本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、粉体(より具体的には、トナーコア、トナー母粒子、外添剤、又はトナー等)に関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、粉体から平均的な粒子を相当数選び取って、それら平均的な粒子の各々について測定した値の個数平均である。
粉体の個数平均粒子径は、何ら規定していなければ、顕微鏡を用いて測定された1次粒子の円相当径(粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。また、粉体の体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA−750」)を用いて測定した値である。また、ガラス転移点(Tg)は、何ら規定していなければ、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて測定した値である。また、軟化点(Tm)は、何ら規定していなければ、高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)を用いて測定した値である。また、酸価及び水酸基価の各々の測定値は、何ら規定していなければ、「JIS(日本工業規格)K0070−1992」に従って測定した値である。また、数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)の各々の測定値は、何ら規定していなければ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。
帯電性の強さは、何ら規定していなければ、摩擦帯電し易さに相当する。例えばトナーは、日本画像学会から提供される標準キャリア(アニオン性:N−01、カチオン性:P−01)と混ぜて攪拌することで、摩擦帯電させることができる。摩擦帯電させる前と後とでそれぞれ、例えばKFM(ケルビンプローブフォース顕微鏡)でトナー粒子の表面電位を測定し、摩擦帯電の前後での電位の変化が大きい部位ほど帯電性が強いことになる。
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。また、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルを包括的に「(メタ)アクリロニトリル」と総称する場合がある。また、アクリロイル(CH2=CH−CO−)及びメタクリロイル(CH2=C(CH3)−CO−)を包括的に「(メタ)アクリロイル」と総称する場合がある。また、イオン化して塩を形成し得る官能基及びその塩を包括的に「親水性官能基」と総称する場合がある。親水性官能基の例としては、酸基(より具体的には、カルボキシル基又はスルホ基等)、水酸基、又はこれらの塩(より具体的には、−COONa、−SO3Na、又は−ONa等)が挙げられる。各化学式中の繰返し単位の添え字「n」は、各々独立して、その繰返し単位の繰返し数(モル数)を示している。何ら規定していなければ、n(繰返し数)は任意である。
本実施形態に係るトナーは、静電潜像の現像に好適に用いることができる。本実施形態のトナーは、複数のトナー粒子(それぞれ後述する構成を有する粒子)を含む粉体である。トナーは、1成分現像剤として使用してもよい。また、混合装置(例えば、ボールミル)を用いてトナーとキャリアとを混合して2成分現像剤を調製してもよい。高画質の画像を形成するためには、キャリアとしてフェライトキャリアを使用することが好ましい。また、長期にわたって高画質の画像を形成するためには、キャリアコアと、キャリアコアを被覆する樹脂層とを備える磁性キャリア粒子を使用することが好ましい。磁性キャリア粒子を作製するためには、磁性材料(例えば、フェライト)でキャリアコアを形成してもよいし、磁性粒子を分散させた樹脂でキャリアコアを形成してもよい。また、キャリアコアを被覆する樹脂層中に磁性粒子を分散させてもよい。高画質の画像を形成するためには、2成分現像剤におけるトナーの量は、キャリア100質量部に対して、5質量部以上15質量部以下であることが好ましい。なお、正帯電性トナーは、キャリアとの摩擦により正に帯電する。また、負帯電性トナーは、キャリアとの摩擦により負に帯電する。
本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、コア(以下、トナーコアと記載する)と、トナーコアの表面を覆うシェル層(カプセル層)とを備える。例えば、低温で溶融するトナーコアを、耐熱性に優れるシェル層で覆うことで、トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図ることが可能になる。シェル層の表面(又は、シェル層で覆われていないトナーコアの表面領域)に外添剤が付着していてもよい。また、トナーコアの表面に複数のシェル層が積層されてもよい。なお、必要がなければ外添剤を割愛してもよい。以下、外添剤が付着する前のトナー粒子を、トナー母粒子と記載する。また、トナーコアを形成するための材料を、トナーコア材料と記載する。また、シェル層を形成するための材料を、シェル材料と記載する。
本実施形態に係るトナーは、例えば電子写真装置(画像形成装置)において画像の形成に用いることができる。以下、電子写真装置による画像形成方法の一例について説明する。
まず、画像データに基づいて感光体(例えば、アモルファスシリコン(a−Si)感光体ドラムの表層部)に静電潜像を形成する。次に、形成された静電潜像を、トナーを含む現像剤を用いて現像する。現像工程では、感光体の近傍に配置された現像スリーブ(例えば、現像装置内の現像ローラーの表層部)上のトナー(例えば、キャリア又はブレードとの摩擦により帯電したトナー)を感光体の静電潜像に付着させて、感光体上にトナー像を形成する。そして、続く転写工程では、感光体上のトナー像を中間転写体(例えば、転写ベルト)に転写した後、さらに中間転写体上のトナー像を記録媒体(例えば、紙)に転写する。その後、トナーを加熱して、記録媒体にトナーを定着させる。その結果、記録媒体に画像が形成される。例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4色のトナー像を重ね合わせることで、フルカラー画像を形成することができる。
本実施形態に係るトナーは、次に示す構成(以下、基本構成と記載する)を有する静電潜像現像用トナーである。
(トナーの基本構成)
静電潜像現像用トナーが、トナーコアとシェル層とを備えるトナー粒子を複数含む。シェル層は、樹脂膜と、それぞれ樹脂膜よりも強い帯電性を有する複数の樹脂粒子とを含む。樹脂膜は、樹脂粒子よりも強い疎水性を有する。トナー粒子の表面を顕微鏡で撮影した像において、トナー粒子を8等分するように引いた4本の直線の各々におけるトナーコアとシェル層との界面発生頻度の平均値(以下、「コア/シェル頻度」と記載する場合がある)は、2.2×106個/m以上6.4×106個/m以下である。なお、コア/シェル頻度の測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はその代替方法である。
コア/シェル頻度は、トナー粒子の表面を顕微鏡で撮影した像(以下、表面撮影像と記載する場合がある)に基づいて測定される。例えば図1に示すように、表面撮影像上に、トナー粒子を8等分するような4本の直線L1、L2、L3、及びL4を引く。図1の表面撮影像は、SEM撮影像である。直線L1〜L4の各々について、直線全体のうち、トナー粒子の表面(両端)で区画される線分(トナー粒子上の線分)が、測定範囲となる。線分上に存在する界面(詳しくは、トナーコアとシェル層との界面)の数を、線分の長さで除することで、界面発生頻度(単位長さあたりの界面の数)が得られる。1つのトナー粒子上に引いた4本の直線L1〜L4の各々について得られた4つの測定値(それぞれ界面発生頻度)の算術平均値が、そのトナー粒子のコア/シェル頻度に相当する。トナーコアとシェル層との界面は、例えば、トナーコア及びシェル層のうち、シェル層のみを選択的に染色することで、確認できる。
コア/シェル頻度は、外添処理前に測定してもよいし、外添処理後に測定してもよい。外添処理されたトナー粒子のコア/シェル頻度を測定する場合には、外添剤がある領域を避けてコア/シェル頻度を測定してもよいし、トナー母粒子に付着した外添剤を除去してからコア/シェル頻度を測定してもよい。外添剤を除去する場合には、溶剤(例えば、アルカリ溶液)を用いて外添剤を溶解させて除去してもよいし、超音波洗浄機を用いてトナー粒子から外添剤を取り除いてもよい。
シェル層に含まれる樹脂膜は、粒状感のない膜であってもよいし、粒状感のある膜であってもよい。樹脂膜を形成するための材料として樹脂粒子を使用した場合、材料(樹脂粒子)が完全に溶けて膜状の形態で硬化すれば、樹脂膜として、粒状感のない膜が形成されると考えられる。他方、材料(樹脂粒子)が完全に溶けずに膜状の形態で硬化すれば、樹脂膜として、樹脂粒子が2次元的に連なった形態を有する膜(粒状感のある膜)が形成されると考えられる。シェル層に含まれる樹脂粒子の形状は、球形状であってもよいし、楕円状(又は、扁平状)であってもよい。シェル層中の樹脂膜全部が一体的に形成されるとは限らない。シェル層中の樹脂膜は、単一の膜であってもよいし、互いに離間して存在する複数の膜(島)の集合体であってもよい。
上記基本構成を有するトナーは、常温常湿環境下でも高温高湿環境下でも、十分な帯電量まで帯電させ易い。詳しくは、上記基本構成を有するトナーでは、シェル層が、強い帯電性を有する樹脂粒子を複数含むことで、トナーに十分な帯電性を付与することが可能になる。また、上記基本構成を有するトナーでは、シェル層が、樹脂粒子よりも強い疎水性を有する樹脂膜を含むことで、高温高湿環境下でのトナー粒子の表面に対する水分子の吸着を抑制することが可能になる。トナー粒子の表面に水分子が吸着しにくくなることで、高温高湿環境下でのトナー粒子の帯電量の減衰が抑制されると考えられる。また、トナーを高温高湿環境下に長時間放置した後でも、十分なトナーの帯電性を確保し易くなる。十分な帯電性を有するトナーを用いて画像を形成することで、高画質の画像(例えば、かぶり濃度の低い画像)を形成することが可能になる。
トナーコアの表面領域の比較的広い範囲を樹脂膜が覆うことで、十分なトナーの耐熱保存性及び外添剤保持性を確保し易くなる。また、上記基本構成を有するトナーでは、コア/シェル頻度が2.2×106個/m以上6.4×106個/m以下である。こうしたトナーが、耐熱保存性及び低温定着性に優れ、かつ、高い転写効率で画像を形成できることを、発明者が見出した。コア/シェル頻度が低過ぎると、シェル層(主に、樹脂膜)を構成する片(以下、シェル片と記載する)1つあたりの大きさが大きくなり過ぎて、トナーの低温定着性が不十分になる傾向がある。また、コア/シェル頻度が低過ぎると、シェル片の数が少な過ぎて、十分なトナーの耐付着性を確保しにくくなる傾向がある。トナーの付着性が高過ぎると、転写工程において、感光体上のトナー像が中間転写体又は記録媒体に適切に転写されない確率が高くなる。他方、コア/シェル頻度が高過ぎると、シェル片1つあたりの大きさが小さくなり過ぎて、十分なトナーの耐熱保存性を確保しにくくなる傾向がある。
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、前述の基本構成を有するトナーが、次に示す構成(以下、第1の好適なシェル構成と記載する)をさらに有することが好ましい。
(第1の好適なシェル構成)
樹脂粒子を構成する樹脂と、樹脂膜を構成する樹脂との、Small法により算出される平均SP値の差が、絶対値で0.5(cal/cm3)1/2以上3.0(cal/cm3)1/2以下である。樹脂粒子を構成する樹脂と、樹脂膜を構成する樹脂とはそれぞれ、1種以上の主モノマー(詳しくは、モル分率30モル%以上のモノマー)と1種以上の他のモノマーとの共重合体である。樹脂粒子の他のモノマーと、樹脂膜の他のモノマーとには、共通モノマーが1種以上含まれる。
上記第1の好適なシェル構成において、共通モノマーは、樹脂粒子の他のモノマーと樹脂膜の他のモノマーとに共通して含まれる同種のモノマーに相当する。モノマーの種類は、CAS登録番号等によって分けられる。同種のモノマーは、同一の化学式で表すことができる。
上記第1の好適なシェル構成において、平均SP値は、樹脂のモノマー組成(種類及び割合)に基づいてSmall法で算出される平均的なSP値(溶解度パラメーター)である。Small法の詳細は、例えば下記文献Aに記載されている。
文献A:P.A.Small,「Journal of Applied Chemistry」,1953年,第3巻,p71−80
以下、上記第1の好適なシェル構成の作用及び効果について、推定されるメカニズムを記述する。
上記第1の好適なシェル構成では、樹脂粒子を構成する樹脂と、樹脂膜を構成する樹脂とがそれぞれ、1種以上の主モノマー(モル分率30モル%以上のモノマー)と1種以上の他のモノマー(モル分率30モル%未満のモノマー)との共重合体である。樹脂粒子及び樹脂膜を形成する場合、所定のモル比で主モノマーと他のモノマーとを混ぜて反応させても、反応が進むにつれてモル比に偏りが生じる傾向がある。このため、樹脂粒子及び樹脂膜の各々は、部分的に特定モノマーのモル分率が高くなるなど、不均一に形成されることが多い。この理由は、モノマーの組合せによって反応性及び相溶性が異なるためであると考えられる。特に、ラジカル重合による樹脂の合成では、合成された樹脂が不均一な構造を有し易い。
樹脂粒子及び樹脂膜の各々が上記不均一な構造を有する場合、樹脂中には、主モノマーの含有率が高い領域(以下、主領域と記載する)と、共通モノマーの含有率が高い領域(以下、共通領域と記載する)とが存在すると考えられる。そして、樹脂粒子と樹脂膜との境界では、主領域同士、共通領域同士、主領域と共通領域とが、それぞれ接触していると考えられる。モノマーの含有量(共重合体におけるモル分率)の違いから、共通領域同士が接触する面積よりも、主領域同士が接触する面積のほうが、大きくなると考えられる。
上記第1の好適なシェル構成においては、樹脂粒子の平均SP値と樹脂膜の平均SP値とが、互いに0.5(cal/cm3)1/2以上離れている。このため、主領域同士の結合は比較的弱いと考えられる。ただし、樹脂粒子の平均SP値と樹脂膜の平均SP値との差は3.0(cal/cm3)1/2以下である。このため、シェル層は、ある程度の強度(安定性)を有すると考えられる。一方、樹脂粒子の共通領域と樹脂膜の共通領域とは、互いに近い性質を有する(SP値等が略等しい)。このため、共通領域同士は、強く結合すると考えられる。樹脂粒子と樹脂膜との境界において、主領域同士だけでなく共通領域同士も結合していることで、十分なトナーの耐熱保存性を確保することが可能になると考えられる。ただし、共通領域同士の接触面積は比較的小さい。このため、トナーを記録媒体(例えば、紙)に定着させるための加熱及び圧力によって、それら共通領域は容易に分離すると考えられる。このため、上記基本構成を有するトナーは低温定着性に優れると考えられる。
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、樹脂粒子を構成する共重合体と、樹脂膜を構成する共重合体とがそれぞれ、共通モノマーに由来する繰返し単位として、アクリル酸エチルに由来する繰返し単位、又はアクリル酸ブチルに由来する繰返し単位を含むことが好ましい。アクリル酸エチルの単独重合体とアクリル酸ブチルの単独重合体とはそれぞれ、比較的低いガラス転移点(Tg)を有する。
常温常湿環境下でも高温高湿環境下でもトナーが十分な帯電性を有するためには、前述の基本構成を有するトナーが、次に示す構成(以下、第2の好適なシェル構成と記載する)をさらに有することが好ましい。
(第2の好適なシェル構成)
シェル層の表面が、海状領域と、海状領域に対して島状に分布する複数の島状領域とを有する。樹脂膜のうちシェル層の表面に露出する部分が海状領域を構成する。樹脂粒子のうち樹脂膜から露出する部分が島状領域を構成する。
以下、図2〜図4を参照して、上記第2の好適なシェル構成を有するトナーに含まれるトナー粒子の一例について説明する。なお、図2は、上記第2の好適なシェル構成を有するトナーに含まれるトナー粒子(特に、トナー母粒子)の断面構造の一例を示す図である。図3は、図2に示されるトナーコアとシェル層との境界部を拡大して示す図である。図4は、上記第2の好適なシェル構成を有するトナーに含まれるトナー粒子(特に、トナー母粒子)の表面(平面構造)の一例を示す図である。
図2に示されるトナー母粒子10は、トナーコア11と、トナーコア11の表面に形成されたシェル層12とを備える。シェル層12は、トナーコア11の表面を部分的に覆っている。
図3に示すように、シェル層12は、複数の樹脂粒子12aと、樹脂膜12bとを含む。複数の樹脂粒子12aはそれぞれ、樹脂膜12bよりも疎水性が弱くて(親水性が強くて)、かつ、樹脂膜12bよりも帯電性が強い。シェル層12の表面は海島構造を有する。樹脂膜12bは、接着剤(詳しくは、反応型接着剤)として機能し、硬化によりトナーコア11と樹脂粒子12aとを接着させている。
シェル層12は、図4に示すように、その表面に、複数の島状領域R1(点状領域)と、海状領域R2(面状領域)とを有する。図3に示される樹脂膜12bのうちシェル層12の表面に露出する部分が海状領域R2を構成する。図3に示される樹脂粒子12aのうち樹脂膜12bから露出する部分が島状領域R1を構成する。複数の島状領域R1はそれぞれ、海状領域R2よりも強い帯電性を有する。海状領域R2は、島状領域R1よりも強い疎水性を有する。海状領域R2の数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。図4の例では、島状領域R1がシェル層12の表面に散在している。島状領域R1は、海状領域R2に囲まれている。
十分な正帯電性を有する樹脂粒子を容易に形成するためには、その樹脂粒子を構成する樹脂が、窒素を含有しない1種以上のビニル化合物と、1種以上の窒素含有ビニル化合物とを含む単量体の重合体であることが好ましい。ビニル化合物は、ビニル基(CH2=CH−)、又はビニル基中の水素が置換された基を有する化合物(より具体的には、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、アクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、又はスチレン等)である。ビニル化合物は、上記ビニル基等に含まれる炭素二重結合「C=C」により付加重合して、高分子(樹脂)になり得る。
正帯電性トナーにおいてシェル層中の樹脂粒子が十分な正帯電性を有するためには、その樹脂粒子を構成する樹脂が、例えば、窒素含有ビニル化合物(より具体的には、4級アンモニウム化合物等)に由来する繰返し単位を含むことが好ましく、下記式(1)で表される繰返し単位又はその塩を含むことが特に好ましい。
式(1)中、R11及びR12は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。また、R21、R22、及びR23は、各々独立して、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又は置換基を有してもよいアルコキシ基を表す。また、R2は、置換基を有してもよいアルキレン基を表す。R11及びR12としては、各々独立して、水素原子又はメチル基が好ましく、R11が水素原子を表し、かつ、R12が水素原子又はメチル基を表す組合せが特に好ましい。また、R21、R22、及びR23としては、各々独立して、炭素数1以上8以下のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、又はiso−ブチル基が特に好ましい。R2としては、炭素数1以上6以下のアルキレン基が好ましく、メチレン基又はエチレン基が特に好ましい。なお、2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライドに由来する繰返し単位では、R11が水素原子を、R12がメチル基を、R2がエチレン基を、R21〜R23の各々がメチル基を、それぞれ表し、4級アンモニウムカチオン(N+)が塩素(Cl)とイオン結合して塩を形成している。
負帯電性トナーにおいてシェル層中の樹脂粒子が十分な負帯電性を有するためには、その樹脂粒子を構成する樹脂が、スルホ基(−SO3H)及び/又はその塩を有する繰返し単位を含むことが好ましく、下記式(2)で表される繰返し単位を含むことが特に好ましい。
式(2)中、R31〜R37のうち、少なくとも1つが、スルホ基又はその塩を表し、それ以外は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルコキシアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を表す。なお、p−スチレンスルホン酸ナトリウムに由来する繰返し単位では、R33がスルホ基のナトリウム塩(−SO3Na)を表し、それ以外(R31、R32、及びR34〜R37)はそれぞれ、水素原子を表す。
シェル層中の樹脂粒子が十分強い帯電性と適度な強度とを有するためには、その樹脂粒子を構成する樹脂が、上記窒素含有ビニル化合物に由来する繰返し単位、又は上記スルホ基(−SO3H)もしくはその塩を有する繰返し単位に加えて、(メタ)アクリル酸エステル(より具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、又は(メタ)アクリル酸ブチル等)に由来する繰返し単位を含むことが好ましい。
シェル層中の樹脂粒子を構成する樹脂は、酸基、水酸基、及びこれらの塩の少なくとも1つを有する繰返し単位を含んでもよい。こうした繰返し単位を含む樹脂は、比較的強い親水性を有し易い。トナーが前述の基本構成を有する場合、シェル層中の樹脂粒子が比較的強い親水性を有していても、トナーの電荷減衰を十分抑制することができる。樹脂膜が、樹脂粒子よりも強い疎水性を有するからである。
シェル層中の樹脂膜を構成する樹脂は、例えば、スチレン系モノマーに由来する繰返し単位を含むことが好ましく、下記式(3)で表される繰返し単位を含むことが特に好ましい。
式(3)中、R41〜R45は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルコキシアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を表す。また、R46及びR47は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。R41〜R45としては、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基、又は炭素数(詳しくは、アルコキシとアルキルとの合計炭素数)2以上6以下のアルコキシアルキル基が好ましい。R46及びR47としては、各々独立して、水素原子又はメチル基が好ましく、R47が水素原子を表し、かつ、R46が水素原子又はメチル基を表す組合せが特に好ましい。なお、スチレンに由来する繰返し単位では、R41〜R47の各々が水素原子を表す。
シェル層中の樹脂膜が十分強い疎水性と適度な強度とを有するためには、その樹脂膜を構成する樹脂に含まれる繰返し単位のうち最も高いモル分率を有する繰返し単位が、スチレン系モノマーに由来する繰返し単位(より好ましくは、式(3)で表される繰返し単位)であることが好ましい。
シェル層中の樹脂膜の膜質を改善するためには、その樹脂膜を構成する樹脂が、アルコール性水酸基を有する1種以上の繰返し単位を含むことが好ましく、下記式(4)で表される繰返し単位を含むことが特に好ましい。
式(4)中、R51及びR52は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。また、R6は、置換基を有してもよいアルキレン基を表す。R51及びR52としては、各々独立して、水素原子又はメチル基が好ましく、R51が水素原子を表し、かつ、R52が水素原子又はメチル基を表す組合せが特に好ましい。R6としては、炭素数1以上6以下のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキレン基がより好ましい。なお、メタクリル酸2−ヒドロキシブチルに由来する繰返し単位では、R51が水素原子を、R52がメチル基を、R6がブチレン基(−CH2CH(C2H5)−)を、それぞれ表す。
シェル層中の樹脂膜の膜質を改善しつつ、空気中の水分がその樹脂膜の表面に吸着することを十分抑制するためには、その樹脂膜を構成する樹脂が、アルコール性水酸基を有する繰返し単位以外には、酸基、水酸基、及びこれらの塩の少なくとも1つを有する繰返し単位を含まないことが好ましい。
空気中の水分が樹脂膜の表面に吸着することを十分抑制するためには、その樹脂膜を構成する樹脂に含まれる全ての繰返し単位のうち、親水性官能基を有する繰返し単位の割合が、10質量%以下であることが好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、樹脂膜の厚さは1nm以上30nm以下であることが好ましい。樹脂膜の厚さは、市販の画像解析ソフトウェア(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いてトナー粒子の断面のTEM撮影像を解析することによって計測できる。なお、1つのトナー粒子において樹脂膜の厚さが均一でない場合には、均等に離間した4箇所(詳しくは、トナー粒子の断面の略中心で直交する2本の直線を引き、それら2本の直線が樹脂膜と交差する4箇所)の各々で樹脂膜の厚さを測定し、得られた4つの測定値の算術平均を、そのトナー粒子の評価値(樹脂膜の厚さ)とする。
トナーの体積中位径(D50)が3μm以上10μm未満である場合、常温常湿環境下でも高温高湿環境下でもトナーが十分な帯電性を有するためには、シェル層中の樹脂粒子(詳しくは、前述の基本構成で規定される樹脂粒子)の半数以上(より好ましくは、80個数%以上)が、30nm以上60nm以下の粒子径(円相当径)を有することが好ましい。
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、シェル層が、トナーコアの表面全域のうち、50%以上85%以下の面積を覆っていることがより好ましい。
トナーコア材料及びシェル材料として適した樹脂は、以下のとおりである。
<好適な熱可塑性樹脂>
トナー粒子(特に、トナーコア及びシェル層)を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル酸系樹脂(より具体的には、アクリル酸エステル重合体又はメタクリル酸エステル重合体等)、オレフィン系樹脂(より具体的には、ポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂等)、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ビニルエーテル樹脂、N−ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、又はウレタン樹脂が好ましい。また、これら各樹脂の共重合体、すなわち上記樹脂中に任意の繰返し単位が導入された共重合体(より具体的には、スチレン−アクリル酸系樹脂又はスチレン−ブタジエン系樹脂等)も、トナー粒子を構成する熱可塑性樹脂として好ましい。
熱可塑性樹脂は、1種以上の熱可塑性モノマーを、付加重合、共重合、又は縮重合させることで得られる。なお、熱可塑性モノマーは、単独重合により熱可塑性樹脂になるモノマー(より具体的には、アクリル酸系モノマー又はスチレン系モノマー等)、又は縮重合により熱可塑性樹脂になるモノマー(例えば、縮重合によりポリエステル樹脂になる多価アルコール及び多価カルボン酸の組合せ)である。
スチレン−アクリル酸系樹脂は、1種以上のスチレン系モノマーと1種以上のアクリル酸系モノマーとの共重合体である。スチレン−アクリル酸系樹脂を合成するためには、例えば以下に示すような、スチレン系モノマー及びアクリル酸系モノマーを好適に使用できる。
スチレン系モノマーの好適な例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、ビニルトルエン、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、又はp−エチルスチレンが挙げられる。
アクリル酸系モノマーの好適な例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの好適な例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、又は(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが挙げられる。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの好適な例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、又は(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルが挙げられる。
ポリエステル樹脂は、1種以上の多価アルコールと1種以上の多価カルボン酸とを縮重合させることで得られる。ポリエステル樹脂を合成するためのアルコールとしては、例えば以下に示すような、2価アルコール(より具体的には、ジオール類又はビスフェノール類等)又は3価以上のアルコールを好適に使用できる。ポリエステル樹脂を合成するためのカルボン酸としては、例えば以下に示すような、2価カルボン酸又は3価以上のカルボン酸を好適に使用できる。
ジオール類の好適な例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
ビスフェノール類の好適な例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
3価以上のアルコールの好適な例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
2価カルボン酸の好適な例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸(より具体的には、n−ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、又はイソドデシルコハク酸等)、又はアルケニルコハク酸(より具体的には、n−ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、又はイソドデセニルコハク酸等)が挙げられる。
3価以上のカルボン酸の好適な例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が挙げられる。
次に、トナーコア(結着樹脂及び内添剤)、シェル層、及び外添剤について、順に説明する。トナーの用途に応じて必要のない成分を割愛してもよい。
[トナーコア]
トナーコアは、結着樹脂を含有する。また、トナーコアは、内添剤(例えば、着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉)を含有してもよい。
(結着樹脂)
トナーコアでは、一般的に、成分の大部分(例えば、85質量%以上)を結着樹脂が占める。このため、結着樹脂の性質がトナーコア全体の性質に大きな影響を与えると考えられる。結着樹脂として複数種の樹脂を組み合わせて使用することで、結着樹脂の性質(より具体的には、水酸基価、酸価、Tg、又はTm等)を調整することができる。結着樹脂がエステル基、水酸基、エーテル基、酸基、又はメチル基を有する場合には、トナーコアはアニオン性になる傾向が強くなり、結着樹脂がアミノ基又はアミド基を有する場合には、トナーコアはカチオン性になる傾向が強くなる。
トナーの低温定着性を向上させるためには、結着樹脂のTgが、シェル層を構成する樹脂(シェル層が複数種の樹脂を含有する場合には、最も多い樹脂)のTgよりも低いことが好ましい。高速定着に耐え得る十分なトナーの定着性を確保するためには、結着樹脂のTgが20℃以上55℃以下であることが好ましい。また、高速定着に耐え得る十分なトナーの定着性を確保するためには、結着樹脂の軟化点(Tm)が105℃以下であることが好ましい。
トナーコアの結着樹脂としては、熱可塑性樹脂(より具体的には、前述の「好適な熱可塑性樹脂」等)が好ましい。トナーコア中の着色剤の分散性、トナーの帯電性、及び記録媒体に対するトナーの定着性を向上させるためには、結着樹脂としてスチレン−アクリル酸系樹脂又はポリエステル樹脂を用いることが特に好ましい。
トナーコアの結着樹脂がスチレン−アクリル酸系樹脂である場合、トナーコアの強度及びトナーの定着性を向上させるためには、スチレン−アクリル酸系樹脂の数平均分子量(Mn)が2000以上3000以下であることが好ましい。スチレン−アクリル酸系樹脂の分子量分布(数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比率Mw/Mn)は10以上20以下であることが好ましい。スチレン−アクリル酸系樹脂のMnとMwの測定には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いることができる。
トナーコアの結着樹脂がポリエステル樹脂である場合、トナーコアの強度及びトナーの定着性を向上させるためには、ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が1000以上2000以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂の分子量分布(数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比率Mw/Mn)は9以上21以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂のMnとMwの測定には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いることができる。
(着色剤)
トナーコアは、着色剤を含有してもよい。着色剤としては、トナーの色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。着色剤の量は、結着樹脂100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
トナーコアは、黒色着色剤を含有してもよい。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。また、黒色着色剤は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤であってもよい。
トナーコアは、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、又はシアン着色剤のようなカラー着色剤を含有してもよい。
イエロー着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリールアミド化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、又は194)、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、又はC.I.バットイエローを好適に使用できる。
マゼンタ着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。マゼンタ着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、又は254)を好適に使用できる。
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。シアン着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、又は66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、又はC.I.アシッドブルーを好適に使用できる。
(離型剤)
トナーコアは、離型剤を含有してもよい。離型剤は、例えば、トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させる目的で使用される。トナーコアのアニオン性を強めるためには、アニオン性を有するワックスを用いてトナーコアを作製することが好ましい。トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させるためには、離型剤の量は、結着樹脂100質量部に対して1質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
離型剤としては、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、又はフィッシャートロプシュワックスのような脂肪族炭化水素ワックス;酸化ポリエチレンワックス又はそのブロック共重合体のような脂肪族炭化水素ワックスの酸化物;キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう、又はライスワックスのような植物性ワックス;みつろう、ラノリン、又は鯨ろうのような動物性ワックス;オゾケライト、セレシン、又はペトロラタムのような鉱物ワックス;モンタン酸エステルワックス又はカスターワックスのような脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスのような、脂肪酸エステルの一部又は全部が脱酸化したワックスを好適に使用できる。1種類の離型剤を単独で使用してもよいし、複数種の離型剤を併用してもよい。
結着樹脂と離型剤との相溶性を改善するために、相溶化剤をトナーコアに添加してもよい。
(電荷制御剤)
トナーコアは、電荷制御剤を含有してもよい。電荷制御剤は、例えば、トナーの帯電安定性又は帯電立ち上がり特性を向上させる目的で使用される。トナーの帯電立ち上がり特性は、短時間で所定の帯電レベルにトナーを帯電可能か否かの指標になる。
トナーコアに負帯電性の電荷制御剤(より具体的には、有機金属錯体又はキレート化合物等)を含有させることで、トナーコアのアニオン性を強めることができる。また、トナーコアに正帯電性の電荷制御剤(より具体的には、ピリジン、ニグロシン、又は4級アンモニウム塩等)を含有させることで、トナーコアのカチオン性を強めることができる。ただし、トナーにおいて十分な帯電性が確保される場合には、トナーコアに電荷制御剤を含有させる必要はない。
(磁性粉)
トナーコアは、磁性粉を含有してもよい。磁性粉の材料としては、例えば、強磁性金属(より具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、又はこれら金属の1種以上を含む合金等)、強磁性金属酸化物(より具体的には、フェライト、マグネタイト、又は二酸化クロム等)、又は強磁性化処理が施された材料(より具体的には、熱処理により強磁性が付与された炭素材料等)を好適に使用できる。1種類の磁性粉を単独で使用してもよいし、複数種の磁性粉を併用してもよい。また、磁性粉からの金属イオン(例えば、鉄イオン)の溶出を抑制するためには、磁性粉を表面処理することが好ましい。
[シェル層]
前述の基本構成を有するトナーでは、シェル層が、樹脂膜と、複数の樹脂粒子とを含む。複数の樹脂粒子はそれぞれ、樹脂膜よりも強い帯電性を有する。また、樹脂膜の疎水性は、それら樹脂粒子の各々の疎水性よりも強い。
(樹脂膜)
シェル層中の樹脂膜を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂(より具体的には、前述の「好適な熱可塑性樹脂」等)が好ましく、1種以上のスチレン系モノマーと1種以上のアクリル酸系モノマーとの共重合体が特に好ましい。スチレン−アクリル酸系樹脂は、ポリエステル樹脂と比べて、疎水性が強い傾向がある。樹脂膜を構成する樹脂の好適な例としては、スチレンと(メタ)アクリル酸ブチルとの共重合体;スチレンと(メタ)アクリル酸ブチルと(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとの共重合体;スチレンと(メタ)アクリル酸ブチルとアクリロニトリルとの共重合体が挙げられる。
(樹脂粒子)
シェル層中の樹脂粒子を構成する樹脂としては、樹脂に帯電性を付与するための繰返し単位(例えば、窒素含有ビニル化合物に由来する繰返し単位、又はスルホ基(−SO3H)もしくはその塩を有する繰返し単位)を組み込んだ熱可塑性樹脂(より具体的には、前述の「好適な熱可塑性樹脂」等)が好ましい。以下、樹脂に帯電性を付与するための繰返し単位を、帯電性単位と記載する。
帯電性単位が組み込まれる熱可塑性樹脂の好適な例としては、アクリル酸系樹脂(より具体的には、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体等)、又はスチレン−アクリル酸系樹脂(より具体的には、スチレンとメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体等)が挙げられる。
樹脂中に帯電性単位を導入するためのモノマー(窒素含有ビニル化合物及びスルホン酸化合物)の好適な例を以下に示す。なお、必要に応じて、以下に示される各化合物の誘導体を使用してもよい。
窒素含有ビニル化合物としては、例えば、ベンジルデシルヘキシルメチルアンモニウム塩、デシルトリメチルアンモニウム塩、又は(メタ)アクリロイル基含有4級アンモニウム塩のような4級アンモニウム化合物が好ましい。(メタ)アクリロイル基含有4級アンモニウム塩の例としては、(メタ)アクリルアミドアルキルトリメチルアンモニウム塩(より具体的には、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド等)、又は(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメチルアンモニウム塩(より具体的には、2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド等)が挙げられる。
スルホン酸化合物としては、例えば、スチレンスルホン酸又はその塩が好ましい。
[外添剤]
トナー母粒子の表面に外添剤を付着させてもよい。例えば、トナー母粒子と外添剤とを一緒に攪拌することで、物理的な力でトナー母粒子の表面に外添剤が付着(物理的結合)する。外添剤は、例えばトナーの流動性又は取扱性を向上させるために使用される。トナーの流動性又は取扱性を向上させるためには、外添剤の量は、トナー母粒子100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましい。また、トナーの流動性又は取扱性を向上させるためには、外添剤の粒子径は0.01μm以上1.0μm以下であることが好ましい。
外添剤としては、無機粒子が好ましく、シリカ粒子、又は金属酸化物(より具体的には、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウム等)の粒子が特に好ましい。ただし、外添剤として、樹脂粒子を使用してもよい。1種類の外添剤を単独で使用してもよいし、複数種の外添剤を併用してもよい。
[トナーの製造方法]
以下、前述の基本構成を有するトナーを製造する方法の一例について説明する。まず、トナーコアを準備する。続けて、液に、トナーコアと、シェル材料とを入れる。続けて、液中でシェル材料を反応させて、トナーコアの表面にシェル層を形成する。コア/シェル頻度は、シェル層の形成条件を変えることで、調整できる。
均質なシェル層を形成するためには、シェル材料を含む液を攪拌するなどして、シェル材料を液に溶解又は分散させることが好ましい。また、シェル層形成時におけるトナーコア成分(特に、結着樹脂及び離型剤)の溶解又は溶出を抑制するためには、水性媒体中でシェル層を形成することが好ましい。水性媒体は、水を主成分とする媒体(より具体的には、純水、又は水と極性媒体との混合液等)である。水性媒体は溶媒として機能してもよい。水性媒体中に溶質が溶けていてもよい。水性媒体は分散媒として機能してもよい。水性媒体中に分散質が分散していてもよい。水性媒体中の極性媒体としては、例えば、アルコール(より具体的には、メタノール又はエタノール等)を使用できる。水性媒体の沸点は約100℃である。
以下、より具体的な例に基づいて、トナーの製造方法についてさらに説明する。
(トナーコアの準備)
好適なトナーコアを容易に得るためには、凝集法又は粉砕法によりトナーコアを製造することが好ましく、粉砕法によりトナーコアを製造することがより好ましい。
以下、粉砕法の一例について説明する。まず、結着樹脂と、内添剤(例えば、着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉の少なくとも1つ)とを混合する。続けて、得られた混合物を溶融混練する。続けて、得られた溶融混練物を粉砕及び分級する。その結果、所望の粒子径を有するトナーコアが得られる。
以下、凝集法の一例について説明する。まず、結着樹脂、離型剤、及び着色剤の各々の微粒子を水性媒体中で凝集させて、結着樹脂、離型剤、及び着色剤を含む凝集粒子を得る。続けて、得られた凝集粒子を加熱して、凝集粒子に含まれる成分を合一化させる。その結果、トナーコアの分散液が得られる。その後、トナーコアの分散液から、不要な物質(界面活性剤等)を除去することで、トナーコアが得られる。
(シェル層の形成)
イオン交換水に酸性物質(例えば、塩酸)を加えて、弱酸性(例えば、3以上5以下から選ばれるpH)の水性媒体を調製する。続けて、pHが調整された水性媒体に、トナーコアと、第1樹脂粒子のサスペンション(シェル層を構成する樹脂粒子の材料)と、第2樹脂粒子のサスペンション(シェル層を構成する樹脂膜の材料)とを添加する。第1樹脂粒子は第2樹脂粒子よりも強い帯電性を有する。また、第2樹脂粒子の疎水性は、第1樹脂粒子の疎水性よりも強い。第1樹脂粒子と第2樹脂粒子とは、同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。例えば、第1樹脂粒子及び第2樹脂粒子のいずれか一方を添加して、液中でその樹脂粒子とトナーコアとを、ある程度反応させた後、他方を添加してもよい。シェル層の表面が前述の海島構造(図4参照)を有するためには、第1樹脂粒子の量と第2樹脂粒子の量とを適切な比率にすることが好ましい。第2樹脂粒子のTg(ガラス転移点)が低くなるほど、形成されるシェル層のコア/シェル頻度が低くなる傾向がある。
シェル材料(第1樹脂粒子及び第2樹脂粒子)は、液中でトナーコアの表面に付着する。トナーコアの表面に均一にシェル材料を付着させるためには、シェル材料を含む液中にトナーコアを高度に分散させることが好ましい。液中にトナーコアを高度に分散させるために、液中に界面活性剤を含ませてもよいし、強力な攪拌装置(例えば、プライミクス株式会社製「ハイビスディスパーミックス」)を用いて液を攪拌してもよい。
続けて、上記シェル材料等を含む液を攪拌しながら液の温度を所定の速度(例えば、0.1℃/分以上3℃/分以下から選ばれる速度)で所定の保持温度(例えば、50℃以上85℃以下から選ばれる温度)まで上昇させる。さらに、液を攪拌しながら液の温度を上記保持温度に所定の時間(例えば、30分間以上4時間以下から選ばれる時間)保つ。液の温度を高温に保っている間(又は、昇温中)に、トナーコアとシェル材料との間で反応(シェル層の固定化)が進行すると考えられる。シェル材料がトナーコアと化学的に結合することで、シェル層が形成される。第1樹脂粒子は粒子状のままトナーコアの表面で固定化されると考えられる。第2樹脂粒子は、液中で溶けて、膜状の形態で硬化すると考えられる。シェル層を構成する樹脂膜の硬化により、トナーコアとシェル層(樹脂膜及び樹脂粒子)とが一体化する。トナーコアの表面に形成されたシェル層は、樹脂膜(海状領域)と、樹脂膜(海状領域)に対して島状に分布する樹脂粒子(島状領域)とを含む。液中でトナーコアの表面にシェル層が形成されることで、トナー母粒子の分散液が得られる。
上記のように、液中でトナーコアの表面に第2樹脂粒子を付着させて、液を加熱することで、第2樹脂粒子を溶かして(又は、変形させて)膜化することができる。ただし、乾燥工程で加熱されて、又は外添工程で物理的な衝撃力を受けて、第2樹脂粒子の膜化が進行してもよい。
上記シェル層の形成後、例えば水酸化ナトリウムを用いてトナー母粒子の分散液を中和する。続けて、トナー母粒子の分散液を、例えば常温(約25℃)まで冷却する。続けて、例えばブフナー漏斗を用いて、トナー母粒子の分散液をろ過する。これにより、トナー母粒子が液から分離(固液分離)され、ウェットケーキ状のトナー母粒子が得られる。
続けて、例えば、水中へのトナー母粒子の分散と、得られた分散液のろ過とを繰り返して、トナー母粒子を洗浄する。続けて、洗浄されたトナー母粒子を乾燥する。その後、必要に応じて、混合機(例えば、日本コークス工業株式会社製のFMミキサー)を用いてトナー母粒子と外添剤とを混合して、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させてもよい。なお、乾燥工程でスプレードライヤーを用いる場合には、外添剤(例えば、シリカ粒子)の分散液をトナー母粒子に噴霧することで、乾燥工程と外添工程とを同時に行うことができる。こうして、トナー粒子を多数含むトナーが製造される。
上記トナーの製造方法の内容及び順序はそれぞれ、要求されるトナーの構成又は特性等に応じて任意に変更することができる。例えば、液中で材料(例えば、シェル材料)を反応させる場合、液に材料を添加した後、所定の時間、液中で材料を反応させてもよいし、長時間かけて液に材料を添加して、液に材料を添加しながら液中で材料を反応させてもよい。また、シェル材料を、一度に液に添加してもよいし、複数回に分けて液に添加してもよい。外添工程の後で、トナーを篩別してもよい。また、必要のない工程は割愛してもよい。例えば、市販品をそのまま材料として用いることができる場合には、市販品を用いることで、その材料を調製する工程を割愛できる。また、液のpHを調整しなくても、シェル層を形成するための反応が良好に進行する場合には、pH調整工程を割愛してもよい。また、外添剤が不要であれば、外添工程を割愛してもよい。トナー母粒子の表面に外添剤を付着させない(外添工程を割愛する)場合には、トナー母粒子がトナー粒子に相当する。トナーコア材料及びシェル材料としては、必要に応じて、モノマーに代えてプレポリマーを使用してもよい。また、所定の化合物を得るために、原料として、その化合物の塩、エステル、水和物、又は無水物を使用してもよい。効率的にトナーを製造するためには、多数のトナー粒子を同時に形成することが好ましい。同時に製造されたトナー粒子は、互いに略同一の構成を有すると考えられる。
本発明の実施例について説明する。表1に、実施例又は比較例に係るトナーTA、TB−1〜TB−2、TC−1〜TC−6、TD、TE−1〜TE−3、TF、及びTG−1〜TG−3(それぞれ静電潜像現像用トナー)を示す。
以下、実施例又は比較例に係るトナーTA〜TG−3(それぞれ静電潜像現像用トナー)の製造方法、評価方法、及び評価結果について、順に説明する。なお、誤差が生じる評価においては、誤差が十分小さくなる相当数の測定値を得て、得られた測定値の算術平均を評価値とした。また、粉体の個数平均粒子径の測定には、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた。また、Tg(ガラス転移点)及びTm(軟化点)の測定方法はそれぞれ、何ら規定していなければ、次に示すとおりである。
<Tgの測定方法>
示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて、試料(例えば、樹脂)の吸熱曲線(縦軸:熱流(DSC信号)、横軸:温度)を求めた。続けて、得られた吸熱曲線から試料のTg(ガラス転移点)を読み取った。得られた吸熱曲線中の比熱の変化点(ベースラインの外挿線と立ち下がりラインの外挿線との交点)の温度が、試料のTg(ガラス転移点)に相当する。
<Tmの測定方法>
高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)に試料(例えば、樹脂)をセットし、ダイス細孔径1mm、プランジャー荷重20kg/cm2、昇温速度6℃/分の条件で、1cm3の試料を溶融流出させて、試料のS字カーブ(横軸:温度、縦軸:ストローク)を求めた。続けて、得られたS字カーブから試料のTm(軟化点)を読み取った。得られたS字カーブにおいて、ストロークの最大値をS1とし、低温側のベースラインのストローク値をS2とすると、S字カーブ中のストロークの値が「(S1+S2)/2」となる温度が、試料のTm(軟化点)に相当する。
[トナーコアの作製]
FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−20B」)を用いて、低粘度ポリエステル樹脂(Tg:38℃、Tm:65℃)750gと、中粘度ポリエステル樹脂(Tg:53℃、Tm:84℃)100gと、高粘度ポリエステル樹脂(Tg:71℃、Tm:120℃)150gと、離型剤(株式会社加藤洋行製「カルナウバワックス1号」)55gと、着色剤(DIC株式会社製「KET Blue111」、成分:フタロシアニンブルー)40gとを、回転速度2400rpmで混合した。
続けて、得られた混合物を、材料投入量5kg/時、軸回転速度160rpm、設定温度範囲(シリンダー温度)100℃以上130℃以下の条件で、2軸押出機(株式会社池貝製「PCM−30」)を用いて溶融混練した。その後、得られた溶融混練物を冷却した。
続けて、粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製「ロートプレックス(登録商標)」)を用いて溶融混練物を粗粉砕した。さらに、得られた粗粉砕物を、ジェットミル(日本ニューマチック工業株式会社製「超音波ジェットミルI型」)を用いて微粉砕した。続けて、得られた微粉砕物を、分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェットEJ−LABO型」)を用いて分級した。その結果、体積中位径(D50)6μmのトナーコアが得られた。
[シェル材料の準備]
(サスペンションA−1の調製)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコをウォーターバスにセットし、フラスコ内に、30℃のイオン交換水875mLと、アニオン界面活性剤(花王株式会社製「ラテムル(登録商標)WX」、成分:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、固形分濃度:26質量%)75mLとを入れた。その後、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を80℃に昇温させた後、その温度(80℃)に保った。続けて、80℃のフラスコ内容物に2種類の液(第1の液及び第2の液)をそれぞれ5時間かけて滴下した。第1の液は、スチレン18.0gと、アクリル酸n−ブチル2.0gとの混合液であった。第2の液は、過硫酸カリウム0.5gをイオン交換水30gに溶かした溶液であった。続けて、フラスコ内の温度を80℃にさらに2時間保って、フラスコ内容物を重合させた。その結果、樹脂粒子のサスペンションA−1(固形分濃度:2質量%)が得られた。
(サスペンションA−2の調製)
サスペンションA−2(固形分濃度:2質量%)の調製方法は、第1の液として、スチレン18.0g及びアクリル酸n−ブチル2.0gの混合液の代わりに、スチレン18.0gとアクリル酸n−ブチル2.0gとメタクリル酸2−ヒドロキシエチル0.1gとの混合液を使用した以外は、サスペンションA−1の調製方法と同じであった。
(サスペンションA−3の調製)
サスペンションA−3(固形分濃度:2質量%)の調製方法は、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルの量を0.1gから0.2gに変更した以外は、サスペンションA−2の調製方法と同じであった。
(サスペンションA−4の調製)
サスペンションA−4(固形分濃度:2質量%)の調製方法は、第1の液として、スチレン18.0g及びアクリル酸n−ブチル2.0gの混合液の代わりに、スチレン18.8gとアクリル酸n−ブチル1.2gとメタクリル酸2−ヒドロキシエチル0.2gとの混合液を使用した以外は、サスペンションA−1の調製方法と同じであった。
(サスペンションA−5の調製)
サスペンションA−5(固形分濃度:2質量%)の調製方法は、第1の液として、スチレン18.0g及びアクリル酸n−ブチル2.0gの混合液の代わりに、スチレン17.0gとアクリル酸n−ブチル3.0gとメタクリル酸2−ヒドロキシエチル0.2gとの混合液を使用した以外は、サスペンションA−1の調製方法と同じであった。
(サスペンションA−6の調製)
サスペンションA−6(固形分濃度:2質量%)の調製方法は、第1の液として、スチレン18.0g及びアクリル酸n−ブチル2.0gの混合液の代わりに、スチレン8.0gとアクリル酸n−ブチル2.0gとアクリロニトリル9.0gとの混合液を使用した以外は、サスペンションA−1の調製方法と同じであった。
(サスペンションA−7の調製)
サスペンションA−7(固形分濃度:2質量%)の調製方法は、第1の液として、スチレン18.0g及びアクリル酸n−ブチル2.0gの混合液の代わりに、スチレン9.0gとアクリル酸n−ブチル2.0gとアクリロニトリル8.0gとの混合液を使用した以外は、サスペンションA−1の調製方法と同じであった。
上記のようにして得られたサスペンションA−1〜A−7に関して、樹脂粒子のモノマー組成及び物性を、表2に示す。表2中、「S」はスチレンを、「AN」はアクリロニトリルを、「BA」はアクリル酸n−ブチルを、「HEMA」はメタクリル酸2−ヒドロキシエチルを、それぞれ示す。
表2中の「平均SP値」は、前述の「第1の好適なシェル構成」で規定される「重合体のSP値」に相当する。表2中の「平均SP値」は、樹脂粒子のモノマー組成に基づいてSmall法で算出された樹脂の平均SP値(単位:(cal/cm3)1/2)である。なお、サスペンションA−1では、全てのモノマー0.1887モル(=0.1731+0.0156≒18/104+2/128)のうち、S(分子量:104)が91.7モル%(≒100×0.1731/0.1887)を占め、BA(分子量:128)が8.3モル%(≒100×0.0156/0.1887)を占める。このため、サスペンションA−1において、スチレン(S)は主モノマーであり、アクリル酸ブチル(BA)は他のモノマーである。
表2中の「粒子径」は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した樹脂粒子の個数平均粒子径(単位:nm)を示している。樹脂粒子のTg(ガラス転移点)の測定方法は、前述した示差走査熱量測定であった。
例えば、サスペンションA−1に関しては、平均SP値が8.8(cal/cm3)1/2であり、粒子径(個数平均粒子径)が35nmであり、Tg(ガラス転移点)が72℃であった。
(サスペンションB−1の調製)
温度計、冷却管、窒素導入管、及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコ内に、イソブタノール90gと、メタクリル酸メチル100gと、アクリル酸n−ブチル35gと、2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド(Alfa Aesar社製)30gと、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)(和光純薬工業株式会社製「VA−086」)6gとを入れた。続けて、窒素雰囲気かつ温度80℃の条件で、フラスコ内容物を3時間反応させた。その後、フラスコ内に2,2’−アゾビス(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)(和光純薬工業株式会社製「VA−086」)3gを加えて、窒素雰囲気かつ温度80℃の条件で、フラスコ内容物をさらに3時間反応させて、重合体を含む液を得た。続けて、得られた重合体を含む液を、減圧雰囲気かつ温度150℃の条件で乾燥した。続けて、乾燥した重合体を解砕し、正帯電性樹脂を得た。
続けて、混合装置(プライミクス株式会社製「ハイビスミックス(登録商標)2P−1型」)の容器に、上記のようにして得られた正帯電性樹脂200gと、酢酸エチル(和光純薬工業株式会社製「酢酸エチル特級」)184mLとを入れた。続けて、その混合装置を用いて、回転速度20rpmで容器内容物を1時間攪拌して、高粘度の溶液を得た。その後、得られた高粘度の溶液に、酢酸エチル等の水溶液(詳しくは、1N−塩酸18mLとアニオン界面活性剤(花王株式会社製「エマール(登録商標)0」、成分:ラウリル硫酸ナトリウム)20gと酢酸エチル(和光純薬工業株式会社製「酢酸エチル特級」)16gとをイオン交換水562gに溶かした水溶液)を加えた。その結果、樹脂粒子のサスペンションB−1(固形分濃度:20質量%)が得られた。
(サスペンションB−2の調製)
サスペンションB−2(固形分濃度:20質量%)の調製方法は、各材料の添加量に関して、メタクリル酸メチルの100gを50gに、2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライドの30gを80gに、それぞれ変更した以外は、サスペンションB−1の調製方法と同じであった。
(サスペンションB−3の調製)
サスペンションB−3(固形分濃度:20質量%)の調製方法は、各材料の添加量に関して、メタクリル酸メチルの100gを30gに、2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライドの30gを100gに、それぞれ変更した以外は、サスペンションB−1の調製方法と同じであった。
(サスペンションB−4の調製)
サスペンションB−4(固形分濃度:20質量%)の調製方法は、前述の原料モノマー(MMA:100g、BA:35g、METAC:30g)の代わりに、スチレン50gと、メタクリル酸メチル(MMA)50gと、アクリル酸n−ブチル(BA)35gと、2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド(METAC)30gとを使用した以外は、サスペンションB−1の調製方法と同じであった。
(サスペンションB−5の調製)
サスペンションB−5(固形分濃度:20質量%)の調製方法は、前述の原料モノマー(MMA:100g、BA:35g、METAC:30g)の代わりに、メタクリル酸メチル(MMA)130gと、アクリル酸n−ブチル(BA)35gと、p−スチレンスルホン酸ナトリウム(東ソー有機化学株式会社製「スピノマーNaSS(登録商標)」)0.1gとを使用した以外は、サスペンションB−1の調製方法と同じであった。
上記のようにして得られたサスペンションB−1〜B−5に関して、樹脂粒子のモノマー組成及び物性を、表3に示す。表3中、「S」はスチレンを、「MMA」はメタクリル酸メチルを、「BA」はアクリル酸n−ブチルを、「NaSS」はp−スチレンスルホン酸ナトリウムを、「METAC」は2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライドを、それぞれ示す。表3中の「平均SP値」、「粒子径」、及び「Tg」の各々の意味は、表2と同じである。なお、サスペンションB−1では、全てのモノマー1.4176モル(=1.0000+0.2734+0.1442≒100/100+35/128+30/208)のうち、MMA(分子量:100)が70.5モル%(≒100×1.0000/1.4176)を占め、BA(分子量:128)が19.3モル%(≒100×0.2734/1.4176)を占め、METAC(分子量:208)が10.2モル%(≒100×0.1442/1.4176)を占める。このため、サスペンションB−1において、メタクリル酸メチル(MMA)は主モノマーであり、アクリル酸ブチル(BA)及び2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド(METAC)はそれぞれ他のモノマーである。
例えば、サスペンションB−1に関しては、平均SP値が10.1(cal/cm3)1/2であり、粒子径(個数平均粒子径)が34nmであり、Tg(ガラス転移点)が79℃であった。
[トナーの製造方法]
(シェル層の形成)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコを準備し、フラスコをウォーターバスにセットした。続けて、フラスコ内にイオン交換水300mLを入れて、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を30℃に保った。続けて、フラスコ内に希塩酸を加えて、フラスコ内の水性媒体のpHを4に調整した。
続けて、第1シェル材料(各トナーに定められた、表1に示されるサスペンション)を、表1に示される量だけフラスコ内に添加した。このタイミングでの材料添加が、表1中の「第1投入」に相当する。例えば、トナーTAの製造では、第1シェル材料として、サスペンションB−1を1.2g、フラスコ内に添加した。また、トナーTB−1の製造では、第1シェル材料として、サスペンションA−1を220g、サスペンションB−1を1.2g、それぞれフラスコ内に添加した。
続けて、フラスコ内にトナーコア(前述の手順で作製したトナーコア)300gを添加し、フラスコ内容物を回転速度200rpmで60分間攪拌した。
続けて、イオン交換水300mLと、表1に示される量の第2シェル材料(各トナーに定められた、表1に示されるサスペンション)とを、フラスコ内に添加した。このタイミングでの材料添加が、表1中の「第2投入」に相当する。例えば、トナーTAの製造では、第2シェル材料として、サスペンションA−1を220g、フラスコ内に添加した。また、トナーTB−1の製造では、第2シェル材料を添加しなかった。
続けて、フラスコ内容物を回転速度100rpmで攪拌しながら、ウォーターバスを用いて昇温速度1℃/分でフラスコ内の温度を70℃まで上げて、フラスコ内容物を回転速度100rpmで攪拌しながらフラスコ内の温度を70℃に2時間保った。フラスコ内の温度を高温(70℃)に保つことで、トナーコアの表面にシェル層が形成された。その結果、トナー母粒子を含む分散液が得られた。その後、水酸化ナトリウムを用いてトナー母粒子の分散液のpHを7に調整(中和)し、トナー母粒子の分散液を常温(約25℃)まで冷却した。
(洗浄)
上記のようにして得られたトナー母粒子の分散液を、ブフナー漏斗を用いてろ過(固液分離)した。その結果、ウェットケーキ状のトナー母粒子が得られた。その後、得られたウェットケーキ状のトナー母粒子をイオン交換水に再分散させた。さらに、分散とろ過とを5回繰り返して、トナー母粒子を洗浄した。
(乾燥)
続けて、得られたトナー母粒子を、濃度50質量%のエタノール水溶液に分散させた。これにより、トナー母粒子のスラリーが得られた。続けて、連続式表面改質装置(フロイント産業株式会社製「コートマイザー(登録商標)」)を用いて、熱風温度45℃かつブロアー風量2m3/分の条件で、スラリー中のトナー母粒子を乾燥させた。その結果、トナー母粒子(粉体)が得られた。
(外添)
上記乾燥後、トナー母粒子に外添を行った。詳しくは、容量10LのFMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて、トナー母粒子100質量部と乾式シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)REA90」)1質量部とを5分間混合することにより、トナー母粒子の表面に外添剤(シリカ粒子)を付着させた。その後、得られた粉体を、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別した。その結果、多数のトナー粒子を含むトナー(表1に示されるトナーTA〜TG−3)が得られた。
上記のようにして得られたトナーTA、TB−1〜TB−2、TC−1〜TC−6、TD、TE−1〜TE−3、TF、及びTG−1〜TG−3に関して、コア/シェル頻度を測定した結果は、表1に示すとおりであった。例えば、トナーTAに関しては、コア/シェル頻度が4.8×106個/mであった。コア/シェル頻度の測定方法は、次に示すとおりであった。
<コア/シェル頻度の測定方法>
試料(トナー)のトナー母粒子(外添剤がない状態のトナー)を、測定対象とした。
常温(25℃)の大気雰囲気下で、濃度5質量%RuO4水溶液2mLの蒸気中に5分間暴露することで、トナー母粒子をRu(ルテニウム)で染色した。トナー母粒子の表面領域のうち、トナーコアがシェル層で覆われている領域は、トナーコアがシェル層で覆われていない領域(トナーコアが表面に露出している領域)よりもRuで染色され易かった。
続けて、染色されたトナー母粒子を、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)(日本電子株式会社製「JSM−7600F」)で撮影して、トナー母粒子の反射電子像(表面撮影像)を得た。トナー母粒子の表面領域のうち、Ruで染色された領域(染色領域)は、Ruで染色されなかった領域(非染色領域)よりも明るく表示された。FE−SEMの撮影条件は、加速電圧10.0kV、照射電流70μA、倍率5000倍、コントラスト5000であった。
続けて、画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いて、反射電子像の画像解析を行った。詳しくは、反射電子像をjpg形式の画像データに変換し、3×3ガウシアンフィルター処理を行った。続けて、フィルター処理した画像データ中のトナー粒子上に、そのトナー粒子を8等分するような4本の直線を引いた。直線のうち、トナー粒子の表面(両端)で区画される線分(トナー粒子上の線分)について、輝度値を測定した。詳しくは、線分上の測定単位ごとに輝度値を測定した。
画像データにおいては、長さ1μmが54分割されていた。すなわち、1μm角は、2916個(=54×54個)に分割されていた。分割された単位(測定単位)の各々について輝度値が測定された。測定単位の大きさは、1.85×10-2μm(≒1/54μm)角であった。
トナーコアがシェル層で覆われている領域(以下、シェル被覆領域と記載する)と、トナーコアがシェル層で覆われていない領域(以下、コア露出領域と記載する)とで、輝度値を比較した場合、シェル被覆領域の輝度値のほうがコア露出領域の輝度値よりも10以上大きい傾向があった。また、シェル被覆領域の輝度値は、シェル層が厚いほど大きくなる傾向があった。
線分上の測定単位の各々について、次に示す要件を満たすか否かを判断し、その要件を満たす場合に、その測定単位は、トナーコアとシェル層との界面であると認定した。以下、測定対象とする線分上の測定単位を、対象単位と記載する。また、その線分上において対象単位の両隣に位置する測定単位をそれぞれ、隣接単位と記載する。
(界面の認定)
2つの隣接単位のいずれか一方が、対象単位の輝度値よりも10以上大きい輝度値を有し、かつ、その対象単位の輝度値が線分の平均輝度値未満である場合に、その対象単位は、界面(詳しくは、トナーコアとシェル層との界面)であると認定した。なお、線分の平均輝度値は、線分上の各測定単位について得られた輝度値の算術平均値(=全データの総和/データの数)に相当する。
上記のようにして、線分上の測定単位の各々について界面であるか否かを判断し、線分上に存在する界面の数を求めた。そして、線分上に存在する界面の数を線分の長さで除して、界面発生頻度(単位長さあたりの界面の数)を得た。1つのトナー粒子上に引いた4本の直線の各々について得られた4つの測定値(それぞれ界面発生頻度)の算術平均値を、そのトナー粒子のコア/シェル頻度とした。試料(トナー)に含まれる20個のトナー粒子についてそれぞれコア/シェル頻度を測定した。20個のトナー粒子の個数平均値を、試料(トナー)の評価値(コア/シェル頻度)とした。
[評価方法]
各試料(表1に示されるトナーTA〜TG−3)の評価方法は、以下の通りである。
(帯電性)
温度23℃かつ湿度50%RHの環境下で、試料(トナー)0.8gと、現像剤用キャリア10gとを、混合機(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製「ターブラー(登録商標)ミキサーT2F」)を用いて30分間混合して、2成分現像剤を得た。正帯電性トナー(トナーTA、TB−1〜TB−2、TC−1〜TC−6、TD、TE−1〜TE−2、TF、及びTG−1〜TG−3)の評価では、現像剤用キャリアとして、正帯電性トナー用キャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の「TASKalfa5550ci」用キャリア)を使用した。また、負帯電性トナー(トナーTE−3)の評価では、現像剤用キャリアとして、負帯電性トナー用キャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の「Anesis6016」用キャリア)を使用した。続けて、得られた現像剤(2成分現像剤)中のトナーの帯電量を測定した。帯電量の測定方法は、次に示すとおりであった。
<現像剤中のトナーの帯電量の測定方法>
Q/mメーター(トレック社製「MODEL 210HS−1」)の測定セルに測定対象(現像剤:トナー及びキャリア)0.10gを投入し、投入された現像剤のうちトナーのみを篩(金網)を介して10秒間吸引した。そして、式「吸引されたトナーの総電気量(単位:μC)/吸引されたトナーの質量(単位:g)」に基づいて、現像剤中のトナーの帯電量(単位:μC/g)を算出した。
(電荷減衰特性)
試料(トナー)の電荷減衰定数αは、静電気拡散率測定装置(株式会社ナノシーズ製「NS−D100」)を用いて、JIS(日本工業規格)C 61340−2−1−2006に準拠した方法で測定した。以下、トナーの電荷減衰定数の測定方法について詳述する。
測定セルに試料(トナー)を入れた。測定セルは、内径10mm、深さ1mmの凹部が形成された金属製のセルであった。スライドガラスを用いて試料を上から押し込み、セルの凹部に試料を充填した。セルの表面においてスライドガラスを往復移動させることによって、セルから溢れた試料を除去した。試料の充填量は0.04g以上0.06g以下であった。
続けて、試料(トナー)が充填された測定セルを、温度32℃かつ湿度80%RHの環境下で12時間静置した。続けて、温度32℃かつ湿度80%RHの環境下において、接地させた測定セルを静電気拡散率測定装置内に置き、コロナ放電によって試料にイオンを供給して、試料を帯電させた。プローブギャップは1mmであり、帯電時間は0.5秒間であった。そして、コロナ放電終了後0.7秒経過した後から、サンプリング周波数1Hzの条件で、試料の表面電位を連続的に測定した。測定された表面電位と、式「V=V0exp(−α√t)」とに基づいて、電荷減衰定数(電荷減衰速度)αを算出した。式中、Vは表面電位[V]、V0は初期表面電位[V]、tは減衰時間[秒]をそれぞれ示す。
電荷減衰定数が、0.015以下であれば○(良い)と評価し、0.015を超えれば×(良くない)と評価した。
(耐熱保存性)
試料(トナー)2gを容量20mLのポリエチレン製容器に入れて、その容器を、65℃に設定された恒温器内に3時間静置した。その後、恒温器から取り出したトナーを20℃で3時間冷却して、評価用トナーを得た。
続けて、得られた評価用トナーを質量既知の100メッシュ(目開き150μm)の篩に載せた。そして、評価用トナーを含む篩の質量を測定し、篩別前のトナーの質量を求めた。続けて、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)に上記篩をセットし、パウダーテスターのマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5の条件で30秒間、篩を振動させ、評価用トナーを篩別した。そして、篩別後に、トナーを含む篩の質量を測定することで、篩上に残留したトナー(篩を通過しなかったトナー)の質量を求めた。篩別前のトナーの質量と、篩別後のトナーの質量(篩別後に篩上に残留したトナーの質量)とから、次の式に基づいて凝集率(単位:%)を求めた。
凝集率=100×篩別後のトナーの質量/篩別前のトナーの質量
凝集率が50%以下であれば○(良い)と評価し、凝集率が50%超であれば×(良くない)と評価した。
(低温定着性)
正帯電性トナー(トナーTA、TB−1〜TB−2、TC−1〜TC−6、TD、TE−1〜TE−2、TF、及びTG−1〜TG−3)の評価では、現像剤用キャリア(正帯電性トナー用キャリア:京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の「TASKalfa5550ci」用キャリア)100質量部と、試料(上記正帯電性トナー)10質量部とを、ボールミルを用いて30分間混合して、評価用現像剤(2成分現像剤)を得た。また、負帯電性トナー(トナーTE−3)の評価では、現像剤用キャリア(負帯電性トナー用キャリア:京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の「Anesis6016」用キャリア)100質量部と、試料(上記負帯電性トナー:トナーTE−3)10質量部とを、ボールミルを用いて30分間混合して、評価用現像剤(2成分現像剤)を得た。
上記正帯電性トナーを評価するための画像形成装置(評価用画像形成装置)としては、カラー複合機(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「TASKalfa5550ci」)を用いた。また、上記負帯電性トナーを評価するための画像形成装置(評価用画像形成装置)としては、アナログ式複写機(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「Anesis6016」)を用いた。正帯電性トナー及び負帯電性トナーのいずれの評価でも、評価用定着装置としては、Roller−Roller方式の加熱加圧型の定着装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」の定着ユニット)を使用した。すなわち、評価用画像形成装置により形成された未定着画像を、評価用定着装置で定着した。
詳しくは、まず、前述の手順で調製した評価用現像剤を評価用画像形成装置の現像装置に投入し、試料(補給用トナー)を評価用画像形成装置のトナーコンテナに投入した。そして、その評価用画像形成装置を用いて、温度23℃かつ湿度50%RHの環境下、坪量90g/m2の紙(A4サイズの普通紙)に、線速200mm/秒、トナー載り量1.0mg/cm2の条件で、大きさ25mm×25mmのソリッド画像を形成した。そして、ソリッド画像が形成された紙(詳しくは、未定着のトナー像が転写された紙)を、評価用画像形成装置の定着ユニットを通さずに、上記評価用定着装置に通した。
定着温度100℃以上200℃以下の範囲で最低定着温度を測定した。詳しくは、定着装置の定着温度を100℃から5℃ずつ上昇させて、ソリッド画像(トナー像)を紙に定着できる最低温度(最低定着温度)を測定した。トナーを定着させることができたか否かは、折擦り試験で確認した。詳しくは、定着装置に通した評価用紙を、画像を形成した面が内側となるように折り曲げ、布帛で被覆した1kgの分銅を用いて、折り目上の画像を5往復摩擦した。続けて、紙を広げ、紙の折り曲げ部(ソリッド画像が形成された部分)を観察した。そして、折り曲げ部のトナーの剥がれの長さ(剥がれ長)を測定した。剥がれ長が1mm以下となる定着温度のうちの最低温度を、最低定着温度とした。最低定着温度が、150℃以下であれば○(良い)と評価し、150℃を超えれば×(良くない)と評価した。
(転写効率)
正帯電性トナー(トナーTA、TB−1〜TB−2、TC−1〜TC−6、TD、TE−1〜TE−2、TF、及びTG−1〜TG−3)の評価では、現像剤用キャリア(正帯電性トナー用キャリア:京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の「TASKalfa5550ci」用キャリア)100質量部と、試料(上記正帯電性トナー)10質量部とを、ボールミルを用いて30分間混合して、評価用現像剤(2成分現像剤)を得た。また、負帯電性トナー(トナーTE−3)の評価では、現像剤用キャリア(負帯電性トナー用キャリア:京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の「Anesis6016」用キャリア)100質量部と、試料(上記負帯電性トナー:トナーTE−3)10質量部とを、ボールミルを用いて30分間混合して、評価用現像剤(2成分現像剤)を得た。
上記正帯電性トナーを評価するための評価機としては、カラー複合機(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「TASKalfa5550ci」)を使用した。また、上記負帯電性トナーを評価するための評価機としては、アナログ式複写機(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「Anesis6016」)を使用した。
上記のようにして調製した評価用現像剤を評価機にセットし、試料(トナー)を補給しながら印字率5%の画像を温度32℃かつ湿度80%RHの環境下で1万枚出力した。そして、消費トナーの質量と回収トナーの質量とをそれぞれ測定して、下記式から転写効率(単位:%)を算出した。なお、消費トナーは、トナーコンテナにセットされた試料(トナー)のうち、トナーコンテナから排出されたトナーである。また、回収トナーは、消費トナーのうち、記録媒体に転写されなかったトナーである。
転写効率=100×(消費トナーの質量−回収トナーの質量)/(消費トナーの質量)
転写効率が85%以上であれば○(良い)と評価し、転写効率が85%未満であれば×(良くない)と評価した。
[評価結果]
トナーTA、TB−1〜TB−2、TC−1〜TC−6、TD、TE−1〜TE−3、TF、及びTG−1〜TG−3の各々について、帯電性(帯電量)、電荷減衰特性(電荷減衰定数)、転写効率、耐熱保存性(凝集度)、及び低温定着性(最低定着温度)を評価した結果を、表4に示す。
トナーTA、TB−1〜TB−2、TC−1〜TC−6、TD、及びTE−1〜TE−3(実施例1〜13に係るトナー)はそれぞれ、前述の基本構成を有していた。詳しくは、実施例1〜13に係るトナーではそれぞれ、シェル層が、樹脂膜と、それぞれ樹脂膜よりも強い帯電性を有する複数の樹脂粒子とを含んでいた。樹脂膜は、樹脂粒子よりも強い疎水性を有していた。表1に示されるように、コア/シェル頻度(トナー粒子の表面を顕微鏡で撮影した像において、トナー粒子を8等分するように引いた4本の直線の各々におけるトナーコアとシェル層との界面発生頻度の平均値)は、2.2×106個/m以上6.4×106個/m以下であった。
なお、実施例1〜13に係るトナーはそれぞれ、前述の「第1の好適なシェル構成」及び「第2の好適なシェル構成」を有していた。また、樹脂膜の厚さが1nm以上30nm以下であった。また、シェル層が、トナーコアの表面全域のうち50%以上85%以下の面積を覆っていた。シェル材料(詳しくは、シェル層中の樹脂膜を形成するためのサスペンション)の調製において、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)の添加量を増やすほど、シェル層の被覆率は高くなり、コア/シェル頻度は低くなる傾向があった。
表4に示されるように、実施例1〜13に係るトナーはそれぞれ、帯電性、電荷減衰特性(電荷保持性)、耐熱保存性、及び低温定着性(最低定着温度)に優れ、かつ、高い転写効率で画像を形成できた。