15mm、荷重50mN(引張荷重)、昇温速度10.0℃/min、時間間隔1.0秒とした。例えば、-100~-90℃の温度範囲における熱膨張率は、以下の(1)式により算出した。
熱膨張率={(-90℃の試験片長さ)-(-100℃の試験片長さ)}÷(測定部の長さ)÷{(-90)-(-100)} …(1)
<粘度>
粘度は、公知の粘度測定機(東機産業(株)製コーンプレート型粘度計TVE-22H型)を使用して測定した。具体的には、サンプルS8~S15について、硬化前の接着ペーストを用いて、21℃において、ずり速度1s-1で粘度を測定し、当該粘度の値とした。
<引張弾性率>
図7は、引張弾性率の測定に用いた試験片60の形状を模式的に表す説明図である。引張弾性率は、公知の引張試験機(島津製作所製オートグラフ(AG-IS))を使用し、引張試験(50mm/分で実施)によって測定した。具体的には、サンプルS8~S15について、既述した硬化後の接着シートを切り出した幅10mm、長さ70mm、厚さ0.35mmの試験片60を用いて測定した。当該試験片60の両端から長さ20mmの各部分を治具62で保持し、中間の長さ30mmの部分で引張弾性率を測定した。当該試験片60が破断するまで引っ張りながら、サンプル長および荷重の変化を測定した。図7では、引っ張りの向きを白抜き矢印で示している。当該荷重を試験片60の断面積(幅10mm×厚さ0.35mm)で除すことにより、引張応力を算出した。引張弾性率は、以下の式(2)により算出される歪みを横軸とし、上記引張応力を縦軸とするグラフにおいて、上記引張応力が0.2~0.5MPaとなる範囲の傾きを計算することにより算出した。
歪み(%)=[引っ張り中のサンプル長(mm)-元のサンプル長(mm)]/元のサンプル長(mm) ・・・(2)
<伸び率>
伸び率は、公知の引張試験機(例えば、島津製作所製オートグラフ(AG-IS))を使用し、引張試験(50mm/分で実施)によって測定した。具体的には、サンプルS8~S15について、引張弾性率の測定と同様の図7に示した形状の試験片60を用いて測定した。伸び率は、当該試験片60が破断するまで引っ張り、破断したときのサンプル長(mm)から元のサンプル長(上記サンプルでは中間の長さ30mm)を引いた後、元のサンプル長(mm)で除すことにより算出した。伸び率を求める式を、以下に(3)式として示す。
伸び率(%)=[破断したときのサンプル長(mm)-元のサンプル長(mm)]/元のサンプル長(mm) ・・・(3)
<せん断接着歪み>
せん断接着歪み(歪み量)は、公知の引張試験機(島津製作所製オートグラフ(AG-IS))を使用し、引張試験によって測定した。
図8は、せん断接着歪みの算出方法を模式的に示す説明図である。図8(A)は、正面から見た様子を表し、図8(B)および図8(C)は、側面から見た様子を表す。また、図8(A)および図8(B)は、試験開始時の様子を表し、図8(C)は、試験開始後の様子を表す。サンプルS8~S15の試験片70は、各サンプルの半硬化の接着シートを、幅25mm×長さ100mm×厚さ0.3mmの2枚のアルミニウム板72の端25mm×12.5mmの部分にそれぞれ貼り付け、2枚のアルミニウム板72を互いに逆方向に引っ張ることができる向きで貼り合わせた後、所定の硬化条件で接着することにより作製した。試験片70の厚さt(2枚のアルミニウム板72にそれぞれ貼り付けられた接着シートの合計厚さ)は、0.7mmとした。次に、上記試験片70にせん断力が作用するように、2つのアルミニウム板72を相対移動させた。ここでは、引張試験機を用いて、一方のアルミニウム板72を接着面に平行な一方の方向に引張速度2mm/分で移動させながら、荷重と移動距離とを測定した。図8(B)では、2つのアルミニウム板72の相対的な移動の方向を、白抜き矢印で示している。荷重を移動前の試験片70の接着面積(25mm×12.5mm)で除すことにより、せん断接着応力を算出した。このような2枚のアルミニウム板72の相対移動を接着剤組成物が破断するまで継続し、せん断接着応力が最大になったときの移動距離ΔLを測定した(図8(C)参照)。最後に、以下の式(4)の通り、距離ΔLを移動前の接着剤組成物の合計厚さtで除すことにより、接着剤組成物のせん断接着歪み(%)を算出した。
せん断接着歪み(%)=(ΔL/t)×100 ・・・(4)
図9~図11は、サンプルS1~S3のそれぞれについて、熱膨張率を測定した結果、および、上記した熱膨張率の測定結果を用いて1℃当たりの熱膨張率の変化量を算出した結果を示す説明図である。ここでは、-100℃から200℃まで既述した条件で試験片を昇温させながら熱膨張率を測定したときの結果を示している。
図12は、サンプルS1~S3のそれぞれについて、温度と熱膨張率との関係を表すグラフを示した説明図である。図12は、図9~図11に示した熱膨張率の測定結果のうち、-100℃から150℃の範囲の結果を用いて作成した。
図13は、サンプルS1とS2とについて、図12に示した30℃以上の温度範囲の結果を、拡大して示す説明図である。
図12に示すように、フェニル基を導入していないシリコーン樹脂を用いた比較例のサンプルS3は、-30℃付近に熱膨張率のピークが見られた。例えば、図11にハッチングを付して示すように、サンプルS3の1℃当たりの熱膨張率の変化量は、-40℃では56.771×10-5(K-2)であり、-30℃では-54.196×10-5(K-2)であった。これに対して、図9、図10、および図12に示すように、フェニル基を導入したシリコーン樹脂を用いたサンプルS1およびS2では、-100℃から200℃の温度範囲において、このような熱膨張率のピークは認められなかった。すなわち、図11に示すように、比較例のサンプルS3では、-30℃付近において、1℃当たりの熱膨張率の変化量が、-5×10-6(K-2)以下、あるいは5×10-6(K-2)以上となるが、図9、図10に示すように、サンプルS1およびS2では、-100℃から200℃の温度範囲において、1℃当たりの熱膨張率の変化量は、-5×10-6(K-2)より大きく5×10-6(K-2)より小さかった。
また、図13に示すように、室温を超える温度範囲である30℃以上の温度範囲では、無機微粒子であるシリカ微粉末を添加したサンプルS2の方が、シリカ微粉末を含まないサンプルS1よりも、熱膨張率の値が小さくなることが確認された。
図14~図17は、サンプルS4~S7のそれぞれについて、熱膨張率を測定した結果、および、上記した熱膨張率の測定結果を用いて1℃当たりの熱膨張率の変化量を算出した結果を示す説明図である。ここでは、-100℃から200℃まで既述した条件で試験片を昇温させながら熱膨張率を測定したときの結果を示している。
図18は、サンプルS4~S7のそれぞれについて、温度と熱膨張率との関係を示す説明図である。図18は、図14~図17に示したサンプルS4~S7に係る測定結果を用いて作成した。
図18に示すように、フェニル基を導入していないシリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン)を用いた比較例のサンプルS4は、図14にハッチングを付して示すように、既述したサンプルS3と同様に、-30℃付近に熱膨張率の大きなピークが見られた。また、フェニル基を導入したシリコーン樹脂を用いたサンプルのうち、3.3ml%のフェニル基を導入したシリコーン樹脂を用いたサンプルS5と、16.0mol%のフェニル基を導入したシリコーン樹脂を用いたサンプルS7とは、ピークの大きさはサンプルS4に比べて小さいものの、熱膨張率のピークが見られた。具体的には、サンプルS5では、図15にハッチングを付して示すように-60℃付近において、サンプルS7では、図17にハッチングを付して示すように-70℃付近において、熱膨張率のピーク(1℃当たりの熱膨張率の変化量が、-5×10-6(K-2)以下、あるいは5×10-6(K-2)以上)が見られた。これに対して、5.0mol%のフェニル基を導入したシリコーン樹脂を用いたサンプルS6では、-100℃から200℃の温度範囲において、このような熱膨張率のピークは認められなかった。すなわち、サンプルS6では、-100℃から200℃の温度範囲において、1℃当たりの熱膨張率の変化量は、-5×10-6(K-2)より大きく5×10-6(K-2)より小さかった。以上より、ポリジメチルシロキサンの側鎖にフェニル基を導入したシリコーン樹脂を用いる場合には、-100℃から200℃の温度範囲において熱膨張率のピークが存在しない接着用構造体を得るために、フェニル基の含有量を3.3mol%よりも多く、16.0mol%よりも少なくすることが望ましいと考えられる。
図19は、サンプルS8~S15のそれぞれについて、-100℃から200℃の温度範囲における熱膨張率のピークの有無(温度変化1℃あたりの熱膨張率の変化量が、-5×10-6(K-2)より大きく5×10-6(K-2)より小さい範囲にあるか否か)と共に、既述した方法により測定した各サンプルの物性値をまとめた結果を示す説明図である。なお、「充填材の全比表面積(m2/サンプル100g)」は、用いた微粉末シリカのBET比表面積が102m2/gであり、用いた微粉末アルミナのBET比表面積が100m2/gであり、アルミナのBET比表面積が1.3m2/gであることを用いて、サンプルS8~S15をそれぞれ100g調合した場合、接着用構造体に含有される充填材、すなわち、無機微粒子と、無機微粒子以外の充填材であるアルミナとの全体について、BET比表面積を算出した値である。
図19に示すように、フェニル基の含有量が5.0mol%であるシリコーン樹脂を用いることにより、無機微粒子である微粉末シリカの添加量にかかわらず、-100℃から200℃の温度範囲において、熱膨張率のピークの発生は抑えられた。なお、微粉末シリカの添加量を増加させるほど、粘度が高まり、また、弾性率が大きくなる傾向があり、接着用構造体が硬く柔軟性が低い部材となった。これは、無機微粒子の添加量の増加と共に疑似架橋点が増加したためと考えられる。
また、微粉末シリカの添加量を未添加ならびに0.04質量%とした場合(サンプルS8,S9)には、0.1質量%以上添加した場合より、材料の混合物の粘度が低いことに起因して、接着シートを作製する際に気泡を巻き込みやすく、熱膨張率や熱伝導率の特異点になり易い傾向があった。このことから、無機微粒子の添加量は、0.05質量%以上とすることが、より望ましいと考えられる。
また、微粉末シリカの添加量を2.5質量%とした場合(サンプルS14)には、0.1質量%(サンプルS10)~1.0質量%(サンプルS13)と比較すると、弾性率が比較的大きく上昇すると共に、伸び率やせん断歪みが低下した。接合部40の弾性率が大きくなると、静電チャック10の温度変化に伴いベース部30が膨張あるいは収縮する影響を、セラミック部20が受け易くなり、セラミック部20の平面度が変化し易くなると考えられる。また、樹脂組成物の伸び率やせん断歪みが低下すると、接合部40の応力緩和性能が低下することにより、静電チャック10の温度変化に伴いベース部30が膨張あるいは収縮する際に、接合部40が損傷する可能性が高まると考えられる。このことから、静電チャック10の使用温度がより高く、温度変化の変化幅がより大きく、温度変化の速度がより速くなるような厳しい条件下であっても、静電チャック10の平面度を維持し、信頼性や耐久性を確保する観点から、無機微粒子の添加量は、1.5質量%以下とすることが、より望ましいと考えられる。
さらに、図19には示していないが、微粉末シリカの添加量を5.0質量%とした場合には、材料の混合物の粘度が高すぎることにより、材料を混練して接着ペーストを作製することが困難になる場合があった。以上より、無機微粒子を添加することによる熱膨張率および熱膨張率の変化量を抑える効果を得つつ、接着ペーストの粘度の上昇や接着用構造体の硬度を抑える観点から、図19に示したサンプルにおいては、無機微粒子の添加量は0.1質量%がより好ましいと考えられる。
(C-2)接合部として組み込んだときの特性の評価:
次に、上記したサンプルS1~S15と同じ組成の接着用構造体を接合部40として用いて、セラミック部20とベース部30とを接合し、得られた積層体について剥離試験および割れ試験を行った結果について説明する。以下では、サンプルS1~S15と同じ組成の接着用構造体を接合部40として作製した積層体についても、それぞれ、備える接着用構造体と同様に、サンプルS1~S15と呼ぶ。なお、既述したように、サンプルS4はサンプルS3と同じ組成であり、サンプルS8はサンプルS6と同じ組成である。上記した積層体としてのサンプルS1~S15は、市販の超低温フリーザに入れて-150℃にて少なくとも100時間放置し、その後室温に戻し、セラミック部20およびベース部30との間における接合部40の剥離の有無、ならびにセラミック部20の割れの有無を評価した。
剥離試験において、接合部40の剥離の有無は、公知の超音波探傷装置を用い、超音波をセラミック部20とベース部30とから照射し、セラミック部20と接合部40との接着界面の剥がれ、ベース部30と接合部40との接着界面の剥がれ、および、接合部40の内部の裂けを評価した。超音波探傷で剥がれや裂けが見られたものを剥離「あり」、超音波探傷で剥がれや裂けが見られなかったものを剥離「なし」と評価した。測定結果としては、サンプルS3、S4で剥離「あり」、サンプルS1、S2ならびにS5~S15で剥離「なし」であった。
また、割れ試験において、セラミック部20の割れの有無は、セラミック部20を目視で観察し、割れが見られたものを割れ「あり」、割れが見られなかったものを割れ「なし」と評価した。測定結果としては、セラミック部20の割れはS1からS15のいずれも割れ「なし」であった。
フェニル基を導入していないシリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン)を用いた比較例としてのサンプルS3、S4は、セラミック部20の強度よりも接着界面や接合部40の強度の方が低かったため、セラミック部20の割れは起こらず、接合部40の剥離のみが生じたと考えられる。
D.他の実施形態:
本開示の接着用構造体は、静電引力を利用してウェハWを保持する静電チャック以外の保持装置に適用してもよい。すなわち、セラミック部と、ベース部と、セラミックス部とベース部とを接合する接合部と、を備え、セラミック部の表面上に対象物を保持する他の保持装置、例えば、CVD、PVD、PLD等の真空装置用ヒータ装置や、真空チャック等にも同様に適用可能である。
また、本開示の接着用構造体は、上記した保持装置に限らず、複数の部材を接合して成る複合部材において、複数の部材のうちの隣り合う部材間を接合する接合部に適用してもよい。例えば、サーマルインターフェースマテリアルを介した放熱部材(ヒートシンク)と半導体デバイスとの間の接合部、あるいは、サーマルインターフェースマテリアルを介した放熱部材(ヒートシンク)と半導体デバイス用パッケージとの間の接合部に適用することができる。また、アンダーフィル材料を介した半導体デバイスと半導体デバイス用パッケージとの間の接合部に適用してもよい。あるいは、発光ダイオードやレーザーダイオードなどの光デバイスと、光デバイス用パッケージと、の間の接合部に適用してもよい。
図20~図22は、本開示の接着用構造体を適用した他の実施形態としての複合部材の構成を模式的に表す説明図である。図20は、接合部140によってヒートシンク180が接合された半導体デバイス182を、はんだ184によって半導体デバイス用パッケージ186に接続した複合部材110を表す。このような装置において、本開示の接着用構造体は、放熱部材であるヒートシンク180と半導体デバイス182との間に配置されて、サーマルインターフェースマテリアルの役割を兼ねる接合部140に、適用することができる。また、図21は、接合部240によってヒートシンク280が接合された半導体デバイス用パッケージ286を、はんだ284によって半導体デバイス282に接続した複合部材210を表す。このような装置において、本開示の接着用構造体は、放熱部材であるヒートシンク280と半導体デバイス用パッケージ286との間に配置されて、サーマルインターフェースマテリアルの役割を兼ねる接合部240に、適用することができる。図22は、半導体デバイス382を、はんだ384によって半導体デバイス用パッケージ386に接続した複合部材310を表す。このような装置において、本開示の接着用構造体は、半導体デバイス用パッケージ386と半導体デバイス382との間に配置されて、アンダーフィルの役割を兼ねる接合部342、および、封止材の役割を兼ねる接合部344に、適用することができる。
このように、種々の装置や部材に本開示の接着用構造体を適用する場合であっても、適用した装置や部材を、-100℃から200℃の温度範囲で使用する際に、熱膨張率のピークが抑えられる。そのため、接着用構造体において熱応力の発生を抑えて、熱応力に起因する接着用構造体の損傷等の不都合を抑えることができる。
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
10…静電チャック
20…セラミック部
22…チャック電極
24…載置面
30…ベース部
32…冷媒流路
40,140,240,342,344…接合部
50…ガス供給路
52…ガス吐出口
60…試験片
62…治具
70…試験片
72…アルミニウム板
110,210,310…複合部材
180,280…ヒートシンク
182,282,382…半導体デバイス
186,286,386…半導体デバイス用パッケージ

Claims (2)

  1. 対象物を保持する保持装置であって、
    セラミックを主成分とし、板状に形成されるセラミック部と、
    金属を含み、板状に形成されたベース部と、
    前記セラミック部と前記ベース部との間に配置され、前記セラミック部と前記ベース部とを接合する接着用構造体と、
    を備え、
    前記接着用構造体は、
    ポリオルガノシロキサン構造における側鎖の一部にフェニル基が導入されたシリコーン樹脂と、
    平均粒子径が50nm以下の無機微粒子と、
    を含み、
    前記無機微粒子の含有割合が、0.05質量%以上、2.5質量%以下であり、
    -100℃から200℃の温度範囲全体において、前記接着用構造体の温度を変化させて前記接着用構造体の熱膨張率を測定したときの、温度変化1℃あたりの熱膨張率の変化量が、-5×10-6(K-2)より大きく5×10-6(K-2)より小さい」の範囲を満たすことを特徴とする
    保持装置
  2. 請求項1に記載の保持装置であって、
    前記無機微粒子は、酸化ケイ素粒子を含むことを特徴とする
    保持装置
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