以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」および「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。また、図面の比率は説明のために誇張されている場合もある。
本発明は、気泡を含有する塗布前駆液を処理して塗布液を製造する製造方法において、気泡を含有する塗布前駆液のせん断処理の後に、脱気処理することを有する、塗布液の製造方法である。ここで、本明細書において「塗布前駆液」との用語は、本発明の製造方法における「せん断処理」や「脱気処理」を経る前の液を意味する。換言すれば、当該「塗布前駆液」は、「せん断処理」と「脱気処理」とを少なくともこの順番で経ることによって「塗布液」となる。この説明で明らかなように、「塗布前駆液」と「塗布液」とは組成は基本的に変わらず、「塗布前駆液」に含まれる気泡の量が相対的に「塗布液」よりも多いという違いしかない(別の観点から見れば、塗布故障が発生しうるかどうかの確率が異なる)。
本発明において塗布液は、光学フィルムを代表とし、その他、写真用感光材料、感光性印刷版材料、磁性材料等の製膜(製造)のために用いられる。よって、以下においては、好ましい実施形態として、光学フィルムの製造のために用いられる塗布液の製造方法について説明する。無論、本発明において塗布液は、光学フィルムの製造のために使用されることに限定されない。そして、本発明の塗布液の製造方法によって塗布液(光学フィルムの製造のために用いられる塗布液)を作製し、当該塗布液を基材に塗布したのち乾燥することによって、塗膜(例えば、光学フィルム)を作製することができる。この際、基材としては、作製するフィルムに応じて、従来公知のものを適宜使用することができる。
上記のように、本発明は、気泡を含有する塗布前駆液を処理して塗布液を製造する製造方法において、気泡を含有する塗布前駆液のせん断処理の後に、脱気処理することを有する、塗布液の製造方法である。そして、好ましい形態によれば、当該塗布液は、光学フィルムの製造のために用いられる。
当該塗布液が光学フィルムの製造のために用いられるためには、塗布前駆液の組成を適宜調製すればよい。例えば、塗布前駆液の調製方法としては、高分子、および必要に応じて架橋剤、金属酸化物粒子等の添加剤を溶媒に添加し、撹拌混合する方法が挙げられる。この際、各成分の添加順も特に制限されず、撹拌しながら各成分を順次添加し混合してもよいし、撹拌しながら一度に添加し混合してもよい。このように調製された塗布前駆液は、通常、気泡を含有している。
本発明によれば、この気泡を含有する塗布前駆液をせん断処理し、その後脱気処理することを有するため、塗布前駆液に含まれていた気泡を短時間で除去または低減することができる。以下、塗布前駆液の組成の好ましい形態を説明する。
(高分子)
用いられうる高分子としては、特に制限されないが、水溶性高分子が挙げられる。水溶性高分子としては、特に制限されないが、反応性官能基を有するポリマー、変性ポリビニルアルコール、ゼラチン、および増粘多糖類等が挙げられる。なお、本明細書において、「水溶性高分子」とは、水溶性高分子が最も溶解する温度で0.5質量%の濃度となるように水に溶解させた場合において、G2グラスフィルタ(最大細孔40〜50μm)でろ過した際に濾別される不溶物の質量が、加えた水溶性高分子の50質量%以内であるものを意味する。
反応性官能基を有するポリマー
本発明で用いられうる反応性官能基を有するポリマーとしては、例えば、未変性ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、もしくはアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、もしくはスチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレンアクリル酸樹脂、スチレン−スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体、スチレン−2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体、スチレン−2−ヒドロキシエチルアクリレート−スチレンスルホン酸カリウム共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体およびそれらの塩が挙げられる。これらの中でも、未変性ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、およびこれらの共重合体を用いることが好ましい。
なお、上記反応性官能基を有するポリマーが共重合体である場合の共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。
変性ポリビニルアルコール
本発明において用いられうる変性ポリビニルアルコールは、未変性ポリビニルアルコールに任意の変性処理の1または2以上を施したものである。例えば、アミン変性ポリビニルアルコール、エチレン変性ポリビニルアルコール、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、ジアセトン変性ポリビニルアルコール、チオール変性ポリビニルアルコール、アセタール変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコールは、市販品を使用してもよく、あるいは当該分野で公知の方法で製造したものを使用してもよい。
また、末端をカチオン変性したポリビニルアルコールやアニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール、ノニオン変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールも用いてもよい。
カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開昭61−10483号公報に記載されているような第1級〜第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を上記ポリビニルアルコールの主鎖または側鎖中に有するポリビニルアルコールが挙げられ、カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体と酢酸ビニルとの共重合体をケン化することにより得られる。
カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、トリメチル−(2−アクリルアミド−2,2−ジメチルエチル)アンモニウムクロライド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3,3−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、N−ビニルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチル−(2−メタクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、N−(1,1−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド等が挙げられる。カチオン変性ポリビニルアルコールのカチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体の比率は、酢酸ビニルに対して0.1〜10モル%、好ましくは0.2〜5モル%である。
アニオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開平1−206088号公報に記載されているようなアニオン性基を有するポリビニルアルコール、特開昭61−237681号公報および同63−307979号公報に記載されているようなビニルアルコールと水溶性基を有するビニル化合物との共重合体、および特開平7−285265号公報に記載されているような水溶性基を有する変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
そして、ノニオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開平7−9758号公報に記載されているようなポリアルキレンオキサイド基をビニルアルコールの一部に付加したポリビニルアルコール誘導体、特開平8−25795号公報に記載されている疎水性基を有するビニル化合物とビニルアルコールとのブロック共重合体等が挙げられる。
ここで、未変性ポリビニルアルコールとしては、平均重合度が好ましくは約100〜10000、より好ましくは平均重合度が約500〜5000、さらに好ましくは平均重合度約900〜2500である。また、未変性ポリビニルアルコールのケン化度は、好ましくは約60〜100モル%、より好ましくは78〜99モル%である。このようなケン化ポリビニルアルコールは、酢酸ビニルをラジカル重合し、得られたポリ酢酸ビニルを適宜、ケン化することによって製造することができ、所望の未変性ポリビニルアルコールを製造するためには、適宜、重合度、ケン化度をそれ自体公知の方法で制御することによって達成される。
なお、こうした部分ケン化ポリビニルアルコールとしては、市販品を使用することも可能であり、好ましい未変性ポリビニルアルコールの市販品としては、例えばゴーセノールEG05、EG25(日本合成化学工業株式会社製)、PVA203(株式会社クラレ製)、PVA204(株式会社クラレ製)、PVA205(株式会社クラレ製)、JP−04(日本酢ビ・ポバール株式会社製)、JP−05(日本酢ビ・ポバール株式会社製)等が挙げられる。あるいは、(株)クラレ製のPVA124(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、PVA117(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、PVA624(ケン化度:95.0〜96.0モル%)およびPVA617(ケン化度:94.5〜95.5モル%);例えば日本合成化学工業(株)製のAH−26(ケン化度:97.0〜98.8モル%)、AH−22(ケン化度:97.5〜98.5モル%)、NH−18(ケン化度:98.0〜99.0モル%)およびN−300(ケン化度:98.0〜99.0モル%);例えば日本酢ビ・ポバール(株)のJF−17(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、JF−17L(ケン化度:98.0〜99.0モル%)およびJF−20(ケン化度:98.0〜99.0モル%)などが挙げられる。
未変性(変性)ポリビニルアルコールと重合させる重合性ビニル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸類またはそれらの塩(例えばアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アルキルアミン塩)、それらのエステル類(例えば置換または非置換のアルキルエステル、環状アルキルエステル、ポリアルキレングリコールエステル)、不飽和ニトリル類、不飽和アミド類、芳香族ビニル類、脂肪族ビニル類、不飽和結合含有複素環類等が挙げられる。具体的には、(a)アクリル酸エステル類としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート(ポリエチレングリコールとアクリル酸とのエステル)、ポリプロピレングリコールアクリレート(ポリプロピレングリコールとアクリル酸とのエステル)などが、(b)メタクリル酸エステル類としては、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート(ポリエチレングリコールとメタクリル酸とのエステル)などが、(c)不飽和ニトリル類としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが、(d)不飽和アミド類としては例えばアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、メタクリルアミドなどが、(e)芳香族ビニル類としてはスチレン、α−メチルスチレンなどが、(f)脂肪族ビニル類としては、酢酸ビニルなどが、(g)不飽和結合含有複素環類としては、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリンなどが例示される。
上述の変性ポリビニルアルコールは、未変性ポリビニルアルコールまたはその誘導体をそれ自体公知の方法で変性処理することにより製造することができる。
特に、変性ポリビニルアルコールとしての上記グラフト共重合体を製造する方法としては、ラジカル重合、例えば溶液重合、懸濁重合、乳化重合および塊状重合などのそれ自体公知の方法を挙げることができ、各々の通常の重合条件下で実施することができる。この重合反応は、通常、重合開始剤の存在下、必要に応じて還元剤(例えば、エリソルビン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸)、連鎖移動剤(例えば2−メルカプトエタノール、α−メチルスチレンダイマー、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ラウリルメルカプタン)あるいは分散剤(例えばソルビタンエステル、ラウリルアルコールなどの界面活性剤)等の存在下、水、有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、セロソルブ、カルビトール)あるいはそれらの混合物中で実施される。また、未反応の単量体の除去方法、乾燥、粉砕方法等も公知の方法でよく、特に制限はない。
ゼラチン
本発明で用いられうるゼラチンとしては、従来、ハロゲン化銀写真感光材料分野で広く用いられてきた各種ゼラチンを挙げることができる。例えば、酸処理ゼラチン、アルカリ処理ゼラチンの他に、ゼラチンの製造過程で酵素処理をする酵素処理ゼラチンおよびゼラチン誘導体、すなわち分子中に官能基としてのアミノ基、イミノ基、ヒドロキシ基、またはカルボキシ基を有し、それと反応して得る基を持った試薬で処理し改質したものでもよい。ゼラチンの一般的製造法に関しては良く知られており、例えば、T.H.James:The Theory of Photographic Process 4th.ed.1977(Macmillan)55頁、科学写真便覧(上)72〜75頁(丸善株式会社)、写真工学の基礎−銀塩写真編 119〜124頁(コロナ社)等の記載を参考にすることができる。また、リサーチ・ディスクロージャー誌第176巻、No.17643(1978年12月)のIXページに記載されているゼラチンを挙げることができる。
増粘多糖類
本発明で用いられる増粘多糖類としては、特に制限はなく、例えば、一般に知られている天然単純多糖類、天然複合多糖類、合成単純多糖類および合成複合多糖類などを挙げることができる。これら増粘多糖類の詳細については、「生化学辞典(第2版)」(東京化学同人)、「食品工業」第31巻(1988)21頁等を参照することができる。
前記増粘多糖類とは、糖類の重合体で、分子内に水素結合基を多数有するものであり、温度による分子間の水素結合力の違いにより、低温時の粘度と高温時の粘度との差が大きいという特性を備えた多糖類であり、さらに金属酸化物粒子や多価金属化合物を添加すると、低温時に金属酸化物粒子または多価金属化合物との反応により金属酸化物粒子または多価金属化合物との水素結合またはイオン結合を形成して、粘度上昇またはゲル化を引き起こすものである。粘度の上昇幅は、金属酸化物粒子または多価金属化合物の添加前の15℃における粘度と比較して、15℃の粘度で、1.0mPa・s以上であることが好ましい。粘度上昇幅は、より好ましくは5.0mPa・s以上であり、さらに好ましくは10.0mPa・s以上である。
本発明に適用可能な増粘多糖類のさらに具体的な例としては、例えば、ペクチン、ガラクタン(例えば、アガロース、アガロペクチン等)、ガラクトマンノグリカン(例えば、ローカストビーンガム、グアラン等)、キシログルカン(例えば、タマリンドガム、タマリンドシードガム等)、グルコマンノグリカン(例えば、蒟蒻マンナン、木材由来グルコマンナン、キサンタンガム等)、ガラクトグルコマンノグリカン(例えば、針葉樹材由来グリカン)、アラビノガラクトグリカン(例えば、大豆由来グリカン、微生物由来グリカン等)、グルコラムノグリカン(例えば、ゲランガム等)、グリコサミノグリカン(例えば、ヒアルロン酸、ケラタン硫酸等)、アルギン酸およびアルギン酸塩、寒天、κ−カラギーナン、λ−カラギーナン、ι−カラギーナン、ファーセレラン等の紅藻類に由来する天然高分子多糖類、カルボキシメチルセルロース(セルロースカルボキシメチルエーテル)、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類が挙げられる。塗布前駆液中に共存しうる金属酸化物粒子の分散安定性を低下させないという観点から、その構成単位がカルボン酸基やスルホン酸基を有しないものが好ましい。その様な多糖類としては、例えば、L−アラビトース、D−リボース、2−デオキシリボース、D−キシロースなどのペントース、D−グルコース、D−フルクトース、D−マンノース、D−ガラクトースなどのヘキソースのみからなる多糖類であることが好ましい。具体的には、主鎖がグルコースであり、側鎖もグルコースであるキシログルカンとして知られるタマリンドシードガムや、主鎖がマンノースで側鎖がグルコースであるガラクトマンナンとして知られるグアーガム、カチオン化グアーガム、ヒドロキシプロピルグアーガム、ローカストビーンガム、タラガムや、主鎖がガラクトースで側鎖がアラビノースであるアラビノガラクタンを好ましく使用することができる。
上述の高分子は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
また、高分子の質量平均分子量は特に制限はないが、5000〜1000000を好ましく用いる事ができる。なお、本明細書において、質量平均分子量とは、TSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxLまたはTSKgel G2000HxL(東ソー株式会社製)のカラムを使用したゲルパーミエーションクロマトフラフィ(GPC)分析装置(溶媒:テトラヒドロフラン(THF))により、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した分子量を意味する。
また、塗布前駆液中の高分子の濃度は、高分子の種類に応じて適宜変更することができるが、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%であることがより好ましく、3〜9質量%であることがさらに好ましい。高分子の濃度が上記範囲にあると、塗布前駆液が一定の粘性を有し成膜に有利となりうることから好ましい。なお、気泡の除去の効率を考えると濃度が低い方が好ましい。
また、塗布前駆液の粘度は、塗布液の製造工程のいずれかの時点で、100〜1000mPa・sであると好ましい。例えば、ある程度、低粘度(例えば、100mPa・s未満)の塗布前駆液を使用する場合は、従来の脱泡方法(静置処理)をある程度長い時間を掛けて行えば、気泡は浮上してきてそれらを除去することができる。しかし、塗布前駆液がある程度高粘度(例えば、100mPa・s以上)になると、長い時間を掛けて静置を行っても塗布故障を抑制することはできない。それは、微細な気泡が、その粘度の高さのために浮上することができないからである。これに対し、本発明の方法を用いれば、塗布前駆液の粘度が100〜1000mPa・sであっても十分に塗布故障を防止または抑制することができる。
(溶媒)
本発明で用いられうる溶媒は、特に制限されないが、水、有機溶媒、またはその混合溶媒等が挙げられる。
前記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどのアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル類;ジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノンなどのケトン類などが挙げられる。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上を混合して用いてもよい。環境面、操作の簡便性などから、塗布前駆液の溶媒としては、水、または水とメタノール、エタノール、もしくは酢酸エチルとの混合溶媒を用いることが好ましく、水を用いることがより好ましい。
(架橋剤)
架橋剤は、高分子を硬化させる機能を有する。硬化によって、屈折率層に耐水性が付与されうる。
用いられうる架橋剤としては、高分子と硬化反応を起こすものであれば特に制限されない。例えば、高分子が未変性ポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールである場合には、ホウ酸およびその塩(ホウ素原子を中心原子とする酸素酸およびその塩)、具体的には、オルトホウ酸、二ホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、五ホウ酸、および八ホウ酸またはそれらの塩を用いることが好ましい。ホウ酸およびその塩は、単独の水溶液でも、また、2種以上を混合して使用してもよく、ホウ酸およびホウ砂の混合水溶液を用いることが特に好ましい。他にも公知の化合物を使用することができ、一般的には高分子と反応しうる基を有する化合物、または樹脂が有する異なる基同士の反応を促進するような化合物であり、樹脂の種類に応じて適宜選択して用いられる。架橋剤の具体例としては、例えば、ジグリシジルエチルエ−テル、エチレングリコ−ルジグリシジルエーテル、1,4一ブタンジオ−ルジグリシジルエーテル、1,6−ジグリシジルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロ−ルポリグリシジルエーテル等のエポキシ系架橋剤;ホルムアルデヒド、グリオキザ−ル等のアルデヒド系架橋剤;2,4−ジクロロ−4−ヒドロキシ−1,3,5−S−トリアジン等の活性ハロゲン系架橋剤;1.3.5−トリス−アクリロイル−ヘキサヒドロ−S−トリアジン、ビスビニルスルホニルメチルエーテル等の活性ビニル系化合物;アルミニウム明礬等が挙げられる。
また、樹脂としてゼラチンを用いる場合は、架橋剤として、例えば、ビニルスルホン化合物、尿素−ホルマリン縮合物、メラニン−ホルマリン縮合物、エポキシ系化合物、アジリジン系化合物、活性オレフィン類、イソシアネート系化合物などの有機硬膜剤、クロム、アルミニウム、ジルコニウムなどの無機多価金属塩類などを用いるとよい。
塗布前駆液中の架橋剤の濃度は、0.001〜20質量%であることが好ましく、0.01〜10質量%であることがより好ましい。架橋剤が上記範囲にあると、塗布前駆液が一定の曳糸性や粘性を有し成膜に有利となり、また、形成される屈折率層が好適な耐水性を有しうることから好ましい。
(金属酸化物粒子)
用いられうる金属酸化物粒子としては、特に制限されないが、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ケイ素(SiO2)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンスズ(ATO)等が挙げられる。これらのうち、高屈折率層用塗布前駆液には酸化チタン(TiO2)を、低屈折率層用塗布前駆液には酸化ケイ素(SiO2)を、それぞれ用いることが好ましい。
前記酸化チタン(TiO2)としては、特に屈折率が高く、触媒活性が低いルチル型の酸化チタンを用いることが好ましい。なお、触媒活性が低いと、屈折率層や隣接する層で
生じる副反応(光触媒反応)が抑制されて耐候性が高くなりうる。
また、前記酸化チタンは、pHが1.0〜3.0かつチタン粒子のゼータ電位が正である水系の酸化チタンゾルの表面を疎水化して有機溶剤に分散可能な状態にしたものを用いることが好ましい。前記水系の酸化チタンゾルの調製方法としては、たとえば、特開昭63−17221号公報、特開平7−819号公報、特開平9−165218号公報、特開平11−43327号公報、特開昭63−17221号公報、特開平7−819号公報、特開平9−165218号公報、特開平11−43327号公報等に記載された事項を参照することができる。
また、酸化チタン粒子のその他の製造方法については、たとえば、「酸化チタン−物性と応用技術」(清野学 p255〜258(2000年)技報堂出版株式会社)に記載の方法、またはWO2007/039953号明細書の段落「0011」〜「0023」に記載の工程(2)の方法を参考にすることができる。この工程(2)による製造方法とは、二酸化チタン水和物をアルカリ金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の塩基性化合物で処理する工程(1)で得られた二酸化チタン分散物を、カルボン酸基含有化合物および無機酸で処理するものである。本発明では、工程(2)における無機酸によりpHが1.0〜3.0に調整された酸化チタンの水系ゾルを用いることができる。
前記酸化ケイ素(SiO2)としては、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ等が挙げられる。これらのうち、酸性のコロイダルシリカゾルを用いることがより好ましく、水および/または有機溶媒に分散させたコロイダルシリカゾルを用いることがさらに好ましい。上記のコロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウムの酸等による複分解やイオン交換樹脂層を通過させて得られるシリカゾルを加熱熟成して得られうる。かようなコロイダルシリカは、例えば、特開昭57−14091号公報、特開昭60−219083号公報、特開昭60−219084号公報、特開昭61−20792号公報、特開昭61−188183号公報、特開昭63−17807号公報、特開平4−93284号公報、特開平5−278324号公報、特開平6−92011号公報、特開平6−183134号公報、特開平6−297830号公報、特開平7−81214号公報、特開平7−101142号公報、特開平7−179029号公報、特開平7−137431号公報、および国際公開第94/26530号パンフレット等に記載されている。また、コロイダルシリカは合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
上記金属酸化物粒子は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
金属酸化物粒子の平均粒径は、2〜100nmであることが好ましく、3〜50nmであることがより好ましく、4〜30nmであることがさらに好ましい。当該金属酸化物粒子の平均粒径は、粒子そのものあるいは屈折率層の断面や表面に現れた粒子を電子顕微鏡で観察し、1000個の任意の粒子の粒径を測定し、その単純平均値(個数平均)として求められる。ここで個々の粒子の粒径は、その投影面積に等しい円を仮定したときの直径で表したものである。
塗布前駆液中の金属酸化物粒子の濃度は、屈折率層の固形分100質量%に対して、20〜70質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましい。金属酸化物粒子の含有量が20質量%以上であると、所望の屈折率が得られることから好ましい。また、金属酸化物粒子の含有量が70質量%以下であると、膜の柔軟性を得ることができ、製膜が容易となることから好ましい。
また、屈折率の異なる屈折率層(例えば、高屈折率層と低屈折率層)がいずれも金属酸化物粒子を含む場合には、アニオン化処理またはカチオン化処理を行い、金属酸化物粒子が同一のイオン性(電荷)を有することが好ましい。アニオン化処理またはカチオン化処理を行うことによって、2種の金属酸化物粒子との間に斥力が生じ、これによって、例えば、重層塗布して屈折率層を形成する際に層界面での凝集等が起こりにくくなりうる。
金属酸化物粒子のアニオン化処理として、例えば、酸化チタンのアニオン処理を例示すると、当該酸化チタン粒子は、含ケイ素の水和酸化物で被覆することによりアニオン化することができる。含ケイ素の水和化合物の被覆量は、通常、3〜30質量%であり、好ましくは3〜10質量%であり、より好ましくは3〜8質量%である。被覆量が30質量%以下であると高屈折率層の所望の屈折率化が得られることから好ましく、被覆量が3%以上であると粒子を安定に形成することができることから好ましい。
金属酸化物粒子のカチオン化処理は、例えば、カチオン性化合物を用いることにより行うことができる。前記カチオン性化合物の例としては、カチオン性ポリマー、多価金属塩等が挙げられるが、吸着力・透明性の観点から多価金属塩が好ましい。多価金属塩としては、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、ストロンチウム、バリウム、ニッケル、銅、スカンジウム、ガリウム、インジウム、チタン、ジルコニウム、スズ、鉛等の金属の塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩、クロロ酢酸塩等が挙げられる。これらのうち、水溶性アルミニウム化合物、水溶性カルシウム化合物、水溶性マグネシウム化合物、水溶性亜鉛化合物、水溶性ジルコニウム化合物を用いることが好ましく、水溶性アルミニウム化合物、水溶性ジルコニウム化合物を用いることがより好ましい。前記水溶性アルミニウム化合物の具体例としては、ポリ塩化アルミニウム(塩基性塩化アルミニウム)、硫酸アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム(ミョウバン)、硫酸アンモニウムアルミニウム(アンモニウムミョウバン)、硫酸ナトリウムアルミニウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、ポリ硫酸ケイ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性乳酸アルミニウム等が挙げられる。当該カチオン性化合物の被覆量は、金属酸化物粒子の形状や粒径等によって異なるが、金属酸化物粒子に対しては1質量%〜15質量%であることが好ましい。
(エマルジョン樹脂)
エマルジョン樹脂は、通常、塗布前駆液に分散されたポリマーである。エマルジョン樹脂は、油溶性のモノマーを、高分子分散剤等を用いてエマルジョン重合して得られる。
用いられうる油溶性のモノマーは、特に制限されないが、エチレン、プロピレン、ブタジエン、酢酸ビニルおよびその部分加水分解物、ビニルエーテル、アクリル酸およびそのエステル類、メタクリル酸およびそのエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、メタクリルアミドおよびその誘導体、スチレン、ジビニルベンゼン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、マレイン酸、ビニルピロリドンなどが挙げられる。これらのうち、透明性と粒径の観点から、アクリル酸およびそのエステル類、酢酸ビニル系を用いることが好ましい。
アクリル酸および/またはそのエステル類、酢酸ビニル系エマルジョンとしては、市販されているものを用いてもよく、例えば、アクリットUW−309、UW−319SX、UW−520(大成ファインケミカル株式会社製)、およびモビニール(日本合成化学工業株式会社製)等が挙げられる。
また、用いられうる分散剤は、特に制限されないが、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジエチルアミン、エチレンジアミン、第4級アンモニウム塩のような低分子の分散剤の他に、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエキシエチレンラウリル酸エーテル、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドンのような高分子分散剤が挙げられる。
上述したエマルジョンは、柔軟性を高める観点から、ガラス転移温度(Tg)が20℃以下であることが好ましく、−30〜10℃であることがより好ましい。
(その他の添加剤)
本発明の好ましい形態として、光学フィルムに用いられうる屈折率層に適用可能なその他の添加剤を、以下に列挙する。例えば、特開昭57−74193号公報、特開昭57−87988号公報、および特開昭62−261476号公報に記載の紫外線吸収剤、アニオン、カチオン、またはノニオンの各種界面活性剤、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のpH調整剤、消泡剤、ジエチレングリコール等の潤滑剤、防腐剤、防黴剤、帯電防止剤、マット剤、酸化防止剤、難燃剤、赤外線吸収剤、色素、顔料等の公知の各種添加剤などが挙げられる。
本発明の好ましい形態においては、以上のように調製された、気泡を含有する塗布前駆液(光学フィルムの製造のために用いられる塗布前駆液)をせん断処理し、その後に、脱気処理することによって、光学フィルムの製造のために用いられる塗布液を製造する。
上記のように、大きな気泡については浮上分離させることは比較的容易であって時間もあまり掛からないが、特に気泡が小さくなるほど浮上し難くなり、塗布前駆液の粘度が高いほど顕著となる。つまり、“泡の大きさ(径)”と“液の粘度”に依存するストークスの式にあるように、時間さえ掛ければやがて浮上するが、泡が小さい、あるいは、液粘度が高い時は、現実的には泡を除去しきれず、塗布故障を引き起こす。これに対して、本発明では、せん断処理を行うことによって、特に、浮上分離させることが容易ではない小さな気泡をせん断処理することによってさらに小さくすることで、塗布前駆液中に含まれる気泡と前記塗布前駆液とが接触する面積を増加させ、その気泡中に存在した気体の塗布前駆液中への溶解または分離を促進することにより、脱気の効率を向上させ、塗布故障を抑制または防止を効率よく行うことができる。なお、塗布前駆液中に含まれる気泡と前記塗布前駆液とが接触する面積を増加させるとは、平たく言えば、気泡を分割する処理、あるいは、気液界面を増やす処理であるといえる。また他方で、脱気処理することによって、塗布前駆液中の溶存気体量(通常は、溶存空気量)が減少し、その結果、気液界面を増やした塗布前駆液中の気体が溶媒中にさらに溶解されるため、気泡の除去がさらに促進されるという効果をも奏する。
本発明のさらに好ましい形態においては、塗布前駆液は、脱泡処理を経て準備される。このような構成によって、せん断処理を行う前に大半の大きな気泡を取ることができ、より効率的に塗布液を短時間で提供することができ、ひいては塗布液の生産効率を向上させることができる。
また、本発明のさらに好ましい形態においては、濾過処理を経て、脱気処理する。このような構成によって、濾過処理によって異物などを排除することができるので、気液界面が増大した塗布前駆液を脱気処理するだけでも既に効率が非常に向上している中、さらに脱気処理の効率を向上することができる。
また、本発明のさらに好ましい形態においては、せん断処理、脱気処理、濾過処理および脱泡処理の少なくとも一つの処理が、複数回行われる。このような構成によって、さらに塗布故障のない塗布液を提供することができる。この回数についても特に制限はないが、生産効率の向上を考慮すると、各処理は3回までであることが好ましい。別の観点で考えると、本発明は気泡除去のプロセスとして優れているため2回や3回を超えて繰り返して行わなくても十分に塗布故障を防止することができる。複数回行う方法についても特に制限はないが、ある特定の処理が終わった後に、もう一度、その処理に戻して、循環させる方法などが好適である。その循環回数を制御することによって所望の回数の処理を行うことができる。
以下、光学フィルムの製造のために用いられる塗布液の製造方法について、いくつかの好ましい実施形態に分けて説明を行う。
(A)塗布前駆液調製→せん断処理→脱気処理→塗布液
本形態は、塗布前駆液を調製した後、せん断処理を行って、その後脱気処理を行って塗布液を作製する形態である。なお、矢印は、プロセスの順番を示している(以下、同様)。好ましい形態によれば、例えば、図5を参照すると、塗布前駆液の調製は調製釜110において行われる。なお、塗布前駆液の調製方法は上記で説明したとおりである。調製釜110において調製された塗布前駆液は、例えば、送液装置Pによって次処理(せん断処理、脱気処理)に送られる。送液装置Pは、たとえば、ポンプであり、塗布前駆液の流出、流出の停止を制御可能である。
本形態のように、脱気処理の前にせん断処理を行うことによって、塗布前駆液に存在していた微小な気泡をさらに細かくして、気泡をさらに小径化させ、その気泡中に存在した気体の塗布前駆液中への溶解または分離を促進することにより、脱気の効率を向上させ、塗布故障を抑制または防止を効率よく行うことができる。
(B)塗布前駆液調製→脱泡処理→せん断処理→脱気処理→塗布液
本形態において、形態(A)と異なる点は、せん断処理を行う前に脱泡処理を行う形態である。
形態(B)で示すように、塗布前駆液に含まれる気泡の量が多いと判断される場合は、せん断処理を行う前に、脱泡処理を行ってもよい。なお、脱泡処理とは、泡(気体と液体は分かれている)を液体と分離させることを意味する。このように脱泡処理をすることによって、せん断処理を行う前に大半の大きな気泡を取ることができ、より効率的に塗布液を短時間で提供することができ、ひいては塗布液の生産効率を向上させることができる。塗布前駆液に含まれる気泡の量が多いと判断される目安にも特に制限はないが、例えば、実施例の欄に記載の「目視での泡の有無」を適用すると、塗布前駆液1L中、100個以上である場合、そのように判断してもよい。この場合、脱泡処理を行って、100個未満程度にすると、せん断処理、脱気処理を効率よく行うことができるし、また塗布故障も非常に低減することができる。本形態は、塗布故障も有意に防止、低減することができるし、またプロセスの数も多過ぎないため、生産性も向上する、バランスの取れた形態であると言える。
(C)塗布前駆液調製→せん断処理→濾過処理→脱気処理→塗布液
本形態において、形態(A)と異なる点は、脱気処理を行う前に濾過処理を行う形態である。
仮に、脱気処理を行う方法として脱気膜を使用する場合、異物があると詰りが発生しライフが短くなってしまう虞があり、産効率のさらなる向上を考慮すると、形態(C)で示すように、脱気処理の前に濾過処理を行うことが好ましい。
(D)塗布前駆液調製→脱泡処理→せん断処理→濾過処理→脱気処理→塗布液
本形態は、形態(B)と形態(C)との組み合わせである。
本形態においては、せん断処理を行う前に、上記のように、脱泡処理を行うことによって大半の気泡(主に浮上し易い大きな泡)を事前に除去しておくことができる。さらに、濾過処理によって異物などを排除することができるので、気液界面が増大した塗布前駆液を脱気処理するだけでも既に効率が非常に向上している中、さらに脱気処理の効率を向上することができる。つまり、脱気処理のみ(あるいは濾過処理を組み合わせても)では除去することができなかった微小な泡を効率よく除去することができる。なお、当該脱泡処理は、必要に応じ、せん断処理の前に行うのではなく、脱気処理の後に行ってもよいし(形態(E))、せん断処理の前、脱気処理の後のいずれとも行ってもよい(形態(F))。特に形態(F)の場合は、気泡の除去率がさらに向上する。また他方で、脱泡処理を脱気処理に変更してもよい(形態(G))。脱泡処理と同様に脱気処理によって大半の気泡を除去すれば、形態(D)と同様の効果を期待することができる。
以下、各処理につき、説明を行う。
(せん断処理)
せん断処理は、調製した塗布前駆液に、一定のせん断速度でせん断処理を加える工程である。せん断処理を行うことによって、塗布前駆液中に含まれる気泡と前記塗布前駆液とが接触する面積を増加させ、その気泡中に存在した気体の塗布前駆液中への溶解または分離を促進することにより、脱気の効率を向上させ、塗布故障を抑制または防止を効率よく行う。せん断処理におけるせん断速度にも特に制限はないが、好ましくは1000(1/sec)以上、より好ましくは5000〜10000000(1/sec)、さらに好ましくは10000〜1600000(1/sec)である。このような速度であれば、塗布前駆液中に含まれる気泡と前記塗布前駆液とが接触する面積を増加させ、その気泡中に存在した気体の塗布前駆液中への溶解または分離を促進することができる。
本明細書において、「せん断処理」は、塗布前駆液中に含まれる気泡と前記塗布前駆液とが接触する面積を増加させることができる処理であれば特に制限されない。本発明の好ましい形態によると、所定の間隙を有する流路等において、所定の速度で塗布前駆液を移動させて、塗布前駆液にせん断力を付与する。ここで、本明細書において、「せん断速度」とは、下記式(1)により算出される。
「最小間隙」とは、塗布前駆液が移動する流路のうち、せん断力が付与される最小の間隙をいう。また、「速度」とは、前記最小間隙を塗布前駆液が通過する際の塗布前駆液の移動速度をいう。この際、一定の速度で塗布前駆液を移動させた場合には、最小間隙を通過するときに最も高いせん断力が付与される。
本発明の好ましい形態においては、せん断処理は、例えば、分散装置、吐出装置によって行われうる。以下、説明を行う。
分散装置
分散装置としては、マイルダー、圧力式ホモジナイザー、高速回転せん断型ホモジナイザー等が用いられうる。以下、マイルダーおよび圧力式ホモジナイザーを用いた場合におけるせん断処理について詳細に説明する。
図1は、分散装置の一形態であるマイルダーの模式図である。図1のマイルダーは、固定歯であるステーター歯1と、回転歯であるローター歯2とを有する。前記ステーター歯1と前記ローター歯2との間隙(せん断間隙)Laを移動する塗布前駆液4は、ローター歯2の半径方向に速度勾配(ずり速度)が生じる。当該速度勾配によって、前記ステーター歯1および前記ローター歯2間に内部摩擦力(せん断力)が発生する。塗布前駆液4中に含有される気泡は、せん断力を受けながらせん断間隙Laを通過するため、分割され、気液界面が増加する。
図1において、せん断間隙Laが式(1)における「最小間隙」に該当し、最小間隙であるせん断間隙Laを移動する際の塗布前駆液4の速度が式(1)における「速度」に該当する。なお、せん断間隙への塗布前駆液5の導入は、ローター歯2のスリット間隙から前記半径方向に行っているため、せん断間隙Laに流れる塗布前駆液4と導入した塗布前駆液5とは、連続的に衝突を繰り返していることとなる。すなわち、図1のマイルダーによれば、塗布液に対してせん断および混合が連続的に行われていることとなる。
前記マイルダーにおいて、せん断間隙におけるステーター歯とローター歯との最小間隙は0.05〜0.8mmであることが好ましく、0.1〜0.6mmであることがより好ましい。また、ローター歯の回転速度としては、500〜50,000rpmであることが好ましく、1,000〜20,000rpmであることがより好ましい。せん断間隙におけるステーター歯とローター歯との最小間隙やローター歯の回転速度等を適宜設定することで、せん断速度を調節することができる。このような回転数であると、塗布前駆液中に含まれる気泡と前記塗布前駆液とが接触する面積を増加させる。
上記のようなマイルダーとしては、例えば、エバラマイルダー(株式会社荏原製作所製)、マイルダー(大平洋機工株式会社製)等を用いることができる。
図2は、分散装置の一形態である圧力式ホモジナイザーの模式図である。図2の圧力式ホモジナイザーは、バルブシート11と、バルブ12とを有する。加圧機構(図示せず)により供給された塗布前駆液14は、バルブシート11間を高圧かつ高速で移動する。当該塗布前駆液が、バルブシート11およびバルブ12の狭い間隙Lbを通過する際、バルブ12に衝突して流れの方向が変わった塗布前駆液と、間隙Lbを通過しようとする塗布前駆液との間で液同士の摩擦が発生し、その結果として、塗布前駆液に大きなせん断力が生じると考えられる。このせん断力は、最小間隙Lbに比例する。図2において、間隙Lbは、せん断力が付与される最小の間隙であり、式(1)における「最小間隙」に該当する。また、最小間隙である間隙Lbを移動する際の塗布前駆液14の速度が式(1)における「速度」に該当する。前記圧力式ホモジナイザーにおいて、バルブシートとバルブとの距離は0.05〜0.5mmであることが好ましく、0.1〜0.3mmであることがより好ましい。また、バルブシートおよびバルブ間を通過する際の速度としては、1〜500m/sであることが好ましく、3〜300m/sであることがより好ましい。バルブシートとバルブとの距離や加圧機構における塗布前駆液の供給条件等を適宜設定することで、せん断速度を調節することができる。塗布前駆液の供給の際の圧力にも特に制限はないが、例えば400〜600bar程度が好ましい。
上記のような圧力式ホモジナイザーとしては、例えば、圧力式ホモジナイザーLAB1000(株式会社エスエムテー製)等を用いることができる。
なお、高速回転せん断型ホモジナイザーは、マイルダーと類似した構成を有しており、高速回転するローターと狭い間隙を経て近接するステーターとの間でせん断処理を行う処理装置である。高速で回転するローターにより塗布前駆液が流動し、ステーターとの間で生じる速度勾配で発生したせん断と、塗布前駆液同士の衝突によるせん断で、塗布前駆液4中に含有される気泡は分割され、気液界面が増加する。
高速回転せん断型ホモジナイザーとしては、例えば、T.K.ロボミックス(プライミクス株式会社製)、クレアミックスCLM−0.8S(エム・テクニック株式会社製)、ホモジナイザー(マイクロテック・ニチオン社製)等を用いることができる。
吐出装置
吐出装置としては、キアポンプ、モーノポンプ、ロータリーポンプ等の回転ポンプが用いられうる。以下、ギアポンプを用いた場合におけるせん断処理について詳細に説明する。図3は、吐出装置の一形態である外接型ギアポンプの模式図である。図3の外接型ギアポンプは、歯車22aと、歯車22bとを有する。歯車22aおよび歯車22bは、中央で歯が噛みあいながら回転する。塗布前駆液24は、歯車22aおよび22bにより分離され、歯車22aまたは22bと、外箱21との間隙Lcを移動する。この際、移動する歯車22aまたは22bと、固定された外箱21との間を移動する塗布前駆液24には速度勾配(ずり速度)が生じ、これによってせん断力が生じる。図3において、間隙Lcが式(1)における「最小間隙」に該当し、最小間隙である間隙Lcを移動する際の塗布前駆液24の速度が式(1)における「速度」に該当する。
前記外接型ギアポンプおいて、歯車と外箱との距離は1〜10mmであることが好ましく、1〜5mmであることがより好ましい。また、歯車および外箱を通過する際の速度としては、1〜10m/sであることが好ましく、2〜10m/sであることがより好ましい。歯車と外箱との距離や歯車の回転速度等を適宜設定することで、せん断速度を調節することができる。
また、図3の外接型ギアポンプの他、外歯歯車および内歯歯車を使用する内接型ギアポンプを用いてもよい。前記内接型ギアポンプは、最小間隙が小さくなることから、より好適に用いられうる。
上記のようなギアポンプとしては、例えば、ケミカルギヤポンプGX−25S(株式会社イワキ製)等を用いることができる。
(脱気処理)
脱気処理は、塗布前駆液中の溶存気体量(通常は、溶存空気量)を減少させる(液体中に溶解している気体を液体から取り除く)。その結果、気液界面を増やした塗布前駆液中の気体が溶媒中にさらに溶解されるため、気泡の除去がさらに促進される。
脱気処理は、減圧脱気方式によって行われることが好ましく、中でも、中空糸膜を用いた減圧脱気方式であることが好ましい。
本発明の一実施形態として、中空糸膜を用いない減圧脱気方式としては、減圧装置と撹拌装置を備えた減圧釜(減圧可能な蓋付き釜:減圧浮上槽)の中に、せん断処理を経た塗布前駆液を入れ、当該塗布前駆液が全体的に流動する程度に撹拌しながら、減圧度1〜500Torr、5〜30分間程度で行う。
本形態において、塗布前駆液をせん断させることによって、液中に存在していた微小な気泡をさらに細かくして、気泡をさらに小径化する。この減圧脱泡槽による減圧作用で、気液界面付近では、気泡径の拡大の作用により分離されやすくなると共に、撹拌によって液面に達し液外へ吸引除去され溶存気体量が減る。他方、液中ではその気泡中に存在した気体の液中への溶解作用が促進される。
このように、減圧処理は気泡径の拡大を狙って行うものであるため、液中に存在していた微小な気泡をさらに細かくするというせん断処理は一見すると減圧処理による気泡径の拡大にはそぐわないようにも通常は考えられる。しかし、上記のように、気液界面付近と、液中での現象を分けて考えることによって、効率よく気泡の除去を行うことができ、それが結果的に塗布故障の抑制に繋がるものと考えられる。ただし、かかるメカニズムは推測に過ぎず、このメカニズムにより本発明の技術的範囲が制限されないのは言うまでもない。
なお本形態における撹拌は、気液界面部を十分に撹拌し、かつ液面まで浮上して来た気泡を液中に再び巻き込まないような槽内液流動を発生する大型翼やアンカー翼が適している。かかる撹拌翼を用いて撹拌しつつ上記条件による減圧を行うことで、気泡径の拡大によって気泡はより浮上分離されやすくなり、また脱気も進行しやすくする。また、本形態において、減圧浮上槽の密閉容器内の塗布前駆液に対して減圧脱気することによって、塗布前駆液中の溶存空気濃度が低下し、塗布前駆液は気泡を液中に溶解しやすい状態となる。なお、本形態の好ましい形態においては、減圧後さらに加圧してもよい。加圧することによって塗布前駆液中に残る気泡は液中に溶解させられる。また、本形態における別の形態においては、密閉容器のジャケットに超音波発振器を取付け、加圧中には超音波を液中に照射してもよい。
また、本発明の一実施形態として、中空糸膜を用いる減圧脱気方式としては、気体透過性膜を介して塗布前駆液と対向する空間を、大気圧以下に減圧しながら塗布前駆液を送液することによって、塗布前駆液の脱気を行う。
このような気体透過性膜は、非多孔質で気体透過性に優れ、塗布前駆液に対して耐薬品性を有する材質から形成されるものであることが好ましい。具体的には、前記材質としては、フッ素樹脂や、ポリオレフィン等を主成分としたものが、好ましく用いられる。また、前記中空糸膜は、多層構造としてもよい。
図4は、中空糸膜を用いた脱気装置9の例を示す図である。脱気モジュール91は、内部に中空糸膜92を有する。塗布前駆液は図の矢印に示すように、送液管21aより脱気モジュール91内に送られ、中空糸膜92内を通り送液管21cに送り出される。中空糸膜92を介して塗布前駆液と対向する空間93は減圧ポンプVPにより減圧される。上記により、つまり中空糸膜を用いた脱気を行う前に、塗布前駆液中に存在していた微小な気泡をさらに細かくするというせん断処理を行っているため、塗布前駆液に溶存する気体を効率よく減少させることができる。
中空糸膜を用いた脱気条件として、減圧度は、例えば10〜300Torr程度であり、処理する際の流量は、型式や本数等を考慮して適宜設定すればよく、例えば、100cc/min〜100L/minである。低流量側の下限は特に制約はない。
脱気モジュール91としては、市販品を購入してもよく、DIC(株)製脱気膜モジュール SEPAREL(セパレル)、ポリポア(株)脱気膜モジュール スーパーフォビック(登録商標)などが好適である。ポリポア社製 スーパーフォビックとしては、4×28(膜面積21.7m2)18〜113L/minや、4×13(膜面積8m2) 10〜50L/min、2×6(膜面積0.5m2) 〜1L/minなどが好適であり、また、DIC社製 SEPARELシリーズとしては、EF−020G(膜面積20m2) 8〜50L/min、EF−G5(膜面積0.5m2) 〜1L/minなどが好適である。
なお、中空糸膜を用いた脱気装置を使用する場合は、特に、上記で説明した濾過処理を行うとよい。脱気膜は、脱気能を強めるために細孔流路を液が通る構造をしている。そのため、塗布前駆液に異物などがあった場合、詰って塗布前駆液が送れなくなったりする場合がある。この詰りを回避する為に、濾過処理が有効となる。また大きめの泡は、濾過処理においてさらに細かく砕かれたり、フィルターで捕捉できるとの副次的効果も期待できる点で、濾過処理が、脱気膜による脱気処理の前にあることが有効である。
(脱泡処理)
塗布前駆液に含まれる気泡の量が多いと判断される場合は、せん断処理を行う前に、脱泡処理を行ってもよい。
脱泡処理において、比較的大きな泡のみを分離除去する方法としては、遠心力を用いて液中の気泡を取り除く遠心分離脱泡方法、あるいは超音波エネルギーを照射して、液中の気泡を合一させて浮上させたり、微細気泡を溶解する超音波脱泡方法する方法などがある。また、塗布前駆液を調製した後、脱泡槽で静置を行い、ある程度待機時間を取ることによって大半の大きな泡を自然に分離(浮上分離)させる方法などが好適である。また、上記の脱気処理で説明した、塗布前駆液を含む容器を減圧して、塗布前駆液に含まれる気泡を浮上、除去する減圧脱泡方法等を適用してもよい。また、これらを適宜組み合わせることで脱泡処理を行ってもよい。
静置による浮上分離の待機時間についても特に制限は無く、状況に応じて適宜設定することができる。長いと、気泡の除去率を向上させることができる点で好ましいが、生産性を考えると、短く設定する方がよい。ただ、本発明の方法を用いれば、除去効率を高めながら、脱泡処理を短くすることも可能であり、例えば、15〜45分程度が目安である。
(濾過処理)
上記で説明したように、濾過処理は、塗布前駆液に混ざった異物や、塗布前駆液中に発生した気泡や凝集による異物を除去することができる。
濾過処理を行う方法としては、特に制限はないが、例えば、株式会社ロキテクノ社製の円筒型のフィルターを好適に用いる事が出来る。フィルター種も、特に制限はなく、また液種により適宜選択すればよいが、液体中の異物を低圧損で効率よく捕捉する為、デプスタイプ、あるいはプリーツタイプが好ましい。濾過流量も特に制限はないが、通常毎分5L/m2以下とするのが好ましい。濾過圧力も小さい程、異物の通過が抑制できるので、通常0.2MPa以下で用いるのが好ましい。尚、実際の処理に際して、濾材は予め塗布前駆液と同一の液中に浸漬し、濾材内部の空気を抜いておくことが望ましい。また、この濾過処理では、気泡の除去とともに、塗布前駆液に含まれる不純物や不溶解物を同時に取り除くことができるという利点も有する。
上記のようにして製造された塗布液を塗布装置に導入し、その塗布液を基材上に塗布し、その後乾燥させることにより、光学フィルムを得ることができる。すなわち、本発明は、上記の製造方法により製造された塗布液を基材上に塗布する工程と、前記基材上の塗布液を乾燥させる工程と、を有する光学フィルムの製造方法も提供する。
なお、その導入の際、配管途中やコーターのデッド部分などに泡がトラップされる場合もある。
塗布液を基材上に塗布する方法にも特に制限なく、従来公知の方法を利用して、あるいは適宜組み合わせることによって行うことができるが、例えば、基材上に、スライドコータ塗布装置を用いて塗布することができる。この際の速度にも特に制限はない。この基材上の塗布液を適宜乾燥することによって塗膜を作製することができる。
光学フィルムは、光学機能層の組成、構成等によって発揮する機能が異なる。したがって、種々の光学フィルム、例えば、赤外遮蔽フィルム、反射防止フィルム、配向フィルム、偏光フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、輝度向上フィルム、および電磁波シールドフィルム等に用いることができる。以下の説明では、屈折率の異なる屈折率層が積層されてなる赤外遮蔽フィルムについて説明するが、本発明を限定するものではない。なお、赤外遮蔽フィルムは光学フィルムに該当し、屈折率層は光学機能層に該当する。
一般に、赤外遮蔽フィルムにおいては、隣接する屈折率層間の屈折率の差を大きく設計することが、少ない層数で赤外反射率を高くすることができるという観点から好ましい。本形態では、隣接する屈折率層間の屈折率差の少なくとも1つが0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。また、前記積層された屈折率層間のすべての屈折率差が上記好適な範囲内にあることが好ましい。ただし、この場合でも、反射層を構成する屈折率層のうち、最表層や最下層に関しては、上記好適な範囲外の構成であってもよい。
特定波長領域の反射率は、隣接する2層の屈折率差と積層数で決まり、屈折率の差が大きいほど、少ない層数で同じ反射率を得られる。この屈折率差と必要な層数については、市販の光学設計ソフトを用いて計算することができる。例えば、赤外反射率90%以上を得るためには、屈折率差が0.1より小さいと、100層以上の積層が必要となる。このような場合、生産性の低下、積層界面における散乱の増大、透明性の低下、および製造時の故障が生じうる。
さらには、本形態の赤外遮蔽フィルムの光学特性として、JIS R3106−1998で示される可視光領域の透過率が50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは85%以上であることが好ましく、また、波長900nm〜1400nmの領域に反射率50%を超える領域を有することが好ましい。
赤外遮蔽フィルムは、屈折率層が積層された構成を有することにより、基材の側から、または積層された屈折率層の側から赤外光を照射した場合に、少なくとも赤外光の一部を遮蔽して赤外遮蔽効果を発揮することができる。
一実施形態において、前記積層された屈折率層は、高屈折率層および低屈折率層が交互に積層されてなる。積層された高屈折率層および低屈折率層は、それぞれ同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。屈折率層が高屈折率層であるか低屈折率層であるかは、隣接する屈折率層との屈折率の対比によって判断される。具体的には、ある屈折率層を基準層としたとき、当該基準層に隣接する屈折率層が基準層より屈折率が低ければ、基準層は高屈折率層である(隣接層は低屈折率層である)と判断される。一方、基準層より隣接層の屈折率が高ければ、基準層は低屈折率層である(隣接層は高屈折率層である)と判断される。
上述のように、高屈折率層であるか低屈折率層であるかは隣接する屈折率層との関係で定まる相対的なものであるが、高屈折率層の屈折率(nH)は1.60〜2.50であることが好ましく、1.70〜2.50であることがより好ましく、1.80〜2.20であることがさらに好ましく、1.90〜2.20であることが特に好ましい。一方、低屈折率層の屈折率(nL)は、1.10〜1.60であることが好ましく、1.30〜1.55であることがより好ましく、1.30〜1.50であることがさらに好ましい。なお、各屈折率層の屈折率の値は、以下のように測定した値を採用するものとする。具体的には、支持体上に測定対象となる屈折率層を単層で塗布して得られた塗膜を10cm×10cmに断裁してサンプルを作製する。当該サンプルは、裏面での光の反射を防止するため、測定面とは反対側の面(裏面)を粗面化処理し、黒色スプレーで光吸収処理を行う。このように作製したサンプルを、分光光度計U−4000型(株式会社日立製作所製)を用いて、5度正反射の条件にて可視領域(400nm〜700nm)の反射率を25点測定して平均値を求め、その測定結果より平均屈折率を求める。
屈折率層の総層数の範囲としては、生産性の観点から、好ましくは200層以下であり、より好ましくは100層以下であり、さらに好ましくは50層以下である。
屈折率層の1層あたりの厚さは、1〜1000nmであり、好ましくは20〜800nmであり、より好ましくは50〜350nmである。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
まず、塗布液を作製し、塗膜を作製するまでの全体の流れを説明する。図5は、気泡を含有する塗布前駆液を調製し、塗膜を作製するまでのプロセスの流れを示すフローチャートである。図5に示すように、調製釜110に原料を添加して塗布前駆液を調製する。この際、通常、気泡が混入してしまう。この気泡を含有する塗布前駆液を、送液装置Pを使って、気泡除去プロセス120に導入する。この気泡除去プロセス120において、気泡を含有する塗布前駆液を、少なくともせん断処理の後に、脱気処理することによって、塗布液を製造する。そして、この塗布液を、送液装置Pを使って、供給釜130に供給する。この段階で気泡の数を確認する。最後に、塗布液を用いて、塗布装置140及び乾燥装置(図示せず)によって、塗膜150を作製する。この段階でも気泡の数を確認する。以下、具体的操作について詳説する。
<塗布前駆液の調製>
[塗布前駆液1の調製]
調製釜において、濃度が5.5質量%に調製したポリビニルアルコール(PVA−124、平均重合度2400、ケン化度98〜99モル%、株式会社クラレ製)水溶液50Lを40℃に加熱し、撹拌することによって、気泡を含有する塗布前駆液1を調製した。この塗布前駆液1の粘度は、80mPa・sであった。なお、本明細書中の粘度は、回転式粘度計(ブルックフィールド デジタル粘度計 DV−E)による測定から得られる値とする。また、塗布液を作製するまで塗布前駆液1を40℃のまま維持した。
[塗布前駆液2の調製]
濃度を5.8質量%にした以外は、塗布前駆液1の調製と同様にして、気泡を含有する塗布前駆液2を調製した。この塗布前駆液2の粘度は、100mPa・sであった。また、塗布液を作製するまで塗布前駆液2を40℃のまま維持した。
[塗布前駆液3の調製]
濃度を6.4質量%にした以外は、塗布前駆液1の調製と同様にして、気泡を含有する塗布前駆液3を調製した。この塗布前駆液3の粘度は、250mPa・sであった。また、塗布液を作製するまで塗布前駆液3を40℃のまま維持した。
[塗布前駆液4の調製]
濃度を8.0質量%にした以外は、塗布前駆液1の調製と同様にして、気泡を含有する塗布前駆液4を調製した。この塗布前駆液4の粘度は、500mPa・sであった。また、塗布液を作製するまで塗布前駆液4を40℃のまま維持した。
[塗布前駆液5の調製]
濃度を9.1質量%にした以外は、塗布前駆液1の調製と同様にして、気泡を含有する塗布前駆液4を調製した。この塗布前駆液5の粘度は、1000mPa・sであった。また、塗布液を作製するまで塗布前駆液5を40℃のまま維持した。
[塗布前駆液6の調製]
濃度を9.5質量%にした以外は、塗布前駆液1の調製と同様にして、気泡を含有する塗布前駆液6を調製した。この塗布前駆液6の粘度は、1500mPa・sであった。また、塗布液を作製するまで塗布前駆液6を40℃のまま維持した。
<実施例1>
調製した塗布前駆液3 50Lを、特別な装置を使うことなく、30分間、脱泡槽内で単純に静置して、自然に気泡が浮上する速度(原理)を使って脱泡処理(第1プロセス)を行った(脱泡(1))。この脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、250mPa・sであった。
続いて、分散装置であるマイルダーMDN303V(太平洋機工株式会社製)を用いて、せん断処理(第2プロセス)を行った。このせん断処理(第2プロセス)の条件は、以下のとおりである。すなわち、標準タイプのローター及びステーターを備えたマイルダー処理装置に、ロータリーポンプを用いて2L/minの流量で、前記脱泡処理(第1プロセス)が施された塗布前駆液3を供給し、10,000rpmの回転速度でローターを回転させて、せん断処理(第2プロセス)を行った。せん断速度は、60,000(1/sec)であった(分散(1))。また、最小間隙は0.3mmであった。なお、このせん断処理(第2プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、200mPa・sであった。なお、常に1L/minで塗布前駆液が供給されている為、分散装置内でタクトタイムは発生せず、生産効率を高いまま保持することができた。
続いて、脱気装置として、ポリオレフィンの中空糸を用い、ポッティング材としてポリエチレンを使った、4x13 スーパーフォビック(ポリポア社製)(登録商標)(膜面積0.5m2)を用いて、中空糸を介して対向する空間の圧力を50Torrとし、流量を2L/minとし、前記せん断処理(第2プロセス)が施された塗布前駆液3の溶存空気を脱気処理(第3プロセス)し(脱気(1))、塗布液を作製した。
なお、脱気処理(第3プロセス)が終わって作製された塗布液の粘度は、220mPa・sであった。
最後に、厚さ100μmのPETからなる基材上に、スライドコータ塗布装置を用いて、速度5m/分で、前記塗布液の塗布を行い、50℃で乾燥させて、塗膜を作製した。
<実施例2>
分散装置として、クレアミックスCLM−0.8S(エム・テクニック株式会社製)を用いてせん断処理(第2プロセス)を行うことを経て、塗布液を作製した以外は、実施例1と同様にして、塗膜を作製した。
なお、このせん断処理は、より詳細には、最小間隙0.5mm(5×10−4m)のスクリーンスリット部(S2.0−24)を備えた350ccのベッセル(処理室)に、ロータリーポンプを用いて、2L/minの流量で、脱泡処理(第1プロセス)が施された塗布前駆液3を供給し、10,000rpmの回転速度で、ローター(R2)を回転させて、せん断処理(第2プロセス)を行った。なお、せん断速度は、30,000(1/sec)であった(分散(2))。なお、せん断処理(第2プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、180mPa・sであった。
また、脱気処理(第3プロセス)が終わって作製された、塗布液の粘度は、190mPa・sであった。
<実施例3>
分散装置として、圧力式ホモジナイザーLAB1000(株式会社エスエムテー製)を用いてせん断処理(第2プロセス)を行うことを経て、塗布液を作製した以外は、実施例1と同様にして、塗膜を作製した。
なお、このせん断処理(第2プロセス)は、以下のように行った。すなわち、最小間隙が0.2mm(2×10−4m)となるように調節されたバルブとバルブシートとを有する処理室に、圧力500barで、脱泡処理(第1プロセス)が施された塗布前駆液3を供給した。この際、最小間隙を通過する際の速度は、300m/secであった(分散(3))。また、せん断速度は1500000(1/sec)であった。なお、せん断処理(第2プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、100mPa・sであった。
なお、脱気処理(第3プロセス)が終わって作製された塗布液の粘度は、100mPa・sであった。
<実施例4>
脱気装置として、減圧釜を用いて脱気処理(第3プロセス)を行ったことを経て、塗布液を作製した以外は、実施例1と同様にして、塗膜を作製した。
なお、この脱気処理(第3プロセス)は、以下のように行った。すなわち、減圧装置と撹拌装置を備えた減圧釜(減圧可能な蓋付き釜:減圧浮上槽)の中に、せん断処理(第2プロセス)が施された塗布前駆液3を入れ、当該塗布前駆液3が全体的に流動する程度に撹拌しながら、減圧度50Torr、30分間、脱気処理(第3プロセス)を行うことによって溶存空気を脱気した(脱気(2))。
なお、第3プロセスが終わって作製された塗布液の粘度は、240mPa・sであった。
<実施例5>
調製した塗布前駆液3の代わりに、塗布前駆液1を使用して、塗布液を作製した以外は、実施例1と同様にして、塗膜を作製した。
なお、脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液1の粘度は、90mPa・sであった。また、せん断処理(第2プロセス)を終えた塗布前駆液1の粘度は、60mPa・sであった。また、脱気処理(第3プロセス)が終わって作製された塗布液の粘度は、80mPa・sであった。
<実施例6>
調製した塗布前駆液3の代わりに、塗布前駆液2を使用して、塗布液を作製した以外は、実施例1と同様にして、塗膜を作製した。
なお、脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液2の粘度は、120mPa・sであった。また、せん断処理(第2プロセス)を終えた塗布前駆液2の粘度は、90mPa・sであった。また、脱気処理(第3プロセス)が終わって作製された塗布液の粘度は、100mPa・sであった。
<実施例7>
調製した塗布前駆液3の代わりに、塗布前駆液4を使用して、塗布液を作製した以外は、実施例1と同様にして、塗膜を作製した。
なお、脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液4の粘度は、580mPa・sであった。また、せん断処理(第2プロセス)を終えた塗布前駆液4の粘度は、410mPa・sであった。また、脱気処理(第3プロセス)が終わって作製された塗布液の粘度は、450mPa・sであった。
<実施例8>
調製した塗布前駆液3の代わりに、塗布前駆液5を使用して、塗布液を作製した以外は、実施例1と同様にして、塗膜を作製した。
なお、脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液5の粘度は、1080mPa・sであった。また、せん断処理(第2プロセス)を終えた塗布前駆液5の粘度は、920mPa・sであった。また、脱気処理(第3プロセス)が終わって作製された塗布液の粘度は、1000mPa・sであった。
<実施例9>
せん断処理(第2プロセス)と、脱気処理(第4プロセス)との間に、濾過処理(第3プロセス)を行った以外は、実施例1と同様にして、塗膜を作製した。
なお、この濾過処理(第3プロセス)は、以下のように行った。株式会社ロキテクノ社製の円筒型のフィルターを用い、フィルター種は250L−SLP−200、ロータリーポンプを用いて毎分2L/m2の流量でフィルターに前記せん断処理を終えた塗布前駆液を通液させて濾過を行った。なお、濾過圧力は0.1〜0.05MPaであった。
なお、濾過処理(第3プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、210mPa・sであった。また、脱気処理(第4プロセス)が終わって作製された塗布液の粘度は、230mPa・sであった。
<実施例10>
実施例1において脱気処理(第3プロセス)を行った後、さらに、せん断処理(第4プロセス)と脱気処理(第5プロセス)とをこの順で行った以外は、実施例1と同様にして、塗膜を作製した。
ここで、せん断処理(第4プロセス)の条件は、せん断処理(第2プロセス)と同じである。また、脱気処理(第5プロセス)の条件は、脱気処理(第3プロセス)と同じである。
なお、せん断処理(第4プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、180mPa・sであった。また、脱気処理(第5プロセス)が終わって作製された塗布液の粘度は、200mPa・sであった。
<実施例11>
実施例1において脱気処理(第3プロセス)を行った後、さらに、脱泡処理(第4プロセス)を行った以外は、実施例1と同様にして、塗膜を作製した。
ここで、脱泡処理(第4プロセス)の条件は、脱泡処理(第1プロセス)と同じである。
また、脱泡処理(第4プロセス)が終わって作製された塗布液の粘度は、240mPa・sであった。
<実施例12>
実施例1において脱泡処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、塗膜を作製した。
せん断処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、200mPa・sであった。また、脱気処理(第2プロセス)が終わって作製された塗布液の粘度は、220mPa・sであった。
<比較例1>
厚さ100μmのPETからなる基材上に、スライドコータ塗布装置を用いて、速度5m/分で、塗布前駆液3の塗布を行い、50℃で乾燥させて、塗膜を作製した。
<比較例2>
調製した塗布前駆液3 50Lを、特別な装置を使うことなく、60分間、脱泡槽内で単純に静置して、自然に気泡が浮上する速度(原理)を使って脱泡処理(第1プロセス)を行った(脱泡(1))。なお、この脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、300mPa・sであった。
この脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液3を、比較例1と同様にして塗膜を作製した。
<比較例3>
比較例2において、60分間を30分に変更した以外は、比較例2と同様にして塗膜を作製した。なお、この脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、250mPa・sであった。
<比較例4>
調製した塗布前駆液3 50Lを、減圧装置と撹拌装置を備えた減圧釜(減圧可能な蓋付き釜)の中に入れ、当該塗布前駆液3が全体的に流動する程度に撹拌しながら、減圧度100Torr、30分間、脱泡処理(第1プロセス)を行うことによって溶存空気を脱泡した(脱泡(2))。なお、この脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、260mPa・sであった。
この脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液3を、比較例1と同様にして塗膜を作製した。
<比較例5>
調製した塗布前駆液3 50Lを、脱泡装置(日本エマソン(株)製 円筒型超音波脱泡装置 型式LP680−20(40kHz))によって、30分間、脱泡処理(第1プロセス)を行うことによって溶存空気を脱泡した(脱泡(3))。
なお、この脱泡処理(第1プロセス)は、連続モードで出力80%として超音波脱泡処理を行った。なお、この脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、300mPa・sであった。
この脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液3を、比較例1と同様にして塗膜を作製した。
<比較例6>
比較例3において、脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液3を、さらに実施例1に記載のせん断処理(第2プロセス)を行った。
なお、このせん断処理(第2プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、200mPa・sであった。
このせん断処理(第2プロセス)を終えた塗布前駆液3を、比較例1と同様にして塗膜を作製した。
<比較例7>
比較例3において、脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液3を、さらに実施例1に記載の脱気処理(第2プロセス)を行った。
なお、この脱気処理(第2プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、270mPa・sであった。
この脱気処理(第2プロセス)を終えた塗布前駆液3を、比較例1と同様にして塗膜を作製した。
<比較例8>
比較例7において、脱気処理(第2プロセス)を終えた塗布前駆液3を、さらに実施例1に記載のせん断処理(第3プロセス)を行った。
なお、このせん断処理(第3プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、210mPa・sであった。
このせん断処理(第3プロセス)を終えた塗布前駆液3を、比較例1と同様にして塗膜を作製した。
<比較例9>
比較例3において、脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液3を、150ccのベッセル(処理室)を備えた超音波分散装置(株式会社SMT製 超音波分散装置 型式:UH−600S)にロータリーポンプを用いて2L/minの流量で供給し、連続モード、出力80%の条件で、超音波分散処理(第2プロセス)を行うことによって超音波分散した(分散(4))。
なお、この超音波分散処理(第2プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、180mPa・sであった。
この超音波分散処理(第2プロセス)を終えた塗布前駆液3を、さらに実施例1に記載の脱気処理(第3プロセス)を行った。この脱気処理(第3プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、210mPa・sであった。
この脱気処理(第3プロセス)を終えた塗布前駆液3を、比較例1と同様にして塗膜を作製した。
<比較例10>
調製した塗布前駆液3の代わりに、塗布前駆液1を使用した以外は、比較例2と同様にして、塗膜を作製した。
なお、この脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液1の粘度は、85mPa・sであった。
<比較例11>
調製した塗布前駆液3の代わりに、塗布前駆液2を使用した以外は、比較例2と同様にして、塗膜を作製した。
なお、この脱泡処理(第1プロセス)を終えた塗布前駆液2の粘度は、110mPa・sであった。
<比較例12>
比較例7において、脱気処理(第2プロセス)を終えた塗布前駆液3を、さらに実施例1に記載の脱泡処理(第3プロセス)をし、また実施例1に記載の脱気処理(第4プロセス)を行った。つまり、本比較例は、比較例7を一回繰り返して行った形態と言える。
ここで、脱泡処理(第3プロセス)の条件は、脱泡処理(第1プロセス)と同じである。また、脱気処理(第4プロセス)の条件は、脱気処理(第2プロセス)と同じである。
なお、脱泡処理(第3プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、280mPa・sであった。また、脱気処理(第4プロセス)を終えた塗布前駆液3の粘度は、300mPa・sであった。
<目視での液中の泡の有無>
供給釜130から、透明ビーカーに約1Lの塗布液(塗布前駆液)を採取(サンプリング)し、目視で1mm以下のサイズの泡個数をカウントした。
◎:0個/1L
〇:1〜5個/1L
△:6〜10個/1L
×:11〜50個/1L
××:51〜100個/1L
×××:101個以上/1L
<塗膜の泡故障>
1m×10mの、乾燥後の塗布サンプルを見て、泡起因の故障の個数を目視でカウントし、10で除することによって、1m×1mあたりの塗布故障の数をカウントした。
◎:0個/m2
〇:0超〜0.1個/m2
△:0.1超〜1.0個/m2
×:1.0超〜10個/m2
××:10超〜50個/m2
×××:50個超/m2
結果を下記表1に示す。
<考察>
実施例に記載の方法によって塗布液を作製した場合、短時間で、塗膜故障を殆ど抑制することができることが分かった。
実施例1〜7では、脱泡処理をした後、脱気処理の前に、せん断処理を加えることによって、塗布前駆液に存在していた微小な気泡をさらに細かくして、気泡をさらに小径化させ、その気泡中に存在した気体の塗布前駆液中への溶解または分離を促進することにより、脱気の効率を向上させ、塗布故障を抑制または防止できたことが示唆される。そして、実施例5、6では、低粘度の塗布前駆液が使用されているため、塗布故障の全く無い塗膜を提供することができる。また、実施例12は、脱泡処理を行わず、分散処理をした後、脱気処理しただけであるが、塗布故障のない塗布液を提供できていることが分かる。換言すれば、少なくとも分散処理をした後、脱気処理しただけで、本発明の所期の効果を奏することができることが分かる。また、実施例12は、プロセスの数が少ない形態であるので、生産効率の観点から見ても非常に有用であるものと言える。
他方で、着目すべきは実施例7である。実施例7は、100mPa・sを超える高粘度(500mPa・s)であるが、0〜0.1個/m2という塗布故障の殆ど無い塗膜を提供できるという驚くべき結果を示している。なお、比較例10では、80mPa・sという低粘度の塗布前駆液が使用されており、このような場合は、従来の脱泡方法(静置処理)をある程度長い時間を掛けて行えば、塗布前駆液中に含有される気泡は浮上してきてそれらを除去することができる。しかし、比較例11や比較例2に示されるように、塗布前駆液が100mPa・s以上になると、60分間という長い時間を掛けて静置を行っても塗布故障を抑制することはできないことが示されている。それは、微細な気泡が、その粘度の高さのために浮上することができないからである。これに対し、本発明の方法は、低粘度の塗布前駆液に対しても当然適用することができるが、その優れた能力を発揮するのは高粘度の塗布前駆液に対してであることが分かる。
また実施例10〜11は、実施例1からさらに気泡除去プロセスを多く行った形態であり、塗布故障を完全に抑制する結果を得ることができた。他方で、比較例12においては、気泡除去プロセスを多く行ったが、せん断処理を行っていないため、本発明の所期の効果を奏することができないことが分かる。つまり、特に、高粘度の液に浮上分離が難しい微小な泡が含まれているような場合は、せん断処理と脱気処理とをこの順で行うことが特に重要であることが分かる。
また、比較例6は、比較例3から見れば、気泡除去プロセスを一つ増やしているにも関わらず、寧ろ塗布故障が酷くなっていることが分かる。これは、塗布前駆液中に含有される気泡が、せん断処理によってさらに多くなったという現象に基づく結果であると推測される。このように、気泡除去プロセスにおいてせん断処理を行うことを当業者は通常躊躇するが、本発明ではこれを敢えて脱気処理と組み合わせるという逆転の発想を用い、予想もつかない結果を得ることができている。
また、比較例7では、塗布前駆液の粘度が高いと、気泡の浮上に長時間を要し、特に気泡が小さくなるほど浮上し難くなり、真空排気によっても液中の微小な気泡まで完全に除去することができないことを示している。
また、比較例8では、せん断処理と脱気処理とを組み合わせるだけでは不十分であり、その順番も大切であることを示している。つまり、順番を逆にしてしまうと、脱気処理によって除去しきれなかった気泡が、せん断処理によって、寧ろ増加してしまうことが推測される。
また、比較例9でも、実施例と同様に分散装置が使用されているが、比較例9で使用された分散装置は、せん断処理を行うことができず、気液界面を増加させることができない為、本発明の所期の効果を奏することができないことが示されている。