JP7386189B2 - 複合部材、保持装置、および接着用構造体 - Google Patents

複合部材、保持装置、および接着用構造体 Download PDF

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Description

本開示は、複合部材、保持装置、および接着用構造体に関する。
従来、対象物を保持する保持装置として、例えば、半導体を製造する際にウェハ等の対象物を保持する静電チャックが知られている。静電チャックは、対象物が載置されるセラミック部と、冷媒流路が形成されるベース部と、セラミック部とベース部とを接合する接合部と、を備える。例えば、特許文献1には、アルミニウム等によって金属部材(ベース部)を形成し、アルミナ等によってセラミック部材(セラミック部)を形成する構成が開示されている。また、特許文献2には、静電チャックを-100~200℃の広い温度範囲で使用すること、そのように広い温度範囲で使用すると、ベース部材(ベース部)と静電チャック部材(セラミック部)との熱膨張率差が大きくなることにより、静電チャックに歪などの不都合が生じること、および、接合部をシリコーン樹脂によって構成することで、静電チャック部材とベース部材の熱膨張率差を吸収しやすくなることが記載されている。
特開2014-207374号公報 特開平04-287344号公報
しかしながら、液体窒素を冷媒として用いるような極めて温度が低い条件で静電チャックを使用する場合には、静電チャックは、シリコーン樹脂などの一般的に知られる樹脂(接着剤)の軟化温度を下回る温度条件となり得る。そして、接合部を構成する樹脂が軟化温度以下になると、接合部の弾性率が大きくなって接合部が硬くなる。その結果、静電チャックの温度変化に伴って、ベース部やセラミック部と接合部との間の熱膨張率差により接合部で熱応力が生じても、接合部は熱応力を吸収することが困難となり、接合部が損傷する等の不都合が生じる可能性がある。そのため、上記のような極低温条件下においても、接合部で生じる熱応力に起因する不都合の発生を抑える技術が望まれていた。このような課題は、静電チャックだけでなく、上記のような極低温条件下で使用する保持装置、あるいは、上記のような極低温条件下で使用する複合部材や、このような複合部材において構成部材間を接着する接着用構造体に、共通する課題であった。
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、複合部材が提供される。この複合部材は、板状に形成される第1部材と、前記第1部材の主成分の熱膨張率とは異なる熱膨張率を有する材料を主成分とする、板状に形成される第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との間に配置され、前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合部と、を備え、前記接合部は、-120℃における熱膨張率が前記第2部材よりも低い低熱膨張率物質と、接着剤とを含み、-120℃における熱膨張率が2ppm/K以上40ppm/K以下であることを特徴とする。
この形態の複合部材によれば、接合部が低熱膨張率セラミックを含むことにより、-120℃での接合部の熱膨張率を、2ppm/K以上40ppm/K以下にしている。そのため、例えば液体窒素を冷媒として用いるような低温条件下で複合部材を使用する場合であっても、接合部において熱応力の発生を抑えて、熱応力に起因する接合部の損傷等の不都合を抑えることができる。
(2)上記形態の複合部材において、前記低熱膨張率物質は、-120℃において負の熱膨張率を有することとしてもよい。このような構成とすれば、接合部における低熱膨張率物質の添加量を抑えつつ、-120℃での熱膨張率を所望の値にすることが、より容易になる。
(3)上記形態の複合部材において、前記低熱膨張率物質は、前記負の熱膨張率を有する樹脂として、ポリエチレン(PE)およびポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)のうちの少なくとも一種を含むこととしてもよい。このような構成とすれば、負の熱膨張率を有する低熱膨張率物質として樹脂材料を加えることにより、接合部の熱膨張率を低下させることができる。また、樹脂材料から成る低熱膨張率物質は、熱膨張率が温度によらずほぼ一定となって、低熱膨張率物質が負の熱膨張率を示す温度範囲が広くなる。そのため、極低温条件下を含む広い温度範囲で、接合部全体の熱膨張率が抑えられて、接合部における熱応力の発生を抑えることができる。
(4)上記形態の複合部材において、前記接合部は、前記負の熱膨張率を有する樹脂を含む平面状部材が、前記接着剤の層内において、前記第1部材および前記第2部材の面方向に沿って配置されていることとしてもよい。このような構成とすれば、面方向の低熱膨張率物質の分布を均一化することによって、接合部における面方向の熱膨張を抑制できるため、接合部における熱応力を抑える効果を高めることができる。
(5)上記形態の複合部材において、前記平面状部材は、前記負の熱膨張率を有する樹脂を含む繊維によって形成され、前記接合部は、前記平面状部材を構成する前記繊維間に、前記接着剤の一部が配置されていることとしてもよい。このような構成とすれば、接合部において面方向の低熱膨張率物質の分布を均一化する効果を高めることができる。
(6)上記形態の複合部材において、前記低熱膨張率物質は、前記負の熱膨張率を有するセラミックとして、タングステン酸ジルコニウム(ZrW28)、ルテニウム酸化物(Ca2RuO4-x(0≦x<0.4)、Ca2Ru1-xFex4-y(0<x<0.4、0≦y<0.4))、ランタン、銅、鉄の複合酸化物(LaCu3Fe412)、逆ペロブスカイト型マンガン窒化物および逆ペロブスカイト型マンガン窒化物の窒素の一部が炭素に置換されたもの(Mn3AN1-xx(0≦x<0.2)、ただしAは亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)のいずれか)、銅バナジウム酸化物(Cu2-xZnx27(0≦x<0.3))から成る群から選択される少なくとも一種を含むこととしてもよい。このような構成とすれば、負の熱膨張率を有する低熱膨張率物質としてセラミック材料を加えることにより、接合部の熱膨張率を低下させることができる。特に、上記した低熱膨張率物質は、負の熱膨張率を示す他の低熱膨張率物質に比べて、負の熱膨張率の絶対値が比較的大きいため、低熱膨張率物質の添加量を抑えつつ、接合部の熱膨張率を低下させることができる。
(7)上記形態の複合部材において、前記接合部は、前記負の熱膨張率を有するセラミックを含む平面状部材が、前記接着剤の層内において、前記第1部材および前記第2部材の面方向に沿って配置されていることとしてもよい。このような構成とすれば、面方向の低熱膨張率物質の分布を均一化することによって、接合部における面方向の熱膨張を抑制できるため、接合部における熱応力を抑える効果を高めることができる。
(8)上記形態の複合部材において、前記接着剤は、シリコーン系接着剤であることとしてもよい。このような構成とすれば、シリコーン系接着剤は弾性率が比較的低いため、接合部で生じる熱応力を緩和する効果を高めることができる。
(9)上記形態の複合部材において、前記シリコーン系接着剤は、側鎖に3~16mol%のフェニル基を有することとしてもよい。このような構成とすれば、フェニル基の導入によりシリコーン系接着剤の軟化温度が低下するため、例えば液体窒素を冷媒として用いるような低温条件下で複合部材を使用する場合であっても、接合部の熱膨張を抑えて、接合部における熱応力の発生を抑えることができる。
(10)上記形態の複合部材において、前記第2部材は、モリブデン、チタン、タングステンから選択される少なくとも一種の金属を主成分として含むこととしてもよい。このような構成とすれば、これらの金属の熱膨張率が比較的小さいため、複合部材において、第2部材と第1部材との間の熱膨張率差を抑えることができる。 本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、複合部材によって構成される保持部材、保持装置を含む半導体製造装置、複合部材の製造方法、保持装置の製造方法、接着用構造体、接着用構造体の製造方法などの形態で実現することができる。
静電チャックの外観の概略を表す斜視図。 静電チャックの構成を模式的に表す断面図。 4種の樹脂組成物の組成と熱膨張率を評価した結果とを示す説明図。 各サンプルS1~S4の組成を体積%で表した結果を表す説明図。 無機充填材添加量と-120℃での熱膨張率との関係を示す説明図。 負のCTE成分の添加量の上限値と下限値とをまとめて示す説明図。 静電チャックの構成を模式的に表す断面図。 第2実施形態の静電チャックの構成を模式的に表す断面図。 低熱膨張率物質添加量と-120℃での熱膨張率との関係を示す説明図。 負のCTE高分子材料の添加量の上限値と下限値とをまとめて示す説明図。 負のCTE高分子繊維の添加量と-120℃での熱膨張率との関係を示す説明図。 負のCTE高分子繊維の添加量の上限値と下限値とをまとめて示す説明図。 部材の温度と部材で発生する熱応力との関係を示す説明図。 樹脂組成物の貯蔵弾性率と温度との関係を調べた結果を示す説明図。 4種の樹脂組成物の組成と熱膨張率を評価した結果とを示す説明図。 各サンプルS5~S8の組成を体積%で表した結果を表す説明図。 無機充填材添加量と-120℃での熱膨張率との関係を示す説明図。 負のCTE成分の添加量の上限値と下限値とをまとめた結果を示す説明図。 低熱膨張率物質添加量と-120℃での熱膨張率との関係を示す説明図。 負のCTE高分子材料の添加量の上限値と下限値とをまとめて示す説明図。 負のCTE高分子繊維の添加量と-120℃での熱膨張率との関係を示す説明図。 負のCTE高分子繊維の添加量の上限値と下限値とをまとめて示す説明図。
A.第1実施形態:
(A-1)静電チャックの構造:
図1は、第1実施形態における静電チャック10の外観の概略を表す斜視図である。図2は、静電チャック10の構成を模式的に表す断面図である。図1では、静電チャック10の一部を破断して示している。また、図1、図2、および後述する図7、図8には、方向を特定するために、互いに直交するXYZ軸を示している。各図に示されるX軸、Y軸、Z軸は、それぞれ同じ向きを表す。本願明細書においては、Z軸は鉛直方向を示し、X軸およびY軸は水平方向を示している。なお、図1および図2、および後述する図7、図8は、各部の配置を模式的に表しており、各部の寸法の比率を正確に表すものではない。
静電チャック10は、対象物を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバ内で、対象物であるウェハWを固定するために使用される。静電チャック10は、セラミック部20と、ベース部30と、接合部40と、を備える。これらは、-Z軸方向(鉛直下方)に向かって、セラミック部20、接合部40、ベース部30の順に積層されている。本実施形態における静電チャック10を、「保持装置」あるいは「複合部材」とも呼ぶ。
セラミック部20は、略円形の板状部材であり、セラミック(例えば、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等)を主成分として形成されている。セラミック部20の構成材料として、酸化アルミニウムは、耐プラズマ性に優れるため好ましい。また、セラミック部20の構成材料として、窒化アルミニウムは、熱伝導性が高いため好ましい。本願明細書において、特定成分が「主成分である」とは、当該特定成分の含有率が、50体積%以上であることを意味する。セラミック部20の直径は、例えば、50mm~500mm程度とすればよく、通常は200mm~350mm程度である。セラミック部20の厚さは、例えば1mm~10mm程度とすればよい。
図2に示すように、セラミック部20の内部には、チャック電極22が配置されている。チャック電極22は、例えば、タングステンやモリブデンなどの導電性材料により形成されている。チャック電極22に対して図示しない電源から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWがセラミック部20の載置面24に吸着固定される。チャック電極22は、双極型であってもよく、単極型であってもよい。また、セラミック部20の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された抵抗発熱体で構成されて、載置面24に吸着固定されたウェハWを加熱するための、図示しないヒータ電極を設けてもよい。本実施形態におけるセラミック部20を、「第1部材」とも呼ぶ。
ベース部30は、略円形の板状部材であり、金属を主成分として形成されている。ベース部30は、例えば、アルミニウム、マグネシウム、モリブデン、チタン、タングステン、ニッケルのうちの少なくとも一種の金属を含むこととすることができる。また、ベース部30は、例えば、アルミニウム、マグネシウム、モリブデン、チタン、タングステンのうちのいずれかの金属を主成分とすることができる。モリブデン、チタン、タングステンは、上記した金属の中でも熱膨張率が比較的小さいため、モリブデン、チタン、タングステンのうちの少なくとも一種の金属を用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30とセラミック部20との間の熱膨張率差を抑えることができて望ましい。なお、本願明細書において、「熱膨張率」は、「線膨張率」を指す。また、マグネシウムは、ヤング率が比較的小さいため、マグネシウムを用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30で生じる熱応力を低減することができて望ましい。また、アルミニウムは、熱伝導率が比較的高く、加工が容易で低コストである。そのため、アルミニウムを用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30によるセラミック部20およびウェハWの冷却効率を高めることができ、静電チャック10の製造コストを抑えることができて望ましい。ベース部30による冷却効率を高めつつ製造コストを抑える観点からは、ベース部30における金属の含有割合が高い方が望ましく、ベース部30は、例えば、汎用性が高いアルミニウムを90質量%以上含有すること(例えば、A6061、A5052などのアルミニウム合金により構成すること)が望ましい。ベース部30の直径は、例えば、220mm~550mm程度とすればよく、通常は220mm~350mmである。ベース部30の厚さは、例えば、20mm~40mm程度とすればよい。
ベース部30の内部には、複数の冷媒流路32がXY平面に沿うように形成されている。冷媒流路32に、例えばフッ素系不活性液体や水や液体窒素等の冷媒を流すことにより、ベース部30が冷却される。そして、接合部40を介したベース部30とセラミック部20との間の伝熱によりセラミック部20が冷却され、セラミック部20の載置面24に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。ベース部30の内部に冷媒流路32を有する形態の他、ベース部30の外部からベース部30を冷却することにより、ベース部30に冷却機能を持たせてもよい。本実施形態におけるベース部30を、「第2部材」とも呼ぶ。
接合部40は、セラミック部20とベース部30との間に配置されて、セラミック部20とベース部30とを接合する。本実施形態の接合部40は、樹脂によって構成される接着剤と、-120℃における熱膨張率がベース部30よりも低い低熱膨張率物質と、を含む。接合部40の厚さは、例えば0.1mm~1.0mm程度とすることができる。接合部40の構成については、後に詳しく説明する。
静電チャック10には、さらに、複数のガス供給路50が形成されている。ガス供給路50は、セラミック部20、接合部40,およびベース部30をZ方向に貫通して設けられており、載置面24において、ガス吐出口52として開口している。ガス供給路50は、図示しないガス供給装置から、例えばヘリウムガス等の不活性ガスを供給されて、載置面24とウェハWとの間の空間に対して、ガス吐出口52から不活性ガスを供給する。これにより、セラミック部20とウェハWとの間の伝熱性を高めて、ウェハWの温度分布の制御性がさらに高められる。なお、ガス供給路50は必須ではなく、静電チャック10にガス供給路50を設けないこととしてもよい。
(A-2)接合部の構成:
以下では、接合部40の構成について説明する。接合部40は、既述したように、接着剤と低熱膨張率物質とを備える。接合部40は、「接着用構造体」とも呼ぶ。
接合部40が備える接着剤は、例えば、シリコーン樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等により構成される。これらの樹脂の中でもシリコーン樹脂は、弾性率が比較的低く、接合部40で生じる熱応力を緩和する機能が高いため、望ましい。また、シリコーン樹脂は、軟化温度およびガラス転移温度Tgが比較的低く(例えば、一般的なシリコーン樹脂の軟化温度は、-60~-40℃程度)、下記のように静電チャック10で反り等が生じることを抑制できるため望ましい。例えば、液体窒素を冷媒として用いるような低温(以下、「極低温」とも呼ぶ)条件下で静電チャック10を使用するために、実際の使用温度へと静電チャック10を冷却する際には、接着剤の軟化温度から使用温度まで冷却する過程で接着剤が硬くなり、セラミック部20あるいはベース部30と接合部40との間の熱膨張率差に起因するひずみが生じて、静電チャック10で反り等の変形が生じる可能性がある。接着剤として、軟化温度およびガラス転移温度Tgが比較的低いシリコーン樹脂を用いる場合には、軟化温度と使用温度との差が小さくなるため、静電チャック10を使用温度まで冷却する過程で接合部40において生じる歪みを抑えて、静電チャック10の反り等を抑制することができる。シリコーン樹脂は、架橋機構の違いにより、付加反応硬化型、縮合反応硬化型、過酸化物硬化型などに分類される。中でも付加反応硬化型(以下では、単に「付加型」とも呼ぶ)のシリコーン樹脂は、硬化時に揮発性物質等の副生成物や過酸化物の残渣が発生せず、気泡発生等の不都合が抑えられるため、接合部40を構成する樹脂として特に望ましい。
以下では、接合部40が備える接着剤として好適なシリコーン系接着剤について、さらに説明する。シリコーン系接着剤(ポリオルガノシロキサン)は、両末端にR1 3SiO1/2単位(以下、「M単位」ともいう)と、m個のR2 2SiO2/2単位(以下、「第1のD単位」ともいう)と、n個のR34SiO2/2単位(以下、「第2のD単位」ともいう)とを含んでいる(ここで、mは1以上の整数であり、nは1以上の整数である)。このようなポリオルガノシロキサンは、下記一般式(A)で表される。
(R1 3SiO1/22(R2 2SiO2/2m(R34SiO2/2n ・・・(A)
(R1およびR2は互いに独立に炭素数1~12の非置換または置換の脂肪族炭化水素基であり、R3は炭素数1~12の非置換もしくは置換の脂肪族炭化水素基、または、炭素数6~10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、R4は炭素数6~10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、かつ、上記ポリオルガノシロキサンはケイ素原子(Si原子)に直接結合するアルケニル基を1分子中に少なくとも2個含んでいる。)
なお、シリコーン系接着剤は、当該接着剤の柔軟性を高める観点から、ポリオルガノシロキサン構造中に、RSiO3/2単位(T単位)およびSiO4/2単位(Q単位)を含まないことが好ましい。
上記一般式(A)において、R1およびR2は、炭素数2~8のアルケニル基、または、炭素数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基であることが好ましい。上記一般式(A)のM単位において、M単位に含まれるR1の内の少なくとも1つは、炭素数2~8のアルケニル基であることが好ましく、炭素原子数2~4の低級アルケニル基であることがより好ましく、ビニル基であることがさらに好ましい。上記一般式(A)のM単位において、M単位に含まれるR1の内の残りの2つは、互いに独立に炭素数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1~3の低級アルキル基であることがより好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。
上記一般式(A)において、R3は、炭素数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基、または、炭素数6~10の非置換もしくは置換の一価芳香族炭化水素基であることが好ましい。また、R4は、炭素数6~10の非置換もしくは置換の一価芳香族炭化水素基であることが好ましい。R3やR4を上記芳香族炭化水素基とすることにより、シリコーン系接着剤の軟化温度およびガラス転移温度を低減する効果が得られる。
軟化温度を低下させる観点から、ポリオルガノシロキサンにおける上記芳香族炭化水素基の含有量は、3mol%以上とすることが好ましく、4mol%以上とすることがより好ましく、5mol%以上とすることがさらに好ましい。芳香族炭化水素基の立体障害によりポリオルガノシロキサンの結晶化が妨げられるためと考えられる。しかしながら、過剰に上記芳香族炭化水素基を導入することにより、上記芳香族炭化水素基同士がπ-πスタッキングによる相互作用を引き起こし、結晶化を招いてシリコーン系接着剤の軟化温度およびガラス転移温度が上昇してしまう。これを抑える観点から、ポリオルガノシロキサンにおける上記芳香族炭化水素基の含有量は、16mol%以下とすることが好ましく、14mol%以下とすることがより好ましく、12mol%以下とすることがさらに好ましい。ここで、上記芳香族炭化水素基の導入割合を表す「mol%」は、シリコーン系接着剤が有するすべての炭化水素基の合計のモル数に対する、上記芳香族炭化水素基のモル数の割合を示す。R3およびR4を上記芳香族炭化水素基とする場合には、芳香族炭化水素基をフェニル基とすることが特に望ましい。このようにしてシリコーン系接着剤の側鎖にフェニル基を導入する構成については、後述する第5実施形態において詳しく説明する。
接合部40が備えるシリコーン系接着剤は、単一種類のポリオルガノシロキサンからなることが好ましい。「単一種類のポリオルガノシロキサンからなる」とは、接合部40を構成する全てのポリオルガノシロキサンが、上記一般式(A)において、R1,R2,R3,R4のいずれの置換基においても一意に定められた分子構造を有していることを意味し、R1,R2,R3,R4の全てまたはいずれかの置換基が異なる分子構造を有するポリオルガノシロキサンの混合物でないことを意味する。
接合部40が備える低熱膨張率物質は、既述したように、-120℃における熱膨張率がベース部30よりも低い物質である。また、低熱膨張率物質は、ベース部30よりも熱膨張率が低いことに加えて、さらに、セラミック部20よりも熱膨張率が低いことが望ましい。本実施形態では、このように、接着剤に低熱膨張率物質を加えて接合部40を構成することにより、接合部40全体の熱膨張率を低下させている。すなわち、接合部40に含まれる樹脂の熱膨張率は、一般に、セラミック部20やベース部30の熱膨張率よりも大きな値となるが、本実施形態では、低熱膨張率物質を接合部40に加えることにより、-120℃における接合部40の熱膨張率を、2ppm/K以上40ppm/K以下にしている。本実施形態では、低熱膨張率物質としてセラミックを用いている。以下では、低熱膨張率物質として用いるセラミックを、「低熱膨張率セラミック」とも呼ぶ。
-120℃における熱膨張率がベース部30よりも低い低熱膨張率セラミックとしては、例えば、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO2)、酸化イットリウム(イットリア:Y23)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al23)を挙げることができる。また、セラミック部20を酸化アルミニウム(アルミナ:Al23)で形成する場合には、セラミック部20を構成するセラミックよりも低い熱膨張率を示す低熱膨張率セラミックとしては、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si34)、コージライト(2MgO・2Al23・5SiO2)を挙げることができる。
接合部40の熱膨張率を効率良く低減できるという観点から、低熱膨張率セラミックは、負の熱膨張率を有することが望ましく、特に、-120℃において負の熱膨張率を有することが望ましい。接合部40が含有する負の熱膨張率を有する低熱膨張率セラミックは、例えば、タングステン酸ジルコニウム(ZrW28)、ルテニウム酸化物(Ca2RuO4-x(0≦x<0.4)、Ca2Ru1-xFex4-y(0<x<0.4、0≦y<0.4))、ランタン、銅、鉄の複合酸化物(LaCu3Fe412)、逆ペロブスカイト型マンガン窒化物および逆ペロブスカイト型マンガン窒化物の窒素の一部が炭素に置換されたもの(Mn3AN1-xx(0≦x<0.2)、ただしAは亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)のいずれか)、銅バナジウム酸化物(Cu2-xZnx27(0≦x<0.3))、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO42)、β-ユークリプタイト(β-LiAlSiO4)、並びにビスマスニッケル鉄酸化物(BiNi1-xFex3(0<x<1):BNFO)から成る群から選択される少なくとも一種のセラミックとすることができる。これらの中でも、タングステン酸ジルコニウム、ルテニウム酸化物、ランタン、銅、鉄の複合酸化物、逆ペロブスカイト型マンガン窒化物および逆ペロブスカイト型マンガン窒化物の窒素の一部が炭素に置換されたもの、並びに銅バナジウム酸化物が好ましい。低温まで負の熱膨張率を示し、かつその温度範囲が広いためである。
本実施形態の接合部40では、低熱膨張率セラミックは、粉体の状態で、接着剤である樹脂中に分散させている。低熱膨張率セラミックの粉体の平均粒径は、接合部40を形成するために低熱膨張率セラミックと接着剤とを混合して作製するペーストにおいて流動可能な接着剤の量を確保して、ペーストの粘度を抑え、接合部40の成形性を確保する観点から、5nm以上とすることが好ましく、50nm以上とすることがより好ましく、100nm以上とすることがさらに好ましい。また、粒子径が大きいことに起因して接合部40の厚みを制御することが困難となって、接合部40の表面における平坦性が低下することを抑える観点から、低熱膨張率セラミックの平均粒径は、50μm以下とすることが好ましく、40μm以下とすることがより好ましく、30μm以下とすることがさらに好ましい。低熱膨張率セラミックの平均粒子径は、レーザ光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(又はメジアン径)として求めることができる。なお、低熱膨張率セラミックの粒子形状は、球状、凹凸や若干の変形を有する略球状、針状、薄片状、不定形状など、種々の形状とすることができ、特に限定されない。
接合部40を形成する際に、接着剤である樹脂に対する低熱膨張率セラミックの混合割合は、樹脂や低熱膨張率セラミックの種類に応じて、-120℃における接合部40全体の熱膨張率が2ppm/K以上40ppm/K以下となるように、適宜設定すればよい。樹脂および低熱膨張率セラミックの種類と、低熱膨張率セラミックの混合割合との関係の具体例については、後に説明する。
接合部40を作製する際に、低熱膨張率セラミックは、粉末の状態で、樹脂を硬化させる前の液状の接着剤と混合してペーストを作製してもよく、あるいは、低熱膨張率セラミックを有機溶剤に分散させたスラリーの状態で、液状の接着剤に混合してペーストを作製してもよい。そして、作製したペーストを、セラミック部20とベース部30との間に塗布等により配置した後に、接着剤を硬化させればよい。このとき、樹脂に対する低熱膨張率セラミックの混合割合、低熱膨張率セラミックの平均粒子径や粒度分布、あるいは低熱膨張率セラミックの粒子形状等によって、上記ペーストの粘度が変化し、また、ペーストとして調製することが困難化する場合がある。そのため、樹脂に対する低熱膨張率セラミックの混合割合、低熱膨張率セラミックの平均粒子径や粒度分布、あるいは低熱膨張率セラミックの粒子形状等の条件は、得られるペーストの取り扱いの容易性等を考慮して、-120℃における接合部40全体の熱膨張率が2ppm/K以上40ppm/K以下となる範囲で、適宜設定すればよい。
接合部40は、接合部40の性質や接合部40を形成するためのペーストの性質を調整するための種々の充填材(無機フィラー)を含むことができる。上記した低熱膨張率セラミックは、接合部40の熱膨張率を低下させるための充填材である。上記した低熱膨張率セラミックのうち、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ:Al23)、酸化イットリウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素等は、接合部40における熱伝導率、強度、耐熱性等の制御、あるいは、接合部40を形成するためのペーストの粘度調整等を行うためにも用いられる。接合部40は、上記のように接合部40の性質等を調整するために用いる充填材として、例えば、二酸化ケイ素(シリカ:SiO2)、フッ化イットリウム、窒化ホウ素、酸化鉄、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等のうちの少なくとも1種を、さらに含んでいてもよい。充填材は、接合部40を構成する接着剤への分散性向上の観点から、その表面が疎水処理(表面処理)されていてもよい。例えば、充填材は、オルガノシランやオルガノシラザン、ジオルガノポリシロキサン等の有機ケイ素化合物等の表面処理剤で表面処理されていてもよい。なお、表面処理剤の添加量及び表面処理方法については、特に限定されない。
接合部40は、さらに、接着剤の硬化速度の調整を目的とする反応抑制剤、硬化反応を促進する触媒、硬化や接着を促進するためのシランカップリング剤、あるいは架橋剤等を含んでいてもよい。接合部40が含む反応抑制剤としては、従来知られる種々の反応抑制剤を利用可能であり、例えば、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン、トリアリルイソシアヌレート等を用いることができる。接合部40が含む触媒としては、従来知られる種々の触媒を利用可能であり、例えば、付加型シリコーン樹脂の場合、白金触媒、ロジウム触媒、チタン触媒、ビスマス触媒等を用いることができる。中でも、反応性が高い白金触媒を用いることが望ましい。接合部40が含むシランカップリング剤としては、特に制限は無く、例えば、有機反応性基としてビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基のいずれかを有するもの、加水分解基としてメトキシ基、エトキシ基、2-メトキシエトキシ基、イソプロポキシ基など、従来知られるシランカップリング剤の中から適宜選択することができる。接合部40が含む架橋剤としては、付加型シリコーン樹脂の場合、1分子中に少なくとも3つのヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いることができる。より具体的には、例えば、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、および、ポリ(ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン)の少なくとも一方を用いることができる。
接合部40の軟化温度は、-50℃以下であることが好ましい。接合部40の軟化温度が-50℃より高くなると、低温環境下において、柔軟性、接着性および伸びに関する特性が低下する傾向がある。換言すれば、接合部40に含まれる接着剤が有する柔軟なエラストマーやゴムとしての性質が低下する傾向がある。これに対し、接合部40の軟化温度が-50℃以下であれば、低温環境下においても、柔軟性、接着性および伸びに関する良好な特性が維持される傾向がある。接合部40の軟化温度は、より好ましくは、-70℃以下であり、さらに好ましくは、-80℃以下である。
(A-3)静電チャックの製造方法:
次に、本実施形態における静電チャック10の製造方法を説明する。はじめに、チャック電極22およびヒータ電極等の導電性材料層が内部に配置された板状のセラミック部20を作製する。セラミック部20の作製は、例えば、公知のシート積層法やプレス成形法により行うことができる。
シート積層法によるセラミック部20の作製方法の一例は、次の通りである。まず、アルミナ原料とブチラール樹脂と可塑剤と溶剤とを混合し、得られた混合物をドクターブレード法によってシート状に成形することにより、複数枚のセラミックスグリーンシートを作製する。また、特定のセラミックスグリーンシートに対して、スルーホールの形成やビア用インクの充填、チャック電極22、ヒータ電極の形成のための電極用インクの塗布等の必要な加工を行う。電極用インクが塗布された箇所が、導電性材料層となる。なお、ビア用インクや電極用インクとしては、例えばタングステンやモリブデン等の導電性材料とアルミナ原料とエトセル(登録商標)樹脂と溶剤とを混合してスラリー状としたメタライズインクが用いられる。その後、複数のセラミックスグリーンシートを積層して熱圧着し、所定のサイズに加工することにより、セラミックス成形体を得る。得られたセラミックス成形体を窒素中で脱脂した後、加湿した水素窒素雰囲気で、例えば1500℃~1600℃で常圧焼成することにより、板状のセラミック部20を作製する。
次に、セラミック部20とベース部30とを、接合部40を介して接合する。その際には、まず、上記のように作製したセラミック部20に加えて、ベース部30と、接合部40を形成するための接着シートとを準備する。接着シートは、硬化前の接着剤を含む接合部40の構成材料を真空下で撹拌することにより接着ペーストを作製し、作製された接着ペーストを、必要に応じてロールコーター等を用いてシート状に成形した後、適宜設定した温度および時間の条件下で加熱し、半硬化させることにより作製される。その後、セラミック部20とベース部30との間に接着シートを配置し、真空中で貼り合せて加熱する。これにより、接着剤が硬化して接合部40が形成され、セラミック部20とベース部30とが接合部40により接着される。その後、必要により後処理(外周の研磨、端子の形成等)を行う。以上の製造方法により、静電チャック10が製造される。
(A-4)低熱膨張率セラミックの添加による影響の確認:
図3は、低熱膨張率セラミックの添加による影響を調べるために、接合部40(接着シート)として、組成が異なる4種の樹脂組成物を作製して、評価した結果を示す説明図である。図3では、上記4種の接合部40(接着シート)の各々を、サンプルS1~S4として、各サンプルの組成と、各サンプルの-120℃での熱膨張率を評価した結果と、を示している。
各サンプルはいずれも、接着剤として、シリコーン樹脂A1として記載したビニル末端ポリジメチルシロキサン(平均分子量63,000、フェニル基含有量0mol%)を、共通して備えている。また、各サンプルは、シリコーン成分として、上記シリコーン樹脂A1に加えて、0.003重量部の白金触媒、1分子中に3つの加水分解性官能基を含有する2重量部のシランカップリング剤、およびヒドロシリル基(-Si-H)を含有する3重量部の架橋剤を備えており、各サンプルに含まれるシリコーン成分の組成は同一である。なお、図3では、シリコーン樹脂A1の量を100重量部としたときの相対的な量として、各サンプルに含まれる他の材料の量を表している。
各サンプルのうち、サンプルS1は、上記シリコーン成分のみによって形成される。サンプルS2~S4は、さらに、充填材成分として、300重量部のアルミナ粒子(Al23、密度は3.65g/cm3)を含んでいる。また、サンプルS3は、-120℃で負の熱膨張率を有する低熱膨張率セラミック(以下では、負のCTE成分とも呼ぶ)として、92重量部のルテニウム酸化物粒子(Ca2RuO3.74、密度は4.48g/cm3)をさらに含んでいる。また、サンプルS4は、負のCTE成分として、236重量部のタングステン酸ジルコニウム粒子(ZrW28、密度は5.10g/cm3)をさらに含んでいる。
(シリコーン樹脂A1の合成方法)
ジメチルジクロロシラン((CH32SiCl2、D単位の原料)を出発物質として、このジメチルジクロロシランを加水分解し環状シロキサンオリゴマーを作製し、触媒存在下で開環重合を行う。触媒としては酸触媒とアルカリ触媒のどちらも使用可能だが、通常は水酸化カリウムを用いることができる。ポリマーの末端基は、末端基となるM単位、すなわちトリメチルシロキシ単位として、トリメチルクロロシラン((CH33SiCl)やヘキサメチルジシロキサン((CH33SiOSi(CH33)を、上記ジメチルジクロロシラン(D単位)に混合しておくことにより導入することができる。末端に官能基を導入する場合は、官能基を有するM単位、例えば、ジメチルビニルクロロシラン((CH32(CH2=CH)SiCl)を、上記ジメチルジクロロシラン(D単位)に混合しておくことにより導入することができる。ポリマーの平均分子量は、M単位とD単位の混合割合を変更することにより制御することができる。シリコーン樹脂A1の平均分子量は63,000であり、これは、M単位:D単位=2:847の割合で重合を行うことにより制御可能である。反応性の官能基は、上記化合物のメチル基を例えば脂肪族不飽和炭化水素基に変更することで導入することができ、具体的には、CH3(CH2=CH)SiCl2、または、(CH32(CH2=CH)SiClを添加することで導入することができる。
(平均分子量の測定)
シリコーン樹脂A1の平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定し、ポリスチレン換算の平均分子量として算出した。溶媒にはトルエンを用いた。
(各サンプルの作製方法)
各サンプルの作製方法は、次の通りである。上記のようにして合成したシリコーン樹脂A1に、それぞれ、触媒として白金触媒、シランカップリング剤、充填材および架橋剤を、図3に示す割合で添加する。これにより、接着ペーストが作製される。そして、作製した接着ペーストをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に塗り広げる。塗り広げる方法は、公知の方法を用いることができ、本性能評価では、ドクターブレードを用いた。次に、PETフィルムに塗り広げられた接着ペーストを適切な大きさに切断し、その後、切断されたPETフィルム付の接着ペーストを、乾燥機によって、予め定めた時間と温度の条件下にて加熱する。このときの加熱時間および加熱温度を調節して、接着ペーストを半硬化させることによって、接合部40を形成するための既述した接着シートを得ることができる。ここでは、接着ペーストを完全に硬化させることによって、接合部40に対応する各サンプルを作製した。
(熱膨張率の測定)
図3に示した各サンプルの熱膨張率の測定方法について、以下に説明する。各サンプルの熱膨張率は、公知の熱膨張率測定装置(例えば、株式会社リガク製のThermo plus EVO2熱機械分析装置 TMAシリーズ)により測定できる。測定のための試験片として、上記のようにして作製した各サンプルから切り出したシート(例えば、長さ20mm×幅5mm、厚み0.35mmであって、長さ20mmの内、測定部の長さは中央部の15mmであり、両側にチャック部が各2.5mmあるシート)を用意する。そして、上記試験片に引張荷重(例えば50mN)を付与しつつ、予め設定した昇温速度(例えば10℃/分)で昇温し、予め設定した時間間隔(例えば1秒間隔)で、上記試験片の温度と長さの変化を測定する。測定の温度範囲は、対象となる静電チャックの使用温度や製造工程にかかる温度に応じて決定することができる。例えば、-150~-100℃の温度範囲における熱膨張率は、以下の(1)式により算出することができる。また、特定の温度における熱膨張率は、その前後の温度における試験片の長さから算出することができ、例えば-120℃における熱膨張率は以下の(2)式により算出することができる。
熱膨張率={(-100℃の試験片長さ)-(-150℃の試験片長さ)}÷(測定部の長さ)÷{(-100)-(-150)} …(1)
-120℃での熱膨張率={(-110℃の試験片長さ)-(-130℃の試験片長さ)}÷(測定部の長さ)÷{(-110)-(-130)} …(2)
なお、図3に示した結果は、静電チャック10を作製することなく、接合部40に相当するサンプルを作製して熱膨張率を測定したが、静電チャックから接合部を切り出して、熱膨張率を測定することもできる。静電チャックから接合部を切り出す場合には、例えば、静電チャックのセラミック部を平面研削盤等で削り取り、接合部を露出させた後に、できるだけベース部との接合界面に近いところから、カミソリのような薄い刃を用いて、接合部をそぎ落とす。このとき、各サンプルの厚みが揃うように、できるだけ接合部の厚み全体にわたって取り出すことが望ましい。そして、そぎ落とした接合部片を、上記したサイズにカットすればよい。
(体積%の測定)
図4は、図3に示した各サンプルS1~S4の組成を、体積%で表した結果を表す説明図である。各サンプルの組成である体積%の求め方について、以下に説明する。接合部における各成分(シリコーン成分、充填材成分、負のCTE成分)の含有率(体積%)は、例えば、接合部の断面について走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)の反射電子像観察を行い、明部と暗部の面積割合を算出することにより求めることができる。倍率は、一つの視野の中に多くの低熱膨張率セラミック粒子(負のCTE成分)が確認できるよう、例えば1000倍程度と比較的低い倍率で観察を行うことが好ましい。広い視野で観察することで、平均化された含有率を求めることができるためである。走査型電子顕微鏡の反射電子像観察において、反射電子はサンプルを構成する元素により発生量が異なり、原子番号が大きいほど、また、密度が高く電子密度が高いほど、発生量が多くなる性質を有するため、原子番号の大きい元素ほど、また、密度が高い部分ほど、明るく観察される。したがって、例えば、低熱膨張率セラミックとしてタングステン酸ジルコニウム(ZrW28)を用いる場合には、ケイ素、炭素、水素等を含むシリコーン成分相は、原子番号が比較的小さいため暗く観察され、ジルコニウムやタングステンを含む低熱膨張率粒子(負のCTE成分)、および、アルミニウムを含む充填材成分は、原子番号が比較的大きい元素を含み、かつ密度が高く電子密度も高いため、明るく観察される。上記のようにして算出した走査型電子顕微鏡の反射電子像における負のCTE成分や充填材成分の部分の面積割合は、接合部における負のCTE成分や充填材成分の部分の含有率に等しいと考えることができる。接合部における組成がある程度不均一であると考えられる場合には、上記した面積割合を求める断面の数を増やして、断面ごとに求めた負のCTE成分や充填材成分の面積割合の平均を求めればよい。なお、図4では、各成分の体積%の値として、小数点以下を四捨五入した値を記載している。
含まれている負のCTE成分や充填材成分の組成は、走査型電子顕微鏡に備え付けることができるエネルギー分散型X線分析(EDX: Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)により、元素に固有の特性X線と、その強度とを測定することにより確認できる。また、X線回折法(XRD: X-ray Diffraction)により、結晶状態を測定し、データベースと比較することによっても確認できる。
ベース部30を構成する材料の一例であるアルミニウム(A6061P)の-120℃での熱膨張率は14ppm/Kであり、セラミック部20を構成する材料の一例である酸化アルミニウム(アルミナ:Al23)の-120℃での熱膨張率は2ppm/Kである。また、負のCTE成分であるルテニウム酸化物(Ca2RuO3.74)の-120℃での熱膨張率は-115ppm/Kであり、タングステン酸ジルコニウム(ZrW28)の-120℃での熱膨張率は-9ppm/Kである。図3および図4に示すように、-120℃での熱膨張率は、シリコーン成分のみからなるサンプルS1では84ppm/Kであるのに対し、充填材成分であって、熱膨張率がベース部よりも低い低熱膨張率セラミックであるアルミナ粒子を含むサンプルS2では、48ppm/Kであった。また、さらに負のCTE成分を含むサンプルS3、S4の-120℃での熱膨張率は、それぞれ、32ppm/K、37ppm/Kであった。すなわち、熱膨張率がベース部よりも低いアルミナ粒子を加えることで、-120℃での熱膨張率は低下し、負のCTE成分をさらに加えることで、-120℃での熱膨張率はさらに低下した。
図5は、上記したサンプルS1のシリコーン成分に対して、タングステン酸ジルコニウム粒子(ZrW28)、ルテニウム酸化物粒子(Ca2RuO3.74)、およびアルミナ粒子(Al23)の各々を、種々の含有率(体積%)で添加したサンプルを作製して-120℃での熱膨張率を測定し、含有率と熱膨張率との関係を調べた結果を表す説明図である。以下では、上記したアルミナ粒子および負のCTE成分を合わせて、「無機充填材」とも呼ぶ。
図5に示すように、いずれの無機充填材を複合した接着剤においても、無機充填材の添加量が増えるほど-120℃での熱膨張率は低下し、具体的には、熱膨張率は、体積%で表した無機充填材の添加量に対して直線的に変化する。このとき、無機充填材の添加量の増加に対して熱膨張率が低下する傾きは、無機充填材の-120℃での熱膨張率が小さいほど、大きくなる。これは、熱膨張率が体積の変化率であるためであると考えられる。
図6は、サンプルS1のシリコーン成分に対して、負のCTE成分であるタングステン酸ジルコニウム粒子(ZrW28)あるいはルテニウム酸化物粒子(Ca2RuO3.74)を加えることによって、-120℃での熱膨張率を2ppm/K以上40ppm/K以下にするための、負のCTE成分の添加量の上限値と下限値とをまとめた結果を示す説明図である。図6において、充填材成分無しの条件下における負のCTE成分の上限値および下限値を体積%で示した値は、図5に示した結果を用いて求めたものである。図6において、充填材成分無しの条件下における負のCTE成分の上限値および下限値を重量部で示した値は、図5に示した無機充填材の添加量を、シリコーン成分量を100重量部として各無機充填材の相対的な添加量を表した値に換算したものである。
また、充填材成分である300重量部のアルミナを、接着剤成分である100重量部のサンプルS1に加えたものに対して、負のCTE成分としてのルテニウム酸化物粒子(Ca2RuO3.74)あるいはタングステン酸ジルコニウム粒子(ZrW28)を、添加量を変化させて添加して、図5と同様にして、-120℃での熱膨張率と添加量との関係を調べた(データ示さず)。図6では、この結果に基づいて、充填材成分有りの条件下における、-120℃での熱膨張率を2ppm/K以上40ppm/K以下にするための、負のCTE成分の添加量の上限値と下限値とを、体積%あるいは重量部で示したときの値を併せて示している。
図6に示すように、負のCTE成分としてルテニウム酸化物粒子(Ca2RuO3.74)を用いた場合の方が、タングステン酸ジルコニウム粒子(ZrW28)を用いた場合に比べて、負のCTE成分の添加量の上限値および下限値の値が、小さくなる。また、低熱膨張率セラミックである充填材成分(アルミナ)を加えた場合の方が、加えない場合に比べて、負のCTE成分の添加量の上限値および下限値の値が、小さくなる。なお、充填材成分(アルミナ)を加える場合には、充填材成分(アルミナ)を加えない場合に比べて、全体に対する接着剤成分の割合が異なることになる。そのため、添加量を体積%で表して、全体量を100体積%に揃えて比較する場合の方が、添加量を重量部で表して、接着剤成分の量を100重量部に揃えて比較する場合に比べて、上記した関係が、より顕著に認められる。
以上のように構成された本実施形態の静電チャック10によれば、接合部40に低熱膨張率セラミックを加えることにより、-120℃での接合部40の熱膨張率を、2ppm/K以上40ppm/K以下、すなわち、ベース部30やセラミック部20の熱膨張率に近い値にしている。そのため、液体窒素を冷媒として用いるような極めて温度が低い条件、すなわち、接合部40を構成する接着剤の軟化温度を下回る温度条件で、静電チャックを使用する場合であっても、接合部40において熱応力の発生を抑えて、熱応力に起因する接合部40の損傷等の不都合を抑えることができる。-120℃での接合部40の熱膨張率を上記範囲内とすることで、ベース部30あるいはセラミック部20と接合部40との間の熱膨張差が小さくなり、接合部40において熱応力が生じ難くなる。接着剤が軟化温度以下になると、弾性率が大きくなって接合部40が硬くなり、上記熱膨張差に起因する熱応力を接合部40により吸収し難くなるが、熱膨張差が小さくなることにより、熱応力に起因する不都合を抑えることができる。
また、本実施形態では、低熱膨張率セラミックを、粉体の状態で接着剤中に分散させている。そのため、接合部40において低熱膨張率セラミックを均質に配合することが容易となり、低熱膨張率セラミックを添加することにより接合部40の熱膨張率を抑える効果を、安定して得ることができる。
また、本実施形態において、低熱膨張率セラミックとして、熱膨張率が負の値となる成分、特に、-120℃での熱膨張率が負の値となる負のCTE成分を用いている場合には、低熱膨張率セラミックの添加量を抑えつつ、-120℃での熱膨張率を所望の値にすることが、より容易になる。
さらに、本実施形態の接合部40において、低熱膨張率セラミックとして、ベース部30よりも-120℃での熱膨張率が小さい充填材を含む場合には、添加する充填材の種類に応じて、熱伝導率、強度、耐熱性等の制御、あるいは、接合部40を形成するためのペーストの粘度調整等を行いつつ、負のCTE成分の添加量を削減することができる。
このような本実施形態の静電チャック10において、ベース部30が、モリブデン、チタン、タングステンから選択される少なくとも一種の金属を主成分とするならば、アルミニウムなどの他種の金属を主成分とする場合に比べて、ベース部30の熱膨張率を低くすることができる。そのため、接合部40とベース部30との間の熱膨張差を抑える効果を高めることができて、より望ましい。
なお、接合部40に低熱膨張率セラミックを添加する場合には、低熱膨張率セラミックに含まれる元素が、静電チャック10を使用する半導体製造装置の真空チャンバ内部に拡散して、ウェハに悪影響を及ぼす等の不都合が生じる可能性がある。以下では、このような不都合を抑えるための構成について説明する。
図7は、第1実施形態の変形例としての静電チャック110の構成を模式的に表す断面図である。静電チャック110において、図2に示した静電チャック10と共通する部分には同じ参照番号を付す。静電チャック110は、接合部40の外周に近接して、Oリング42が配置される点で、静電チャック10とは異なっている。Oリング42は、接合部40の全周に沿って配置されると共に、接合部40においてガス供給路50の壁面の一部を形成するように設けられた穴部の外周を囲むように配置されている。このようなOリング42を配置することにより、接合部40がプラズマに露出することが抑えられるため、上記した不都合を抑制することができる。
また、接合部40は、その外周部において、低熱膨張率セラミックを含まない部位を設けることとしてもよい。低熱膨張率セラミックを含まない部位は、例えば、接合部40の外周全体を囲むように、プラズマの影響を受けると考えられる範囲(例えば、外周から1mm程度の範囲)にわたって設けることとすればよい。低熱膨張率セラミックを含まない部位は、接合部40を形成する際に、低熱膨張率セラミックを含む接着剤と含まない接着剤とを用意して、上記した外周部のみに低熱膨張率セラミックを含まない接着剤を塗布して、全体を硬化させればよい。このような構成としても、低熱膨張率セラミックを含む接合部40がプラズマに露出されることを抑える同様の効果が得られる。
B.第2実施形態:
図8は、第2実施形態の静電チャック210の構成を模式的に表す断面図である。静電チャック210において、図2に示した静電チャック10と共通する部分には同じ参照番号を付す。
静電チャック210は、接合部40に代えて接合部240を備える点で、第1実施形態と異なっている。接合部240は、樹脂層244と低熱膨張率シート246とを備える。樹脂層244は、第1実施形態の接合部40に含まれる接着剤と同様の樹脂により形成される。低熱膨張率シート246は、第1実施形態と同様の低熱膨張率セラミックを含み、第1面と、第1面の反対側の面である第2面と、を備えた平面状部材であり、上記した接着剤の層内において、X方向に沿って配置される。すなわち、低熱膨張率シート246の上記した第1面および第2面に接するように、これらの両面上に、樹脂層244である接着剤層が形成されている。
このような接合部240の厚さは、例えば0.1mm~1mm程度とすることができる。そして、低熱膨張率シート246の厚さは、接合部40全体の厚さの、例えば、10%~90%とすることができる。接合部240は、例えば、低熱膨張率セラミックを含む低熱膨張率シート246を用意して、このシートの両面に接着剤を塗布し、ベース部30およびセラミック部20となる部材間に配置して、接着剤を硬化させることにより形成することができる。
このような構成とすれば、接合部240において、各部材の積層面の方向である面方向(XY平面が広がる方向)に延びるように低熱膨張率セラミックを配置するため、ベース部30およびセラミック部20と、接合部240と、の間の熱膨張率差に起因して接合部240で生じる熱応力を抑える効果を高めることができる。すなわち、接合部240は、種々の方向に熱膨張し得るが、面方向の熱膨張が、熱応力に対して最も大きく影響すると考えられる。そのため、低熱膨張率シート246を設けることで、例えば接合部40の第1面から第2面へと厚み方向(Z方向)に接合部40を貫通するように、面内の複数箇所に低熱膨張率セラミックを配置する場合に比べて、接合部240の面方向の熱膨張を抑える効果を高めて、熱応力の発生を抑えることができる。特に、第2実施形態によれば、低熱膨張率物質をシート状にして配置するため、面方向の低熱膨張率物質の分布を均一化することができ、極低温条件下であっても、接合部240における熱応力を抑えて、静電チャック210を支障なく使用できる効果を高めることができる。
なお、低熱膨張率シート246は、1層ではなく、複数設けることとしてもよい。この場合には、低熱膨張率シートの各層間に接着剤を塗布して、低熱膨張率シートと接着剤層とを交互に配置すればよく、積層する低熱膨張率シート246の枚数により、接合部40の厚みを調節することができる。
C.第3実施形態:
第1および第2実施形態では、低熱膨張率物質として低熱膨張率セラミックを用いたが、高分子材料を用いてもよい。以下では、第3実施形態として、高分子材料の低熱膨張率物質(以下、低熱膨張率樹脂とも呼ぶ)を接合部40に分散させて用いる構成を説明する。第3実施形態の接合部40は、低熱膨張率樹脂と接着剤とが混合された接着剤組成物によって構成されており、低熱膨張率物質の種類以外は第1実施形態と同様の構成を有するため、第1実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して説明する。
(C-1)接合部の構成:
用いる低熱膨張率樹脂は、-120℃における熱膨張率がベース部30よりも低い高分子材料であればよいが、負の熱膨張率を示す高分子材料、望ましくは-120℃において負の熱膨張率を示す高分子材料を用いるならば、低熱膨張率樹脂の添加量を抑えることができるため望ましい。-120℃において負の熱膨張率を示す高分子材料(以下では、負のCTE高分子材料とも呼ぶ)としては、例えば、ポリエチレンや、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールを挙げることができる。
ポリエチレンは、通常のポリエチレンが分子量2~30万のところ、分子量を100万~700万程度まで高めた超高分子量ポリエチレンが好ましい。また、このような超高分子量ポリエチレンを、延伸によって分子鎖が伸びきった状態にしたものがさらに好ましい。熱膨張率が負の値を示す程度が大きく、且つ、極低温まで熱膨張率の変化が小さいことにより、熱膨張率が負の値を示す温度範囲が広いためである。また、このようなポリエチレンは繊維状であるため、接合部40の面方向に配向させることが容易となるためである。上記ポリエチレン繊維の具体例として、イザナス(東洋紡製、イザナスは登録商標)を挙げることができる。負のCTE高分子材料としてのポリエチレン繊維は、高分子材料の中でも特に熱膨張率が低いため、望ましい。
ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールは、液晶性樹脂であり、ジアミノレゾルシノール塩酸塩とテレフタル酸を重合することで得られ、紡糸することで繊維状とすることができる。ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールを重合する際の反応式を、以下に示す。ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールの具体例として、ザイロン(東洋紡製、ザイロンは登録商標)を挙げることができる。負のCTE高分子材料としてのポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールは、高分子材料の中でも特に熱伝導率が高いため、望ましい。
接合部40における低熱膨張率樹脂の混合割合は、例えば低熱膨張率樹脂として負のCTE高分子材料を用いる場合には、接合部40の熱膨張率を所望の範囲(-120℃における熱膨張率が2ppm/K以上40ppm/K以下)に低下させる観点から、例えば、5体積%以上とすることが好ましく、10体積%以上とすることがより好ましい。また、接合部40における負のCTE高分子材料の混合割合は、ベース部30とセラミック部20との間の接着性を実現するための接着剤の量を十分に確保する観点から、例えば、70体積%以下とすることが好ましく、60体積%以下とすることがより好ましい。
なお、接合部40における低熱膨張率樹脂の含有割合(体積%)は、第1実施形態で説明したように、接合部40の断面についての走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)の反射電子像観察により求めることができる。接合部40における低熱膨張率樹脂の配向方向については、接合部40のXY平面を汎用の光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡によって観察することによって確認することができる。また、接合部40における低熱膨張率樹脂の組成は、第1実施形態で説明したように、走査型電子顕微鏡に備え付けることができるエネルギー分散型X線分析(EDX: Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)により確認できる。あるいは、X線回折法(XRD: X-ray Diffraction)により、結晶状態を測定し、データベースと比較することによっても確認できる。あるいは、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)により、赤外線の吸収量を測定し、データベースと比較することによっても確認できる。
接合部40を作製する際には、例えば、樹脂を硬化させる前の液状の接着剤と、低熱膨張率樹脂とを混合してペーストを作製し、作製したペーストを、セラミック部20とベース部30との間に塗布等により配置した後に、接着剤を硬化させればよい。このとき、低熱膨張率樹脂は、繊維状(糸状)であってもよく、繊維をより短くした短繊維状としてもよく、繊維をさらに粉砕した粉体状であってもよい。繊維が短く粉体状に近いほど、接着剤と混合してペーストを作製する際に、ペーストを均質化し易くなり、望ましい。
接合部40は、さらに、既述したセラミック粉末等の充填材(無機フィラー)、触媒、シランカップリング剤、あるいは架橋剤等を含んでいてもよい。特に、充填材として、ベース部30よりも-120℃での熱膨張率が小さい充填材を含む場合には、充填材が、上記低熱膨張率樹脂以外の低熱膨張率物質として働くため、低熱膨張率樹脂の添加量を削減することができる。また、低熱膨張率樹脂と接着剤との接着性を高めるためには、上記ペーストにシランカップリング剤を加えることが望ましい。
(C-2)低熱膨張率物質の添加による影響の確認:
図9は、第1実施形態で説明したサンプルS1のシリコーン成分に対して、超高分子量ポリエチレン(PE)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)、およびアルミナ粒子(Al23)の各々を、種々の含有率(体積%)で添加したサンプルを作製して-120℃での熱膨張率を測定し、含有率と熱膨張率との関係を調べた結果を表す説明図である。以下では、上記したアルミナ粒子および負のCTE高分子材料を合わせて、「低熱膨張率物質」と呼ぶ。
ここでは、サンプルS1のシリコーン成分に対して、微粉末状態の低熱膨張率物質を種々の割合で混合して、第1実施形態と同様にして、接合部40に対応する各サンプルを作製した。そして、第1実施形態と同様にして、低熱膨張率物質の添加量を体積%で表した値を測定し、-120℃での熱膨張率を測定した。用いた超高分子量ポリエチレン(PE)の熱膨張率は-12ppm/Kであり、密度は0.98g/cm3であり、弾性率は98GPaである。また、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)の熱膨張率は-6ppm/Kであり、密度は1.56g/cm3であり、弾性率は270GPaである。これに対して、サンプルS1のシリコーン成分の熱膨張率は84.3ppm/Kであり、密度は0.97g/cm3であり、弾性率は、1.2GPaである。
図9に示すように、いずれの低熱膨張率物質を複合した接着剤においても、低熱膨張率物質の添加量が増えるほど-120℃での熱膨張率は低下し、熱膨張率は、体積%で表した低熱膨張率物質の添加量に対して直線的に変化する。このとき、低熱膨張率物質の添加量の増加に対して熱膨張率が低下する傾きは、低熱膨張率物質の-120℃での熱膨張率が小さいほど、大きくなる。
図10は、サンプルS1のシリコーン成分に対して、負のCTE高分子材料である超高分子量ポリエチレン(PE)あるいはポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)の微粉末を加えることによって、-120℃での熱膨張率を2ppm/K以上40ppm/K以下にするための、負のCTE成分の添加量の上限値と下限値とをまとめた結果を示す説明図である。図10において、充填材成分無しの条件下における負のCTE成分の上限値および下限値を体積%で示した値は、図9に示した結果を用いて求めたものである。図10において、充填材成分無しの条件下における負のCTE高分子材料の上限値および下限値を重量部で示した値は、図9に示した低熱膨張率物質の添加量を、シリコーン成分量を100重量部として各低熱膨張率物質の相対的な添加量を表した値に換算したものである。
また、充填材成分である300重量部のアルミナを、接着剤成分である100重量部のサンプルS1に加えたものに対して、負のCTE高分子材料としての超高分子量ポリエチレン(PE)あるいはポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)を、添加量を変化させて添加して、図9と同様にして、-120℃での熱膨張率と添加量との関係を調べた(データ示さず)。図10では、この結果に基づいて、充填材成分有りの条件下における、-120℃での熱膨張率を2ppm/K以上40ppm/K以下にするための、負のCTE高分子材料の添加量の上限値と下限値とを、体積%あるいは重量部で示したときの値を併せて示している。
図10に示すように、負のCTE高分子材料として超高分子量ポリエチレン(PE)を用いた場合の方が、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)を用いた場合に比べて、負のCTE高分子材料の添加量の上限値および下限値の値が、小さくなる。
第3実施形態によれば、接合部40に低熱膨張率樹脂を加えることにより、-120℃での接合部40の熱膨張率を、2ppm/K以上40ppm/K以下にしているため、極低温条件下であっても接合部40における熱応力の発生を抑えることによる、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、第3実施形態では、低熱膨張率樹脂を接着剤中に分散させているため、接合部40において低熱膨張率樹脂を均質に配合することが容易となり、低熱膨張率樹脂を添加することにより接合部40の熱膨張率を抑える効果を、安定して得ることができる。また、低熱膨張率樹脂として、-120℃での熱膨張率が負の値となる負のCTE高分子材料を用いている場合には、低熱膨張率樹脂の添加量を抑えつつ、-120℃での熱膨張率を所望の値に容易に低下させることが可能になる。
特に、低熱膨張率物質として負のCTE高分子材料を用いる場合には、ポリエチレンや、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールは、+50℃から-150℃の温度範囲に、温度変化に伴い相変化する相転移温度がないため、少なくともこの温度範囲では熱膨張率が温度によらずほぼ一定となる。そのため、低熱膨張率物質として負のCTE高分子材料を用いると、低熱膨張率物質の熱膨張率が極低温条件下まで小さくなり、負の熱膨張率を示す温度範囲が広くなる。その結果、極低温条件下を含む広い温度範囲で、接合部40全体の熱膨張率が抑えられて、接合部40における熱応力の発生を抑えることができる。
また、樹脂材料は、例えばセラミック材料に比べて、接着剤により近い比重を有するため、低熱膨張率物質として低熱膨張率樹脂を用いる場合には、接合部40の形成のためのペースト作製時に、低熱膨張率物質がペースト中で沈降することを抑えて、ペーストを均質化することが容易になる。そのため、接合部40において、面方向の均質性を確保することが、より容易になる。例えば、接合部40を構成する接着剤として用いることができる付加硬化型シリコーン接着剤の比重は20℃で0.95~1.1であり、負のCTE高分子材料である超高分子量ポリエチレン(PE)やポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)の比重は、既述したように、これに近い値である。
D.第4実施形態:
第4実施形態の静電チャックが備える接合部は、第3実施形態と同様に、低熱膨張率物質として低熱膨張率樹脂を備えると共に、第2実施形態と同様に、低熱膨張率物質を、平面状部材の形状で備えている。第4実施形態の静電チャック210は、低熱膨張率物質の種類以外は第2実施形態と同様の構成を有するため、第2実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して説明する(図8参照)。
(D-1)接合部の構成:
第4実施形態の接合部240が備える低熱膨張率シート246は、第3実施形態と同様の低熱膨張率樹脂により形成される繊維を、シート状に成形したものである。第4実施形態の低熱膨張率シート246は、織物や不織布を含み、繊維を薄く加工した布とすることができる。そして、第4実施形態では、低熱膨張率シート246を構成する低熱膨張率樹脂の繊維間に、接着剤の一部が配置されている。
既述したポリエチレンやポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールなどの低熱膨張率樹脂の繊維は、繊維軸方向に分子が高度に配向しており、繊維軸方向について熱膨張係数が負になる。そのため、低熱膨張率シート246は、全体としては構成繊維の繊維軸の方向に偏りがないように積層したり、縦糸と横糸を織り込むなど、加工された布であることが望ましい。
このような接合部240の厚さは、例えば0.1mm~1.0mm程度とすることができる。そして、低熱膨張率シート246の厚さは、接合部40全体の厚さの、例えば、10%~90%とすることができる。
接合部240における低熱膨張率樹脂の混合割合は、例えば低熱膨張率樹脂として負のCTE高分子材料を用いる場合には、接合部240の熱膨張率を所望の範囲(-120℃における熱膨張率が2ppm/K以上40ppm/K以下)に低下させる観点から、例えば、5体積%以上とすることが好ましく、10体積%以上とすることがより好ましい。また、接合部240における負のCTE高分子材料の混合割合は、ベース部30とセラミック部20との間の接着性を実現するための接着剤の量を十分に確保する観点から、例えば、70体積%以下とすることが好ましく、60体積%以下とすることがより好ましい。
なお、接合部240における低熱膨張率樹脂の含有割合(体積%)、あるいは接合部40における低熱膨張率樹脂の組成は、第3実施形態と同様にして確認することができる。また、低熱膨張率シート246が負の熱膨張率を有することは、例えば、接合部240に含まれる接着剤を、当該接着剤に応じて選択される溶剤を用いて溶解させ、低熱膨張率シート246を取り出して熱膨張率を測定することにより、確認することができる。
接合部240を作製する際には、例えば、低熱膨張率樹脂の繊維から成る低熱膨張率シート246を用意して、低熱膨張率シート246に、液状もしくはペースト状の接着剤を含浸させることにより、低熱膨張率シート246の布目に接着剤をしみこませ、ベース部30およびセラミック部20となる部材間に配置して、接着剤を硬化させればよい。このとき、例えば、低熱膨張率シート246に接着剤を含浸させる動作を真空中で行う、あるいは、接着剤を含浸させる動作の後に真空排気によって脱泡する等の方法により、低熱膨張率シート246を構成する繊維と接着剤との間に、実質的に隙間が無い状態とすることが望ましい。
接合部240は、さらに、既述したセラミック粉末等の充填材(無機フィラー)、触媒、シランカップリング剤、あるいは架橋剤等を含んでいてもよい。特に、充填材として、ベース部30よりも-120℃での熱膨張率が小さい充填材を含む場合には、充填材が、上記低熱膨張率樹脂以外の低熱膨張率物質として働くため、低熱膨張率樹脂の添加量を削減することができる。
また、接着剤の含浸に先立って、低熱膨張率シート246にシランカップリング剤を塗布する等の表面処理を行って、低熱膨張率シート246と接着剤(例えばシリコーン樹脂)との間の接着性を高めて剥離を抑えることが望ましい。例えば、低熱膨張率樹脂が実質的に不溶で、シランカップリング剤が可溶である溶媒(例えばイソプロピルアルコール)に、シランカップリング材を溶解させ、樹脂を含浸乾燥させることにより、低熱膨張率シート246の表面処理を行えばよい。これにより、低熱膨張率シート246と樹脂層244との間の剥離を抑えて、接合部240の耐久性を高めることができる。
接合部240は、上記のように接着剤を含浸させた低熱膨張率シート246を、複数積層して形成することとしてもよい。積層する低熱膨張率シート246の枚数により、接合部240の厚さを調節することができる。
(D-2)低熱膨張率樹脂の添加による影響の確認:
図11は、第1実施形態で説明したサンプルS1のシリコーン成分に対して、超高分子量ポリエチレン(PE)およびポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)の各々を、種々の含有率(体積%)で添加したサンプルを作製して-120℃での熱膨張率を測定し、含有率と熱膨張率との関係を調べた結果を表す説明図である。
ここでは、サンプルS1のシリコーン成分に対して、上記した負のCTE高分子材料の繊維を、繊維が面方向に平行な一定の方向となるように配置しつつ種々の割合で混合して、接合部240に対応する各サンプルを作製した。そして、各サンプルについて、負のCTE高分子繊維の添加量を体積%で表した値を測定すると共に、-120℃での熱膨張率を測定した。熱膨張率は、繊維が配向する方向(繊維が延びる方向)について測定した。
図11に示すように、いずれの負のCTE高分子材料の繊維を複合したサンプルにおいても、繊維の添加量が増えるほど-120℃での熱膨張率は低下した。図11と図9とを比較して分かるように、負のCTE高分子材料の繊維を用いる場合には、微粉末状の負のCTE高分子材料を混合する場合に比べて、負のCTE高分子材料の添加量がより少ない量であっても、熱膨張率を低減するより大きな効果が得られた。これは、剛直(高弾性率)で低熱膨張率の繊維が、柔軟(低弾性率)で高熱膨張率のシリコーン樹脂を拘束し、接合部240の熱膨張を抑制するためであると考えられる。なお、図11に示した各サンプルでは、負のCTE高分子材料の繊維を面方向に平行な一定の方向に配置しているため、熱膨張率には異方性があり、繊維が配向している方向にのみ、顕著な低熱膨張率化の効果があると考えられる。そのため、面方向における低熱膨張率化の効果を均等化するためには、例えば、繊維の配向の方向を、互いに90°異ならせた2方向とすればよいと考えられる。すなわち、負のCTE高分子繊維の添加量を、図11に示した量の倍量として、等量ずつ互いに直交する2方向に配置すれば、上記2方向について、低熱膨張率化の同様の効果が得られると考えられる。
図12は、サンプルS1のシリコーン成分に対して、負のCTE高分子材料である超高分子量ポリエチレン(PE)あるいはポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)の繊維を加えることによって、-120℃での熱膨張率を2ppm/K以上40ppm/K以下にするための、負のCTE高分子材料の添加量の上限値と下限値とをまとめた結果を示す説明図である。図12に示す上限値と下限値とは、負のCTE高分子材料の繊維を、等量ずつ互いに直交する2方向に配置して、繊維が配向する方向の一方について、-120℃での熱膨張率と添加量との関係を調べた結果(データ示さず)を用いて特定した。図12では、上限値および下限値として、図10と同様にして、体積%で示した値と共に、シリコーン成分量を100重量部としたときの相対的な量として表した値を示している。また、図12では、充填材成分である300重量部のアルミナを、接着剤成分である100重量部のサンプルS1に加えたものに対して、負のCTE高分子材料の繊維を、添加量を変化させて同様に添加して、-120℃での熱膨張率を2ppm/K以上40ppm/K以下にするための添加量の上限値と下限値とを求めた結果を併せて示している(-120℃での熱膨張率と添加量との関係を調べたデータは示さず)。
図12と図10とを比較して分かるように、負のCTE高分子材料の繊維を2方向に配置して低熱膨張率化の効果を均等化する場合には、微粉末状の負のCTE高分子材料を混合する場合に比べて、負のCTE高分子材料の添加量がより少ない量であっても、熱膨張率を低減するより大きな効果が得られた。なお、負のCTE高分子材料の繊維を2方向に配置する場合には、微粉末状の負のCTE高分子材料を混合する場合とは異なり、熱膨張率がより小さい超高分子量ポリエチレン(PE)を添加することによる低熱膨張率化の効果が、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)を添加する場合の効果よりも小さくなっている。これは、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)の弾性率(270GPa)の方が、超高分子量ポリエチレン(PE)の弾性率(98GPa)よりもはるかに大きく、PBOの変形に要する力が大きいため、温度の上昇の際、接着剤が膨張しようとする力を効果的に抑制できるためであると考えられる。
第4実施形態によれば、接合部240に低熱膨張率樹脂を加えることにより、-120℃での接合部240の熱膨張率を、2ppm/K以上40ppm/K以下にしているため、極低温条件下であっても接合部240における熱応力の発生を抑えることによる、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、第4実施形態では、低熱膨張率樹脂をシート状にして接合部240内に配置しているため、第2実施形態と同様に、面方向の低熱膨張率物質の分布を均一化することによって面方向の熱膨張を抑制し、極低温条件下であっても、接合部240における熱応力を抑える効果を高めることができる。
また、第4実施形態の低熱膨張率シート246は、低熱膨張率物質として樹脂を用いており、第2実施形態のように低熱膨張率物質としてセラミックを用いる場合に比べて、低熱膨張率シート246が柔らかい。そのため、接合部240で発生する熱応力を低減する効果を、より安定して得ることができる。また、低熱膨張率樹脂として、-120℃での熱膨張率が負の値となる負のCTE高分子材料を用いている場合には、低熱膨張率樹脂の添加量を抑えつつ、-120℃での接合部240の熱膨張率を所望の値に低下させることが、より容易になるなどの、既述した効果が得られる。
上記した第4実施形態では、低熱膨張率シート246は、低熱膨張率樹脂により形成される繊維を加工した布としたが、異なる構成としてもよい。負の熱膨張率を有する樹脂を含む平面状部材が、接合部240を構成する接着剤の層内において、面方向に沿って配置されていればよい。例えば、射出成形により分子を配向させたポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールなどの液晶性樹脂により形成された緻密シートにより、低熱膨張率シート246を構成してもよい。この場合には、複数の低熱膨張率シート246を用意し、層間で配向の向きを変化させて(例えば、2層の場合には配向の向きが直交するようにして)、熱膨張率を低減する効果を接合部240の面内で均一化することが望ましい。
E.第5実施形態:
第1~第4実施形態で説明したように低熱膨張率物質を含有する接合部において、接合部を構成する接着剤として、軟化温度およびガラス転移温度Tgがより低い接着剤を用いることにより、接合部の-120℃での熱膨張率をさらに抑えることとしてもよい。第5実施形態では、接合部を構成する接着剤として、フェニル基を導入して軟化温度を低下させたシリコーン系接着剤を用いる構成について説明する。第5実施形態の静電チャック10は、接合部40を構成する接着剤の種類以外は第1実施形態と同様の構成を有するため、第1実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して説明する。以下では、第5実施形態の具体的な構成の説明に先立って、まず、軟化温度と熱応力との関係について説明する。
(E-1)軟化温度と熱応力との関係について:
図13は、接合部40を構成する接着剤等の樹脂材料によって形成される部材の温度と、この拘束された樹脂部材で発生する熱応力との関係を概念的に表す説明図である。図13において、横軸は樹脂部材の温度を示し、縦軸は樹脂部材における熱膨張率α(1/K)と弾性率E(Pa)との積を示す。ここで、樹脂部材が熱膨張する際に樹脂部材で生じる熱応力σ(Pa)は、弾性の法則から、以下の(3)式で表される。
熱応力σ=樹脂材料が拘束されていない場合に熱膨張で生じるひずみε×弾性率E …(3)
また、樹脂部材が温度上昇に伴い熱膨張するときの樹脂部材の長さの変化量ΔLは、樹脂部材が温度変化する前後の温度差をΔT(K)とすると、以下の(4)式で表される。
長さの変化量ΔL=樹脂部材の元の長さL×熱膨張率α×温度差ΔT…(4)
また、樹脂材料が拘束されていない場合に熱膨張で生じるひずみε(-)は、以下の(5)式で表されるため、(4)式および(5)式より、以下の(6)式が成立する。
樹脂材料が拘束されていない場合に熱膨張で生じるひずみε=(長さの変化量ΔL)/(樹脂部材の元の長さL)…(5)
樹脂材料が拘束されていない場合に熱膨張で生じるひずみε=熱膨張率α×温度差ΔT…(6)
上記した(2)式および(5)式から、熱応力について、以下の(7)式が成立する。
熱応力σ=熱膨張率α×弾性率E×ΔT…(7)
したがって、樹脂部材の温度がT1とT2との間で変化するときに樹脂部材で生じる熱応力σは、以下の(8)式で表すことができる。
Figure 0007386189000002
図13において、グラフ(a)は、温度T1と温度T2との間に軟化温度Tsが存在する樹脂(a)に係るグラフを表し、グラフ(b)は、軟化温度Tsが温度T2よりも高い樹脂(b)に係るグラフを表す。軟化温度Tsは、動的粘弾性測定で貯蔵弾性率が大きく変化する温度であり、後にさらに詳しく説明する。樹脂部材は、軟化温度Tsよりも低温では高弾性率を示し(硬くなる)、軟化温度Tsよりも高温では低弾性率を示す(柔らかくなる)。そのため、グラフ(a)に示すように、(α×E)の値は、軟化温度Tsで大きく変化して、軟化温度Tsよりも低温では極めて大きな値になる。グラフ(b)に示すように、軟化温度Tsよりも低温では、(α×E)の値は高いレベルで推移する。
上記した(8)式より、温度T1から温度T2の間で温度変化する樹脂部材で生じる熱応力σは、図13において、温度T1と温度T2との間で、樹脂部材に対応するグラフと横軸とによって囲まれる領域の面積として表されることが理解される。一例として、樹脂部材(a)が温度T1から温度T2の間で温度変化する際に生じる熱応力σに対応する領域を、図13ではハッチングを付して示している。樹脂部材の軟化温度Tsが、樹脂部材が温度変化する範囲の上限よりも低い場合には、グラフ(a)に示すように、樹脂部材で生じる熱応力σを、大きく低減できることが理解される。
(E-2)フェニル基の導入による軟化温度の低下について:
第5実施形態の静電チャック10の接合部40が備える接着剤は、既述したように、シリコーン系接着剤にフェニル基を導入することにより、軟化温度Tsを低下させている。具体的には、第5実施形態の接合部40が備えるシリコーン系接着剤は、側鎖に3~16mol%のフェニル基を有する。ここで、フェニル基の導入割合を表す「mol%」は、シリコーン系接着剤が有するすべての側鎖の官能基の合計のモル数に対する、側鎖に導入されたフェニル基のモル数の割合を示す。3~16mol%のフェニル基を導入することにより、シリコーン系接着剤の軟化温度Tsが低下し、シリコーン系接着剤の軟化温度は、例えば-120℃~-90℃程度になる。
図14は、接合部40に相当する樹脂組成物の貯蔵弾性率と温度との関係を調べた結果の一例を示す説明図である。ここでは、フェニル基を導入していないシリコーン樹脂A1を含むサンプルS1と、フェニル基を導入したシリコーン樹脂を含むサンプルS5とを比較している。サンプルS1は、第1実施形態で説明したシリコーン樹脂A1を含むサンプルS1と同一である。サンプルS5は、含有するシリコーン樹脂の種類が異なる点を除いては、サンプルS1と同じ組成であり、シリコーン樹脂A1に代えて、フェニル基が導入されたシリコーン樹脂A2(平均分子量60,000、フェニル基含有量5.0mol%)を含む。
(シリコーン樹脂A2の合成方法)
シリコーン樹脂A2(ビニル末端ジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー)は、シリコーン樹脂A1の出発物質であるジメチルジクロロシラン((CH32SiCl2)のメチル基がフェニル基に置き換わった((C652SiCl2)、または、((CH3)(C65)SiCl2)を用いて、ジメチルジクロロシラン((CH32SiCl2)の一部を置き換えることで、既述したシリコーン樹脂A1の合成方法と同様の手順で合成することが可能である。ポリマーの末端基は、末端基となるM単位、すなわちトリメチルシロキシ単位として、トリメチルクロロシラン((CH33SiCl)やヘキサメチルジシロキサン((CH33SiOSi(CH33)を、上記ジメチルジクロロシラン(D単位)に混合しておくことにより導入することができる。末端に官能基を導入する場合は、官能基を有するM単位、例えば、ジメチルビニルクロロシラン((CH32(CH2=CH)SiCl)を混合しておくことにより導入することができる。ポリマーの平均分子量は、M単位とD単位の混合割合を変更することにより制御することができる。また、最終的なビニル末端ジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーにおけるフェニル基の含有量は((C652SiCl2)、または、((CH3)(C65)SiCl2)の添加量を変えることで制御可能である。シリコーン樹脂A2は、M単位:D単位(ジメチルシロキサン):D単位(ジフェニルシロキサン)=2:707:37の割合で重合を行うことにより制御可能である。
(サンプルS5の作製)
サンプルS5は、第1実施形態で説明したサンプルS1と同様の方法で、シリコーン樹脂A1に代えて上記のように合成したシリコーン樹脂A2を用いて作製した。また、第1実施形態と同様の方法で、平均分子量を測定した。
(貯蔵弾性率の測定)
サンプルS1およびサンプルS5の貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置(DMA)を使用して測定した。測定条件は、負荷方法は引張とし、プリロード1g、周波数は11Hz、振幅は16μm、昇温速度は2℃/分にて実施した。測定は、温度を室温から一旦-150℃まで下げた後、上記の昇温速度で昇温しながら行う。測定のための試験片は、既述したようにしてサンプルS1およびサンプルS5として作製した接着シートを100℃で10時間硬化させた後、さらに、150℃で50時間硬化させ、幅4mm×長さ50mmに切り出すことにより作製した。当該試験片における、中間の長さ40mmの部分で貯蔵弾性率を測定した。
なお、被着体に接着済みの樹脂組成物の貯蔵弾性率は、以下の方法により測定することができる。まず、ナイフ等を用いて被着体から樹脂組成物をそぎ落とし、例えば、幅4mm×長さ50mmに切り出すことで上記と同様の測定が可能となる。測定条件は、負荷方法は引張とし、プリロード1g、周波数は11Hz、振幅は16μm、昇温速度は2℃/分にて実施することができる。測定は、温度を室温から一旦-150℃まで下げた後、上記の昇温速度で昇温しながら行う。厚さについては任意のため、そぎ落とした樹脂組成物をそのまま測定に用いることも可能である。
(軟化温度Tsの特定)
図14において、縦軸は貯蔵弾性率の実部(GPa)を示し、横軸は温度(℃)を示す。軟化温度を特定する際には、動的粘弾性測定装置(DMA)を使用して既述したように貯蔵弾性率を測定し、当該貯蔵弾性率の測定結果から、図14に示すグラフを得る。当該グラフにおいて、樹脂組成物の貯蔵弾性率が大きく低下し始める箇所における接線との接点の温度を特定し、当該温度を軟化温度とした。図14では、サンプルS1の軟化温度をTS1として示し、サンプルS5の軟化温度をTS5として示している。図14に示すように、フェニル基の導入により、軟化温度が大きく低減された。
(E-3)低熱膨張率物質の添加による影響の確認:
図15は、低熱膨張率セラミックの添加による影響を調べるために、接合部40(接着シート)として、組成が異なる4種の樹脂組成物を作製して、評価した結果を示す説明図である。図15では、上記4種の接合部40(接着シート)の各々を、サンプルS5~S8として、各サンプルの組成と、各サンプルの-120℃での熱膨張率を評価した結果と、を示している。
各サンプルはいずれも、接着剤として、既述したようにフェニル基が導入されたシリコーン樹脂A2(平均分子量60,000、フェニル基含有量5.0mol%)を、共通して備えている。シリコーン樹脂の種類が異なることを除いては、サンプルS5と第1実施形態のサンプルS1、サンプルS6と第1実施形態のサンプルS2、サンプルS7と第1実施形態のサンプルS3、サンプルS8と第1実施形態のサンプルS4とは、同じ組成を有している。すなわち、サンプルS6~S8は、サンプルS5と同様のシリコーン成分に加えて、低熱膨張率セラミックであるアルミナ粒子を含み、サンプルS7,S8は、さらに、負のCTE成分を含む。各サンプルは、第1実施形態のサンプルS1~S4と同様にして作製し、熱膨張率を測定した。
図16は、図15に示した各サンプルS5~S8の組成を、体積%で表した結果を表す説明図である。各サンプルの組成である体積%は、第1実施形態と同様にして求めた。なお、図16では、各成分の体積%の値として、小数点以下を四捨五入した値を記載している。
図15および図16に示すように、-120℃での熱膨張率は、シリコーン成分のみからなるサンプルS5では54ppm/Kであるのに対し、充填材成分であって、熱膨張率がベース部よりも低い低熱膨張率セラミックであるアルミナ粒子を含むサンプルS6では、32ppm/Kであった。また、さらに負のCTE成分を含むサンプルS7、S8の-120℃での熱膨張率は、それぞれ、17ppm/K、23ppm/Kであった。すなわち、熱膨張率がベース部よりも低いアルミナ粒子を加えることで、-120℃での熱膨張率は低下し、負のCTE成分をさらに加えることで、-120℃での熱膨張率はさらに低下した。
第5実施形態の図15、図16と、第1実施形態の図3、図4と、を用いて、対応する組成のサンプル同士を比較することにより、フェニル基を導入したシリコーン樹脂を用いることによって熱膨張率を大きく低下させることができることが理解される。例えば、サンプルS6では、低熱膨張率セラミックとしてのアルミナ粒子を添加することにより、負のCTE成分を加えることなく、熱膨張率を所望の範囲内にすること、すなわち、-120℃における熱膨張率を2ppm/K以上40ppm/K以下にすることができた。
図17は、上記したサンプルS5のシリコーン成分に対して、タングステン酸ジルコニウム粒子(ZrW28)、ルテニウム酸化物粒子(Ca2RuO3.74)、およびアルミナ粒子(Al23)の各々を、種々の含有率(体積%)で添加したサンプルを作製して-120℃での熱膨張率を測定し、含有率と熱膨張率との関係を調べた結果を、図5と同様にして表す説明図である。
図17に示すように、いずれの無機充填材を複合した接着剤においても、無機充填材の添加量が増えるほど-120℃での熱膨張率は低下し、具体的には、熱膨張率は、体積%で表した無機充填材の添加量に対して直線的に変化する。このとき、無機充填材の添加量の増加に対して熱膨張率が低下する傾きは、無機充填材の-120℃での熱膨張率が小さいほど、大きくなる。そして、図5と比較して分かるように、-120℃での熱膨張率の値は、フェニル基を導入していないシリコーン樹脂を用いる場合に比べて全体的に小さい値となった。
図18は、サンプルS5のシリコーン成分に対して、負のCTE成分であるタングステン酸ジルコニウム粒子(ZrW28)あるいはルテニウム酸化物粒子(Ca2RuO3.74)を加えることによって、-120℃での熱膨張率を2ppm/K以上40ppm/K以下にするための、負のCTE成分の添加量の上限値と下限値とをまとめた結果を示す説明図である。図18において、充填材成分無しの条件下における負のCTE成分の上限値および下限値を体積%で示した値は、図17に示した結果を用いて求めたものである。図18において、充填材成分無しの条件下における負のCTE成分の上限値および下限値を重量部で示した値は、図17に示した無機充填材の添加量を、シリコーン成分量を100重量部として各無機充填材の相対的な添加量を表した値に換算したものである。
また、充填材成分である300重量部のアルミナを、接着剤成分である100重量部のサンプルS5に加えたものに対して、負のCTE成分としてのルテニウム酸化物粒子(Ca2RuO3.74)あるいはタングステン酸ジルコニウム粒子(ZrW28)を、添加量を変化させて添加して、図17と同様にして、-120℃での熱膨張率と添加量との関係を調べた(データ示さず)。図18では、この結果に基づいて、充填材成分有りの条件下における、-120℃での熱膨張率を2ppm/K以上40ppm/K以下にするための、負のCTE成分の添加量の上限値と下限値とを、体積%あるいは重量部で示したときの値を併せて示している。
図18に示すように、負のCTE成分としてルテニウム酸化物粒子(Ca2RuO3.74)を用いた場合の方が、タングステン酸ジルコニウム粒子(ZrW28)を用いた場合に比べて、負のCTE成分の添加量の上限値および下限値の値が、小さくなる。また、低熱膨張率セラミックである充填材成分を加えた場合の方が、加えない場合に比べて、負のCTE成分の添加量の上限値および下限値の値が、小さくなる。また、低熱膨張率セラミックである充填材成分(アルミナ)を加える場合には、負のCTE成分を加えることなく、-120℃での熱膨張率を上記した範囲内とすることができた。
図19は、上記したサンプルS5のシリコーン成分に対して、超高分子量ポリエチレン(PE)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)、およびアルミナ粒子(Al23)の各々を、種々の含有率(体積%)で添加したサンプルを作製して-120℃での熱膨張率を測定し、含有率と熱膨張率との関係を調べた結果を、図9と同様にして表す説明図である。
ここでは、サンプルS5のシリコーン成分に対して、第3実施形態と同様に微粉末状態にした低熱膨張率物質を、種々の割合で混合して、接合部40に対応する各サンプルを作製した。そして、各サンプルについて、低熱膨張率物質の添加量を体積%で表した値を測定すると共に、-120℃での熱膨張率を測定した。
図19に示すように、いずれの低熱膨張率物質を複合したサンプルにおいても、低熱膨張率物質の添加量が増えるほど-120℃での熱膨張率は低下し、熱膨張率は、体積%で表した低熱膨張率物質の添加量に対して直線的に変化する。このとき、低熱膨張率物質の添加量の増加に対して熱膨張率が低下する傾きは、低熱膨張率物質の-120℃での熱膨張率が小さいほど、大きくなる。
図20は、サンプルS5のシリコーン成分に対して、負のCTE高分子材料である超高分子量ポリエチレン(PE)あるいはポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)の微粉末を加えることによって、-120℃での熱膨張率を2ppm/K以上40ppm/K以下にするための、負のCTE高分子材料の添加量の上限値と下限値とをまとめた結果を示す説明図である。図20では、上限値および下限値として、図10と同様にして、体積%で示した値と共に、シリコーン成分量を100重量部としたときの相対的な量として表した値を示している。また、図20では、充填材成分である300重量部のアルミナを、接着剤成分である100重量部のサンプルS5に加えたものに対して、負のCTE高分子材料を、添加量を変化させて同様に添加して、-120℃での熱膨張率を2ppm/K以上40ppm/K以下にするための添加量の上限値と下限値とを求めた結果を併せて示している(-120℃での熱膨張率と添加量との関係を調べたデータは示さず)。
図20に示すように、負のCTE高分子材料として超高分子量ポリエチレン(PE)を用いた場合の方が、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)を用いた場合に比べて、負のCTE高分子材料の添加量の上限値および下限値の値が、概ね小さくなる。
図21は、上記したサンプルS5のシリコーン成分に対して、超高分子量ポリエチレン(PE)およびポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)の各々を、種々の含有率(体積%)で添加したサンプルを作製して-120℃での熱膨張率を測定し、含有率と熱膨張率との関係を調べた結果を表す説明図である。
ここでは、サンプルS5のシリコーン成分に対して、第4実施形態と同様に繊維状態にした負のCTE高分子材料を、繊維が面方向に平行な一定の方向となるように配置しつつ種々の割合で混合して、接合部240に対応する各サンプルを作製した。そして、各サンプルについて、負のCTE高分子繊維の添加量を体積%で表した値を測定すると共に、-120℃での熱膨張率を測定した。熱膨張率は、繊維が配向する方向(繊維が延びる方向)について測定した。
図21に示すように、いずれの負のCTE高分子材料の繊維を複合したサンプルにおいても、繊維の添加量が増えるほど-120℃での熱膨張率は低下した。図21と図19とを比較して分かるように、負のCTE高分子材料の繊維を用いる場合には、微粉末状の負のCTE高分子材料を混合する場合に比べて、負のCTE高分子材料の添加量がより少ない量であっても、熱膨張率を低減するより大きな効果が得られた。これは、剛直(高弾性率)で低熱膨張率の繊維が、柔軟(低弾性率)で高熱膨張率のシリコーン樹脂を拘束し、接合部240の熱膨張を抑制するためであると考えられる。
図22は、サンプルS5のシリコーン成分に対して、負のCTE高分子材料である超高分子量ポリエチレン(PE)あるいはポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)の繊維を加えることによって、-120℃での熱膨張率を2ppm/K以上40ppm/K以下にするための、負のCTE成分の添加量の上限値と下限値とをまとめた結果を示す説明図である。図22に示す上限値と下限値とは、負のCTE高分子材料の繊維を、等量ずつ互いに直交する2方向に配置して、繊維が配向する方向の一方について、-120℃での熱膨張率と添加量との関係を調べた結果(データ示さず)を用いて特定した。図22では、上限値および下限値として、体積%で示した値と共に、シリコーン成分量を100重量部としたときの相対的な量として表した値を示している。また、図22では、充填材成分である300重量部のアルミナを、接着剤成分である100重量部のサンプルS5に加えたものに対して、負のCTE高分子材料の繊維を、添加量を変化させて同様に添加して、-120℃での熱膨張率を2ppm/K以上40ppm/K以下にするための添加量の上限値と下限値とを求めた結果を併せて示している(-120℃での熱膨張率と添加量との関係を調べたデータは示さず)。
図22と図20とを比較して分かるように、負のCTE高分子材料の繊維を2方向に配置して低熱膨張率化の効果を均等化する場合には、微粉末状の負のCTE高分子材料を混合する場合に比べて、負のCTE高分子材料の添加量がより少ない量であっても、熱膨張率を低減するより大きな効果が得られた。
以上のように構成された第5実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果に加えて、フェニル基を導入したシリコーン樹脂を用いることにより、-120℃における接合部40の熱膨張率をさらに低下させる効果が得られる。そのため、接合部40に添加する低熱膨張率物質の量を抑えつつ、接合部40の-120℃での熱膨張率を、2ppm/K以上40ppm/K以下の範囲にすることが容易になる。
上記した第5実施形態では、フェニル基を導入したシリコーン樹脂を、第1、第3、および第4実施形態の接合部に適用したが、他の構成、例えば、第2実施形態の接合部240に適用してもよい。
F.他の実施形態:
上記した第1および第3実施形態では、接合部を構成する接着剤中に低熱膨張率物質を分散させており、第2および第4実施形態では、低熱膨張率物質を含む平面状部材を、接着剤の層内において面方向に配置することとしたが、これらを組み合わせてもよい。すなわち、低熱膨張率物質を含む平面状部材を接着剤の層内に配置すると共に、接着剤の層において、平面状部材と同種の、或いは別種の、低熱膨張率物質を、分散させることとしてもよい。
本開示は、静電引力を利用してウェハWを保持する静電チャック以外の保持装置に適用してもよい。すなわち、セラミック部と、ベース部と、セラミックス部とベース部とを接合する接合部と、を備え、セラミック部の表面上に対象物を保持する他の保持装置、例えば、CVD、PVD、PLD等の真空装置用ヒータ装置や、真空チャック等にも同様に適用可能である。また、本開示は、対象物を保持する保持装置に限らず、複数の部材を備える他の複合部材においても、同様に適用可能である。また、本開示の接着用構造体は、静電チャックにおけるセラミック部とベース部とを接合する接合部40に限らず、他種の保持装置を含む種々の複合部材において、複数の部材間を接着する構造に適用することができる。このような場合であっても、適用した装置を、例えば極低温条件下のような低温環境下で使用する際に、接着用構造体において熱応力の発生を抑えて、熱応力に起因する接着用構造体の損傷等の不都合を抑えることができる。
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
10,110,210…静電チャック
20…セラミック部
22…チャック電極
24…載置面
30…ベース部
32…冷媒流路
40,240…接合部
42…Oリング
50…ガス供給路
52…ガス吐出口
244…樹脂層
246…低熱膨張率シート

Claims (13)

  1. 複合部材であって、
    セラミックを主成分とし、板状に形成される第1部材と、
    前記第1部材の主成分の熱膨張率とは異なる熱膨張率を有する金属材料を主成分とする、板状に形成される第2部材と、
    前記第1部材と前記第2部材との間に配置され、前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合部と、
    を備え、
    前記接合部は、
    -120℃における熱膨張率が前記第2部材よりも低く、-120℃において負の熱膨張率を有する低熱膨張率物質と、接着剤とを含み、
    -120℃における熱膨張率が2ppm/K以上40ppm/K以下であることを特徴とする
    複合部材。
  2. 請求項に記載の複合部材であって、
    前記低熱膨張率物質は、前記負の熱膨張率を有する樹脂として、ポリエチレンおよびポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールのうちの少なくとも一種を含むことを特徴とする
    複合部材。
  3. 請求項に記載の複合部材であって、
    前記接合部は、前記負の熱膨張率を有する樹脂を含む平面状部材が、前記接着剤の層内において、前記第1部材および前記第2部材の面方向に沿って配置されていることを特徴とする
    複合部材。
  4. 請求項に記載の複合部材であって、
    前記平面状部材は、前記負の熱膨張率を有する樹脂を含む繊維によって形成され、
    前記接合部は、前記平面状部材を構成する前記繊維間に、前記接着剤の一部が配置されていることを特徴とする
    複合部材。
  5. 請求項に記載の複合部材であって、
    前記低熱膨張率物質は、前記負の熱膨張率を有するセラミックとして、タングステン酸ジルコニウム(ZrW)、ルテニウム酸化物(CaRuO4-x(0≦x<0.4)、CaRu1-xFe4-y(0<x<0.4、0≦y<0.4))、ランタン、銅、鉄の複合酸化物(LaCuFe12)、逆ペロブスカイト型マンガン窒化物および逆ペロブスカイト型マンガン窒化物の窒素の一部が炭素に置換されたもの(MnAN1-x(0≦x<0.2)、ただしAは亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)のいずれか)、銅バナジウム酸化物(Cu2-xZn(0≦x<0.3))から成る群から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする
    複合部材。
  6. 請求項に記載の複合部材であって、
    前記接合部は、前記負の熱膨張率を有するセラミックを含む平面状部材が、前記接着剤の層内において、前記第1部材および前記第2部材の面方向に沿って配置されていることを特徴とする
    複合部材。
  7. 請求項1からまでのいずれか一項に記載の複合部材であって、
    前記接着剤は、シリコーン系接着剤であることを特徴とする
    複合部材。
  8. 請求項に記載の複合部材であって、
    前記シリコーン系接着剤は、側鎖に3~16mol%のフェニル基を有することを特徴と得る
    複合部材。
  9. 請求項1からまでのいずれか一項に記載の複合部材であって、
    前記第2部材は、モリブデン、チタン、タングステンから選択される少なくとも一種の金属を主成分として含むことを特徴とする
    複合部材。
  10. 対象物を保持する保持装置であって、
    前記保持装置は、請求項1からまでのいずれか一項に記載の複合部材によって構成され、
    前記第1部材の主成分がセラミックであり、
    前記第2部材の主成分が金属であることを特徴とする
    保持装置。
  11. セラミックを主成分とする第1部材と、金属を主成分とする第2部材との間を接着する接着用構造体であって、
    -120℃における熱膨張率が、前記第2部材よりも低く、-120℃において負の熱膨張率を有する低熱膨張率物質と、接着剤とを含み、
    -120℃における熱膨張率が2ppm/K以上40ppm/K以下であることを特徴とする
    接着用構造体。
  12. 請求項11に記載の接着用構造体であって、
    前記低熱膨張率物質と前記接着剤とが混合された接着剤組成物によって構成されることを特徴とする
    接着用構造体。
  13. 請求項11に記載の接着用構造体であって、
    前記低熱膨張率物質を含む平面状部材が、前記接着剤の層内において、前記接着用構造体によって接着される前記第1部材と前記第2部材の接着面に沿って配置されていることを特徴とする
    接着用構造体。
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