JP7310249B2 - 複合材料の解析方法、及び複合材料の解析用コンピュータプログラム - Google Patents
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分子動力学による数値解析において、例えばゴム材料の変形に伴うナノ構造の破壊を解析する場合、ゴム材料中のポリマー粒子の粒子間結合を破断して消去する必要がある。これに対して、この粒子間結合の破断を消去することなく破壊を解析する手法が提案されている(特許文献1)。
上記手法によれば、粒子間結合で結合された少なくとも一対の粒子の粒子間距離に設定された閾値以上の場合に、粒子間距離が閾値未満の場合に対して粒子間結合の結合エネルギー及び結合力の少なくとも一方を低下させる破断結合演算用関数を用いて、解析用モデルの数値解析を実行する。したがって、破断に伴う粒子間結合の物理的な消滅を防ぐことができるので、粒子間結合を物理的に消滅させずに疑似的な破断を再現することが可能となり、数値解析時に破断した粒子間結合の破断箇所を特定することが可能となる、とされている。
前記複合材料中の第1物質をモデル化した第1物質モデル、及び前記複合材料中の第2物質をモデル化した第2物質モデルを含む複合材料の解析用モデルを作成する第1ステップと、
前記解析用モデルに伸張、圧縮、及びせん断の少なくともいずれか1つの変形をさせるように前記解析用モデルに入力を与えたときの前記解析用モデルの応答解析をする第2ステップと、
前記応答解析で得られる前記解析用モデルから散逸するエネルギーの散逸の程度に関する情報に基づいて、前記複合材料の破断特性を評価する第3ステップと、を備える。
前記散逸の程度に関する情報は、少なくとも前記第1物質モデルに発生する応力、及び、少なくとも前記第1物質モデルに与えられる入力エネルギー量に対する前記第1物質モデルに蓄積されるエネルギー量の比の少なくとも一方を含む、ことが好ましい。
前記第3ステップでは、複数回の前記応答解析で得られる前記散逸の程度に基づいて前記破断特性を評価する、ことが好ましい。
前記複合材料の解析方法は、さらに、前記解析用モデルのそれぞれにおいて、前記第2ステップ及び前記第3ステップを行うことによって得られた前記解析用モデルのそれぞれに対応した前記破断特性の評価を1つに統合する第4ステップを備える、ことが好ましい。
前記第3ステップでは、前記入力1に対応した前記破断特性の評価と、前記入力2に対応した前記破断特性の評価とを統合することにより、前記破断特性を評価する、ことが好ましい。
前記修正解析用モデルを用いて前記第2ステップ及び前記第3ステップを行うことにより、前記解析用モデルを用いた前記破断特性の評価に対する前記修正解析用モデルを用いた前記破断特性の変化を求める、ことが好ましい。
複合材料の解析用モデルを作成するステップでは、複合材料中の第1物質をモデル化した第1物質モデル、及び複合材料中の第2物質をモデル化した第2物質モデルを含む複合材料の解析用モデルを作成する。
フィラー粒子11aは、複数のフィラー粒子11a間の結合鎖(不図示)によって相対位置が特定されている。この結合鎖は、フィラー粒子11a間の結合距離である平衡長とばね定数とが定義されたバネとしての機能を有し、各フィラー粒子11a間を拘束している。結合鎖は、フィラー粒子11aの相対位置及び捻り、曲げなどによって力が発生するポテンシャルが定義されている。フィラーモデル11は、フィラーを分子動力学で取り扱うためのフィラー粒子11aの質量、体積、直径及び初期座標、集合した個数などを含む数値データで定義される。フィラーモデル11の数値データは、コンピュータに入力される。
また、ポリマーには、フィラーとの親和性を高める変性剤が必要に応じて配合される。この変性剤としては、例えば、水酸基、カルボニル基、及び原子団の官能基などが含まれる。この変性剤に対応して、ポリマーモデル21とフィラーモデル11の間に変性剤粒子をモデル化した粒子モデルと、結合鎖(不図示)が配置される。
このポリマーモデル21は、ポリマーを分子動力学で取り扱うための数値データ(ポリマー粒子21aの質量、体積、直径及び初期座標などを含む)で定義される。ポリマーモデル21の数値データは、パラメータとしてコンピュータに入力される。
図示される結合鎖21b及び架橋結合鎖21cを含む結合鎖、さらには、結合鎖で連結されていない粒子モデル間にも後述するポテンシャルが与えられることで、相互作用が付与される。これにより、相互作用により定まる力が粒子モデル間に働く。
複合材料においてポリマーは複数の種類のポリマーで構成されてもよく、この場合、解析用モデル1における異なる種類のポリマー粒子21a間に相互作用を与えてよい。この場合のフィラー粒子11 aとポリマー粒子21aの間の相互作用は、種類の異なるポリマー粒子21a間で異ならせてよい。
粒子間の相互作用は、例えば、下記式に示すレナード-ジョーンズポテンシャルで規定される。このとき、下記式のσ、εの値が適宜調整される。ポテンシャルを計算する上限距離(カットオフ距離)を大きくすることで、遠距離まで働く力を調整することができる。なお、フィラー粒子11a間の相互作用及びポリマー粒子21a間の相互作用が一定値になるまで順次、フィラー粒子11a間の相互作用及びポリマー粒子21a間の相互作用のパラメータを小さくすることが好ましい。レナード・ジョーンズポテンシャルのσ、εを大きな値から徐々に本来の値に近づけることにより、分子を不自然な状態に導かない穏やかな速度で粒子の接近を行うことができる。また、カットオフ距離も徐々に小さくすることにより、適正な範囲で相互作用における力を調整できる。
解析用モデル1に入力を与えて行う分子動力学による応答解析は、解析用モデル1の応答が時間の経過に伴ってどのように変化するかを調べる解析であり、例えば、解析用モデル1を伸張させるように入力を与えたときの解析用モデル1の挙動に関する応答解析である。図4は、一実施形態で行う解析用モデル1の応答解析の一例を説明する図である。
図4に示す応答解析の例では、解析用モデル1に上下方向に伸張するように入力を与え、このときに、ポリマーモデル21及びフィラーモデル11A~11Dがどのように時間とともに移動していくかを時系列に解析をする。
ポリマーモデル21及びフィラーモデル11A~11Dのそれぞれは、質量を有するので、解析用モデル1に与えられた入力に起因する力を受けることにより、運動方程式に従って移動を開始するが、このとき、相互作用や結合鎖により移動の制限を受けながら移動をする。このような移動を、所定の時間間隔毎に計算することにより、時間的な応答を計算する。
また、上記実施形態の応答解析は、伸張変形の解析であるが、伸張変形の解析に制限されない。例えば、応答解析ができる限りは、解析用モデル1を圧縮あるいはせん断させる解析であってもよい。また、伸張、圧縮、及びせん断の少なくともいずれか2つの変形を組み合わせた解析であってもよい。
また、応答解析は、階段状の入力を与えて、緩和応答を解析する形態に制限されず、三角波や正弦波の入力(変位)を与えて、そのときの解析用モデル1の振動を解析(繰返し伸長解析)する形態であってもよい。三角波や正弦波の入力(変位)の場合、入力する振動数は、複合材料が用いられる構造体の実際の使用状況における振動数に対応するように設定されることが好ましく、また、入力のレベルも、複合材料が用いられる構造体の実際の使用状況における最大歪み、亀裂先端での歪み、あるいはみかけ歪みに対応するように設定されることが、実際の構造体の実際の使用状況における複合材料の破断特性を評価する点から好ましい。
破断特性の評価では、上記応答解析で得られる解析用モデル1から散逸するエネルギーの散逸の程度に関する情報に基づいて、複合材料の破断特性を評価する。上述の応答解析では、ポリマーモデル21及びフィラーモデル11A~11Dは、モデル合計のポテンシャルが低減するように移動するので、入力により解析用モデル1に付与された入力エネルギーは、上記緩和応答により、ポリマーモデル21及びフィラーモデル11A~11Dの移動により散逸する。この散逸するエネルギー量が大きいほど、ポリマーモデル21及びフィラーモデル11A~11Dは入力されたエネルギーの蓄積量は少ないので、破断を生じさせ難い。したがって、解析用モデル1から散逸するエネルギーの散逸の程度に関する情報に基づいて、複合材料の破断特性を評価することができる。例えば、解析用モデル1において、モデルの一部を変更した場合のエネルギーの散逸の程度と、変更前のエネルギーの散逸の程度と、を比較することにより、破断特性の優劣を評価することができる。
また、一実施形態によれば、複合材料の破断伸びあるいは破断エネルギーを算出することが好ましい。これにより、複合材料の破断特性を数値により評価をすることができる。破断伸びあるいは破断エネルギーの算出では、例えば、解析用モデル1に蓄積するエネルギーの蓄積量の、入力によって解析用モデル1に与えられた入力エネルギー量に対する比が大きくなって閾値を越えるときに複合材料は破断すると判定して、そのときの解析用モデル1に与えた伸びによって破断伸びを求める。また、このときの解析用モデル1に蓄積されたエネルギーを破断エネルギーとして求める。
例えば、振動解析による破断特性の評価と、上述した緩和過程による破断特性の評価とを、統合して1つの評価を与えてもよい。また、統合する場合、評価が破断伸びや破断エネルギーのような数値である場合、重み付けを行って1つの値を求めてもよい。
異なる条件は、異なる条件で解析用モデル1の応答解析の計算ができる限りにおいて、温度条件の相違、静歪みと動歪みの相違、伸張速度の相違、振動解析における振動数の相違、負荷(除荷)の相違、付加する圧力の相違、一軸伸張及び二軸伸張等の変形モードの相違等を含む。
複合材料の一部の修正は、架橋密度、架橋分布、架橋結合の強さ(相互作用の強さ)、フィラーの有無、フィラーの分布や形状、フィラーの体積分率、フィラーの大きさ、フィラーとポリマー間の相互作用、ポリマーの種類(例えば、長さ、ねじり、2面角エネルギーの変更)、及び、ポリマーの構造(長さ等)、及び、ブレンドポリマーにおけるポリマーの種類等の修正を含む。したがって、修正解析用モデルは、複合材料の一部の修正に対応して、モデルの各種パラメータ等が変更される。
図6に示すように、解析装置50は、処理部52と記憶部54とを含むコンピュータで構成される。解析装置50は、マウスやキーボードを備えた入力操作系53及びモニタ55と電気的に接続されている。入力操作系53は、複合材料の解析用モデルの作成対象であるポリマー及びフィラーに関する情報、応答解析の種類、応答解析における境界条件、及び解析用モデル1に与える入力の条件等のデータを設定する。これらの入力したデータは、処理部52又は記憶部54へ送られる。
モデル作成部52aは、予め記憶部54に記憶されたデータ及び入力された各種条件に基づいて、分子動力学法に適した解析用モデル1を作成する。図2に示すようなフィラー及びポリマーなどの複合材料をモデル化した解析用モデル1を作成する場合、モデル作成部52aは、フィラー及びポリマーの分子数、分子量、分子鎖長、分子鎖数、分岐、形状、大きさ、及び作成する解析用モデル1に含まれる分子数である目標分子数などの構成要素の配置、設定及び計算ステップ数などのモデルの設定を行う。また、モデル作成部52aは、フィラー粒子11a間、ポリマー粒子21a間及びフィラー・ポリマー粒子の水素結合、分子間力などの相互作用などの各種計算パラメータの初期条件の設定を行う。また、モデル作成部52aは、必要に応じて図3に示す架橋結合鎖21c等を作成する。
解析部52cは、解析した複合材料の解析結果を記憶部54に記憶させる。
上記実施形態の効果を確認するために、複合材料として、ゴムを母材としてゴム中にカーボブラックン粒子をフィラー粒子として含むフィラー含有ゴム材料をモデル化した図2に示すような解析用モデルと、フィラーを含まない純ゴムからなるゴム材料をモデル化した解析用モデルを作成した。各結合鎖及び粒子間の相互作用に、レナード-ジョーンズポテンシャルを用い、σ、εの値を適宜調整して解析用モデルに付与した。解析用モデルは、フィラーモデル11及びポリマーモデル21の合計数を変更することなく、配置を種々変えた3つのモデルを作成して破断特性を1つにまとめて評価した。
また、解析用モデルに一軸伸張の条件で伸張を与えて緩和応答の解析を行ったとき、解析用モデル内では、ポリマーモデル21の結合鎖21aの破断によりボイドが生じ、このボイドの体積は伸張の増大にしたがって増大する。このボイドの体積の増大の情報を用いて材料の破断を判定することができる。したがって、解析用モデルのボイド体積の増大速度が、所定の閾値を横切る(閾値以上になる)時点で破断が発生するとし、そのときの伸びを破断伸びEbとして求めた(比較例)。
実施例及び比較例ともに、上述した3つのモデルにおける破断伸びEbの値の平均値を実施例及び比較例の破断特性の評価値として求めた。
11,11A,11B,11C,11D フィラーモデル
11a フィラー粒子
21,21A,21B,21C ポリマーモデル
21a ポリマー粒子
21b 結合鎖
21c 架橋結合鎖
50 解析装置
51 入出力装置
52 処理部
52a モデル作成部
52b 条件設定部
52c 解析部
52d 評価部
53 入力操作系
54 記憶部
55 モニタ
Claims (11)
- コンピュータが、分子動力学法により複合材料の解析を行う方法であって、
前記複合材料中の第1物質をモデル化した第1物質モデル、及び前記複合材料中の第2物質をモデル化した第2物質モデルを含む複合材料の解析用モデルを作成する第1ステップと、
前記解析用モデルに伸張、圧縮、及びせん断の少なくともいずれか1つの変形をさせるように前記解析用モデルに入力を与えたときの前記解析用モデルの応答解析をする第2ステップと、
前記応答解析で得られる前記解析用モデルから散逸するエネルギーの散逸の程度に関する情報に基づいて、前記複合材料の破断特性を評価する第3ステップと、を備えることを特徴とする、複合材料の解析方法。 - 前記第2ステップでは、前記解析用モデルを引っ張って一定の伸びを維持するように前記入力を与えることにより、伸張時の前記解析用モデルの緩和応答を解析する、請求項1に記載の複合材料の解析方法。
- 前記散逸の程度に関する情報は、前記解析用モデルに発生する応力、及び、前記入力を与えることで前記解析用モデルに与えられる入力エネルギー量に対する前記解析用モデルに蓄積されるエネルギー量の比の少なくとも一方を含む、請求項2に記載の複合材料の解析方法。
- 前記複合材料は、前記第1物質を母材として、前記第2物質が前記母材中に粒子として分布する構成を有し、
前記散逸の程度に関する情報は、少なくとも前記第1物質モデルに発生する応力、及び、少なくとも前記第1物質モデルに与えられる入力エネルギー量に対する前記第1物質モデルに蓄積されるエネルギー量の比の少なくとも一方を含む、請求項1又は2に記載の複合材料の解析方法。 - 前記第3ステップでは、前記散逸の程度が大きいほど前記破断特性に優れる評価を与える、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合材料の解析方法。
- 前記第3ステップでは、前記破断特性の評価として、前記複合材料の破断伸びあるいは破断エネルギーを算出する、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合材料の解析方法。
- 前記第2ステップでは、前記解析用モデルに与える前記入力の大きさを変更して前記応答解析を複数回行い、
前記第3ステップでは、複数回の前記応答解析で得られる前記散逸の程度に基づいて前記破断特性を評価する、請求項1~6のいずれか1項に記載の複合材料の解析方法。 - 前記第1ステップでは、少なくとも、前記第1物質モデル及び前記第2物質モデルの配置を変更した複数のモデルを前記解析用モデルとして作成し、
前記複合材料の解析方法は、さらに、前記解析用モデルのそれぞれにおいて、前記第2ステップ及び前記第3ステップを行うことによって得られた前記解析用モデルのそれぞれに対応した前記破断特性の評価を1つに統合する第4ステップを備える、請求項1~7のいずれか1項に記載の複合材料の解析方法。 - 前記第2ステップでは、前記解析用モデルに与える前記入力として入力1及び前記入力1と異なる条件の入力2を別々に与えて互いに異なる応答解析を行い、
前記第3ステップでは、前記入力1に対応した前記破断特性の評価と、前記入力2に対応した前記破断特性の評価とを統合することにより、前記破断特性を評価する、請求項1~8のいずれか1項に記載の複合材料の解析方法。 - 前記第1ステップでは、前記解析用モデルの他に、前記複合材料の一部を修正した材料を対象として、前記解析用モデルの一部を修正した修正解析用モデルを作成し、
前記修正解析用モデルを用いて前記第2ステップ及び前記第3ステップを行うことにより、前記解析用モデルを用いた前記破断特性の評価に対する前記修正解析用モデルを用いた前記破断特性の変化を求める、請求項1~9のいずれか1項に記載の複合材料の解析方法。 - 請求項1~10のいずれか1項に記載の複合材料の解析方法をコンピュータに実行させることを特徴とする、複合材料の解析用コンピュータプログラム。
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