JP5958464B2 - 有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法 - Google Patents
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Description
有機EL素子は、フィルム上に形成された1対の陽極と陰極との間に、有機発光物質を含有する厚さ僅か0.1μm程度の有機機能層(単層部又は多層部)で構成する薄膜型の全固体素子である。この様な有機EL素子に2〜20V程度の比較的低い電圧を印加すると、有機化合物層に陰極から電子が注入され、陽極から正孔が注入される。この電子と正孔が発光層において再結合し、エネルギー準位が伝導帯から価電子帯に戻る際にエネルギーを光として放出することにより発光が得られることが知られており、次世代の平面ディスプレイや照明として期待されている技術である。
照明用白色発光パネルにおいては、高効率・長寿命が求められており、蛍光灯や白色LEDに対して性能が低いのが現状である。
照明用の白色発光パネルの普及には、蛍光灯や白色LEDを凌駕する高効率と長寿命が求められており、様々な試みが行われている。
これに対し、近年では、有機EL素子を塗布法で作製する試みが活発に行われている。塗布法は成膜レートが短い、材料の使用効率が高いなどの観点から蒸着法に比べて、コストダウンをすることが出来ると考えられており、期待されている。
一般に、有機EL素子は多層からなるため、塗布法で有機EL素子を作製する場合は、下地を溶かさないように上層を積層する必要がある。一般的に低分子材料からなる下地を溶かさずに上層を塗布積層することは難しいため、塗布法で用いる材料は高分子を用いることが多い。
しかし、高分子材料では材料の精製が難しく、わずかな不純物が性能に大きな影響を与えてしまうため、その影響が大きく出てしまう発光層は材料を精製しやすい低分子材料を使用すると良いことが知られている。
しかし、混合領域が形成されると、正孔輸送層(HTL)に励起子が拡散しやすくなり、HTLが劣化してしまう。特に、発光層を構成する材料として、HTLよりも高T1(励起三重項エネルギー)を持つホストやドーパントを使用した場合、その問題が起きやすいと考えられ、青色リン光素子でこの技術を使うことは難しい。特許文献1では、ドーパントに蛍光性のものを使用しているが、蛍光性ドーパントを使用した場合、発光寿命がナノ秒と短いので、HTLでの劣化の影響は受けにくい。特許文献2では、白色素子ではあるもののドーパントにIr(ppy)3を用いており、緑色に近い発光で高いT1を有するものではない。
したがって、本発明の主な目的は、発光層を構成する材料として青色リン光性ドーパントを含む有機EL素子であって、低電圧でパワー効率が高く、長時間の駆動安定性に優れ、さらには高温保存時の色変化が抑制できる有機EL素子を提供することにある。
陽極と陰極との間に少なくとも4層の有機機能層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記有機機能層は塗布成膜され、
前記有機機能層は4層のうちの2層が正孔輸送層および発光層であり、
前記正孔輸送層と前記発光層との間に、前記正孔輸送層を構成する材料と前記発光層を構成する材料との両方を含む5〜15nmの混合領域を有し、
前記発光層にはリン光性ドーパントが1種以上含まれ、
前記発光層に含まれるリン光性ドーパントのうち、最も短波長の発光を有するものの発光強度のピークが500nm以下の範囲に存在し、
前記混合領域の層厚t mix と前記発光層の層厚t EML (発光層の層厚の単位はnmである。)とが、5t mix +25≦t EML ≦5t mix +45の関係を満たすことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子が提供される。
図1に示すとおり、本発明の好ましい実施形態にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子100(以下、有機EL素子ともいう)は、可撓性支持基板1を有している。可撓性支持基板1上には陽極2が形成され、陽極2上には有機機能層20が形成され、有機機能層20上には陰極9が形成されている。
有機機能層20とは、陽極2と陰極9との間に設けられている有機エレクトロルミネッセンス素子100を構成する各層をいう。
有機機能層20には、例えば、正孔注入層3、正孔輸送層4、混合層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8が含まれ、そのほかに正孔ブロック層や電子ブロック層等が含まれてもよい。
可撓性支持基板1上の陽極2,有機機能層20,陰極9は封止接着剤10を介して可撓性封止部材11によって封止されている。
たとえば、本発明に係る有機EL素子100は(i)〜(viii)の層構造を有していてもよい。
(i)可撓性支持基板/陽極/発光層/電子輸送層/陰極/熱伝導層/封止用接着剤/封止部材
(ii)可撓性支持基板/陽極/正孔輸送層/混合層/発光層/電子輸送層/陰極/熱伝導層/封止用接着剤/封止部材
(iii)可撓性支持基板/陽極/正孔輸送層/混合層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/陰極/熱伝導層/封止用接着剤/封止部材
(iv)可撓性支持基板/陽極/正孔輸送層/混合層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極/熱伝導層/封止用接着剤/封止部材
(v)可撓性支持基板/陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/混合層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極/熱伝導層/封止用接着剤/封止部材
(vi)ガラス支持体/陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極/封止部材
(vii)ガラス支持体/陽極/正孔注入層/正孔輸送層/混合層/発光層/電子注入層/陰極/封止部材
(viii)ガラス支持体/陽極/正孔注入層/正孔輸送層/混合層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極/封止部材
次いで、本発明の有機EL素子を構成する有機機能層の詳細について説明する。
(1)注入層:正孔注入層3、電子注入層8
本発明の有機EL素子においては、注入層は必要に応じて設けることができる。注入層としては電子注入層と正孔注入層があり、上記の如く陽極と発光層または正孔輸送層の間、及び陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。
本発明でいう注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機機能層間に設けられる層で、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層と電子注入層とがある。
正孔注入層は、例えば、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、正孔注入層に適用可能な正孔注入材料としては、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体等を含むポリマーやアニリン系共重合体、ポリアリールアルカン誘導体、または導電性ポリマーが挙げられ、好ましくはポリチオフェン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体であり、さらに好ましくはポリチオフェン誘導体である。
電子注入層は、例えば、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的には、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。本発明においては、上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、フッ化カリウム、フッ化ナトリウムが好ましい。その層厚(膜厚)は0.1nm〜5μm程度、好ましくは0.1〜100nm、さらに好ましくは0.5〜10nm、最も好ましくは0.5〜4nmである。
正孔輸送層を構成する正孔輸送材料としては、上記正孔注入層で適用するのと同様の化合物を使用することができるが、さらには、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノフェニル;N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1’−ビフェニル〕−4,4’−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N’,N’−テトラ−p−トリル−4,4’−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4’−ジアミノビフェニル;N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル;4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4’−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、さらには、米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4’−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4’,4’’−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
また、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、特開2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)、特表2003−519432号公報に記載されているような、いわゆるp型半導体的性質を有するとされる正孔輸送材料を用いることもできる。
正孔輸送層は、上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の層厚(膜厚)については、特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上を有する一層構造であってもよい。
これらの高分子化合物は、Makromol.Chem.,193,909頁(1992)等に記載の公知の方法で合成することができる。
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔ブロック層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層で用いてもよいし、複数層設けることもできる。例えば、正孔ブロック層/電子輸送層の組み合わせを用いることができる。
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔ブロック材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、フルオレン誘導体、カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、シロール誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、8−キノリノール誘導体等の金属錯体等が挙げられる。
その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。
これらの中でもカルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体、ピリジン誘導体等が本発明では好ましく、アザカルバゾール誘導体であることがより好ましい。
電子輸送層の層厚(膜厚)については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上を有する一層構造であってもよい。
また、本発明の半導体ナノ粒子の他に、不純物をゲスト材料としてドープしたn性の高い電子輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、同10−270172号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
有機物のアルカリ金属塩のアルカリ金属の種類としては特に制限はないが、Na、K、Csが挙げられ、好ましくはK、Cs、さらに好ましくはCsである。有機物のアルカリ金属塩としては、前記有機物とアルカリ金属の組み合わせが挙げられ、好ましくは、ギ酸Li、ギ酸K、ギ酸Na、ギ酸Cs、酢酸Li、酢酸K、酢酸Na、酢酸Cs、プロピオン酸Li、プロピオン酸Na、プロピオン酸K、プロピオン酸Cs、シュウ酸Li、シュウ酸Na、シュウ酸K、シュウ酸Cs、マロン酸Li、マロン酸Na、マロン酸K、マロン酸Cs、コハク酸Li、コハク酸Na、コハク酸K、コハク酸Cs、安息香酸Li、安息香酸Na、安息香酸K、安息香酸Cs、より好ましくは酢酸Li、酢酸K、酢酸Na、酢酸Cs、最も好ましくは酢酸Csである。
これらドープ材の含有量は、添加する電子輸送層に対し、好ましくは1.5〜35質量%であり、より好ましくは3〜25質量%であり、最も好ましくは5〜15質量%である。
以下、有機EL素子の混合層と発光層とについて詳述する。
有機EL素子を構成する混合層は、正孔輸送層の構成材料と発光層の構成材料との両方を含む混合領域である。
有機EL素子を構成する発光層は、電極または電子輸送層および正孔輸送層から注入されてくる電子および正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
ただ、現実的には、発光層は正孔輸送層上に形成され、当該正孔輸送層との間で混合層を形成している。下地と混合しない場合の理想的な発光層の層厚を「TH1」と、下地と混合した場合の現実的な発光層の層厚を「TH2」とした場合、現実的な発光層の層厚TH2は、以下の不等式(A)に示す関係を有する。
(現実的な発光層の層厚TH2)<(理想的な発光層の層厚TH1)<((混合層の層厚)+(現実的な発光層の層厚TH2)) … (A)
したがって、本発明の好ましい実施形態にかかる「発光層の層厚」とは、不等式(A)の中間値(=((混合層の層厚)×1/2)+(現実的な発光層の層厚TH2))であって、混合層の層厚の半分の厚さと現実的な発光層の層厚TH2とを足し合わせた層厚を意味するものとする。
なお、発光層の層厚は塗布液の濃度や、スピン成膜の場合は回転数を変えることで調整できる。
このとき、発光層形成用の塗布液の温度と基板の温度とは等しくなくてもよいが、等しい方がより好ましい。
発光層形成用の塗布液の温度と基板の温度とを室温(25℃)に保持した従来の塗布方法で塗布を行った場合は、混合層の厚みは4nmであったが、本実施形態によれば、発光層形成用の塗布液の温度と基板の温度とを40℃〜60℃の範囲で上昇させることにより、混合層の層厚を5〜15nmの範囲で調整できた。
本発明の好ましい実施形態にかかる混合層の層厚は好ましくは5〜15nmであり、さらに好ましくは7〜15nmである。
具体的な例を以下に示す。
試料(サンプル)として、ガラス基板上に正孔輸送層を成膜したあと、十分に厚い発光層を塗布積層したものを、XPS分析装置に導入する。
XPS測定と層厚方向(厚さ方向)へのスパッタリングとを繰り返し行うことで、試料の有機機能層に含まれる層厚方向の元素の定量化ができ、層厚方向のプロファイルを得ることができる。
スパッタリングには数千原子からなるアルゴンクラスターイオンを用いた。このアルゴンクラスターイオンを用いたスパッタリングを行うことで、試料の層厚方向のダメージ、押し込み効果を低減することができ、従来のイオン源を用いたスパッタリングに比べて元素分布の層厚方向の分解能を飛躍的に上げて測定することができた。
今回のXPS測定の層厚方向の分解能は4nmであった。
混合層の層厚の測定にはリン光性ドーパントの中心金属の定量化を行うことで決定した。リン光性ドーパントは金属錯体であり、中心にIr、Ptなど特徴的な金属を有しており、正孔輸送層の構成材料にはこのような材料は含有されていない。そのため、この中心金属を定量化することで混合層の層厚を定量化することができる。
発光層側から正孔輸送層側に向けてスパッタリングして測定していったとき、この金属イオン量が減り始めるところを発光層と混合層との界面とし、金属イオン量が減らなくなり「0(ゼロ)」となったところを混合層と正孔輸送層との界面とした。この2つの界面の間の距離(厚さ)を「混合層の層厚」とした。
この方法を用いることで、混合層の層厚と、駆動電圧や発光寿命などの関係とを、詳細に検討することができ、本発明をするに至った。
当該本発明の好ましい実施形態によれば、低電圧化と長時間の駆動安定性の向上をすることができ、さらには高温保存時の発光色の変化を防止することができた(下記実施例参照)。
複数種のドーパントが発光層に含まれる場合、それらドーパントのうち、最も短波長の光を発光するドーパントは、波長500nm以下の範囲に発光強度ピークを有する。
ドーパントの濃度(複数種のドーパントを含む場合はそれら濃度の総計)は、発光層全体に対して、25質量%以下でかつ3質量%以上であることが好ましく、その上限は、21質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
本発明の好ましい実施形態では、高い励起三重項エネルギー(T1)をもつドーパントを使用しており、ドーパント濃度が25質量%より高いと、励起子がドーパント間をつたって流れ、混合層に入る。そのためドーパント濃度が当該範囲にあれば、低電圧によるパワー効率等において所望の効果が得られ、好ましい。
本発明の好ましい実施形態では、高い励起三重項エネルギー(T1)をもつドーパントを使用しており、ドーパント濃度が25質量%以下であれば、励起子がドーパント間をつたって流れ混合層に入る、といった現象を抑制することができる。そのためドーパント濃度が当該範囲にあれば、低電圧によるパワー効率等において所望の効果が得られ、好ましい。
発光層の層厚が厚ければ、発光層内での励起子の生成位置を正孔輸送層から十分に離すことで励起子が混合層に拡散することを防止することができる。発光層の膜厚が当該範囲にあれば、低電圧によるパワー効率等が所望の効果が得られ、好ましい。
混合層の層厚が増えるほど、励起子は発光層から流出しやすくなるため、発光層の層厚は厚くした方が良いが、混合層の層厚が薄い場合は、励起子は発光層から流出しにくいため、発光層の層厚は薄くて良い。
ホスト化合物を複数種使用することで、1種のみ使用した場合と比べて、電荷の輸送性を変化させ、励起子の生成位置を混合層から十分に遠い位置に設計することができ、混合層への励起子の流出を抑制することが出来る。
本発明の好ましい実施形態では、最も短波長のリン光を呈するドーパントの濃度が混合層から離れるに従い、低下することが好ましい。
発光材料(発光ドーパント)としては、蛍光性化合物、リン光発光材料(リン光性化合物、リン光発光性化合物等ともいう)を用いることができるが、リン光発光材料であることが好ましい。
本発明において、リン光発光材料とは励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
上記リン光量子収率は第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明においてリン光発光材料を用いる場合、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
リン光発光材料の発光原理としては2種挙げられる。
1つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーをリン光発光材料に移動させることでリン光発光材料からの発光を得るというエネルギー移動型である。
もう1つはリン光発光材料がキャリアトラップとなり、リン光発光材料上でキャリアの再結合が起こりリン光発光材料からの発光が得られるというキャリアトラップ型である。
いずれの場合においても、リン光発光材料の励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
リン光発光材料は、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができるが、好ましくは元素の周期表で8〜10族の金属を含有する錯体系化合物であり、さらに好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、または白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
ホストの分子量は1500以下であることが好ましく、1200以下であることがさらに好ましく800以下であることがさらに好ましい。
発光層の作製には、後述する発光材料やホスト化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法等の公知の薄膜化法により製膜して形成することができる。
各発光層には複数の発光材料を混合してもよく、またリン光発光材料と蛍光発光材料を同一発光層中に混合して用いてもよい。
発光層の構成として、ホスト化合物、発光材料(発光ドーパント化合物ともいう)を含有し、発光材料より発光させることが好ましい。
ホスト化合物としては、公知のホスト化合物をまた、後述する発光材料を複数種用いることで異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
公知のホスト化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。ここで、ガラス転移点(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS−K−7121に準拠した方法により求められる値である。
公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。例えば、特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等が挙げられる。
本発明に用いられるホスト化合物は、カルバゾール誘導体であることが好ましい。
ホスト化合物は、より好ましくは一般式(2)で表される部分構造を同一分子内に3つ以上有することが好ましい。
有機EL素子を構成する陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In2O3−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状パターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合(100μm以上程度)は、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに陽極の厚さ(膜厚)は材料にもよるが、通常は、10〜1000nmの範囲であり、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
一方、陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。
また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、陰極の厚さ(膜厚)は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陰極に上記金属を1〜20nmの厚さ(膜厚)で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に形成することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する有機EL素子を作製することができる。
本発明の有機EL素子に用いることのできる支持基板(以下、基体、基板、基材、支持体等ともいう)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。リジットな基板よりもフレキシブルな基板において、高温保存安定性や色度変動を抑制する効果が大きく現れるため、特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な可撓性を備えた樹脂フィルムである。
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート(TAC)、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)あるいはアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。
バリア膜を形成する材料としては、水分や酸素等の有機EL素子の劣化を招く因子の浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。さらに該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料を有する層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機機能層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
バリア膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004−68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
本発明の有機EL素子において、発光の室温における外部取り出し効率は、1%以上であることが好ましく、より好ましくは5%以上である。ここに、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
本発明の有機EL素子に適用可能な封止手段としては、例えば、封止部材と電極、支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。
封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されておればよく、凹板状でも平板状でもよい。また透明性、電気絶縁性は特に問わない。
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコーン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属または合金からなるものが挙げられる。
本発明においては、素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。さらには、ポリマーフィルムは、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10−3cm3/(m2・24h・atm)以下、JIS K 719−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が1×10−3g/(m2・24h)以下のものであることが好ましい。
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
なお、有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止部分への接着剤の塗布は市販のディスペンサを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、沃化バリウム、沃化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
封止にはケーシングタイプの封止(缶封止)と密着タイプの封止(固体封止)があるが、薄型化の観点からは固体封止が好ましい。また、可撓性の有機EL素子を作製する場合は、封止部材にも可撓性が求められるため、固体封止が好ましい。
本発明に係る封止用接着剤には、熱硬化接着剤や紫外線硬化樹脂などを用いることができるが、好ましくはエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂など熱硬化接着剤、より好ましくは耐湿性、耐水性に優れ、硬化時の収縮が少ないエポキシ系熱硬化型接着性樹脂である。
本発明に係る封止用接着剤の含水率は、300ppm以下であることが好ましく、0.01〜200ppmであることがより好ましく、0.01〜100ppmであることが最も好ましい。
本発明でいう含水率は、いかなる方法により測定しても構わないが、例えば容量法水分計(カールフィッシャ−)、赤外水分計、マイクロ波透過型水分計、加熱乾燥重量法、GC/MS、IR、DSC(示差走査熱量計)、TDS(昇温脱離分析)が挙げられる。また、精密水分計AVM−3000型(オムニテック社製)等を用い、水分の蒸発によって生じる圧力上昇から水分を測定でき、フィルムまた固形フィルム等の水分率の測定を行うことができる。
本発明おいて、封止用接着剤の含水率は、例えば、露点温度が−80℃以下、酸素濃度0.8ppmの窒素雰囲気下に置き時間を変化させることで調整することが出来る。また、100Pa以下の真空状態で置き時間を変化させて乾燥させることもできる。また、封止用接着材は接着剤のみで乾燥させることも出来るが、封止部材へ予め配置し乾燥させることも出来る。
接着剤の種類また量、そして面積等によって加熱また圧着時間は変わるが0.1〜3MPaの圧力で仮接着、また80〜180℃の温度で、熱硬化時間は5秒〜10分間の範囲で選べばよい。
加熱した圧着ロールを用いると圧着(仮接着)と加熱が同時にでき、且つ内部の空隙も同時に排除でき好ましい。
また、接着層の形成方法としては、材料に応じて、ディスペンサを用い、ロールコート、スピンコート、スクリーン印刷法、スプレーコートなどのコーティング法、印刷法を用いることができる。
封止部材としては、アルミニウム等の金属箔をラミネートしたフィルム等でも良い。金属箔の片面にポリマーフィルムを積層する方法としては、一般に使用されているラミネート機を使用することができる。接着剤としてはポリウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系、アクリル系等の接着剤を用いることができる。必要に応じて硬化剤を併用してもよい。ホットメルトラミネーション法やエクストルージョンラミネート法および共押出しラミネーション法も使用できるがドライラミネート方式が好ましい。
また、金属箔をスパッタや蒸着等で形成し、導電性ペースト等の流動性電極材料から形成する場合は、逆にポリマーフィルムを基材としてこれに金属箔を成膜する方法で作成してもよい。
有機機能層を挟み支持基板と対向する側の封止膜、あるいは封止用フィルムの外側に、有機EL素子の機械的強度を高めるため、保護膜あるいは保護板を設けてもよい。特に、封止が封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、前記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量かつ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
本発明において、可撓性支持基板から陽極との間、あるいは可撓性支持基板から光出射側の何れかの場所に光取出し部材を有することが好ましい。
光取出し部材としては、プリズムシートやレンズシートおよび拡散シートが挙げられる。また、全反射を起こす界面もしくはいずれかの媒質中に導入される回折格子や拡散構造等が挙げられる。
通常、基板から光を放射するような有機エレクトロルミネッセンス素子においては、発光層から放射された光の一部が基板と空気との界面において全反射を起こし、光を損失するという問題が発生する。この問題を解決するために、基板の表面にプリズムやレンズ状の加工を施す、もしくは基板の表面にプリズムシートやレンズシートおよび拡散シートを貼り付けることにより、全反射を抑制して光の取り出し効率を向上させる。
また、光取り出し効率を高めるためには、全反射を起こす界面もしくはいずれかの媒質中に回折格子を導入する方法や拡散構造を導入する方法が知られている。
有機EL素子の色変化の指標として、マクアダム楕円(例えば「色彩工学」大田登著を参考にできる)のステップ数を用いることができる。
マクアダム楕円のステップ数が1であるとは、人間が異なる2色の色が見分けられる限界の色差であり、ステップ数が大きくなるほど、色が見分けやすくなる。
高温保存時の色変化は、有機EL素子の高温保存前の色と、有機EL素子を85℃で500時間保存した後の色との間のステップ数で評価することができる。
有機EL素子の製造方法の一例として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/混合層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる有機EL素子の製造方法を説明する。
次に、この上に有機EL素子材料である正孔注入層、正孔輸送層、混合層、発光層、電子輸送層、電子注入層の有機機能層(有機化合物薄膜)を形成させる。
有機機能層を形成する工程は、主に、その有機機能層を構成する塗布液をそれぞれ、支持基板の陽極上に塗布・積層する工程と、塗布・積層後の塗布液を、乾燥させる工程とで構成される。
塗布・乾燥する工程は大気下で行ってもかまわないが、乾燥する工程は窒素などの不活性ガス雰囲気で行われることが好ましく、さらには塗布する工程も不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。ここで不活性ガス雰囲気は水や酸素を100ppm以下含むことが好ましく、さらに好ましくは10ppm以下であり、さらに好ましくは1ppm以下である。
正孔注入層以外の有機機能層の形成においても、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくい等の点から、ウェットプロセスを用いるのが好ましく、中でも、スピンコート法、キャスト法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、インクジェット法等の塗布法による成膜が好ましい。
有機EL材料の媒体への分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法を使用するのがよい。
有機EL材料を溶解または分散する調液行程は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましく、塗布液が前述のウェットプロセスにより支持基板上に塗布されるまで塗布雰囲気に曝されないことが好ましい。
各層の塗布液を塗布する際の雰囲気は共通(同じ)でも良いが、揮発する溶媒の影響の観点から、各層の塗布ブースが隔壁などで囲まれ、雰囲気の循環がそれぞれ独立していることが好ましい。
更に、乾燥工程の処理は、ライン上で搬送中に行っても良いが、生産性の観点から堆積あるいはロール状に非接触で巻き取り乾燥しても良い。
そして、加熱乾燥処理の後に、前記密着封止するか、または封止部材と電極、支持基板とを接着剤で接着することにより、所望の有機EL素子を製造することができる。
本発明の有機EL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。
発光光源として、例えば、家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源、さらには表示装置を必要とする一般の家庭用電気器具等広い範囲の用途が挙げられるが、特にカラーフィルターと組み合わせた液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
本発明の有機EL素子においては、必要に応じ成膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもよいし、電極と発光層をパターニングしてもよいし、素子全層をパターニングしてもよく、素子の作製においては、従来公知の方法を用いることができる。
(1)有機EL素子1の作製
可撓性フィルムとして、ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン社製フィルム、以下、PENと略記する)を用いた。その可撓性フィルムの陽極を形成する側の前面に、特開2004−68143号に記載の構成からなる大気圧プラズマ放電処理装置を用いて、連続して、SiOxからなる無機物のガスバリア膜を厚さ500nmとなるように形成し、酸素透過度が0.001ml/m2/day以下で水蒸気透過度が0.001g/m2/day以下のガスバリア性の可撓性フィルムを作製した。
準備したガスバリア性の可撓性フィルム上に厚さ120nmのITO(インジウムチンオキシド)をスパッタ法により成膜し、フォトリソグラフィー法によりパターニングを行い、陽極を形成した。
なお、パターンは発光面積が50mm平方になるようなパターンとした。
パターニング後のITO基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。この基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSSと略記、Bayer製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を3000rpm、30秒でスピンコート法により製膜した。製膜は、大気雰囲気下においておこなった。その後、200℃にて1時間乾燥し、層厚(膜厚)が30nmの正孔注入層を設けた。
この基板を、窒素ガス雰囲気下に移し、前記正孔輸送材料である例示化合物(60)(Mw=80,000)をクロロベンゼンに0.5%溶解した溶液を、1500rpm、30秒でスピンコート法により製膜し、130℃で30分間乾燥し、層厚(膜厚)が30nmの正孔輸送層とした。
次いで、下記組成の発光層組成物(発光層形成用の塗布液)と基板は室温(25℃)に保持した状態で、1500rpm、30秒でスピンコート法によりそれぞれ製膜し、120℃で30分間乾燥し、発光層を形成した。
ここで、D−66は、使用した発光性ドーパントのなかで最も短波長の光を発光するドーパントであり、発光強度ピークが波長474nmである。
当該発光層は、別にガラス基板に同様の方法で発光層を成膜したところ、層厚(膜厚)が38nmであった。
非発光性有機材料(ホスト化合物);
例示化合物a−1 10.69質量部
発光性ドーパント;
例示化合物D−66 3.77質量部
例示化合物D−67 0.022質量部
例示化合物D−80 0.022質量部
溶媒;
トルエン 2.000質量部
続いて、20mgの一般式(A)で表される化合物である例示化合物(化合物A)を、4mlのテトラフルオロプロパノール(TFPO)に溶解した溶液を、1500rpm、30秒でスピンコート法により製膜し、120℃で30分間乾燥し、層厚(膜厚)が30nmの電子輸送層とした。
続いて、基板を大気に曝露することなく真空蒸着装置へ取り付けた。また、モリブデン製抵抗加熱ボートにフッ化カリウムを入れたものを真空蒸着装置に取り付け、真空槽を4×10−5Paまで減圧した後、前記ボートに通電して加熱してフッ化カリウムを0.02nm/秒で前記電子輸送層上に層厚(膜厚)が2nmの電子注入層を形成した。引き続き、アルミニウムを100nmの厚さで蒸着して陰極を形成した。
引き続き、市販のロールラミネート装置を用いて封止部材を接着し、有機EL素子1のサンプルを作製した。
なお、封止部材として、可撓性の厚み30μmのアルミニウム箔(東洋アルミニウム株式会社製)に、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム(12μm厚)を、ドライラミネーション用の接着剤(2液反応型のウレタン系接着剤)を用いラミネートした(接着剤層の厚み1.5μm)ものを用いた。
アルミニウム面に封止用接着剤として、熱硬化性接着剤を、ディスペンサを使用してアルミ箔の接着面(つや面)に沿って厚み20μmで均一に塗布した。これを100Pa以下の真空下で12時間乾燥させた。さらに露点温度が−80℃以下、酸素濃度0.8ppmの窒素雰囲気下へ移動し、12時間以上乾燥させ、封止用接着剤の含水率を100ppm以下となるように調整した。
(A)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)
(B)ジシアンジアミド(DICY)
(C)エポキシアダクト系硬化促進剤
なお、混合層の層厚は、発光層まで塗布したものを測定対象物として、アルゴンクラスターイオンスパッタリングXPS測定により測定をした。有機EL素子1の混合層の層厚は4nmであった。
有機EL素子1の作製において、基板と発光層形成用の塗布液の温度、リン光性ドーパントD−66の発光層中の質量濃度、発光層の層厚を、表1のように変更した。
それ以外は有機EL素子1の作製と同様にして作製した。
発光層の層厚や混合層の層厚も有機EL素子1の場合と同様にして測定した。
有機EL素子1の作製において、発光層組成物を下記のものに変更するとともに、基板と発光層形成用の塗布液の温度、リン光性ドーパントD−66の発光層中の質量濃度を、表1のように変更した。
それ以外は有機EL素子1の作製と同様にして作製した。
発光層の層厚や混合層の層厚も有機EL素子1の場合と同様にして測定した。
非発光性有機材料(ホスト化合物);
例示化合物a−1 11.05質量部
例示化合物a−6 1.23質量部
発光性ドーパント;
例示化合物D−66 2.18質量部
例示化合物D−67 0.025質量部
例示化合物D−80 0.025質量部
溶媒;
トルエン 2.000質量部
有機EL素子1の作製において、基板と発光層形成用の塗布液の温度、リン光性ドーパントD−66の発光層中の質量濃度、発光層の層厚を、表1のように変更した。
それ以外は有機EL素子1の作製と同様にして作製した。
発光層の層厚や混合層の層厚も有機EL素子1の場合と同様にして測定した。
有機EL素子1〜18について、下記の各評価を行った。
(1)電圧の評価
作製した有機EL素子に対し、2.5mA/cm2定電流を印加したときのパワー効率(lm/W)を測定した。測定には分光放射輝度計CS−2000(コニカミノルタセンシング製)を用いた。有機EL素子1〜18の電圧は、有機EL素子1(比較例)の測定値を100とした相対値で表した。その評価結果を表2に示した。数値が低いほど電圧が低いことを示す。
各有機EL素子を半径5cmの円柱に巻きつけ、各有機EL素子を折り曲げた状態で連続駆動させ、分光放射輝度計CS−2000(コニカミノルタセンシング社製)を用いて輝度を測定し、測定した輝度が半減する時間(LT50)を求めた。駆動条件は、連続駆動開始時に4000cd/m2となる電流値とした。
有機EL素子1(比較例)のLT50を100とした相対値を求め、これを連続駆動安定性(寿命)の尺度とした。その評価結果を表2に示した。数値が高いほど寿命が長い(向上している)ことを示す。
各有機EL素子を半径5cmの円柱に巻きつけ、各有機EL素子を折り曲げた状態で2.5mA/cm2時の色度を測定した(初期状態)。その後、有機EL素子を巻きつけた状態で、85℃の恒温槽の中に500時間保管した。その後、恒温槽から取り出した各有機EL素子を巻きつけた状態で2.5mA/cm2時の色度を測定した(高温保管後)。
高温保管前後での色変化を、マクアダム楕円のステップ数で表し、その結果を表2に示した。数値が低いほど色変化が小さいことを表す。
表2に示すとおり、有機EL素子1〜5と有機EL素子6〜18のサンプルを比較すると、有機EL素子6〜18では、電圧が低いまま長寿命化が図られており、高温保存時の色変化も小さい。
以上から、低電圧でパワー効率が高く、長時間の駆動安定性に優れ、さらに高温保存時の色変化を抑制するうえでは、層厚5〜15nmの混合層を形成し、発光層を構成するドーパントとして発光強度ピークが波長500nm以下の範囲にあるものを使用することが、有用であることがわかる。
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 混合層
6 発光層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
10 封止接着剤
11 可撓性封止部材
20 有機機能層
100 有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)
Claims (9)
- 陽極と陰極との間に少なくとも4層の有機機能層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記有機機能層は塗布成膜され、
前記有機機能層は4層のうちの2層が正孔輸送層および発光層であり、
前記正孔輸送層と前記発光層との間に、前記正孔輸送層を構成する材料と前記発光層を構成する材料との両方を含む5〜15nmの混合領域を有し、
前記発光層にはリン光性ドーパントが1種以上含まれ、
前記発光層に含まれるリン光性ドーパントのうち、最も短波長の発光を有するものの発光強度のピークが500nm以下の範囲に存在し、
前記混合領域の層厚t mix と前記発光層の層厚t EML (発光層の層厚の単位はnmである。)とが、5t mix +25≦t EML ≦5t mix +45の関係を満たすことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。 - 請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記発光層に含まれるリン光性ドーパントの濃度が3質量%以上で25質量%以下であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。 - 請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記発光層の層厚が50〜100nmであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。 - 請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記発光層にはホスト化合物が2種以上含まれることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。 - 請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記発光層に含まれるリン光ドーパントの少なくとも1種以上が、下記一般式(1)で表されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記正孔輸送層がトリフェニルアミンを主鎖骨格とする高分子であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。 - 請求項1〜7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記正孔輸送層に含まれる高分子の重量平均分子量が60,000〜100,000であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。 - 陽極と陰極との間に少なくとも4層の有機機能層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記有機機能層は4層のうちの2層が正孔輸送層および発光層であり、
前記正孔輸送層と前記発光層との間に、前記正孔輸送層を構成する材料と前記発光層を構成する材料との両方を含む混合領域を有し、
前記発光層にはリン光性ドーパントが1種以上含まれ、
前記発光層に含まれるリン光性ドーパントのうち、最も短波長の発光を有するものの発光強度のピークが500nm以下の範囲に存在する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
支持基板上に前記陽極を形成する工程と、
正孔輸送層形成用の塗布液を前記陽極上に塗布し乾燥させ、前記正孔輸送層を形成する工程と、
前記支持基板の温度と発光層形成用の塗布液の温度とを40〜60℃に調整しながら、前記発光層形成用の塗布液を前記正孔輸送層上に塗布し乾燥させ、前記混合領域の層厚が5〜15nmで、かつ、前記混合領域の層厚t mix と前記発光層の層厚t EML (発光層の層厚の単位はnmである。)とが5t mix +25≦t EML ≦5t mix +45の関係を満たす前記混合領域および前記発光層を形成する工程と、
を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
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