JP6557846B1 - 多孔質ポリイミドフィルムおよびその製造方法 - Google Patents

多孔質ポリイミドフィルムおよびその製造方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、スピーカ振動板に好適に用いることができる、耐熱性、軽量性、音質特性にすぐれた多孔質PIフィルムおよびその製造方法を提供する。本発明は、<1>厚みが30μm以上、300μm以下、密度が50kg/m3以上、250kg/m3以下、平均孔径が0.1μm以上、15μm以下であることを特徴とする多孔質ポリイミド(PI)フィルム、<2>基材上に、PIまたはPI前駆体と、溶媒とを含む溶液を塗布して塗膜を形成し、しかる後、前記塗膜中の溶媒を除去することにより塗膜内で相分離を起こさせて多孔質PI層を形成せしめるに際し、前記溶液の溶媒として、PIまたはPI前駆体の貧溶媒であるテトラグライムが、全溶媒質量に対し70質量%以上含有されている溶液を用いることを特徴とする請前記多孔質PIフィルムの製造方法、<3>前記多孔質PIフィルムからなるスピーカ振動板、に関する。

Description

本発明は、携帯電話等のスピーカ振動板等として好適に用いることができる多孔質ポリイミド(PI)フィルムおよびその製造方法に関する。
携帯電話等の移動通信端末の高機能化に伴い、これに用いられるスピーカについても、小型化、軽量化、薄型化が求められる。このような移動通信端末に用いられるスピーカとして、厚みが100μm〜1000μm程度の高分子発泡体フィルムを平板型のスピーカ振動板として用いたものが知られている。
例えば、特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルからなる発泡体を高分子発泡体フィルムとして用いる方法が提案されている。特許文献2には、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルとのポリマアロイからなる発泡体を高分子発泡体フィルムとして用いる方法が提案されている。特許文献3には、ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂からなる発泡体を高分子発泡体フィルムとして用いる方法が提案されている。このようなスピーカ振動板については、音質改良、特に、高温環境下での音質改良に対するニーズが高まっている。
しかしながら、前記した高分子はガラス転移温度が低いため、これらの高分子からなる発泡体フィルムは、高温下では、その剛性(弾性率)を充分に維持できず、良好な音質特性が得られないという問題があった。すなわち、振動板としての充分な音速(音波の伝搬速度)を確保することが難しかった。ここで、音速(音速=(E/ρ)1/2、E:フィルムの弾性率、ρ:フィルムの密度)とは、スピーカの音質に直接影響するパラメータであり、これが大きいほど、電気信号に対する振動板の振動追随性が向上し、これにより、音のひずみが低減されることが知られている。
このような問題に対応するスピーカ振動板として、特許文献4には、高温下においても高い剛性が維持できるポリイミド(PI)発泡体を用いたスピーカ振動板が提案されている。ここでは、密度が8kg/mで、厚みが8mm程度のPI発泡体ブロックがスピーカ振動板として用いられている。しかしながら、特許文献4で提案されているPI発泡体ブロックは、厚みが8mmであるため、小型化、薄型化が要求される携帯電話等のスピーカ振動板として用いることは困難であった。また、密度が8kg/mと低過ぎるため、その力学的強度が充分ではなく、例えばこのPI発泡体ブロックをスライスして厚みが100μm〜300μmのものを得ることは困難であった。
一方、耐熱性に優れた多孔質PIフィルムを得るための方法が、種々提案されている。これらの中で、基材上に、PIと、PIに対する良溶媒および貧溶媒と、を含む溶液を塗布して塗膜を形成し、しかる後、塗膜を乾燥して、塗膜中の溶媒を除去することにより、塗膜内で相分離を起こさせて多孔質PI層を形成せしめる方法が知られている。例えば、特許文献5には、PIに対する良溶媒としてアミド系溶媒、貧溶媒としてトリグライムを特定量配合したPI溶液を用いる方法が提案されている。この溶液からは、密度が200kg/m以下の多孔質PIフィルムが得られている。特許文献6には、良溶媒としてアミド系溶媒、貧溶媒として、こはく酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチルからなる混合溶媒等を、特定量配合したPI溶液を用いる方法が提案されている。
国際公開2003/073787号 特開2009−35709号公報 国際公開2014/017528 特開2002−374593号公報 特開2007−211136号公報 特開2018−53099号公報
しかしながら、特許文献5では、密度が200kg/m以下の多孔質PIフィルムは得られてはいるが、その厚みは、400μm程度(実施例1〜4)と厚いものであった。また、特許文献5で開示された溶液から得られる多孔質PIフィルムは、トリグライムの配合量等工程条件を変更しても、平均孔径が大きいものしか得られないため、厚みを薄くすると、充分な剛性を確保することは困難であった。
また、特許文献6で用いられている溶液については、密度が260kg/mのものしか得られておらす、密度が250kg/m以下の低密度(軽量)でかつ良好な力学的特性(剛性)を有する多孔質PIフィルムは得られていなかった。
このように、さらなる小型化、軽量化、薄膜化が求められているスピーカ振動板分野において、充分な音速を有する振動板となり得る多孔質PIフィルムは知られていなかった。
そこで本発明は、前記課題を解決するものであって、耐熱性、軽量性に優れ、かつ良好な力学的特性(剛性)を有する多孔質PIフィルムの提供を目的とする。
本発明者らは、特定の密度、厚みを有する多孔質PIフィルムにおいて、平均孔径を特定のものとすることにより、前記課題が解決されることを見出し本発明の完成に至った。
本発明は下記を趣旨とするものである。
<1> 厚みが30μm以上、300μm以下、密度が50kg/m以上、250kg/m以下、平均孔径が0.1μm以上、15μm以下であることを特徴とする多孔質ポリイミド(PI)フィルム。
<2> 基材上に、PIまたはPI前駆体と、溶媒とを含む溶液を塗布して塗膜を形成し、しかる後、前記塗膜中の溶媒を除去することにより塗膜内で相分離を起こさせて多孔質PI層を形成せしめるに際し、前記溶液の溶媒として、PIまたはPI前駆体の貧溶媒であるテトラグライムが、全溶媒質量に対し70質量%以上含有されている溶液を用いることを特徴とする請前記多孔質PIフィルムの製造方法。
<3> 前記多孔質PIフィルムからなるスピーカ振動板。
本発明の多孔質PIフィルムは、軽量であり、厚みが薄く、耐熱性、力学的特性(剛性)に優れ、かつスピーカ振動板とした際の音質特性にも優れるので、携帯電話等の移動通信端末に好適に用いることができる。
本発明の多孔質PIフィルムを形成するPIは、主鎖にイミド結合を有する耐熱性高分子であり、溶媒中でテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸(PI前駆体のことであり、以下「PAA」と略記することがある)溶液を用いてPIとすることができる。 すなわち、PAAを溶液中で熱的または化学的にイミド化することにより得られる可溶性PI溶液を基材上に塗布、乾燥することによりPIとすることができる。また、PI前駆体であるPAA溶液を、基材上に塗布、乾燥、熱イミド化することによりPIとすることができる。本発明においては、PAA被膜を基材上に塗布、乾燥、熱イミド化して得られるPIが好ましく用いられる。
これらのPIには、PI変性体であるポリアミドイミド(PAI)、ポリエステルイミド(PEI)等も含まれる。
これらPIは、熱可塑性であっても非熱可塑性であってもよい。
これらPIは、DSCに基づくガラス転移温度(Tg)が200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。
本発明の多孔質PIフィルムは、その密度を50kg/m以上、250kg/m以下とすることが必要であり、100kg/m以上、250kg/m以下とすることが好ましい。また、本発明の多孔質PIフィルムの厚みは、30μm以上、300μm以下とすること必要であり、100μm以上、300μm以下とすることが好ましい。また、多孔質PIフィルムの平均孔径は、0.1μm以上、15μm以下とすることが必要であり、1μm超、10μm未満が好ましい。このようにすることにより、例えば、スピーカ振動板として用いた際に、良好な音速(音質)と、スピーカ振動板としての剛性および耐熱性と、を確保することができる。ここで、厚みはJIS K7130、密度はJIS Z8807の規定に基づき、25℃で測定することにより求めることができる。平均孔径は、多孔質PIフィルム断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像を倍率5000〜10000倍で取得し、画像処理ソフトで解析することにより確認することができる。
本発明の多孔質PIフィルムは、例えば、基材上に、PAAと溶媒とを含む溶液を塗布して塗膜を形成し、しかる後、前記塗膜中の溶媒を除去することにより、塗膜内で相分離を起こさせて多孔質PAA層を形成せしめるに際し、溶質としてPAAを含み、PAAの貧溶媒であるテトラグライムが全溶媒質量に対し、70質量%以上、好ましくは80質量%含有されている溶液を用い、これを基材上に塗布して塗膜を形成し、これを100〜200℃で乾燥後、200〜400℃で熱硬化(熱イミド化)を行うことにより得ることができる。
ここで、塗膜乾燥の際に、相分離が誘起され、低密度の多孔質PI構造が形成される。なお、乾燥に際しては、特開2015−136633号公報に記載されているように、塗膜表面から揮発する溶媒を乾燥炉内の空間に籠らせて、加熱することが好ましい。
PAA溶液には、PIを溶解して光学的に均一な溶液とするために、PAAを溶解させるための溶媒、すなわち、PAAに対する良溶媒を含ませることが好ましい。
このような溶媒としては、含窒素極性溶媒である、アミド系溶媒、尿素系溶媒が好ましい。アミド系溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を挙げることができる。尿素系溶媒としては、例えば、テトラメチル尿素、ジメチルエチレン尿素を挙げることができる。含窒素極性溶媒は、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、DMAcおよびNMPが好ましい。
このように、本発明で用いられるPAA溶液は、その溶媒が、テトラグライムを全溶媒質量に対し70質量%以上含有されている混合溶媒(以下、「混合溶媒」と略記することがある)からなり、かつ光学的に均一な溶液であることが好ましい。
PAA溶液は、テトラカルボン酸二無水物の合計と、ジアミンの合計とが略等モルになるように配合し、これを前記混合溶媒中、10〜70℃で重合反応させて得られる溶液を用いることができる。
テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4′−オキシジフタル酸無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、PMDA、BPDA、BTDAが好ましい。
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物の0.1〜10モル%は、以下に示すようなオキシアルキレンユニットを有するテトラカルボン酸二無水物および/またはシロキサンユニットを有するテトラカルボン酸二無水物に置き換えて用いることが好ましい。
オキシアルキレンユニットを有するテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ジエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、トリエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、テトラエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ポリエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
シロキサンユニットを有するテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)テトラメチルシロキサン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)テトラエチルシロキサン二無水物、両末端に酸無水物基を有するシロキサンオリゴマ等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。両末端に酸無水物基を有するシロキサンオリゴマとしては、信越化学社製、「X22−168AS」(数平均分子量1000)、同「X22−168A」(数平均分子量2000)、同「X22−168B」(数平均分子量3200)、同「X22−168−P5−8」(数平均分子量4200)、ゲレスト社製、「DMS−Z21」(数平均分子量600〜800)等の市販品を用いることができる。これらシロキサンユニットを有するテトラカルボン酸二無水物の中で、両末端に酸無水物基を有するシロキサンオリゴマが好ましく、その数平均分子量は、500〜3000であることが好ましい。
ジアミンの具体例としては、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4′−ジアミノビフェニル、4,4′−ジアミノ−2,2′−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、3,3′−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,3′−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等の芳香族ジアミンを挙げることができる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、ODAが好ましい。
前記芳香族ジアミンの0.1〜10モル%は、以下に示すようなオキシアルキレンユニットを有するジアミンおよび/またはシロキサンユニットを有するジアミンに置き換えて用いることが好ましい。
オキシアルキレンユニットを有するジアミンの具体例としては、エチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、ジエチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、ポリエチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、プロピレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、ジプロピレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、トリプロピレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、テトラプロピレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、ポリエチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテルが好ましい。これらの化合物は市販品を用いることができ、その数平均分子量としては500〜3000であることが好ましい。
シロキサンユニットを有するジアミンの具体例としては、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビス(4−アミノフェノキシ)ジメチルシラン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、両末端にジアミン基を有するシロキサンオリゴマ等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。両末端にジアミン基を有するシロキサンオリゴマとしては、信越化学社製、KF−8010(数平均分子量860)、同X22−161A(数平均分子量1600)、同X22−161B(数平均分子量3000)、同KF−8012(数平均分子量4400)、東レダウコーニング製、BY16−835U(数平均分子量900)、チッソ社製、サイラプレーンFM3311(数平均分子量1000)等の市販品を用いることができる。これらシロキサンユニットを有するジアミンの中で、両末端にジアミン基を有するシロキサンオリゴマが好ましく、その数平均分子量は、500〜3000であることが好ましい。
PAA溶液中におけるPAAの固形分濃度は、1〜15質量%が好ましく、5〜10質量%がより好ましい。固形分濃度をこのようにすることにより、低密度が、50kg/m以上、250kg/m以下の多孔質PIフィルムが得られやすくなる。また、PAA溶液の30℃における粘度は、0.5〜50Pa・sが好ましく、1〜10Pa・sがより好ましい。
PAA溶液には、基材との離型性を向上させるために、離型剤を配合することができる。
離型剤としては、特許5283408号公報に開示されているようなステアリン酸、パルミチン酸等の高級脂肪酸、そのアミド、金属塩等が好ましい。離型剤の配合量としては、PI固形分100質量部に対して0.01〜2質量部とすることが好ましい。
PAA溶液には、必要に応じて、レベリング剤、シランカップラ、イミド化促進剤等公知の添加物を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。また、必要に応じて、PI以外のポリマーを、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
本発明の多孔質PIフィルムは、例えば、PAA溶液を、基材の表面に塗布し、乾燥、熱硬化することにより、その後、基材から多孔質PIフィルムを剥離することにより得ることができる。なお、基材上に形成された多孔質PIフィルムは、基材から剥離することなく、基材と積層一体化して用いることもできる。
前記乾燥工程において、塗膜に含まれる溶媒を揮発させることにより相分離が誘起され多孔な粗質PAA被膜が形成される。乾燥温度としては、100〜200℃とすることが好ましい。また、PAAを熱硬化してPIとするための温度としては、250〜400℃とすることが好ましい。
以上、PI前駆体であるPAA溶液を用いたPIの例について説明したが、可溶性PIまたはPAI、PEI等の変性PI等のPIについても、前記した方法と同様の方法により、本発明の多孔質PIフィルムとすることができる。すなわち、基材上に、PIと溶媒とを含む溶液を塗布して塗膜を形成し、しかる後、前記塗膜中の溶媒を除去することにより、塗膜内で相分離を起こさせて多孔質PI層を形成せしめるに際し、溶質としてPIを含み、PIの貧溶媒であるテトラグライムが全溶媒質量に対し、70質量%以上、好ましくは80質量%含有されている均一溶液を用い、これを基材上に塗布して塗膜を形成し、これを100〜200℃で乾燥することにより、本発明の多孔質PIフィルムを得ることができる。可溶性PIまたは変性PIとしては、市販品を用いることができる。市販品としては、サビック社製、ウルテム(可溶性PI)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製、トーロン(PAI)等を挙げることができる。
PAA溶液またはPI溶液の基材への塗布は、任意の塗工機を用いて行うことができる。塗工機としては、ダイコーター、リップコーター、グラビアコーター、バーコーター、ドクターブレードコーター、コンマコーター、リバースロールコーター、バーリバースロールコーター等を挙げることができる。また、多層塗布することも可能であり、その際、各層のPAA溶液またはPI溶液は同じであっても異なっていてもよい。
基材としては、金属箔(銅、アルミニウム、鉄、銀、パラジウム、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステンまたはそれらの合金等)、ポリエステル系フィルム(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、芳香族ポリイミド系フィルム、フッ素樹脂系フィルム(ポリテトラフルオロエチレン等)等を挙げることができる。
これらの中で、ポリエチレンテレフタレートフィルムまたはアルミニウム箔が好ましい。これらの基材は、表面が平滑であることが好ましい。
また、表面に耐熱性の離型層が形成された離型用の金属箔またはプラスチックフィルムも好ましく用いることができる。
これらの離型用金属箔またはプラスチックフィルムは、市販品を用いることができる。
このようにして得られる多孔質PIフィルムは、厚みとして、「30μm以上、300μm以下」、密度として、「50kg/m以上、250kg/m以下」、平均孔径として、「0.1μm以上、15μm以下」を有するものであり、このような特性を有する多孔質PIフィルムは、本発明の多孔質PIフィルムをもって嚆矢となすものである。
上記特性を有する多孔質PIフィルムをスピーカ振動板として用いることは、従来、知られていなかった。本発明の多孔質PIフィルムは、その平均孔径が、充分に小さいので、例えば、スピーカ振動板として用いた場合、その軽量化を図った場合でも、充分な音速を確保することができる。
振動板の音速としては、900m/sec以上とすることが好ましく、1000m/sec以上とすることがより好ましい。ここで、音速は、JIS K7161に基づき引張モードで弾性率を測定した後、この弾性率を密度で割って比弾性率を算出し、この平方根を求めることにより得られる値である。
多孔質PIフィルムの厚みおよび密度を前記のようにした上で、平均孔径を前記のようにすることにより、多孔質PIフィルムをスピーカ振動板とした際、軽量化とともに、その良好な音質を確保することができる。
本発明の多孔質PIフィルムを、スピーカ振動板として使用する際には、この多孔質PIフィルムの両面に接着層を介して、アルミニウム箔を積層して用いることができる。このようにすることによりスピーカ振動板とした際の音質特性をより向上させることができる。アルミニウム箔は、厚みを5μm〜200μmとすることが好ましく、10μm〜150μmとすることがより好ましい。
前記接着剤としては、耐熱性を有する接着剤であることが好ましく、具体例としては、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリイミド系接着剤等を挙げることができる。
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお本発明は実施例により限定されるものではない。
<実施例1>
ガラス製反応容器に、窒素ガス雰囲気下、ジアミン成分として、ODA:0.6モル、テトラカルボン酸成分としてPMDA:0.6モル、溶媒としてDMAcおよびテトラグライムからなる混合溶媒(DMAc/テトラグライムの混合比率は質量比で25/75)を仕込み、攪拌下、40℃で10時間反応させることにより、固形分濃度が9.5質量%の共重合PAA溶液を得た。
このPAA溶液を、ドクターブレードコーターを用いて、厚み100μmの離型層付きポリエステルフィルム(基材)上に塗布し、130℃で30分乾燥して、多孔質PAA塗膜を形成した。乾燥に際しては、揮発する溶媒を、乾燥炉内の空間に籠らせて、加熱するようにした。しかる後、この塗膜をポリエステルフィルムから分離し、200℃で30分、320℃で90分加熱して、熱硬化することにより、DSCに基づくガラス転移温度が400℃以上の多孔質PIフィルム(A−1)を得た。 このPIフィルムの特性を表1に示した。
<実施例2>
ジアミン成分として、ODA:0.58モルおよび信越化学社製KF−8010(数平均分子量860):0.02モルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、共重合PAA溶液を得た。このPAA溶液を、実施例1と同様にして、共重合PAA溶液を得た。このPAA溶液を、実施例1と同様にして、多孔質PIフィルム(A−2)を得た。A−2の特性を表1に示した。
<実施例3>
ジアミン成分として、ODA:0.59モルおよびハンツマン社製「ジェファーミン」D2000(オキシアルキレンユニットを有するジアミンで、数平均分子量2000)0.01モルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、共重合PAA溶液を得た。このPAA溶液を、実施例1と同様にして、多孔質PIフィルム(A−3)を得た。A−3の特性を表1に示した。
<実施例4>
混合溶媒として、DMAc/テトラグライムの混合比率を質量比で20/80としたものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、共重合PAA溶液を得た。このPAA溶液を、実施例1と同様にして、多孔質PIフィルム(A−4)を得た。A−4の特性を表1に示した。
<実施例5>
混合溶媒として、DMAc/テトラグライムの混合比率を質量比で15/85としたものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、共重合PAA溶液を得た。 このPAA溶液を、実施例1と同様にして、多孔質PIフィルム(A−5)を得た。A−5の特性を表1に示した。
<実施例6>
テトラカルボン酸成分としてBPDAを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、共重合PAA溶液を得た。 このPAA溶液を、実施例1と同様にして、多孔質PIフィルム(A−6)を得た。A−6の特性を表1に示した。なお、A−6のガラス転移温度は、285℃であった。
<実施例7>
テトラカルボン酸成分としてBTDAを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、共重合PAA溶液を得た。 このPAA溶液を、実施例1と同様にして、多孔質PIフィルム(A−7)を得た。A−7の特性を表1に示した。なお、A−7のガラス転移温度は、285℃であった。
<実施例8>
ドクターブレードと基材とのギャップを調整することにより、厚み210μmの多孔質PIフィルムを作成したこと以外は、実施例1と同様にして、多孔質PIフィルム(A−8)を得た。A−8の特性を表1に示した。
<実施例9>
ドクターブレードと基材とのギャップを調整することにより、厚み150μmの多孔質PIフィルムを作成したこと以外は、実施例1と同様にして、共重合PAA溶液を得た。 このPAA溶液を、実施例1と同様にして、多孔質PIフィルム(A−9)を得た。A−9の特性を表1に示した。
<実施例10>
PIとして、ガラス転移温度が280℃のPAI粉体(ソルベイアドバンストポリマーズ社製トーロン4000T−HV)を準備した。これを、NMPおよびテトラグライムからなる混合溶媒(NMP/テトラグライムの混合比率は質量比で15/85)に均一に溶解させることにより、固形分濃度が9.5質量%のPAI溶液を得た。
このPAI溶液を、ドクターブレードコーターを用いて、厚み100μmの離型層付きポリエステルフィルム(基材)上に塗布し、140℃で30分乾燥して、多孔質PAI塗膜を形成した。乾燥に際しては、揮発する溶媒を、乾燥炉内の空間に籠らせて、加熱するようにした。この塗膜を基材から剥離することにより、多孔質PIフィルム(A−10)を得た。 このPIフィルムの特性を表1に示した。
<実施例11>
ドクターブレードと基材とのギャップを調整することにより、厚み145μmの多孔質PIフィルムを作成したこと以外は、実施例10と同様にして、多孔質PIフィルム(A−11)を得た。A−11の特性を表1に示した。
<比較例1>
溶媒として、DMAcおよびトリグライムからなる混合溶媒(DMAc/トリグライムの混合比率は質量比で50/50)を用い、ドクターブレードと基材とのギャップを調整することにより、厚み400μmの多孔質PIフィルムを作成したこと以外は、実施例1と同様にして、共重合PAA溶液を得た。 このPAA溶液を、実施例1と同様にして、多孔質PIフィルム(B−1)を得た。B−1の特性を表1に示した。
<比較例2>
溶媒として、DMAcおよびトリグライムからなる混合溶媒(DMAc/トリグライムの混合比率は質量比で50/50)を用い、ドクターブレードと基材とのギャップを調整することにより、厚み250μmの多孔質PIフィルムを作成したこと以外は、実施例1と同様にして、共重合PAA溶液を得た。 このPAA溶液を、実施例1と同様にして、多孔質PIフィルム(B−2)を得た。B−2の特性を表1に示した。
<比較例3>
酸成分として、BPDAを用い、溶媒として、DMAcおよびトリグライムからなる混合溶媒(DMAc/トリグライムの混合比率は質量比で50/50)を用い、ドクターブレードと基材とのギャップを調整することにより、厚み250μmの多孔質PIフィルムを作成したこと以外は、実施例1と同様にして、共重合PAA溶液を得た。 このPAA溶液を、実施例1と同様にして、多孔質PIフィルム(B−3)を得た。B−3の特性を表1に示した。
<比較例4>
溶媒として、DMAcおよびトリグライムからなる混合溶媒(DMAc/トリグライムの混合比率は質量比で30/70)を用い、ドクターブレードと基材とのギャップを調整することにより、厚み250μmの多孔質PIフィルムを作成したこと以外は、実施例1と同様にして、共重合PAA溶液を得た。 このPAA溶液を、実施例1と同様にして、多孔質PIフィルム(B−4)を得た。B−4の特性を表1に示した。
<比較例5>
溶媒として、DMAcおよびテトラグライムからなる混合溶媒(DMAc/テトラグライムの混合比率は質量比で50/50)を用い、ドクターブレードと基材とのギャップを調整することにより、厚み250μmの多孔質PIフィルムを作成したこと以外は、実施例1と同様にして、共重合PAA溶液を得た。 このPAA溶液を、実施例1と同様にして、多孔質PIフィルム(B−5)を得た。B−5の特性を表1に示した。
<比較例6>
固形分濃度を18質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、共重合PAA溶液を得た。 このPAA溶液を、実施例1と同様にして、多孔質PIフィルム(B−6)を得た。B−6の特性を表1に示した。
<比較例7>
溶媒として、DMAcおよびジグライムからなる混合溶媒(DMAc/ジグライムの混合比率は質量比で30/70)を用い、ドクターブレードと基材とのギャップを調整することにより、厚み250μmの多孔質PIフィルムを作成したこと以外は、実施例1と同様にして、共重合PAA溶液を得た。 このPAA溶液を、実施例1と同様にして、多孔質PIフィルムを得たようとしたが、このフィルムには気孔は殆ど形成されていなかった。
<比較例8>
密度が7kg/mである市販ポリイミド発泡体ブロックをスライスして厚みが300μmの多孔質PIフィルムを得ようとしたが、このブロックは脆弱なため、スライスの際、フィルムの破断が起こり、多孔質PIフィルムは採取できなかった。
Figure 0006557846
実施例で得られた多孔質PIフィルムは、厚みおよび密度が充分に低下しているにも拘わらず、充分な音速を確保することができることが判る。これにより、本発明の多孔質PIフィルムは、軽量かつ音質に優れたスピーカ振動板として好適に用いられることが判る。
本発明の多孔質PIフィルムは、耐熱性、軽量性、剛性、音速特性に優れる。従い、本発明の多孔質PIフィルムからなるスピーカ振動板を用いたスピーカは、小型化、薄型化、軽量化が必要な携帯電話等の移動通信端末に好適に用いることができる。

Claims (2)

  1. 厚みが30μm以上、300μm以下、平均孔径が0.1μm以上、15μm以下、音速(音波の伝搬速度)が900m/sec以上である多孔質ポリイミド(PI)フィルムからなるスピーカ振動板
  2. 基材上に、PIまたはPI前駆体と、溶媒と、を含む溶液を塗布して塗膜を形成し、しかる後、前記塗膜中の溶媒を除去することにより塗膜内で相分離を起こさせて多孔質PI層を形成せしめるに際し、前記溶液の溶媒として、PIまたはPI前駆体の貧溶媒であるテトラグライムが、全溶媒質量に対し70質量%以上含有されている溶液を用いることを特徴とする請求項1記載のスピーカ振動板の製造方法。
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