以下、本発明の各実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の各実施形態に限定されるものではなく、適宜変更して実施可能である。なお、以下においては、解析対象となる複合材料がポリマー及びフィラーを含む例について説明しているが、本発明は、2種類の以上の物質を含有する複合材料にも適用可能である。また、本発明は、フィラー及びポリマー以外の物質を含有する複合材料にも適用可能である。
図1は、本実施形態に係る複合材料の解析方法の概略を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態に係る複合材料の解析方法は、第1ステップST11と、第2ステップST12と、第3ステップST13と、第4ステップST14とを含む、コンピュータを用いた分子動力学法による複合材料の解析方法である。
第1ステップST11では、コンピュータは、ポリマー(第1物質)をモデル化したポリマーモデル(第1物質モデル)及びフィラー(第2物質)をモデル化したフィラーモデル(第2物質モデル)を含む複合材料の解析用モデルを作成する。
第2ステップST12では、コンピュータは、解析対象となる第1物質モデル又は第2物質モデルに属し、粒子間結合で結合された少なくとも一対の粒子の粒子間距離に閾値を設定する。
第3ステップST13では、コンピュータは、粒子間距離が閾値以上の場合に、粒子間結合を破断処理する。
そして、第4ステップST14では、コンピュータは、破断処理された粒子間結合の結合エネルギー又は結合力を経過時間に応じて変化させて解析用モデルの数値解析を実行する。
図2は、本実施形態に係る複合材料の解析用モデル1の一例を示す概念図である。図2に示すように、解析用モデル1は、例えば、一辺の長さが距離Lの略立方体形状の仮想空間であるモデル作成領域A内でモデル化される。モデル作成領域Aは、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸方向に広がる三次元空間となっている。解析用モデル1は、複数のフィラー粒子11aがモデル化された4つのフィラーモデル11A,11B,11C,11Dと、複数のポリマー粒子21a及び結合鎖21bがモデル化された4つのポリマーモデル21とを含む。なお、図2に示す例では、解析用モデル1が、4つのフィラーモデル11A,11B,11C,11Dがモデル化された例について説明するが、モデル化されるフィラーモデルの数に制限はない。解析用モデル1は、4未満のフィラーモデル11を含んでいてもよく、4つを超えるフィラーモデル11を含んでいてもよい。また、図2においては、4つのポリマーモデル21のみを示しているが、解析用モデル1では、複数のポリマーモデル21がモデル作成領域A内の全域に亘って存在している。さらに、図2に示す例では、モデル作成領域Aが、略直方体形状の仮想空間である例について示しているが、球状、楕円状、直方体形状、多面体形状など任意の形状であってもよい。
フィラーモデル11は、複数のフィラー粒子11aがそれぞれ略球状体に集合した状態でモデル化される。また、フィラーモデル11は、互いに所定間隔をとって離れた状態で配置されている。なお、フィラーモデル11とは、相互に凝集した状態で外縁部が共有結合によって相互に連結されていてもよい。
フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ、及びアルミナなどが含まれる。フィラー粒子11aは、複数のフィラーの原子が集合されてモデル化される。また、フィラー粒子11aは、複数のフィラー粒子11aが集合してフィラー粒子群を構成する。フィラー粒子11aは、複数のフィラー粒子11a間の結合鎖(不図示)によって相対位置が特定されている。この結合鎖(不図示)は、フィラー粒子11a間の結合距離である平衡長とばね定数とが定義されたバネとしての機能を有し、各フィラー粒子11a間を拘束している。結合鎖は、フィラー粒子11aの相対位置及び捻り、曲げなどによって力が発生するポテンシャルが定義されているボンドである。フィラーモデル11は、フィラーを分子動力学で取り扱うためのフィラー粒子11aの質量、体積、直径及び初期座標などを含む数値データである。フィラーモデル11の数値データは、コンピュータに入力される。
ポリマーとしては、例えば、ゴム、樹脂、及びエラストマーなどが含まれる。ポリマー粒子21aは、複数のポリマーの原子が集合されてモデル化される。また、ポリマー粒子21aは、複数のポリマー粒子21aが集合してポリマー粒子群を構成する。ポリマーには、フィラーとの親和性を高める変性剤が必要に応じて配合される。この変性剤としては、例えば、水酸基、カルボニル基、及び原子団の官能基などが含まれる。ポリマーモデル21は、複数のポリマー原子及び複数のポリマー原子の集合体であるポリマー粒子21aがモデル作成領域A内に所定密度で充填されてモデル化される。ポリマー粒子21aは、複数のポリマー粒子21a間の結合鎖21bによって結合されて相対位置が特定されている。この結合鎖21bは、ポリマー粒子21a間の結合距離である平衡長とばね定数とが定義されたバネとしての機能を有し、各ポリマー粒子21a間を拘束している。結合鎖21bは、ポリマー粒子21aの相対位置及び捻り、曲げなどによって力が発生するポテンシャルが定義されているボンドである。また、結合鎖21bは、複数のポリマー粒子21aが直列状に連結されてなるポリマーモデル21間にも架橋結合(不図示)として結合されている。このポリマーモデル21は、ポリマーを分子動力学で取り扱うための数値データ(ポリマー粒子21aの質量、体積、直径及び初期座標などを含む)である。ポリマーモデル21の数値データは、コンピュータに入力される。
解析用モデル1は、分子動力学法による数値解析により各種物理量が取得される。数値解析としては、例えば、伸張解析、せん断解析などの変形解析及び緩和解析などの運動解析が挙げられる。これらの運動解析で取得する物理量は、運動解析の結果得られた変位などの値を用いてもよく、所定の演算処理を実行した歪みであってもよい。これらの中でも、運動解析としては、複合材料のコンパウンドの力学特性を解析可能となる観点から、変形解析が好ましい。
次に、本実施形態に係る複合材料の解析方法について詳細に説明する。第1ステップST11では、複数のフィラー粒子11aが集合してモデル化されたフィラーモデル11及び複数のポリマー粒子21aが結合鎖21bを介して連結されてモデル化されたポリマーモデル21を含む複合材料の解析用モデル1(図2参照)を作成する。
また、第1ステップST11では、作成したフィラーモデル11とポリマーモデル21との間に相互作用を設定する。フィラーモデル11とポリマーモデル21との間の相互作用としては、例えば、分子間力及び水素結合などの引力及び斥力などの化学的な相互作用、及び共有結合などの物理的な相互作用が挙げられる。なお、フィラーモデル11とポリマーモデル21との間の相互作用は、フィラー粒子11a間、ポリマー粒子21a間及びフィラー粒子11aとポリマー粒子21aとの間に必要に応じて設定されるものである。そのため、必ずしも全てのフィラー粒子11a及びポリマー粒子21aに設定されるものではない。また、ポリマーモデル21が複数の種類のポリマー粒子21aで構成されている場合には、複数の種類のポリマー粒子21aにそれぞれ相互作用を設定してもよい。また、複数の種類の各ポリマー粒子21aとフィラーモデル11との相互作用は同一であってもよく、異なっていてもよい。
次に、第2ステップST12では、ポリマー粒子21aの粒子間距離に所定の閾値を設定する。粒子間距離としては、ポリマー粒子21aを連結する結合鎖21bの長さを用いてもよく、一対のポリマー粒子21a間の直線距離を用いてもよい。なお、本実施形態においては、第2ステップST12において、解析対象となる一対のポリマー粒子21aの粒子間距離に所定の閾値を設定する例について説明するが、これに限定されるものではない。粒子間距離の閾値は、解析対象となる複合材料に応じて一対のフィラー粒子11a間の粒子間距離に設定してもよい。
次に、第3ステップST13では、ポリマー粒子21aの粒子間距離が所定の閾値以上の場合に、ポリマー粒子21aの粒子間の結合を破断処理する。
次に、第4ステップST14では、破断処理されたポリマー粒子21aの粒子間結合の結合エネルギー又は結合力を経過時間に応じて変化させて解析用モデルの数値解析を実行する。具体的には、第4ステップST14では、粒子間結合の結合エネルギー又は結合力を経過時間に応じて変化させることで、破断処理後の結合鎖の急激な収縮を緩和させることができる。
図3~図6を用いて、粒子間結合の結合力を経過時間に応じて変化させることの効果について説明する。なお、図3~図6では、粒子間結合の結合力を変化させる場合について説明するが、粒子間結合の結合エネルギーを変化させることによっても、結合力を変化させる場合と同様の効果を得ることができる。
図3は、結合鎖の長さと、結合力との関係を説明するための図である。図3には、横軸が結合鎖の長さ、縦軸が結合力のグラフL1が示されている。
グラフL1において、時点P1は、結合鎖を切断処理する時点を示している。この場合、時点P1で結合鎖が切断されると、結合鎖に加わっていた力が急激に0まで低下して時点P2に達する。この場合、結合鎖は急激に収縮する。
図4は、結合鎖の状態を説明するための模式図である。図4では、第1ポリマー粒子21a-1と、第2ポリマー粒子21a-2と、第3ポリマー粒子21a-3と、第4ポリマー粒子21a-4と、第5ポリマー粒子21a-5と、第6ポリマー粒子21a-6とで伸びきり鎖が構成されているものとして説明する。この場合、第1ポリマー粒子21a-1と、第2ポリマー粒子21a-2とは、第1結合鎖21b-1で結合している。第2ポリマー粒子21a-2と、第3ポリマー粒子21a-3とは、第2結合鎖21b-2で結合している。第3ポリマー粒子21a-3と、第4ポリマー粒子21a-4とは、第3結合鎖21b-3で結合している。第4ポリマー粒子21a-4と、第5ポリマー粒子21a-5とは、第4結合鎖21b-4で結合している。第5ポリマー粒子21a-5と、第6ポリマー粒子21a-6とは、第5結合鎖21b-5で結合している。
このようなポリマーモデルは、例えば、図3に示す時点P1において、ポリマーモデルは伸びきり鎖となっている(ステップST101)。ここで、時点P1を閾値として、時点P1を超えた場合に第1ポリマー粒子21a-1と、第2ポリマー粒子21a-2とを結合する第1結合鎖21b-1に破断処理を実行する。
この場合、力が急激に低下して時点P2に達し、時点P2を過ぎると、第2ポリマー粒子21a-2と、第3ポリマー粒子21a-3と、第4ポリマー粒子21a-4と、第5ポリマー粒子21a-5と、第6ポリマー粒子21a-6とは、急激に収縮する(ステップST102)。
伸びきり鎖が急激に収縮してしまうと、系の応力が急激に低下してしまう問題がある。このような状況でシミュレーションを実行すると、応力ひずみ曲線の再現性が悪いという問題がある。そこで、本実施形態では、切断処理が実行されたポリマー粒子間の結合エネルギー又は結合力を時間依存させることによって、系の応力が急激に低下してしまうことを抑制する。
図5は、切断処理が実行された結合鎖に働く力を時間依存させた場合の、結合鎖の長さと、結合力との関係を説明するための図である。図5には、横軸が結合鎖の長さ、縦軸が結合力であるグラフL2が示されている。
グラフL2において、時点P3は、結合鎖を切断処理する時点を示している。この場合、時点P3で結合鎖が切断されると、結合鎖に加わっていた力が急激に0まで低下して時点P4に達する。ここで、期間Tに渡って、結合力が0の状態が続いている。これにより、伸びきり鎖の急激な収縮を抑制することができる。
図6は、結合鎖の状態を説明するための模式図である。図6に示すポリマーモデルの構成は、図4に示したポリマーモデルの構成と同じなので説明は省略する。
図6に示すポリマーモデルは、例えば、図5に示す時点P3の時点において、ポリマーモデルは伸びきり鎖となっている(ステップST201)。ここで、時点P3の時点で、第1ポリマー粒子21a-1と、第2ポリマー粒子21a-2とを結合する第1結合鎖21b-1に破断処理を実行する。
この場合、力が急激に低下して時点P4に達する。本実施形態では、力が0の状態が続くので、伸びきり鎖は急激には収縮せずに、第1ポリマー粒子21a-1と、第2ポリマー粒子21a-2との間の距離は僅かに伸びる(ステップST202)。
次に、結合力が0の状態が継続しており、時点P5に達する。時点P5では時点P4よりも、第1ポリマー粒子21a-1と、第2ポリマー粒子21a-2との間の距離は僅かに伸びる(ステップST203)。また、時点P5では時点P4よりも、第2ポリマー粒子21a-2から第6ポリマー粒子21a-6は、僅かに収縮する。
そして、時点P6に達し、時点P6を過ぎると、第1ポリマー粒子21a-1と、第2ポリマー粒子21a-2との間の距離は伸びる(ステップST204)。また、第2ポリマー粒子21a-2と、第3ポリマー粒子21a-3と、第4ポリマー粒子21a-4と、第5ポリマー粒子21a-5と、第6ポリマー粒子21a-6とは、収縮する。ここで、図6のステップST204における第1ポリマー粒子21a-1と、第2ポリマー粒子21a-2との間の距離は、図4のステップST102における第1ポリマー粒子21a-1と、第2ポリマー粒子21a-2との間の距離よりも長い。
図7を用いて、結合力を0の状態の経過時間と、結合鎖(第1ポリマー粒子21a-1と、第2ポリマー粒子21a-2との間の距離)との関係について説明する。図7は、経過時間と、結合鎖の長さの関係の一例を示す図である。具体的には、図7は、横軸が経過時間であり、縦軸が、結合力が0でなくなった時の結合鎖の長さを示している。
本実施形態では、例えば、結合力を0の状態の時間を長くするに従って、結合鎖の長さを長くし、かつ伸びきり鎖が収縮するまでの時間を長くすることができる。ここで、結合力を0の状態を継続させる時間の長さや、結合鎖の長さの変化のさせかたについては、ユーザが任意に設定するようにすればよい。例えば、図7に示すグラフL3及びグラフL4のように、伸びきり鎖の長さは線形に変化させればよい。この場合、例えば、グラフL3のように、比較的緩やかに結合鎖の長さを変化させて、比較的短い時間(T1)で結合力が0の状態を解除してもよい。また、グラフL4のように、比較的急峻に結合鎖の長さを変化させて、比較的長い時間(T2)で結合力が0の状態を変化させてもよい。
なお、図7では、結合鎖の長さを線形に変化させるものとして説明したが、これは例示であり、本発明を限定するものではない。本実施形態では結合鎖の長さを、例えば、2次関数的に変化させてもよいし、指数関数的に変化させてもよいし、対数関数的に変化させてもよい。すなわち、結合鎖の長さの変化のさせ方については任意である。
上述のとおり、本実施形態は、従来技術と比べて、切断処理後の伸びきり鎖の収縮が緩やかになる。これにより、本実施形態は、破断に伴う剛性の低下を精度よく再現することができる。
具体的には、本実施形態においては、一対のポリマー粒子21aの粒子間距離に所定の閾値を設定し、粒子間距離が閾値以上の場合には、粒子間距離が閾値S未満の場合に対して、粒子間結合の結合エネルギー及び結合力を低下させる破断結合演算用関数を用いて粒子間結合を演算する。当該破断結合演算用関数としては、例えば、下記式(1)に示すものが挙げられる。この破断結合演算用関数を用いることにより、ポリマー粒子間距離が所定の閾値未満の場合には、一対のポリマー粒子21a間の粒子間距離に応じて結合エネルギー及び結合力が増減し、粒子間距離が所定の閾値S以上の場合には、結合エネルギー及び結合力がゼロとなる。なお、下記式(1)については、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更可能である。なお、以下においては、結合エネルギーを低下させ例について説明するが、結合力を低下させる場合にも同様に実施可能である。
このように、上記実施形態によれば、粒子間距離が閾値以上の領域においては、粒子間結合の結合エネルギー及び結合力の少なくとも一方が低下するので、粒子間結合を破断することなく解析用モデルの数値解析を継続することが可能となる。これにより、破断に伴う粒子間結合の物理的な消滅を防ぐことができるので、粒子間結合を物理的に消滅させずに疑似的な切断を再現することが可能となる。したがって、数値解析時に破断した粒子間結合の破断箇所を特定することが可能となる複合材料の解析方法を実現できる。
また、上述した実施形態では、ポリマー粒子21aの粒子間距離が閾値以上となると所定の破断結合演算用関数を適用して粒子間結合を演算する例について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、粒子間距離の時間平均値が閾値以上となった場合に、粒子間結合の結合エネルギー及び結合力を低下させる破断結合演算用関数を用いて解析用モデル1の数値解析を実行してもよい。これにより、例えば、ブラウン運動などによって、一時的に粒子間距離が閾値以上となった一対のポリマー粒子21aにおける粒子間結合の結合エネルギー及び結合力を低下させる破断結合演算用関数を用いた演算を除外することができる。この結果、実際の複合材料における粒子間結合の破断を精度よく再現することが可能となる。
ところで、粒子間結合によって連結された一対のポリマー粒子21aが複数存在する場合には、解析用モデル1の数値解析後、複数の一対のポリマー粒子21aの粒子間距離が順次閾値S以上となる。そして、粒子間結合の結合エネルギー及び結合力の少なくとも一方が順次低下した状態となる。この場合、粒子間結合の結合エネルギー及び結合力の少なくとも一方が低下したポリマーモデル21の座標をそれぞれ特定しても、必ずしも十分にそれぞれの正確な破断位置を評価することができない場合がある。
そこで、上記実施形態においては、粒子間距離が閾値以上となった時点の粒子間結合の座標を破断位置として特定して評価してもよい。図8A~図8Cは、モデル作成領域A内での粒子間結合の破断位置の説明図である。なお、図8Aにおいては、第1解析時間T1の状態を示し、図8Bにおいては、第2解析時間T2の状態を示し、図8Cにおいては、第3解析時間T3の状態を示している。
本実施形態では、複数の解析時間について、それぞれ粒子間結合の結合エネルギー及び結合力が低下した粒子間結合の位置を特定する。図8Aに示す例では、第1解析時間T1では、ポリマーモデル21Aは、フィラーモデル11の近傍で粒子間距離が閾値S以上となり、結合エネルギー又は結合力が低下した破断結合鎖21bxが生じている。フィラーモデル11の近傍に存在するポリマーモデル21B,21Cは、ポリマー粒子21aの粒子間距離が閾値S未満となり結合鎖21bが残存している。この第1解析時間T1では、ポリマーモデル21Aの座標を破断座標X1として特定する。
次に、所定時間経過後の第2解析時間T2では、ポリマーモデル21Bは、フィラーモデル11の近傍で粒子間距離が閾値S以上となり、結合エネルギー又は結合力が低下した破断結合鎖21bxが生じている。フィラーモデル11の近傍に存在するポリマーモデル21Cは、ポリマー粒子21aの粒子間距離が閾値S未満となり結合鎖21bが残存している。一方、移動によりフィラーモデル11から離れたポリマーモデル21Aは、結合エネルギー又は結合力が低下した破断結合鎖21bxが維持されている。この第2解析時間T2では、ポリマーモデル21Bの座標を新たな破断座標X2として特定し、第1解析時間T1で既に破断結合鎖21bxが生じたポリマーモデル21Aの現座標は破断座標として新たに特定しない。
さらに、所定時間経過後の第3解析時間T3では、ポリマーモデル21Cは、フィラーモデル11の近傍で粒子間距離が閾値S以上となり、結合エネルギー又は結合力が低下した破断結合鎖21bxが生じている。移動によりフィラーモデル11表面から離れたポリマーモデル21A,21Bは、ポリマー粒子21aの粒子間結合が閾値S以上となり破断結合21鎖bxが維持されている。この第3解析時間T3では、ポリマーモデル21Cの座標を破断座標X3として新たに特定する。そして、第1解析時間T1で既に破断結合鎖21bxが生じたポリマーモデル21Aの現座標及び第2解析時間T2で既に破断結合鎖21bxが生じたポリマーモデル21Bの現座標は破断座標として特定しない。
このように、連続する第1解析時間T1~第3解析時間T3中に粒子間距離が閾値S以上となった破断座標X1~X3を順次特定することにより、例えば、図9に示すように、フィラーモデル11表面からの距離と破断座標の座標分布とが得られる。これにより、図8A~図8Cに示した解析用モデル1の数値解析では、フィラーモデル11からの距離が近くなるにつれて破断座標X1~X3の座標分布が増大することが分かる。この結果から、図9に示すように、粒子間結合の破断されやすい場所を評価することができるので、フィラーモデル11表面からの距離と破断確率の関係などを評価することが可能となる。
なお、図8A~図8Cに示した例では、粒子間結合に代表点を設定して破断位置(破断座標)を特定してもよい。例えば、図8Aに示した例では、粒子間結合である結合鎖21bにおける一対のポリマー粒子21aとの重心(中点)又はポリマー粒子21aの座標と重なる端点などを代表点として破断位置として特定する。これにより、長さが増大した粒子間結合の代表点の座標を破断位置として評価することができるので、破断位置の評価が容易となる。
また、図8A~図8Cに示した例では、粒子間距離が所定値以上となった粒子間結合を可視化してもよい。これにより、疑似的に破断した一対のポリマー粒子21a間の粒子間結合である破断結合鎖21bxを目視で確認することができるので、数値解析時に破断した粒子間結合の破断箇所の特定が容易となる。同様に、粒子間結合が破断して破断結合鎖21bxが生じた破断座標X1~X3を可視化してもよい。これにより、破断しやすい場所を目視で評価できるので、破断しやすい場所の評価が容易となる。また、代表点を可視化してもよい。これにより、長さが増大した粒子間結合の全体を可視化せずに代表点を可視化するので、破断した粒子間結合の確認が容易となる。粒子間結合の可視化は、例えば、破断結合鎖21bx以外の結合鎖21bを非表示としてもよく、結合鎖21bの透明度を高めてもよく、破断結合鎖21bxの色及び太さを結合鎖21bと変更して表示してもよい。これにより、破断結合鎖21bxを強調することができ、目視で容易に確認することが可能となる。
また、上述した実施形態においては、可視化を数値解析中の複数の解析時間において実行してもよい。図10A~図10Cは、第1解析時間T1~第3解析時間T3の3つの解析時間での可視化の例の説明図である。なお、図10A~図10Cにおいては、一対のポリマー粒子21aの粒子間距離が閾値以上となった破断座標X1~X3を略球状に模式的に示している。
図10A~図10Cに示す例では、図10Aに示すように、第1解析時間T1でフィラーモデル11の近傍に破断座標X1が発生して可視化される。そして、図10Bに示すように、第2解析時間T2では、第1解析時間T1で発生した破断座標X1がフィラーモデル11との相対位置が保たれた状態でフィラーモデル11と共に移動する。これと共に、第2解析時間T2で発生した破断座標X2がフィラーモデル11の近傍で新たに可視化される。さらに、第3解析時間T3では、第1解析時間T1で発生した破断座標X1及び第2解析時間T2で発生した破断座標X2がフィラーモデル11との相対位置が保たれた状態でフィラーモデル11と共に移動する。これと共に、第3解析時間T3で発生した破断座標X3がフィラーモデル11近傍で新たに可視化される。このように可視化することにより、フィラーモデル11の位置を第1解析時間T1~第3解析時間T3での座標に応じて変化させた場合であっても、フィラーモデル11の周囲で発生した破断座標X1~X3の相対座標を保って表示することが可能となる。この結果、フィラーモデル11の周囲のポリマーモデル21の粒子間結合の破断を再現することが可能となる。
また、上記実施形態においては、数値解析を解析用モデル1中に含まれる複数のポリマーモデル21又はフィラーモデル11についてそれぞれ実行し、得られた複数の数値解析の結果を集約して可視化して評価してもよい。図11A及び図11Bは、第1解析時間T1及び第2解析時間T2の2つの解析時間を集約して可視化する例の説明図である。本実施形態では、モデル作成領域A内には、第1フィラーモデル11A及び第2フィラーモデル11Bが存在し、第1フィラーモデル11A及び第2フィラーモデル11Bのそれぞれに対して数値解析を実行する。
図11Aに示すように、第1解析時間T1では、第1フィラーモデル11Aの近傍でポリマーモデル21の粒子間結合の破断が発生し、第1フィラーモデル11Aの近傍に1つの破断座標X1が可視化される。また、図11Bに示すように、第2解析時間T2では、第1フィラーモデル11A及び第2フィラーモデル11Bがそれぞれモデル作成領域A内で移動する。また、第2解析時間T2では、第1フィラーモデル11Aの近傍及び第2フィラーモデル11Bの近傍でそれぞれ1つのポリマーモデル21の粒子間結合の破断が発生する。そして、第1フィラーモデル11Aの近傍に破断座標X2が可視化されて新たに追加され、第2フィラーモデル11Bの近傍に破断座標X3が新たに可視化される。この結果、第2解析時間T2では、第1フィラーモデル11Aの近傍で発生した2つの破断座標X1,X2及び第2フィラーモデル11Bの近傍で発生した1つの破断座標X3の3つの破断座標X1~X3が集約して表示される。
このように、本実施形態では、解析用モデル1中の2つの第1フィラーモデル11A及び第2フィラーモデル11Bを1つのモデル作成領域A内に集約して表示できるので、解析結果が迅速に得られると共に解析結果の理解が容易となる。
また、図11A及び図11Bに示す例においては、数値解析を解析用モデル1中に含まれる複数のポリマーモデル21又はフィラーモデル11についてそれぞれ実行してもよい。この場合、得られた複数の数値解析の結果を解析用モデル1中に指定した特定の第1フィラーモデル11Aに集約して可視化して評価してもよい。
なお、図12に示すように、本実施形態に係る複合材料の解析方法は、解析用モデルの作成ステップと、第1ステップST21と、第2ステップST22と、第3ステップST23と、第4ステップST24と、第5ステップST25とを含む。ここで、第1ステップST21と、3ステップST23と、第4ステップST24と、第5ステップST25とは、それぞれ、第1ステップST11と、第2ステップST12と、第3ステップST13と、第4ステップST14と同じなので説明を省略する。
図12の場合、第2ステップST22では、解析モデルを作成した後、ポリマーモデル21を架橋させる。これにより、複合材料の解析方法は、架橋反応を介してポリマーモデルを予め架橋した状態で解析用モデルの数値解析をできるので、ポリマーモデルの架橋が粒子間結合の破断に及ぼす影響をより正確に解析可能となる。
次に、本実施形態に係る複合材料の解析方法、複合材料の解析用モデルの作成用コンピュータプログラム、複合材料の解析方法及び複合材料の解析用コンピュータプログラムについてより詳細に説明する。図13は、本実施形態に係る複合材料の解析方法及び複合材料の解析方法を実行する解析装置の機能ブロック図である。
図13に示すように、本実施形態に係る複合材料の解析方法は、処理部52と記憶部54とを含むコンピュータである解析装置50が実現する。この解析装置50は、入力手段53を備えた入出力装置51と電気的に接続されている。入力手段53は、複合材料の解析用モデルの作成対象であるポリマー及びフィラーの各種物性値、ポリマー及びフィラーを含有する複合材料を用いた伸張試験結果の実測結果、及び解析における境界条件などを処理部52又は記憶部54へ入力する。入力手段53としては、例えば、キーボード、マウスなどの入力デバイスが用いられる。
処理部52は、例えば、中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)及びメモリを含む。処理部52は、各種処理を実行する際にコンピュータプログラムを記憶部54から読み込んでメモリに展開する。メモリに展開されたコンピュータプログラムは、各種処理を実行する。例えば、処理部52は、記憶部54から予め記憶された各種処理に係るデータを必要に応じて適宜メモリ上の自身に割り当てられた領域に展開する。そして、処理部52は、展開したデータに基づいて複合材料の解析用モデルの作成及び複合材料の解析用モデルを用いた複合材料の解析に関する各種処理を実行する。
処理部52は、モデル作成部52aと、条件設定部52bと、解析部52cとを含む。モデル作成部52aは、予め記憶部54に記憶されたデータに基づき、分子動力学法により複合材料の解析用モデル1を作成する際のフィラー及びポリマーなどの複合材料の粒子数、分子数、分子量、分子鎖長、分子鎖数、分岐、形状、大きさ、反応時間、反応条件及び作成する解析用モデルに含まれる分子数である目標分子数などの構成要素の配置、設定及び計算ステップ数などの粗視化モデルの設定を行う。また、モデル作成部52aは、フィラー粒子11a間、ポリマー粒子21a間及びフィラー・ポリマー粒子の水素結合、分子間力などの相互作用などの各種計算パラメーターの初期条件の設定を行う。また、モデル作成部52aは、必要に応じてポリマーモデル21の架橋による架橋結合の作成などの架橋解析などを作成してもよい。
フィラー粒子11a間の相互作用及びポリマー粒子21a間の相互作用を調整する計算パラメーターとしては、下記式(2)で表されるレナード・ジョーンズポテンシャルのσ、εを用い、これらが調整される。ポテンシャルを計算する上限距離(カットオフ距離)を大きくすることで、遠距離まで働いた引力、斥力を調整できる。なお、フィラー粒子11a間の相互作用及びポリマー粒子21a間の相互作用が一定値になるまで順次、フィラー粒子11a間の相互作用及びポリマー粒子21a間の相互作用のパラメーターを小さくすることが好ましい。レナード・ジョーンズポテンシャルのσ、εを大きな値から徐々に本来の値に近づけることにより、分子を不自然な状態に導かない穏やかな速度で粒子の接近を行うことができる。また、カットオフ距離も徐々に小さくすることにより、適正な範囲で引力、斥力を調整できる。
条件設定部52bは、変温解析及び変圧解析などの数値解析、伸張解析、せん断解析などの変形解析及び緩和解析などの運動解析などの各種数値解析条件を設定する。
解析部52cは、条件設定部52bによって設定された解析条件に基づいて解析用モデル1の各種数値解析を実行する。また、解析部52cは、モデル作成部52aによって作成された複合材料の解析用モデル1を用いて分子動力学法による数値解析を実行して物理量を取得する。ここでは、解析部52cは、数値解析として、伸張解析、せん断解析などの変形解析及び緩和解析などの運動解析などを実行する。また、解析部52cは、数値解析の結果得られた変位などの値又は得られた値に所定の演算処理を実行した歪みなどの物理量を取得する。
また、解析部52cは、数値解析による運動解析の結果得られる運動変位及び公称応力又は運動変位を演算して得られる公称歪みなどの各種物理量を取得する。このような数値解析及び運動解析により、解析時間毎に変化する解析用モデル全体のポリマー分子の結合長及びポリマー粒子速度、架橋点間と自由末端の速度又は結合長、配向などの物理量などのセグメントの状態変化を表す数値と歪みとの関係などを評価できる。また、解析時間毎に変化するポリマー分子の結合長及びポリマー粒子速度などのセグメントの状態変化を表す数値と圧力又は解析時間との関係などを評価できる。さらに、解析時間毎に変化するポリマー分子の結合長及びポリマー粒子速度などのセグメントの状態変化を表す数値と温度又は解析時間との関係などを評価できる。これにより、ポリマー分子の局所的な分子状態変化のより詳細な解析が可能となる。
また、解析部52cは、数値解析によって得られたポリマーモデル21の破断座標を特定し、特定した破断座標を評価する。ここでは、解析部52cは、破断した粒子間結合を可視化して評価してもよく、破断座標を可視化して評価してもよい。さらに、解析部52cは、複数のフィラーモデル11の周囲に発生した破断座標を集約して評価してもよく、複数のフィラーモデル11の周囲に発生した破断座標を1つの代表フィラーモデルに集約して評価してもよい。また、解析部52cは、複数の解析用モデル1を用いて別途解析した解析結果を集約して評価してもよい。解析部52cは、解析した複合材料の解析結果を記憶部54に格納する。
記憶部54は、ハードディスク装置、光磁気ディスク装置、フラッシュメモリ及びCD-ROMなどの読み出しのみが可能な記録媒体である不揮発性のメモリ、並びに、RAM(Random Access Memory)のような読み出し及び書き込みが可能な記録媒体である揮発性のメモリが適宜組み合わせられる。
記憶部54には、入力手段53を介して解析対象となる複合材料の解析用モデルを作成するためのデータであるゴムカーボンブラック、シリカ、及びアルミナなどのフィラーのデータ、ゴム、樹脂、及びエラストマーなどのポリマーのデータなどが格納されている。また、記憶部54には、予め設定した物理量履歴である応力歪み曲線及び本実施の形態に係る複合材料の解析方法、複合材料の解析方法を実現するためのコンピュータプログラムなどが格納されている。このコンピュータプログラムは、コンピュータ又はコンピュータシステムに既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、本実施の形態に係る複合材料の解析方法を実現できるものであってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)及び周辺機器などのハードウェアを含むものとする。
表示手段55は、例えば、液晶表示装置等の表示用デバイスである。なお、記憶部54は、データベースサーバなどの他の装置内にあってもよい。例えば、解析装置50は、入出力装置51を備えた端末装置から通信により処理部52及び記憶部54にアクセスするものであってもよい。
(実施例)
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
図14を用いて、本実施形態の実施例に係る複合材料の解析方法について説明する。図14は、本実施形態の実施例に係る複合材料の解析方法の一例を示すフローチャートである。なお、以下では、各ステップは、図13に図示の解析装置50が実行するものとして説明する。
まず、解析装置50は、数値解析を実行するための解析用モデルを作成する(ステップST31)。そして、解析装置50は、ステップST32に進む。
次に、解析装置50は、解析用モデルに含まれるポリマーモデルの架橋を作成する(ステップST32)。そして、解析装置50は、ステップST33に進む。
次に、解析装置50は、解析用モデルに含まれるフィラーと、ポリマーとの間に相互作用を設定する(ステップST33)。そして、解析装置50は、ステップST34に進む。
次に、解析装置50は、解析用モデルに含まれるポリマーと、ポリマーとの間に相互作用を設定する(ステップST34)。そして、解析装置50は、ステップST35に進む。
次に、解析装置50は、解析用モデルに含まれる切断を考慮する材料(結合鎖)を選定する(ステップST35)。そして、解析装置50は、ステップST36に進む。
次に、解析装置50は、ステップST31~ステップST35で設定した条件に従って数値解析を実施する(ステップST36)。そして、解析装置50は、ステップS37に進む。
次に、解析装置50は、ステップST36における数値解析の結果に基づいて、解析用モデルの破断特性を評価する(ステップST37)。そして、解析装置50は、図14の処理を終了する。
図15は、本実施例に係る応力歪曲線を示す図である。図15に示すように、実施例に係る複合材料の解析方法を用いた場合(実施例1:グラフL11参照)には、実際の複合材料を用いて応力歪曲線を測定した場合(実験例1:グラフL14参照)と同様に、応力と共に歪みが一定値まで上昇した後、応力は略一定に維持される結果となった。これに対して、従来の数値解析を実行した場合(比較例1:グラフL12参照)には、応力が上昇して歪みが一定値まで上昇した後、応力が著しく減少する結果が得られた。また、結合鎖21bの破断を考慮しない場合(比較例2:グラフL13参照)は、応力の上昇に伴い歪みが連続的に上昇した。この結果は、実施例では、粒子間の結合エネルギー又は結合力の強さを時間依存させることでポリマーモデル21の分子鎖の収縮速度を低減できたために、実験例1と同様の結果が得られたものと考えられる。