JP6346989B2 - 非水系電解液及び非水系二次電池 - Google Patents
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Description
常温作動型のリチウムイオン二次電池の電解液としては、非水系電解液を使用することが実用の見地より望ましい。例えば環状炭酸エステル等の高誘電性溶媒と、低級鎖状炭酸エステル等の低粘性溶媒と、の組み合わせが、一般的な溶媒として例示される。しかしながら、通常の高誘電率溶媒は、融点が高いことの他、非水系電解液に用いる電解質塩の種類によっては非水系電解液の負荷特性(出力特性)及び低温特性を劣化させる要因にもなり得る。
これまでに提案されている改善策のうち主なものは、以下の3つに分類される。
例えば、特許文献1及び2には、溶媒であるアセトニトリルを特定の電解質塩及び添加剤と組み合わせることによって、アセトニトリルの還元分解の影響を低減した電解液が報告されている。なお、リチウムイオン二次電池の黎明期には、特許文献3のように、アセトニトリルをプロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートで希釈しただけの溶媒を含む電解液も報告されている。しかしながら、特許文献3では、高温耐久性能について高温保存後の内部抵抗及び電池厚みのみの評価により判定しているため、高温環境下に置かれた場合に実際に電池として作動するか否かという情報は開示されていない。単純にエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートで希釈するだけの措置によってアセトニトリルをベースとする溶媒を含む電解液の還元分解を抑制することは、実際には至難の業である。溶媒の還元分解の抑制方法としては、特許文献1及び2のように、複数の電解質塩及び添加剤を組み合わせる方法が現実的である。
例えば、特許文献4には、負極に特定の金属化合物を用いることにより、アセトニトリルの還元分解を回避した電池を得ることができると報告されている。ただし、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を重視する用途においては、アセトニトリルの還元電位よりも卑な電位でリチウムイオンを吸蔵する負極活物質を用いる方が電位差の観点から圧倒的に有利となる。そのため、そのような用途において特許文献4の改善策を適用すると、使用可能な電圧の範囲が狭くなるため、不利である。
例えば、特許文献5には、濃度が4.2mol/Lとなるようにリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SO2CF3)2)をアセトニトリルに溶解させた電解液を用いると、黒鉛電極への可逆的なリチウム挿入脱離が可能であることが記載されている。また、特許文献6には、濃度が4.5mol/Lとなるようにリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SO2F)2)をアセトニトリルに溶解させた電解液を用いたセルに対して充放電測定を行った結果、黒鉛へのLi+挿入脱離反応が観察され、更に、ハイレートで放電可能であることが報告されている。
各種検証実験の結果から、アセトニトリル系リチウムイオン二次電池が高温耐久性能に劣る理由は以下のように考察される。
高温環境下において、フッ素含有無機リチウム塩がアセトニトリルのメチル基から水素を引き抜きながら分解し、その分解生成物が正極遷移金属の溶出を促進する。この溶出金属にアセトニトリルが配位した錯体カチオンは化学的に安定であり、該安定錯体カチオンの酸化還元反応が自己放電の要因となっている可能性がある。解体解析の結果に裏付けされたこれらの現象は、本発明者らによって新たに判明した課題であり、特許文献1〜6には一切記載されていない。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
フッ素含有無機リチウム塩と
下記一般式(1):
を含有することを特徴とする、非水系電解液。
[3] 前記一般式(1)で表される化合物の含有量が、非水系電解液の全体に対して0.01〜10質量%である、[1]又は[2]記載の非水系電解液。
[4] 前記フッ素含有無機リチウム塩が、LiPF6を含有する、[1]〜[3]のいずれか1項記載の非水系電解液。
集電体の片面又は両面に負極活物質層を有する負極、並びに、
請求項1〜4のいずれか1項記載の非水系電解液を具備することを特徴とする、非水系二次電池。
[6] 前記正極活物質層と前記負極活物質層とが対向配置されており、
前記負極活物質層のうち、前記正極活物質層に対向する側の面の全面積の、
前記正極活物質層と前記負極活物質層とが対向する領域の面積に対する比が、1.0より大きく1.1未満である、[5]記載の非水系二次電池。
本実施形態の非水系電解液(以下、単に「電解液」ともいう。)は、
アセトニトリルを30〜100体積%含む非水系溶媒と、
フッ素含有無機リチウム塩と、
下記一般式(1):
を含有する。
本実施形態の電解液は、例えば、非水系二次電池に用いることができる。本実施形態の非水系二次電池としては、例えば、
正極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な正極材料を含有する正極と、
負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な負極材料、並びに金属リチウムからなる群より選ばれる1種以上の負極材料を含有する負極と、
を備えるリチウムイオン二次電池が挙げられる。
本実施形態の非水系二次電池としては、具体的には、図1及び2に図示される非水系二次電池であってもよい。ここで、図1は非水系二次電池を概略的に表す平面図であり、図2は図1のA−A線断面図である。
電池外装2を構成しているアルミニウムラミネートフィルムは、アルミニウム箔の両面をポリオレフィン系の樹脂でコートしたものであることが好ましい。
正極5は、電池1内でリード体を介して正極外部端子3と接続している。図示していないが、負極6も、電池1内でリード体を介して負極外部端子4と接続している。そして、正極外部端子3及び負極外部端子4は、それぞれ、外部の機器等と接続可能なように、片端側が電池外装2の外側に引き出されており、それらのアイオノマー部分が、電池外装2の1辺と共に熱融着されている。
正極5は、正極合剤から作製した正極活物質層と、正極集電体とから構成される。負極6は、負極合剤から作製した負極活物質層と、負極集電体とから構成される。正極5及び負極6は、セパレータ7を介して正極活物質層と負極活物質層とが対向するように配置される。
以下、正極及び負極の総称として「電極」、正極活物質層及び負極活物質層の総称として「電極活物質層」、正極合剤及び負極合剤の総称として「電極合剤」とも略記する。
これらの各部材としては、本実施形態における各要件を満たしていれば、従来のリチウムイオン二次電池に備えられる材料を用いることができ、例えば後述の材料であってもよい。以下、非水系二次電池の各部材について詳細に説明する。
本実施形態における電解液は、非水系溶媒(以下、単に「溶媒」ともいう。)と、フッ素含有無機リチウム塩と、上記一般式(1)で表される化合物(窒素含有環状化合物)を少なくとも含む。フッ素含有無機リチウム塩は、イオン伝導度に優れるものの、熱安定性が十分でないうえ、溶媒中の微量水分によって加水分解してフッ化リチウム及びフッ化水素を発生し易い性質を有する。フッ素含有無機リチウム塩が分解すると、該フッ素含有無機リチウム塩を含有する電解液のイオン伝導度が低下するとともに、生成したフッ化リチウム及びフッ化水素が、電極、集電体等の材料を腐食し、或いは溶媒を分解する等の、電池に致命的な悪影響を及ぼす場合がある。
本実施形態における電解液は、水分を含まないことが好ましいが、本発明の課題解決を阻害しない範囲であれば、ごく微量の水分を含有してもよい。そのような水分の含有量は、電解液の全量に対して、好ましくは0〜100ppmである。
アセトニトリルはイオン伝導性が高く、電池内におけるリチウムイオンの拡散性を高めることができる。そのため、電解液がアセトニトリルを含有する場合には、特に正極活物質層を厚くして正極活物質の充填量を高めた正極においても、高負荷での放電時にはリチウムイオンが到達し難い集電体近傍の領域にまで、リチウムイオンが良好に拡散できるようになる。よって、高負荷放電時にも十分な容量を引き出すことが可能となり、負荷特性に優れた非水系二次電池とすることができる。
非水系電解液の非水系溶媒にアセトニトリルを用いることにより、前記のとおり、非水系電解液のイオン伝導性が向上することから、非水系二次電池の急速充電特性を高めることもできる。非水系二次電池の定電流(CC)−定電圧(CV)充電では、CV充電期間における単位時間当たりの充電容量よりも、CC充電期間における単位時間当たりの容量の方が大きい。非水系電解液の非水系溶媒にアセトニトリルを使用した場合には、CC充電できる領域を大きく(CC充電の時間を長く)できる他、充電電流を高めることもできるため、非水系二次電池の充電開始から満充電状態にするまでの時間を大幅に短縮できる。
本実施形態でいう「非水系溶媒」とは、電解液中からリチウム塩及び窒素含有環状化合物を除いた成分をいう。すなわち、電解液中に、溶媒、リチウム塩、及び窒素含有環状化合物と共に、後述する電極保護用添加剤を含んでいる場合には、溶媒と電極保護用添加剤とを併せて「非水系溶媒」という。後述するリチウム塩及び窒素含有環状化合物は、非水系溶媒に含まない。
上記その他の非水系溶媒のうち、非プロトン性溶媒の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、トランス−2,3−ブチレンカーボネート、シス−2,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンチレンカーボネート、トランス−2,3−ペンチレンカーボネート、シス−2,3−ペンチレンカーボネート、及びビニレンカーボネートに代表される環状カーボネート;フルオロエチレンカーボネート、1,2−ジフルオロエチレンカーボネート、及びトリフルオロメチルエチレンカーボネートに代表される環状フッ素化カーボネート;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、及びε−カプロラクトンに代表されるラクトン;スルホラン、ジメチルスルホキシド、及びエチレングリコールサルファイトに代表される硫黄化合物;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、及び1,3−ジオキサンに代表される環状エーテル;エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、及びメチルトリフルオロエチルカーボネートに代表される鎖状カーボネート;トリフルオロジメチルカーボネート、トリフルオロジエチルカーボネート、及びトリフルオロエチルメチルカーボネートに代表される鎖状フッ素化カーボネート;
非水系二次電池の充放電に寄与するリチウム塩の電離度を高めるために、非水系溶媒は、環状の非プロトン性極性溶媒を1種以上含むことが好ましく、環状カーボネートを1種以上含むことがより好ましい。
本実施形態におけるリチウム塩は、フッ素含有無機リチウム塩を含むことを特徴としている。「フッ素含有無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、フッ素原子をアニオンに含み、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。「無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。「有機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含み、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。
本実施形態におけるフッ素含有無機リチウム塩は、正極集電体である金属箔の表面に不働態皮膜を形成し、正極集電体の腐食を抑制する。このフッ素含有無機リチウム塩は、溶解性、伝導度、及び電離度という観点からも優れている。このため、フッ素含有無機リチウム塩は、リチウム塩として必ず加える必要がある。フッ素含有無機リチウム塩の具体例としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、Li2SiF6、LiSbF6、Li2B12FbH12−b〔bは0〜3の整数、好ましくは1〜3の整数〕、LiN(SO2F)2等が挙げられる。
これらのフッ素含有無機リチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。フッ素含有無機リチウム塩として、LiFとルイス酸との複塩である化合物が望ましく、中でも、リン原子を有するフッ素含有無機リチウム塩を用いると、遊離のフッ素原子を放出し易くなることからより好ましく、LiPF6が特に好ましい。フッ素含有無機リチウム塩として、ホウ素原子を有するフッ素含有無機リチウム塩を用いると、電池劣化を招くおそれのある過剰な遊離酸成分を捕捉し易くなることから好ましく、このような観点からはLiBF4が特に好ましい。
LiC(SO2R6)(SO2R7)(SO2R8) (2a)
LiN(SO2OR9)(SO2OR10) (2b)
LiN(SO2R11)(SO2OR12) (2c)
{式中、R6、R7、R8、R9、R10、R11、及びR12は、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を示す。}のそれぞれで表される有機リチウム塩等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を、フッ素含有無機リチウム塩と共に使用することができる。
前記のシュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、その使用による効果をより良好に確保する観点から、非水系電解液の非水系溶媒1L当たりの量として、0.005モル以上であることが好ましく、0.02モル以上であることがより好ましく、0.05モル以上であることが更に好ましい。ただし、前記のシュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液中の量が多すぎると析出するおそれがある。よって、前記のシュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、非水系電解液の非水系溶媒1L当たりの量で、1.0モル未満であることが好ましく、0.5モル未満であることがより好ましく、0.2モル未満であることが更に好ましい。
本実施形態における電解液には、窒素含有環状化合物以外に、電極を保護する添加剤が含まれていてもよい。なお、上述したように、電解液が電極保護用添加剤を含む場合、該電極保護用添加剤は非水系溶媒に含まれるから、該電解液中には、電極保護用添加剤を含む非水系溶媒(上述の非水系溶媒と電極保護用添加剤との合計量)に対して30〜100体積%のアセトニトリルが含まれていればよい。
電極保護用添加剤としては、本発明による課題解決を阻害しないものであれば特に制限はない。リチウム塩を溶解する溶媒としての役割を担う物質(すなわち上述の非水系溶媒)と実質的に重複してもよい。電極保護用添加剤は、本実施形態における電解液及び非水系二次電池の性能向上に寄与する物質であることが好ましいが、電気化学的な反応には直接関与しない物質をも包含する。
本実施形態における電解液中の電極保護用添加剤の含有量については、特に制限はない。しかし、非水系溶媒の全量に対する電極保護用添加剤の含有量として、0.1〜30体積%であることが好ましく、2〜20体積%であることがより好ましく、5〜15体積%であることが更に好ましい。
本実施形態における電解液は、添加剤として下記一般式(1):
上記のような組成で電解液を調製することにより、非水系二次電池のサイクル性能、低温環境下における高出力性能、及びその他の電池特性のすべてを、一層良好なものとすることができる傾向にある。
本実施形態においては、非水系二次電池の充放電サイクル特性の改善、高温貯蔵性、安全性の向上(例えば過充電防止等)等の目的で、非水系電解液に、例えば、無水酸、スルホン酸エステル、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、tert−ブチルベンゼン、リン酸エステル〔エチルジエチルホスホノアセテート(EDPA):(C2H5O)2(P=O)−CH2(C=O)OC2H5、リン酸トリス(トリフルオロエチル)(TFEP):(CF3CH2O)3P=O、リン酸トリフェニル(TPP):(C6H5O)3P=O等〕等、及びこれらの各化合物の誘導体等から選択される任意的添加剤を、適宜含有させることもできる。特に前記のリン酸エステルは、貯蔵時の副反応を抑制する作用があり、効果的である。
正極5は、正極合剤から作製した正極活物質層5Aと、正極集電体5Bとから構成される。正極5は、非水系二次電池の正極として作用するものであれば特に限定されず、公知のものであってもよい。
正極活物質層5Aは、正極活物質を含有し、場合により導電助剤及びバインダーを更に含有する。
正極活物質層5Aは、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料を含有することが好ましい。正極活物質層5Aは、正極活物質とともに、必要に応じて導電助剤及びバインダーを含有することが好ましい。このような材料を用いる場合、高電圧及び高エネルギー密度を得ることができる傾向にあるので好ましい。
LixMO2 (3a)
LiyM2O4 (3b)
{式中、Mは少なくとも1種の遷移金属元素を含む1種以上の金属元素を示し、xは0〜1.1の数、yは0〜2の数を示す。}のそれぞれで表されるリチウム含有化合物、及びその他のリチウム含有化合物が挙げられる。
一般式(3a)及び(3b)のそれぞれで表されるリチウム含有化合物としては、例えば、LiCoO2に代表されるリチウムコバルト酸化物;LiMnO2、LiMn2O4、及びLi2Mn2O4に代表されるリチウムマンガン酸化物;LiNiO2に代表されるリチウムニッケル酸化物;LizMO2(MはNi、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含み、且つ、Ni、Mn、Co、Al、及びMgからなる群より選ばれる2種以上の金属元素を示し、zは0.9超1.2未満の数を示す)で表されるリチウム含有複合金属酸化物等が挙げられる。
リチウムと、
コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、及びチタン(Ti)からなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素と、
を含む複合酸化物、及びリン酸金属化合物が好ましい。
LivMID2 (4a)
LiwMIIPO4 (4b)
{式中、Dは酸素又はカルコゲン元素を示し、MI及びMIIはそれぞれ1種以上の遷移金属元素を示し、v及びwの値は、電池の充放電状態によって異なり、vは0.05〜1.10、wは0.05〜1.10の数を示す。}のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
上述の一般式(4a)で表されるリチウム含有化合物は層状構造を有し、上述の一般式(4b)で表される化合物はオリビン構造を有する。これらのリチウム含有化合物は、構造を安定化させる等の目的から、Al、Mg、又はその他の遷移金属元素により遷移金属元素の一部を置換したもの、これらの金属元素を結晶粒界に含ませたもの、酸素原子の一部をフッ素原子等で置換したもの、正極活物質表面の少なくとも一部に他の正極活物質を被覆したもの等であってもよい。
このようなその他の正極活物質としては、例えば、トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物又は金属カルコゲン化物;イオウ;導電性高分子等が挙げられる。トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物又は金属カルコゲン化物としては、例えば、MnO2、FeO2、FeS2、V2O5、V6O13、TiO2、TiS2、MoS2、及びNbSe2に代表される、リチウム以外の金属の酸化物、硫化物、セレン化物等が挙げられる。導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及びポリピロールに代表される導電性高分子を挙げられる。
上述のその他の正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられ、特に制限はない。しかしながら、リチウムイオンを可逆安定的に吸蔵及び放出することが可能であり、且つ、高エネルギー密度を達成できることから、前記正極活物質層がNi、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有することが好ましい。
正極活物質として、リチウム含有化合物とその他の正極活物質とを併用する場合、両者の使用割合としては、正極活物質の全部に対するリチウム含有化合物の使用割合として、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、及びフッ素ゴムが挙げられる。バインダーの含有割合は、正極活物質100質量部に対して、6質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜4質量部である。
負極6は、負極合剤から作製した負極活物質層6Aと、負極集電体6Bとから構成される。負極6は、非水系二次電池の負極として作用するものであれば特に限定されず、公知のものであってもよい。
負極活物質層6Aは、電池電圧を高められるという観点から、負極活物質としてリチウムイオンを0.4V vs.Li/Li+よりも卑な電位で吸蔵することが可能な材料を含有することが好ましい。負極活物質層6Aは、負極活物質とともに、必要に応じて導電助剤及びバインダーを含有することが好ましい。
負極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン(ハードカーボン)、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、グラファイト、炭素コロイド、及びカーボンブラックに代表される炭素材料の他、金属リチウム、金属酸化物、金属窒化物、リチウム合金、スズ合金、シリコン合金、金属間化合物、有機化合物、無機化合物、金属錯体、有機高分子化合物等が挙げられる。
負極活物質は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
バインダーとしては、例えば、PVDF、PTFE、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、及びフッ素ゴムが挙げられる。バインダーの含有割合は、負極活物質100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜6質量部である。
負極集電体6Bは、例えば、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。また、負極集電体6Bは、表面にカーボンコートが施されていてもよいし、メッシュ状に加工されていてもよい。負極集電体6Bの厚みは、5〜40μmであることが好ましく、6〜35μmであることがより好ましく、7〜30μmであることが更に好ましい。
本実施形態における非水系二次電池1は、正極5及び負極6の短絡防止、シャットダウン等の安全性付与の観点から、正極5と負極6との間にセパレータ7を備えることが好ましい。セパレータ7としては、公知の非水系二次電池に備えられるものと同様のものを用いてもよく、イオン透過性が大きく、機械的強度に優れる絶縁性の薄膜が好ましい。セパレータ7としては、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜等が挙げられ、これらの中でも、合成樹脂製微多孔膜が好ましい。
合成樹脂製微多孔膜としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンを主成分として含有する微多孔膜、或いは、これらのポリオレフィンの双方を含有する微多孔膜等のポリオレフィン系微多孔膜が好適に用いられる。不織布としては、例えば、ガラス製、セラミック製、ポリオレフィン製、ポリエステル製、ポリアミド製、液晶ポリエステル製、アラミド製等の耐熱樹脂製の多孔膜が挙げられる。
セパレータ7は、1種の微多孔膜を単層又は複数積層した構成であってもよく、2種以上の微多孔膜を積層したものであってもよい。セパレータ7は、2種以上の樹脂材料を溶融混錬した混合樹脂材料を用いて単層又は複数層に積層した構成であってもよい。
本実施形態における非水系二次電池1の電池外装2の構成は特に限定されないが、例えば、電池缶及びラミネートフィルム外装体のいずれかの電池外装を用いることができる。電池缶としては、例えば、スチール又はアルミニウムからなる金属缶を用いることができる。ラミネートフィルム外装体としては、例えば、熱溶融樹脂/金属フィルム/樹脂の3層構成からなるラミネートフィルムを用いることができる。
ラミネートフィルム外装体は、熱溶融樹脂側を内側に向けた状態で2枚重ねて、又は熱溶融樹脂側を内側に向けた状態となるように折り曲げて、端部をヒートシールにより封止した状態で外装体として用いることができる。ラミネートフィルム外装体を用いる場合、正極集電体5Bに正極リード体3(又は正極端子及び正極端子と接続するリードタブ)を接続し、負極集電体6Bに負極リード体4(又は負極端子及び負極端子と接続するリードタブ)を接続してもよい。この場合、正極リード体3及び負極リード体4(又は正極端子及び負極端子のそれぞれに接続されたリードタブ)の端部が外装体の外部に引き出された状態でラミネートフィルム外装体を封止してもよい。
本実施形態における非水系二次電池1は、上述の非水系電解液、集電体の片面又は両面に正極活物質層を有する正極5、集電体の片面又は両面に負極活物質層を有する負極6、及び電池外装2、並びに必要に応じてセパレータ7を用いて、公知の方法により作製される。
先ず、正極5及び正極6、並びに必要に応じてセパレータ7からなる積層体を形成する。
例えば、長尺の正極5と負極6とを、正極5と負極6との間に該長尺のセパレータを介在させた積層状態で巻回して巻回構造の積層体を形成する態様;
正極5及び負極6を一定の面積と形状とを有する複数枚のシートに切断して得た正極シートと負極シートとを、セパレータシートを介して交互に積層した積層構造の積層体を形成する態様;
長尺のセパレータをつづら折りにして、該つづら折りになったセパレータ同士の間に交互に正極体シートと負極体シートとを挿入した積層構造の積層体を形成する態様
等が可能である。
或いは、電解液を高分子材料からなる基材に含浸させることによって、ゲル状態の電解質膜を予め作製しておき、シート状の正極5、負極6、及び電解質膜、並びに必要に応じてセパレータ7を用いて積層構造の積層体を形成した後、電池外装2内に収容して非水系二次電池1を作製することができる。
本実施形態における非水系二次電池1の形状は、特に限定されず、例えば、円筒形、楕円形、角筒型、ボタン形、コイン形、扁平形、ラミネート形等が好適に採用される。
一方、負極活物質層よりも正極活物質層の面積が大きいか、或いは同じである場合には、充電時に負極活物質層のエッジ部分で電流の集中が起こり易く、リチウムデンドライトが生成し易くなる。
図4においても、図3と同様に、図中手前側が負極活物質層60であり、奥行き側の点線で示したものが正極活物質層50である。巻回電極体の形成には、帯状の正極と帯状の負極とが使用される。この「負極活物質層の非対向部分の幅」は、帯状の正極及び帯状の負極の長尺方向に直交する方向における、負極活物質層60の外端と、正極活物質層50の外端との距離(図中bの長さ)を意味する。
電極の配置が、負極活物質層の外周端と正極活物質層の外周端とが重なる部分が存在するように、又は負極活物質層の非対向部分に幅が小さすぎる箇所が存在するように設計されている場合、電池組み立て時に電極の位置ずれが生じることにより、非水系二次電池における充放電サイクル特性が低下するおそれがある。よって、該非水系二次電池に使用する電極体においては、予めポリイミドテープ、ポリフェニレンスルフィドテープ、PPテープ等のテープ類、又は接着剤等によって、電極の位置を固定しておくことが好ましい。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
各種評価は以下のようにして実施した。
(1−1)正極(P1)の作製
正極活物質として数平均粒子径11μmのリチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの複合酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、密度4.70g/cm3)と、導電助剤として数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.26g/cm3)及び数平均粒子径48nmのアセチレンブラック粉末(密度1.95g/cm3)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF;密度1.75g/cm3)とを、100:4.2:1.8:4.6の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μm、幅200mmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを、目付量が24.0mg/cm2になるように調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.90g/cm3になるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極(P1)を得た。
表1に記載の正極活物質:96.8質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:2質量部と、バインダーであるポリフッ化ビニリデン:1質量部と、分散剤であるポリビニルピロリドン:0.2質量部とを混合し、更に適量のN−メチル−2−ピロリドンを添加し、プラネタリーミキサーを用いて混合・分散を行って正極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、厚みが15μmのアルミニウム箔の片面に所定の厚みで塗布し、85℃で乾燥した後、更に100℃で真空乾燥してからプレス処理を施して、正極合剤層を集電体の片面に有する正極を得た。正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。
次に、この正極を、正極合剤層の面積が30mm×30mmで、且つアルミニウム箔の露出部を含むように切断し、アルミニウム箔の露出部に電流を取り出すためのアルミニウム製のリード片を溶接することにより、リード付き正極(P2)及び(P3)を得た。
得られた正極(P2)及び(P3)の正極活物質種、塗布量、厚み、電極密度を表1に示す。
上記正極(P2)の作製におけるのと同様の手順により、正極合剤含有スラリー(ペースト)を調製した。得られた正極合剤含有スラリーを、厚みが15μmのアルミニウム箔(集電体)の両面に塗布し、120℃で12時間の真空乾燥を行って、アルミニウム箔の両面に正極合剤層を形成した。次いで、プレス処理を行って正極合剤層の密度を3.15g/cm3に調整した後に所定の大きさで切断して、帯状の正極を得た。アルミニウム箔に正極合剤含有ペーストを塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように非塗布領域を設けた。このとき、表面で塗布領域とした箇所は対応する裏面も塗布領域とした。得られた正極の正極合剤層の厚み(正極集電体であるアルミニウム箔の片面あたりの厚み)は63μm、塗布量(正極集電体であるアルミニウム箔の片面あたりの塗布量(目付量))は15.0mg/cm2であった。
前記帯状の正極を、アルミニウム箔(正極集電体)の露出部の一部が突出するように、且つ正極合剤層の形成部が四隅を曲線状とする略四角形状になるようにトムソン刃で打ち抜いて、正極集電体の両面に正極合剤層を有する電池用正極(P4)を得た。ここで、突出したアルミニウム箔露出部はタブ部として機能する。図5に、前記電池用正極を模式的に表す平面図を示した。ただし、正極の構造の理解を容易にするために、図5に示す正極のサイズの比率は、必ずしも実際のものと一致しない。
正極10は、正極集電体12の露出部の一部が突出するように打ち抜いたタブ部13を有する形状であり、正極合剤層11形成部の形状は四隅を曲線状にした略四角形であり、図中a、b、及びcの長さはそれぞれ80mm、200mm、及び20mmである。
アルミラミネート袋を2.7cm×6cmに加工し、23mm×17mmに打ち抜いた前述の正極を封入した後、不活性雰囲気下において、各実施例又は比較例で調製した非水系電解液0.5mLを注液した。このとき、電極面が電解液中に浸漬されていることを確認した。注液後シールし、アルミラミネート袋を縦に立て掛けた状態で60℃に保ち、10日間保存した。保存後、内部の電解液及び正極表面の観察を行った。遷移金属とアセトニトリルとからなる錯体カチオンの塩を主成分とするゲル状物の生成が認められなかった場合を「○」(良好)、前記ゲル状物の生成が認められた場合を「×」(不良)と判定した。
(3−1)負極(N1)の作製
負極活物質として数平均粒子径12.7μmのグラファイト炭素粉末(密度2.23g/cm3)及び数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.27g/cm 3)と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(密度1.60g/cm3)溶液(固形分濃度1.83質量%)及びスチレンブタジエンラテックス(ガラス転移温度:−5℃、乾燥時の数平均粒子径:120nm、密度1.00g/cm3、分散媒:水、固形分濃度40質量%)とを、87.2:9.7:1.4:1.7の固形分質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入して更に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚さ10μm、幅200mmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーを、目付量が10.6mg/cm2になるよう調節しながらドクターブレード法で塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.50g/cm3になるように圧延して、負極活物質層と負極集電体とからなる負極(N1)を得た。
負極活物質である黒鉛:97.5質量部と、バインダーであるカルボキシメチルセルロース:1.5質量部及びスチレンブタジエンラテックス:1.0質量部とを混合し、更に適量の水を添加した後に十分に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、厚みが10μmの銅箔の片面に一定厚みで塗布し、85℃で乾燥した後、更に100℃で真空乾燥してからプレス処理を施すことにより、負極合剤層を集電体の片面に有する負極を得た。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。
次に、この負極を、負極合剤層の面積が35mm×35mmで、且つ銅箔の露出部を含むように切断し、更に、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接して、リード付き負極(N2)及び(N3)を得た。
得られた負極(N2)及び(N3)の塗布量、厚み、及び実電極密度を表2に示す。
上記負極(N2)の作製におけるのと同様の手順により、負極合剤含有スラリー(ペースト)を調製した。得られた負極合剤含有スラリーを、厚みが10μmの銅箔(集電体)の両面に塗布した後、乾燥を行って、銅箔の両面に負極合剤層を形成した。次いで、プレス処理を行って負極合剤層の密度を1.55g/cm3に調整した後に、所定の大きさで切断することにより、帯状の負極を得た。銅箔に負極合剤含有ペーストを塗布する際には、銅箔の一部が露出するように非塗布領域を設けた。このとき、表面で塗布領域とした箇所は対応する裏面も塗布領域とした。得られた負極の負極合剤層の厚み(負極集電体である銅箔の片面あたりの厚み)は69μm、塗布量(負極集電体である銅箔の片面あたりの塗布量(目付量))は9.0mg/cm2であった。
前記帯状の負極を、銅箔(負極集電体)の露出部の一部が突出するように、且つ負極合剤層の形成部が四隅を曲線状とする略四角形状になるようにトムソン刃で打ち抜いて、負極集電体の両面に負極合剤層を有する電池用負極(N4)を得た。ここで、突出した銅箔露出部はタブ部として機能する。図6に、前記電池用負極を模式的に表す平面図を示した。ただし、負極の構造の理解を容易にするために、図6に示す負極のサイズの比率は、必ずしも実際のものと一致していない。負極20は、負極集電体22の露出部の一部が突出するように打ち抜いたタブ部23を有する形状であり、負極合剤層21の形成部の形状は四隅を曲線状にした略四角形であり、図中d、e、及びfの長さはそれぞれ85mm、205mm、及び20mmである。
CR2032タイプの電池ケース(SUS304/Alクラッド)の中央に、上述のようにして得られた正極(P1)を直径15.958mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。この正極において、正極活物質層の面積は2.00cm2であった。その上からポリエチレン製微多孔膜(膜厚20μm)及びポリプロピレン製ガスケットをセットして、電解液を150μL注入した。この後、上述のようにして得られた負極(N1)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。この負極において、負極活物質層の面積は2.05cm 2であった。更にスペーサー及びスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。電池ケースからあふれた電解液はウエスできれいにふきとった。積層体及び非水系電解液が収容された電池ケースを、25℃環境下で24時間保持し、積層体に電解液を十分含浸させることにより、コイン型非水系二次電池(以下、単に「コイン電池」ともいう)を得た。
上述のようにして得られたコイン電池について、先ず、以下の(5−1)の手順に従って、初回充電処理及び初回充放電容量測定を行った。次に、以下の(5−2)及び(5−3)の手順に従って、それぞれのコイン電池を評価した。充放電は、アスカ電子(株)製の充放電装置ACD−01(商品名)及び二葉科学社製の恒温槽PLM−63S(商品名)を用いて行った。
ここで、1Cとは満充電状態の電池を、定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記においては、4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
コイン電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.6mAの定電流で充電して電池電圧が4.2Vに到達するまで充電を行った後、4.2Vの定電圧で合計15時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する1.8mAの定電流で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。また、このときの放電容量を初期容量とした。
上述の(5−1)に記載の方法で初回充放電処理を行ったコイン電池を用い、1Cに相当する6mAの定電流で充電して電池電圧が4.2Vに到達するまで充電を行った後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。その後、1Cに相当する6mAの定電流で電池電圧3.0Vまで放電した。このときの放電容量をAとした。次に、1Cに相当する6mAの定電流で充電して電池電圧が4.2Vに到達するまで充電を行った後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。その後、5Cに相当する30mAの定電流で電池電圧3.0Vまで放電した。このときの放電容量をBとした。出力試験測定値(容量維持率)として、以下の値を算出した。
容量維持率=100×B/A[%]
上述の(5−1)に記載の方法で初回充放電処理を行ったコイン電池について、60℃において満充電状態で保存した場合の耐久性能を評価した。先ず、コイン電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する6mAの定電流で充電して電池電圧が4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。次に、このコイン電池を60℃の恒温槽に30日間保存した。その後、コイン電池の周囲温度を25℃に戻し、電池電圧を測定した。電池電圧が3.0V以上を維持した場合を「〇」(良好)、短絡して電池電圧が3.0Vを下回った場合を「×」(不良)と判定した。
裁断後の前記正極(P2)と前記負極(N2)、又は裁断後の前記正極(P3)と前記負極(N3)とを、ポリエチレン製微多孔膜セパレータ(厚み18μm)を介して重ね合わせて積層電極体とし、この積層電極体を、90mm×80mmのアルミニウムラミネートシート外装体内に収容した。続いて、電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止して、図1に示す外観で、図2に示す断面構造の単層ラミネート型非水系二次電池(以下、単に「単層ラミネート電池」ともいう)を作製した。この単層ラミネート電池は、定格電流値が25mAh、定格電圧値が4.2Vのものである。
正極集電体の両面に正極合剤層を形成した電池用正極(P4)20枚、及び負極集電体の両面に負極合剤層を形成した電池用負極(N4)21枚を用いて積層電極体を形成した。該積層電極体は、上下の両端を電池用負極として、これらの間に電池用正極と電池用負極とを、セパレータ(微多孔性ポリエチレンフィルム製セパレータ、厚み20μm)を介在させつつ交互に配置し、正極同士のタブ部、及び負極同士のタブ部を、それぞれ溶接した。
次に、厚み:150μm、幅:130mm、高さ:230mmのアルミニウムラミネートフィルムに前記積層電極体が収まるように窪みを形成し、該窪みに前記積層電極体を挿入し、その上に前記と同じサイズのアルミニウムラミネートフィルム(窪みを形成していないもの)を置いて、両アルミニウムラミネートフィルムの3辺を熱溶着した。そして、両アルミニウムラミネートフィルムの残りの1辺から前記非水電解液を注入した。その後、両アルミニウムラミネートフィルムの前記残りの1辺を真空熱封止することにより、多層ラミネート型非水系二次電池(以下、単に「多層ラミネート電池」ともいう)を作製した。この多層ラミネート電池は、定格電流値が15Ah、定格電圧値が4.2Vのものである。
積層電極体の有する各正極は、タブ部同士を溶接して一体化し、この溶接したタブ部の一体化物を電池内で正極外部端子と接続した。同様に、積層電極体の有する各負極も、タブ部同士を溶接して一体化し、この溶接したタブ部の一体化物を電池内で負極外部端子と接続した。これら正極外部端子及び負極外部端子は、外部の機器等と接続可能なように、片端側をアルミニウムラミネートフィルム外装体の外側に引き出した。
上述のようにして得られた単層ラミネート電池及び多層ラミネート電池について、先ず、以下の(8−1)の手順に従って出力特性を評価した。次に、単層ラミネート電池については以下の(8−2)の手順に従って60℃満充電保存特性を、多層ラミネート電池については(8−3)の手順に従って充放電DCR(直流内部抵抗)を、それぞれ評価した。
実施例及び比較例で得られた各ラミネート電池について、23℃において、0.2Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、電流値が0.1Cになるまで4.2Vで定電圧充電して、充電容量(0.2C充電容量)を測定した。次いで、充電後の各ラミネート電池について、0.2Cの電流値で2.5Vになるまで定電流で放電して、0.2C放電容量を測定した。
次に、上記0.2C放電容量を測定した後の各ラミネート電池について、定電流充電時及び定電流放電時の電流値をそれぞれ2Cに変更した以外は、上記0.2C充放電容量測定と同じ条件で定電流−定電圧充電及び定電流放電を行い、2C充電容量及び2C放電容量を測定した。
そして、0.2C放電容量を2C放電容量で除した値を放電容量維持率とし、0.2C充電容量を2C充電容量で除した値を充電容量維持率として、それぞれを求め、百分率で表した。
実施例及び比較例得られた各ラミネート電池について、25℃において、1Cの電流値で4.2Vになるまで定電流充電を行い、引き続いて電流値が0.1Cになるまで4.2Vで定電圧充電を行った。次に、この充電後の各ラミネート電池を60℃の恒温槽内で30日間貯蔵した。その後、各ラミネート電池を恒温槽から取り出して室温に戻した後に、短絡の有無を測定し、短絡が生じなかった場合を「○(60℃満充電保存特性良好)」と判定し、短絡が生じた場合を「×(60℃満充電保存特性不良)」と判定した。
実施例及び比較例で得られた各ラミネート電池について、25℃において、1Cの電流値で30分間の定電流充電を行った後、1Cの電流値で10秒間放電し、放電開始から10秒間で低下した電圧:ΔV1を測定した。
次に、前記条件下における定電流充電と、2C電流値における定電流放電とを順次行って、2Cの定電流放電の開始から10秒間で低下した電圧:ΔV2を同様に測定し、下記式によりDCRを算出した。
DCR(mΩ)=(ΔV2−ΔV1)/(2Cの電流値−1Cの電流値)
不活性雰囲気下、非水系溶媒として830mLのアセトニトリル及び170mLのビニレンカーボネートからなる混合溶媒を調製し、該混合溶媒に対して、1.3molのLiPF6及び0.1molのLiBOBを溶解させた。次に、上記混合溶媒100質量部に対して、添加剤として窒素含有環状化合物であるピリジン0.1質量部を加えて混合することにより、電解液(S11)を得た。この電解液(S11)について、上述の(2)に記載の方法で正極浸漬試験を行った。
上記実施例1において、非水系溶媒の組成、添加剤(窒素含有環状化合物)の種類及び添加量を、それぞれ表3に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様にして電解液(S12〜S16)をそれぞれ得た。これらの電解液について上述の(2)に記載の方法で正極浸漬試験を行った。
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例2における電解液組成及び評価結果を以下の表3に示す。
AN:アセトニトリル
PC:プロピレンカーボネート
DEC:ジエチルカーボネート
VC:ビニレンカーボネート
ES:エチレンサルファイト
EC:エチレンカーボネート
EMC:エチルメチルカーボネート
表4〜表6における略称も上記と同様である。
これらの結果から、フッ素含有無機リチウム塩と有意量のアセトニトリルとを含む電解液において、窒素含有環状化合物の添加が、高温耐久性に大きく寄与していることが明らかとなった。
上述のようにして作製した正極(P1)及び負極(N1)、並びに実施例4で調製した電解液(S15)を組み合わせ、上述の(4)に記載の方法に従ってコイン電池を作製した。このコイン電池について上述の(5−1)に記載の方法により初回充放電処理を行い、上述の(5−2)及び(5−3)に記載の方法により放電容量測定及び保存試験を行った。
電解液として上記比較例2で調製した(S16)を使用した以外は、実施例5と同様にしてコイン電池を作製した。このコイン電池について上述の(5−1)に記載の方法により初回充放電処理を行い、上述の(5−2)及び(5−3)に記載の方法により放電容量測定及び保存試験を行った。
不活性雰囲気下、非水系溶媒として300mLのエチレンカーボネート及び700mLのエチルメチルカーボネートからなる混合溶媒を調製し、該混合溶媒対して1.0molのLiPF6を溶解させて、電解液(S17)を得た。
電解液(S17)を使用した以外は、実施例5と同様にしてコイン電池を作製した。このコイン電池について上述の(5−1)に記載の方法により初回充放電処理を行い、上述の(5−2)及び(5−3)に記載の方法により放電容量測定及び保存試験を行った。
実施例5、比較例3、及び比較例4の評価結果を以下の表4に示す。
比較例3によると、非水系溶媒が有意量のアセトニトリルを含む場合には、保存試験において30日以内に短絡が見られた。これに対して、非水系溶媒中のアセトニトリルの含有量が30体積%以上であっても、フッ素含有無機リチウム塩と窒素含有環状化合物とを含む電解液を用いた実施例5の場合には、保存試験において少なくとも30日間は短絡しないことが確認された。
上記実施例1において、非水系溶媒の組成、添加剤(窒素含有環状化合物)の種類及び添加量を、それぞれ表5に記載のとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして電解液(S18)を得た。
上述のようにして作製した正極(P2)及び負極(N2)、並びに電解液(S18)を組み合わせ、上述の(6)に記載の方法に従って単層ラミネート電池を作製した。この単層ラミネート電池について上述の(8−1)及び(8−2)に記載の方法により出力特性(充放電容量維持率)試験及び60℃満充電試験を行った。
正極及び負極として、それぞれ正極(P3)及び負極(N3)を使用した以外は、実施例6と同様にして単層ラミネート電池を作製した。この単層ラミネート電池について上述の(8−1)及び(8−2)に記載の方法により出力特性(充放電容量維持率)試験及び60℃満充電試験を行った。
不活性雰囲気下、非水系溶媒として300mLのエチレンカーボネート及び700mLのジエチルカーボネートからなる混合溶媒を調製し、該混合溶媒対して1.2molのLiPF6を溶解させ、更に1.5質量%の量となるビニレンカーボネートを溶解させて、電解液(S19)を得た。
電解液(S19)を使用した以外は、実施例6と同様にして単層ラミネート電池を作製した。この単層ラミネート電池について上述の(8−1)及び(8−2)に記載の方法により出力特性(充放電容量維持率)試験及び60℃満充電試験を行った。
電解液(S19)を使用した以外は、実施例7と同様にして単層ラミネート電池を作製した。この単層ラミネート電池について上述の(8−1)及び(8−2)に記載の方法により出力特性(充放電容量維持率)試験及び60℃満充電試験を行った。
上述のようにして作製した正極(P4)及び負極(N4)、並びに電解液(S18)を組み合わせ、上述の(7)に記載の方法に従って多層ラミネート電池を作製した。この多層ラミネート電池について上述の(8−1)及び(8−3)に記載の方法により出力特性(充放電容量維持率)試験及び出力試験(充放電DCR測定)を行った。
電解液(S19)を使用した以外は、実施例8と同様にして多層ラミネート電池を作製した。この多層ラミネート電池について上述の(8−1)及び(8−3)に記載の方法により出力特性(充放電容量維持率)試験及び出力試験(充放電DCR測定)を行った。
実施例8及び比較例7における電池構成及び評価結果を以下の表6に示す。
実施例8と比較例7との比較から、アセトニトリルを含む電解液を用いた場合には、アセトニトリルを含まない電解液を用いた場合と比較して出力試験におけるDCRが顕著に低減されることが確認された。
以上の結果から、本実施形態の電解液を用いた非水系二次電池は、既存電解液を使用した場合に匹敵する高温耐久性能を維持しながら、高い出力特性が実現されていることが検証された。
2 電池外装
3 正極外部端子
4 負極外部端子
5 正極
5A 正極活物質層
5B 正極集電体
6 負極
6A 負極活物質層
6B 負極集電体
7 セパレータ
10 正極
11 正極合剤層
12 正極集電体
13 タブ部
20 負極
21 負極合剤層
22 負極集電体
23 タブ部
Claims (5)
- アセトニトリルを30〜100体積%含む非水系溶媒と、
フッ素含有無機リチウム塩と、
下記一般式(1):
を含有する非水系電解液であって、前記一般式(1)で表される化合物の含有量が、前記非水系電解液の全体に対して0.01〜10質量%である非水系電解液。 - 前記一般式(1)で表される化合物が、ピリジン及び4−(tert−ブチル)ピリジンからなる群より選ばれる1種以上の化合物である、請求項1記載の非水系電解液。
- 前記フッ素含有無機リチウム塩が、LiPF6を含有する、請求項1又は2記載の非水系電解液。
- 集電体の片面又は両面に、Ni、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有する正極活物質層を有する正極、
集電体の片面又は両面に負極活物質層を有する負極、並びに、
請求項1〜3のいずれか1項記載の非水系電解液を具備することを特徴とする、非水系二次電池。 - 前記正極活物質層と前記負極活物質層とが対向配置されており、
前記負極活物質層のうち、前記正極活物質層に対向する側の面の全面積の、
前記正極活物質層と前記負極活物質層とが対向する領域の面積に対する比が、1.0より大きく1.1未満である、請求項4記載の非水系二次電池。
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