以下、本発明を詳細に説明する。
図面を用いて本発明の金属調パターン転写物材料の製造方法を説明する。まず、支持体1上に多孔質層2と解離層3を有する転写用基材10を準備する(図1)。次に、転写用基材10に転写パターン4を、例えばインクジェットプリンタ等で印刷して形成する(図1)。続いて、常温で粘着性を有する、あるいは粘着性が発現する温度まで加熱した被転写体5に対して転写用基材10の転写パターン4形成面を貼合する(図2)。その後、必要に応じ放冷する工程を経て、被転写体5より貼合した転写用基材10を取り除き、被転写体が常温で粘着力を有する場合は、更に被転写体を加熱硬化することで、転写パターン4が転写された被転写体5(図3あるいは図4)のような本発明の金属調パターン転写物を製造することができる。
また、常温で粘着性を有さず加熱により粘着性を生じる物質6を介し、先と同様に形成した転写用基材10の転写パターン4形成面と被転写体5を、物質6が粘着性を生じる温度まで加熱し貼合する(図5)。その後、放冷する工程を経て、被転写体5より貼合した転写用基材10を取り除くことで、転写パターン4が転写された被転写体5(図6)のような本発明の金属調パターン転写物を製造することができる。なお、本発明において、放冷や加熱硬化などの被転写体表面の粘着性を除去する工程と、被転写体から貼合した転写用基材を除く工程は、相前後してもかまわない。
本発明における転写用基材は、支持体上に少なくとも多孔質層と該多孔質層上に解離層を有し、該解離層の上に転写パターンを一旦保持し、次いで表面に粘着性を有する被転写体、あるいは粘着性を有する物質を介して被転写体へ、該転写パターンを転写する用途に供する基材である。該多孔質層および解離層は必要に応じ、支持体の両面に設けても良い。
転写用基材が有する支持体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートに代表されるアクリル樹脂、セロファン、ナイロン、ポリスチレン系樹脂、ABS樹脂等の各種樹脂からなるフィルム、石英ガラス、無アルカリガラス、結晶化透明ガラス、パイレックス(登録商標)等の各種ガラス、紙、不織布、布、各種金属、各種セラミックス等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また用途に応じこれら支持体を適宜組み合わせることができ、例えば、紙をポリオレフィン樹脂で積層したポリオレフィン樹脂被覆紙を用いることができる。
これらの中でもコスト、汎用性の観点から、紙、ポリオレフィン樹脂被覆紙、およびポリオレフィン系樹脂、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートからなるフィルムが好ましい。
上記した支持体の中でも、各種樹脂からなるフィルム、ガラス、ポリオレフィン樹脂被覆紙等の非吸液性支持体を用いる場合には、非吸液性支持体と多孔質層との接着性を改善するために、支持体と多孔質層との間に、ゼラチンや各種ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール等からなる公知の下塗層を設けることが好ましい。また、例えばポリエチレンテレフタレートフィルムでは易接着処理品として下塗層を予め設けた状態で市販されており、これを用いても良い。また、コロナ処理あるいはプラズマ処理により支持体の濡れ性を改善することも好ましい。
下塗層の固形分塗布量としては、0.5g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは0.3g/m2以下、更に好ましくは0.1g/m2以下である。下限は0.01g/m2以上であることが望ましい。
本発明において転写用基材が有する多孔質層は、後述する転写パターンの形成に好適な金属微粒子を含むインクあるいはペーストが含有する水あるいは有機溶剤といった溶媒成分を吸収する機能を担う。
本発明において転写用基材が有する多孔質層は、微粒子を主体に含有する層であることが溶媒成分の吸収性の観点から好ましい。微粒子を主体に含有するとは、多孔質層の全固形分中に占める微粒子の割合が50質量%以上であることを意味し、好ましくは70質量%以上である。用いられる微粒子としては、公知の微粒子を広く用いることができる。例えば軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、非晶質合成シリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、アルミナ水和物、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、水酸化マグネシウム等の無機微粒子、アクリルあるいはメタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン/アクリル系樹脂、スチレン/ブタジエン系樹脂、スチレン/イソプレン系樹脂、メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の有機微粒子が挙げられる。有機微粒子は上記した少なくとも1種以上の樹脂からなる真球状あるいは不定型の無孔質あるいは多孔質の有機微粒子等を挙げることができる。無論、上記した無機微粒子の1種以上と有機微粒子の1種以上を併用して用いることもできる。上記の中でも、溶媒成分の吸収性の観点からは無機微粒子を含有することが好ましく、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、炭酸マグネシウム、非晶質合成シリカ、アルミナ、アルミナ水和物がより好ましく、非晶質合成シリカ、アルミナ、アルミナ水和物が特に好ましい。また、本発明における転写用基材に可撓性が要求される場合には、アルミナ水和物を含有することが特に好ましい。
非晶質合成シリカは、製造法によって湿式法シリカ、気相法シリカ及びその他に大別することができる。
湿式法シリカは、更に製造方法によって沈降法シリカ、ゲル法シリカ、ゾル法シリカに分類される。沈降法シリカは珪酸ソーダと硫酸をアルカリ条件で反応させて製造され、粒子成長したシリカ粒子が凝集・沈降し、その後濾過、水洗、乾燥、粉砕・分級の工程を経て製品化される。沈降法シリカとしては、例えば東ソー・シリカ(株)からニップシール(登録商標)として、(株)トクヤマからトクシール(登録商標)、ファインシール(登録商標)として、水澤化学工業(株)からミズカシル(登録商標)として市販されている。ゲル法シリカは珪酸ソーダと硫酸を酸性条件下で反応させて製造する。熟成中に微小粒子は溶解し、他の一次粒子同士を結合するように再析出するため、明確な一次粒子は消失し、内部空隙構造を有する比較的硬い凝集粒子を形成する。例えば、東ソー・シリカ(株)からニップゲル(登録商標)として、グレースジャパン(株)からシロイド(登録商標)、シロジェット(登録商標)として、水澤化学工業(株)からミズカシルとして市販されている。本発明において沈降法シリカあるいはゲル法シリカを用いることが好ましく、沈降法シリカがより好ましい。
湿式法シリカ粒子としては、平均一次粒子径が50nm以下、好ましくは3~40nmであり、かつ平均凝集粒子径が1~50μmである湿式法シリカ粒子が好ましい。また平均凝集粒子径が5~50μmである湿式法シリカ粒子を、平均二次粒子径が500nm以下に分散することがより好ましい。分散された湿式法シリカの平均二次粒子径は、より好ましくは10~300nm、更に好ましくは20~200nmである。分散方法としては、水性媒体中に分散した湿式法シリカを機械的に粉砕する湿式分散法が好ましく使用され、これにはビーズミルなどのメディアミルを用いることが好ましい。ビーズミルは密閉されたベッセル内に充填されたビーズとの衝突により顔料粉砕を行うものであり、ウィリー・エ・バッコーフェン社よりダイノーミルとして、浅田鉄工(株)よりグレンミル(登録商標)として、アシザワ・ファインテック(株)よりスターミル(登録商標)として市販されている。メディアミル等を用いて分散した後、更に高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機、及び薄膜旋回型分散機等を用いて分散することが好ましい。
ここで、本発明でいう平均一次粒子径とは、微粒子の電子顕微鏡観察により一定面積内に存在する100個の一次粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子径として平均粒子径を求めたものである。また平均二次粒子径とは、透過型電子顕微鏡による写真撮影で求めることができるが、簡易的にはレーザー散乱式の粒度分布計(例えば、(株)堀場製作所製、LA910)を用いて、個数メジアン径として測定することができる。また、平均凝集粒子径とは、粉体として供給される湿式シリカの平均粒子径を示し、例えばコールターカウンター法で求めることができる。
気相法シリカは、湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化ケイ素を水素及び酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独または四塩化ケイ素と混合した状態で使用することができる。気相法シリカは日本アエロジル(株)からアエロジル(登録商標)、(株)トクヤマからQSタイプとして市販されている。
本発明において多孔質層が含有する気相法シリカの平均一次粒子径は40nm以下が好ましく、15nm以下がより好ましい。更に好ましくは平均一次粒子径が3~15nmでかつBET法による比表面積が200m2/g以上(好ましくは250~500m2/g)のものを用いることである。
本発明でいうBET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ吸着量を被吸着気体の圧、または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であってBET式と呼ばれ表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けて表面積が得られる。
気相法シリカを用いた場合においても、湿式法シリカと同様に、平均二次粒子径500nm以下に分散することが好ましい。分散された気相法シリカの平均二次粒子径は、より好ましくは10~300nm、更に好ましくは20~200nmである。分散方法としては、通常のプロペラ撹拌、タービン型撹拌、ホモミキサー型撹拌等で気相法シリカと水を主体とする分散媒を予備混合し、次にボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機、及び薄膜旋回型分散機等を使用して分散を行うことが好ましい。
本発明では、該多孔質層は支持体上に前述した微粒子を含む塗布液を塗布、乾燥して形成することが簡便であり、好ましい。よってかかる塗布液を調製するにあたり、平均二次粒子径500nm以下の湿式法シリカあるいは気相法シリカのスラリーを製造することは好ましく、該スラリーの製造にあたりスラリーの高濃度化や分散安定性を向上させるため、公知の種々の方法を用いても良い。例えば、特開2002-144701号公報、特開2005-1117号公報に記載されているが如くアルカリ性化合物の存在下で分散する方法、カチオン性化合物の存在下で分散する方法、シランカップリング剤存在下で分散する方法等を挙げることができ、カチオン性化合物の存在下で分散する方法がより好ましい。
上記湿式法シリカあるいは気相法シリカの分散に使用するカチオン性化合物としては、ポリエチレンイミン、ポリジアリルアミン、ジアリルアミン誘導体由来の構造単位を有する重合物、ポリアリルアミン、アルキルアミン重合物、1~3級アミノ基や4級アンモニウム塩基を有するポリマーが好ましく用いられる。特にジアリルアミン誘導体由来の構造単位を有する重合物が好ましく用いられる。分散性および分散液粘度の面で、これらのカチオンポリマーの分子量は、2,000~10万程度が好ましく、特に2,000~3万程度が好ましい。
本発明において多孔質層が好ましく含有するアルミナとしては、酸化アルミニウムのγ型結晶であるγ-アルミナが好ましく、中でもδグループ結晶が好ましい。γ-アルミナは一次粒子を10nm程度まで小さくすることが可能であるが、通常は数千から数万nmの二次粒子結晶を超音波や高圧ホモジナイザー、対向衝突型ジェット粉砕機等で平均二次粒子径を好ましくは500nm以下、より好ましくは20~300nm程度まで粉砕したものが使用できる。
本発明において多孔質層が好ましく含有するアルミナ水和物はAl2O3・nH2O(n=1~3)の構成式で表される。アルミナ水和物は、一般にアルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドの加水分解、アルミニウム塩のアルカリによる中和、アルミン酸塩の加水分解等の公知の製造方法により得られる。アルミナ水和物の平均二次粒子径は好ましくは500nm以下、より好ましくは20~300nmである。
本発明において多孔質層が好ましく含有する上記のアルミナ、及びアルミナ水和物は、酢酸、乳酸、ぎ酸、硝酸等の公知の分散剤によって分散された分散液の形態から使用される。
本発明において、多孔質層は上記した微粒子と共に樹脂バインダーを含有することが好ましく、該樹脂バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、酸化澱粉、エーテル化澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、シリル変性ポリビニルアルコールなど、スチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス、あるいはこれらの各種重合体のカルボキシル基などの官能基含有単量体による官能基変性重合体ラテックス、メラミン樹脂、尿素樹脂などの熱硬化合成樹脂系などの水性接着剤、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルブチラール、アルキッド樹脂などの合成樹脂系接着剤等を挙げることができ、これらを単独あるいは混合して用いることができる。この他、公知の天然、あるいは合成樹脂バインダーを単独であるいは混合して用いることは特に限定されない。
これらの内、ポリビニルアルコールあるいはシラノール変性ポリビニルアルコールが好ましく、特に好ましいのは、ケン化度が80%以上の部分ケン化または完全ケン化したポリビニルアルコールあるいはシラノール変性ポリビニルアルコールである。ポリビニルアルコールの平均重合度は200~5000のものが好ましい。
微粒子に対する樹脂バインダーの含有量は特に限定されないが、微粒子を用い多孔質層を形成するためには、樹脂バインダーの含有量は、微粒子に対して8~80質量%であることが好ましく、より好ましくは8~50質量%の範囲である。
また多孔質層は、上記した多孔質層を構成する上記樹脂バインダーと共に必要に応じ硬膜剤を含有することもできる。硬膜剤の具体的な例としては、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドの如きアルデヒド系化合物、ジアセチル、クロルペンタンジオンの如きケトン化合物、ビス(2-クロロエチル)尿素、2-ヒドロキシ-4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジン、米国特許第3,288,775号記載の如き反応性のハロゲンを有する化合物、米国特許第3,635,718号記載の如き反応性のオレフィンを持つ化合物、米国特許第2,732,316号記載の如きN-メチロール化合物、米国特許第3,103,437号記載の如きイソシアナート類、米国特許第3,017,280号、同2,983,611号記載の如きアジリジン化合物類、米国特許第3,100,704号記載の如きカルボジイミド系化合物類、米国特許第3,091,537号記載の如きエポキシ化合物、ジヒドロキシジオキサンの如きジオキサン誘導体、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩類の如き無機架橋剤等があり、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。硬膜剤の含有量は特に限定されないが、樹脂バインダーに対して、50質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下であり、特に好ましくは30質量%以下である。
樹脂バインダーとしてケン化度が80%以上の部分ケン化または完全ケン化したポリビニルアルコールあるいはシラノール変性ポリビニルアルコールを用いる場合、硬膜剤はホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩類が好ましく、ホウ酸が特に好ましく、使用量はポリビニルアルコールに対し、40質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以下であり、特に好ましくは20質量%以下である。下限は0.1質量%以上であることが好ましい。
その他、多孔質層には必要に応じ、防腐剤、界面活性剤、着色染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、微粒子の分散剤、消泡剤、レベリング剤、粘度安定剤、pH調節剤などを含有することができる。
多孔質層は2層以上から構成されていてもよく、この場合、それらの多孔質層の構成はお互いに同じであっても異なっていても良い。例えば湿式法シリカを含有する多孔質層の上に、アルミナ水和物を含有する多孔質層が形成されていても良い。
多孔質層の層厚(乾燥時)は、一般に1~100μmが好ましく、5~50μmがより好ましい。
多孔質層は、微粒子と樹脂バインダー等を適当な溶媒に溶解または分散させて塗布液を調製し、該塗布液をスライドカーテン方式、スライドビード方式、スロットダイ方式、ダイレクトグラビアロール方式、リバースグラビアロール方式、スプレー方式、エアナイフ方式、ブレードコーティング方式、ロッドバーコーティング方式、スピンコート方式等による塗布、スクリーン印刷、インクジェット印刷、ディスペンサー印刷、オフセット印刷、反転オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷等、公知の各種塗布あるいは印刷方法を利用して、支持体表面の全面、あるいは必要とされる部位への選択的な塗布を行い、形成することができる。また、塗布を行った後、鏡面ロールに圧接するキャスト処理を行い、表面を平滑にすることや、カレンダー処理を行い、表面を平滑にすることもできる。
本発明において転写用基材は、上記した多孔質層上に無機微粒子および/または有機微粒子を主成分とする解離層を有する。解離層とは、転写パターンを被転写体へ転写する際に多孔質層と転写パターンを分離する層であり、図3のように転写パターンのみを被転写体へ転写する、あるいは図4、図6のように転写パターンと解離層の一部を共に被転写体へ転写することができる。転写された解離層の一部は必要に応じ洗浄し、除去してもよい。
本発明における解離層は、転写時の温度で溶融あるいは粘着性を示さない層であることが好ましい。なお、主成分とするとは、かかる層の全固形分に対して、93質量%以上が無機微粒子および/または有機微粒子であることを示し、好ましくは98質量%以上である。
本発明において解離層が含有する無機微粒子としては、公知の無機微粒子を広く用いることができる。例えば炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、非晶質合成シリカ、アルミナ、アルミナ水和物、水酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化錫等の無機微粒子を例示することができ、これらを2種以上併用してもよい。
解離層が含有する無機微粒子の平均一次粒子径は10~200nmであることが好ましく、20nm以上がより好ましい。平均一次粒子径が10nm未満であると多孔質層の空隙を塞ぎ吸収性が低下する場合がある。平均一次粒子径が200nmを超えると、解離層を形成する際に使用される塗布液において、無機微粒子が沈降し塗布に支障をきたす場合がある。
このような無機微粒子としてコロイド状態にある無機微粒子分散液を用いることが好ましく、例えば、コロイド状シリカであるコロイダルシリカ、酸化チタンゾル、アルミナゾル、酸化セリウムゾル、酸化ジルコニウムゾル、酸化ニオブゾル、酸化錫ゾルを挙げることができる。酸化ジルコニウムゾルは、例えば第一稀元素化学工業(株)よりZSL-20N、ナイヤコール社(米国)よりZr100/20として、酸化セリウムゾルは、例えばナイヤコール社(米国)よりCEO2(AC)として、酸化ニオブゾルは、例えば多木化学(株)よりバイラール(登録商標)として市販されている。
コロイダルシリカとしては、シリカゾルから弱アルカリ性下で粒子成長させたそのままのタイプ、イオン交換によりアルカリを減量したタイプ、格子の珪素原子の一部をアルミニウム原子に置換してアニオン性を強化したタイプ、アルミナ表面処理によりカチオン性にしたタイプ、アルコキシシランを原料にゾルゲル法で合成されたタイプ等が例示されるが何れも使用可能である。コロイダルシリカはアルカリに若干溶解するのでアルカリが残っている方が結着力の面で有利と考えられるが、イオン交換したタイプでも実用上問題なく使用できる。これらコロイダルシリカは、例えば日産化学工業(株)よりスノーテックス、扶桑化学工業(株)よりクォートロン(登録商標)として市販されている。
本発明において解離層が含有する有機微粒子としては、公知の有機微粒子を広く用いることができる。例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ナイロン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、アセタール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂等の有機微粒子を例示することができ、これらを2種以上併用してもよい。
解離層が含有する有機微粒子の平均一次粒子径は10~500nmであることが好ましく、20nm以上がより好ましい。平均一次粒子径が10nm未満であると多孔質層の空隙を塞ぎ吸収性が低下する場合がある。平均一次粒子径が500nmを超えると、解離層を形成する際に使用される塗布液において、有機微粒子が沈降し塗布に支障をきたす場合がある。
このような有機微粒子として、ポリアミドイミド樹脂は、例えば東レ(株)よりトレパール(登録商標)PAIとして、ポリエーテルスルホン樹脂は、例えば東レ(株)よりトレパールPESとして、フッ素樹脂は、例えば三井・デュポン フロロケミカル(株)より31-JR、ダイキン工業(株)よりD-210Cとして市販されている。
本発明における解離層は、上記した無機微粒子の1種以上と有機微粒子の1種以上を併用して用いることもできる。無機微粒子と有機微粒子の体積比率としては、1:9から9:1の範囲が好ましい。得られる金属調パターン転写物の反射率の観点からは無機微粒子を用いることが好ましい。
本発明において解離層に含まれる無機微粒子および/または有機微粒子以外の成分としては、樹脂バインダーとしての例えばポリビニルアルコールなどの水溶性樹脂やラテックス類、樹脂バインダーの硬膜剤、界面活性剤等を挙げることができる。
本発明において解離層の固形分塗布量は、0.01g/m2以上であることが好ましく、0.1g/m2以上がより好ましい。固形分塗布量が0.01g/m2未満であると、被転写体へ多孔質層が転写されてしまうことがある。解離層の固形分塗布量の上限は特にないが、10g/m2を超えると無機微粒子および/または有機微粒子を主成分とする解離層に亀裂の入る可能性が高くなるため、好ましくない。
解離層の形成用塗布液は、スライドカーテン方式、スライドビード方式、スロットダイ方式、ダイレクトグラビアロール方式、リバースグラビアロール方式、スプレー方式、エアナイフ方式、ブレードコーティング方式、ロッドバーコーティング方式、スピンコート方式、インクジェット方式等による塗布、スクリーン印刷、インクジェット印刷、ディスペンサー印刷、オフセット印刷、反転オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷等による印刷等、公知の各種塗布あるいは印刷方法を利用して、予め支持体上に作製された多孔質層表面の全面、あるいは必要とされる部位への選択的な塗布を行い、解離層を形成することができる。特に好ましくは、リバースグラビアロール方式の中でも、ロールの直径が100mm以下(より好ましくは20~80mm)の斜線グラビアロール(斜線の溝を有するグラビアロール)を用いる方式である。
本発明の転写用基材における解離層の形成用塗布溶媒あるいは分散媒が主に水である場合には、多層スライドカーテン方式、多層スライドビード方式、多層スロットダイ方式等の多層同時塗布が可能な塗布方式を用い、多孔質層と解離層を同時に塗布しても良い。また、支持体が搬送されるライン上に複数の塗布装置が設置されるタンデム型の多層塗布装置を用いても良い。
本発明において、被転写体に転写される転写パターンは金属調パターンであり、金属微粒子を含むインクあるいはペーストを用いて形成される。金属微粒子の平均粒子径は1nm~10μmであり、好ましくは1nm~1μmである。本発明において金属微粒子の平均粒子径は、微粒子の電子顕微鏡観察により一定面積内に存在する100個の粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子径として平均粒子径を求めたものである。本発明に用いられる金属微粒子を含むインクあるいはペーストには、公知のメタリック調のインクあるいはペーストを広く用いることができ、銀ナノインク、銅ナノインク、銀ペースト、銅ペースト、アルミペースト等を例示することができる。光沢に優れ、厚み1μm程度と非常に薄い転写パターンを形成できる点から、銀ナノインクを用いることが特に好ましい。銀ナノインクは、例えば三菱製紙(株)よりNBSIJシリーズとして市販されている。
本発明において、金属微粒子を含むメタリック調のインクあるいはペーストは、様々な印刷方法あるいは塗布方式によりパターン形成される。例えば線状の塗布を行うことができるディスペンサー印刷方法を用いたパターン形成、サーマル、ピエゾ、マイクロポンプ、静電気等の各種方式のインクジェット印刷方法を用いたパターン形成、凸版印刷方法、フレキソ印刷方法、平版印刷方法、凹版印刷方法、グラビア印刷方法、反転オフセット印刷方法、枚葉スクリーン印刷方法、ロータリースクリーン印刷方法等の公知の各種印刷方法によるパターン形成を例示することができる。また、グラビアロール方式、スロットダイ方式、スピンコート方式等、公知の各種塗布方式を用い、転写用基材が有する解離層の全面あるいは一部に連続した面としてパターンを形成すること、間欠塗工ダイコーター等を用い転写用基材が有する解離層の全面あるいは一部に断続した面としてパターンを形成すること、あるいは浸漬塗布方法(ディップ方式とも言われる)を用い、転写用基材が有する解離層全体に金属微粒子を含むインクあるいはペーストを付着させることもできる。より好ましい印刷方法としては、インクジェット印刷方法、フレキソ印刷方法、グラビア印刷方法、反転オフセット印刷方法、枚葉スクリーン印刷方法、ロータリースクリーン印刷方法を挙げることができ、無版印刷であるインクジェット印刷方法が特に好ましい。
これらの方法によりパターン化された金属微粒子を含むメタリック調のインクあるいはペーストは、含まれている分散媒を揮散させた後、および/または分散媒を多孔質層が吸収した後、必要に応じ加熱により硬化し転写パターンとしても良いが、銀ナノインクを用い、特開2008-4375号公報、特開2008-235224号公報等に記載される導電性発現剤を多孔質層および/または解離層に含有させ、化学的な作用により金属超微粒子同士を結合し転写パターンとすることが好ましい。化学的な作用により金属超微粒子同士を結合させた場合、得られる転写パターンは多孔質となるため、粘着性を有する被転写体あるいは介在する粘着性を有する物質との間に高い密着力を得ることができる。かかる導電性発現剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウムを例示することができる。
本発明において、金属調パターン転写物の製造方法として、金属微粒子からなる転写パターンが形成された転写用基材を、表面に粘着性を有する被転写体と貼合することにより該転写パターンを転写し、その後、被転写体表面の粘着性の除去を行う方法を挙げることができる。
本発明において表面に粘着性を有する被転写体の態様の一つとして、常温で粘着性を有し加熱硬化により粘着性の除去が行われる被転写体を挙げることができる(以下被転写体Aとする)。このような被転写体Aは常温では柔らかく粘着性を有するが、加熱により硬化する樹脂を含む。このような樹脂として熱硬化性樹脂が知られており、液状レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、アミノ樹脂、アルキド樹脂などを例示することができる。これらの樹脂を用い被転写体を製造する際には、熱硬化性樹脂以外に、酸硬化剤、アミン系硬化剤などの硬化剤、フタル酸エステル、リン酸エステル、脂肪酸エステル、エポキシ系などの可塑剤、粉末様の酸化チタンやカーボンブラックなどの顔料、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウムなどの充填材、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの補強材などが配合されていてもよい。なお、本発明における常温とはJIS Z 8703に記載される温度範囲、具体的には5~35℃を示す。
特に、硬化剤などを含んだエポキシ樹脂やフェノール樹脂、および不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を炭素繊維やガラス繊維に含浸させ、フィルム状に成型し、離型フィルムや離型紙を両面に貼合し、加熱または乾燥により半硬化状態とした材料が、炭素繊維強化樹脂やガラス繊維強化樹脂のプリプレグとして広く用いられている。これらの材料は、半硬化状態のプリプレグを重ねた際に容易に粘着し一体化するように、常温で粘着性を有しており、本発明における被転写体Aとして好適に用いることができる。
また、前記プリプレグを製造するために、硬化剤などを含んだエポキシ樹脂をシート化したエポキシ樹脂シートが市販されており、本発明における被転写体Aとして好適に用いることができる。
本発明において被転写体Aの常温における粘着力は、JIS Z0237に準じ剥離角度180度にて測定され、幅25mmあたりの粘着力(N/25mm)として示される。本発明において、被転写体Aの好ましい粘着力は、0.1~20N/25mmであり、より好ましくは0.2~10N/25mmである。粘着力が0.1N/25mm未満では、転写パターンの転写を行うことができない場合があり、20N/25mmを超えると、転写用基材の剥離が困難となる場合がある。なお、本発明において、粘着性を有するとは、JIS Z0237に準じ剥離角度180度にて測定される幅25mmあたりの粘着力(N/25mm)が0.1N/25mm以上であることを示す。
本発明における被転写体Aに転写パターンを転写する工程について説明する。被転写体Aは常温で粘着性を有し、粘着性が発現している状態で転写パターンの転写が行われる。転写は転写用基材の転写パターンが形成された面と被転写体Aを貼合し剥離することにより行われる。例えば被転写体Aが立体物である場合には被転写体Aに転写用基材を貼合し剥離することにより行われ、例えばプリプレグ等のシート様物であればロールラミネーターを使用したラミネート法により転写用基材を被転写体Aに圧着する方法が好ましい。ラミネートの条件としては、ロール温度は室温(5~35℃)、圧力が1~50N/cm2で、時間が0.1秒~5分であることが好ましく、より好ましく圧力が5~20N/cm2で、時間が1秒~1分であるが、被転写体Aの厚みや種類等により適宜調整することができる。圧力が1N/cm2を下回ると被転写体Aへの転写パターンの転写が均一に行われない場合があり、50N/cm2を超えると転写用基材の剥離が困難になる場合がある。
本発明における熱硬化性樹脂を含む被転写体Aは転写パターンの転写後に加熱硬化を行い被転写体A表面の粘着性の除去が行われる。加熱硬化を行うことにより、転写パターンの被転写体Aに対する密着力が向上する。また被転写体Aとしてプリプレグを用いた場合には、転写パターンが転写されたプリプレグをそのまま加熱硬化し金属調パターン転写物としても良いが、必要に応じ転写パターンが転写されていないプリプレグを重ねて成型した後に加熱硬化し、金属調パターン転写物としてもよい。加熱硬化の条件は熱硬化性樹脂に適した温度や加熱時間で行えば良く、例えばエポキシ樹脂の場合には好ましくは130~200℃であり、より好ましくは140~190℃、加熱時間は5分~2時間程度であるが、これに限定されるものではない。
また、本発明において表面に粘着性を有する被転写体の一つとして、常温では粘着性を有さないが、加熱により粘着性を生じ、放冷により粘着性の除去が行われる被転写体を挙げることができる(以下被転写体Bとする)。このような被転写体Bは常温では粘着性を有さず、加熱することにより粘着性を有し、放冷し常温に戻ることにより粘着性を失う樹脂を含む。このような樹脂として熱可塑性樹脂が知られており、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレートに代表されるアクリル樹脂、ポリウレタン、ABS樹脂、ASA樹脂、AS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリフェニレンスルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
また、被転写体Bとして、上記熱可塑性樹脂を射出成形や押出成形、3Dプリンター等の公知の加工方法にて、複雑な形状を有する立体物やフィルム状に成型した成形体を用いることもできる。
被転写体Bの加熱温度は熱可塑性樹脂により異なり、ガラス転移点以上の温度に加熱することが好ましい。例えば塩化ビニル系樹脂は90℃以上、ポリスチレン、アクリル樹脂は100℃以上、AS樹脂、ABS樹脂は110℃以上、ポリカーボネートは150℃以上に加熱することが好ましい。
本発明において被転写体Bである熱可塑性樹脂を加熱し軟化させた状態での粘着力は、JIS Z0237に準じ剥離角度180度にて測定され、幅25mmあたりの粘着力(N/25mm)として示される。本発明において、加熱時の被転写体Bの好ましい粘着力は、0.1~20N/25mmであり、より好ましくは0.2~10N/25mmである。粘着力が0.1N/25mm未満では、転写パターンの転写を行うことができない場合があり、20N/25mmを超えると、転写用基材の剥離が困難となる場合がある。
本発明における被転写体Bに転写パターンを転写する工程について説明する。被転写体Bは常温では粘着性を有さないため、加熱により熱可塑性樹脂を軟化させ表面に粘着性を発現させる。次いで粘着性が発現している状態で転写パターンの転写が行われる。転写は転写用基材の転写パターンが形成された面と被転写体Bを貼合し剥離することにより行われる。剥離は被転写体Bが加熱により軟化し粘着性を有する状態、あるいは放冷され粘着性を有さない状態で行うことができるが、放冷され粘着性を有さない状態で剥離することが好ましい。最終的に被転写体Bは室温まで放冷される。なお、被転写体Bが複雑な形状を有する立体物である場合には被転写体Bの全体あるいは被転写部を部分的に加熱し、転写用基材を貼合し剥離することにより行ってもよい。例えば被転写部に転写用基材を貼合してから、転写パターン全体を覆うようなサイズの発熱部を押し当て、転写用基材を通して被転写体Bを加熱し粘着性を発現させ転写を行ってもよい。
なお、被転写体Bがフィルムや薄板等のシート様物であればロールラミネーターを使用したラミネート法により熱圧着する方法が好ましい。ラミネートの条件としては、圧力が1~500N/cm2で、時間が0.1秒~5分であることが好ましく、より好ましくは圧力が10~300N/cm2で、時間が1秒~1分であるが、被転写体の厚みや種類等により適宜調整することができる。圧力が1N/cm2を下回ると被転写体への転写パターンの転写が均一に行われない場合があり、500N/cm2を超えると転写用基材の剥離が困難になる場合がある。
本発明において、転写パターンを転写し転写用基材を剥離した後に、さらに被転写体Bに再加熱を実施することもできる。再加熱により被転写体Bと転写パターンの密着性がさらに向上する。再加熱の条件としては、好ましくは100~200℃で1~60分であり、より好ましくは120~160℃で1~60分であるが、これに限定されるものではない。
本発明において、金属調パターン転写物の異なる製造方法として、金属微粒子からなる転写パターンが形成された転写用基材を、常温で粘着性を有さず加熱により粘着性を生じる物質(以下加熱粘着性物質とする)を介して被転写体へ該転写パターンを転写し、その後被転写体を放冷し、介在する加熱粘着性物質が放冷されることにより粘着性の除去を行う方法を挙げることができる。
本発明において、加熱粘着性物質を介して転写パターンの転写を行う被転写体(以下被転写体Cとする)は、そのもの自体で粘着性が発現するものではなく、加熱粘着性物質を介して熱圧着することで、転写パターンが転写される。このような被転写体Cとしては、一般的な紙、繊維材料、合成皮革、樹脂成型物、金属成型物、ガラス成型物、陶器類、木材加工物等、特に限定することはないが、例えば繊維材料としては、天然繊維材料、半合成繊維材料および合成繊維材料の何れでも構わない。天然繊維材料や半合成繊維材料としては、例えば、綿、麻、リヨセル、レーヨン、アセテート等のセルロース系繊維材料、絹、羊毛、獣毛等の蛋白質系繊維材料等を挙げることができる。合成繊維材料は、例えば、ポリアミド繊維(ナイロン)、ビニロン、ポリエスエル、ポリアクリル等を挙げることができる。繊維材料の構成としては、織物、編物、不織布等の単独、混紡、混繊または交織などを挙げることができる。また形状は平面シート状のものから立体的な形状のものまで、厚みや質量に関係なく適宜使用することができるが、転写パターンを転写する面は平面もしくは連続面であることが転写パターンの密着性の観点で好ましい。
本発明における加熱粘着性物質としては、熱可塑性樹脂ラテックス、熱可塑性樹脂微粒子、熱可塑性樹脂フィルムシート等の公知の材料が使用できる。熱可塑性樹脂ラテックスとしては、アクリル酸およびメタクリル酸、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステル類、スチレンおよび置換されたスチレン類、ハロゲン化ビニル類、テトラフルオロエチレンのようなフッ素化されたモノマー類、ハロゲン化ビニリデン類、ビニルエステル類、ビニルエーテル類およびフルオロビニルエーテル類から作られるホモポリマーおよび共重合体、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリウレタン類、エポキシ類およびシロキサン類のような単独ポリマーだけでなく共重合体等も含めた熱可塑性樹脂を界面活性剤により水に分散したものが挙げられる。熱可塑性樹脂微粒子としては、これら熱可塑性樹脂を微粒子化したものが挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムシートとしては、これら熱可塑性樹脂をフィルムシート化したものを適宜使用できる。中でも密着性と簡便性の点より、熱可塑性フィルムシートを使用することが好ましい。熱可塑性フィルムシートとしては、例えば日本マタイ(株)からエルファン(登録商標)シリーズ、倉敷紡績(株)からクランベター(登録商標)シリーズ、シーダム(株)からエセラン(登録商標)シリーズ、日東シンコー(株)からポリエスホットメルト接着シートとして市販されている。
本発明における加熱粘着性物質の量あるいは厚みは特に制限はないが、熱可塑性樹脂ラテックスや熱可塑性樹脂微粒子では、固形分量として2~200g/m2が好ましく、5~100g/m2がより好ましい。熱可塑性樹脂フィルムシートでは、厚みとして2~200μmが好ましく、5~100μmがより好ましい。
本発明における、被転写体Cへ加熱粘着性物質を介して転写パターンを転写する方法としては、転写パターンを形成した転写用基材の転写パターン面もしくは被転写体Cの転写面の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂ラテックスを塗布・乾燥した後、加熱転写する方法、熱可塑性微粒子を、転写パターンを形成した転写用基材の転写パターン面と被転写体Cの転写面との間に載置した後、加熱転写する方法、熱可塑性樹脂フィルムシートを、転写パターンを形成した転写用基材の転写パターン面と被転写体Cの転写面の間に載置した後、加熱転写する方法、および、予め、熱可塑性樹脂を含有した金属微粒子を用いて転写用基材上に転写パターンを作製し、そのまま被転写体Cに加熱転写する方法などが挙げられる。密着性と簡便性の点より、熱可塑性樹脂フィルムシートを、転写パターンを形成した転写用基材の転写パターン面と被転写体Cの転写面の間に載置した後、加熱転写する方法を使用することが好ましい。
本発明における加熱粘着性物質は、転写時の加熱によってその表面に粘着性が生じる。加熱によって生じる粘着力は、JIS Z0237に準じ剥離角度180度にて測定され、幅25mmあたりの粘着力(N/25mm)として示される。本発明において、加熱時の好ましい粘着力は、0.1~20N/25mmであり、より好ましくは0.2~10N/25mmである。粘着力が0.1N/25mm未満では、転写パターンの転写を行うことができない場合があり、20N/25mmを超えると、転写用基材の剥離が困難となる場合がある。
本発明における被転写体Cに転写パターンを転写する工程について説明する。転写時に加熱する方法としては、熱プレス、熱ロールプレス、高周波加熱、超音波加熱などの公知の加熱方法が使用できるが、中でも熱ロールプレスが好ましい。熱ロールプレスを用いた際の加熱条件としては、ロール温度が80~200℃、圧力が1~50N/cm2で、時間が1秒~5分であることが好ましく、より好ましくはロール温度が100~160℃、圧力が5~20N/cm2で、時間が10秒~1分であるが、これに限定されるものではなく、加熱粘着性物質の厚みや量により適宜調整することができる。200℃を超える高温、50N/cm2超の高圧力、5分超の長時間加熱を行うと、転写用基材の剥離が困難となる場合がある。
熱ロールプレス等を用い加熱粘着性物質を介して転写パターンを転写するために加熱した後は転写用基材を50℃以下まで放冷し剥離することが好ましく、40℃以下まで放冷し剥離することがより好ましい。なお、転写用基材を剥離する速度は特に制限はないが、1000mm/分以下の180度剥離が転写パターンの転写性の観点より好ましい。
本発明において、転写パターンを転写し転写用基材を剥離した後に、さらに被転写体Cに再加熱を実施することもできる。再加熱により被転写体Cと転写パターンの密着性がさらに向上する。再加熱の条件としては、好ましくは100~200℃で1~60分であり、より好ましくは120~160℃で1~60分であるが、これに限定されるものではない。
本発明において、被転写体に転写された転写パターンの上に保護層を設けてもよい。かかる保護層には、クリアーコート塗料を用いることが好ましく、クリアーコート塗料に用いられる樹脂としては、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、アクリルシリコン系、フッ素系、エポキシ系、不飽和ポリエステル系、アルキッド系、メラミン系等の樹脂、また紫外線、電子線硬化型樹脂等を挙げることができる。これらの中でも塗布が容易であることから、メラミン系、ウレタン系、アクリルウレタン系、アクリルシリコン系のクリアーコート塗料が好ましい。これら各種クリアーコート塗料は、例えば大日本塗料(株)、日本ペイント(株)、関西ペイント(株)、エスケー化研(株)、大橋化学工業(株)等から市販されている。
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。
(実施例1)
水に硝酸2.5質量部とアルミナ水和物(平均一次粒子径15nm)100質量部を添加し、のこぎり歯状ブレード型分散機を用いて、固形分濃度30質量%の無機微粒子分散液1を得た。無機微粒子分散液1中に分散しているアルミナ水和物の平均二次粒子径は160nmであった。
上記無機微粒子分散液1を用い下記組成の多孔質層形成塗布液1を作製し、支持体として易接着処理がなされた厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人フィルムソリューション(株)製)に多孔質層形成塗布液1をスライドビードコーターで固形分塗布量がアルミナ水和物換算で32g/m2となるように塗布、乾燥し多孔質層を形成した。該多孔質層の膜厚は42μmであった。
<多孔質層形成塗布液1>
無機微粒子分散液1(アルミナ水和物固形分として) 100g
ポリビニルアルコール 9g
(ケン化度88%、平均重合度3,500、分子量約150,000)
ホウ酸 0.4g
ノニオン性界面活性剤 0.3g
(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)
水以外の成分濃度が16質量%になるように水で調整した。
次いで、多孔質層面に下記組成の導電性発現剤塗布液を、斜線グラビアロールを用いた塗布方式により塗布を行い、乾燥機により乾燥した。ここで用いた斜線グラビアロールは、直径60mm、斜線角度45度、線数90線/インチ、溝深さ110μmのグラビアロールであり、リバース回転で用いた。湿分塗布量は、斜線グラビアロールの回転数を調整し20g/m2に設定した。塗布された導電性発現剤塗布液は多孔質層内部に吸収され、表面には多孔質層が露出していた。
<導電性発現剤塗布液>
塩化ナトリウム 0.3g
水 99.7g
次いで多孔質層面に下記組成の解離層塗布液1を、斜線グラビアロールを用いた塗布方式により塗布を行い、乾燥機により乾燥し、転写用基材1を得た。ここで用いた斜線グラビアロールは、直径60mm、斜線角度45度、線数90線/インチ、溝深さ110μmのグラビアロールであり、リバース回転で用いた。湿分塗布量は、斜線グラビアロールの回転数を調整し20g/m2に設定した。多孔質層上に形成された解離層の固形分塗布量は0.6g/m2であった。
<解離層塗布液1>
コロイダルシリカ20質量%スラリー 15g
(扶桑化学工業(株)製、クォートロンPL-3L、平均一次粒径35nm)
水 85g
<転写用基材1上への転写パターン形成>
転写用基材1に対し、金属微粒子を含むメタリック調のインクとして、銀ナノインク(三菱製紙(株)製NBSIJ-MU01、銀微粒子の平均粒子径20nm、銀濃度15質量%)を入れたピエゾタイプのインクジェットプリンタを用い、50mm×50mmのベタパターン(面状パターン)で印刷を行い、転写パターンを形成した。銀ナノインクの吐出量は23ml/m2であり、転写パターンの厚みは0.8μmであった。
ロールラミネーターを用い、転写用基材1と被転写体1である炭素繊維強化樹脂成型用のプリプレグ(東レ(株)製トレカ(登録商標)F6343B、熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂)をロール温度25℃、圧力10N/cm2、速度0.3m/分(圧着時間として1秒)でラミネート処理を行った。ラミネート処理を行った後、転写用基材1を剥離し、140℃で30分間の加熱硬化処理を行い、転写パターンを有する実施例1の金属調パターン転写物を得た。
なお、被転写体1の粘着力をJIS Z0237に準じ剥離角度180度にて測定したところ、該粘着力は0.25N/25mmであった。
(実施例2)
実施例1の解離層塗布液1を下記組成の解離層塗布液2へ変更した転写用基材2を用いた以外は同様とし、実施例2の金属調パターン転写物を得た。なお、多孔質層上に形成された解離層の固形分塗布量は0.2g/m2であった。
<解離層塗布液2>
フッ素樹脂60質量%水分散体 1.7g
(ダイキン工業(株)製PTFE D-210C、平均一次粒径220nm)
水 98.2g
アニオン性界面活性剤 0.05g
(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム)
(実施例3)
ロールラミネーターを用い、実施例1の転写パターンが形成された転写用基材1と被転写体2である厚み1mmのABS樹脂板((株)セコン製作所製ABSシート F-4626黒、厚み1mm)をロール温度150℃、圧力200N/cm2、速度0.3m/分(圧着時間として1秒)でラミネート処理を行った。ラミネート処理を行った後、常温まで放冷し、転写用基材1の剥離を行い、転写パターンを有する実施例3の金属調パターン転写物を得た。
なお、被転写体2は常温では粘着力を有さず、150℃に温調したSUS304鋼板を用いて、被転写体2が150℃であるときの粘着力をJIS Z0237に準じ剥離角度180度にて測定したところ、該粘着力は2.3N/25mmであった。
(実施例4)
ロールラミネーターを用い、実施例1の転写パターンが形成された転写用基材1と被転写体3である50番手糸を使った平織り綿布帛に、加熱粘着性物質としてポリアミド系熱可塑性樹脂フィルムシート(日本マタイ(株)製エルファンNT-120:厚み50μm)を介し、ロール温度110℃、圧力10N/cm2、速度0.5m/分(圧着時間として0.6秒)でラミネート処理を行った。ラミネート処理を行った後、常温まで放冷し、転写用基材1の剥離を行い、転写パターンを有する実施例4の金属調パターン転写物を得た。
なお、ポリアミド系熱可塑性樹脂フィルムシートは常温では粘着力を有さず、110℃に温調したSUS304鋼板を用いて、ポリアミド系熱可塑性樹脂フィルムシートが110℃であるときの粘着力をJIS Z0237に準じ剥離角度180度にて測定したところ、該粘着力は1.5N/25mmであった。
(比較例1)
実施例1において転写用基材1上に形成された転写パターンを両面テープ(日東電工(株)製No.5600、JIS Z0237に準じ剥離角度180度にて測定された粘着力は7.5N/25mm)の片面に転写した後、転写パターンが転写された両面テープの転写パターンを有さない側の粘着面を、140℃で30分間の加熱硬化処理を行った被転写体1に貼り付け、比較例1の金属調パターン転写物を得た。
(比較例2)
実施例2において転写用基材2上に形成された転写パターンを両面テープ(日東電工(株)製No.5600)の片面に転写した後、転写パターンが転写された両面テープの転写パターンを有さない側の粘着面を、140℃で30分間の加熱硬化処理を行った被転写体1に貼り付け、比較例2の金属調パターン転写物を得た。
(比較例3)
実施例3において転写用基材1上に形成された転写パターンを両面テープ(日東電工(株)製No.5600)の片面に転写した後、転写パターンが転写された両面テープの転写パターンを有さない側の粘着面を被転写体2に貼り付け、比較例3の金属調パターン転写物を得た。
(比較例4)
実施例4において転写用基材1上に形成された転写パターンを両面テープ(日東電工(株)製No.5600)の片面に転写した後、転写パターンが転写された両面テープの転写パターンを有さない側の粘着面を被転写体3に貼り付け、比較例4の金属調パターン転写物を得た。
得られた実施例1~4および比較例1~4の金属調パターン転写物の面状パターンは、全て金属様の光沢が観察された。次いで、密着性に関する評価を行った。
<密着性>
金属調パターン転写物上に転写されてなる面状パターンをJIS K 5600-5-6に規定されるクロスカット法にて、被転写体に対する密着性を確認した。密着性はJIS K 5600-5-6における評価と同様に0~5の6段階で評価した。(0:どの格子の目にもはがれがない。1:はがれの程度が5%以下である。2:はがれの程度が5%を超え15%以下である。3:はがれの程度が15%を超え35%以下である。4:はがれの程度が35%を超え65%以下である。5:はがれの程度が65%を超える。)この結果を表1に示す。
表1の結果より、本発明の金属調パターン転写物の製造方法により、工程が簡便かつ金属調パターンの密着性が良好な金属調パターン転写物が得られることが判る。