本発明の実施形態について説明する。なお、粉体(より具体的には、トナーコア、トナー母粒子、外添剤、又はトナー等)に関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、粉体から平均的な粒子を相当数選び取って、それら平均的な粒子の各々について測定した値の個数平均である。
粉体の個数平均粒子径は、何ら規定していなければ、顕微鏡を用いて測定された1次粒子の円相当径(ヘイウッド径:粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。また、粉体の体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、ベックマン・コールター株式会社製の「コールターカウンターマルチサイザー3」を用いてコールター原理(細孔電気抵抗法)に基づき測定した値である。
ガラス転移点(Tg)は、何ら規定していなければ、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて「JIS(日本工業規格)K7121−2012」に従って測定した値である。示差走査熱量計で測定された2回目昇温時の吸熱曲線(縦軸:熱流(DSC信号)、横軸:温度)において、比熱の変化点(ベースラインの外挿線と立ち下がりラインの外挿線との交点)の温度(オンセット温度)が、Tg(ガラス転移点)に相当する。また、軟化点(Tm)は、何ら規定していなければ、高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)を用いて測定した値である。高化式フローテスターで測定されたS字カーブ(横軸:温度、縦軸:ストローク)において、「(ベースラインストローク値+最大ストローク値)/2」となる温度が、Tm(軟化点)に相当する。また、数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)の各々の測定値は、何ら規定していなければ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。
帯電性は、何ら規定していなければ、摩擦帯電における帯電性を意味する。摩擦帯電における正帯電性の強さ(又は負帯電性の強さ)は、周知の帯電列などで確認できる。
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。また、アクリロニトリル(CH2=CHCN)及びメタクリロニトリル(CH2=C(CH3)CN)を包括的に「(メタ)アクリロニトリル」と総称する場合がある。また、本願明細書中では、結晶性ポリエステル樹脂は「結晶性ポリエステル樹脂」と記載し、非結晶性ポリエステル樹脂は、単に「ポリエステル樹脂」と記載する。また、本願明細書中では、未処理のシリカ粒子も、シリカ基体(未処理のシリカ粒子)に表面処理を施して得たシリカ粒子(表面処理されたシリカ粒子)も、「シリカ粒子」と記載する。
本実施形態に係るトナーは、例えば正帯電性トナーとして、静電潜像の現像に好適に用いることができる。本実施形態のトナーは、複数のトナー粒子(それぞれ後述する構成を有する粒子)を含む粉体である。トナーは、1成分現像剤として使用してもよい。また、混合装置(より具体的には、ボールミル等)を用いてトナーとキャリアとを混合して2成分現像剤を調製してもよい。高画質の画像を形成するためには、キャリアとしてフェライトキャリアを使用することが好ましい。また、長期にわたって高画質の画像を形成するためには、キャリアコアと、キャリアコアを被覆する樹脂層とを備える磁性キャリア粒子を使用することが好ましい。キャリア粒子に磁性を付与するためには、磁性材料でキャリア粒子を形成してもよいし、磁性粒子を分散させた樹脂でキャリア粒子を形成してもよい。また、キャリアコアを被覆する樹脂層中に磁性粒子を分散させてもよい。高画質の画像を形成するためには、2成分現像剤におけるトナーの量は、キャリア100質量部に対して、5質量部以上15質量部以下であることが好ましい。なお、正帯電性トナーは、キャリアとの摩擦により正に帯電する。
本実施形態に係るトナーは、例えば電子写真装置(画像形成装置)において画像の形成に用いることができる。以下、電子写真装置による画像形成方法の一例について説明する。
まず、電子写真装置の像形成部(帯電装置及び露光装置)が、画像データに基づいて感光体(例えば、感光体ドラムの表層部)に静電潜像を形成する。次に、形成された静電潜像を、トナーを含む現像剤を用いて現像する。現像工程では、感光体の近傍に配置された現像スリーブ(例えば、現像装置内の現像ローラーの表層部)上のトナー(キャリア又はブレードとの摩擦により帯電したトナー)を静電潜像に付着させて、感光体にトナー像を形成する。そして、続く転写工程では、そのトナー像を中間転写体(例えば、転写ベルト)に転写した後、さらに中間転写体上のトナー像を記録媒体(例えば、紙)に転写する。その後、定着装置(定着方式:加熱ローラー及び加圧ローラーによるニップ定着)によりトナーを加熱及び加圧して、記録媒体にトナーを定着させる。その結果、記録媒体に画像が形成される。例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4色のトナー像を重ね合わせることで、フルカラー画像を形成することができる。なお、転写方式は、感光体上のトナー像を、中間転写体を介さず、記録媒体に直接転写する直接転写方式であってもよい。また、定着方式は、ベルト定着方式であってもよい。
本実施形態に係るトナーは、次に示す構成(以下、基本構成と記載する)を有する静電潜像現像用トナーである。
(トナーの基本構成)
トナーが、トナー母粒子と、トナー母粒子の表面に付着した外添剤とを備えるトナー粒子を、複数含む。トナー粒子は、外添剤として複数のシリカ粒子を備える。トナー母粒子は、トナーコアと、トナーコアの表面を覆うシェル層とを備える。トナーコアは、結着樹脂を含有する。トナーコアの表面領域のうち60%以上80%以下の面積をシェル層が覆っている。複数のシリカ粒子は、トナー母粒子に50%以上埋め込まれているシリカ粒子(以下、埋没シリカ粒子と記載する)と、トナー母粒子に50%以上埋め込まれていないシリカ粒子(以下、非埋没シリカ粒子と記載する)とを含む。埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径と非埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径との差(ΔD)は、絶対値でシリカ粒子(=埋没シリカ粒子+非埋没シリカ粒子)の個数平均1次粒子径の10%以下である。すなわち、埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径をDAと、非埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径をDBと、シリカ粒子の個数平均1次粒子径をDxと、それぞれ表す場合、関係式「ΔD=|DA−DB|≦Dx×0.1」を満たす。埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径(DA)と非埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径(DB)とは同じ(DA=DB)であってもよい。トナー粒子が備える全てのシリカ粒子のうち、埋没シリカ粒子の割合(XE)は、25個数%以上35個数%以下である。すなわち、埋没シリカ粒子の個数をNAと、非埋没シリカ粒子の個数をNBと、それぞれ表す場合、埋没シリカ粒子の割合XEは、式「XE=100×NA/(NA+NB)」のように表すことができて、関係式「25≦XE≦35」を満たす。シリカ粒子は、トナー母粒子の表面にシリカ層を形成している。シリカ層の厚さは、シェル層の厚さの1.0倍以上2.0倍以下である。すなわち、シリカ層の厚さをTAと、シェル層の厚さをTBと、それぞれ表す場合、関係式「1≦TA/TB≦2」を満たす。トナー供給量100g/分、回転速度12000rpm、ブロワ風量6m3/分の条件での気流式分級処理後に測定されるトナーのシリカ遊離率は2.0%以上4.0%以下である。
以下、図1及び図2を参照して、上記基本構成を有するトナーに含まれるトナー粒子の構成の一例について説明する。図1は、上記基本構成を有するトナーのトナー母粒子の断面構造の一例を示す図である。図2は、上記基本構成を有するトナーのトナー粒子の断面構造の一例を示す図である。
図1に示されるトナー母粒子10は、トナーコア11と、トナーコア11の表面を部分的に覆うシェル層12とを備える。トナー母粒子10に外添剤を付着させることで、外添剤を備えるトナー粒子が得られる。例えば、トナー母粒子10の粉体と外添剤(詳しくは、複数の外添剤粒子を含む粉体)とを一緒に攪拌することで、外添剤粒子の一部(底部)がトナー母粒子10の表層部に埋め込まれ、物理的な力でトナー母粒子10の表面に外添剤粒子が付着(物理的結合)する。
上記基本構成を有するトナーでは、例えば図2に示すように、トナー粒子が、外添剤として、複数の埋没シリカ粒子13aと、複数の非埋没シリカ粒子13bとを備える。これらシリカ粒子(埋没シリカ粒子13a及び非埋没シリカ粒子13b)は、トナー母粒子の表面(トナーコア11の表面F1、又はシェル層12の表面F2)にシリカ層13を形成している。各シリカ粒子は、例えば球状の外形を有し、同程度の粒子径を有する。詳しくは、埋没シリカ粒子13aの個数平均1次粒子径と非埋没シリカ粒子13bの個数平均1次粒子径との差(ΔD)は、絶対値でシリカ粒子(全部:埋没シリカ粒子13a及び非埋没シリカ粒子13b)の個数平均1次粒子径の10%以下である。
埋没シリカ粒子13a及び非埋没シリカ粒子13bは、トナーコア11側から、埋没シリカ粒子13a、非埋没シリカ粒子13bの順の積層構造を有する。埋没シリカ粒子13aは、トナー母粒子に対して深さ方向に全長の50%以上埋め込まれた状態で、トナー母粒子の表層部に固定されている。埋没シリカ粒子13aは、トナーコア11に埋め込まれていてもよいし、シェル層12に埋め込まれていてもよい。非埋没シリカ粒子13bは、トナー母粒子の表面に位置していてもよいし、埋没シリカ粒子13a上に位置していてもよい。ただし、非埋没シリカ粒子13bがトナー母粒子の表面に位置している場合には、非埋没シリカ粒子13bは、トナー母粒子に50%以上埋め込まれていない状態(すなわち、トナー母粒子に全く埋め込まれていない状態、又はトナー母粒子に50%未満しか埋め込まれていない状態)で存在する。
前述の基本構成において、シリカ粒子の粒子径と、埋没シリカ粒子の割合と、シリカ層の厚さと、シェル層の厚さとは、それぞれトナー粒子の断面像に基づいて測定された値である。以下、図2、図3、及び図4(a)〜(c)を参照して、これらの測定方法について説明する。
まず、顕微鏡を用いて、例えば図2に示されるようなトナー粒子の断面像を得る。シリカ粒子(埋没シリカ粒子13a及び非埋没シリカ粒子13b)の粒子径と埋没シリカ粒子13aの割合との各々の測定では、トナー粒子の断面像中の全てのシリカ粒子を測定対象とする。トナー粒子の断面像に基づき、各シリカ粒子(それぞれ測定対象)について、埋没シリカ粒子と非埋没シリカ粒子とのいずれであるかを判別するとともに、その粒子径(円相当径)を測定することによって、シリカ粒子(=埋没シリカ粒子13a+非埋没シリカ粒子13b)の個数平均1次粒子径(Dx)と、埋没シリカ粒子13aの個数平均1次粒子径(DA)と、非埋没シリカ粒子13bの個数平均1次粒子径(DB)と、埋没シリカ粒子13aの個数(NA)と、非埋没シリカ粒子13bの個数(NB)とを求める。そして、埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径(DA)と非埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径(DB)との差ΔD(=|DA−DB|)を算出する。また、NA及びNBに基づいて、埋没シリカ粒子の割合XE(=100×NA/(NA+NB))を算出する。さらに、トナーに含まれる相当数のトナー粒子についてそれぞれ、Dx、ΔD、及びXEを測定し、算術平均(トナー粒子ごとに測定された相当数のデータの平均)をとって、そのトナーの評価値(Dx、ΔD、及びXE)を得る。
シェル層12の厚さとシリカ層13の厚さとの各々の測定では、例えば図3に示すように、トナー粒子の断面像中に、トナーコア11の表面F1に対して略直交する10本の直線L1〜L10を等間隔で引く。直線L1〜L10の各々の方向は、深さ方向に相当する。そして、直線L1〜L10の各々において、シェル層12の厚さとシリカ層13の厚さとの各々に対応する線分の長さを求める。
例えば、図3中の直線L1上に存在するシリカ粒子は、埋没シリカ粒子13aのみである。直線L1においては、図4(a)に示すように、長さL11(埋没シリカ粒子13aの底面から埋没シリカ粒子13aの頂面までの長さ)がシリカ層13の厚さに相当し、長さL13(トナーコア11の表面F1からシェル層12の表面F2までの長さ)がシェル層12の厚さに相当する。埋没シリカ粒子13aでシェル層12の表面F2が隠れている部分については、補助線を引いて、直線L1とシェル層12の表面F2(補助線)との交点を求める。
図4(a)において、長さL11は、最も低い位置にあるシリカ粒子の厚さ(高さ)に相当する。長さL12は、最も低い位置にあるシリカ粒子の埋込み深さに相当する。長さL11と長さL12とに基づいて、シリカ粒子が埋没シリカ粒子と非埋没シリカ粒子とのいずれであるかを判別できる。詳しくは、長さL12が長さL11の半分以上(長さL12≧長さL11/2)であれば、そのシリカ粒子は、トナー母粒子に50%以上埋め込まれている、すなわち埋没シリカ粒子である。他方、長さL12が長さL11の半分未満であれば、そのシリカ粒子は、非埋没シリカ粒子である。なお、シリカ粒子が埋没シリカ粒子と非埋没シリカ粒子とのいずれであるか分かりにくい場合には、トナー粒子の断面像において、そのシリカ粒子の略中心を通る直線(詳しくは、トナーコア11の表面F1に対して略直交する深さ方向の直線)を引いて、その直線上の長さL11と長さL12とを求めることにより、埋没シリカ粒子と非埋没シリカ粒子とのいずれであるかを判別することが望ましい。
図3中の直線L6上に存在するシリカ粒子は、1個の埋没シリカ粒子13a及び3個の非埋没シリカ粒子13bである。直線L6においては、図4(b)に示すように、長さL14(最も低い位置にあるシリカ粒子の底面から、最も高い位置にあるシリカ粒子の頂面までの長さ)がシリカ層13の厚さに相当する。また、直線L6が引かれた領域は、非シェル被覆領域(シェル層12がない領域)であるため、シェル層12の厚さは「0」に相当する。図4(b)において、長さL11は、最も低い位置にあるシリカ粒子(埋没シリカ粒子13a)の厚さ(高さ)に相当する。長さL12は、最も低い位置にあるシリカ粒子(埋没シリカ粒子13a)の埋込み深さに相当する。
図3中の直線L8上に存在するシリカ粒子は、3個の非埋没シリカ粒子13bのみである。直線L8においては、図4(c)に示すように、長さL14(最も低い位置にあるシリカ粒子の底面から、最も高い位置にあるシリカ粒子の頂面までの長さ)がシリカ層13の厚さに相当し、長さL13(トナーコア11の表面F1からシェル層12の表面F2までの長さ)がシェル層12の厚さに相当する。
上記のようにして、トナー粒子の断面像中に引いた直線L1〜L10の各々について、シェル層12の厚さとシリカ層13の厚さとを測定し、各厚さについて算術平均(直線ごとに測定された10個のデータの平均)をとって、そのトナー粒子のシェル層12の厚さ(詳しくは、平均厚さ)及びシリカ層13の厚さ(詳しくは、平均厚さ)を求める。さらに、トナーに含まれる相当数のトナー粒子についてそれぞれシェル層12の厚さとシリカ層13の厚さとを測定し、各厚さについて算術平均(トナー粒子ごとに測定された相当数のデータの平均)をとって、そのトナーの評価値(シリカ層13の厚さ及びシェル層12の厚さ:TA及びTB)を得る。
なお、1つの断面像に基づく測定では誤差が十分小さくならない場合には、1個のトナー粒子について複数の断面像を得て、それら断面像の各々について上述の測定を行うことにより、トナー粒子1個あたりのデータ数を増やすことが望ましい。
上記基本構成を有するトナーでは、複数のシリカ粒子が、埋没シリカ粒子(トナー母粒子に50%以上埋め込まれているシリカ粒子)と、非埋没シリカ粒子(トナー母粒子に50%以上埋め込まれていないシリカ粒子)とを含む。埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径(DA)と非埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径(DB)との差(ΔD=|DA−DB|)は、絶対値でシリカ粒子の個数平均1次粒子径(Dx)の10%以下である(|DA−DB|≦Dx×0.1)。例えば、シリカ粒子(全部)の個数平均1次粒子径(Dx)が10nmであれば、埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径と非埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径との差(ΔD)は、1nm以下である。埋没シリカ粒子と非埋没シリカ粒子とが、概ね同じ粒子径を有することで、埋没シリカ粒子と非埋没シリカ粒子との比率に基づいて、トナーの流動性及び帯電性等を制御し易くなる。トナーの流動性を向上させるためには、埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径(DA)と、非埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径(DB)と、シリカ粒子の個数平均1次粒子径(Dx)とが、それぞれ5nm以上100nm以下であることが好ましい。
上記基本構成を有するトナーでは、トナー粒子が備える全てのシリカ粒子のうち、埋没シリカ粒子の割合が、25個数%以上35個数%以下である。こうした構成により、トナー粒子における埋没シリカ粒子と非埋没シリカ粒子との両方が十分に機能するようになり、十分なトナーの流動性及び帯電安定性を確保しつつ、画像形成において、かぶりを抑制することが可能になる。埋没シリカ粒子の割合が少な過ぎると、十分なトナーの帯電安定性を確保することが困難になるとともに、画像形成において、トナー飛翔に起因したかぶりが生じ易くなる。また、埋没シリカ粒子の割合が多過ぎると、十分なトナーの流動性を確保することが困難になる。なお、シリカ粒子を、シェル層で覆われた状態でトナーコアとシェル層との界面に存在させるよりも、露出した状態でトナー母粒子の表面に付着させた方が、シリカ粒子によってトナーの流動性及び帯電性が向上する傾向がある。
上記基本構成を有するトナーでは、シリカ層の厚さ(TA)が、シェル層の厚さ(TB)の1.0倍以上2.0倍以下である。シェル層の厚さに対するシリカ層の厚さの比率(TA/TB)が大き過ぎると、十分なトナーの帯電安定性を確保することが困難になるとともに、画像形成において、トナー飛翔に起因したかぶりが生じ易くなる。シリカ層の厚さが大きくなることで、トナー粒子からシリカ粒子が脱離し易くなり、ひいては脱離したシリカ粒子が現像スリーブに固着し易くなるからであると推察される。シェル層の厚さに対するシリカ層の厚さの比率(TA/TB)が小さ過ぎると、シリカ粒子の量が不足して、十分なトナーの流動性を確保することが困難になる。
トナーの耐久性及び定着性の両立を図るためには、トナーコアの表面領域のうち60%以上80%以下の面積をシェル層が覆っていることが好ましい。以下、トナーコアの表面領域のうちシェル層が覆っている領域を、シェル被覆領域と記載する。また、トナーコアの表面領域のうちシェル層が覆っていない領域を、非シェル被覆領域と記載する。また、トナーコアの表面領域のうちシェル被覆領域の割合を、シェル被覆率と記載する。シェル被覆率は、式「シェル被覆率(単位:%)=100×シェル被覆領域の面積/トナーコア表面領域の面積」で表される。トナーコア表面領域の面積は、シェル被覆領域の面積と非シェル被覆領域の面積との合計に相当する。シェル被覆率が80%以下であることで、十分な量の埋没シリカ粒子を確保し易くなる。
トナー粒子から遊離したシリカ粒子(以下、遊離シリカ粒子と記載する)には、トナー粒子から完全に脱離したシリカ粒子と、トナー粒子から遊離した状態でトナー粒子の表面に存在するシリカ粒子とが含まれる。トナー粒子から遊離した状態でトナー粒子の表面に存在するシリカ粒子は、トナー粒子の表面に軽く付着している。こうしたシリカ粒子は、トナー粒子と一体化していないため、容易にトナー粒子から離れる。一方、トナー粒子の表面に固着しているシリカ粒子は、トナー粒子から遊離していない。
ある程度の量の遊離シリカ粒子をトナー中に含ませることで、トナーの現像性及び耐熱保存性を向上させることができる。ただし、遊離シリカ粒子の量が多過ぎる場合には、画像形成において、トナー飛翔に起因したかぶりが生じ易くなる。遊離シリカ粒子の量が多くなることで、現像スリーブに対するトナー又は外添剤の固着(スリーブ固着)が生じ易くなるからであると推察される。上記基本構成を有するトナーでは、シリカ遊離率(トナー中のシリカ粒子のうち遊離シリカ粒子が占める割合)が適切な大きさになることで、連続印刷におけるスリーブ固着を抑制しつつ十分なトナーの現像性及び耐熱保存性を確保し易くなる。
連続印刷におけるスリーブ固着を抑制しつつ十分なトナーの帯電性及び耐久性を確保するためには、上記基本構成において、トナー粒子が、外添剤として、それぞれ実質的にスチレン−アクリル酸系樹脂から構成される複数の樹脂粒子をさらに備えることが好ましい。また、トナー母粒子100質量部に対して、シリカ粒子の量が1.0質量部以上2.0質量部以下であり、樹脂粒子(詳しくは、実質的にスチレン−アクリル酸系樹脂から構成される粒子)の量が0.5質量部以上2.0質量部以下であることが好ましい。ある程度の量のシリカ粒子をトナーに含ませることで、トナーの流動性を向上させることができる。また、ある程度の量の上記樹脂粒子をトナーに含ませることで、逆帯電トナーの発生(ひいては、かぶりの発生)を抑制することができる。シリカ粒子の量が少な過ぎると、トナーの耐久性が不十分になる傾向がある。シリカ粒子の量が多過ぎると、トナーの帯電安定性が不十分になる傾向がある。樹脂粒子の量が少な過ぎると、トナーの帯電量及び帯電安定性が不十分になる傾向がある。また、樹脂粒子の量が多過ぎると、トナーを用いて高印字率(例えば、印字率10%)の連続印刷を行った場合にスリーブ固着が生じ易くなる。
連続印刷において継続的に高画質の画像を形成するためには、シリカ粒子の個数平均1次粒子径が0.01μm以上0.10μm以下であり、樹脂粒子の個数平均1次粒子径が0.05μm以上0.20μm以下であることが好ましい。シリカ粒子の個数平均1次粒子径が小さ過ぎると、トナーのシリカ遊離率が小さくなる傾向がある。シリカ粒子の個数平均1次粒子径が大き過ぎると、トナーのシリカ遊離率が大きくなる傾向がある。樹脂粒子が小さ過ぎると、トナーの帯電性が悪くなる傾向がある。樹脂粒子が大き過ぎると、トナーの低温定着性が悪くなる傾向がある。
トナーが上記基本構成を有するためには、トナーコアが粉砕法(乾式法の一種)により作製された粉砕法コアであることが好ましい。粉砕法は、複数種の材料(樹脂等)を溶融混練して混練物を得る工程と、得られた混練物を粉砕する工程とを経て、粉体(例えば、トナーコア)を得る方法である。
トナーの耐久性及び定着性の両立を図るためには、シェル層の厚さが30nm以上60nm以下であることが好ましい。また、シェル層の厚さが大き過ぎると、シリカ層の厚さ(TA)をシェル層の厚さ(TB)の1.0倍以上にすることが困難になる。シェル層の厚さは、市販の画像解析ソフトウェア(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いてトナー粒子の断面のTEM(透過型電子顕微鏡)撮影像を解析することによって計測できる。なお、1つのトナー粒子においてシェル層の厚さが均一でない場合には、均等に離間した4箇所(詳しくは、トナー粒子の断面の略中心で直交する2本の直線を引き、それら2本の直線がシェル層と交差する4箇所)の各々でシェル層の厚さを測定し、得られた4つの測定値の算術平均を、そのトナー粒子の評価値(シェル層の厚さ)とする。なお、TEM撮影像においてトナーコアとシェル層との境界が不明瞭である場合には、TEMと電子エネルギー損失分光法(EELS)とを組み合わせて、TEM撮影像中で、シェル層に含まれる特徴的な元素のマッピングを行うことで、トナーコアとシェル層との境界を明確にすることができる。
画像形成に適したトナーを得るためには、トナーコアの体積中位径(D50)が、4μm以上9μm以下であることが好ましい。
トナー粒子を形成するために適した樹脂は、以下のとおりである。
<好適な熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂の好適な例としては、スチレン系樹脂、アクリル酸系樹脂(より具体的には、アクリル酸エステル重合体又はメタクリル酸エステル重合体等)、オレフィン系樹脂(より具体的には、ポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂等)、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ビニルエーテル樹脂、N−ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、又はウレタン樹脂が挙げられる。また、これら各樹脂の共重合体、すなわち上記樹脂中に任意の繰返し単位が導入された共重合体(より具体的には、スチレン−アクリル酸系樹脂又はスチレン−ブタジエン系樹脂等)を使用してもよい。
スチレン−アクリル酸系樹脂は、1種以上のスチレン系モノマーと1種以上のアクリル酸系モノマーとの共重合体である。スチレン−アクリル酸系樹脂を合成するためには、例えば以下に示すような、スチレン系モノマー及びアクリル酸系モノマーを好適に使用できる。
スチレン系モノマーの好適な例としては、スチレン、アルキルスチレン(より具体的には、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、又は4−tert−ブチルスチレン等)、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、ビニルトルエン、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、又はp−クロロスチレンが挙げられる。
アクリル酸系モノマーの好適な例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの好適な例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、又は(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが挙げられる。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの好適な例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、又は(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルが挙げられる。
ポリエステル樹脂は、1種以上の多価アルコールと1種以上の多価カルボン酸とを縮重合させることで得られる。ポリエステル樹脂を合成するためのアルコールとしては、例えば以下に示すような、2価アルコール(より具体的には、ジオール類又はビスフェノール類等)又は3価以上のアルコールを好適に使用できる。ポリエステル樹脂を合成するためのカルボン酸としては、例えば以下に示すような、2価カルボン酸又は3価以上のカルボン酸を好適に使用できる。
ジオール類の好適な例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
ビスフェノール類の好適な例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
3価以上のアルコールの好適な例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
2価カルボン酸の好適な例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸(より具体的には、n−ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、又はイソドデシルコハク酸等)、又はアルケニルコハク酸(より具体的には、n−ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、又はイソドデセニルコハク酸等)が挙げられる。
3価以上のカルボン酸の好適な例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が挙げられる。
以下、トナーコア(結着樹脂及び内添剤)、シェル層、及び外添剤について、順に説明する。トナーの用途に応じて必要のない成分(例えば、内添剤)を割愛してもよい。
[トナーコア]
(結着樹脂)
トナーコアでは、一般的に、成分の大部分(例えば、85質量%以上)を結着樹脂が占める。このため、結着樹脂の性質がトナーコア全体の性質に大きな影響を与えると考えられる。結着樹脂として複数種の樹脂を組み合わせて使用することで、結着樹脂の性質(より具体的には、水酸基価、酸価、Tg、又はTm等)を調整することができる。例えば、結着樹脂がエステル基、水酸基、エーテル基、酸基、又はメチル基を有する場合には、トナーコアはアニオン性になる傾向が強くなり、結着樹脂がアミノ基又はアミド基を有する場合には、トナーコアはカチオン性になる傾向が強くなる。
トナーの低温定着性を向上させるためには、トナーコアが、結着樹脂として、熱可塑性樹脂(より具体的には、前述の「好適な熱可塑性樹脂」等)を含有することが好ましく、結着樹脂全体の85質量%以上の割合で熱可塑性樹脂を含有することがより好ましい。トナーコアは、結着樹脂として結晶性ポリエステル樹脂を含有してもよい。トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、トナーコアに含有される樹脂のうち、80質量%以上の樹脂がポリエステル樹脂であることが好ましい。
十分なトナーコアの強度を確保しつつトナーの定着性を向上させるためには、トナーコアが、結着樹脂として、異なる軟化点(Tm)を有する複数種のポリエステル樹脂を含有することが好ましく、軟化点70℃以下のポリエステル樹脂と、軟化点75℃以上100℃以下のポリエステル樹脂と、軟化点110℃以上のポリエステル樹脂とを含有することが特に好ましい。また、トナーコアが、結着樹脂として、軟化点70℃以下のポリエステル樹脂と、軟化点75℃以上100℃以下のポリエステル樹脂と、軟化点110℃以上のポリエステル樹脂とを含有する場合において、十分なトナーコアの強度を確保しつつトナーの定着性を向上させるためには、トナーコアに含有されるポリエステル樹脂のうち、60質量%以上85質量%以下のポリエステル樹脂が、軟化点70℃以下のポリエステル樹脂であることが好ましい。
トナーコアの結着樹脂としてポリエステル樹脂を使用する場合、十分なトナーコアの強度を確保しつつトナーの定着性を向上させるためには、ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が1000以上2000以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂の分子量分布(数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比率Mw/Mn)は9以上21以下であることが好ましい。
(着色剤)
トナーコアは、着色剤を含有してもよい。着色剤としては、トナーの色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。トナーを用いて高画質の画像を形成するためには、着色剤の量が、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
トナーコアは、黒色着色剤を含有していてもよい。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。また、黒色着色剤は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤であってもよい。
トナーコアは、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、又はシアン着色剤のようなカラー着色剤を含有していてもよい。
イエロー着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリールアミド化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、又は194)、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、又はC.I.バットイエローを好適に使用できる。
マゼンタ着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。マゼンタ着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、又は254)を好適に使用できる。
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。シアン着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、又は66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、又はC.I.アシッドブルーを好適に使用できる。
(離型剤)
離型剤は、例えば、トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させる目的で使用される。トナー粒子の表層部に存在する離型剤の量を適量にするためには、トナーコア中の離型剤の量(複数種の離型剤を使用する場合には、それら離型剤の合計量)が、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
離型剤としては、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、又はフィッシャートロプシュワックスのような脂肪族炭化水素ワックス;酸化ポリエチレンワックス又はそのブロック共重合体のような脂肪族炭化水素ワックスの酸化物;キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう、又はライスワックスのような植物性ワックス;みつろう、ラノリン、又は鯨ろうのような動物性ワックス;オゾケライト、セレシン、又はペトロラタムのような鉱物ワックス;モンタン酸エステルワックス又はカスターワックスのような脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスのような、脂肪酸エステルの一部又は全部が脱酸化したワックスを好適に使用できる。1種類の離型剤を単独で使用してもよいし、複数種の離型剤を併用してもよい。
結着樹脂と離型剤との相溶性を改善するために、相溶化剤をトナーコアに添加してもよい。
(電荷制御剤)
トナーコアは、電荷制御剤を含有していてもよい。電荷制御剤は、例えば、トナーの帯電安定性又は帯電立ち上がり特性を向上させる目的で使用される。トナーの帯電立ち上がり特性は、短時間で所定の帯電レベルにトナーを帯電可能か否かの指標になる。
トナーコアに負帯電性の電荷制御剤(より具体的には、有機金属錯体又はキレート化合物等)を含有させることで、トナーコアのアニオン性を強めることができる。また、トナーコアに正帯電性の電荷制御剤(より具体的には、ピリジン、ニグロシン、又は4級アンモニウム塩等)を含有させることで、トナーコアのカチオン性を強めることができる。ただし、トナーにおいて十分な帯電性が確保される場合には、トナーコアに電荷制御剤を含有させる必要はない。
(磁性粉)
トナーコアは、磁性粉を含有していてもよい。磁性粉の材料としては、例えば、強磁性金属(より具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、又はこれら金属の1種以上を含む合金等)、強磁性金属酸化物(より具体的には、フェライト、マグネタイト、又は二酸化クロム等)、又は強磁性化処理が施された材料(より具体的には、熱処理により強磁性が付与された炭素材料等)を好適に使用できる。1種類の磁性粉を単独で使用してもよいし、複数種の磁性粉を併用してもよい。
磁性粉からの金属イオン(例えば、鉄イオン)の溶出を抑制するためには、磁性粉を表面処理することが好ましい。酸性条件下でトナーコアの表面にシェル層を形成する場合に、トナーコアの表面に金属イオンが溶出すると、トナーコア同士が固着し易くなる。磁性粉からの金属イオンの溶出を抑制することで、トナーコア同士の固着を抑制することができると考えられる。
[シェル層]
シェル層は、粒状感のない膜であってもよいし、粒状感のある膜であってもよい。シェル材料として水溶性材料を使用して水性媒体中でシェル層を形成する場合、シェル層として、粒状感のない膜が形成されると考えられる。シェル材料として樹脂粒子を使用した場合、材料(樹脂粒子)が完全に溶けて膜状の形態で硬化すれば、シェル層として、粒状感のない膜が形成されると考えられる。他方、材料(樹脂粒子)が完全に溶けずに膜状の形態で硬化すれば、シェル層として、樹脂粒子が2次元的に連なった形態を有する膜(粒状感のある膜)が形成されると考えられる。例えば液中でトナーコアの表面に樹脂粒子を付着させて、液を加熱することで、樹脂粒子を溶かして(又は、変形させて)膜化することができる。ただし、乾燥工程で加熱されて、又は外添工程で物理的な衝撃力を受けて、樹脂粒子の膜化が進行してもよい。シェル層全体が一体的に形成されるとは限らない。シェル層は、単一の膜であってもよいし、互いに離間して存在する複数の膜(島)の集合体であってもよい。
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、シェル層が、熱可塑性樹脂(より具体的には、前述の「好適な熱可塑性樹脂」等)を含有することが好ましい。
トナーの帯電安定性を向上させるためには、シェル層を構成する樹脂が疎水性を有することが好ましい。樹脂が十分な疎水性を有するためには、樹脂に含まれる全ての繰返し単位のうち、親水性官能基を有する繰返し単位の割合が、10質量%以下であることが好ましい。親水性官能基は、酸基(より具体的には、カルボキシル基又はスルホ基等)、水酸基、及びこれらの塩(より具体的には、−COONa、−SO3Na、又は−ONa等)である。疎水性の強さ(又は親水性の強さ)は、例えば水滴の接触角(水の濡れ易さ)で表すことができる。水滴の接触角が大きいほど疎水性が強い。
トナーの帯電安定性を向上させるためには、シェル層が、1種以上のスチレン系モノマー(例えば、スチレン)と1種以上のアクリル酸系モノマー(例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル)との共重合体を含有することが特に好ましい。スチレン−アクリル酸系樹脂は、ポリエステル樹脂と比べて、疎水性が強く、正帯電し易い傾向がある。また、十分な疎水性を有するシェル層でトナーコアを均一に覆うためには、シェル層に含有されるスチレン−アクリル酸系樹脂が、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、又はメタクリル酸2−ヒドロキシプロピルに由来する繰返し単位を含むことが好ましく、この繰返し単位以外には、親水性官能基を有する繰返し単位を含まないことが特に好ましい。シェル層が十分強い疎水性と適度な強度とを有するためには、シェル層を構成するスチレン−アクリル酸系樹脂に含まれる繰返し単位のうち最も高いモル分率を有する繰返し単位が、スチレン系モノマーに由来する繰返し単位であることが好ましい。なお、ビニル化合物は、炭素二重結合「C=C」により付加重合することで、高分子(樹脂)中に繰返し単位として組み込まれる。ビニル化合物は、ビニル基(CH2=CH−)、又はビニル基中の水素が置換された基を有する化合物である。ビニル化合物の例としては、エチレン、プロピレン、ブタジエン、塩化ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、又はスチレンが挙げられる。
[外添剤]
トナー母粒子の表面には、外添剤(詳しくは、複数の外添剤粒子を含む粉体)が付着している。詳しくは、トナー粒子は、外添剤として複数のシリカ粒子を備える。また、逆帯電トナーの発生(ひいては、かぶりの発生)を抑制するためには、トナー粒子が、外添剤として複数の樹脂粒子(特に好ましくは、スチレン−アクリル酸系樹脂粒子)をさらに備えることが好ましい。なお、樹脂粒子を構成するスチレン−アクリル酸系樹脂中に添加剤が分散していてもよい。
表面処理剤によりシリカ粒子の表面に疎水性及び/又は正帯電性が付与されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、カップリング剤(より具体的には、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、又はアルミネートカップリング剤等)、又はシリコーンオイル(より具体的には、ジメチルシリコーンオイル等)を好適に使用できる。シランカップリング剤として、シラン化合物(より具体的には、メチルトリメトキシシラン、又はアミノシラン等)を使用してもよいし、シラザン化合物(より具体的には、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)等)を使用してもよい。シリカ粒子の表面が表面処理剤で処理されると、シリカ粒子の表面に存在する多数の水酸基(−OH)が部分的に又は全体的に、表面処理剤に由来する官能基に置換される。その結果、表面処理剤に由来する官能基(詳しくは、水酸基よりも疎水性及び/又は正帯電性の強い官能基)を表面に有するシリカ粒子が得られる。例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いてシリカ粒子の表面を処理した場合、シランカップリング剤の水酸基(例えば、水分によりシランカップリング剤のアルコキシ基が加水分解されて生成する水酸基)がシリカ粒子の表面に存在する水酸基と脱水縮合反応(「A(シリカ粒子)−OH」+「B(カップリング剤)−OH」→「A−O−B」+H2O)する。こうした反応により、アミノ基を有するシランカップリング剤とシリカ粒子とが化学結合することで、シリカ粒子の表面にアミノ基が付与される。より詳しくは、シリカ粒子の表面に存在する水酸基が、端部にアミノ基を有する官能基(より具体的には、−O−Si−(CH2)3−NH2等)に置換される。アミノ基が付与されたシリカ粒子は、未処理のシリカ粒子(シリカ基体)よりも強い正帯電性を有する傾向がある。また、アルキル基を有するシランカップリング剤を用いた場合には、上記脱水縮合反応により、シリカ粒子の表面に存在する水酸基を、端部にアルキル基を有する官能基(より具体的には、−O−Si−CH3等)に置換することができる。このように、親水性基(水酸基)の代わりに疎水性基(アルキル基)が付与されたシリカ粒子は、未処理のシリカ粒子(シリカ基体)よりも強い疎水性を有する傾向がある。
[トナーの製造方法]
前述の基本構成を有するトナーを容易かつ好適に製造するためには、例えば、以下に示すシェル層形成工程と、第1外添工程と、第2外添工程とを含むトナーの製造方法が好ましい。なお、市販のトナー(非カプセルトナー粒子)をトナーコアとして使用してもよいし、シェル層形成工程に先立ち、次に示す方法でトナーコアを作製してもよい。
(コア準備工程)
好適なトナーコアを容易に得るためには、凝集法又は粉砕法によりトナーコアを作製することが好ましい。また、前述の基本構成を有するトナーを容易かつ適切に製造するためには、粉砕法によりトナーコアを作製することが特に好ましい。
以下、粉砕法の一例について説明する。まず、結着樹脂と、内添剤(例えば、着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉の少なくとも1つ)とを混合する。続けて、得られた混合物を溶融混練する。続けて、得られた溶融混練物を冷却する。続けて、冷却された溶融混練物を粉砕し、得られた粉砕物を分級する。その結果、所望の粒子径を有するトナーコアが得られる。
(シェル層形成工程)
シェル層形成工程では、結着樹脂を含有するトナーコアと、個数平均1次粒子径30nm以上60nm以下の樹脂粒子のサスペンションとを含む液中で、樹脂粒子のサスペンションを加熱により膜化して、トナーコアと、トナーコアの表面を覆うシェル層とを備えるトナー母粒子を得る。
例えば、水性媒体(より具体的には、イオン交換水等)を準備する。なお、水性媒体は、水を主成分とする媒体(より具体的には、純水、又は水と極性媒体との混合液等)である。水性媒体は溶媒として機能してもよい。水性媒体中に溶質が溶けていてもよい。水性媒体は分散媒として機能してもよい。水性媒体中に分散質が分散していてもよい。水性媒体中の極性媒体としては、例えば、アルコール(より具体的には、メタノール又はエタノール等)を使用できる。水性媒体の沸点は約100℃である。
続けて、酸性物質(例えば、塩酸)を用いて水性媒体のpHを3.0以上6.0以下に調整する。続けて、pHが調整された水性媒体(酸性の水性媒体)に、トナーコアと、シェル材料とを添加する。シェル材料として、個数平均1次粒子径30nm以上60nm以下の樹脂粒子のサスペンションを使用する。シェル層の膜質を向上させるためには、樹脂粒子(シェル材料)の個数平均1次粒子径が30nm以上60nm以下であることが好ましい。樹脂粒子(シェル材料)としては、例えば、1種以上のスチレン系モノマー(例えば、スチレン)と1種以上のアクリル酸系モノマー(例えば、アクリル酸ブチル、及びメタクリル酸2−ヒドロキシエチル)との共重合体の粒子を使用できる。シェル材料の添加量を多くするほど、形成されるシェル層の厚さが厚くなる傾向がある。
トナーコア及びシェル材料を水性媒体に添加すると、水性媒体中でトナーコアの表面にシェル材料(例えば、サスペンションに含まれる樹脂粒子)が付着すると考えられる。トナーコアの表面に均一にシェル材料を付着させるためには、シェル材料を含む液中にトナーコアを高度に分散させることが好ましい。液中にトナーコアを高度に分散させるために、液中に界面活性剤を含ませてもよいし、強力な攪拌装置(例えば、プライミクス株式会社製「ハイビスディスパーミックス」)を用いて液を攪拌してもよい。界面活性剤としては、例えば、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩、又は石鹸を使用できる。
続けて、トナーコア及びシェル材料を含む上記液を攪拌しながら液の温度を所定の速度(例えば、0.1℃/分以上3℃/分以下から選ばれる速度)で所定の保持温度(例えば、50℃以上85℃以下から選ばれる温度)まで上昇させる。さらに、液を攪拌しながら液の温度を上記保持温度に所定の時間(例えば、30分間以上4時間以下から選ばれる時間)保つ。保持時間を長くするほどシェル被覆率が大きくなる傾向がある。液の温度を高温に保っている間(又は、昇温中)に、シェル材料が膜化するとともに、トナーコアとシェル材料との結合(シェル層の固定化)が進行すると考えられる。シェル材料がトナーコアと結合することで、シェル層が形成される。例えば、トナーコアの表面でシェル材料の粒子(サスペンションに含まれる非水溶性熱可塑性樹脂の粒子)が熱で溶けて(又は、変形して)2次元的に連なって、粒状感のある膜(シェル層)が形成される。
上記のように、液中でトナーコアの表面に樹脂粒子を付着させて、液を加熱することで、樹脂粒子を溶かして(又は、変形させて)膜化することができる。ただし、乾燥工程で加熱されて、又は外添工程で物理的な衝撃力を受けて、樹脂粒子の膜化が進行してもよい。
上記のようにして、液中でトナーコアの表面にシェル層を形成することで、トナー母粒子の分散液が得られる。続けて、例えばブフナー漏斗を用いて、得られたトナー母粒子の分散液をろ過する。これにより、トナー母粒子が液から分離(固液分離)され、ウェットケーキ状のトナー母粒子が得られる。続けて、得られたウェットケーキ状のトナー母粒子を洗浄する。洗浄後、次に示す第1外添工程を行う。
(第1外添工程)
第1外添工程では、真空攪拌乾燥機を用いて、減圧雰囲気(好ましくは、圧力50kPa以下の雰囲気)において、温度40℃以上50℃以下で、トナー母粒子と第1シリカ粒子(例えば、個数平均1次粒子径10nm以上30nm以下のシリカ粒子)とを攪拌することにより、第1シリカ粒子を、トナー母粒子に50%以上埋め込まれた状態でトナー母粒子の表面に付着させて、埋没シリカ粒子を備える第1外添後トナー母粒子(第1外添処理が施されたトナー母粒子)を得る。攪拌速度(詳しくは、真空攪拌乾燥機の攪拌羽根の回転速度)は、例えば25rpm以上35rpm以下であることが好ましい。第1外添工程の攪拌条件を変えることによって、トナー母粒子の表面に所望の量の埋没シリカ粒子を的確に付着させることが可能になる。例えば、攪拌時の温度を高くするほど埋没シリカ粒子の量が増える傾向がある。また、攪拌速度を速くするほど埋没シリカ粒子の量が増える傾向がある。トナー母粒子と第1シリカ粒子とを高温かつ高速で攪拌することにより、第1シリカ粒子が埋没シリカ粒子になり易くなる。また、減圧雰囲気において比較的高温の条件でトナー母粒子と第1シリカ粒子とを攪拌することで、トナー母粒子を乾燥させることができる。そのため、シェル層形成後の乾燥工程が不要になり、製造工程数の削減が図られる。第1シリカ粒子としては、表面処理により正帯電性が付与されたシリカ粒子を使用してもよいし、表面処理されていないシリカ粒子(シリカ基体)を使用してもよい。
上記真空攪拌乾燥機としては、例えばアペックスミキサ(大平洋機工株式会社製)を使用できる。アペックスミキサは、温度調節用ジャケット付き混合槽(詳しくは、真空から大気圧付近まで調圧可能な混合槽)を備え、混合槽内に、モーターにより駆動されて回転する主軸と、主軸に固定されたスキ型ショベル羽根(攪拌羽根)と、独立駆動式のチョッパーと、温度センサーとをさらに備える。混合槽の外に、駆動部としてモーター及び減速機が設けられている。モーターの回転軸が減速機を介して混合槽内の主軸に連結されている。スキ型ショベル羽根は、主軸の回転に応じて回転する。混合槽内に投入された材料(より具体的には、粉体又はスラリー等)を混合する場合、スキ型ショベル羽根の回転により、混合槽内で材料の浮遊拡散混合が行われる。チョッパーは、高速回転により材料に剪断力を与える。チョッパーにより材料に剪断力を与えながらスキ型ショベル羽根による材料の混合(浮遊拡散混合)を行うことで、強力な混合力で材料を混合することが可能になる。
(第2外添工程)
第2外添工程では、例えば混合装置を用いて、少なくとも「第1シリカ粒子の個数平均1次粒子径±5%」の個数平均1次粒子径を有する第2シリカ粒子を含む外添剤と、第1外添後トナー母粒子とを混合することにより、第1外添後トナー母粒子の表面に外添剤を付着させる。第1シリカ粒子の個数平均1次粒子径をD1、第2シリカ粒子の個数平均1次粒子径をD2と、それぞれ表す場合、関係式「D1−(D1×0.05)≦D2≦D1+(D1×0.05)」を満たす。例えば、第1シリカ粒子の個数平均1次粒子径が10.0nmであれば、第2シリカ粒子の個数平均1次粒子径は9.5nm以上10.5nm以下である。第2シリカ粒子としては、表面処理により正帯電性が付与されたシリカ粒子を使用してもよいし、表面処理されていないシリカ粒子(シリカ基体)を使用してもよい。逆帯電トナーの発生(ひいては、かぶりの発生)を抑制するためには、第2シリカ粒子に加えて、樹脂粒子(特に好ましくは、スチレン−アクリル酸系樹脂粒子)も、外添剤として使用し、それら第2シリカ粒子及び樹脂粒子を、第1外添後トナー母粒子の表面に付着させることが好ましい。第2外添工程の混合条件を変えることによってトナーのシリカ遊離率を調整することができる。例えば、第2外添工程における混合時間を長くするほどトナーのシリカ遊離率が小さくなる傾向がある。
第2外添工程における上記混合装置としては、例えばFMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を使用できる。FMミキサーは、温度調節用ジャケット付きの混合槽を備え、混合槽内に、デフレクタと、温度センサーと、上羽根と、下羽根とをさらに備える。FMミキサーを用いて、混合槽内に投入された材料(より具体的には、粉体又はスラリー等)を混合する場合、下羽根の回転により、混合槽内の材料が旋回しながら上下方向に流動する。これにより、混合槽内に材料の対流が生じる。上羽根は、高速回転して、材料に剪断力を与える。FMミキサーは、材料に剪断力を与えることで、強力な混合力で材料を混合することを可能にしている。
上記工程により、トナー粒子を多数含むトナーを製造することができる。なお、必要のない工程は割愛してもよい。例えば、市販品をそのまま材料として用いることができる場合には、市販品を用いることで、その材料を調製する工程を割愛できる。また、液のpHを調整しなくても、シェル層を形成するための反応が良好に進行する場合には、pH調整工程を割愛してもよい。樹脂を合成する場合、樹脂を合成するための材料としては、モノマーを使用してもよいし、プレポリマーを使用してもよい。また、所定の化合物を得るために、原料として、その化合物の塩、エステル、水和物、又は無水物を使用してもよい。効率的にトナーを製造するためには、多数のトナー粒子を同時に形成することが好ましい。同時に製造されたトナー粒子は、互いに略同一の構成を有すると考えられる。
本発明の実施例について説明する。表1及び表2に、実施例又は比較例に係るトナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−9(それぞれ静電潜像現像用トナー)を示す。表2中、「埋没シリカ粒子の割合」は、トナー粒子が備える全てのシリカ粒子のうち、埋没シリカ粒子が占める個数割合(XE)を意味する。表2中、「厚さ比率(シリカ/シェル)」は、シェル層の厚さに対するシリカ層の厚さの比率(TA/TB)を意味する。
以下、トナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−9の製造方法、評価方法、及び評価結果について、順に説明する。なお、誤差が生じる評価においては、誤差が十分小さくなる相当数の測定値を得て、得られた測定値の算術平均を評価値とした。
[トナーの製造]
(トナーコアの作製)
低粘度ポリエステル樹脂(Tg=38℃、Tm=65℃)750gと、中粘度ポリエステル樹脂(Tg=53℃、Tm=84℃)100gと、高粘度ポリエステル樹脂(Tg=71℃、Tm=120℃)150gと、離型剤(株式会社加藤洋行製「カルナウバワックス1号」、カルナバワックス)55gと、着色剤(DIC株式会社製「KET BLUE 111」、フタロシアニンブルー)40gとを、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて回転速度2400rpmで混合した。
続けて、得られた混合物を、二軸押出機(株式会社池貝製「PCM−30」)を用いて、材料供給速度5kg/時、軸回転速度160rpm、設定温度範囲(シリンダー温度)80℃以上110℃以下の条件で、溶融混練した。続けて、得られた溶融混練物を、二軸押出機(PCM−30)の冷却ロールに通して圧延冷却した。続けて、冷却された溶融混練物を、粉砕機(旧東亜機械製作所製「ロートプレックス16/8型」)を用いて粗粉砕した。続けて、得られた粗粉砕物を、機械式粉砕機(フロイント・ターボ株式会社製「ターボミルT250」)を用いて微粉砕した。続けて、得られた微粉砕物を、分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェットEJ−LABO型」)を用いて分級した。その結果、体積中位径(D50)6μmのトナーコアが得られた。
(サスペンションAの調製)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコを、温度30℃のウォーターバスにセットした。続けて、フラスコ内に、イオン交換水875mLと、アニオン界面活性剤(花王株式会社製「ラテムル(登録商標)WX」、成分:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、固形分濃度:26質量%)75mLとを入れた。その後、フラスコ内容物を攪拌しながら、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を80℃に昇温させた。続けて、80℃のフラスコ内容物を攪拌しながら、2種類の液(第1の液及び第2の液)をそれぞれ5時間かけてフラスコ内に滴下した。第1の液は、スチレン14gと、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)4gと、アクリル酸ブチル2gとの混合液であった。第2の液は、過硫酸カリウム0.5gをイオン交換水30mLに溶かした溶液であった。
続けて、フラスコ内の温度を80℃に保ちつつ、フラスコ内容物をさらに2時間攪拌して、フラスコ内容物の重合反応を十分に進行させた。その結果、樹脂微粒子(疎水性樹脂)のサスペンションA(固形分濃度10質量%)が得られた。得られたサスペンションAに含まれる樹脂粒子に関して、個数平均1次粒子径は38nmであった。個数平均1次粒子径の測定には、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製「JSM−6700F」)を用いた。サスペンションAに含まれる樹脂粒子をテトラヒドロフラン(THF)に投入したところ、樹脂粒子は、膨潤したが、溶解しなかった。
(サスペンションBの調製)
樹脂微粒子(疎水性樹脂)のサスペンションB(固形分濃度10質量%)の調製方法は、第1の液及び第2の液の各々の滴下時間を5時間から7時間に変更した以外は、サスペンションAの調製方法と同じであった。得られたサスペンションBに含まれる樹脂粒子に関して、個数平均1次粒子径は42nmであった。サスペンションBに含まれる樹脂粒子をテトラヒドロフラン(THF)に投入したところ、樹脂粒子は、膨潤したが、溶解しなかった。
(シェル層の形成)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコを準備し、フラスコ内に、イオン交換水500mLと、ポリアクリル酸ナトリウム(東亞合成株式会社製「ジュリマー(登録商標)AC−103」)50gとを添加した。その結果、フラスコ内にポリアクリル酸ナトリウム水溶液が得られた。
続けて、前述の手順で作製したトナーコア100gをフラスコ内に添加した。続けて、フラスコ内容物を室温(約25℃)で十分攪拌した。その結果、フラスコ内にトナーコアの分散液が得られた。
続けて、得られたトナーコアの分散液を目開き3μmの濾紙を用いて濾過して、トナーコアを濾別した。続けて、得られたトナーコアをイオン交換水に再分散させた。その後、濾過と分散とを5回繰り返すことにより、トナーコアを洗浄した。続けて、フラスコ内でイオン交換水500gにトナーコア100gを分散させて、トナーコアの懸濁液を得た。
続けて、フラスコ内にシェル材料(各トナーに定められた、表1に示すサスペンションA又はB)6.5gを添加して、トナーコア及びシェル材料を含む懸濁液を得た。例えば、トナーTA−1の製造では、シェル材料としてサスペンションAを使用した。また、トナーTA−8の製造では、シェル材料としてサスペンションBを使用した。続けて、フラスコ内に希塩酸を加えて、フラスコ内の懸濁液のpHを4に調整した。
続けて、pHが4に調整された懸濁液を、温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lのセパラブルフラスコに移し、そのフラスコを温度30℃のウォーターバスにセットした。続けて、フラスコ内容物を回転速度100rpmで攪拌しながら、1℃/分の速度でフラスコ内容物を温度65℃まで昇温させて、その温度(65℃)に所定の保持時間(各トナーに定められた、表1に示す時間)だけ保った。例えば、トナーTA−1の製造では、フラスコ内容物を、温度65℃に昇温させた後、温度65℃で45分間保った。
続けて、フラスコ内に冷水を入れて、フラスコ内容物を常温(約25℃)まで急冷した。その結果、トナー母粒子を含む分散液が得られた。
(洗浄)
上記のようにして得られたトナー母粒子の分散液を、ブフナー漏斗を用いてろ過(固液分離)した。その結果、ウェットケーキ状のトナー母粒子が得られた。その後、得られたウェットケーキ状のトナー母粒子をイオン交換水に再分散させた。さらに、分散とろ過とを5回繰り返して、トナー母粒子を洗浄した。
(第1外添)
続けて、真空攪拌乾燥機(大平洋機工株式会社製「アペックスミキサWB−5」、攪拌羽根:スキ型ショベル羽根)を用いて、減圧雰囲気(圧力3.5kPa)、所定の温度(表1に示す温度)かつ所定の攪拌速度(表1に示す速度)の条件で、前述の手順で作製したトナー母粒子100質量部と、正帯電性シリカ粒子(表面処理により正帯電性が付与されたシリカ粒子:日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)REA90」、個数平均1次粒子径:20nm)0.5質量部とを240分間混合するとともに、トナー母粒子を乾燥した。例えば、トナーTA−1の製造における第1外添工程では、温度が45℃であり、攪拌速度(スキ型ショベル羽根の回転速度)が30rpmであった。真空攪拌乾燥機を用いた上記攪拌処理(混合)により、第1外添後トナー母粒子(第1外添処理が施されたトナー母粒子)が得られた。第1外添後トナー母粒子は、埋没シリカ粒子を備えていた。
(第2外添)
温度調節用のジャケットを備える容量10LのFMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて、温度20℃の水をジャケットに循環させながら、前述の手順で作製した第1外添後トナー母粒子100質量部と、正帯電性シリカ粒子(表面処理により正帯電性が付与されたシリカ粒子:日本アエロジル株式会社製「AEROSIL REA90」、個数平均1次粒子径:20nm)1質量部と、樹脂粒子(日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製「ファインスフェア(登録商標)FS−102」、成分:非架橋スチレン−アクリル酸樹脂、個数平均1次粒子径:100nm、Tg:103℃、Tm:225℃)1質量部とを、回転速度2400rpmで所定の処理時間(各トナーに定められた、表1に示す処理時間)だけ混合することにより、トナー母粒子の表面に外添剤(シリカ粒子及び樹脂粒子)を付着させた。例えば、トナーTA−1の製造では、処理時間(混合時間)が10分間であった。
その後、得られた粉体を、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別して、多数のトナー粒子を含むトナー(トナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−9)を得た。
上記のようにして得られたトナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−9に関して、シェル被覆率と、埋没シリカ粒子の割合(XE)と、シェル層の厚さに対するシリカ層の厚さの比率(TA/TB)と、シリカ遊離率とを、それぞれ下記方法により測定した。測定結果は、表2に示されている。例えばトナーTA−1では、シェル被覆率が70%であり、埋没シリカ粒子の割合(XE)が29個数%であり、シェル層の厚さに対するシリカ層の厚さの比率(TA/TB)が1.5であり、シリカ遊離率が3.1%であった。なお、いずれの試料でも(すなわち、トナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−9の全てで)、シェル層の厚さが30nm以上45nm以下であった。また、各トナーについて、シリカ粒子の個数平均1次粒子径(Dx)と、埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径と非埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径との差(ΔD)とを、下記方法により測定した。いずれの試料でも(すなわち、トナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−9の全てで)、関係式「ΔD≦Dx×0.1」を満足していた。この理由は、第1外添と第2外添とで、同一のシリカ粒子(市販品:AEROSIL REA90)を使用したからであると考えられる。
<トナー粒子の撮像>
測定装置として、走査型プローブ顕微鏡(SPM)(株式会社日立ハイテクサイエンス製「多機能型ユニットAFM5200S」)を備えたSPMプローブステーション(株式会社日立ハイテクサイエンス製「NanoNaviReal」)を用いた。測定に先立ち、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製「JSM−6700F」)を用いて、試料(トナー)に含まれるトナー粒子のうち平均的なトナー粒子を選び、選ばれたトナー粒子を測定対象とした。
(SPM条件)
・測定探針:低バネ定数シリコンカンチレバー(オリンパス株式会社製「OMCL−AC240TS−C3」、バネ定数:2N/m、共振周波数:70kHz、背面反射コート材:アルミニウム)
・測定モード:DFM(ダイナミック・フォース・モード)
・測定範囲(1つの視野):1μm×1μm
・解像度(Xデータ/Yデータ):256/256
・Qゲイン:1倍
・走査周波数:1Hz
上記測定モード(DFM)により、カンチレバー(先端部:探針)を共振させた状態で、振動するカンチレバーの振幅が一定になるように探針とトナー粒子との間の距離を制御しながらトナー粒子の形状像(表面形状を示す画像、及びトナー粒子の断面像)を得た。得られた形状像について、画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF」)及びGIMP(GNU Image Manipulation Program:GNU General Public Licenseで配布されている画像編集・加工ソフトウェア)を用いて画像解析を行った。
(シェル被覆率)
シェル被覆率の測定では、上記のようにして得た表面形状を示す画像において、上記画像解析により、シェル被覆領域(シェル層で覆われるトナーコアの表面領域)を特定した。そして、式「シェル被覆率(単位:%)=100×シェル被覆領域の面積/トナーコア表面領域の面積」に基づいて、シェル被覆率を算出した。なお、各視野において、トナーコア表面領域の面積は1μm2(測定範囲の面積)であった。1つのトナー粒子について視野を変えながら5箇所のシェル被覆率を測定した。そして、測定された5箇所のシェル被覆率の算術平均値を、測定対象である1個のトナー粒子のシェル被覆率とした。試料(トナー)に含まれる10個のトナー粒子についてそれぞれシェル被覆率を測定した。10個のトナー粒子の個数平均値を、試料(トナー)の評価値(シェル被覆率)とした。
(シリカ粒子の粒子径及び個数)
ウルトラミクロトーム(ライカマイクロシステムズ株式会社製「EM UC6」)を用いてトナー粒子を切断し、トナー粒子の断面を得た。得られたトナー粒子の断面を、真空蒸着装置(日本電子株式会社製「JEE−420」)を用いてカーボン蒸着した後、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製「JSM−6700F」)を用いて、加速電圧30kVかつ倍率10万倍の条件で撮影して、トナー粒子の断面像を得た。シリカ粒子の粒子径及び個数の測定では、トナー粒子の断面像中の全てのシリカ粒子を測定対象とした。トナー粒子の断面像に基づき、各シリカ粒子(それぞれ測定対象)について、埋没シリカ粒子と非埋没シリカ粒子とのいずれであるかを判別するとともに、その粒子径(円相当径)を測定することによって、シリカ粒子(測定対象全部)の個数平均1次粒子径(Dx)と、埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径(DA)と、非埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径(DB)と、埋没シリカ粒子の個数(NA)と、非埋没シリカ粒子の個数(NB)とを求めた。そして、埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径(DA)と非埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径(DB)との差ΔD(=|DA−DB|)を算出した。また、NA及びNBに基づいて、埋没シリカ粒子の割合XE(=100×NA/(NA+NB))を算出した。さらに、試料(トナー)に含まれる10個のトナー粒子についてそれぞれ、Dx、ΔD、及びXEを測定し、算術平均(トナー粒子ごとに測定された10個のデータの平均)をとって、その試料(トナー)の評価値(Dx、ΔD、及びXE)を得た。
(シリカ層の厚さ、シェル層の厚さ)
上記シリカ粒子の粒子径及び個数の測定と同様にして、トナー粒子の断面像を得た。シリカ層の厚さ(TA)及びシェル層の厚さ(TB)の測定では、トナー粒子の断面像において、上記画像解析により、10本の直線を等間隔で引いた。そして、前述の手法(図3及び図4(a)〜(c)参照)で、10本の直線の各々において、シリカ層の厚さ(最も低い位置にあるシリカ粒子の底面から、最も高い位置にあるシリカ粒子の頂面までの長さ)とシェル層の厚さ(トナーコアの表面からシェル層の表面までの長さ)とを求めた。そして、得られた測定値の算術平均(直線ごとに測定された10個のデータの平均)をとって、そのトナー粒子のシリカ層の厚さ(詳しくは、平均厚さ)及びシェル層12の厚さ(詳しくは、平均厚さ)を求めた。さらに、試料(トナー)に含まれる10個のトナー粒子についてそれぞれシリカ層の厚さとシェル層の厚さとを測定し、各厚さについて算術平均(トナー粒子ごとに測定された10個のデータの平均)をとって、その試料(トナー)の評価値(シリカ層の厚さ及びシェル層の厚さ:TA及びTB)を得た。そして、シェル層の厚さに対するシリカ層の厚さの比率(TA/TB)を算出した。
<シリカ遊離率の測定方法>
試料(トナー)に対して、トナーから遊離シリカ粒子を取り除くための分級処理を行った。詳しくは、100TTSP型分級機(ホソカワミクロン株式会社製)を用いて、試料供給量100g/分、回転速度12000rpm、ブロワ風量6m3/分の条件で、試料(トナー)に対して気流式の分級処理を行った。
分級処理の前及び後の各々において、試料(トナー)のSi強度(Net強度)を蛍光X線分析により下記条件で測定した。
(蛍光X線分析の条件)
分析装置:走査型蛍光X線分析装置(株式会社リガク製「ZSX」)
X線管球(X線源):Rh(ロジウム)
励起条件:管電圧50kV、管電流50mA
測定領域(X線照射範囲):直径30mm
測定元素:Si(珪素)
上記蛍光X線によるトナーの組成分析により、遊離シリカ粒子除去前のSi強度(SiA)と、遊離シリカ粒子除去後のSi強度(SiB)とを測定した。そして、式「SiX=100×(SiA−SiB)/SiA」で表されるシリカ遊離率SiX(単位:%)を求めた。
[評価方法]
各試料(トナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−9)の評価方法は、以下のとおりである。
(耐熱保存性)
試料(トナー)3gを容量20mLのポリエチレン製容器に入れて密閉し、密閉された容器を、50℃に設定された恒温槽内に3時間静置した。その後、恒温槽から取り出したトナーを室温(約25℃)まで冷却して、評価用トナーを得た。
続けて、得られた評価用トナーを、質量既知の目開き150μmの篩に載せた。そして、評価用トナーを含む篩の質量を測定し、篩別前のトナーの質量W1を求めた。続けて、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)に上記篩をセットし、パウダーテスターのマニュアルに従い、レオスタッド目盛り2の条件で30秒間、篩を振動させ、評価用トナーを篩別した。篩別後、篩を通過しなかったトナー(篩上に残留したトナー)の質量(篩別後のトナーの質量W2)を測定した。そして、篩別前のトナーの質量W1と、篩別後のトナーの質量W2とに基づいて、次の式に従ってトナー通過率W0(単位:質量%)を求めた。
W0=100×(W1−W2)/W1
トナー通過率が80質量%以上であれば○(良い)と評価し、トナー通過率が60質量%超80質量%未満であれば△(ふつう)と評価し、トナー通過率が60質量%以下であれば×(悪い)と評価した。
(評価用現像剤の調製)
現像剤用キャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の「FS−C5300DN」用キャリア)100質量部と、試料(トナー)10質量部とを、ボールミルを用いて30分間混合して、評価用現像剤(2成分現像剤)を調製した。
(評価機の準備)
評価機として、プリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5300DN」)を用いた。上述のようにして調製した評価用現像剤を評価機の現像装置に投入し、評価機のトナーコンテナに試料(補給用トナー)を投入した。
(帯電性、帯電安定性)
上記評価機を用いて、温度25℃かつ湿度50%RHの環境下で、印字率10%の連続印刷を1万枚の紙(A4サイズの印刷用紙)に対して行った。連続印刷中、印刷開始から1000枚までは200枚ごとに、それ以降は1000枚ごとに、Q/mメーター(トレック社製「MODEL 210HS−1」)を用いて、下記方法により上記評価機の現像装置内のトナーの帯電量を測定した。
<現像剤中のトナーの帯電量の測定方法>
Q/mメーターの測定セルに現像剤(キャリア及びトナー)0.10gを投入し、投入された現像剤のうちトナーのみを篩(金網)を介して10秒間吸引した。そして、式「吸引されたトナーの総電気量(単位:μC)/吸引されたトナーの質量(単位:g)」に基づいて、現像剤中のトナーの帯電量(単位:μC/g)を算出した。
続けて、上記のようにして測定されたトナーの帯電量に基づき、それら帯電量の測定値の算術平均値(以下、平均帯電量と記載する)と、それら帯電量の測定値の幅(以下、帯電量差と記載する)とを算出した。帯電量差は、連続印刷中に測定された最も大きい帯電量と最も小さい帯電量との差に相当する。
平均帯電量が20μC/g以上30μC/g以下であれば○(良い)と評価し、平均帯電量が20μC/g未満又は30μC/g超であれば×(良くない)と評価した。帯電量差が10μC/g以下であれば○(良い)と評価し、帯電量差が10μC/gを超えれば×(良くない)と評価した。
(トナー飛翔)
容量20mLのプラスチック製容器に、キャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5300DN用キャリア」)100gと、試料(トナー)6gとを入れて、粉体混合機(愛知電機株式会社製「ロッキングミキサー(登録商標)」)を用いてキャリア及びトナーを10分間攪拌して、現像剤を得た。続けて、得られた現像剤を、自作の強制劣化装置(現像剤に物理的なストレスを与えて劣化させる装置)を用いて劣化させた。強制劣化装置は、容量100mLのアルミニウム製容器と、モーターで駆動されて容器内で回転する攪拌羽根とを備えていた。強制劣化装置の容器に現像剤を入れて、容器内で攪拌羽根を回転させると、現像剤が、容器の内壁と攪拌羽根との間に挟まれて劣化するようになっていた。強制劣化装置による攪拌(劣化処理)を10分間行って、劣化現像剤を得た。
続けて、容量20mLのボトルに3gの劣化現像剤を入れて、さらに試料(未劣化のトナー)を0.18g加えた。続けて、粉体混合機(愛知電機株式会社製「ロッキングミキサー」)を用いてボトル内容物を1分間攪拌した。その結果、評価用現像剤が得られた。
続けて、電界分離試験を行って飛翔トナーの量を求めた。まず、評価用現像剤を評価機(現像装置)に充填した。評価機としては、長さ230mm、直径20mmの現像ローラーを備える現像装置を用いた。現像ローラーは、SUS304製の筒(現像スリーブ)内に磁石(マグネットロール)を内包させたローラーであった。現像スリーブ上に2gの評価用現像剤を均一に載せて、現像スリーブに対して4.5mmの距離で電極をセットした。そして、現像スリーブを回転させるとともに、電極に1.5kVの電圧を30秒間印加し、電極に付着した飛翔トナー(逆帯電トナー)の量を測定した。
飛翔トナーの量が、20mg未満であれば「○(良い)」と評価し、20mg以上であれば「×(良くない)」と評価した。
(流動性)
測定装置としては、加振移送式流動性測定装置(ディーアイティー株式会社製)を用いた。この測定装置は、アルミニウム製の容器(ボウル)と、ボウルを振動させるための加振装置(駆動源)と、データ記録装置とを備える。ボウルの内面には、ボウルの中心部(底部)からボウルの上端縁にかけてスパイラル状のスロープ(坂路)が形成されている。ボウルの中心部が測定対象の投入位置(坂路のスタート位置)に相当する。また、ボウルの上端縁における坂路の頂上(坂路のゴール位置)には、排出口が設けられている。測定装置は、排出口から排出された測定対象を受けるための受け皿と、受け皿に入った測定対象の質量(移送量)を測定するための天秤とをさらに備える。加振装置は、ボウルを振動させて、ボウルに投入された測定対象に対して進行波振動を加える。この振動により、測定対象が、坂路に沿ってボウルの内面を周方向に移動して(すなわち、スパイラル状の坂路を上って)ボウルの上端縁(坂路の頂上)に到達し、受け皿に入るようになっている。データ記録装置は、移送量(受け皿に到達した測定対象の量)の推移などを記録する。データ記録装置で記録されたデータから、移送量と加振時間(駆動開始からの経過時間)との関係などを把握することができる。
温度23℃かつ湿度50%RHの環境下に8時間静置した試料(トナー)を、測定対象とした。平均移送速度の測定においては、温度23℃かつ湿度50%RHの環境下、ボウルの中心部に測定対象(上記環境下に8時間静置したトナー)1gを投入し、ストローク20%、周波数134Hz(オートチューニング)、電圧100Vの条件で、加振装置を駆動して、ボウルを振動させた。加振装置の駆動を開始した時から移送量(受け皿に到達したトナーの量)が250mgとなった時までの時間T1と、加振装置の駆動を開始した時から移送量(受け皿に到達したトナーの量)が750mgとなった時までの時間T2とを、それぞれ測定し、下記式により平均移送速度(単位:mg/秒)を算出した。
式:平均移送速度=(750−250)/(T2−T1)
平均移送速度が、3.3mg/秒以上であれば「○(良い)」と評価し、3.3mg/秒未満であれば「×(良くない)」と評価した。
[評価結果]
表3に、各試料(トナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−9)の評価結果(帯電性(平均):平均帯電量、帯電性(安定):帯電量差、耐熱保存性:トナー通過率、トナー飛翔:飛翔トナーの量、流動性:平均移送速度)をまとめて示す。
トナーTA−1〜TA−8(実施例1〜8に係るトナー)はそれぞれ、前述の基本構成を有していた。詳しくは、トナーTA−1〜TA−8ではそれぞれ、トナー粒子が、外添剤として複数のシリカ粒子を備えていた。トナー母粒子は、トナーコアと、トナーコアの表面を覆うシェル層とを備えていた。トナーコアは、結着樹脂(異なる軟化点を有する3種類のポリエステル樹脂)を含有していた。トナーコアの表面領域のうち60%以上80%以下の面積をシェル層が覆っていた(表2中の「シェル被覆率」参照)。複数のシリカ粒子は、埋没シリカ粒子と非埋没シリカ粒子とを含んでいた。埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径と非埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径との差は、絶対値でシリカ粒子の個数平均1次粒子径の10%以下であった。埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径と非埋没シリカ粒子の個数平均1次粒子径とは略同じであった。トナー粒子が備える全てのシリカ粒子のうち、埋没シリカ粒子の割合は、25個数%以上35個数%以下であった(表2中の「埋没シリカ粒子の割合」参照)。シリカ粒子は、トナー母粒子の表面にシリカ層を形成していた。シリカ層の厚さは、シェル層の厚さの1.0倍以上2.0倍以下であった(表2中の「厚さ比率(シリカ/シェル)」参照)。トナー供給量100g/分、回転速度12000rpm、ブロワ風量6m3/分の条件での気流式分級処理後に測定されるトナーのシリカ遊離率は2.0%以上4.0%以下であった(表2中の「シリカ遊離率」参照)。
表3に示されるように、トナーTA−1〜TA−8はそれぞれ、耐熱保存性、流動性、及び帯電安定性に優れていた。また、トナーTA−1〜TA−8ではそれぞれ、かぶりの原因となるトナー飛翔を抑制することができた。