以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
本実施形態に係る静電潜像現像用トナー(単にトナーともいう)は、複数のトナー粒子を含む粉体である。本実施形態に係るトナーは、例えば、画像形成装置で用いることができる。
画像形成装置では、トナーを含む現像剤を用いて静電荷像を現像する。これにより、感光体上に形成された静電潜像に、帯電したトナーが付着する。そして、付着したトナーを転写ベルトに転写した後、更に転写ベルト上のトナー像を被記録媒体(例えば、紙)に転写する。その後、トナーを加熱して被記録媒体に定着させる。これにより、被記録媒体に画像が形成される。例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4色のトナーを用いて形成したそれぞれのトナー像を重ね合わせれば、フルカラー画像を得ることができる。
複数のトナー粒子の各々は、アニオン性のトナーコアと、カチオン性のシェル層とを含む。シェル層は、トナーコアを被覆するようにトナーコアの表面に形成される。
トナーコアは結着樹脂を必須成分として含み、更に、必要に応じて着色剤、離型剤、電荷制御剤、又は磁性粉のような任意の成分を含んでいてもよい。また、シェル層は、熱硬化性樹脂を含む樹脂から構成される。また、トナーコアの表面に複数のシェル層が積層されてもよい。
トナー粒子(トナー母粒子)の表面は、必要に応じて、外添剤を用いて処理されてもよい。外添剤により処理される前のトナー粒子を、トナー母粒子と称する場合がある。
トナーコアがアニオン性を有することで、シェル層の形成時にカチオン性のシェル層の材料をトナーコアの表面に引き付けることが可能になる。詳しくは、例えば水性媒体中で負に帯電するトナーコアの材料と水性媒体中で正に帯電するシェル層の材料とが相互に電気的に引き寄せられ、例えばin−situ重合によりトナーコアの表面にシェル層が形成される。これにより、分散剤を用いて水性媒体中にトナーコアを過度に分散させずとも、トナーコアの表面に均一なシェル層を形成し易くなる。
トナーコアにおいては、トナーコア成分の大部分(例えば、85質量%以上)を結着樹脂が占める。このため、結着樹脂の極性がトナーコア全体の極性に大きな影響を与える。例えば結着樹脂がエステル基、水酸基、エーテル基、酸基、又はメチル基を有している場合には、トナーコアはアニオン性になる傾向が強くなり、例えば結着樹脂がアミノ基、アミン、又はアミド基を有している場合には、トナーコアはカチオン性になる傾向が強くなる。
本実施形態においてトナーコアがアニオン性であることの指標は、pHが4に調整された水性媒体中で測定されるトナーコアのゼータ電位が負極性を示すことである。トナーコアとシェル層との結合を強めるためには、トナーコアのpH4におけるゼータ電位が0Vよりも小さく、トナー粒子のpH4におけるゼータ電位が0Vよりも大きいことが好ましい。なお、本実施形態においてpH4はシェル層を形成する時の水性媒体のpHに相当する。
ゼータ電位の測定方法としては、例えば電気泳動法、超音波法、又はESA(電気音響)法が挙げられる。
電気泳動法は、粒子分散液に電場を印加して分散液中の帯電粒子を電気泳動させ、電気泳動速度に基づきゼータ電位を算出する方法である。電気泳動法の例としては、レーザードップラー法(電気泳動している粒子にレーザー光を照射し、得られた散乱光のドップラーシフト量から電気泳動速度を求める方法)が挙げられる。レーザードップラー法は、分散液中の粒子濃度を高濃度とする必要がなく、ゼータ電位の算出に必要なパラメーターの数が少なく、加えて電気泳動速度を感度よく検出できるという利点を有する。
超音波法は、粒子分散液に超音波を照射して分散液中の帯電粒子を振動させ、この振動によって生じる電位差に基づきゼータ電位を算出する方法である。
ESA法では、粒子分散液に高周波電圧を印加して分散液中の帯電粒子を振動させて超音波を発生させる。そして、その超音波の大きさ(強さ)からゼータ電位を算出する。
超音波法及びESA法は、粒子濃度が高い(例えば、20質量%を超える)粒子分散液であっても、ゼータ電位を感度よく測定することができるという利点を有する。
トナーを1成分現像剤として用いてもよいし、所望のキャリアと混合して2成分現像剤として使用することもできる。
トナー粒子を構成するトナーコアは、結着樹脂としてポリエステル樹脂を含む。このため、トナーコアの表面には、ポリエステル樹脂が有する水酸基又はカルボキシル基が露出する。後述するように、シェル層は、熱硬化性樹脂を含む樹脂から構成される。
トナーコア及びシェル層が上記のような材料から構成され、例えば、後述する方法によりシェル層を形成する場合、トナーコアの表面に露出する水酸基又はカルボキシル基と、シェル層の材料の中間体が有するメチロール基との反応によって、トナーコアを構成する水酸基を有するポリエステル樹脂と、シェル層に含まれる熱硬化性樹脂との間に共有結合が形成されるため、シェル層とトナーコアとが強固に結合する。
更に、トナー粒子が熱硬化性樹脂からなる固いシェル層により保護されているため、現像器内でトナー粒子が長期間ストレスを受けてもトナー粒子が破砕されにくい。更に、シェル層はトナーコアに対して強固に結合し、トナーコアからの剥離が生じにくい。そのため、本実施形態のトナーは耐熱保存性に優れる。
トナーコアに含まれるポリエステル樹脂は、特定の分子量分布を満足する。具体的には、分子量分布において、少なくとも2つ以上のピークを持ち、メインピークP1が3.0×103〜1.0×104の範囲にあり、好ましくは、4.0×103〜9.0×103の範囲にある。
メインピークP1の分子量が3.0×103未満の範囲にあると、ポリエステル樹脂のガラス転移点Tgが極端に低くなり、シェル層を形成する工程において、トナーコアの凝集が発生してしまう。また、後述の粉砕法を採用してトナーコアを製造する際に、粉砕時での熱エネルギーにより、トナーコア同士が融着してしまう。その結果、良好な粉体状であるトナーが得られない。一方、メインピークP1が1.0×104を超える範囲にあると、トナーコアの粘性が不十分となり、高速定着システムを採用した画像形成装置において、このようなトナーを定着すると、トナーは記録媒体に対して十分な強度で定着できず、当該トナーは低温定着性に劣る。
更に、トナーコアに含まれるポリエステル樹脂の分子量分布における、サブピークP2が3.0×105〜1.8×106の範囲にあり、好ましくは、4.0×105〜1.2×106の範囲にある。
ポリエステル樹脂のサブピークP2が3.0×105未満の範囲にある場合は、トナーコアの弾性力が極端に低下するために高温でトナーを定着した場合に、オフセットが発生し、その結果、形成した画像に画像欠陥が発生する。一方、サブピークP2の分子量が1.8×106を越える範囲にあると、トナーコアの粘性が不十分となり、高速定着システムを採用した画像形成装置において、このようなトナーを定着すると、トナーは記録媒体に対して十分な強度で定着できず、当該トナーは低温定着性に劣る。
ポリエステル樹脂の分子量分布測定にはゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いることができる。具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーとして、東ソー株式会社製の「HLC−8220GPC」を用いることができる。分子量分布はテトラヒドロフラン(THF)を溶媒として、以下のように測定される。
まず、測定試料は以下のようにして作製される。ポリエステル樹脂10mgとTHF5mlとを混合する。そして、室温で2時間放置した後、十分に振とうし、THFとポリエステル樹脂とを混合して混合物を得る。その後、得られた混合物をサンプル処理フィルター(株式会社エコパック トムシック製「TITAN2−30PTFE」、メッシュサイズ:0.45μm)を用いてろ過し、このフィルターを通過させたものをGPCの試料(THF試料溶液)とする。
次いで、GPC測定装置中で、40℃のヒートチャンバ内でカラムを安定させる。そして、40℃のカラムに溶媒としてのTHFを1ml/分の流速で流し、約50μl以上200μl以下のTHF試料溶液を注入して分子量分布を測定する。
分子量分布は、単分散ポリスチレン標準試料により作成された検量線の対数値とカウント数との関係から算出される。検量線作成用の標準ポリスチレン試料としては、例えば、分子量が52〜107程度のものを用いる。検量線作成用の標準ポリスチレン試料の市販品としては、例えば、東ソー株式会社製又は昭和電工株式会社製の試料(分子量が3.84×106、1.09×106、3.55×105、1.02×105、4.39×104、9.10×103、2.98×103)が挙げられる。そして、ポリエステル樹脂の分子量分布測定においては、数種類(例えば、少なくとも8点程度)の標準ポリスチレン試料を用いる。検出器としては、例えば、RI(屈折率)検出器を用いる。カラムとしては、分子量領域を的確に測定するために、市販のポリスチレンゲルカラムを複数本組み合わせて用いることが好ましい。ポリスチレンゲルカラムとしては、例えば、東ソー株式会社製「TSK−GEL GMHXL」を直列で2本組み合わせたポリスチレンゲルカラムを挙げることができる。
ポリエステル樹脂は、アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合又は共縮重合によって得られる。アルコール成分としては2価又は3価以上のアルコールが挙げられる。2価又は3価以上のアルコール成分の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールのようなジオール類;ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、又はポリオキシプロピレン化ビスフェノールAのようなビスフェノール類;ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンのような3価以上のアルコール類が挙げられる。
カルボン酸成分としては2価又は3価以上のカルボン酸が挙げられる。2価又は3価以上のカルボン酸成分の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アルキル又はアルケニルコハク酸(例えば、n−ブチルコハク酸、n−ブテニルコハク酸、イソブチルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデシルコハク酸、又はイソドデセニルコハク酸)、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、又はマロン酸のような2価カルボン酸;1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸のような3価以上のカルボン酸が挙げられる。これらの2価又は3価以上のカルボン酸成分は、酸ハライド、酸無水物、又は低級アルキルエステルのようなエステル形成性誘導体として用いてもよい。ここで、「低級アルキル」とは、炭素原子数が1から6であるアルキル基を意味する。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、ポリエステル樹脂は、非結晶性ポリエステル樹脂を主成分とする。
非結晶性ポリエステル樹脂は単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
なお、本明細書において、「結晶性」とは、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有することを示す。具体的には、「結晶性」とは、昇温速度10℃/分で測定した際の吸熱ピークの半値幅が15℃以下であることを意味する。一方、吸熱ピークの半値幅が15℃を超えるポリエステル樹脂、又は明確な吸熱ピークが認められないポリエステル樹脂は、非結晶性(非晶質)であることを意味する。
非結晶性ポリエステル樹脂の軟化点Tmの求め方を、図1を用いて説明する。高架式フローテスターにより得られるストロークの最大値をS1とし、低温側のベースラインのストローク値をS2とする。S字カーブ中の、ストローク値が(S1+S2)/2となる温度を、測定試料である非結晶性ポリエステル樹脂の軟化点Tmとする。非結晶性ポリエステル樹脂の軟化点Tmは、100℃以下であることが好ましく、70℃以上100℃以下であることがより好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂の融点Mpの求め方を、図2を用いて説明する。結晶性ポリエステル樹脂の融点Mpは、例えば、示差走査熱量計(DSC)(セイコーインスツル株式会社製「DSC6220」)を用いて測定できる。具体的には、アルミ皿に10mg以上12mg以下のトナーを入れ測定部にセットする。30℃をスタートに170℃まで10℃/分で昇温させる。このとき、図2に示すような融解熱曲線が得られる。この融解熱曲線において、観測される融解熱の最大ピーク温度を結晶性ポリエステル樹脂の融点Mpとする。結晶性ポリエステル樹脂の融点Mpは、50℃以上100℃以下であることが好ましく、70℃以上100℃以下であることがより好ましい。
ポリエステル樹脂が非結晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含有する混合樹脂である場合、非結晶性ポリエステル樹脂の質量に対する、結晶性ポリエステル樹脂の質量の比率は、30/70〜0/100であることが好ましく、より好ましくは、20/80〜0/10である。
ポリエステル樹脂の酸価は、十分なアニオン性を有するために、5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下が好ましい。ポリエステル樹脂の水酸基価は、同様の理由から、15mgKOH/g以上80mgKOH/g以下が好ましい。
ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価は、ポリエステル樹脂を製造する際の、アルコール成分とカルボン酸成分との使用量を、適宜変更することで調整できる。また、ポリエステル樹脂の分子量を上げると、ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価が低下する傾向がある。
ポリエステル樹脂のガラス転移点Tgの読み取り方を、図3を用いて説明する。ポリエステル樹脂のガラス転移点Tgは、示差走査熱量計DSCを用い、ポリエステル樹脂の吸熱曲線を測定し、吸熱曲線における比熱の変化点から求めることができる。具体的には、測定試料10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用し、測定温度範囲25℃以上200℃以下かつ昇温速度10℃/分の条件で、図3に示すようなポリエステル樹脂の吸熱曲線を得、この吸熱曲線に基づいてポリエステル樹脂のガラス転移点Tgを求める。ポリエステル樹脂のガラス転移点Tgは、25℃以上55℃以下であることが好ましく、30℃以上50℃以下であることがより好ましい。
結着樹脂は、ポリエステル樹脂の他の熱可塑性樹脂(以下、他の熱可塑性樹脂)を含んでいてもよい。他の熱可塑性樹脂は、従来からトナー用の結着樹脂として使用される熱可塑性樹脂から適宜選択される。
結着樹脂中のポリエステル樹脂の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。
着色剤としては、トナー粒子の色に合わせて、公知の顔料又は染料を用いることができる。好適な着色剤の具体例としては以下の着色剤が挙げられる。着色剤の使用量は、結着樹脂100質量部に対して1質量部以上30質量部以下が好ましい。
黒色着色剤としては、カーボンブラックが挙げられる。黒色着色剤としては後述するイエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤のような着色剤を用いて黒色に調色された着色剤も利用できる。
トナーがカラートナーである場合に、トナーコアに含有される着色剤としては、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、又はシアン着色剤のような着色剤が挙げられる。
イエロー着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、又はアリルアミド化合物のような着色剤が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、又は194);ネフトールイエローS、ハンザイエローG、又はC.I.バットイエローが挙げられる。
マゼンタ着色剤としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、又はペリレン化合物のような着色剤が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、又は254)が挙げられる。
シアン着色剤としては、銅フタロシアニン化合物、銅フタロシアニン誘導体、アントラキノン化合物、又は塩基染料レーキ化合物のような着色剤が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、又は66);フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、又はC.I.アシッドブルーが挙げられる。
離型剤は、トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させる目的で使用される。離型剤の使用量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下が好ましく、5質量部以上20質量部以下がより好ましい。
離型剤としてはワックスを用いることが好ましい。ワックスの例としては、エステルワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フッ素樹脂系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス、又はモンタンワックスが挙げられ、エステルワックスが好ましい。エステルワックスとしては、合成エステルワックス又は天然エステルワックス(例えば、カルナウバワックス又はライスワックス)が挙げられる。合成原料を適宜選択することで示差走査熱量計を用いて測定される離型剤の融点を後述する好適な範囲に調整しやすい。そのため、エステルワックスとしては、合成エステルワックスが好ましい。これらの離型剤は2種以上を組み合わせて使用できる。
合成エステルワックスを製造する方法は、化学合成法であれば特に限定されない。例えば、周知の方法(酸触媒の存在下でのアルコールとカルボン酸との反応、又はカルボン酸ハライドとアルコールとの反応)を用いて合成エステルワックスを製造することができる。なお、合成エステルワックスの原料は、例えば、天然油脂から製造される長鎖脂肪酸のような天然物に由来するものでもよいし、合成品として市販される原料でもよい。
離型剤の融点は、50℃以上100℃以下が好ましい。離型剤の融点は示差走査熱量計を用いて測定されるDSC曲線中の最大吸熱ピークの温度である。融点が50℃以上100℃以下である離型剤を用いたトナーは、低温定着性に優れ、更に高温でのオフセットの発生を抑制できる。
トナーコア又はシェル層には、トナーコア中の結着樹脂の酸価を調整したり、又はシェル層の帯電性を調整したりするために電荷制御剤が使用されてもよい。
トナーコアには、必要に応じて、結着樹脂中に磁性粉を含有させてもよい。磁性粉を含むトナーコアを用いて製造されたトナーは、磁性1成分現像剤として使用される。好適な磁性粉としては、フェライト、又はマグネタイトのような鉄;コバルト、又はニッケルのような強磁性金属;鉄、及び/又は強磁性金属を含む合金;鉄、及び/又は強磁性金属を含む化合物;熱処理のような強磁性化処理を施された強磁性合金;又は二酸化クロムが挙げられる。
磁性粉の粒子径は、0.1μm以上1.0μm以下が好ましい。このような範囲の粒子径の磁性粉を用いる場合、結着樹脂中に磁性粉を均一に分散させやすい。
磁性粉の使用量は、トナーを1成分現像剤として使用する場合、トナー全量を100質量部とする場合に、35質量部以上60質量部以下が好ましく、40質量部以上60質量部以下がより好ましい。
[シェル層]
シェル層を構成する樹脂は、熱硬化性樹脂を含む。熱硬化性樹脂は、一般的には、アミノ基(−NH2)を有するアミノ樹脂と総称されるものを挙げることが出来る。例えば、メラミン樹脂又はその誘導体であるメチロールメラミン;グアナミン樹脂又はその誘導体であるベンゾグアナミン、アセトグアナミン、スピログアナミン;スルホンアミド樹脂;尿素又はその誘導体;グリオキザール樹脂;又はアニリン樹脂が挙げられる。更に、熱可塑性樹脂として、窒素原子を分子骨格に有する材料を挙げることができ、例えば、熱硬化性ポリイミド樹脂(マレイミド系重合体、ビスマスイミド、アミノビスマスイミド、又はビスマスイミドトリアジン)が挙げられる。
メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとの重縮合物である。メラミン樹脂の形成に使用されるモノマーはメラミンである。尿素樹脂は尿素とホルムアルデヒドとの重縮合物である。尿素樹脂の形成に使用されるモノマーは尿素である。グリオキザール樹脂は、グリオキザールと尿素との反応物とホルムアルデヒドとの重縮合物である。グリオキザール樹脂の形成に使用されるモノマーはグリオキザールと尿素との反応物である。これらは、周知の変性を受けていてもよい。
シェル層は、メラミン等に由来する窒素原子を含む。このため、このようなシェル層を備える本実施形態のトナーは正帯電されやすい。よって、本実施形態のトナーを正帯電させて画像を形成する場合、トナーに含まれるトナー粒子が所望する帯電量に正帯電されやすい。トナーに含まれるトナー粒子を所望する帯電量に正帯電させやすい点から、シェル層中の窒素原子の含有量は、10質量%以上が好ましい。
シェル層の厚さは、20nm以下が好ましく、1nm以上10nm以下がより好ましい。シェル層が厚過ぎると、トナーを被記録媒体へ定着させる際に圧力が加えられても、シェル層が破壊されにくい。この場合、トナーコアに含まれる結着樹脂や離型剤の軟化又は溶融が速やかに進行せず、低温域でトナーを被記録媒体上に定着させにくい。一方、薄過ぎるシェル層は強度が低く、輸送時のような状況での衝撃によってシェル層が破壊される場合がある。ここで、高温でトナーを保存する場合、シェル層の少なくとも一部が破壊されたトナー粒子は凝集しやすい。なぜなら、高温下ではシェル層における破壊された箇所を通じて、離型剤のような成分がトナー粒子の表面に染み出しやすいからである。
シェル層の厚さは、トナー粒子の断面のTEM撮影像を市販の画像解析ソフトウェアを用いて解析することによって計測できる。市販の画像解析ソフトウェアとしては、WinROOF(三谷商事株式会社製)のようなソフトウェアを用いることができる。具体的には、トナーの断面の略中心で直交する2本の直線を引き、当該2本の直線上の、シェル層と交差する4箇所の長さを測定する。このようにして測定される4箇所の長さの平均値を、測定対象の1個のトナー粒子が備えるシェル層の厚さとする。このようなシェル層の厚さの測定を、10個以上のトナー粒子に対して行い、測定対象の複数のトナー粒子それぞれが備えるシェル層の膜厚の平均値を求める。求められる平均値を、トナー粒子が備えるシェル層の膜厚とする。
シェル層が薄過ぎる場合、TEM撮影像上でシェル層とトナーコアとの界面が不明瞭であるため、シェル層の厚さの測定が困難である場合がある。このような場合、TEM撮影とエネルギー分散X線分光分析(EDX)とを組み合わせて、TEM撮影像中で、シェル層の材料に特徴的な元素(例えば、窒素)のマッピングを行い、シェル層とトナーコアとの界面を明確化して、シェル層の厚さを計測すればよい。
トナーのガラス転移点Tgは、25℃以上55℃以下であることが好ましく、30℃以上50℃以下であることがより好ましい。
トナーのガラス転移点Tgの読み取り方を、図3を用いて説明する。トナーのガラス転移点Tgは、示差走査熱量計(DSC)を用い、トナーの吸熱曲線を測定し、吸熱曲線における比熱の変化点から求めることができる。具体的には、測定試料10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用し、測定温度範囲25℃以上200℃以下かつ昇温速度10℃/分の条件で、図3に示すようなトナーの吸熱曲線を得、この吸熱曲線に基づいてトナーのガラス転移点Tgを求める。
トナーの軟化点Tmは、110℃以下であることが好ましく、70℃以上105℃以下であることがより好ましい。
トナーの軟化点Tmの読み取り方を、図1を参照して説明する。つまり、ポリエステル樹脂の軟化点Tmの測定と同様に、トナーを測定試料とし、高架式フローテスターを用いて図1に示すようなS字カーブを得、このS字カーブから、トナーの軟化点Tmを読み取る。
トナー粒子の表面には、必要に応じて外添剤を付着させてもよい。外添剤としては、シリカ、又は金属酸化物(例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウム)の微粒子が挙げられる。
外添剤の粒子径は、0.01μm以上1.0μm以下が好ましい。外添剤の使用量は、トナー母粒子100質量部に対して1質量部以上10質量部以下が好ましく、2質量部以上5質量部以下がより好ましい。
本実施形態のトナーは、所望のキャリアと混合して2成分現像剤として使用される。2成分現像剤を調製する場合、磁性キャリアを用いることが好ましい。
好適なキャリアとしては、キャリア芯材が樹脂で被覆されたものが挙げられる。キャリア芯材の具体例としては、鉄、酸化処理鉄、還元鉄、マグネタイト、銅、ケイ素鋼、フェライト、ニッケル、又はコバルトの粒子;これらの材料とマンガン、亜鉛、又はアルミニウムのような金属との合金の粒子;鉄−ニッケル合金、又は鉄−コバルト合金の粒子;セラミックス(酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、チタン酸リチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、又はニオブ酸リチウム)の粒子;高誘電率物質(リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、又はロッシェル塩)の粒子;又は樹脂中に上記粒子を分散させた樹脂キャリアが挙げられる。
キャリア芯材を被覆する樹脂の例としては、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体、オレフィン系重合体(ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、又はポリプロピレン)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート樹脂、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、又はポリフッ化ビニリデン)、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、又はアミノ樹脂が挙げられる。これらの樹脂は単独(1種)で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
キャリアの粒子径は、電子顕微鏡により測定され、20μm以上120μm以下が好ましい。
トナーを2成分現像剤として用いる場合、トナーの含有量は、2成分現像剤の質量に対して、3質量%以上20質量%以下が好ましい。
[トナーの製造方法]
トナーの製造方法は、トナーコアを上記の所定の材料からなるシェル層で被覆できる方法であれば特に限定されない。以下、本実施形態の静電潜像現像用トナーの好適な製造方法について説明する。この製造方法においては、トナーコアを製造する工程(トナーコア製造工程)と、トナーコアの表面を被覆するようにシェル層を形成する工程(シェル層形成工程)とを含む。
トナーコア製造工程は、結着樹脂中に、任意成分(着色剤、電荷制御剤、離型剤、又は磁性粉のような成分)を良好に分散させることができれば特に限定されず、公知の方法を適宜採用できる。トナーコア製造工程には、例えば、粉砕法、又は凝集法が採用される。
粉砕法は、結着樹脂と任意成分(着色剤、離型剤、電荷制御剤、又は磁性粉)とを混合し(混合工程)、次に混合物を溶融混練し(混練工程)、次に得られる混練物を粉砕し(粉砕工程)、分級して(分級工程)、所望の粒子径のトナーコアを得る方法である。粉砕法を用いたトナーコア製造工程では、比較的容易にトナーコアを調製することができる。
トナーコアの摩擦帯電量は負極性であることが好ましく、−10μC/g以下がより好ましい。摩擦帯電量の測定方法について以下に述べる。日本画像学会から提供される標準キャリア(負帯電極性トナー用標準キャリア「N−01」)と、トナーコアとを、ターブラミキサーを用いて30分間混合する。この時、トナーコアの使用量は、標準キャリアの質量に対して7質量%である。混合後、トナーコアの摩擦帯電量を、QMメーター(TREK社製「MODEL 210HS−2A」)を用いて測定する。このようにして測定されるトナーコアの摩擦帯電量は、トナーコアが正負何れの極性に帯電されやすいかの指標と、トナーコアの帯電されやすさの指標とになる。
トナーコアに関し、pH4に調整された水性媒体中で測定されるゼータ電位が、負極性であることが好ましく、−10mV以下がより好ましい。pH4の分散液中のゼータ電位の測定方法について以下に述べる。トナーコア0.2gと、イオン交換水80mLと、ノニオン系界面活性剤(ポリビニルピロリドン、日本触媒株式会社製「K−85」、濃度1.0質量%)20gとを、マグネットスターラーを用いて混合し、トナーコアを均一に溶媒に分散させて分散液を得る。その後、希塩酸を加えて分散液のpHを4に調整する。この分散液を測定試料として用い、分散液中のトナーコアのゼータ電位を、ゼータ電位・粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製「Delsa Nano HC」)を用いて測定する。
通常、トナーコアの表面に均一なシェル層を形成する場合、分散剤を含む水性媒体中でトナーコアを十分に分散させておく必要がある。しかし、トナーコアについて、上記の特定の条件で測定される標準キャリアとの摩擦帯電量が所定の範囲内である場合、水性媒体中で、トナーコアと、含窒素化合物であって水性媒体中で正に帯電する熱硬化性樹脂のモノマーとが、相互に電気的に引き寄せられる。そして、トナーコアの表面では、トナーコアに吸着された熱硬化性樹脂のモノマーとトナーコア中のポリエステル樹脂との反応が良好に進行する。このため、分散剤を用いずとも、均一にシェル層を形成できる。排水負荷の非常に高い分散剤を用いないことによって、排水を希釈することなくトナー粒子を製造する際に、排出される排水の全有機炭素濃度を15mg/L以下の低いレベルとすることが可能となる。
トナーコアのpH4の水性媒体中でのゼータ電位が所定の範囲内である場合にも、水性媒体中でトナーコアの表面にシェル層を形成する際に同様の効果が得られる。
シェル層形成工程においては、トナーコアを被覆するようにシェル層が形成される。シェル層は、メラミン、尿素、若しくはグリオキザールと尿素との反応物、又はこれらとホルムアルデヒドとの付加反応によって生成される前駆体(メチロール化物)を用いて形成される。また、シェル層の形成に用いる溶媒に対する結着樹脂の溶解を防いだり、又はトナーコアに含まれる離型剤のような成分の溶出を防いだりする必要があるため、水のような溶媒中でシェル層の形成が行われることが好ましい。
シェル層の形成は、シェル層を形成するための材料の水溶液にトナーコアを添加して行われる。水性媒体中にトナーコアを良好に分散させるためには、分散液を強力に撹拌できる装置(例えば、プライミックス株式会社製「ハイビスミックス」)を用いてトナーコアを機械的に分散させることが好ましい。
上記水溶液のpHは、トナーコアを添加する前に、酸性物質を用いて4程度に調整されることが好ましい。分散液のpHを酸性側に調整することで、後述するシェル層を形成するための材料の重縮合反応が促進される。
必要に応じて上記水溶液のpHを調整した後、水性媒体中で、シェル層を形成するための材料とトナーコアとを混合する。その後、水性分散液中で、トナーコアの表面でのシェル層を形成するための材料間の反応を進行させて、トナーコアの表面を被覆するようにシェル層を形成する。
トナーコアの表面でシェル層を形成する際の温度は、シェル層の形成が良好に進行するために、40℃以上95℃以下が好ましい。
上記のようにしてシェル層を形成した後、シェル層で被覆されたトナーコアを含む水性分散液を常温まで冷却して、トナー粒子(トナー母粒子)の分散液を得る。その後、必要に応じて、水性分散液をろ過し、トナー粒子を洗浄する工程(洗浄工程)、トナー粒子を乾燥する工程(乾燥工程)、及びトナー母粒子の表面に外添剤を付着させる工程(外添工程)から選択される1以上の工程を経て、トナー粒子の分散液からトナーが回収される。
水性分散液のろ過液の導電率は、10μS/cm以下であることが好ましい。導電率の測定には、例えば、株式会社堀場製作所製の電気伝導率計「Horiba COND METER ES−51」を用いることができる。
洗浄工程では、トナー粒子(トナー母粒子)を水を用いて洗浄する。好適な洗浄方法としては、トナー粒子を含む水性分散液から、固液分離によりトナー粒子をウエットケーキとして回収し、得られるウエットケーキを、水を用いて洗浄する方法;又は、トナー粒子を含む分散液中のトナー粒子を沈降させ、上澄み液を水と置換し、置換後にトナー粒子を水に再分散させる方法が挙げられる。
乾燥工程では、トナー粒子(トナー母粒子)を乾燥させる。トナー粒子を乾燥させる好適な方法としては、乾燥機(例えば、スプレードライヤー、流動層乾燥機、真空凍結乾燥機、又は減圧乾燥機)を用いる方法が挙げられる。これらの方法の中では、乾燥中のトナー粒子の凝集を抑制するため、スプレードライヤーを用いる方法が好ましい。スプレードライヤーを用いる場合、トナー粒子の分散液と共に、シリカのような外添剤の分散液を噴霧することによって、トナー粒子の表面に外添剤を付着することができる。
外添工程では、トナー粒子(トナー母粒子)の表面に外添剤を付着する。外添剤を付着させる好適な方法としては、外添剤がトナー粒子表面に埋没しないような条件で、混合機(例えば、ヘンシェルミキサー又はナウターミキサー)を用いて、トナー粒子と外添剤とを混合する方法が挙げられる。
以上説明した本発明の静電潜像現像用トナーは、耐熱保存性及び低温定着性に優れ、更に高温でのオフセットの発生を抑制できる。このため、本発明の静電潜像現像用トナーは、種々の画像形成装置で好適に使用できる。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は実施例の範囲に何ら限定されるものではない。
[ポリエステル樹脂]
表1に示すような物性を有するポリエステル樹脂1〜12を準備した。ポリエステル樹脂1〜12について、示差走査熱量計(DSC)を用いて吸熱ピークの半値幅(単位:℃)を測定しようとした。具体的には、測定試料10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用し、測定温度範囲25℃以上200℃以下かつ昇温速度10℃/分の条件で吸熱ピークを得、この吸熱ピークに基づく半値幅を求めようとした。ポリエステル樹脂1〜12については、何れも、明確な吸熱ピークが認められなかったため、吸熱ピークの半値幅を求めることができなかった。
[結晶性ポリエステル樹脂]
表2に示すような物性を有する結晶性ポリエステル樹脂1及び2を準備した。なお、吸熱ピークの半値幅(単位:℃)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した。具体的には、測定試料10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用し、測定温度範囲25℃以上200℃以下かつ昇温速度10℃/分の条件で吸熱ピークを得、この吸熱ピークに基づく半値幅を求めた。
離型剤として、以下のような融点を有するエステルワックス1〜3を準備した。
エステルワックス1:融点75℃
エステルワックス2:融点50℃
エステルワックス3:融点100℃
調製例(A−1)
[トナーコアの調製]
100質量部のポリエステル樹脂1に対し、5質量部の着色剤(C.I.ピグメントブルー15:3、銅フタロシアニン)、及び5質量部のエステルワックス1を、混合機(ヘンシェルミキサー)を用いて混合し混合物を得た。
次いで、得られた混合物を、2軸押出機(株式会社池貝製「PCM−30」)を用いて溶融混練して混練物を得た。混練物を機械式粉砕機(フロイント・ターボ株式会社製「ターボミル」)を用いて粉砕し、粉砕物を得た。粉砕物を分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェット」)を用いて分級し、体積平均粒子径(D50)が6.0μmのトナーコアを得た。トナーコアの体積平均粒子径は、コールターカウンターマルチサイザー3(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて測定した。このトナーコアの一部を取り出し、標準キャリアとの摩擦帯電量の測定とpH4の分散液中のゼータ電位の測定とに用いた。
調製例(A−1)のトナーの調製に用いるトナーコアに関し、標準キャリアとの摩擦帯電量は−20μC/gであり、pH4の分散液中のゼータ電位は−30mVであり、明らかなアニオン性を示していた。
シェル層形成工程
温度計、及び撹拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコに、イオン交換水300mLを入れた後、ウォーターバスを用いてフラスコ内部の温度を30℃に保持した。次いで、フラスコ内に希塩酸を加えて、フラスコ内の水性媒体のpHを4に調整した。pH調整後、フラスコ内に、シェル層の原料として、ヘキサメチロールメラミン初期重合体水溶液(昭和電工株式会社製「ミルベン607」、固形分濃度80質量%)0.7mLを添加した。次いで、フラスコの内容物を撹拌し、シェル層の原料を水性媒体に溶解させ、シェル層の原料の水溶液(A)を得た。
水溶液(A)が入った3つ口フラスコに、トナーコア300gを添加し、フラスコの内容物を、200rpmの速度で1時間撹拌した。次いで、イオン交換水300mLを追加し、100rpmで撹拌しながら、1℃/分の速度でフラスコ内部の温度を70℃まで上げた。昇温後、70℃かつ100rpmで、フラスコの内容物を2時間撹拌し続けた。その後、水酸化ナトリウムを加えて、フラスコの内容物のpHを7に調整した。次いで、フラスコの内容物を常温まで冷却してトナー母粒子を含む分散液を得た。
ブフナーロートを用いて、トナー母粒子を含む分散液からトナー母粒子のウエットケーキをろ取した。このウエットケーキをイオン交換水に分散させてトナー母粒子を洗浄した。同様の洗浄を5回繰り返した。
トナー母粒子のウエットケーキを、エタノール水溶液(濃度50質量%)に分散させてスラリーを調製した。得られたスラリーを連続式表面改質装置(フロイント・ターボ株式会社製「コートマイザー(登録商標)」)に供給することにより、スラリー中のトナー母粒子を乾燥させた(乾燥条件は、熱風温度45℃、ブロアー風量2m3/分)。なお、シェル層の厚みは2nmであった。
外添工程
乾燥後のトナー母粒子100質量部と、外添剤としてのシリカ(日本アエロジル株式会社製「REA90」)0.5質量部とを、10Lヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて5分間混合し、トナー母粒子表面にシリカを付着させた。その後、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別し、調製例(A−1)のトナーを得た。
調製例(A−2)〜(A−6)
ミルベン607の添加量を、それぞれ、1mL、2mL、3mL、4mL、又は6.3mLに変更することにより、シェル層の厚さを表2に記載したように変更した以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(A−2)〜(A−6)のトナーを得た。
調製例(A−7)
トナーコア製造工程を実行する際にポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂2を用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(A−7)のトナーを得た。
調製例(A−8)
シェル層形成工程を実行する際に、ミルベン607に代えて、3mLの尿素樹脂(昭和電工株式会社製、「ミルベンレジン3HSP−H」、固形分濃度80質量%)を用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(A−8)のトナーを得た。なお、シェル層の厚さは9nmであった。
調製例(A−9)
トナーコア製造工程を実行する際にポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂3を用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(A−9)のトナーを得た。
調製例(A−10)
トナーコア製造工程を実行する際にポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂4を用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(A−10)のトナーを得た。
調製例(A−11)
トナーコア製造工程を実行する際にポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂5を用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(A−11)のトナーを得た。
調製例(A−12)
トナーコア製造工程を実行する際にポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂6を用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(A−12)のトナーを得た。
調製例(A−13)
トナーコアにおいて、ポリエステル樹脂1と非結晶性ポリエステル樹脂1(融点Mp:50℃)とを、85:15(質量比)の割合で混合した樹脂を結着樹脂として用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(A−13)のトナーを得た。
調製例(A−14)
トナーコアにおいて、ポリエステル樹脂1と非結晶性ポリエステル樹脂2(融点Mp:100℃)とを、85:15(質量比)の割合で混合した樹脂を結着樹脂として用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(A−14)のトナーを得た。
調製例(A−15)
離型剤として、エステルワックス1に代えて、融点が50℃であるエステルワックス2を用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(A−15)のトナーを得た。
調製例(A−16)
離型剤としてエステルワックス1に代えて、融点が100℃であるエステルワックス3を用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(A−16)のトナーを得た。
調製例(B−1)
トナーコア製造工程を実行する際にポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂7を用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(B−1)のトナーを得た。
調製例(B−2)
トナーコア製造工程を実行する際にポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂8を用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(B−2)のトナーを得た。
調製例(B−3)
トナーコア製造工程を実行する際にポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂9を用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(B−3)のトナーを得た。
調製例(B−4)
トナーコア製造工程を実行する際にポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂10を用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(B−4)のトナーを得た。
調製例(B−5)
トナーコア製造工程を実行する際にポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂11を用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(B−5)のトナーを得た。
調製例(B−6)
トナーコア製造工程を実行する際にポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂12を用いた以外は、調製例(A−1)と概ね同様の手法で、調製例(B−6)のトナーを得た。
調製例(B−7)
シェル層形成工程を行わず、トナーコアをトナー母粒子として用いた。トナー母粒子を調製例(A−1)と概ね同様の手法で外添処理し、調製例(B−7)のトナーを得た。
上記のようにして得られたトナーの評価方法は、以下の通りである。
(1)シェル層の厚さ
トナーに含まれるトナー粒子の断面のTEM写真を、以下の方法に従って撮影した。なお、また調製例(B−7)のトナーは、シェル層形成工程を行っていないため、シェル層の厚さを測定することができなかった。トナー粒子の断面のTEM写真から、シェル層の厚さを測定した。
<トナー粒子の断面のTEM写真の撮影方法>
まず、トナーを常温硬化性のエポキシ樹脂中に分散させ、40℃の雰囲気に2日間静置し硬化物を得た。得られた硬化物を、四酸化オスミウムを用いて染色した。その後、得られた硬化物から、ミクロトーム(ライカ株式会社製「EM UC6」)を用いて、厚さ200nmのトナー粒子の断面観察用薄片試料を切り出した。得られた薄片試料を、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子株式会社製「JSM−6700F」)を用いて倍率3000倍及び10000倍で観察し、トナー粒子の断面のTEM写真を撮影した。
(2)耐熱保存性
得られたトナーについて、以下の方法に従って、耐熱保存性を評価した。
トナー3gを容量20mLのポリ容器に秤量し、温度を60℃に設定した恒温器内に3時間静置することで、耐熱保存性評価用のトナーを得た。その後、耐熱保存性評価用のトナーを、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)のマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5、時間30秒の条件で、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別した。篩別後に、篩上に残留したトナーの質量を測定した。篩別前のトナーの質量と、篩別後に篩上に残留したトナーの質量とから、下記式に従って凝集度(%)を求めた。
凝集度(%)=(篩上に残留したトナーの質量/篩別前のトナーの質量)×100
凝集度が30%以下であるものを合格とした。
[2成分現像剤の調製]
得られたトナーを用いて、以下の方法に従って、低温定着性、及び耐高温オフセット性を評価した。低温定着性、及び耐高温オフセット性の評価には、以下の方法に従って調製した2成分現像剤を用いた。
現像剤用キャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製のTASKalfa5550用キャリア)と、キャリアの質量に対して10質量%のトナーとを、ボールミルを用いて30分間混合し、評価用の2成分現像剤を調製した。
(3)低温定着性
評価機として、Roller−Roller方式の加熱加圧型の定着器(ニップ幅8mm)を装備し、定着温度を調節できるように改造したプリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FSC−5250DN」)を用いた。
トナーを評価機のシアン色用のトナーコンテナに投入し、現像剤をシアン色用の現像装置に投入して、評価機により線速200mm/秒で90g/m2の記録紙を搬送し、搬送しながら記録紙に1.0mg/cm2のトナー像(シアン単色)を形成した。続けて、トナー像形成後の記録紙に定着器を通過させた。ニップ通過時間は40m秒とした。定着温度を100℃以上200℃以下の範囲で、評価機の定着装置の定着温度を100℃から5℃ずつ上昇させて、未定着のソリッド画像を定着させた。ソリッド画像を定着させた被記録媒体を、画像を形成した面が内側となるように半分に折り曲げ、布帛で覆った1kgの分銅を用いて、折り目上を5往復摩擦した。次いで、被記録媒体を広げ、折り曲げ部のトナーの剥がれが1mm以下の場合を合格と判定し、1mmを超える場合を不合格と判定した。トナーの剥がれが合格と判定される最低の定着温度を、最低定着温度とした。
最低定着温度が160℃以下であるものを合格とした。
(4)耐高温オフセット性
低温定着性の評価と同様の評価機、及び被記録媒体を用い、同様の条件で被記録媒体に未定着のソリッド画像を形成した。ヒートローラーの2周目に、トナーが被記録媒体に転移した温度を、オフセット発生温度とした。
オフセット発生温度が200℃以上であるものを合格とした。
表3及び表4から明らかなように、本実施形態のトナーによれば、耐熱保存性及低温定着性に優れ、高温でのオフセットの発生を抑制できる。
調製例(B−1)のトナーでは、メインピークが3.0×103未満の範囲にあるポリエステル樹脂を結着樹脂として用いた。そのため、トナーのガラス転移点Tgが低くなり、トナーコアの製造時に粉砕に起因する熱エネルギーにより融着が発生したり、シェル層の形成時に凝集が発生した。その結果、良好な粉体状のトナーを得ることができなかった。
調製例(B−2)のトナーでは、メインピークが1.0×104を超える範囲にあるポリエステル樹脂を結着樹脂として用いた。そのため、トナーの粘性が十分ではなく、低温定着性に劣った。
調製例(B−3)のトナーでは、サブピークが3.0×105未満の範囲にあるポリエステル樹脂を結着樹脂として用いた。そのため、トナーの弾性力が低下し、耐高温オフセット性に劣った。
調製例(B−4)のトナーでは、サブピークが1.8×106を超える範囲にあるポリエステル樹脂を結着樹脂として用いた。そのため、トナーの粘性が十分ではなく、低温定着性に劣った。
調製例(B−5)のトナーでは、メインピーク及びサブピークの何れもが、本発明で規定する範囲よりも過小な範囲にあるポリエステル樹脂を結着樹脂として用いた。そのため、トナーの弾性力が低下し、耐高温オフセット性に劣った。
調製例(B−6)のトナーでは、メインピーク及びサブピークの何れもが、本発明で規定する範囲よりも過大な範囲にあるポリエステル樹脂を結着樹脂として用いた。そのため、トナーの粘性が十分ではなく、低温定着性に劣った。
調製例(B−7)のトナーでは、シェル層が形成されていないトナー粒子を含むため耐熱保存性に劣った。