以下、図示した実施例に基づいて本発明の圧力センサを説明する。なお、本発明の対象は圧力センサであり、以下の実施例では、ひずみセンサを用いた絶対圧センサを例にして説明する。また、各実施例において、同一構成部品には同符号を使用する。
先ず、本発明の対象である圧力センサの全体構成を図1及び図2を用いて説明する。
該図に示す如く、本実施例での圧力センサ1は、気密ハウジング5と、この気密ハウジング5の中央部に形成されている気密空間6に配置されるダイアフラム2と、このダイアフラム2上に接合層4を介して設置されるひずみセンサ3とから概略構成されている。
上述したダイアフラム2は、ダイアフラム薄膜部21と、このダイアフラム薄膜部21を支持するダイアフラム支持部22と、ダイアフラム支持部22を気密ハウジング5に固定するフランジ23と、後で詳述するダイアフラム薄膜部21に設けられた段差(図示せず)とで構成されている。
また、ダイアフラム2は第1の材料で形成されており、例えば、耐食性の高い鋼などの金属材料を材質とする。しかも、ダイアフラム2は円筒形をしており、中央部を加工により薄膜化するか、又は加工を施した薄い基板を重ね合わせることで、ダイアフラム薄膜部21を形成している。薄膜化の加工方法としては、切削やプレス加工、拡散接合等がある。
一方、ダイアフラム薄膜部21の端部は、フィレットが形成されており、圧力印加や温度変化に伴う応力集中を緩和する構造となっている。また、ダイアフラム薄膜部21は、計測対象の圧力をひずみセンサ3の設置面と逆の面から受けることで変形し、接合したひずみセンサ3に圧力に比例したひずみを発生させる構造となっている。更に、ダイアフラム支持部22は、ダイアフラム薄膜部21より厚いため、計測対象の圧力の影響で変形し辛い構造となっている。また、フランジ23は、ダイアフラム支持部22と気密ハウジング5との接続のために形成されており、抵抗溶接やレーザー溶接が可能な厚みと幅を備えている。
次に、ひずみセンサ3の構成について、図1乃至図3を用いて説明する。図3に示すように、ひずみセンサ3の表面中心には、4つのひずみゲージ7a、7b、7c、7dが形成されており、4つ一組のブリッジ回路が構成されている。また、ひずみセンサ3は、線膨張率がダイアフラム2の第1の材料と異なる第2の材料(例えば、シリコンなど)で形成されており、ひずみゲージ7a、7b、7c、7dは、例えば、シリコン基板に不純物拡散することなどにより形成されている。更に、ひずみゲージ7a、7bは、図2に示すダイアフラム2の水平方向であるダイアフラム2の中心からひずみセンサ3が接合された方向(以下、X方向という)が、ひずみゲージ7c、7dは、図2に示すダイアフラム2の前後方向であるダイアフラム2の中心からひずみセンサ3が接合された方向に対して垂直な方向(以下、Y方向という)が電流方向となるように配置されている。
このようなひずみセンサ3の構成により、X方向とY方向のひずみ差に比例した出力が、ブリッジ回路の中間電位の差動出力として得られる。一方で、ひずみゲージ7a、7b、7c、7dのゲージ率の温度特性による影響は、温度特性が4つのひずみゲージ7a、7b、7c、7dで等しければ、抵抗変化も等しくなり、ブリッジ回路で補償することができる。
また、円筒形のダイアフラム2の圧力による変形は、軸対称で、かつ、ダイアフラム2の中央にひずみセンサ3を配置すると、X方向とY方向のひずみ差が得られない。よって、ひずみセンサ3は感度の向上を目的に、ダイアフラム薄膜部21の端部に設置している。ひずみセンサ3をダイアフラム薄膜部21の端部に設置することで、ひずみセンサ3にX方向とY方向とで、それぞれ圧縮ひずみと引張ひずみが発生し、ひずみ差を大きくすることが可能になる。これにより、圧力センサ1の感度の向上が見込める。
また、ダイアフラム2とひずみセンサ3は、接合層4を介して強固に固定されている。
例えば、ダイアフラム2とひずみセンサ3の接合に金属接合或いはガラス接合を用いることにより、長期間の温度や圧力印加に伴うクリープ変形を抑制することができる。また、金属は堅い材料であるため、ダイアフラム薄膜部21の変形をひずみセンサ3に効率よく伝達できる。
上述した金属接合として、Au/Sn共晶接合やAu/Ge共晶接合などを用いることができ、280℃以上の高温で接合できる。また、上述したガラス接合として、バナジウム系低融点ガラス(V−glass)を用いることができ、370℃以上の高温で接合できる。
また、気密ハウジング5は、ダイアフラム2やひずみセンサ3を囲うようにフランジ23と固定されており、ダイアフラム薄膜部21の周囲の気密空間6を、一定の気圧(例えば、真空)に維持している。気密ハウジング5とフランジ23の固定には、例えば、抵抗溶接やレーザー溶接などの気密性を維持可能な固定方法を用いることができる。これにより、圧力センサ1の使用時には、計測対象以外の圧力変動の影響を受けない絶対圧センサとして構成することができる。
更に、気密ハウジング5には、圧力センサ1を所定の箇所に固定するための複数のネジ穴を設けることができる。このネジ穴は、ネジの締結により気密ハウジング5に不測の応力が加わって、ひずみセンサ3によるひずみの測定に悪影響を及ぼさないように、例えば、ダイアフラム2から離れた位置に設けることが好ましい。
また、圧力センサ1には、ひずみセンサ3からの出力を外部に取り出すことができる電極(図示しない)を設けることができる。この電極は、例えば、気密ハウジング5の気密空間6と外部と連通する穴に、電気的絶縁を有して複数本貫通させて設けることができる。更に、電極の気密空間6側の端部とひずみセンサ3とは、例えば、フレキシブルフラットケーブルなどの柔軟性のある配線部材(図示しない)を用いて電気的に接続することができる。これにより、ダイアフラム薄膜部21及びこれに接合されたひずみセンサ3が、評価対象の圧力変動に応じて移動した場合であっても、電極とひずみセンサ3との電気的接続を安定して維持することができる。
次に、本実施例におけるダイアフラム薄膜部21に設けられた段差24について、図4及び図5を用いて説明する。なお、図4の破線は、ダイアフラム薄膜部21の外形を示す隠れ線である(以下に説明する各実施例における破線も同様である)。
該図に示す如く、本実施例では、ダイアフラム2に加工を施すことによって、ダイアフラム2をY方向にも変形しやすくし、ひずみセンサ3に加わるY方向の圧縮ひずみを低減するようにしたものである。即ち、ダイアフラム2の中心からひずみセンサ3が接合された方向(X方向)に対して垂直な方向(Y方向)で、かつ、ひずみセンサ3と隣接又は所定距離(実装位置ずれ(加工ずれ含む)を含み、ダイアフラム薄膜部21を含む範囲の距離)離れたダイアフラム2上に、段差24a、24bを形成したものである。つまり、図4及び図5に示す如く、本実施例では、ダイアフラム2の表面を掘り下げることで、ひずみセンサ3のY方向に、ひずみセンサ3を挟むように2箇所に段差24a、24bを形成している。この段差24a、24bを形成することにより、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなるので、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制することが可能となる。
上述した段差24a、24bは、ダイアフラム薄膜部21を貫通しない一定の深さで形成されている。また、段差24a、24bのX方向においては、段差24a、24bの長さは接合したひずみセンサ3と同等の長さで形成されており、段差24a、24bの位置はひずみセンサ3の端から端まで位置ずれなく設けられている。一方、段差24a、24bのY方向においては、段差24a、24bの長さはダイアフラム2の端までは形成されておらず、段差24a、24bの位置は、ひずみセンサ3と隣接又は所定距離離れており、少なくとも一部がダイアフラム薄膜部21を含む範囲に形成されている。
更に、温度変化によりひずみセンサ3に加わる圧縮ひずみは、ひずみセンサ3のY方向のダイアフラム2の表面を掘り下げた段差24a、24bを形成することで、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、Y方向の圧縮ひずみが緩和される。これにより、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなり、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制できる。
また、段差24a、24bが、ひずみセンサ3の隣にのみ形成されているので、圧力が印加された場合のダイアフラム薄膜部21全体の変形量が抑制され、ダイアフラム薄膜部21へ集中する応力を段差24a、24bが無い場合と同等にできる。これにより、温度変化に伴うゼロ点出力の変動を抑制しつつ、圧力印加に伴う変形でのダイアフラム2の破損を防止できる。
また、段差24a、24bは、ひずみセンサ3からY方向に一定距離離れた場所に形成されており、ひずみセンサ3を実装する位置をずらすことで、ひずみセンサ3と段差24a、24bが重なることは無い。これにより、ひずみセンサ3の接合面積減少の防止、段差24a、24bの端部で発生する応力集中起因の接合層4のクリープ変形を防止する効果がある。
このような本実施例の構成とすることにより、ひずみセンサ3の初期ゼロ点の出力オフセット及び温度変化に伴うゼロ点の出力変動を改善した圧力センサ1を得ることができる。即ち、本実施例の圧力センサ1のように、ダイアフラム2上を掘り下げることで段差24a、24bを形成し、ひずみセンサ3の固定のための接合に伴う熱応力による初期ゼロ点の出力オフセットや、センサ使用時の温度変化に伴う熱応力によるゼロ点出力変動を抑制することが可能な圧力センサ1を提供できる。例えば、低コスト化を目的に、ダイアフラム2の材料をひずみセンサ3と熱膨脹係数の異なる安い材料にした場合においても、初期ゼロ点出力のオフセットを抑制し、使用温度の変化に伴う出力変動である温度特性を改善する効果が得られる。
図6及び図7に本発明の圧力センサの実施例2を示す。以下に示す実施例2では、実施例1との相違点のみ説明する。
該図に示す本実施例では、段差24a、24bは、ダイアフラム薄膜部21を貫通しない一定の深さで形成されていると共に、段差24a、24bのX方向においては、段差24a、24bの長さは接合したひずみセンサ3より長く形成されており、ひずみセンサ3と同等の位置から中心を跨ぐ範囲に設けられている。また、ダイアフラム支持部22の表面に大きく段差24a、24bを設けないのは、ダイアフラム支持部22がダイアフラム薄膜部21より厚く変形し辛いため、圧縮ひずみを緩和する効果がダイアフラム薄膜部21より小さいためである。一方、段差24a、24bのY方向においては、段差24a、24bの長さはダイアフラム2の端まで形成されておらず、段差24a、24bの位置はひずみセンサ3から隣接又は所定距離離れており、少なくとも一部がダイアフラム薄膜部21を含む範囲に形成されている。
このように構成することにより、実施例1と同様な効果が得られる。
また、温度変化によりひずみセンサ3に加わる圧縮ひずみには、ひずみセンサ3のY方向のダイアフラム2の表面を掘り下げて段差24a、24bを形成することで、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、Y方向の圧縮ひずみが緩和される。これにより、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなり、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制できる。また、段差24a、24bを実施例1よりも大きくすることで、ダイアフラム薄膜部21のY方向への変形は、実施例1より容易であり、より圧縮ひずみを緩和できる効果がある。
図8及び図9に本発明の圧力センサの実施例3を示す。以下に示す実施例3では、実施例1との相違点のみ説明する。
該図に示す本実施例では、段差24a、24bは、ダイアフラム薄膜部21を貫通しない一定の深さで形成されていると共に、段差24a、24bのX方向においては、段差24a、24bは、ダイアフラム2の端から端まで設けられている。一方、段差24a、24bのY方向においては、段差24a、24bの長さはダイアフラム2の端まで形成されておらず、段差24a、24bの位置はひずみセンサ3から隣接又は所定距離離れており、少なくとも一部がダイアフラム薄膜部21を含む範囲に形成されている。
このように、段差24a、24bをダイアフラム2の端まで形成する構造にすることによって、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、ダイアフラム薄膜部21の形成後に、フライス盤などを用いた加工が容易に行え、低コスト化も図れる。
また、温度変化によりひずみセンサ3に加わる圧縮ひずみは、ひずみセンサ3のY方向のダイアフラム2の表面を掘り下げて段差24a、24bを形成することで、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、Y方向の圧縮ひずみが緩和される。これにより、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなり、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制できる。また、段差24a、24bを実施例1よりも大きくすることで、ダイアフラム薄膜部21のY方向への変形は、実施例1より容易であり、より圧縮ひずみを緩和できる効果がある。
図10及び図11に本発明の圧力センサの実施例4を示す。以下に示す実施例4では、実施例1との相違点のみ説明する。
該図に示す本実施例では、段差24a、24bは、ダイアフラム薄膜部21を貫通しない一定の深さで形成されていると共に、段差24a、24bのX方向においては、段差24a、24bがダイアフラム2の端から端まで設けられている。一方、段差24a、24bのY方向においては、段差24a、24bは、ひずみセンサ3と隣接又は所定距離離れた位置からダイアフラム2の端まで形成されている。
このように構成することにより、実施例1と同様な効果が得られる。
また、温度変化によりひずみセンサ3に加わる圧縮ひずみは、ひずみセンサ3のY方向のダイアフラム2の表面を掘り下げて段差24a、24bを形成することで、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、Y方向の圧縮ひずみが緩和される。これにより、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなり、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制できる。また、段差24a、24bを実施例1乃至3よりも大きくすることで、ダイアフラム薄膜部21のY方向への変形は、実施例1乃至3より容易であり、より圧縮ひずみを緩和できる効果を有する。また、実施例1乃至3のような加工を施しても、Y方向の圧縮ひずみがX方向より大きい場合においては、本実施例の構成により、ゼロ点の出力変動をさらに抑制することができる。
図12及び図13に本発明の圧力センサの実施例5を示す。以下に示す実施例5では、実施例1との相違点のみ説明する。
該図に示す本実施例では、段差24a、24bは、ダイアフラム薄膜部21を貫通しない一定の深さで形成されていると共に、段差24a、24bのX方向においては、段差24a、24bがダイアフラム2の端から端まで設けられている。一方、段差24a、24bのY方向においては、段差24a、24bは、ひずみセンサ3の隣接した位置からダイアフラム2の端まで形成されている。
このように、段差24a、24bが隣接することによって、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、ひずみセンサ3の実装時のアライメントに利用でき、ひずみセンサ3の位置決めを容易に行える。
また、温度変化によりひずみセンサ3に加わる圧縮ひずみは、ひずみセンサ3のY方向のダイアフラム2の表面を掘り下げて段差24a、24bを形成することで、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、Y方向の圧縮ひずみが緩和される。これにより、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなり、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制できる。また、段差24a、24bを実施例1乃至3よりも大きくすることで、ダイアフラム薄膜部21のY方向への変形は、実施例1乃至3より容易であり、より圧縮ひずみを緩和できる効果を有する。また、実施例1乃至3のような加工を施しても、Y方向の圧縮ひずみがX方向より大きい場合においては、本実施例の構成により、ゼロ点の出力変動をさらに抑制することができる。
図14及び図15に本発明の圧力センサの実施例6を示す。以下に示す実施例6では、実施例1との相違点のみ説明する。
該図に示す本実施例では、段差24a、24bは、ダイアフラム薄膜部21を貫通しない一定の深さで形成されていると共に、段差24a、24bのX方向においては、長さは接合したひずみセンサ3より長く形成されており、段差24a、24bの位置は、ダイアフラム2の端からダイアフラム2の中心位置まで設けられている。一方、段差24a、24bのY方向においては、段差24a、24bがひずみセンサ3と隣接又は所定距離離れた位置からダイアフラム2の端まで形成されており、少なくとも一部がダイアフラム薄膜部21を含む範囲に形成されている。
このように構成することにより、実施例1と同様な効果が得られる。
また、温度変化によりひずみセンサ3に加わる圧縮ひずみは、ひずみセンサ3のY方向のダイアフラム2表面を掘り下げて段差24a、24bを形成することで、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、Y方向の圧縮ひずみが緩和される。これにより、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなり、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制できる。
更に、段差24a、24bの加工を施さない構造においては、圧力印加に伴い、ダイアフラム2の中心からひずみセンサ3の設置方向とは逆方向のダイアフラム薄膜部21の端部で応力が集中する。よって、段差24a、24bを応力が集中するひずみセンサ3の設置方向には段差を形成しないことで、ダイアフラム薄膜部21への応力集中の増加が抑制でき、ダイアフラム2の破損が防止できる。
図16及び図17に本発明の圧力センサの実施例7を示す。以下に示す実施例7では、実施例1との相違点のみ説明する。
該図に示す本実施例では、段差24a、24bは、ダイアフラム薄膜部21を貫通しない一定の深さで形成されていると共に、段差24a、24bのX方向においては、段差24a、24bがダイアフラム薄膜部21の端部からダイアフラム2の中心を跨いだもう一方のダイアフラム薄膜部21の端部まで設けられている。一方、段差24a、24bのY方向においては、段差24a、24bがひずみセンサ3と隣接又は所定距離離れた位置からダイアフラム薄膜部21の端部まで形成されており、ダイアフラム支持部22の表面には形成されていない。
このように構成することにより、実施例1と同様な効果が得られる。
また、温度変化によりひずみセンサ3に加わる圧縮ひずみは、ひずみセンサ3のY方向のダイアフラム2の表面を掘り下げて段差24a、24bを形成することで、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、Y方向の圧縮ひずみが緩和される。これにより、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなり、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制できる。
更に、段差24a、24bの加工を施さない構造においては、圧力印加に伴い、ダイアフラム薄膜部21の端部で応力集中が発生する。よって、段差24a、24bを応力が集中するダイアフラム薄膜部21の端部を跨いで形成しないことで、ダイアフラム薄膜部21への応力集中の増加が抑制でき、ダイアフラム2の破損が防止できる。
図18及び図19に本発明の圧力センサの実施例8を示す。以下に示す実施例8は、図8及び図9に示す実施例3の変形例であり、実施例3と相違点のみ説明する。
該図に示す本実施例では、フランジ23の上方で、かつ、ダイヤフラム支持部22の側面に、ひずみセンサ3が接合された位置からダイアフラム中心方向(X方向)に伸延する切欠き25が形成されているものである。他の構成は、実施例3と同様である。
通常、フランジ23は、他部材である例えばガス流路ベース(図示せず)に取付けるためのものであるが、このガス流路ベースに取付ける際、ガスが漏れないようにフランジ23の底部とガス流路ベースの間にOリング又はメタルOリングを介してネジ締結している。しかし、そのネジ締結によりフランジ23が変形し、ダイヤフラム支持部22並びにダイヤフラム薄膜部21に歪を与え、歪センサ3がその歪を検知してしまい、歪センサ3で検知した歪が、経時的に変化するとセンサ精度に影響を及ぼしてしまう恐れがある。
しかしながら、上述した本実施例によれば、実施例3と同様な効果が得られることは勿論、ダイヤフラム支持部22の側面に切欠き25を設けることで、フランジ23の変形をダイヤフラム薄膜部21に伝搬することを抑制することができ、ネジ締結によりフランジ23が変形したとしても、フランジ23の変形をダイヤフラム薄膜部21に伝搬することが抑制されるので、歪センサ3が歪を検知することがなくなり、センサ精度に影響を及ぼすことはないと言う効果がある。
図20及び図21に本発明の圧力センサの実施例9を示す。以下に示す実施例9は、図18及び図19に示す実施例8の変形例であり、実施例8と相違点のみ説明する。
該図に示す本実施例では、ダイヤフラム2の表面に、ひずみセンサ3の線膨張係数と近い線膨張係数の材質からなる被接合部材26を有し、この被接合部材26及び接合層4を介してひずみセンサ3が接合されていると共に、被接合部材26面に、実施例8と同様な段差24a、24bが形成されている。
通常、シリコンからなるひずみセンサ3をダイヤフラム2面に接合する手段は、クリープ等の問題から強固な金属接合(Au/Sn共晶接合やAu/Ge共晶接合)或いはガラス接合(V−glass)が有効である。どちらの接合も280℃以上の温度で接合材を溶融させて接着するものであり、線膨張係数が異なる材料を接合すると固着時に大きな歪が残留してしまう。
線膨張係数が15.9×10−6/℃の耐食性良好なSUS316L材からなるダイヤフラム2と線膨張係数が3.1×10−6/℃のシリコンからなるひずみセンサ3を接合すると、線膨張係数が異なり過ぎ、極端な場合、ひずみセンサ3にクラックが入ってしまう。また、クラックなく接合できたとしても、温度変化により熱収縮差によるひずみが生じ、温度特性の悪いセンサとなってしまう。
しかしながら、上述した本実施例によれば、実施例8と同様な効果が得られることは勿論、ダイヤフラム2の表面に、ひずみセンサ3の線膨張係数と近い線膨張係数の材質からなる被接合部材26を有し、この被接合部材26を介してひずみセンサ3が接合されているので、両者が線膨張係数が近く、ひずみセンサ3にクラックが入ることがなくなり、温度変化により熱収縮差によるひずみも生じることはなく、温度特性の良好なセンサを得ることができる。
なお、上述した被接合部材26は、線膨張係数がシリコンに近いものとすることが最良であり、例えば線膨張係数5×10−6/℃程度のKovar(Ni-Co-Fe)又は42Alloy(42Ni-Fe)等が好ましい。
但し、これらの材料は、耐食性から接ガス部材として好ましくない。そこで、低線膨張材とSUS316L材を張り合わせた複合材を加工し、接ガス部をSUS316L材としたダイヤフラム2を実現している。また、ダイヤフラム薄膜部21は、極力SUS316L層が薄いことが良く、ダイヤフラム薄膜部21の全体厚さ(図21にLで示す)の1/4以下が望ましい。
なお、実施例9では、ダイヤフラム2の表面全体に被接合部材26を有しているが、ひずみセンサ3が設置されている箇所のダイヤフラム薄膜部21に被接合部材26が有していることでもよい。この場合は、ダイヤフラム2の表面に上述した段差24a、24bが形成されることになる。
次に、本発明におけるダイアフラム薄膜部21の段差24a、24bの効果を確認するため、本発明者等が行った有限要素法によるコンピュータシミレーションを用いて圧力センサ1の感度と温度特性を計算した結果を説明する。
計算に用いたダイアフラム2の形状は、ダイアフラム支持部22の外径が10.0mm、ダイアフラム2の高さが2.0mm、ダイアフラム支持部22の内径が7.6mm、ダイアフラム薄膜部21の厚さが0.25mmとし、段差24a、24bの形状は図4乃至図7または図10及び図11の形状とし、段差24a、24bの深さは0.1mmとした。また、ダイアフラム2の線膨張率の値にはNi−Co合金(コバール)の値である5.1×10−6/Kを使用した。
計算に用いたひずみセンサ3の形状は、縦横がそれぞれ2.4mm、厚さが0.16mmとし、ひずみセンサ3の線膨張率の値にはシリコンの値である3.0×10−6/Kを使用した。また、ひずみセンサ3の接合位置は、ひずみセンサ3の中心がダイアフラム薄膜部21の中心から径方向に2.9mmだけ離れた位置にくるような位置とした。
計算に用いた接合層4の形状は、縦横がそれぞれ2.4mm、厚さが0.01mmとし、接合層4の線膨張係数の値にはAu/Sn共晶合金の値である17.5×10−6/Kを使用した。
圧力センサ1の感度は、ダイアフラム薄膜部21に評価対象の圧力が加わった場合のひずみセンサ3で検知されるX方向のひずみεXとY方向のひずみεYの差εX−εYで評価し、段差24a、24bがない場合の感度を1とした場合の係数として求めた。
圧力センサ1の温度特性は、Au/Sn共晶合金の融点である280℃から20℃まで冷却される過程で生じるεX−εYの値を計算し、段差24a、24bがない場合の温度係数を1とした場合の係数として求めた。
シミュレーションの結果を表1に示す。
表1に示す通り、本発明にかかる図4乃至図7または図10及び図11に示す段差24a、24bを設けたダイアフラム2を採用した場合は、段差24a、24bがない場合に比べて圧力センサ1の感度、温度特性が共に改善されることが確認できた。
上記したコンピュータシミュレーションの結果を実際に確認するため、上記のサイズと図8及び図9の形状を有するダイアフラム2をNi−Co合金(コバール)で作製し、これに上記のサイズのひずみセンサ3を上記の位置にAu/Sn共晶合金を用いて金属接合して、圧力センサaを作製した。
また、比較資料として、同じ材料で段差のないダイアフラムを作製し、同様にひずみセンサを金属接合して、圧力センサbを作製した。
これらの圧力センサのダイアフラムに、圧力500Paの窒素ガスを加えたときの感度を測定したところ、圧力センサbが1.00であるのに対し、圧力センサaでは1.13であった。
また、これらの圧力センサを5℃から60℃まで加熱したときの温度係数の絶対値を測定したところ、圧力センサbでは0.60με/℃であったのに対し、圧力センサaでは0.42με/℃であった。
以上の結果より、本発明に係る圧力センサは、従来の圧力センサに比べて感度及び温度特性が改善されることが確認できた。
次に、本発明の実施例8において、メタルOリングを介してフランジ23を流路ベースに締結した時のひずみセンサ3が感受する出力を表2に示す(表2は、切欠き25がない場合の出力を1として表示している)。その時の図19に示すW寸法は1.4mm、高さ寸法Hは2.8mmである。
表2から明らかのように、切欠き25があることで締結歪がダイヤフラム薄膜部21に伝搬しにくくなり、ひずみセンサ3の出力は軽減されていることが分かる。また、高さHを大きくすると、更にその効果が大きいことも分かる。
以上説明した本発明に係る圧力センサ1の用途は、特に限定されるものではないが、ダイアフラム2を形成する第1の材料に耐食性の高い鋼などの材料を採用した場合には、例えば、腐食性の高い計測対象の圧力を測定する用途などに好適に用いることができる。かかる用途に用いる場合、ダイアフラム2を形成する第1の材料に耐食性の高い鋼などの材料を採用することに代えて、または、耐食性の高い鋼などの材料を採用することに加えて、第1の材料の表面に各種のコーティングを施すことができる。コーティングは、例えば、ニッケルや金などの耐食性に優れた金属のめっき層として構成してもよいし、フッ素樹脂などの耐腐食性に優れた樹脂の塗布層として構成してもよく、これらの組み合わせでもよい。
また、本発明に係る圧力センサ1は、小型で、温度特性に優れているので、例えば、半導体製造装置に用いられるマスフローメータやマスフローコントローラなどに組み込んで計測対象の圧力をモニタリングする用途にも好適に用いることができる。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものでは無く、様々な変形例が含まれる。
例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものでは無い。また、実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。