本願で開示する電波吸収シートは、粒子状の電波吸収材料と樹脂製バインダーとを含む可撓性を有する電波吸収層を備えた電波吸収シートであって、前記電波吸収材料がミリ波帯域以上の周波帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄であり、前記電波吸収材料の磁化容易軸が、前記電波吸収シートの面内の一方向に磁場配向されている。
このようにすることで、本願で開示する電波吸収シートは、電波吸収材料の磁気共鳴によってミリ波帯域である30ギガヘルツ以上の高周波帯域の電波を吸収することができる。また、粒子状の電波吸収材料と樹脂製バインダーを用いて可撓性を有する電波吸収シートを実現することができる。さらに、電波吸収材料を電波吸収シートの面内の一方向に磁場配向することで、電波吸収シートに入射する電波を効率よく吸収することができる。このため、ミリ波レーダーや数十ギガヘルツ以上の高周波数での通信などこれからの高周波電波利用に対応した電波吸収シートを、より高い電波吸収特性を実現して、あるいは、シート厚が薄く取り扱いが容易なシートとして、提供することができる。
本願で開示する電波吸収シートにおいて、前記磁場配向の方向において、16kOeの外部磁界を印加した際の印加磁界に対する残留磁界の強度比が0.65以上であることが好ましい。また、前記磁場配向の方向において、16kOeの外部磁界を印加した際の印加磁界に対する残留磁界の強度比が0.8以上であることがさらに好ましい。
さらに、前記磁場配向の方向での前記強度比の、前記電波吸収シートの面内方向であって前記磁化配向の方向に対して垂直な方向における前記強度比に対する割合が、1.35以上であることが好ましい。
このようにすることで、電波吸収材料の磁化容易軸の方向をより好適に磁場配向させた電波吸収シートを実現でき、電波吸収特性の一層の向上を実現できる。
また、前記電波吸収材料がイプシロン酸化鉄であることが好ましい。30ギガヘルツより高い周波数の電波を吸収する電波吸収体としてのイプシロン酸化鉄を電波吸収材料として用いることで、高周波数の電波を吸収する電波吸収シートを実現することができる。
この場合において、前記イプシロン酸化鉄のFeサイトの一部が3価の金属原子で置換されていることが好ましい。Feサイトを置換する材料によって磁気共鳴周波数が異なるイプシロン磁性酸化鉄の特性を活かして、所望の周波数帯域の電波を吸収する電波吸収シートを実現することができる。
さらに、本開示にかかる電波吸収シートにおいて、前記電波吸収層における前記磁性酸化鉄の体積含率が40%以上であることが好ましい。このようにすることで、電波吸収層の透磁率虚部(μ'')の値を大きくすることができ、高い電波吸収特性を備えた電波吸収シートを実現することができる。
また、前記電波吸収層に対する電波入射角が60°以下の状態で使用されることが好ましい。電波入射角度を60°以下とすることで、電波吸収シートの面内の方向に磁場配向された電波吸収材料による好適な電波吸収特性を確保することができる。
以下、本願で開示する電波吸収シートについて、図面を参照して説明する。
(実施の形態)
[シート構成]
図1は、本実施形態にかかる電波吸収シートの構成を示す断面図である。
なお、図1は、本実施形態にかかる電波吸収シートの構成を理解しやすくするために記載された図であり、図中に示された部材の大きさや厚みについて現実に即して表されたものではない。
本実施形態で例示する電波吸収シートは、粒子状の電波吸収材料1aと樹脂製のバインダー1bとを含む電波吸収層1を備えている。なお、図1に示す電波吸収シートは、電波吸収層1の背面側(図1における下方側)に、電波吸収シートを所望する箇所に貼着可能とするため接着層2を備えている。
本実施形態にかかる電波吸収シートは、電波吸収層1に含まれる電波吸収材料1aが磁気共鳴を起こすことで電磁波である電波を磁気損失によって熱エネルギーに変換して吸収する。このため、いわゆる位相差吸収方式の電波吸収シートのように、電波吸収層の背面側に電波を反射する反射シートを設けない透過型の電波吸収シートとして構成することができる。
[電波吸収材料]
本実施形態にかかる電波吸収シートでは、粒子状の電波吸収材料として、イプシロン酸化鉄磁性粉、バリウムフェライト磁性粉、ストロンチウムフェライト磁性粉などの磁性酸化鉄の粉体を使用することができる。これらの中でもイプシロン酸化鉄は、鉄原子の電子がスピン運動する時の歳差運動の周波数が高く、ミリ波帯域である30〜300ギガヘルツ、またはそれ以上の高周波数の電波を吸収する効果が高いため、電波吸収材料として特に好適である。
イプシロン酸化鉄(ε−Fe2O3)は、酸化第二鉄(Fe2O3)において、アルファ相(α−Fe2O3)とガンマ相(γ−Fe2O3)との間に現れる相であり、逆ミセル法とゾルーゲル法とを組み合わせたナノ微粒子合成方法によって単相の状態で得られるようになった磁性材料である。
イプシロン酸化鉄は、数nmから数十nmの微細粒子でありながら常温で約20kOeという金属酸化物として最大の保磁力を備え、さらに、歳差運動に基づくジャイロ磁気効果による自然磁気共鳴が数十ギガヘルツ以上のいわゆるミリ波帯の周波数帯域で生じる。
さらに、イプシロン酸化鉄は、結晶のFeサイトの一部をアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)などの3価の金属元素と置換された結晶とすることで、磁気共鳴周波数、すなわち、電波吸収材料として用いられる場合に吸収する電波の周波数を異ならせることができる。
図2は、Feサイトと置換する金属元素を異ならせた場合の、イプシロン酸化鉄の保磁力Hcと自然共鳴周波数fとの関係を示している。なお、自然共鳴周波数fは、吸収する電波の周波数と一致する。
図2から、Feサイトの一部が置換されたイプシロン酸化鉄は、置換された金属元素の種類と置換された量によって、自然共鳴周波数が異なる。また、自然共鳴周波数の値が高くなるほど、当該イプシロン酸化鉄の保磁力が大きくなっていることがわかる。
より具体的には、ガリウム置換のイプシロン酸化鉄、すなわちε−GaxFe2-xO3の場合には、置換量「x」を調整することで30ギガヘルツから150ギガヘルツ程度までの周波数帯域で吸収のピークを有し、アルミニウム置換のイプシロン酸化鉄、すなわちε−AlxFe2-xO3の場合には、置換量「x」を調整することで100ギガヘルツから190ギガヘルツ程度の周波数帯域で吸収のピークを有する。このため、電波吸収シートで吸収したい周波数の自然共鳴周波数となるように、イプシロン酸化鉄のFeサイトと置換する元素の種類を決め、さらに、Feとの置換量を調整することで、吸収される電波の周波数を所望の値とすることができる。さらに、置換する金属をロジウムとしたイプシロン酸化鉄、すなわちε−RhxFe2-xO3の場合には、180ギガヘルツからそれ以上と、吸収する電波の周波数帯域をより高い方向にシフトすることが可能である。
イプシロン酸化鉄は、一部のFeサイトが金属置換されたものを含めて購入することが可能で、本実施形態にかかる電波吸収シートを形成するに当たっては、電波吸収材料1aとして、平均粒径が約30nm程度の略球形または短いロッド形状(棒状)をしたε−AlxFe2-xO3粒子を入手した。
[電波吸収層]
電波吸収層1に用いられる樹脂製のバインダー1bとしては、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ゴム系樹脂などの樹脂材料を用いることができる。
より具体的には、エポキシ系樹脂として、ビスフェノールAの両末端の水酸基をエポキシ化した化合物を用いることができる。また、ポリウレタン系樹脂として、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、エポキシ系ウレタン樹脂などを用いることができる。アクリル系の樹脂としては、メタアクリル系樹脂で、アルキル基の炭素数が2〜18の範囲にあるアクリル酸アルキルエステルおよび/またはメタクリル酸アルキルエステルと、官能基含有モノマーと、必要に応じてこれらと共重合可能な他の改質用モノマーとを共重合させることにより得られる官能基含有メタアクリルポリマーなどを用いることができる。
また、ゴム系樹脂として、スチレン系の熱可塑性エラストマーであるSIS(スチレン−イソブレンブロック共重合体)やSBS(スチレン−ブタジエンブロック共重合体)、石油系合成ゴムであるEPDM(エチレン・プロピレン・ジエン・ゴム)、その他アクリルゴムやシリコンゴムなどのゴム系材料をバインダーとして利用することができる。
なお、環境に配慮する観点から、バインダーとして用いられる樹脂としては、ハロゲンを含まないハロゲンフリーのものを用いることが好ましい。これらの樹脂材料は、樹脂シートのバインダーの材料として一般的なものであるため容易に入手することができる。
本実施形態にかかる電波吸収シートの電波吸収層1は、電波吸収体1aである粒子状の磁性酸化鉄と樹脂製のバインダー1bとで構成しているため、可撓性を有するシート状のものとすることができる。なお、本明細書において可撓性を有するとは、電波吸収層1が一定程度湾曲させることができる状態を示している。例えば、バインダーとして東洋紡株式会社製のポリエステルウレタン樹脂である「バイロンUR8700」(商品名、なお、バイロンは登録商標)を用いた厚さが数百μmの電波吸収層の場合には、直径が数mm〜10mm程度の筒状となるようにシートを丸めた場合でも、湾曲状態を解除した際に破断などの塑性変形が生じずに平面状のシートに復帰する。
本実施形態にかかる電波吸収シートの電波吸収層1では、電波吸収材料1aとしてイプシロン酸化鉄を用いるが、イプシロン酸化鉄は上述のように粒径が数nmから数十nmの微細なナノ粒子であるため、電波吸収層1の形成時にバインダー1b内に良好に分散させることが重要となる。このため、本実施形態にかかる電波吸収シートでは、電波吸収層1に、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジクロリド等のアリールスルホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、プロピルホスホン酸などのアルキルホスホン酸、あるいは、ヒドロキシエタンジホスホン酸、ニトロトリスメチレンホスホン酸などの多官能ホスホン酸などのリン酸化合物を含んでいる。これらのリン酸化合物は、難燃性を有するとともに、微細な磁性酸化鉄粉の分散剤として機能するため、バインダー内のイプシロン酸化鉄粒子を、良好に分散させることができる。
具体的には、分散剤としては、和光純薬工業株式会社製、または、日産化学工業株式会社製のフェニルホスホン酸(PPA)城北化学工業株式会社製の酸化リン酸エステル「JP−502」(製品名)などを使用することができる。
なお、電波吸収層1の組成としては、一例として、イプシロン酸化鉄粉100部に対して、樹脂製バインダーが2〜50部、リン酸化合物の含有量が0.1〜15部とすることができる。樹脂製バインダーが2部より少ないと、磁性酸化鉄を良好に分散させることができない。また電波吸収シートとしての形状を維持できなくなる。50部より多いと、電波吸収シートの中で磁性酸化鉄の体積含率が小さくなり、透磁率が低くなるため電波吸収の効果が小さくなる。
リン酸化合物の含有量が0.1部より少ないと、樹脂製バインダーを用いて磁性酸化鉄を良好に分散させることができない。15部より多いと、磁性酸化鉄を良好に分散させる効果が飽和する。電波吸収シートの中で磁性酸化鉄の体積含率が小さくなり、透磁率が低くなるため電波吸収の効果が小さくなる。
[電波吸収層の製造方法]
ここで、本実施形態にかかる電波吸収シートにおける電波吸収層1の製造方法の例について説明する。本実施形態の電波吸収シートでは、少なくとも磁性酸化鉄粉と樹脂製バインダーとを含んだ磁性塗料を作成してこれを所定の厚さで塗布し、乾燥させた後にカレンダ処理することによって電波吸収層1を形成する。
先ず、磁性塗料を作製する。
磁性塗料は、イプシロン酸化鉄粉と分散剤であるリン酸化合物、樹脂製バインダーの混練物を得て、これを希釈し、さらに分散した後に、フィルタで濾過することによって得ることができる。混練物は、一例として、加圧式の回分式ニーダで混練することにより得られる。また、混練物の分散は、一例としてジルコニアなどのビーズを充填したサンドミルを用いて分散液として得ることができる。なお、このとき、必要に応じて架橋剤を配合することができる。
得られた磁性塗料を、剥離性を有する支持体、一例としてシリコンコートにより剥離処理された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)のシート上に、テーブルコータやバーコータなどを用いて塗布する。
その後、wet状態の磁性塗料を80℃で乾燥し、さらにカレンダ装置を用いて所定温度でカレンダ処理を行って、支持体上に電波吸収層を形成できる。
一例として、支持体上に塗布したwet状態での磁性塗料の厚さを1mmとすることで、乾燥後の厚さを400μm、カレンダ処理後の電波吸収層の厚さを300μmとすることができた。
このようにして、電波吸収材料1aとして用いたnmオーダーの微細なイプシロン酸化鉄が樹脂製バインダー1b内に良好に分散された状態の電波吸収層1を形成することができた。
なお、磁性塗料を作製する他の方法として、磁性塗料成分として、少なくとも磁性酸化鉄粉と、分散剤であるリン酸化合物と、バインダー樹脂とを高速攪拌機で高速混合して混合物を調製し、その後、得られた混合物をサンドミルで分散処理することでも磁性塗料を得ることができる。
この製造方法の場合、得られる磁性塗料中でリン酸化合物が分散剤としての役割を十分には果たすことができず、その結果、塗布後に、乾燥、カレンダ処理をした電波吸収層1中の電波吸収材料1aの分散度合いは、上述の磁性酸化鉄粉の混練物を得る場合よりも劣る。しかし、電波吸収材料としての磁性酸化鉄の種類、大きさ、形状その他の条件によって、得られた電波吸収層が所定の電波吸収特性を発揮することができる場合には、簡易な製造方法を採用することでより簡便に電波吸収層を形成することができる。
さらに、電波吸収材料として、磁性酸化鉄粉の粒子径がそれほど小さくなく、容易に分散される場合は、分散剤としてのリン酸化合物を用いずに電波吸収層を形成することもできる。
本実施形態にかかる電波吸収シートでは電波吸収特性を向上させるために、電波吸収層1中に分散して配置された磁性酸化鉄粉1aを、その磁化容易軸が電波吸収層の面内の一方向に向くように磁場配向させる。磁性体粉の磁化容易軸を所定の方向に磁場配向させるためには、磁性酸化鉄粉1aが分散された状態の磁性塗料が未だ乾燥・硬化していない間に、外部から磁界を印加して磁性酸化鉄粉の磁化容易軸の方向を一方向に揃える。この時に、磁性塗料に溶媒を使用している場合、溶媒の乾燥と共に磁性塗料の流動性が低下することで、外部磁界により磁性酸化鉄粉の磁化容易軸が一方向に揃えられる。一方、磁性塗料に溶媒を使用せず硬化させる場合は、主に磁性塗料を硬化させることで、外部磁界により磁性酸化鉄粉の磁化容易軸が一方向に揃えられる。
本実施形態の電波吸収シートのように、シートの面内方向に磁性酸化鉄粉の磁化容易軸を磁場配向させる場合には、磁性酸化鉄粉に印加する磁界をソレノイドコイルで形成し、ソレノイドコイルの中心軸の近傍部分である空洞部分にソレノイドコイルの中心軸の方向と電波吸収シートの面内の方向とが一致するように、バインダー1bが完全に硬化していない状態の電波吸収シートを配置する。
[接着層]
図1に示すように、本実施形態にかかる電波吸収シートは、電波吸収層1の背面に接着層2が形成されている。
接着層2を設けることで、電波吸収層1を、電気回路を収納する筐体の内面や、電気機器の内面または外面の所望の位置に貼着することができる。特に、本実施形態の電波吸収シートは、電波吸収層1が可撓性を有するものであるため、接着層2によって湾曲した曲面上にも容易に貼着することができ、電波吸収シートの取り扱い容易性が向上する。
接着層2としては、粘着テープなどの粘着層として利用される公知の材料、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。また被着体に対する粘着力の調節、糊残りの低減のために、粘着付与剤や架橋剤を用いることもできる。被着体に対する粘着力は5N/10mm〜12N/10mmが好ましい。粘着力が5N/10mmより小さいと、電波吸収シートが被着体から容易に剥がれてしまったり、ずれてしまったりすることがある。また、粘着力が12N/10mmより大きいと、電波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。
また粘着層の厚さは20μm〜100μmが好ましい。粘着層の厚さが20μmより薄いと、粘着力が小さくなり、電波吸収シートが被着体から容易に剥がれたり、ずれたりすることがある。粘着層の厚さが100μmより大きいと、電波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。また粘着層の凝集力が小さい場合は、電波吸収シートを剥離した場合、被着体に糊残りが生じる場合がある。
なお、本願明細書において接着層とは、剥離不可能に貼着する接着層であるとともに、剥離可能な貼着を行う粘着層であってもよい。
なお、電波吸収シートを所定の面に貼着するにあたって、電波吸収シートが接着層2を備えていることが必須の要件ではないことは言うまでもなく、電波吸収シートが配置される部材の側の表面に粘着性を備えることや、両面テープや接着剤を用いて所定の部位に電波吸収シートを貼着することができる。この点において、接着層2は、本実施形態に示す電波吸収シートにおける必須の構成要件でないことは明らかである。
[電波吸収材料の磁化容易軸の方向を磁場配向することによる効果]
図3は、本実施形態の電波吸収シートに用いられる磁性酸化鉄粉による、電波吸収の原理を説明する図である。
本実施形態の電波吸収シートにおいて電波吸収材料となる磁性酸化鉄粉は、ジャイロ共鳴によって電波を吸収する。より具体的には、図3に示すように、イプシロン酸化鉄などの磁性酸化鉄粉10に対して、一定の外部磁界11が作用している状態で振動方向12の磁場が加わると、磁性酸化鉄粉10の磁化容易軸の方向14は、軸11に対して所定の角度傾斜した状態でその周りを回転する歳差運動13を行う。
このとき、ラーモア周波数と称される、磁性酸化鉄が固有の値として有する歳差運動の回転周波数と同じ周波数で振動する振動磁場をかけると、磁場との間に共鳴(ジャイロ共鳴)が生じてそのエネルギーが熱15となって放散される。つまり、磁性酸化鉄粉10に対して、その磁性酸化鉄粉10が有する固有周波数と同じ周波数の電波が照射されると、ジャイロ磁気共鳴が生じて印加された電波は熱に変換され、吸収される。
磁性酸化鉄粉の磁化容易軸方向14の歳差運動13は、図3として示した、外部磁化11の方向に対して振動磁場12が直交する状態で最大となる。すなわち、磁性酸化鉄粉10の磁化容易軸方向14と、印加される磁界振動12の方向との間には、ジャイロ共鳴によってより効率よく電波を吸収可能な方向が存在する。
図4は、バインダー内に分散された状態の磁性酸化鉄粉の磁場配向の状態を説明する図である。図4(a)が、それぞれの磁性酸化鉄粉の磁化容易軸の方向がランダムである無配向の状態を示す。また、図4(b)が、磁性酸化鉄粉の磁化容易軸の方向が揃えられている状態、すなわち磁場配向された状態を示している。なお、図4(a)、図4(b)では、バインダーの図示は省略している。
バインダー内に磁性酸化鉄粉を分散して配合した場合、磁性酸化鉄粉に対してその磁化容易軸の方向を制御する外力は加わらない。このため、図4(a)に示すように、磁場配向を行わない場合には、個々の磁性酸化鉄粉21の磁化容易軸の方向22はバラバラの無配向状態となっている。
磁性塗料中のバインダーが乾燥・硬化されていない状態、すなわち、磁性酸化鉄粉21が自由にその方向を変えることができる状態で、外部から一定の大きさ以上の磁界を印加すると、それぞれの磁性酸化鉄粉21は、図4(b)に示すように、外部磁界の作用によって磁化容易軸の方向22が印加された外部磁界の方向と揃うようにその場で回転する。
前述のように、電波吸収材料としての磁性酸化鉄粉は、その磁化容易軸の方向と外部から照射される電波における磁場の振動方向との関係において、より効率よく電波を吸収できる方向が存在する。図4(a)に示すように、電波吸収シート内においてそれぞれの磁性酸化鉄粉の磁化容易軸の方向がバラバラの状態であれば、一方向から照射される電波に対して効率よくこれを吸収する磁性酸化鉄粉と、効率よく電波を吸収しない磁性酸化鉄粉とが存在し、電波吸収シート全体としての電波吸収特性は大きくならない。
これに対し、図4(b)に示すように、磁性酸化鉄粉の磁化容易軸の方向が揃っている場合には、電波吸収シートに対して、効率よく吸収することができる電波の照射方向が存在する。磁性酸化鉄粉を磁場配向させた電波吸収シートを、電波の照射方向が効率よく電波を吸収できる方向と一致するようにして配置することで、電波吸収特性を大きく向上させることができる。
なお、電波吸収材料である磁性酸化鉄粉が十分に磁場配向されているか否か、すなわち、磁化容易軸の方向が揃っているか否かは、電波吸収シートに外部から磁界を印加してその磁界の残留度合いを測定することで確認することができる。
図5に、本実施形態に示す電波吸収シートでの外部からの印加磁界に対する残留磁界の強度についての、磁化−残留磁界強度特性を測定した結果を示す。図5(a)が、磁化−残留磁界強度特性の測定条件、すなわち、電波吸収シートにおける電波吸収材料である磁性酸化鉄粉の磁化容易軸の磁場配向方向と、外部から印加する磁界の印加方向との関係を示す図である。また、図5(b)は、それぞれの方向の外部磁界が印加された場合の、外部磁界の大きさの変化に対する残留磁界の大きさの変化である磁化−残留磁界強度特性、いわゆるヒステリシス曲線を示す。なお、図5(b)では、外部から印加される磁界Hが、16kOe(16000Oe)あるいは−16kOeの時の磁化量をそれぞれ1、−1として表示している。
測定に用いた電波吸収シート31は、電波吸収層として、平均粒径が30nmのイプシロン酸化鉄を電波吸収材料として備え、バインダーとして東洋紡株式会社製の「バイロンUR8700」(商品名)を、また、分散剤として日産化学工業株式会社製のPPAを用いて、一辺が120mmの正方形のものを準備した。
なお、電波吸収シート31は、硬化前のバインダー1b中にイプシロン酸化鉄が分散配合された状態で、イプシロン酸化鉄粉の磁化容易軸が電波吸収シート面内の一方向32に配向するように、ソレノイドコイルを用いて3000Oeの磁界を印加しつつバインダーの乾燥・硬化を行った。
なお、測定に用いた電波吸収シート31では、図1に示した電波吸収層1のみの構成として、接着層2は積層していない。電波吸収層1の厚さは1.3mm(1300μm)であり、イプシロン酸化鉄の体積分率は50〜55%程度である。
図5(a)に示すように、イプシロン酸化鉄粉の磁化容易軸の方向である磁場配向方向32と同じ方向である電波吸収シート31面内の第1の方向33、電波吸収シート31の面内方向であるがイプシロン酸化鉄の磁場配向方向32とは垂直な方向である第2の方向34、電波吸収シート31の面に対して垂直な方向である第3の方向35の、3つの方向から外部磁界を印加した。
それぞれの方向から外部磁界を印加した際の、磁化−残留磁界強度特性(ヒステリシス曲線)を図5(b)に示す。
図5(b)において、符号36で示す実線が、イプシロン酸化鉄粉の磁化容易軸方向(磁場配向方向32と同じ)と同じ方向33に外部磁界を印加した際の磁化−残留磁界強度特性曲線を示す。
また、図5(b)において、符号37で示す細実線の磁化−残留磁界強度特性曲線が、電波吸収シートの面内方向であるがイプシロン酸化鉄粉の磁化容易軸の方向とは垂直な方向、すなわち磁化困難軸の方向である第2の方向34に外部磁界を印加した際の磁化−残留磁界強度特性曲線を示す。
さらに、図5(b)において、電波吸収シート31の面とは垂直な方向35に外部磁界を印加した際の磁化−残留磁界強度特性曲線を、符号38の点線で示す。
なお、図5(b)で示す測定結果では、符号37で示す外部磁界を磁化困難軸の方向34から印加した場合の磁化−残留磁界強度特性曲線(細実線)と、符号38で示す外部磁界を電波吸収シートの面と垂直方向35に印加した場合の磁化−残留磁界強度特性曲線(点線)とが、ほぼ同じ値を示して重なっている。
外部磁界の印加と残留磁界の測定は、東英工業株式会社製の振動試料型磁力計「VSM−P7型」(製品名)を用いた。評価用の電波吸収シートを直径8mmの円形に切断して、測定サンプルとした。なお、振動試料型磁力計からのデータのプロットモードは、印加磁界を−16kOe〜16kOeとし、時定数TCを0.03sec、描画ステップを6ビット、ウエイトタイムを0.3secと設定した。
イプシロン酸化鉄は、前述の通り保磁力が極めて高いため、今回の測定条件である16kOeの外部磁界では完全に飽和しない。このことは、図5(b)に示す3つの磁化−残留磁界強度特性曲線36、37、38において、印加磁界が16kOeの状態でも磁化−残留磁界強度特性曲線が完全に水平となっていないことに現れている。
イプシロン酸化鉄のような、保磁力の大きな磁性材料を完全に飽和させるためには、数10kOeから100kOeオーダーの大きな外部磁界を印加する必要がある。このような大きな磁界を印加できる測定装置を一般的に使用することは困難であるため、電波吸収シートの電波吸収材料が十分に磁場配向されているか否かを判断する際に、完全に飽和した状態までの磁化−残留磁界強度特性を測定することが必要となると、実用上の大きな制約となる。また、磁化−残留磁界強度特性曲線の形状を評価するいわゆる角型比は、測定対象の磁性体を完全に飽和させた場合は、完全に飽和していない状態での値よりも小さな値となる。このため、本実施形態では、一般的な測定装置における最大印加磁界である16kOeまでの外部磁界を印加した際の、印加磁界に対する残留磁界の強度を残留磁界の強度比して定め、この強度比が所定の値以上の場合には、電波吸収シートにおいて電波吸収材料が良好に磁場配向されている状態であると判断することとする。
図5(b)に示すように、イプシロン酸化鉄粒子の磁化容易軸の磁場配向方向32と同じ方向33の外部磁界が印加された場合には、磁化−残留磁界強度特性(符号36)は理想的な状態に近い角張った形状となり、いわゆる角型比に相当する、第2象限における印加磁界の強度に対する残留磁界の強度の比は、約0.82となる。
これに対し、イプシロン酸化鉄粒子の磁化容易軸の磁場配向方向32に対し、電波吸収シートの面内方向ではあるもののこれと垂直な方向34の外部磁界を印加した場合の磁化−残留磁界強度特性(符号37)や、電波吸収シートの面に垂直な方向35に外部磁界を印加した場合での磁化−残留磁界強度特性(符号38)では、磁化−残留磁界強度特性曲線の第2象限がなだらかな形状となっていて、印加磁界強度に対する残留磁界強度の強度比は、磁界方向が34の場合(符号37)で約0.39、磁界方向が35の場合(符号38)は約0.40となっている。
図5(b)の結果から、電波吸収材料である磁性酸化鉄粉の磁化容易軸の方向を磁場配向させることで、照射される電波の磁場振動方向がこの配向方向と同じ場合には、電波吸収シートとしての保磁力が大きくなり、結果として電波吸収特性が向上することが理解できる。また同時に、電波吸収シートに対する磁性酸化鉄粉の磁化容易軸の磁場配向処理が行われているか否か、その配向方向、磁場配向処理の正確性(所望の方向に正しく配向されているか否か)が、電波吸収シートに対してさまざまな方向から外部磁界を印加して磁化−残留磁界強度特性曲線を測定することで判断できることがわかる。
[電波吸収特性の測定]
次に、本実施形態にかかる電波吸収シートの電波吸収特性を確認するため、実際に電波吸収シートを作成してこれにミリ波帯域の高周波の電波を照射し、その吸収度合いを測定した。
図6は、電波吸収材料であるイプシロン酸化鉄粉の磁化容易軸の磁場配向方向と、入射する電波の磁場の振動方向、および、電場の振動方向との関係を説明する図である。
図6に示すように、吸収対象である電波の進行方向に対して電波吸収シートの面が垂直となるように、すなわち、電波吸収シートの面に対して垂直な方向から電波が照射されるように設定した。このとき、電磁波である電波の進行方向をx軸方向とすると、磁場(磁界)の波41の振動方向と電場(電界)の波42の振動方向は、電波の進行方向(x軸方向)に対して垂直な面内(y−z平面)において互いに垂直な方向となり、例えば図6に示すように、磁場の振動方向がy軸方向、電場の振動方向がz軸方向となる。
電波の進行方向であるx軸方向に対して、その面が垂直となるようにy−z平面上に配置した電波吸収シートとして、磁性酸化鉄粉の磁化容易軸の磁場配向方向が異なる3つの配置パターンを設定した。
第1の配置パターンは、磁場配向方向43aが面内方向である電波吸収シート43を、磁場配向方向43aが照射される電波の磁場の振動方向(y方向)と同一の方向(平行)として配置したものである。また、第2の配置パターンは、磁場配向方向44aが面内方向である電波吸収シート44を、磁場配向方向44aが照射される電波の磁場の振動方向(y方向)と垂直に交わる方向(直交)に配置したものである。第3の配置パターンは、比較例としてのものであって、磁場配向方向45aを電波吸収シートの面に対して垂直な方向とした電波吸収シート45を配置したパターンである。言い換えれば、磁場配向方向45aは電波の進行方向であるx軸方向と平行な方向となる。この第3の配置パターンの場合には、照射される電波の磁場振動方向(y方向)と電波吸収シート45の磁場配向の方向45aとが垂直に交わる(直交する)。
なお、第1の配置パターンと第2の配置パターンとは、同じ電波吸収シートを、y−z平面上での配置方向を90°回転させたものとなる。また、電波吸収特性の評価における第2の比較例として、イプシロン酸化鉄に対して磁場配向を行っていない(無配向)電波吸収シートを用意した。
本実施形態にかかる電波吸収シートで電波吸収材料として用いられているイプシロン酸化鉄粉は、図3を用いて説明したように磁気共鳴によって電波を吸収するものであるため、電波吸収シートの電波吸収特性は、磁性酸化鉄粉の磁化容易軸の磁場配向方向と電波吸収シートに照射される電波の磁場の振動方向との相対的な関係に左右される。
図7に、図6で説明した3つの配置パターンで配置した電波吸収シートと無配向の電波吸収シートにおける電波吸収特性を示す。
また、それぞれの測定結果を表1に示す。
表1において、配向方向は、電波吸収シートにおけるイプシロン酸化鉄の磁化容易軸を磁場配向した方向を示し、また、磁場振動方向は、磁化容易軸の磁場配向方向と入射する電波の磁場の振動方向(図6のy軸方向)との相対的な関係を示す。
実施例1、実施例3、実施例5、実施例7が、イプシロン酸化鉄の磁化容易軸の磁場配向方向が電波吸収シートの面内方向であり、入射する電波の磁場の振動方向と磁場配向との方向が平行である第1の配置パターン(図6における電波吸収シート43)で配置された電波吸収シートである。また、実施例2、実施例4、実施例6が、イプシロン酸化鉄の磁化容易軸の磁場配向方向が電波吸収シートの面内方向であり、入射する電波の磁場の振動方向と磁場配向との方向が直交している第2の配置パターン(図6における電波吸収シート44)で配置された電波吸収シートである。さらに、比較例1が、イプシロン酸化鉄の磁化容易軸の磁場配向方向が電波吸収シートの面に対して垂直な方向で、入射する電波の磁場の振動方向と磁場配向との方向が直交する第3の配置パターン(図6における電波吸収シート45)で配置された電波吸収シートである。また、比較例2は、電波吸収シートの作成時に、外部から磁界を掛けてイプシロン酸化鉄の磁化容易軸の磁場配向を行わなかった電波吸収シートである。
表1において、配向方向の残留強度比(A)は、イプシロン酸化鉄の磁化容易軸の磁場配向方向と同じ方向、すなわち、図5(a)における矢印33の方向に外部磁界を印加した際の、第2象限における印加磁界強度に対する残留磁界強度の強度比の値を示している。垂直方向の残留磁界比(B)は、イプシロン酸化鉄の磁化容易軸の磁場配向方向に対して垂直な方向、すなわち、図5(a)における矢印34の方向に外部磁界を印加した際の、第2象限における印加磁界強度に対する残留磁界強度の強度比の値を示している。
ただし、比較例1の電波吸収シートと比較例2の電波吸収シートでは、イプシロン酸化鉄の磁化容易軸の磁場配向方向が電波吸収シートの面内方向にはないため、電波吸収シートの面内の任意の方向に外部磁界を印加した際の残留磁界の強度比を配向方向の残留磁界比(A)とし、この方向に対して電波吸収シートの面内方向であって、かつ、上記した任意の方向に対して直交する方向に印加磁界を印加した際の残留磁界の強度比を垂直方向の残留磁界比(B)として表している。
比率(A)/(B)は、配向方向の残留磁界比(A)の値と垂直方向の残留磁界比(B)の値との比であり、それぞれの電波吸収シートにおける面内方向での磁界強度比の差異を表している。比率(A)/(B)の値が1に近いほど、電波吸収シートの面内方向における磁化容易軸の磁場配向方向の偏りが小さく、すなわち、十分な磁場配向ができていない状態を示す。比率(A)/(B)の値が大きくなるほど、電波吸収シートの面内方向において、イプシロン酸化鉄の磁化容易軸がより強く磁場配向されている状態であることを示している。
表1において、配向方向の残留磁界比(A)の値と垂直方向の残留磁界比(B)、さらに、比率(A)/(B)の値が同じであることから分かるように、実施例1と実施例2では同じ電波吸収シートを用いて、配置方向のみを変更したものである。また、配向方向の残留磁界比(A)、垂直方向の残留磁界比(B)、比率(A)/(B)で表される磁場配向の度合いが異なる電波吸収シートは、磁場配向時に印加する磁界の強さや、印加する磁界の方向の電波吸収シートの面内方向との整合性、または、バインダーの溶媒の乾燥速度などを変化させて、測定用に作成したものである。
なお、それぞれの電波吸収シートは、電波吸収層として、平均粒径が30nmのイプシロン酸化鉄を電波吸収材料として備え、バインダーとして東洋紡株式会社製の「バイロンUR8700」(商品名)を、また、分散剤として日産化学工業株式会社製のPPAを用いて、一辺が120mmの正方形で、厚さ1.3mmとしてのものを用いた。
また、電波吸収量(電波減衰量)の測定はフリースペース法を用いて行った。具体的には、アジレント・テクノロジー株式会社製のミリ波ネットワークアナライザーN5250C(製品名)を用いて、送アンテナから誘電体レンズを介して電波吸収シートに所定周波数の入力波(ミリ波)を照射し、電波吸収シートの裏側に配置された受信アンテナで透過する電波を計測した。照射される電波の強度と透過した電波の強度とをそれぞれ電圧値として把握し、その強度差から電波減衰量をdBで求めた。
図7に示すように、今回の測定に用いた電波吸収シートでは、いずれも入射する電波に対して、周波数が約76ギガヘルツ(GHz)に吸収のピークを持っている。これは、各実施例と比較例の電波吸収シートにおいて電波吸収材料として使用したイプシロン酸化鉄におけるFeサイトの置換材料と置換量によって定まる共鳴周波数の値が、約76ギガヘルツであることに起因している。このように、本実施形態にかかる電波吸収シートにおいては、電波吸収材料の特性によって最も強く吸収する、すなわち、透過量を最も大きく減衰させることができる電波の周波数値が定まる。
図7、および、表1に示すように、実施例1(符号51)の電波吸収シートの電波減衰量が−18.3dBと最も大きくなっている。
一方で、実施例1と同じ電波吸収シートであっても、90°回転した状態で配置された実施例2の電波吸収シート(符号52)では、電波減衰量が−17.2dBと実施例1の電波吸収シートと比較して電波吸収量が低減している。
これは、実施例1の電波吸収シートでは、イプシロン酸化鉄の磁化容易軸の磁場配向方向が、電波吸収シートに入射した電波における磁場(磁界)の振動方向と平行であったため、最も効率よくジャイロ共鳴が生じて電波吸収効率が高くなったのに対し、実施例2の電波吸収シートでは、イプシロン酸化鉄の磁化容易軸の磁場配向方向と入射した電波の磁場の振動方向が90°ずれているため、効率よくジャイロ共鳴が生じずに電波吸収効率が十分には大きくならなかったと考えられる。
実施例3の電波吸収シート(符号53)は、配向方向の残留磁界比(A)の値が0.75、比率(A)/(B)の値が1.76と、それぞれ0.82、2.05である実施例1の電波吸収シートと比較してイプシロン酸化鉄の磁化容易軸の磁場配向が十分ではない電波吸収シートである。実施例3の電波吸収シートの電波減衰量は、−17.7dBで実施例1の電波吸収シートの電波減衰量よりも小さい。このことから、磁場配向の方向と照射される電波の磁場の振動方向との関係が同じ場合には、電波吸収材料であるイプシロン酸化鉄粉の磁化容易軸の磁場配向度合いが高い電波吸収シートが、より効率よく電波を吸収できることが確認できる。
同様に、実施例4の電波吸収シート(符号54)は、実施例2の電波吸収シートと、イプシロン酸化鉄粉の磁場配向方向に対する電波の磁場の振動方向の関係が同じであるが、イプシロン酸化鉄の磁場配向の度合いが低いため、電波減衰量が小さい値となっている。なお、実施例3の電波吸収シートと実施例4の電波吸収シートも、同じ電波吸収シートを90°回転させて配置したものであるが、実施例1の電波吸収シートと実施例2の電波吸収シートとの関係と同様に、イプシロン酸化鉄の磁化容易軸の磁場配向方向が、電波吸収シートに入射した電波における磁場(磁界)の振動方向と平行な実施例3の電波吸収シートにおける電波減衰量が、磁場配向方向と入射した電波の磁場の振動方向が直交する実施例4の電波吸収シートにおける電波減衰量よりも大きくなっている。
さらに、実施例5(符号55)は、磁場配向の方向と電波の磁場の振動方向が平行となるように配置された、配向方向の残留磁界比(A)の値が0.66、比率(A)/(B)の値が1.35の電波吸収シートである。実施例6(符号56)は、磁場配向の方向と電波の磁場の振動方向が直交するように配置された、配向方向の残留磁界比(A)の値が0.66、比率(A)/(B)の値が1.35の電波吸収シート、すなわち、実施例5の電波吸収シートを同じシートを用い、配置方向を実施例5の場合から90°回転させたものである。実施例7(符号57)は、磁場配向の方向と電波の磁場の振動方向が平行となるように配置された、配向方向の残留磁界比(A)の値が0.59、比率(A)/(B)の値が1.04の電波吸収シートである。
これら実施例5〜実施例7のシートは、上記した実施例1〜実施例4のシートと比較すると、配向方向の残留磁界比(A)の値と比率(A)/(B)の値とが小さく、磁化容易軸の磁場配向の度合いが低い電波吸収シートと言うことができる。しかし、磁場配向の程度が低い場合でも、実施例5と実施例6の電波吸収シートのように磁場配向の程度が同じであれば、磁場配向の方向が電波の磁場の振動方向に平行に配置された電波吸収シートの方が、電波の磁場の振動方向と直交するように配置された電波吸収シートよりも大きな電波吸収特性を得ることができるという傾向は変わらない。
また、以上の測定結果から、電波吸収シートにおける磁性酸化鉄粉の磁化容易軸の磁場配向の度合いは、イプシロン酸化鉄の磁化容易軸の磁場配向方向と同じ方向に外部磁界を印加した際の印加磁界強度に対する残留磁界強度の強度比(配向方向の残留磁界比(A))の値のみならず、イプシロン酸化鉄の磁化容易軸の磁場配向方向に対して垂直な方向に外部磁界を印加した際の、第2象限における印加磁界強度に対する残留磁界強度の強度比の値(垂直方向の残留磁界比(B))を測定して、比率(A)/(B)を求めることによってより正確に把握できると言うことができる。
比較例1の電波吸収シート(符号58)は、磁場配向方向と同じ方向に外部磁界を印加磁界した際の残留磁界強度比(A)の値が0.65と、実施例5、および、実施例6の電波吸収シートと同等であるにもかかわらず、電波減衰量は−15.0dBと、配向方向の残留磁界比(A)の値が0.59である実施例7の電波吸収シートと同じレベルに留まっている。
なお、比較例1の電波吸収シートのように、電波吸収材料の磁化容易軸の磁場配向方向を電波吸収シートの面に垂直な方向とした場合、すなわち、磁場配向の方向45aを電波の進行方向(x軸方向)と平行とした場合には、電波吸収シートを配置面であるy−z平面上で回転させても、照射される電波の磁場の振動方向と磁場配向の方向との相対的な関係は常に直交することとなり、その関係は変わらない。このため、比較例1の電波吸収シートの場合には、各実施例の電波吸収シートのように面内の配置方向を回転させることによる電波減衰量の目立った変化は生じない。このことは、電波吸収シートの配置方向に関わらず安定した電波吸収特性を得ることができると言うことができる反面、電波吸収シートの配置方向を変化させたとしても、電波減衰量の一層の向上は期待できないことを示している。上述のように、比較例1の電波吸収シートの電波減衰量は、同じ磁場配向特性を有する実施例の電波吸収シートにおける電波減衰量より小さく、比較例の電波吸収シートでは、実施例の電波吸収シートと同じレベルの電波吸収特性を得ることができないことが分かる。
比較例2の電波吸収シート(符号59)では、得られる電波減衰量が−13.3dBと、最も小さいレベルに留まっている。このことからも、電波吸収材料の磁化容易軸を、電波吸収シートの面内方向に磁場配向させることが、より高い電波吸収特性を得る上で重要であることが理解できる。
図8は、各実施例と各比較例の電波吸収特性について、電波吸収材料の配向方向の残留磁界比(A)の値と、電波減衰量(−dB)との関係を示したものである。図8において示すそれぞれの符号は、図7の電波吸収特性と表1のデータに表したものと同じとしている。
図8から分かるように、電波吸収材料である磁性酸化鉄粉の磁化容易軸を電波吸収シートの面内方向に磁場配向させた、実施例1〜実施例7の電波吸収シート(符号51〜57)は、いずれも磁化容易軸の磁場配向の方向が電波吸収シートの面に垂直な方向とした比較例1の電波吸収シート(符号58)と、磁化容易軸の方向を磁場配向していない比較例2の電波吸収シート(符号59)に対して同等以上の電波吸収特性を有している。
また、磁場配向方向と照射される電波の磁場の振動方向が平行である実施例51、53、55、57の電波吸収シート、磁場配向方向と照射される電波の磁場の振動方向が直交する実施例52、54、56の電波吸収シートそれぞれにおいて、残留磁界の強度比が大きくなるにつれて、ほぼ直線的に電波減衰量が大きくなっていることが分かる。また、前述のように、磁場配向方向と照射される電波の磁場の振動方向が平行である実施例51、53、55、57の電波吸収シートは、同じ残留磁界の強度比を有し、磁場配向方向と照射される電波の磁場の振動方向が直交する実施例52、54、56の電波吸収シートよりも電波減衰量が大きいことが確認できる。
なお、実施例5、実施例6、実施例7の電波吸収シート(符号55〜57)と、比較例1の電波吸収シート(符号58)との比較から、本実施形態にかかる電波吸収シートにおいて、磁場配向の方向において、16kOeの外部磁界を印加した際の印加磁界に対する残留磁界の強度比が0.65以上であることが、高い電波吸収特性を得る上でより好ましいことが分かる。さらに、実施例1の電波吸収シート(符号51)と実施例2の電波吸収シート(符号52)のデータから、磁場配向の方向において、16kOeの外部磁界を印加した際の印加磁界に対する残留磁界の強度比が0.82以上であることが、高い電波吸収特性を得る上でさらに好ましいことが分かる。
また、表1の結果から、磁場配向の方向での強度比の、電波吸収シートの面内方向であって磁場配向の方向に対して垂直な方向における強度比に対する割合、すなわち、(A)/(B)の値が1.35以上であることが、高い電波吸収特性を得る上でより好ましいことが分かる。
次に、電波吸収シートの他の実施例として、電波吸収層に含まれる電波吸収材料である磁性酸化鉄をフェライト系電磁吸収体である六方晶フェライトを用いた場合の電波吸収特性について説明する。電波吸収材料としてフェライト系の磁性酸化鉄を用いることで、電波吸収材料としてイプシロン酸化鉄を用いた場合と比較して、電波吸収特性は低下するものの、低コストで電波吸収シートを実現できるという利点がある。
図9は、電波吸収層の電波吸収材料として、ストロンチウムフェライトを用いた場合の電波吸収特性を示している。
図9において、符号61として示すものが、実施例8の電波吸収シートであり、上記した実施例1の電波吸収シートにおいて電波吸収材料をイプシロン酸化鉄からストロンチウムフェライトへと変更したものである。実施例8の電波吸収シートでは、実施例1の電波吸収シート同様に、電波吸収シートの面内方向に設定されたストロンチウムフェライトの磁化軸の配向方向と、電波吸収シートに照射される電波の磁場の振動方向とが平行となるように設定して測定を行った。
なお、実施例4の電波吸収シートの製造方法は、使用するバインダーや分散材などの材料、磁化容易軸の磁場配向を行う際に印加した外部磁界の大きさなどは、実施例1〜7の電波吸収材料としてイプシロン酸化鉄を用いた場合と同様とすることができる。また、測定装置についても、上記電波吸収材料としてイプシロン酸化鉄を用いた測定時と同じ条件で測定している。
図9において、符号62として示すものが、比較例3の電波吸収シートであり、電波吸収材料としてストロンチウムフェライトを用い、電波吸収シートの作成時にストロンチウムフェライトの磁化容易軸の磁場配向を行なわずに作成したものである。すなわち、比較例3の電波吸収シートは、上記比較例2の電波吸収シートにおいて、電波吸収材料をイプシロン酸化鉄からストロンチウムホワイトへと変更したものとなる。
実施例8と比較例3についての測定結果を、以下の表2に示す。
なお、表2における、配向方向、配向方向の残留強度比(A)、電波減衰量などのそれぞれの指標は、表1のものと同じである。
図9、および、表2に示されているように、電波吸収材料としてストロンチウムフェライトを用いた場合でも、ストロンチウムフェライトの磁化容易軸を電波吸収シートの面内方向に磁場配向させることで、高い電波吸収特性を実現することができる。
なお、実施例8として用いた電波吸収材料としてストロンチウムフェライトを用いた電波吸収シートの場合には、配向方向の残留磁界比(A)と垂直方向の残留磁界比(B)との比率(A)/(B)の値が2.46と、実施例1や実施例2の比率(A)/(B)の値2.05よりもさらに大きくなっている。このことは、ストロンチウムフェライト磁性酸化鉄粉自体が有する保持力がイプシロン酸化鉄と比較して小さいため、16kOeの外部磁界によって、より強く磁場配向されていることを示している。
なお、ストロンチウムフェライトを電波吸収材料として用いた電波吸収シートにおける、磁場配向の強さと電波減衰量との関係や、磁場配向と証紙やされる電波の磁場の振動方向との相対的な関係における電波減衰量の変化について詳細なデータの記載は省略するが、実施例1〜実施例7のイプシロン酸化鉄を電波吸収材料として用いた場合と同様の傾向を有することが確認できた。
次に、電波吸収シートに対する電波の入射角度について検討する。
図10は、本実施形態にかかる電波吸収シートにおける、吸収される電波の入射角度について説明する図である。
上記図7、および、図9に示した本実施形態にかかる電波吸収シートの電波吸収特性の評価においては、電波吸収シートに対して電波が垂直に入射する場合について検討した。
上述のように、本実施形態の電波吸収シートにおいては、電波吸収材料の磁化容易軸の磁場配向方向と入射する電波の磁場の振動方向との相対的な関係が、その電波吸収特性に大きな影響を与える。一方で、電波吸収シートを実際に使用する場面においては、電波吸収シートが配置される部材の形状による制約や、電波の発生源と電波吸収シートとの相対的な位置関係などの理由から、吸収される電波の電波吸収シートへの入射角度は必ずしも90°とはならない。
この点について、発明者らが検討した結果、図10に示すように、電波吸収シート71に対する電波74の入射角度θが60°以下であれば、本実施形態にかかる電波吸収シートにおける電波吸収材料の磁化軸を配向することによる電波吸収特性向上の効果が確保できることが判明した。
なお、図10において、図中の矢印72は電波吸収シート71における電波吸収材料の磁化容易軸の磁場配向方向を示している。また、上記説明における入射角θとは、一般的な入射角の定義どおりに、入射面の鉛直方向軸73に対する傾斜角度を意味している。よって、入射角θが0°のとき、電波74は電波吸収シート71に対して垂直に入射することとなる。
以上のように、本実施の形態で説明した電波吸収シートは、バインダー内に配合される電波吸収材料の磁化容易軸の磁場配向方向を電波吸収シートの面内方向とすることで、同じ電波吸収材料を用いて形成された電波吸収シートと比較して、より高い電波吸収特性を得ることができる。
なお、電波吸収材料として、磁気共鳴によって電波を吸収する磁性酸化鉄を用いた電波吸収シートの場合には、電波吸収シートにおける電波吸収材料の体積含率を高くすることで、より大きな電波吸収効果を実現することができる。しかし、一方でバインダーと電波吸収材料とで構成された電波吸収層を備えた電波吸収シートにおいて、バインダーを用いていることによる可撓性を確保する上では、必然的に電波吸収材料の体積含率の上限が定まることとなる。本願で開示する電波吸収シートは、電波吸収材料の磁化容易軸の磁場配向方向を電波吸収シートの面内方向と規定することで、より高い電波吸収特性を実現することができるため、電波吸収シートとしての電波吸収特性の値を一定とした場合には、より少ない電波吸収材料の体積含率を実現することができる。このため、よりシート厚の薄い電波吸収シートとすることができ、可撓性に優れた電波吸収シートを容易に実現できる。
なお、上記では、イプシロン酸化鉄以外の電波吸収材料として、ミリ波帯域である30ギガヘルツから300ギガヘルツにおいて電波吸収特性を有する磁性酸化鉄の粒子として、フェライト系の磁性酸化鉄を用いる例について説明した。
例えば、六方晶フェライトの粒子は、上記実施形態で例示したイプシロン酸化鉄の粒子と比較して粒子径が十数μm程度と大きく、また、粒子形状も略球状ではなく板状や針状の結晶となる。このため、樹脂製バインダーを用いて磁性塗料を形成する際に、分散剤の使用や、バインダーとの混練条件を調整して、磁性塗料として塗布した状態において、電波吸収層中になるべく均一に磁性酸化鉄粉が分散された状態で、なおかつ、空隙率がなるべく小さくなるように調整することが好ましい。
また上記の説明において、電波吸収層を形成する方法として、磁性塗料を作製してこれを塗布、乾燥する方法について説明した。本願で開示する電波吸収シートの作製方法としては、上記磁性塗料を塗布する方法の他に、例えば押し出し成型法を用いることが考えられる。
より具体的には、磁性酸化鉄粉と、バインダーと、必要に応じて分散剤などを予めブレンドし、ブレンドされたこれら材料を押出成型機の樹脂供給口から可塑性シリンダ内に供給する。なお、押出成型機としては、可塑性シリンダと、可塑性シリンダの先端に設けられたダイと、可塑性シリンダ内に回転自在に配設されたスクリューと、スクリューを駆動させる駆動機構とを備えた通常の押出成型機を用いることができる。押出成型機のバンドヒータによって可塑化された溶融材料が、スクリューの回転によって前方に送られて先端からシート状に押し出される。押し出された材料を、乾燥、加圧成形、カレンダ処理等を行うことで所定の厚さの電波吸収層を得ることができる。
また、上記実施形態では、電波吸収層が一層で構成された電波吸収シートについて説明したが、電波吸収層として複数の層が積層したものを採用することができる。上述のように本実施形態にかかる電波吸収シートでは、電波吸収層の厚みを調整してそのインピーダンスを空気中のインピーダンスと整合させることで電波吸収特性をより向上させることができる。この際、電波吸収層を形成する電波吸収材料やバインダーの特性によって、一層では所定の厚さの電波吸収層を形成できない場合には、電波吸収層を積層体として形成することが有効である。
また、上記実施形態では、電波吸収シートとして、背面に反射層を有していない透過式の電波吸収シートを例示して説明した。しかし、本願で開示する電波吸収シートとしては、電波吸収層の背面に金属層からなる反射層を備えた、反射式の電波吸収シートとして実現することができる。
この場合には、図1に示した電波吸収シートの構成例において、電波吸収層1の背面側に金属材料からなる反射層が形成される。したがって、電波吸収シートとして背面に接着層2を形成する場合には、反射層は、電波吸収層1と接着層2との間に形成されることとなる。
本願で開示する電波吸収シートは、電波吸収層1に含まれる電波吸収材料1aが磁気共鳴を起こすことで電磁波である電波を磁気損失によって熱エネルギーに変換して吸収するものであるため、電波吸収層1のみで電波の吸収が可能である。これに対して、電波吸収層1の背面側に反射層を設けた構成とすることによって、電波吸収層1の一方から入射した電波が反射層2で反射されて電波が入射した側の電波吸収層1から再び放出される際に、電波の強度を低減することができる。このため、電波吸収層1に入射した電波を確実にシールドするとともに、電波吸収層1の表面から反射して漏出する電波を効果的に低減できる電波吸収シートを実現することができる。
反射層を設ける場合には、電波吸収層1の背面に密着して形成された金属層を構成すればよく、具体的には、電波吸収層1の背面側に密着して配置された金属板として、また、電波吸収層1の背面側に密着して配置された金属箔として、さらに、電波吸収層1の背面に蒸着された金属蒸着膜として、または、電波吸収層1の背面側に配置された非金属製のシートや板状部材の電波吸収層1側の表面に形成された金属蒸着膜として、実現することができる。
なお、反射層を構成する金属の種類には特に限定はなく、アルミニウムや銅、クロムなどの電子部品等で通常用いられる金属材料をはじめ、各種の金属材料を用いることができるが、電気抵抗ができるだけ小さく、耐食性の高い金属を用いることがより好ましい。
さらに、本願で開示する電波吸収シートとしては、電波吸収層1が樹脂製の基材であるベースフィルム上に積層された構成とすることができる。なお、上述の反射層を有する電波吸収シートの形態の場合には、ベースフィルムは、反射層のさらに背面側に設けられ、ベースフィルムのさらに背面側に、必要に応じて接着層2を形成することができる。
前述したように、本願で開示する電波吸収シートでは、電波吸収層1の厚みを調整して入力インピーダンスを調整することでより高い電波吸収特性を付与することができる。このため、電波吸収シートとしての強度や取り扱いの容易性などの観点からのみ、電波吸収層1の厚みを決定することができない場合がある。電波吸収層1に積層して反射層を設けているか否かにかかわらず、全体としての厚みが薄く電波吸収シートとしての所定の強度が得られない場合には、電波吸収層1の背面側に樹脂製の基材であるベースフィルムを積層することで一定の厚みが確保されるため、電波吸収シートの取り扱い容易性を向上させることができる。
ベースフィルムを設ける場合には、PETフィルムなどの各種の樹脂製フィルム、ゴム、和紙などの紙部材を用いて構成することができる。ベースフィルムの材料や厚みは、電波吸収シートの電波吸収特性には影響を与えないため、実用的な観点から適切な材料で、かつ、適切な厚みを有するベースフィルムを選択することができる。
なお、本願で開示する電波吸収シートにおいて、反射層が形成されているか否か、または、ベースフィルムや接着層が形成されているか否かは、電波吸収層が備える電波吸収特性の好適な条件などに対して特別な影響を与えるものではない。