以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係るトナーの製造方法は、静電荷像現像用のカプセルトナーの製造方法である。以下、本実施形態の方法により製造されるトナーの一例について説明する。なお、トナーは、多数の粒子(以下、トナー粒子と記載する)から構成される。
トナー粒子は、トナーコアと、トナーコアの表面に形成されたシェル層(カプセル層)と、外添剤とを有する。以下、外添剤が付着する前のトナー粒子を、トナー母粒子と記載する。
トナーコアは、結着樹脂と、内添剤(例えば、着色剤及び離型剤)とを有する。トナーコアは、シェル層によって被覆されている。シェル層の表面には外添剤が付着している。なお、必要がなければ内添剤又は外添剤を割愛してもよい。また、トナーコアの表面に複数のシェル層が積層されてもよい。
続けて、図1を参照して、本実施形態に係るトナーの製造方法について説明する。図1は、シェル層を形成する際の温度制御を説明するためのグラフである。図1において、縦軸は、容器内容物(トナーコアとシェル材とを含む液)の温度を示し、横軸は、トナーコアとシェル材とを室温で混合した時点からの経過時間を示している。
[トナーコアの準備]
はじめに、トナーコアを準備する。トナーコアは従来の粉砕分級法による分級品、又はケミカル的な手法で作製した凝集粒子でもよい。基本的にその表面には表面処理を施していないものが好ましい。トナーコアの表面に分散剤を残留させないことが望ましい。なお、トナーコアの作製方法は任意である。
以下、トナーコアについて説明する。
トナーの低温定着性を高めるためには、トナーコアのガラス転移点(Tg)が50℃以下40℃以上であることが好ましい。本実施形態では、トナーコアの吸熱曲線に基づいてトナーコアのガラス転移点(Tg)を測定する。以下、トナーコアの吸熱曲線からトナーコアのガラス転移点(Tg)を読み取る方法について説明する。
トナーコアのガラス転移点(Tg)を測定する場合には、示差走査熱量計(例えば、セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いてトナーコアの吸熱曲線を測定する。示差走査熱量計を用いて、トナーコアの吸熱曲線が得られる。トナーコアのTgは、トナーコアの吸熱曲線における比熱の変化点から求めることができる。
(結着樹脂)
トナーコアの結着樹脂について説明を続ける。結着樹脂は、例えば官能基としてエステル基、水酸基、エーテル基、酸基、メチル基、又はカルボキシル基を有する樹脂であることが好ましい。結着樹脂としては、分子中に水酸基、カルボキシル基、又はアミノ基のような官能基を有する樹脂が好ましく、分子中に水酸基及び/又はカルボキシル基を有する樹脂がより好ましい。このような官能基を有するトナーコア(結着樹脂)は、シェル層の材料(例えば、メチロールメラミン)と反応して化学的に結合し易くなる。こうした化学的な結合が生じると、トナーコアとシェル層との結合が強固になる。また、結着樹脂としては、活性水素を含む官能基を分子中に有する樹脂も好ましい。
結着樹脂としては、例えば熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂の好適な例としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、N−ビニル系樹脂、又はスチレン−ブタジエン系樹脂が挙げられる。中でも、スチレンアクリル系樹脂及びポリエステル樹脂はそれぞれ、トナー中の着色剤の分散性、トナーの帯電性、及び記録媒体に対する定着性に優れる。特に、結着樹脂中に結晶性ポリエステルを配合することによってトナーの低温定着性を高めることが可能になる。
以下、結着樹脂としてのスチレンアクリル系樹脂について説明する。
スチレンアクリル系樹脂は、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーとの共重合体である。
スチレン系モノマーの好適な例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、ビニルトルエン、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、又はp−エチルスチレンが挙げられる。
アクリル系モノマーの好適な例としては、(メタ)アクリル酸、特に(メタ)アクリル酸アルキルエステル又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)メタアクリル酸メチル、(メタ)メタアクリル酸エチル、(メタ)メタアクリル酸n−ブチル、又は(メタ)メタアクリル酸iso−ブチルが好ましい。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、又は(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシプロピルが好ましい。
スチレンアクリル系樹脂を調製する際に、水酸基を有するモノマー(例えば、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル)を用いることで、スチレンアクリル系樹脂に水酸基を導入できる。また、水酸基を有するモノマーの使用量を調整することで、得られるスチレンアクリル系樹脂の水酸基価を調整することができる。
スチレンアクリル系樹脂を調製する際に、(メタ)アクリル酸をモノマーとして用いることで、スチレンアクリル系樹脂にカルボキシル基を導入できる。また、(メタ)アクリル酸の使用量を調整することで、得られるスチレンアクリル系樹脂の酸価を調整することができる。
トナーコアの強度又は定着性を向上させるためには、結着樹脂としてのスチレンアクリル系樹脂の数平均分子量(Mn)が2000以上3000以下であることが好ましい。スチレンアクリル系樹脂の分子量分布(数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比率Mw/Mn)は10以上20以下であることが好ましい。スチレンアクリル系樹脂のMnとMwの測定には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いることができる。
次に、結着樹脂としてのポリエステル樹脂について説明する。
ポリエステル樹脂は、2価又は3価以上のアルコール成分と2価又は3価以上のカルボン酸成分とを縮重合又は共縮重合することで得られる。
ポリエステル樹脂を製造する際に用いることができる2価のアルコール成分の好適な例としては、ジオール類又はビスフェノール類が挙げられる。
ジオール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールが好ましい。
ビスフェノール類としては、例えばビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、又はポリオキシプロピレン化ビスフェノールAが好ましい。
ポリエステル樹脂を製造する際に用いることができる3価以上のアルコール成分としては、例えばソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが好ましい。
ポリエステル樹脂を製造する際に用いることができる2価又は3価以上のカルボン酸成分としては、例えばエステル形成性の誘導体(例えば、酸ハライド、酸無水物、又は低級アルキルエステル)を用いてもよい。ここで、「低級アルキル」とは、炭素原子数1〜6のアルキル基を意味する。
2価のカルボン酸成分としては、例えばマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、又はコハク酸、又はアルキルコハク酸もしくはアルケニルコハク酸が好ましい。さらに、アルキルコハク酸もしくはアルケニルコハク酸としては、例えばn−ブチルコハク酸、n−ブテニルコハク酸、イソブチルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデシルコハク酸、又はイソドデセニルコハク酸が好ましい。
3価以上のカルボン酸成分としては、例えば1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が好ましい。
ポリエステル樹脂を製造する際に、2価又は3価以上のアルコール成分の使用量と2価又は3価以上のカルボン酸成分の使用量とをそれぞれ変更することで、ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価を調整することができる。ポリエステル樹脂の分子量を上げると、ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価は低下する傾向がある。
トナーコアの強度又はポリエステル樹脂のトナーコアへの定着性を向上させるためには、結着樹脂としてのポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が1200以上2000以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂の分子量分布(数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比率Mw/Mn)は9以上20以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂のMnとMwの測定には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いることができる。
トナーコアのガラス転移点を下げるために、結着樹脂として熱硬化性樹脂を用いてもよい。例えば、結着樹脂として結晶化ポリエステルを用いた場合には、アルコール成分の種類、酸成分の種類、アルコール成分と酸成分との添加量の比率、及びアルコール成分と酸成分との反応条件によって、トナーコアのガラス転移点(Tg)を制御することができる。
(着色剤)
トナーコアは、内添剤として着色剤を含んでいてもよい。着色剤としては、例えばトナー粒子の色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。着色剤の使用量は、100質量部の結着樹脂に対して1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、3質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。
本実施形態に係るトナー粒子のトナーコアは、黒色着色剤を含有していてもよい。黒色着色剤は、例えばカーボンブラックから構成される。また、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤のような着色剤を用いて黒色に調色された着色剤も利用できる。
トナーコアは、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、又はシアン着色剤のようなカラー着色剤を含有していてもよい。
イエロー着色剤は、例えば縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、又はアリルアミド化合物から構成されることが好ましい。イエロー着色剤としては、例えばC.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、又は194)、ネフトールイエローS、ハンザイエローG、又はC.I.バットイエローが好ましい。
マゼンタ着色剤は、例えば縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、又はペリレン化合物から構成されることが好ましい。マゼンタ着色剤としては、例えばC.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、又は254)が好ましい。
シアン着色剤は、例えば銅フタロシアニン化合物、銅フタロシアニン誘導体、アントラキノン化合物、又は塩基染料レーキ化合物から構成されることが好ましい。シアン着色剤としては、例えばC.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、又は66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、又はC.I.アシッドブルーが好ましい。
(離型剤)
トナーコアは、内添剤として離型剤を含んでいてもよい。離型剤は、トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させる目的で使用される。定着性又は耐オフセット性を向上させるためには、離型剤の使用量は100質量部の結着樹脂に対して1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、5質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
離型剤は、例えば低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、又はフィッシャートロプシュワックスのような脂肪族炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックス又は酸化ポリエチレンワックスのブロック共重合体のような脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物;キャンデリラワックス、カルナウバワックス、木ろう、ホホバろう、又はライスワックスのような植物系ワックス;みつろう、ラノリン、又は鯨ろうのような動物系ワックス;オゾケライト、セレシン、又はベトロラクタムのような鉱物系ワックス;モンタン酸エステルワックス又はカスターワックスのような脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナウバワックスのような脂肪酸エステルの一部又は全部が脱酸化したワックスから構成されることが好ましい。
(電荷制御剤)
トナーコアは、内添剤として負帯電性の電荷制御剤を含んでいてもよい。電荷制御剤は、トナーの帯電安定性もしくは帯電立ち上がり特性を向上させる目的、又は耐久性もしくは安定性に優れたトナーを得る目的で使用される。トナーの帯電立ち上がり特性は、所定の帯電レベルに短時間でトナーを帯電可能か否かの指標になる。
(磁性粉)
トナーコアは、内添剤として磁性粉を含んでいてもよい。磁性粉は、例えば鉄(例えば、フェライト又はマグネタイト)、強磁性金属(例えば、コバルト又はニッケル)、鉄及び/又は強磁性金属を含む合金、鉄及び/又は強磁性金属を含む化合物、熱処理のような強磁性化処理を施された強磁性合金、又は二酸化クロムから構成されることが好ましい。
また、磁性粉からの鉄イオンの溶出を抑制するため、磁性粉を表面処理することが好ましい。酸性条件下でトナーコアの表面にシェル層を形成する場合に、トナーコアの表面に鉄イオンが溶出すると、トナーコア同士が固着し易くなる。磁性粉からの鉄イオンの溶出を抑制することで、トナーコア同士の固着を抑制することができる。
[トナーコアとシェル材との混合]
トナーコアを準備した後、タイミングt10(図1)で、容器(例えば、フラスコ)内に、所定の液(例えば、水性媒体)と、トナーコアと、シェル材(シェル層の材料)とを入れる。続けて、容器内容物を攪拌してシェル材を液に溶解させる。この時の容器内容物の温度は、例えば室温である。
トナーの低温定着性とトナーの耐熱保存性との両立を図るためには、シェル層の厚さが1nm以上20nm以下(より好ましくは、1nm以上10nm以下)になるように、シェル材の添加量を調整することが好ましい。ただし、トナーコアとシェル層との境界が明確であることは必須の構成ではない。トナーコアと一体となったシェル層の性質が表層に向かって徐々に変化していてもよい。
トナーコアの分散性を向上させるために、容器内に分散剤を添加してもよい。ただし、必要がなければ、容器内に分散剤を添加しないことが望ましい。分散剤を用いなければ、トナーコアの洗浄工程での水の使用量を削減できる。
トナーコアがアニオン性を有し、シェル材の少なくとも1種類はカチオン性であることが好ましい。こうした構成にすることで、静電相互作用によりトナーコアの表面にシェル材をひきつけることが可能になる。シェル材は、窒素原子を含んだカチオン性モノマーであることが好ましい。
本実施形態においてトナーコアがアニオン性であることの指標は、pHが4に調整された水性媒体中で測定されるトナーコアのゼータ電位が負極性を示すことである。なお、本実施形態においてpH4はシェル材を形成する時の水性媒体のpHに相当する。
ゼータ電位の測定方法としては、電気泳動法、超音波法、又はESA(電気音響)法等が挙げられる。
電気泳動法は、粒子分散液に電場を印加して分散液中の帯電粒子を電気泳動させ、電気泳動速度に基づきゼータ電位を算出する方法である。電気泳動法の例としては、レーザードップラー法(電気泳動している粒子にレーザー光を照射し、得られた散乱光のドップラーシフト量から電気泳動速度を求める方法)が挙げられる。レーザードップラー法は、分散液中の粒子濃度を高濃度とする必要がなく、ゼータ電位の算出に必要なパラメーターの数が少なく、加えて電気泳動速度を感度よく検出できるという利点を有する。
超音波法は、粒子分散液に超音波を照射して分散液中の帯電粒子を振動させ、この振動によって生じる電位差に基づきゼータ電位を算出する方法である。
ESA法では、粒子分散液に高周波電圧を印加して分散液中の帯電粒子を振動させて超音波を発生させる。そして、その超音波の大きさ(強さ)からゼータ電位を算出する。
超音波法及びESA法は、粒子濃度が高い(例えば、20質量%を超える)粒子分散液であっても、ゼータ電位を感度よく測定することができるという利点を有する。
以下、シェル材について説明する。
シェル材は、熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーであることが好ましい。シェル材が熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーである場合には、熱硬化性樹脂を含むシェル層が形成される。
シェル層に含まれる熱硬化性樹脂としては、例えばメラミン樹脂、尿素(ユリア)樹脂、スルホンアミド樹脂、グリオキザール樹脂、グアナミン樹脂、アニリン樹脂、又はこれら各樹脂の誘導体が好ましい。メラミン樹脂の誘導体では、例えばメチロールメラミンが好ましい。グアナミン樹脂の誘導体では、例えばベンゾグアナミン、アセトグアナミン、又はスピログアナミンが好ましい。
シェル層に含まれる熱硬化性樹脂としては、例えば窒素元素を分子骨格に有するポリイミド樹脂、マレイミド系重合体、ビスマスイミド、アミノビスマスイミド、又はビスマスイミドトリアジンが好ましい。
シェル層に含まれる熱硬化性樹脂としては、アミノ基を含む化合物とアルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)との重縮合によって生成される樹脂(以下、アミノアルデヒド樹脂と記載する)、又はアミノアルデヒド樹脂の誘導体が特に好ましい。なお、メラミン樹脂は、例えばメラミンとホルムアルデヒドとの重縮合物である。尿素樹脂は、例えば尿素とホルムアルデヒドとの重縮合物である。グリオキザール樹脂は、例えばグリオキザールと尿素との反応物と、ホルムアルデヒドとの重縮合物である。グリオキザール樹脂としては、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素(DMDHEU)が好ましい。
熱硬化性樹脂に窒素元素を含ませることで、熱硬化性樹脂の架橋硬化機能を向上させることができる。熱硬化性樹脂の反応性を高めるためには、メラミン樹脂では40質量%以上55質量%以下に、尿素樹脂では40質量%程度に、グリオキザール樹脂では15質量%程度に、窒素元素の含有量を調整することが好ましい。
シェル材として、熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマー(以下、熱硬化性材料と記載する)と熱可塑性樹脂のモノマー又はプレポリマー(以下、熱可塑性材料と記載する)とを合わせて用いてもよい。熱硬化性材料に対して熱可塑性材料を適量加えることで、シェル層を均一に形成したりシェル層の硬度又は帯電性を調整したりすることが容易になる。シェル層の耐熱性の強化のためには、熱硬化性材料を熱可塑性材料よりも多く使用することが好ましい場合が多い。また、シェル層の帯電性を向上させるためには、熱可塑性材料よりも熱硬化性材料を多く使用することが好ましい場合が多い。シェル材として、熱硬化性材料と熱可塑性材料との両方を用いた場合には、熱硬化性樹脂及び熱可塑性材料を含むシェル層が形成される。
シェル層に含まれる熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂が有する官能基(例えば、メチロール基又はアミノ基)と反応し易い官能基とを有することが好ましい。例えば、シェル層に含まれる熱可塑性樹脂は、活性水素原子を含む官能基(水酸基、カルボキシル基、又はアミノ基)を有することが好ましい。アミノ基は、カルバモイル基(−CONH2)として熱可塑性樹脂中に含まれてもよい。シェル層に含まれる熱可塑性樹脂は、カルボジイミド基、オキサゾリン基、又はグリシジル基を有することが好ましい。例えば、カルボジイミド基を有する架橋剤を用いて、シェル層を形成してもよい。
熱可塑性材料はアクリル成分を含むことが好ましく、反応性アクリレートを含むことがより好ましい。アクリル成分を含む熱可塑性材料は、熱硬化性材料と反応し易いため、シェル層の膜質を向上させることができると考えられる。熱可塑性材料は、2HEMA(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)を含むことが特に好ましい。
シェル層に含まれる熱可塑性樹脂の具体例としては、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体樹脂、シリコーン−(メタ)アクリルグラフト共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、又はエチレンビニルアルコール共重合体が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体樹脂、又はシリコーン−(メタ)アクリルグラフト共重合体が好ましく、(メタ)アクリル系樹脂がより好ましい。
シェル層に含まれる熱可塑性樹脂としては、水溶性を有する樹脂が好ましい。水溶性を有する熱可塑性樹脂の好適な例としては、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース(もしくは、その誘導体)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、又はポリエチレンオキサイドが挙げられる。
また、シェル層に含まれる熱可塑性樹脂としては、極性官能基を有する単位(例えば、グリコール、カルボン酸、又はマレイン酸)を含む水溶性の樹脂が好ましい。極性官能基を有する熱可塑性樹脂は、高い反応性を有する。
熱可塑性材料としては、水溶性樹脂を用いてもよいし、例えば油性の微粒子を水中にサスペンション状に分散した分散液を用いることができる。水溶性樹脂の好適な例としては、エポキシ基を有する樹脂、2HEMA(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)のような反応性アクリレート、アミド結合を有するアクリルアミド系樹脂、又はグリコール官能基を有する樹脂が挙げられる。また、非水溶性樹脂の好適な例としては、アクリル系樹脂、スチレン−アクリル系共重合体樹脂、酢酸ビニル−アクリル系共重合体樹脂、又はゴム系材料を含むスチレン−スチレンブタジエンゴム系共重合体樹脂が挙げられる。
また、熱可塑性材料として、シランカップリング剤を用いてもよい。
シェル層の形成に、硬化剤又は反応促進剤を用いてもよいし、複数の官能基を組み合わせたポリマーを用いてもよい。また、アクリルシリコーン樹脂(グラフトポリマー)を用いて膜(シェル層)の耐水性を向上させてもよい。
[第一の反応]
タイミングt10(図1)でトナーコアとシェル材とを室温で混合した後、容器内容物を攪拌しながら、温度T1まで容器内容物の温度(液温)を上昇させる。温度T1は、例えば室温よりも高い温度である。図1に示す例では、タイミングt11で、容器内容物の温度が温度T1になる。
続けて、容器内容物の温度を所定の時間(例えば、タイミングt11からタイミングt12までの間)温度T1に保つ。これにより、シェル材がトナーコアの表面に静電相互作用によってひきつけられる。そして、トナーコアの官能基とシェル材(例えば、反応性モノマー)とが互いに化学的に結合する(第一の反応)。その結果、トナーコアの表面にシェル材が強固に付着する。
第一の反応の終点は、例えば容器内容物に含まれるシェル材の量(シェル層の残分)の測定(定量)により求めることができる。シェル材の定量方法の例としては、液体クロマトグラフィー、蛍光X線、又はCHN(炭素・水素・窒素同時定量装置)が挙げられる。また、FTIR(フーリエ変換型赤外分光)又はNMR(核磁気共鳴)を用いて、トナーコアに固着したシェル材を測定することで、第一の反応の終点を求めてもよい。
タイミングt12を、トナーコアに対するシェル材の付着率が80質量%以上(より好ましくは、95質量%以上)になるように定める。
トナーコアの表面に対するシェル材の付着率は、容器内に加えたシェル材のうち、トナーコアに付着した分(シェル材)の割合(質量%)を示す。付着率は、例えば以下の方法で求められる。第一の反応の後、液中のシェル材の質量を高速液体クロマトグラフィーで測定する。測定されたシェル材の質量(未付着分の質量)と、容器内に加えたシェル材の全質量(添加したシェル材の質量)とから、次の式に基づいて付着率(質量%)を求める。
付着率(質量%)=100×(添加したシェル材の質量−未付着分の質量)/添加したシェル材の質量
温度T1(タイミングt11〜t12における液の温度)は、第一の反応の反応温度に相当する。温度T1は、トナーコアのガラス転移点(Tg)以下の温度であることが好ましい。また、温度T1は、トナーコアのガラス転移点よりも15℃低い温度以上であり、且つ、トナーコアのガラス転移点よりも5℃低い温度以下であることがより好ましい。温度T1がトナーコアのガラス転移点(Tg)よりも15℃低い温度(Tg−15℃)以下である場合は、トナーコアへのシェル材の付着が弱くなる傾向がある。また、温度T1がトナーコアのガラス転移点(Tg)よりも5℃低い温度(Tg−5℃)以上である場合は、トナーコアの表面が活性化し、トナーコア同士の緩い結合が生じやすくなる。
[第二の反応]
続けて、タイミングt12(図1)で容器内容物の昇温を開始し、容器内容物を攪拌しながら、温度T2まで容器内容物の温度(液温)を上昇させる。図1に示す例では、タイミングt13で、容器内容物の温度がトナーコアのガラス転移点(Tg)になり、タイミングt14で、容器内容物の温度が温度T2になる。
続けて、容器内容物の温度を所定の時間(例えば、タイミングt14からタイミングt15までの間)温度T2に保つ。これにより、トナーコアの表面でシェル材が架橋(in−situ重合)する。また、架橋により、シェル材が硬化する(第二の反応)。その結果、硬化したシェル層が形成され、トナー母粒子が得られる。
なお、必要に応じて、タイミングt12〜t15の間の任意のタイミングで、容器内に触媒を加えてもよいし、硬化剤又は反応促進剤を加えてもよい。
シェル層は、熱硬化性樹脂のみから構成されてもよい。また、シェル層は、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の両方を含んでいてもよい。
図1に示す例では、容器内容物を昇温させることによって、シェル材を架橋させている。しかしこれに限られず、シェル材を架橋させる方法は任意である。例えば、容器内に触媒を加えることによって、容器内容物を昇温させずとも、容器内のシェル材を架橋させることが可能になると考えられる。
トナーコアの表面にシェル層を形成した後(第二の反応後)、容器内容物を中和する。続けて、容器内容物を冷却する。続けて、容器内容物をろ過する。これにより、トナー母粒子が液から分離(固液分離)する。続けて、得られたトナー母粒子を乾燥させる。その後、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させる。これにより、トナー粒子を多数有するトナーが製造される。
以上説明したように、本実施形態に係るトナーの製造方法では、液にトナーコアとシェル材(シェル層の材料)とを入れる(第一ステップ)。続けて、液の温度をトナーコアのガラス転移点(Tg)以下の温度に保ち、トナーコアに対するシェル材の付着率が好ましくは80質量%以上(より好ましくは、95質量%以上)になるように、トナーコアの表面にシェル材を付着させる(第二ステップ)。続けて、トナーコアの表面に付着したシェル材を硬化させる(第三ステップ)。
以下、本実施形態に係るトナーの製造方法によって奏される効果について説明する。
まず、図2を参照して、本実施形態に係るトナーの製造方法に含まれる第一ステップ、第二ステップ、及び第三ステップのうち、第二ステップを省いたトナーの製造方法(以下、他の方法と記載する)について説明する。図2は、第二ステップを含まないトナーの製造方法の一例を説明するための図である。
他の方法では、タイミングt10(図2)でトナーコアとシェル材とを混合する。この時の容器内容物の温度は、例えば室温である。続けて、容器内容物を攪拌しながら、温度T3まで容器内容物の温度(液温)を上昇させる。図2に示す例では、タイミングt16で、容器内容物の温度がトナーコアのガラス転移点(Tg)になり、タイミングt17で、容器内容物の温度が温度T3になる。
他の方法では、トナーコアとシェル材とを混合する。この時の容器内容物の温度は室温である。続けて、容器内容物(トナーコアとシェル材との混合物)の温度をトナーコアのガラス転移点よりも高い温度T3まで連続的に上昇させる(図2参照)。このため、トナーコアにシェル材が十分に付着する前に、トナーコアの凝集が生じ易い。このようなトナーコアの凝集が生じた場合には、トナーコアの表面のうち、トナーコア同士が接触する領域には、トナーコアにシェル材が付着しないと考えられる。
続けて、容器内容物の温度を所定の時間(例えば、タイミングt17からタイミングt18までの間)温度T3に保つ。これにより、トナーコアの表面でシェル材が架橋(in−situ重合)する。また、架橋により、シェル材が硬化する(第二の反応)。その結果、硬化したシェル層が形成される。トナーコアの表面のうち、シェル材が付着しない領域には、シェル層が形成されない。その結果、トナーコアはシェル層で不均一に覆われる。
本実施形態に係るトナーの製造方法(第二ステップを含む方法)と他の方法(第二ステップを含まない方法)とを比較すると、本実施形態に係るトナーの製造方法においては、トナーコアがシェル層によって充分に被覆されたトナー母粒子が得られる。トナーコアは、硬化したシェル層で均一に覆われている。これに対し、他の方法に係るトナーの製造方法においては、トナーコアが凝集することがある。この場合には、トナーコアは、硬化したシェル層で不均一に覆われる。
なお、本実施形態に係るトナーの製造方法において第二ステップの容器内容物の温度をトナーコアのガラス転移点(Tg)よりも高くした場合にも、図8に示すようなトナーコアの凝集が生じることがある。そのため、トナーコアがシェル層で不均一に覆われる。
上記のように、第一ステップ、第二ステップ、及び第三ステップを含むトナーの製造方法によれば、トナーコアの表面に均一にシェル材が固着される。これによりトナーコアの凝集が抑制される。よって、耐熱保存性及び低温定着性(ひいては、機械的なストレス耐性及び耐熱性)のいずれにも優れるトナーを製造することが容易になる。
本実施形態に係るトナーの製造方法において、トナーコアの凝集を抑制し、且つ、トナーコアとシェル材との付着性を高めるためには、第二ステップにおける液の温度を、トナーコアのガラス転移点(Tg)よりも15℃低い温度以上、且つ、トナーコアのガラス転移点(Tg)よりも5℃低い温度以下(Tg−15≦液の温度≦Tg−5)にすることが好ましい。
本実施形態に係るトナーの製造方法において、第三ステップでは、昇温と触媒の添加との少なくとも一方により、トナーコアの表面に付着したシェル材を硬化させることが好ましい。
本発明の実施例について説明する。以下、調製例1〜調製例5のトナーの調製方法、評価方法、及び評価結果について、順に説明する。なお、トナーに関する評価結果(形状及び物性などを示す値)は、特に記載していなければ、相当数のトナー粒子について測定した値の平均である。
<調製例1のトナーの調製方法>
(トナーのコアの作製)
以下、調製例1のトナーの調製方法においてトナーコアを作製する手順について説明する。
調製例1のトナーの調製方法では、粉砕分級法を用いてトナーコアを作製した。結着樹脂として、ポリエステル樹脂を用いた。
表1に各調製例で用いたポリエステル樹脂を示す。
ポリエステル樹脂のTgの測定については、試料(ポリエステル樹脂)10mg〜12mgをアルミパン中に入れて、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて試料の吸熱曲線を測定した。リファレンスとして空のアルミパンを使用した。測定条件は、温度範囲30℃〜170℃かつ昇温速度10℃/分とした。得られた吸熱曲線に基づいて各試料のTgを求めた。
着色剤としては、C.I.ピグメントブルー15:3(フタロシアニン顔料)を用いた。離型剤としては、融点73℃のエステルワックス(日油株式会社製「WEP−3」)を用いた。
混合機(日本コークス工業株式会社製「ヘンシェルミキサー」)を用いて、上記ポリエステル樹脂100質量部に対して上記着色剤5質量部及び上記離型剤5質量部を混合した。続けて、混合物を2軸押出機(株式会社池貝製「PCM−30」)で混練した。続けて、混練物を機械式粉砕機(フロイント・ターボ株式会社製「ターボミル」)で粉砕し、分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェット」)を用いて分級した。これにより、トナーコアが得られた。
得られたトナーコアのTgは43℃であった。トナーコアのTgを測定する方法は、上述したポリエステル樹脂のTgを測定する方法と同様である。
得られたトナーコアの中位径D50(体積分布基準)は6.0μmであった。この測定には、精密粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製「コールターカウンターマルチサイザー3」)を用いた。
得られたトナーコアの形状指数(円形度)は0.93であった。この測定には、フロー式粒子像分析装置(シスメックス株式会社製「FPIA(登録商標)−3000」)を用いた。
得られたトナーコアの摩擦帯電量は−20μC/gであった。この測定には、標準キャリア及びQMメーター(TREK社製「MODEL 210HS−2A」)を用いた。詳しくは、日本画像学会から提供される標準キャリアN−01(負帯電極性トナー用標準キャリア)と、トナーコアとを、ターブラミキサーを用いて30分間混合した。この時、トナーコアの使用量は、標準キャリアの質量に対して7質量%であった。混合後、QMメーターを用いてトナーコアの摩擦帯電量を測定した。
また、ゼータ電位・粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製「Delsa Nano HC」)を用いて、pH4に調整された分散液中のトナーコアのゼータ電位を測定した。詳しくは、0.2gのトナーコアと、イオン交換水80gと、濃度1質量%のノニオン系界面活性剤(株式会社日本触媒製「ポリビニルピロリドンK−85」)20gとを、マグネットスターラーを用いて混合して、液中にトナーコアを均一に分散させた。これにより、トナーコアの分散液が得られた。その後、分散液に希塩酸を加えて、分散液のpHを4に調整した。そして、pH4のトナーコアの分散液を測定試料とした。測定試料中のトナーコアのゼータ電位を、ゼータ電位・粒度分布測定装置を用いて測定した。トナーコアのpH4におけるゼータ電位は−5.5mVであった。摩擦帯電量及びゼータ電位のデータから、トナーコアがアニオン性を有することは明らかであった。
(シェル層の形成)
以下、調製例1のトナーの調製方法においてシェル層を形成する手順について説明する。
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコを準備した。続けて、フラスコ内に前述の手順で作製したトナーコアを300gと、イオン交換水600gと、水溶性メチロールメラミン(昭和電工株式会社製「ミルベン607」、濃度80質量%)2mLとを入れた。続けて、フラスコ内容物を攪拌してメチロールメラミンを水性媒体に溶解させた。この時のフラスコ内容物の温度は25℃であった。なお、メチロールメラミンは、シェル材に相当する。
さらに、希塩酸を加えて、フラスコ内の水性媒体のpHを4.5に調整した。高速ミキサー(エム・テクニック社製「クレアミックス リップシール式実験機」)を用いてフラスコ内容物を攪拌速度1000rpmで混練しながら、ウォーターバスを用いてフラスコ内容物の温度を35℃に昇温した。
続けて、フラスコ内容物を高速ミキサーを用いて同速度で攪拌しながらフラスコ内の温度が35℃である状態を1時間保った(第一の反応)。
その結果、液中で遊離したメチロールメラミン(シェル材)がトナーコアの表面に付着した(図5参照)。高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製「LC−2010AHT」)を用いて、メチロールメラミンが98質量%以上の付着率でトナーコアの表面に付着していることを確認した。
トナーコアの表面に対するシェル材(メチロールメラミン)の付着率は、以下の方法で求めた。第一の反応の後、液中の遊離メチロールメラミンの質量を高速液体クロマトグラフィーを用いて以下に記す測定条件で測定した。測定された遊離メチロールメラミンの質量(未付着分の質量)と、フラスコ内に加えたメチロールメラミンの全質量(添加したシェル材の質量)とから、次の式に基づいて付着率(質量%)を求めた。
付着率(質量%)=100×(添加したシェル材の質量−未付着分の質量)/添加したシェル材の質量
以下に高速液体クロマトグラフィーでの遊離メチロールメラミンの測定条件について記す。
測定機種:LC-2010A HT (島津製作所)
Flow:1.00mL/min
オーブン温度:40℃
検出器:UV-vis検出器
検出波長:207nm
溶離液:
A液…0.1%リン酸水溶液
B液…アセトニトリル
グラディエント設定:
(1)測定開始からアセトニトリル量を徐々に増やし、30分後40%となるように設定
(2)35分後までアセトニトリル40%を維持
(3)35分以降アセトニトリル0%
(4)45分後測定終了
続けて、容器内を減圧することにより容器内容物を脱気した。続けて、容器内容物に、イオン交換水600gと、有機アミン塩(DIC株式会社製「ベッカミン376」)30gとを加えた。有機アミン塩は、硬化触媒に相当する。
続けて、容器内容物を攪拌しながら容器内の温度を昇温温度0.3℃/分で75℃まで昇温し、容器内容物を攪拌速度10000rpmで攪拌しながら75℃の状態を2時間保った(第二の反応)。
その結果、トナーコアの表面に、熱硬化性樹脂(メラミン樹脂)から構成されるカチオン性のシェル層が形成された。その後、水酸化ナトリウムを加えてフラスコ内容物のpHを7に調整(中和)した。これにより、熱硬化性樹脂の硬化反応が止まった。続けて、フラスコ内容物を常温(25℃)まで冷却し、トナー母粒子を含む分散液を得た。
(洗浄及び乾燥)
トナー母粒子(トナーコア及びシェル層)の形成後、ブフナーロート(ヌッチェ)を用いて分散液を吸引ろ過(固液分離)した。これにより、ウェットケーキ状のトナー母粒子が得られた。その後、イオン交換水にトナー母粒子を分散させた。さらに、ろ過と分散とを繰り返して、トナー母粒子を洗浄した。イオン交換水100gにトナー母粒子10gを分散させた分散液の導電率が4μS/cm以下になるまでろ過及び分散を繰り返した。この導電率が10μS/cm以下であれば、トナーの帯電性にほとんど影響を与えないと考えられる。導電率の測定には、株式会社堀場製作所製の電気伝導率計「HORIBA ES−51」を用いた。添加したシェル材(モノマー又は樹脂)は、ほとんどろ液に含まれていなかった。洗浄後のろ液及び洗浄液のTOC(全有機炭素)濃度はそれぞれ8mg/L以下であった。TOC濃度の測定には、オンラインTOC計(株式会社島津製作所製「TOC−4200」)を用いた。
続けて、洗浄されたウェットケーキ状のトナー母粒子を解砕し、真空オーブンを用いてトナー母粒子を乾燥した。
(外添)
上記乾燥後のトナー母粒子100質量部と、乾式シリカ微粒子(日本アエロジル(登録商標)株式会社製「REA90」)1質量部とを、5Lの混合機(日本コークス工業株式会社製「ヘンシェルミキサー」)を用いて混合した。これにより、トナー母粒子の表面に外添剤が付着した。その結果、調製例1のトナーが得られた。
<調製例2のトナーの調製方法>
調製例2のトナーの調製方法では、シェル材の成分及び添加量を、2mLのミルベン607から、1mLのミルベン607及び1mLのアクリルアミド樹脂(DIC株式会社製「ベッカミンA−1」)に変更した以外は、調製例1のトナーの調製方法と同じである。トナーコアに対するシェル材の付着率は97質量%であった。
<調製例3のトナーの調製方法>
調製例3のトナーの調製方法では、表1に記載のようにTgが41℃のポリエステル樹脂を用いた以外は、調製例1のトナーの調製方法と同じである。トナーコアのTgは39℃となりトナーコアに対するシェル材の付着率は97質量%であった。
<調製例4のトナーの調製方法>
調製例4のトナーの調製方法は、下記の点を変更した以外は、調製例1のトナーの調製方法と同じである。
調製例4のトナーの調製方法では、フラスコ内でトナーコアとシェル材とを混合した後、フラスコ内容物を75℃まで直線的に(連続的に)昇温温度0.3℃/分で昇温させた。続けて、フラスコ内容物の温度を75℃で2時間維持した。調製例4のトナーの調製方法は、第二ステップを含まない方法(図2参照)である。トナーコアの凝集が著しかったため、トナーコアに対するシェル材の付着率は測定不可能であった。
<調製例5のトナーの調製方法>
調製例5のトナーの調製方法は、下記の点を変更した以外は、調製例3のトナーの調製方法と同じである。
調製例5のトナーの調製方法では、第一の反応に先立ち、フラスコ内容物を43℃(トナーコアのTgよりも高い温度)まで直線的に昇温温度0.3℃/分で昇温させた。そして、フラスコ内容物の温度を43℃で1時間維持した(第一の反応)。トナーコアに対するシェル材の付着率は98質量%であった。
[評価方法]
各試料(調製例1〜調製例5のトナー)の評価方法は、以下の通りである。
(シェル層の厚さ)
各試料のトナー粒子を常温硬化性のエポキシ樹脂中に分散し、40℃の雰囲気で2日間硬化させて硬化物を得た。この硬化物を四酸化オスミウムにて染色した後、ダイヤモンドナイフを備えたミクロトーム(ライカ社製「EM UC6」)を用いて切り出し、厚さ200nmの薄片試料を得た。そして、この試料の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製「JSM−6700 F」)を用いて撮影した。
画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いてTEM撮影像を解析することで、シェル層の厚さを計測した。具体的には、トナー粒子の断面の略中心で直交する2本の直線を引き、この2本の直線上の、シェル層と交差する4箇所の長さを測定した。そして、測定された4箇所の長さの平均値を、測定対象である1個のトナー粒子のシェル層の厚さとした。トナーに含まれる10個以上のトナー粒子についてシェル層の厚さを測定し、得られた10個以上の測定値の平均を評価値とした。
なお、シェル層の厚さが薄い場合には、TEM画像上でのトナーコアとシェル層との境界が不明瞭になるため、シェル層の厚さの測定が困難な場合がある。このような場合には、TEM撮影と電子エネルギー損失分光法(EELS)とを組み合わせてトナーコアとシェル層との境界を明確にすることにより、シェル層の厚さを測定した。具体的には、TEM画像中で、EELSを用いてシェル層に含まれる元素(例えば、窒素元素)のマッピングを行った。
(保存性)
試料(トナー)2gを容量20mLのポリ容器に入れて、60℃に設定された恒温器内に3時間静置した。これにより、評価用トナーが得られた。この評価用トナーを20℃で3時間冷却後、質量既知の100メッシュの篩に載せた。この際、トナーを含む篩の質量を測定し、篩別前のトナーの質量を求めた。続けて、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)に篩をセットし、パウダーテスターのマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5の条件で30秒間、篩を振動させ、評価用トナーを篩別した。そして、篩別後に、トナーを含む篩の質量を測定することで、篩上に残留したトナーの質量を求めた。篩別前のトナーの質量と、篩別後のトナーの質量(篩別後に篩上に残留したトナーの質量)とから、次の式に基づいて凝集率(質量%)を求めた。
凝集率(質量%)=100×篩別後のトナーの質量/篩別前のトナーの質量
凝集率が20質量%以下であれば○(良い)と評価し、凝集率が20質量%超であれば×(良くない)と評価した。
(定着性)
評価機として、Roller−Roller方式の加熱加圧型の定着器(ニップ幅8mm)を有するプリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FSC−5250DN」の改造機)を用いた。100質量部の現像剤用キャリア(FSC−5250DN用キャリア)と10質量部の試料(トナー)とを、ボールミルを用いて30分間混合して2成分現像剤を調製した。調製した2成分現像剤を評価機のシアン用の現像器に投入し、試料(トナー)を評価機のシアン用のトナーコンテナに投入した。
評価機を用いて、線速200mm/秒で90g/m2の紙を搬送し、搬送しながら紙に1.0mg/cm2のトナーを現像した。トナーを用いて形成した画像はソリッド画像であった。続けて、現像後の紙に定着器を通過させた。ニップ通過時間は40m秒であった。また、定着温度の設定範囲は100℃以上200℃以下であった。詳しくは、定着器の定着温度を100℃から5℃ずつ上昇させて、トナー(ソリッド画像)を紙に定着できる最低温度(最低定着温度)を測定した。定着できたか否かは、折擦り試験(折り目の定着剥がれ幅の測定)で確認した。具体的には、以下のような方法で最低定着温度を求めた。
ソリッド画像が定着された紙について折擦り試験を行った。詳しくは、画像を形成した面が内側となるように紙を半分に折り曲げ、布帛で覆った1kgの分銅を用いて、折り目上を5往復摩擦した。続けて、紙を広げ、紙の折り曲げ部(ソリッド画像が定着された部分)を観察した。そして、折り曲げ部のトナーの剥がれの長さ(剥がれ長)を測定した。トナーの剥がれ長が1mm以下となる定着温度のうちの最低温度を、最低定着温度とした。
最低定着温度が160℃以下であれば○(良い)と評価し、最低定着温度が160℃超であれば×(良くない)と評価した。
(トナーコア凝集)
トナーコアの凝集は、58℃の環境に3時間放置した後ホソカワミクロン社のパウダーテスターにて100メッシュ150μオープンのふるいで30sec振動させ、ふるい上の残分を測定することにより評価した。ふるい残分が20%以上の場合にはトナーコアの凝集が有とし、20%以下の場合にはトナーコアの凝集が無とした。
[評価結果]
表2に、調製例1〜調製例5の各トナーの評価結果をまとめて示す。
表2に示されるように、調製例1〜3のトナーでは、それぞれ最低定着温度(定着性)が160℃以下(詳しくは、150℃以下)であり、且つ、凝集率(保存性)が20質量%以下(詳しくは、15質量%以下)であった。調製例1〜3のトナーはそれぞれ耐熱保存性及び低温定着性(ひいては、機械的なストレス耐性及び耐熱性)のいずれにも優れていた。また、調製例1〜3のトナーにおいては、トナー凝集が見られなかった。
調製例1〜3のトナーの調製方法においては、トナーコアにシェル材を付着させる際の温度(第一の反応温度)を、トナーコアのガラス転移点よりも低くした。さらに、第一の反応温度で1時間保つことで、トナーコアに対するシェル材の付着率を97質量%以上とした。その結果、トナーコアの凝集が抑制された。
また、第一の反応の後、第二の反応温度までフラスコ内容物の温度を上げてトナーコアに付着したシェル材を硬化させた。そして、シェル材の硬化により、トナーコアの表面にシェル層が均一に形成された。その結果、耐熱保存性及び低温定着性のいずれにも優れているトナーが得られた。
また、調製例4のトナーの調製方法は、第二ステップ(第一の反応)を含まなかった。調製例4のトナーの調製方法では、トナーコアにシェル材が十分に付着する前にトナーコアの凝集が生じた。その結果、凝集率(保存性)が50質量%であった。調製例4のトナーの調製方法によっては、耐熱保存性に優れるトナーが得られなかった。
また、調製例5のトナーの調製方法においては、トナーコアにシェル材を付着させる第一の反応温度が、トナーコアのガラス転移点より高かった。調製例5のトナーの調製方法では、シェル層を形成する際にトナーコアの凝集が生じた。その結果、凝集率(保存性)が60質量%であった。調製例5のトナーの調製方法によっては、耐熱保存性に優れるトナーが得られなかった。
調製例1〜3のトナーの調製方法においては、トナーコアにシェル材を付着させる際の温度(第一の反応温度)が、トナーコアのガラス転移点よりも15℃低い温度以上であり、且つ、トナーコアのガラス転移点よりも5℃低い温度以下であった。
調製例1〜3のトナーの調製方法においては、第三ステップで、昇温と触媒の添加との両方により、トナーコアの表面に付着したシェル材(シェル層の材料)を硬化させた。
以上、図1及び図2を参照して、本発明の実施形態に係るトナーの製造方法について説明した。本発明は上記実施例には限定されない。
トナーの製造方法が、第一の反応温度がトナーコアのガラス転移点よりも低いこと、第一の反応温度でトナーコアにシェル材を付着させること、及び付着したシェル材を硬化させることを含む場合には、耐熱保存性及び低温定着性(ひいては、機械的なストレス耐性及び耐熱性)のいずれにも優れるトナーを製造することが容易になると考えられる。