以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されず、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨は限定されない。
本実施形態に係る静電潜像現像用トナー(単に「トナー」と記載する場合もある)は、複数のトナー粒子を含む粉体である。本実施形態に係るトナーは、例えば、画像形成装置で用いることができる。
画像形成装置では、トナーを含む現像剤を用いて静電荷像を現像する。これにより、感光体上に形成された静電潜像に、帯電したトナーが付着する。そして、付着したトナーを転写ベルトに転写した後、更に転写ベルト上のトナー像を被記録媒体(例えば、紙)に転写する。その後、トナーを加熱して被記録媒体に定着させる。これにより、被記録媒体に画像が形成される。例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4色のトナーを用いて形成したそれぞれのトナー像を重ね合わせることにより、フルカラー画像を得ることができる。
複数のトナー粒子の各々は、トナーコアとシェル層とを含む。シェル層は、トナーコアを被覆するように、トナーコアの表面に形成される。なお、本実施形態に係るトナーは、実質的にカプセルトナーのみから構成されてもよいし、カプセルトナー以外のトナー粒子を含んでいてもよい。
トナーコアは結着樹脂を必須成分として含み、更に、必要に応じて着色剤、離型剤、電荷制御剤、又は磁性粉のような任意の成分を含んでいてもよい。また、シェル層は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む樹脂から構成される。また、トナーコアの表面に複数のシェル層が積層されてもよい。
シェル層の表面は、必要に応じて、外添剤を用いて処理されてもよい。外添剤により処理される前のトナー粒子を、トナー母粒子と記載する場合がある。
[トナーコア]
本実施形態に係るトナーコアは、結着樹脂としてポリエステル樹脂を含む。ポリエステル樹脂は、2価又は3価以上のアルコールと、2価又は3価以上のカルボン酸とを、縮重合又は共縮重合することで得られる。
ポリエステル樹脂を調製するために用いることができる2価アルコールの例としては、ジオール類又はビスフェノール類が挙げられる。
ジオール類の好適な例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
ビスフェノール類の好適な例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、又はポリオキシプロピレン化ビスフェノールAが挙げられる。
ポリエステル樹脂を調製するために用いることができる3価以上のアルコールの好適な例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
ポリエステル樹脂を調製するために用いることができる2価又は3価以上のアルコールとしては、2価アルコールが好ましく、ビスフェノール類がより好ましく、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA又はポリオキシプロピレン化ビスフェノールAが特に好ましい。
ポリエステル樹脂を調製するために用いることができる2価カルボン酸の好適な例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、又はアルキルコハク酸もしくはアルケニルコハク酸(より具体的には、n−ブチルコハク酸、n−ブテニルコハク酸、イソブチルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデシルコハク酸、又はイソドデセニルコハク酸)が挙げられる。
ポリエステル樹脂を調製するために用いることができる3価以上のカルボン酸の好適な例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が挙げられる。
ポリエステル樹脂を調製するために用いることができる2価又は3価以上のカルボン酸としては、2価カルボン酸が好ましく、フマル酸又はテレフタル酸がより好ましい。
上述の2価又は3価以上のカルボン酸は、エステル形成性の誘導体(例えば、酸ハライド、酸無水物、又は低級アルキルエステル)として用いてもよい。ここで、「低級アルキル」とは、炭素原子数1〜6のアルキル基を意味する。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、ポリエステル樹脂は、非結晶性ポリエステル樹脂を主成分とする。
非結晶性ポリエステル樹脂は単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
なお、本明細書において、「結晶性」とは、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有することを示す。具体的には、「結晶性」とは、昇温速度10℃/分で測定した際の吸熱ピークの半値幅が15℃以下であることを意味する。一方、吸熱ピークの半値幅が15℃を超えるポリエステル樹脂、又は明確な吸熱ピークが認められないポリエステル樹脂は、非結晶性(非晶質)であることを意味する。
本実施形態のトナーにおいて、ポリエステル樹脂の軟化点(Tm)は、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは70℃以上100℃以下である。ここで、図1を参照して、ポリエステル樹脂の軟化点Tmの求め方を説明する。高化式フローテスターにより得られるストロークの最大値をS1とし、低温側のベースラインのストローク値をS2とする。S字カーブ中の、ストローク値が(S1+S2)/2となる温度を、測定試料であるポリエステル樹脂の軟化点Tmとする。なお、ポリエステル樹脂の軟化点Tmは、測定試料としてポリエステル樹脂に代えてポリエステル樹脂を含むトナーを用い、後述のトナーの軟化点Tmの測定方法に従って、測定することもできる。
ポリエステル樹脂は、非結晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含有する混合樹脂であってもよい。この場合の結晶性ポリエステル樹脂の融点(Mp)は、好ましくは50℃以上100℃以下である。ここで、図2を参照して、結晶性ポリエステル樹脂の融点Mpの求め方を説明する。結晶性ポリエステル樹脂の融点Mpは、例えば、示差走査熱量計(DSC)(セイコーインスツル株式会社製「DSC6220」)を用いて測定できる。具体的には、アルミ皿に10mg以上12mg以下のトナーを入れ測定部にセットする。30℃をスタートに170℃まで10℃/分で昇温させる。このとき、図2に示すような融解熱曲線が得られる。この融解熱曲線において、観測される融解熱の最大ピーク温度を結晶性ポリエステル樹脂の融点Mpとする。
ポリエステル樹脂が非結晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含有する混合樹脂である場合、非結晶性ポリエステル樹脂の質量に対する、結晶性ポリエステル樹脂の質量の比率(結晶性ポリエステル樹脂/非結晶性ポリエステル樹脂)は、30/70〜0/100であることが好ましく、より好ましくは、20/80〜0/100である。
本実施形態のトナーにおいて、ポリエステル樹脂の酸価は、十分なアニオン性を有するために、5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂の水酸基価は、同様の理由から、15mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であることが好ましい。
ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価は、ポリエステル樹脂を調製する際の、アルコールの使用量とカルボン酸の使用量とをそれぞれ変更することで、調整することができる。ポリエステル樹脂の分子量を上げると、ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価は低下する傾向がある。ポリエステル樹脂の酸価、及び水酸基価は、JIS(日本工業規格)K0070−1992に記載の方法に従って測定することができる。
本実施形態のトナーにおいて、ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)は、好ましくは25℃以上55℃以下であり、より好ましくは30℃以上50℃以下である。ここで、図3を参照して、ポリエステル樹脂のガラス転移点Tgの読み取り方を説明する。ポリエステル樹脂のガラス転移点Tgは、示差走査熱量計DSCを用い、ポリエステル樹脂の吸熱曲線を測定し、吸熱曲線における比熱の変化点から求めることができる。具体的には、測定試料10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用し、測定温度範囲25℃以上200℃以下かつ昇温速度10℃/分の条件で、図3に示すようなポリエステル樹脂の吸熱曲線を得、この吸熱曲線に基づいてポリエステル樹脂のガラス転移点Tgを求める。なお、ポリエステル樹脂のガラス転移点Tgは、測定試料としてポリエステル樹脂に代えてポリエステル樹脂を含むトナーを用い、後述のトナーのガラス転移点Tgの測定方法に従って、測定することもできる。
結着樹脂は、ポリエステル樹脂の他の熱可塑性樹脂(以下、他の熱可塑性樹脂)を含んでいてもよい。他の熱可塑性樹脂は、従来からトナー用の結着樹脂として使用される熱可塑性樹脂から適宜選択される。
結着樹脂中のポリエステル樹脂の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
着色剤としては、トナー粒子の色に合わせて、公知の顔料又は染料を用いることができる。好適な着色剤の具体例としては以下の着色剤が挙げられる。着色剤の使用量は、結着樹脂100質量部に対して1質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
黒色着色剤としては、カーボンブラックが挙げられる。黒色着色剤としては後述するイエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤のような着色剤を用いて黒色に調色された着色剤も利用できる。
トナーがカラートナーである場合に、トナーコアに含有される着色剤としては、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、又はシアン着色剤のような着色剤が挙げられる。
イエロー着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、又はアリルアミド化合物のような着色剤が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、又は194);ネフトールイエローS、ハンザイエローG、又はC.I.バットイエローが挙げられる。
マゼンタ着色剤としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、又はペリレン化合物のような着色剤が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、又は254)が挙げられる。
シアン着色剤としては、銅フタロシアニン化合物、銅フタロシアニン誘導体、アントラキノン化合物、又は塩基染料レーキ化合物のような着色剤が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、又は66);フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、又はC.I.アシッドブルーが挙げられる。
離型剤は、トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させる目的で使用される。離型剤の使用量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、5質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
離型剤としてはワックスを用いることが好ましい。ワックスの例としては、エステルワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フッ素樹脂系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス、又はモンタンワックスが挙げられ、エステルワックスが好ましい。エステルワックスとしては、合成エステルワックス又は天然エステルワックス(例えば、カルナウバワックス又はライスワックス)が挙げられる。合成原料を適宜選択することで示差走査熱量計を用いて測定される離型剤の融点を後述する好適な範囲に調整しやすい。そのため、エステルワックスとしては、合成エステルワックスが好ましい。これらの離型剤は2種以上を組み合わせて使用できる。
合成エステルワックスを製造する方法は、化学合成法である限り特に限定されない。例えば、公知の方法(例えば、酸触媒の存在下でのアルコールとカルボン酸との反応、又はカルボン酸ハライドとアルコールとの反応)を用いて合成エステルワックスを製造することができる。なお、合成エステルワックスの原料は、例えば、天然油脂から製造される長鎖脂肪酸のような天然物に由来する原料でもよいし、合成品として市販される原料でもよい。
離型剤の融点は、50℃以上100℃以下であることが好ましい。離型剤の融点は示差走査熱量計を用いて測定されるDSC曲線中の最大吸熱ピークの温度である。融点が50℃以上100℃以下である離型剤を用いたトナーは、低温定着性に優れ、更に高温でのオフセットの発生を抑制できる。
トナーコア又はシェル層には、トナーコア中の結着樹脂の酸価を調整したり、又はシェル層の帯電性を調整したりするために、電荷制御剤が使用されてもよい。
トナーコアには、必要に応じて、結着樹脂中に磁性粉を含有させてもよい。磁性粉を含むトナーコアを用いて製造されたトナーは、磁性1成分現像剤として使用される。好適な磁性粉としては、フェライト、又はマグネタイトのような鉄;コバルト、又はニッケルのような強磁性金属;鉄、及び/又は強磁性金属を含む合金;鉄、及び/又は強磁性金属を含む化合物;熱処理のような強磁性化処理を施された強磁性合金;二酸化クロムが挙げられる。
磁性粉の粒子径は、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。このような範囲の粒子径の磁性粉を用いる場合、結着樹脂中に磁性粉を均一に分散させやすい。
磁性粉の使用量は、トナーを1成分現像剤として使用する場合に、トナー全量100質量部に対して、35質量部以上60質量部以下であることが好ましく、40質量部以上60質量部以下であることがより好ましい。
トナーコアは、アニオン性を有することが好ましい。これにより、シェル層の形成時にカチオン性のシェル層の材料をトナーコアの表面に引き付けることが可能になる。詳しくは、例えば水性媒体中で負に帯電するトナーコアに、水性媒体中で正に帯電するシェル層の材料が電気的に引き寄せられ、例えばin−situ重合によりトナーコアの表面にシェル層が形成される。これにより、分散剤を用いて水性媒体中にトナーコアを過度に分散させずとも、トナーコアの表面に均一なシェル層を形成し易くなる。
トナーコアにおいては、トナーコア成分の大部分(例えば、85質量%以上)を結着樹脂が占める。このため、結着樹脂の極性がトナーコア全体の極性に大きな影響を与える。例えば結着樹脂がエステル基、水酸基、エーテル基、酸基、又はメチル基を有している場合には、トナーコアはアニオン性になる傾向が強くなる。例えば結着樹脂がアミノ基、アミン、又はアミド基を有している場合には、トナーコアはカチオン性になる傾向が強くなる。
トナーコアがアニオン性であることの指標は、pHが4に調整された水性媒体中で測定されるトナーコアのゼータ電位が負極性を示すことである。トナーコアとシェル層との結合を強めるためには、トナーコアのpH4におけるゼータ電位が0Vよりも小さく、トナー粒子のpH4におけるゼータ電位が0Vよりも大きいことが好ましい。なお、pH4はシェル層を形成する時の水性媒体のpHに相当する。
ゼータ電位の測定方法としては、例えば電気泳動法、超音波法、又はESA(電気音響)法が挙げられる。
電気泳動法は、粒子分散液に電場を印加して分散液中の帯電粒子を電気泳動させ、電気泳動速度に基づきゼータ電位を算出する方法である。電気泳動法の例としては、レーザードップラー法(電気泳動している粒子にレーザー光を照射し、得られた散乱光のドップラーシフト量から電気泳動速度を求める方法)が挙げられる。レーザードップラー法は、分散液中の粒子濃度を高濃度とする必要がなく、ゼータ電位の算出に必要なパラメーターの数が少なく、加えて電気泳動速度を感度よく検出できるという利点を有する。
超音波法は、粒子分散液に超音波を照射して分散液中の帯電粒子を振動させ、この振動によって生じる電位差に基づきゼータ電位を算出する方法である。
ESA法では、粒子分散液に高周波電圧を印加して分散液中の帯電粒子を振動させて超音波を発生させる。そして、その超音波の大きさ(強さ)からゼータ電位を算出する。
超音波法及びESA法は、粒子濃度が高い(例えば、20質量%を超える)粒子分散液であっても、ゼータ電位を感度よく測定することができるという利点を有する。
トナー粒子を構成するトナーコアは、結着樹脂としてポリエステル樹脂を含む。このため、トナーコアの表面には、ポリエステル樹脂が有する水酸基又はカルボキシル基が露出する。後述するように、シェル層は、熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位と、熱可塑性樹脂に由来する単位とを含む。
トナーコア及びシェル層が上述のような材料から構成され、例えば、後述する方法によりシェル層を形成する場合、トナーコアの表面に露出する水酸基又はカルボキシル基と、シェル層の材料(特に、熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマー)の中間体が有するメチロール基又はシェル層の材料(特に、熱可塑性樹脂のモノマー又はプレポリマー)が有するカルボキシル基との反応によって、トナーコアに含まれるポリエステル樹脂とシェル層に含まれる熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位との間、並びにトナーコアに含まれるポリエステル樹脂とシェル層に含まれる熱可塑性樹脂に由来する単位との間に共有結合が形成される。これにより、シェル層とトナーコアとが強固に結合する。
更に、熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位と熱可塑性樹脂に由来する単位とを含む固いシェル層によりトナー粒子が保護されているため、現像器内でトナー粒子が長期間ストレスを受けてもトナー粒子が破砕されにくい。更に、シェル層は、トナーコアに対して強固に結合し、トナーコアから剥離しにくい。そのため、本実施形態のトナーは耐熱保存性に優れる。
[シェル層]
本実施形態のトナーにおいて、シェル層は、熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位と、熱可塑性樹脂に由来する単位とを含む。熱硬化性樹脂のみから構成されるシェル層は、薄膜であっても硬くなり易い。そのため、こうしたシェル層を有するトナーでは、シェル層が容易に破壊されず、定着性が十分でないことがある。しかし、シェル層が熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位と熱可塑性樹脂に由来する単位とを含むトナーでは、薄くて硬いシェル層が均一に形成された場合であっても、シェル層が強度において複数の強弱のある箇所を有する傾向がある。このため、トナーの定着性が向上し、定着時に瞬時にシェル層の破壊を発生させることが可能になる。
熱硬化性樹脂としては、一般的には、アミノ基(−NH2)を有するアミノ樹脂と総称される樹脂を挙げることができる。例えば、メラミン樹脂又はその誘導体であるメチロールメラミン;グアナミン樹脂又はその誘導体であるベンゾグアナミン、アセトグアナミン、スピログアナミン;スルホンアミド樹脂;尿素樹脂又はその誘導体;グリオキザール樹脂;アニリン樹脂が挙げられる。更に、熱可塑性樹脂の例として、窒素原子を分子骨格に有する熱硬化性ポリイミド樹脂を挙げることができる。熱硬化性ポリイミド樹脂の例としては、マレイミド系重合体、又はビスマレイミド系重合体(より具体的には、アミノビスマレイミド重合体又はビスマレイミドトリアジン重合体)が挙げられる。なかでも好ましくは、メラミン樹脂又はその誘導体であるメチロールメラミン、或いは尿素樹脂である。
メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとの重縮合物である。メラミン樹脂の形成に使用されるモノマーはメラミンである。尿素樹脂は尿素とホルムアルデヒドとの重縮合物である。尿素樹脂の形成に使用されるモノマーは尿素である。グリオキザール樹脂は、グリオキザールと尿素との反応生成物と、ホルムアルデヒドとの重縮合物である。グリオキザール樹脂の形成に使用されるモノマーは、グリオキザールと尿素との反応生成物である。これらは、公知の変性を受けていてもよい。
熱可塑性樹脂としては、(メタ)アクリル系樹脂、又はスチレン−(メタ)アクリル系樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、入手容易性、分散安定性、及びコストメリットの観点から、スチレン−アクリル系樹脂が好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂は、少なくとも(メタ)アクリル系モノマーを含むモノマーを共重合して得られる樹脂である。(メタ)アクリル系樹脂に含まれる、(メタ)アクリル系モノマーに由来する単位の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂の調製に使用される(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、又はブチル(メタ)アクリレートのようなアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N−アリール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、又はN,N−ジアリール(メタ)アクリルアミドのような(メタ)アクリルアミド化合物が挙げられる。なお、アクリル酸及びメタクリル酸を「(メタ)アクリル酸」と、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルを「(メタ)アクリレート」と、各々総称する場合がある。
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系モノマーと、(メタ)アクリル系モノマー以外の他のモノマーを共重合した樹脂であってもよい。(メタ)アクリル系モノマー以外の他のモノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、又はオクテン−1のようなオレフィン類;酢酸アリル、安息香酸アリル、アセト酢酸アリル、又は乳酸アリルのようなアリルエステル類;ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、クロルエチルビニルエーテル、2−エチルブチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニルトリルエーテル、ビニルクロルフェニルエーテル、ビニル−2,4−ジクロルフェニルエーテル、又はビニルナフチルエーテルのようなビニルエーテル;ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルジエチルアセテート、ビニルクロルアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルブトキシアセテート、ビニルフエニルアセテート、ビニルアセトアセテート、ビニルラクテート、安息香酸ビニル、サリチル酸ビニル、クロル安息香酸ビニル、又はナフトエ酸ビニルのようなビニルエステルが挙げられる。
スチレン−(メタ)アクリル系樹脂は、少なくともスチレン系モノマーと、(メタ)アクリル系モノマーとを含むモノマーを共重合して得られる樹脂である。スチレン−(メタ)アクリル系樹脂に含まれる、スチレン系モノマーに由来する単位と、(メタ)アクリル系モノマーとに由来する単位の含有量の合計は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
スチレン−(メタ)アクリル系樹脂の調製に使用される、スチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、又はp−クロロスチレンが挙げられる。なかでも好ましくは、スチレンである。
スチレン−(メタ)アクリル系樹脂の調製に使用される(メタ)アクリル系モノマーは、上述の(メタ)アクリル系樹脂の調製に使用される(メタ)アクリル系モノマーと同様である。なかでも好ましくは、アルキル(メタ)アクリレートであり、より好ましくは、ブチルアクリレートである。
スチレン−(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する単位に含まれるカルボキシル基を酸性基として含むことが好ましい。この場合、スチレン−(メタ)アクリル系樹脂を調製する際に(メタ)アクリル酸の使用量を増減させることによって、スチレン−(メタ)アクリル系樹脂の酸価を調整できる。
スチレン−(メタ)アクリル系樹脂は、スチレン系モノマーと、(メタ)アクリル系モノマーと、スチレン系モノマー又は(メタ)アクリル系モノマー以外の他のモノマーを共重合した樹脂であってもよい。他のモノマーの例としては、(メタ)アクリル系樹脂での、(メタ)アクリル系モノマー以外の他のモノマーと同様である。
シェル層は、メラミン等に由来する窒素原子を含むことが好ましい。このようなシェル層を備えるトナーは、トナーを正帯電させて画像を形成する場合に、所望する帯電量に正帯電されやすい。所望する帯電量にトナーを正帯電させるためには、シェル層中の窒素原子の含有量は10質量%以上であることが好ましい。
シェル層の厚さは、30nm以下であることが好ましく、1nm以上20nm以下であることがより好ましい。シェル層が厚過ぎると、トナーを被記録媒体へ定着させる際に圧力が加えられても、シェル層が破壊されにくい。この場合、トナーコアに含まれる結着樹脂(又は離型剤)の軟化又は溶融が速やかに進行せず、低温域でトナーを被記録媒体上に定着させにくい。一方、薄過ぎるシェル層は強度が低く、輸送時のような状況での衝撃によってシェル層が破壊される場合がある。ここで、高温でトナーを保存する場合、シェル層の少なくとも一部が破壊されたトナー粒子は凝集しやすい。なぜなら、高温下ではシェル層における破壊された箇所を通じて、離型剤のような成分がトナー粒子の表面に染み出しやすいからである。
シェル層の厚さは、トナー粒子の断面のTEM撮影像を市販の画像解析ソフトウェアを用いて解析することによって計測できる。市販の画像解析ソフトウェアとしては、WinROOF(三谷商事株式会社製)のようなソフトウェアを用いることができる。具体的には、トナーの断面の略中心で直交する2本の直線を引き、これら2本の直線上の、シェル層と交差する4箇所の長さを測定する。このようにして測定される4箇所の長さの平均値を、測定対象の1個のトナー粒子が備えるシェル層の厚さとする。このようなシェル層の厚さの測定を、10個以上のトナー粒子に対して行い、測定対象の複数のトナー粒子それぞれが備えるシェル層の膜厚の平均値を求める。求められる平均値を、トナー粒子が備えるシェル層の膜厚とする。
シェル層が薄過ぎる場合、TEM撮影像上でシェル層とトナーコアとの界面が不明瞭であるため、シェル層の厚さの測定が困難である場合がある。このような場合、TEM撮影と電子エネルギー損失分光法(EELS)とを組み合わせて、TEM撮影像中に、シェル層の材料に特徴的な元素(例えば、窒素)のマッピングを行い、シェル層とトナーコアとの界面を明確化して、シェル層の厚さを計測すればよい。
[トナー]
本実施形態に係るトナーは、特定の分子量分布を有する。具体的には、トナーの分子量分布は、第1のピーク(例えば、メインピーク)と第2のピーク(例えば、サブピーク)を含む少なくとも2つのピークを有し、第1のピークの分子量(P1)に対する第2のピークの分子量(P2)の比率(P2/P1)が30以上600以下である。比率(P2/P1)は、好ましくは、40以上300以下である。
第1のピークの分子量(P1)に対する第2のピークの分子量(P2)の比率(P2/P1)が30未満である場合、適度な粘性及び弾性を有するトナーを得にくくなる。粘性が不十分であるトナーを、高速定着システムを採用した画像形成装置において用いた場合には、被記録媒体に対して十分な強度でトナーを定着させることが困難になる。また、弾性力が不十分であるトナーを高温で定着させた場合には、オフセットが発生し易くなる。トナーを用いて画像を形成した場合に、オフセットが発生すると、形成された画像に欠陥が発生し易くなる。一方、第1のピークの分子量(P1)に対する第2のピークの分子量(P2)の比率(P2/P1)が600を超える場合には、低分子量成分と高分子量成分との相溶性が悪くなり、連続印刷時に現像スリーブにトナーが融着し易くなる。比率(P2/P1)が30以上600以下である場合には、硬いシェル層を有するトナーの低温定着性を向上させることが可能になる。また、トナーの耐高温オフセット性及び耐熱保存性を向上させることが可能になる。また、現像スリーブへのトナーの付着を抑制することが可能になる。
上記トナーの分子量分布は、トナーをテトラヒドロフランに溶解させてテトラヒドロフラン溶液を得、得られたテトラヒドロフラン溶液を測定試料としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布である。具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)として、東ソー株式会社製の「HLC−8220GPC」を用いることができる。分子量分布はテトラヒドロフラン(THF)を溶媒として、以下のように測定される。
まず、測定試料は以下のようにして作製される。トナーをTHFに加え、室温で約1時間放置し、トナーをTHFに溶解させる。その後、得られたTHF溶液を、サンプル前処理用フィルター(例えば、倉敷紡績株式会社製「クロマトディスク 25N」、非水系、膜孔径0.45μm)を用いてろ過し、このフィルターを通過した液体(トナーのTHF可溶成分を含むTHF溶液)を、GPC用試料(測定試料)とする。GPC用試料の濃度は、樹脂成分が3mg/mLとなるように調整する。
次いで、GPC測定装置中で、所定の温度(例えば、40℃)のヒートチャンバ内でカラムを安定させる。続けて、所定の温度(例えば、40℃)になったカラムに、溶媒としてのTHFを流し(例えば、流速1mL/分)、GPC用試料(例えば、50μL以上200μL以下)をカラムに導入する。そして、カラムに導入されたGPC用試料の分子量分布を測定する。
分子量分布は、単分散ポリスチレン標準試料により作成された検量線の対数値とカウント数(リテンションタイム)との関係から算出される。検量線作成用の標準ポリスチレン試料としては、例えば、分子量が1×103〜1×107程度の試料を用いる。検量線作成用の標準ポリスチレン試料の市販品としては、例えば、東ソー株式会社製の試料(分子量:3.84×106、1.09×106、3.55×105、1.02×105、4.39×104、9.10×103、2.98×103)が挙げられる。そして、ポリエステル樹脂の分子量分布測定においては、数種類(例えば、少なくとも7点程度)の標準ポリスチレン試料を用いる。検出器としては、例えばRI(屈折率)検出器を用いる。カラムとしては1×103〜2×106の分子量領域を的確に測定するために、市販のポリスチレンゲルカラムを複数本組み合わせて用いることが好ましい。ポリスチレンゲルカラムとしては、例えば、東ソー株式会社製「TSK−GEL GMHXL」を直列で2本組み合わせたポリスチレンゲルカラムを挙げることができる。
トナーのガラス転移点Tgは、25℃以上55℃以下であることが好ましく、30℃以上50℃以下であることがより好ましい。
図3を参照して、トナーのガラス転移点Tgの読み取り方を説明する。トナーのガラス転移点Tgは、示差走査熱量計(DSC)を用い、トナーの吸熱曲線を測定し、吸熱曲線における比熱の変化点から求めることができる。具体的には、測定試料10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用し、測定温度範囲25℃以上200℃以下かつ昇温速度10℃/分の条件で、図3に示すようなトナーの吸熱曲線を得、この吸熱曲線に基づいてトナーのガラス転移点Tgを求める。
トナーの軟化点Tmは、100℃以下であることが好ましく、70℃以上100℃以下であることがより好ましい。
図1を参照して、トナーの軟化点Tmの読み取り方を説明する。つまり、ポリエステル樹脂の軟化点Tmの測定と同様に、トナーを測定試料とし、高化式フローテスターを用いて図1に示すようなS字カーブを得、このS字カーブから、トナーの軟化点Tmを読み取る。
トナー母粒子の表面には、必要に応じて外添剤を付着させてもよい。外添剤としては、シリカ、又は金属酸化物(例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウム)の微粒子が挙げられる。
外添剤の粒子径は、0.01μm以上1.0μm以下であることが好ましい。外添剤の使用量は、トナー母粒子100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、2質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
本実施形態のトナーは、1成分現像剤として用いてもよいし、所望のキャリアと混合して2成分現像剤として使用することもできる。2成分現像剤を調製する場合、磁性キャリアを用いることが好ましい。
2成分現像剤の好適なキャリアとしては、キャリア芯材が樹脂で被覆されたキャリアが挙げられる。キャリア芯材の具体例としては、鉄、酸化処理鉄、還元鉄、マグネタイト、銅、ケイ素鋼、フェライト、ニッケル、又はコバルトの粒子;これらの材料とマンガン、亜鉛、又はアルミニウムのような金属との合金の粒子;鉄−ニッケル合金、又は鉄−コバルト合金の粒子;セラミックス(酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、チタン酸リチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、又はニオブ酸リチウム)の粒子;高誘電率物質(リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、又はロッシェル塩)の粒子;樹脂中に上記粒子を分散させた樹脂キャリアが挙げられる。
キャリア芯材を被覆する樹脂の例としては、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体、オレフィン系重合体(ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、又はポリプロピレン)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート樹脂、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、又はポリフッ化ビニリデン)、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、又はアミノ樹脂が挙げられる。これらの樹脂は単独(1種)で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
キャリアの粒子径は20μm以上120μm以下であることが好ましい。キャリアの粒子径は、電子顕微鏡を用いて測定できる。
トナーを2成分現像剤として用いる場合、トナーの含有量は、2成分現像剤の質量に対して、3質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
[トナーの製造方法]
トナーの製造方法は、トナーコアを上記の所定の材料からなるシェル層で被覆できる方法である限り特に限定されない。以下、本実施形態の静電潜像現像用トナーの好適な製造方法について説明する。この製造方法においては、トナーコアを製造する工程(トナーコア製造工程)と、トナーコアの表面を被覆するようにシェル層を形成する工程(シェル層形成工程)とを含む。
トナーコア製造工程は、結着樹脂中に、任意成分(着色剤、離型剤、電荷制御剤、又は磁性粉のような成分)を良好に分散させることができる限り特に限定されず、公知の方法を適宜採用できる。トナーコア製造工程には、例えば、粉砕法、又は凝集法が採用される。
例えば粉砕法は、結着樹脂と任意成分(着色剤、離型剤、電荷制御剤、又は磁性粉)とを混合し(混合工程)、次に得られた混合物を溶融混練し(混練工程)、次に得られた混練物を粉砕し(粉砕工程)、分級して(分級工程)、所望の粒子径のトナーコアを得る方法である。粉砕法を用いたトナーコア製造工程では、比較的容易にトナーコアを調製することができる。
トナーコアの摩擦帯電量は負極性であることが好ましく、−10μC/g以下であることがより好ましい。摩擦帯電量の測定方法について以下に述べる。日本画像学会から提供される標準キャリア(負帯電極性トナー用標準キャリア「N−01」)と、トナーコアとを、ターブラミキサーを用いて30分間混合する。この時、トナーコアの使用量は、標準キャリアの質量に対して7質量%である。混合後、トナーコアの摩擦帯電量を、QMメーター(TREK社製「MODEL 210HS−2A」)を用いて測定する。このようにして測定されるトナーコアの摩擦帯電量は、トナーコアが正負何れの極性に帯電されやすいかの指標と、トナーコアの帯電されやすさの指標とになる。
トナーコアに関し、pH4に調整された水性媒体中で測定されるゼータ電位が、負極性であることが好ましく、−10mV以下であることがより好ましい。pH4の分散液中のゼータ電位の測定方法について以下に述べる。トナーコア0.2gと、イオン交換水80mLと、ノニオン系界面活性剤(ポリビニルピロリドン、日本触媒株式会社製「K−85」、濃度1.0質量%)20gとを、マグネットスターラーを用いて混合し、トナーコアを均一に溶媒に分散させて分散液を得る。その後、希塩酸を加えて分散液のpHを4に調整する。この分散液を測定試料として用い、分散液中のトナーコアのゼータ電位を、ゼータ電位・粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製「Delsa Nano HC」)を用いて測定する。
上記の特定の条件で測定されるトナーコアの摩擦帯電量が所定の範囲内である場合、水性媒体中で、正に帯電するシェル層の材料(熱可塑性樹脂に由来する単位を形成するための材料、及び熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位を形成するための材料)が、トナーコアに電気的に引き寄せられ易くなる。そして、トナーコアの表面では、トナーコアに吸着されたシェル層の材料とトナーコア中の結着樹脂(例えば、ポリエステル樹脂)との反応が良好に進行する。このため、分散剤を用いずとも、均一にシェル層を形成できる。排水負荷の非常に高い分散剤を用いないことによって、排水を希釈することなくトナー粒子を製造する際に、排出される排水の全有機炭素濃度を15mg/L以下の低いレベルとすることが可能となる。
トナーコアのpH4の水性媒体中でのゼータ電位が所定の範囲内である場合にも、水性媒体中でトナーコアの表面にシェル層を形成する際に同様の効果が得られる。
シェル層の形成に用いる溶媒に対する結着樹脂の溶解を防いだり、又はトナーコアに含まれる離型剤のような成分の溶出を防いだりするためには、水のような水性媒体中でシェル層の形成が行われることが好ましい。
シェル層の形成は、シェル層を形成するための材料の水溶液にトナーコアを添加して行われる。水溶液中にトナーコアを良好に分散させるためには、分散液を強力に攪拌できる装置(例えば、プライミックス株式会社製「ハイビスミックス」)を用いてトナーコアを機械的に分散させることが好ましい。
上記水溶液のpHは、トナーコアを添加する前に、酸性物質を用いて4程度に調整されることが好ましい。分散液のpHを酸性側に調整することで、シェル層を形成するための材料の重縮合反応が促進される。
必要に応じて水性媒体(上記水溶液)のpHを調整した後、水性媒体中で、シェル層を形成するための材料とトナーコアとを混合する。その後、例えば水性媒体を加熱して、水性媒体中で、トナーコアの表面におけるシェル層を形成するための材料間の反応を進行させて、トナーコアの表面を被覆するようにシェル層を形成する。
トナーコアの表面でシェル層を形成する際の温度は、シェル層の形成が良好に進行するために、40℃以上95℃以下であることが好ましい。
上記のようにしてシェル層を形成した後、シェル層で被覆されたトナーコアを含む水性媒体を常温まで冷却して、トナー母粒子の分散液を得る。その後、トナー母粒子の分散液を固液分離(例えば、ろ過)し、得られたトナー母粒子を洗浄する工程(洗浄工程)と、洗浄されたトナー母粒子を乾燥する工程(乾燥工程)と、乾燥したトナー母粒子の表面に外添剤を付着させる工程(外添工程)とを経て、トナーを製造することができる。
ろ過液の導電率は、10μS/cm以下であることが好ましい。導電率の測定には、例えば、株式会社堀場製作所製の電気伝導率計「Horiba COND METER ES−51」を用いることができる。
洗浄工程では、トナー母粒子を水を用いて洗浄する。洗浄方法の好適な例としては、トナー母粒子を含む分散液から、固液分離によりウエットケーキ状のトナー母粒子を回収し、得られたウエットケーキ状のトナー母粒子を、水を用いて洗浄する方法;分散液中のトナー母粒子を沈降させ、上澄み液を水と置換し、置換後にトナー母粒子を水に再分散させる方法が挙げられる。
乾燥工程では、トナー母粒子を乾燥させる。トナー母粒子を乾燥させる方法の好適な例としては、乾燥機(例えば、スプレードライヤー、流動層乾燥機、真空凍結乾燥機、又は減圧乾燥機)を用いる方法が挙げられる。これらの方法の中では、乾燥中のトナー母粒子の凝集を抑制するため、スプレードライヤーを用いる方法が好ましい。スプレードライヤーを用いる場合、トナー母粒子の分散液と共に、シリカのような外添剤の分散液を噴霧することによって、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させることができる。
外添工程では、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させる。外添剤を付着させる方法の好適な例としては、外添剤がトナー母粒子の表面に埋没しないような条件で、混合機(例えば、FMミキサー又はナウターミキサー(登録商標))を用いて、トナー母粒子と外添剤とを混合する方法が挙げられる。
なお、上記トナーの製造方法は、要求されるトナーの構成又は特性等に応じて任意に変更することができる。例えば溶媒にシェル層の材料を溶解させる工程よりも前に溶媒中にコアを添加する工程を行うようにしてもよい。また、必要のない工程は割愛してもよい。トナー母粒子の表面に外添剤を付着させない(外添工程を割愛する)場合には、トナー母粒子がトナー粒子に相当する。効率的にトナーを製造するためには、多数のトナー粒子を同時に形成することが好ましい。
以上説明した本実施形態の静電潜像現像用トナーは、現像スリーブへのトナーの付着を抑制可能で、耐熱保存性及び低温定着性に優れ、更に高温でのオフセットの発生を抑制できる。このため、本実施形態の静電潜像現像用トナーは、種々の画像形成装置で好適に使用できる。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
[ポリエステル樹脂]
表1に示すような物性を有するポリエステル樹脂1〜8を準備した。ポリエステル樹脂1〜8について、示差走査熱量計(DSC)を用いて吸熱ピークの半値幅(単位:℃)を測定しようとした。具体的には、測定試料10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用し、測定温度範囲25℃以上200℃以下かつ昇温速度10℃/分の条件で吸熱ピークを得、この吸熱ピークに基づく半値幅を求めようとした。ポリエステル樹脂1〜8については、何れも、明確な吸熱ピークが認められなかったため、吸熱ピークの半値幅を求めることができなかった。
[結晶性ポリエステル樹脂]
表2に示すような物性を有する結晶性ポリエステル樹脂1及び2を準備した。なお、吸熱ピークの半値幅(単位:℃)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した。具体的には、測定試料10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用し、測定温度範囲25℃以上200℃以下かつ昇温速度10℃/分の条件で吸熱ピークを得、この吸熱ピークに基づく半値幅を求めた。
離型剤として、以下のような融点を有するエステルワックス1〜3を準備した。
エステルワックス1:融点50℃
エステルワックス2:融点100℃
エステルワックス3:融点75℃
[シェル層の原料]
シェル層の原料として、以下の原料(S1)〜(S5)を準備した。
原料(S1)
シェル層の熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位を形成するための材料として、ヘキサメチロールメラミン初期重合体水溶液(昭和電工株式会社製「ミルベン607」、固形分濃度80質量%)を用いた。次に、シェル層の熱可塑性樹脂に由来する単位を形成するための材料を、以下のように調製した。温度計、及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコに、イオン交換水875mL、及びアニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、花王株式会社製「ラテムルWX」)75mLを加えた。その後、ウォーターバスを用いてフラスコ内温を80℃に昇温した。その後、スチレン14mLと、ブチルアクリレート2mLとの混合液を、反応容器に5時間滴下した。また、過硫酸カリウム0.5gをイオン交換水30mLに溶解させた。得られた溶液を、上述の混合液の滴下と同時に且つ別々に、反応容器に5時間滴下した。フラスコ内温を80℃で更に2時間保持して、共重合反応を完結させた。これにより、スチレン−ブチルアクリレート共重合体の粒子分散液(S−BA)を得た(固形分濃度10質量%)。得られた粒子分散液(S−BA)中の粒子を透過型電子顕微鏡で観察し、平均粒子径が38nmであることを確認した。得られた粒子分散液(S−BA)を、シェル層の熱可塑性樹脂に由来する単位を形成するための材料として用いた。ヘキサメチロールメラミン初期重合体水溶液と、粒子分散液(S−BA)とを、体積比1:1で混合することにより、原料(S1)を得た。
原料(S2)
ヘキサメチロールメラミン初期重合体水溶液と、粒子分散液(S−BA)とを、体積比7:60で混合した以外は、原料(S1)の調製と同様の手法で、原料(S2)を得た。
原料(S3)
ヘキサメチロールメラミン初期重合体水溶液と、粒子分散液(S−BA)とを、体積比7:15で混合した以外は、原料(S1)の調製と同様の手法で、原料(S3)を得た。
原料(S4)
ヘキサメチロールメラミン初期重合体水溶液と、粒子分散液(S−BA)とを、体積比7:30で混合した以外は、原料(S1)の調製と同様の手法で、原料(S4)を得た。
原料(S5)
ヘキサメチロールメラミン初期重合体水溶液に代えて、尿素樹脂(昭和電工株式会社製、「ミルベンレジン3HSP−H」、固形分濃度80質量%)を用い、尿素樹脂と粒子分散液(S−BA)とを、体積比1:1で混合した以外は、原料(S1)の調製と同様の手法で、原料(S5)を得た。
調製例(A−1)
[トナーコアの調製工程]
100質量部のポリエステル樹脂1、5質量部の着色剤(銅フタロシアニン化合物、C.I.ピグメントブルー15:3)、及び5質量部のエステルワックス3を、混合機(FMミキサー)を用いて混合し、混合物を得た。
次いで、得られた混合物を、2軸押出機(株式会社池貝製「PCM−30」)を用いて溶融混練して混練物を得た。混練物を機械式粉砕機(フロイント・ターボ株式会社製「ターボミル」)を用いて粉砕し、粉砕物を得た。粉砕物を分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェット」)を用いて分級し、体積中位径(D50)が6.0μmであるトナーコアを得た。トナーコアの体積中位径は、コールターカウンターマルチサイザー3(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて測定した。このトナーコアの一部を取り出し、標準キャリアとの摩擦帯電量の測定とpH4の分散液中のゼータ電位の測定とに用いた。
調製例(A−1)のトナーの調製に用いるトナーコアに関し、標準キャリアとの摩擦帯電量は−20μC/gであり、pH4の分散液中のゼータ電位は−30mVであり、明らかなアニオン性を示していた。
[シェル層の形成工程]
温度計、及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコに、イオン交換水300mLを入れた後、ウォーターバスを用いてフラスコ内部の温度を30℃に保持した。次いで、フラスコ内に希塩酸を加えて、フラスコ内の水性媒体のpHを4に調整した。pH調整後、フラスコ内に、原料(S1)0.7mL(ヘキサメチロールメラミン初期重合体水溶液(昭和電工株式会社製「ミルベン607」、固形分濃度80質量%)0.35mL、及び粒子分散液(S−BA)0.35mL)を添加した。次いで、フラスコの内容物を攪拌し、シェル層の原料を水性媒体に溶解させ、シェル層の原料の水溶液(A)を得た。
水溶液(A)が入った3つ口フラスコに、トナーコア300gを添加し、フラスコの内容物を、200rpmの速度で1時間攪拌した。次いで、イオン交換水300mLを追加し、100rpmで攪拌しながら、1℃/分の速度でフラスコ内部の温度を70℃まで上げた。昇温後、70℃かつ100rpmで、フラスコの内容物を2時間攪拌し続けた。その後、フラスコ内に水酸化ナトリウムを加えて、フラスコの内容物のpHを7に調整した。次いで、フラスコの内容物を常温まで冷却してトナー母粒子を含む分散液を得た。
ブフナーロートを用いて、トナー母粒子を含む分散液からウエットケーキ状のトナー母粒子をろ取した。続けて、このウエットケーキ状のトナー母粒子をイオン交換水に分散させてトナー母粒子を洗浄した。同様の洗浄を5回繰り返した。
トナー母粒子のウエットケーキを、濃度50質量%のエタノール水溶液に分散させてスラリーを調製した。得られたスラリーを連続式表面改質装置(フロイント・ターボ株式会社製「コートマイザー(登録商標)」)に供給することにより、スラリー中のトナー母粒子を乾燥させた。乾燥条件は、熱風温度45℃、ブロアー風量2m3/分であった。なお、シェル層の厚さは12nmであった。
[外添工程]
乾燥後のトナー母粒子100質量部と、外添剤としての乾式シリカ微粒子(日本アエロジル株式会社製「REA90」)0.5質量部とを、10LのFMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて5分間混合し、トナー母粒子の表面にシリカ微粒子を付着させた。その後、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別し、調製例(A−1)のトナーを得た。
調製例(A−2)〜(A−6)
シェル層の形成工程において、原料(S1)の添加量を、各々、1.0mL(ミルベン607 0.5mL、粒子分散液(S−BA)0.5mL)、2.0mL(ミルベン607 1.0mL、粒子分散液(S−BA)1.0mL)、3.0mL(ミルベン607 1.5mL、粒子分散液(S−BA)1.5mL)、4.0mL(ミルベン607 2.0mL、粒子分散液(S−BA)2.0mL)、又は6.3mL(ミルベン607 3.15mL、粒子分散液(S−BA)3.15mL)に変更することにより、シェル層の厚さ(膜厚)を表3に記載したように変更した以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(A−2)〜(A−6)のトナーを得た。
調製例(A−7)
トナーコアの調製工程において、ポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂2を用い、シェル層の形成工程において、原料(S1)の添加量を2.4mL(ミルベン607 1.2mL、粒子分散液(S−BA)1.2mL)に変更した以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(A−7)のトナーを得た。
調製例(A−8)
シェル層の形成工程において、原料(S1)0.7mL(ミルベン607 0.35mL、粒子分散液(S−BA)0.35mL)に代えて、原料(S5)3.0mL(尿素樹脂1.5mL、粒子分散液(S−BA)1.5mL)を用いた以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(A−8)のトナーを得た。
調製例(A−9)
トナーコアの調製工程において、ポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂3を用い、シェル層の形成工程において、原料(S1)の添加量を3.0mL(ミルベン607 1.5mL、粒子分散液(S−BA)1.5mL)に変更した以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(A−9)のトナーを得た。
調製例(A−10)
トナーコアの調製工程において、ポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂4を用い、シェル層の形成工程において、原料(S1)の添加量を3.0mL(ミルベン607 1.5mL、粒子分散液(S−BA)1.5mL)に変更した以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(A−10)のトナーを得た。
調製例(A−11)
トナーコアの調製工程において、ポリエステル樹脂1に代えて、ポリエステル樹脂1と結晶性ポリエステル樹脂1とを85:15(質量比)の割合で混合した樹脂を用い、シェル層の形成工程において、原料(S1)の添加量を3.0mL(ミルベン607 1.5mL、粒子分散液(S−BA)1.5mL)に変更した以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(A−11)のトナーを得た。
調製例(A−12)
トナーコアの調製工程において、ポリエステル樹脂1に代えて、ポリエステル樹脂1と結晶性ポリエステル樹脂2とを85:15(質量比)の割合で混合した樹脂を用い、シェル層の形成工程において、原料(S1)の添加量を3.0mL(ミルベン607 1.5mL、粒子分散液(S−BA)1.5mL)に変更した以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(A−12)のトナーを得た。
調製例(A−13)
トナーコアの調製工程において、エステルワックス3に代えて、エステルワックス1を用い、シェル層の形成工程において、原料(S1)の添加量を3.0mL(ミルベン607 1.5mL、粒子分散液(S−BA)1.5mL)に変更した以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(A−13)のトナーを得た。
調製例(A−14)
トナーコアの調製工程において、エステルワックス3に代えてエステルワックス2を用い、シェル層の形成工程において、原料(S1)の添加量を3.0mL(ミルベン607 1.5mL、粒子分散液(S−BA)1.5mL)に変更した以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(A−14)のトナーを得た。
調製例(A−15)
シェル層の形成工程において、(S1)0.7mLに代えて原料(S2)3.35mL(ミルベン607 0.35mL、粒子分散液(S−BA)3.0mL)を用いた以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(A−15)のトナーを得た。
調製例(A−16)
シェル層の形成工程において、原料(S1)0.7mLに代えて原料(S3)2.2mL(ミルベン607 0.70mL、粒子分散液(S−BA)1.5mL)を用いた以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(A−16)のトナーを得た。
調製例(B−1)
シェル層の形成工程において、原料(S1)0.7mLに代えて原料(S4)3.7mL(ミルベン607 0.7mL、粒子分散液(S−BA)3.0mL)を用いた以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(B−1)のトナーを得た。
調製例(B−2)
トナーコアの調製工程において、ポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂5を用い、シェル層の形成工程において、原料(S1)0.7mLに代えて原料(S4)1.85mL(ミルベン607 0.35mL、粒子分散液(S−BA)1.5mL)を用いた以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(B−2)のトナーを得た。
調製例(B−3)
トナーコアの調製工程において、ポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂6を用い、シェル層の形成工程において、原料(S1)0.7mLに代えて原料(S4)1.85mL(ミルベン607 0.35mL、粒子分散液(S−BA)1.5mL)を用いた以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(B−3)のトナーを得た。
調製例(B−4)
トナーコアの調製工程において、ポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂7を用い、シェル層の形成工程において、原料(S1)0.7mLに代えて原料(S4)1.85mL(ミルベン607 0.35mL、粒子分散液(S−BA)1.5mL)を用いた以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(B−4)のトナーを得た。
調製例(B−5)
トナーコアの調製工程において、ポリエステル樹脂1に代えてポリエステル樹脂8を用い、シェル層の形成工程において、原料(S1)0.7mLに代えて原料(S4)1.85mL(ミルベン607 0.35mL、粒子分散液(S−BA)1.5mL)を用いた以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(B−5)のトナーを得た。
調製例(B−6)
シェル層の形成工程を行わず、シェル層を形成しなかった以外は、調製例(A−1)と同様の手法で、調製例(B−6)のトナーを得た。
上記のようにして得られたトナーの評価方法は、以下の通りである。
(1)シェル層の厚さ
トナーに含まれるトナー粒子の断面のTEM写真を、以下の方法に従って撮影した。なお、調製例(B−6)のトナーは、シェル層の形成工程を行っていないため、シェル層の厚さを測定することができなかった。トナー粒子の断面のTEM写真から、シェル層の厚さを測定した。
<トナー粒子の断面のTEM写真の撮影方法>
まず、トナーを常温硬化性のエポキシ樹脂中に分散させ、40℃の雰囲気に2日間静置し硬化物を得た。得られた硬化物を、四酸化オスミウムを用いて染色した。その後、得られた硬化物から、ミクロトーム(ライカ株式会社製「EM UC6」)を用いて、厚さ200nmのトナー粒子の断面観察用薄片試料を切り出した。得られた薄片試料を、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子株式会社製「JSM−6700F」)を用いて倍率3000倍及び10000倍で観察し、トナー粒子の断面のTEM写真を撮影した。シェル層の厚さが5nmを下回る場合には、TEM撮影と電子エネルギー損失分光法(EELS)とを組み合わせて、TEM撮影像中に、窒素元素のマッピングを行い、シェル層とトナーコアとの界面を明確化して、シェル層の厚さを計測した。
(2)分子量分布
トナー15mgをテトラヒドロフラン(THF)5mLに加え、約1時間放置し、溶解させた。その後、サンプル前処理用フィルター(倉敷紡績株式会社製「クロマトディスク 25N」、非水系、膜孔径0.45μm)を用いてろ過し、このフィルターを通過した試料を、GPC用試料とした。試料濃度は、樹脂成分が3mg/mLとなるように調整した。
GPC測定装置として、東ソー株式会社製の「HLC−8220GPC」を用いた。40℃のヒートチャンバ内でカラムを安定させた後、40℃のカラムに、溶媒としてのTHFを1mL/分の流速で流した。その後、GPC用試料(150μL)を混合し、混合液を装置に注入して、GPC用試料の分子量分布を測定した。分子量分布は、単分散ポリスチレン標準試料により作成された検量線の対数値とカウント数(リテンションタイム)との関係から算出した。検量線作成用の標準ポリスチレン試料としては、東ソー株式会社製の試料(分子量:3.84×106、1.09×106、3.55×105、1.02×105、4.39×104、9.10×103、2.98×103)を用いた。検出器としては、RI(屈折率)検出器を用いた。ポリスチレンゲルカラムとしては、東ソー株式会社製「TSK−GEL GMHXL」を直列で2本組み合わせたポリスチレンゲルカラムを用いた。
得られたトナーのTHF可溶成分の分子量分布から、メインピーク(第1のピーク)の分子量(P1)と、サブピーク(第2のピーク)の分子量(P2)を得た。これらの分子量から、第1のピークの分子量(P1)に対する第2のピークの分子量(P2)の比率(P2/P1)を算出した。
(3)ガラス転移点(Tg)
示差走査熱量計DSCを用いて、以下のようにトナーの吸熱曲線を得た。測定試料としてトナー(10mg)をアルミパン中に入れた。リファレンスとして空のアルミパンを使用した。測定温度範囲を25℃以上200℃以下とし、かつ昇温速度10℃/分とした。得られた吸熱曲線に基づいて、トナーのガラス転移点Tg(℃)を求めた。
(4)軟化点(Tm)
高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)を用いて、以下のようにトナーの軟化点を測定した。測定試料作成用の成形型にトナー(約1.8g)を充填し、4MPaの圧力を印加して、ペレット(直径1cm、長さ2cmの円柱状)を作成した。得られたペレットをフローテスターにセットし、プランジャー荷重:30kg、ダイ穴直径:1mm、ダイ長さ:1mm、昇温速度4℃/分、測定温度範囲70℃以上160℃以下という測定条件で、トナーの軟化点(Tm)を測定した。得られたストロークの最大値をS1とし、低温側のベースラインのストローク値をS2とした。S字カーブ中の、ストローク値が(S1+S2)/2となる温度を、トナーの軟化点Tm(℃)とした。
(5)耐熱保存性
得られたトナーについて、以下の方法に従って、耐熱保存性を評価した。トナー3gを容量20mLのポリ容器に秤量し、温度を60℃に設定した恒温器内に3時間静置することで、耐熱保存性評価用のトナーを得た。その後、耐熱保存性評価用のトナーを、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)のマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5、時間30秒の条件で、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別した。篩別後に、篩上に残留したトナーの質量を測定した。篩別前のトナーの質量と、篩別後に篩上に残留したトナーの質量とから、下記式に従って凝集度(質量%)を求めた。
凝集度(質量%)=(篩上に残留したトナーの質量/篩別前のトナーの質量)×100
凝集度が30質量%以下であるトナーを合格とした。
得られたトナーを用いて、以下の方法に従って、低温定着性、耐高温オフセット性、及び現像スリーブへのトナー付着を評価した。低温定着性、耐高温オフセット性、及び現像スリーブへのトナー付着の評価には、以下の方法に従って調製した2成分現像剤を用いた。
[2成分現像剤の調製]
現像剤用キャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製のTASKalfa5550用キャリア)と、キャリアの質量に対して10質量%のトナーとを、ボールミルを用いて30分間混合し、評価用の2成分現像剤を調製した。
(6)低温定着性
評価機として、Roller−Roller方式の加熱加圧型の定着器(ニップ幅8mm)を装備し、定着温度を調節できるように改造したプリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」)を用いた。
トナーを評価機のシアン色用のトナーコンテナに投入し、現像剤をシアン色用の現像装置に投入して、評価機により線速200mm/秒で90g/m2の記録紙を搬送し、搬送しながら記録紙に1.0mg/cm2のトナー像(シアン単色)を形成した。続けて、トナー像形成後の記録紙に定着器を通過させた。ニップ通過時間は40m秒とした。定着温度を100℃以上200℃以下の範囲で、評価機の定着装置の定着温度を100℃から5℃ずつ上昇させて、未定着のソリッド画像を定着させた。ソリッド画像を定着させた被記録媒体を、画像を形成した面が内側となるように半分に折り曲げ、布帛で覆った1kgの分銅を用いて、折り目上を10往復摩擦した。次いで、被記録媒体を広げ、折り曲げ部のトナーの剥がれが1mm以下の場合を合格と判定し、1mmを超える場合を不合格と判定した。トナーの剥がれが合格と判定される最低の定着温度を、最低定着温度とした。最低定着温度が160℃以下であるトナーを合格とした。
(7)耐高温オフセット性
低温定着性の評価と同様の評価機、及び被記録媒体を用い、同様の条件で被記録媒体に未定着のソリッド画像を形成した。ヒートローラーの2周目に、トナーが被記録媒体に転移した温度を、オフセット発生温度とした。オフセット発生温度が200℃以上であるトナーを合格とした。
(8)現像スリーブへのトナー付着
プリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5100DN」)を用いて、印字率5%にて10000枚耐刷した後、現像スリーブを目視観察にて評価を行なった。目視により、トナーの付着が認められない場合を合格(○)とし、トナーの付着が認められた場合を不合格(×)とした。
調製例(A−1)〜(A−16)、及び調製例(B−1)〜(B−6)で得られたトナーについて、原料とシェル層の厚さ(膜厚)を表3に示す。また、各トナーについて、トナーの物性、及び評価結果を表4に示す。
表3及び表4から明らかなように、本実施形態のトナーによれば、現像スリーブへのトナーの付着を抑制可能で、優れた耐熱保存性、低温定着性及び耐高温オフセット性を発揮することができる。
調製例(B−1)のトナーは、シェル層の厚さが40nmと厚かった。そのため、シェル層が破壊されにくく、低温定着性に劣ったと考えられる。
調製例(B−2)のトナーは、第1のピークの分子量(P1)に対する第2のピークの分子量(P2)の比率(P2/P1)が25と小さかった。そのため、トナーの粘性が十分に得られず、低温定着性に劣ったと考えられる。同時に、トナーの弾性も十分に得られず、耐高温オフセット性にも劣ったと考えられる。
調製例(B−3)のトナーは、第1のピークの分子量(P1)に対する第2のピークの分子量(P2)の比率(P2/P1)が633と大きかった。そのため、低分子量成分と高分子量成分との相溶性が悪くなり、耐刷時に現像スリーブへのトナーの付着が発生したと考えられる。
調製例(B−4)のトナーは、第1のピークの分子量(P1)に対する第2のピークの分子量(P2)の比率(P2/P1)が20と小さかった。そのため、トナーの粘性が十分に得られず、低温定着性に劣ったと考えられる。同時に、トナーの弾性も十分に得られず、耐高温オフセット性にも劣ったと考えられる。
調製例(B−5)のトナーは、第1のピークの分子量(P1)に対する第2のピークの分子量(P2)の比率(P2/P1)が653と大きかった。そのため、低分子量成分と高分子量成分との相溶性が悪くなり、耐刷時に現像スリーブへのトナーの付着が発生したと考えられる。
調製例(B−6)のトナーは、シェル層を有していなかった。そのため、耐熱保存性に劣ったと考えられる。また、耐刷時に現像スリーブへのトナーの付着が発生したと考えられる。