JP5895351B2 - ポリエステル組成物の製造方法およびフィルム - Google Patents

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Description

本発明は、耐加水分解性の良好なポリエステル組成物の製造方法およびフィルムに関する。
ポリエステルは機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。
しかし、ポリエステルは加水分解により機械物性が低下するため、長期にわたって使用する場合、或いは湿気のある状態で使用する場合においては、加水分解を抑制すべく様々な検討がなされてきた。特に、太陽電池用フィルムにおいては、屋外にて20年以上の耐用年数が要求されることから、高い耐加水分解性が要求される。
例えば、特許文献1にはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のリン酸塩を含有するポリエステルの製造方法が記載されている。しかし、リン酸金属塩のみでは、初期のCOOH末端基量は抑制できるが、加水分解によるCOOH末端基量増加を抑制することは難しく、太陽電池のように長期間の耐久性を必要とする用途では十分な耐加水分解性が得られない。
また、特許文献2、4にはリン酸とリン酸アルカリ金属塩とを特定比率で含有するポリエステル樹脂組成物、製造方法が記載されている。確かに、特定比率にすると短期間の耐加水分解性は優れるものの、太陽電池用途などに必要とされる長期にわたる耐加水分解性は不十分である。
特許文献3には、緩衝リンを含有するポリエチレンテレフタレートが記載されており、実施例ではリン化合物と併用されている。しかし、リン化合物の種類、その比率、適用量などの適正化が不十分であるため、太陽電池用途などに必要とされる長期にわたる耐加水分解性、機械的特性が不十分である。
特開2001−114881号公報 特開2007−277548号公報 特開2008−7750号公報 WO2010−103945号公報
本発明の目的は、これら従来の欠点を解消せしめ、耐加水分解性、機械特性に優れたフィルム用途として好適なポリエステル組成物の製造方法を提供することにある。
すなわち、本発明の目的は、ジカルボン酸成分とグリコール成分を用い、エステル化反応またはエステル交換反応させた後重縮合反応してポリエステルを製造する、その際エステル化反応またはエステル交換反応が終了した後にリン酸アルカリ金属塩を0.1〜4.0mol/ton、かつリン酸をリン酸アルカリ金属塩に対して0.4〜4.0倍モル添加してなるポリエステルであって、さらに得られるポリエステル組成物100重量部に対して、炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物を0.01〜10.0重量部含有してなるポリエステル組成物の製造方法により達成される。
本発明によれば、長期の耐加水分解性に優れるポリエステル組成物の製造方法を提供することができる。また、本発明の製造方法によって得られたポリエステル組成物を二軸延伸フィルムとすることで、磁材用途、コンデンサーなどの電気材料用途、包装等の用途、特に、長期の耐加水分解性を必要とする太陽電池用フィルム用途に提供することができる。
本発明のポリエステル組成物の製造方法は、ジカルボン酸成分とグリコール成分を用い、エステル化反応またはエステル交換反応させた後重縮合反応してポリエステルを製造する、その際エステル化反応またはエステル交換反応が終了した後にリン酸アルカリ金属塩を0.1〜4.0mol/ton、かつリン酸をリン酸アルカリ金属塩に対して0.4〜4.0倍モル添加してなるポリエステルであって、さらに得られるポリエステル組成物100重量部に対して、炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物を0.01〜10.0重量部含有してなるポリエステル組成物の製造方法である。
本発明のポリエステル組成物の製造方法におけるジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、各種多官能カルボン酸などを用いることができる。その中でも、ポリエステル組成物の機械的特性、耐熱性、耐加水分解性の観点から芳香族ジカルボン酸成分であることが好ましく、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましい。特には、ジカルボン酸成分として95mol%以上が芳香族ジカルボン酸成分であることが耐加水分解性の点から好ましく、中でもテレフタル酸であることが機械特性の点から好ましい。また、グリコール成分としては、脂肪族グリコール、脂環族グリコール、芳香族グリコール、各種多官能グリコールなどを用いることができる。特には、グリコール成分として95mol%以上が炭素数2〜4の直鎖のアルキレングリコール成分であることが機械特性、熱特性の点から好ましく、中でも炭素数2のエチレングリコールであることが成形性、結晶性の点から好ましい。上記特性から、本発明のポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
各成分において、共重合成分が5mol%を超えると、融点降下による耐熱性の低下、結晶性の低下により耐加水分解性が低下する原因となる傾向にある。
本発明のポリエステル組成物の製造方法におけるエステル化反応は、一般的にジカルボン酸成分とグリコール成分を原料として行う方法であり、予めエステル化反応物を貯留しておき、ジカルボン酸成分とグリコール成分のスラリーを定量的に添加して行なう貯留方法を採用できる。また、エステル化反応物を貯留しないで加圧設備や触媒を用い行なう方法もある。前記触媒においては、アルカリ金属塩、チタン化合物、アンモニウム塩などを用いることができるが、重縮合反応段階での熱分解や異物発生などの問題が起こる場合がある。一方、エステル化反応は無触媒においてもCOOH末端基による自己触媒作用によって十分に反応は進行するため貯留方法を採用することが好ましい。貯留方法における、ジカルボン酸成分とグリコール成分のモル比(グリコール成分/ジカルボン酸成分)は、1.05〜1.40の範囲が好ましい。より好ましくは1.05〜1.35、さらに好ましくは1.05〜1.30である。モル比が1.05未満であると、ジカルボン酸成分とグリコール成分からなるスラリーの粘度が高くなり定量的に供給することが困難となる場合がある。また、エステル化反応が効率的に進まないためタイムサイクルが長くなる場合がある。一方、モル比が1.40を越えると、スラリー中のジカルボン酸成分が分離、沈降する傾向にあり好ましくない。また、副生するグリコール成分の2量体によって耐熱性が低下する場合がある。
本発明では、エステル化反応後のエステル化反応物にグリコール成分を添加することで、よりエステル化反応が促進しエステル化反応物のCOOH末端基量を減少させる傾向にあり、重縮合反応後のポリエステルのCOOH末端基量を低減させ、耐加水分解性を向上させることができる傾向にある。グリコール成分の添加量は、得られるエステル化反応物においてグリコール成分の添加全量がジカルボン酸成分に対して1.3〜1.8倍モルが有効である。また、グリコール成分の添加は実質的にエステル化反応が終了してから、重縮合反応開始までの間に行うことが好ましい。具体的には、エステル化反応率が90%以上に達してから、固有粘度が0.3に到達するまでの間に行うことが有効である。エステル化反応率が90%未満でグリコール成分の添加を行うと、副生するグリコール成分の2量体が増加し、耐熱性が低下する傾向にある。さらに、未反応のジカルボン酸成分が残存するためCOOH末端基量が増加し、耐加水分解性が低下する傾向にある。重縮合反応中にグリコール成分の添加を行うと、エステル化反応物のCOOH末端基と効率的に反応しないために、得られるポリエステルのCOOH末端基量の低減効果が得られない傾向にある。
本発明のポリエステル組成物の製造方法におけるエステル交換反応は、一般的にジカルボン酸アルキルエステル成分とグリコール成分を原料として、エステル交換反応触媒能を有する公知の金属元素化合物を使用できる。金属としては、Na、Li、K元素のアルカリ金属、Mg、Ca元素のアルカリ土類金属、Mn、Co、Zn、Ti、Sn元素から選ばれる少なくとも1種の化合物を採用することが好ましい。また、金属元素化合物としては、塩化金属塩、酢酸金属塩、炭酸金属塩などを使用できる。中でも、異物生成の抑制、色調、耐熱性改善の点からMg、Co、Mnが好ましく、特にはMnが好ましい。前記した金属元素化合物としては、ポリエステルに可溶なものが好ましく、特には酢酸金属塩が好ましい。エステル交換反応触媒は、添加量に伴い反応が促進されるが、半面、反応時の工程トラブルや得られるポリエステル中の異物生成や耐熱性低下の傾向から多すぎると好ましくない。エステル交換反応触媒量としては、金属元素量として3〜400ppmが好ましく、さらには5〜350ppm、特には10〜300ppmが好ましい。
本発明のポリエステル組成物の製造方法における重縮合反応触媒としては、公知の金属元素化合物を使用できる。中でも、Sb、Ge、Tiから選ばれる金属元素の少なくとも1種の化合物を採用することが好ましい。Sb元素化合物としては三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、Ge元素化合物としては二酸化ゲルマニウム、またTi元素化合物としては置換基がアルコキシ基、フェノキシ基、アシレート基、アミノ基、水酸基などの化合物が好ましく、具体的なアルコキシ基にはテトラエトキシド、テトラプロポキシド、テトライソプロポキシド、テトラブトキシド、テトラ−2−エチルヘキソキシド等のチタンテトラアルコキシド、アセチルアセトン等のβ−ジケトン系官能基、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸等のヒドロキシ多価カルボン酸系官能基、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のケトエステル系官能基が挙げられ、特に脂肪族アルコキシ基が好ましい。また、フェノキシ基には、フェノキシ、クレシレイト等が挙げられる。また、アシレート基には、ラクテート、ステアレート等のテトラアシレート基、フタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸またはそれらの無水物等の多価カルボン酸系官能基、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、カルボキシイミノ二酢酸、カルボキシメチルイミノ二プロピオン酸、ジエチレントリアミノ五酢酸、トリエチレンテトラミノ六酢酸、イミノ二酢酸、イミノ二プロピオン酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二プロピオン酸、メトキシエチルイミノ二酢酸等の含窒素多価カルボン酸系官能基が挙げられ、特に脂肪族アシレート基が好ましい。また、アミノ基には、アニリン、フェニルアミン、ジフェニルアミン等が挙げられる。また、これらの置換基を2種含んでなるジイソプロポキシビスアセチルアセトンやトリエタノールアミネートイソプロポキシド等が挙げられる。上記重縮合反応触媒は単独であっても併用であっても構わない。中でも、重縮合反応性や得られるポリエステルの色調、耐熱性、副生物の抑制を考慮すると三酸化アンチモンが好ましい。また重縮合反応触媒の添加量は、金属元素として3〜500ppmが好ましく、さらには5〜400ppm、特には7〜300ppmが好ましい。500ppmを越える場合には、重縮合活性が高くなるものの得られるポリエステル中に異物の生成が促進され、また耐熱性が不十分となる傾向にあり好ましくない。また、3ppm未満の場合には重縮合活性が十分に得られないため重縮合時間の延長や十分な重合度のポリエステルを得にくくなるとともに、反応遅延に伴いグリコール成分の2量体が増加し耐熱性の低下やCOOH末端基量の増加に伴い耐加水分解性が得られない傾向にある。
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、エステル化反応またはエステル交換反応後に、リン酸アルカリ金属塩を0.1〜4.0mol/ton添加することが耐加水分解性の点から必要であり、さらには0.2〜3.0mol/tonが好ましく、特には0.3〜2.0mol/tonであることが好ましい。リン酸アルカリ金属塩の添加量が0.1mol/ton未満では、十分な耐加水分解性が得られない。一方、4.0mol/tonを越えると異物化しやすくなり、また加水分解速度を高める傾向となり耐加水分解性が低下する。
本発明におけるリン酸アルカリ金属塩としては、特に限定しないが、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素一リチウム、リン酸一水素二リチウム、リン酸三リチウムが挙げられ、その中でも、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸二水素一カリウムが長期の耐加水分解性の点から好ましい。
本発明におけるリン酸の添加量は、リン酸アルカリ金属塩に対して、0.4〜4.0倍モルであることが長期の耐加水分解性の点から必要であり、さらには0.5〜3.0倍モルであることが好ましく、特には0.8〜2.0倍モルであることが好ましい。0.4倍モル未満では、成形時等の溶融耐熱性が低下したり、また長期における耐加水分解性が不足する。一方、4.0倍モルを越えると過剰なリン酸により重縮合触媒が失活する傾向にあり、重縮合反応が遅延しCOOH末端基量が増加するため、耐加水分解性が低下する。
リン酸およびリン酸アルカリ金属塩の添加方法としては、リン酸のエチレングリコール溶液を添加した後にリン酸アルカリ金属塩のエチレングリコールスラリーまたはエチレングリコール溶液を添加する。または、前記の逆の添加順位とする。さらには、予めリン酸とリン酸アルカリ金属塩の混合エチレングリコールスラリーまたは混合エチレングリコール溶液を添加する方法がある。中でも、長期の耐加水分解性の点から予めリン酸とリン酸アルカリ金属塩の混合エチレングリコール溶液を添加する方法を採用することが好ましい。この混合液のpHを2.0〜6.0の酸性に調整することが異物生成抑制の点から好ましく、さらには3.0〜6.0であることが一層好ましい。これらのリン化合物の添加は、重縮合触媒の添加前後でも構わないが、添加間隔は5分以上とすることが重縮合反応性の点から好ましい。
また、本発明の製造において、添加するリン化合物はリン元素換算で3〜500ppmであることが重縮合反応性や得られるポリエステルの色調、耐熱性、副生物の抑制の点で好ましく、さらに5〜400ppmであることが好ましく、特には10〜300ppmであることが好ましい。
本発明におけるポリエステル組成物の製造方法において、ポリエステル組成物には炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物を含有させることが必要である。
本発明における、炭素原子数10〜33の高級脂肪族モノカルボン酸においては、好ましくは炭素原子数18〜33、さらに好ましくは炭素原子数20〜32を有する高級脂肪族モノカルボン酸が有効である。炭素原子数が10未満の高級脂肪族モノカルボン酸では含有させる際に飛散が多くなり、またポリエステル成形体の表面へのブリードアウトが激しくなる。一方、炭素原子数が33を越える高級脂肪族モノカルボン酸はポリエステル中での分散径が大きく、また耐加水分解性が得にくい。高級脂肪族モノカルボン酸としては、カプリン酸、ラウリル酸、パルチミン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メシリン酸、ヘントリアコンタン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸およびこれらを含む酸混合物などが挙げられる。ただし、これに何ら制限されるものではない。
また、炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物においては、好ましくは炭素原子数16〜33の高級脂肪族モノカルボン酸、さらに好ましくは炭素原子数20〜32の高級脂肪族モノカルボン酸をエステル化して得られる炭素原子数40〜62の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物が好ましい。 高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物の炭素原子数が34未満の場合には、エステル化合物が飛散しやすい傾向にあり、成形加工時の口金汚れや成形品の品位、強度低下、着色が激しくなり、さらには耐加水分解性を得にくい。一方、高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物の炭素原子数が65を越えると、ポリエステル中での分散径が大きく、また成形品の強度が低下し、さらには耐加水分解性を得にくい。
炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物としては、工業的に製造されたものであっても、天然に得られるものであっても良い。例えば、工業的に製造されたものとしては、モンタン酸ヘキシル、モンタン酸セリル、リグノセリン酸オクタコシル、リグノセリン酸メリシル、リグノセリン酸セリル、セロチン酸メリシル、セロチン酸セリルなどが挙げられる。ただし、これに何ら制限されるものではない。また、天然に得られる動物由来のワックス、植物由来のワックス、石油由来のワックス、鉱物由来のワックスを挙げることができ、好ましいワックスとしては、モンタンワックス、カルナウバワックス、ビーズワックス、カンデリラワックス、ヌカロウ、イボタロウなどが挙げられる。
特には、天然に得られるモンタンワックス(主成分:炭素原子数28のモノカルボン酸からなる炭素原子数52のエステル)、カルナウバワックス(主成分:炭素原子数26のモノカルボン酸からなる炭素原子数56のエステル)、ビーズワックス(主成分:炭素原子数16のモノカルボン酸からなる炭素原子数46のエステル)などが好ましく用いられる。中でも、天然植物由来のワックスであるカルナウバワックスが特に好ましい。
また、長期の耐加水分解性の点からポリエステル組成物100重量部に対して、炭素原子数10〜33の高級脂肪族モノカルボン酸および/または炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物を0.01〜10.0重量部含有させることが必要であり、好ましくは0.1〜7.0重量部、さらに好ましくは0.2〜5.0重量部である。含有量が0.01重量部未満では、耐加水分解性が十分に得られない。一方、10.0重量部を越えると、成形加工時の口金汚れや成形品の品位、強度低下、着色が激しくなり、さらに耐加水分解性が得にくい。
さらに、本発明のポリエステル組成物は、炭素原子数の10〜33の高級脂肪族モノカルボン酸および/または炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物を含有しており、ポリエステル組成物からなるチップの軸方向に垂直な断面において、炭素原子数の10〜33の高級脂肪族モノカルボン酸および/または炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物が10μm以下の分散径で分散していることが好ましく、より好ましくは5μm以下であり、更に好ましくは3μ以下である。分散径が10μmを越えると、耐加水分解性が不十分、あるいは成形品の強度物性を損なうなどの傾向にある。ここで、分散径とは具体的にポリエステル組成物のチップの軸方向に垂直に切断した試料断面を走査型電子顕微鏡で断面全体を観察し、最大分散径のものを選択し分散面の重心を通る最大径を円の直径として求め、この作業を20回繰り返し、平均分散径を求め分散径として示した値である。
本発明のポリエステル組成物の製造方法とは、本発明のポリエステルに炭素原子数10〜33の高級脂肪族モノカルボン酸および/または炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物(化合物A)を添加するものであり、ポリエステル組成物を得る方法としては、
A.ポリエステル製造時の重縮合反応前、反応中、反応終了直後のいずれかの時期において、化合物Aを含有させてポリエステル組成物のチップを得る方法、
B.ポリエステルと化合物Aとを1軸もしくは2軸エクストルダーにおいて混練してポリエステル組成物のチップを得る方法、
C.前記AおよびB法により、化合物Aを高濃度に含有させたポリエステル組成物としたマスターチップを得る方法などがある。
上記に続き、例えば、AまたはBにおいて得られたポリエステル組成物チップを用いる方法、Cのポリエステル組成物マスターチップの化合物Aが所定量の濃度となるようにポリエステルチップにブレンドしてB法にて混練する方法を採用し、公知の方法で溶融製膜・延伸・熱セット等を行う方法などにより、本発明の製造方法で得られたポリエステル組成物から、耐加水分解性に優れたフィルムを製造することができる。
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、その目的を達成する範囲において、任意の工程で無機粒子、有機塩粒子、架橋高分子粒子などの公知の粒子を添加して、製膜時、フィルム加工時、使用時の走行性やハンドリング性を向上させることができる。無機粒子としては、特に限定されないが、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、燐酸リチウム、燐酸カルシウム、燐酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニア、フッ化リチウム等が挙げられる。有機塩粒子としては、蓚酸カルシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩等が挙げられる。架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸もしくはメタクリル酸のアルキルエステル等のビニル系モノマの単独重合体または共重合体が挙げられ、各種粒子のうち1種または2種以上を添加することができる。さらに、必要に応じ結晶核剤、着色防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、離型剤、易滑剤、難燃剤、帯電防止剤、酸化防止剤等の安定剤、ポリシロキサン等の消泡剤等を配合することができる。
本発明のポリエステル組成物の製造方法により得られた、ポリエステル組成物の溶融粘度としては、溶融重縮合、溶融重縮合から溶融混練、溶融重縮合および固相重縮合から溶融混練して得られたポリエステル組成物の固有粘度が0.55〜1.00であることが機械特性の点から好ましく、さらに好ましくは0.60〜0.90、特に好ましくは0.65〜0.85である。
また、本発明方法で得られたポリエステル組成物のCOOH末端基量としては、20eq/ton以下であることが耐熱性や耐加水分解性の点から好ましく、さらには15eq/ton以下であることが好ましい。さらに、加熱処理前後のCOOH末端基量の差が50eq/ton以下であることが耐加水分解性の点から好ましく、さらには45eq/ton以下、特に40eq/ton以下であることが好ましい。加熱処理前後のCOOH末端基量の差とは、具体的に本発明のポリエステル組成物チップを155℃の100%RH下で4時間加熱処理し、処理前後のCOOH末端基量を測定し、その差を示した値である。
さらに、二軸延伸されたフィルムを加熱処理した後のフィルム伸度保持率が50%以上であることが好ましい。例えば、伸度保持率が50%以上であれば太陽電池用途において耐用年数20年以上に相当するといわれている。50%未満では、十分な耐加水分解性が得られていないと判断されている。具体的には、フィルムを125℃の100%RH下で48時間加熱処理し処理前後のフィルム伸度を測定し、処理前のサンプルに対する処理後の伸度保持率を百分率で計算した。
また、本発明のポリエステル組成物には、窒素の含有量が100ppm未満であることが異物生成を抑制する点から好ましい。さらには、60ppm以下であることが好ましい。すなわち、窒素元素を含有するカルボジイミド、オキサゾリンなどの末端封止剤を実質的に含有しないことが好ましい。これは、末端封止剤がポリエステル組成物の製造、加工工程において、ポリエステルのCOOH末端基と反応してゲルなどの異物を生成し易く、機械特性が低下する原因になるためである。
以下に、本発明のポリエステル組成物の製造方法について詳細に説明する。
本発明のポリエステル組成物の製造方法は、エステル化反応またはエステル交換反応を行う第一の工程、リン化合物などの添加物を添加する第二の工程、重縮合反応を行う第三の工程、固相重縮合反応を行う第四の工程、混練を行う第五の工程により製造できる。なお、第三の工程、第三の工程と第五の工程、第三、四の工程と第五の工程において炭素原子数の10〜33の高級脂肪族モノカルボン酸および/または炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物を添加し製造できる。
第一の工程においては、テレフタル酸とエチレングリコールを用いて公知の方法でエステル化反応を行なう。または、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールを用いて、公知の方法でエステル交換反応を行う工程である。例えば、エステル交換反応を行う際には、酢酸Mg、酢酸Ca、酢酸Mn、酢酸Coなどのエステル交換反応触媒を用いることができる。そのほか、水酸化Kなどのアルカリ金属を数ppm添加しておくとジエチレングリコールの副生が抑制され、耐加水分解性も改善される傾向にある。また、重縮合触媒である三酸化Sbなどを添加してもよい。
第二の工程は、エステル化反応またはエステル交換反応が実質的に終了した後から、固有粘度が0.3前後に達するまでの間に重縮合触媒やリン酸とリン酸アルカリ金属塩などの添加物を添加する工程である。例えば、重縮合触媒としては三酸化Sbのエチレングリコールスラリー、二酸化Geのエチレングリコール溶液、Tiアルコキシド、Tiキレート化合物などを用いることができる。また、エステル化反応によって得られた低重合体には、金属成分が含まれていないため、例えば、静電印加特性を付与する目的で酢酸Mn、酢酸Mg、酢酸Caなどを添加することが好ましい。また、エステル化反応では、COOH末端基が多いため合計のエチレングリコールがテレフタル酸に対してモル数で1.3〜1.8倍となるようにエチレングリコールを追添加することでCOOH末端基が低減する傾向にあり、耐加水分解性向上に有効である。
また、本発明の効果を妨げない範囲で各種安定剤等やフィルムの滑り性を付与するために前記の公知の粒子および添加剤を添加、あるいは触媒を利用した内部析出粒子を含有させてもよい。
第三の工程においては、公知の方法で重縮合反応を行う工程である。この工程にて、COOH末端基量を少なくするためには、重縮合反応温度をポリエステルの融点+35℃以下とし、固有粘度0.55〜1.00で重縮合反応缶よりガット状に吐出、冷却し、カッターにてカッティングしてチップ化する。また、第四の工程である固相重縮合反応を採用する際には、固有粘度0.5〜0.65で一旦チップ化した後に行うことが有効である。
第四の工程においては、公知の方法で固相重縮合反応を行う工程である。この工程での固相重縮合温度はポリエステルの融点−30℃〜−60℃、真空度133Pa以下で行うことが好ましい。
第五の工程においては、1軸もしくは2軸エクストルダーにて乾燥を経たポリエステルチップを窒素ガス雰囲気下にて溶融混練する工程である。この工程での溶融混練温度はポリエステルの融点+10℃〜+35℃の比較的低温で、かつ短時間で行うことが好ましい。また、混練後ガット状に吐出、冷却し、カッターにてカッティングしてチップ化する。
また、炭素原子数10〜33の高級脂肪族モノカルボン酸および/または炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物の添加は、エステル化反応またはエステル交換反応が実質的に終了した後から重縮合反応終了までの工程で添加、もしくは1軸もしくは2軸エクストルダーにおいて、ポリエステルに混練させる本発明の方法を採用してポリエステル組成物のチップを得る。
上記ポリエステル組成物の製造方法によって得られたチップは、乾燥を経て通常の押出機、Tダイにて溶融押出して膜状とし、次いで二軸延伸することによって所望の延伸フィルムを得ることができる。この時、押出機へのチップ供給は窒素ガス雰囲気下で行うことが好ましく、チップ供給からTダイにて押出されるまでの時間は短い程良く、目安としては30分以下とすることが、ポリエステル組成物の分解を抑制できる点で好ましい。
このようにして製造されたポリエステル組成物は、リン酸とリン酸アルカリ金属塩および炭素原子数10〜33の高級脂肪族モノカルボン酸および/または炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物の併用により、耐熱性に優れ、COOH末端基量が少なく、かつ熱処理によるCOOH末端基量の増加が抑制できるため、短期から長期にかけての耐加水分解性が良好となるので、特に太陽電池用フィルムなどの用途で必要とされる伸度保持率が十分に得られる。
(A.固有粘度)
o−クロロフェノール溶媒を用い、25℃で測定した。
(B.COOH末端基量)
Mauliceの方法によって測定した(文献 M.J.Maulice,F.Huizinga.Anal.CHim.Acta,22 363(1960))。
(C.耐加水分解性の評価)
ポリエステルチップを155℃の100%RH下で4時間加熱処理し、処理前後のCOOH末端基量の差(ΔCOOH)が、50eq/t以下であるとき良好な耐加水分解を有していると判断した。
なお、処理はPRESSER COOKER 306SIII(HIRAYAMA製作所(株)製を用いた。
(D.pH測定)
エチレングリコール100重量部に対して、リン酸/リン酸アルカリ金属塩倍モルを目標値となるように調整し、電位差自動滴定装置AT−510(京都電子工業(株)製)を用いて測定した。
(E.窒素含有量)
JIS K2609(施行年 1990/8/1) 石油及び石油製品−窒素分試験方法に記載のケルダール法により測定した。
(F.ポリエステル組成物中の炭素原糸数10〜33の高級脂肪族モノカルボン酸および/または炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物の分散径評価方法)
ポリエステル組成物チップの軸方向にカミソリにて垂直に切断した試料(5mm程度)を、SEM試料台に貼り、導電テープに試料断面がSEM試料台上部と平行になるように貼り、白金-パラジウム合金を1分30秒蒸着(蒸着機:HITACHI社製のE101 ION SPUTTER)し、走査型電子顕微鏡(ニコン社製のE(Environmetal)SEM)で1断面全体を観察し(カミソリ跡のない所)、最大分散径のものを選択し分散面の重心を通る最大径を円の直径としてμm単位で、小数点以下1桁まで求める。この作業を20回繰り返し、20データー中の平均分散径を求め分散径とした。
(G.伸度保持率の算出)
二軸延伸されたフィルムを用いて、125℃の100%RH下で48時間加熱処理し処理前後のフィルム伸度を測定し、処理前のサンプルに対する処理後の伸度保持率を百分率で計算した。
フィルムの伸度は、ASTM−d882に規定された方法に従って、インストロンタイプの引張試験機を用いて、下記条件にて測定した。
測定装置:オリエンテック(株)製フィルム強伸度測定装置
“テンシロンAMF/RTA−100”
試料サイズ:幅10mm×試長間100mm
引張速度:200mm/分
測定環境:23℃、65%RH
太陽電池用途における耐用年数20年以上に相当する伸度保持率50%以上を合格とした。
(実施例1)
第一の工程として、テレフタル酸ジメチル(以下.DMT)100重量部、エチレングリコール(以下.EG)64重量部、酢酸マンガン・4水和物(以下.酢酸Mn)0.06重量部、三酸化アンチモン(以下.AO)0.03重量部を140℃、窒素ガス雰囲気下で溶融後、攪拌しながら230℃まで3時間かけて昇温し、メタノール(以下.MA)を留出させ、エステル交換(以下.EI)反応を終了した。
第二の工程として、EI反応終了後、リン酸0.020重量部(2.04mol/ton相当)とリン酸二水素一ナトリウム・2水和物(以下、リン酸二水素一ナトリウム)0.027重量部(1.73mol/ton相当)(リン酸/リン酸アルカリ金属塩対比1.18倍モル)をEG1.5重量部に溶解したEG溶液(pH4.7)を添加し、余剰なEGを30分間攪拌しながら留出させ、反応を終了した。
その後、EI反応物を重縮合反応装置に移行した。
第三の工程として、重縮合反応装置を窒素ガス雰囲気下で攪拌、その後、減圧および昇温し、EGを留出させながら重縮合反応を行なった。なお、90分かけて常圧〜133Pa以下に減圧し、また90分かけて235℃〜最終到達温度285℃まで昇温し、攪拌トルクが所定の値に達した時点で減圧を停機し、反応装置内に窒素ガスにて常圧に戻した。その後、直ちに攪拌機を停止し反応系内を微加圧とし反応装置下部のバルブを開けてガット状のポリエステルを水槽に吐出した。水槽で冷却されたポリエステルガットをカッターにてカッティングしチップ化した。このようにして得られた、ポリエステルチップの固有粘度は0.72、COOH末端基量は8.1eq/tonであった。
第五の工程として、ポリエステルチップを真空度133Pa以下で常温〜160℃間で約6時間かけて昇温し、160℃で16時間乾燥し、その後加熱のみを停機した状態で冷却し、乾燥機内を窒素ガスにて常圧に戻し、窒素ガス雰囲気でポリエステルチップを保管した。また、カルナウバワックス(セラリカNODA社製:精製カルナウバワックスNO1)を真空度133Pa以下にて常温で約24時間乾燥し、その後乾燥機内を窒素ガスにて常圧に戻し、窒素ガス雰囲気でカルナウバワックスを保管した。上記にて得られたポリエステルチップとカルナウバワックスを窒素ガス雰囲気下とした2軸エクストルダー型混練機の各々のホッパに仕込み、ポリエステルチップ99重量部に対してカルナウバワックス1重量部となるようにフィーダーを用いて供給、280℃にて溶融混練した、ポリエステル組成物をガット状に水槽に吐出し、冷却されたポリエステル組成物をカッターにてカッティングしチップ化した。このようにして得られた、ポリエステル組成物チップの固有粘度は0.70、COOH末端基量は9.2eq/tonであった。また、カルナウバワックスの分散径は0.8μm、窒素含有量は60ppmであった。該チップの耐加水分解性評価を行ったところ、155℃の100%RH下で4時間加熱処理した後のCOOH末端基が42.1eq/tonで、かつΔCOOHは32.9eq/tと耐加水分解性が良好であった。
また、ポリエステル組成物チップを真空度133Pa以下で常温〜160℃間で約6時間かけて昇温し、160℃で16時間乾燥し、その後加熱のみを停機した状態で冷却し、乾燥機内を窒素ガスにて常圧に戻し、窒素ガス雰囲気でポリエステル組成物チップを保管した。ポリエステル組成物チップを窒素ガス雰囲気下で押出機に供給し、押出温度280℃でTダイからキャスティングドラム(20℃)にて急冷、静電印加法にてシート化した後に、縦延伸温度90℃、縦延伸倍率3.6倍で縦延伸した後、横延伸温度110℃、横延伸倍率3.6倍で延伸し、熱処理を210℃で3秒行い、二軸延伸フィルムを得た。この時の押出機のフィルターは400メッシュの金網を使用し、ポリエステルチップ供給からTダイの吐出までの滞留時間は約5分であった。
さらに、得られた二軸延伸フィルムを125℃の100%RH下で48時間加熱処理し処理前後でフィルム伸度を比較し、伸度保持率を算出したところ、目標の50%を大幅に向上し64%であった。特性を表1に示す。
(実施例2)
実施例1のリン酸二水素一ナトリウムをリン酸二水素一カリウムに変更する以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成物、および二軸延伸フィルムを得た。
得られた特性は表1に示すとおり、実施例1とほぼ同等の性能を示した。
(実施例3〜8、比較例1〜4)
実施例1のリン酸とリン酸二水素一ナトリウムの添加量と混合比、リン酸アルカリ金属種およびエステル交換反応触媒種、重縮合触媒種を適宜変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成物、および二軸延伸フィルムを得た。得られた特性は、表1、3に示すとおりである。
実施例3においては、リン酸二水素一ナトリウムの添加量を減らし、リン酸/リン酸アルカリ金属塩のモル比を大きくした結果、ポリエステル組成物のΔCOOHが若干大きくなる傾向にあり、伸度保持率も若干低下したものの太陽電池用シートとして満足なものであった。
これに対し、実施例4ではリン酸の添加量を減らし、リン酸/リン酸アルカリ金属塩のモル比を小さくした結果、ポリエステル組成物のΔCOOHが若干大きくなる傾向にあり、伸度保持率も若干低下したものの太陽電池用シートとして満足なものであった。
実施例5においては、実施例1のリン酸およびリン酸二水素一ナトリウムの添加量をともに減らし、EI反応触媒を酢酸マグネシウム、重合触媒をチタニウムジイソプロポキシドビスエチルアセトアセテートに変更した結果、ポリエステル組成物のΔCOOHがやや大きくなり、伸度保持率もやや低下したものの太陽電池用シートとして満足なものであった。
実施例6においては、実施例1のリン酸およびリン酸二水素一ナトリウムの添加量をともに増量し、またEI反応触媒を酢酸カルシウム、重合触媒を二酸化ゲルマニウムに変更した結果、ポリエステル組成物のΔCOOHが若干大きくなり、伸度保持率も若干低下したものの太陽電池用シートとして満足なものであった。
実施例7においては、実施例1のリン酸二水素一ナトリウムをリン酸一水素二ナトリウムに変更し、またEI反応触媒を酢酸コバルトに変更した結果、ポリエステル組成物のΔCOOHがやや大きくなり、伸度保持率もやや低下したものの太陽電池用シートとして満足なものであった。
実施例8においては、実施例1のリン酸二水素一ナトリウムをリン酸三カリウムに変更した結果、リン酸三カリウムは強アルカリであり、リン酸との混合溶液のpHは5.9であった。この結果、ポリエステル組成物のΔCOOHがやや低下したものの、伸度保持率に反映されずやや低下したものの太陽電池用シートとして満足なものであった。
また、比較例1は、実施例1のリン酸二水素一ナトリウムを増量し過ぎたため、異物が観察され、またリン酸二水素一ナトリウムが機能せず、ポリエステル組成物のΔCOOHが大きくなり、さらに伸度保持率が不足し太陽電池用シートとして不十分であった。
比較例2は、実施例1のリン酸二水素一ナトリウム(リン酸アルカリ金属塩)を添加しなかったため、ポリエステル組成物のΔCOOHが大きくなり、伸度保持率が不足し太陽電池用シートとして不十分であった。
比較例3は、実施例1のリン酸を増量し過ぎた結果、重合反応の遅延が認められ、さらにポリエステル組成物のΔCOOHも大きくなり、伸度保持率が不足し太陽電池用シートとして不十分であった。
比較例4は、実施例1のリン酸を添加しなかったためポリエステル組成物のΔCOOHが大きくなり、伸度保持率が不足し太陽電池用シートとして不十分であった。
(比較例5)
実施例1のリン酸をリン酸トリメチルに変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成物および二軸延伸フィルムを得た。得られた特性は表3に示すとおり、リン酸トリメチルを用いたためリン酸二水素一ナトリウムによるCOOH末端基量の増加抑制効果が弱くなり、ポリエステル組成物のΔCOOHが大きくなった。また、伸度保持率が不足し太陽電池用シートとして不十分であった。
(実施例9〜11、参考例12、比較例6〜11)
実施例1のカルナウバワックス添加量や高級脂肪族モノカルボン酸および/またはそのエステル化合物の炭素原子数変更を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成物および二軸延伸フィルムを得た。得られた特性は、表2、3に示すとおりである。
実施例9においては、カルナウバワックス添加量を0.1重量部に減量した。また、実施例10においては、5重量部に増量し、実施例11においては、カルナウバワックスをモンタンワックスとした。参考例12においては、カルナウバワックスをモンタン酸に変更した結果、ポリエステル組成物のΔCOOHが若干大きくなり、伸度保持率もやや低下したものの太陽電池用シートとして満足なものであった。
比較例6では、カルナウバワックスを添加しない以外は実施例1に従って第三の工程の重縮合終了後のポリエステルを評価した結果、ポリエステルのΔCOOHが大きくなった。また、伸度保持率が不足し太陽電池用シートとして不十分であった。
比較例7においては、実施例1のカルナウバワックスの添加量を13重量部に増量した結果、ポリエステル組成物中のカルナウバワックスは凝集、かつ分散径大きく、ポリエステル組成物のΔCOOHが大きくなった。また、フィルムにおいて厚みムラが発生、さらに伸度保持率が不足し太陽電池用シートとして不十分であった。
比較例8においては、実施例1のカルナウバワックスをステアリン酸ブチルに変更した結果、混練時発煙が見受けられ、ポリエステル組成物のΔCOOHが大きくなった。また、フィルムにおいて厚みムラが発生、さらに伸度保持率が不足し太陽電池用シートとして不十分であった。
比較例9においては、実施例1のカルナウバワックスをヘキサテトラコンタン酸ミリシルに変更した結果、ポリエステル組成物中の分散径が大きく、またΔCOOHが大きくなった。また、伸度保持率が不足し太陽電池用シートとして不十分であった。
比較例10においては、実施例1のカルナウバワックスをカプリル酸に変更した結果、混練時発煙が見受けられ、ポリエステル組成物のΔCOOHが大きくなった。また、フィルムにおいて厚みムラが発生、さらに伸度保持率が不足し太陽電池用シートとして不十分であった。
比較例11においては、実施例1のカルナウバワックスをヘキサトリアコンタン酸に変更した結果、ポリエステル組成物中の分散径が大きく、またΔCOOHが大きくなった。また、伸度保持率が不足し太陽電池用シートとして不十分であった。
(実施例13)
実施例1と同様に行い固有粘度を0.60に低下させたポリエステルチップを第四の工程において、真空度133Pa下で常温から160℃まで5時間かけて昇温し、160℃で6時間乾燥結晶化させた後、220℃まで5時間かけ昇温し、220℃で8時間固相重縮合を行い、固有粘度0.88、COOH末端基5.0eq/tのポリエステルチップを得た。次いで、実施例1と同様に混練した後、二軸延伸フィルムを得た。得られた特性は表2に示すとおり、実施例1よりも、ポリエステル組成物のΔCOOHが減少する傾向にあり、伸度保持率は大きく、太陽電池用シートとして満足なものであった。
(実施例14)
実施例1の第一の工程でのDMT99重量部、EG63重量部に変更し、第二の工程、第三の工程(重縮合反応)が終了した時点(目標トルク達成)で、減圧を停機し、反応装置内を窒素ガスにて常圧に戻した。窒素ガス下で減圧乾燥を施したカルナウバワックス1重量部を前記重縮合反応装置内に添加し、10分攪拌した後、窒素ガスを停機し、次いで30分かけて常圧から133Pa以下に減圧して、攪拌トルクが所定の値に達した時点で重縮合反応を終了し、実施例1と同様にチップ化した。このようにして得られた、ポリエステル組成物チップの固有粘度は0.69、COOH末端基量は12.3eq/tonであった。該チップの耐加水分解性を評価した結果、ポリエステル組成物のΔCOOHがやや大きく、また伸度保持率もやや低下したものの太陽電池用シートとして満足するものであった。得られた特性は、表2に示すとおりである。
(実施例15)
第一の工程において、予めエステル化反応装置にビスヒドロキシエチルテレフタレート105重量部(ポリエステル100重量部相当)を貯留した反応系内の温度を235〜245℃に保ちつつ、テレフタル酸(以下.TPA)86.5重量部とEG37.7重量部からなるスラリーをスネークポンプにて反応系内に供給し、エステル化反応を進め、エステル化反応が終了した段階で、得られたエステル化反応物105重量部(PET100重量部相当)を重縮合反応装置に移行した。EG添加し、EG/TPAモル比の合計が1.5倍モルとなるようにした。また、酢酸Mn0.06重量部/EG1.5重量部の溶液を添加し5分攪拌し、またその後、AO0.03重量部/EG1.5重量部のスラリーを添加し、さらに5分攪拌した。その後は、実施例1の第二の工程であるリン酸とリン酸二水素一ナトリウムのEG溶液を添加し、第三の工程へと順次行い、得られたポリエステルチップの固有粘度は0.72、COOH末端基量は12.8eq/tonであった。実施例1と同様にカルナウバワックスを混練したポリエステル組成物のΔCOOHが若干大きく、また伸度保持率がやや低下したものの太陽電池用シートとして満足するものであった。得られた特性は、表2に示すとおりである。
いずれの実施例、比較例においても、窒素含有物質を原料として使用していないにも関わらず、窒素含有量が60ppm以下の検出量であった。これは、テレフタル酸やエチレングリコールなどの原料に、不純物として窒素化合物が残存していたものか、窒素ガス雰囲気での溶融成形中に、気体の窒素がポリエステル樹脂組成物に溶け込んだものと推測する。
Figure 0005895351
Figure 0005895351
Figure 0005895351

Claims (9)

  1. ジカルボン酸成分とグリコール成分を用い、エステル化反応またはエステル交換反応させた後重縮合反応してポリエステルを製造する、その際エステル化反応またはエステル交換反応が終了した後にリン酸アルカリ金属塩を0.1〜4.0mol/ton、かつリン酸をリン酸アルカリ金属塩に対して0.4〜4.0倍モル添加してなるポリエステルであって、さらに得られるポリエステル組成物100重量部に対して、炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物を0.01〜10.0重量部含有してなるポリエステル組成物の製造方法。
  2. リン酸アルカリ金属塩のアルカリ金属がNaまたはKであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル組成物の製造方法。
  3. リン酸アルカリ金属塩およびリン酸をアルキレングリコールの混合溶液として添加し、かつ混合溶液のpHが2.0〜6.0であることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステル組成物の製造方法。
  4. 炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物が、天然性植物由来のワックスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステル組成物の製造方法。
  5. エステル交換反応の触媒としてアルカリ土類金属、Mn、Coから選ばれる金属元素の少なくとも1種の化合物、および重縮合反応の触媒としてSb、Ti、Geから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物を添加することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリエステル組成物の製造方法。
  6. ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリエステル組成物の製造方法。
  7. ポリエステルに炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物を溶融混練してなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリエステル組成物の製造方法。
  8. 得られたポリエステル組成物の固有粘度が0.55〜1.00、COOH末端基量が20eq/ton以下、かつ炭素原子数34〜65の高級脂肪族モノカルボン酸エステル化合物が、ポリエステル組成物からなるチップの軸方向に垂直な断面において10μm以下の分散径で分散していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリエステル組成物の製造方法。
  9. 得られたポリエステル組成物は、155℃の100%RH下で4時間の加熱処理における、処理前後のCOOH増加量が50eq/ton以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリエステル組成物の製造方法。
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