本発明者は、従来の分子動力学を用いた複合材料の解析方法では、破断による力学応答の再現性が必ずしも十分でないことに着目した。そして、本発明者は、複合材料を構成する粒子間に引力相互作用を設定して数値解析することにより、破断に伴う力学応答の再現性に優れた特定物質の解析方法を実現できることを見出した。さらに、本発明者は、分子結合を物理的に消滅させずに演算処理を行うことにより、分子結合の破断箇所の評価が可能となることも見出し、本発明を完成させるに至った。
以下、本発明の各実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の各実施の形態に限定されるものではなく、適宜変更して実施可能である。なお、以下においては、解析対象となる特定物質が2以上の物質を含む複合材料である場合について説明しているが、本発明は、特定物質がポリマーなどの単一の物質である場合にも適用可能である。また、以下においては、複合材料がポリマー及びフィラーを含む例について説明しているが、本発明は、2種類の以上の物質を含有する複合材料にも適用可能である。また、本発明は、フィラー及びポリマー以外の物質を含有する複合材料にも適用可能である。
図1は、本実施の形態に係る複合材料の解析方法の概略を示すフロー図である。図1に示すように、本実施の形態に係る複合材料の解析方法は、コンピュータを用いた分子動力学法による複合材料の解析方法である。この複合材料の解析方法は、ポリマー(特定物質)をモデル化したポリマーモデル(特定物質モデル)及びフィラー(特定物質)をモデル化したフィラーモデル(特定物質モデル)を含む複合材料の解析用モデルを作成するステップST11と、解析対象となるポリマーモデル又はフィラーモデルに属し、粒子間結合で結合された少なくとも一対の粒子の粒子間距離に第1閾値を設定するステップST12と、ポリマーモデル間に引力相互作用を設定するステップST13と、粒子間距離が第1閾値以上の場合に、破断処理をして解析用モデルの数値解析を実行するステップST14とを含む。なお、ステップST11~ステップST14の順番は適宜変更可能である。
図2は、本実施の形態に係る複合材料の解析用モデル1の一例を示す概念図である。図2に示すように、解析用モデル1は、例えば、一辺の長さが距離Lの略立方体形状の仮想空間であるモデル作成領域A内でモデル化される。モデル作成領域Aは、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸方向に広がる三次元空間となっている。解析用モデル1は、複数のフィラー粒子11aがモデル化された4つのフィラーモデル11A,11B,11C,11Dと、複数のポリマー粒子21a及び結合鎖21bがモデル化された4つのポリマーモデル21とを含む。なお、図2に示す例では、解析用モデル1が、4つのフィラーモデル11A,11B,11C,11Dがモデル化された例について説明するが、モデル化されるフィラーモデルの数に制限はなく、解析用モデル1は、4つ未満のフィラーモデル11を含んでいてもよく、4つを超えるフィラーモデル11を含んでいてもよい。また、図2においては、4つのポリマーモデル21のみを示しているが、解析用モデル1では、複数のポリマーモデル21がモデル作成領域A内の全域に亘って存在している。さらに、図2に示す例では、モデル作成領域Aが、略直方体形状の仮想空間である例について示しているが、球状、楕円状、直方体形状、多面体形状など任意の形状であってもよい。
フィラーモデル11は、複数のフィラー粒子11aがそれぞれ略球状体に集合した状態でモデル化される。また、フィラーモデル11は、互いに所定間隔をとって離れた状態で配置されている。なお、フィラーモデル11は、相互に凝集した状態で外縁部が共有結合によって相互に連結されていてもよい。
フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ、及びアルミナなどが含まれる。フィラー粒子11aは、複数のフィラーの原子が集合されてモデル化される。また、フィラー粒子11aは、複数のフィラー粒子11aが集合してフィラー粒子群を構成する。フィラー粒子11aは、複数のフィラー粒子11a間の結合鎖(不図示)によって相対位置が特定されている。この結合鎖(不図示)は、フィラー粒子11a間の結合距離である平衡長とばね定数とが定義されたバネとしての機能を有し、各フィラー粒子11a間を拘束している。結合鎖は、フィラー粒子11aの相対位置及び捻り、曲げなどによって力が発生するポテンシャルが定義されているボンドである。フィラーモデル11は、フィラーを分子動力学で取り扱うためのフィラー粒子11aの質量、体積、直径及び初期座標などを含む数値データである。フィラーモデル11の数値データは、コンピュータに入力される。
ポリマーとしては、例えば、ゴム、樹脂、及びエラストマーなどが含まれる。ポリマー粒子21aは、複数のポリマーの原子が集合されてモデル化される。また、ポリマー粒子21aは、複数のポリマー粒子21aが集合してポリマー粒子群を構成する。ポリマーには、フィラーとの親和性を高める変性剤が必要に応じて配合される。この変性剤としては、例えば、水酸基、カルボニル基、及び原子団の官能基などが含まれる。ポリマーモデル21は、複数のポリマー原子及び複数のポリマー原子の集合体であるポリマー粒子21aがモデル作成領域A内に所定密度で充填されてモデル化される。ポリマー粒子21aは、複数のポリマー粒子21a間の結合鎖21bによって結合されて相対位置が特定されている。この結合鎖21bは、ポリマー粒子21a間の結合距離である平衡長とばね定数とが定義されたバネとしての機能を有し、各ポリマー粒子21a間を拘束している。結合鎖21bは、ポリマー粒子21aの相対位置及び捻り、曲げなどによって力が発生するポテンシャルが定義されているボンドである。また、結合鎖21bは、複数のポリマー粒子21aが直列状に連結されてなるポリマーモデル21間にも架橋結合(不図示)として結合されている。このポリマーモデル21は、ポリマーを分子動力学で取り扱うための数値データ(ポリマー粒子21aの質量、体積、直径及び初期座標などを含む)である。ポリマーモデル21の数値データは、コンピュータに入力される。
解析用モデル1は、分子動力学法による数値解析により各種物理量が取得される。数値解析としては、例えば、伸張解析、せん断解析などの変形解析及び緩和解析などの運動解析が挙げられる。これらの運動解析で取得する物理量は、運動解析の結果得られた変位などの値を用いてもよく、所定の演算処理を実行した歪みであってもよい。これらの中でも、運動解析としては、複合材料のコンパウンドの力学特性を解析可能となる観点から、変形解析が好ましい。
次に、本実施の形態に係る複合材料の解析方法について詳細に説明する。第1ステップST11では、複数のフィラー粒子11aが集合してモデル化されたフィラーモデル11及び複数のポリマー粒子21aが結合鎖21bを介して連結されてモデル化されたポリマーモデル21を含む複合材料の解析用モデル1(図2参照)を作成する。
また、ステップST11では、作成したフィラーモデル11とポリマーモデル21との間に相互作用を設定する。フィラーモデル11とポリマーモデル21との間の相互作用としては、例えば、分子間力及び水素結合などの引力及び斥力などの化学的な相互作用、及び共有結合などの物理的な相互作用が挙げられる。なお、フィラーモデル11とポリマーモデル21との間の相互作用は、フィラー粒子11a間及びフィラー粒子11aとポリマー粒子21aとの間に必要に応じて設定されるものであり、必ずしも全てのフィラー粒子11a及びポリマー粒子21aに設定されるものではない。また、ポリマーモデル21が複数の種類のポリマー粒子21aで構成されている場合には、複数の種類のポリマー粒子21aにそれぞれ相互作用を設定してもよい。また、複数の種類の各ポリマー粒子21aとフィラーモデル11との相互作用は同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、ポリマー粒子Aとフィラー粒子11aの相互作用とポリマー粒子Bとフィラー粒子11aの相互作用とは異なる相互作用を設定してもよい。
次に、ステップST12では、ポリマー粒子21aの粒子間距離に所定の第1閾値を設定する。粒子間距離としては、ポリマー粒子21aを連結する結合鎖21bの長さを用いてもよく、一対のポリマー粒子21a間の直線距離を用いてもよい。なお、本実施の形態においては、第2ステップST12において、解析対象となる一対のポリマー粒子21aの粒子間距離に所定の第1閾値を設定する例について説明するが、粒子間距離の第1閾値は、解析対象となる複合材料に応じて一対のフィラー粒子11a間の粒子間距離に設定してもよい。
次に、ステップST13では、ポリマーモデル21に属するポリマー粒子21a間に引力相互作用を設定する。図3A及び図3Bは、ポリマー粒子21a間に引力相互作用を設定した場合の数値解析の説明図である。なお、図3A及び図3Bでは、複数のポリマーモデル21による三次元網目構造の一部を模式的に示し、一部のポリマー粒子21aのみを示している。
図3A及び図3Bに示すように、ステップST13では、例えば、ポリマーモデル21に属する一対のポリマー粒子21a-1,21a-2の間に引力Xを設定する。これにより、一対のポリマー粒子21a-1,21a-2間の粒子間結合である結合鎖21bを、破断処理された破断結合鎖21bxとして数値解析した場合であっても、引力Xにより一対のポリマー粒子21a-1,21a-2が相互に引き付けられている。この結果、結合鎖21bの破断処理に伴うポリマーモデル21の急激な収縮を防ぐことができるので、一対のポリマー粒子21a-1,21a-2間の粒子間距離の急激な増大を防ぐことができる。
図4A及び図4Bは、ポリマー粒子21a間に斥力相互作用を設定した場合の数値解析の説明図である。なお、図4A及び図4Bでは、複数のポリマーモデル21による三次元網目構造の一部を模式的に示し、一部のポリマー粒子21aのみを示している。
図4A及び図4Bに示すように、一対のポリマー粒子21a-1,21a-2の間に斥力Yを設定すると、斥力Yにより一対のポリマー粒子21a-1,21a-2が相互に遠ざけようとする。この結果、一対のポリマー粒子21a-1,21a-2間の粒子間結合である結合鎖21bを、破断処理された破断結合鎖21bxとして数値解析した場合には、ポリマーモデル21が急激に収縮して、一対のポリマー粒子21a-1,21a-2間の粒子間距離が急激に増大する。
このように、ステップST13では、引力相互作用の設定により、破断処理前のポリマー粒子21aに作用していた応力の急激な低下に伴う収縮の速度を低下させることができるので、解析用モデル1を用いた力学応答の再現精度が向上する。
引力相互作用としては、本発明の効果を奏する範囲で適宜設定可能である。引力相互作用としては、上述した効果がより一層向上する観点から、ポリマー粒子21a間に設定される斥力より大きく、かつ、フィラー粒子11aとポリマー粒子21aとの間に設定される引力より小さい引力相互作用を設定することが好ましい。また、ポリマーモデル21が複数の種類のポリマー粒子21aで構成されている場合には、複数の種類のポリマー粒子21aにそれぞれ引力相互作用を設定してもよい。また、複数の種類の各ポリマー粒子21a間の引力相互作用は同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、ポリマー粒子Aとポリマー粒子Bとの間の引力相互作用とポリマー粒子Bとポリマー粒子Cの引力相互作用とは異なる引力相互作用を設定してもよい。
引力相互作用は、図3A及び図3Bに示したように、結合鎖21bによって連結された一対のポリマー粒子21a間の全てに設定してもよく、一部に設定してもよく、ポリマーモデル21の一定の領域に設定してもよい。
図5は、引力相互作用の設定の一例の説明図である。引力相互作用は、破断処理された粒子間結合を含む分子鎖に属するポリマーモデル21のポリマー粒子21aに設定してもよい。図5に示す例では、解析用モデル1中の結合鎖21bを含んだ特定のポリマーモデル21に属する一定の分子鎖の領域A1のポリマー粒子21aに引力相互作用が設定される。また、図5に示す例では、結合鎖21bで連結された一対のポリマー粒子21a-1,21a-2を含む所定範囲のポリマー粒子21aに引力相互作用を設定してもよい。これらにより、解析用モデル1内で引力相互作用が設定される領域A1を削減することができるので、演算時間を短縮することができる。
図6及び図7は、引力相互作用の設定の他の例の説明図である。図6に示す例では、引力相互作用は、一対のポリマー粒子21a-1,21a-2の結合鎖21bを含む近傍の範囲A2のポリマー粒子21aに設定される。これにより、図7に示すように、一対のポリマー粒子21a-1,21a-2と当該一対のポリマー粒子21a-1,21a-2が属するポリマーモデル21に隣接するポリマーモデル21に属するポリマー粒子21aとの間で引力相互作用が生じる。この結果、図3A及び図3Bと同様に、数値解析時の一対のポリマー粒子21a-1,21a-2間の粒子間距離の急激な増大を防ぐことができる。また、図5で示した例と同様に、解析用モデル1内で引力相互作用が設定される領域A1を削減することができるので、演算時間を短縮することができる。
また、引力相互作用は、解析用モデル1の作成後に設定してもよく、結合鎖21bで結合された一対のポリマー粒子21aの粒子間距離に第1閾値を設定した後に設定してもよく、ポリマー粒子21aの結合鎖21bの破断処理と共に設定してもよい。これらの中でも、引力相互作用は、ポリマー粒子21aの結合鎖21bの破断処理と共に設定することが好ましい。これにより、力学応答の再現性への影響を低減しつつ引力相互作用の設定に要する演算負荷を軽減することができる。
また、ステップST13では、引力相互作用は、ステップST12で設定した粒子間距離の第1閾値より小さい第2閾値を設定し、設定した第2閾値以上となった際に設定してもよい。これにより、引力相互作用が結合鎖21bの破断の前に確実に設定されるので、破断処理時のポリマーモデル21の急激な収縮を防ぐことができ、数値解析時の力学応答の再現性がより向上する。第2閾値としては、第1閾値より小さければよく、演算処理の軽減の観点から、第1閾値に対して0.95倍以上1.0倍未満であることが好ましい。
また、ステップST13では、引力相互作用は、粒子間結合の破断処理後の解析時間の経過と共に減少させるように設定してもよい。この場合には、引力相互作用は、解析時間の経過と共に連続的に減少させてもよく、段階的に減少させてもよい。これにより、力学応答の再現性への影響を低減しつつ数値解析時の演算負荷を軽減することができる。
また、ステップST13では、強度分布を有する引力相互作用を設定してもよい。図8A及び図8Bは、強度分布を有する引力相互作用の説明図である。図8Aに示すように、ステップST13では、予め斥力などの相互作用が設定された解析用モデル1のポリマーモデル21に引力相互作用を設定する結果、モデル作成領域A内の解析用モデル1に斥力が作用する領域B1と引力が作用する領域B2との境界が生じる。この場合、領域B1と領域B2との間で相互作用が不連続となり、数値解析時に計算効率が悪化すると共に力学応答の再現性が低下する。
これに対して、図8Bに示すように、モデル作成領域A内に領域B2より弱く引力が作用する領域B21を設けて強度分布を有する引力相互作用を設定すると、領域B1と領域B21と領域B2との間で相互作用が連続的に変化する。このようにすることにより、破断処理後に破断連結鎖21bxで連結されたポリマー粒子21aと、当該ポリマー粒子21aから結合数又は距離的に離れたポリマー粒子21aとの間の相互作用の差異を低減することができる。これにより、複合材料の解析用モデル1内に生じる引力と斥力との不連続な相互作用の分布を低減できるので、数値解析時の計算効率が良好となると共に力学応答の再現性がより向上する。
次に、ステップST14では、ポリマー粒子21aの粒子間距離が第1閾値以上の場合に、ポリマー粒子21aの粒子間結合の破断処理をする破断結合演算用関数を用いて引力相互作用が設定された解析用モデル1の数値解析を実行する。ここでの数値解析としては、変温解析及び変圧解析などの数値解析、伸張解析、せん断解析などの変形解析及び緩和解析などの運動解析などの各種数値解析が挙げられる。また、破断処理は、粒子間結合(結合鎖21b)を実際に消去する破断処理をしてもよく、粒子間結合の結合エネルギー及び結合力の少なくとも一方を低下させる疑似破断処理をしてもよい。以下、疑似破断処理の場合について説明する。
ここで、ポリマー粒子21aの粒子間結合の結合エネルギー及び結合力と粒子間距離との関係について説明する。図9は、一対のポリマー粒子21aの粒子間距離と粒子間結合の結合エネルギーとの関係を示す図であり、図10は、一対のポリマー粒子21aの粒子間距離と粒子間結合の結合力との関係を示す図である。なお、図9においては、縦軸に一対のポリマー粒子21aの粒子間結合の結合エネルギーを示し、横軸に一対のポリマー粒子21aの粒子間距離を示している。図10においては、縦軸に一対のポリマー粒子21aの粒子間結合の結合力を示し、横軸に一対のポリマー粒子21aの粒子間距離を示している。
図9に示すように、解析用モデル1を用いた数値解析では、結合鎖21bによって粒子間結合された一対のポリマーモデル粒子21aは、粒子間距離が変化することにより粒子間結合の結合エネルギーが増減する。粒子間結合の結合エネルギーは、一対のポリマー粒子21aの粒子間距離が増大するにつれて減少して最小値(図9の点P1参照)をとった後、更に粒子間距離が増大するにつれて増大してゆく(図9の破線L1参照)。
また、図10に示すように、解析用モデル1を用いた数値解析では、結合鎖21bによって粒子間結合された一対のポリマーモデル粒子21aは、粒子間距離が変化することにより粒子間結合の結合力が増減する。粒子間結合の結合力は、ポリマー粒子21aの粒子間距離が増大するにつれて増大し、変曲点(図10の点P2参照)を過ぎた後、更に増大してゆく(図10の破線L3参照)。
ところで、一般的な解析用モデル1を用いた数値解析では、一対のポリマー粒子21a間の粒子間結合の破断を解析するためには、図9及び図10に示したような一対のポリマー粒子21a間の粒子間結合の結合エネルギー及び結合力の増大を防ぐために、粒子間結合が一定以上となった際に結合鎖21bなどを消去して破断する必要がある。このため、結合鎖21bが破断された一対のポリマー粒子21a間では、ポリマー粒子21aの連結関係が失われるので、破断された粒子間結合の再現及び特定は困難であった。
本発明者は、図9及び図10に示した一対のポリマー粒子21aの粒子間結合の結合エネルギー及び結合力と粒子間距離との関係に着目した。そして、本発明者は、一対のポリマー粒子21a間の粒子間距離に所定の第1閾値Sを設けることを着想した。さらに、本発明者は、粒子間距離が第1閾値S以上となった場合にポリマー粒子21a間の粒子間結合の結合エネルギー及び結合力の少なくとも一方を低下させて解析することにより、一対のポリマー粒子21aの粒子間結合を維持した状態で粒子間結合の破断を再現できることを見出した。
本実施の形態では、図9の実線L2に示すように、粒子間距離が所定の第1閾値S以上となった際に、一対のポリマー粒子21a間の粒子間結合の結合エネルギーを低下させる。また、図10の実線L4に示すように、粒子間距離が所定の第1閾値S以上となった際に、一対のポリマー粒子21a間の粒子間結合の結合力を低下させる。これにより、一対のポリマー粒子21a間の粒子間距離が長くなり第1閾値S以上となっても、粒子間結合の結合エネルギー及び結合力が低下するので、第1閾値S以上でも粒子間結合が維持された状態で解析用モデル1の数値解析を継続することができる。この結果、一対のポリマー粒子21a間の粒子間結合を維持しつつ粒子間結合の破断を再現することが可能となる。
破断処理が疑似破断処理である場合には、一対のポリマー粒子21aの粒子間距離に所定の第1閾値Sを設定し、粒子間距離が第1閾値S以上の場合には、粒子間距離が第1閾値S未満の場合に対して、粒子間結合の結合エネルギー及び結合力を低下させる破断結合演算用関数を用いて粒子間結合を演算する。当該破断結合演算用関数としては、例えば、下記式(1)に示すものが挙げられる。この破断結合演算用関数を用いることにより、図9及び図10に示した例と同様に、粒子間距離rが所定の第1閾値S未満の場合には、一対のポリマー粒子21a間の粒子間距離rに応じて結合エネルギー及び結合力が増減し、粒子間距離rが所定の第1閾値S以上の場合には、結合エネルギー及び結合力がゼロとなる。なお、下記式(1)については、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更可能である。なお、以下においては、結合エネルギーを低下させる例について説明するが、結合力を低下させる場合にも同様に実施可能である。
このように、破断処理が疑似破断処理である場合には、粒子間距離が第1閾値S以上の領域においては、粒子間結合の結合エネルギー及び結合力の少なくとも一方が低下するので、粒子間結合を破断することなく解析用モデル1の数値解析を継続することが可能となる。これにより、破断に伴う粒子間結合の物理的な消滅を防ぐことができるので、粒子間結合を物理的に消滅させずに疑似的な切断を再現することが可能となる。したがって、数値解析時に破断した粒子間結合の破断箇所を特定することが可能となる複合材料の解析方法を実現できる。
なお、図9に示した例では、第1閾値S以上で結合エネルギーをゼロにする例について説明したが、結合エネルギーは、解析用モデル1の運動解析が可能であれば、必ずしもゼロまで低下させる必要はない。第1閾値S以上での結合エネルギーは、例えば、結合エネルギーの最小点P1以下に低下させることが好ましい。同様に、図10に示した例では、第1閾値S以上で結合力をゼロにする例について説明したが、結合力は、解析用モデル1の数値解析が可能であれば、必ずしもゼロまで低下させる必要はない。第1閾値S以上での結合力は、例えば、結合力の変曲点P2以下に低下させることが好ましく、結合力を実質的に消失させる略ゼロまで低下させることがより好ましい。なお、ここでの略ゼロとは、実質的にゼロに近い数値範囲のことであり、若干のゼロ以上ゼロ以下の数値範囲を含むものとする。
また、破断結合演算用関数としては、第1閾値S以上で粒子間結合の結合エネルギー及び結合力をゼロとする破断結合演算用関数を用いて解析用モデル1の数値解析を実行することが好ましい。これにより、解析用モデル1の数値解析時における解析対象となる一対の粒子の疑似的な切断を精度良く再現できるので、例えば、フィラー充填ゴムなどの実際の複合材料におけるポリマー分子の破断などを精度良く再現することが可能となる。
また、上述した実施の形態では、上記式(1)に示す1つの破断結合演算用関数を用いて粒子間結合の結合エネルギー又は結合力を低下させる例について説明したが、複数の破断結合演算用関数を組み合わせて粒子間結合の結合エネルギー又は結合力の少なくとも一方を低下させてもよい。図11は、一対のポリマー粒子21aの粒子間結合の粒子間距離と結合エネルギーとの関係を示す図である。図11においては、縦軸に一対のポリマー粒子21aの粒子間結合の結合エネルギーを示し、横軸に一対のポリマー粒子21aの粒子間距離を示している。
図11に示す例では、粒子間距離に応じて粒子間結合の演算に用いる破断結合演算用関数を第1破断結合演算用関数と第2破断結合演算用関数との間で切替えて演算処理する。粒子間距離が所定の第1閾値S未満の場合には(図11の実線L5参照)、第1破断結合演算用関数としての下記式(2)に示す式を用いて粒子間結合の結合エネルギーを演算処理し、粒子間距離が所定の第1閾値S以上の場合には(図11の実線L6参照)、第2破断結合演算用関数としての下記式(3)に示す式を用いて粒子間結合の結合エネルギーを演算処理する。このように、第1破断結合演算用関数及び第2破断結合演算用関数を第1閾値Sを境に切り替えて用いることにより、図9及び図10に示した例と同様に、粒子間距離rが所定の第1閾値S未満の場合には、一対のポリマー粒子21a間の粒子間距離rに応じて結合エネルギーが増減し、粒子間距離rが所定の第1閾値S以上の場合には、結合エネルギーがゼロとなる。なお、下記式(2)及び下記式(3)については、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更可能である。
なお、上述した実施の形態では、一対のポリマー粒子21aの粒子間距離に特定数値の第1閾値Sを設定する例について説明したが、第1閾値としては、粒子間距離に所定の数値範囲を有する閾値範囲として設定してもよい。図12及び図13は、一対のポリマー粒子21aにおける粒子間距離と粒子間結合の結合エネルギーとの関係を示す図である。なお、図12及び図13においては、縦軸に粒子間結合の結合エネルギーを示し、横軸に一対のポリマー粒子21aの粒子間距離を示している。
図12に示す例では、粒子間距離の所定数値範囲に閾値範囲SRを設定している。この場合には、上述した図9~図11に示した例と同様に、閾値範囲SRのいずれかで結合エネルギーがゼロとなるようにする(図12の実線L7参照)。この場合には、図9に示したように、特定の第1閾値Sのみで結合エネルギーが低下するのではなく、閾値範囲SR内のいずれかの値で結合エネルギーが低下するので、粒子間結合の破断の発生確率を調整することが可能となる。この結果、必ずしも特定の結合長で分子鎖が切断されない実際の複合材料における粒子間結合の破断を精度よく再現することが可能となる。なお、閾値範囲SRとしては、例えば、ポリマー粒子21aの平衡結合長の1.2倍以上に設定することが好ましく、1.5倍以上に設定することがより好ましい。また、結合エネルギーは、必ずしもゼロまで低下させる必要はなく、また低下後の結合エネルギーは、一定値となるようにしてもよく、所定範囲内で変動するようにしてもよい。
図13に示す例では、第3ステップST13において、閾値範囲SRの下限値から上限値に向けて粒子間結合の結合エネルギー及び結合力の少なくとも一方を減少させる破断結合演算用関数を用いて数値解析を実行する。この場合には、例えば、図13の一点鎖線L8、太い破線L9及び二点鎖線L10に示すように、閾値範囲SR内での結合エネルギーの減少率を任意に調整した破断結合演算用関数を使用してもよい。これにより、閾値範囲SRの下限値から上限値の範囲で徐々に結合エネルギーが減少するので、粒子間結合の破断の発生確率を精度よく調整することが可能となり、必ずしも特定の結合長で分子鎖が切断されない実際の複合材料における粒子間結合の破断をより高精度で再現することが可能となる。図13に示す例で用いられる破断結合演算用関数としては、例えば、実線L8~実線L10に対応したn次曲線を示す関数及び指数関数などが挙げられる。
また、上述した実施の形態では、ポリマー粒子21aの粒子間距離が第1閾値S以上となると所定の破断結合演算用関数を適用して粒子間結合を演算する例について説明したが、粒子間距離の時間平均値が第1閾値以上となった場合に、粒子間結合の結合エネルギー及び結合力を低下させる破断結合演算用関数を用いて解析用モデル1の数値解析を実行してもよい。これにより、例えば、ブラウン運動などによって、一時的に粒子間距離が第1閾値以上となった一対のポリマー粒子21aにおける粒子間結合の結合エネルギー及び結合力を低下させる破断結合演算用関数を用いた演算を除外することができる。この結果、実際の複合材料における粒子間結合の破断を精度よく再現することが可能となる。時間平均値の第1閾値としては、評価時間間隔の1/1000が好ましく、1/100がより好ましい。
ところで、粒子間結合によって連結された一対のポリマー粒子21aが複数存在する場合には、解析用モデル1の数値解析後、複数の一対のポリマー粒子21aの粒子間距離が順次第1閾値S以上となり、粒子間結合の結合エネルギー及び結合力の少なくとも一方が順次低下した状態となる。このため、所定解析時間後の特定の解析時間に複数の一対のポリマー粒子21aの粒子間距離が第1閾値S以上となっていた場合には、粒子間結合の結合エネルギー及び結合力の少なくとも一方が低下したポリマーモデル21の座標をそれぞれ特定しても、必ずしも十分にそれぞれの正確な破断位置を評価することができない場合がある。
そこで、上記実施の形態においては、粒子間距離が第1閾値S以上となった時点の粒子間結合の座標を破断位置として特定して評価してもよい。図14A~図14Cは、モデル作成領域A内での粒子間結合の破断位置の説明図である。なお、図14Aにおいては、第1解析時間T1の状態を示し、図14Bにおいては、第2解析時間T2の状態を示し、図14Cにおいては、第3解析時間T3の状態を示している。
本実施の形態では、複数の解析時間について、それぞれ粒子間結合の結合エネルギー及び結合力が低下した粒子間結合の位置を特定する。図14Aに示す例では、第1解析時間T1では、ポリマーモデル21Aは、フィラーモデル11の近傍で粒子間距離が第1閾値S以上となり、結合エネルギー又は結合力が低下した破断結合鎖21bxが生じている。フィラーモデル11の近傍に存在するポリマーモデル21B,21Cは、ポリマー粒子21aの粒子間距離が第1閾値S未満となり結合鎖21bが残存している。この第1解析時間T1では、ポリマーモデル21Aの座標を破断座標X1として特定する。
次に、所定時間経過後の第2解析時間T2では、ポリマーモデル21Bは、フィラーモデル11の近傍で粒子間距離が第1閾値S以上となり、結合エネルギー又は結合力が低下した破断結合鎖21bxが生じている。フィラーモデル11の近傍に存在するポリマーモデル21Cは、ポリマー粒子21aの粒子間距離が第1閾値S未満となり結合鎖21bが残存している。一方、移動によりフィラーモデル11表面から離れたポリマーモデル21Aは、結合エネルギー又は結合力が低下した破断結合鎖21bxが維持されている。この第2解析時間T2では、ポリマーモデル21Bの座標を新たな破断座標X2として特定し、第1解析時間T1で既に破断結合鎖21bxが生じたポリマーモデル21Aの現座標は破断座標として新たに特定しない。
さらに、所定時間経過後の第3解析時間T3では、ポリマーモデル21Cは、フィラーモデル11の近傍で粒子間距離が第1閾値S以上となり、結合エネルギー又は結合力が低下した破断結合鎖21bxが生じている。移動によりフィラーモデル11表面から離れたポリマーモデル21A,21Bは、ポリマー粒子21aの粒子間結合が第1閾値S以上となり破断結合21bxが維持されている。この第3解析時間T3では、ポリマーモデル21Cの座標を破断座標X3として新たに特定し、第1解析時間T1で既に破断結合鎖21bxが生じたポリマーモデル21Aの現座標及び第2解析時間T2で既に破断結合鎖21bxが生じたポリマーモデル21Bの現座標は破断座標として特定しない。
このように、連続する第1解析時間T1~第3解析時間T3中に粒子間距離が第1閾値S以上となった破断座標X1~X3を順次特定することにより、例えば、図15に示すように、フィラーモデル11表面からの距離と破断座標の座標分布とが得られる。これにより、図14A~図14Cに示した解析用モデル1の数値解析では、フィラーモデル11表面からの距離が近くなるにつれて破断座標X1~X3の座標分布が増大することが分かる。この結果から、図15に示すように、粒子間結合の破断されやすい場所を評価することができるので、フィラーモデル11表面からの距離と破断確率の関係などを評価することが可能となる。
なお、図14A~図14Cに示した例では、粒子間結合に代表点を設定して破断位置(破断座標)を特定してもよい。例えば、図14Aに示した例では、粒子間結合である結合鎖21bにおける一対のポリマー粒子21aとの重心(中点)又はポリマー粒子21aの座標と重なる端点などを代表点として破断位置として特定する。これにより、長さが増大した粒子間結合の代表点の座標を破断位置として評価することができるので、破断位置の評価が容易となる。
また、図14A~図14Cに示した例では、粒子間距離が所定値以上となった粒子間結合を可視化してもよい。これにより、疑似的に破断した一対のポリマー粒子21a間の粒子間結合である破断結合鎖21bxを目視で確認することができるので、数値解析時に破断した粒子間結合の破断箇所の特定が容易となる。同様に、粒子間結合が破断して破断結合鎖21bxが生じた破断座標X1~X3を可視化してもよい。これにより、破断しやすい場所を目視で評価できるので、破断しやすい場所の評価が容易となる。また、代表点を可視化してもよい。これにより、長さが増大した粒子間結合の全体を可視化せずに代表点を可視化するので、破断した粒子間結合の確認が容易となる。粒子間結合の可視化は、例えば、破断結合鎖21bx以外の結合鎖21bを非表示としてもよく、結合鎖21bの透明度を高めてもよく、破断結合鎖21bxの色及び太さを結合鎖21bと変更して表示してもよい。これにより、破断結合鎖21bxを強調することができ、目視で容易に確認することが可能となる。
また、上述した実施の形態においては、可視化を数値解析中の複数の解析時間において実行してもよい。図16A及び図16Bは、第1解析時間T1及び第2解析時間T2の2つの解析時間での可視化の例の説明図であり、図17A~図17C及び図18A~図18Cは、第1解析時間T1~第3解析時間T3の3つの解析時間での可視化の例の説明図である。なお、図16A~図18Cにおいては、一対のポリマー粒子21aの粒子間距離が第1閾値S以上となった破断座標X1~X3を略球状に模式的に示している。
図16A及び図16Bに示す例では、図16Aに示すように、第1解析時間T1でフィラーモデル11の近傍に破断座標X1が発生して可視化された後、図16Bに示すように、第2の解析時間T2では、フィラーモデル11の移動に伴って破断座標X1がフィラーモデル11との相対位置が保たれた状態で表示される。すなわち、第1解析時間T1で発生した破断座標X1は、第1解析時間T1での絶対座標X11からフィラーモデル11との相対位置が保たれた新たな破断座標X1として表示される。これにより、第1解析時間T1から第2解析時間T2に解析時間が進展しても、フィラーモデル11の周囲で発生した破断座標X1の相対位置は維持されて表示される。
図17A~図17Cに示す例では、図17Aに示すように、第1解析時間T1でフィラーモデル11の近傍に破断座標X1が発生して可視化される。そして、図17Bに示すように、第2解析時間T2では、第1解析時間T1で発生した破断座標X1がフィラーモデル11との相対位置が保たれた状態でフィラーモデル11と共に移動すると共に、第2解析時間T2で発生した破断座標X2がフィラーモデル11の近傍で新たに可視化される。さらに、図17Cに示すように、第3解析時間T3では、第1解析時間T1で発生した破断座標X1及び第2解析時間T2で発生した破断座標X2がフィラーモデル11との相対位置が保たれた状態でフィラーモデル11と共に移動すると共に、第3解析時間T3で発生した破断座標X3がフィラーモデル11近傍で新たに可視化される。このように可視化することにより、フィラーモデル11の位置を第1解析時間T1~第3解析時間T3での座標に応じて変化させた場合であっても、フィラーモデル11の周囲で発生した破断座標X1~X3の相対座標を保って表示することが可能となる。この結果、フィラーモデル11の周囲のポリマーモデル21の粒子間結合の破断を再現することが可能となる。
図18A~図18Cに示す例では、モデル作成領域A内でのフィラーモデル11の位置は固定して表示される。まず、図18Aに示すように、第1解析時間T1でフィラーモデル11の近傍に破断座標X1が発生して可視化される。そして、図18Bに示すように、第2解析時間T2では、フィラーモデル11及び第1解析時間T1で発生した破断座標X1の表示位置が維持された状態で、第2解析時間T2で発生した破断座標X2が新たに可視化される。さらに、図18Cに示すように、第3解析時間T3では、フィラーモデル11、第1解析時間T1で発生した破断座標X1及び第2解析時間T2で発生した破断座標X2の表示位置が維持された状態で、第3解析時間T3で発生した破断座標X3が新たに可視化される。このようにモデル作成領域A内でフィラーモデル11の位置を固定した状態で可視化することによっても、フィラーモデル11の周囲で発生した破断座標X1~X3の相対座標を保って表示することが可能となる。この結果、フィラーモデル11の周囲のポリマーモデル21の粒子間結合の破断を再現することが可能となる。これらにより、複数の解析時間毎の粒子間結合の破断の進展を確認することが可能となる。
また、上記実施の形態においては、数値解析を解析用モデル1中に含まれる複数のポリマーモデル21又はフィラーモデル11についてそれぞれ実行し、得られた複数の数値解析の結果を集約して可視化して評価してもよい。図19A及び図19Bは、第1解析時間T1及び第2解析時間T2の2つの解析時間を集約して可視化する例の説明図である。本実施の形態では、モデル作成領域A内には、第1フィラーモデル11A及び第2フィラーモデル11Bが存在し、第1フィラーモデル11A及び第2フィラーモデル11Bのそれぞれに対して数値解析を実行する。
図19Aに示すように、第1解析時間T1では、第1フィラーモデル11Aの近傍でポリマーモデル21の粒子間結合の破断が発生し、第1フィラーモデル11Aの近傍に1つの破断座標X1が可視化される。また、図19Bに示すように、第2解析時間T2では、第1フィラーモデル11A及び第2フィラーモデル11Bがそれぞれモデル作成領域A内で移動する。また、第2解析時間T2では、第1フィラーモデル11Aの近傍及び第2フィラーモデル11Bの近傍でそれぞれ1つのポリマーモデル21の粒子間結合の破断が発生し、第1フィラーモデル11Aの近傍に破断座標X2が可視化されて新たに追加され、第2フィラーモデル11Bの近傍に破断座標X3が新たに可視化される。この結果、第2解析時間T2では、第1フィラーモデル11Aの近傍で発生した2つの破断座標X1,X2及び第2フィラーモデル11Bの近傍で発生した1つの破断座標X3の3つの破断座標X1~X3が集約して表示される。
このように、本実施の形態では、解析用モデル1中の2つの第1フィラーモデル11A及び第2フィラーモデル11Bを1つのモデル作成領域A内に集約して表示できるので、解析結果が迅速に得られると共に解析結果の理解が容易となる。
また、図19A及び図19Bに示す例においては、数値解析を解析用モデル1中に含まれる複数のポリマーモデル21又はフィラーモデル11についてそれぞれ実行し、得られた複数の数値解析の結果を解析用モデル1中に指定した特定の第1フィラーモデル11Aに集約して可視化して評価してもよい。図20A及び図20Bは、第1解析時間T1及び第2解析時間T2の2つの解析時間を集約して可視化する例の説明図である。
図20A及び図20Bに示すように、本実施の形態では、モデル作成領域A内には、図19A及び図19Bに示した第1フィラーモデル11A(図20A及び図20Bにおいて不図示)及び第2フィラーモデル11B(図20A及び図20Bにおいて不図示)の計算結果を集約して表示する代表フィラーモデル11Eが存在する。この代表フィラーモデル11Eは、図19A及び図19Bに示した第1フィラーモデル11A及び第2フィラーモデル11Bの近傍で発生する破断座標X1~X3を集約して表示するものである。なお、図20A及び図20Bに示す例では、代表フィラーモデル11Eは、モデル作成領域A内の座標が固定されて表示される。
図20Aに示すように、第1解析時間T1では、第1フィラーモデル11Aの近傍にのみ破断座標X1が可視化されるので、第1フィラーモデル11Aの近傍に発生した破断座標X1が代表フィラーモデル11Eに対応する座標に表示される。図20Bに示すように、第2解析時間T2では、第1フィラーモデル11Aの近傍で発生した破断座標X2及び第2フィラーモデル11Bの近傍で発生した破断座標X3が代表フィラーモデル11Eに新たに追加される。この結果、代表フィラーモデル11Eの周囲には、第1フィラーモデル11A及び第2フィラーモデル11Bを含めたフィラーモデル11全体の周囲に発生した破断座標X1~X3が集約して表示される。
このように、本実施の形態では、解析用モデル1中の2つの第1フィラーモデル11A及び第2フィラーモデル11Bを特定の1つの代表フィラーモデル11Eとしてモデル作成領域A内に集約して表示できるので、解析結果が迅速に得られると共に解析結果の理解が容易となる。代表フィラーモデル11Eとしては、解析用モデル1に含まれる任意のフィラーモデル11を特定してもよく、また解析用モデル1とは別個に作成した新たなフィラーモデル11などのその他のモデルを特定してもよい。また、代表フィラーモデル11Eに破断座標の情報を集約するフィラーモデル11としては、解析用モデル1中の全フィラーモデル11としてもよく、解析用モデル1中に指定した複数のフィラーモデル群としてもよい。複数のフィラーモデル群としては、例えば、特定のフィラーモデル11を基準として他のフィラーモデル11との間の距離が所定の第1閾値以上離れた分散フィラーモデル群としてもよく、特定のフィラーモデル11を基準として他のフィラーモデル11との間の距離が所定の第1閾値未満の凝集フィラーモデル群としてもよい。
また、上述した実施の形態では、1つの解析モデル1中に含まれる複数のフィラーモデル11の周囲に発生した破断座標X1~X3の数値解析の解析結果を集約して表示する例について説明したが、複数の解析用モデル1(例えば、10個の解析用モデル)を用いて別途演算した解析結果を1つの解析用モデル1の解析結果に投影したアンサンブル結果を可視化してもよい。これにより、多数のフィラーモデル11の周囲で発生する多数の破断座標の解析結果を集約して表示できるので、効率良く演算結果を解析することが可能となる。
なお、上述した実施の形態においては、図21に示すように、ポリマーをモデル化したポリマーモデル及びフィラーをモデル化したフィラーモデルを含む複合材料の解析用モデルを作成するステップST21と、ポリマーモデルを架橋させるステップST22と、解析対象となるポリマーモデル又はフィラーモデルに属し、粒子間結合で結合された少なくとも一対の粒子の粒子間距離に第1閾値を設定するステップST23と、ポリマーモデル間に引力相互作用を設定するステップST24と、粒子間距離が第1閾値以上の場合に、破断処理をして解析用モデルの数値解析を実行するステップST25とを含むようにしてもよい。これにより、複合材料の解析方法は、架橋反応を介してポリマーモデルを予め架橋した状態で解析用モデルの数値解析をできるので、ポリマーモデルの架橋が粒子間結合の破断に及ぼす影響をより正確に解析可能となる。
次に、本実施の形態に係る複合材料の解析方法及び複合材料の解析用コンピュータプログラムについてより詳細に説明する。図22は、本実施の形態に係る複合材料の解析方法及び特定物質の解析方法を実行する解析装置の機能ブロック図である。
図22に示すように、本実施の形態に係る特定物質の解析方法は、処理部52と記憶部54とを含むコンピュータである解析装置50が実現する。この解析装置50は、入力手段53を備えた入出力装置51と電気的に接続されている。入力手段53は、複合材料の解析用モデルの作成対象であるポリマー及びフィラーの各種物性値、ポリマー及びフィラーを含有する複合材料を用いた伸張試験結果の実測結果、及び解析における境界条件などを処理部52又は記憶部54へ入力する。入力手段53としては、例えば、キーボード、マウスなどの入力デバイスが用いられる。
処理部52は、例えば、中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)及びメモリを含む。処理部52は、各種処理を実行する際にコンピュータプログラムを記憶部54から読み込んでメモリに展開する。メモリに展開されたコンピュータプログラムは、各種処理を実行する。例えば、処理部52は、記憶部54から予め記憶された各種処理に係るデータを必要に応じて適宜メモリ上の自身に割り当てられた領域に展開し、展開したデータに基づいて複合材料の解析用モデルの作成及び複合材料の解析用モデルを用いた複合材料の解析に関する各種処理を実行する。
処理部52は、モデル作成部52aと、条件設定部52bと、解析部52cとを含む。モデル作成部52aは、予め記憶部54に記憶されたデータに基づき、分子動力学法により複合材料の解析用モデル1を作成する際のフィラー及びポリマーなどの複合材料の粒子数、分子数、分子量、分子鎖長、分子鎖数、分岐、形状、大きさ、反応時間、反応条件及び作成する解析用モデルに含まれる分子数である目標分子数などの構成要素の配置、設定及び計算ステップ数などの粗視化モデルの設定を行う。また、モデル作成部52aは、フィラー粒子11a間、ポリマー粒子21a間及びフィラー・ポリマー粒子の水素結合、分子間力などの相互作用などの各種計算パラメーターの初期条件の設定を行う。また、モデル作成部52aは、必要に応じてポリマーモデル21の架橋による架橋結合の作成などの架橋解析などを作成してもよい。
フィラー粒子11a間の相互作用及びポリマー粒子21a間の相互作用を調整する計算パラメーターとしては、下記式(4)で表されるレナード・ジョーンズポテンシャルのσ、εを用い、これらが調整される。ポテンシャルを計算する上限距離(カットオフ距離)を大きくすることで、遠距離まで働いた引力、斥力を調整できる。なお、フィラー粒子11a間の相互作用及びポリマー粒子21a間の相互作用が一定値になるまで順次、フィラー粒子11a間の相互作用及びポリマー粒子21a間の相互作用のパラメーターを小さくすることが好ましい。レナード・ジョーンズポテンシャルのσ、εを大きな値から徐々に本来の値に近づけることにより、分子を不自然な状態に導かない穏やかな速度で粒子の接近を行うことができる。また、カットオフ距離も徐々に小さくすることにより、適正な範囲で引力、斥力を調整できる。
条件設定部52bは、変温解析及び変圧解析などの数値解析、伸張解析、せん断解析などの変形解析及び緩和解析などの運動解析などの各種数値解析条件を設定する。
解析部52cは、条件設定部52bによって設定された解析条件に基づいて解析用モデル1の各種数値解析を実行する。また、解析部52cは、解析用モデル1のポリマーモデル21に引力相互作用を設定する。さらに、解析部52cは、モデル作成部52aによって作成された複合材料の解析用モデル1を用いて分子動力学法による数値解析を実行して物理量を取得する。ここでは、解析部52cは、数値解析として、伸張解析、せん断解析などの変形解析及び緩和解析などの運動解析などを実行する。また、解析部52cは、数値解析の結果得られた変位などの値又は得られた値に所定の演算処理を実行した歪みなどの物理量を取得する。
記憶部54は、ハードディスク装置、光磁気ディスク装置、フラッシュメモリ及びCD-ROMなどの読み出しのみが可能な記録媒体である不揮発性のメモリ、並びに、RAM(Random Access Memory)のような読み出し及び書き込みが可能な記録媒体である揮発性のメモリが適宜組み合わせられる。
記憶部54には、入力手段53を介して解析対象となる複合材料の解析用モデル1を作成するためのデータであるゴムカーボンブラック、シリカ、及びアルミナなどのフィラーのデータ、ゴム、樹脂、及びエラストマーなどのポリマーのデータ、予め設定した物理量履歴である応力歪み曲線及び本実施の形態に係る複合材料の解析方法、複合材料の解析方法を実現するためのコンピュータプログラムなどが格納されている。このコンピュータプログラムは、コンピュータ又はコンピュータシステムに既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、本実施の形態に係る複合材料の解析方法を実現できるものであってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)及び周辺機器などのハードウェアを含むものとする。
表示手段55は、例えば、液晶表示装置等の表示用デバイスである。なお、記憶部54は、データベースサーバなどの他の装置内にあってもよい。例えば、解析装置50は、入出力装置51を備えた端末装置から通信により処理部52及び記憶部54にアクセスするものであってもよい。
次に、再び図1を参照して、本実施の形態に係る複合材料の解析方法についてより詳細に説明する。
まず、図1に示すように、モデル作成部52aが、所定のモデル作成領域A内にポリマー粒子21a及び結合鎖21bを含む未架橋の複数のポリマーモデル21を作成すると共にフィラー粒子11aを含む複数のフィラーモデル11を含む解析用モデル1を作成する(ステップST11)。未架橋のポリマーモデル21は、図2に示したように、複数のポリマー粒子21aが結合鎖21bによって連結されてなるものである。ここでは、モデル作成部52aは、作成したフィラーモデル11中に未架橋のポリマーモデル21を配置する。次に、モデル作成部52aは、初期条件の設定の後、平衡化計算を行う。平衡化計算では、所定の温度、密度及び圧力で、初期設定後の各種構成要素が平衡状態に到達する所定の時間、分子動力学計算を行う。そして、モデル作成部52aは、初期条件の設定及び平衡化の計算処理後に、計算領域内に設定した複合材料の解析用モデルを作成するモデル作成領域A内に、ポリマーモデル21及びフィラーモデル11を含む複合材料モデル10を配置する。また、モデル作成部52aは、必要に応じてポリマーにフィラーとの親和性を高める水酸基、カルボニル基、及び原子団の官能基などの変性剤を配合してもよい。また、モデル作成部52aは、作成したポリマーモデル21に架橋解析により架橋結合21eを導入してもよい。なお、モデル作成部52aは、必要に応じて、複合材料の解析用モデル1に、分子間力及び水素結合などの引力及び斥力などの化学的な相互作用、及び共有結合などの物理的な相互作用を設定してもよい。
次に、条件設定部52bが、モデル作成部52aで作成した複合材料の解析用モデル1を用いた分子動力学法による架橋解析、数値解析及び運動解析(シミュレーション)を実行するための各種条件を設定する。条件設定部52bは、入力手段53からの入力及び記憶部54に記憶されている情報に基づいて各種条件を設定する。各種条件としては、解析を実行するフィラーモデル11の位置及び数、フィラー原子、フィラー原子団、フィラー粒子11a及びフィラー粒子群の位置及び数、フィラー粒子番号、ポリマーの分子鎖の位置及び数、ポリマー原子、ポリマー原子団、ポリマー粒子21a及びポリマー粒子群の位置及び数、ポリマー粒子番号、結合鎖21bの位置及び数、結合鎖21bの番号、予め設定した物理量履歴である応力歪み曲線及び条件を変更しない固定値などが含まれる。
次に、解析用モデル1に相互作用を設定して変温解析、変圧解析などの各種数値解析を実行する。解析部52cは、必要に応じて、例えば、フィラー粒子11a間、ポリマー粒子21a間、フィラー粒子11aとポリマー粒子21aとの間の相互作用及びフィラー粒子11aとポリマー粒子21aとが結合鎖で結合した状態の相互作用などを設定する。
解析部52cは、解析対象とする結合鎖21bによって粒子間結合された一対のポリマー粒子21aの粒子間距離に第1閾値を設定する(ステップST12)。ここでは、解析部52cは、第1閾値としては、粒子間距離に特定の第1閾値を設定してもよく、所定の数値範囲を有する閾値範囲を設定してもよい。次に、解析部52cは、ポリマーモデル21に引力相互作用を設定する(ステップST13)。ここでは、解析部52cは、結合鎖21bで結合された一対のポリマー粒子21aに引力相互作用を設定してもよく、ポリマーモデル21の分子鎖に属するポリマー粒子21aに引力相互作用を設定してもよい。また、解析部52cは、一対のポリマー粒子21aの粒子間結合に第2閾値を設定し、設定した第2閾値に基づいて引力相互作用を設定してもよい。次に、解析部52cは、複合材料の解析用モデル1を用いた分子動力学法による緩和解析、伸張解析、せん断解析及び変形解析などの運動解析などの各種数値解析を実行する(ステップST14)。ここでは、解析部52cは、解析対象となる一対のポリマーモデル21aの粒子間距離が第1閾値以上となった際に、粒子間結合の破断処理をして解析用モデル1の各種数値解析を実行する。また、解析部52cは、解析対象となる一対のポリマーモデル21aの粒子間距離が第1閾値未満の場合に第1破断結合演算用関数を使用し、当該粒子間距離が第1閾値以上となった際に、粒子間結合の結合エネルギー及び結合力が低下する第2破断結合演算用関数を用いて解析用モデル1の各種数値解析を実行してもよい。
また、解析部52cは、数値解析による運動解析の結果得られる運動変位及び公称応力又は運動変位を演算して得られる公称歪みなどの各種物理量を取得する。このような数値解析及び運動解析により、解析時間毎に変化する解析用モデル1全体のポリマー分子の結合長及びポリマー粒子速度、架橋点間と自由末端の速度又は結合長、配向などの物理量などのセグメントの状態変化を表す数値と歪みとの関係、解析時間毎に変化するポリマー分子の結合長及びポリマー粒子速度などのセグメントの状態変化を表す数値と圧力又は解析時間との関係、及び解析時間毎に変化するポリマー分子の結合長及びポリマー粒子速度などのセグメントの状態変化を表す数値と温度又は解析時間との関係などを評価できるので、ポリマー分子の局所的な分子状態変化のより詳細な解析が可能となる。
また、解析部52cは、数値解析によって得られたポリマーモデル21の破断座標を特定し、特定した破断座標を評価する。ここでは、解析部52cは、破断した粒子間結合を可視化して評価してもよく、破断座標を可視化して評価してもよい。さらに、解析部52cは、複数のフィラーモデル11の周囲に発生した破断座標を集約して評価してもよく、複数のフィラーモデル11の周囲に発生した破断座標を1つの代表フィラーモデル11Eに集約して評価してもよい。また、解析部52cは、複数の解析用モデル1を用いて別途解析した解析結果を集約して評価してもよい。次に、解析部52cは、解析した複合材料の解析結果を記憶部54に格納する。
(実施例)
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
本発明者らは、上記実施の形態に係る複合材料の解析方法を用いて解析用モデル1を数値解析した場合(実施例1)と、実際の複合材料を用いて応力歪曲線を測定した場合(参考例1)と、ポリマー粒子21a間に引力相互作用を設定せずに解析用モデル1を数値解析した場合(比較例1)と、粒子間結合の破断を考慮せずに解析用モデル1を数値解析した場合(比較例2)とを対比して評価した。
図23は、本実施例に係る応力歪曲線を示す図である。図23に示すように、上記実施の形態に係る複合材料の解析方法を用いた場合(実施例1:実線L11参照)には、実際の複合材料を用いて応力歪曲線を測定した場合(参考例1:一点鎖線L12参照)と同様に、応力と共に歪みが一定値まで上昇した後、応力は略一定に維持される結果となった。これに対して、引力相互作用を設定せずに解析用モデル1の数値解析した場合(比較例1:二点鎖線L13参照)には、応力が上昇して歪みが一定値まで上昇した後、応力が著しく減少する結果が得られた。また、粒子間結合の破断を考慮しない場合(比較例2:破線L23参照)に応力の上昇に伴い歪みが連続的に上昇した。この結果は、実施例1では、応力及び歪みが増大してポリマー粒子21aの粒子間距離が第1閾値に達して結合鎖21bが疑似的に破断された際に、引力相互作用によりポリマーモデル21の収縮速度を低減できたために、参考例1と同様の結果が得られたものと考えられる。
このように、上記実施例によれば、粒子間距離が第1閾値以上となった場合に、ポリマー粒子21aに引力相互作用を設定してから、破断処理を実行して解析用モデル1を数値解析することにより、破断に伴う力学応答の再現性に優れた複合材料の解析方法を実現できることが分かる。