JP6433519B2 - チェーンテンショナ - Google Patents

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Description

この発明は、自動車エンジンのカムシャフトを駆動するタイミングチェーンの張力保持に用いられるチェーンテンショナに関する。
自動車のエンジンは、一般に、クランクシャフトの回転をタイミングチェーン(以下「チェーン」という)を介してカムシャフトに伝達し、そのカムシャフトの回転により燃焼室のバルブの開閉を行なう。ここで、チェーンの張力を適正範囲に保つために、支点軸を中心として揺動可能に設けたチェーンガイドと、そのチェーンガイドを介してチェーンを押圧するチェーンテンショナとからなる張力調整装置が多く用いられる。
この張力調整装置に組み込まれるチェーンテンショナとして、有底筒状のシリンダと、そのシリンダ内に軸方向に摺動可能に挿入されたプランジャとを有するものが知られている(例えば、特許文献1)。
このチェーンテンショナは、エンジン作動中にチェーンの張力が大きくなると、そのチェーンの張力によって、プランジャがシリンダ内に押し込まれる方向に移動し、チェーンの緊張を吸収する。一方、エンジン作動中にチェーンの張力が小さくなると、プランジャがシリンダから突出する方向に移動し、チェーンの弛みを吸収する。
エンジンが停止したときに、カムシャフトの停止位置によってチェーンの張力が大きくなる場合がある。このとき、チェーンの張力に応じてプランジャが押し込み方向に大きく移動すると、その後、エンジンを始動したときにチェーンが大きく弛み、チェーンのばたつきや歯飛びを生じるおそれがある。
そこで、特許文献1のチェーンテンショナは、エンジン停止中のプランジャの移動を制限するため、プランジャの内周に雌ねじを形成し、その雌ねじにねじ係合する雄ねじを外周に有するスクリュロッドを設け、そのスクリュロッドとプランジャの間に、プランジャをシリンダから突出させる方向に付勢するリターンスプリングを設けた構成を採用している。
特許文献1のチェーンテンショナにおいて、スクリュロッドの外周の雄ねじと、プランジャの内周の雌ねじは、プランジャをシリンダ内に押し込む方向の荷重を負荷したときに圧力を受ける押込側フランクのフランク角が、プランジャをシリンダから突出させる方向の荷重を負荷したときに圧力を受ける突出側フランクのフランク角よりも大きい鋸歯ねじとされている。
特許第3635188号公報
従来、上記特許文献1のプランジャの内周の雌ねじは、切削タップで加工され、その雌ねじの表面は切削肌とされていた。
ここで、本願の発明者らは、プランジャの内周の雌ねじの表面を、切削加工により形成される切削肌ではなく、転造により形成される転造面とすれば、転造面は切削肌よりも表面粗さが小さいため、プランジャの内周の雌ねじの突出側フランクとスクリュロッドの外周の雄ねじの突出側フランクとの間が滑りやすくなり、プランジャをシリンダから突出させる方向にスクリュロッドとプランジャを円滑に相対移動させることが可能となり、チェーンの弛みに対するテンショナの突出性を向上させることができる点に着目した。
ところが、プランジャの内周の雌ねじを転造した場合、その転造時に突出側フランクから押し出される余肉によって、雌ねじのねじ山頂面に盛り上がりが生じ、その盛り上がりが、スクリュロッドの外周の雄ねじの谷底面に干渉する恐れがあることが分かった。この盛り上がりの干渉は、特に、スクリュロッドの外周の雄ねじの谷底面が、断面円弧状のR面のときに生じやすい。
プランジャの内周の雌ねじのねじ山頂面の盛り上がりが、スクリュロッドの外周の雄ねじの谷底面に干渉すると、スクリュロッドとプランジャの相対回転が阻害され、プランジャをシリンダから突出させる方向にスクリュロッドとプランジャが相対移動するときの動作の信頼性が低下する。
この発明が解決しようとする課題は、チェーンの弛みに対する突出性に優れたチェーンテンショナを提供することである。
上記課題を解決するため、この発明では、以下の構成のチェーンテンショナを提供する。
有底筒状のシリンダと、
前記シリンダ内に軸方向に摺動可能に挿入され、前記シリンダ内への挿入端が開口し、前記シリンダからの突出端が閉塞した筒状のプランジャと、
前記プランジャの内周に形成された雌ねじと、
前記雌ねじにねじ係合する雄ねじを外周に有するスクリュロッドと、
前記スクリュロッドと前記プランジャの間に組み込まれ、前記プランジャを前記シリンダから突出させる方向に付勢するリターンスプリングとを有し、
前記雌ねじは、前記プランジャを前記シリンダ内に押し込む方向の荷重が負荷されたときに圧力を受ける押込側フランクと、前記プランジャを前記シリンダから突出させる方向の荷重が負荷されたときに圧力を受ける突出側フランクと、前記押込側フランクと前記突出側フランクの間に形成されたねじ山頂面とを有し、
前記押込側フランクのフランク角は、前記突出側フランクのフランク角よりも大きく設定されているチェーンテンショナにおいて、
前記雌ねじの押込側フランクおよび突出側フランクは、Ra1.0μmよりも小さい表面粗さをもつ転造面とされ、
前記雌ねじは、前記突出側フランクと前記ねじ山頂面とが交差する位置に、前記突出側フランクの転造による盛り上がりを収容する面取り部を有する、
ことを特徴とするチェーンテンショナ。
このようにすると、プランジャの内周の雌ねじの突出側フランクが、Ra1.0μmよりも小さい表面粗さをもつ転造面とされているので、プランジャの内周の雌ねじの突出側フランクとスクリュロッドの外周の雄ねじの突出側フランクとの間が滑りやすくなる。そのため、プランジャをシリンダから突出させる方向にスクリュロッドとプランジャを円滑に相対移動させることが可能となり、チェーンの弛みに対する優れた突出性を得ることができる。また、プランジャの内周の雌ねじの突出側フランクとねじ山頂面とが交差する位置に、突出側フランクの転造による盛り上がりを収容する面取り部が設けられているので、突出側フランクの転造による盛り上がりが、スクリュロッドの外周の雄ねじの谷底面に干渉するのを防止することができる。そのため、プランジャをシリンダから突出させる方向にスクリュロッドとプランジャが相対移動するときの動作の信頼性が高い。
前記面取り部は、前記雌ねじの中心線を含む断面において前記ねじ山頂面に対し30°〜50°の角度をなす傾斜面とすると好ましい。
面取り部をねじ山頂面に対し30°以上とすることにより、面取り部の深さを確保し、突出側フランクの転造による盛り上がりがスクリュロッドの外周の雄ねじの谷底面に干渉するのを効果的に防止することができる。面取り部をねじ山頂面に対し50°以下とすることにより、雌ねじの突出側フランクの面積を確保することができるので、雄ねじの突出側フランクと雌ねじの突出側フランクの間の面圧が抑えられ、プランジャをシリンダから突出させる方向にスクリュロッドとプランジャを円滑に相対移動させることが可能となる。
前記押込側フランクのフランク角を、64°〜66°の範囲に設定する場合、前記突出側フランクのフランク角を、6°〜8°の範囲に設定すると、雌ねじの押込側フランクおよび突出側フランクの転造を好適に行なうことができる。
また、前記押込側フランクのフランク角を、74°〜76°の範囲に設定する場合、前記突出側フランクのフランク角を、14°〜16°の範囲に設定すると、雌ねじの押込側フランクおよび突出側フランクの転造を好適に行なうことができる。
前記プランジャの材質としては、SCM材またはSCr材を採用することができる。
前記スクリュロッドの材質としては、SCM材またはSCr材を採用することができる。
前記シリンダは、エンジンカバーのテンショナ取り付け孔に前記シリンダを挿入した状態で前記エンジンカバーの外面に固定されるフランジ部を有するエンジン外装式のものを採用することができる。
また、前記シリンダは、エンジンブロックの側面にボルトで固定される複数の取り付け片を有するエンジン内装式のものを採用することができる。
この発明のチェーンテンショナは、プランジャの内周の雌ねじの突出側フランクが、Ra1.0μmよりも小さい表面粗さをもつ転造面とされているので、プランジャの内周の雌ねじの突出側フランクとスクリュロッドの外周の雄ねじの突出側フランクとの間が滑りやすい。そのため、プランジャをシリンダから突出させる方向にスクリュロッドとプランジャを円滑に相対移動させることが可能であり、チェーンの弛みに対する突出性が優れている。また、プランジャの内周の雌ねじの突出側フランクとねじ山頂面とが交差する位置に、突出側フランクの転造による盛り上がりを収容する面取り部が設けられているので、突出側フランクの転造による盛り上がりが、スクリュロッドの外周の雄ねじの谷底面に干渉しにくい。そのため、プランジャをシリンダから突出させる方向にスクリュロッドとプランジャが相対移動するときの動作の信頼性が高い。
この発明の実施形態のチェーンテンショナを組み込んだチェーン伝動装置を示す正面図 図1のチェーンテンショナ近傍の拡大断面図 図2のプランジャの内周の雌ねじの近傍の拡大断面図 図3の雄ねじと雌ねじのフランク角および面取り部の傾斜角を示す図 図3の雌ねじの突出側フランクとねじ山頂面とが交差する位置に形成された面取り部に、転造による盛り上がり部が収容されている状態を拡大して示す図 図5の面取り部が無い比較例を示す図 図2に示すプランジャの変形例を示す図 図2に示すプランジャの他の変形例を示す図 この発明を外装式テンショナに適用した例を示す図
図1に、この発明の実施形態のチェーンテンショナ1を組み込んだチェーン伝動装置を示す。このチェーン伝動装置は、エンジンのクランクシャフト2に固定されたスプロケット3と、カムシャフト4に固定されたスプロケット5とがチェーン6を介して連結されており、そのチェーン6がクランクシャフト2の回転をカムシャフト4に伝達し、そのカムシャフト4の回転により燃焼室のバルブ(図示せず)の開閉を行なう。
チェーン6には、支点軸7を中心として揺動可能に支持されたチェーンガイド8が接触しており、チェーンテンショナ1は、そのチェーンガイド8を介してチェーン6を押圧している。
図2に示すように、チェーンテンショナ1は、有底筒状のシリンダ10と、シリンダ10内に軸方向に摺動可能に挿入されたプランジャ11とを有する。シリンダ10の材質は、アルミ合金である。シリンダ10は、図1に示すように、シリンダ10の外周に一体に形成された複数の取り付け片12にボルト13を締め込むことによって、エンジンブロックの側面に固定されている。
図2に示すように、プランジャ11は、シリンダ10内への挿入端が開口し、シリンダ10からの突出端が閉塞する筒状に形成されている。プランジャ11の材質は、鋼材(好ましくはSCM材またはSCr材であり、本実施形態では、SCM材)である。
シリンダ10の閉塞側の端部には、シリンダ10とプランジャ11とで囲まれた圧力室14に連通する給油通路15が形成されている。給油通路15は、エンジンブロックに形成された油孔(図示せず)を介してオイルポンプ(図示せず)に接続されており、そのオイルポンプから送り出された作動油を圧力室14内に導入するようになっている。給油通路15の圧力室14側の端部には、給油通路15側から圧力室14側への作動油の流れのみを許容するチェックバルブ16が設けられている。
プランジャ11とシリンダ10の摺動面間には微小なリーク隙間17が形成されており、そのリーク隙間17を通って圧力室14内の作動油がシリンダ10の外側にリークするようになっている。
シリンダ10の閉塞側の端部には、シリンダ10の内外を連通するエア抜き通路18が設けられている。すなわち、シリンダ10の閉塞側の端部に、シリンダ10の外側から圧力室14に貫通するねじ孔19が形成され、このねじ孔19に雄ねじ部材20がねじ込まれている。このねじ孔19と雄ねじ部材20の間に形成される螺旋状の微小なねじ隙間が、圧力室14内のエアを外部に逃がすエア抜き通路18を構成している。
プランジャ11の内周には雌ねじ21が形成されている。圧力室14には、プランジャ11の雌ねじ21にねじ係合する雄ねじ22を外周に有するスクリュロッド23が組み込まれている。スクリュロッド23は、一端がプランジャ11から突出しており、その突出部分が、シリンダ10の閉塞端に設けられたロッドシート24(ここではチェックバルブ16の一部)に当接して支持されている。スクリュロッド23の材質は、鋼材(好ましくはSCM材またはSCr材であり、本実施形態では、SCM材)である。
プランジャ11のシリンダ10からの突出側の端部とスクリュロッド23との間には、リターンスプリング25が組み込まれている。リターンスプリング25の一端は、スクリュロッド23のうちプランジャ11からの突出端で支持され、リターンスプリング25の他端は、スプリングシート26を介してプランジャ11のうちシリンダ10からの突出端を押圧しており、その押圧によって、プランジャ11はシリンダ10から突出する方向に付勢されている。
図3に示すように、プランジャ11の内周の雌ねじ21は、プランジャ11をシリンダ10内に押し込む方向の荷重を負荷したときに圧力を受ける押込側フランク27と、プランジャ11をシリンダ10から突出させる方向の荷重を負荷したときに圧力を受ける突出側フランク28と、押込側フランク27と突出側フランク28の間に形成されたねじ山頂面29とを有する。
図4に示すように、雌ねじ21は、押込側フランク27のフランク角θ1が、突出側フランク28のフランク角θ2よりも大きい鋸歯状に形成されている。同様に、雄ねじ22も、プランジャ11をシリンダ10内に押し込む方向の荷重を負荷したときに圧力を受ける押込側フランク30のフランク角θ1が、プランジャ11をシリンダ10から突出させる方向の荷重を負荷したときに圧力を受ける突出側フランク31のフランク角θ2よりも大きい鋸歯状に形成されている。雄ねじ22の押込側フランク30のフランク角θ1は、雌ねじ21の押込側フランク27のフランク角θ1と同じ大きさであり、雄ねじ22の突出側フランク31のフランク角θ2も、雌ねじ21の突出側フランク28のフランク角θ2と同じ大きさである。
雌ねじ21の押込側フランク27のフランク角θ1は、64°〜76°の範囲に設定されている。押込側フランク27のフランク角θ1を64°以上とすることにより、スクリュロッド23をプランジャ11内に押し込む方向の軸方向荷重がスクリュロッド23とプランジャ11の間に静的に負荷されたときに、雌ねじ21の押込側フランク27と雄ねじ22の押込側フランク30との間の滑りが生じるのを確実に防止することができる。また、押込側フランク27のフランク角θ1を76°以下とすることにより、スクリュロッド23をプランジャ11内に押し込む方向の軸方向荷重がスクリュロッド23とプランジャ11の間に負荷されたときに、雄ねじ22と雌ねじ21が楔のように噛み込んでロックする事態を防止することができる。
雌ねじ21の突出側フランク28のフランク角θ2は、6°〜16°の範囲に設定されている。突出側フランク28のフランク角θ2を16°以下とすることにより、プランジャ11をシリンダ10から突出させる方向の軸方向荷重がスクリュロッド23とプランジャ11の間に静的に負荷されたときに、雌ねじ21の突出側フランク28と雄ねじ22の突出側フランク31との間に滑りを生じさせ、プランジャ11をシリンダ10から突出させる方向にスクリュロッド23とプランジャ11を円滑に相対移動させることができる。
ここで、雌ねじ21の押込側フランク27のフランク角θ1を、64°〜66°の範囲に設定する場合、突出側フランク28のフランク角θ2を、6°〜8°の範囲に設定すると、雌ねじ21の押込側フランク27および突出側フランク28の転造を好適に行なうことができる。同様に、押込側フランク27のフランク角θ1を、74°〜76°の範囲に設定する場合、突出側フランク28のフランク角θ2を、14°〜16°の範囲に設定すると、雌ねじ21の押込側フランク27および突出側フランク28の転造を好適に行なうことができる。
図3に示すように、雌ねじ21は、突出側フランク28とねじ山頂面29とが交差する位置に、面取り部32を有する。図4に示すように、面取り部32は、雌ねじ21の中心線を含む断面においてねじ山頂面29に対し30°〜50°の角度θ3をなす傾斜面である。
雌ねじ21の押込側フランク27と突出側フランク28は、転造により形成される転造面とされている。一方、面取り部32は、切削加工により形成される切削肌とされている。また、雌ねじ21のねじ山頂面29は、鍛造による鍛造成形面とされている。ここで、転造面は、切削肌よりも小さい表面粗さを有し、具体的には、Ra1.0μm(好ましくはRa0.5μm)よりも小さい表面粗さを有する。
次に、このチェーンテンショナ1の動作例を説明する。
エンジン作動中にチェーン6の張力が大きくなると、プランジャ11をシリンダ10内に押し込む方向の軸方向荷重によって、プランジャ11の内周の雌ねじ21の押込側フランク27が、スクリュロッド23の外周の雄ねじ22の押込側フランク30に当接する。その後、チェーン6の振動に伴う雌ねじ21と雄ねじ22の押込側フランク27,30間の滑りが累積することで、スクリュロッド23がプランジャ11に徐々に押し込まれ、これに伴いプランジャ11がシリンダ10に押し込まれる方向に徐々に移動し、チェーン6の緊張を吸収する。このとき、チェーン6の振動に伴う雌ねじ21と雄ねじ22の押込側フランク27,30間の滑りは微小であるため、プランジャ11の移動速度が制限され、ダンパー作用が生じる。
一方、エンジン作動中にチェーン6の張力が小さくなったときは、プランジャ11がシリンダ10から突出し、チェーン6の弛みを吸収する。このとき、リターンスプリング25の付勢力によって、プランジャ11の内周の雌ねじ21の突出側フランク28が、スクリュロッド23の外周の雄ねじ22の突出側フランク31に当接し、その雌ねじ21と雄ねじ22の突出側フランク28,31間の滑りによってスクリュロッド23が回転し、プランジャ11はシリンダ10から突出する方向に移動する。
また、エンジン停止時に、カムシャフト4の停止位置によってチェーン6の張力が大きくなる場合がある。この場合、チェーン6が振動しないので、プランジャ11の内周の雌ねじ21の押込側フランク27とスクリュロッド23の外周の雄ねじ22の押込側フランク30との間に滑りが生じず、スクリュロッド23の位置が固定される。そのため、エンジンを再始動するときに、チェーン6の弛みを生じにくく、円滑なエンジン始動が可能である。
この実施形態のチェーンテンショナ1のプランジャ11は、次のようにして製造されている。まず、プランジャ11の素材である筒状部材を冷間鍛造により形成する(冷間鍛造工程)。次に、その筒状部材の内周に、雌ねじ21の原形となる粗雌ねじを切削加工するとともに、雌ねじ21の突出側フランク28雌ねじ21のねじ山頂面29とが交差する位置に面取り部32を切削加工する(切削加工工程)。この面取り部32の切削加工は、粗ねじを加工するためのねじ山の根元に面取り部32を加工するための面取り加工部を設けた切削タップを用いることで容易に行なうことができる。そして、この切削加工工程の後、粗雌ねじ21の表面に転造を施すことで雌ねじ21の押込側フランク27と雌ねじ21の突出側フランク28とを仕上げる(転造仕上げ工程)。この転造仕上げ工程によって、雌ねじ21の押込側フランク27と雌ねじ21の突出側フランク28は、Ra1.0μm(好ましくはRa0.5μm)よりも小さい表面粗さを有する転造面となる。
ここで、図6に示すように、雌ねじ21の突出側フランク28と雌ねじ21のねじ山頂面29とが交差する位置に図5に示す面取り部32が存在しない場合、プランジャ11の内周の雌ねじ21を転造するときに突出側フランク28から押し出される余肉によって、雌ねじ21のねじ山頂面29に盛り上がり33が生じ、その盛り上がり33が、スクリュロッド23の外周の雄ねじ22の谷底面34(断面円弧状のR面)に干渉する恐れがある。盛り上がり33が雄ねじ22の谷底面34に干渉すると、スクリュロッド23とプランジャ11の相対回転が阻害され、プランジャ11をシリンダ10から突出させる方向にスクリュロッド23とプランジャ11が相対移動するときの動作の信頼性が低下する。
これに対し、この実施形態のチェーンテンショナ1は、図5に示すように、雌ねじ21の突出側フランク28と雌ねじ21のねじ山頂面29とが交差する位置に面取り部32が形成されているので、突出側フランク28からの転造による盛り上がり33が面取り部32に収容され、突出側フランク28の転造による盛り上がり33が、スクリュロッド23の外周の雄ねじ22の谷底面34に干渉するのを防止することができる。そのため、プランジャ11をシリンダ10から突出させる方向にスクリュロッド23とプランジャ11が相対移動するときの動作の信頼性が高い。
また、このチェーンテンショナ1は、プランジャ11の内周の雌ねじ21の突出側フランク28が、Ra1.0μm(好ましくはRa0.5μm)よりも小さい表面粗さをもつ転造面とされているので、プランジャ11の内周の雌ねじ21の突出側フランク28とスクリュロッド23の外周の雄ねじ22の突出側フランク31との間が滑りやすい。そのため、プランジャ11をシリンダ10から突出させる方向にスクリュロッド23とプランジャ11を円滑に相対移動させることが可能であり、チェーン6の弛みに対する突出性が優れている。
また、このチェーンテンショナ1は、面取り部32がねじ山頂面29に対してなす角度θ3を30°以上とすることにより、面取り部32の深さを確保し、突出側フランク28の転造による盛り上がり33がスクリュロッド23の外周の雄ねじ22の谷底面34に干渉するのを効果的に防止することが可能となっている。また、面取り部32がねじ山頂面29に対してなす角度θ3を50°以下とすることにより、雌ねじ21の突出側フランク28の面積を確保することができるので、雄ねじ22の突出側フランク31と雌ねじ21の突出側フランク28の間の面圧が抑えられ、プランジャ11をシリンダ10から突出させる方向にスクリュロッド23とプランジャ11を円滑に相対移動させることが可能となっている。
上記実施形態では、継ぎ目の無い一体の素材からなるプランジャ11を例に挙げて説明したが、プランジャ11は、図7に示すように、雌ねじ21を内周に有する両端が開放した筒体11Aと、その筒体11Aの一端に嵌め込まれたキャップ部材11Bとで構成すると好ましい。このようにすると、雌ねじ21が形成される筒体11Aの両端が開放しているので、雌ねじ21の形成が容易となる。
ここで、キャップ部材11Bは、図7に示すように、筒体11Aの一端に圧入して固定したものを採用してもよく、図8に示すように、筒体11Aの一端に圧入プロジェクション接合したものを採用してもよい。圧入プロジェクション接合は、キャップ部材11Bと筒体11Aの間に電流を流しながらキャップ部材11Bを筒体11Aの一端に圧入して得られる接合形態であり、圧入時にキャップ部材11Bの表面の不純物層が削り取られて清浄になるので、筒体11Aとキャップ部材11Bの嵌合面35は固相溶接した状態となる。
また、上記実施形態では、エンジンブロックの側面(エンジンカバーの内部)に組み込む内装式のチェーンテンショナ1を例に挙げて説明したが、この発明は、図9に示すように、エンジンカバー36に取り付ける外装式のチェーンテンショナにも同様に適用することができる。図9において、シリンダ10は、エンジンカバー36のテンショナ取り付け孔37にシリンダ10を挿入した状態でエンジンカバー36の外面に固定されるフランジ部38を有する。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 チェーンテンショナ
10 シリンダ
11 プランジャ
11A 筒体
11B キャップ部材
12 取り付け片
13 ボルト
21 雌ねじ
22 雄ねじ
23 スクリュロッド
25 リターンスプリング
27 押込側フランク
28 突出側フランク
29 ねじ山頂面
32 面取り部
33 盛り上がり
36 エンジンカバー
37 テンショナ取り付け孔
38 フランジ部
θ1,θ2 フランク角
θ3 角度

Claims (8)

  1. 有底筒状のシリンダ(10)と、
    前記シリンダ(10)内に軸方向に摺動可能に挿入され、前記シリンダ(10)内への挿入端が開口し、前記シリンダ(10)からの突出端が閉塞した筒状のプランジャ(11)と、
    前記プランジャ(11)の内周に形成された雌ねじ(21)と、
    前記雌ねじ(21)にねじ係合する雄ねじ(22)を外周に有するスクリュロッド(23)と、
    前記スクリュロッド(23)と前記プランジャ(11)の間に組み込まれ、前記プランジャ(11)を前記シリンダ(10)から突出させる方向に付勢するリターンスプリング(25)と、を備え、
    前記雌ねじ(21)は、前記プランジャ(11)を前記シリンダ(10)内に押し込む方向の荷重を負荷したときに圧力を受ける押込側フランク(27)と、前記プランジャ(11)を前記シリンダ(10)から突出させる方向の荷重を負荷したときに圧力を受ける突出側フランク(28)と、前記押込側フランク(27)と前記突出側フランク(28)の間に形成されたねじ山頂面(29)とを有し、
    前記押込側フランク(27)のフランク角(θ1)は、前記突出側フランク(28)のフランク角(θ2)よりも大きいチェーンテンショナにおいて、
    前記雌ねじ(21)の押込側フランク(27)と突出側フランク(28)は、Ra1.0μmよりも小さい表面粗さをもつ転造面であり、
    前記雌ねじ(21)は、前記突出側フランク(28)と前記ねじ山頂面(29)とが交差する位置に、前記突出側フランク(28)からの転造による盛り上がり(33)を収容する面取り部(32)を有する、
    ことを特徴とするチェーンテンショナ。
  2. 前記面取り部(32)は、前記雌ねじ(21)の中心線を含む断面において前記ねじ山頂面(29)に対し30°〜50°の角度(θ3)をなす傾斜面である請求項1に記載のチェーンテンショナ。
  3. 前記押込側フランク(27)のフランク角(θ1)が、64°〜66°の範囲に設定され、前記突出側フランク(28)のフランク角(θ2)が、6°〜8°の範囲に設定されている請求項1または2に記載のチェーンテンショナ。
  4. 前記押込側フランク(27)のフランク角(θ1)が、74°〜76°の範囲に設定され、前記突出側フランク(28)のフランク角(θ2)が、14°〜16°の範囲に設定されている請求項1または2に記載のチェーンテンショナ。
  5. 前記プランジャ(11)の材質は、SCM材またはSCr材である請求項1から4のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
  6. 前記スクリュロッド(23)の材質は、SCM材またはSCr材である請求項1から5のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
  7. 前記シリンダ(10)は、エンジンカバー(36)のテンショナ取り付け孔(37)に前記シリンダ(10)を挿入した状態で前記エンジンカバー(36)の外面に固定されるフランジ部(38)を有するエンジン外装式のものである請求項1から6のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
  8. 前記シリンダ(10)は、エンジンブロックの側面にボルト(13)で固定される複数の取り付け片(12)を有するエンジン内装式のものである請求項1から6のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
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