JP6445741B2 - 電磁波吸収シート - Google Patents

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Description

本開示は、電磁波を吸収する電磁波吸収シートに関し、特に、可撓性に優れ、磁気共鳴によって電磁波を吸収する磁性体材料を有してミリ波帯域以上の高い周波数の電磁波を吸収する電磁波吸収シートに関する。
電気回路などから外部へと放出される漏洩電磁波や、不所望に反射した電磁波の影響を回避するために、電磁波を吸収する電磁波吸収シートが用いられている。
近年は、携帯電話などの移動体通信や無線LAN、料金自動収受システム(ETC)などで、数ギガヘルツ(GHz)の周波数帯域を持つセンチメートル波、さらには、30ギガヘルツから300ギガヘルツの周波数を有するミリ波帯、ミリ波帯域を超えた高い周波数帯域の電磁波として、1テラヘルツ(THz)の周波数を有する電磁波を利用する技術の研究も進んでいる。
このようなより高い周波数の電磁波を利用する技術トレンドに対応して、不要な電磁波を吸収する電磁波吸収体やシート状に形成された電磁波吸収シートにおいても、ギガヘルツ帯域からテラヘルツ帯域の電磁波を吸収可能とするものへの要望が高まっている。
このような高い周波数の電磁波を吸収する電磁波吸収体として、25〜100ギガヘルツの範囲で電磁波吸収性能を発揮するイプシロン酸化鉄(ε−Fe23)結晶を磁性相に持つ粒子の充填構造を有する電磁波吸収体が提案されている(特許文献1参照)。また、イプシロン酸化鉄の微細粒子をバインダーとともに混練し、バインダーの乾燥硬化時に外部から磁界を印加してイプシロン酸化鉄粒子の磁場配向性を高めた、シート状の配向体についての提案がなされている(特許文献2参照)。
特開2008− 60484号公報 特開2016−135737号公報
電磁波を発生する発生源からの漏洩電磁波を遮蔽する場合や、不測の反射波や外部から入射する電磁波から所定の電子回路部品を保護する場合、対象となる回路部品を覆う形状に電磁波吸収部材を配置することが必要となる。この場合に、対象となる回路部品を覆う形状に電磁波吸収材料を成型するよりも、対象となる回路部品を収容する電子機器の筐体など、既存の部材の外面や内面に電磁波吸収部材を貼り付ける方が、多くの場合は容易である。
このように、既存の部材を利用して対象となる回路部品の周囲に電磁波吸収部材を配置する際には、電磁波吸収材料を隙間無く配置することが極めて重要となる。また、電磁波吸収部材を配置する場所の形状が曲面である場合には固形の電磁波吸収体よりも、曲面形状に追従可能な電磁波吸収シートがより有用である。また、電磁波吸収シートを隙間なく配置しようとする際に貼り直しの作業が必要となる場合があるが、一旦貼り付けた電磁波吸収シートを剥がそうとするとシートが強く折り曲げられた状態となることも考えられる。このため、電磁波吸収シートには、このような貼り直し作業にも耐え得る高い可撓性を有していることが求められる。しかし、ミリ波帯域もしくはそれ以上の高い周波数帯域の電磁波を吸収することができる従来の電磁波吸収部材は、シート状のものであっても、十分な可撓性を有しているとは言えなかった。
本開示は、上記電磁波吸収シートに対する要請を踏まえて、ミリ波帯域以上の高い周波数の電磁波を良好に吸収することができ、かつ、可撓性に優れて所望する部分に容易に配置することができる電磁波吸収シートを実現することを目的とする。
上記課題を解決するため本願で開示する電磁波吸収シートは、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄と樹脂製のバインダーとを含んだ電磁波吸収層を有し、照射される電磁波を、前記磁性酸化鉄の磁気共鳴によって吸収する電磁波吸収シートであって、弾性変形領域において、リボン状のシートを湾曲させた際に、シートの湾曲部から10mmの位置Lにおけるシート内側面同士の間隔dを10mmとするために必要な加重量(g)を当該シートの断面積D(mm2)で除した数値として示される可撓性評価値F(g/mm2)の値が、0より大きく6以下であることを特徴とする。
本願で開示する電磁波吸収シートは、ミリ波帯域以上の周期数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄を備えるとともに、可撓性評価値Fが0より大きく6以下である。このため、ミリ波帯域以上の高周波数帯域の電磁波を吸収する電磁波吸収特性と、高い可撓性とを備えた実用性の高い電磁波吸収シートを実現することができる。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を説明する断面図である。 Feサイトの一部を置換したイプシロン酸化鉄の電磁波吸収特性を説明する図である。 シートを湾曲させた際に、シートに加えられた加重の大きさから可撓性特性値Fを測定する方法を説明するモデル図である。 電磁波吸収層に含まれるイプシロン酸化鉄粉の大きさと、電磁波吸収シートの湾曲度合いとの関係を説明するための図である。 本実施形態にかかる電磁波吸収シートの変形例である、反射型の電磁波吸収シートの構成を説明する断面図である。
本願で開示する電磁波吸収シートは、ミリ波帯域以上の高い周波数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄と樹脂製のバインダーとを含んだ電磁波吸収層を有し、照射される電磁波を、前記磁性酸化鉄の磁気共鳴によって吸収する電磁波吸収シートであって、弾性変形領域において、リボン状のシートを湾曲させた際に、シートの湾曲部から10mmの位置Lにおけるシート内側面同士の間隔dを10mmとするために必要な加重量(g)を当該シートの断面積D(mm2)で除した数値として示される可撓性評価値F(g/mm2)の値が、0より大きく6以下である。
このようにすることで、本願で開示する電磁波吸収シートは、磁性酸化鉄の磁気共鳴によってミリ波帯域またはそれ以上の高周波数帯域の電磁波を吸収することができる。また、磁性酸化鉄と樹脂製のバインダーを用いて、電磁波吸収シートの弾性変形領域において、リボン状のシートを湾曲させた際に、シートの湾曲部から10mmの位置Lにおけるシート内側面同士の間隔dを10mmとするために必要な加重量(g)を当該シートの断面積(mm2)で除した数値として示される可撓性評価値F(g/mm2)が、0より大きく6以下であるため、シートを塑性変形させることなく大きく湾曲させることができる。この結果、電磁波のシールド対象となる電子回路が収容された機器筐体の外面や内面など、電磁波吸収シートを配置する部分が曲面である場合や、シートの張り直しなどが生じてシートを強く湾曲させる事態となった場合でも、電磁波吸収層に割れやひびが入りにくく、塑性的な変形が生じない、高い可撓性を備えた電磁波吸収シートを実現することができる。
本願で開示する電磁波吸収シートにおいて、前記樹脂製バインダーのガラス転移点温度(Tg)が0度以下であることが好ましい。このようにすることで、実使用状態において十分な可撓性を有する電磁波吸収シートを実現することができる。
また、前記可撓性評価値Fの値が、1.5以上3.5以下であることが好ましい。このようにすることで、ミリ波帯域またはそれ以上の高周波数帯域における電磁波の吸収性能を維持しながら、ユーザが電磁波吸収シートを持ち運ぶ際の取り扱いやすさ(自立性)と、電磁波吸収シートの配置場所の形状への高い適応性(可撓性)とを両立させた実用性の高い電磁波吸収シートを実現することができる。
さらに、本願で開示する電磁波吸収シートにおいて、前記電磁波吸収層における、前記磁性酸化鉄の含有率が30体積%以上であり、前記磁性酸化鉄を含む前記バインダーに含まれる無機のフィラー粉体全体の含有率が50体積%以下であることが好ましい。このようにすることで、高い電磁波吸収特性と高い可撓性とを備えた電磁波吸収シートを実現することができる。
さらにまた、前記磁性酸化鉄がイプシロン酸化鉄粉であることが好ましい。金属酸化物として最大の保磁力を備え、自然磁気共鳴周波数が数十ギガヘルツ以上であるイプシロン酸化鉄を、電磁波を吸収する電磁波吸収材料として用いることで、ミリ波帯域である30〜300ギガヘルツまたはそれ以上の高周波数の電磁波を吸収することができる。
この場合において、前記イプシロン酸化鉄粉がFeサイトの一部が3価の金属原子で置換されているイプシロン酸化鉄の粉体であることが好ましい。このようにすることで、Feサイトを置換する材料によって磁気共鳴周波数が異なるイプシロン酸化鉄の特性を活かして、所望の周波数帯域の電磁波を吸収する電磁波吸収シートを実現することができる。
また、前記電磁波吸収層の背面側に接着層が形成されていることが好ましい。このようにすることで、高い電磁波吸収特性を備えるとともに、所望する場所に容易に配置することができる取り扱い性に優れた電磁波吸収シートを実現することができる。
さらに、本願で開示する電磁波吸収シートにおいて、前記電磁波吸収層の一方の面に接して前記電磁波吸収層を透過した電磁波を反射する反射層が形成されていることが好ましい。このようにすることで、ミリ波以上の周波数帯域の電磁波の遮蔽と吸収とを確実に行うことができる、いわゆる反射型の電磁波吸収シートを実現することができる。
さらにまた、前記電磁波吸収層と前記反射層との積層体の背面側に接着層が形成されていることが好ましい。このようにすることで、高い電磁波吸収特性を備えるとともに、所望する場所に容易に配置することができる取り扱い性に優れた反射型の電磁波吸収シートを実現することができる。
以下、本願で開示する電磁波吸収シートについて、図面を参照して説明する。
(実施の形態)
[シート構成]
図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を示す断面図である。
なお、図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を理解しやすくするために記載された図であり、図中に示された部材の大きさや厚みについて現実に即して表されたものではない。
本実施形態で例示する電磁波吸収シートは、酸化磁性鉄1aと樹脂製のバインダー1bとを含む電磁波吸収層1を備えている。なお、図1に示す電磁波吸収シートは、電磁波吸収層1の背面側(図1における下方側)に、電磁波吸収シートを電子機器の筐体の内表面、または、外表面などの所定の場所に貼着可能とするための接着層2が形成されている。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、電磁波吸収層1に含まれる磁性酸化鉄1aが磁気共鳴を起こすことで、磁気損失によって電磁波を熱エネルギーに変換して散逸するものであるため、電磁波吸収層1のみで電磁波の吸収が可能である。このため、図1に示すように、電磁波吸収層1の一方の表面に反射層を設けずに、電磁波吸収層1を透過する電磁波を吸収するいわゆる透過型の電磁波吸収シートとして使用することができる。
また、本実施形態の電磁波吸収シートは、樹脂製バインダー1bで電磁波吸収層1を構成し、弾性変形領域において可撓性評価値F(g/mm2)の値が0より大きく6以下であるために、湾曲面に貼着することや、一旦貼着した後に剥がして改めて貼着し直すことが容易にできる、実用性の高い電磁波吸収シートとして実現できる。なお、可撓性評価値Fの定義やその測定方法については、後に詳述する。
さらに、本実施形態の電磁波吸収シートは、高周波電磁波の発生源の周囲の部材の表面など所望する場所に貼着し易いように、電磁波吸収層1の一方の表面に接着層2が積層されている。なお、接着層2を有することは、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、必須の要件ではない。
[磁性酸化物]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、電磁波吸収層1に、電磁波を吸収する部材としての磁性酸化鉄1aが含まれている。この磁性酸化鉄1aは、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴するものとして、イプシロン酸化鉄、または、ストロンチウムフェライトが好適に用いられる。また、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、磁性酸化鉄1aは樹脂製バインダー1bに分散して含有されるものであることから、粒子状であることが好ましい。
イプシロン酸化鉄(ε−Fe23)は、酸化第二鉄(Fe23)において、アルファ相(α−Fe23)とガンマ相(γ−Fe23)との間に現れる相であり、逆ミセル法とゾルーゲル法とを組み合わせたナノ微粒子合成方法によって単相の状態で得られるようになった磁性材料である。
イプシロン酸化鉄は、数nmから数十nmの微細粒子でありながら常温で約20kOeという金属酸化物として最大の保磁力を備え、さらに、歳差運動に基づくジャイロ磁気効果による自然磁気共鳴が数十ギガヘルツ以上のいわゆるミリ波帯の周波数帯域で生じるため、ミリ波帯域である30〜300ギガヘルツ、またはそれ以上の高周波数の電磁波を吸収するという高い効果を有する。
さらに、イプシロン酸化鉄は、結晶のFeサイトの一部をアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)などの3価の金属元素と置換された結晶とすることで、磁気共鳴周波数、すなわち、電磁波吸収材料として用いられる場合に吸収する電磁波の周波数を異ならせることができる。
図2は、Feサイトと置換する金属元素を異ならせた場合の、イプシロン酸化鉄の保磁力Hcと自然共鳴周波数fとの関係を示している。なお、自然共鳴周波数fは、吸収する電磁波の周波数とほぼ一致する。
図2から、Feサイトの一部が置換されたイプシロン酸化鉄は、置換された金属元素の種類と置換された量によって、自然共鳴周波数が異なることがわかる。また、自然共鳴周波数の値が高くなるほど、当該イプシロン酸化鉄の保磁力が大きくなっていることがわかる。
より具体的には、ガリウム置換のイプシロン酸化鉄、すなわちε−GaxFe2-x3の場合には、置換量「x」を調整することで30ギガヘルツから150ギガヘルツ程度までの周波数帯域で吸収のピークを有し、アルミニウム置換のイプシロン酸化鉄、すなわちε−AlxFe2-x3の場合には、置換量「x」を調整することで100ギガヘルツから190ギガヘルツ程度の周波数帯域で吸収のピークを有する。このため、電磁波吸収シートで吸収したい周波数の自然共鳴周波数となるように、イプシロン酸化鉄のFeサイトと置換する元素の種類を決め、さらに、Feとの置換量を調整することで、吸収される電磁波の周波数を所望の値とすることができる。さらに、置換する金属をロジウムとしたイプシロン酸化鉄、すなわちε−RhxFe2-x3の場合には、180ギガヘルツからそれ以上と、吸収する電磁波の周波数帯域をより高い方向にシフトすることが可能である。
イプシロン酸化鉄は、一部のFeサイトが金属置換された形態のものを含めて市販されているため、容易に入手することができる。
また、本実施形態に記載の電磁波吸収シートの電磁波吸収層1に含まれる酸化磁性体1aとしてストロンチウムフェライトを用いることができる。ストロンチウムフェライトは、ストロンチウムと鉄の複合酸化物であって磁石材料として一般的に用いられている。ストロンチウムフェライトは、六方晶型の結晶構造を有し、大きさは数μm程度で数十GHzの電磁波に磁気共鳴してこれを吸収することができる。
[樹脂製バインダー]
電磁波吸収層1に用いられる樹脂製のバインダー1bとしては、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ゴム系樹脂などの樹脂材料を用いることができる。
より具体的には、エポキシ系樹脂として、ビスフェノールAの両末端の水酸基をエポキシ化した化合物を用いることができる。また、ポリウレタン系樹脂として、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、エポキシ系ウレタン樹脂などを用いることができる。アクリル系の樹脂としては、メタアクリル系樹脂で、アルキル基の炭素数が2〜18の範囲にあるアクリル酸アルキルエステルおよび/またはメタクリル酸アルキルエステルと、官能基含有モノマーと、必要に応じてこれらと共重合可能な他の改質用モノマーとを共重合させることにより得られる官能基含有メタアクリルポリマーなどを用いることができる。
また、ゴム系樹脂として、スチレン系の熱可塑性エラストマーであるSIS(スチレン−イソブレンブロック共重合体)やSBS(スチレン−ブタジエンブロック共重合体)、石油系合成ゴムであるEPDM(エチレン・プロピレン・ジエン・ゴム)、その他アクリルゴムやシリコーンゴムなどのゴム系材料をバインダーとして利用することができる。
なお、これら各種の樹脂製バインダーの中でも、ポリエステル系樹脂が高い可撓性を実現する上で好ましい。また、環境に配慮する観点から、バインダーとして用いられる樹脂として、ハロゲンを含まないハロゲンフリーのものを用いることが好ましい。これらの樹脂材料は、樹脂シートのバインダーの材料として一般的なものであるため容易に入手することができる。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、弾性変形領域において可撓性評価値F(g/mm2)の値が0より大きく6以下の可撓性を備える。電磁波吸収シートとして、このような可撓性を有するために、バインダー材料としてのガラス転移点温度(Tg)は、0度以下(セ氏)のもの、より好ましくは−5度以下のものを選択することが好ましい。
一般に、金属粉、あるいは酸化鉄を含む樹脂材料のガラス転移点温度は、金属粉を含まない樹脂材料単体の場合のガラス転移点温度よりも上昇する傾向にある。このため、本実施形態にかかる電磁波吸収シートのように、樹脂製バインダーに磁性酸化鉄であるイプシロン酸化鉄粉やストロンチウムフェライト粉が所定の量(一例として30体積%)以上含まれる電磁波吸収層を備えた電磁波吸収シートの場合、実際の使用状態において電磁波吸収シートの可撓性を確保するためには、樹脂製バインダーとしてのガラス転移点温度が上記範囲であれば、電磁波吸収シートとして良好な可撓性を有するものが実現できる。
なお、ここでのガラス転移点温度(Tg)は、株式会社UBM製のRheogel−E4000(製品名)を用いて、測定条件として温度範囲が−70度〜20度、昇温速度が3度/min、周波数が10Hz、測定治具として引っ張り治具を用いて、試料形状として、幅2mm×長さ20mmで、厚みをマイクロメーター測定厚みとして測定したときの値である。
[電磁波吸収層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの電磁波吸収層1では、電磁波吸収材料として磁性酸化鉄1aが用いられるが、磁性酸化鉄1aは、上述のようにイプシロン酸化鉄粉やストロンチウムフェライト粉といった、粒径が数nmから数μmの微細な金属酸化鉄粒子であるため、電磁波吸収層1の形成時に磁性酸化鉄1aをバインダー1b内に良好に分散させることが重要となる。
このため、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、電磁波吸収層1に、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジクロリド等のアリールスルホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、プロピルホスホン酸などのアルキルホスホン酸、あるいは、ヒドロキシエタンジホスホン酸、ニトロトリスメチレンホスホン酸などの多官能ホスホン酸などのリン酸化合物を含んでいる。これらのリン酸化合物は、難燃性を有するとともに、微細な磁性酸化鉄1aの分散剤として機能するため、バインダー内の磁性酸化鉄1aを、良好に分散させることができる。
具体的には、分散剤としては、和光純薬工業株式会社製、または、日産化学工業株式会社製のフェニルホスホン酸(PPA)、城北化学工業株式会社製の酸化リン酸エステル「JP−502」(製品名)などを使用することができる。
なお、電磁波吸収層1の組成としては、一例として、イプシロン酸化鉄粉100部に対して、樹脂製バインダーが2〜50部、リン酸化合物の含有量が0.1〜15部とすることができる。樹脂製バインダーが2部より少ないと、イプシロン酸化鉄粉を良好に分散させることができない。また電磁波吸収シートとしての形状を維持できなくなる。50部より多いと、電磁波吸収シートの中でイプシロン酸化鉄粉の体積含率が小さくなり、透磁率が低くなるため電磁波吸収の効果が小さくなる。
リン酸化合物の含有量が0.1部より少ないと、樹脂製バインダーを用いて磁性酸化鉄を良好に分散させることができない。15部より多いと、磁性酸化鉄を良好に分散させる効果が飽和する。電磁波吸収シートの中で磁性酸化鉄の体積含率が小さくなり、透磁率が低くなるため電磁波吸収の効果が小さくなる。
樹脂製バインダーとリン酸化合物の含有量を上記の範囲とすることで、イプシロン酸化鉄粉の分散性が向上し、最大粒径や平均粒径を小さくできる。その結果、更に高い可撓性を有する電磁波吸収シートを実現することができる。
[電磁波吸収層の製造方法]
ここで、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおける電磁波吸収層1の製造方法の一例について説明する。本実施形態の電磁波吸収シートでは、少なくとも磁性酸化鉄1aと樹脂製バインダー1bとを含んだ磁性塗料を作製してこれを所定の厚さで塗布し、乾燥させた後にカレンダ処理することによって電磁波吸収層1を形成する。なお、以下では、磁性酸化鉄1aとしてイプシロン酸化鉄粉を用いた場合を例示する。
先ず、磁性塗料を作製する。
磁性塗料は、イプシロン酸化鉄粉と分散剤であるリン酸化合物、樹脂製バインダーの混練物を得て、これを希釈し、さらに分散した後に、フィルタで濾過することによって得ることができる。混練物は、一例として、加圧式の回分式ニーダで混練することにより得られる。また、混練物の分散は、一例としてジルコニアなどのビーズを充填したサンドミルを用いて分散液として得ることができる。なお、このとき、必要に応じて架橋剤を配合することができる。
得られた磁性塗料を、剥離性を有する支持体、一例としてシリコーンコートにより剥離処理された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)のシート上に、テーブルコータやバーコータなどを用いて塗布する。
その後、wet状態の磁性塗料を80度で乾燥し、さらにカレンダ装置を用いて所定温度でカレンダ処理を行って、支持体上に電磁波吸収層を形成できる。
一例として、支持体上に塗布したwet状態での磁性塗料の厚さを1mmとすることで、乾燥後の厚さを400μm、カレンダ処理後の電磁波吸収層の厚さを300μmとすることができた。
このようにして、磁性酸化物1aとして用いたnmオーダーの微細なイプシロン酸化鉄が樹脂製バインダー1b内に良好に分散された状態の電磁波吸収層1を形成することができた。
なお、磁性塗料を作製する他の方法として、磁性塗料成分として、少なくとも磁性酸化鉄と、分散剤であるリン酸化合物と、バインダー樹脂とを高速攪拌機で高速混合して混合物を調製し、その後、得られた混合物をサンドミルで分散処理することでも磁性塗料を得ることができる。
[接着層]
図1に示すように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、電磁波吸収層1の背面に接着層2が形成されている。
接着層2を設けることで、電磁波吸収層1を、電気回路を収納する筐体の内面や、電気機器の内面または外面の所望の位置に貼着することができる。特に、本実施形態の電磁波吸収シートは、電磁波吸収層1が可撓性を有するものであるため、接着層2によって湾曲した曲面上にも容易に貼着することができ、電磁波吸収シートの取り扱い容易性が向上する。
接着層2としては、粘着テープなどの接着層として利用される公知の材料、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。また被着体に対する粘着力の調節、糊残りの低減のために、粘着付与剤や架橋剤を用いることもできる。被着体に対する粘着力は5N/10mm〜12N/10mmが好ましい。粘着力が5N/10mmより小さいと、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれてしまったり、ずれてしまったりすることがある。また、粘着力が12N/10mmより大きいと、電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。
また接着層2の厚さは20μm〜100μmが好ましい。接着層の厚さが20μmより薄いと、粘着力が小さくなり、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれたり、ずれたりすることがある。接着層の厚さが100μmより大きいと、電磁波吸収シート全体の可撓性が小さくなってしまう畏れがある。また、接着層2が厚いと電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。また接着層2の凝集力が小さい場合は、電磁波吸収シートを剥離した場合、被着体に糊残りが生じる場合がある。
なお、本願明細書において接着層2とは、剥離不可能に貼着する接着層2であるとともに、剥離可能な貼着を行う接着層2であってもよい。
また、電磁波吸収シートを所定の面に貼着するにあたって、電磁波吸収シートが接着層2を備えていなくても、電磁波吸収シートが配置される部材の側の表面に接着性を備えることや、両面テープや接着剤を用いることで、所定の部位に電磁波吸収シートを貼着することができる。この点において、接着層2は、本実施形態に示す電磁波吸収シートにおける必須の構成要件でないことは明らかである。
[電磁波吸収シートの可撓性]
次に、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおける可撓性について説明する。なお、以下の説明では、測定対象の電磁波吸収シートとして、電磁波吸収層1のみを備えて接着層2が積層されていない電磁波吸収シートについて説明する。
図3は、本実施形態の電磁波吸収シートが備える可撓性の大小を条件付ける、電磁波吸収シートの可撓性評価値Fを測定する状態を説明する図である。
測定には、長さ100mm、幅20mmのリボン状の電磁波吸収シートを用いる。そして、図3に示すように、リボン状の電磁波吸収シートの長手方向における中間部分を中心として長さ方向の両端部分が重なるように湾曲させ、この状態を維持する外力を求める。さらに、得られた外力を電磁波吸収シートの断面積で除することで、測定対象の電磁波吸収シートの可撓性評価値Fを得ることができる。
例えば、図3に示すように、電子天秤の測定台11上に測定対象の電磁波吸収シートを配置し、外力を加えていない状態での電磁波吸収シートの自重を測定する。その後、外力を加えて変形させた状態における電子天秤に加わる重さを測定し、得られた測定結果から電磁波吸収シートの自重分の重さを除去することで、電磁波吸収シートを湾曲させた状態で維持するために必要な加重量が判明する。
電磁波吸収シートを所定の湾曲状態で維持するために、電磁波吸収シートの上方側には、図3に示すようなプレート部材12を配置して、このプレート部材12に対して、鉛直下方側に向けて図3中に白矢印13として示す外力を加える。このとき、電磁波吸収シート1の湾曲部分における外側の端部からの距離Lが、L=10mmである部分において、湾曲されている電磁波吸収シートの内側面同士の間隔dが、d=10mmとなるときの、外力13の大きさを重量として測定し、これを電磁波吸収シートの断面積D(単位:mm2)で除した数値を、可撓性評価値F(g/mm2)とする。なお、可撓性評価値F(g/mm2)は、温度23度、湿度50%Rhの環境下で測定する。
例えば、厚さ100μm(=0.1mm)の電磁波吸収シートに対し、図3のような状態となった際に加えられた外力13が、電子天秤により6グラム重として表示される場合は、電磁波吸収シートの断面積Dが20(mm)×0.1(mm)=2(mm2)であるから、求める可撓性評価値Fは、6÷2=3g/mm2となる。この可撓性評価値Fの値が、0より大きく、6以下である場合には、電磁波吸収シートとして良好な可撓性を有していると言うことができる。また、この数値が、0より大きく4以下の範囲であれば、自立性と可撓性とを両立して備えているという点で好ましく、Fの値が1.5以上3.5以下の範囲であれば、さらに好ましい可撓性を備えた電磁波吸収シートということができる。
なお、可撓性評価値Fの値が0より大きいものとする理由は、F=0の電磁波吸収シートの場合は、自重のみによってシートが湾曲している状態であり、図3に示すような折り曲げ部から両端部へ向かう部分が平行に維持される形状を形成することができない。このような電磁波吸収シートでは、柔らかすぎて自立性がなくなり、ユーザが持ち運ぶ場合や所定の場所に貼着する際の取り扱いが困難となる。また、F=6を超えた場合は電磁波吸収シートを湾曲させる際に大きな力が必要となり、作業性が低下する。
同様に、可撓性評価値Fの下限値として、0.1または0.01などの有効数字1桁として判断した場合にその値が「0」となるものは、測定値そのものが「0」の場合とは区別して考える。これは、上述したように自重のみで電磁波吸収シートが湾曲している状態を可撓性評価値F=0として示すのに対して、たとえ0.01であっても0より大きい数値であれば、電磁波吸収シートを押圧する力が必要であることを意味しているからである。したがって、本願発明において、電磁波吸収シートの可撓性評価値Fが0より大きいとは、電磁波吸収シートを湾曲させた際に、湾曲部分における外側の端部からの距離Lが10mmである部分において、湾曲されている電磁波吸収シートの内側面同士の間隔dが10mmとなるために、何らかの外力が必要であることを意味している。
なお、図3に示した可撓性評価値Fの測定において、測定対象の電磁波吸収シートが弾性変形領域にあることが前提となる。すなわち、上記可撓性評価値Fを測定した後にシート上のプレート部材12を取り除くと、電磁波吸収シートが初期の形状に戻ることが重要である。プレート部材12を取り除いても、加えられた外力によって塑性変形が生じてシートが初期の形状に戻らなかったり、シートの湾曲部分の外側部分にひび割れなどの外見上の異常が生じたりする場合は、当該電磁波吸収シートは所定の可撓性評価値を備えないものと判断される。
また、電磁波吸収シートの初期状態としては、電磁波吸収シートを電子天秤の測定台上に載置して両端部分を重ねた場合に、両端部分が重なって2つ折りになった状態とはなるが、湾曲部分の径が大きくて湾曲部の外側端部からの距離Lが10mmの部分での電磁波吸収シートの間隔dが10mmよりも大きくなることが考えられる。これは、可撓性が比較的大きな電磁波吸収シートの場合の初期形状である。また、より可撓性が小さな電磁波吸収シートでは、両端部を揃えようとしても重ならずに間隔が広がってしまい、湾曲部分よりも端部部分の内側面の間隔が大きな状態となる。さらに、可撓性が小さい電磁波吸収シートの場合には、端部を重ね合わせようとする力を取り除くと、電磁波吸収シートが直線状に戻ってしまうようになる。このため、本明細書において電磁波吸収シートが弾性変形領域にあると言う場合には、外力を取り除いた状態で、それぞれの電磁波吸収シートがその可撓性の大きさに対応した初期状態の形状に戻り得る状態であることを言うこととする。
なお、電磁波吸収シートが、接着層や後述する反射層を備えている場合でも、これらの層の厚さを電磁波吸収層の厚さよりも極めて薄く形成することができるため、これら接着層や反射層が設けられることによる可撓性評価値Fの値への影響は小さい。
このように本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、外部からのわずかな力で湾曲することと同時に、強く曲げられた状態から外力が開放された場合には、もとの形状に戻る復元性が高いことも重要である。このような、高い復元性を得る上では、電磁波吸収層に含まれている磁性酸化鉄の粒径は、磁性酸化鉄がイプシロン酸化鉄の場合は平均粒径が5〜50nm、磁性酸化鉄がストロンチウムフェライトの場合は平均粒径が1〜5μmであることが好ましい。
図4は、電磁波吸収層に含まれる磁性酸化鉄の粒径が、電磁波吸収シートの可撓性に与える影響を説明するためのイメージ図である。
図4(a)が、磁性酸化鉄の粒径が十分に小さい場合を、図4(b)が、磁性酸化鉄の粒径が大きな場合を、それぞれ示している。なお、図4(a)、図4(b)は、いずれも、図3に示したように、電磁波吸収シートを外側の両面から平板状の部材で押さえてその間隔を縮めて、可撓性評価値Fを測定しようとする場合の形状を示している。
図4(a)にそのイメージを示すように、樹脂製バインダー1bに含有される磁性酸化鉄1aの平均粒子径が十分小さい場合は、電磁波吸収シート(電磁波吸収層1)がきれいに湾曲して、略半円状に形成される湾曲部分から両端部が平行な直線となるように延出した形状となる。
一方、図4(b)に示すように、樹脂製のバインダー1b’に含まれる磁性酸化鉄1a’の粒径が大きい場合には、電磁波吸収シートの湾曲部分で磁性酸化鉄同士が接触してしまって、湾曲部の半径が十分に小さくならず、両端部分へと向かう直線部分が平行とならずに端部側が開いた状態となる。この状態で、両端部の間隔を縮めるように外側から挟む力(図3における外力13)を強くすると、湾曲部分で樹脂製バインダーにひび割れや破断が生じ、電磁波吸収シート(電磁波吸収層1)に塑性変形が生じてしまう。
なお、図4(a)、および、図4(b)は、あくまでも湾曲部分での磁性酸化鉄の状態をイメージとして表すものであり、電磁波吸収層の厚さに対する磁性酸化鉄の粒子径の割合は、現実のものとは異なっている。
(実施例)
次に、本実施形態にかかる電磁波吸収シートを実際に作成して、可撓性評価値を測定した測定結果を説明する。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートとして、磁性酸化物としてイプシロン酸化鉄を用い、バインダーとしてポリエステルを用いた電磁波吸収シート(実施例1)と、バインダーとしてポリウレタンを用いた電磁波吸収シート(実施例2)とを作製した。また、磁性酸化物としてストロンチウムフェライトを用い、バインダーとしてシリコーンゴムを用いた電磁波吸収シート(実施例3)を作製した。なお、いずれの実施例ともに接着層は形成せず、電磁波吸収層のみの電磁波吸収シートとした。それぞれの電磁波吸収シートの組成における配合量は以下の通りとした。
○実施例1
磁性酸化鉄
イプシロン酸化鉄粉 40.0g
バインダー
ポリエステル 73.1g
東洋紡株式会社製バイロン55SS(製品名)
Tg:−15℃ 固形分:25.6g 溶剤:47.5g
フェニルスルホン酸(PPA:分散剤) 2.0g
メチルエチルケトン(MEK:溶剤) 20.1g
○実施例2
磁性酸化鉄
イプシロン酸化鉄粉 40.0g
バインダー
ポリウレタン 50.6g
東洋紡株式会社製バイロンUR8700(製品名)
Tg:−22℃ 固形分:15.2g 溶剤:35.4g
フェニルスルホン酸(PPA:分散剤) 2.0g
メチルエチルケトン(MEK:溶剤) 2.7g
○実施例3
磁性酸化鉄
ストロンチウムフェライト粉 100.0g
バインダー
シリコーンゴム 30.0g
信越化学工業株式会社KE−510U(製品名)
Tg:−125℃
同C−8A(加琉剤)0.9gを含む。
これら3つの電磁波吸収シートに対して、図3に示した方法でその可撓性評価値Fの値を測定した。
バインダーにポリエステルを用いた実施例1の電磁波吸収シートでは、可撓性評価値Fの値は、1.4(g/mm2)となった。また、バインダーにポリウレタンを用いた実施例2の電磁波吸収シートでは、可撓性評価値Fの値は、2.7(g/mm2)となった。さらに、バインダーにシリコーンゴムを用いた実施例3の電磁波吸収シートでは、可撓性評価値Fの値は、1.1(g/mm2)となり、いずれも、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの可撓性評価値の数値範囲(0より大きく6以下)に含まれていることが確認できた。
実施例1および実施例2の電磁波吸収シートは、上述の良好な可撓性に加えて、電磁波吸収物質として用いられているイプシロン酸化鉄によって、一例として周波数が75GHzのミリ波帯域の電磁波を吸収することができる。また、実施例3の電磁波吸収シートも、電磁波吸収物質として用いられているストロンチウムフェライトによって、周波数が76GHzのミリ波帯域の電磁波を吸収することができる。
ここで、比較例として、実施例1、実施例2、および、実施例3の電磁波吸収シートと同様に、磁性酸化鉄としてイプシロン酸化鉄を含み75GHz近傍の高い周波数の電磁波を吸収する電磁波吸収シートの可撓性の数値を測定してみた。比較例として用いた電磁波吸収シートは、いずれも反射波の位相を1/2波長分ずらすことで電磁波吸収シートへの入射波と反射波とが打ち消し合って電磁波を吸収する、いわゆる電磁波干渉型(λ/4型)の電磁波吸収シートである。第1の比較例として可撓性評価値Fの値を測定した、FDK株式会社製のゴムタイプの電磁波吸収シート「SA76(製品名)」の場合、反射層である金属層を除去して測定した可撓性評価値Fの値は、8.9(g/mm2)となった。また、第2の比較例として可撓性評価値Fの値を測定した、E&Cエンジニアリング株式会社製の電磁波吸収シート「EC−SORB SF−76.5MB(製品名)」の場合、反射層である金属層を除去して測定した可撓性評価値Fの値は、7.1(g/mm2)となった。このように、比較例として測定した既存の電磁波吸収シートは、いずれも、上記実施例1、実施例2、および、実施例3の電磁波吸収シートよりも可撓性が低いことがわかった。
さらに、好ましい可撓性評価値Fの範囲を求めるために、磁性酸化鉄としてイプシロン酸化鉄粉を用いて、実施例4の電磁波吸収シートと第3の比較例の電磁波吸収シート(比較例3)とを作製した。実施例4の電磁波吸収シートと、比較例3の電磁波吸収シートの組成における配合量は以下の通りである。また、それぞれの電磁波吸収シートは、上述の実施例1〜実施例3の電磁波吸収シートと同様の作製方法で作製した。
○実施例4
磁性酸化鉄
イプシロン酸化鉄粉 40.0g
バインダー
ポリエステル 73.1g
東洋紡株式会社製バイロン50SS(製品名)
Tg:−3℃ 固形分:15.2g 溶剤:35.4g
フェニルスルホン酸(PPA:分散剤) 2.0g
メチルエチルケトン(MEK:溶剤) 20.1g
○比較例3
磁性酸化鉄
イプシロン酸化鉄粉 40.0g
バインダー
ポリウレタン 50.6g
東洋紡株式会社製バイロンUR3200(製品名)
Tg:4℃ 固形分:15.2g 溶剤:35.4g
フェニルスルホン酸(PPA:分散剤) 2.0g。
実施例4の電磁波吸収シートの可撓性評価値Fの値は、3.8(g/mm2)であり、可撓性評価値Fの測定を終了し外力を除去すると初期の形状に戻った。一方、比較例3の電磁波吸収シートの可撓性評価値Fの値は、6.3(g/mm2)となり、外力を加えてもなかなか湾曲部の半径が小さくならず、距離Lが10mmの部分での間隔dを10mmとして測定した後に観察すると、湾曲部分の外側で電磁波吸収層1の表面にひび割れが生じていた。
このことから、可撓性評価値Fの値が1以上4以下の範囲であれば、十分な可撓性と自立性とを両立した電磁波吸収シートが得られることが確認できた。一方、可撓性評価値Fの値が6より大きくなると、電磁波吸収シートの反発力が大きすぎるため、例えば、シートの張り直し時に強く曲げた場合に電磁波吸収層が損傷する恐れがあることが確認できた。
なお上記可撓性評価値Fを測定した実施例1および実施例2、さらに、実施例4、比較例3の電磁波吸収シートでは、完成後の電磁波吸収層におけるイプシロン酸化鉄の含有率が約40体積%となるように、イプシロン酸化鉄粉とバインダー材料の配合割合を決定した。また、実施例3の電磁波吸収シートについても、ストロンチウムフェライトの含有率が約40体積%となるように、ストロンチウム酸化鉄粉とバインダー材料の配合割合を決定した。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの場合、電磁波吸収層に含有される磁性酸化鉄の磁気共鳴によって入射する電磁波を吸収するものであるため、電磁波吸収層に含まれる磁性酸化鉄の含有割合が低いと電磁波吸収特性が低下する。電磁波吸収特性として、電磁波吸収シートを透過する透過波の強度を入射波の強度に対して15dB低下させる、すなわち、電磁波を90%吸収する電磁波吸収シートを得ようとすると、電磁波吸収層における磁性酸化鉄の含有割合は40体積%以上あることが目安となる。このように磁性酸化鉄の含有割合を40体積%以上とすることで、電磁波吸収層の透磁率虚部(μ'')の値を大きくすることができ、高い電磁波吸収特性を備えた電磁波吸収シートを実現することができる。
一方、電磁波吸収シートの電磁波吸収層に、磁性酸化鉄とバインダー材料として含まれる無機のフィラーなどとからなる、フィラー粉体の成分が多く含まれるほど、電磁波吸収シートの可撓性が低下する。発明者らが検討したところでは、これら無機のフィラー粉体全体の含有量が50体積%を超えると、電磁波吸収シートとしての可撓性が十分ではなくなる恐れが生じてくる。もちろん、無機のフィラー粉体それぞれの大きさや形状によって、電磁波吸収層の可撓性の度合いは変化する。また、電磁波吸収層により多くの磁性酸化鉄が含まれる方が電磁波吸収特性は向上するため、磁性酸化鉄以外のフィラーなどの固形分はなるべく含まれないように電磁波吸収層を形成することが好ましい。
[電磁波吸収シートの変形例]
ここで、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの変形例について説明する。
本願で開示する電磁波吸収シートは、電磁波吸収材料として樹脂製のバインダーとともに電磁波吸収層を形成する磁性酸化鉄の磁気共鳴によって電磁波を吸収するものであるため、電磁波吸収層の電磁波が入射する側とは反対側の表面に、金属層などの電磁波を反射する反射層を備えた構成を採用することができる。
図5に、本実施形態にかかる電磁波吸収層の変形例の構成を示す断面図である。
なお、図5は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を説明した図1と同様に、その構成を理解しやすくするために記載された図であり、図中に示された部材の大きさや厚みについて現実に即して表されたものではない。また、図1に示す電磁波吸収シートを構成するものと同じ部材には、同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
変形例の電磁波吸収シートは、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄1aと樹脂製のバインダー1bとを含む電磁波吸収層1の背面側(図5における下方側)に、電磁波吸収層1の表面に接して反射層3が形成されている。
なお、図5に示す変形例の電磁波吸収シートにおいて、反射層3のさらに背面側に、電磁波吸収シートを所定の場所に貼着することを可能とする接着層2が形成されている。
反射層3は、電磁波吸収層1の背面に密着して形成された金属層であればよい。ただし、本実施形態の電磁波吸収シートでは、電磁波吸収シートの弾性変形領域において、可撓性評価値Fの値が0より大きく6以下となるものであるため、反射層3として金属板を用いることは困難である。このため、反射層3は、電磁波吸収層1の背面側に密着して配置された金属箔、または、電磁波吸収層1の背面に蒸着された金属蒸着膜として、さらに、電磁波吸収層1の背面側に配置された樹脂などの非金属製のシート部材の電磁波吸収層1側の表面に形成された金属蒸着膜として、実現することができる。
なお、反射層3を構成する金属の種類には特に限定はなく、アルミニウムや銅、クロムなどの電子部品等で通常用いられる金属材料をはじめ、各種の金属材料を用いることができるが、電気抵抗ができるだけ小さく、耐食性の高い金属を用いることがより好ましい。
図5に示した、変形例に係る電磁波吸収シートでは、電磁波吸収層1の背面に反射層3を設けることで、電磁波が電磁波吸収シートを貫通する事態を確実に回避することができる。このため、特に高周波で駆動される電気回路部品などから外部へと放出される電磁波の漏洩を防止する電磁波吸収シートとして、好適に使用することができる。
以上説明したように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、電磁波吸収部材として電磁波吸収層に含有された磁性酸化鉄の磁気共鳴によって、ミリ波帯域、または、それ以上の高周波数帯域の電磁波を良好に吸収することができる。また、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、弾性変形領域において可撓性評価値Fの値が、0(g/mm2)より大きく6(g/mm2)以下であるため、実用上十分な程度の高い可撓性を有する。このため、電磁波吸収シートを湾曲面に容易に貼着できるとともに、電磁波吸収シートの貼り付けや張り直しを行う際に電磁波吸収シートが強く折れ曲がる状態となった場合でも、破断や可塑変形が生じない電磁波吸収シートを実現することができる。
なお、上記実施形態の説明では、電磁波吸収層を形成する方法として、磁性塗料を作製してこれを塗布、乾燥する方法について説明した。本願で開示する電磁波吸収シートにおける電磁波吸収層の作製方法としては、上記磁性塗料を塗布する方法の他に、例えば押し出し成型法などの各種の成型法を用いることが考えられる。
より具体的には、磁性酸化鉄粉と、バインダーと、必要に応じて分散剤などを予めブレンドし、ブレンドされたこれら材料を押出成型機の樹脂供給口から可塑性シリンダ内に供給する。なお、押出成型機としては、可塑性シリンダと、可塑性シリンダの先端に設けられたダイと、可塑性シリンダ内に回転自在に配設されたスクリューと、スクリューを駆動させる駆動機構とを備えた通常の押出成型機を用いることができる。押出成型機のバンドヒータによって可塑化された溶融材料が、スクリューの回転によって前方に送られて先端からシート状に押し出される。押し出された材料を、乾燥、加圧成形、カレンダ処理等を行うことで所定の厚さの電磁波吸収層を得ることができる。
また、上記実施形態では、電磁波吸収層が一層で構成された電磁波吸収シートについて説明したが、電磁波吸収層として複数の層が積層したものを採用することができる。このようにすることで、特に反射層を備えた反射型の電磁波吸収シートの場合には、電磁波吸収層の入力インピーダンスを所望の値として、空気中のインピーダンスと整合させることで、電磁波吸収シートにおける電磁波吸収特性をより向上させることができる。
本願で開示する電磁波吸収シートは、ミリ波帯域以上の高い周波数帯域の電磁波を吸収し、かつ、高い可撓性を備えた電磁波吸収シートとして有用である。
1 電磁波吸収層
1a 磁性酸化鉄
1b バインダー
2 接着層

Claims (9)

  1. ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄と樹脂製のバインダーとを含んだ電磁波吸収層を有し、照射される電磁波を、前記磁性酸化鉄の磁気共鳴によって吸収する電磁波吸収シートであって、
    弾性変形領域において、リボン状のシートを湾曲させた際に、シートの湾曲部から10mmの位置Lにおけるシート内側面同士の間隔dを10mmとするために必要な加重量(g)を当該シートの断面積D(mm2)で除した数値として示される可撓性評価値F(g/mm2)の値が、0より大きく6以下であることを特徴とする、電磁波吸収シート。
  2. 前記樹脂製バインダーのガラス転移点温度(Tg)が0度以下である、請求項1に記載の電磁波吸収シート。
  3. 前記可撓性評価値Fの値が、1.5以上3.5以下である、請求項1または2に記載の電磁波吸収シート。
  4. 前記電磁波吸収層における、前記磁性酸化鉄の含有率が30体積%以上であり、前記磁性酸化鉄を含む前記バインダーに混入している無機のフィラー粉体全体の含有率が50体積%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
  5. 前記磁性酸化鉄がイプシロン酸化鉄粉である、請求項1〜4のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
  6. 前記イプシロン酸化鉄粉がFeサイトの一部が3価の金属原子で置換されているイプシロン酸化鉄の粉体である、請求項5に記載の電磁波吸収シート。
  7. 前記電磁波吸収層の背面側に接着層が形成されている、請求項1〜6のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
  8. 前記電磁波吸収層の一方の面に接して前記電磁波吸収層を透過した電磁波を反射する反射層が形成されている、請求項1〜6のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
  9. 前記電磁波吸収層と前記反射層との積層体の背面側に接着層が形成されている、請求項8に記載の電磁波吸収シート。
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