A.実施形態:
A−1.静電チャック100の構成:
図1は、本実施形態における静電チャック100の外観構成を概略的に示す斜視図であり、図2は、本実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。図3は、図2のX1部における静電チャック100のXZ断面構成を拡大して示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、静電チャック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
静電チャック100は、対象物(例えばウェハW)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバー内でウェハWを固定するために使用される。静電チャック100は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に並べて配置された板状部材10およびベース部材20を備える。板状部材10とベース部材20とは、板状部材10の下面S2(図2参照)とベース部材20の上面S3とが上記配列方向に対向するように配置される。静電チャック100は、さらに、板状部材10の下面S2とベース部材20の上面S3との間に配置された接合部30を備える。静電チャック100は、特許請求の範囲における複合部材に相当し、接合部30は、特許請求の範囲における接合部に相当する。
板状部材10は、上述した配列方向(Z軸方向)に略直交する略円形平面状の上面(以下、「吸着面」という)S1を有する部材であり、例えばセラミックスにより形成されている。なお、板状部材10の直径は例えば100mm〜500mm程度(通常は200mm〜350mm程度)であり、板状部材10の厚さは例えば1mm〜10mm程度である。
板状部材10の形成材料としては、種々のセラミックスが用いられ得るが、強度や耐摩耗性、耐プラズマ性等の観点から、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al2O3)または窒化アルミニウム(AlN)を主成分とするセラミックスが用いられることが好ましい。なお、本明細書において主成分とは、含有割合(重量割合)の最も多い成分を意味する。
図2に示すように、板状部材10の内部には、導電性材料(例えば、タングステン、モリブデン、白金等)により形成されたチャック電極40が設けられている。Z軸方向視でのチャック電極40の形状は、例えば略円形である。チャック電極40に電源(図示せず)から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWが板状部材10の吸着面S1に吸着固定される。
また、板状部材10の内部には、導電性材料(例えば、タングステン、モリブデン、白金等)を含む抵抗発熱体により構成されたヒータ電極50が設けられている。Z軸方向視でのヒータ電極50の形状は、例えば略螺旋状である。ヒータ電極50に電源(図示せず)から電圧が印加されると、ヒータ電極50が発熱することによって板状部材10が温められ、板状部材10の吸着面S1に保持されたウェハWが温められる。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。
ベース部材20は、例えば板状部材10と同径の、または、板状部材10より径が大きい略円形平面の部材である。ベース部材20の直径は、例えば220mm〜550mm程度(通常は220mm〜350mm程度)であり、ベース部材20の厚さは、例えば10mm〜40mm程度である。ベース部材20は、例えば、金属や種々の複合材料により形成されている。金属としては、Al(アルミニウム)やTi(チタン)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、または、それらの合金が用いられることが好ましい。複合材料としては、炭化ケイ素(SiC)を主成分とする多孔質セラミックスに、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金を溶融して加圧浸透させた複合材料が用いられることが好ましい。複合材料に含まれるアルミニウム合金は、Si(ケイ素)やMg(マグネシウム)を含んでいてもよいし、性質等に影響の無い範囲でその他の元素を含んでいてもよい。
ベース部材20の内部には冷媒流路21が形成されている。冷媒流路21に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)が流されると、ベース部材20が冷却され、接合部30を介したベース部材20と板状部材10との間の伝熱(熱引き)により板状部材10が冷却され、板状部材10の吸着面S1に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度分布の制御が実現される。
接合部30は、板状部材10の下面S2とベース部材20の上面S3との間に配置され、板状部材10とベース部材20とを接合している。接合部30の厚さは、例えば0.1mm〜1mm程度である。なお、接合部30は、板状部材10の下面S2の全面に配置されていてもよく、または、下面S2の一部のみに配置されていてもよい。なお、接合部30の構成については、後に詳述する。
A−2.チャック電極40およびヒータ電極50への給電のための構成:
次に、図2および図3を用いて、チャック電極40およびヒータ電極50への給電のための構成について説明する。
静電チャック100は、ヒータ電極50への給電のための構成を備えている。すなわち、図2に示すように、静電チャック100には、ベース部材20の下面S4から板状部材10の内部に至るヒータ電極用端子用孔150が形成されている。ヒータ電極用端子用孔150は、ベース部材20を上下方向に貫通する貫通孔25と、接合部30を上下方向に貫通する貫通孔35と、板状部材10の下面S2側に形成された凹部15とが、互いに連通することにより構成された一体の孔である。本実施形態では、ヒータ電極用端子用孔150を構成する貫通孔25,35は、断面(面方向に平行な断面)が円形状の孔である。
板状部材10におけるヒータ電極用端子用孔150を構成する凹部15の底面SB(図3参照)には、ヒータ電極用ビア51を介してヒータ電極50と電気的に接続されたヒータ電極用電極パッド52が配置されている。本実施形態では、Z軸方向視でのヒータ電極用電極パッド52の形状は、略円形である。ヒータ電極用電極パッド52およびヒータ電極用ビア51は、導電性材料(例えば、タングステン、モリブデン、白金等)により形成されている。なお、ヒータ電極用電極パッド52は、厚さ方向(Z軸方向)の全体が板状部材10から露出している。ただし、ヒータ電極用電極パッド52の下面が板状部材10から露出している限りにおいて、ヒータ電極用電極パッド52における厚さ方向の一部分または全体が、板状部材10に埋設されていてもよい。
ヒータ電極用端子用孔150内には、Z軸方向に延びる柱状かつ金属製のヒータ電極用給電端子54が配置されている。本実施形態では、ヒータ電極用給電端子54のXY断面(面方向に平行な断面)は、円形である。ヒータ電極用給電端子54の上端は、ヒータ電極用電極パッド52と隙間を介して対向しており、ヒータ電極用給電端子54は、例えば、ヒータ電極側ろう付け部56によってヒータ電極用電極パッド52に接合されている。
ベース部材20とヒータ電極用端子用孔150内に配置されたヒータ電極用給電端子54との間を絶縁するため、ヒータ電極用端子用孔150内には、管状の絶縁部材80が配置されている。絶縁部材80は、ヒータ電極用給電端子54とヒータ電極用端子用孔150の表面との間に介在するように、ヒータ電極用給電端子54を連続的に取り囲んでいる。絶縁部材80は、例えば、樹脂やセラミックス等の絶縁材料により構成されている。なお、絶縁部材80と板状部材10との間、絶縁部材80と接合部30との間、および、絶縁部材80とベース部材20との間には、接着材85が配置され、板状部材10、接合部30およびベース部材20と、絶縁部材80とを接合している。接着材85の厚さは、例えば0.05mm〜0.5mm程度である。なお、接着材85は、絶縁部材80の外周面の全面に配置されていてもよく、または、当該外周面の一部のみに配置されていてもよい。なお、接着材85の構成については、後に詳述する。接着材85は、特許請求の範囲における接合部に相当する。
ヒータ電極50への給電のための構成は上述の通りである。静電チャック100の使用時には、電源(図示しない。)から、ヒータ電極用給電端子54、ヒータ電極用電極パッド52およびヒータ電極用ビア51を介してヒータ電極50に至る導通経路を介して、ヒータ電極50に電圧が印加される。これにより、ヒータ電極50が発熱する。
なお、チャック電極40への給電のための構成も、ヒータ電極50への給電のための構成と同様である。すなわち、図2に示すように、静電チャック100には、ベース部材20の下面S4から板状部材10の内部に至るチャック電極用端子用孔140が形成されている。チャック電極用端子用孔140は、ベース部材20を上下方向に貫通する貫通孔24と、接合部30を上下方向に貫通する貫通孔34と、板状部材10の下面S2側に形成された凹部14とが、互いに連通することにより構成された一体の孔である。また、板状部材10におけるチャック電極用端子用孔140を構成する凹部14の底面には、チャック電極用ビア41を介してチャック電極40と電気的に接続されたチャック電極用電極パッド42が配置されている。チャック電極用電極パッド42およびチャック電極用ビア41の構成については、ヒータ電極用電極パッド52およびヒータ電極用ビア51と同様であるため、説明を省略する。チャック電極用端子用孔140内には、Z軸方向に延びる柱状かつ金属製のチャック電極用給電端子44が配置されている。ベース部材20とチャック電極用端子用孔140内に配置されたチャック電極用給電端子44との間を絶縁するため、チャック電極用端子用孔140内には、管状の絶縁部材60が配置されている。また、絶縁部材60と板状部材10との間、絶縁部材60と接合部30との間、および、絶縁部材60とベース部材20との間には、接着材(図示せず)が配置され、板状部材10、接合部30およびベース部材20と、絶縁部材60とを接合している。絶縁部材60および接着材の構成については、絶縁部材80および接着材85と同様であるため、説明を省略する。
静電チャック100の使用時には、電源(図示しない。)から、チャック電極用給電端子44、チャック電極用電極パッド42およびチャック電極用ビア41を介してチャック電極40に至る導通経路を介して、チャック電極40に電圧が印加される。これにより、ウェハWを吸着面S1に吸着固定するための静電引力が発生する。
A−3.接合部30および接着材85の詳細構成:
次に、接合部30および接着材85の構成、具体的には、組成について、詳細に説明する。
接合部30および接着材85は、ポリオルガノシロキサン(以下、「シリコーン樹脂」ともいう)と、疎水性無機微粒子とを含むシリコーン接着剤組成物(以下、「シリコーン樹脂組成物」ともいう)で構成されている。
本発明で使用されるポリオルガノシロキサンは、両末端にR1 3SiO1/2単位(以下、「M単位」ともいう)と、m個のR2 2SiO2/2単位(以下、「第1のD単位」ともいう)とを含んでいる(ここで、mは1以上の整数である)。このようなポリオルガノシロキサンは、下記一般式(1)で表される。
(R1 3SiO1/2)2(R2 2SiO2/2)m ・・・一般式(1)
(R1は互いに独立に炭素数1〜12の非置換または置換の脂肪族炭化水素基であり、R2は互いに独立に炭素数1〜12の非置換または置換の脂肪族炭化水素基、または、炭素数6〜10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、かつ、上記ポリオルガノシロキサンはケイ素原子(Si原子)に直接結合するアルケニル基を1分子中に少なくとも2個含んでいる)また、シリコーン接着剤組成物の柔軟性を高める観点から、ポリオルガノシロキサン構造中に、RSiO3/2単位(T単位)およびSiO4/2単位(Q単位)を含まないことが好ましい。
上記ポリオルガノシロキサンは、より好ましくは、さらに、n個のR3R4SiO2/2単位(以下、「第2のD単位」ともいう)を含んでいる(ここで、nは1以上の整数である)。このようなポリオルガノシロキサンは、下記一般式(2)で表される。
(R1 3SiO1/2)2(R2 2SiO2/2)m(R3R4SiO2/2)n ・・・一般式(2)
(R2は互いに独立に炭素数1〜12の非置換または置換の脂肪族炭化水素基であり、R3は炭素数1〜12の非置換もしくは置換の脂肪族炭化水素基、または、炭素数6〜10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、R4は炭素数6〜10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基である)
上記一般式(1)および(2)において、R1およびR2は、より好ましくは、炭素数2〜8のアルケニル基、または、炭素数1〜12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基である。炭素数2〜8のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。炭素数1〜12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基;並びにこれらの基の炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つがフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換された基等が挙げられる。
上記一般式(1)および(2)のM単位において、M単位に含まれるR1の内の少なくとも1つは、より好ましくは、炭素数2〜8のアルケニル基であり、さらに好ましくは、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基およびブテニル基を含む炭素原子数2〜4の低級アルケニル基であり、特に好ましくは、ビニル基である。上記一般式(1)および(2)のM単位において、M単位に含まれるR1の内の残りの2つは、より好ましくは、互いに独立に炭素数1〜12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基およびイソプロピル基を含む炭素原子数1〜3の低級アルキル基であり、特に好ましくは、メチル基である。すなわち、上記一般式(1)および(2)のM単位において、M単位に含まれるR1の内の1つは、ビニル基であり、R1の内の残りの2つは、メチル基であることが好ましい。上記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンとして、特に好ましくは、ビニル末端ポリジメチルシロキサンである。
上記一般式(2)において、R3は、より好ましくは、炭素数1〜12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基、または、炭素数6〜10の非置換もしくは置換の一価芳香族炭化水素基である。炭素数1〜12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基としては、上記一般式(2)におけるR1およびR2として例示したものと同じものを例示することができる。炭素数6〜10の非置換もしくは置換の一価芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基等のアラルキル基;並びにこれらの基の炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つがフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換された基などが挙げられる。上記一般式(2)において、R3は、さらに好ましくは、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基を含むアリール基であり、特に好ましくは、フェニル基である。
上記一般式(2)において、R4は、より好ましくは、炭素数6〜10の非置換もしくは置換の一価芳香族炭化水素基である。炭素数6〜10の非置換もしくは置換の一価芳香族炭化水素基としては、上記一般式(2)におけるR3として例示したものと同じものを例示することができる。上記一般式(2)において、R4は、さらに好ましくは、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基を含むアリール基であり、特に好ましくは、フェニル基である。上記一般式(2)において、R3とR4とは、同一の置換基であることが好ましい。上記一般式(2)で表されるポリオルガノシロキサンとして、特に好ましくは、ビニル末端ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマーである。
上記一般式(2)で表されるポリオルガノシロキサンにおける上記芳香族炭化水素基の含有量は、3mol%以上、16mol%以下である。上記ポリオルガノシロキサンにおける上記芳香族炭化水素基の含有量が3mol%未満であると、上記芳香族炭化水素基を導入することによるガラス転移温度の低下効果が充分に発揮され難い傾向がある。これに対し、上記ポリオルガノシロキサンにおける上記芳香族炭化水素基の含有量が16mol%を超えると、上記芳香族炭化水素基同士がπ−πスタッキングによる相互作用を引き起こし、結晶化を招き、ガラス転移温度が上昇する傾向がある。上記ポリオルガノシロキサンにおける上記芳香族炭化水素基の含有量は、より好ましくは、4mol%以上、14mol%以下であり、さらに好ましくは、5mol%以上、12mol%以下である。
上記シリコーン接着剤組成物に含まれる、上記構造を有するポリオルガノシロキサンは、単一種類のポリオルガノシロキサンからなることが好ましい。「単一種類のポリオルガノシロキサンからなる」とは、シリコーン接着剤組成物を構成する全てのポリオルガノシロキサンが、上記一般式(1)および(2)において、R1,R2,R3,R4のいずれの置換基においても一意に定められた分子構造を有していることを意味し、R1,R2,R3,R4の全てまたはいずれかの置換基が異なる分子構造を有するポリオルガノシロキサンの混合物でないことを意味する。なお、シランカップリング剤、硬化触媒、架橋剤等のシリコーン化合物の添加を排除するものではない。
シランカップリング剤は、接着性付与を目的として添加することができる。シランカップリング剤としては、従来公知のいずれのシランカップリング剤も使用することができ、特に限定されない。シランカップリング剤として、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリスメトキシエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、または、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等を用いることができる。なお、上記シランカップリング剤を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。シランカップリング剤の添加量は、上記シリコーン樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、20重量部以下である。当該添加量が0.1重量部未満であると、上記シリコーン接着剤組成物に十分な接着性が付与されない傾向がある。これに対し、当該添加量が20重量部を超えると、ポリオルガノシロキサンの硬化を阻害する傾向がある。当該添加量は、より好ましくは、0.5重量部以上、15重量部以下であり、さらに好ましくは、1重量部以上、10重量部以下である。なお、上記シランカップリング剤の代わりに、チタネート系カップリング剤やアルミネート系カップリング剤を使用してもよい。
硬化触媒は、硬化反応の促進を目的として添加することができる。硬化触媒としては、従来公知のいずれの硬化触媒も使用することができ、特に限定されない。硬化触媒としては、例えば、有機錫、無機錫、チタン触媒、ビスマス触媒、金属錯体、白金触媒、塩基性物質および有機燐酸化物等を用いることができる。硬化触媒は、より好ましくは、白金触媒、ロジウム触媒である。白金触媒は、例えば、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、または、キレート構造を有する白金錯体等である。なお、上記硬化触媒を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。硬化触媒の添加量は、上記ポリオルガノシロキサンに対して、白金の重量で、5ppm以上、100ppm以下である。当該添加量が5ppm未満であると、上記ポリオルガノシロキサンの硬化が十分に進行しなくなる傾向がある。これに対し、当該添加量が100ppmを超えると、硬化の進行が速くなるため、均一な組成物が得られない傾向がある。当該添加量は、より好ましくは、10ppm以上、70ppm以下であり、さらに好ましくは、15ppm以上、40ppm以下である。
架橋剤は、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと反応し、上記ポリオルガノシロキサンの主骨格の形成を目的として添加することができる。架橋剤としては、従来公知のいずれの架橋剤も使用することができ、特に限定されない。架橋剤は、1分子中に少なくとも3つのヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることが好ましい。このような架橋剤として、例えば、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、または、ポリ(ジメチルシロキサン−メチルハイドロジェンシロキサン)等を用いることができる。なお、上記架橋剤を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。架橋剤の添加量は、架橋剤中の[Si−H]基とアルケニル基含有ポリオルガノシロキサン中の[CH2=CH−]基のmol比を「[Si−H]/[CH2=CH−]」と表した場合、その値が、0.5以上、1.5以下である。当該添加量が0.5未満であると、上記ポリオルガノシロキサンの架橋が不十分となり、十分な強度を得られない傾向がある。これに対し、当該添加量が1.5を超えると、架橋が過剰に進行するため、柔軟性が失われる傾向がある。当該添加量は、より好ましくは、0.7以上、1.3以下であり、さらに好ましくは、0.9以上、1.1以下である。
本発明で使用される疎水性無機微粒子は、シリコーン接着剤組成物中の水分含有量が増加することを抑制できる。このため、上記疎水性無機微粒子は、シリコーン接着材組成物から構成される接合部30(接着材85)に含まれる水分によって、接合部30(接着材85)との接合面である、板状部材10の下面S2(凹部15の内面)やベース部材20の上面S3(貫通孔25の内面)における接着性が低下することを抑制することを目的として添加される。疎水性無機微粒子は、表面に疎水性基を有する無機微粒子である。疎水性無機微粒子は、例えば、表面処理剤を用いて無機微粒子を表面処理(具体的には、疎水化処理)することにより形成することができる。
上記無機微粒子としては、従来公知のいずれの無機微粒子も使用することができ、特に限定されない。無機微粒子として、例えば、シリコーン接着剤組成物を絶縁性に保つ観点から、無機酸化物で構成される微粒子を用いることができる。無機微粒子は、より好ましくは、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)等で構成される微粒子であり、さらに好ましくは、酸化ケイ素(SiO2)で構成される微粒子(シリカ微粒子)である。なお、上記無機微粒子を1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
上記疎水性基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、スチリル基、フェニル基等が挙げられる。当該疎水性基は、好ましくは、メチル基である。なお、上記疎水性無機微粒子は、上記疎水性基を1種単独又は2種以上含んでいてもよい。また、上記疎水性無機微粒子における無機微粒子表面の水酸基は、その全部が疎水性基で封鎖されていてもよく、また、その少なくとも一部が疎水性基で封鎖されていてもよい。
上述の通り、本発明の疎水性無機微粒子は、上記無機微粒子の表面が上記疎水性基で化学修飾されている。このような疎水性無機微粒子は、無機微粒子を表面処理剤で表面処理することにより作製することができる。表面処理剤としては、例えば、シラン系表面処理剤、シロキサン系表面処理剤、リン系表面処理剤等が挙げられる。シラン系表面処理剤としては、例えば、アルキルシラン、アルコキシシラン、ビニルシラン、エポキシシラン、アミノシラン、アクリルシラン、メタクリルシラン、メルカプトシラン、スルフィドシラン、イソシアネートシラン、サルファーシラン、スチリルシラン、アルキルクロロシラン等が挙げられる。シロキサン系表面処理剤としては、分子鎖末端がシラノール基および/またはアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン等のジオルガノポリシロキサン、分子中に官能性基を有さない無官能性の直鎖状または環状のジメチルポリシロキサン等のジオルガノポリシロキサン(いわゆるシリコーンオイル)等が挙げられる。好ましくは、シラン系表面処理剤またはシロキサン系表面処理剤が使用される。これは、Si原子の結合手が4本で対称性が高いため、分子全体の極性が低くなりやすく、極性の高い水が水和することなく、無機微粒子表面に吸着しやすくなるためである。また、シラン系表面処理剤およびシロキサン系表面処理剤では、無機微粒子表面の水酸基と反応しなかった場合の未反応基が疎水性基となる。このため、シラン系表面処理剤およびシロキサン系表面処理剤で表面処理することにより、当該未反応基が親水性基となる表面処理剤で表面処理した無機微粒子と比較して、水分が少ない無機微粒子とすることができるためである。さらに好ましくは、シラン系表面処理剤が使用される。これは、高分子量体であるシロキサン系表面処理剤と比べ、単量体、もしくは分子量が低いために、微粉末表面の凹凸に入り込みやすく効率良く官能基を表面処理できるためである。また、シラン系表面処理剤として、特に好ましくは、ジメチルジクロロシランが使用される。これは、Si原子に結合している置換基が、分子鎖長の短いメチル基であり、無機微粒子表面の水酸基を封鎖する際に、当該置換基(メチル基)が障害となりにくく、その結果、無機微粒子の疎水性を向上させることができるためである。シロキサン系表面処理剤として、特に好ましくは、ジオルガノポリシロキサン(いわゆるシリコーン)が使用される。これは、添加する樹脂と同成分であり、混練した際になじみ性(濡れ性)がよいためである。なお、上記疎水性無機微粒子は、上記表面処理剤を1種単独でまたは2種以上を組み合わせて表面処理することにより作製された疎水性無機微粒子とすることができる。
上記疎水性無機微粒子は、例えば、上記表面処理剤をあらかじめ溶媒(例えば、水)と混合し、撹拌して加水分解を行い、その加水分解物を無機微粒子表面に被覆させることにより作製される。加水分解は、例えば、表面処理剤が5〜95重量%、好ましくは30〜70重量%になるように水と混合することにより行われる。表面処理剤の置換基が、無機微粒子表面の水酸基と化学的に反応して水酸基を封鎖することにより、無機微粒子の疎水性を向上することができる。また、別の方法として、例えば、ヘンシェルミキサー等に代表される攪拌装置を備えた容器に無機微粒子を入れ、攪拌しながら表面処理剤を添加し均一に混合する方法がある。混合がより均一に行われるように、スプレーにより噴霧添加することが好ましい。
上記疎水性無機微粒子の平均粒子径は、50nm以下である。当該平均粒子径が、50nmを超えると、疎水性無機微粒子の表面積が小さく、所望の粘度・チクソトロピーインデックス値(チクソ性)を得るために多量の添加が必要となる。すなわち、疎水性無機微粒子の添加による、シリコーン接着剤組成物中の水分量の増加を招くおそれがある。これに対し、当該平均粒子径が、50nm以下であると、疎水性無機微粒子の表面積が大きく、少量の添加で効率的に粘度・チクソトロピーインデックス値(チクソ性)を向上させることができる。すなわち、疎水性無機微粒子の添加による、シリコーン接着剤組成物中の水分量の増加を最小限に抑えることができる。当該平均粒子径は、より好ましくは、40nm以下であり、さらに好ましくは、30nm以下である。また、上記疎水性無機微粒子の平均粒子径は、粘度・チクソトロピーインデックス値(チクソ性)が上昇しすぎることで混練が困難となるおそれがあるため、例えば、5nm以上である。疎水性無機微粒子の平均粒子径は、レーザ光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(又はメジアン径)として求めることができる。なお、本明細書において、「疎水性無機微粒子の平均粒子径」とは、疎水性無機微粒子を構成する一次粒子の平均粒子径を意味する。
上記疎水性無機微粒子の比表面積は、例えば、50m2/g以上、250m2/g以下である。当該比表面積が、50m2/g以上、250m2/g以下であると、疎水性無機微粒子の表面積が過剰に大きくも小さくもなく、適度な添加量で所望の粘度・チクソトロピーインデックス値(チクソ性)を得ることが可能となる。すなわち、疎水性無機微粒子の過剰添加による、シリコーン接着剤組成物中の水分量の増加を抑制しつつ、シート成形性の向上やペースト使用性の向上が可能となる。疎水性無機微粒子の比表面積は、BET法により測定することができる。また、疎水性無機微粒子の形状は、特に限定されない。疎水性無機微粒子の形状としては、例えば、球状、粒状、不規則形状(不規則な形状を有するもの、不定形のもの)が挙げられる。当該疎水性無機微粒子の添加量は、上記シリコーン樹脂100重量部に対して、例えば、0.1重量部以上、10重量部以下である。当該添加量が、0.1重量部未満であると、添加量が少なく、粘度・チクソトロピーインデックス値(チクソ性)を向上させる効果が十分に得られないおそれがある。これに対し、当該添加量が、10重量部を超えると、粘度・チクソトロピーインデックス値(チクソ性)が大きく上昇し、シート成形性の低下やペースト使用性の低下を引き起こすおそれある。
接合部30および接着材85は、シリコーン樹脂に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分として、例えば、充填材、反応抑制剤が挙げられる。
上記充填材は、接合部30および接着材85を構成するシリコーン接着剤組成物の熱伝導率や強度の制御および粘度調整の少なくとも1つを目的として添加することができる。充填材としては、従来公知のいずれの充填材も使用することができ、特に限定されない。充填材として、例えば、シリカ(例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、ヒュームドシリカ、溶融シリカ、または、溶融球状シリカ等)、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ジルコニア、窒化ケイ素、または、炭化ケイ素等を用いることができる。充填材は、より好ましくは、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、または、窒化ホウ素であり、さらに好ましくは、アルミナ、窒化アルミニウムである。なお、上記充填材を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
充填材の平均粒子径は、特に限定されないが、5nm以上、50μm以下であることが好ましい。当該平均粒子径が5nm未満であると、充填材の比表面積が大きくなるため、充填材の比表面積が小さい場合に比べ、充填材の表面を被覆するシリコーン樹脂が多い。このため、シリコーン接着剤組成物全体における充填材と充填材との間を流動可能なシリコーン樹脂が少なく、樹脂の粘度が高くなり、ひいては、シート成形等の際の成形性が低下する傾向がある。これに対し、当該平均粒子径が50μmを超えると、粒子径が大きいため、粒子径が小さい場合に比べ、シート成形等の際のシート厚みを制御することが困難となる結果、接合部30(接着材85)の表面における平坦性が低下する傾向がある。充填材の平均粒子径は、より好ましくは、50nm以上、40μm以下、さらに好ましくは、100nm以上、30μm以下である。なお、充填材の平均粒子径は、レーザ光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(又はメジアン径)として求めることができる。また、充填材成分の形状は、特に限定されない。
充填材は、粉末の状態でシリコーン接着剤組成物に添加されてもよく、または、充填材を有機溶剤に分散させたスラリーの状態でシリコーン接着剤組成物に添加されてもよい。
充填材の添加量は、上記シリコーン樹脂100重量部に対して、1重量部以上、600重量部以下である。当該添加量が1重量部未満であると、熱伝導率や強度の制御または粘度調整の効果が得られにくい傾向がある。これに対し、当該添加量が600重量部を超えると、シリコーン接着剤組成物の柔軟性が低下する傾向がある。充填材の添加量は、より好ましくは、100重量部以上、500重量部以下、さらに好ましくは、200重量部以上、400重量部以下である。
反応抑制剤は、シリコーン接着剤組成物の硬化速度の調整を目的として添加することができる。反応抑制剤としては、従来公知のいずれの反応抑制剤も使用することができ、特に限定されない。反応抑制剤として、例えば、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサノール、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ブチン、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ペンチン、3,5−ジメチル−3−トリメチルシロキシ−1−ヘキシン、1−エチニル−1−トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2−ジメチル−3−ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。反応抑制剤は、より好ましくは、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン、トリアリルイソシアヌレートである。なお、上記反応抑制剤を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。反応抑制剤の添加量は、上記シリコーン樹脂100重量部に対して、10重量部以下である。当該添加量が10重量部を超えると、正常な硬化を阻害し、硬化不良を引き起こす傾向がある。反応抑制剤の添加量は、より好ましくは、0.1重量部以上、6重量部以下、さらに好ましくは、0.2重量部以上、2重量部以下である。なお、反応抑制剤は、白金触媒等の触媒活性を制御し、シリコーン接着剤組成物が加熱硬化前に増粘やゲル化を起こさないようにするために必要に応じて任意に添加するものである。
上記シリコーン接着剤組成物の21℃における粘度は、40Pa・s以上、かつ、500Pa・s以下である。当該粘度が40Pa・s未満であると、シート成形時の負荷(カッティングや乾燥機への運搬)によってペーストが流動し、厚みばらつきの原因となる傾向がある。また、ペースト状のシリコーン接着剤組成物において、塗布後の液ダレが生じる傾向がある。また、当該粘度が500Pa・sを超えると、シート成形時にレべリングによる平坦化が困難となり、厚みばらつきの原因となる傾向がある。また、ペースト状のシリコーン接着剤組成物において、塗布時に、使用する注入器具(例えば、注射器)からの吐出が困難となる傾向がある。これに対し、当該粘度が、40Pa・s以上、かつ、500Pa・s以下であれば、シート成形時の厚みばらつきを抑制し、ペースト状のシリコーン接着剤組成物において、塗布時のハンドリング性が良好であるとともに、塗布後の液ダレが抑制される傾向がある。当該粘度は、より好ましくは、60Pa・s以上であり、さらに好ましくは、80Pa・s以上である。また、当該粘度は、より好ましくは、400Pa・s以下であり、さらに好ましくは、300Pa・s以下である。
上記シリコーン接着剤組成物のチクソトロピーインデックス値(以下、「TI値」ともいう)は、例えば、1.25以上、かつ、5以下である。当該TI値が1.25未満であるとシート成形時の負荷(カッティングや乾燥機への運搬)によってペーストが流動し、厚みばらつきの原因となる傾向がある。また、ペースト状のシリコーン接着剤組成物において、塗布後の液ダレが生じる傾向がある。また、当該TI値が5を超えると、シート成形時にレべリングによる平坦化が困難となり、厚みばらつきの原因となる傾向がある。また、ペースト状のシリコーン接着剤組成物において、塗布時に、使用する注入器具(例えば、注射器)からの吐出が困難となる傾向がある。これに対し、当該TI値が、1.25以上、かつ、5以下であれば、シート成形時の厚みばらつきを抑制し、ペースト状のシリコーン接着剤組成物において、塗布時のハンドリング性が良好であるとともに、塗布後の液ダレが抑制される傾向がある。当該TI値は、より好ましくは、4以下であり、さらに好ましくは、3以下である。ここで、TI値は、粘度比(ずり速度1s−1での粘度/ずり速度10s−1での粘度)である。
上記シリコーン接着剤組成物のガラス転移温度(Tg)は、例えば、−40℃以下である。シリコーン接着剤組成物のガラス転移温度が−40℃より高い材料である場合には、低温環境下において、柔軟性、接着性および伸びに関する特性が低下する傾向がある。換言すれば、接合部30および接着材85が有する柔軟なエラストマーやゴムとしての性質が低下する傾向がある。これに対し、シリコーン接着剤組成物のガラス転移温度が−40℃以下であれば、低温環境下においても、柔軟性、接着性および伸びに関する良好な特性が維持される傾向がある。すなわち、良好な低温特性を示す傾向がある。シリコーン接着剤組成物のガラス転移温度は、より好ましくは、−50℃以下であり、さらに好ましくは、−60℃以下である。
上記シリコーン接着剤組成物中の水分量は、10ppm以上、5000ppm以下である。シリコーン接着剤組成物中の水分量は、シリコーン接着剤組成物中に含まれるシランカップリング剤の加水分解に影響を及ぼす。ここで、シランカップリング剤は、加水分解することで接着効果を発揮する。当該水分量が10ppm未満であると、シランカップリング剤の加水分解が良好に進行するのに十分でなく、ひいては、接合部30および接着材85の接着性の向上を抑制する。また、当該水分量が5000ppmを超えると、半導体の製造における加熱/冷却の熱サイクルの過程で、接合部30および接着材85に含まれる水分が、板状部材10との接合面や、ベース部材20との接合面に凝集・結露することにより、これらの接合面における接着性を低下させる要因となる。シリコーン接着剤組成物中の水分量は、より好ましくは、20ppm以上、4000ppm以下である。なお、当該水分量は、カールフィッシャー水分測定装置により測定することができる。
A−4.シリコーン接着剤組成物の製造方法:
次に、シリコーン接着剤組成物の製造方法を説明する。はじめに、無機微粒子を疎水性化合物で表面処理することにより、平均粒子径50nm以下であり、かつ、疎水性を有する疎水性無機微粒子を準備する。例えば、上記無機微粒子として、平均粒子径16nmのシリカ粒子を用い、上記疎水性化合物として、ジメチルジクロロシランを用いることができる。表面処理方法は特に制限されず、一般に知られている方法を用いることができる。例えば、上述した方法を用いることができる。
次に、ポリオルガノシロキサンに、それぞれ、白金触媒、シランカップリング剤、架橋剤、充填材および上記準備された疎水性無機微粒子を添加する。これにより、シリコーン接着剤組成物(接着ペースト)が作製される。
A−5.静電チャック100の製造方法:
次に、本実施形態における静電チャック100の製造方法を説明する。はじめに、接合部30および接着材85を構成する接着ペーストおよび接着シートを準備する。接着ペーストは、上記シリコーン接着剤組成物を真空下で撹拌することにより作製される。また、接着シートは、作製された接着ペーストを、必要に応じてロールコーター等を用いてシート状に成形した後、所定の時間、所定の温度で加熱し、半硬化させることにより作製される。接着シートには、孔空け加工により形成された貫通孔34,35が形成されている。
次に、チャック電極40およびヒータ電極50等の導電性材料層が内部に配置された板状の板状部材10を作製する。板状部材10の作製は、例えば、公知のシート積層法やプレス成形法により行うことができる。
シート積層法による板状部材10の作製方法の一例は、次の通りである。まず、アルミナ原料とブチラール樹脂と可塑剤と溶剤とを混合し、得られた混合物をドクターブレード法によってシート状に成形することにより、複数枚のセラミックスグリーンシートを作製する。また、所定のセラミックスグリーンシートに対して、スルーホール(凹部14,15となる孔を含む)の形成やビア用インクの充填、チャック電極40、ヒータ電極50の形成のための電極用インクの塗布等の必要な加工を行う。電極用インクが塗布された箇所が、導電性材料層となる。なお、ビア用インクや電極用インクとしては、例えばタングステンやモリブデン等の導電性材料とアルミナ原料とエトセル(登録商標)樹脂と溶剤とを混合してスラリー状としたメタライズインクが用いられる。その後、複数のセラミックスグリーンシートを積層して熱圧着し、所定のサイズに加工することにより、セラミックス成形体を得る。
得られたセラミックス成形体を窒素中で脱脂した後、加湿した水素窒素雰囲気で、所定の温度(例えば1500℃〜1600℃)で常圧焼成することにより、板状の板状部材10を作製する。
次に、板状部材10とベース部材20とを、接合部30を介して接合する。具体的には、板状部材10に加えて、ベース部材20を準備する。ベース部材20は、例えばアルミニウム合金により形成され、上下方向に貫通する貫通孔24,25が形成されている。Z軸方向視において、チャック電極用端子用孔140(凹部14,貫通孔24,34)と、ヒータ電極用端子用孔150(凹部15,貫通孔25,35)とがそれぞれ重なるように、板状部材10とベース部材20との間に上記接着シートを配置し、真空中で貼り合せる。また、チャック電極用端子用孔140と、ヒータ電極用端子用孔150の内面に上記接着ペーストをそれぞれ塗布し、チャック電極用端子用孔140と、ヒータ電極用端子用孔150との内部に絶縁部材60,80をそれぞれ配置する。接着ペーストは、例えば、注射器などに接着ペーストを充填し、所望の内面へ吐出することによって塗布される。次いで、加熱する。これにより、接着シートおよび接着ペーストが硬化して接合部30と、接着材85とが形成され、板状部材10とベース部材20とが接合部30により、また、絶縁部材80とヒータ電極用端子用孔150の内面とが接着材85により、絶縁部材60とチャック電極用端子用孔140の内面とが接着材により、接着される。その後、必要により後処理(外周の研磨、端子の形成等)を行う。以上の製造方法により、上述した構成の静電チャック100が製造される。
A−6.性能評価:
上述した製造方法で使用されるシリコーン接着剤組成物から構成される接着剤(接着ペースト、接着シート)を対象に、以下に説明する性能評価を行った。図4および図5は、性能評価の結果を示す説明図である。
A−6−1.各サンプルについて:
図4および図5に示すように、性能評価では、サンプルSA1〜SA12の試験片が用いられた。各試験片は、サンプル毎に定められた配合量でシリコーン接着剤組成物を準備し、各シリコーン接着剤組成物から構成される接着剤を用いた。
(接着ペーストの作製方法)
各サンプルの接着ペーストの作製方法は、次の通りである。サンプルSA1〜SA12に記載のポリオルガノシロキサンA1,A2に、それぞれ、白金触媒、シランカップリング剤、架橋剤、充填材および疎水性無機微粒子P1,P2、非疎水性無機微粒子P3(図4、図5の表中の「微粉末」)を添加する。これにより、接着ペーストが作製される。接着ペーストの硬化速度は、充填材および疎水性無機微粒子の種類と量とによっても調整でき、同じ種類の充填材および疎水性無機微粒子を使用した場合、添加量が多いほど、硬化速度が遅くなる傾向にある。熱伝導率や強度の制御のための充填材としてアルミナ(Al2O3)粒子(平均粒子径10μm)を使用する。
サンプルSA1〜SA12で用いられるポリオルガノシロキサンA1,A2の構造は、以下の通りである。
・A1:ビニル末端ポリジメチルシロキサン(平均分子量63,000、フェニル基含有量0mol%)
・A2:ビニル末端ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー(平均分子量55,000、フェニル基含有量16.0mol%)
なお、ポリオルガノシロキサン(シリコーン樹脂)中のフェニル基の含有量は、ケイ素原子に結合するメチル基の数とフェニル基の数との総数に占めるフェニル基の数の割合に基づき、算出した。ケイ素原子に結合するメチル基およびフェニル基の数は、NMR測定により測定した。
(ポリオルガノシロキサンA1:ビニル末端ポリジメチルシロキサンの合成方法)
ジメチルジクロロシラン((CH3)2SiCl2、D単位の原料)を出発物質として、このジメチルジクロロシランを加水分解し環状シロキサンオリゴマーを作製し、触媒存在下で開環重合を行う。触媒としては酸触媒とアルカリ触媒のどちらも使用可能だが、通常は水酸化カリウムを用いることができる。ポリマーの末端基は、末端基となるM単位、すなわちトリメチルシロキシ単位として、トリメチルクロロシラン((CH3)3SiCl)やヘキサメチルジシロキサン((CH3)3SiOSi(CH3)3)を、上記ジメチルジクロロシラン(D単位)に混合しておくことにより導入することができる。末端に官能基を導入する場合は、官能基を有するM単位、例えば、ジメチルビニルクロロシラン((CH3)2(CH2=CH)SiCl)を、上記ジメチルジクロロシラン(D単位)に混合しておくことにより導入することができる。ポリマーの平均分子量は、M単位とD単位の混合割合を変更することにより制御することができる。例えば、ポリオルガノシロキサンA1の平均分子量は63,000であり、これは、M単位:D単位=2:847の割合で重合を行うことにより制御可能である。反応性の官能基は、上記化合物のメチル基を例えば脂肪族不飽和炭化水素基に変更することで導入することができ、具体的には、CH3(CH2=CH)SiCl2、または、(CH3)2(CH2=CH)SiClを添加することで導入することができる。
(ポリオルガノシロキサンA2:ビニル末端ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマーの合成方法)
ポリオルガノシロキサンA1の出発物質であるジメチルジクロロシラン((CH3)2SiCl2)のメチル基がフェニル基に置き換わった((C6H5)2SiCl2)、または、((CH3)(C6H5)SiCl2)を用いて、ジメチルジクロロシラン((CH3)2SiCl2)の一部を置き換えることで、上記ポリオルガノシロキサンA1の合成方法と同様の手順で合成することが可能である。ポリマーの末端基は、末端基となるM単位、すなわちトリメチルシロキシ単位として、トリメチルクロロシラン((CH3)3SiCl)やヘキサメチルジシロキサン((CH3)3SiOSi(CH3)3)を、上記ジメチルジクロロシラン(D単位)に混合しておくことにより導入することができる。末端に官能基を導入する場合は、官能基を有するM単位、例えば、ジメチルビニルクロロシラン((CH3)2(CH2=CH)SiCl)を混合しておくことにより導入することができる。ポリマーの平均分子量は、M単位とD単位の混合割合を変更することにより制御することができる。また、最終的なビニル末端ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマーにおけるフェニル基の含有量は((C6H5)2SiCl2)、または、((CH3)(C6H5)SiCl2)の添加量を変えることで制御可能である。具体的には、ポリオルガノシロキサンA2は、M単位:D単位(ジメチルシロキサン):D単位(ジフェニルシロキサン)=2:490:93の割合で重合を行うことにより制御可能である。
具体的に、サンプルSA1〜SA12は、次の材料を含むシリコーン接着剤組成物(シリコーン樹脂組成物)である。
・ポリオルガノシロキサン:サンプルSA1〜SA6(A1,77wt%)、サンプルSA7〜SA12(A2,24wt%)
・白金触媒:サンプルSA1〜SA6(0.003wt%)、サンプルSA7〜SA12(0.001wt%)
・シランカップリング剤:サンプルSA1〜SA6(1.1wt%)、サンプルSA7〜SA12(0.4wt%)
・架橋剤:サンプルSA1〜SA6(2.0wt%)、サンプルSA7〜SA12(0.7wt%)
・充填材:(種類および添加量は表中に記載)
・疎水性無機微粒子P1,P2、非疎水性無機微粒子P3:(種類および添加量は表中に記載)
サンプルSA1〜SA12で用いられる疎水性無機微粒子P1,P2、非疎水性無機微粒子P3の構造は、以下の通りである。
・P1:表面処理シリカ(表面処理剤:ジメチルジクロロシラン、平均粒子径:16nm、比表面積:110m2/g)
・P2:表面処理シリカ(表面処理剤:シリコーンオイル、平均粒子径:16nm、比表面積:80m2/g)
・P3:表面未処理アルミナ(平均粒子径:13nm、比表面積:100m2/g)
(接着シートの作製方法)
各サンプルの接着シートの作製方法(接着ペーストの半硬化(シート化)方法)は、次の通りである。上述のように作製した接着ペーストをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に塗り広げる。塗り広げる方法は、公知の方法を用いることができ、本性能評価では、ドクターブレードを用いる。次に、PETフィルムに塗り広げられた接着ペーストを所定の大きさに切断し、その後、切断されたPETフィルム付の接着ペーストを乾燥機によって所定の時間、所定の温度で加熱することによって接着ペーストを半硬化させる。これにより、PETフィルム付の接着シートが形成される。なお、加熱中において、埃の付着を防ぐなどの必要に応じて、各接着ペーストをカバーフィルムで覆ってもよい。
A−6−2.評価手法:
(粘度)
公知の粘度測定機(例えば、東機産業(株)製コーンプレート型粘度計TVE−22H型)を使用して、接着剤組成物の粘度を測定した。具体的には、上述のように作製した接着ペーストを用いて、21℃において、ずり速度1s−1で粘度を測定し、当該粘度の値とした。
(TI値)
上記粘度の測定と同様に、上述のように作製した接着ペーストを用いて、21℃において、ずり速度1s−1および10s−1で粘度を測定し、TI値(ずり速度1s−1での粘度/ずり速度10s−1での粘度)を算出した。なお、ずり速度1s−1は、上記接着ペーストを塗布した後、硬化するまでの間の状態に相当し、ずり速度10s−1は、概ね接着ペーストを、注射器を用いて塗布する際に、注射器から接着ペーストを吐出するときの状態に相当する。
(ゴム硬度)
公知のゴム硬度測定機(JIS K 6253に規定されるタイプAデュロメータ)を使用して、接着剤組成物のゴム硬度を測定した。具体的には、上述のように作製した接着ペーストを内径18mm、長さ17mmの容器へ入れ、所定の硬化条件により、接着ペーストを硬化させて硬化体を得た。なお、当該接着ペーストから硬化体を得るための硬化条件は、接着ペーストが硬化する条件であればよく、接着ペーストを構成する材料に依存して異なっていてもよい。当該得られた硬化体の上下面におけるゴム硬度を測定し、測定値の平均値をゴム硬度とした。なお、本実施形態において、上記硬化条件の一例として、サンプルSA1〜SA6では、「100℃で10時間加熱した後、さらに、150℃で50時間加熱する」という条件とし、サンプルSA7〜SA12では、「100℃で13時間加熱する」という条件とした。後述の硬化条件についても、これと同様である。
なお、被着体に接着済み(すなわち硬化済み)の接着剤組成物のゴム硬度は、以下の方法により測定することができる。まず、ナイフ等を用いて被着体から接着剤組成物をそぎ落とす。このとき、そぎ落とされた接着剤組成物の厚さができるだけ厚くなるように、接着剤組成物をそぎ落とすことが好ましい。そぎ落とされた接着剤組成物を積層し、上記ゴム硬度測定機を使用して、接着剤組成物のゴム硬度を測定することができる。上記そぎ落とされた接着剤組成物を積層する際、積層された接着剤組成物の厚さが、上記ゴム硬度測定機において押針(圧子)を押し込んで測定する際に接着剤組成物を載置する下地の硬さが影響しない厚さまで十分に厚くなるように積層することが好ましい。積層された接着剤組成物の厚さは、例えば、厚さ6mm以上であることが好ましい。
(ガラス転移温度)
図6は、動的粘弾性測定装置(DMA)を使用し、接着剤組成物の貯蔵弾性率を測定した結果を示すグラフであり、縦軸は、貯蔵弾性率E’(GPa)を示し、横軸は温度(℃)を示す。ガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性測定装置(DMA)を使用して、貯蔵弾性率を測定し、当該貯蔵弾性率の測定結果から図6に示すグラフを得る。当該グラフにおいて、接着剤組成物の貯蔵弾性率が大きく低下し始める部分の接線交点PIにおける温度を特定し、当該温度をガラス転移温度(Tg)とした。測定のための試験片は、上述のように作製した接着シートを所定の硬化条件により硬化させ、幅4mm×長さ50mmに切り出すことにより作製した。
なお、被着体に接着済みの接着剤組成物のガラス転移温度は、次の方法により求めることができる。まず、被着体に接着済みの接着剤組成物について貯蔵弾性率を測定し、当該貯蔵弾性率の測定結果から図6と同様のグラフを得る。当該グラフにおいて、上記接線交点PIにおける温度を特定し、当該温度をガラス転移温度(Tg)とする。なお、被着体に接着済みの接着剤組成物の貯蔵弾性率は、以下の方法により測定することができる。まず、ナイフ等を用いて被着体から接着剤組成物をそぎ落とし、例えば、幅4mm×長さ50mmに切り出すことで上記と同様の測定が可能となる。測定条件は、負荷方法は引張とし、プリロード1g、周波数は11Hz、振幅は16μm、昇温速度は2℃/分にて実施した。測定は、温度を室温から一旦−150℃まで下げた後、上記の昇温速度で昇温しながら行い、−60℃における貯蔵弾性率を求める。厚さについては任意のため、そぎ落とした接着剤組成物をそのまま測定に用いることも可能である。
(引張弾性率)
公知の引張試験機(例えば、島津製作所製オートグラフ(AG−IS))を使用し、引張試験(50mm/分で実施)での、接着剤組成物の引張弾性率(図4,図5の表中の「弾性率」)を測定した。具体的に、測定のための試験片は、上述のように作製した接着シートを所定の硬化条件により硬化させ、幅10mm×長さ70mmの短冊状に切り出すことにより作製した。接着剤組成物の厚さは、0.35mmとした。当該試験片の両端から長さ20mmの各部分を治具で保持し、中間の長さ30mmの部分で引張弾性率を測定した。当該試験片(接着剤組成物)が破断するまで引っ張りながら、サンプル長による荷重の変化を測定した。当該荷重を試験片の断面積(幅10mm×厚さ0.35mm)で除すことにより引張応力を算出した。引張弾性率は、以下の式(3)により算出される歪みを横軸とし、上記引張応力を縦軸とするグラフにおいて、上記引張応力が0.2〜0.5MPaとなる範囲の傾きを計算することにより算出した。
歪み(%)=[引っ張り中のサンプル長(mm)−元のサンプル長(mm)]/元のサンプル長(mm) ・・・(3)
(伸び率)
公知の引張試験機(例えば、島津製作所製オートグラフ(AG−IS))を使用し、引張試験(50mm/分で実施)での、接着剤組成物の伸び率(図4,図5の表中の「伸び率」)を測定した。具体的に、測定のための試験片は、上述のように作製した接着シートを所定の硬化条件により硬化させ、幅10mm×長さ70mmの短冊状に切り出すことにより作製した。接着剤組成物の厚さは、0.35mmとした。当該試験片の両端から長さ20mmの各部分を治具で保持し、中間の長さ30mmの部分をサンプル長とした。伸び率は、当該試験片(接着剤組成物)が破断するまで引っ張り、破断したときのサンプル長(mm)から元のサンプル長(上記サンプルでは中間の長さ30mm)を引いた後、元のサンプル長(mm)で除すことにより算出した(下式(4)参照)。
伸び率(%)=[破断したときのサンプル長(mm)−元のサンプル長(mm)]/元のサンプル長(mm) ・・・(4)
なお、被着体に接着済みの接着剤組成物の伸び率は、以下の方法により測定することができる。まず、ナイフ等を用いて被着体から接着剤組成物をそぎ落とし、例えば幅10mm×長さ70mmに成形することで、上記と同様の測定が可能となる。伸び率は、上記と同様の測定方法により、当該試験片(接着剤組成物)が破断するまで引っ張り、破断したときのサンプル長(mm)から元のサンプル長を引いた後、元のサンプル長(mm)で除すことにより算出することが可能である。測定のため試験片の大きさおよび形状は、引張試験機の治具で保持できるものであれば、大きさおよび形状は任意である。また、厚さについても任意のため、そぎ落とした接着剤組成物をそのまま測定に用いることも可能である。
(せん断接着歪み)
公知の引張試験機(例えば、島津製作所製オートグラフ(AG−IS))を使用し、引張試験での、接着剤組成物のせん断接着歪み(歪み量)(図4,図5の表中の「せん断歪み」)を測定した。図7は、せん断接着歪みの算出方法を模式的に示す説明図である。まず、測定のための試験片は、具体的には、上述のように作製した接着シートを幅12.5mm×長さ100mm×厚さ1mmの2枚のアルミニウム板201,202の端12.5mm×12.5mmの部分にそれぞれ貼り付け、2枚のアルミニウム板を互いに逆方向に引っ張ることができる向きで貼り合わせた後、所定の硬化条件で接着することにより作製した。これにより、図7のA欄およびB欄に示すように、2枚のアルミニウム板201,202にそれぞれ貼り付けられた2枚の接着シートが互いに接合し、せん断接着歪みの算出対象となる接着剤組成物SAが構成される。2枚のアルミニウム板201,202にそれぞれ貼り付けられた接着剤組成物の試験片の厚さの合計厚さtは、0.7mmとした。次に、上記接着剤組成物SAにせん断力が作用するように、2つのアルミニウム板201,202を相対移動させた。例えば、引張試験機を用いて、一方のアルミニウム板201を接着面に平行な一方の方向(例えば、図7のC欄における上方向)に引張速度2mm/分で移動させながら、荷重と移動距離とを測定する。荷重を移動前の接着剤組成物の接着面積(12.5mm×12.5mm)で除すことによりせん断接着応力を算出した。このような2枚のアルミニウム板201,202の相対移動を接着剤組成物SAが破断するまで継続し、せん断接着応力が最大になったときの距離ΔLを測定する。最後に、以下の式(5)の通り、距離ΔLを移動前の接着剤組成物SAの合計厚さtで除すことにより、接着剤組成物SAのせん断接着歪み(%)を算出した。
せん断接着歪み(%)=(ΔL/t)×100 ・・・(5)
なお、被着体に接着済みの接着剤組成物のせん断接着歪みは、以下の方法により測定することができる。まず、レーザーカット加工等により、接着剤組成物を被着体ごと切り出す。切り出す試験片の大きさおよび形状は、引張試験機の治具で保持することができ、かつ、接着剤組成物により接着している2枚の被着体を図7に示されるように互いに逆方向に引っ張ることができる大きさおよび形状であればよい。また、接着剤組成物の厚さについても特に限定されないため、切り出した被着体付き接着剤組成物をそのまま測定に用いることも可能である。なお、引張試験を行う前に、切り出した試験片における接着剤組成物の接着面積と、接着剤組成物の厚さとを測定する。その後は、上述した方法と同様に引っ張り試験を行い、せん断接着応力が最大になったときの距離ΔLを接着剤組成物の合計厚さtで除すことにより、せん断接着歪み(%)を算出する。
(厚みばらつき)
図8に示すように、まず、上述と同様の方法により、幅500mmのPETフィルムの上に、上述の接着ペーストを幅460mm×厚さ0.35mmとなるよう塗り広げた。次に、塗り広げられた接着ペーストから、400mm間隔で、幅50mmのサンプルPを切り出した。本実施形態においては、3つのサンプルPを切り出した。その後、切り出されたPETフィルム付のサンプルPを、100℃で10時間加熱硬化させた。硬化させたPETフィルム付のサンプルPの厚みを、マイクロメーターを用いて測定した。より具体的には、サンプルPの長手方向において、複数の測定ポイントM(測定ポイントM同士の間隔は50mm)における厚みを測定し、測定した複数の厚みのうちの最大値と最小値の差を厚みばらつきの値とした。本実施形態では、3つのサンプルPについて、それぞれ、上記厚みばらつきを求め、それらを平均した値を厚みばらつきの値とした。なお、本実施形態では、幅500mm×厚さ0.35の接着シートを用いて、厚みばらつきを測定したが、幅および/または厚さの異なる接着シートを用いてもよい。また、本実施形態では、接着シートから3つのサンプルPを切り出したが、1つや2つでもよく、また、4つ以上のサンプルを切り出してもよい。
(低温特性)
ポリオルガノシロキサンA2を用いたサンプルにつき、低温特性を「○」と評価した。上述の通り、分子構造の一部分に嵩高い置換基(例えば、フェニル基)が導入されたポリオルガノシロキサンは、ガラス転移温度を良好に低下させうるためである。
(取扱性)
取扱性として、シート成形性、ペースト使用性を評価した。シート成形性は、成形後のシートの厚みばらつきが10μm以下のとき「良好」、11μm以上、20μm以下のとき「可」、21μm以上のとき「不良」とした。また、ペースト使用性は、TI値1.25以上、5.00以下、かつ、粘度80Pa・s以上、200Pa・s以下のとき「良好」、TI値1.25以上、5.00以下、かつ、粘度40Pa・s以上、79Pa・s以下、および、粘度201Pa・s以上、500Pa・s以下のとき「可」、粘度500Pa・s以上のとき「不良」とした。取扱性として、シート成形性、ペースト使用性のそれぞれの評価のうち、いずれも「良好」であるとき「◎」とし、いずれか一方または両方が「不良」であるとき「×」とし、いずれか一方または両方が「可」であるとき「○」とした。
(水分測定)
カールフィッシャー水分計(平沼産業製 AQ−7)と水分気化装置(平沼産業製 EV−6)を用いて水分気化法にて、水分量を測定した。測定のための試験試料は、樹脂組成物を約0.2g用意し、水分気化装置を用いて150℃で加熱し、揮発した水分を、窒素ガスを用いてカールフィッシャー水分計に導入し、測定した。
(平均分子量の測定)
ポリオルガノシロキサンの平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPS)を用いて測定し、ポリスチレン換算の平均分子量として算出した。溶媒にはトルエンを用いた。
A−6−3.評価結果:
図4には、サンプルSA1〜SA6について、シリコーン接着材組成物の粘度、TI値、水分量、ゴム硬度、25℃での引張試験での、弾性率、伸び率、せん断接着歪みの測定結果が示されている。図4には、さらに、接着シートの厚みばらつきの測定結果と、取扱性(シート成形性、ペースト使用性)の評価が示されている。なお、ゴム硬度、弾性率、伸び率、せん断接着歪みの測定に用いたサンプルの硬化条件は、上述の通りであり、100℃で10時間硬化させた後、さらに、150℃で50時間硬化させる条件とした。
ポリオルガノシロキサンA1に疎水性無機微粒子P1,P2を添加したサンプルSA1〜SA3の粘度は、それぞれ、53.5,92.7,42.1Pa・sであり、いずれも40Pa・s以上、500Pa・s以下の値であった。また、粘度92.7Pa・sのサンプルSA2の取扱性は、「◎」であった。また、サンプルSA1,SA3の取扱性は、「○」であった。具体的には、サンプルSA1のシート成形性は「良好」である一方、SA3のシート成形性は「可」であり、ペースト使用性はともに「可」であった。
サンプルSA1〜SA3のTI値は、それぞれ、2.3,2.9,1.9であり、いずれも1.25以上、5以下の値であった。また、同じサンプルSA1〜SA3の水分量は、123,134,166ppmであり、10ppm以上、5000ppm以下の値であった。疎水性無機微粒子P1,P2をそれぞれ3wt%添加したサンプルSA2,SA3のゴム硬度、弾性率、伸び率、せん断歪みについては、非疎水性無機微粒子P3を3wt%添加したサンプルSA6と比較して、いずれもほぼ同等であった。また、サンプルSA1〜SA3の厚みばらつきは、サンプルSA4〜SA6の厚みばらつきと比較して、いずれも同等であるか、または、サンプルSA1〜SA3の値が小さく、良好な結果であった。これは、サンプルSA4〜SA6の粘度が、それぞれ、17.1,29.5,31.3Pa・sであり、いずれも40Pa・s未満の値であることによるものと考えられた。
疎水性無機微粒子P1,P2をそれぞれ3wt%添加したサンプルSA2,SA3を比較すると、疎水性無機微粒子P1を添加したサンプルSA2の粘度がより高い値であった。これは、疎水性無機微粒子P1に用いた表面処理剤(ジメチルジクロロシラン)と、疎水性無機微粒子P2に用いた表面処理剤(シリコーンオイル)とにおいて、Si原子に結合している置換基の分子鎖長の違いにより、疎水性無機微粒子P1,P2の表面積が異なることに起因するものと考えられた。すなわち、疎水性無機微粒子P1は、分子鎖長の短いメチル基を持つジメチルジクロロシランにより、無機微粒子の表面が処理されている一方、疎水性無機微粒子P2は、メチル基と比較して分子鎖長の長いシリコーンオイルにより、無機微粒子の表面が処理されている。シリコーンオイルを用いた場合では、その長い置換基が、無機微粒子表面の凹凸に入り込むことができず、シリコーンオイルの分子が無機微粒子全体を覆うように、無機微粒子の表面が疎水化される。この結果、表面処理前の無機微粒子の表面に存在した凹凸が極端に低減したと考えられた。一方、ジメチルジクロロシランを用いた場合では、分子鎖長の短いメチル基が、無機微粒子表面の凹凸に入り込むことができるため、無機微粒子表面の凹凸に沿った疎水化処理が可能となる。この結果、表面処理前の無機微粒子の表面に存在した凹凸が極端に低減せず、ひいては、疎水性無機微粒子P2より、疎水性無機微粒子P1の方が、大きい比表面積が得られたと考えられた。このことから、ジメチルジクロロシランを用いて表面処理をされた疎水性無機微粒子P1の方が、表面処理後の微粉末の比表面積が大きく、同添加量でも、効率的に粘度・チクソトロピーインデックス値(チクソ性)を向上させることができることによるものと考えられた。また、サンプルSA2の厚みばらつきは、7μmであり、サンプルSA3の厚みばらつきと比較して良好な値であった。
疎水性無機微粒子P1を0.5,1wt%添加したサンプルSA4,SA5の粘度は、それぞれ、17.1,29.5Pa・sであり、40Pa・s未満の値であった。このため、サンプルSA4,SA5の取扱性は、いずれも「×」であった。具体的には、サンプルSA4のシート成形性およびペースト使用性はともに「不良」であった。また、サンプルSA4,SA5は、粘度に影響を及ぼすと考えられる充填材と疎水性無機微粒子P1との合計添加量が20wt%であり、サンプルSA1〜SA3における充填材と疎水性無機微粒子P1またはP2との合計添加量20wt%と同等である。これにもかかわらず、サンプルSA1〜SA3の粘度は、サンプルSA4,SA5の粘度と比較して高い値となった。これは、充填材と比較して表面積の大きい疎水性無機微粒子の添加割合がサンプルSA4,SA5よりも多く、増粘度合いが大きいためと考えられる。
結果として、総合判定は、サンプルSA2が「◎」であり、サンプルSA1,SA3が「○」であり、サンプルSA4〜SA6が「×」であった。
図5には、サンプルSA7〜SA12について、シリコーン接着材組成物の粘度、TI値、水分量、ゴム硬度、ガラス転移温度、25℃での引張試験での、弾性率、伸び率、せん断接着歪みの測定結果が示されている。図5には、さらに、接着シートの厚みばらつきの測定結果と、取扱性(シート成形性、ペースト使用性)の評価が示されている。なお、ゴム硬度、ガラス転移温度、弾性率、伸び率、せん断接着歪みの測定に用いたサンプルの硬化条件は、上述の通りであり、100℃で13時間硬化させる条件とした。
ポリオルガノシロキサンA2に疎水性無機微粒子P1を添加したサンプルSA7〜SA10の粘度は、それぞれ、105.2,125.7,182.8,278.9Pa・sであり、いずれも40Pa・s以上、500Pa・s以下の値であった。また、粘度105.2,125.7,182.8Pa・sのサンプルSA7〜SA9の取扱性は、「◎」であった。また、サンプルSA10の取扱性は、「○」であった。具体的には、サンプルSA10のシート成形性は「良好」である一方、ペースト使用性は「可」であった。
サンプルSA7〜SA10のTI値は、それぞれ、1.30,1.43,1.77,2.30であり、いずれも1.25以上、5以下の値であった。また、同じサンプルSA7〜SA10の水分量は、83,57,73,63ppmであり、10ppm以上、5000ppm以下の値であった。疎水性無機微粒子P1を0.1〜1.0wt%添加したサンプルSA7〜SA10間のゴム硬度、弾性率、伸び率、せん断歪みについては、ほぼ同等であった。また、サンプルSA7〜SA10の厚みばらつきは、サンプルSA12と比較して小さく、良好な結果であった。サンプルSA7〜SA10と、SA12とは、充填材と疎水性無機微粒子P1との合計添加量は75wt%で同等である。このため、サンプルSA7〜SA10の厚みばらつきが良好な結果であったのは、サンプルSA7〜SA10に疎水性無機微粒子P1が添加されているため、粘度・チクソトロピーインデックス値(チクソ性)が向上し、シート状態に成形する際の延伸性が良好であり、シート化工程における作業中の負荷(所定サイズへのカッティングや乾燥機への運搬)にも影響を受けにくいためと考えられた。
ポリオルガノシロキサンA2を用いたサンプルSA7〜SA12のガラス転移温度(Tg)は、−100℃以下であり、−60℃以下の値であった。これは、ポリオルガノシロキサンA2が、両末端にR1 3SiO1/2単位と、m個のR2 2SiO2/2単位と、n個のR3R4SiO2/2単位とを含み(本実施形態では、各末端のR1の内の1つはビニル基であり、各末端のR1の内の残りの2つはメチル基であり、R2はともにメチル基であり、R3およびR4はともにフェニル基である)、当該ポリオルガノシロキサンにおけるフェニル基の含有量が、3mol%以上、16mol%以下であるためと考えられた。このように、ガラス転移温度(Tg)が低いサンプルSA7〜SA12では、低温環境下において良好な物性(例えば、柔軟性、接着性、伸びなど)が維持されるため、低温特性を「○」とした。
疎水性無機微粒子P1を2.5wt%添加したサンプルSA11の粘度は、776Pa・sであり、500Pa・sを超える値であった。このため、サンプルSA11の取扱性は「×」であった。具体的には、サンプルSA11のシート成形性およびペースト使用性はいずれも「不良」であった。また、サンプルSA11は、粘度に影響を及ぼすと考えられる充填材の添加量が75wt%であり、サンプルSA7〜SA10における充填材と疎水性無機微粒子P1との合計添加量75wt%と同等である。これにもかかわらず、サンプルSA7〜SA10の粘度は、サンプルSA11の粘度と比較して低い値となった。これは、充填材と比較して表面積の大きい疎水性無機微粒子の添加割合がサンプルSA11よりも少なく、増粘度合いが小さいためと考えられる。
結果として、総合判定は、サンプルSA7〜SA9が「◎」であり、サンプルSA10が「○」であり、サンプルSA11,SA12が「×」であった。
A−7.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の静電チャック100は、板状部材10と、ベース部材20と、板状部材10とベース部材20との間に配置されて板状部材10とベース部材20とを接合する接合部30と、ヒータ電極用端子用孔150(チャック電極用端子用孔140)の内面において、絶縁部材80(絶縁部材60)と板状部材10、ベース部材および接合部30とを接合する接着材85とを備える。そして、本実施形態のサンプルSA1〜SA3、SA7〜SA10では、接合部30および接着材85を構成するシリコーン接着剤組成物(シリコーン樹脂組成物)は、それぞれ、ポリオルガノシロキサンA1,A2と、疎水性無機微粒子P1,P2と、を含んでいる。疎水性無機微粒子P1,P2は、平均粒子径50nm以下であり、かつ、表面に疎水性基を有する。
半導体の製造における加熱/冷却の熱サイクルの過程で、シリコーン接着剤組成物から構成される接合部30に含まれる水分が、接合部30との接合面である、板状部材10の下面S2やベース部材20の上面S3などに凝集・結露することにより、これらの接合面における接着性を低下させる要因となる。このような接合部30に含まれる水分の凝集・結露は、低温下においては特に顕著である。本実施形態のシリコーン接着剤組成物に含まれる疎水性無機微粒子P1,P2には、水分を含みにくい構造が採用されているため、疎水性無機微粒子P1,P2を含むことにより、シリコーン接着剤組成物自体の水分含有量が増加することを抑制しながら、本実施形態のシリコーン接着剤組成物の粘度・チクソトロピーインデックス値(チクソ性)を調整することができる。また、疎水性無機微粒子P1,P2の平均粒子径は50nm以下であるため、表面積が大きく、少量の添加で効率的に粘度・チクソトロピーインデックス値(チクソ性)を向上させることができる。すなわち、疎水性無機微粒子の添加による、シリコーン接着剤組成物中の水分量の増加を最小限に抑えることができる。従って、本実施形態のシリコーン接着剤組成物によれば、当該シリコーン接着剤組成物から構成される接合部30と板状部材10やベース部材20との接着性を向上させることができ、ひいては、接合部30を備える静電チャック100の低温使用時において、上述の接合部30の板状部材10やベース部材20からの剥がれまたは破断を抑制するこができる。また、シリコーン接着剤組成物から構成される接着材85についても上記と同様である。すなわち、当該シリコーン接着剤組成物から構成される接着材85と、接着材85との接合面である、板状部材10における凹部15の内面、ベース部材20の貫通孔25の内面、絶縁部材80の外周面との接着性を向上させることができる。
また、本実施形態のサンプルSA1〜SA3、SA7〜SA10では、シリコーン接着剤組成物の21℃における粘度は、40Pa・s以上、かつ、500Pa・s以下である。このため、シリコーン接着剤組成物をシート状に加工する際の延伸性が良好であり、かつ、ペースト状で使用する際における塗布後の液ダレが抑制されたシリコーン接着剤組成物を提供することができる。
本実施形態のサンプルSA7〜SA10のシリコーン接着剤組成物では、ポリオルガノシロキサンは、両末端にR1 3SiO1/2単位と、m個のR2 2SiO2/2単位と、n個のR3R4SiO2/2単位とを含み(ここで、R1およびR2は互いに独立に炭素数1〜12の非置換または置換の脂肪族炭化水素基であり、R3は炭素数1〜12の非置換もしくは置換の脂肪族炭化水素基、または、炭素数6〜10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、R4は炭素数6〜10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、かつ、ポリオルガノシロキサンはケイ素原子に直接結合するアルケニル基を1分子中に少なくとも2個含み、mは1以上の整数であり、nは1以上の整数である)、ポリオルガノシロキサンにおける芳香族炭化水素基の含有量は、3mol%以上、16mol%以下である。
このように、本実施形態のサンプルSA7〜SA10におけるシリコーン接着剤組成物に含まれるポリオルガノシロキサンA2は、分子中にR3R4SiO2/2単位(以下、「第2のD単位」ともいう)を含むとともに、第2のD単位中の置換基R4が炭素数6〜10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であるポリオルガノシロキサンを含んでいる。すなわち、本実施形態のシリコーン接着剤組成物では、ポリオルガノシロキサンの分子構造の一部分である第2のD単位に嵩高い置換基が導入されている。このため、ポリオルガノシロキサンの分子内または分子間において立体障害が生じ、この結果、ポリオルガノシロキサンの結晶化を抑制することができ、その結果、ガラス転移温度を良好に低下させうる。従って、本実施形態のシリコーン接着剤組成物によれば、本実施形態のシリコーン接着剤組成物から構成される接合部30(接着材85)を備える静電チャック100の超低温(−60℃)使用時において、上述の接合部30(接着材85)の剥がれまたは破断をより効果的に抑制することができる。
また、ポリオルガノシロキサンにおける芳香族炭化水素基の含有量が3mol%未満である場合には、芳香族炭化水素基を導入することによるガラス転移温度の低下効果が充分に発揮され難い。また、ポリオルガノシロキサンに含まれる芳香族炭化水素基の含有量が16mol%を超える場合には、芳香族炭化水素基同士がπ―πスタッキングによる相互作用を引き起こし、結晶化を招き、ガラス転移温度が上昇する傾向がある。このため、芳香族炭化水素基の含有量が3mol%未満、または、16mol%を超えるポリオルガノシロキサンを用いたシリコーン接着剤組成物から構成される接合部30(接着材85)を備える静電チャック100は、低温使用時において、上述の接合部30(接着材85)の剥がれまたは破断の要因となる。本実施形態のサンプルSA7〜SA10におけるシリコーン接着剤組成物では、ポリオルガノシロキサンに含まれる芳香族炭化水素基の含有量が3mol%以上、16mol%以下であるため、シリコーン接着剤組成物のガラス転移温度を良好に低下させることができる。従って、本実施形態のシリコーン接着剤組成物によれば、本実施形態のシリコーン接着剤組成物から構成される接合部30(接着材85)を備える静電チャック100の超低温(−60℃)使用時において、柔軟性を維持しつつ、上述の接合部30(接着材85)の剥がれまたは破断をより効果的に抑制することができる。
本実施形態のサンプルSA7〜SA10のシリコーン接着剤組成物では、ポリオルガノシロキサンにおけるR3R4SiO2/2単位のR3とR4とは、同一の置換基である。このため、本実施形態のサンプルSA7〜SA10におけるシリコーン接着剤組成物に含まれるポリオルガノシロキサンは、分子内や分子間における立体障害がより効果的に現れ、ポリオルガノシロキサンの結晶化がより効果的に抑制される。具体的には、ポリオルガノシロキサン中において、対称の位置に配置された置換基R3と置換基R4とが、同一の置換基である場合、対称の位置において同等の立体障害が現れるため、ポリオルガノシロキサンの結晶化を大きく抑制し、ひいては、ガラス転移温度をより効果的に低下させることができる。従って、本実施形態のシリコーン接着剤組成物では、シリコーン接着剤組成物から構成される接合部30(接着材85)を備える静電チャック100の超低温(−60℃)使用時において、上述の接合部30(接着材85)の剥がれまたは破断をより効果的に抑制することができる。
本実施形態のサンプルSA7〜SA10のシリコーン接着剤組成物では、ポリオルガノシロキサンにおけるR3R4SiO2/2単位のR3とR4とは、ともにフェニル基である。このため、本実施形態のサンプルSA7〜SA10のシリコーン接着剤組成物に含まれるポリオルガノシロキサンは、分子内や分子間における立体障害がより効果的に現れ、ポリオルガノシロキサンの結晶化がより効果的に抑制される。この結果、ガラス転移温度をより効果的に低下させることができる。従って、本実施形態のシリコーン接着剤組成物では、当該シリコーン接着剤組成物から構成される接合部30(接着材85)を備える静電チャック100の低温使用時において、上述の接合部30(接着材85)の剥がれまたは破断をより効果的に抑制することができる。また、ポリオルガノシロキサン中のR3R4SiO2/2単位において、置換基R3と置換基R4とが、ともにフェニル基であるポリオルガノシロキサンは、合成が容易であり、また、市場において容易かつ安価に入手できる傾向がある。
本実施形態のサンプルSA1〜SA3、SA7〜SA10のシリコーン接着剤組成物では、ポリオルガノシロキサンは、単一種類のポリオルガノシロキサンからなる。このため、本実施形態のサンプルSA1〜SA3、SA7〜SA10のシリコーン接着剤組成物では、異なる種類のポリオルガノシロキサンが混合されている場合に比べ、ポリオルガノシロキサンの分子同士の相溶性が向上する。これにより、本実施形態のシリコーン接着剤組成物中において、ポリオルガノシロキサンが均一に分散し、ひいては、硬化反応が均一に進行する傾向がある。換言すれば、本実施形態のシリコーン接着剤組成物中において、ポリオルガノシロキサン中の置換基R3と置換基R4とが、均一に存在することとなる。このため、ポリオルガノシロキサンの上記立体障害がより効果的に現れ、ポリオルガノシロキサンの結晶化をより効果的に抑制することができる。この結果、シリコーン接着剤組成物のガラス転移温度をより効果的に低下させることができる。また、上記の通り、ポリオルガノシロキサンが均一に分散することにより、当該シリコーン接着剤組成物から構成される接合部30(接着材85)における接着性を均一化することができる。このため、シリコーン接着剤組成物においてガラス転移温度が十分に低下しない部分が生じることによる、上記接合部30(接着材85)における当該部分を起点とした剥がれまたは破断が生じることを抑制することができる。従って、本実施形態のシリコーン接着剤組成物では、当該シリコーン接着剤組成物から構成される接合部30(接着材85)を備える静電チャック100の低温使用時において、上述の接合部30(接着材85)の剥がれまたは破断をより効果的に抑制することができる。また、保存中にシリコーン接着剤組成物中の成分が分離しなくなるため、シリコーン接着剤組成物の使用可能時間が長くなり、効率良く使用できるようになる。
本実施形態の疎水性無機微粒子P1は、シラン系表面処理剤で表面処理された無機微粒子であり、疎水性無機微粒子P2は、シロキサン系表面処理剤で表面処理された無機微粒子である。シラン系表面処理剤およびシロキサン系表面処理剤は、ケイ素原子(Si原子)の結合手が4本で対称性が高いため、分子全体の極性が低くなりやすく、極性の高い水が水和することなく、無機微粒子表面に吸着しやすくなる。また、シラン系表面処理剤およびシロキサン系表面処理剤では、無機微粒子表面の水酸基と反応しなかった場合の未反応基が疎水性基となる。このため、シラン系表面処理剤およびシロキサン系表面処理剤で表面処理することにより、当該未反応基が親水性基となる表面処理剤で表面処理した無機微粒子と比較して、水分が少ない無機微粒子とすることができる。このため、シラン系表面処理剤およびシロキサン系表面処理剤は、無機微粒子の表面をより効果的に疎水化することができる。また、シラン系表面処理剤およびシロキサン系表面処理剤は、ともに分子内にSi原子を有しているため、疎水性無機微粒子P1,P2の表面にはSi原子が配置されている。一方、シリコーン接着剤組成物を構成するポリオルガノシロキサンも分子内にSi原子を有している。このため、表面にSi原子が配置された疎水性無機微粒子P1,P2は、他の原子が表面に配置された疎水性無機微粒子と比較して、ポリオルガノシロキサンに対する濡れ性が良く、シリコーン接着剤組成物中での分散性が良好である。この結果、疎水性無機微粒子P1,P2の表面にポリオルガノシロキサンが配置されやすくなるとともに、疎水性無機微粒子P1,P2の表面へ水分が吸着しにくくなる。従って、本実施形態のシリコーン接着剤組成物によれば、当該シリコーン接着剤組成物から構成される接合部30(接着材85)の接着性をより効果的に向上させることができ、ひいては、接合部30(接着材85)を備える静電チャック100の低温使用時において、上述の接合部30(接着材85)の剥がれまたは破断をより効果的に抑制することができる。
本実施形態の疎水性無機微粒子P1において、シラン系表面処理剤はジメチルジクロロシランである。ジメチルジクロロシランは、Si原子に結合している置換基が、分子鎖長の短いメチル基である。一方、分子鎖長の長い置換基が接合したシラン系表面処理剤(例えば、ブチルトリメトキシシラン)では、無機微粒子表面の水酸基を封鎖する際に、当該置換基(例えば、ブチル基)が障害となる傾向がある。すなわち、長い分子鎖長の置換基が、無機微粒子表面における水酸基が結合している部分を覆うと、当該部分の水酸基が封鎖されにくくなる。この結果、無機微粒子表面に残存する水酸基が多くなり、無機微粒子の疎水性を向上させにくい。シラン系表面処理剤としてジメチルジクロロシランを用いる場合には、無機微粒子表面の水酸基を封鎖する際に、当該置換基(メチル基)が障害となりにくく、その結果、無機微粒子の疎水性を向上させることができる。従って、本実施形態のシリコーン接着剤組成物によれば、本実施形態のシリコーン接着剤組成物から構成される接合部30(接着材85)の接着性をより効果的に向上させることができ、ひいては、接合部30(接着材85)を備える静電チャック100の低温使用時において、上述の接合部30(接着材85)の剥がれまたは破断をより効果的に抑制することができる。
本実施形態のSA1〜SA3、SA7〜SA10では、シリコーン接着剤組成物のTI値が、1.25以上、かつ、5以下である。上述のように、シリコーン接着剤組成物はペースト状で用いられることがある。この場合、ペースト状のシリコーン接着剤組成物は、例えば、注射器など、比較的細径の先端部を有する注入手段を用いて、所定の部分に塗布される。このため、シリコーン接着剤組成物において、塗布時のハンドリング性が良好であるとともに、塗布後の液ダレが抑制される(例えば、注入手段から容易に吐出し、塗布後、流れることなくその場にとどまる)ことが好適である。本実施形態のシリコーン接着剤組成物では、TI値は、1.25以上、かつ、5以下である。このため、ペースト状のシリコーン接着剤組成物において、塗布後の液ダレが抑制されるとともに、ハンドリング性が良好であるシリコーン接着剤組成物を提供することができる。
本実施形態のSA1〜SA3、SA7〜SA10では、シリコーン接着剤組成物中の水分量は、10ppm以上、5000ppm以下である。シリコーン接着剤組成物の接着性を向上させるために、シランカップリング剤を添加することがある。そして、シランカップリング剤は、加水分解することにより接着効果を発揮する。ここで、シリコーン接着剤組成物中の水分量が10ppm以下であると、シランカップリング剤の加水分解が良好に進行するのに十分でない。また、シリコーン接着剤組成物中の水分量が5000ppm以上であると、上述の通り、半導体の製造における加熱/冷却の熱サイクルの過程で、当該接合部30(接着材85)に含まれる水分が、上記接合面における接着性を低下させる要因となる。本実施形態のシリコーン接着剤組成物では、当該シリコーン接着剤組成物中の水分量を10ppm以上、5000ppm以下とすることで、上記接合部30(接着材85)の接着性をより効果的に向上させることができる。従って、本実施形態のシリコーン接着剤組成物によれば、当該シリコーン接着剤組成物から構成される接合部30(接着材85)を備える静電チャック100の低温使用時において、上述の接合部30(接着材85)の剥がれまたは破断を抑制するこができる。
本実施形態のシリコーン接着剤組成物を製造する製造方法では、無機微粒子を疎水性化合物で表面処理することにより、平均粒子径50nm以下であり、かつ、疎水性を有する疎水性無機微粒子P1,P2を準備する工程と、疎水性無機微粒子P1,P2とポリオルガノシロキサンA1,A2とを含み、かつ、21℃における粘度が、40Pa・s以上、かつ、500Pa・s以下であるシリコーン接着剤組成物を作製する工程と、を備える。本実施形態の製造方法によれば、当該シリコーン接着剤組成物から構成される接合部30(接着材85)を備える静電チャック100の低温使用時において、上述の接合部30(接着材85)の剥がれまたは破断を抑制するこができるシリコーン接着剤組成物を製造することができる。
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
上記実施形態の静電チャック100では、板状部材10とベース部材20との間に配置される接合部30と、板状部材10、ベース部材20および接合部30と、絶縁部材80との間に配置される接着材85と、の両方を含む構成としたがこれに限定されず、いずれか一方を含む構成であってもよい。また、接着材85は、絶縁部材80を固定可能な範囲において、板状部材10、ベース部材20および接合部30と、絶縁部材80との間の少なくとも一部に配置されていてもよい。また、上記実施形態の静電チャック100では、絶縁部材60,80との両方において、本実施形態のシリコーン接着剤組成物から構成される接着材(絶縁部材80における接着材85)が用いられているが、これに限定されず、いずれか一方に用いられる構成であってもよい。
上記実施形態におけるシリコーン接着剤組成物の構成は、種々変形可能である。また、ポリオルガノシロキサンの種類、シリコーン接着剤組成物中に含まれる材料の配合量等は、上記実施形態の記載に限定されるものではない。また、シリコーン接着剤組成物を構成する各材料は、あくまで一例であり、必要に応じて他の材料を含んでいてもよい。
また、本発明は、ベース部材20と板状部材10とを接合するための接合部30を備える静電チャック100に限らず、板状部材10と板状部材とを接合するための接合部を備える静電チャックや、これらの接合部を備える真空チャック等の他の保持装置や、これらの接合部を備えるシャワーヘッド等の半導体製造装置用部品等の他の複合部材にも適用可能である。
また、本発明は、ベース部材20に絶縁部材80を備え、当該絶縁部材80とベース部材20とを接合するための接着材85を備える静電チャックに限らず、ベース部材20に他の部材を備え、当該他の部材とベース部材20とを接合するための接合部を備える静電チャックや、板状部材10に上記他の部材を備え、当該他の部材と板状部材10とを接合するための接合部を備える静電チャックや、これらの接合部を備える真空チャック等の他の保持装置や、これらの接合部を備えるシャワーヘッド等の半導体製造装置用部品等の他の複合部材にも適用可能である。